ついに文科省が大学へ最終恫喝を始めた。2014年8月、文科省から全国の国立大学へ、「教員養成系、人文社会科学系学部の廃止や転換」が「通達」されていた。これは13 年6月に閣議決定された「国立大学改革プラン」(PDF)を受けたものだ。

「人文社会科学系学部」の廃止とはつまるところ「考える学問を止めろ」と言っているに等しい。学問に冠される名称は今日やや過剰なほど細分化、多彩化しているけれども、太古の昔に立ち戻ればすべての学問は後に「哲学」と名付けられる研究を出自にしている。それが「文学」、「芸術」、「天文」、「数学」と発展してゆき、概ね「人文科学」、「社会科学」、「自然科学」との分類が行われるようになった。

文科省の言う「人文社会科学系学部廃止」は自然科学と一部社会科学(金儲けに直結する社会科学)を除いてその他の学問を「やめろ」と言っているに等しい。「学問殺し」と言っても過言ではないだろう。大学で学問が許されなければそこはもう大学ではない。単なる「国家の要請に応じる研究工場」だ。無茶苦茶もここまで来ると笑うしかない。

◆そのうち「カジノ学部」が設立されかねない状況

上記「『国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関する視点』について(案)」は、学問とは何かを一度も考えたことのない人間が作成したとしか考えられない、読むのも恥ずかしいほど程度の低い内容が満載されている。

「◇組織の見直しに関する視点」では堂々と、

・「ミッションの再定義」を踏まえた組織改革
・教員養成系、人文社会科学系は、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換
・法科大学院の抜本的な見直し
・柔軟かつ機動的な組織編成を可能とする組織体制の確立

と。ここまであからさまに文科省の本音が示されると、あまりのアホさ振りにかえってスッキリするくらいだ。文科省は近く経産省の傘下に入るか合併されることを望んでいるのだろう。教員養成系、人文社会科学系を廃止すればいったいどれほどの大学・学部が閉鎖されなければならないか。「社会的要請の高い分野」かどうかで大学の教育内容は左右されるものではない。間もなく「カジノ」を認める法案が成立しそうだが、「カジノ」が一大産業になれば「カジノ学部」を設立されても良いと言外にこの「通達」は語っている。また、「戦争法制」成立の暁には「有事研究学部」などを設置申請すれば喜んで補助金が山ほど出るだろう。

◆「経済的に苦しいから私学は無理だが国立ならなんとかなる」という時代の終焉

教育行政で一貫して大学(のみならずすべての学校)の「邪魔者」であった文科省=国の本性が、これで誰の目にも明らかになったという点においてのみ、この破廉恥極まりない「通達」は意味を持つかもしない。

続く「◇業務全般の見直しに関する視点」では、

(1)教育研究等の質の向上
・学生の主体的な学びを促す教育の質的転換
・社会貢献・地域貢献の一層の推進
・人材・システムのグローバル化の推進
・イノベーション創出(大学発ベンチャー支援)
・入学者選抜の改善
(2)業務運営の改善等
・ガバナンス機能の強化
・人事給与システム改革
・研究における不正行為、研究費の不正使用の防止

とあり、「大学は研究教育機関ではなく営利目的企業」に転換せよと迫っている。ことあるごとに私が批判してきた「グローバル化」はここでも金科玉条だし、「イノベーション創出(大学発ベンチャー支援)」は大学生に学問ではなく「事業を起こせ」、「企業といちゃつけ」と迫っている。そうでなくとも大学法人化以降国立大学には独自の資金獲得が脅迫され、学費だって年額60万円近くに上がってしまっているが、まだ「経営効率化・企業化」の度合いは足らないらしい。

「経済的に苦しいから私学は無理だが国立ならなんとかなる」というかつての志願者の発想はこの高額学費の前ではもう成り立たない。文教行政にことのほか冷たく、薄いこの国の予算配分はますますその傾向を強化し、「金は出さないのに口を出す」ずうずうしさだけが誰はばかることなく進行する。

「ガバナンス機能の強化」とは学長権限の強化と教授会権限の弱体化に他ならない。企業に例えるならワタミやユニクロのような「独裁社長制を導入せよ」ということだ。ブラック企業化(すでに一部ではそうなっているが)した大学では、まともに生活が出来ない給与の人が今にもまして多数現れるだろうことは企業の現状を見れば明らかだ。

「研究における不正行為、研究費の不正使用の防止」とは結構なお題目だ。是非社会や人間にとって害毒以外の何物でもない「原子力研究者」に支給された「科研費」(科学研究費助成事業、研究者の応募から選択して給付される研究費)を全額過去にさかのぼり没収し、その研究自体を取りやめさせろ。

◆大学に恫喝かけ放題の文科省こそ教育界の「災禍」である

16日には下村文部科学大臣が、国立大学の学長らを集めた会議に出席し、入学式などでの国旗や国歌の取り扱いについて、「国旗掲揚や国歌斉唱が長年の慣行により広く国民の間に定着している」などと述べたうえで、各大学で適切に判断するよう要請した。

文科省はもう「大学」をかつての「大学」と思ってはいないから、何でもかんでも恫喝をかけ放題だ。さすがに滋賀県立大学の佐和隆光学長や京都大学の山極壽一総長、琉球大学の大城肇学長はこの要請に従わない、もしくは棚上げにする旨を表明したが、これ程明らさま・解りやすい国家による教育現場への介入はない。

「改革」の名は常に錦の御旗で、それに異を唱えると「守旧派」とレッテルをはられる。でもここしばらく「改革」の名の下に行われた政策で真っ当なものが1つでもあっただろうか。年金記録が5000万件も紛失して「社会保険庁」は「日本年金機構」と看板を架け替えたが、「3年で解決する!」と言い放った紛失記録の探索作業はまだ終わっていない。それどころか「きりがないからもう止めます」と小声で言いだしたとたんに125万件以上の情報流出が起きたではないか。

行政は10年先どころか3年先の予測や責任すら取りはしない。いっそう教育界の「災禍」でしかない「文科省」こそ廃止してはどうか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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