和歌山カレー事件をテーマにした初のドキュメンタリー映画が公開されることになった。配給会社から5月10日、発表・情報解禁された。タイトルは『マミー』。8月3日から東京・渋谷のシアター・イメージフォーラム、大阪の第七藝術劇場など全国で順次公開される予定。

映画『マミー』メインヴィジュアル ©2024digTV

「和歌山毒物カレー事件から26年目の挑戦」と銘打っているように、事件が公式的に映画化されるのは初めて。林眞須美さんの長男氏は「カレー事件の現在(イマ)がしっかり描かれているこの作品を通じ、実状を広く知っていただきたいというのが本心だ。多くの方に足を運んで観ていただきたい」と強く訴えている。

※確定死刑囚として大阪拘置所に収監中だが、一貫して無罪を主張。動機が未解明であること、自白がないこと、直接証拠がないこと、2024年現在も再審請求を行っていることなどからあえて林眞須美さんと表記する。ご理解いただきたい。

メガホンを取るのは、今回初めて映画を手がけるという映像ディレクターの二村真弘監督。和歌山に何度も足を運び、入念な取材と撮影を数年にわたり敢行した。

和歌山カレー事件は1998年7月25日に発生。和歌山市園部地区の夏祭りで提供されたカレーの鍋にヒ素が混入され、67人が急性ヒ素中毒を発症した。うち子供を含む4人が死亡。近所の主婦、林眞須美さんが殺人・殺人未遂・詐欺容疑で逮捕され、無罪を主張するも、状況証拠を根拠に一審から最高裁まで一貫して死刑が言い渡された。眞須美さんは現在、大阪拘置所で24時間監視下に置かれながら、3畳の小さな居室で1日1日を過ごしている。遮断された環境で、家族以外との手紙のやりとりは許可されていない。

映画『マミー』より ©2024digTV

映画ではここからさらに奥深く、真相を迫っていく。

事件発生から四半世紀、本作は最高裁判決に異議を唱える。「目撃証言」「科学鑑定」の反証を試み、「保険金詐欺事件との関係」を読み解いていく。さらに眞須美の夫・林健治が自ら働いた保険金詐欺の実態をあけすけに語り、確定死刑囚の息子として生きてきた林浩次(仮名)が、なぜ母の無実を信じるようになったのか、その胸のうちを明かす。林眞須美が犯人でないのなら、誰が彼女を殺すのか? 二村真弘監督は、捜査や裁判、報道に関わった者たちを訪ね歩き、なんとか突破口を探ろうとするのだが、焦りと慢心から取材中に一線を越え……。映画は、この社会のでたらめさを暴露しながら、合わせ鏡のようにして、私たち自身の業や欲望を映し出す。(プレスリリースより)

筆者は一足早く関係者向け試写会で本作品を鑑賞した。

今年で26年が経つ和歌山カレー事件の様がありのままに細かく描かれており、胸を締め付けられる場面や考えさせられるシーンが多いのが印象的。今まで見たドキュメンタリー映像の中でも、丁寧で、隙がない。

人間模様も細かく描かれている。作品の内容に触れてしまうため詳しくは書けないが、ここまで突き詰めるのかと驚いた点も。緊迫した瞬間があり、客席の筆者にまで心臓が止まりそうなほどの緊張が伝わってきた。その糸が切れないまま会場を後にしたほどだ。集中して観ているとあっという間の119分だったように思う。

全体を通し、眞須美さんに対する捜査、判決、現状について改めて問い直す必要を実感した。ここまで綿密に取材・撮影した二村監督には感服以外の言葉が見つからない。

忖度抜きで一人でも多くの人に見ていただき、事件について考えていただきたいと心から思える作品だ。     

筆者も一般公開後に再度鑑賞する予定である。

眞須美さんも、公開を非常に心待ちにしている。長男氏によると、5月7日に大阪拘置所で眞須美さんと面会し、映画について報告を行ってきたという。

面会室で長男氏からアクリル板越しにメインヴィジュアルのチラシを見せてもらった眞須美さんは、「素敵!(下部の白い花を見て)きれいな写真やね!」と気に入った様子。映画の公開について「一刻も早くここ(大阪拘置所)から出たい。自分が置かれている現状や捜査・科学鑑定などの不可解な点について、多くの方に知っていただく機会となればありがたい」と話し、再審開始の追い風になればと期待を膨らませた。

映画『マミー』より ©2024digTV

10歳の時から事件と切っても切れない人生を送ってきた長男氏。映画の完成を受け、現在の心境をこのように語る。

「映画鑑賞はわりと好きな方で、国内外のドキュメンタリー作品もよく観ている。が、他の事件を扱った作品では、そのほとんどが裁判で何らかの区切りがついたものが多い」

「和歌山カレー事件の映像化について初めてお話をいただいた時は、再審請求中の事件ということもあり難易度が非常に高く、実現できるのか一抹の不安があった。それでも根気強く完成までこぎつけてくださった監督、関係者が奔走する姿をずっと見てきたので、情報解禁され公開日が決まったことに安堵とともに緊張している。映画を観終えた感想としては、当事者の自分でもどう表現すべきか言葉が見つからない。今のところ〝Interesting〟が正しいのではないかと結論づけている」

[注]「interesting」は形容詞。興味を起こさせる、関心を引くなどの意味がある。【小学館『プログレッシブ英和中辞典』より引用】

「映画という劇場を通した伝え方について、娯楽的・商業的だと捉えられるのは否めない。快く思わない方がいらっしゃるかもしれない。重々承知している。その上で、映画でしか伝わらない、伝えられないこともあると思う。ご理解いただきたい」

「映画の公開を機に発信活動にこれまで以上に尽力し、今後も事件と母親の行く末を見守る覚悟でいる」

続報を待つ。

▼紀多 黎(きた・れい)
幼少期から時事問題について議論する家庭で育つ。死刑制度や冤罪事件への関心が高い。好きな言葉は「見えるものではなく、見えないものに目を注ぐ」。

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和歌山カレー事件・林眞須美さんの長男氏が、SNSを中心に母との交流などを発信している。テレビや新聞、YouTubeの取材も積極的に受諾。これまでの自身の経験や思い、眞須美さんの冤罪の可能性ついて、一つ一つ言葉を慎重かつ丁寧に選びながら語っている。客観的に物事を捉えて話すのが特長で、さまざまな媒体でその姿を垣間見ることができる。

長男氏の話を直接聞いてみたい──。さまざまな報道記事や映像を見た筆者はそう思い、長男氏が登壇する複数の催しに足を運んだ。

※確定死刑囚として大阪拘置所に収監中だが、一貫して無罪を主張。動機が未解明であること、自白がないこと、直接証拠がないこと、2024年現在も再審請求を行っていることなどからあえて林眞須美さんと表記する。ご理解いただきたい。 

◆張りつめた5分間のスピーチ

2023年末、複数の冤罪被害者や弁護士を招いて開かれた「冤罪と司法を考える集い」。60代以上の男女70人以上が会場に集まった。

思いを口にする長男氏(※写真は一部加工)

集いでは、冤罪被害者が1人5分ずつ、自分の思いを話す場が設けられた。黒無地のダブルスーツ姿で登壇した長男氏は、指名されパイプ椅子から立ち上がると、サングラス越しに客席を見つめながらこう話した。

「死刑事案になるので人間の生き死にがかかっている。ご覧いただければ分かるように、(サングラスとマスクで顔を隠しており)実生活と冤罪の発信活動を両立するのはいびつとも言える状況。なんとかバランスを保っている。このような暮らしを送っている36歳は他にいないのではないか。(他登壇者である)弁護士の方がお話していたように、身内に犯罪者が出ると、ほとんどの家族は離散してしまう。僕も実際に家族を亡くした」

「この集いに来てくださっている皆さんは僕たちの意見に理解ある方が多いと思う。が、会場の外へ一歩踏み出し社会に出れば、『9人の裁判官がそろって有罪・死刑判決を出しているのだから、裁判官や警察官が間違えるはずないでしょう』といった声が飛んでくるのが現実」

「『そんなに冤罪だと思うなら真犯人を連れてきなよ』『真犯人は誰なんだ』と追及されることもある。”悪魔の証明”という言葉があるように、僕たちの活動は、事件をやっていないことを証明し訴えていくためのもの。真犯人を探すのは警察や検察の役目である。だが、真犯人が見つかっていないのならお前のお母さんが犯人だ、という意見を言われることがある」

「僕はまだ30代で、社会に出たころは法律の仕組みに疑問を持つこともなく、警察が間違うはずがないという意識を自分自身も持っていた。冤罪なんて99%起こるわけがないと思っている世間の方々にどう伝えていけばいいのかと日々悩みながら発信活動をさせていただいている」

「僕の両親の場合は非常に複雑な事件で、保険金詐欺という”悪さ”はやっている。のちに発生した無差別殺傷事件は事件の性質自体が異なり、別の事件だ。保険金詐欺は緻密に計画を練って、利欲を目的とし利益を得るために行うもの。和歌山カレー事件=無差別殺傷は、快楽など何らかの動機で人を傷つけるもの。全く性質の違う事件なのに、判決の中で『保険金詐欺をやっているから無差別殺傷に抵抗がなかった』というふうに結び付けられ、警察発表を経てメディアで大きく報道された」

「メディアスクラムという言葉もあるようにメディアと林家の闘いもある。発信してほしいという気持ちも持ちつつ、困らされることもある。そんな25年を過ごしてきた。2023年は死刑執行がなかったが、母親は再審請求を申し込んでいる状況だ。母親は捜査の際に完全黙秘をした。1枚の供述調書も取られていない。名前も住所も生年月日も答えていない。袴田事件の再審請求開始を受け、希望を持っているようだ。これからも発信を続けるので宜しくお願いします」

緊張感が漂い会場が張り詰めた5分間だったが、話し終えた後は参加者からあたたかい反応が。長男氏もほっとした様子だった。

◆開場と同時に多くの来場者が押し寄せた

昨冬から今春にかけ、大阪市内で開かれたトークイベントにも数回参加した。満席に近い予約が毎回入るようで、開場前から入口近くには入場待ちの列が。開場と同時に多くの来場者が訪れた。

客層は30~60代がメイン。事件を知らないであろう若い世代も一部おり、前者とは雰囲気が打って変わる。関西はもちろん、関東や東海など他の地方から足を運んだ客の姿も散見された。

開演後、司会者に呼ばれた長男氏は、目が透けて見えない黒のサングラスにマスク、全身黒色の私服という”YouTube出演スタイル”で舞台下手から登場。その姿は一見どこにでもいそうなシュッとしたモデル風の青年という雰囲気だ。見た目は都会的でモード系のファッションに身を包んでいる。

華やかな見た目とはいえ重圧を背負って今まで生きてきたはず。これまでに他媒体のインタビューで、加害者家族として生きていくことを「人生の消化試合」「自分の人生はもう終わっている」と悲観的に表現していることもあった。

凹むことや病むことはあっても、そこまでの単語を使う若者は周囲にいないし、筆者自身も自分の人生をそこまで悲観した経験はなく衝撃を受けた。テレビやYouTube、前者の集いのように、やや重苦しい雰囲気で話が進むのだろう。そう思い込み話を聞き始めた。

一抹の不安は、長男氏が話し始めた途端、杞憂に終わった。とても快活な人だ──。そう感じずにはいられなかった。トークイベントでは長男氏が司会者と掛け合いをしながら、報道機関の取材よりも肩を抜いた雰囲気で話を進めていく。

※配信なし、撮影・録音・録画禁止の催しという都合上、事細かなイベントの中身については割愛する。

「もともと林家は明るくて、笑いの絶えない家庭だった」などとさまざまな媒体で話しているように、素顔は明るくて冗談も大好きな、どこにでもいる関西人の青年だ。特に眞須美さんとの面会での様子を紹介する際には長男氏の笑顔が絶えず、母と息子の交流をありのまま伝え、会場全体が微笑ましい雰囲気になる瞬間もあった。

4月中旬のトークイベントでは、林家仕込みのブラックジョークも披露。

「母が推し(=眞須美さんのファン)だという方にお会いしたことがある。ということは、息子である僕って”推しの子”ですよね?」と、会場の反応をやや気にしつつも人気漫画作品『推しの子』(原作:赤坂アカ、作画:横槍メンゴ、集英社)に自分を重ねて客席に問い、笑いを取る場面も。

眞須美さんが笑顔で報道陣に向かってホースで水を撒く様子の写真から着想を得て、アニメ版主題歌『アイドル』の歌詞の歌いだしを「無敵の笑顔で荒らすメディア」「無敵の笑顔で”濡らす”メディア」と言い換え、会場を爆笑の渦に巻き込んでいた。

報道陣に向かって水を撒いた母の姿について、自分なりに現代らしくこう表現した長男氏。不謹慎とも思える絶妙なバランスを保っており、これに関しては言い得て妙というべきか……。

社会を震撼させたであろう事件の関係者、当事者とはとても思えない一面。子供の頃からのひょうきんな部分が残っているのか、辛さを隠すためなのか。その心の奥までは読むことができなかった。

少し話を脱線する。眞須美さんがホースで水を撒いた回数は10回程度。その一部の撮影の背景について、長男氏がSNSで発信したことも記憶に新しい。

※このトーク内容は長男氏からnoteへの掲載許可を得た上で紹介している。

明るいだけではない。映像で彼を見たことがある方ならお分かりのように、非常にまじめ。長男氏は来場者一人一人の表情や雰囲気を見ながら、客観的な視点を忘れず丁寧に言葉を選んでいく。

過去には不安な気持ちを漏らすことも多かった。ある回では「これまで人目を避け、素性を隠して生きてきている。今日はこんなにたくさんの目がこちらに向いていることが少し怖い」と恐る恐る本音を漏らし、恐怖から気を紛らわそうとする素振りを見せた。

軽快な口調で司会者と会話を続ける一方で、時折自らの人生を悲観したり、自分や自身の家族 ── 加害者家族のことはこうあるべきと卑下したりする場面も。不安定で浮き沈みが多い。事件発生時の記憶、姉妹との絶縁、死刑制度についての考え、冤罪の可能性……。昨年の開催時には、さまざまなテーマについて語った後、最後に眞須美さんへの葛藤を口にした。

「母親が無実と言うのであれば、その言葉を信じたいです。でももし本当に犯行に及んだのなら、相応の罪を償ってほしいと思っています──」。

犯罪者の家族とはいえど、誰にだって幸せを手にする権利はあるし、人権も持つ。そう願っている。とはいえ「実際の社会ではそうはいかない。美談やきれいごとのようにそこまで寛容な社会ではないのが現実です」(長男氏)と立場をわきまえながら生活、発言しなければならない実情を口にした。

事件の重たさが伺える、あまりに複雑な経験。客席には涙をハンカチで拭う眞須美さん世代の女性客の姿が散見された。

終了後には、壇上前に集まった来場者一人一人の質問に対応。とても丁寧に耳を傾け、時間を掛けて世間の声と向き合っているようだった。

母親が確定死刑囚。身近に同じ境遇の人間はほぼいないだろう。理解されないことも多いかもしれない。多くの有名事件の加害者家族は引っ越し、改名、離散といった選択肢を取っている。そんな中でも和歌山県から離れないで活動を続ける長男氏。

終演後、司会者やスタッフに見守られながらどっと疲れた様子で会場を後にした。その背中から、どんなに大変でも加害者家族のあり方を変えていきたい、自分が何らかの役に立ちたいという思いが感じ取れた。

長男氏によると、本業の合間や休日に取材、インタビュー、講演などを行う生活が26年続いているという。2021年には近親者の死を経験。自宅にマスコミが押しかけ、警察や関係機関からの情報を得られないまま取材に対応することもあった。

集いは高齢者が多く、孫を見るような目で長男氏を見守ったり、声を掛けて励ましたりする人々の姿が印象的だった。トークイベントでは、来場者がまるで友人のように長男氏へ気さくに接している。眞須美さんの同世代も多い。

◆「報道が全て」だった1998年

長男氏が話した内容の中で気になったことがある。

「もし事件の時にスマートフォンやインターネットがあれば、報道は違った内容になったんじゃないかと思う。報道の仕方も違ったんじゃないか」

インターネットがなかった1998年当時はテレビと新聞、週刊誌による情報が全て。これらが報じるものを信じるしかない状態だった。

実際、和歌山カレー事件の一連の報道を鮮明に覚えている筆者の知人に話を聞いてみた。

「逮捕される前から近所の一主婦を犯人と特定して連日報道していることに、当時から違和感があった。あんな報道の仕方は松本サリン事件とこれくらいじゃないか」(60代女性)

知人は報道の印象が非常に強かったようで、記憶を掘り返す間もなく、すぐにこう振り返った。

過熱報道、メディアスクラムがさらなる被害を生み出した。大きな人権侵害となったのは誰しもが知ることだろう。(注・松本サリン事件で犯人と疑われ報道された人物は、誤報と判明し逮捕されていない)

すでに多くのジャーナリストや関係者、支援者が冤罪を訴え活動しているが、事件に関心のある人以外には全てが伝わりきっていないのが現実だ。

筆者の周囲でなんとなく報道を見ていたという複数の知人に「和歌山カレー事件の林眞須美さんに冤罪の可能性があることを知っているか」と尋ねてみたところ、

「ヒ素の鑑定が間違っているなんて知らなかった」
「自白していないなんて知らなかった、していると思っていた」
「なんとなくテレビを見ていて怪しそうに感じたから、あの人が犯人だと決めつけていた」
「近所に嫌われてたんだし、あの人(眞須美さん)がやったんじゃないか?」

といった反応が。もどかしく感じた。

◆執筆続ける契機

筆者が知る限り、自白なし、動機なし(未解明)、直接証拠なし ──。「なし」の三拍子が揃っている日本の確定死刑囚は眞須美さん、ただ一人である。

状況証拠だけで死刑執行され、のちに冤罪と判明した場合どうするのか──。想像するだけでとても恐ろしい。そんなこと、あっていいはずがない。

筆者自身が一人で何か動いても何も変わらないかもしれない。変わらない可能性の方が各段に高いだろう。また長年追ってきた記者や報道機関にはかなわない。今年で26年になるというのに、今さら何だ? と思う方も数多くいるだろう。

それでも、このことをもっと知ってもらえたら。疑問や興味を持つ人が増えれば。一縷の望みにすがりながら、今後も和歌山カレー事件について、眞須美さんについて、そして眞須美さんの冤罪を信じて行動を続けるご家族、支援者について……できる範囲で執筆による発信を続けようと思った。その後、林家に取材を直接申し込み、さらに詳しく話を聞けることとなった。

▼紀多 黎(きた・れい)[写真・文]
幼少期から時事問題について議論する家庭で育つ。死刑制度や冤罪事件への関心が高い。好きな言葉は「見えるものではなく、見えないものに目を注ぐ」。

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「まーすーみーさーーーん!」 3月中旬、朝の大阪拘置所前。

今にも雨が降りそうな悪天候。静けさが漂っていた空間に突如、明るく大きな声が響きわたった。

声の主は「眞須美さんコール」のメンバー。毎月1回、拘置所の中にいる和歌山カレー事件・林眞須美さんに向かって声援を送っている。

思いを声に出し届ける女性

※確定死刑囚として大阪拘置所に収監中だが、一貫して無罪を主張していること、動機が未解明であること、自白がないこと、直接証拠がないことなどからあえて林眞須美さんと表記する。ご理解いただきたい。

2月20日に和歌山カレー事件の再審請求が受理されたとのニュースがマスコミ各社で報じられてから初の眞須美さんコール。自然とメンバーに気合いが入った。

眞須美さんコールに合わせ、再審開始や面会の許可を訴えるグッズを多数用意。濃紺とピンク、2枚の横断幕に加え、段ボールで手作りしたものもあり、メンバーで手分けして道路へ向けて持った。

眞須美さんに聞こえますように──。 そんな思いで、近隣住民に断りを入れた上で、拡声器を持ってそれぞれ気持ちを伝える。あるメンバーは、サックス演奏を眞須美さんに届けようと、精いっぱい心をこめて演奏する。

「林眞須美さんは一貫して無実を訴えておられます。どうか再審請求の道が開かれ、再審無罪が勝ち取れるよう、心から願います」(男性)

「眞須美さん。お変わりありませんか。(中略)眞須美さんの長男さんのTwitter(現X)を見ています。多くの人が見て、眞須美さんが冤罪であると考え直してくれることを願っています。また来ます」(女性)

「眞須美さん聞こえますか? 再審請求受理のニュースを見ました。1日も早く眞須美さんの再審が開始されることを心から願っています。ずっと応援しています。風邪引かないでください」(女性)

拘置所前に集まった支援者

再審請求受理のニュースが大きかった影響か、拘置所前だけ徐行して様子を眺める乗用車の中の人々、立ち止まって聞き入る親子連れ、近隣住民の姿がいつも以上に多いのが印象的だった。

声や演奏は、眞須美さんにしっかりと届いている。

眞須美さんコールから2日後、眞須美さんが長男に送った手紙の中に、このようなメッセージが綴られていた。

「くもり空の窓外より、マイク音や心知よい音楽が流れてきて、ラジオを切り、耳をすましてききいって過ごしました。毎月スゴイネ!! リズムのいい流れのいい音楽に(ニッコリ) 雨が今にもふりだしそうで……外はさむいのかしら……」? (原文ママ)

眞須美さんから長男へ届いた手紙(長男提供)

眞須美さんコールのメンバーと眞須美さんは、その日、その時間、同じ空を見上げていた。同じ空間を確かに共有していた。

大きな空の下で通じ合っていたのだ。

会えなくても、塀にさえぎられていても、双方にとって大きな励みとなった1日だった。 拘置所で過ごす眞須美さんへ思いが伝わっていることが、彼ら彼女らにとって手応えになっているに違いない。

眞須美さんコールのメンバーは、コールの最後をこう締めくくった。

「ますみさーーーん!」「ますみさーーーん!」

「また来まーーーす」「元気でいてくださーーーい」

▼紀多 黎(きた・れい)[写真・文]
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2月20日、同5日付で和歌山カレー事件の再審請求が和歌山地方裁判所に受理されたとの一報が全国を駆け巡った。

テレビ、新聞などが一斉に報じ、普段ニュースを見ない人々の間やSNSでも話題に。今年で26年となる今も、事件、そして林眞須美さんが世間から忘れられていないことを証明づけた。

※現在は確定死刑囚として大阪拘置所に収監中。一貫して無罪を主張しており、動機が未解明であること、自白がないこと、状況証拠しかないことなどから、あえて林眞須美さんと表記する。ご理解いただきたい。再審請求が受理されたのは実質3回目だ。

1回目は死刑判決確定後の2009年7月22日付。事件にヒ素が使われていたが、ヒ素の鑑定方法に問題があるとして和歌山地裁に請求、2017年3月29日付で棄却された。同年4月3日に大阪高等裁判所へ即時抗告し棄却。その後、最高裁判所への特別抗告も行っているが、2回目の請求と1本化するため取り下げた。

2回目は2021年5月16日。青酸化合物を死因とする当初の解剖結果が存在するとみられるものの、裁判に提出されていないことを焦点に置いた。林眞須美さんがヒ素を使ったとされているが、カレーにヒ素と青酸化合物の両方が投入されていたのならば第三者の犯行だと主張。また和歌山市がヒ素ではなくシアン中毒として患者の対応にあたったことにより死者が発生したこと、眞須美さんに死者4人の死因を直接立証できる証拠がないこと、第三者の犯行であることを訴え和歌山地裁へ請求、同31日付で受理された。昨年(2023年)1月31日付で和歌山地裁が棄却し、同2月2日付で大阪高裁に即時抗告している。

◆冤罪ではないか──。 世論が高まる中での動き

2回目の再審請求が即時抗告されており”生きている”中で、眞須美さんと別の弁護団は新証拠を携え3回目の請求に踏み切ったのだ。2つの弁護団が異なる内容で、2件の再審請求を同時進行している――。珍しい状況ではないだろうか。それだけ多くの関係者が事件の捜査について疑問視していると言える。

2回目、3回目の請求内容については詳報を待ちたい。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

3回目の再審請求までに、支援者の間ではさまざまな勉強会が行われた。今冬には、林家と夏祭りの現場のヒ素が異なることについて、鑑定不正について学ぶ場が設けられた。

「あまりにも鑑定がひどい」。

『鑑定不正』著者で京都大学の河合潤元名誉教授は、こう言いながら眉間にしわを寄せた。 

大阪市此花区で開かれた、和歌山カレー事件・林眞須美さん支援者らによる学習会。50~80代の男女約30人が集まり、和歌山カレー事件で重要な焦点となったヒ素について、河合元名誉教授が自身の鑑定結果をもとに事件の真実に迫った。注目が高まっているからか、九州から訪れた参加者の姿もあった。

和歌山カレー事件は1998年7月に発生。夏祭りで提供されたカレーの鍋にヒ素が混入され、67人が急性ヒ素中毒を発症した。うち4人が死亡。近所の主婦、林眞須美さんが逮捕され、無罪を主張するも状況証拠を根拠に最高裁で死刑が言い渡された。

和歌山カレー事件は2002年の和歌山地裁第一審で、林家の台所シンク下から出てきたヒ素と、現場の紙コップから検出されたヒ素、カレーに混入されたヒ素の3つが同一との鑑定結果が提出された。当時東京理科大学教授だった中井泉氏に依頼して行われたもの(以下、中井鑑定)だ。

これを根拠に死刑判決(一部無罪)が言い渡された。2005年の大阪高裁、2009年の最高裁でも中井鑑定が採用され続け、中3~3歳の4人の子育てに追われる主婦だった眞須美さんは確定死刑囚となった。

第一審から約8年後の2010年、再審請求弁護団が河合元名誉教授のもとを訪れた。河合元名誉教授が鑑定を行ったところ、3つのヒ素は同一ではないと判明。死刑判決の根拠となった中井鑑定は、これらのヒ素が同じ輸入業者を経由したものだったかを調べるに過ぎないものだったのだ。

河合元名誉教授は一連の裁判に採用された鑑定の不正点について、中井鑑定の不審点に1つ1つ触れながら参加者に説明した。河合元名誉教授によると、ヒ素の鑑定には鉛の反応が強く出ているほか、一部の鑑定結果は過去に鑑定したものをトリミングし再利用していたと指摘。また中井泉氏の証言と結果が矛盾していることなども強調した。

「とんでもないこと。明らかな不正だ」。

河合元名誉教授は厳しい口調で参加者らに訴えた。

河合元名誉教授は、今後も中井鑑定の問題点に着目し、再審請求弁護団に新証拠を示していく予定だ。勉強会で参加者からの質問を受け、「新証拠はいくつも見つけている。今後も弁護団に鑑定の説明を続ける」と話していた。

河合元名誉教授は著書の最後をこう締めくくっている。「林眞須美という存在は、司法・マスコミ・学会などの健全さを示す『リトマス試験紙』となっている」(『鑑定不正』河合潤著、日本評論社 208ページより引用)

この言葉が筆者の心に重くのしかかり、日本における大きな課題だと強く受け止めた。

▼紀多 黎(きた・れい)[写真・文]
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アドベンチャーワールド、白浜温泉、和歌山マリーナシティ。これまでに和歌山で訪れた場所は、いずれも観光地ばかり。地域住民が日常的に行き来するような場所には行ったことがなかった。

和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚の支援者が、和歌山県で冤罪を訴えビラ配りをしているらしい──。

そう耳にしてから支援者の活動が気になり続け、先日、初めてJR和歌山駅前に足を運んだ。

[※]林眞須美死刑囚は、確定死刑囚の身ではあるが逮捕時から一貫して自らの無罪を主張。現在は再審請求を行い即時抗告中だ。無罪を主張している点、証拠に疑わしい点があることなどから、記事内ではあえて林眞須美さんと表記する。

関係者によると、ビラ配りは約20年前に開始した。毎月1回、JR和歌山駅前で約300枚弱を通行人に手渡ししている。大阪市内で配布することもあるという。

手作りのビラ。道ゆく人に1枚1枚配る

◆電車に揺られ和歌山へ

少し冷え込んだ休日の昼下がり。JR阪和線の紀州路快速で終点の和歌山駅に向かった。紀ノ川を渡り市街地に近づくにつれ、園部地区までとはいかないが、周辺の住宅街が右手の窓から見える。戸建てが並び、非常に穏やか。人通りも少ない。こんな静かな場所の近くであの騒ぎがあったとは……。信じがたい、そう思いながら電車に揺られた。 

和歌山駅に到着し中央改札から出口へ向かうと、1枚の横断幕が目に留まった。

「和歌山カレー事件 林眞須美さんは無実」
黄色地の布に、青とピンクのフェルトでこう書かれている。

周囲にはバスやタクシー乗り場が。家族などの送迎に来る乗用車もひっきりなしにロータリーへやってくる。休日とあってか、制服姿の学生や住民だけでなく、キャリーケースを引っ張る観光客らしき人々も散見される。

行き交う人々のそばで支援者はマイクを手にし、活動や冤罪について通行人に訴えかけた。

河合潤氏の鑑定によって、林家にあったヒ素と事件現場のヒ素が一致しなかったこと。裁判で使用された別の研究者による最初の鑑定に間違いがあったこと。林家の長男が昨年11月に面会に行き、いつもと違う刑務官の様子に不安を覚えたこと……。

話す支援者を囲むように、10人弱の男女があちこちに広がって黄緑色のビラを通行人に手渡し始めた。

ビラは黒の1色刷りで、前月のビラ配布時の印象的な出来事、過去1カ月間の活動内容、冤罪と指摘される点、支援者らの思いなどが両面にびっしりと記されている。大阪拘置所という空のない場所に収監されている林眞須美さんに、青空、陽の光を返してほしいという思いが綴られているのが印象に残った。

JR和歌山駅前

◆事件を知らない若者世代

「和歌山カレー事件についてのことなんです」

支援者の70代男性はこう声を掛けながら、学生から高齢者まで幅広い年齢層の通行人にビラを1枚1枚配り続けた。

中には立ち止まり、男性に事件に関する質問をする人も。男性は数分間、なぜ冤罪だと思うのか、何が問題点なのか、納得してもらえるまで説明を続けた。

和歌山駅前は若者も多い。たまたま通りかかった2001年生まれの青年はビラ配りを目にし、「(和歌山カレー事件は)生まれる前のこと。園部地区で事件が起きたというのは知っているが、詳細はよく分からない。何があったのか」と興味深そうな様子を見せた。

1998年に発生してから今年2月で25年7カ月。林家の長男がSNS発信などを熱心に行うほか、数多くの支援者が再審を願ってさまざまな活動を展開し、何とか風化を免れている。そのおかげかビラを積極的に受け取る通行人が多いものの、発生以降に生まれた世代の間では、事件そのものをよく知らない人々が一定数いるのが現状だ。彼らにとっては過去の出来事ではなく歴史。仕方ないことではあるが、活動継続の重要性を思い知らされた。

林眞須美さんの冤罪を呼びかける男性

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最高裁判所は1月29日付で、1961年に発生した名張毒ぶどう酒事件で無実を訴えた元死刑囚(9年前に89歳で病死)について、10回目の再審請求を認めない決定を出した。5人中4人の裁判官による多数決で決まった。

一方で、学者出身の1人の裁判官が再審を開始すべきとの反対意見を初めて表明。「新証拠には高い信用性が認められる」「確定判決の有罪判定に合理的な疑いが生じる」などとした。

和歌山カレー事件においても、各分野から再審を求める声が多く上がっている。壁は信じられないほど高いが、支援者による活動は今後も粘り強く続いていく。その様子をこれからも追いたいと思う。

▼紀多 黎(きた・れい)[写真・文]
幼少期から時事問題について議論する家庭で育つ。死刑制度や冤罪事件への関心が高い。好きな言葉は「見えるものではなく、見えないものに目を注ぐ」。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年4月号

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

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和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚が2月、3回目の再審請求を和歌山地裁に送付したことが分かった。

報道によると、事件現場にあった紙コップのヒ素と林死刑囚の自宅で見つかったヒ素が同一とする鑑定は間違いで、林死刑囚の毛髪からヒ素が検出されたとする鑑定も誤りがあると主張。不審な行動を見たと証言した近隣住民については、目撃が不可能だったことを示す航空写真を新証拠としているという。

彼女の冤罪を信じる人々は弁護団以外にもたくさんいる。少しずつ、その姿を紹介していきたいと思う。

とある月末の休日──。

食事やショッピングをする人で街中がにぎわう日。子供たちが、公園に行ったりゲームをしたりのびのび過ごしている日。世間がゆっくりとした時間を楽しむ中、大阪拘置所前に10人弱の男女が集まった。

拘置所には、1998年7月に発生した和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚が収監されている。確定死刑囚の身ではあるが、逮捕時から一貫して自らの無罪を主張。現在は再審請求を行っている。無罪を主張している点、証拠に疑わしい点があることなどから、記事内ではあえて林眞須美さんと表記する。

「眞須美さーん!」

雲ひとつない青空の下、彼ら彼女らは拘置所に向かって精いっぱい声を振り絞る。繰り返し、名前を叫ぶ。

「どうか再審無罪が明らかになることを、心より願っています」

「お子さんと、アクリル板越しではなく、直接手を触れながらお話できる日が来ることを信じています」

サックスによる演奏とともに、1人1人が思いを拡声器で呼びかける。手には「和歌山カレー事件 林眞須美さんに再審を」「私はやっていない! 再審を」などと書かれたボードが。道路に向けてかざしており、自動車を徐行させて眺める人、時に立ち止まって耳を傾ける近隣住民の姿が見られる。

大阪拘置所。中央奥の高い建物に林眞須美さんが収容されている

◆声に励まされた

「眞須美さんコール」は2013年ごろに始まった。関係者らによると、前年の2012年にある社会運動団体が拘置所前で収監者に向けて呼びかけを行っていたところ、その声が林眞須美さんのもとにも届き、自身も励まされたという。社会運動団体のメンバーの一部が、林眞須美さんの支援者を通じてそのことを知り、林眞須美さんへの呼びかけも独自で行いたいと活動を始めた。

月に一度、近隣住民への断りを入れた上で、関西各地から集まった支援者が「眞須美さーん」と声をそろえて叫ぶ。呼びかけが届いていることを信じ、演奏が聴こえていることを期待し、励ましになると願い、活動を続けている。

一人一人が思いを叫んだ

◆関心高まる冤罪

2023年は3年ぶりに死刑執行のない1年となった。同年末現在106人の確定死刑囚が収容されており、再審開始決定を受け釈放中の袴田巌さん(再審公判中)を含めた場合計107人になる。

2024年に2事件において死刑判決が確定したことから、同3月時点では計109人とみられる。

袴田巌さんの再審開始決定以降、冤罪に対する世間の注目が高くなった。近年は和歌山カレー事件についても冤罪の可能性を指摘する声が多く上がり、インターネット上では林眞須美さんのことを“第二の袴田さん”になるのではとの声も上がっている。

動機未解明、自白なし、状況証拠のみの確定死刑囚──。再審開始を願う支援者らの活動は2024年も続く。

▼紀多 黎(きた・れい)[写真・文]
幼少期から時事問題について議論する家庭で育つ。死刑制度や冤罪事件への関心が高い。好きな言葉は「見えるものではなく、見えないものに目を注ぐ」。

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◆幾度も「冤罪」という言葉を耳にして

2月は、何かと「冤罪」というワードが耳に入る月だった。和歌山カレー事件の第3次再審請求が和歌山地裁で受理されたこと(2月20日)、死刑判決から再審無罪となった島田事件・赤堀政夫さんの訃報(2月22日)……。普段あまり関心のない人でも耳に入ったのではないだろうか。筆者も頭の中がこれらのニュースでいっぱいだった。

そんなタイミングで知人から「今週、再審や冤罪について考える講演会があるよ」と連絡が。冤罪被害の当事者らも駆けつけるという。行かないわけがない。二つ返事で当日会場へ向かった。

小雨の中、講演会場には300人以上がかけつけた

 

狭山事件の再審を訴えるのぼり

大阪メトロ四ツ橋線岸里駅から徒歩2分。建物前に大きなポスターが掲示板され、入り口でさまざまな事件の支援者がチラシを配布している。あれよあれよと両手にたくさんの紙が溢れた。

講演会の資料代500円を払って受付を済ませ会場へ入ると、すでにたくさんの人が椅子に座り資料を読み込んでいる。関係者によると、少なくとも300人以上が来場。中には関東や九州から来た人もいるという。

会場の後ろでは、さまざまな冤罪事件の支援者が本の販売や署名の依頼などを行っている。本の中には自費出版で製作されたものも。壁には横断幕やのぼりがあちこちに掲げられていた。
 
講演の前半は1963年に発生した狭山事件について。無期懲役が確定後、1994年に仮釈放され再審が続いている冤罪被害者の石川一雄さんがビデオメッセージを寄せた。また歴史学を専門とする大学教授が事件の概要や問題点などを紹介。来場者らが熱心に聞き入った。

◆3人の「冤罪」被害者たちの声を聞く

後半は、冤罪被害者やその関係者が登壇した。1995年に発生した東住吉事件で無期懲役となり、2016年に再審無罪となった青木恵子さん、2003年の湖東記念病院事件で懲役17年の判決を受け、2020年に再審無罪が確定した西山美香さん、1966年の袴田事件で死刑判決を受けたのち、再審開始決定を受け釈放中の袴田巌さん(再審公判中)の姉・ひで子さんの計3人だ。

※各事件の詳細は割愛する。ウィキペディアなどをご一読願いたい。

3人は会場やオンライン参加の来場者に向かい、マイクを通してそれぞれが強い思いを訴えた。

「ごく普通に生活していて、火事になったということだけで私の人生は狂わされた。警察は市民の味方だと思っていたのに。娘殺しの母親という汚名を取るまでは、死んでも死にきれない。冤罪被害者はみんなそういう思いで闘っている。諦めたらそこで終わってしまう。今も獄中でたくさんの人が無実を訴えている」(青木さん)

「冤罪は他人ごとではない。冤罪というものを多くの普通の人に広く知っていただき、冤罪がなくなる世の中にしたい。自分が(裁判に)勝ったからそれで良い、ではなく、今も仲間のために面会や手紙など自分にできることを続けている。順番に各事件が勝っていけるように私も闘いたい」(同上)。

「私も冤罪被害に巻き込まれたが、私よりも辛い経験をしている人がいることを青木さんらから聞き、昨年~一昨年くらいから活動を始めた。それまでは冤罪に巻き込まれて自分が一番不幸だと思っていた。再審改正のために力になれることをやっていきたい。他の冤罪犠牲者が救われることを願っている」(西山さん)。

「57年闘ってきた。5月22日に結審する。夏のうちに決着するのではないか。まだ終わっていないが無罪になることは確信している。(これまでに日本で再審無罪を勝ち取った)4人の死刑囚がみんな亡くなってしまった。時代を感じる」(ひで子さん)

「巌だけが助かればいいとは思っていない。冤罪で苦しむ方は大勢いる。泣いている。皆さんが助からなきゃ、再審開始にならなきゃいけない」(同上)。

冤罪被害者の(左から)青木さん、西山さん、ひで子さん

◆和歌山カレー事件の新証拠

冤罪ではないかと叫ばれている事件は、世の中にまだまだある。

直近では、2月20日に和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚が3回目の再審請求を行ったことがマスコミ各社で報道され、大きな話題に。翌日の地上波放送では、情報番組にコメンテーターとして出演していた有名弁護士が再審の重要性を強く訴え、さらに注目を浴びることとなった。

共同通信の記事によると、再審請求では会場にあった紙コップのヒ素と林家から見つかったヒ素が異なること、毛髪からヒ素が検出されたという鑑定を誤りだと主張。また目撃証言について、目撃が不可能だったことを示す航空写真を新証拠とするという。

事件関係者はもちろん国民が疑問を抱くさまざまな判決について、1日も早く再審が開始されること、誰もが納得できる判決が下されることを願うばかりだ。

▼紀多 黎(きた・れい)[写真・文]
幼少期から時事問題について議論する家庭で育つ。死刑制度や冤罪事件への関心が高い。好きな言葉は「見えるものではなく、見えないものに目を注ぐ」。

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

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◎鹿砦社HP https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000733