ウクライナは南欧で偽旗ドローン攻撃を計画している可能性がある

アンドリュー・コリブコ

筆者は、ウクライナが南欧で偽旗ドローン攻撃を行い、ロシアの犯行に見せかける可能性があると主張する。ウクライナには同地域でドローンを運用する能力と、NATOとロシアの対立を激化させる動機があると指摘。偶発的な戦争への発展を防ぐためには何が必要かを指摘する。

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ゼレンスキーには、NATOへの攻撃にロシアが関与したように見せかけなど、最近の過熱した対ロシア警戒論を利用する動機がある。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領とイタリアのグイド・クロセット国防相は、スペインのメディアによる最近の報道を否定した。その報道は、リトアニア国防省に近い匿名の情報源を引用し、CIAはロシアが南欧へのドローン攻撃を計画しているとみている、と主張していた。

その背景にあるのは、ロシアが近くNATOの決意を試すかもしれないという、一部の欧州首脳の間に広がるヒステリー的な観測だ。フィンランドのアレクサンデル・ストゥブ大統領は以前、こうした議論はEUの利益にとって逆効果だと明言していた。

したがって、前述の当局者たちが、どのような別の思惑があったにせよ、拡散されている論調に乗るのではなく、ストゥブ氏と同じ姿勢を示したことは歓迎すべきことだった。それでも、この話がそもそもメディアに流され、しかもその情報源がリトアニア国防省に近い匿名の人物だった事実は不安を抱かせる。特に、ウクライナによる偽旗作戦が間近に迫っているのではないかとの憶測があるなかでは、なおさらだ。キーウには、NATOへの攻撃にロシアが関与したように見せかけ、これら最近のヒステリーを利用する動機があるからだ。

今年の初め、ウクライナはリビアにあるドローン基地から、地中海にいたロシアの「影の船団」の船舶1隻を攻撃した。また、ウクライナの海上ドローン1機がイオニア海にあるギリシャ領の島に漂着した。この二つの出来事によって、キーウがこの地域で航空ドローンと海上ドローンの両方を運用する能力を持っていることが確認された。

したがってウクライナは、少なくとも欧州のNATO加盟国(E-NATO)にロシアの「影の船団」への取り締まりをさらに積極的に強化させようとして、南欧で偽旗攻撃を行うためにこれらを利用する可能性がある。

この問題に関連して、プーチン大統領は8月、ウラジオストクの太平洋艦隊司令部を訪問した際、「外国船を同じように拿捕する」と報復措置を警告した。こうした相互のエスカレーションは、E-NATOがさらにエスカレーションの段階を上げるために利用する可能性があり、その結果、偶発的に実際の戦争が起きる危険性が高まる。

しかし、ポーランドとベラルーシの外相が10年ぶりに会談したことで、両国関係には予想外の進展が生まれた。別の記事で詳しく説明したように、これは「新冷戦」の緊張緩和につながる可能性がある。

ゼレンスキーは、さまざまな理由から、そうなることを望んでいないかもしれない。その理由の中でも特に重要なのは、長期間延期されてきた選挙を実施する前に、西側から圧力をかけられ、プーチンに対していくつかの痛みを伴う妥協をするよう強要される可能性があることだ。そして、その選挙では、ゼレンスキーは不人気であるため、おそらく権力を失うことになる。したがって、ゼレンスキーには偽旗作戦を行う動機がある。

この動機と、この分析で先に述べたウクライナの能力を合わせて考えれば、ウクライナが南欧に対する偽旗ドローン攻撃を試みるというシナリオには、不安を感じさせるほどの現実味がある。ただし、この脅威には依然として対処可能だ。

たとえそれを未然に防ぐことができなかったとしても、以前引用した「新冷戦」の緊張緩和に関する記事(PDF)で触れられた別の記事が提案しているように、米国、E-NATO、ロシアの間に危機管理のための連絡ルートを設ければ、先に警告した偶発的な実際の戦争を防ぐことができる。

また、この連絡ルートが設置されたというニュースそのものが、ゼレンスキーへの抑止力になる可能性もある。ゼレンスキーが、実行が迫っている可能性のある自らの計画では部分的な緊張緩和を妨げることはできず、その後にウクライナの関与を示す証拠が出れば、かえって裏目に出る可能性さえあると考えるようになれば、計画を思いとどまるかもしれない。

とはいえ、現在、そのような危機管理の連絡ルートは存在していない。そのため、ロシアに責任を負わせるために、ゼレンスキーが南欧に対するウクライナの偽旗ドローン攻撃を承認する機会は、依然として残されている。

したがって、そのような連絡ルートを早急に設ける必要がある。そうしなければ、最悪の場合、ゼレンスキーはこうした手段によって第三次世界大戦を引き起こしかねない。ポーランドとベラルーシの関係に進展が見られるなか、フィンランド、フランス、イタリアが最近のヒステリーに異議を唱えていることで、米国がこの問題を仲介できる可能性は以前より高まっている。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月30日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source: https://korybko.substack.com/p/ukraine-might-be-plotting-a-false

スロバキアのフィツォ首相、「偽旗作戦」(ポーランドで?)によって自国をロシアとの戦争に巻き込ませるつもりはない

アンドリュー・コリブコ

スロバキアのフィツォ首相は、NATOとロシアの直接衝突への懸念を示し、自国を戦争に巻き込ませない姿勢を強調した。記事は、NATO条約第5条が加盟国に軍事力の行使を一律に義務づけていない点を指摘。そのうえで、ポーランドなどで起きたドローンやミサイルをめぐる事件を取り上げ、ロシアとの軍事的緊張を意図的に高める「偽旗作戦」が行われる可能性があるとの見方を示している。

※   ※   ※   ※

NATO条約第5条は、同盟国を支援するために必ず軍事力を行使しなければならないと定めているわけではない。ましてや、ポーランドのリベラル派が望んでいるように見える、偽旗作戦(あるいは本当の事故でさえ)を利用するために作られた条項では決してない。

【黒薮注】NATO条約第5条:締約国は、欧州または北米における一または二以上の締約国に対する武力攻撃を、すべての締約国に対する攻撃とみなすことに同意する。

したがって、そのような武力攻撃が発生した場合、各締約国は、国際連合憲章第51条によって認められている個別的または集団的自衛権を行使し、攻撃を受けた締約国を援助する。そのため、各締約国は、北大西洋地域の安全を回復し維持するため、武力の行使を含め、自国が必要と判断する行動を、直ちに、個別に、また他の締約国と共同してとる。

このような武力攻撃、およびその結果としてとられたすべての措置は、直ちに国連安全保障理事会に報告されなければならない。これらの措置は、安全保障理事会が国際の平和および安全を回復し維持するために必要な措置をとったときに終了する。

スロバキアのロベルト・フィツォ首相は最近、ロシアとの戦争に自国が巻き込まれないよう最大限の努力をすると国民に語り、注目を集めた。NATO条約第5条に基づいて、そのような戦争への参加を求められた場合も含まれるという。

フィツォ首相は同じ場で、欧州のNATO加盟国とロシアが、これまでになく戦争に近づいているとも警告した。さらに、最近ウクライナを訪問した欧州各国の首脳らについて、「彼らはNATOとロシアの大規模な衝突を引き起こす口実を探しているだけなのではないかと、私は深く懸念している」と述べた。

この点にとりわけ当てはまるのが、現在ポーランドで政権を握るリベラル派だと私は考えている。彼らはロシアとの大規模な対立激化を画策しているように見えるが、それを実行するには、保守派の大統領をうまく説得して同意させる必要があるという。

リベラル派のドナルド・トゥスク首相は春以降、ロシアによる攻撃の可能性について不安をあおってきたが、今月に入ってその発言は私が「ヒステリー」と表現するほど激しくなった。また、ラデク・シコルスキ外相も挑発的に「ロシアはすでに欧州と戦争状態にある」と主張している。そのため私は、彼らがゼレンスキー大統領とともに偽旗作戦を仕組む可能性があると推測している。

これに関連して、ポーランドの保守派の前大統領アンジェイ・ドゥダは退任後、2022年末に起きたプシェヴォドゥフでの事件について語った。この事件では、軌道を外れたウクライナの防空ミサイルによってポーランド人2人が死亡した。

私は、ドゥダの発言によって「ゼレンスキーがポーランドをロシアとの戦争に巻き込もうとしていたことが、遅ればせながら確認された」と主張している。当時ウクライナ側は、ポーランドに着弾したのはロシアのミサイルだと主張していた。私はこれを「ウクライナが、誤ってポーランドを攻撃した後、NATOをだまして第三次世界大戦を始めさせようとした」と解釈している。しかし、一部ではドゥダがその主張に乗るのではないかと考えられていたものの、実際にはそうしなかった。

同様に、2025年9月にロシアのドローンが誤ってポーランド領内に侵入した際も、ドゥダの後任であるカロル・ナヴロツキ大統領は、ロシアとの戦争につながりかねない動きには乗らなかった。このドローン侵入について私は、電波妨害によって航路がずれた可能性が高いとみている。

また私は、トゥスク政権が、ある住宅を破壊したのはロシアのミサイルだったと虚偽の説明をしたが、実際には軌道を外れた防空ミサイルだったと主張している。私の説によれば、ポーランドの国家機構内部の勢力が、ナヴロツキをロシアとの戦争へと誘導しようとして失敗したこの一件が前例となっており、同様のことが再び試みられるのではないかと疑う合理的な理由がある。

最近、ナヴロツキ大統領の報道官は、トゥスク首相がロシアによる攻撃が迫っていると警告するCIAの報告書を受け取ったと主張したことについて、「世論を刺激するためのでっち上げられた嘘」を広めていると非難した。一方、トランプ大統領は、ナヴロツキが状況を「コントロールしている」と述べた。

さらに米国は、欧州に駐留する米軍を大幅に削減する計画だとも報じられている。私は、もし米国がロシアによって近くNATO条約第5条が試される事態になると本気で予想しているのなら、そのような大規模な兵力削減を検討するはずがないと考えている。したがって、ナヴロツキもトランプも、偽旗作戦にだまされる可能性は低いとみている。

しかし万一、両者がそれに乗ってしまい、シコルスキ外相が以前提案していた「ウクライナ上空でロシアの飛翔体を迎撃する」案や「ウクライナに飛行禁止区域を設定する」案をナヴロツキが承認した場合、第三次世界大戦につながる現実的な危険が生じると私はみている。

そうなったとしても、フィツォ首相はスロバキア国民に、自国がその戦争に引きずり込まれることはないと伝えたいのだという。

そもそもNATO条約第5条は、同盟国を支援するために軍事力を行使することを必ずしも義務づけているわけではない。そして、ポーランドのリベラル派が望んでいるように私には見える、偽旗作戦(あるいは実際に起きた事故でさえ)を利用して戦争を引き起こすために作られた条項では決してない。

先週リトアニアで起きたドローン事件についても、私は別の記事で説明したように、ウクライナによる偽旗作戦だった可能性が高いと考えている。

これに加えて、トゥスク首相とシコルスキ外相を中心とする欧州のエリート層が、最近ロシアの脅威を盛んに訴えていることを考えると、ポーランドで何らかの偽旗作戦が計画されていると予想する理由があると私は考えている。

ナヴロツキ大統領が姿勢を崩さない限り、とりわけ、普段ナヴロツキが判断を仰ぐ傾向があると私がみているトランプ大統領が態度を揺らがせた場合でもナヴロツキが踏みとどまれば、第三次世界大戦につながる現実的な危険を伴う、ロシアに対する大規模な対立激化は回避されるだろう。

最終的には、そのすべてがナヴロツキ一人の判断にかかっているのかもしれない。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月21日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source: https://korybko.substack.com/p/slovakias-fico-wont-let-a-false-flag?utm_campaign=post&utm_medium=web

なぜロシアは西側諸機関との協定を破棄しないのか?

アンドリュー・コリブコ

ロシアは西側主導の秩序に挑戦しているものの、西側との全面的な断絶を目指す「革命国家」ではない。西側諸機関との協定を維持し、将来の関係再構築や内部からの改革も視野に入れつつ、BRICSなどを通じて段階的に多極化を進めることが、その大戦略だと筆者は論じる。

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ロシアが目指している世界秩序とは、西側と軍事・政治面で対等な立場に立ったうえで、BRICSを通じて西側の経済的覇権を平和的に切り崩し、徐々に多極化した世界へと移行していくものである。

ロシア大統領の国家院(下院)全権代表を務めるガリー・ミンフは8月下旬、タス通信(TASS)に対し、「関係省庁は、NATOとのパートナーシップ協定や、WTO、IMF、世界銀行を含む国際金融機関との協定を破棄することに反対している」と語った。その理由は、これらの協定が「まだその可能性を使い果たしていない」うえ、プーチン大統領がこうした組織との対話の窓口を維持したいと考えているからだという。またTASSによると、ミンフは、西側とは異なり、ロシアは常に自らが負う義務に責任を持っているとも述べた。

こうした政策方針が改めて確認されたことは、多くの「ロシア人ではない親ロシア派(Non-Russian Pro-Russians=NRPR)」を驚かせたかもしれない。彼らの多くは、影響力のある親ロシア派インフルエンサーによって、ロシアは2022年以降「革命国家」になったと思い込まされてきた。そのため、西側諸機関とのこうした協定など、とっくの昔に破棄されているはずだと考えていたのである。

しかし、それは有力なNRPR系インフルエンサーたちが念入りに作り上げた「もう一つの現実」だった。彼らは注目や影響力を獲得したり、特定のイデオロギーを広めたり、寄付を募ったりするために、そうした物語を作り上げてきた。そしてロシアの「ソフトパワー監督者」たちも、「ポチョムキン的」なソフトパワー戦略の一環として、それを黙認してきたというわけだ。

ここでいう「ポチョムキン的」なソフトパワーとは、戦略的な目的のために、このような「もう一つの現実」を作り出すことを指す。もっと冷笑的に表現するなら、たとえ誤った前提に基づくものであっても、できるだけ多くの外国人にロシアを支持させるという発想である。その典型が、「プーチンは表向きとは裏腹に、実は反シオニストだ」という悪名高い言説だ。

【黒薮注】プーチンは元々、ロシアの国益に応じてイスラエルとの関係を重視してきたが、2023年以降は国際情勢の変化に伴ってイスラエルへの批判を強めた。

こうした手法には倫理面でも戦略面でも多くの問題があり、NRPRのコミュニティー内で早急に議論されるべきだろう。しかし、それとは別に重要なのは、ミンフの発言によって改めて広く知られることになった、客観的に存在する政治的・法的な現実を明確にしておくことである。

確かにロシアは「特別軍事作戦」を通じて、西側主導の一極体制に挑戦している。この作戦は当初、主としてウクライナを起点とするNATOからの脅威を無力化することを目的としていた。そうした脅威は、ロシアを恒常的な戦略的威圧にさらすために作り出されたものだった――というのが私の見方であり、その点については別の記事で説明している。

しかし、ロシアによる西側への挑戦は、全面的なものではない。プーチン大統領をはじめロシア側が当初からすべての制裁の撤回を要求してきたことからも分かるように、ロシアは一貫して、いずれ西側との貿易関係――エネルギー取引を含む――や投資関係を再開することを想定していた。

ただし、「特別軍事作戦」以前と、ロシアが作戦後に思い描いていた状況との間には、重要な違いがある。それは、ロシアが最大限の目標を達成した後、西側諸国と軍事・政治面で対等なパートナーになるという点だ。

そのうえでロシアは、西側との関係から利益を得ることになる。例えばNATOとの関係では、戦後の欧州の安定を維持することがそれに当たる。同時に、経済機関については内部から改革を進める一方、BRICSなどを通じて西側に代わる非西側の制度や枠組みづくりを主導していく、という構想である。

ロシアの大戦略上の目標は、一貫して世界の多極化を加速させることにある。ただし、有力なNRPR系インフルエンサーたちがほとんど説明してこなかったのは、この多極化が段階的に進められることを想定しているという点だ。その狙いは、世界システムに大きな衝撃が生じ、それが逆にロシアの利益を損なうリスクを可能な限り小さくすることにある。

つまり、ロシアが実現しようとしている世界秩序とは、まず西側と軍事・政治面で対等な立場を確立し、その後BRICSを通じて西側の経済的覇権を平和的に切り崩しながら、世界を徐々に多極化へと導いていくというものなのである。

この大戦略上の目標や、その段階的な進め方をどう評価するかはともかく、これがロシアの実際の政策であり、以前から現在に至るまで、ロシアが現実に実行している方針であることは確かだ。

したがってロシアは、自らが構想する将来の世界秩序を実現していくためにも、西側諸機関との協定を維持しておく必要がある。念のために言えば、これはロシアの政策を正当化するための弁明ではなく、その理由を説明しているにすぎない。

逆に、もしロシアが将来こうした協定を実際に破棄することになれば、それはロシアの大戦略が根本的に転換したことを意味するだろう。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月15日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source: https://korybko.substack.com/p/why-wont-russia-sever-its-agreements

なぜ中国はウクライナへのドローン関連製品の販売を止めないのか

アンドリュー・コリブコ

ウクライナのドローン生産は、今なお中国製部品への依存が大きい。なぜ中国はロシアとの緊密な関係を維持しながら、ウクライナへの関連製品の流通を止めないのか。筆者は、戦争の長期化によって中国が得る地政学的・経済的利益と、双方を支える「積極的中立」という戦略から読み解く。

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ウクライナ紛争が延々と続けば、アメリカが計画している「(再び)東アジアへ軸足を移す」戦略の本格的な実施も、それだけ先送りされる。また、ロシアが豊富な天然資源を中国に格安で売る状況につながる可能性もある。そして中国は、いわば「積極的中立」という立場を維持することができる。

ラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティ(RFE/RL)は先月末、「ウクライナのドローン戦争が浮き彫りにした、中国への不都合な依存」と題する記事を掲載した。

この記事では、EUがウクライナのドローン調達用として約束した60億ユーロのうち、最初の10億ユーロをこの夏に拠出したことが取り上げられている。

注目すべきなのは、この資金を使ってウクライナが中国製の部品を購入することも認められている点だ。つまり、率直に言ってしまえば、以前指摘されたように「EUが中国に金を払い、ウクライナによるロシア兵への攻撃を間接的に支援する」という構図になっている。

RFE/RLによれば、ウクライナは中国から完成品のドローンを購入する量を減らしているものの、モーター、リチウム電池、光ファイバーなどの中国製部品に対する需要は依然として非常に大きい。

さらに、「2026年上半期だけで、中国製部品の輸入額はすでに前年1年間の約76%に達した」という。

またRFE/RLはウクライナ側の報告書を引用し、「2025年上半期にウクライナが輸入したドローン部品の金額ベースで38%が中国からのものだった」としている。

この記事の狙いは、ウクライナと西側諸国に危機感を持たせ、ドローンの国内生産を大幅に増やす必要があると訴えることにあるようだ。そうすることで、記事に登場する専門家の一人が「敵対的な相互依存」と表現した、ウクライナの中国への依存を減らそうというわけである。

記事ではさらに、「中国は依然としてウクライナ最大の貿易相手国であり、一方のウクライナは中国にとって重要な農産物供給国である」と説明している。これは事実であり、中国がウクライナへのドローン関連製品の販売を完全には止めない理由の一つでもある。しかし、理由はそれだけではない。

現在の中国とロシアの関係は、歴史上でも非常に良好な水準にある。それでも2023年初頭の時点ですでに、「中国はウクライナ戦争で誰にも勝ってほしくないのではないか」という見方があった。

その理由は、ある程度コントロール可能な形で戦争が長期化すれば、アメリカが計画する「(再び)東アジアへ軸足を移す」戦略の本格的な実施を、いつまでも遅らせることができるからだ。

それだけではない。天然資源の豊富なロシアが中国への依存を強めすぎれば、モスクワは石油や天然ガスをはじめとする天然資源を、北京に非常に安い価格で売らざるを得なくなる可能性がある。

こうした冷徹な利益を追求するため、中国は一方で、ウクライナにとって欠かせないドローン、部品、光ファイバーなどの供給源となってきた。
仮に中国企業から直接供給されているのではなく、中国擁護派が主張するように第三国などの仲介業者を通じた間接的な供給にすぎないとしても、中国製品が重要な役割を果たしていることには変わりない。

その一方で中国は、ロシアにとっても、西側諸国による制裁の圧力を逃がすための欠かせない「安全弁」の役割を果たしている。その結果、ウクライナはロシアの軍事技術上の進歩にある程度ついていくことができる。同時にロシア経済も、西側諸国が制裁によって引き起こそうとした深刻な危機を回避できている。

そして中国は、「積極的中立」とでも呼ぶべき立場を維持している。ここでいう「積極的中立」とは、中国がウクライナとロシアの双方を積極的に支援することで、どちらか一方の側につくことを避けている、という意味である。

中国はウクライナによるドローン関連製品の購入から金銭的利益を得ている。また、大幅に値引きされたロシア産エネルギーを大量に輸入することで、中国経済の成長にもつなげている。さらに、中国が実はロシアと「同盟」を結んでいるわけではないと示すことで、西側諸国から中国自身に向けられる圧力を、相対的に弱める効果も得ている。

この政策をどう評価するかは別として、結果としてウクライナ紛争の長期化に寄与してきたことは否定できない、わたしは考える。

ロシアが「特別軍事作戦」と呼ぶ軍事行動を開始する数週間前、中国とロシアは「限界のない」パートナーシップを宣言していた。もし中国がこの関係に沿ってウクライナへのドローン関連製品の販売を停止していたなら、ロシアは現在までに、この紛争で掲げた目標をより多く達成できていたかもしれない。場合によっては、最大限の勝利を収めていた可能性さえある。

もちろん、ウクライナにとっては、中国からのドローン関連製品よりも、アメリカによる軍事・情報面での支援のほうが重要である。しかし、アメリカによる支援が近いうちに終わる兆しはない。したがってロシアは、中国に対してウクライナへのドローン関連製品の供給を今度こそ完全に止めるよう働きかけるべきだ――というのが、この記事の結論である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月8日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/why-wont-china-cut-ukraine-off-from

ロシアが新設した「1945年の対日戦勝記念碑」が象徴する、日露対立の再燃

アンドリュー・コリブコ

ロシアがハバロフスクに1945年の対日戦勝を記念する巨大なモニュメントを建設した。筆者は、プーチン大統領の択捉島訪問とあわせ、日露間の歴史的対立が再び強まりつつある象徴だと分析。その背景には、米国のアジア太平洋戦略や日本の軍事的役割の拡大があると指摘している。

※   ※   ※   ※

この状況を招いた責任はロシアではなく、米国にある。米国は、事実上その保護下にある日本が、1956年の日ソ間の妥協案に基づいて南千島列島をめぐる問題を解決することを認めなかったからだ。この妥協案では、色丹島と歯舞群島を日本側に引き渡すことになっていた。

日本の高市早苗首相は、ロシアが新たに建設した「1945年の対日戦勝」を記念するモニュメントについて不満を表明した。

アイルランド人ジャーナリストのブライアン・マクドナルドは、ハバロフスクのアムール川を見下ろす目立つ場所に建てられたこの記念碑について、「その大きさと、どれほど目立つ場所にあるのかが分かるように」と映像を公開した。

さらに、次のように伝えている。

「地元当局から『イワン』と名付けられた兵士像は、日本の皇室の権威を象徴する菊の紋章が付いた国境標識を打ち壊す姿で表現されている。当局はこれを『対日戦勝を記念するロシア最大のモニュメント』と説明している」

この問題のより大きな背景には、プーチン大統領による択捉島訪問がある。択捉島は現在ロシアが実効支配しているが、日本が自国領として主張している4島の一つであり、プーチン氏の訪問は日本側の強い反発を招いた。

ロシアを代表するアジア専門家の一人、ゲオルギー・トロラヤは最近の記事で、プーチン氏の択捉島訪問をきっかけに事態が急速に動き、ロシアの安全保障を複雑にする可能性があると指摘した。

しかしわたしは以前の記事で、プーチン氏はそうした事態はいずれ避けられなくなるので、この点を見越して先手を打ったのではないか、と論じた。今回の記念碑の公開を考えれば、この見方には筋が通っている。

そもそも、大規模な記念碑は短期間で建設できるものではない。そのためプーチン氏は、択捉島を訪問する以前から、ロシアを取り囲む新たな「防疫線(cordon sanitaire)」のうち、北東アジア方面に国民の関心を向けることを計画していたと推測できる。

これら一連の動きは、ロシアが、米国の支援を受けた日本による対露封じ込めの動きを認識していることを示している。

だからこそプーチン氏は、択捉島に対するロシアの主権を改めて強調した。そして今回の新しい記念碑も、ロシア国民に日本との歴史的な対立を思い起こさせる効果を持つことになる。

歴史を忘却している人のために振り返ると、日露の競争は19世紀末に始まった。ロシアが北東アジアへ勢力を拡大し、中国の満州地域や朝鮮半島への影響力を強めたためである。日本は1894~1895年の日清戦争で、朝鮮半島をめぐって中国と戦っていた。

その約10年後に起きた日露戦争では、アジアの国がヨーロッパの大国を初めて破った。その後、日本は朝鮮を併合し、やがて満州に傀儡国家を建国することになる。

そして1945年8月、ロシア(当時のソ連)は日本に対して「雪辱を果たした」。ヤルタ会談での合意に基づき、ソ連は「満州戦略攻勢作戦」を開始した。この攻勢によって、日本軍は満州、朝鮮半島北部、樺太南部、そして千島列島から急速に排除された。

今回建設された記念碑が記念しているのは、この戦いである。

ロシア政府は、この歴史を国民に改めて思い出させることで、日本との歴史的な対立関係が再び強まることを国民が受け入れやすくなるよう、徐々に意識を整えようとしている。わたしは、この対立関係が今後、長期間にわたって日露関係を特徴づけることになると予想している。

わたしは、こうした状況を招いた責任はロシアではなく、米国にあると思う。米国は、事実上その保護下にある日本が、1956年の日ソ間の妥協案に従って南千島列島をめぐる領土問題を解決することを認めなかった、というのがわたしの主張だ。

1956年の妥協案では、色丹島と歯舞群島を日本側の管理下に戻すことになっていた。その結果、領土問題はその後およそ70年間にわたって未解決のまま残された。そしてこの問題は、日本の地政学的な国家意識の重要な一部となり、多くの日本国民にとって感情に強く訴える問題にもなった。わたしは、現在、米国がこの問題を利用していると主張している。

日本には、米国が構想する「AUKUS+」――つまり、アジア太平洋地域にNATOのような軍事ネットワークを構築する構想――を主導する役割が与えられている。

【黒薮注】AUKUS+:「AUKUS+」とは、米英豪3カ国の安全保障枠組みとして、それを日本、韓国、カナダ、ニュージーランドなど他の同盟・友好国との協力へ広げていく構想。インド太平洋における、より広い軍事・技術協力ネットワークの構想。日本政府にとって、憲法9条がこの構想の障害になっている可能性が高い。

その最大の目的は中国を封じ込めることだが、日本が再軍備を進め、ロシアにとってより大きな脅威となるにつれて、ロシアを取り囲む「防疫線」の北東アジア方面も強化されることになる。

したがって、プーチン氏が択捉島に対するロシアの主権を改めて強調することも、ロシア政府が国民に対して、日本との歴史的な対立関係が再び強まることを徐々に受け入れさせようとすることも、十分に理にかなった対応なのである。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月9日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/russias-new-monument-to-its-1945?utm_campaign=post&utm_m

ロシアのアジア問題第一人者、プーチン大統領の択捉島訪問を建設的に批判

アンドリュー・コリブコ

プーチン大統領の択捉島訪問をめぐり、ロシアのアジア専門家トロラヤ氏は、日米との緊張を高め、ロシアの外交的選択肢を狭める可能性を指摘した。背景には、米英豪の安全保障枠組みAUKUSと日本などの協力拡大があり、米日韓と露中朝という二つの陣営への分断が進む可能性がある。

ロシアのアジア専門家トロラヤ氏
ロシアのアジア専門家ゲオルギー・トロラヤ氏

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ロシア国内で、ロシアの外交政策に対する建設的な批判が表に出ることは極めて珍しい。ましてや、その分野の第一人者であるトロラヤ氏のような専門家から批判が出ることは、なおさらである。

ゲオルギー・トロラヤ氏を「ロシアを代表するアジア問題の専門家」と呼んでも、決して大げさではない。同氏は数々の肩書や実績を持ち、その一つが、ロシア科学アカデミー経済研究所の「アジアにおけるロシア戦略センター」所長である。

だからこそ、ロシアの有力シンクタンク「ヴァルダイ・クラブ」に寄稿した最新の分析で、トロラヤ氏が最近の日露間の緊張について建設的な批判を行ったことには、大きな意味がある。

この緊張は、プーチン大統領が前例のない択捉島訪問を行った後に高まった。択捉島は、日本政府が自国領であると主張する北方四島の一つである。トロラヤ氏はまず、かなり大胆な予測を示した。

「将来の歴史家が、アジアにおける新たな地政学的構図の出現を、この出来事から始まったと位置づける可能性は十分にある」

そして、次のように説明している。

「もしワシントンが、ロシアの対日姿勢の変化を単発的な出来事としてではなく、モスクワが『太平洋の大国』としての地位を確立しようとしている証拠だと受け止めるなら、米国はまさにその次元で、この挑戦に対抗する可能性がある」

その場合、地域の安全保障環境を大きく変えるような、段階的なエスカレーションが起こる可能性があるという。トロラヤ氏は、その流れを次のように説明している。

  1. 外交的な抗議
  2. 新たな制裁
  3. 千島列島周辺での偵察活動の強化
  4. 北海道での日本の軍事演習
  5. 日米共同軍事演習
  6. 米海軍のプレゼンス拡大
  7. 日本による新たな長距離ミサイルの配備
  8. 米国の攻撃システムの一時的な配備
  9. 米国のミサイルの恒久的な配備

原文ではこの後の記述がやや不明瞭になっているが、最後の段階として、日本が核武装へ向かう可能性を示唆している。まさに「アジアにおけるロシア戦略」を専門とするトロラヤ氏は、さらに次のように結論づけている。

「ロシアのアジア太平洋政策全体という観点から見ると、従来の『多極型』モデルは、今や決定的に崩壊した。このモデルでは、ロシアは日本や韓国など、他の有力国との関係を利用することで、中国への依存を『バランスさせる』という選択肢を持っていた」

つまり、これまでのロシアには、中国との関係を深めながらも、日本や韓国とも関係を維持し、中国への過度な依存を避ける余地があった。しかし今回の展開によって、その外交的な選択肢が失われたという見方である。トロラヤ氏はさらに、この動きによって、「米国・日本・韓国」と「ロシア・中国・北朝鮮」という二つの陣営の形成が加速する可能性があると予測している。最後にトロラヤ氏は、次のように述べた。

「ロシアはアジア太平洋地域で戦略的な存在感を高める一方、外交的に動ける余地を失う可能性がある。現在の世界的対立の段階では、このような『交換条件』は正当化できるように見えるかもしれない。しかし、アジア外交ははるかに長い時間軸で物事を考えることに慣れている。
 ロシアの選択肢が狭まっているという印象を与えないことが重要であり、長期的に信頼でき、予測可能なパートナーであるというロシアの評価を維持し続ける必要がある」

ロシア国内では、ロシアの外交政策に対する建設的な批判が公に示されることは極めて珍しい。特にトロラヤ氏のような、その分野を代表する専門家の場合はなおさらだ。

そのため、この分析の行間を読むならば、トロラヤ氏は、プーチン大統領の択捉島訪問が長期的かつ重大な戦略的影響をもたらすと考え、その訪問を残念に思っている、と解釈することもできる。ただし、トロラヤ氏の業績に敬意を表しつつも、彼の分析では一つの可能性が十分に考慮されていない。

それは、プーチン大統領自身が、こうした一連の動きはいずれにせよ避けられないと考えている可能性である。米国がアジアで進めている計画を考えれば、そのような判断にも一定の合理性がある。

その米国の計画は、簡単に言えば、NATOに似た軍事ネットワークをアジアに構築することだと説明できる。この記事では、それを「AUKUS+」と呼んでいる。詳しくは原文でリンクされている別の記事で説明されている。

【黒薮注】AUKUS+:「AUKUS+」とは、米英豪3カ国の安全保障枠組みとして、それを日本、韓国、カナダ、ニュージーランドなど他の同盟・友好国との協力へ広げていく構想。インド太平洋における、より広い軍事・技術協力ネットワークの構想。日本政府にとって、憲法9条がこの構想の障害になっている可能性が高い。

また、この構想は、米国のエルブリッジ・コルビー国防次官(政策担当)が、プーチン大統領の訪問に先立つ8月初めに語った内容ともつながっている。したがって、プーチン大統領がロシア極東への訪問予定の一環として択捉島を訪れたのは、

「米国がアジアで何を計画しているのか、ロシア側は把握している。そして、それに先手を打って対応する」

というメッセージを送るためだった可能性もある。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月7日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/russias-top-expert-on-asia-constructively?utm_campaign=post&utm_medium=web

ライプツィヒ事件には「偽旗作戦」の特徴がそろっている

アンドリュー・コリブコ

ドイツ・ライプツィヒで、ウクライナの貨物機付近から爆発物を積んだドローンなどが相次いで発見され、ドイツ側はロシアの関与を指摘した。しかしプーチン大統領はこれを「偽旗作戦」だと反論している。本稿では、事件をめぐる不自然な点や過去の類似事例、ドイツの急速な再軍備という背景を踏まえ、この事件が戦時体制への移行や今後の対ロシア政策のエスカレーションを正当化するために利用されている可能性を考察する。

※   ※   ※   ※

この事件は、ドイツ経済を戦時体制へ移行させることを正当化し、それによって生じる問題から国民の目をそらし、さらに将来ロシアに対して大規模なエスカレーション(対立の激化)に踏み切ることを正当化するために行われたものだ、というのが私の見方である。

ドイツは、先月ライプツィヒで起きた事件についてロシアを非難した。この事件では、爆発物を積んだドローン1機が、ウクライナの貨物機の近くにある滑走路上で発見された。また別のドローンは、着陸しようとしていた別の貨物機に衝突したものの、爆発しなかったと報じられている。さらにその後、3機目のドローンが空港施設の近くで発見された。

プーチンは、ロシアの仕業だとするドイツ側の主張を非難した。そして、証拠が意図的に仕込まれていることから、自分はこれを「偽旗作戦」だと考えていると述べた。また、その目的について、ロシアへの恐怖をあおることでドイツ国内の問題から国民の目をそらすことではないかと推測した。

こうした見方に懐疑的な人は、ばかばかしいと思うかもしれない。しかし私が見る限り、ライプツィヒ事件には偽旗作戦を疑わせる特徴がそろっている。

まず、ドイツ側の説明に従えば、ロシアはまるで漫画に出てくるような、とんでもない失態を犯したことになる。世界でも屈指の技術を持つとされるロシアのドローン操縦部隊が、もし本当にNATOに対する史上最も衝撃的な「ハイブリッド戦争」の攻撃を命じられていたのだとすれば、ドローン1機を滑走路に放置し、もう1機は着陸中の貨物機に衝突したのに運悪く爆発せず、さらに別の1機まで近くに残していったことになる。これは信じがたい話である。

【黒薮注】ハイブリッド戦争:ハイブリッド戦争(Hybrid Warfare)とは、通常の軍事攻撃だけでなく、サイバー攻撃、情報操作、経済的圧力、破壊工作など、さまざまな手段を組み合わせて相手国を弱体化させる戦い方のこと。

プーチンの「偽旗作戦」説を支持する2つ目の理由として挙げたいのが、昨年秋に起きた似たような出来事だ。当時、正体不明のドローンによって、スカンジナビアの主要空港が一時的に全便の運航を停止する事態となった。

ゼレンスキーは、予想どおりロシアを非難し、ロシア船舶に対してデンマーク海峡を封鎖するよう求めた。ライプツィヒ事件と同じく、その主張を裏付ける証拠は公表されなかった。しかし私は、この出来事によって、ヨーロッパで正体不明のドローン事件が起きた際にロシアの責任だとし、それを根拠に対ロシア政策をさらにエスカレートさせる、という前例が作られたと考えている。

そして3つ目の点として、ゼレンスキーが当時提案した対ロシア措置は結局実現しなかったものの(おそらくNATOとロシアの直接戦争を避けるためだったのだろう)、今回のライプツィヒ事件をきっかけに、何らかのエスカレーションが起こる可能性がある。

私は8月下旬の記事で、ロシアとの対立を大幅に激化させた場合、ロシア側よりもNATO側のほうが得るものが多いだろうと論じた。その具体的な形として考えられるのが、この夏に失敗した対ロシア・ドローン攻撃を大規模かつ長期的に再開し、ロシアの「脱工業化」と「非軍事化」を狙うというものだ。これが来年試みられる可能性もある。

ここで忘れてはならないのは、現在ドイツが、アメリカに次いでウクライナにとって2番目に重要な軍事支援国となっていることだ。ドイツは今年春、ウクライナの長距離攻撃能力を発展させることで合意している。

またドイツは急速に再軍備を進めており、その経済も戦時体制へと移行しつつある。その背景には、2030年ごろにロシアとの戦争が起こる可能性があるというEUの予測を踏まえ、それまでにヨーロッパ最大の陸軍を持つというドイツの目標がある。

しかし、こうした政策は有権者の間で不人気となっている。そのため私は、ライプツィヒ事件を利用して、この政策を正当化する必要があるのだと考えている。

ここまで述べてきたプーチンの「偽旗作戦」説に関する私の見方をまとめると、次のようになる。

昨年秋、スカンジナビアで「ロシアのドローン」に対する恐怖が広がったことで、その後ヨーロッパで同様の事件が起きた際、証拠がなくてもロシア政府の責任だと非難するための下地が作られた。そして今回、ドイツはライプツィヒ事件について実際にそれを行った、というわけだ。

一方で、ロシアのドローン操縦部隊がこれほど無能だったという説明は信じがたい。それにもかかわらず、その説明が広められているのは、ドイツ経済の戦時体制への移行を正当化し、それに伴って生じる国内問題から人々の目をそらし、さらに将来ロシアに対して大規模なエスカレーションを行うことを正当化するためだ、というのが私の見方である。

先ほど述べたように、そのエスカレーションとは、この夏に失敗した対ロシア・ドローン攻撃を大規模かつ長期的に再開し、ロシアの「脱工業化」と「非軍事化」を狙うという形になる可能性がある。

しかし、それを実行すれば、改定されたロシアの核ドクトリンに照らして、ロシアが核兵器使用を検討する一線、いわゆる「核の敷居」を越えてしまう危険性がある。

少なくともプーチンは、ウクライナに対して再び限定的な形で「事態を沈静化させるために、あえてエスカレートさせる(escalate to de-escalate)」という対応を取るだろう。しかし、そこから事態が制御不能に陥る可能性も常に存在する。

したがって私は、最終的にスカンジナビア諸国がそうしたように、ドイツも対立をさらに激化させることは避けるべきだと考えている。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月3日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source: https://korybko.substack.com/p/the-leipzig-incident-has-all-the

シコルスキ氏の「欧州軍団」構想は、ポーランドがウクライナに「平和維持部隊」を派遣するための手段なのか

アンドリュー・コリブコ

アジア版NATO構想と並行して、欧州では「欧州軍団」構想がある。これは、NATOに代わる新たな軍事同盟をつくるものではなく、欧州が自らの防衛をより多く担うことで、NATOの「欧州の柱」を強化しようとする動きと位置づけられる。執筆者のコリブコは、この枠組みが将来的にポーランド軍のウクライナ派遣に利用される可能性を指摘する。

ポーランドのラデク・シコルスキ外相

※   ※   ※   ※

保守派のカロル・ナヴロツキ大統領は、ポーランド軍の最高司令官であり、軍をめぐる大きな権限を持つ。ところが、与党のリベラル連立政権が「欧州軍団」の枠組みを使って一部のポーランド軍の部隊をEUの指揮下に移した場合、話は別だ。そうなれば、その部隊のウクライナ派遣をナヴロツキ大統領が阻止できるのかどうかは、はっきりしない。

ポーランドのラデク・シコルスキ外相は最近、ギリシャのメディアとのインタビューで「欧州軍団(European Legion)」の創設を提唱した。シコルスキ氏は次のように述べている。

「私は『欧州軍団』の創設を強く支持している。これは常設の専門部隊であり、より広い欧州の枠組みから経験豊富な職業軍人を募ることができる。戦争終結後には、実戦経験を積んだウクライナの退役軍人もその対象になり得る。要するに、欧州は自らの安全保障に自ら責任を持たなければならないということだ」

さらに、こう付け加えた。

「われわれの裏庭で火事が起きるたびに、ワシントンに電話をかけるわけにはいかない。それが通常の軍事的脅威であれ、モスクワがアフリカや中東からの移民流入をEUに対する武器として利用する事態であれ、同じことだ。ただし、ここは明確にしておきたい。これはNATOに代わる別の組織をつくったり、既存の仕組みを二重化したりする話ではない。必要なのは、より強力なNATOの中に、より強力な『欧州の柱』を築くことだ。われわれの利益は互いに補完し合うものであって、相反するものではない」

この発言に驚いた向きもあった。というのも、シコルスキ氏は1年半前、ゼレンスキー大統領が提唱した「欧州軍(Army of Europe)」構想を退けていたからだ。当時、ポーランド外交のトップである同氏はこう述べていた。

「この言葉の使い方には慎重であるべきだと思う。人によって意味するところが違うからだ。もしそれが各国軍を一つに統合するという意味なら、そのようなことは起こらない」

ここに両構想の最大の違いがある。「欧州軍」は各国軍を統合する構想であり、現実味に乏しい。一方、「欧州軍団」は志願制の部隊として想定されている。

後者についてもう少し詳しく見てみると、シコルスキ氏が念頭に置いているのは、EU加盟国とウクライナの兵士から構成される即応部隊で、何らかのEU機関の指揮下に置かれるものとみられる。その目的は、危機が発生した際に迅速に対応することにある。そして、紛争地域に各国の兵士が実際に配置されることで、NATO全体、あるいはEU内の「有志連合」をその紛争に関与させる「トリップワイヤー(引き金)」として機能することになると考えられる。

シコルスキ氏がこの構想を打ち出したのは、英国、フランス、ドイツの3カ国――いわゆる「E3」であり、先行きが不透明とも報じられている「有志連合」の中心国――が、停戦成立後にウクライナへ部隊を派遣する計画を確認してから2カ月後のことだ。

一方、シコルスキ氏が属するリベラル連立政権と激しく対立している保守派のカロル・ナヴロツキ大統領は、2025年5月、大統領選挙の決選投票を前に、ポーランド軍のウクライナ派遣は認めないと書面で誓約している。

ナヴロツキ氏は軍の最高司令官ではある。しかし、リベラル派の国防相が「欧州軍団」を通じて一部のポーランド軍部隊をEUの指揮下に置いた場合、「有志連合」の計画の一環としてそれらの部隊がウクライナへ派遣されるのを、ナヴロツキ氏が阻止できるのかどうかは不透明だ。

ここ数カ月、ポーランド国内ではウクライナに対する世論が悪化している。ゼレンスキー大統領が、ヴォルィーニ虐殺に関与したOUN-UPA(ウクライナ民族主義者組織・ウクライナ蜂起軍)の関係者を称揚したことがその背景にある。そのため、与党リベラル派がこのような措置に踏み切れば、2027年秋に予定される次回の下院(セイム)選挙を前に、再選への望みを損なう可能性がある。

【黒薮注】ヴォルィーニ虐殺(Volhynia massacres):第二次世界大戦中の1943~1944年ごろ、現在のウクライナ西部を中心に、ポーランド系住民が大規模に殺害された事件を指す。中心的な実行主体とされるのが、ウクライナ民族主義者組織(OUN)の一派と、その武装組織であるウクライナ蜂起軍(UPA)。彼らは、将来の独立ウクライナ国家の領域からポーランド系住民を排除することなどを目的として、ヴォルィーニ(ヴォルヒニア)地方や東ガリツィアでポーランド人の村々を襲撃した。数万人規模のポーランド人民間人が殺害された。

それでも、「最近締結されたポーランド・ドイツ防衛協定は、ワルシャワの利益よりもベルリンの利益を優先していることに疑いの余地はない」とされている。また、ドナルド・トゥスク首相はドイツと非常に緊密な関係にあり、保守派野党の「影の実力者」からかつて「ドイツの工作員」と非難されたことさえある。

したがって、もしドイツが「欧州軍団」を通じたポーランド軍のウクライナ派遣を要求した場合、トゥスク首相が来年、政権維持を危うくするリスクを冒してでもそれに応じる可能性は排除できない。

ただし、そのような軍事派遣をロシアが容認するかどうかは、また別の問題である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月26日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/is-sikorskis-european-legion-proposal?utm_campaign=post&utm_medium=web

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/

駐ロシア中国大使、日本に不穏な警告を発する

アンドリュー・コリブコ

中国とロシアが、日本の急速な軍事大国化への警戒を強めている。駐ロシア中国大使は、日本の「再軍備」が地域の平和を脅かしていると主張し、ロシア側も同様の懸念を示している。筆者は、日米同盟を背景に日本と中露の対立が軍事衝突へ発展すれば、北東アジアが第三次世界大戦の発火点になりかねないと警告する。

※   ※   ※   ※

もし「日本問題」(ほかに適切な呼び方がないので、こう呼ぶことにする)が近いうちに平和的に解決されなければ、北東アジアで第三次世界大戦が勃発する危険性は急激に高まるだろう。

駐ロシア中国大使の張漢暉(ジャン・ハンフイ)は、東京裁判(極東国際軍事裁判)から80年を迎えるのに合わせ、ロシア国営通信社TASSに時宜を得た論考を寄稿した。東京裁判は、いわば日本版のニュルンベルク裁判だが、西側諸国ではそのことを知らない人も多い。

張大使はまず、日本がカイロ宣言、ポツダム宣言、そして日本の降伏文書に反する形で再軍備を進めているとして、いくつかの事実を挙げた。その例として、各種ミサイルや海軍力の強化、武器輸出、そして日本の「2026年版防衛白書」を取り上げている。

これに関連して張大使は、次のように書いている。

「東京はまた、NATOの関連する軍事的枠組みへの参加を積極的に模索し、北大西洋同盟への統合を加速させている」

【黒薮注】北大西洋同盟:NATOの別称で、同じ意味。

さらに、

「日本は自国による植民地支配・征服を正当化し、台湾が中国に返還されたことの正当性を否定している」

とも指摘した。

中国にとっておそらく最も懸念されるのは、歴史的な宿敵であり、筆者の見方で、3500万人の中国人に対する「ジェノサイド」の責任がある日本が、核兵器保有の可能性をちらつかせていることだろう。そして、ひとたび政治的な決断が下されれば、日本には核兵器を大量生産する能力がある、というのである。

日本の急速な再軍備と核兵器をめぐる議論によって、地域的な脅威が再び高まっているとして、張大使は最後に次のように述べた。

「中国とロシアは、歴史的正義と国際法秩序を守ることに尽力する他の国々とともに、第二次世界大戦の歴史に対する正しい認識を断固として守り、日本軍国主義を復活させようとするいかなる試みも断固として抑え、苦難の末に勝ち取った平和を守り、より公正で合理的な国際秩序の形成を促進する用意がある」

この不吉ともいえる警告は、真剣に受け止めるべきだろう。なぜなら、これはロシア側の日本に対する評価とも一致しているからだ。

プーチン大統領の側近であるニコライ・パトルシェフは約1年前、ロシア国内メディアのインタビューで、要するに「日本はアジアにおけるアメリカの戦略を推進するうえで、これまで以上に大きな役割を担うようになる」と主張した。

その後、年末近くには、新首相の高市早苗が台湾有事における日本の軍事的関与について物議を醸す発言をしたことを受け、「日本は予想より早く中国に挑戦するかもしれない」との見方も示された。

先月末には、「ロシアの高官級外交官が、日本がロシアに及ぼす脅威の増大について言及した」。そして8月半ば、プーチン大統領がロシア極東を訪問した際には、「悪化する日露関係についてプーチンが嘆いた」とされている。

プーチン大統領とロシア太平洋艦隊司令官は、「AUKUS+」という言葉そのものは使わなかったものの、実質的には、日本がその中心的な役割を担おうとしていると指摘した。「AUKUS+」とはここでは、中国を封じ込めるためにアメリカが構築しつつある、NATOに似た軍事ネットワークを指している。

【黒薮注】AUKUS+:米・英・豪の3か国が、潜水艦や最先端軍事技術を共同で開発・運用し、軍事的な連携を深める枠組み。

したがって、日本の急速な再軍備と核兵器をめぐる議論は、ロシアにとっても深刻な脅威だということになる。

筆者によれば、この脅威を事前に取り除く方法は二つある。一つは、アメリカが「AUKUS+」を抜本的に再編し、その中で日本が中心的な役割を担わないようにすることだ。もう一つは、ロシアと中国が軍事力によって先制的に日本の脅威を無力化することである。

筆者はさらに、日本が国連憲章上の「敵国」とされていることを根拠として、ロシアと中国にはそのような行動を取る国際法上の権利があると主張する。しかし、その場合、日米の相互防衛体制を理由にアメリカが報復をちらつかせる可能性があり、結果として第三次世界大戦につながる危険が生じる。

かつて北東アジアで地域的な危機を引き起こす主な原因とみなされていたのは、北朝鮮の核兵器開発と核実験だった。しかし現在では、日本が再軍備と核兵器保有をめぐる議論によって、その役割に取って代わった、と筆者は考えている。

かつては北朝鮮の核開発が北東アジアの主要な火種だったが、いまや日本の軍備増強のほうが、中国とロシアという二つの核大国を同時に刺激する点で、より危険な火種になっている。そして、その中国とロシアに共通するライバルであるアメリカは、日本と相互防衛関係にある。

したがって、もし「日本問題」(ほかに適切な呼び方がないので、こう呼ぶ)が近いうちに平和的に解決されなければ、北東アジアで第三次世界大戦が勃発する危険性は急激に高まるだろう。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月21日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/the-chinese-ambassador-to-russia

現実的に修正した「1956年妥協案」なら、北方領土問題を早期に解決できる可能性がある

アンドリュー・コリブコ

ロシアと日本の間で長年の懸案となっている北方領土問題。本稿は、1956年の日ソ共同宣言を土台に、歯舞群島と色丹島の日本への引き渡しと引き換えに、国後・択捉への領有権主張を取り下げる「修正版妥協案」を提唱する。さらにロシア極東の資源開発や日露経済協力を組み合わせることで、両国の対中・対米依存をそれぞれ抑え、地域の安定と日本経済の再活性化につなげられると論じている。

※   ※   ※   ※

この記事で提案する、1956年の妥協案を現実に即して修正した案は、ロシアと日本双方の利益にかなうものであり、おそらく米国の利益にもなる。ただし実現には、まずロシア側が非公式にこの案を持ちかけ、最初の一歩を踏み出す必要がある。

プーチン大統領が択捉島を訪れ、さらにクリル諸島(千島列島)を初めて訪問したことに対し、日本の高市早苗首相は強く非難した。日本は択捉島をはじめとする複数の島々を、現在も「北方領土」として自国領だと主張しているからだ。

ロシアが実効支配し、日本が領有権を主張している地域には、このほか国後島、色丹島、そして無人の歯舞群島がある。背景を説明すると、ヤルタ協定では千島列島をソ連に引き渡すことになっていた。しかし日本側は、その解釈について法的な問題を提起してきた。

日本の立場では、先に挙げた島々は、そもそも法的な意味で「千島列島」に含まれていなかったとされる。一方、1949年の米国務省の覚書では、水産資源の豊富な色丹島と歯舞群島についてのみ、ヤルタ協定上の法的地位に議論の余地があるとの見解が示されていた。

その後、日ソ間の国交を回復した1956年の日ソ共同宣言では、妥協案が盛り込まれた。日本とソ連が平和条約を締結した後、ソ連が色丹島と歯舞群島を日本に引き渡すという内容である。

この妥協が実現しなかった理由を詳しく論じることは本稿の範囲を超えるが、ロシア側では、米国が日本に影響を及ぼしたことが原因だったのではないかと疑う人が少なくない。結果として妥協案は頓挫し、領土問題は今日まで続いている。現在、日本は先ほどの4地域すべてについて領有権を主張している。

プーチン大統領はこれまで、1956年の妥協案を復活させるために、かなりの時間と労力を費やしてきた。その狙いは、日本からロシアへの投資を増やし、日本のエネルギー市場をロシア産資源にさらに開放するとともに、ロシアが中国に過度に依存する事態を未然に防ぐことにあった。

こうした結果は、客観的に見れば日本の国益にもかなう。しかし領土問題は、日本の有権者の一部にとって非常に感情的な問題である。そのため、プーチン大統領が親しい友人とみなし、この問題について何度も話し合った故・安倍晋三首相の時代でさえ、解決には至らなかった。

プーチン大統領は択捉島を訪れる直前、ロシア極東を視察した際に、日露関係が悪化していることへの不満を表明した。筆者の見方では、今回の択捉島訪問は、日露関係悪化の責任は東京側にあると考えるモスクワが、その流れに対して示した意思表示でもある。

先に紹介した別の記事では、ロシアがなぜ日本を自国の安全保障に対する脅威として以前より警戒するようになっているのか、また米国が新たな地域安全保障体制の中で日本にどのような役割を期待しているのかについて、それぞれ別の分析を紹介している。

ここでそれらに触れる目的は、日露関係がさらに悪化した場合の軍事・戦略上のリスクを強調するためである。そして、そうしたリスクを考えれば、日本にとってはロシアとの妥協を目指す方が望ましいという点に注意を向けるためでもある。

何よりも優先されるべきなのは、平和と安定である。東京がモスクワとの間で1956年の妥協案に立ち返れば、それを土台として、日本は経済面でも地政学面でも利益を得られる可能性がある。

その場合、日本が対ロシア制裁を直ちにすべて解除しなくてもよい。まずは、分野と地域を限定する形で段階的に制裁を緩和する方法が考えられる。

そのモデルになり得るのが、約10年前に提案された「北方諸島社会経済共同体(Northern Islands Socio-Economic Condominium=NISEC)」構想である。これはサハリン、千島列島、北海道を経済的に結びつけようという考え方だ。

この構想では、この3地域をより大規模な経済統合プロジェクトの中心とする。そして将来的には、天然資源の豊富なロシア極東全体へと対象を拡大し、日本がそのエネルギー資源や鉱物資源に優先的にアクセスできるようにする。

適切な投資戦略を採れば、日本は不安定な西アジア(中東)からのエネルギー輸入や、政治的なリスクを伴う中国のレアアース加工への依存を減らし、地理的に近いロシアを代替供給源として活用できるというわけだ。地政学的な面でも、ロシアが中国への過度な依存を未然に防ぐことは、日本にとって利益となる。

さらに、日本とインドの関係が緊密であることも重要である。インドはすでに「東方海上回廊(Eastern Maritime Corridor)」を通じてロシア極東への進出を進めている。そのため、日本とインドが共同で、ロシア極東における資源開発や資源加工に大規模な投資を行うことも可能だろう。

ロシア極東には豊富な水力発電資源があり、その結果としてエネルギーコストも安い。このことは、こうした日印共同投資をさらに魅力的なものにする。ここで提案している「修正版1956年妥協案」を改めて整理すると、次のような内容になる。

日本は色丹島と歯舞群島を受け取る。その代わりに、国後島と択捉島に対する領有権の主張を取り下げる。さらに、この交換条件を日本にとってより魅力的なものにするため、「北方諸島社会経済共同体(NISEC)」を創設するとともに、日本にロシア極東の天然資源への優先的なアクセスを認める。

この計画は、おそらく段階的に実施されることになるだろう。全面的に実現すれば、ロシアが中国に過度に依存する事態を未然に防ぐ一方、日本も米国への依存を減らすことができる。その結果、ロシアと日本の双方が、自国の主権と戦略的自立性を強めることになる。

さらに、日本が西アジア(中東)から輸入するエネルギーへの依存を減らせば、仮に南シナ海で紛争が起きたとしても、日本経済がその影響によって深刻な打撃を受けるリスクを小さくできる。同時に、ロシアの「北極海航路(Northern Sea Route)」を利用することで、EUとの貿易もより効率化できる可能性がある。

日本海のすぐ向こう側にあるロシアから、低価格のエネルギーや鉱物資源が大量に日本へ入ってくるようになれば、日本経済は長らく待ち望まれてきた「復興」あるいは「再生」を遂げるかもしれない。それによって、新たに形成されつつある世界経済秩序の中で、日本の競争力も高まる可能性がある。

高市首相自身は、国後島と択捉島に対する日本の領有権主張には十分な正当性があると心から考えているのかもしれない。また、一部の有権者からの国内政治上の圧力に加え、米国から表立たない形で国際的な圧力を受けている可能性もある。

それでも筆者は、高市首相は本稿で提示した妥協案を大胆に検討すべきだと考える。なぜなら、ロシアが中国への過度な依存を未然に防ぐことは、米国の利益にもかなうからである。したがって、トランプ大統領と新たに良好な関係を築いた高市首相が十分に説得力のある説明をすれば、トランプ大統領をこの構想に賛同させることも可能かもしれない。

高市首相の判断には、大きく3つの要因が影響していると考えられる。すなわち、北方領土問題についての高市首相自身の考え、国内からの政治的圧力、そして米国からの非公式な圧力である。こうした事情を考えれば、この提案を実現するためには、まずロシア側が最初の一歩を踏み出す必要があるかもしれない。具体的には、外交ルートや専門家同士の交流、あるいはその両方を通じて、ロシアがこの構想を非公式に日本側へ打診するという方法である。

そうすれば、まず日本政府内でこの案への認知が広がり、次に専門家の間、そして最終的には日本社会全体へと議論が広がっていく可能性がある。その結果、高市首相にかかる国内政治上の圧力が弱まるかもしれない。そうなれば、高市首相もこの構想についてトランプ大統領と話し合うことに、より積極的になれる可能性がある。

また、ロシアが外交ルートや専門家ルートを通じて非公式にこの案を日本側へ提示すれば、日本側の外交官や専門家を通じて、米国の外交官や専門家にもこの構想が伝わる可能性がある。以上を踏まえれば、ロシアが先に動くことには十分な意味がある。

そうなれば、プーチン大統領による今回の史上初の千島列島訪問についても、別の見方が可能になるかもしれない。つまり今回の訪問を、プーチン大統領が新たに用いるようになった「緊張を緩和するため、あえて先に緊張を高める(escalate to de-escalate)」という手法の3例目として捉え直すことができる、ということである。

今回の場合、日本側から見れば、プーチン大統領の訪問はまず「政治的なエスカレーション(緊張の激化)」に当たる。しかし、その後ロシアが現実的な緊張緩和案を提示するのであれば、最初に圧力を高め、その後に妥協案を提示して緊張を下げるという一連の戦略だった、と解釈することも可能になる。クレムリンは、この可能性について検討してみるべきだろう。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月18日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/a-pragmatically-amended-1956-compromise