◆外国船籍と公海航行を利用した「脱法カジノ」

すでにネットでは公然と語られるいっぽうで、マスコミが報じない脱法行為が存在する。いや、すでにその華やかな幕は下りてしまったが、ここ半月ものあいだ繰り返し報じられてきたクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセスに秘められた、とんでもない事実があるのだ。

いや、秘められたというのは大げさだろう。ダイヤモンド・プリンセスはみずからカジノ船であることを、そのホームページで公然と宣伝しているのだから。公然と脱法行為を宣伝していながら、微塵も恥じることがない。遅きに失した感はあるが、このさい安倍総理のカジノ経済成長路線のあだ花として、この事実を大いに拡散していこうではないか。


◎[参考動画]ダイヤモンド・プリンセス 船内紹介 | プリンセス・クルーズ

◆地獄と化したクルーズ船、じつはカジノツアーだった

それにしても、ダイヤモンド・プリンセスの船内は地獄だったようだ。医療チームの報告として、閉じ込められた乗客たちの多くが「死にたい」と思い、不眠や不安感にさいなまれていたという。以下、時事通信報である。

「『死にたい』『船から飛び降りたい』などと訴える事例が、2月1日からの約1カ月間で91件に上っていたことが分かった。災害派遣精神医療チーム(DPAT)などの活動状況を日本精神科病院協会が公開した。活動中に寄せられた相談では、不眠や不安感といったストレス関連症状が101件と最も多く、次いで『死にたい』といった緊急を要する精神状態が91件に上った。緊急搬送はなかった。ストレス症状を訴える人は、狭い室内に閉じ込められたことによる拘禁反応を起こした例が目立った。」(時事通信3月7日)という。

「新型コロナウイルス肺炎に閉じ込められた、クルーズ船乗客たちの不自由さ ── 今後危惧される拘禁性ノイローゼ(拘禁病)と基礎疾患での重篤化」(2020年2月9日)で指摘したとおりの事態が進行していたことになる。


◎[参考動画]【TBS news23】クルーズ船“告発”動画の波紋

クルーズ船に長期にわたって監禁されることで、そのストレスから新型コロナウイルス罹患を悪化させられ、お亡くなりになった方々には哀悼の意を表しつつ、しかしそのクルーズの違法性およびカジノ誘致キャンペーンの悪質性を暴露していくことにしたい。

外国船籍であり、なおかつ公海上に出るという外洋クルーズによって、可能となっていたのがカジノである。比較的低価格で乗船できるプリンセスクルーズの場合、日本人客にカジノを体験させ、その上がりでペイするという側面もあったのではないか。とりあえず、ダイヤモンド・プリンセスがカジノ船であったことを、ほかならぬプリンセスクルーズのホームページから引用しよう。

「一流のディーラーがエスコートするテーブルゲーム、多彩な種類のスロットマシンを揃え、バーも併設したプリンセス・クルーズ自慢の本格的なカジノ。
 外国船クルーズでしかできない本格的なカジノ体験で、そのきらびやかな雰囲気をお楽しみください。
 テーブルゲームは5USドルから、スロットマシンは1USセントからと手軽に楽しむことができます。
 カジノのご利用にはUSドル(一部客船ではAUドル)をご用意ください。
 現金がない場合には船内会計に加算し精算することも可能です。」

わずか5USドル(536円=3月7日為替相場)でテーブルゲーム(ルーレットなど)、5円ちょっとでスロットマシーンが遊べるというのだ。もちろん、これでギャンブルが終わるわけではない。ついつい熱くなって、カジノ破産寸前まで追い込まれるのがギャンブル依存症である。その入り口に、カジノクルーズのような気軽なきっかけがあるのだ。ギャンブル依存とは、勝ち負けや損得の判断ミスなどではない。勝ったときの絶頂感、勝負におよぶゾクゾクとした興奮、そして必ず取り戻そうとする執着心が、底なしの泥沼にいざなう。いわば脳内麻薬に作用するのが、依存症なのである。

プリンセス・クルーズのHPより

プリンセス・クルーズのHPより

◆カジノ誘致のキャンペーン──コロナとカジノがヨコハマで繋がる

さて、ダイヤモンド・プリンセス号である。この船はアメリカのカーニバル・コーポレーション(Carnival Corporation & PLC)の傘下のプリンセス・クルーズ社が運航しているクルーズ客船だ。2014年に日本マーケット向けに大規模なリノベーションを行ない、展望浴場や寿司バーなどが新設された。このときに船籍をバミューダから英国(ロンドン)へと変更している。2014年から日本に配船され、横浜発着のクルーズを行っている。さらに2015年以降は日本発着のクルーズを毎年行っている。日本人向けのクルーズ船なのである。

日本人向けのカジノ付きクルーズ船で、横浜をメインの発着港にしている。これだけで、ピンとくる人は少なくないのではないだろうか。

発着港の横浜市(林文子市長)が、カジノを柱とするIR誘致の急先鋒だからだ。不案内な向きは、「横浜IR誘致計画の背後に菅義偉官房長官 安倍『トランプの腰ぎんちゃく政策』で、横浜が荒廃する」(2019年8月30日)を参照してほしい。

ダイヤモンド・プリンセスをふくむカーニバルクルーズは、ラスベガスに拠点を置くKonami Gaming,Inc.(コナミ・ホールディングスの子会社)から『SYNKROS(シンクロス)』というカジノ・マネジメント・システムを導入した本格的なカジノ船である。そのシステムは日本のIRにも導入されるという(業界関係者)。つまり、このカジノクルーズは横浜のIR誘致と限りなく交錯し、カジノ導入のいわば隠然たるキャンペーン機能を果たしているのだ。人々の射幸心をあおり、ギャンブル依存によって生活破綻を来しかねないカジノの実験場でもあったのだ。

すでに中国のギャンブル企業から収賄した容疑で、秋元司衆議院議員が逮捕され、5人の議員も賄賂を受け取ったことが明らかになっている。安倍総理が「日本の成長産業」として、観光客誘致を目的に導入を目論んできたカジノ産業は関係議員の汚職として、またクルーズ客たちの悲劇として、思わぬところから頓挫のきざしが見えてきた。国民をギャンブル漬けにする愚策の導入をゆるしてはならない。


◎[参考動画]値下げと割引で激安で豪華客船クルーズに行ってきた!【ダイヤモンドプリンセス】

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』『ホントに効くのかアガリスク』『走って直すガン』『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』『ガンになりにくい食生活』など多数。

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