賭け屋の怒号が飛び交うバンコク・ラジャダムナンスタジアム2階席

ワイクルーを踊るT-98

5月25日(木)、タイ・バンコクのラジャダムナンスタジアムでスーパーウェルター級王座2度目の防衛戦に臨んだT-98(=今村卓也)は戦略通じず大差判定負け。

◆タイ国ラジャダムナンスタジアム・スーパーウェルター級タイトルマッチ(154LBS) 5回戦

チャンピオン.T-98(=今村卓也/クロスポイント吉祥寺/69.85kg)
VS
同級9位.シップムーン・シットチェフブンタム(タイ/69.85kg)
勝者:シップムーン・シットチェフブンタム
判定:0-3 (47-50. 47-50. 47-50)

3R。シップムーンの左ミドルキックは最も脅威

3R。シップムーンは攻めさせておいて強烈な左ミドルキックを放つ

3R。動きを止めたいT98、前回のようにいかないもどかしさ。

◆厳しい洗礼のラジャダムナン王座

T-98は昨年6月1日、REBELS興行でチャンピオン.ナーヴィー・イーグルムエタイ(タイ)に判定勝ちし王座奪取。同年10月9日、現地ラジャダムナンスタジアムにて初防衛戦を行ない、プーム・アンスクンビットを3R・TKOで倒し、初防衛に成功しています。

今回の挑戦者、シップムーンは昨年10月の新日本キックボクシング協会MAGNUM興行で、緑川創(藤本)と対戦し引分けている選手で、実力は測れている選手でしたが、本場のリングに上がれば相手の本気度が違ってきます。

T-98は初防衛戦のように1ラウンドからプレッシャーをかけ前進。ロープ際に詰めれば右ローキック、右ストレートとダメージを与えていく戦法も、シップムーンは自分の距離感を掴んで巧みにかわし、T-98は大きなダメージを与えられない流れが続き、重要なポイントとなる3ラウンド以降はT-98が追う形は変わらずも、シップムーンはロープ際に詰まりながらも的確に返す左ミドルキックが有効的に決まる。T-98のローキックも単発でシップムーンのペースを崩せず大差が付いてしまいました。

先日の梅野源治に続いてT-98も大差を付けられる敗戦。賭けの対象となる接戦の展開が多いムエタイで、チャンピオンが大差を付けられる展開は、厳しい本場ムエタイの洗礼を受けた防衛戦となりました。

2010年以降、本場ムエタイ最高峰の外国人の王座奪取が増えた感じでしたが、王座を獲ることは出来ても防衛を重ねることの難しい展開が続いています。

今回、久しぶりに現地撮影を行ない、現場の雰囲気や関係者の話で感じたことは、半年以内の防衛義務を果たしつつ、1年以上の王座保持はより難しいと思えたことでした。単に「強豪揃いの中では、連続防衛は難しい」というだけでなく、興行の裏側にはプロモーターのサジ加減が在り、1年も経った頃、「そろそろ王座を返して貰うよ」と言わんばかりのちょっと厄介なテクニシャンを当ててくる。そんな厳しい印象を受けました。

3R。パンチで攻めるT-98

3R。ブロックの上からでも蹴ってくる

4R。蹴っても次に繋がらない

4R。ブロックしても蹴られ続けては腕も殺されてしまう

ムエタイ最高峰に挑戦するだけでも大変な道程ですが、王座奪取したとしてもそれが日本で獲っただけではファンが認めない第三者の厳しい目があるのも事実で、現地の賭け屋の群集の厳しい目で見られ、支持を受けてこそ本物と言われる難問は、更に高いレベルにあることを感じたラジャダムナンスタジアムでした。

休む間も少ないT-98は6月17日に「KNOCK OUT」興行出場があり、71.0㎏契約5回戦で、ISKA世界ライトミドル級チャンピオン.廣虎(ワイルドシーサー群馬)との試合が組まれています。

梅野源治とともに、二人ともモチベーションは落ちることなく、再起を誓っている現在、再びラジャダムナンスタジアムのリングにチャンピオンとして立つことへのファンの期待も大きいところでしょう。

5R。T-98が蹴りで反撃ももう時間が無い第5ラウンド

5R。終了間際の右ストレート、時間が足りなかった

《取材戦記》

2000年の新日本キックボクシング協会が敢行した「Fight to MuayThai」以来のラジャダムナンスタジアムを訪れました。外観は特に変化はありませんが、館内は映像で見たことあるとおり、リング上の照明設備が以前の白熱灯からLED照明へ明るく変わり、高感度フィルムでもキツかった頃から比べ、デジタルカメラの性能向上もあり、高感度撮影でも楽に綺麗に撮れる撮影となりました。

リング周りも幅広すぎるプラットホーム(エプロン上、ロープから縁)に昔は足まで乗っかり、うつ伏せに這いつくばって撮っていましたが、今はプラットホームは昔ほどではない幅で、私のように足が短いと苦しいですが、背丈170センチもある人なら乗り出して何とか撮れる範囲。

しかし撮影場所の範囲が狭いようで、私が撮影に入れない場合は現地の知人カメラマンに頼むつもりも、その人と、現地で在住する早田寛カメラマンや昔知っていたカメラマンも私に気付いてくれて、互いに老けて気が付くのに時間が掛かったが「大丈夫だ、ここに居ろ」とみんなで指示してくれる有難さ。

賭け屋は昔と変わらない怒号のような歓声が場内を盛り上げていましたが、T-98の試合はメインイベント後の試合となる第8試合で、この日の観衆は結構残っていました。通常は観衆も帰りつつある中で、これがタイトルマッチであっても層の薄いクラスの無名選手の立場でもありました(5月17日の梅野源治の初防衛戦は第7試合のメインイベントでした)。

今後またラジャダムナンスタジアムに行けることがあれば、日本人絡みのメインイベントのタイトルマッチに出会いたいものです。

相手ペースにはまったキツかった試合、悔しさより苦しさが滲み出た表情

ラジャダムナンスタジアム外観。ビッグマッチの日は人で車道が占領されるほど

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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