| ■鹿砦社 松岡 第1回公判記録 (紙の爆弾、12・1月号掲載記事に一部追加、文責:新島學) |
|
去る10月17日、7月に不当逮捕された鹿砦社・松岡(以下、筆者の判断にて、単に「松岡」と書かせていただく)の第1回公判が行われた。 この逮捕の不当性に関しては、本誌読者には説明の必要はないと思われるが、改めて経緯を説明すると、神戸地検は以前より松岡に対して、事情聴取などを行っていた。問題が名誉毀損であり、本来なら、問題にするとしても、民事裁判でやるべきところである。ところが、検察が刑事事件として扱った。 それだけでも異例、と言うより、権力の濫用であろう。ところが、7月12日、神戸地検は松岡を突然逮捕した。名誉毀損での逮捕は、月刊ペン事件(76年)以来のことであり、しかし、月刊ペン事件では25日の勾留で済んでいるが、松岡は4ヶ月を過ぎても勾留されたまま、いや、保釈はおろか、接見禁止を続けている(第1回公判の後、接見禁止は解除された)。日本の歴史に、前例を見ない弾圧であろう。 この間、本誌「紙の爆弾」はもちろんのこと、「創」、「ノンフィックス・ナックルズ」などでこの件は報じられたが、マスコミは、逮捕直後は騒いだものの、その後は無視である。それどころか、拘置理由開示の法廷には、マスコミの記者が来なかった。権力の意向を受けているとしか、思えないものである。 この間、松岡は神戸拘置所に勾留されたまま、孤独な戦いを続けていた。そして、10月17日、第1回公判を迎えた。 |
| ■神戸地裁・大法廷を埋めた支援者 |
|
10月17日、神戸地裁の101号法廷、通称「大法廷」で裁判は始まった。が、この場所は、多数の人数が集まるから選ばれたのではなく、担当する神戸地裁・刑事2部がこの直前に別途公判を行っており、単に移動が面倒だから、という理由で大法廷が使われたのである。 この法廷には、たくさんの支援者が来てくれた。多くの支援者が呼びかけてくれたわけであるが、約100名入る法廷が、ほぼ満員になったのである。 |
| ■法廷の中だけの自由 |
|
午後3時、公判は始まった。傍聴者を驚かせたものは、手錠・腰縄姿で「連れて来られた」松岡の姿であった。刑事裁判を見た事のない人からは、驚きの声が上がった。「いくらなんでも、あそこまでしなくても…」というため息が、傍聴席を覆った。 松岡は、法廷内では、手錠・腰縄を外された。つまり、法廷の中だけでは、自由があった。法廷を出たら、自由はなくなる。この“逮捕”という事態の重みを実感させられた。支援者にはジャーナリストなど、「表現」を生業とする人が多い。これは、明日はわが身と言うことである。この現実は、言論に関わる、全ての日本の人間に訴えたい。 その松岡は、「大逆転」と書かれたジャージを着ての入廷であった。その単語に、共感しなかった支援者はいなかっただろう。 「大逆転」。そもそもこのジャージは、2002年に食肉業界最大手・雪印食品の偽装牛肉事件を内部告発した西宮冷蔵が作成・販売したものである。鹿砦社の書籍「内部告発」でその事件を特集した経緯もあり、差し入れてもらったものである。 さて、問題となったのは、アルゼ株式会社に関する書籍と、阪神タイガーススカウト転落死事件の件であり、それらによって松岡が名誉毀損をしたと、検察は主張した。そのうち、“私生活上の行状”に踏み込み、プライバシーを毀損したと主張するのはアルゼ会長・岡田和生に関する事件であるが、アルゼが最大手パチスロメーカーであり、そのバチスロ業界が、他業界以上に監視が必要な業界である以上、その会長の人物像に迫ることは、公益性があるのは当然のことである。 さらに、反論の場が基本的にない「私人」とは違うのだから、名誉毀損と言うならば、ましてや公人なら、まず言論で反論すべきだろう。 いや、これは序の口であった。検察は、何と言ってきたか… 「アルゼの本を、○○書店、○○取次ぎを通して売った。××のサーバーを通して、インターネットで公開した」 (実際の発言はもちろん実名入り) 果たして、本を売る、あるいはインターネットで表現するのに、どこどこを通したなどと、ましてや法廷で公開する必要があるだろうか?こんなものは、プライベートな話である。名誉毀損とは言え、こんな枝葉末節まで説明してくるとは、検察は一体何事なのか、支援者から怒りの声が沸いた。 |
| ■松岡の陳述 |
|
そして、松岡の声明文が、本人の声で読み上げられた。以下、全文を公開する。 <被告事件についての陳述 (刑事訴訟法第291条2項)> 2005年10月17日 被告人 松岡利康
1.この度の私及び私の経営する出版会社「鹿砦社」に対する前代未聞の大掛かりな言論弾圧は、全くもって不当・違法なものであり、本件起訴も不当・違法なものです。 私は無罪です。 その理由は以下のとおりです。 憲法21条の「言論、出版その他の一切の表現の自由は、これを保障する」ということ、そして「公共の利害に関わる事実に関わり、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、事実であることの証明があったときには、これを罰しない」という刑法230条の2を根拠としています。
2.今回の神戸地方検察庁の大掛かりな言論弾圧によって、私はいまだに勾留され、また会社は壊滅的な打撃を受け、「言論、出版その他一切の表現の自由」の下の活動ができなくなってしまいましたから、本件起訴は明らかに憲法21条に違反する結果を招来しています。 ところで、私たちの出版活動のスタンスは、いわば「弱気を助け、強きを挫く」ということでした。 私たちは、一方で、ささやかながら障害者や社会的ハンディを持った方々の出版を支援してきました。 ある時は、ここ神戸在住の車椅子の障害者の方々がある大企業によって不当にイジメにあっているとの相談を受け、一緒に駆けつけ直談判して解決したこともあります。 市役所や郵便局などで職員が障害者やお年寄りにぞんざいな態度をとっているのを見て、大声で怒鳴ったことも一度や二度ではありません。 他方、今回の告訴人やその会社のように社会的に犯罪を犯したと疑われる企業、世の巨悪やそのタブーに対しては、ペンを武器として愚直に表現し、告発し、真相の究明をして参りました。 そのどこがいけなかったのでしょうか。 今回の告訴の対象となった「アルゼ」にしろ「阪神球団」にしろ、現在マスコミでは触れること自体がタブーとなっており、マスメディアがそれらのスキャンダルや不祥事などを、真正面から公にすることはほとんどありませんでした。 時には私たちの言論が厳しくなったことは否めませんが、それは社会的に犯罪を犯したと疑われる企業や巨悪やそのタブーに対し、真相を究明するために愚直に表現した現れに過ぎません。 先に触れましたように、私の出版会社「鹿砦社」は、今回の神戸地方検察庁による不当・違法な言論弾圧によって、遺憾ながら経営的に大打撃を被り、遂に店じまいに追い込まれました。 それは、社長である私の逮捕・長期勾留、そして接見禁止によって、業務上の指示など社員とのコミュニケーションが直接に全く出来なかったことが大きな要因の一つになっています。 小なりとも社員を抱え、また多くの人たちとの関わりや交流をなし、世に巨悪の不正を訴えていた出版者を事実滋養機能停止に追い詰めた私の逮捕、長期勾留、長期間の接見禁止、大掛かりな家宅捜索をはじめ、裁判所がその判断を求められた事柄について、憲法21条の原則に基づいて、慎重の上にも慎重を期してなされたものでしょうか。 大変疑問に思います。 よしんば裁判所が「憲法の番人」であるなら、これからの私の裁判を法に則って公正かつ慎重に審理して頂き、憲法21条を中心とした憲法問題として判断されるべきものと考えています。 また、裁判所が「人権の砦」であるというのなら、私に対する長期勾留などという非人道的なことは即時止め、即時私を釈放し、また私に対する接見や手紙の禁止などと言う反人権的なことを止めるべきです。 何のための長期勾留、何のための接見禁止でしょうか。 私に対する見せしめか嫌がらせとしか思えません。
3.私の最大の財産であり長年培ってきた「鹿砦社」という出版会社が今や瀕死の状態にまで追い込まれ、私は全てを失おうとしています。 このように、私は鎖につながれていますが、ここまで来ると鉄鎖以外に失うべきものは何物も持たないという想いです。 そして、今回の裁判は、私だけの問題ではないと認識しています。 すなわち、今回の事件は、出版界やその関係者に対し、既に恐怖や萎縮的効果、威嚇的効果を与えてしまっているからです。 だからこそ、マスコミに在る多くの皆様が、今回の裁判を我が事のように考え、その推移を見守っているのです。 私は、社会的に犯罪を犯したと疑われる企業「アルゼ」や、人気球団「阪神タイガース」のタブーについて、この裁判の過程で真相を究明するとともに、本件起訴の不当性、違法性を立証し、わが身を捨てて「表現の自由」、「言論・出版の自由」のために、血の一滴、涙の一滴が涸れ果てるまで主張し闘いたいと思います。
4.以上のように、本件裁判は、「表現の自由」、「言論・出版の自由」の観点から、極めて公共性、公益目的のあるものですから、裁判所に対し、将来に向かってそれらの価値評価に耐えて新しい地平を切り拓くべく、公正かつ慎重な審理をして頂きたく心から要請するものです。
この主張を、もう一度読み返して欲しい。 松岡は、マスメディアがアルゼ、阪神球団のスキャンダルに触れなかったと語ったところで、「マスコミは反省せよ」と叫んだ。 実際、松岡の“やり方”には、様々な評価があるだろう。私のところにも、多くのメールが来ているが、松岡のやり方に批判的なものも、もちろんある。だが、問題は松岡のやり方ではないことは、最早明白だろう。言論を展開しているものに、それを公正に論議、検証することなく、逮捕と言う弾圧を加えられたことが問題である。 確かに、例えばアルゼ批判に対して、その方法に異論を唱える人は少なくない。だが、だからと言って、いきなり逮捕、そして接見禁止とは、どう考えても異常である。裁判所は、拘置理由開示の際に、「証拠隠滅の恐れがあるから」と言っていたが、証拠の書籍などは、本屋にあるのだ、どうして証拠隠滅できようか。 もうおわかりだろう、証拠隠滅、いや名誉毀損そのものが、でっち上げである。松岡を逮捕して弾圧し、見せしめにするのが目的であったわけだ。その意味では、権力と抗しているメディア、いや、スタンスはどうであれ、メディア、表現をするものは、全てターゲットであったわけである。 この、松岡の主張に対して、傍聴席から拍手、そして検察への野次が飛んだ。
闘いは始まった! 検察の「こじつけ」に対して、松岡の弁護士より、反撃が始まった。 「(松岡は)無罪である。表現の問題は免れないが、内容は刑法220条には当たらない」 当然だろう。 阪神球団については、スカウトの死に対して遺族が不審を抱いているのに、警察はまともな対応をしなかった。そのため、問題人物を実名で告発し、そうしたら相手が訴えてくる、そこで法廷に持ち込み、真相を究明する…弁護士の言葉を借りると「肉を切らせて骨を断つ」ようなやり方をしないといけないところまで追い詰められていたのである。警察が、ちゃんとしていれば、こんなことにはならなかったのである。こんなものに、刑事責任を問うのはおかしいではないか?それも、検察は、松岡が「実名を出したほうがよく売れる」と言っていたと、つまり、金のためという印象を付けようと発言していた。 また、この後の記者会見で、同志社大学・浅野健一教授は、検察が松岡の前科(一犯)この件を「マスコミの上層部で、学生運動で捕まった人はたくさんいる」と語っている。 また、検察は、鹿砦社のアルゼ批判に関して、アルゼと敵対する企業からの買い取りを前提とした出版を問題としていた。この件では、論議が分かれるだろう。「噂の眞相」元編集長の岡留氏はノンフィックス・ナックルズの第3号で「ネタ元とタッグを組んで対象をしつこく脅していると思われたのではないか。一歩間違えるとブラックジャーナリズムと間違われかねない」と指摘しており、他方前出・浅野教授は「メディア間での買い取りは通常のマスコミでもあること、問題にするのがおかしい」と語っている。
法廷は、次回の期日を12月19日、午後1時半からと決めて、午後5時前に終った。 また、松岡の保釈は依然として許されていない。裁判所、検察は一体何様のつもりなのか! |
| ■支援者よりのメッセージ |
|
法廷には多くの傍聴者が溢れていた。マスコミの記者も“一応”来ていた。そして、支援者による記者会見となった。松岡の友人Aさんと、前出・浅野教授が対応した。会見は神戸地裁の記者室で行われ、在阪メディアの記者、テレビクルーが全員揃っていた。 そこで、Aさんにより、松岡の声明文が読み上げられた。その全文を、以下に記載する。
7月12日の逮捕から早3ヵ月余りが経ち、本日、第1回公判を迎えました。ご多忙の中、ご参集いただき、ありがとうございました。「名誉毀損」容疑で出版人の逮捕は1976年の「月刊ペン事件」にまでさかのぼり、実に29年ぶりのことだそうです。「月刊ペン」の編集長は25日間の勾留でしたが、私の勾留はこれを遥かに越えました。かの「噂の眞相」岡留安則氏らは在宅起訴でした。 少なくとも、事実を見るだけでも前代未聞の事件です。家宅捜索も5カ所、被疑者は私の他に6人、加えて製本所、倉庫会社、取次会社、主要書店にまで神戸地検の検事は赴いて事情聴取や調査を行っています。押収品も、パソコンはじめ、伝票類や資料など根こそぎで、業務はストップいたしました。全く異常そのものでした。 担当検事の宮本健志検事は私に「鹿砦社をつぶすつもりはない」と言いましたが、遺憾ながら、本社は8月末で閉鎖を余儀なくされ、会社そのものも事実上機能停止に追い込まれました。担当検事に鹿砦社をつぶすつもりはなかったにしても、検察上層部には鹿砦社をつぶす魂胆であったことは明白です。 どう考えても、これは言論弾圧です。警察キャリア出身の元参院議員を社長にいただき、元検事を顧問弁護士とする社会的犯罪企業アルゼの意向が強く働いていたことが容易に推察できます。 今回の事件が、出版史に於いて、どのような意味を持つのかは、まだ私には判りません。確実にいえることは、「表現の自由」や「言論・出版の自由」にとって悪い方向へ向かっていく転機の一つであることです。 出版人として大した能力も実績もない私は、この裁判闘争を皆様方と共に、皆様方に叱咤激励されて最後まで貫徹することで、戦っていく決意です。 名うての社会的犯罪企業、そしてこれとグルになった検察権力によって、私はハメられ、本当に悔しいです。 7月12日の逮捕・家宅捜索劇を思い出すたびに悔しさが込み上げてきます。私は逮捕され会社もつぶされましたが、本当の戦いはこれからです。敵の鉄鎖は打ち砕かねばなりません。戦いは最後に勝つ者が真の勝者です。“最後の勝利”に向けて、今後とも皆様方の力をお貸しください。 2005年10月17日 松岡利康
この声明も、もう一度読み返して欲しい。 続いて、Aさんより、以下のコメントがあった。 「松岡が不当にも接見禁止、異例である。全ての人に訴える、釈放を要求する」 「鹿砦社は小さくても出版社である。個々への攻撃である。全ての人から訴えて欲しい、まず松岡を釈放しろ!」 「松岡は、保釈ほしさに権力に屈しない」 「がんばれ松岡、打倒すべき敵が君に襲いかかっている。共に倒そう」 さらに、弁護団の一人からも、「表現の自由は守らなければならない」との発言があった。 |