テレビ番組、商業新聞からネットの世界まで右派が占領する番組や誌面は腐るほど増殖している。テレビ局勤務の知人は20年来の付き合いだが、数年前から政治や社会の話が通じにくくなっている。いい年をして(年をとったからか)どんどん思考が右傾化しており、最近では世間話をするのも憚られるので、私から彼に連絡を取ることはなくなった。同様の話は身近な人からもしばしば耳にする。「若いころはあんな奴じゃなかったのに。今では田母神俊雄みたいなことをブログに書いている」と評されるテレビ界の人間は少なくないようだ。

大メディアが総右旋回しているのだから、自由闊達(言い換えれば「好き放題」)の言論が飛び交うネットの中では、さらにえげつない情報発信主や番組が乱立している。

◆右派のネット動画をあえて観る「苦行」

人間は仕事上の理由や、自身の知識吸収の必要性を感じなければ、おのれと正反対の意見、いやおのれの主張が嘲笑されたり唾棄される番組を長時間視聴したり読み続けることを選択はしないのではないだろうか。情報収集のため内容をかいつまんでチェックすることぐらいはするけれども、1時間も2時間もダラダラ嘘八百を放言し続ける番組を毎回視聴し続けるのは、精神衛生によろしくない。簡単に言えば「あほらしくて」見ていられない。

私自身もネットで放送されている「右派」の番組を、これまで何度か視聴したことはある。彼らの論点がどこにあるのか。それを知っておかなければ反論ができないだろう、が視聴の理由だった。「チャンネル桜」と名乗る番組を開始から終了まで何度か観たが、視聴の間に溜まるフラストレーションといったら半端ではなかった。ただ収穫はあった。結果的に彼らの主張は番組を何度も観る必要がなかったことが分かったからだ。「論理ではなく感情で、事実はなく希望で彼らの歴史観や世界観は構成されている」ことが理解できた。よって限られた人生の貴重な時間をこれ以上「苦行」のために浪費したくはないし、するつもりもない。

と思っていたが、芸能ニュースに絡めながら「戦争推進法案」を援護したり、反対する市民をボロクソにこき下ろしている「松本佳子のにちよる」というニコニコ動画で配信されている番組の内容があまりにも酷いから一度視聴してみてくれないか、という読者からのリクエストを頂いた。

ニコニコ動画の番組を視聴するためには(番組によるのかもしれないが)、会員登録をしなければいけない。何度か会員登録をしようと試みたのだがうまくいかない。「あなたは『反日』思想の持ち主のため入会できません」のエラーメッセージが返って来る(勿論冗談)。したがって「松本佳子のにちよる」を今のところ視聴できてはいない。直近の番組タイトルは『ショック堀北真希の結婚!!』『軍事漫談家・井上和彦の戦後70年談話』となっている。番組の司会は「チャンネル桜」で何度も顔を見たことがある田母神ガールズの「色希(しき)」だ。

◆「軍事漫談家・井上和彦」はただの「バカ右翼」

雰囲気や評判が怪しいからといって、番組のタイトルだけで内容を決めつけてはいけない。だいたい私は「ショック」であるはずの「堀北真希」という人物さえ知らない人間なのだから。でも「軍事漫談家・井上和彦」の名は過去どこかで目にしたことがある。

井上は今のところWikipediaにとりあげられてはいない。そこまで社会的に影響のある人物とは認知されていないということだろうか。

そこで本人のホームページと幾つかあるYoutubeの映像で井上の主張を聞いてみた。1963年生まれで法政大学社会学部出身の井上は「専門は、軍事・安全保障・外交問題・近現代史。テレビ番組のコメンテーター・キャスターを務めるほか書籍・オピニオン誌の執筆を行う。テレビ番組では歯に衣着せぬ爆裂本音トークで 難解な軍事問題などを分かりやすく解説する。

『たかじんのそこまで言って委員会』(讀賣テレビ)では 「軍事漫談家」の異名を持ち、同番組をはじめとして「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「かんさい情報ネットten!」(讀賣テレビ)など出演番組多数。また「日本文化チャンネル桜」の「防人の道 今日の自衛隊」のキャスターのほか、航空自衛隊幹部学校講師、東北大学大学院非常勤講師、商社シンクタンク部門の主席アナリストも務める。平成25年より「国民の自衛官」(フジサンケイグループ主催、産経新聞社主管、防衛省協力)の選考委員」とホームページ内で自己紹介をしている。

本人は「どうだ!偉いだろう!」と思って記載したのかもしれないが、私に言わせれば被疑者が罪状を自白しているに等しい。とくに関西ファシズムを牽引した「たかじんのそこまで言って委員会」出演を中心としたテレビ、ネット番組の出演歴はその主張を明らかに示している。こやつは単なる「バカ右翼」だ。

◆井上の軍事論が漫談そのものだから「軍事漫談家」ということはよくわかった

貴重な人生の時間を割きたくはないが、1つ位はその証拠を示さねばならないだろう。

これは「チャンネル桜」に出演した際の井上だ。「米中対話」のニュースを取り上げたと思ったら、「中国が納得していない」と勝手な解釈をして「これでいいんです!こういう対話をしてほしい!」と言い放つ。意味わからないなぁ、私には。ああ、そうか。何が何でも「中国」=悪にしないと「軍事漫談家」はつとまらないか。

また、「自衛隊とフィリピン軍の共同訓練」を持ち上げるは「中国が脅威ではないって言うやつが国会にもいるけども頭がおかしいの」だの「馬鹿な奴が原発反対だとか根拠のないこと言ってんの」とのたまう、果ては「沖縄戦追悼式典70周年」を取り上げたニュース紹介の中で翁長雄志知事が安倍政権批判のコメントを読み上げたことに言及し「あなた(翁長知事)が非常に限られた空間の中で作られた、民意と称する『米軍の普天間移設』を論じているけど、日本とアメリカが決めたこと。言ってみれば社長と社長が決めたこと。それを言ってみれば課長クラスの知事が『止めてくれ』って、何言ってるんだて」と言い放つ。真面目に聞いていると、私自身が恥ずかしくなるほどの「沖縄差別」を堂々と展開する。

要するに無茶苦茶なのだ。「中国は脅威」とこの番組で言い放ちながら、別の番組では「中国なんて全然恐くない。武器は全部コピーなんですよ。武器製造の技術が高いのは自動車を作る技術のある国。だから日本の武器は一流です。武器商品市に行くと中国人が写真撮ってるんですよ。中国の武器は全部外側からコピーで作るんです」と仰せになる。

どっちなんだ!と真顔で井上に迫ってはいけない。井上は「軍事漫談家」なのだ。漫談に食って掛かるのは無粋に過ぎる。

芸能ニュースと「右派ネタ」を取り上げる「松本佳子のにちよる」、実は画期的な番組ではないか、と私は内心期待をするようになっている。人畜無害な芸能ニュースと声高に叫ばれる好戦・右派的言動。じつは双方とも「漫談」の域を出ない、ということを井上がその肩書きによって主張し証明してくれているからだ。

問題は「漫談」を真に受けてしまう人々の側だろう。この番組に限らず、大小メディアは「情報商品」として「芸能ニュース」も「戦争」も「原発」も「マイナンバー」も一蓮托生に垂れ流す。あれは「報道」ではなかったのだ。「漫談」と呼ぶのが相応しいということを井上は教えてくれている。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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