ウクライナがロシア全土の上空でスターリンクやスターシールドの使用を許可される可能性はどの程度あるだろうか?

アンドリュー・コリブコ

ウクライナ戦争の勝敗を握るキーパーソンの一人は、疑いなくイーロン・マスクである。スターリンク(Starlink)とは、マスクが率いる SpaceX社が展開している衛星インターネット通信サービスのことで、スターシールド(Starshield)はStarlinkの軍事情報機関向けバージョンである。ドローン攻撃に不可欠だ。ゼレンスキー は、スターリンクをロシア領内への攻撃にも利用したいと考える一方、マスクは認めない。こうした状況に打開策はあるのか?アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)が解析する。

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マスクがこの案に難色を示すとしても、それは理解できる。プーチンを刺激し、自衛のためのエスカレーションを招き、その結果として第三次世界大戦の危険を高めたくないと考える可能性があるからだ。ただし、トランプも同じように慎重なのかは、まだ分からない。ポーランドのトゥスク首相の発言によれば、今後100日ほどで状況はかなり明らかになる可能性が高い。

『アトランティック』は先週後半、「ゼレンスキーがトランプに、イーロン・マスクに関する頼み事をした」と題する詳しい記事を掲載した。(【黒薮注】『アトランティック』(The Atlantic)は、米国の総合雑誌)

副題は「ウクライナは、ロシア国内の弾道ミサイル発射装置を攻撃するために、マスクのスターリンクを使い始めたいと考えている」というものだった。報道によれば、ゼレンスキーは先週のホワイトハウスでの会談で、この提案をトランプに伝えたという。入手数が限られているパトリオット迎撃ミサイルを受け取る代わりに、ウクライナに対するロシアの「組織的な攻撃」の発生源そのものを攻撃する案として提示したとされる。

同誌の情報源によると、マスクはこの提案について話し合うためのゼレンスキーからの面会要請を断った。一方、トランプは、マスクにこの案を受け入れるよう圧力をかけるかどうかについて、明確な態度を示さなかった。『アトランティック』はさらに、「ゼレンスキーは、マスクがロシアへの攻撃にスターリンクを使用することを認めない場合、国防総省が同じ目的のためにウクライナへスターシールド・ネットワークへのアクセスを提供できると提案した」と報じている。スターシールドはスターリンクの姉妹システムだが、「より高価で、より複雑であり、[ウクライナの]システムへの統合もより難しい」とされている。

同誌が取材したウクライナ側の情報源の一人は、トランプがゼレンスキーの「プランB」に同意することに懐疑的だった。(【黒薮注】「プランB」は代案の意味)

その人物は次のように述べている。「ウクライナが自国領内でこれを行うことと、ロシア領内で米国の技術を使い、ロシアの防空システムや弾道ミサイル発射装置を破壊することは別の話だ。これは非友好的な行為だ。ロシアがそれにどう反応するのか、私には分からない」。これはもっともな指摘だ。現在、西側諸国がウクライナを通じて進めていると筆者がみるロシアの産業力と軍事力の低下は、非常に大きな危険を伴うからだ。

トランプが最近、「エスカレートすることで緊張を緩和する」という方針を選んだ後、米国がロシアに対して進めていると筆者がみる「消耗戦」は、新たな段階に入っている。これは第二次世界大戦後の歴史でも前例のないものだ。この動きによってロシアの産業力や軍事力が一部でも大きく低下した場合、プーチンが最終的に耐えられなくなり、この作戦によってロシアが立ち行かなくなる前に抑止力を回復するための第一歩として、たとえ象徴的なものであってもNATOに対する行動を承認する可能性がある。その後、状況が簡単に制御不能になる可能性もある。

そのような展開を引き起こすきっかけになり得るのが、ゼレンスキーの提案どおり、ウクライナがロシア全土でスターリンク、またはその姉妹システムであるスターシールドを利用することだ。このような措置によって、戦略的インフラや軍事目標に対するウクライナのドローン攻撃の成功率が大幅に高まる可能性があるためだ。『アトランティック』は、マスクが紛争のエスカレーションにつながるような役割を担うことに消極的だったと指摘している。そのため、マスクはゼレンスキーの提案を拒否する可能性がある。そうなれば、トランプがマスクの判断を事実上覆し、ウクライナによるスターシールドの使用を認めるのかという問題が出てくる。

トランプがこれを避ける可能性がある理由は、エスカレーションを抑えるためだけではない。政治的な理由も考えられる。具体的には、マスクとの関係を悪化させ、11月の中間選挙を前に、あるいは時期によってはその後から2028年の次の選挙までの間に、X上で有力なMAGA系インフルエンサーの投稿が広まりにくくなる事態を避けたいと考える可能性がある。ポーランドのドナルド・トゥスク首相は先週、「今後100日がこの戦争の結果を決める可能性があり、確率は五分五分だ」と述べ、トランプ、マスク、そして「ほかの何人か」が重要な役割を果たすとしている。

この発言は、トゥスクがゼレンスキーの計画を把握しており、マスクがウクライナによるロシア全土でのスターリンク使用を認めるか、あるいはマスクが拒否した場合にトランプがその判断を覆し、代わりにスターシールドの使用を認めれば、ロシアの降伏につながると考えている可能性を示している。

マスクがこの案に難色を示すとしても、それは理解できる。プーチンを刺激し、自衛のためのエスカレーションを招き、その結果として第三次世界大戦の危険を高めたくないと考える可能性があるからだ。ただし、トランプも同じように慎重なのかは、まだ分からない。今後100日ほどで、その点を含めて状況はかなり明らかになる可能性が高い。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月4日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/what-are-the-odds-that-ukraine-is?utm_campaign=post&utm_medium=web&triedRedirect=true

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/

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ドイツが計画する8,000億ユーロ規模の再軍備を進める要因とは何か

アンドリュー・コリブコ

日本で急速に進む軍事大国化の流れは、ウクライナをめぐる紛争を媒体として、ヨーロッパでも起きている。次のアナリシスは、かつての日本の同盟国ドイツの動きに焦点を当てたものである。

イデオロギー上の動機、経済的利益、そして個人的な利害が、支配層であるリベラル系の支配層による重大な決定の背景にある。この決定によって、ドイツはロシアによって、アメリカに代わる最大の脅威と見なされる存在になるとされている。

英紙フィナンシャル・タイムズは7月初め、「ドイツ、歴史的な方針転換として再軍備のため8,000億ユーロを借り入れへ」と報じた(【黒薮注】8,000億ユーロは、約144兆円)。その背景には、アメリカが進める「NATO 3.0」という構想がある。この構想では、NATO加盟国であるヨーロッパ諸国に自国の安全保障についてより大きな責任を負わせようとしている。

実際には、EUが西ユーラシアにおけるロシア封じ込めの中心的な役割を担うことを意味している。これは、トランプ第2次政権が過去1年間でロシアの周囲に築いた新たな「緩衝地帯(コルドン・サニテール)」構想に沿ったものであり、この地域ではドイツが主導的な役割を果たす計画となっている。

現在ドイツは、ウクライナと協力して、中・東欧地域(CEE)の主導権をめぐりポーランドと競争している。仮にポーランドが独自の「勢力圏」を築くことに成功したとしても、ドイツが計画する8,000億ユーロ規模の再軍備によって、ドイツが依然として大きな影響力を持つことに変わりはない。

すでにEUは「ロシアがEUに対して感じている以上の脅威を感じている」とされている。一方、今後ロシアは、「アメリカよりも、ドイツの方がより大きな脅威と感じるようになる可能性がある」とも指摘されている。

ロシア前大統領で現在は安全保障会議副議長を務めるドミトリー・メドベージェフは5月初め、ドイツの再軍備が1941年を想起させる脅威になると警告した。また、ロシアの著名な専門家ドミトリー・トレーニンは最近、ロシアとの戦争の危険をあおっているのは、もはやアメリカではなくEUだと主張している。

EUの事実上の指導国がドイツである以上、現在モスクワが2030年前後に起こり得ると見ているNATOとロシアの軍事的衝突への流れを作るうえで、ドイツが最も大きな責任を負っていることになる、というのがこの記事の見方である。

この動きを進める主な要因は、イデオロギーと経済の二つだとされる。

イデオロギーの面では、支配層であるリベラル・エリート層は、新冷戦を「民主主義と独裁主義の対立」と捉えている。一方、経済面では、比較的慎重な政治家たちに対して、軍需産業がこの分野への大規模な投資によってドイツの産業空洞化を防ぐと説得しているという。

しかし実際には、産業空洞化を招いている主な原因は、高いエネルギーコストと中国との競争だとしている。

それにもかかわらず、支配層であるリベラル・エリート層は、中・東欧地域、そして「NATO 3.0」のヨーロッパ側全体で主導権を握るため、ポーランドと競争する方針をすでに決めている。

ただし、その代償として国内の社会・経済の安定が損なわれていることは明らかだとされる。実際、イギリスのメディアも最近、「ドイツは静かに崩壊しつつある」と報じている。

ロシアは、核兵器を保有するアメリカがNATO第5条の義務を本当に果たすかどうかを試そうとは全く考えていないにもかかわらず、現在のドイツ政府は国民の生活を改善することよりも、ロシアの封じ込めを優先している、というのがこの記事の結論である。

※【黒薮注】NATO第5条:「加盟国の一国が武力攻撃を受けた場合、それを加盟国全体への攻撃とみなし、各国が支援する」という集団防衛の規定。北大西洋条約の第5条に定められている。

支配層であるリベラル・エリート層が前述のイデオロギーを重視している背景には、その一部が、それこそが低迷する自国経済を立て直す鍵だと思い込まされていることがあるという。また、このような地政学的な役割を担うことで得られると考えている名声も、その姿勢に影響している可能性がある。

この役割を果たすことで、ヨーロッパ各国のエリートから評価されること、さらに、自分たちが憧れの対象としているアメリカのエリートから公に認められることは、彼らにとって個人的にも重要な意味を持っている、とこの記事は述べている。

ロシアの立場から見ると、ドイツは西ユーラシアにおいて最も深刻な安全保障上の脅威へと急速に変わりつつあり、この流れが変わると政策担当者は考えるべきではない、としている。

一方で、NATO第5条があるため、ロシアによる先制攻撃は現実的ではない。また、現在のドイツ政府の政策によって一般のドイツ国民がロシアの核攻撃の対象になっていると訴えたとしても、それによって状況が変わることはないとしている。

それでも、ドイツ主導のEUがロシアを攻撃するような事態になれば、ロシアは核兵器による報復を行うことに疑いの余地はない、というのがこの記事の結論である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月22日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/whats-driving-germanys-planned-800?utm_campaign=post&utm_medium=web&triedRedirect=true

ブダノフ氏、民族的に純粋な国家を目指すウクライナ民族主義者の幻想を打ち砕く

アンドリュー・コリブコ

皮肉なことに、彼らが実際に築き上げたのは「ファシストの理想郷」ではなく、リベラルな暗黒社会だった。

「ウクライナ民族主義者組織(OUN)」と、その武装部門である「ウクライナ蜂起軍(UPA)」は、民族的に純粋な国家を目指してポーランド人などを大量虐殺した組織であり、「マイダン」後のウクライナの建国の父と位置づけられている。

【黒薮注】マイダン:本来はキエフの独立広場を指すが、現在では一般に2013~2014年にウクライナで起きた大規模な反政府運動を意味する。

そのため、ウクライナの民族主義者たちは、2014年から続くロシアとの戦い、とりわけ2022年の特別軍事作戦開始後の戦いによって、この目標に近づけると考えていた。キエフ政権がロシア語、ロシア文化の一部、そしてウクライナ正教会を禁止したことも、彼らに希望を抱かせた。

しかし、その幻想は、ゼレンスキーの大統領府長官キリル・ブダノフによって打ち砕かれた。ブダノフは6月下旬、春にも述べていた、人口減少を補うために移民をさらに受け入れる必要があるという主張を改めて示した。彼は「今では私たちの人口は大幅に減っている。誰かを怖がらせたいわけではないが、本当に大幅に減っている」と述べた。

それより約6週間前の5月初め、社会政策相デニス・ウリューチンは、現在ウクライナ国内に暮らしている人は2,200万~2,500万人にすぎないと明らかにしていた。そのうち少なくとも1,000万人は年金受給者だと、ウクライナ年金基金が4月初めに推計している。

さらに懸念されるのは、ユニセフが昨年、18歳未満の子どもは660万人いると推計していたことだ。これらを合わせると、国内に残っている生産年齢の成人はわずか600万~900万人ということになる。

世界銀行が公表している2024年の最新データでは、人口に占める男性の割合は46%と推計されている。単純に計算すれば、ウクライナの生産年齢男性は約276万~414万人しかいないことになる。そのうち、正確な割合は不明だが、現在の戦闘によって死亡したり、恒久的な障害を負ったりした人も少なくない。

戦略国際問題研究所が2026年初めに示した、ウクライナ側の死傷者数は50万~60万人という推計を受け入れるなら、これはおそらく実際より低い数字だとしても、ウクライナに残る生産年齢の男性は最大でも約200万人強~350万人にすぎないことになる。

したがって、ブダノフが「今では私たちの人口は大幅に減っている」と述べたのは、決して誇張ではない。EU域内にいる430万人のウクライナ人のうち、成人男性は26%にすぎず、人数にすると100万人を少し上回る程度である。しかも、戦闘が終わった後も、その全員が帰国するわけではない。

そのためウクライナは、経済を支えるため、あるいは人口を補うために、文化的背景の異なる外国人の大量移住を進めざるを得なくなる。西ヨーロッパの例を見るかぎり、彼らが現地社会に同化することは期待できない。

さらに、移民の多くはウクライナ語を話せず、英語にも堪能とはかぎらないため、ウクライナ政府が彼らの言語を現実的に禁止することはできない。なお、2024年に成立した法律は、国家官僚機構全体で英語の使用を義務づけており、この動きも民族主義者たちを困惑させたに違いない。

民族主義者たちは、戦闘が終われば民族的に純粋な国家が実現すると夢見ていた。しかし実際には、ウクライナは西ヨーロッパでも特に多文化化が進んだ国々と同じような社会へ向かっている。

さらに、多様な住民同士の共通語として、日常生活では英語がウクライナ語に取って代わる可能性も高い。民族主義者の立場から見て同じように問題だったのは、ゼレンスキーが2022年5月の世界経済フォーラムで、西側の協力国に対し、「ウクライナの特定の地域、都市、自治体、または産業を支援・管理する役割」を提案したことである。

その結果、ウクライナは、民族主義者たちが自らの「犠牲」によって守れると考えていた国家のアイデンティティーと主権の両方を、この戦闘を通じて失うことになった。

そのため、民族主義者と国家の間で対立が生じる可能性は高い。ただし、これは十分に予想できる展開であるため、ウクライナ保安庁はすでに彼らを監視し、反対運動が表面化するのを事前に防ごうとしている可能性がある。特に、暴力的な形に発展する動きは警戒されているだろう。

皮肉なことに、ウクライナの民族主義者たちは、最終的に「ファシストの理想郷」ではなく、リベラルな暗黒社会を築くことになった。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月15日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/budanov-crushed-ukrainian-nationalists

ニューヨークタイムズが「日本におけるロシア人のスパイ活動」を報じた真の狙いは

アンドリュー・コリブコ

ニューヨーク・タイムズが報じた「日本におけるロシアのスパイ活動」を扱う記事は、日本国内でロシアに対する警戒感を過度に高め、対ロシア強硬政策を正当化することが目的である。筆者は、その結果として、日本が情報機関の強化や軍備増強を進め、それに対抗してロシア・中国・北朝鮮の軍事協力が一層強化される可能性を指摘する。以下の論評から西側メディアが果たす負の役割も垣間見える。

その狙いは、日本社会と政府の双方に反ロシア的なスパイ・ヒステリー(スパイをめぐる過熱した危機感)を煽り、より強硬な対ロシア政策を正当化させることにある。その結果、トランプ2.0が日本を取り囲むように構築した新たな「緩衝地帯」の一翼を担い、この島国が北東アジアにおけるロシア封じ込めにおいて、より積極的な役割を果たすことになるのだ。

『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』は週末、「プーチンはいかにして日本をスパイの巣窟に変えたのか(How Putin Turned Japan Into a Den of Spies)https://www.nytimes.com/2026/07/12/world/asia/russia-spies-japan-war-drones-electronics.html?eafs_enabled=false【日本語訳】chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2026/07/4deb84ffe99b57f5d6ae7f270cf7d654.pdf
という記事を掲載した。この扇情的な見出しは、ロシアが日本社会に深く浸透しているかのような印象を与える。しかし実際の記事の内容は、ロシア軍情報機関の一部門が日本から軍民両用(デュアルユース)の部品を調達したとされる手法について述べたものに過ぎない。記事によれば、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)第20局は、アエロフロート航空の日本支社とその公式提携先を利用し、ベトナムを経由した積み替えによってこれらの調達を行ったとされている。

NYTの記事の狙いは明白である。第一に、日本社会と政府の双方にロシア恐怖に基づくスパイ・ヒステリーを引き起こし、それによって日本による対ロシア政策の一層の強硬化を正当化することである。その最も直接的な形としては、象徴的な措置ではあるが、ロシア外交官の追放が考えられる。また、アエロフロート航空に対する制裁が日本だけでなく、東京が(共通の後ろ盾である米国からの水面下の働きかけを受けつつ)他の地域諸国にも同調を促すことで、周辺諸国へと広がる可能性もある。

仮にそうした展開にならなかったとしても、NYTは「当局者らはスパイ活動の脅威を認識しており、何十年も続いてきた情報収集上の制約を取り除こうとしている」と報じている。また、「日本には外国情報機関すら存在しない」とも指摘している。記事全体の文脈からすれば、たとえ米国が戦後に課した憲法のために法的(de jure)には実現しなくても、事実上(de facto)はこれを口実として外国情報機関が創設される可能性を示唆している。この記事によって引き起こされるかもしれないロシア恐怖のスパイ・ヒステリーこそ、その実現に一役買うかもしれない。

実際、NYTは「外国政府は、日本の技術がロシアへ密輸されていると繰り返し日本政府に警告してきた」と述べており、その中にはウクライナ政府や、匿名の西側当局者も含まれている。日本は何らかの理由でこれまで行動を起こさなかったが、今回を契機にようやく動き出す可能性がある。より大きな文脈で見れば、日本は従来から、モスクワが実効支配する南クリル諸島(日本が「北方領土」と呼ぶ地域)の帰属問題が未解決であるとの認識から、ロシアを潜在的な脅威と見なしてきた。しかし、その認識は今後さらに強まる可能性がある。

だからといって、日本が近くロシアに対して軍事的威嚇を始めるという意味ではない。むしろ、社会と政府に広がる可能性のあるロシア恐怖のスパイ・ヒステリーによってロシアへの脅威認識が一層強まり、その影響が今後さまざまな形で現れる可能性があるということだ。その中には、「緩衝地帯(cordon sanitaire)」構想における役割も含まれる。米国が組織するこの地政学的戦略において、日本には北東アジアでロシア・北朝鮮・中国の三国に同時に圧力をかける役割が期待されており、一方で他の米国の同盟国もロシアやその他の周辺地域で同様の役割を果たすことになる。

実際には、日本は米国の承認の下で軍備増強をどれほど急速に進めるか、さらに米国の最新兵器(特に中距離ミサイル、長距離ミサイル、無人機)をどれだけ受け入れるかによっては、三カ国すべてに対する「沈まない米国の空母」となり得る。第二次世界大戦当時の同盟国であったドイツと同様、日本の再軍備はロシアの国家安全保障に深刻な脅威をもたらし、その結果、限られた兵力や装備をこの戦線へ再配置せざるを得なくなる可能性がある。

米国がこの地域で構築を目指しているNATO型の安全保障ネットワークは、「AUKUS+」と呼ぶことができ、その主な標的は中国であり、北朝鮮にも一定の焦点が当てられている。しかし、日本におけるロシアのスパイ活動を扱ったNYTの記事の狙いを踏まえれば、米国が日本のロシアに対する脅威認識をさらに強め、ロシア封じ込めにおいて日本がより大きな役割を担うことを期待しているのは明らかである。その結果として、ロシアと中国、そして北朝鮮との軍事協力はさらに強化され、事実上の地域同盟が形成される可能性も排除できない。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月17日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/the-motives-behind-the-nyts-story?

新たな冷戦に向かうのか?――ウクライナ、中国、ベネズエラと世界秩序をめぐる争い

ビクトル・M・ロドリゲス

アンドリュー・コリブコは、ウクライナ戦争が多極化する世界への移行を加速させたと主張する。一方で、その動きに対しアメリカは、新たな地政学的圧力の手法を通じて自らの影響圏を強化することで対抗していると警告する。

アレシャンドレ・ガランチとの長時間にわたる対談の中で、このアナリストは、現在の国際紛争、ヨーロッパの将来、そして競争が激しさを増す世界情勢におけるブラジルの役割について、議論を呼ぶ見解を提示している。

注:アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
アメリカ出身の地政学アナリスト。ハイブリッド戦争、多極化、米中露関係、ユーラシア情勢などを主な研究対象としています。ロシア寄りの視点から国際政治を論じることが多く、ウクライナ戦争やBRICS諸国、グローバル・サウスに関する分析で知られている。

注:アレシャンドレ・ガランチ(Alexandre Galante)
ブラジルのジャーナリスト・軍事評論家。軍事・安全保障・国際政治を専門とし、ブラジルの防衛・航空宇宙分野のメディアで活動している。軍事技術や地政学に関するインタビューや解説記事を数多く手がけており、本稿の対談では聞き手を務めた。

もはやウクライナ戦争は、モスクワとキーウの間の領土紛争としてだけ捉えることはできない。また、民主主義と権威主義の単純な対立として説明することもできない。

ハイブリッド戦争や大国間競争の研究で知られるアンドリュー・コリブコによれば、いま問われているのは、今後数十年にわたって形成される国際秩序そのものの姿である。

この見方では、ウクライナは世界的な転換期を象徴する最大の地政学的実験場となっている。そこでは、一見すると相反する二つの力学が同時に進行している。ひとつは世界の多極化の進展、もうひとつは、新たな勢力圏の台頭に直面するアメリカが、自らの戦略的主導権を維持・強化しようとする動きである。

コリブコはこう述べる。

「世界システムが多極化へ向かう流れは、ロシアの軍事作戦以前から始まっていた。しかし、その後に起きた一連の出来事によって、その移行は前例のない速度で加速した。」

ただし彼は、西側の衰退を楽観的に語るわけではない。むしろ、ワシントンは欧州やアジアの同盟国に対する政治・軍事面での統率力を強めることで対応してきたと指摘する。

こうしてウクライナ戦争は、東欧の地域紛争という枠を超え、より大きな世界規模の覇権争いの震源地として位置づけられるのである。

◆ウクライナ――終わりの見えない消耗戦

コリブコは、この紛争が、ユーロマイダンへとつながった政治過程に伴う「ハイブリッド戦争」の段階から、大規模な通常戦争へと発展したとみている。しかし同時に、制裁、情報戦、外交的圧力、さらには新たなテクノロジーを通じて、ハイブリッド戦争の手法そのものは今なお機能し続けていると指摘する。

また、和平交渉の見通しについては極めて悲観的だ。アメリカとウクライナは停戦による戦線の固定化を目指している一方、ロシアはドンバス全域の支配が保証されない限り、いかなる合意も不十分だと考えているという。この戦略的な隔たりが、早期の外交的解決を難しくし、長期対立の危険性を高めている。

さらに彼によれば、モスクワは停戦が実現したとしても、それが西側諸国によるウクライナ再軍備の時間稼ぎとなり、将来的にロシアとの代理的対立を再開する準備に利用されるのではないかと疑っている。

その結果、この戦争は単なる一時的な危機ではなく、新たな欧州秩序を支える構造的要素の一つになりつつあるように見える。

◆ヨーロッパ――軍備を強化する一方で脆弱性も増す

コリブコの分析の中でも特に議論を呼びそうなのが、2022年以降のヨーロッパの立場に関する見解である。彼は、この戦争によってヨーロッパの戦略的自立性が高まったのではなく、むしろワシントンへの依存が深まったと主張する。

彼の見方では、欧州連合(EU)はアメリカ主導の安全保障体制の中で、より従属的な役割を担うようになった。ただし、その一方で欧州諸国には、防衛面でこれまで以上の負担と責任を引き受けることが求められている。

その文脈の中で、彼は三つの並行した動きを指摘する。

・イギリス主導による北極圏・バルト海地域の連携強化
・ポーランドによる地域的影響力の回復への試み
・トルコがコーカサスおよび中央アジアへの影響力を拡大する動き

コリブコによれば、この戦争はヨーロッパを安定化させるどころか、むしろ新たな地政学的再編の時代を切り開いた。そして、その帰結がどのようなものになるのかは、いまだ見通せないままである。

◆台湾――次なる世界的対立の火種

ウクライナが現在の最大の紛争だとすれば、台湾は将来における最大の緊張の焦点となるかもしれない。

コリブコは、米中対立はすでに経済や技術の領域を大きく超え、恒常的な戦略的対立の段階に入ったと考えている。

彼の分析によれば、トランプ政権は中国の台頭を封じ込めるため、いわば「アジア版NATO」とも呼べる枠組みの構築を進めている。一方の北京は、ウクライナ戦争から得られる軍事・経済・外交上の教訓を注意深く研究しているという。

その中でも特に重要なのは、たとえ同盟国自身に大きな経済的負担を強いることになっても、ワシントンが同盟国や友好国を結集させる能力を示した点である。

もう一つの教訓は、現代戦争を大きく変えつつある技術革新だ。コリブコは次のように語る。

「ドローンは、この世代の軍事革命を主導してきた。」

そして、もし台湾海峡で危機が発生すれば、その戦いは高度な技術色を帯び、無人システムがこれまで以上に大きな役割を果たすことになるだろうと予測している。

◆イラン、ベネズエラ、そしてハイブリッド戦争の拡大

コリブコの中東およびラテンアメリカに対する見方も、世界規模の戦略競争という枠組みの中で理解されている。

イランについては、ロシアと中国を中心とする結束した「ユーラシア陣営」が存在するという見方を否定する一方、両国の間に重要な協調関係があることは認めている。

彼の見解では、もしテヘランがワシントンとの関係改善に向かうならば、それはユーラシアの地政学的均衡を根本から揺るがすほどの衝撃をもたらす可能性がある。

一方、ラテンアメリカに関しては、アメリカがこの地域への関与を一段と強めているとみている。コリブコは、ニコラス・マドゥロの拘束(※原文の表現)を、西半球におけるアメリカの影響力を回復するための長期戦略の一環として解釈している。

彼はこの政策を「コンドル作戦2.0」と呼び、その目的は、ラテンアメリカをアメリカにとっての戦略的な資源供給地、市場、そして政治的安定の基盤として再編することにあると説明する。さらに、制裁、軍事的圧力、情報戦、選択的介入を組み合わせる手法は、彼が長年研究してきたハイブリッド戦争からの逸脱ではなく、そのより強力な進化形だという。

コリブコはこう主張する。

「目的は、抵抗する国々にアメリカの要求を受け入れさせることにある。」

◆多極化時代の課題に直面するブラジル

この世界的な勢力図の中で、ブラジルはグローバル・サウスを代表する重要なプレーヤーの一つとして位置づけられている。コリブコはブラジルを、正当な自主性への志向を持つ新興大国と評価する一方で、外部勢力の影響を受けやすく、国内には深刻な政治・社会的分断を抱える国でもあるとみている。

彼によれば、ブラジル外交の最大の課題は、アメリカ、中国、ロシア、その他の主要国との実利的な関係を維持しながら、激化する陣営間対立に巻き込まれないことである。

そのための参考例として彼が挙げるのが、インドの「マルチアライメント(多方面連携)」戦略だ。これは複数の大国と緊密な関係を築きつつも、自国の外交的自立性を損なわないことを目指すアプローチである。

コリブコは、ブラジルが優先すべき課題として次の三点を挙げている。

・戦略的重要資源に対する主権的管理を維持すること
・イデオロギー色を抑えた現実的な外交を展開すること
・国際的な大規模紛争に対して実利的な中立姿勢を取ること

◆形成されつつある新しい世界

アンドリュー・コリブコの見解には賛否があるだろう。しかし彼の議論は、国際社会が歴史的な転換期にあるという認識を、ますます多くの国際政治アナリストが共有し始めていることを示している。ウクライナ戦争、台湾海峡をめぐる緊張、中東の不安定化、そしてラテンアメリカをめぐる競争――これらはもはや個別の出来事ではない。

それらはすべて、「21世紀のルールを誰が決めるのか」をめぐる一つの世界的競争の異なる側面なのである。もはや問題は、世界が新たな地政学的秩序へ向かうのかどうかではない。その移行が、

・どのような条件の下で進むのか
・どの勢力が主導権を握るのか
・どれほどの代償を伴うのか

という点に移りつつある。そしてその過程において、ヨーロッパやラテンアメリカ、新興国は単なる傍観者ではいられない。

多極化が進展する一方で、それを抑え込もうとする圧力も強まるなか、自らの戦略的自立性をどこまで守り抜く意思があるのか――各国はその選択を迫られているのである。

▼執筆者:ビクトル・M・ロドリゲス
ジャーナリスト兼ディレクター:Pildoras Digitales 、ウルグアイ報道協会編集委員:APU

Fuente: https://siquesepuede.jimdofree.com/2026/06/11/hacia-una-nueva-guerra-fr%C3%ADa-ucrania-china-venezuela-y-la-disputa-por-el-orden-mundial/

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年6月16日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

『紙の爆弾』https://kaminobakudan.com/
『季節』https://www.amazon.co.jp/dp/B0GZZQWL9T/

日本メディアはなぜ現場に行かないのか ―― ウクライナ報道と『押し紙』構造が映す政権依存

黒薮哲哉

5月23日付のロシアメディア「Sputnik」(X投稿)は、日本政府が「自国の特派員らに対し」、ウクライナ軍による大学への攻撃について「現地での報道・取材を禁止したことを示す情報を、ロシア当局が入手した」と報じた。

実際、19カ国から約50人の記者が、ウクライナ軍による教育施設攻撃の現場を取材したが、日本の記者は一人も参加しなかったという。取材は、ロシア当局が記者団を現地へ案内する形で実施された。

ちなみに、BBCは公式に参加を拒否し、CNNは担当記者が休暇中であることを理由に参加しなかったという。

参加国は、米国、オーストリア、英国、フィンランド、フランス、ハンガリー、ドイツ、ギリシャ、スペイン、イタリア、中国、パキスタン、トルコ、カタール、レバノン、アラブ首長国連邦、キューバ、ベネズエラ、ブラジルなどである。日本だけが、一人の記者も参加しなかった。

日本のメディアが「政府広報」に近づいている実態が、改めて浮き彫りになった。取材をしたうえで記事化しないのであれば理解の余地はある。しかし、取材そのものを行わないのは異常である。どのような形であれ、まず現場に足を運び、事実を確認しようとするのが報道機関の原則ではないか。

◆メディアが政府広報に近づいている背景

日本のメディアが政府広報に近づいている背景には、新聞社(系列テレビ局を含む)が、公権力から経営上の優遇措置を受けている事情がある。そして、その優遇措置が廃止されれば、新聞社経営そのものが成り立たなくなる構造がある。

優遇措置の代表例として、次の点が挙げられる。

1.新聞に対する消費税の軽減税率(8%)。

2.教育現場での教材としての新聞の使用。これについては学習指導要領に記されている。

3.新聞の再販制度の維持。これが廃止されれば、販売店と新聞社の力関係が変化し、新聞社は「押し紙」政策を維持できなくなる。

4.押し紙」を事実上放置してきた国策。

「押し紙」が新聞業界にもたらす莫大な利益については、「メディア黒書」で繰り返し報じてきた。試算によれば、中央紙全体で「押し紙」率が20%の場合、利益は約424億8000万円に達する。40%であれば約850億円規模となる。しかも、これらは控えめに見積もった数字である。

【参考記事】「真村訴訟が暴いた新聞業界の『押し紙』構造――不正利益は400億円超、公権力によるメディアコントロールの温床に」

もっとも、「押し紙」によって生じる販売店側の損害の多くは、新聞社による補助金で補填されている。しかし、この仕組みが崩れれば、紙面広告価格の低迷に加え、販売店網そのものの維持も難しくなる。

※新聞社が補助金をカットすれば、販売店は「押し紙」で自滅する仕組になっている。

「押し紙」問題は、日本のマスコミを分析するうえで欠かせない要素である。単に新聞販売の問題ではない。ジャーナリズムの大問題なのである。仮に政府に対して本格的に批判的な新聞社が現れた場合、公権力は「押し紙」問題への介入をちらつかせることで、報道をコントロールできる。この構図がメディアコントロールの温床なのだ。

「押し紙」問題を解決しない限り、記者個人がジャーナリストとしての自覚を高めたとしても、真実の報道はできない。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年5月27日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

ロシアとインドの石油・天然ガスの貿易――「約96%が自国通貨で行われている」とロシアのシンクタンクが明かす。米国によるベネズエラとイランへの軍事介入の背景に、ドル建て取引の危機

黒薮哲哉

西側メディアはほとんど報じていないが、石油取引をドル以外の通貨で行う取引が急浮上している。石油の取引は伝統的にドルで行われてきた。この慣行は「ペトロダラー体制」と呼ばれ、1970年代にアメリカとサウジアラビアの間で成立した、安全保障と石油取引に関する合意を背景に形成されたとされる。米国が軍事支援を行う見返りに、石油のドル建て決済を採用するという合意である。

石油は全世界で使用されるうえ、石油によって生まれた利益がドル建てで投資などに回される事情もあり、米国経済に大きな影響を及ぼしてきた。ところが最近、非西側諸国において、ドル以外の通貨による石油取引が徐々に広がっている。

たとえば、ロシアのシンクタンク系メディア「Russian Pivot」は、インドの状況について次のように報告している。石油や液化天然ガス(LNG)の取引の「約96%が自国通貨で行われている」というのだ。重要部分を引用しておこう。

「2026年3月、インドによるロシア産原油の輸入は日量約206万バレルに急増し、前月比でほぼ倍増、過去最高水準に迫った。この増加は、インド全体の原油輸入が減少する中で起きており、中東での供給ショックによる意図的な代替が進んでいることを示している。

インドの原油輸入のほぼ半分が通過するホルムズ海峡を経由する供給の混乱は、ニューデリーに迅速な戦略見直しを迫った。従来日量約100万バレルを供給していたイラクからの供給は途絶し、サウジアラビアやクウェートからの供給も大幅に減少した。インドの精製設備に適合するロシアのウラル原油は、最も効率的な代替として浮上した。

原油以外でも、ロシアからインドへの液化天然ガス(LNG)の直接輸出再開に向けた協議が進んでおり、エネルギー面での相互依存はさらに深まっている。ロイターによれば、最終承認を経て数週間以内に合意が成立する可能性があり、ウクライナ紛争以降初めて直接的なLNG輸入が再開される見通しである。

特筆すべきは、すでにこの貿易の約96%が自国通貨で行われている点であり、ドルに依存しない金融メカニズムへの構造的な移行が進んでいることを示している。」

最近、SNS上には石油取引の決済通貨が、ドル以外に移行しはじめているという情報がかなりあるが、一応の裏付けはある。BRICsが独自の通貨を摸索していることは、西側メディアも報じている。

米国がベネズエラやイランといったロシアや中国に近い産油国に軍事介入した背景にも、これらの国の石油をドル建ての取り引きに留めたいという思惑があった可能性が高い。高市首相が将来的に米国から石油を買うと明言したことも整合する。

ベネズエラとイランへの軍事進攻は、トランプ大統領個人の思想や信条が招いたものではない。米国財界の要望である。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年4月7日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
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戦後日本の革命inピョンヤン〈8〉9月に感じる世界の不穏な空気 ──「窮鼠、猫を噛む」、「国際秩序を護る」戦争 若林盛亮

◆秋が大好きだった京都青春時代、そしていまは……

季節はもう秋。

9月に入っても今年の日本はいまだ残暑厳しいようだが、ピョンヤンの9月は涼気を感じる日々の始まりを告げる。9月初旬の日中は30度を上回ったが朝夕は涼しく中旬からはもうすっかり秋の色が濃い。

周辺の協同農場ではトウモロコシの刈り入れが終わり、田圃はたわわに実った稲穂の黄金色に染まり秋風が稲穂を優しく撫でていく、それは稲穂が風の接吻を受けているかのよう。

まさに「ロックと革命in京都」に託したラブソング、Stingの“Fields of Gold”の世界。

きっと君は僕を想う
風が大麦をなでるとき
嫉妬する空の太陽に言うんだ
黄金の世界を歩んだと
輝く世界に生きたと
二人の黄金の世界

「京都青春記」時代の私は季節といえば秋が大好きだった。それも紅葉も終わり落葉の晩秋から初冬の風情、枯れ葉をカサコソ踏みしめながら落葉後の枯れ木立の森を歩く……誰かと語り合いながら、ならもっと様になる。それが私の好きだった「枯れ葉と枯れ木立」の秋のイメージ。

それは枯山水とか「侘び、寂びの世界」とはちょっとちがう。たぶん「飾り立てるのがファッションかもしれないが、人の目を欺いてはいけない」、“悠久の黒”ファッションの山本耀司の感覚に近い。

「戦後日本はおかしい」── 敗戦でアメリカには頭を下げたがアジアには頭を下げなかった戦後日本、「アメリカに追いつけ追い越せ」の「飾り立てた」昼間の日本に違和感を持っていたのが京都時代の私、だから春や夏のように華やいだ季節はどこか肌に合わなかったのだろう。

世間的には「ひねくれ者」、屈折した青春というのかもしれない。でも本人はそんなことは意識もしなかった。当時はそれが私の自然体だと思っていたから。

“裸のラリーズ”水谷孝が夜の世界を歌い、「漆黒の闇にこそ真実と創造がある」というようなことを語っていたが、それと似ている心情世界だった思う。

そんな世界から心機一新、「革命家になる」! と「よど号」で朝鮮に飛んで来てからは四季折々の風情を楽しめるようになった。それだけ前向きになったということだろう。

ちょっとイントロダクションが長くなったが、今年の秋は風情を楽しむといった心境にはなれないというのが本題。

9月に入って不穏な空気を感じる事態が世界で起きている。

◆ゼレンスキー「最後の勝利のための4つの提案」に漂う不穏な空気

「ウクライナ『露に戦争終結を強制』」(2024年8月29日付け読売新聞)

8月27日、ウクライナのゼレンスキー大統領は「4つの最後の勝利計画」を発表、これを9月末の国連総会に合わせた訪米時にバイデン米大統領に伝えるとした。

その勝利計画の第一はロシア領内のクルスク州への侵攻、第二は米欧供与の長射程ミサイルのロシア領内への攻撃使用許可を得ること、第三はロシアに外交的に戦争を終わらせるようにすること、第四はロシアに経済的圧力をかけることとした。

目的は「ロシアに戦争終結を強制すること」だそうだ。これをプーチン大統領が聞いたら、それこそ「へそが茶を沸かす」、ちゃんちゃらおかしい「悪い冗談」と言うだろう。

だが最近の米国の動きを見ていると、それが「悪い冗談」と笑い飛ばせないものがある、いや「窮鼠(きゅうそ)、猫を噛む」の譬(たと)えにあるように「窮鼠」が何をやるかわかったものではない危険な空気を感じさせる。

ゼレンスキーの「最後の勝利計画」の核心は、第二の「ロシア領内攻撃への米欧供与の長射程ミサイル使用許可」を得ることにある。ゼレンスキーは「成否の鍵は彼(バイデン大統領)にかかっている」と米国の決意を促す強気を見せた。この強気は単なる「強がり」ではない根拠のある強気のように思える現実が生まれつつある。

これまで一貫して米欧はこの「使用許可」を与えなかった。ロシアとNATOとの全面戦争に発展することを恐れたからだ。事実、このゼレンスキー発言を受けてプーチン大統領は「もし米欧供与の長射程ミサイルがロシア領内攻撃に使用されたなら、この戦争は新しい次元に入る」、すなわち「ウクライナとの戦争からNATOとの戦争の段階に入る」と強い警告を発した。

にもかかわらず米欧は慎重姿勢を変え「使用許可」にゴーサインをする空気がいま生まれている。

9月13日、バイデン米大統領とスタイマー英首相がホワイトハウスで会談、この問題を協議した。会談冒頭でバイデン大統領は「プーチンは勝利しない。ウクライナが勝利する」と述べたそうだが、会談内容については「支援は必要な限り継続する」とのみ公表された。

この米英首脳会談を伝えたニューヨークタイムス紙は、「英仏が供与した長射程ミサイルでの攻撃を認める見込みだ」と報じた。ただし米供与の地対地ミサイル「ATACMS」使用容認については依然、慎重だと付け加えたが……。

これは米欧が「一線を越えた」ことを意味する。プーチン大統領の言う「新しい次元の戦争、ロシアとNATOとの戦争」に入ることも辞さない挙に出たとも言えるだろう。

この連載で私は米国は敗北確定のウクライナは諦めて「対中対決に集中する」だろうと述べてきた。だがどうも風向きが変わってきたのではないかと思う。

いまやウクライナの敗北は確定的と世界の誰もが見ている。ロシア領内侵攻という「鳴り物入り」のクルスク州一部地域占領も雲行きが怪しくなってきている。ロシア軍がゆっくりと攻勢をかけ始めた。「熊のお尻を蚊が刺した」程度と言われる「侵攻」だから急ぐ必要がないのだろう。でもロシアの発表では空挺部隊と海兵隊とで10部落を解放した。侵攻したウクライナ軍は援軍もなく挟撃の危険にもさらされているという。

昨年5月以来のウクライナ軍の「反転攻勢」は挫折して久しいどころかロシア軍の逆攻勢で後退に次ぐ後退を強いられている。東部の独立を宣言したロシア人居住地域、ドネツク州など、または南部の州もロシア軍が完全掌握するのは時間の問題だろう。兵器も慢性不足、かつ新たな徴兵令も「刑免除取引」に応じた刑務所囚人が応じたのがせいぜいの兵員不足に悩むウクライナ軍にこれを押し返す力はない。政権内の不協和音は拡大、国民の政権支持率も下落一途、徴兵逃れに必死の国民に戦う気力は期待できない。

このままでは「ウクイライナは惨敗必至」とウクライナ擁護の「識者」まで言い始めている。誰の目にもそうとしか映らない事態にまでウクライナは追いつめられている。

ウクライナのゼレンスキー大統領(wikipedia)

しかしながら9月に生じた新しい空気の変化は、米国がこの明確な「ウクライナ惨敗」のままで終わることをよしとしない決意を示したかに見える。なぜなら「ウクライナ惨敗」=「米覇権秩序の崩壊」不可避を意味する、そうなれば「対中対決に集中する」どころの事態ではなくなる、ゆえに敢えて「ロシアとNATOの戦争になる」危険を冒してでも「ロシアに惨敗」という現局面を変える、ここに米覇権死活の活路を求めた、そう見るべきではないのか。

しかしながら「ウクライナ支援」は、米欧日「G7」諸国以外の世界の諸国、特に絶対多数を占めるグローバルサウス諸国の反発を呼んで久しい。そのうえ「ロシアとNATOの戦争」ともなれば世界からの猛反対に合い、さらに国際的孤立を深めるのは火を見るより明らかだ。でもそれを押してでも「一線を越えざるをえない」ところまで「G7」の生命線「米覇権秩序」は窮状に追い込まれている。

まさに「窮鼠」! それが米国を中心とする「G7」グループ、いまや時代の遺物になった旧帝国主義列強諸国の現在位置だと言える。

また空気の変化を示すもう一つの根拠は、「私が大統領になればウクライナ戦争を24時間以内に終わらせる」、そして「対中対決に集中する」と言っていたトランプが大統領選で急に失速していることだ。9月の大統領選TV討論会でトランプは日頃の鋭気も冴えもなくハリスにいいようにやられた。かつての「いまトラ」「確トラ」から「いまリス(ハリス)」へと急変の事態もどう見ても異常だ。ハリスはバイデン路線の継承者、「ウクライナ支援は継続」論者だ。「確トラ」から「いまリス」への急変も「ウクライナ惨敗」で終わらせてはならない、そのためには「戦争が新しい次元に入る」ことがあろうとも米覇権の命運をここに賭けざるを得なくなった窮余の米国の「決心」の反映と見るべきではないだろうか。

だとすれば、ウクライナのロシア領内攻撃への米欧供与の長射程ミサイル使用を引き金に「ロシアとNATOの戦争」になる。それがどういう形になるかいまはわからない。

例えば、ロシア軍占領の東部、南部への「反転攻勢」にNATO軍が加勢する、少なくとも英仏独軍、在欧米軍が劣勢挽回のための軍事的支援、新鋭航空機と飛行士、新鋭ミサイルを扱える部隊を送るくらいはやらねばならないだろう。これに対してロシアはどう対抗措置をとるか? 英仏独の軍事基地や在欧米軍基地への攻撃だってありえないことではなくなる。

米国がどこまで勝算があってやるのか? おそらくそんなものはないだろう。文字通り「窮鼠、猫を噛む」だからかえって危ない。

この9月に生まれた不穏な空気が果たしてどうなるのか? 

その一つの指標は9月24日の国連総会出席で訪米するゼンレンスキーに米欧がどう回答を出すかだろう。すでに米国は国連総会出席の欧州関係国首脳らと「ロシア領内への米欧供与の長射程ミサイル使用許可」問題を協議するとしている。この結果を注視する必要があるだろう。

◆日豪「準軍事同盟国」化の意味

ウクライナをめぐる対ロ戦争に集中するとはいっても、それは窮余の策ということで「対中対決に集中」は一時棚上げしただけで「中国征伐戦争」を放棄するわけでも放置するわけでもない。米国の覇権秩序瓦解からの回復戦略でその主敵はあくまで中国だということに変わりはない。だからその最前線を担うことになる日本への「国際秩序を護る」戦争国化、対中代理“核”戦争国化要求は強化されることはあっても弱化することはありえない。

9月5日、メルボルンで日豪の外務・防衛担当閣僚会合「2プラス2」が持たれた。

日本は豪州を米国に次ぐ「準同盟国」と位置づけているが、今回は対中対決の「準軍事同盟国」化に大きく一歩を踏みだした。

「『敵基地攻撃』豪と協力 艦艇受注も目指す」(2024年9月6日付け朝日新聞)

その一つは「敵基地攻撃能力」での両国間の協力深化を確認したことだ。

具体的には「敵基地攻撃能力」の核心である敵の射程圏外から攻撃可能なスタンドオフ・ミサイル(中距離ミサイル)活用面での協力、豪州の広大な領土での陸自新設のスタンドオフ・ミサイル部隊の試射を行うことなどに合意した。

また一つは、自衛隊に新設が決まった統合作戦司令部稼働に向けて、11月には現在の自衛隊統合幕僚監部から豪軍の統合作戦本部に連絡官の派遣を合意した。対中戦争時の作戦指揮での連携体制確立によって、在日米軍に新設の統合軍司令部の指揮下で日豪軍が有事作戦行動をとれる体制を築いたということだ。

これは日豪間には日米安保同盟のような軍事同盟関係はないが、実質的には「準軍事同盟」関係に入ったことを意味するものだ。もちろん対中戦争を念頭に置いた「準軍事同盟」だ。

こうした日豪政府の動きの背景には米国の同盟関係転換政策、“ハブ&スポーク状”同盟から“格子状”同盟への転換がある。これについてはこの連載⑥で触れた重要なことだが、とてもわかりにくい概念なので重複を恐れず少し説明させていただく。

“ハブ&スポーク状”同盟とは、自転車の車輪の中心部のハブ、そのハブにつながる無数のスポークが車輪を支える構造に譬(たと)えた同盟構造を指す。ハブとなる中心に米国があってその中心から伸びるスポーク(同盟)で各国がつながる、つまり米国が各国個別に同盟を結び、各国が軍事大国、米一国に依存する同盟関係を指す。

“格子状”同盟とはインド太平洋地域の日韓、日比、日豪が格子状に重なるような同盟構造への取組を行うことだ。もちろん各国は米国と同盟関係にある、だが「米国だけに頼るな」ということ、この地域各国が相互に「独自の同盟関係」を結びアジアでの米覇権秩序を守れということだ。米国の要求は日本が基軸になって各国と「独自の同盟関係」を結ぶことだ。もちろんこの各同盟への指揮権は米軍が握る、そしてこの同盟の矛先は中国だ。

これはいわば「アジア版NATO」に向けた取組と言えるだろう。言葉を換えればアジアにおける対中代理戦争体制だと言えるだろう。余談だが自民党総裁有力候補の石破茂氏は「アジア版NATO」を自己の基本政策課題に挙げている。

今年7月には日本は豪州に続きフィリッピンを「準同盟国」級に格上げし、共同軍事演習への道も開いた。ゆくゆくは日比軍事同盟化が米国の要求だ。しかし日韓、日比、日豪間で軍事同盟を結ぶに当たっては日本の憲法9条がネックになる。有事の際に「戦争のできない日本」、自分と一緒に戦ってくれない日本とは韓国もフィリッピンも豪州も安保軍事同盟を結んでくれはしない。ゆえにこの格子状同盟形成面からも「9条改憲」(実質改憲も含め)が日本に迫られる。これについてはここでは触れない。

何が言いたいかといえば、対ロ戦争に集中するであろう米国だが、アジアにおける対中戦争準備は着々と推進される。

それは4月の岸田訪米以降の日米同盟新時代、「国際秩序を護る」戦争に「最も近い同盟国」日本がアジアで中心的役割を果たすこと、言葉を換えれば「東のウクライナ」の役割を果たすことを迫られることには何の変化もないということだ。

9月の日豪「準軍事同盟国」化に進んだ事実がそのことを証明している。

◆結びとして一言 

今回のテーマは“9月に感じる世界の不穏な空気「窮鼠、猫を噛む」、「国際秩序を護る」戦争”だが、アジアで「国際秩序を護る」戦争の最前線に立たされるのがわが日本だということを強調しておきたい。

いま秋の政局の季節、9月の自民党総裁選、立憲民主党代表選から10~11月に予想される解散、総選挙がある。しかしいまだ岸田首相国賓訪米に始まる日米同盟新時代が迫るわが国の「国際秩序を護る」戦争国化、対中・代理“核”戦争国化が政治争点になることはない。しかし国民の目に見えない形で、あるいは「専守防衛の範囲内」と国民を欺く手法でそれは着々と確実に進められている。

石破茂氏が「アジア版NATO」に触れるとか、高市早苗氏が「核持ち込み容認論」を唱えるとかはあるが、それは断片的な個人的見解の域を出ず、核心をついた議論は避けられている。自民にせよ立民にせよ総裁や代表をめざす政治家なら日米同盟新時代の要求が何かを知らないはずがない。そういう意味で私には既存の与野党政治家は国民を欺いているとしか思えない。

「国際秩序を護る」戦争国になるなど国民が認めるはずがない、ましてやそのための9条改憲や非核の放棄など言えば、国民的反対にあって対中・代理“核”戦争国化などいっぺんに吹っ飛んでしまう。だから政治家はわかっていても正面から国民には問わないで政治家同士で事を決めてしまう。

石破茂氏のTV討論での発言はその典型だ。「9条第二項・交戦権否認、戦力不保持の削除」改憲は必要だが、改憲を問う国民投票にかけるには長い時間がかかるから安全保障基本法でそれに代える(実質改憲をやるということ)、それを国会で審議、採択すればよい」-つまり日米基軸で一致する議会内の政治家同士の談合で決める、国民は適当な説明で欺けるといういまの政治家心理の露骨な表現だと思う。

泉房穂さん式に言えば「いったい誰の顔見て政治やっとるんや」だが、アメリカの顔を見て国民の顔は見ない、それが「日米基軸は不変」が口癖の既存政党の政治家たちだ。もちろん既存の政党(自民も含め)にも良心的な人たちもいるだろうが、その人たちの声は聞こえてこない。「支持政党なし」、無党派層が絶対多数という現実にあって国民の顔を見てアメリカに堂々と「ダメなものダメ」と言える政治家が出る時、いや出なければならない時だと思う。

そんな政治家が各選挙区に出れば、既存の政党、政治家に愛想を尽かした国民、特に無党派層はまちがいなくその人に投票するだろう。政権交代だって夢じゃない。

瓦解に向かう米覇権秩序、それと運命を共にする「国際秩序を護る」戦争とわかればそれに賛成する日本人はいないだろう。

「言うは易し行うは難し」だが、それを国民に明らかにし正面から問う、そして正しい日本の進路を示す、そんな政治家が必ず出てくると信じたい。

「またピョンヤンからの遠吠えか」と言われそうだが、もっと心に刺さる「遠吠え」を私も心がける決意で、これからも吠えつづけていきたいと思う。

客観的には米覇権秩序瓦解の時代、「米国についていけばなんとかなる時代」は終わったのだから、「戦後日本の革命」はすぐ近くまで来ている! このことを確信するから……

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

◎ロックと革命 in 京都 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=109

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

2023年を顧みる〈3〉ウクライナ戦争もパレスチナ戦争もこの国も、いっこうに先行きが見えない 横山茂彦

◆三里塚で52年ぶりの強制執行

52年ぶりに、三里塚(成田空港周辺)で強制執行があった。来年で開港から45年、空港反対運動が連綿とつづいてきたことに、愕いた人たちも多いことだろう。

反対運動は83年に反対同盟が分裂し、その後も再分裂や部落単位の移転など、反対運動のスタンスも変化した。絶対反対から騒音問題の条件闘争まで、獲得目標も分化している。

とはいえ、80年代に政府が空港建設過程の強引さを一部の反対同盟(熱田派)に謝罪し、「空港建設に強制的な手段は用いない」という和解協議は、反対運動全体の成果として準用されるべきであろう。

日本の国際空港は、国際基準の第一種だけで4つ(羽田・関西・中部・成田)ある。仙台・佐賀・福岡も運営会社は「国際空港」であり、国際路線をもっている空港は18もある。羽田に代わる国際空港(ハブ空港)として期待された成田空港は、旅客数では羽田の半分となってしまっている。

今後も反対運動が止むことはないと思われるが、そうであれば地域との共生や農業活性化と観光旅行を結びつけるなどの、新しい資源活用がもとめられるのではないか。いまも三里塚・芝山の山林と農地は美しい。

◎生きている三里塚闘争 52年ぶりの強制収用(2023年2月18日)

◆工藤会館跡地を「希望のまち」に

工藤會幹部の裁判方針(控訴審)に変化があった。死刑判決を受けた野村総裁を庇うように、田上会長が自分の判断で犯行を指示した、と教唆犯として罪をかぶろうというものだ。本人たちの言葉を引用して、その方針変更を確認しておこう。

野村被告と田上被告は一審の弁護士を全員解任し、公判方針も変えている。田上被告が「自分が野村に相談することなく、独断で事件の犯行を指示した」と、つまり野村悟の死刑判決を回避するために、罪をかぶることを宣言したのである。

主張を変えた契機は「弁護士から被害者のこと、私の指示で長い懲役に行った(組員の)ことに向き合うことが本当ではないかと言われました。もう本当のことを話そうと思って、決めました」であると述べた(9月27日・控訴審の田上被告人質問)。

そのうえで、「(被害者に)本当に悪かったと思います」と謝罪し、獄死は覚悟していると述べた。

野村被告は「襲撃の指示もしていないし、事前に襲撃する報告も受けていない」と、改めて事件への関与を否定した。

当初、弁護団のなかでも「無罪は確実」とされてきた。共同謀議の具体的な証拠・証言がなく、工藤會の親分子分の絶対的な関係から、推論して指示があったに違いない。あるいは子分が慮る関係が、共同謀議とみなせるというものだった。

一般社会に当てはめると、社員の犯罪はすべて指揮関係にある上長の責任、ひいては社長の責任とする論理の飛躍は明らかなが、それが昨今の暴力団裁判なのである。

田上会長が「獄死は覚悟している」と述べているとおり、この裁判で無罪が得られることはなく、出獄(保釈)も無理であろう。かつて、溝下秀男総裁時代に取材した者として、ある意味で歴史的な判例となるこの裁判を見守っていきたい。

◎《工藤會レポート》最高幹部裁判の方針変更 工藤会館跡地を「希望のまち」に(2023年10月11日 )

◆鹿砦社の広告(『人権と利権』)の掲載を『週刊金曜日』が拒否

デジタル鹿砦社通信で、筆者が編集長を務めていた『情況』誌の紹介をさせていただいた(謝)。さて、その中で強調したかったのは、広告掲載でした。すなわち、鹿砦社の広告(『人権と利権』)の掲載を『週刊金曜日』が拒否したことについて、掲載拒否が結果として差別につながると指摘しました。その核心部を、すこし長くなりますが、引用しておきます。

『情況』は鹿砦社様の広告を表3(巻末)に定期掲載しています。『週刊金曜日』が当該者(団体)の抗議で、鹿砦社の広告を拒否した契機となった『人権と利権』も掲載しています。当然のことです。ご出稿いただいていることに、あらためて感謝するものです。

明らかに差別や人権侵害を目的とした刊行物でないかぎり、その表現や主張に、結果として差別的な内容・人権侵害的な内容が含まれていたとしても、誌上で批判・反批判をするべきです。そこにこそ、イデオロギー闘争としての「反差別」「人権擁護」が成立すると考えるからです。

したがって、今回の『週刊金曜日』の措置は、ファシストの焚書行為に相当するものと、わたしは考えます。『人権と利権』は運動内部に存在する「利権」を暴き出し、健全な反差別運動の発展をめざす視点から編集されていると、一読してわかるものです。

内容に誤りがあり、あるいは不十分であると考えるならば、批判の論攷を書けば良いのであって、人の眼に触れさせないのは矛盾の隠ぺい、自由な批判を抑圧するものにほかなりません。

反差別運動の基本は、現代社会が資本主義の景気循環において相対的過剰人口を生み出し、そこにレイシズムの歴史的ファクター(差別意識)が結合することで、差別を再生産する社会であること。この基本認識があれば、差別を排除するのではなく俎上にあげて、分析・批判することを通じて、差別意識を変革していくことが求められるのです。

差別は個人・組織が起こすものですが、差別社会にこそ原因があることを忘れるならば、差別者のキャンセル、排除によって変革を放棄し、結果的に差別を温存することになります。すなわち『週刊金曜日』の今回の措置(広告拒否)こそが、差別を温存・助長するものにほかならないのです。

◎《書評》変革のための総合誌『情況』2023年夏号 新しい論壇誌のスタイルへ 鹿砦社の広告への反応にもご注目(2023年8月30日)
 
◆重信母娘を「テロリスト」と呼んだ駐日イスラエル大使

ウクライナ戦争が継続する中で、またひとつ苛烈な戦争が拡大した。パレスチナ紛争における、イスラエル軍のガザ侵攻である。

イスラエルのギラッド・コーヘン駐日大使が、「報道1930」(TBS)にジャーナリストの重信メイ氏が出演したことを問題視したことについて、パレスチナ紛争を筆者なりに解説した。

◎重信母娘を「テロリスト」と呼ぶイスラエルの侵略者 ── ウクライナ戦争と比べてみれば、侵略者の傲岸な様相がわかる(2023年10月24日)

ウクライナ戦争と比較してみれば、わかりやすく読み解けるはずだ。イスラエルは軍隊の力で入植地を拡大し、膨大なパレスチナ人が「難民」として郷土から追い出されているのが、パレスチナ紛争の歴史であり実態である。

重信房子は当初はボランティアとして、のちにはPFLPを支援する義勇兵(日本赤軍)としてパレスチナで活動した。これをウクライナに当てはめてみると、ウクライナ軍に参加、あるいは提携しているポーランドやロシア(反プーチン)の義勇兵と同じである、いま、プーチンはこれらの義勇兵たちを「テロリスト」と呼ぶ。イスラエル駐日大使の「テロリスト」呼ばわりは、まさにプーチンと同じなのである。

記事ではあまり問題にしなかったが、「『殺人者やテロリストの一族に発言の場を与えるべきではない』(駐日大使)というのであれば、犯罪者の子供は許さないの(犯罪者差別)と同じである。目下、重信房子の『パレスチナ解放闘争全史』を編集中。

◎重信房子『はたちの時代』編集後記 ── 読書子への感謝に代えて(2023年8月12日)

◆最後に

ウクライナ戦争もパレスチナ戦争も、いっこうに先行きが見えない。国内では自民党各派閥(とくに安倍派)のパーティー券キックバック問題が浮上してきた。自民党は総裁選を控えて、いっそう混乱することだろうが、再生力のある党でもある。来年も熱い一年になるであろう。みなさま、よいお年を。(完)

◎横山茂彦-2023年を顧みる〈全3回〉
〈1〉ウクライナ戦争の現実に、世界史を目撃する
〈2〉過激なまでに右派シフトしても自民党支持者に不人気だった岸田政権
〈3〉ウクライナ戦争もパレスチナ戦争もこの国も、いっこうに先行きが見えない

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年1月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年冬号

2023年を顧みる〈1〉ウクライナ戦争の現実に、世界史を目撃する 横山茂彦

◆はじめに

この一年を回顧する時期がやって来た。ウクライナ戦争が二年目を迎え、パレスチナ紛争は本格的な「内戦」、シオニズムとパレスチナとの戦争状態(ジェノサイド)に入った。この一年を顧みながら、われわれがどのような世界を生き、どのような時代にいるのかを確認しておきたい。

ウクライナ戦争は6月からウクライナが反転攻勢に出たことで、長期化は必至となった。ベトナム戦争が反仏独立闘争からアメリカの本格介入、そして1975年のサイゴン解放まで30年、ソ連のアフガニスタン侵攻が終結するまで10年、アメリカのアフガン介入が20年、そしてパレスチナ紛争が75年という長いタームを持っていることを考えるとき、ウクライナ戦争は数年、数十年単位の長期化が予想される。いや、すでにドンバス戦争・ロシアのクリミア併合から10年が経っているのだ。

さて、ウクライナの反転攻勢という事態のなかで、われわれが注目してきたのはブリゴジンのワグネルだった。ワグネルという名称は、ヒトラーが好きだったリヒャルト・ワーグナーに由来するという。

◎勇者たちは地獄に堕ちるのか? ロシアの民間軍事企業「ワグネル」創設者プリゴジンはプーチンに粛清されるかもしれない(2023年5月27日)

今年の5月段階で、ブリゴジンは国防相と参謀総長を激しく批判した。この兆候がロシア軍の崩壊の序曲ではないかと、ナチスドイツのヒトラーとエルンスト・レームの関係になぞらえたのが、この記事である。反乱は起きるであろう。国防軍とナチス突撃隊の関係と同様に、ロシア軍とワグネルは、どちらかが生き残り相手をせん滅するしかない、矛盾した存在だったのである。

そして独裁者は、たとい友情をつちかった盟友であっても、ナンバー2になろうとする者をゆるさない。ましてや国軍を批判する民間軍事組織は、叛乱のファクターとして排除するであろうと、記事で指摘してきた。

あにはからんや、われわれの予測は的中した。ブリゴジンが反乱を起こしたのである。

◎スターリン流の粛清劇がはじまる プリゴジンの反乱 ── 熾烈な権力闘争の行方(2023年6月28日)

◎クレムリンで何が起きているのか? 飛び交うプリゴジン死亡説とプーチン逮捕の可能性(2023年7月21日)

◆プリゴジンの反乱 粛清か、政治危機の深化か。熾烈な権力闘争

われわれがブリゴジンとワグネルに注目してきたのは、かれらがロシアの伝統的な人海戦術を体現していたからだ。すなわち、スターリン時代のロシア陸軍(ソ連軍)は、戦車のハッチをハンダ付けすることで乗員の脱出を禁じ、徹底的に戦うことを強要したのである。今回の戦争で、ワグネルはウクライナ兵の位置を知るために丸腰で最前線の標的にされたという(懲役囚捕虜の証言)。

そしてその証言にみられるように、旧ソ連軍が懲役囚を最前線に送り込んだのと同じ動員構造、労働編成であることがわかる。

この構造が崩壊したときに、おそらくロシア軍は組織的に崩壊するであろう。日本でもガダルカナル島の飛行場建設には、この動員構造が用いられた。その後、陸軍組織そのものが崩壊したのだった。

さて、ブリゴジンとワグネルは、われわれが予測したとおり反乱を起こした。

ワグネルの宿営地がロシア正規軍のミサイル攻撃を受け、プリゴジンは報復としてロシアのヘリコプターを撃墜して13名を殺害した。そしてプリゴジンは軍幹部の粛清をもとめて、モスクワ進軍を開始したのだった。

その過程で、ブリゴジンは地域の政治集会を開催し、政治的支持を取り付けることを怠っていない。単なる軍事的反乱ではなく、政治的反乱すなわちクーデターの企てだった。

記事から引用しよう。

このワグネルの「行進」がムッソリーニのローマ進軍(国王エマニエーレ3世による総理指名)、ヒトラーのミュンヘン一揆(失敗・投獄)に倣い、政変をめざしたのは明らかだったが、プーチンに「裏切り」と断じられ、検察当局が捜査を開始した段階で、部下に撤退を命じた。クーデターは未遂におわり、プリゴジンはベラルーシに「亡命」したと伝えられている。

この「亡命」劇は、ただちに粛清に乗り出せないプーチンが、盟友ルカシェンコ(ベラルーシ大統領)と相談の上、収拾策に出たものだ。プーチンの政治力の低下を指摘する声は多い(西側首脳)が、軍事衝突を回避した手腕は独裁者の冷徹を感じさせる。プーチンは政治危機を脱したのだ。

しかし、上記の記事でも明らかにしておいたとおり、独裁者はけっして反乱をゆるさない。血の粛正がいつ、いかなる形で行われるのかが焦点となった。そして、その時がやってきた。

◎《緊急報》プーチンがプリゴジンを爆殺 やはり独裁者は裏切りを赦さなかった(2023年8月25日)

もはやわれわれは、事実関係を報じた記事において、事件の本質を知ることになる。

モスクワの北西部にあるトベリ州で23日、ビジネスジェットが墜落した。

このビジネスジェットは、ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジンの所有で、タス通信はロシア連邦航空局の情報として、乗客名簿にプリゴジン氏の名前があったと伝えた。

また緊急事態省によると、ジェット機には乗員3人を含む10人が搭乗していたが、全員が死亡したとみられる。連邦航空局の発表は事件の一時間後であり、事前に知っていたかクレムリンからの情報と考えられる。通常、連邦航空局は事件を実地調査しないかぎり、発表しないからだ。

独立系メディアによると、ジェット機はモスクワ郊外から飛行していた。高度8500メートルを飛行中、突然墜落したという。ということは、間違いなくミサイル攻撃である。

このミサイル攻撃という過酷な粛正劇は、政治ドラマの一幕を観ているような気分だった。ヒトラーの「長い夜」を称賛したスターリン。そのスターリンを称賛するプーチンにおいて、現代のナチス政治、ヒトラーの政治手法が再現されたのである。世界史を目撃するとは、こういうことなのだろう。(つづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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