竹中労の『タレント帝国』(1968年)は、わが国芸能界の暗部を抉ったとして伝説の書です。

しかし、長らく絶版状態でした。昨年ジャニーズ問題が起きたことで、臭覚の強い編集者が関心を持ち、このたび復刻出版を行いました。私がやりたかったぐらいです。うっかりしてました。

これを見ると、初代ジャニーズが渡辺プロに所属していたことが記載され(知らなかったです。以前に読んだ際に読み飛ばし記憶していませんでした)、本書旧版が出された頃にすでに未成年性虐待問題が起きています。

竹中労の著書としては『芸能人別帳』『ルポライター事始』(竹中労の著書は現在、ほとんど入手困難ですが、これら2書はなんとか入手できます)などと共に必読の書です。

故・竹中さんの著作権を引き継いでいらっしゃる夢幻工房の会が本書に寄せた解題を転載いたします。(松岡利康)

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50年以上の年月を経ても変わらない「芸能の論理」から現代を考える

 

竹中 労(たけなか ろう)1930年生まれ。91年死去。フリーのルポライターとして活躍。政治から芸能まで広い分野をテーマに、権威とは無縁な時代の心性を掘り起こす文章は、竹中節として多くの読者を魅了した。父親は画家の竹中英太郎。主な著書に『黒旗水滸伝』『山谷・都市反乱の原点』『琉球共和国』『世界赤軍』『ビートルズ・レポート』『にっぽん情哥行』等多数(写真は紙の爆弾2019年11月号増刊『一九六九年 混沌と狂騒の時代』より)

本書は1968年(昭和43年)に刊行され、復刻の要望も多かったものの、なかなか実現しませんでした。

その原因として、具体的な芸能プロの内幕やタレントのギャラについて、こと細かに書かれている点があります。

それについて、実に下世話な内容だと思う方もいるかも知れません。

ただ当時は、皆がこうした芸能プロの仕組みを知らず、ここまでデータを明らかにしなくては、当時の渡辺プロダクションおよびその関連企業の実情を理解しにくいと考えたことがあるのではと思われます。「今回の復刻にあたりましては、刊行時から相当時間が経過していることもあり、あくまで当時のデータとして、当時のことを知っている方は懐かしく、知らない方は当時の状況に思いを馳せながら読み進めていただければと思っております。

そんな中、2023年になってイギリスBBCのドキュメンタリー放送をきっかけとして、ジャニー喜多川氏の所属タレントに対しての行動が問題視され、思わぬところから当時の「ジャニーズ」に対する彼の行為を記録したこの本が注目されることになりました。

その内容は当時の記録として貴重ですが、本来この本で著者が訴えたかったことは「芸能における搾取の実態」と「スターという虚像の本質」が何であるか? ということにあることも、忘れないでいただきたいと思います。

この本が世に出てから55年という歳月が経過しているわけですが、今でも個人タレントの力が弱いという現状はそのままです。さらには、大手所属のタレントが不祥事を起こしてもマスコミは一切報じないとか、大手事務所がテレビ局に自前のタレントをねじ込み、他社所属タレントのキャスティングに文句を付け、それに反発すると、反発した人や対抗するタレント自体にも圧力をかけるような事例は、今でもあまり変わっていません。

本来、タレントとは才能ある人のことであり、そうした才能を持つ人が脚光を浴びるようになることがショービジネスの世界で当たり前でなくては、見る側も最高のエンターテイメントを楽しむことができなくなります。

イギリスでは有名なオーディション番組において、ポール・ポッツ氏やスーザン・ボイル氏が世界的な話題となりましたが、日本では同じフォーマットを使っても彼らのような才能を世に送り出すことは難しいのではないでしょうか。

明らかに才能を持っていてもそんな人を世に埋もれさせてしまうことなく、きちんと世の中に出してあげるためにはどうすればいいのか。イギリスと日本との「差」はどこにあるのか、本書を読んだ方ならきっと十分に理解していただけるのではないでしょうか。

また、本書の内容は、芸能の世界だけにとどまるものではありません。芸能人も私たちも同じように働き、賃金を得ているわけですが、それが中抜きされたり、きちんと払われなかったりした場合は同じように異議申し立てをする権利があります。それは一般の社会と変わることはありません。

さらに言うと、昔も今も政治家の力を利用して各方面に圧力を掛けてくるのは芸能プロだけではありません。当時の芸能マスコミを含め、関わった人たちが未だ口をつぐんでいる現状について、今も竹中労さんの問いかけが続いているからこそ、当時と同じような理不尽なことがあちこちで起こり続けているのではないでしょうか。
目の前の不正にどう対処するか、一人ひとりの考えが問われているのが今の時代ではないかと思うのです。

著者の竹中労さんはアナキストと称し、左翼として発言してきました。

今ではこうした「左」という言葉自体に反発を覚える方もいるかも知れませんが、才能のある人を世に出したり、労働者が法に則った賃金を要求することは思想とは関係なく、至極まっとうな話であることに異論を挟む余地はないはずです。

本書には言葉遣いなど、現代の判断において時代的に合わない部分もあるかと思いますが、著者がこの本で何を言いたかったのかを考えながら読んでいただければ幸いです。

夢幻工房の会

竹中労『復刻版 タレント帝国 芸能プロの内幕』(あけび書房)

復刻版 タレント帝国 芸能プロの内幕
著者・編者:竹中労

ジャニーズ性加害事件をいち早く告発した幻の作品。
政界とメディアと癒着した「芸能における搾取の実態」と
「スターという虚像の本質」へ迫る筆致は今もなお色あせない筆致で、56年ぶりに復刊。

発売日 2024年4月3日 四六判 248ページ
定価1980円(税込み) 版元 あけび書房

目次
芸能プロとは何か
ナベ・プロの戦後史
芸能界の「聖域」
繁栄の裏側
虚像を斬る
〈解題〉50年以上の年月を経ても変わらない「芸能の論理」から現代を考える

あけび書房 https://akebishobo.com/products/talent
amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4871542629

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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年5月号

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/
◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHF1Y6S1/

「まーすーみーさーーーん!」 3月中旬、朝の大阪拘置所前。

今にも雨が降りそうな悪天候。静けさが漂っていた空間に突如、明るく大きな声が響きわたった。

声の主は「眞須美さんコール」のメンバー。毎月1回、拘置所の中にいる和歌山カレー事件・林眞須美さんに向かって声援を送っている。

思いを声に出し届ける女性

※確定死刑囚として大阪拘置所に収監中だが、一貫して無罪を主張していること、動機が未解明であること、自白がないこと、直接証拠がないことなどからあえて林眞須美さんと表記する。ご理解いただきたい。

2月20日に和歌山カレー事件の再審請求が受理されたとのニュースがマスコミ各社で報じられてから初の眞須美さんコール。自然とメンバーに気合いが入った。

眞須美さんコールに合わせ、再審開始や面会の許可を訴えるグッズを多数用意。濃紺とピンク、2枚の横断幕に加え、段ボールで手作りしたものもあり、メンバーで手分けして道路へ向けて持った。

眞須美さんに聞こえますように──。 そんな思いで、近隣住民に断りを入れた上で、拡声器を持ってそれぞれ気持ちを伝える。あるメンバーは、サックス演奏を眞須美さんに届けようと、精いっぱい心をこめて演奏する。

「林眞須美さんは一貫して無実を訴えておられます。どうか再審請求の道が開かれ、再審無罪が勝ち取れるよう、心から願います」(男性)

「眞須美さん。お変わりありませんか。(中略)眞須美さんの長男さんのTwitter(現X)を見ています。多くの人が見て、眞須美さんが冤罪であると考え直してくれることを願っています。また来ます」(女性)

「眞須美さん聞こえますか? 再審請求受理のニュースを見ました。1日も早く眞須美さんの再審が開始されることを心から願っています。ずっと応援しています。風邪引かないでください」(女性)

拘置所前に集まった支援者

再審請求受理のニュースが大きかった影響か、拘置所前だけ徐行して様子を眺める乗用車の中の人々、立ち止まって聞き入る親子連れ、近隣住民の姿がいつも以上に多いのが印象的だった。

声や演奏は、眞須美さんにしっかりと届いている。

眞須美さんコールから2日後、眞須美さんが長男に送った手紙の中に、このようなメッセージが綴られていた。

「くもり空の窓外より、マイク音や心知よい音楽が流れてきて、ラジオを切り、耳をすましてききいって過ごしました。毎月スゴイネ!! リズムのいい流れのいい音楽に(ニッコリ) 雨が今にもふりだしそうで……外はさむいのかしら……」? (原文ママ)

眞須美さんから長男へ届いた手紙(長男提供)

眞須美さんコールのメンバーと眞須美さんは、その日、その時間、同じ空を見上げていた。同じ空間を確かに共有していた。

大きな空の下で通じ合っていたのだ。

会えなくても、塀にさえぎられていても、双方にとって大きな励みとなった1日だった。 拘置所で過ごす眞須美さんへ思いが伝わっていることが、彼ら彼女らにとって手応えになっているに違いない。

眞須美さんコールのメンバーは、コールの最後をこう締めくくった。

「ますみさーーーん!」「ますみさーーーん!」

「また来まーーーす」「元気でいてくださーーーい」

▼紀多 黎(きた・れい)[写真・文]
幼少期から時事問題について議論する家庭で育つ。死刑制度や冤罪事件への関心が高い。好きな言葉は「見えるものではなく、見えないものに目を注ぐ」。

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

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◎鹿砦社HP https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000733

15回目の絆興行、前会長の松永嘉之氏から代わって大月謙会長が率いる絆興行としては2回目になります。

メインイベンター石川直樹は、昨年のような圧倒の大差判定勝利とまではいかずとも、首相撲からのいなしとヒザ蹴りは健在だった。

◎絆 XV / 2024年3月31日(日)ふれあいキューブ 16:00~18:54
主催:PITジム / 認定:ニュージャパンキックボクシング連盟

(戦績は興行プログラムよりこの日の結果を加えています。他、経歴は不詳)

◆第8試合 54.0kg契約 5回戦 

石川直樹(元・日本フライ級Champ/Kick Ful/1986.8.18春日部市出身/ 53.1kg)
46戦26勝(12KO)10敗10分
      vs
山川敏弘(京都野口/ 53.85kg)19戦8勝(4KO)9敗2分 
勝者:石川直樹 / 判定3-0
主審:多賀谷敏朗
副審:松田50-47. 中山49-48. 児島49-47

初回の両者は距離を置いて様子見。パンチで前進する山川敏弘に対し、石川直樹は前蹴りやハイキックも牽制で繰り出す。

第2ラウンドから石川は徐々に距離を縮め、首相撲に移る展開も見られたが、ヒザ蹴りには至らない。

中盤には石川の組んでの崩し転ばせること四度と自分のリズムを作り出し、数は少ないがヒザ蹴りに持ち込む主導権を奪う流れを作り出して攻勢を維持。

接近戦では石川直樹のヒザ蹴りが活かされるヒット

首相撲からの崩しでヒザ蹴りを入れる石川直樹

最終回には勝負に出る両者。山川敏弘はパンチで勝負も石川に躱されヒットに至らない。石川直樹の主導権を奪った展開は変わらず判定勝利となった。

石川直樹はリング上で、「メインイベントを任せて頂いているのにKO出来なくてすみません。また一から練習して次こそ倒せるように頑張ります。次、4月20日なんですけど、NKBの元チャンピオンの引退試合の相手務めることになりまして、ぜひ観に来てください。今度はKO出来ると思います!」と海老原竜二戦をノックアウト宣言した。

主導権を支配し判定勝利を飾った石川直樹、KO出来なかったことを詫びていた

◆第7試合 女子(ミネルヴァ)フライ級3回戦(2分制)

MIKU(K・CRONY/ 50.8kg)6戦2勝3敗1分
      vs
RUI・JANJIRA(JANJIRA/ 50.8kg)5戦2勝3敗
勝者:RUI・JANJIRA / 判定0-3
主審:中山宏美
副審:松田28-30. 多賀谷27-30. 児島29-30

初回からローキックでアグレッシブに蹴りからパンチを加えRUIが主導権を支配。長身のMIKUも蹴りはあるがRUIの圧力に下がり気味。ヒットが優ったRUIが失点の無い判定勝利。

MIKU(左)に蹴られても前進の圧力優ったRUI(右)

アグレッシブに攻めたRUIが判定勝利

◆第6試合 71.0㎏契約3回戦

クワン・サンライズジム(元・タイ国イサーン地方ライト級Champ/タイ/ 70.95kg)約150戦 
       vs
聖域統一ウェルター級チャンピオン.佐藤界聖(PCK連闘会/ 70.35kg)
16戦12勝(4KO)3敗1分
勝者:佐藤界聖 / TKO 3ラウンド1分44秒 /
主審:松田利彦

戦歴的には150戦を越えるとされるクワンのプログラムにある写真は若く引き締まった肉体だったが、リングに上がった姿は明らかに本場ムエタイ第一線級ではない身体つきだった。だがテクニックは侮れない技を持つのがムエタイボクサー。

佐藤界聖との攻防も鋭い蹴りと当て勘が優るが、わずか15戦の佐藤が前進する蹴りはクワンに劣らない勢いがあった。第2ラウンド半ばには接近戦でのヒジ打ちでクワンの額をカット。傷は深くドクターの勧告を受け入れたレフェリーストップとなった。

クワンのヒジ打ちと佐藤界聖の右フックが交錯

佐藤界聖のヒジ打ちで額をカットされたクワンはこれで試合ストップとなった

◆第5試合 フェザー級3回戦

遠山哲也(エス/ 57.05kg)4戦2勝1敗1分
     vs
柳田竜弥(北真館/ 56.55kg)3戦3敗
勝者:遠山哲也 / 判定3-0
主審:児島真人
副審:松田30-28. 多賀谷30-28. 中山29-28

初回、柳田竜弥が先手のパンチと蹴りの勢いが増すが、第2ラウンド中盤辺りから遠山哲也のハイキックや組んでのヒザ蹴りが徐々に活きて来ると流れは逆転し、攻勢を維持して判定勝利した。

遠山哲也のヒザ蹴りが柳田竜弥にヒット、序盤の圧され気味から徐々に巻き返した

◆第4試合 フライ級3回戦

明夢(新興ムエタイ/ 50.7kg)9戦3勝5敗1分
      vs
田嶋真虎(Realiser/ 50.75kg)8戦6敗2分
勝者:明夢 / 判定3-0
主審:松田利彦
副審:児島30-29. 多賀谷29-28. 中山30-29

明夢(左)と田嶋真虎の蹴りの交錯、手数と的確差で明夢が優っていった

◆第3試合 フライ級3回戦

Lil-悠(PIT/ 49.45kg)1戦1敗
     vs
手塚瑠唯(VERTEX/ 50.25kg)1戦1勝(1KO)
勝者:手塚瑠唯 / KO 1ラウンド2分21秒 /
主審:中山宏美

蹴りとパンチの攻防は徐々に手塚のリズムが優り、右ストレートで二度のノックダウンを奪ってカウント中にダメージを見たレフェリーが試合をストップした。

手塚瑠唯の右ストレートがLil悠にヒットし、この後ノックダウンとなり試合ストップとなった

◆第2試合 アマチュア75.0kg契約2回戦(2分制)

染谷和彦(PIT/ 74.15kg)vs 小田島DAREDEVIL武志(中平道場/ 74.85kg)
勝者:小田島DAREDEVIL武志 / 判定0-3 (17-20. 18-20. 17-20)

◆第1試合 アマチュア ウェルター級2回戦(2分制)

増田康介(Realiser/ 66.1kg)vs 内田大樹(BELIEF/ 65.6kg)
勝者:内田大樹 / 判定0-3 (19-20. 19-20. 19-20)

《取材戦記》

昨年8月11日の絆XIVにおいて、石川直樹は庄司理玖斗(拳之会)に大差判定勝利した後、リング上で国崇(=藤原国崇/拳之会)が「庄司理玖斗は僕の弟子ですけど、やられたのは悔しいので、来年のこの絆興行でやりましょう!」と対戦を希望し、石川直樹とツーショットに収まる両者だったが、国崇が岡山での拳之会興行スケジュールの都合で今回は出場せず、次回に持ち越された模様。こういったマッチメイクは選手がリング上でマイクアピールして決定するものではなく、スポーツ競技としてプロモーターやジム会長の意向次第であることが窺えます。ただ、この石川直樹vs 国崇は興味深いカードで、いずれ実現するでしょう。

4月20日には日本キックボクシング連盟(NKB実行委員会認定)興行に於いて、海老原竜二の引退試合の対戦相手としてKO宣言している石川直樹。ヒザ蹴り地獄で海老原竜二にテンカウントを聞かせて更に引退テンカウントゴングを聞かせるのか、これも興味深いカードとなっています。

NJKF興行は4月7日(日)に後楽園ホールに於いて「NJKF CHALLENGER(2nd)」が開催。国崇が出場する「NJKF 2024 west 2nd」は4月21日(日)に岡山コンベンションセンターに於いて拳之会主催興行として開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年5月号

本誌3月号では1月の「ワクチン問題研究会」の会見をレポート。新型コロナワクチンのみならず、インフルエンザやほかの病気にも応用が進められている「mRNAワクチン」の危険性についてまとめました。このコロナワクチンの薬害について、大手メディアでも徐々に報道されるようになり、免疫への関心が高まっているところに勃発したのが「紅麹」「ナットウキナーゼ」の問題でした。それでも、安全な納豆と安全な味噌は変わらずあります。

小林製薬が製造する「紅麹コレステヘルプ」などのサプリメントを飲んでいた人の中に、腎疾患を発症する例が続出、死者も出たとして、連日報道されています。ただし、新型コロナワクチン(mRNAワクチン)による自己免疫不全が明らかになった中で、「こうじ」や「ナットウキナーゼ」の有用性は、本誌に登場した識者も言及しているとおり。今回の“事件”はサプリメントや「機能性表示食品」の問題と見るのが正確ではないかと思います。また、放射線育種米交配種「あきたこまちR」(昨年12月号)やゲノム編集食品(今年2月号)、残留農薬(4月号)等の問題を採り上げてきた本誌としては、安全な食品の選び方も、今後のテーマと考えています。

一方、医療機関・製造販売会社から厚生労働省に報告されたワクチン接種後の死亡事例は、昨年7月30日までで2122件。それでも厚労省は「薬害」を認めないどころか、「ワクチンの接種のメリットが、副反応などのリスクより大きいため、接種をおすすめしています」との広報を続けています。その「メリット」についても、「感染を防ぐ」や「重症化しない」にまったく根拠がないことは、冒頭の本誌レポートでも明らかにしたことです。一方の、「リスク」=コロナワクチンの被害事例に「腎疾患」が多数見受けられます。

またサプリについては、錠剤化の際に使用される添加物(賦形剤)に有害なものがあるといわれます。さらに、立憲民主党の杉尾秀哉参院議員は3月29日のX(旧Twitter)で「小林製薬の紅麹で問題になっている機能性表示食品の導入の旗振り役となったのが森下竜一なる人物。この森下氏が立ち上げたアンジェス社は国から巨額の支援を得ながらワクチン開発に失敗。現在、森下氏は大阪万博の総合プロデューサーを務める」と指摘。ちなみに「特定保健用食品(トクホ)」も「脂肪の吸収を抑える」などの機能を表示するために、かえって添加物の使用を増やしているパターンが多々あります。

はしか(麻しん)が流行ると煽り報道をした後に、はしかワクチンの希望者が急増し需給ひっ迫との報道。ところが、新型コロナで有名な忽那賢志医師の「麻しんが日本国内で増加中」(ヤフーニュース3月16日付)によれば、多かったとされた2019年の国内報告数744に対し、今年3月16日で13例。744人はとても多いとは思えず、当時はしかが騒がれた記憶はありません。2021年の東京五輪の“成功体験”で味をしめた政治家や広告代理店が、大阪・関西万博で公金をせしめている、という図式が指摘されますが、コロナ・パンデミックも同じ構造の中にあるようです。直前の2019年10月にニューヨークで、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団やWHO(世界保健機構)、WEF(世界経済フォーラム)を主催者として「イベント201」という「パンデミック対策会議」が開催。予行演習されていたことは、今月号で「株価史上最高値」の裏側を解説した植草一秀氏も、著書『資本主義の断末魔』(ビジネス社)で紹介しています。

今月号では、「宗教課税」や「消費税」を含む自公政権の“税”の闇、「旭川女子中学生いじめ凍死事件」の深層、能登・志賀原発の実態と「珠洲原発」建設中止の裏側、「大谷ハラスメント」など、多様なテーマを独自の視点でレポートしています。全国書店で発売中です。ぜひご一読をお願いいたします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年5月号

『紙の爆弾』2024年5月号

政治経済学者・植草一秀が読み解く株価高騰の裏で何が起きているのか
裏金脱税事件を機に問う自公連立政権“税”をめぐる闇
市教委が黒塗りにした「旭川女子中学生いじめ凍死事件」の深層
“反川勝知事”報道急増の不可思議 破綻寸前の「アベ友利権」リニア中央新幹線計画
「活断層を隠蔽して造られた」能登・志賀原発 36年前の内部告発
ロシア「多極化フォーラム」に130カ国参加 世界の現実から日本は取り残されるな
プーチン大統領の「新恋人」が司るロシア「情報戦略」の実態
ついに党員にも見限られた岸田文雄首相と自民党の“延命策”
“メディア不信”の行く末「大谷ハラスメント」で得をするのは誰か
民間人・企業を狙う「国家管理」「経済安保」新法案の危険な中身
日朝正常化の好機を逸した岸田政権 サッカー日朝戦取材記
“嵐復活”の目論見外れジャニーズ・吉本興業とテレビ局の関係
1924米国「排日移民法」から100年 ナメられっぱなしの日米外交史
「ハラスメント」は全て録音・ネット公開「一億総告発社会」という現代
シリーズ 日本の冤罪49 千葉小学校講師猥褻事件

連載
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け:西田健
「格差」を読む:中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座:東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER:Kダブシャイン
SDGsという宗教:西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

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3月30日、神戸の甲南大学岡本キャンパスで「神戸質店事件」のシンポジウムが開催され、東住吉事件の青木恵子さんと参加してきた。今回のテーマは「目撃証言」。主催は、KONANプレミアプロジェクト「多分野の力を結集して『えん罪救済』に取り組むプロジェクト」。


◎[参考動画]19年前の強盗殺人「神戸質店事件」 大学生らが“冤罪被害を考えるシンポジウム”開催(MBSニュース 2024年3月30日)

◆神戸質店事件とは

「神戸質店事件」とは2005年、神戸市内で発生した質店店主の強盗殺人事件で、緒方秀彦さんが逮捕されたのは、事件から1年10ケ月後。緒方さんは交通違反の反則金を払わずに逮捕されたが、警察で取られた指紋が殺害現場に残されていた指紋と一致したからだ。その後、同じく現場に残された靴底の跡と、現場に残された煙草の吸い殻から採取したDNA型が緒方さんのものと一致した。

逮捕当初、緒方さんはその現場を訪れたことはないと言っていたが、徐々に2年前の記憶を呼び起こす。あの日、緒方さんは仕事途中、煙草を買おうと質店前の煙草の自販機前にいた。

すると自販機を管理する質店店主が緒方さんの車の荷物などを見て「兄ちゃん、電気屋か? 店に防犯カメラを付けられるか?」と尋ねてきた。緒方さんは「弱電ですわ」といい、店主に渡された建築書類などを見ながら、店内外の配線などを見て回った。

その後、店の奥にいる店主に誘われ、一緒にビールを飲んだ。防犯カメラ工事の「商談」が済んでいないこともあった。そのうち店主は自分の女関係の自慢話を始めたうえ、防犯カメラは既に知り合いの店に依頼しているというので、緒方さんはまもなく退去した。その日の夜、店主は何者かに殺害され、翌日家族によって遺体が発見されたという経緯だ。 

当日の夜8時頃、質店付近で不審者を目撃した男性がいた。男性は不審者について、目が鋭く、短髪、顔はある野球選手に似ていると警察に話した、しかし、一瞬のことであったため、警察署での面割(多数の写真が入った台帳から特定の人物を割り出すこと)で不審者を特定することはできなかった。それから1年10ケ月後、逮捕された緒方さんの写真が入った台帳から、男性は緒方さんを「犯人だ」とした。

果たしてこの目撃証言は正しかったのか? 一方、男性は一審で縮れ毛の緒方さんを見て「目の印象は似ているが髪型は違う」と証言した。結局、緒方さんと犯行を結びつける証拠はなく、一審は緒方さんに無罪を言い渡す。

その後、大阪高裁の控訴審は、緒方さんの証言を信用できないとしながら本人尋問も行わないまま、緒方さんに無期懲役の逆転有罪判決を言い渡したのだ(ちなみに裁判長は、検察が起訴したのだから犯人だと決めつけ、有罪判決を下すことで有名な小倉正三氏だった)。

◆厳島行雄教授の講演と甲南大IPJ(イノセンス・プロジェクト・ジャパン)の実験

シンポジウムでは、刑事事件における供述者の供述の信用性を心理学の立場から研究する厳島行雄人間環境大学教授から、目撃証言の取り扱いや問題点などが説明された。

「神戸質店事件における目撃者供述の心理学評価~フィールド実験からのアプローチ」と題して講演を行う厳島行雄教授

その前に、甲南大の笹倉香奈教授らが取り組む「イノセンス・プロジェクト」とは1990年代にアメリカで始まった民間活動だ。そこで、服役中の人たちにDNA型鑑定を行ったところ、370人が無罪と判明、更に調べると、うち7割以上が目撃証言に誤りがあったことがわかった。そこで人間の目撃証言がどれだけ信用できるものか、様々な研究が行われてきた。

シンポでは、甲南大のIPJ(イノセンス・プロジェクト・ジャパン)の学生らが行った実験の結果が公表された。質店事件で男性が不審者を目撃したという場所となるべく似た場所を探して行われた大掛かりな実験だ。

当日、実験の目的を知らされずに集まった学生ら52人が、その現場で不審者に偶然出会ってもらった。しばらくしたのち52人にアンケート調査をすると49人が回答、実験で見た男性はどの人物かとラインナップから選んでもらったところ、立っていた男性を当てたのは7人しかいなかった。

しかも、うち6人は「もしかして目撃証言の実験ではないか」と思って参加したという。そこでこの6人を除くと、52人中1人しか男性を当てられなかったことになる。それほど人間の記憶は時間の経過とともに、様々な事情、環境に「汚染」されてしまうということだ。

緒方さんの弁護団、支援者は再審請求を準備中だが、そこで必要となる新たな証拠の一つに、この実験結果を更に深化させた内容を提出したいと考えているそうだ。

シンポジウムの様子

◆目撃証言の重要性

目撃情報も裁判では非常に重要だ。去年亡くなった桜井昌司さんの布川事件では、一審・二審で、犯行時刻頃、被害者宅の前に桜井さんと杉山さんがいたのを、50CCのバイクで走行中に目撃したとの男性の証言が採用され、有罪判決が下された。

しかし、これとは逆に桜井さん、杉山さん以外の人物を現場で見かけたとの重要な目撃証言が、再審請求審でようやく開示された。証言したのは杉山さんと面識がある女性で、立っていた男は杉山さんとは異なる体型の男性だったと証言していた。そして卑劣な検察は、桜井さん、杉山さんが犯人でないというこの証拠を何十年も隠し続けていたのだ。

警察、検察が刑事事件の目撃者に対して、嘘の証言を行わせていた事実が、3月27日明らかになった。1986年起こった福井市の女子中学生殺害事件で、逮捕、起訴され、有罪判決を受け、7年間の服役を受けた前川障司さんの第二次再審請求を求める三者協議の中でのことだ。

事件の経緯などの詳細は省くが、この事件では、前川さんの周辺の人たちが、前川さんを犯人にするために多数の嘘の証言を行っていた。証言者の中には地元のワルも多数おり、警察などに自分を良く思われたい、自分の非行行為、犯罪を見逃してもらいたいから警察の言いなりになったという人もいた。

27日、三者協議の法廷に出てきた男性は、一審では「事件当日、前川さんと会っていない」と証言したが、二審では証言を翻し「血のついた前川さんを見た」と証言した。前川さんは、神戸質店事件の緒方さん同様、一審では無罪だったが、二審で先のような証言により有罪となっている。

今回男性は「本当は前川さんには会っておらず、血のついた姿も見ていない」と証言したが、証言を翻した理由について、「一審後、自分の薬物犯罪で警察署に出頭した際、警官から『(前川さんの)控訴審で調書通りに話すなら見逃す』と持ち掛けられ、受け入れてしまった」と述べた。(ちなみにこの場合の「調書通りに」とは、警察、検察の見立てに沿って前川さんを犯人とするストーリーに沿ったという意味である)。男性は、控訴審で嘘の証言をしたのち結婚したが、その際警官から結婚祝いに送られた祝儀袋を証拠として提出した。

この男性の勇気ある証言は、前川さんの再審請求を前に進める重要で強力な証拠になることに間違いはない。

それにしても日本の警察、検察、そしてまともに考えず彼らの言い分を鵜呑みにする裁判所はどうしようもなさすぎる。

当日のシンポジウムを準備・開催したIPJの学生たちが最後に集まり記念撮影。近く緒方さんの支援者が岡山刑務所で面会に行き、緒方さんに写真を見てもらうという

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

◎鹿砦社HP https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000733

『サイゾー』2024年5月号(3月24日発売)で、ジャニーズ問題について作家の本橋信宏さんと対談を行いました。

3月20日付の本通信でその旨お知らせした際は、発売したばかりだったので一部掲載にとどめましたが、月が変わりましたので、全文掲載します。

また、本号の興味深い記事としては、大阪万博をめぐり、大﨑洋吉本興業前会長と作家の本間龍さんが、賛成・反対双方の立場から対談されています。賛成、あるいは反対だけの記事は万とありますが、直接両論戦わす対談記事は、ほとんど見たことがありません。貴重です。定価980円(税込み) 

(松岡利康)

[対談]元祖・ジャニーズに喧嘩を売った男たち ―― 本橋信宏×松岡利康

[対談]元祖・ジャニーズに喧嘩を売った男たち ―― 本橋信宏×松岡利康

サイゾー2024年5月号

鹿砦社編集部編『ジャニーズ帝国 60年の興亡』A5判 320ページ 定価1980円(税込み)

【主な内容】
Ⅰ 苦境に立たされるジャニーズ
  2023年はジャニーズ帝国崩壊の歴史的一年となった!
  文春以前(1990年代後半)の鹿砦社のジャニーズ告発出版
  文春vsジャニーズ裁判の記録(当時の記事復刻)
 [資料 国会議事録]国会で論議されたジャニーズの児童虐待

Ⅱ ジャニーズ60年史 その誕生、栄華、そして……
1 ジャニーズ・フォーリーブス時代 1958-1978
2 たのきん・少年隊・光GENJI時代 1979-1992
3 SMAP時代前期 1993-2003
4 SMAP時代後期 2004-2008
5 嵐・SMAPツートップ時代 2009-2014
6 世代交代、そしてジュリー時代へ 2015-2019
7 揺らぎ始めたジャニーズ 2020-2023

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315290/

◆目の前に見えた革命

1970年3月31日、われわれは、日航機「よど」をハイジャックした。あの時、最年長の責任者、田宮高麿も27歳だった。そのわれわれも、今や後期高齢者だ。

当時、革命は目の前にあるように思えた。2年後の「1972年革命」を唱えていた仲間もいた。私自身、さすがにそこまでは思えなかったが、70年代の終わり頃には可能ではないかと思っていた。ハイジャックをやったのも、そうした思いがあったからだ。

それが、あれから54年、われわれは今だ朝鮮の地にある。その目算の狂いに、さぞかし消耗し後悔しているのでは、とお思いかも知れない。

実際、目算の狂いの原因がその目算自体、革命したいというわれわれ自身の欲求に基づいており、広く国民大衆の切実な要求に基づき、それに応えるところからのものでなかったのに思い至った時、それは大きな衝撃だった。

以来、50余年、われわれは、この痛恨の教訓を生かし、あの時の誤りを現実の闘いで正そうと闘ってきた。自己を修養し、訪朝団の人々に積極的に会うなど、帰国のための闘いを始めたのも、そのために「日本を考える」や「自主と団結」、「お元気ですか」などわれわれの出版物を日本の地で発刊し、自らの思い、考えを広く世に問うようにしたのも、そして今もなお、「アジアの内の日本」などSNS発信をし、デジタル鹿砦通信社へのこの寄稿をはじめ、自らの意思の表明を続けているのも、すべてその思いからだ。

そうしたわれわれが最近、革命を目の前に感じるようになってきた。そこで問われているのは、それが自分たち個人の革命を求める心からのものでなく、客観的現実の要求、広く人々の要求に基づき、それに応えるというところから出発したものであることだ。

今、世界も日本も激動している。「大動乱の時代」という表現が少しの違和感もなく受け止められるようになってきている。ウクライナ戦争、中東戦争、米中新冷戦の三正面作戦に引き出され、それを余儀なくされている覇権国家、米国が今秋11月には大統領選挙を迎える。そこでまた8年前、4年前と同じく、トランプに対する対応が求められている。そして、日本でも解散総選挙が遅かれ早かれ行われるようになっている。

この激動の時にあって、世界中で、大きな焦点の一つになっているのは、御存知、「もしトラ」だ。それが今では、「ほぼトラ」になり、「いまトラ」にまでなってきている。

そうなった時、世界は、そして日本はどうなるのか。世界中でそれにどう対するか、対応策が検討されてきている。

今、われわれが革命を肌で感じ、それが見えるようになってきているのは、こうした現実の切実な動きに基づいている。

◆なぜ今、「いまトラ」なのか?

8年前、従来の大統領とは全く異なる異色、型破りの大統領、トランプが登場した時、米国だけでなく世界が混乱した。

「アメリカ・ファースト」を掲げ、米国の国益第一に、移民の受け入れを拒否したばかりか、「世界の警官」の役割を否定し、数々の米覇権機構からの撤退を宣言、強行していったトランプ政治への賛否両論が世界中に巻き起こった。

こうした中、米覇権中枢、エスタブリッシュメントは、このご時世、一度はやらせてみたトランプからバイデンへの大統領のすげ替えをあらゆる手を尽くして強行した。かくして、何とかその実現にこぎ着けたバイデン政権の4年間は果たしてどうだったか。

カビの生えかかった「普遍的価値観」を改めて持ち出し、「民主主義VS専制主義(権威主義)」の旗の下、「米中」は表立て、「米ロ」は陰に隠して、二正面作戦は避けながら、かつての「米ソ冷戦」「東西冷戦」よろしく、世界を二つに分断し、中ロを包囲する「新冷戦」が敢行される一方、トランプによって破壊された米覇権機構の修復がなされ、覇権の回復が図られた。

その結果生み出されたのは何だったか。米覇権は、ウクライナ戦争と米中新冷戦、それに加えて、パレスチナ・イスラエル戦争と三正面作戦に直面させられ、包囲ならぬ逆包囲、自分が孤立させられて、進むも地獄、退くも地獄の滅亡の泥沼に足を踏み入れさせられてきている。

この覇権崩壊の危機にあって、エスタブリッシュメントがバイデンにこれ以上期待できることがあるのだろうか。

そうした中、「11月」は迫ってきている。民主、共和両党の候補者を決める予備選挙で、現職の大統領としてバイデンの選出が決まっている民主党に対し、共和党ではトランプの圧勝が際立っている。そして、バイデンとトランプ両者の中どちらを選ぶかの事前調査では、43%対48%と大差を付けられているのはバイデンの方だ。

トランプ優位の根拠として挙げられているバイデンの弱点には、「イスラエル支援」、「移民」など、米国の伝統的で今日的な覇権戦略の評価に関わるものが多い。これらが「偉大なアメリカ」、「アメリカ・ファースト」、国益第一、等々、米国の覇権よりも、強い米国、豊かな米国を求めて広がる「貧しい人々」、若者たち、黒人たちなど、これまで民主党支持だった人々まで加えて、広範な米国人から排撃を受けている。

こうした現実を見て、エスタブリッシュメントの少なからぬ部分が米覇権のあり方の転換を考えるようになったとしても少しも不思議ではない。

「もしトラ」から「ほぼトラ」「いまトラ」への傾斜の裏には、広範な米国民の動向を見ての推察とともに、こうしたエスタブリッシュメントの動向についての読みが少なからぬ比重を占めているのではないだろうか。

実際、米覇権中枢、エスタブリッシュメントの意思は、バイデンからトランプへの転換容認で固まってきているように見える。周知のように、トランプに対しては、女性問題まで含め数多くの訴訟が起こされている。ところが、それについての裁判がすべて、米最高裁判所において、大統領選挙期間、その審判の延期が決定された。これは、その証左に他ならない。

◆現時代、覇権の多極化など有り得るのか

「いまトラ」、すなわち「今やトランプ」になるであろう趨勢にあって、問題になるのは、米エスタブリッシュメントが容認するバイデンからトランプへの転換が何を意味するかだ。それが覇権の放棄でないのは明白だ。そこで考えられるのが覇権のあり方の転換であり、それが米一極覇権から覇権の多極化への転換であるのを推察するのはさほど困難ではない。

米単独の一極覇権から米中ロなど複数の超大国による多極覇権への転換、それは、国の上に自由、民主主義、法の支配など「普遍的価値観」を置き、国そのものを否定するグローバリズム覇権から国の存在を前提に、いくつかの超大国による世界各国に対する分割支配を意味している。

そこで問題なのは、現時代が自国第一の時代だということだ。各国がグローバリズム覇権に反対して、自国第一の政治改革を起こしてきている中にあって、この自国第一を認めながら、その上に成り立つ覇権などというものが果たしてあり得るのだろうか。もともと覇権とは、国の上に君臨するものだ。自国第一を認めるような覇権は、一つの大きな自己矛盾なのではないのか。

実際、自国第一の時代である今日、各国の上に君臨する覇権などあり得ない。中国であれ、ロシアであれ、並はずれた大国であるのは事実だが、周辺の朝鮮やASEAN諸国、はたまた東欧や中央アジアの国々の上に君臨しているかと言えば、そんなことはないし、そもそもそんなことはできないと思う。時代が自国第一の時代だと言うことは、そう言うことを意味している。

それは、G7など、旧帝国主義諸国皆に共通したことだ。この間、西アフリカ、中央アフリカなど旧仏領アフリカ諸国が国民と一体になった青年将校によるクーデターでことごとくフランスから離反し、マクロンが激怒しながら手をこまねいているのが話題になっているが、そこにも世界から逆包囲され、孤立したG7の姿が鮮明だ。そうした中、米国には、もはや覇権の多極化をしようにも覇権する対象がなくなっているのではないか。

「反覇権的多極秩序」なる新語も生まれてきている今日、米エスタブリッシュメントはこうした時代の現実を踏まえる必要があるのではないだろうか。

◆「いまトラ」で日本に問われること

「いまトラ」で想定される多極覇権にあって、米国による覇権の圏内に日本が入れられているのは言うまでもない。

この場合、当然、「米国ファースト」に対し、日本も「ファースト」だ。だが、そこで大前提は日米基軸であり、「米国ファースト」と一体であってこその「日本ファースト」、もっと言えば、「米国ファースト」の下での「日本ファースト」だと言うことだ。

もちろん、ここでよく言われていることがある。それは、「日本主導」と言うことだ。米国が弱体化した今日、これまでのように米国の後に日本が付いていくのではなく、日本主導の日米関係にしなければならないと言うことだ。

だが、これはこれまでもよく言われてきたように、「米国に言われる前に、(米国の意図を推察し)、日本が『自主的に』進んでやる」というのと五十歩百歩ではないか。「自主的」が「主導」に変わっただけだ。一言で言って、「米国ファースト」の下での「日本ファースト」、それはすなわち、本質において、「日本セカンド」に他ならないと言うことだ。

多極覇権にあって、日米関係を「主導」する日本には、より強い「ファースト政権」が要求されるようになる。そうなってこそ、「多極ファースト世界」にあって、日本はその「主導」的役割を果たせることになる。この間、「トランプ」との関係で、「小池百合子首相」の名が度々出されるようになっているのも決して偶然ではないと思う。

「いまトラ」によってその形成が図られる「覇権的多極秩序」に対して、すでに世界的規模で広がりを見せている「反覇権的多極秩序」、この二つの秩序の世界的攻防が日本の闘いにも反映されるようになるのは不可避ではないかと思う。

この覇権VS反覇権の攻防にあって、日本が真に「ファースト」の道を選択する上で決定的なのは、日米基軸の下、どこまでも米国に従い進むのか、それとも日米基軸の枠から抜け出、全方位の道に踏み出すのかにあるのではないか。

日米基軸からの脱却、それは、今の日本にとって一つの大きな革命だと思う。と言うより、現段階にあって、日本の革命は、社会主義や共産主義に進むことではない。日米基軸の呪縛から抜け出すこと、ここにこそ、戦後79年、いや維新以来156年、提起され続けてきた革命の課題を達成する道が開けているのではないだろうか。

革命が見える現実が近づいている。

小西隆裕さん

▼小西隆裕(こにし・たかひろ)さん
1944年7月28日生。東京大学(医)入学。東京大学医学部共闘会議議長。共産同赤軍派。1970年によど号赤軍として渡朝。現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

広島市議会2月定例会は26日、2024年度予算案などを可決し、閉会しました。

◆サンフレ本拠地移転と齟齬をきたすアストラム延伸

このうち、2024年度予算案のアストラムライン延伸については反対討論が相次ぎました。

この計画は、アストラムラインを安佐南区の広域公園前から、佐伯区の五月が丘団地、そしてトンネルで山をくぐって西区の西広島駅へ、とつなぐものです。

広島市が過半数を出資する第三セクター「広島高速交通」のアストラムラインは広域公園を会場とする1994年の広島アジア大会を前に、同年8月20日に本通りから中区の城北駅、東区の不動院前駅、安佐南区の大町駅などを経由して広域公園前までの区間が開通しました。その後、1999年に環状化する計画も出ました。

しかし、これらは採算性の問題から、秋葉忠利前市長のもと、2007年にはアストラムライン延伸ではなく、広電やバスなどの既存交通機関の活用を優先させる方針に転じました。2011年に松井一實市長に政権交代した後、2014年に、都心部での延伸は事業廃止する一方、2015年には西広島駅までの延伸のみを事業化することが決定。当初は一日15000人の利用を見込んでいました。しかし、現在の見込みは9100人です。

安佐南区の日本共産党の中村孝江議員や、中区の無所属の門田佳子議員(保守系無所属議員の後継で1年前初当選)からは以下のような討論が出されました。

第一に、輸送人員の見込みは、市が昔計画していた15000人から9100人まで減っていること。

第二に、せっかく延伸しても、自転車置き場や車による送迎コーナーがないと利用しにくいのですが、それが市の案には考慮されていない。

第三に、現実問題、西風新都方面の団地から都心部にはバスの方が乗り換えもなく、便利という現実もある。机上ではアストラムラインが2分所要時間は短いが、そうなれば乗り換えなしの方が良いに決まっている。

予算案そのものは結果として賛成多数で可決となりましたが、上記の反対討論はきちんと市長も受け止めるべきです。

広島市内でも高齢社会化の中で、公共交通の確保は大事です。国や県の支援も必要です。他方で、その方法、また、利用しやすい公共交通の在り方。これをきちんと議論しないまま、そして、国や県の十分な支援が見込めない中で突き進んだ場合には(自治体は国と違い、お金を刷ることができませんから)大変なことになります。

 

サンフレッチェ広島の本拠地であるサッカースタジアムのエディオンピースウイング広島

広島都市圏全体の交通の在り方、ひいては広島県内全体の交通や地域づくりの在り方をきちんと市民的、県民的にもっと議論すべきではないのか?場合によっては住民投票も活用すべきではないのか?そのように感じました。

輸送人員の減少が見込まれる。これは当たり前の話です。サンフレッチェ広島の本拠地であるサッカースタジアムが安佐南区から中区のエディオンピースウイング広島(写真)に移ったことも大きな影響があるでしょう。サッカースタジアムについてはいろいろ議論がありました。

しかし、現在地に移転した以上は以下のことは想定できます。

1.アストラムラインの利用者が激減する。

2.一方、広島駅から歩いて行けるサッカースタジアムということで、サンフレッチェ広島の対戦相手のチームのサポーターも多く広島駅経由で来られる。

1.については、アストラムラインの見直しを市に迫る。

2.の要素は広島駅周辺の混雑激化を通じて、県が広島駅北口に計画している新巨大病院(湯崎病院)に見直しを迫る。

ことになるでしょう。

今一度、サッカースタジアムが移転した後の状態を前提に、アストラムラインの延伸の是非、県病院含む病院のエキキタへの統合の是非、これらをきちんと再論議する必要があるのではないでしょうか?

繰り返しますが、サッカースタジアムの移転で状況は変わった。人の流れも変わった。前と同じことをしていたらあちこちでほころびが出る。そういうことも含めて、市民投票、県民投票も視野に入れた議論は必要ではないでしょうか?

◆中央図書館の移転費用も青天井

松井市長が進める、中区の中央公園にある中央図書館の駅前のエールエールA館への移転費用も青天井です。ついに、96億円という見込みだった費用が、131億円に膨れ上がってしまいました。これに加えて、浅野文庫や広島文学を展示する施設を旧市長公舎の跡地に建設予定で、37億円かかります。ついに、現在地で建て替えた場合の予想経費の120億円を上回ってしまいました。

これでも、本日の議会最終日で賛成多数で2024年度予算は可決されてしまいました。しかし、これももう一度議論し、場合によっては住民投票にかけることも大事ではないでしょうか?

広島市の中央図書館の移転費膨張 当初計画から35億円増の131億円(中国新聞デジタル)Yahooニュース

とにかく、住民の声を無視して進めた計画のほころびが出ています。今必要なのは市民的、県民的な「広島をどうするか」という議論ではないでしょうか?

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年4月号

《4月のことば》花 あなたらしく咲けばいい……(鹿砦社カレンダー2024より。龍一郎揮毫)

4月、新年度に入りました。

花咲き誇る季節です。

あらゆる分野で多様性の時代です。

咲き誇る花も多様です。

何事も一つではありません。

「多様性」と言いながらそうではないことも多々あります。

あなたはあなたらしく、私は私らしく咲こう!

それを認め合うところから真の多様性があるのではないでしょうか。

本年は唯一の反(脱)原発『季節』が、前身の『NO NUKES voice』を含め創刊10周年を迎えます。

次号を夏・秋合併号として創刊10周年記念号として準備を開始いたしました(詳細は後日公表。定期購読、会員の皆様には直接郵送にてお知らせいたします)。

そうして、来年はいよいよ『紙の爆弾』が創刊20周年を迎えます。

この4月7日発売号で創刊19年です。

光陰矢のごとしで、月日の経つのは本当に速いものです。

創刊直後の「名誉毀損」に名を借りた出版弾圧で逮捕、半年余りも勾留され辛酸を舐めたこと、凍り付くような拘置所で大晦日、正月を過ごしたこと……走馬灯のように過ります。

さほど他人に自慢できる人生ではありませんでしたが、私らしく醜く咲いた人生でした。

『紙の爆弾』創刊号では「ペンのテロリスト」などと嘯いていました。

それでも、もうひと花咲かせて出版人生を終えたいと思う昨今です。

(松岡利康)

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年春号 能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0CWTPSB9F/

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年4月号

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/
◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0CWTWN75P/

◆「もしトラ」と戦後日本の革命

戦後日本の革命、それは私式に言えば「米国についていけば何とかなる」としてきた戦後日本の生存方式を一新する革命、あるいはアイデンティティ確立のための革命だ。

今回のテーマ“「もしトラ」に右往左往しない日本に”は、「もしトランプが大統領になったら」で右往左往するわが国の政界、言論界を目の当たりにして、そろそろ「米国についていけば……」からの方向転換、むしろ「もしトラ」を国の運命の自己決定権を自分の手にする好機にすべきではないのか、このことをピョンヤンから訴えるものだ。

◆「私のかわりに決める権利は、あなたにないわ」

 

『他人の血』(新潮文庫)表紙、ジョディ・フォースター主演で映画化の写真入り

この小題目の言葉、それは小説『他人の血』、最後のシーンで発せられる女主人公の言葉だ。この小説の著者であるフランスの実存主義女流作家ボーヴォワールの基本思想、「運命に対する自己決定権」を主人公に語らせたセリフである。

このような言葉は一朝一夕には出てくるものじゃない。この小説でも人生の窮地を脱し人生のクライマックスに立ってようやく主人公自身が極めた境地だ。

主人公エレーヌはパリに住むごく平凡な駄菓子屋の娘、彼女は大ブルジョアの息子という出自に悩む労働運動指導者、ジャンに恋してしまう。「自分は組織の歯車でいい」という労働者共産党員の恋人に飽き足らない彼女は悩める指導的活動家ジャンになぜか心をひかれる。でもジャンの社会運動にはまったく興味を示さず、自分の恋心に応じようとしないジャンの関心をひくことだけで頭はいっぱい。そんな女の子だった。

他方、ジャンは大ブルジョアの跡継ぎ息子だが共産党に入党、しかし党に引き入れた親友の弟をある闘争で死に追いやった自責の念から社会民主主義者に転向するといった複雑な政治経緯の人物だ。政治や社会運動に何の関心も示さないエレーヌに当惑しながらもやがてジャンも彼女と恋に落ちる。

しかしエレーヌのある行動が二人の恋を決裂させる。

時は第二次世界大戦を前にしたナチス台頭の時期、オーストリアの闘士が反ナチの連帯闘争をフランスの社会民主主義者に求めたが、ジャンはこれを「フランスをナチスとの戦争に追いやるようなことはできない」と拒絶した。しかしこの自分の態度がナチスのオーストリア併合を許すことになり、ついにはナチス・ドイツ軍のフランス侵略という結果を招いた。

そんな自責の念からジャンは対独戦争のフランス軍最前線に志願する。これに驚いたエレーヌが恋人を死地から救う一念で八方手を尽くし、前線から後方の安全地帯に戻れるようにする。しかし彼女のこの振る舞いはジャンの強烈な怒りを買い、二人の愛は破局を迎える。

恋を失いパリまでナチスのものになって、ついに「自分もなくなった」失意のエレーヌは職場の洋裁店の関係で親しくなった占領者であるドイツ人からベルリンに行くことを誘われている。

しかしある事件がそんな彼女を覚醒させる。

幼なじみのユダヤ人娘がナチスのユダヤ人狩りの危険に直面した時、親友を捨て置けないエレーヌは恋人だったジャンの反ナチ・レジスタンス組織を通じて親友の逃亡を助ける。この事件を契機にエレーヌは自分を取り戻す。ついには「あなたと一緒に仕事をしたい」とジャンに申し出る。彼女は危険な任務を引き受け致命傷を負う、そしていまは死の床にある。

「君がこんなになったのは僕のせいだ」と彼女を恋に苦しませ、いままた危険な任務を指示した自分を責めるジャンに対し、死を前にしたエレーヌが毅然(きぜん)として自分自身を主張する言葉、それがこの小題目に引用したセリフだ。

「私のかわりに決める権利は、あなたにないわ」

運命に対する自己決定権とは? を考えさせる名セリフだと思う。

彼女は自らの殻を破った ── 「何ものかのために、誰かのために存在する」エレーヌ、「危険な任務遂行を決めたのは、他の誰でもない、私自身」!

人間の運命同様、国の運命も決定権は誰のものでもない、自分自身にある。

長々と小説の粗筋を紹介したのは、小説の主人公のように一人の人間が自分を取り戻し、自らの運命の自己決定権を獲得するには一定の曲折を経るものだということ、しかしいつかは手にするものだということ、これは国だって同じではないかということを言いたかったからだ。

私の場合も「ロックと革命 in 京都」に書いたように「17歳の革命」に踏みだした頃、「特別な同志」OKから「これ読んでみない?」と言われてこの本を借りたが、当時はこの言葉にたどり着くどころかこの小説自体まったく理解不能のものだった。あれから半世紀もの時間が流れ、還暦を過ぎて『他人の血』を再読して初めてこの言葉の存在を知り、その深い意味に気づかされた。この言葉を理解するには一定の人生体験が必要だったのだろう。

いま「もしトラ」に右往左往する日本、それは戦後日本の「米国についていけば何とかなる」生存方式の長い歴史の結果だが、いまのそれはやはり惨めで見苦しいものだ。これからもそんな生き方を続けていくのか? 

「米国の栄華」を追いかけ日本の繁栄を夢見てきた戦後日本だが、いま「米中心の国際秩序の破綻」を前にして政治も経済も軍事も混乱を極めている。「もしトラ」のいま、そろそろわれわれ日本人は「自分を取り戻す」時に来ているのではないか、このことを考えてみたい。

◆プランB ── 欧州の「もしトラ」策

「もしトラ」でいまウクライナ戦争渦中にある欧州も慌てているが、すでに策は立てている。

いまのバイデン政権時でさえ共和党の反対でウクライナ軍事支援予算が通らず、米国からの兵器供与が滞る事態になっている。このうえ「ウクライナ支援はやめるべきだ」とするトランプが大統領になれば欧州は「米国抜き」を考えておかねばならない。

 

TBS番組「1930」。2024年3月8日放映の「米国抜きの欧州案“プランB”」

そこで出された策が「プランB」だ。

プランBとは“米国の援助抜きでウクライナの敗北を防ぐ”という案だ。

その基本内容は、“①今年のウクライナは欧州からの支援で戦略守勢にまわる②来年の春頃の攻勢に直結するための準備をする”というものだ。

「来年の春攻勢に(兵器を)準備」に成算があるのか大いに疑問だが、大義名分は「ウクライナの敗北を防ぐ」。要は「敗勢のままロシアに勝たせてはならない」、だからウクライナに何とか持ちこたえさせるため取りあえず「欧州からの兵器援助」という泥縄式消極策、それが欧州の「もしトラ」策、「プランB」であろう。

更には欧州全体に拡大する「ウクライナ支援疲れ」で欧州の足並みが乱れる中、英仏独が個別にウクライナと2国間の安全保障協定を結んだ。これはウクライナに「英仏独3大国の保障」を見せることで「ウクライナの敗北を防ぐ」しかない欧州の窮状を表すものだ。

ウクライナの敗勢に慌てる欧州を表すものとして、「冷戦後最大規模のNATO軍事演習」がある。これはNATO加盟32ヶ国(フィンランド、スウェーデン加入で2ヶ国増)の9万人規模で2月から5月まで各地で行われるというものだが、かつての東西冷戦期には毎年、数十万人規模で行われたというからロシアに対して虚勢を張るだけの印象が強い。

結局は、落ち目濃厚の米国の対中ロ新冷戦戦略に欧州は巻き込まれる羽目に陥った。

しかし事態は虚勢を張るだけではすまないものになりそうだ。トランプ政権成立ともなれば、欧州各国のGDP2%以上の防衛予算を組むというNATO取り決めの即時実行を迫られる。この防衛予算増は、ただでさえ国民から「ウクライナ支援より国民にお金を」と迫られている欧州各国の現政権を更に揺るがせ、自国第一政権を産み出す呼び水になることだろう。

「ウクライナ支援疲れ」が「米国の覇権回復同調疲れ」に転化する。欧州の人々も自分と国の運命、自己の運命決定権を考え始めるだろう。

 

産経の2024年元日の年頭社説「“内向き日本”では中国が嗤う」※本画像クリックをすると同記事にリンクします(編集部)

◆「もしトラ」歓迎の産経新聞

「もしトラ」に右往左往する日本の言論界の中で唯一、元気なのが産経新聞だ。

今年2024年の元日、主要新聞各紙の新年社説は混乱の極みだったが、産経新聞だけは元気だった(〈年のはじめに〉「内向き日本」では中国が嗤う 榊原智論説委員長)。それは「もしトラ」対処策をもっていること、むしろ「もしトラ」歓迎の立場にあるからのようだ。

産経社説は“「内向き日本」では中国が嗤(わら)う”と題し、国内政局にとらわれて「対中対決」をおろそかにすることがあってはならないという主張を前面に押し出した。

まず「台湾有事は日本有事」の立場を明確に打ち出した。これは米中新冷戦で対中対決の最前線を日本が積極的に担うという意思表示だ。

そしてトランプ政権誕生を念頭に「米核戦力の(日本への)配備や核共有、核武装の選択肢を喫緊の課題として論じる」必要を強く説いた。その根拠は、もしトランプ大統領になれば、台湾有事には「日本や台湾が前面に立ち防衛」することを求められるからだとした。

そしてこうも強調した。「日本は米中対立に巻き込まれた被害者ではない。米国を巻き込まなければならない立場にある」と。まさにトランプの対日要求を先取りしたもの、アジアの問題である対中軍事対決は日本が主体的に行うべきものだという主張だ。

「欧州やアジアの戦争をなぜ我々(米国)がやらねばならないのか」? 「欧州の戦争は欧州人が、アジアの戦争はアジア人が」 ── これがトランプ路線だ。安倍元首相や産経新聞の立場は、対米従属ではあれ米国とうまくやりながら日本の軍事大国化(軍国主義的「自主」路線)を実現することだから、トランプ路線は大歓迎なのだろう。

産経新聞のような「もしトラ」歓迎の危険性は、「喫緊の課題として論じる」必要を説いた日本の代理“核”戦争国化を自ら「主体的」に担うべきという議論を呼びかけていることだ。

「もしトラ」を前提に、産経社説は「米核戦力の配備や核共有」「核武装」といった選択肢について論議することを呼びかけた。

これらはいま米国が最も日本に要求していることだが、日本の非核国是のため未解決のまま「宿題」として残されている議論だ。それは一言でいって日本列島の地上発射型中距離“核”ミサイル基地化だ。これは米軍の対中拡大抑止戦略の基本、死活的課題だから米国は絶対あきらめない。産経のように日本側が「主体的な課題として論じる」ようになれば、これは米国にとってはありがたいことだろう。

産経が「喫緊の課題として論じる」必要を説くのは以下のことだ。

これについてはデジ鹿通信に何度も書いたので簡単に触れる。

日本列島の地上発射型中距離“核”ミサイル基地化を米軍に代わって担う部隊として「安保3文書」決定で自衛隊スタッドオフ・ミサイル(中距離ミサイル)部隊はすでに新設された。

未解決の課題は、自衛隊ミサイル部隊の核武装化のための「核共有」を実現(当然ながら「核持ち込み容認」)することだ。

この実現のためにNATO並みの「有事における核使用に関する協議体」を設置する。これは昨年、新設された米韓“核”協議グループ(NCG)を発展させ「日米韓“核”協議体」とするか、あるいは二国間の「日米“核”協議体」を創設する。準備は着々と進められている。後は日本の決心次第となっている。

再度強調するが産経のような「もしトラ」歓迎の危険性は、日本の対中・代理“核”戦争国化を米国の強要によってではなく、日本が「主体的に」やるようになることだ。

だから産経のような「もしトラ」歓迎の政権ができるようなことになれば、日本の破滅、「米国と無理心中」にわが国を追いやる結果を招くだろう。これだけは絶対、避けなければならないことだ。

◆「もしトラ」の逆利用 ── 自分を取り戻すチャンスに

産経のような「もしトラ」歓迎は以ての外だが、「もしトラ」逆利用という考え方もあり得る。

トランプの主張は「米国に依存するな、日本が主体的にやれ」だ。トランプの真意は米国の強要を日本が「主体的に」受け入れろだが、彼の言う「主体的に」を文字通りに、名実共に実現するチャンスに変える契機ではある。いわばトランプが「アメリカ・ファースト」を言うなら、日本は「日本第一」で行くという向こうの論理の「逆利用」だ。

第一次トランプ政権時には「米軍駐留費分担金(思いやり予算)を日本が増額しないなら米軍基地を撤収する」と日本を脅かしたが、今度はこれを逆手にとって「ああそうですか、ならお引き取りいただいてけっこうです」と言えばいいのだ。

もちろん在日米軍基地撤収や日米安保解消などトランプの一存でできることではなく、またトランプも日本への「同盟義務」押しつけのための恐喝以上の意味で発言しないはずだから、「どうぞお引き取り下さい」という日米安保同盟を否定するような日本側の要求は受け入れないだろう。またわが国には残念ながら米国と正面激突するだけの政治的力はまだない。

だから「もしトラ」の逆利用のためにはいま実現可能な策略、工夫が必要だと思う。

日本国民として最低限、許してはならないのは、米国の企図する「日本の代理“核”戦争国家化」だ。米国自身も非核の日本国民の世論を前にしてこれが「難題」とは認識している。だからごり押しが難しい。したがってこれ一本に絞って米国による「自衛隊の核武装化」だけは拒否の姿勢を貫くことは最低限やらねばならないし、全く不可能なことではないと思う。

そのための「日本の大義」という「武器」がある。それは非核の国是、「非核三原則」の堅持だ。いわば向こうが「アメリカ・ファースト」なら、こちらは「日本の大義」、「国是第一」で行く、このどこが悪いのかという論法だ。

非核の国是を武器に、米国の企図する「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」、そのための「新設の自衛隊スタッドオフ・ミサイル部隊の核武装化」を拒否する。

具体的には産経が議論すべきとした「米核戦力の日本への配備」のための「核持ち込み容認」、そして「日米核共有」を認めないことが基本となるだろう。

その基本環は、いま米国の要求する有事の際の核使用に関する協議体、「日米韓“核”協議体」(日米だけの場合もある)創設の提起に乗らないこと、非核の国民世論を背景に「それは無理です、できません」と拒否姿勢を貫くことだ。

これは可能か? 可能性はあるけれど簡単なことではない。鳩山・民主党政権時の「最低でも沖縄県外に」と辺野古基地移転再検討を口にしただけで鳩山氏は首相の座を追われた。国民世論の後押しがなかったからだ。米国の意向に逆らうのはよほど時の政権に力がなければならない。その力は国民の支持以外にはない。鳩山政権には国民に訴える力がなかったからできなかった。

 

泉房穂さんの対談本『政治はケンカだ』(講談社)

逆に言えば、国民の支持を背景にすればできるということだ。

非核の国是堅持は絶対多数の国民が支持するものだ。時の政権が「非核の国是堅持」を背景に「核持ち込み」及び「日米核共有」の拒否を広く国民に訴えれば、これを国民は支持するだろう。

しかしいまの岸田・自公政権ではこれはできない。「米国についていけば……」の彼らは国民の顔色より米国の顔を見て動く、だから政権交代によってしかできることでないのはハッキリしている。

いま自民党の「政治とカネ」問題で岸田政権は揺れている、次の選挙で政権交代もありうるとも言われている。いまの政界再編劇については米国の影がちらつくが、政界再編、政権交代は国民自身の要求でもある。そしていま「国民をいじめる側」対「国民の味方」の対決として総選挙に勝ち、「救民」内閣を打ち立てると豪語する人物、泉房穂元明石市長という政治家が国民の注目を集めている。「注目」が「広汎な支持」になるか否かはいまは不明だが、少なくとも希望はある。

支持政党なしが60%を占める国民の政治不信を一掃する国民の信頼に足る政治家、政治勢力が出るならば「救民」政権樹立もけっして不可能とは思われない。だから可能性はある。

いま「パックスアメリカーナ(アメリカによる平和)の終わり」を世界が目にしている。米国の覇権力衰退著しいことの表現が「トランプ現象」でもある。「トランプのアメリカ」は「覇権力弱体化のアメリカ」であり、国民の力を背景にし米国を恐れない政治家、政治勢力が出るならば、「米国についていけば……」を卒業し、わが国が運命の自己決定権を手にすることは可能な時に来ていることだけは確かだ。

「もしトラ」の逆利用で米国依存の生存方式から目覚め、自己を取り戻すチャンスに変える時、戦後日本の革命成就も夢ではない時に来ている。ピョンヤンにあってこれが夢でないことを祈りながら「戦後日本の革命 in ピョンヤン」発信を続けたいと思う。

若林盛亮さん

◎ロックと革命 in 京都 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=109

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

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