全てのプロスポーツの中でもっとも稼ぎの大きいメガファイトが実現する。

5月2日、プロボクシングのドリームマッチ、フロイド・メイウェザー(米国)対マニー・パッキャオ(フィリピン)がラスベガスで行われる。試合は両者が持つ合計3つのベルトが賭けられるWBA、WBC、WBO世界ウェルター級王座統一戦だ。発表記者会見は3月11日、ロサンゼルスで行なわれた。約700人のメディアが集まり、スポーツ専門局のESPNが生中継。47戦無敗の5階級制覇メイウェザーと、激闘が人気の6階級制覇パッキャオの試合は5年以上も前からファンの求めるドリームカードだった。

しかし、全米でスポーツ高額所得の上位にランクされる2人の対戦は、ギャラや条件の主張が行き違い、なかなか実現しないままだった。

「プロレスの猪木と馬場じゃないですが、このまま試合は実現しないままというのが大半の見方で、今年になって開催に動き出しても、多くの関係者が『どうせまた噂だろう』と疑心暗鬼だったほど」

そう語るのはボクシングの人気ブログ「拳論!」の執筆者で格闘技ジャーナリストでもある片岡亮氏。なぜそれが今になって実現したのか聞いてみた。

◆ボクシングのスーパーマッチ実現の条件はテレビ局とプロモーターの合意

「ボクシングのスーパーマッチはすべてに共通することですが、金と放送局が揃うのが条件でした。テレビ局とプロモーターが合意の上で選手サイドにどれだけ良い条件を示せるか。大きな金額を示せても、両選手が取り分を争って決着がつかないこともあります。今回は本人たちの意向を除くと、一番のネックがテレビ局で、両選手が2大ケーブル局『HBO』と『ショータイム』にそれぞれ契約があることでした。でも、それが同時放映という異例の決着になったんです。日本でいえばTBSとフジテレビが同じタイトルマッチを同時に中継するようなものです」(片岡氏)

ただ、この試合の実現が遅すぎたのではないかという声もある。

「本来は5年前に実現すべき話だったもの。パッキャオは最近、実力に陰りが見えてKO負けの失態もありました。メイウェザーも過去の高額ファイトマネーを更新するような魅力的相手が見当たらない状況で、試合内容も無難に逃げ切るようなものが目立ちます。期待感が薄れかけていて、互いにこのビッグファイトを高い価値で実現させるなら賞味期限切れギリギリの現在だったということでしょう」(同)

ボクシングファンにとっては待ちに待った一戦ではあるが、待ち焦がれただけに時期が遅かった感は拭えないわけだ。それでも世界最高峰の実力を持つ両者、どちらが勝つのかという議論は世界中で巻き起こっている。

片岡氏は「驚異のスピードとディフェンステクニックで相手にパンチを当てさせないメイウェザーを、アグレッシブなパッキャオが追う展開が予想される」と分析する。

「早くも海外の賭けサイトではオッズが出て、1.3-3.5でメイウェザー優勢となっています。これはメイウェザーが安全運転に徹するなら崩すのは容易ではないという見方でしょう。でも、本当にそのとおりになると試合内容に見せ場の少ない期待外れの内容で世紀の凡戦だとブーイングが集まる可能性もあります」(片岡氏)

◆収益は総額500億円以上──ボクシング史上最高セールスになるのは確実

この試合はボクシング史上最高のセールスを記録するともいわれている。テレビ中継の有料放送契約は、過去メイウェザーがオスカー・デラホーヤと対戦した240万件が最高だが「今回はそれを軽く上回るという予測がある」と片岡氏。

「約1万6千席が用意された観戦チケットは定価こそあるものの、大半は一般人の手に渡らずプレミアがついて最後列でも日本円で45万円というプラチナペーパー化。総額500億円以上の収益が見込まれています。両者のファイトマネーは総額250億円と伝えられるので、おおよそ半分を持っていく形になりますね。うちメイウェザーが6割を得ることで合意。両雄はボクシング界で最も稼ぐトップ2選手で、昨年のアスリート長者番付は1位がメイウェザーの1億500万ドル(約124億円)。これは2位のクリスティアーノ・ロナウド(サッカー)の8千万ドル(約94億円)を大きく上回り、パッキャオは11位で約4千万ドル(約47億円)でしたが当然、今年は2人が上位独占するでしょう。このビジネスが成功すれば、しばらくは業界全体が活気づく副産物も期待されます」

マイク・タイソン以来の盛り上がりを見せるだけに、たしかに45万円でチケットが返ると言われたら、思わず支払ってしまいそうだ。ただ、これだけのタイトルマッチを日本国内では地上波放送する動きは全くない。

このあたりテレビ関係者に聞くと「それはそうですよ。ただでさえボクシングは数字がとれないので、外国人同士ではなお期待はできない」という答えが返ってきた。

◆グローバルな視点が欠けすぎている日本のボクシング・カルチャー

プロボクシングは最近、大晦日の中継が恒例になるなど盛り上がっているように見えるのだが「あれは紅白に対抗するのに最低限の一定数が見込めるコンテンツとして重宝されているもので、15%以上を期待するものではない」という。

昨年末のボクシング中継は12月30日、金メダリスト村田諒太を筆頭とするフジテレビの中継が7~8%台。日テレのさんま御殿やTBSの日本レコード大賞に敗北した。かろうじてテレ東の海外旅番組を超えた程度だった。大晦日もTBSがバラエティ番組の枠内で放送も3~9%台で2ケタに届かず。喜んだのは5.6%でも過去最高というテレ東のみだ。

「ボクシングは試合が思惑通りに終わってくれないし、世紀の一戦と打ったのに、凡戦となる試合だって山のようにあってギャンブル性が高い」とテレビ関係者。

海外では「世紀の一戦」でも国内ではマイナースポーツ扱いのまま。一方で自国選手の試合なら、対戦相手に弱い相手を連れてきてもゴールデンタイムで流すのが日本。グローバルな視点がないことから「本物」のボクシングが日本の視聴者に届けられることはないのか。

(鈴木雅久)

◎《格闘技“裏”通信01》意外にもギャル層が激増、キックボクシング大会
◎アギーレ解任前から密かに後任候補を探していた日本サッカー協会の本末転倒
◎《脱法芸能》宮根誠司──バーニングはなぜミヤネ独立を支援したのか?