芸能界の重鎮・ビートたけしの再婚相手で、現在の所属事務所『T.Nゴン』の役員を務める女性A子氏について、週刊誌などでネガティブな情報が続々と報じられている。

そんな中、たけしの元弟子・石塚康介氏がA子氏からパワハラ被害を受けたとして、A子氏とたけしの所属事務所『T.Nゴン』に1000万円の損害賠償を請求した訴訟では、A子氏側(代理人弁護士は矢田次男、鳥居江美、金森四季の3氏)が答弁書で石塚氏(代理人弁護士は湯澤功栄氏)の主張を全面的に否定するところか、石塚氏の人間性も否定したに等しい過激な反論をしている。

その内容を前編に引き続き、紹介する。

石塚氏は『週刊新潮』誌上でA子氏からのパワハラ被害を実名告発した。その記事は『デイリー新潮』にも掲載された(『週刊新潮』2019年11月21日号掲載)

◆報酬は「月40万円」支払っていたと主張

答弁書におけるA子氏側の主張によると、俳優志望だった石塚氏は2010年頃に1年近く、たけしが毎週仕事のために出向く飲食店の近くに立ち続けて弟子入りを懇願し、弟子入りを果たしたのだという。そしてその後、石塚氏が『T.Nゴン』で雇用されるに至った経緯について、A子氏側は「たけしの好意」だったように主張している。次のように。

〈妻子のいる原告(引用者注・石塚氏のこと。以下同じ)の生活が成り立たないことを心配した社長(引用者注・たけしのこと。以下同じ)は、原告に対して、原告が俳優としての活動を優先させることを奨励しつつ、それ以外の時間において、社長の弟子としての諸業務のほかにも、被告会社(引用者注・『T.Nゴン』のこと。以下同じ)の雑務の一部を業務委託することとし、それら一切の業務履行の対価として月額40万円の報酬を支払うこととし、被告会社と原告とでこれを合意した〉

『T.Nゴン』が石塚氏に月40万円の報酬を支払っていたという話が事実ならば、単純計算で同社が石塚氏に支払っていた1年あたりの報酬は480万円だったことになる。A子氏側としては、石塚氏が妻子との生活を成り立たせることができたのは、たけしのおかげだと言いたいのかもしれない。

◆石塚氏のことを“恩をあだで返した人物”であるかのように主張

さらにA子氏側は答弁書において、たけしの弟子であったことは俳優志望の石塚氏にとって大きなメリットであったように主張している。次のように。

〈(引用者注・石塚氏は)社長のタレント活動の現場に同行したり、芸能活動に必要な雑務を手伝うことにより、俳優やタレントとして活動する上で必要な芸能界の常識を習得したり、知識、見識を深めたり、芸能界における人脈づくりをする機会を得ていた〉

また、A子氏側は答弁書で石塚氏について、〈社長の紹介、後押しにより、俳優として映画、ドラマ等に出演する機会を得ていた〉と主張。とくに、たけしの監督作品である映画『アウトレイジ ビヨンド』と『アウトレイジ 最終章』に石塚氏が出演していることについては、たけしの存在あってこその出演であったように強調している。次のように。

〈他の出演者は名だたる俳優ばかりという中で、まだ無名でキャリアも浅い原告がこれらの映画に出演する機会を得ることができたのは、社長の後押しがあってこそである〉

A子氏側の答弁書を見ていると、石塚氏のことを「たけしに散々面倒をみてもらっておきながら、恩をあだで返した人物」であるかのように非難している印象が否めない。

◆パワハラ被害を訴える石塚氏に対し、「社会人としての常識すら欠く」と反論

A子氏側の答弁書における主張のクライマックスは、次の部分だ。

〈原告は、特に取締役(引用者注・A子さんのこと)に対して、挨拶や話が聞こえないふりをして無視して返事をしないといった嫌がらせを度々行い、それを注意されても繰り返すという態度であったため、2019年7月30日、取締役が再度これを注意したところ、取締役に対して、「てめー、この野郎」「クソ女」「馬鹿野郎、ふざけんな」などと大声で怒鳴り、暴言についても謝罪しようとせず、そのまま一方的に被告会社を去ったものであり、社会人としての常識すら欠く対応を行っていたのはむしろ原告である〉

このA子氏側の主張を信じていいのか否かは現時点で判定不能だ。現時点で確実にわかることは、A子氏側がパワハラ被害を訴える石塚氏のことを「社会人としての常識すら欠く」人物であるかのように言い、「こちらこそ被害者だ」という趣旨の主張をしているということだ。A子氏側が答弁書で繰り広げた石塚氏への反論について、筆者が「石塚氏の人間性も否定したに等しい」と評した理由がこれでおわかり頂けたことだろう。

A子氏側は答弁書において、〈こうした原告の問題行動及びそれに対する被告会社の注意の詳細に関する主張立証については、原告の主張の整理を待った上で行っていく予定である〉と明言している。つまり、今後も石塚氏の人間性を否定するような反論をしていく意向とみられる。

一方、石塚氏も『週刊新潮』誌上でA子氏から受けたパワハラ被害を実名告発した際には、〈カメラで監視され、24時間、いつ理不尽なメールや電話が来るか分からない地獄の生活が続いたことで、ストレスで胃が痛み、夏なのにどうしようもなく寒く感じられ、鼻水が止まらなくなってしまい、私は仕事の途中に公園で倒れ込むようになってしまいました〉などと切々と訴えている(※)。訴訟の中でA子氏から人間性を批判するような反論をされたら、石塚氏も当然、再反論するはずだ。

現時点でどちらの言い分が正しいのかは判定しかねるが、この訴訟の行方は今後も注視し、めぼしい新情報が入手できれば報告したい。(了)

※石塚氏がA子氏から受けたパワハラ被害などを実名告白した『週刊新潮』2019年11月21日号の記事は、『デイリー新潮』でも3回に分けて掲載されている。〈〉内の石塚氏の主張は、その『デイリー新潮』の3回目の記事〈ビートたけし弟子が愛人をパワハラで提訴 「これ以上殿を孤立させないために」実名告発〉(https://www.dailyshincho.jp/article/2019/11220800/?all=1)から引用した。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(同)も発売中。

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