子ども脱被ばく裁判原告団長の今野寿美雄(こんの・すみお)さんは、9年前の震災と原発事故後、当時住んでいた福島県浪江町から妻と息子とともに避難を続け、現在は福島市内の復興住宅で生活を送っている。2月初め、Facebookで今野さんが「解体のため、今春、鹿島建設に玄関のカギを渡さなければなりません。環境省から引き渡しを迫られています。昨年、11月末に現地立ち合いをしたところ、令和2年(2020年)3月25日が工期だといわれましたが、そんな話は寝耳に水でした。今まで工期について一切、説明もなければ、連絡もありませんでした」と投稿していた。今野さんに何が起きたのか、お話を伺った。全3回に分けて報告する。聞き手・構成=尾崎美代子)
3月4日、福島地裁で開かれた子ども脱被ばく裁判の公判前、地裁前でアピールする今野さん(Toshiko Okadaさん提供)
◆浪江訴訟──小早川社長になってから態度がゴロっとかわった東電
── 今野さんは現在、2つの裁判にかかわっていますが、1つは浪江訴訟。こちらは浪江の住民の皆さんが、原発事故の慰謝料の増額を要求していた原発ADRで、東電が和解案を6回も拒否して決裂したため、2018年4月17日、本格的な裁判を提訴して始まった裁判ですね? ADRを闘ってきた人たちは、東電に6回も拒否され、がっくりだったしょうね?
今野 ADRでは、精神的賠償の35万円の金額が10万円しか賠償されなかったので、あとの25万円を支払えと訴えていたわけです。東電は、和解案をずっと拒否してきた。最終的に中間指針で「5万円支払え」となり、住民側は受け入れたのに、東電はそれも拒否したわけです。個別の請求では、東電の現場の職員は一生懸命聞いてくれるわけですよ。俺たちのことを考えて。でも本店にもっていくと断られてしまう。
東電は、社長が前の広瀬さんから小早川さんに変わりましたが、彼が一番ひどいです。広瀬さんは、まだ要求を受けるようなことをいっていたが、小早川さんになってから態度がゴロっとかわった。私が個別に請求した分、1200万円も棄却されました。
── 本格的な裁判となるとハードルが高く、どこでもですが、おのずと原告の数は減りますね?
今野 そうです。ADRのときは、裁判費用も削除かからないし、早くに解決できると思い、浪江町の7割もの住民が参加しました。でも東電が拒否し続け、その間に亡くなった人も大勢いました。今度の裁判は、長くかかるのであきらめた人、それから損害賠償は着手金や印紙代金が高いこともあり、経済的な理由などで参加しない人も多く、原告の数は減りました。うちは、子ども脱被ばく裁判とのかねあいもあって、第四次で加わりました。裁判費用は家族3人で16万円かかりました。
息子さんと復興住宅にて(今野さん提供)
◆子ども脱被ばく裁判──3月4日、山下俊一氏が証人尋問に立つ
── もう一つが、「子ども脱被ばく裁判」(福島県在住の小・中学生らが、年間1ミリシーベルトを下回る地域での教育を求めて、国や福島県、市町村を訴えている裁判)、こちらの裁判の原告団長になった経緯からお聞かせください。
今野 最初は別の人がやっていましたが、その方が病気になったりして、いったん団長が不在の期間が続きました。でもやっぱり団長を置かないといけないとなり、僕が抜擢されました。職業柄、放射能のことは詳しかったからね。裁判では、通学している学校周辺の土壌を調査した結果を証拠として提出しています。きちんと測ったものを資料として提出しなくてはならないからね。土壌は、私と仲間で採取したものを、京都で測定してもらいました。また、空間線量も仲間と測りました。
── こちらの裁判に3月4日、いよいよ「毎時100ミリシーベルトまで大丈夫」「ニコニコしている人に、放射能は来ない」発言の山下俊一さんが証人尋問に立ちますね?
今野 そうです。あともう一人、重要な人物が前回の裁判で証人として出廷しています。福島県立医科大学の鈴木眞一教授です。彼は、実際、多くの小児性甲状腺がんの子どもを手術していますからね。彼はずっと忙しいと逃げてました。いったんは出張裁判をするとなりましたが、最終的には裁判所が「出廷しなさい」と命令しました。
── 傍聴には福島の方々はどのくらい集まりますか? またどのような判決になると予想しますか?
今野 原告の人たちは、子供が小さいし、仕事があるから、そうそう皆さん、傍聴にはいけていません。子どもを迎えにいかなくてはならないから、裁判の途中で帰らなければならない人もいます。判決はどうなるかは、全くわかりません。ただ福島では生業訴訟で勝訴の判決がでていて、一部控訴した部分もありますが、それも先日仙台高裁で結審しています。一方、東電刑事訴訟など悪い判決もあるし、そうしたほかの裁判の結果もまた影響してくると思います。どうなるかはわかりませんね。
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◎[参考動画]山下俊一トンデモ発言(2011/05/08)
3月4日、福島地裁前(Toshiko Okadaさん提供)
◆「復興五輪」──復興なんて無理ですよ、元に戻ることはないから
── 7月から始まる東京五輪についてお聞きします。先日、Jヴレッジで「オリンピック反対」のスタンディングが行われましたが?
今野 全国から50人くらい集まって、プラカードに日本語だけではなく英語、韓国語、フランス語などいろんな国の文字で思いを書いてアピールしました。国道6号線にずらりと並んで。車で行き来する人たちも見ますが、それが全国、全世界に報道されたのだから、影響は大きかったと思います。地元では、僕も何度も取材をうけた東京のTBS系列のテレビユー福島が夕方のニュースで報じていました。
── 福島のなかでは「東京五輪」への歓迎ムードはあるのでしょうか?
今野 俺の周辺では、浪江訴訟の仲間も津島訴訟の仲間のなかにも、全くない。聖火リレーだって、いいところばかりをちょこっと走って、それをつなげるだけ。それでは福島の現実は伝わりませんよ。復興した印象を持たせようと、廃墟のある場所や更地になった場所は、走りません。Jヴレッジや新しくできたハコモノの周辺等のいいとこどりです。
── 2月12日、「ひだんれん」で行った記者会見でも、いま行われている「復興」はうその復興と話されてましたが、では「本当の復興」はどうすれば成し遂げられるとお考えですか?
今野 復興なんて無理ですよ。元に戻ることはないから。復興とは、復旧が終わって再び興すことです。復旧とは、元に戻すことです。復旧が出来ていないのに復興することは出来ません。
◆原発で一緒に働いていた同級生の仲間が2人、50歳で亡くなった
── 確かにそうですね。今野さんの元の同僚の方はどうなさっていますか?
今野 事故後に原発の仕事辞めた同僚は、半分くらいいます。ほかにも事故を機に辞めた仲間はいっぱいいます。福一に戻った同僚からは発電所の現状や思っていることを「俺たちは言えないから代わりに言ってくれ」と言われています。
じつは原発で一緒に働いていた同級生の仲間が2人、50歳で亡くなっています。死因はわからない。事故から3年後です。新聞のお悔み欄で見つけたり、人から聞いたりして知りました。2人が事故後に原発に入っていたかどうかもわかりません。表にでてこない話だから。あと同級生の女性も50歳で亡くなりました。津島地区の人ですが、やっぱり死因はわからない。病気になり闘病生活送ったとかではなく、みんな、急に亡くなっています。
ほかにも、以前浪江に住んでいた近所の人で、50歳代で亡くなった人が3人います。会社の先輩、一緒に仕事していた仲間、それと幼稚園の園長先生。この前、花をあげてきましたが、みなさん、50台後半、家族を残してね。
── 1人だけならまだしも立て続けに何人もって、おかしいですよね?
今野 絶対おかしいですよ。50歳台で突然亡くなること自体がそうそうないでしょう。ほかの人たちは話さないが、俺は話します。でもその原因が被ばくとは言っていない。ただ「こういう現実がありますよ」と話します。被ばくとの因果関係はわからないが、異常だと思うよと。考えられる要因としては、そこしかないだろうと話します。
── 残されたご家族も無念だし、「これはおかしい」と考えられるでしょうね?
今野 思っていても証明できないから、しょうがないですよね。医者だって言えないしね。死亡欄には「心不全」と書いてあるが、「その心不全に何故なったか?」と言われてもわからないわけです。僕ができるのは、とにかく事実を伝えることだけ、それしかありません。
── まだまだお聞きしたいことはありますが、今日はここまでといたします。長い時間どうもありがとうございました。(完)
(2020年2月29日/瀬戸大作さん提供)
▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58
『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故
『NO NUKES voice』Vol.23
紙の爆弾2020年4月号増刊
2020年3月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ
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総力特集 〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故
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[グラビア]福島原発被災地・沈黙の重さ(飛田晋秀さん )
[インタビュー]菅 直人さん (元内閣総理大臣)
東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと
[インタビュー]飛田晋秀さん (福島県三春町在住写真家)
汚染されているから帰れない それが「福島の現実」
[報告]横山茂彦さん (編集者・著述業)
元東電「炉心屋」木村俊雄さんが語る〈福島ドライアウト〉の真相
[報告]尾崎美代子さん (西成「集い処はな」店主)
車両整備士、猪狩忠昭さんの突然死から見えてくる
原発収束作業現場の〈尊厳なき過酷労働〉
[報告]伊達信夫さん (原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈7〉
事故発生から九年を迎える今の、事故原発と避難者の状況
[報告]鈴木博喜さん (『民の声新聞』発行人)
奪われ、裏切られ、切り捨てられてきた原発事故被害者の九年間
[対談]四方田犬彦さん (比較文学者・映画史家)×板坂 剛さん (作家・舞踊家)
大衆のための反原発 ──
失われたカウンター・カルチャーをもとめて
[報告]本間 龍さん (著述家)
原発プロパガンダとは何か〈18〉
明らかになる福島リスコミの実態と功罪
[報告]山崎久隆さん (たんぽぽ舎副代表)
「特定重大事故等対処施設」とは何か
[報告]三上 治さん (「経産省前テントひろば」スタッフ)
停滞する運動を超えて行く方向は何処に
[報告]山田悦子さん (甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈7〉記憶と忘却の功罪(後編)
[報告]佐藤雅彦さん (翻訳家)
5G=第5世代の放射線被曝の脅威
[報告]渡辺寿子さん (核開発に反対する会/たんぽぽ舎ボランティア)
「日本核武装」計画 米中対立の水面下で進む〈危険な話〉
[読者投稿]大今 歩さん (農業・高校講師)
原発廃絶に「自然エネ発電」は必要か──吉原毅氏(原自連会長)に反論する
[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
老朽原発を止めよう! 関西電力の原発と東海第二原発・他
「特重」のない原発を即時止めよう! 止めさせよう!
《関電包囲》木原壯林さん (若狭の原発を考える会)
「5・17老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」に総結集し、
老朽原発廃炉を勝ち取り、原発のない、人の命と尊厳が大切にされる社会を実現しよう!
《規制委》木村雅英さん (再稼働阻止全国ネットワーク)
1・24院内ヒアリング集会が示す原子力規制委員会の再稼働推進
女川審査は回答拒否、特重は矛盾だらけ、新検査制度で定期点検期間短縮?
《全国》柳田 真さん (たんぽぽ舎・再稼働阻止全国ネットワーク)
原発の現局面と私たちの課題・方向
《北海道・泊原発》佐藤英行さん (岩内原発問題研究会)
北海道電力泊原子力発電所はトラブル続き
《東北電力・女川原発》笹氣詳子さん (みやぎ脱原発・風の会)
復興に原発はいらない、真の豊かさを求めて
被災した女川原発の再稼働を許さない、宮城の動き
《東電・柏崎刈羽原発》矢部忠夫さん (柏崎刈羽原発反対地元三団体共同代表)
柏崎刈羽原発再稼働は阻止できる
《関電・高浜原発》青山晴江さん (再稼働阻止全国ネットワーク)
関西のリレーデモに参加して
《四国電力・伊方原発》名出真一さん (伊方から原発をなくす会)
三月二〇日伊方町伊方原発動かすな!現地集会
レッドウイングパークからデモ行進。その後を行います。圧倒的結集をお願いいたします。
《九州電力・川内原発》けしば誠一さん (反原発自治体議員・市民連盟事務局次長/杉並区議会議員)
原発マネー不正追及、三月~五月川内原発・八月~一〇月高浜原発が停止
二〇二〇年は原発停止→老朽原発廃炉に向かう契機に!
《北陸電力・志賀原発》藤岡彰弘さん (命のネットワーク)
混迷続く「廃炉への道」 志賀原発を巡る近況報告
《読書案内》天野惠一さん (再稼働阻止全国ネットワーク)
『オリンピックの終わりの始まり』(谷口源太郎・コモンズ)
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