もはや実売部数で『ハリー・ポッター』や『ダ・ヴィンチ・コード』を超えた史上最速のベストセラー小説『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(ハヤカワ文庫刊)の映画が日本でも公開され、スマッシュヒットとなっている。ちまたの映画館は「官能的世界を味わいたい」男女であふれている。この「グレート・コンテンツ」である『フィフティー』に意外な「被害者」がいるという。

◆『エロければよし』で「ドル箱」狙いの果てに負債を抱える出版社

「E・L・ジェームズが書いたこの作品は、大学教授と若い女が一風変わった恋愛とセックスをくり広げる、R18指定の映画となりました。この『フィフティー』は、原作本が世界で8000万部以上も売り上げている『モンスター・コンテンツ』です。実は、この小説がリリースされて日本でもじわじわ売れ出し時期、こぞって出版エージェンシーや出版社、編集プロダクションらが『とにかく女性官能家を探せ』と目が血走るがごとくコンテンツをかき集めて、こぞって電子書籍を立ち上げたのです。ちょうど、『女性向け官能小説』が注目を集めていたころで、新潮社が「女による女のためのR-18文学賞」で注目作家を生んでいたり、(ただし後に方向転換して官能小説ではなく女性向けの一般小説へとリニューアル)、松文館の女性向け官能漫画がブレイクしたりと、『女性向け官能コンテンツ』がドル箱と化した時期で、仮に高校生であっても、文章がめちゃくちゃでも『エロければよし』として「女性向け官能小説」の電子書籍を立ち上げ、すぐにあきやすい日本の読者の関心が『彼氏を作るゲーム』に移行すると、女性向け官能小説はうまくいかずに今、コンテンツビジネスを始めた多くの会社が負債を生んでいるケースが目立ちます」(出版エージェンシー社員)

一時期、判を押したように「第2の『フィフティー』を目指せ」と女性向け官能小説家をかき集めて大金を原稿につぎこんだところ、今になって大損している会社が多いという。

女性向け官能小説コンテンツに1000万円以上つぎこんだ編集プロダクションの幹部は言う。

「今から思えば、女性向け官能小説なら、なんでもいいってものじゃない。『フィフティー』は、ミステリー作品としても、文学としても一級であり、原作に忠実な映画は今もなお観客を集めています。 日本でもアメリカでも観客の特徴としては、『本で読んだが、映画でも見てみたい』という感想が多いことです」(映画ライター)

映画スタジオの推計に基づく2月20日─22日の北米映画興行収入ランキングは、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」が2320万ドル(約27億6000万円)で2週連続首位を飾った。日本の興業統計は出ていないが、観客の出足は好調のようだ。

「出版社に乗せられて、官能小説を書いた女流作家や、そうした作家を紹介したコーディネーターらのうち『失敗組』は、苦々しく見ているでしょうね」(出版関係者)

まさに官能小説ブームの被害も「フィフティ・シェイズ」(50通り)のようだ。

◆問題は電子書籍編集のクオリティライン

おそらく紙の本の10分の1、もしくはそれ以下の予算で作れるので、猫もしゃくしも電子書籍化しようとするので「電子書籍は、クオリティラインがかなり下がっている」と僕は見ている。一度だけ電子書籍を書いたが、うるさく編集者が赤字を入れてくるかと思いきや、それもなく、ほぼ書いたままの状態で販売された。

僕についてくれたベテランの編集者は長いつきあいだったが、「初稿を出さないのですか?」と聞くと、「おいおい、これは電子書籍ですよ」と言い返してきた。

「電子書籍ですよ、とはどういう意味ですか」と問い返すと「そこまで経費をかけらないという意味だよ」という冷めた答えがきた。その声には「当たり前だろう」というトーンが含まれている。

紙の本を作るときには「ここがわからないから書き直せ」「構成を変えろ」「取材が甘い」と厳しい癖に、電子書籍となるとこうも甘くなるのはなぜか。古いつきあいのビジネス書ライターに聞くと「しかたないですよ、電子書籍は、別に小学生でも理論的には出せますから、市場は粗製濫造という印象があります。そこまでパワーをかけてられない」と言ってのける。このライターとて紙の本となると、執拗に赤字を入れるくせに、電子書籍は、ほぼ書いたまま世の中に出すから嘆かわしい。

僕はこれまで、一度だけ電子書籍である中堅作家の小説を買ったが、その改行はきわめて機械的で、内容と関係なく、7行ごとに改行してあった。よく作家が文句を言わないなあ、と驚いた。これは、「編集」と文化の否定であり、冒涜だ。「人の考えはあとで変わる」ということを前提にすれば、今の考えで言えば、電子書籍など僕は糞くらえだ。こんなものが市場でまわっているうちは、おそらく出版水準は永遠に上がらないであろう。(伊東北斗)

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