『原子力PA方策の考え方』
(一九九一年三月、科学技術庁委託/日本原子力文化振興財団作成)

原子力PA方策委員会
●委員長=中村政雄(読売新聞社論説委員)
●委員=田中靖政(学習院大学法学部教授)、赤間紘一(電気事業連合会広報部部長)、片山洋(三菱重工業広報宣伝部次長)、柴田裕子(三和総合研究所研究開発部主任研究員)
●オブザーバー=松尾浩道(科学技術庁原子力局原子力調査室)、村上恭司(同庁原子力局原子力利用推進企画室)
●事務局=松井正雄(日本原子力文化振興財団事務局長)

Ⅰ 全体論
A.広報の具体的手法
1 対象■
①対象を明確に定めて、対象毎に効果的な手法をとる。
(1)父親層がオピニオンリーダーとなった時、効果は大きい。父親層を重要ターゲットと位置付ける。子供が立派に育つかどうかには、やはり父親の責任が大きい。母親の常識形成にも影響が大きい。父親は社会の働き手の最大集団であり、彼らに原子力の理解者となっていただくことが、まず、何より必要ではないか。真正面から原子力の必要性、安全性を訴える。
(2)女性(主婦)層には、訴求点を絞り、信頼ある学者や文化人等が連呼方式で訴える方式をとる。「原子力はいらないが、停電は困る」という虫のいい人たちに、正面から原子力の安全性を説いて聞いてもらうのは難しい。ややオブラートに包んだ話し方なら聞きやすいのではないか。
(3)不安感の薄い子供向けには、マンガを使うなどして必要性に重点を置いた広報がよい。タレントの顔は人々の注意を引きつける能力はあるが、人気タレントが「原子力は必要だ」、「私は安心しています」といえば、人々が納得すると思うのは甘い。やはり専門家の発言の方が信頼性がある。タレントを使うくらいなら、マンガの方がよい。
 タレントさえ使えば、こと足れりとする今の広報のやり方ではだめだ。
②対象は父親、主婦、子供(教育も含む)、訴える内容は原子力発電所の必要性と安全性、食品の安全性、原子力を中心とした科学的知識の普及などだろう。テレビ広報は、経費の割に効果がうすいのでやめた方がよい。
③中年男性層がきちんとした知識を持ったら影響力は大きいだろう。どの媒体が最適か、調査の価値はある。原子力の広報を担当してきた歴史の長い代理店、調査担当の人を集めて、費用対効果を一度よく検討する必要がある。その時のターゲットを中年男性に絞ってみてはどうか。
④対象を一つに絞って、期間を区切って、その期間中頻繁に広告を流す、ということを広告の基本としたらよい。
⑤今年はこの職業と、ターゲットを決めて一年間地道な広報をやってみる。結果を見て来年のターゲットを決める。
⑥事実を知らせることが必要である。サラリーマン向けには事故時など関心が高まった時に、簡単な原子炉のしくみなどを、わかりやすい資料にして提供する。次には、その家族向けに作った簡単な資料を父親が家に持って帰るようにする。主婦層は反対派の影響を受け易い、と同時に父親からの影響も受け易い。対象別にやるときは、具体的に「今年の対象はこれだ」と対象を一つに決めてやる、科学技術庁の広報は、医師、教師などの公共的な信頼性のある人々に向けて行うとよい。専門的雑誌は多数あるだろうし、広告料も手頃なのではないか。医療専門誌などターゲットを明確にしたら反応もとらえやすい。派手なものより地道な広報が効果的だと思う。
⑦極論すれば、対象を特定した広告は、対象外の人には通じなくてもよい。

2 頻度
①繰り返し繰り返し広報が必要である。新聞記事も、読者は三日すれば忘れる。繰り返し書くことによって、刷り込み効果が出る。いいこと、大事なことほど繰り返す必要がある。
②短くともよいから頻度を多くして、繰り返し連続した広報を行う。政府が原子力を支持しているという姿勢を国民に見せることは大事だ。信頼感を国民に植え付けることの支えになる。

■[G]3 時機(タイミング)■
①タイムリーな広告は効果大。定期的に出ているコラム広告などは、効果は小さい。チェルノブイルや美浜炉事故が起きた時、スウェーデンで原子力発電所廃止を決めた時など、国民の関心が原子力に向いている時期に広告すれば国民は注目する。コラム広告は、関心のない人をひきつける魅力に欠けるのではないか。反対派と積極推進の人は読む必要がない。
②広報効果の期待できるタイミングを逃さず、時機に応じたタイムリーな広報を行う。事故が発生したときは、国民の関心が高まっている。原子力広報のタイミングは最適である。
③時機を得た広告は効果大である。不測の事態に備えて、予想される簡単な解説図を準備したりして対応なども考えておく。
④何事もない時の広報は難しい。事故時を広報の好機ととらえ、利用すべきだ。教科書や講演会、講習会は定常的に実施しても見てもらえる、聞いてもらえるが、パンフレットや新聞広報などは何もないときの注目度は低い。積極的に近づきたい、知りたいという気持ちになる対象ではないからだ。事故時はみんなの関心が高まっている。大金を投じてもこのような関心を高めることは不可能だ。事故時は聞いてもらえる、見てもらえる、願ってもないチャンスだ。
⑤原子力に興味のない人を振り向かせるには、事故などのインパクトの大きい時機でなければ無理だ。こういう時には、関心が高くなっている。父親を対象とする場合でも、農業、個人経営等の職業別対応も考えなければならない。
⑥原子力の広告が読まれるのは事故時とエネルギー危機の時だけだろう。一般紙に出す広告は事故時だけにしたらよい。専門誌への広告は常時出したらよい。
⑦事故時の広報は、当該事故についてだけでなく、その周辺に関する情報も流す。この時とばかり、必要性や安全性の情報を流す。美浜2号炉の安全性を確かめるため日本原子力研究所で模擬実験をやったが、あの事故の様子を映像で取り上げるよう働きかけるべきだった。
⑧事故が起こったりして一般人が原子力に対して好意的でない時機には、大々的広報は反感をかう。やり方については、十分考慮すべきだ。やはり日頃の草の根的な広報に力を入れるべきだろう。
⑨事故後、時間が経つにつれて「実はここが悪かった」式の記事が出るなどは広報上最悪だ。あとで訂正記事が出ても効果が薄いことを見ればわかる。しかし、あとからでも正確な報道をしてもらう必要がある。できれば、最初からほぼ間違いないところを報道してもらうよう情報提供すべきだ。科学技術庁が、モンルイ号事件(六フッ化ウランを積んだコンテナ船がベルギー沖で沈んだ事件)の報道に対し、記者クラブを通じて積極的に正しい情報を出し続けたのはよかった。素早く対応したから効果的だった。
⑩夏でも冬でも電力消費量のピーク時は話題になる。必要性広報の絶好機である。広告のタイミングは事故時だけではない。

4 内容(質)
①国民の大部分が原子力を危険だと思っているのが現状であるから、広報は"危険だ"を前提に置いて、徐々に安全性を説いていく方がよい。
②訴求点をストレートに出す。ごまかしてはいけない。「隠す」、「ごまかす」という感じを持たれては何もならない。誠意を示す広報であるためには、担当者の姿勢、心構えが重要である。
③情緒に訴えるやり方は避ける。原子力をイメージとしてとらえてもらうのではなく、事実を知ってもらう。原子力に限らず、長寿ですらプラス面のほか、マイナスもある事実を知り、プラス、マイナスの中から生まれるバランス感覚こそが大事だ。これまで、日本は外国の知識、経験、国家の保護の下に生きてきた。国民にも甘えがあり、真剣なバランス感覚を磨く機会が乏しかった。コメの自由化も同じことで、事実認識の中から正しい判断が生まれる。
④原子力には、隠されたものというイメージがある。このイメージ払拭のためにも、堂々と正面から訴える。原子力はこそこそ隠れてやるものではない。安全性に自信がないので、腰が引けるのだろうが、現状が人前に出せない状態なら止めるべきだ。そうでないならもっと胸を張って、訴えてほしい。
⑤一般人が信頼感をもっている人(医者、学者、教師等)からのメッセージを多くする。医者や教師が正しい理解をしているかどうかが問題で、彼らに情報を提供する必要がある、医者の放射線の知識は極めてプアだときく。しかし、専門家意識だけは持っている。難しいかもしれないが、彼らに正しい理解を求める作戦がいる。

5 考え方(姿勢)
①原子力が負った悪いイメージを払拭する方法を探りたい。どんな美人にもあらはある。欠点のない人がいないように、世の中のあらゆるもの、現象には長所と短所がある。差し引き長所がどのくらい短所を上回るかが現実の選択基準になる。不美人でも長所をほめ続ければ、美人になる。原子力はもともと美人なのだから、その美しさ、よさを嫌みなく引き立てる努力がいる。
②原子力は、腫物に触るような扱いをされているように見える。これまで「原子力は美人だ」と言いすぎた。胸を張りすぎた。反対運動はその反作用でもある。欠点を指摘されて、急に卑屈になった。そこが一般の人から見ると不自然に映る。素直に原子力の長所と短所を言われるようにすることが大事だ。逃げ回るのはいけない。喧嘩の弱い人のやり方だ。
③国のPRは民間のPRに比べて、量的に少ないのではないか。原子力の「必要性」、「安全性」は電力会社が主張するより、本来、国が主張すべきことだ。この二つの前提があって、初めて社会的に認知される存在になり得るからである。科学技術庁は原子力のハードを開発すれば、国民は黙ってついてくると思っている。大間違いだ。前提を国民が疑っているというのに。
④原子力は一般的に短所ばかり言い立てられている。長所をアピールすべきだ。マスコミも短所ばかりを取り上げる。長所は、まずニュースにならないからだ。そのため、短所ばかりを世間に知られることになる。「ほう、なるほど」と思うような長所を取り上げさせるよう努力すべきだ。原子力開発の初期は長所がニュースだった。その時期が過ぎて、長所は「当然のこと」で、ニュースではなくなった。
⑤いまのPAは「みんなで考えましょう」で終わっている。もっとダイレクトに「ここが長所だ」とやるべきだ。「みんなで考える」ことは大事だが、考えてもらうには情報を十分に提供する必要がある。長所と短所を提供し、両方を見比べて考えてもらうこと、そのとき、短所も長所もダイレクトに言ってもらいたい。大部分の人々は、本当はよく知らないのだ。
⑥チェルノブイル事故によって、輸入食品の汚染が言われるようになり主婦層の不安が増大したため、主婦向け広報を行ってきた。主婦は反対派の主張に共感しやすいというところから広報する必要があった。しかし、いまは小康状態にあり、一つの転機に来ているとは思われる。主婦は食品の安全性に関心があるので、チェルノブイル事故に関心を持った。その関心に真正面から応える記事でなければ受けつけてもらえない。イメージ広報がだめなのは当然だ。原子力施設などを見るチャンスは、ないよりはあったほうがよい。
⑦広報の対象を決めたら、彼らがどのような雑誌を読んでいるか、調査が必要だろう。一つの対象に集中的にやったならば何かしらの効果はある。彼らが原子力に対する自信を持った時、それを他人に伝えることで影響力をもつことも期待できる。
⑧知らないがために不安が大きくなるのだから、基礎的データで知るための事実を提供する。原子力は"危険"が前提のエネルギーであるから知ってもらうことが多くあるはずである。
⑨関心を持たない人に関心を持たせる方法が問題だ。雑誌はかなり専門化している。雑誌に相応した情報選びが必要だ。たとえば、食品関係の雑誌に載せる放射線関連の記事などは適材適所である。具体的な情報を提供するのが大切なのであって、あえて原子力のイメージを和らげる必要はない。それぞれの媒体にあった情報を載せることに意味がある。
 広告は、例えば、「日経メディカル」のように提供元を明記してもよいから、内容は責任ある人の署名入りの記事がよい。
⑩原子力による電力が"すでに全電力の三分の一も賄っているのなら、もう仕方がない"と大方は思うだろう。環境、自然食品などエコロジーに関心の強い女性は、地域の消費者センターのような所を頼りにしている。センターには放射線測定の機具等も揃っているようだ。そういったところのオピニオンリーダーを理解者側に取り込めたら、強い味方になる。女性等は必要性よりも安全性に関心があり、学習意欲も十分に持っている。体験学習の場を設けるなど接触したらよい、大部分はグループ活動をしているのでアプローチが容易だ。
 消費者センターは機関紙を発行している。"どうしたら安全に生活できるか"が機関紙の主なテーマであるから、原子力関連記事なら無料掲載も可能だと思う。

6 手法
① 広報の中心を"原子力発電所"に置きすぎる。放射線やその他の分野から理解を深める手法も考える余地がある。放射線や放射能が日常的な存在であることを周知させる必要がある。大腸菌も大量に目の前にあると分かれば不気味だが、少々なら平気と思うのは、日常的存在を感じる習性が身についているからである。
②安全性や生活との密着性を機会ある毎に直接的に訴えていく。川も海も火山も暴れると恐い。ただし、対策があれば安心できる。安全とは無策で存在するものではなく、努力して作り出すものである。泥遊びをすれば手が汚れるが、洗えばきれいになる。危険や安全は程度問題であることをわれわれはもっと常識化する必要がある。
③利用実態をオープンに知らせる。原子力が日常生活から離れた存在でないことを知れば、「見えない恐怖感」を和らげられるのではないか。
④原子力広報は、まず"安全だ"と打ち出すのではなく、"核分裂という現象は危険だ、その危険をどう安全に変えているか"という手法を探る。これまで「安全」を強調しすぎた。だから何か起きると「それみたことか」、「日頃言っていたことと違うじゃないか」ということになる。世の中に危険でないものは無いのに、原子力だけは「安全だ」ということ自体おかしい。危険でも安全に注意して扱えば安全になる。青酸カリでも火でも、何でも同じだ。
⑤基礎的な知識がないと、ちょっとしたニュースに対しても不安感が募りがちであるから、日頃から系統立てた安全性の説明が必要だ。戦争でも情況判断ができれば、あわてなくてすむと聞く。軽重の判断をするには基礎知識が欠かせない。文科系の人は数字を見るとむやみに有難がる。数字の怖さを知らないからだ。過信して判断を誤ることがある。理科系の人間は数字のいい加減さを知っているので過信はない。有効性についても判断を誤らない。
⑥関係機関は個々に広報活動をしており、結集した力になっていない。やり方等ある程度統制したら、効果が上がるのではないか。科学技術庁、通商産業省、各電力会社、電気事業連合会等で、それぞれ似たようなパンフレットを作っている。その金を集めて、効果的に作ってはどうなのか。個々に作った方がいいものもあるだろうが、共通の方がいいものもあるように思う。
⑦「一方的に話す」広報には限度がある。多数を集めて講演会をするよりは、小人数のディスカッションで参加者が自由に発言できる場を設けたほうが、理解促進につながるだろう。よい語り手も育つ。広報の相手が不特定多数であるほど効果は拡散する。講演会もよほどうまく話さないと多人数では効果が薄い。つまり、人の話を聞いただけでは、いまいち納得できないところを、突っ込んで聞けないから消化不良になる。質問をし、人の質問も聞き、「なるほど」と納得してもらうと原子力について自信のようなものを植えつけることができるだろう。特に、原子力について敵意をもつような人にはディスカッションが好ましい。納得した人が増えれば、ロコミで「原子力はやはりやらねばならない」ということが広まるのではあるまいか。
⑧原子力広報は、何を、どこまで知ってもらうことが目的なのか。単に拒絶反応を払拭するのが目的か。関心のない人にも関心を持たせようというのか。どんな人に、何を、どこまで、という前提が明確にあって、初めて広報手法が決まってくると思う。
⑨主婦から拒絶反応を拭うには、やはり食品が切り口だろう。食品照射についての理解を深めようとするなら、食品そのものヘアプローチするのが効果的だ。主婦の場合、自分の周りに原子力発電所がなければ、原子力発電を他人事としか受け取っていない。したがって、情報に対する興味が初めからない。興昧がない人に注意を喚起する必要があるのか。
⑩父親に訴えるべきことは何か。事故時は心配のないことを伝えればよいが、平常時には必要性と安全性だろう。広告は文字が多くいろいろな情報を盛るよりも、グラフや表などで情報を出す方がよい。例えば、食品に含まれる放射性物質の量を表に示すなど、事実情報を簡潔に提供するのが効果的だ。
⑪消費生活アドバイザーの国家試験問題に、原子力を取り入れたらどうか。
⑫ニュースはできるだけ"作る"ことを考えるのがよい。「食品を調べてみたら放射性物質の量は○○だった」といったように。

7 その他(学校教育)
①教育課程における原子力・エネルギー問題の取り上げ方を検討する。教科書(例えば中学の理科)に原子力のことがスペースは小さいが取り上げてある。この記述を注意深く読むと、原子力発電や放射線は危険であり、できることなら存在してもらいたくないといった感じが表れている。書き手が自信がなく腰の引けた状態で書いている。これではだめだ。厳しくチェックし、文部省の検定に反映させるべきである。さらに、その存在意義をもっと高く評価してもらえるように働きかけるべきだ。
②教師が対象の場合、大事なのは教科書に取り上げることだ。文部省に働きかけて原子力を含むエネルギー情報を教科書に入れてもらうことだ。高校で家庭科が必修科目になったことでもあるし、今がチャンスだ。
(原子力の日)
③「原子力の日」記念のイベント開催、といった広告はやめたらよい。まず、ポスターを貼る場所が問題だ。関係者のところにしか貼れない、これでは意味がない。「原子力の日」だといわれても感激はない。まして、過去にあった男女で抱き合うようなポスターを見せられて、原子力に親近感が持てるわけがない。原子力に明るいイメージを持たせるためには事故を起こさないことだ。原子力がなければどんなことになるか、例をあげて説明するのがよい。
④国民の大半は"原子力はいやだがやむを得ない、でも事実を知りたい"という意識を持つ。この層の不安に答えていく。「わずかな放射線でも危険だ」というように思わせる記述がある。では自然界の紫外線や、土の中の放射能による放射線はどのように考えるのか。胸のエックス線検査はどうなるのか。どこまで危険なのか。なぜ未解明な部分が残るのか。事実をよく知らせる努力がほしい。「原子力の日」のPAは正確な知識の普及の機会にしてほしい。
⑤景品等は実用性のある魅力あるものにする。知恵をしぼってもらいたい。景品を付けても、その人は景品に興味があるのに過ぎなく、記事の内容に興味はない。
⑥対象別になにを訴えるか、目的をはっきりさせないとだめだ。テレビの何々ショウといった番組で影響力の強い人がしゃべったのを聞いて、賛成になったり反対になったりする主婦もいる。男性の場合は、事実をはっきり知ってから賛否を決めるだろう。今後は、何を伝えるかをはっきりさせないとだめだ。科学技術庁のスタンスをどこに置くのか。それがはっきりしたところで広報手法が決まってくるだろう。
(見学)
⑦施設見学での多少危険な経験は、印象的で理解促進に役立った、という意見を聞いたことがある。英国でも炉心の真上に見学者を立たせるように見学コースを改めた。「皆さんの足元に炉心がある」という説明が却って安全性の信頼を深めたという。ベリホフ氏(ソ連アカデミー副総裁)は見学者に白衣を着させることの是非にまで立ち帰って検討するといっていた。
(事故対応)
⑧事故に関する説明は、もっと分かり易く、テレビも新聞も分かり易く報道する。政府が正確さを重視して難しく書いて発表しても、報道の段階で間違って翻訳されたのでは何もならない。だいたい日本の専門家は難しすぎる。本人がよくわかっていないからではないか。それならもっと勉強すべきだ。
(広告)
⑨国民の反対が出るくらいの、アピール度の高い、強烈な広告を出したらよい。当たりさわりのない広告はやめること。
⑩国民を一つの対象として広報効果を上げるのは難しい。対象別に対応すべきだ。誰にも好かれようとして、誰にも関心を持たれない広告をする結果になってはいないだろうか。
⑪漠然とした情報の垂れ流し的広報は無意味だ。広告を業者に発注するときの国の姿勢に問題がある。「何かアイディアを出せ」という言いかたで代理店に迫るだけではだめだ。「国民にこの際何を訴えるのか」、「この際何を主張すべきか」、国のスタンスを示すことが重要だ。国に方針がなく、業者に漠然と発注するから、垂れ流し広報になる。
⑫イメージ広告はやめて、情報をきちんとダイレクトに出す。ムードで、原子力は必要だという気持ちにさせることができるだろうか。原子力は化粧品の広告と同じ調子でやるべきではない。「事故を起こすかもしれない」という不安、「原子力をやらなくてもエネルギーは不足しない」という充足感に具体的に訴える必要がある。
⑬いま広告は"知識が得になる"という形を考えるのがよい。情報は多くを盛り込むことはない。話題となり得る客観性のある情報、また、役立つデータなど、一点あればよい。
 言葉が多いと読んでもらえない。情報量は限定される方がよい。
⑭QA方式ならば、Qは1問だけにして、すっきりしたものにする。「それだけでは不十分じゃないか」、「もっと出せ」と読み手が不満を感じたら成功ではないだろうか。もっと情報をほしがる気持ちにさせたのだし、関心を持って読んでもらえたのであるから、そういう作り方もある。
⑮定番手法にこだわらず、自由な形で一般人に議論を投げかけるような内容もよい。ただし、うんと核心を突いたものでなければならない。ごく平凡な人が、率直に持つ疑問がよい。なまはんかなインテリ面で考えたものではだめ。
 女性科学者の日常を紹介した広告などはたいして意昧がない。
⑯必要性を訴える場合、主婦層に対しては現在の生活レベル維持の可否が切り口となろう。サラリーマン層には"1/3は原子力"、これを訴えるのが最適と思う。電力会社や関連機関の広告に、必ず"1/3は原子力"を入れる。小さくともどこかに入れる。いやでも頭に残っていく。広告のポイントはそれだと思う。
(反対派)
⑰ 反対派の広報のうまさは、皆が知りたいと思っている点を広報していることだ。見習うところが多い。一から一〇まで説明しようとすると、くどくなる。反対派は、一点に狙いを定めて攻めたてるから楽だともいえるが、一般の人々の気持、生活スタンスに立って訴えている。この点は見習うべきだ。日本原子力産業会議の調査でも、推進側より反対派の説明の方が説得力があると答える人が多い。

B.PAのPRについて
1 国の役割

①原子力広報に対する国民の目には"国はもっと推進活動をすべし"と"国の積極的推進活動は信頼感を弱める"の二つがある。配慮を要する。原子力発電は、国家的事業として推進している国の重要施策であって、電力会社が勝手にやっていることではない、という姿勢を常に見せておく必要がある。その反面、安全でないのに安全性を強調し、不安感を不当に抑えつけている。「欠陥を隠す」、「業界をかばう」という姿勢を見せると逆効果になる。
②国の積極的姿勢をアピールするのはよいことだ。原子力が日本にとって、地球にとって必要であることは、あらゆる機会をとらえて強調する必要がある。
③国が積極的に取り組む姿は大いにアピールすべきだ。国が本気でなく、腰が引けているという印象を国民に与えてはならない。やはり、国が支持していることが、原子力に対する信頼感の基盤になる。
④必要性の広報は通商産業省がやるべきことか、科学技術庁はやらなくともよいのか。通商産業省は立地広報、科学技術庁は全国広報なので両者でやらなければならない。ちなみに事故の報告は通商産業省の仕事である。
⑤緊急時の広報は通商産業省の仕事であるということだから、科学技術庁は平常事の広報だけでよいわけだが、そうなると必要性の広報にも力を入れねばならない。

2 科学技術庁長官
①当面は、山東科学技術庁長官に大いに活躍願う。この知名度の高い大臣のキャラクターを生かすこと。同長官は他の政治家にはない大きなプラス面がある。【★訳注】
②同じことを話しても、山東長官は聞かせる。人を引きつける力がある。広告に顔を載せるだけなら、並のタレントと同じ効果しかない。ニュースを作って、そこで新聞やテレビの側から取材させる機会をつくるべきだ。効果的広報をいうなら、山東長官にテレビに出てもらうのが手取り早い方法だ。イベントも新聞やテレビがニュースとして取り上げるようなものなら、大いに結構だ。

★注――当時の科技庁長官は、元テレビタレントの山東昭子だった。彼女は子役で芸能界に入り活躍を続けたが、人気が低迷していた一九六九年に「クイズタイムショック」で番組初の五週連続勝ちぬきを達成し「クイズの女王」「頭脳タレント」として人気が再燃し、一九七四年の参院選で自民党から出馬して大勝した。

3 ポスター・広告
①原子力広報を担当させられる業者は「広報ポスターは意味がない」という。関係者のところにしか貼って貰えないようでは、仲間うちのなぐさめあいではないかという批判がある。だが、それでも、原子力事業者にはポスターは力強い呼びかけとうつる。そのくらい心細い思いで原子力の御輿はかつがれている。もっと心強い関係者への励ましとしてのポスターを作ったらどうか。無理に反原発や無関心の人の気を引くことはない。
②ムード的ポスターは無意味である。原子力に明るいイメージを持たせるには、事故を起こさないことだ。いくらごまかそうとしても放射能があることは誰も知っている。原子力がなければどんなことになるのか、例をあげて必要性を強調するのはよい。
③ポスターもPAの一環として位置付けて作成し、全国の学校、JR・地下鉄、展示館や博物館、プラントメーカー、電力会社などに配布すること、特に学校と駅は効果が期待できる。
④ポスターを貼ってくれそうな相手を選んで送らなければだめだ。ポスターよりも車内中吊り広告の方が効果的だろうが、場所取りや経費が大変かかるであろう。
⑤車内ステッカーも注目率がよいが、場所取りの競争が激しくてなかなか難しい。
⑥広告は情報を一つだけに絞れば読んでもらえる。
⑦中吊り広告は効果あると思う。入試問題を広告にした中吊りを見たことがあるが、あれは効果的だと思った。ただし、そこで何をやるかが問題だ。原子力の基礎的な知識や、環境における原子力の優位性をクイズにするなど、工夫したら効果のあるものになろう。
⑧新聞の折り込み広告はどうか。印刷、紙代は別で一枚一円程度だろう。折り込み広告は効果的かもしれない。
⑨父親に訴えるべきは何か。事故時は心配のないことを伝えればよいが、平常時は必要性と安全性だろう。広告は文字が多くいろいろな情報を盛るよりも、グラフや表などで情報を出す方がよい。例えば、食品中に含まれる放射性物質の量を表に示すなど、事実情報を簡潔に提供するのが効果的だ。

4 イベント
①イベントの多い現在、「原子力の日」そのものの広報は意味がない。「原子力の日」と聞いても、原子力に対する理解を深めようという気分にならない。言葉に強い響きがないからだ。しかし、なくしてしまえば、原子力の存在を国民に訴えるチャンスが一つ減ることになるので、あった方がいい。ただし、工夫してほしい。
②テレビ局が取り上げざるを得ないような、インパクトの強いイベントなら効果がある。イベントは人の関心を引くことが大事だ。賛否を問わず、仲間うちだけで見るのではなく、ニュース性を持たせる必要がある。
③反対派からまともな学者が出てくるのであれば、政府主催の討論会も意味がある。議論をして負けると分かっている討論には、反対者も賛成者も出演するのは嫌だろう。どちらにとってもその立場を発言することができ、聞いている人も面白いように企画できれば、大いにやるべきだ。
④放射線測定講座はすでにやっているが、あまり知られていない。ここでも「PAのPR」の必要性を実感せざるを得ない。

5 その他
(ラジオ・テレビ)

①記事にするにはどうしたらよいのか、新聞記者も交えて検討したらよい。ダイレクトメールは毎月送らなければ効果は薄い。
 NHKは政府広報をやっているのだから、原子力広報も流してくれるのではないか。
 ラジオはどうか。テレビほどの経費はかからないし、聴取者も多いと思う。
(講師派遣)
②一般市民を対象とした草の根の広報として講師派遣の事業を実施している。
 この事業は日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団を中心にかなり実績を上げていると聞く。どの点がよかったのか一年に一度くらい分析してみてはどうか。
(一日科学技術庁)
③新聞に科学技術庁の名前が出る回数は少ない。科学技術庁の情報発信が少ないので存在感が薄い。国内の全都道府県で、ソフトで楽しい「一日科学技術庁」を実施し、日本の科学技術レベルを内外情報を交えて伝える。地元マスメディアは必ずや報道するものと思われ、効果が期待できるのではないか。
(反対派)
④反対派リーダーと何らかの形でつながりをもったらどうか(討論会の開催など)。反対派とまじめな討論会が開かれるならば、当局は反対派の気持も汲んで原子力利用をしていこうとしていることを国民に示すチャンスになる。メディアも取り上げるだろう。反対派が応じないので、本当に困っているなら、呼び掛けをメディアを通じて行えばよい。呼び掛け自体が記事になる。
(学校教育)
⑤学校は重要な組織であると心得て、学校教師には科学技術庁からダイレクトメールを直送したらどうか。読まれる率も高いし、国の積極的姿勢も同時に示すことができる。
(見学)
⑥原子力発電所を見学しても何も分からなかった、という人が多い。放射線測定器を持って実際に測定しながら見学ができたら理解につながると思う。
(地方誌)
⑦全国の自治体に当たってみたら、原子力広報を掲載してくれる自治体があるかもしれない。新聞の地方支局も当たってみるとよいだろう。雑誌もよかろう。
⑧ミニコミ誌などは可能性がある。
⑨積極的姿勢を見せることに意味がある。

基本事項
⑩基本的には、(1)政府は頼りになる、(2)人格的に尊敬される、(3)正直、誠実で、トラブルがあった時、一所懸命に説明する、(4)情報の透明度が高い、(5)現場を役人がよく知っている、ことが大事だ。

C. 一貫性のある広報をめざしたキーワード(略)
D. 広報実施機関としての国の望ましい姿、改善点(略)
E.放射線利用についての広報(略)

Ⅱ マスメディア広報
A. 総論
(ロビーの設置)

①原子力に好意的な文化人を常に抱えていて、何かの時にコメンテーターとしてマスコミに推薦出来るようにしておく(ロビーの設置)。新聞、テレビ、雑誌には、各分野でのコメントを求める専門家リストがある。原子力では反対派の人が多い。高木仁三郎氏は最も有名なコメンテーターだ。マスコミに彼の名前が載るたびに有名になる。役所が名簿を用意して「この人を使いなさい」と推薦するのも妙だ。コメンテーターにふさわしい人の名をマスコミが自然に覚えるよう、日ごろから工夫する必要がある。
②数名からなるロビーをつくり、コメンテーターの養成に努める。役所でレクをするときに、意識的に良識的コメンテーターの名前やそのコメントを出す。時には、その人を呼んでくるなどの対応が必要である。
③ロビーづくりは無理にしなくとも、記者クラブや論説委員との懇談会を利用したらよい。常設せずとも、必要があれば主婦連の人を集めて意見を聞くなど、臨機応変に対応したらよい。役所の広報誌に、常時、伝えたいことを掲載すれば読んでくれる可能性はある。
(スポークスマン)
④スポークスマン(役人を含む)を養成する。内閣官房長官と外務省報道官を除くと、役所にはスポークスマンがいない。いいスポークスマンは役所のプラスイメージになる。新聞記者が積極的に彼の意見を求め、記事の中に引用するようになる。そうすると、スポークスマンの考え方が新聞記者間に浸透するようになる。一種のマスコミ操作法だが、合法的世論操作だ。スポークスマンの知識と人格が.記者に感銘を与えるだろう。
⑤ちなみに、役人はスポークスマンとして信頼されるためにも、なるべく部署を変わらない方がよい。科学技術庁はPAを全く重視していない。江戸時代から戦前の日本みたいに、「知らしむべからず、依らしむべし」のやり方で、全くアナクロだ。そのくせ「マスコミはろくなことを書かない」とぼやいている。今は専門家や権威筋が判断すれば、黙って大衆が従う時代ではない。科学技術庁の原子力に関する世論調査にもあるように、「原子力発電を専門家だけに任せておけない」と思う人の方が「任せておけば安心」だと思う人を三倍も上回る時代なのである。技官の多い科学技術庁は、専門家の権威に頼りすぎるから、大衆の心がつかめない。広報、スポークスマンの重要性を認識していない。
(広告)
⑥事故などの場合、マスコミに情報提供してもニュースとして面白くない部分は記事にならないことが多い。であるなら、その記事にならなかったものを広告として出したらよい。「記事には取り上げてもらえなかったが、これが一番重要なことである。なぜこんな重要なことが記事にならないのでしょうね」といったコメントを添えるといい。

B. マスメディアの活用
1 活字メディア

①パブリシティ広報がベストである。いかにPA臭を無くするかがポイント。素材の提供をして、あとの料理の仕方は委せること。「正しい知識」の押し売りはだめ。専門家が正しい知識の理解を求めても、大衆に「聞きたくない」といわれたら、それまでだ。停電は困るが、原子力はいやだ、という虫のいいことをいっているのが、大衆であることを忘れないように。
②反対派が出す書物に対して推進派の手に成る書物は絶対量が少ない。その実態は、図書館の棚にもそのまま出ている。採算度外視の覚悟で出版数を増やすのはどうか。残念ながら、巧みな語り口で、面白く原子力推進を主張する本がない。正面切った原子力の推進派の教科書も少ない。推進派の本は誰も買わないが、反対派の本なら推進派が買うので、反対の本の方が売れるという一面もある。
③関係者の原子力施設見学会はどうか。原子力関係者の家族は是非原子力発電所を見ておく必要がある。家族が見て不安を感じたら、その不安は大切なPAのヒントだ。家族を納得させ得ないようなPAでは、一般の人々に訴える力も弱い。ワイフこそ最良の協力者である。ワイフが理解すれば、どこかの井戸端会議でも影響力を発揮するだろう。
④初めから「安全だ」といわず「危険だ」と表現し、読む気を起こさせる。そして、徐々に「だから安全なのだ」という方向にもっていく。その方が信用してもらえる。誰が考えても、原子力は危険なものだ。だから、安全装置が何重にもついている。モニターもしっかりやる。対策さえ十分なら安全に取り扱えるのではないか。
⑤書物は、行問を広く、漢字を少なく、写真やイラスト類を多くするなど、読み易い本作りを心がける。相手は読みたがっていない。無理に知る必要はないと思っている。初期の原子力開発時代には、原子力を知っていることがナウいのであったが、今は違う。だから工夫がいる。
⑥分かり易さではマンガが第一だ。正確さを損ないがちな点には十分留意した上でマンガを活用したらよい。ストーリーの面白さがいる、「美味しん坊」というシリーズマンガはストーリーもあるし、料理の中身についてもよく解説している。あの手口に学びたい。
⑦推進派の書物はなぜ少ないのか、分析する必要がある。また、面白く読まれるものにするための工夫をする。専門度の高い人と、筆の立つ人とを組み合わせるとか、専門家にしゃべってもらっていい直すとか、工夫の仕方はいろいろある。原子力を正面から見るだけでなく、後ろや横から、また上から見て、書く。
(1)マンガ形式で読み易くするのも一つの方法だ。
(2)一から一〇まで、"原子力はよい"という内容ではだめだ。「原子力は危ない」、「当局は何か隠している」と思っている人がたくさんいるから。
(3)あまりまともに原子力を取り上げない方が読まれる。読ませたい人の意見を聞いてみてはどうか。全く読みたくないのか。どう書けば読んでもらえるのか。論説委員や評論家に聞くだけではだめだ。
⑧形式だけマンガにしても内容がよくなければだめだ。「美味しん坊」は内容がよいから読まれている。推理小説の手法で、原子力を盛り込んで書いたら読み応えのあるものができると思う。推進派の人間は、手軽に本を書き過ぎる。手軽に書いた本が面白いはずがない。大学教授の書いたものをそのまま本にする。これもだめだ。図書館に本を無料で送ったら置いてもらえるのではないか。教科書的な本は当然に必要である。マンガチックなものや読み物風なものばかりではいけない。

2 映像メディア
①担当者もよく内容を理解しないまま、適当に「いいものを作ろう」と長年の間マンネリでやっている。癒着排除のため、毎年業者を変えて工夫をすることが必要だ。予算を消化するだけのようなPAをやっても意味がない。結局は"美人獲得競争"でタレントのいいのをつかまえた業者が手柄になるような映像メディアの利用はナンセンスだ。マンネリの三〇分映像より、テレビスポットを同じ料金で頻繁に流す方がPA活動としてはましである。
②テレビで討論会、対談、講座等を行う(政府提供では視聴率が悪いので工夫を要する)。まじめでおもしろい番組なら人はついてくる。原子力を、政治、国際情勢など時局に結びつけてやる方がよい。企画の善し悪しと同時にタイミングがある。
③クイズ番組に科学技術庁関連の問題を提出し、その中にエネルギー・原子力等を盛り込む。例えば、福井テレビの「もんじゅでクイズ」のように。
④既存の番組にうまく原子力に関する話題を取り入れて、半年~一年と継続する。
⑤単発ドラマを製作・放映する。原子力は"事故"で映画の対象になるが、もっとプラスイメージでドラマの中に入れる工夫をする。
⑥あるドラマの中に、抵抗の少ない形で原子力を織り込んでいく。原子力関連企業で働く人間が登場するといったものでもよい。原子力をハイテクの一つとして、技術問題として取り上げてはどうか。テレビでエレクトロニクスは技術紹介番組としてよく取り上げられる。なぜ、原子力は取り上げられないのだろうか。そこでは懸命に取り組み、汗を流している人もいる。これらの映像化の検討を考える。
⑦ドキュメンタリー的番組を製作・放映する。NHKが時々やるが、NHKのは批判色が強かったり、くせがありすぎる。もっと、フェアに素直に作れないか。民放の方がよいのではないか。TMIのニュース報道では、NHKが飛び抜けて問違いが多く、誇張が目立っていた。
⑧アニメマンガ番組を製作・放映する。テレビでのアニメのアイデアが不足している。子供に対する教育効果は大きい。
⑨いまのようにニュース番組の視聴率がよい時代には、国会議員や役人がテレビ出演するチャンスも多自いはず、その機会を大いに利用する。テレビ局に積極的にアプローチして、自らニュース番組への出番を作る努力をする。科学技術庁記者クラブのテレビ各社の記者と話し合ってみる機会をつくりその検討をしてみる。
⑩事故に対して関係者がどのように対応したか、といったようなドキュメンタリー番組を製作・放映する。事故を側面から見つめる番組である。
⑪草の根広報の一環として、山東長官が女性との対話集会を持つなど、ニュースとして取り上げられるような企画を考える。
⑫テレビスポットを数多く流す。何を訴えるかが大事。どうしても頭の中に叩き込んで、覚えてもらいたいことを訴える。
⑬PR臭の少ないパブリシティ広報を心がける。政府の広報だから、PR臭は抑えてほしい。
⑭何かの時には、原子力に好意的な文化人をコメンテーターとして推薦できるようにしておく。新聞、テレビがこの人のコメントを載せてほしいと思う人をリストアップし、その名前が自然にしみこむように、日頃の仕事の中で心がけていくことが大切である。

C.マスコミ関係者に対する広報
①広報担当官(者)は、マスコミ関係者との個人的なつながりを深める努力が必要ではないか。接触をして、いろんな情報をさりげなく注入することが大事だ。マスコミ関係者は原子力の情報に疎い。まじめで硬い情報をどんどん送りつけるとよい。接触とは会って一緒に食事をしたりすることばかりではない。
②関係者の原子力施設見学会を行う。見ると親しみがわく。理解も深まる。特に、テレビや新聞の内勤者の人たちにみせるのが効果が高い。彼らは現物を知らないので、観念的批判者になってしまっている。
③五~六人からなるロビーを作り、常に交流を図るのも一つの方法である。
④テレビディレクターなど製作現場の人間とのロビー作りを考える(テレビ局を特定してもよい)。特定のテレビ局をシンパにするだけでも大きい意味がある。テレビ局と科学技術庁の結びつきは弱い。テレビディレクターに少し知恵を注入する必要がある。
⑤人気キャスターをターゲットにした広報を考える。事件のない時でも、時折会合を持ち、原子力について話し合い、情報提供をする。例えば、有名な人に三〇分くらい話してもらい、質疑応答する。役所が情報提供する形式は面白くない(この場合の面白くないは、本当に面白くないの意昧)。何かことが起きて原子力がターゲットとなったときに、人気キャスターを集めて理解を求めることが出来るなら、これが最も効果的で、いい方法である。うまくやれば可能だ。それを重視させ得る知恵者を日頃からつかんでおく必要がある。
⑥広報担当官は、マスコミ関係者と個人的つながりを深めておく。人間だから、つながりが深くなれば、当然、ある程度配慮し合うようになる。
⑦日頃から、役立つ情報をできるだけ早く、かつまた、積極的に提供しておく。それが信頼関係を築く。記者にとってはありがたい存在になる。
⑧記者のポストが変わっても、情報の提供を継統していく。別の部局に移っても、情報資料を郵送する。ポストは二年くらいで変わるから、ずっと対象を広げていけば、強力な支援ネットを築くことになる。目先の人間だけを相手にする広報では底が浅くなってしまう。
⑨事実を伝え、その事実をマスメディアを通じて正確に流してもらうのが大前提である。平生から、特に社会部の記者とのつながりを深めておくことが大切である。
⑩役所の発行した資料でよいから、報道機関のデスクからOBに至るまで、常時送り続けることが、つながりを深めることになる。科学技術庁は、ニュースレターも何も送ってこない。これでは忘れられてしまう。
 ニュースになるか否かはともかく、資料は送る方がよい。新聞記者の原子力メーカー見学会などもよいのではないか。悪い噂が流れた時や事故時のマスコミ対応が非常に大事だ。新聞記者を避けるのは一番悪い。逆境の時こそマスコミにアプローチすべきチャンスでもある。

Ⅲ むすび
美浜発電所2号機事故のレクチャー

 原子炉事故のような事件が発生した際、その事故の概要、背景について親切な解説を新聞記者に対して行うことは、大変有益である。是非実行してほしい。その好例が、美浜2号炉事故の際、石川迪夫氏(当時、日本原子力研究所、現在、北海道大学工学部教授)によってなされたレクチャーである。
 午後6時頃から富国生命ビルの日本原子力発電所の一室で始まったレクは午前零時頃まで続いたようだ。石川氏の説明は、親切でわかり易かった。記者連中はよそでは恥ずかしくて聞けないような平易なことまで気安く聞くことができた。どんな質問にも石川氏は丁寧に答えた。
 このレクを機に、記者連中の書く記事は変わったように思う。内容が正確になり、うがちすぎの意地悪な推測記事が減った。
 このレクは日本原子力研究所が企画したものではないかと思うが、今までなかった企画だ。何より石川氏という適材を生かしたことにある。原子力界には常時、このような人を一~二人用意しておく必要がある。大学か日本原子力研究所のような中立機関であることが好ましい。こういう人材は非常に少ない。石川氏は「声がかかれば何時でも出動します」といっている。
 事件が発生したとき、新聞記者に噛みくだいた情報の提供が何故必要か。チェルノブイル原発事故発生直後、フランスの世論の原子力支持率が急降下した背景をフランスで調査した経験からそう判断できる。
 事故の後の世論調査で、93%の人々が「事情を知らされていない」、79%が「事実を知らされていない」と答え原子力の支持率を大きく下げた。
 調査してみると、政府も電力公社も情報を隠したわけではなかった。情報は提供していたが、ジャーナリストがそれを使いこなせなかった。技術的過ぎる説明で理解しにくく、興味を示さなかった。そのため、結果的に情報が提供されなかったことと同じになった。
 原子力に関する情報を一般大衆に対し、よりガラス張りにし、情報の質を高め、国民にわかり易い情報を提供するため、フランス原子力情報安全会議を新設したり、ミニテル利用のオンライン情報網を設けたが、事故後の情報提供の不十分さが国民の不信を招いたことを深く反省していた。