毎日新聞「押し紙」訴訟 補助金処理のグレーゾーンが浮上、原告が請求根拠を変更

黒薮哲哉

兵庫県阪神地区の毎日新聞元販売店主が、「押し紙」による損害を受けたとして毎日新聞社に約1億6000万円の損害賠償を求めている訴訟の口頭弁論(ウェブ会議方式)が、6月29日に開かれる。この裁判では、毎日新聞社も元店主に対し、新聞代金の未払い分の支払いを求めて反訴している。

口頭弁論に先立ち、元店主側の弁護団(江上武幸弁護士ら)は第11準備書面を提出した。

第11準備書面(PDF)

同準備書面では、原告が損害賠償請求の法的根拠を変更した経緯について言及している。

原告は当初、独占禁止法に基づく新聞特殊指定を根拠として損害賠償を請求していた。新聞特殊指定が「押し紙」を禁止しているとの主張によるものである。

しかし審理の過程で、毎日新聞社が「押し紙」によって販売店に生じた損害について、新聞代金の未払いではなく補助金の未払いとして経理処理していたことが明らかになった。そのために、優越的地位の濫用という一般的な独禁法違反として構成し直した

これら一連の背景については、江上武幸弁護士が次の記事で詳しく解説している。

【参考記事】毎日新聞押し紙訴訟の報告 毎日新聞社、押し紙解消に向けて方針転換か?

この記事によると、毎日新聞社には、「押し紙」によって販売店に生じる損害を「折込広告の水増し収入」と補助金によって相殺する仕組みが存在するとされる。

名目上、「押し紙」の存在を認めることができないため、このような経理処理によって新聞特殊指定への抵触を回避してきた可能性がある。

毎日新聞に関する記事一覧

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年6月23日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

西日本新聞押し紙訴訟福岡高裁判決(敗訴)のお知らせ

江上武幸(弁護士)

去る5月28日(木)に西日本新聞販売店(佐賀県)の押し紙訴訟の福岡高裁判決が言い渡されました。地裁判決に続き販売店の敗訴でした。

*昨年7月3日に言い渡された西日本新聞販売店(長崎県)の押し紙訴訟の福岡高裁判決(敗訴)については2025年(令和7年)7月8日付で投稿した報告をご一読ください。

西日本新聞社は長崎県販売店に対して毎年4月と10月に前後の月より200部多い部数を供給してABC部数や折込部数の水増しを図っており、佐賀県販売店には社が決めた部数を供給していたことから販売店勝訴の可能性が十分あると判断して提訴しましたが結果は地裁・高裁とも全面敗訴判決でした。非常に残念です。

地裁では係属した部によって判断が異なることを見越して併合申立は行わず別々の裁判体で判決をうけるようにしました。しかし高裁では第3民事部で審理することになりましたので同じ結論になることは当初から予想されました。

長崎県販売店の判決を言い渡した裁判長は久留島群一裁判官で陪席は山下隼人・渡辺典子裁判官でしたが、久留島裁判長は令和8年2月6日付で定年退官されており、今回の佐賀県販売店の判決を言い渡した裁判長は大分地方・家庭裁判所長から転勤してこられた岡部純子裁判官でした(陪席裁判官2名は変更ありません。)

今回の裁判で特筆すべき出来事は岡部裁判長が結審当日、突如、西日本新聞社の代理人弁護士に対し和解の可能性を打診されたことです。

それに対し西日本新聞社側代理人弁護士は即座に和解の打診を拒否する旨を回答しました。通常の民事裁判の場合、裁判長から和解の打診を受けた代理人弁護士は依頼者の意向を確認したうえで回答するのが一般的ですが西日本新聞社側代理人弁護士は即座に拒否しました。西日本新聞社側が敗訴の可能性はみじんも感じていないことを示しています。

岡部裁判長も西日本新聞社側を敗訴させるつもりであればもっと強く和解をすすめるはずですがあっさりと引き下がられたことから販売店敗訴判決は既定の方針であったことが伺えます。

私どもが経験した押し紙裁判で新聞社側に和解を勧告した裁判長は佐賀新聞押し紙訴訟勝訴判決を言い渡した佐賀地裁の達野ゆき裁判長と今回の福岡高裁の岡部裁判長の二人だけです(注:佐賀新聞押し紙訴訟控訴審裁判官の和解の打診は販売店勝訴の一審判決を高裁で維持することを避けるためであったと考えています)。

お二人とも女性裁判長ですので、今後、裁判官・書記官・事務官の職種を問わず裁判所内で女性の活躍の場が増えていけば庶民感覚にフィットした国民に開かれた裁判所が期待できそうです。

昭和30年に制定された独禁法の押し紙禁止規定は平成11年(1999年)に当時の公正取引委員会委員長根来泰周氏(元東京高検検事長)と日本新聞協会長渡邊恒雄氏(読売新聞社主)の時代に現在のように改定され骨抜きにされました(注:黒藪さん投稿の2025年9月26日付「公取委、『押し紙』の謎、1999年『新聞特殊指定』改定をめぐる交渉記録の存在を認める」の記事参照)。今回の高裁判決も平成11年改正の押し紙禁止規定を形式的に適用したこれまでの押し紙裁判の判決と同じ論理構成で特に目新しい判断は示されていません。

押し紙は新聞社経営の財政基盤を支えていますので新聞社による自主解決ができないまま今日に至っています。そのため公正取引委員会や国会あるいは司法関係者ら外部の人間(販売店側代理人弁護士・新聞社側代理人弁護士・担当裁判官)の力によって解決すべきですがそれも出来ていません。我が国の法の支配の網の目のほころびは遺憾ともしがたいです。

今後もメディア黒書のアーカイブに残してもらうため引き続き投稿させていただきたいと考えていますのでご支援のほどよろしくお願いします。

(参考資料)
■西日本新聞社佐賀県販売店押し紙訴訟福岡高裁判決
https://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2026/06/IMG_0001.pdf
■控訴理由書
https://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2025/11/nishi2511.pdf
■控訴理由補充書
https://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2025/11/Nish2511a.pdf
■福岡地方裁判所判決
https://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2022/12/oshigami-N2211.pdf
■訴状
https://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2022/12/oshigami-N2211.pdf
■押し紙一覧
https://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2022/12/oshigami-N.pdf
●資料:「押し紙」の定義に関する法律と規則
https://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2022/12/39fe715345bbcf0cebd881fb4f9aca57.pdf

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年6月13日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼江上武幸(えがみ・たけゆき)
弁護士。福岡・佐賀押し紙弁護団。1951年福岡県生まれ。1973年静岡大学卒業後、1975年福岡県弁護士会に弁護士登録。福岡県弁護士会元副会長、綱紀委員会委員、八女市役所オンブズパーソン、大刀洗町政治倫理審査会委員、筑豊じんぱい訴訟弁護団初代事務局長等を歴任。著書に『新聞販売の闇と戦う 販売店の逆襲』(花伝社/共著)等。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

日本メディアはなぜ現場に行かないのか ―― ウクライナ報道と『押し紙』構造が映す政権依存

黒薮哲哉

5月23日付のロシアメディア「Sputnik」(X投稿)は、日本政府が「自国の特派員らに対し」、ウクライナ軍による大学への攻撃について「現地での報道・取材を禁止したことを示す情報を、ロシア当局が入手した」と報じた。

実際、19カ国から約50人の記者が、ウクライナ軍による教育施設攻撃の現場を取材したが、日本の記者は一人も参加しなかったという。取材は、ロシア当局が記者団を現地へ案内する形で実施された。

ちなみに、BBCは公式に参加を拒否し、CNNは担当記者が休暇中であることを理由に参加しなかったという。

参加国は、米国、オーストリア、英国、フィンランド、フランス、ハンガリー、ドイツ、ギリシャ、スペイン、イタリア、中国、パキスタン、トルコ、カタール、レバノン、アラブ首長国連邦、キューバ、ベネズエラ、ブラジルなどである。日本だけが、一人の記者も参加しなかった。

日本のメディアが「政府広報」に近づいている実態が、改めて浮き彫りになった。取材をしたうえで記事化しないのであれば理解の余地はある。しかし、取材そのものを行わないのは異常である。どのような形であれ、まず現場に足を運び、事実を確認しようとするのが報道機関の原則ではないか。

◆メディアが政府広報に近づいている背景

日本のメディアが政府広報に近づいている背景には、新聞社(系列テレビ局を含む)が、公権力から経営上の優遇措置を受けている事情がある。そして、その優遇措置が廃止されれば、新聞社経営そのものが成り立たなくなる構造がある。

優遇措置の代表例として、次の点が挙げられる。

1.新聞に対する消費税の軽減税率(8%)。

2.教育現場での教材としての新聞の使用。これについては学習指導要領に記されている。

3.新聞の再販制度の維持。これが廃止されれば、販売店と新聞社の力関係が変化し、新聞社は「押し紙」政策を維持できなくなる。

4.押し紙」を事実上放置してきた国策。

「押し紙」が新聞業界にもたらす莫大な利益については、「メディア黒書」で繰り返し報じてきた。試算によれば、中央紙全体で「押し紙」率が20%の場合、利益は約424億8000万円に達する。40%であれば約850億円規模となる。しかも、これらは控えめに見積もった数字である。

【参考記事】「真村訴訟が暴いた新聞業界の『押し紙』構造――不正利益は400億円超、公権力によるメディアコントロールの温床に」

もっとも、「押し紙」によって生じる販売店側の損害の多くは、新聞社による補助金で補填されている。しかし、この仕組みが崩れれば、紙面広告価格の低迷に加え、販売店網そのものの維持も難しくなる。

※新聞社が補助金をカットすれば、販売店は「押し紙」で自滅する仕組になっている。

「押し紙」問題は、日本のマスコミを分析するうえで欠かせない要素である。単に新聞販売の問題ではない。ジャーナリズムの大問題なのである。仮に政府に対して本格的に批判的な新聞社が現れた場合、公権力は「押し紙」問題への介入をちらつかせることで、報道をコントロールできる。この構図がメディアコントロールの温床なのだ。

「押し紙」問題を解決しない限り、記者個人がジャーナリストとしての自覚を高めたとしても、真実の報道はできない。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年5月27日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

2026年3月度のABC部数 新聞部数の減少止まらず――読売は1年で38万部減、「押し紙」問題の構造的課題も浮き彫りに

黒薮哲哉

2026年3月度のABC部数が明らかになった。読売新聞と毎日新聞の下落幅は依然として大きく、この1年間で読売新聞は38万部減、毎日新聞は20万部減となった。販売店関係者によると、残紙の整理や高齢読者の購読中止が主な要因とみられる。

ただし、残紙を減らしても、購読中止が進むことで新たな残紙が発生するため、「押し紙」問題の根本的な解決には至っていない。

中央紙の部数内訳は次の通りである。

朝日新聞:3,100,261(-167,587)
毎日新聞:1,083,632(-202,418)
読売新聞:5,183,600(-380,374)
日経新聞:1,196,749(-128,389)
産経新聞: 750,736(-60,607)

※括弧内は前年同月比の減少部数。

「押し紙」が新聞ジャーナリズムに及ぼす負の影響については、次の記事で詳しく論じられている。

【参考記事】「真村訴訟が暴いた新聞業界の『押し紙』構造――不正な利益は400億円超、公権力によるメディアコントロールの温床に」

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年5月23日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

《報道と人権8》武富士から読売まで、メディアを被告とする高額訴訟、その背景に何があるのか?(最終回)

黒薮哲哉

真村訴訟に端を発した一連の事件について記述すれば、際限がない。連載「報道と人権」で7回にわたって取り上げた裁判のほかにも、さまざまな裁判が派生して起きている。

しかも、真村事件に関連したほとんどの裁判で、喜田村洋一・自由人権協会代表理事が読売の代理人として登場した。喜田村弁護士は、法廷が開かれるたびに東京から福岡へ足を運んだ。その情熱は並大抵ではない。

筆者は、護憲派の自由人権協会を代表する人物が、改憲派の読売に対して誠心誠意を尽くし、「押し紙」は一部も存在しないと繰り返す姿に違和感を覚えた。喜田村弁護士がどのような思想と心情の持ち主なのか、好奇心を刺激された。

◆喜田村弁護士は、どのような裁判に関わってきたか

喜田村弁護士は、過去にどのような裁判に関わってきたのだろうか。よく知られている例としては、1980年代に問題となった薬害エイズ事件がある。これは、加熱処理をしなかった血液凝固因子製剤を治療に使用したことにより、多数のHIV感染者やエイズ患者を生み出した事件である。

非加熱製剤によるHIV感染の薬害被害は世界的に発生したが、日本では全血友病患者の約4割にあたる1800人がHIVに感染し、そのうち700人以上が死亡したといわれている。

起訴されたのは、帝京大学医学部附属病院第一内科の責任者だった安部英、ミドリ十字の代表取締役であった松下廉蔵・須山忠和・川野武彦、そして厚生省官僚だった松村明仁である。

一審判決では、ミドリ十字の3人に実刑判決が、松村明仁に執行猶予付きの有罪判決が下されたが、安部は無罪だった。安部の代理人を務めたのが、喜田村弁護士と、はやり自由人権協会の弘中淳一郎弁護士である。

弘中弁護士は、消費者金融の武富士がフリーランス・ジャーナリストに高額訴訟を起こした際にも、武富士の代理人を務めた。巷では、弘中氏を「無罪請負人」と評価する声もあるが、同時に「訴訟ビジネス」ではないかという批判もある。裁判は、武富士の敗訴だった。

喜田村弁護士や弘中弁護士は、ロス疑惑事件の三浦和義氏を無罪に導いたことでもよく知られている。事件の詳細は省略するが、三浦は、事件後に米国領サイパンで殺人罪及び殺人の共謀罪の容疑で逮捕された。その後、1981年に獄中で自殺した。この事件は、日米で見解が異なり再検証が必要なのである。

◆読売の代理人

2025年に読売が経済誌『ZAITEN』を提訴した事件でも、喜田村弁護士が読売の代理人として登場している。現在の権力機構と新聞社を巨大でグレーな資金で結び付けている「押し紙」や、読売の販売政策について、喜田村洋一・自由人権協会代表理事が、法廷どのような見解を示すのか、注目したい。ジャーナリズムは、それを記録しておくべきだろう。(終)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年4月6日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

《報道と人権7》勝訴から一転、第2次真村訴訟の構図、喜田村弁護士ら真村さんの自宅を差し押さえ

黒薮哲哉

読売新聞が筆者に対して3件の裁判を起こしたほぼ同じ時期に、読売新聞が関わった別の裁判が進行していた。原告は真村さんである。

既に述べたように、YC広川の真村久三さんが起こした地位保全裁判は、真村さんの完全勝訴であった。判決は、2007年12月に最高裁で確定した。

ところがその半年後の2008年7月、読売は、YC広川との契約期間が満了したことを理由に、同店を改廃した。契約満了による改廃であるが、販売店には家業的側面があるなどの理由から、正当な改廃を行なうには、店主側が新聞社との信頼関係を著しく破壊し、商契約の存続が困難となる状況を生み出したことを示す事実が必要とされる。

したがって、真村訴訟の判決確定後から改廃に至るまでの約半年の間に、真村さんが不祥事に該当する行為を行ったか否かが審理の対象となる。

◆第2次真村訴訟

当然、真村さんとしてはYC広川の改廃を承服できなかった。そこで再び読売に対して地位保全裁判を起こした。この裁判は第2次真村訴訟と呼ばれている。前訴が第1次真村訴訟である。

ちなみに裁判にはいくつかの形式があり、その代表的なものが仮処分の申立てと本訴である。周知のように、仮処分の申立ては緊急を要する場合に行われ、決定も短期間で下される。敗訴した側に不服があれば、本訴で争うことになる。第2次真村訴訟もこの形式をとった。真村さんは、まず仮処分を申し立て、その後、本訴を提起したのである。

この裁判でも、引き続き喜田村洋一・自由人権協会代表理事が読売の代理人として裁判闘争の先頭に立った。舞台が福岡地裁であったため、口頭弁論のたびに東京から駆けつける熱心さであった。

◆間接強制金の累積、約3600万円

仮処分の申立てにおいて福岡地裁は、真村さんの申立てを認め、その地位を保全した。裁判所は読売に対し、YC広川への新聞供給を再開するよう命じた。ところが読売は、この命令に従わなかった。その結果、裁判所は、読売に対して1日につき3万円の間接強制金(制裁金)の支払いを命じた。

その後、読売は仮処分に対して異議を申し立て、さらに福岡高裁へ抗告し、最高裁に特別抗告も行った。しかし、裁判所の決定は覆らなかった。この間、間接強制金は累積し、約3600万円に達した。

仮処分申立ての審尋と並行して、本訴の審理も進んだ。

読売は、改廃理由としてさまざまな主張を行った。第1次真村訴訟で真村さんの地位が保全されている以上、その後改廃に至るまでの約7カ月の間に、真村さんが読売に対して重大な信義違反を犯していなければ、地位は維持されると考えるのが自然である。

◆喜田村ら、黒薮が「外部メディア等と連携して……」

喜田村らが改廃の正当理由として主張した項目の一つに、真村さんが「外部メディア等と連携して」読売を攻撃したというものがある。福岡地裁判決には、喜田村らの主張として次の記述がある。

自称フリージャーナリストの黒藪哲也(以下、「黒藪」という。)《注:「黒藪哲也」は誤字で、正しくは、「黒薮哲哉」》は、自ら管理・運営するウェブサイト「新聞販売黒書」で、被告に対して不当な誹謗中傷を繰り返す一方、被告と対立しているという観点から、原告を支援することを明言している。原告は、前訴係争中に黒薮と知り合い、黒藪や原告弁護団と協力して、被告を攻撃する運動を展開している。

原告の関わる裁判の経過等は,直ちに「新聞販売黒書」や「My News Japan」に掲載される。また,原告は,黒藪がコーディネーターや司会を務めたシンポジウムや報告会に積極的に参加して発言もしている。

取引の一方当事者が,その相手方当事者を誹謗中傷して攻撃する運動に積極的に協力し,しかも相手方当事者の営業秘密を漏洩しながら,その契約当事者としての地位を求めたり,裁判や攻撃・中傷を止めてほしければ巨額の金銭を支払うよう求めたりすることは,一企業に対する脅迫に他ならない。このような行為は被告との信頼関係を根底から破壊するものである。

喜田村らは「被告と対立しているという観点から、原告を支援することを明言している。」と主張しているが、これは浅はかな解釈である。筆者が真村さんを支援したのは、その主張に正当性があったからにほかならない。読売の販売政策に道理がないからである。

そもそも、ジャーナリズムに中立などあり得ない。ジャーナリズムの評価は、究極のところ主張が正しいかどうかであり、その評価は将来、歴史に委ねるよりほかにない。それゆえに記録し、それを保存することが決定的に大事なのであるが、喜田村弁護士らは、このあたりの原理が分かっていない。

ちなみに筆者は、真村訴訟に関しては、少なくとも20年は検証すると当時から繰り返し公言してきた。

◆真村さんの自宅を差し押さえ

判決は2011年5月15日に言い渡された。結果は真村さんの敗訴であった。控訴審でも控訴は棄却され、その後、最高裁で判決が確定した。

これにより読売は、真村さんに対し累積した約3600万円の間接強制金の支払いを請求した。しかし、真村さんは店舗の維持や生活費にこれを充てていたため、返済不能となった。

そこで読売は、真村さんの自宅を差し押さえた。不動産仮差押命令申立書の債務者代理人弁護士として、次の面々が名を連ねている。(下記の写真を参照)

喜田村洋一
近藤真
掘哲郎
住野武史
塩飽梨栄

◆ジャニーズの性加害問題

なお、喜田村弁護士は評価できる仕事もしている。例えば、ジャニーズの性加害問題では被害者のために大きな役割を果たした。その詳細を記した『報道しないメディア』(岩波ブックレット)なども出版している。多くのメディア研究者とも良好な関係にあるようだ。

こうした状況を踏まえるとき、筆者には喜田村弁護士の思想の源流がどこにあるのかよく分からない。どのような信念や思想を行動規範としている人なのか、理解できない。

※なお、真村さんと読売の間接強制金をめぐる係争は、2026年に入って新たな進展があったため、近く報告する予定である。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年4月3日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

《報道と人権6》読売と喜田村洋一・自由人権協会代表理事らが、1年半の間に3件の裁判提起、約8000万円の金銭を請求

黒薮哲哉

2009年7月、読売新聞は、筆者が『週刊新潮』(2009年6月11日号)に執筆した記事に対し、5500万円の金銭支払いを求める裁判を起こした。読売からの3件目の裁判である。

この裁判でも、やはり喜田村洋一・自由人権協会代表理事が読売の代理人として、裁判闘争の先頭に立った。

係争になった記事のタイトルは、「『新聞業界』最大のタブー『押し紙』を斬る」であった。滋賀県のポスティング会社(チラシの全戸配布業者)が、大津市など滋賀県の主要都市を対象として実施した大規模な「押し紙」実態調査の結果を紹介したものである。

それによると、読売の「押し紙」率は18.4%であった。これは他社と比較するとかなり低い数字である。しかし筆者は、全国的に見れば30~40%はある可能性を指摘した。さらに、「押し紙」による不正収入が、一社平均(朝日、読売、毎日、産経)で年間360億円程度になるとする試算も示した。

これに対し、喜田村弁護士は訴状の中で次のように指摘した。

「本件記事は、原告らが日本全国で発行する『読売新聞』の発行部数の30%~40%は、実際には読者に販売されない『押し紙』であり、原告らは、これにより年間約360億円もの不正な収入をあげ、これ以外にも紙面広告の収入を不正に取得していると報じるものであるから、これが原告らの社会的評価を低下させることは明らかである。」

読売は、自社には1部の「押し紙」も存在しないと主張して、高額訴訟を提起したのである。

結論を先に言えば、この3件目の裁判は読売の勝訴となった。東京地裁は385万円の支払いを筆者と新潮社に命じ、控訴審でも読売が勝訴した。

その結果、読売には1部の「押し紙」も存在しないという見解が、司法判断として示されたことになる。

◆「読売新聞社として押し紙をしたことは1回もございません」

実際、東京地裁で行われた尋問においても、読売は自社に「押し紙」は一部も存在しないという主張を展開した。参考までに、宮本友丘専務(当時)が「押し紙」裁判の法廷で行った証言(2010年11月16日、東京地裁)を紹介しておこう。喜田村弁護士の質問に答えるかたちで、次のように証言している。

喜田村弁護士:この裁判では、読売新聞の押し紙が全国的に見ると30パーセントから40パーセントあるんだという週刊新潮の記事が問題になっております。この点は陳述書でも書いていただいていることですけれども、大切なことですのでもう1度お尋ねいたしますけれども、読売新聞社にとって不要な新聞を販売店に強要するという意味での押し紙政策があるのかどうか、この点について裁判所にご説明ください。

宮本:読売新聞の販売局、あと読売新聞社として押し紙をしたことは1回もございません。

喜田村弁護士:それは、昔からそういう状況が続いているというふうにお聞きしてよろしいですか。

宮本:はい。

喜田村弁護士:新聞の注文の仕方について改めて確認をさせていただきますけれども、販売店が自分のお店に何部配達してほしいのか、搬入してほしいのかということを読売新聞社に注文するわけですね。

宮本:はい。

◆同業者からの言論抑圧

以上述べたように、読売と喜田村弁護士らは筆者に対し、2008年から2009年にかけての約1年半の間に3件の裁判を起こし、約8000万円の支払いを求めたのである。筆者は、3件の裁判に巻き込まれ、仕事の計画も大幅に変更せざるを得なかった。

元々、筆者はラテンアメリカの社会運動を取材をしていたのだが、2007年に真村訴訟で読売の「押し紙」政策が認定されたのを「押し紙」取材の到達的にして、原点に戻る予定だった。当時はラテンアメリカで次々と左派政権が誕生していた時代で、ニカラグア取材を計画していた。ところが、読売から裁判攻勢をかけられ、それが実現できなくなった。

出版人である同業者からこのような仕打ちを受け、しかも、その先頭に立った人物が人権擁護団体である自由人権協会を代表する人物である事実に、筆者は強い失望を覚えた。出版労連の支援はあったが、週刊誌や月刊誌は、読売の前で沈黙してしまった。「押し紙」を報じなくなったのだ。唯一の味方は書籍出版だった。

しかし、鬱蒼とした日々に追い込まれたのは筆者だけではなかった。販売店主としての地位を保全されたはずの真村久三さんの身の上にも、新たな災難が降りかかってきたのである。そして、その先頭に立ったのがはやり喜田村弁護士らであった。
すべて記録済みなので、順を追って紹介しよう。(つづく)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年03月28日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

《報道と人権5》「窃盗」表現をめぐる法廷闘争、弁護士・喜田村らが起こした2件目の裁判、読売が最高裁で逆転勝訴

黒薮哲哉

読売新聞の江崎徹志法務室長が筆者に対して著作権裁判を起こしてから、2週間後のことだった。筆者は自宅のポストに特別送達の通知が投函されているのを見つけた。そこで郵便局へ足を運び、封書を受け取った。封書には埼玉地裁の文字があった。開封すると、訴状が入っていた。

訴状の原告は、読売の江崎法務室長を含む読売の会社員3人で、1法人・3個人によるものだった。訴状を執筆したのは、喜田村洋一・自由人権協会代表理事である。請求額は2230万円で、この中には喜田村弁護士に対する弁護料200万円も含まれていた。最初に頭をよぎったのは、仮に敗訴すれば金銭面で破産に追い込まれるのではないかという不安だった。

◆「窃盗」という表現

読売が訴えたのは、真村裁判の福岡高裁判決が読売の「押し紙」政策を認定した後に発生したある事件について、筆者が「メディア黒書」に掲載した記事だった。

すでに述べたように、真村裁判の判例が確立した後、「押し紙」に苦しんでいたYCの店主らが、問題解決を求めて江上武幸弁護士に相談するようになった。

連載4】で紹介したように、YC久留米文化センター前の平山春夫店主もその一人だった。平山さんの店では、江上弁護士に相談した時点で、搬入部数のおよそ50%が「押し紙」だった。

ところが、「押し紙」を排除して約3カ月後、読売は平山さんのYCを強制的に改廃した。しかもそのプロセスは強引で、江崎法務室長ら数人の読売関係者が事前連絡もなく平山さんの店を訪れ、本人の面前で改廃通知を読み上げ、契約を解除した。その後、読売ISの社員が店舗にあった折込チラシの束を搬出した。

この行為について筆者は、「メディア黒書」の記事で「これは窃盗に該当し、刑事告発の対象になり得る」と記した。

喜田村弁護士らが訴因としたのは、この「窃盗」という表現である。彼らは、折込チラシの搬出は契約解除後の行為であり、かつ平山さんの許可を得ていたため「窃盗」には該当しないと主張し、それを根拠に2230万円の金銭を求めてきたのである。

◆隠喩(メタファー)としての「窃盗」

確かに「窃盗」を文字どおりに解釈すれば、関係者の面前で行われた行為である以上、「窃盗」には該当しない。また、実際にチラシの束を運び出したのは読売新聞社の社員ではなく、読売ISの社員である。しかし筆者は、「窃盗」という言葉をレトリック(修辞法)としての隠喩(メタファー)として用いたのである。

隠喩の例としては、例えば次のようなものがある。

「あの監督は鬼だ」

「あの人は悪魔だ」

また、有名な例としては、

「踊子のように葉を差し上げた若い椰子は、私の愛を容れずに去った少女であった」(大岡昇平『野火』)

「人生は歩いている影だ」(シェイクスピア『マクベス』)

などが挙げられる。

筆者が記事の中で隠喩を用いたのは、この事件の悪質性が強いと感じたためである。突然店舗に現れた江崎法務室長が、平山さんの面前で改廃通知を読み上げたことは、平山さんに強い衝撃を与えた可能性が高い。仕事を失って動揺していたと想像できる。そのような心理状態の中で、読売ISの社員がチラシを搬出したのであれば、隠喩として「窃盗」と表現する余地はあったと考えた。筆者にとって、メディア企業が表現の問題で、このような訴訟を起こしたことは心外だった。

◆加藤裁判官と差戻審

判決は地裁・高裁ともに筆者の勝訴だった。その理由は、「メディア黒書」の記事が「窃盗」という事実を断定的に伝えること自体を主眼としていない、という点にあった。

読売は控訴したが、喜田村弁護士は控訴審の代理人から外れた。代わって登場したのは、TMI総合法律事務所の複数の弁護士である。同事務所は大手法律事務所であり、当時、元最高裁判事が少なくとも3名在籍していた(今井巧、泉徳治、才口千晴)。

人脈が影響力を持つ日本社会の現状を踏まえると、筆者は控訴審の行方に不安を覚えた。しかし控訴審は一度の口頭弁論で結審し、結果は筆者の勝訴だった。ところが読売はさらに最高裁へ上告した。

最高裁は上告を受理し、口頭弁論を開いたうえで、筆者勝訴の判決を東京地裁へ差し戻した。差戻審では加藤新太郎裁判官が担当した。この人物について調べたところ、過去に少なくとも2度、読売新聞のインタビューを受けていたことが判明した。

また、読売の社員が最高裁の各種委員会に参加していることも確認された(2012年6月時点)。

金丸文夫:裁判官の人事評価の在り方に関する研究会
桝井成生:裁判制度の運用に関する有識者懇談会、明日の裁判所を考える懇談会

こうした事情から、筆者は最高裁が読売の上告について慎重な検討を行ったのか疑問を抱いた。

差戻審の判決では、加藤新太郎裁判官は読売の訴えを認め、筆者に対して110万円の支払いを命じた。読売社と3人の社員に支払う金銭は、メディア黒書でカンパをお願いして集めた。

なお加藤裁判官は裁判官を退任した後、アンダーソン・毛利・友常法律事務所顧問などを経て、2021年に瑞宝重光章を受章している。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年03月25日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

「司法の独立・裁判官の独立」について── モラル崩壊の元凶押し紙 (最終回)

江上武幸

NHK朝ドラの「ばけばけ」の放送が3月で終わりました。映画「国宝」の主人公役の吉沢亮が脇役で出演しているので、ファンの妻はビデオに毎日録画していました。
その録画を何気なく見ていたら、「日に日に世界が悪くなる 気のせいか そうじゃない」という歌が流れてきました。今の世相にぴったりの歌詞とメロディーに思わず耳を傾けました。この曲を作詞・作曲した佐藤さんカップルはもちろんですが、主題歌に選んだ朝ドラの制作陣に拍手を送りたいです。

以前、吉田拓郎の「落陽」(1966年作曲)の「この国ときたら 賭けるものなどないさ だからこうして漂うだけ」という歌詞と、さだまさしの「風に立つライオン」(1994年作曲)の「やはり僕たちの国は残念だけれど何か大切な処で道を間違えたようですね」という歌詞を紹介したことがあります。

「ばけばけ」は「野垂れ死ぬかもしれないね」と語りあったあと、「わからぬまま家を出て帰る場所などとうに忘れた 君とふたり歩くだけ」という歌詞が続きます。

このような歌を聞くと、アーティストはいち早くメタンガスをかぎとり、ガス爆発の危険を知らせる炭鉱のカナリアだとつくづく思います。

*日本はこの30年で若者の夢をすっかり奪ってしまいました。非正規雇用・未婚・少子化・振り込め詐欺などの寒々とした言葉にあふれる社会になりました。その責任は戦後80年におよぶアメリカ支配を脱しきれなかった日本人の不甲斐なさにありますが、今回のイラン戦争でアメリカがいかに恐ろしい国であるかはっきりしました。

日米合同委員会によるアメリカの日本支配に服従した官僚と政治家によって、日本の政治は歪められてきました。しかし、アメリカの信頼が大きくゆらぎ始めた現在、これからは非同盟・中立の国際連帯が世界の趨勢を示す時代が来るようになると思われます。日本の若者世代が他国の若者世代と一致協力して、国際法と各国憲法の人類史的意義を確認し、揺るぎない法の支配の確立を目指して活躍されることを願っております。

司法の独立と裁判官の独立は、法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)が共に協力して堅持すべき憲法上の大原則です。

しかし、2000年代初頭の司法改革関連法案の成立以降、急速に変化した弁護士会を取り巻く状況をみると、以前のように弁護士会が司法の独立と裁判官の独立を支える役割の一端を担い続けることができるかどうか心配になってきます。

*ロースクールの導入を始めとする司法制度改革関連法案については、弁護士内部の強い反対意見にもかかわらず、最終的には裁判所・検察庁・法務省と足並みをそろえて賛成に回ることになりました。そのことは、2004年(平成16年)6月11日付の日本弁護士会連合会長梶谷剛氏の談話からも伺えます。

*2001年の司法制度改革審議会最終意見書提出時の12人の委員の中に弁護士3名の名前があります。元広島高等裁判所長官と元名古屋高等検察庁検事長、それに元日弁連会長の中坊公平氏です。文化人からは作家の曽野綾子氏、労働界からは連合副会長の高木剛氏の名前があります。実質的な弁護士会代表の中坊弁護士についてウィキペディアでは「法科大学院や裁判員制度の導入に尽力した弁護士である。」と紹介されています。司法制度改革委員会で中坊氏が果たした役割については、住宅金融債権管理機構社長時代の15億円詐欺疑惑で告発され、最終的には大阪弁護士会を退会されていることから、おのずと推察することができます。

2002年から弁護士事務所の法人化が始まり、弁護士報酬の自由化・宣伝広告の自由化が一気に進みました。

法人化のメリットとして税負担の軽減、支店展開による業務拡大、組織化・共同化による大規模な案件への対応力の向上などがあげられていますが、節税を図ることや事業規模を拡大することが社会正義の実現と人権擁護を使命とする日本の弁護士業務にとって何故必要なのか、具体的な説明はなされていません。

日本の弁護士会には社会正義の実現と人権擁護のためならば手弁当で駆けつけて共同して事件の解決・裁判にあたる歴史と風土があります。当番弁護士、国選弁護、犯罪被害者支援、生活保護申請補助などの公益活動に限らず、四日市ぜんそく、イタイイタイ病、新潟水俣病等の公害訴訟、予防接種、B型肝炎、アスベスト被害訴訟など数え上げればきりがありません。

弁護士事務所の法人化や報酬自由化、宣伝広告の解禁が弁護士会のそれらの活動を支援することになるのか、はなはだ疑問です。

先の投稿に、「弁護士人口の大幅増大は、司法の一翼を担う弁護士会の社会的・政治的影響力の低下を目的としたものではないかという疑いがあります。」と記載しましたが、その思いは益々強くなっています。また、後述のように学部や法科大学院、司法修習時代の多額の貸与型奨学金の返済のために新人弁護士の7割が東京・大阪の大手法律事務所を中心に就職するという異常事態を目前にすると、日本の弁護士制度自体の崩壊をも視野に置いていたのではないかとの疑いすら感じるようになりました。

*ロースクールは地方の大学院を中心に74校から34校に減少しました。司法研修所29期の同窓会で任官組から法科大学院の導入は裁判官・検事の天下り先の確保がひとつの目的だったと聞いてショックを受けたことを思い出します。裁判官や検事の退職後の天下り先は公証役場くらいしかないという愚痴はよく聞いていましたが、まさか天下り先の確保のために法科大学院を設置することにしたとの発言を聞くとは驚きでした。法科大学院教授の肩書は弁護士にとっても魅力ある肩書です。法科大学院に地元弁護士会の弁護士が教授として採用されれば、法科大学院の設置に反対する弁護士会の意見はおのずと小さくならざるを得ません。弁護士が裁判官・調停員に任命される弁護士任官制度の導入によって判・検交流に反対する弁護士会の声が小さくなるのも同じです。

弁護士事務所の法人化と歩調を一にして、報酬の自由化や宣伝・広告の自由化が認められ、過払い金返還請求やB型肝炎給付金請求等の宣伝をテレビ等で見かけるようになりました。宣伝広告をしている事務所がこれらの事件の解決に尽力した事務所かどうかは知りませんが、聞いたことのない横文字の事務所名です。

ホームページにも、相談料無料・着手金無料・完全成功報酬などの文字が躍っています。多くの弁護士はこれまでどおり旧来の日弁連報酬基準を採用していますので、弁護士報酬を自由化することや宣伝・広告を自由化することが何故弁護士間の競争の促進につながるのか、市民が質の高いリーガルサービスを受けられることにつながるのか、一向に理解できません。

最近、債務整理・自己破産の相談が増えてきています。ネット広告を見て大手法律事務所に相談したが、弁護士費用だけ取られて解決しないまま辞任されてしまったがどうしたらよいだろうかという相談です。最初から近場の弁護士に何故相談しなかったのか聞いてみたところ、ネットの方が気軽に相談できるからとのことでした。

法テラスの利用は出来ない代わりに、弁護料は分割払いが可能ということで債務整理の委任契約を結んでいます。弁護料の分割払いが終わってから債権者に対する支払いが始まる仕組みになっています。債権者は5社あるのに分割支払可能金額が少ないため、3社とだけ示談し残りの2社は自分で解決するように言われたという例もあります。

借りたものは返さなければならないという思い込みと、破産という言葉に抵抗感をもつ多重債務者の弱みにつけ込み、弁護士費用を得ることだけを目的に受任したとしか考えられません。

相談者が持参した債権者から取立てを依頼された弁護士法人の受任通知書にも驚かされます。写真(記事の冒頭)を掲載しておきますのでご覧ください。原色の毒々しい封書の表に「重要」・「大至急ご確認ください」・「緊急告知」といった大きな文字が書かれています。郵便配達員には配達先の住人が多重債務者であることが一目瞭然です。プライバシーの重大な侵害行為です。これまでこのような受任通知書は見たことがありません。

奨学金返済のためにキャバクラで夜のアルバイトをしているという女子大生が相談に来たことがあります。東京の法律事務所から300万円の慰謝料を請求する書面が届いたが、どのようにしたら良いかという相談です。馴染みの客から店外デートに誘われたところ、その奥さんから不貞行為の慰謝料として300万円を支払うよう請求されたというのです。書面に記載された法律事務所のホームページを見たところ、「不倫慰謝料請求徹底的に戦います。相談無料・完全成功報酬制度」と書いてありました。相談料・着手金無料の文句で顧客を誘引し、法律事務所からの請求書に驚いていくばくかの金員を払ってくれればいいし、払われなくとも裁判まではしないという考えが見え見えでした。アメリカのアンビュランスローヤーより品位に欠ける商法です。

弁護士人口が増大した結果、若手弁護士の就職先がなかなか見つからないという話を聞いています。2002年に発行された東京弁護士会所属の鈴木仁志弁護士著の「司法占領」(講談社刊)に、ロースクール在学中と司法修習期間中の学費・生活費のため、1000万もの貸与型奨学金(借金)を抱えて弁護士になる若者がいることを知り、驚きました。

私たちの時代は、裁判官・検事・弁護士志望のいずれであっても、司法修習期間中(2年間)は国から給料が支払われました。国民の税金で2年間の法律の勉強と生活ができるのですから、弁護士になって無償であるいは安い金額で社会に奉仕することは、弁護士の当然の義務だという意識がありました。

当時の弁護士の初任給は裁判官・検事の初任給より高かったように思います。私たちの世代の弁護士が裁判官・検事と対等に付き合うことができたのは、弁護士の収入が裁判官・検事よりよかったことが背景にあったことも一因ではないかと思います。

法科大学院導入後は、司法試験合格者数は大幅に増えましたが、裁判官・検事の数は横ばいのままです。このことは、法科大学院による法曹人口の増大は、初めから弁護士人口の増大が目的であったことがわかります。

弁護士人口が増大すると必然的に競争が始まります。医師の場合は、患者は自宅近所のかかりつけ病院や専門病院に入通院することになり、診療報酬も一律ですので全国的な競争はありません。

しかし、弁護士の場合はプライバシーにかかわる相談が主であることから、知り合いの弁護士が近くにいなければ遠方の法律事務所であってもそちらに相談しがちです。

相談料無料・着手金無料で相談者を獲得する事務所は、遠方からの相談の受け入れや受任体制を整えていますので、電話相談さえあれば受任までの支障はありません。

以前は、遠方からの相談は旅費・日当の問題がありますので、相談者の近くの弁護士を紹介するなどして受任をお断りしていたのですが、通信手段が発達した現在、電話やFAX、WEB、メールなどによって裁判を進めることができるようになり、遠方に出かける必要がなくなりました。そのため、以前にもまして東京・大阪・名古屋を中心とする大都市に法律事務所が集中するようになりました。

1000万円もの借金を抱えた新人弁護士に、社会正義の実現と基本的人権の保護に貢献することを求めることが、現実問題として可能でしょうか。

新人弁護士が年収1000万といわれる大手法律事務所や高額の収入が得られる見込みのある大都市の法律事務所を就職先に選ぶのは仕方がないことです。2024年の新人弁護士1203人のうち、約7割の859人が東京と大阪の事務所に就職したそうです。全国52の弁護士会のうち16の単位弁護士会は新規登録がゼロもしくは1名だったそうです。早晩、地方の単位会は消滅の運命をたどることになります。そうなればわが国の弁護士制度全体が崩壊します。

このような状況に置かれている弁護士や弁護士会が「司法の独立・裁判官の独立」に目を向けようとしても、現実には非常にむずかしいことです。

世界第2位だった経済大国日本は、非正規雇用・未婚・少子化などの寒々とした言葉があふれる国に転落してしまいました。

上から下まで何故こんなにダメな国になってしまったのか。国際法を無視し、トマホークの誤爆により児童ら170人以上を殺したアメリカの大統領に向かって「世界中に平和と繁栄をもたらせられるのはあなただけ」と媚びるような女性首相が何故誕生したのか……

日本国憲法第9条で戦争放棄と武力の行使を禁じてくれているおかげで、アメリカから参戦を求められても、日本は首の皮一枚で戦争に巻き込まれずにすんでいます。憲法前文は「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」と宣言しています。第99条は、立法・行政・司法の三権を司る為政者に対し、憲法を尊重し擁護する義務を課しています。

従って、裁判官が憲法を堅持する姿勢さえ貫くことができれば、自衛隊員がアメリカ軍の手先となって戦場に出向き、人を殺したり殺されたりすることは避けることができます。裁判官による法の支配を側面から支えるのは検事・弁護士らの仕事です。司法界の外から応援するのはジャーナリストの仕事です。

「司法の独立・裁判官の独立」を外から応援する新聞・テレビの記者や報道マンの役割は、ネット社会の到来によっても小さくなることはありません。しがらみのない若い世代の人達が、本来の使命である権力監視と批判および国民の知る権利の保障のために胸を張って仕事ができるように、一刻も早く恥ずべき押し紙をなくすよう改めて新聞社経営陣に求めます。

まとまりのない投稿になりましたが、引き続き西日本新聞押し紙訴訟および毎日新聞押し紙訴訟の行方に注目いただければ幸いです。

* 最後に、古賀茂明(元)通産官僚、前川喜平(元)文部科学事務次官、孫崎享(元)外交官、岡口基一(元)裁判官ら官僚OBの方達の活躍を祈念しています。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年4月1日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼江上武幸(えがみ・たけゆき)
弁護士。福岡・佐賀押し紙弁護団。1951年福岡県生まれ。1973年静岡大学卒業後、1975年福岡県弁護士会に弁護士登録。福岡県弁護士会元副会長、綱紀委員会委員、八女市役所オンブズパーソン、大刀洗町政治倫理審査会委員、筑豊じんぱい訴訟弁護団初代事務局長等を歴任。著書に『新聞販売の闇と戦う 販売店の逆襲』(花伝社/共著)等。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

「司法の独立・裁判官の独立」について ── モラル崩壊の元凶押し紙(下)

江上武幸

近時、弁護士が依頼者の金銭を横領する事件が多発しています。また、弁護士事務所の法人化、支店の設置、広告宣伝の自由化により、相談料無料・着手金無料をうたったホームページが多く見られるようになりました。日本版アンビュランス・ローヤーの出現という問題です。

(注:アンビュランス・ローヤーとはアメリカの俗語で、交通事故などの被害者が乗った救急車(ambulance)を追いかけ、病院で動揺している被害者やその家族に接触し、損害賠償請求の訴訟を持ちかけて依頼を得ようとする弁護士たちを指す言葉です。基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする日本の弁護士制度にはなじみません。)

検察関係では、証拠の捏造や改ざん・隠ぺい、検事正による女性検事への性加害事件や、検事総長就任予定者による新聞記者との賭けマージャンなど、信じがたい事件が起きています。

※京大卒業で検事に任官したクラスの友人が、6年目にして将来の出世コースに乗っているかどうかが分かってきたと話してくれたことは以前述べた通りです。実は私も、長兄が警視庁に勤務していたこともあり、検事を志望していた時期がありました。しかし、指導教官から任官の誘いを受けたことは一度もありませんでした。高校時代にベトナム反戦ビラを正門前で配ったことがあったからでしょうか。

裁判官の世界では、袴田事件に見られるような、無実の人間に対する死刑判決をめぐる再審無罪や、がんに罹患している無実の被疑者の保釈請求が却下されたことによる病死、退職後の裁判官の大手弁護士事務所への再就職問題など、裁判官への信頼を大きく揺るがす状況が見られます。

※(元)法務大臣の河井克行氏は、2008年に『司法の崩壊-新弁護士の大量発生が日本を蝕む』(PHP研究所)を出版しています。

河井氏は2019年9月11日に法務大臣に就任しましたが、同年7月の参院選をめぐる運動員買収の疑惑により、2020年6月に逮捕され、2021年に懲役3年の実刑判決を受けて収監されています。就任後まもない2019年10月31日付で辞任しており、週刊誌報道から辞任、さらに逮捕・実刑判決に至る経緯は、法務大臣経験者に対する刑事処分としては異例に見えます。自民党の裏金議員に対する検察の対応の甘さと比べると、その差は際立っています。

そのため、河井氏が法務大臣として司法制度改革の見直しを言い出しかねないことを危惧した勢力が背後にいたのではないかと考えざるを得ません。

「存在が意識を決定する。」という言葉が、ずっと気になっています。自分が新聞社側の代理人であったら、検事であったら、裁判官であったら、という考えが頭をよぎることがあります。生まれたときの人間の脳はまっさらです。その後の体験と学習の積み重ねによって脳細胞同士がつながり脳が発達していきます。生まれ育った環境や受けた教育、労働・社会体験の有無や内容によって、ひとりひとりの脳が異なっていくのは自然なことです。

*家族や親せき、近所の人たちから戦争体験の話が聞けた機会があった世代や、読書好きで戦争文学を読んだことのある世代は、なんとか戦争を肌で感じることができるかもしれません。しかし、戦争のない時代に生まれ育った人間が(私もその一人です)、戦争の恐怖・残酷さ・悲惨さを感じ取るには、教育の力によるしかありません。

先の戦争の歴史を教える教育がなされたのは、朝鮮戦争が始まるまでのほんのわずかな期間でした。1947年発行の文部省『あたらしい憲法のはなし』は、1950年の朝鮮戦争勃発を機に使用されなくなりました。

1947年8月2日、当時の文部省は、同年5月3日に施行された日本国憲法を解説するため、新制中学校1年生用社会科の教科書として『あたらしい憲法のはなし』を発行しました。その教科書で平和主義、戦争(戦力)放棄条項について、中学生に向けて次のように呼びかけています。

「こんな戦争をして、日本の国はどんな利益があったでしょうか。何もありません。ただ、おそろしいことがたくさんおこっただけではありませんか。戦争は人間をほろぼすことです。世の中のよいものをこわすことです。」(ウィキペディアより)

漫画家・中沢啓治氏の原爆劇画『はだしのゲン』が学校の図書館から姿を消すようになったのは、2012年頃からとされています。この漫画を読んだ子供と読んでいない子供とでは、原爆の悲惨さや残酷さを認識する脳作用が大きく異なるであろうことは、容易に推測できます。

防大生が制服姿で靖国神社の参道を行進する姿や、軍服姿の大人が日の丸を掲げて歩く姿を見ると、戦争の悲惨さや残酷さを認識する脳細胞群が十分に形成されないまま成長した人間の危うさを、ひしひしと感じます。

※存在が意識を規定するのであり、意識が存在を規定するのではありません。教育を十分に受けることができれば、誰でも大学に進学できる程度の脳の形成は可能です。オウム真理教や統一教会などのエセ宗教が狂信的信者を作り出すのも、洗脳によって思考が固定化されるためです。

経済的に裕福な家庭に生まれ育ち、空腹も労働の体験もなく、受験勉強一筋で育ってきた、戦争を知らない子供たちが、大人になって、いっぱしの政治家・官僚・自衛官として権力を手にしたとき、どんな世界が到来するのか。そう考えただけで恐ろしくなります。

※世襲議員の小泉進次郎防衛大臣が自衛隊服を着込んで、パラシュート降下訓練のまねごとをしているのをニュースで見ました。随分前のことですが、地元で著名な陶芸家から、ある会合に呼ばれたとき、玄関前に整列した会員が一斉に敬礼して出迎えたという話を聞いたことがあります。また、大の男たちが近くの山中でゴーグルをつけ、エアソフトガン(遊戯銃)で戦争ごっこをしているという話を聞いたこともあります。その話を聞いたときに感じたのと同じ、何とも言いようのない気持ちに襲われました。

都会に生まれたか田舎に生まれたか、裕福な家庭に育ったか貧しい家庭に育ったか、両親そろった家庭で育ったか片親の家庭で育ったかといった個人的事情にかかわりなく、すべての若者が無償で高等教育を受けることができ、女子学生が奨学金返済のために夜のアルバイトをしなくて済むよう、返済不要の奨学金制度が整備されていれば、全国津々浦々から優秀な若い人材が生まれてくることが期待できます。

最近、在日3世の李相日監督の映画『国宝』を見ました。冒頭の長崎市の料亭での、やくざの新年会の出入りの場面を見ながら、暴力団そのものを禁止する法律があれば、多くの若者がやくざの世界に足を踏み入れることもなく、堅気として生きていくことができたはずだ、という思いに駆られました。

小選挙区制のもとでの世襲議員や、森友学園の土地払い下げ問題で、公文書の改ざん・廃棄を部下に指示したとされる高級官僚、学歴詐称やセクハラ・パワハラ問題が絶えない自治体の首長らと、映画『国宝』に登場する親分衆の顔を見比べると、役柄とはいえ、その風格の違いは歴然としていました。「親ガチャ」という言葉の持つ意味が、はっきりと分かる場面でした。笹川良一・児玉誉士男ら政界の黒幕が戦後も脈々と生き続けることができたのも、警察や自衛隊が対処できない問題が発生したときに備えさせるためであるとの見解がありますが、十分うなずけます。

表題の「司法の独立・裁判官の独立」からは大きくそれてしまいましたが、意図するところはお分かりいただけるのではないかと思います。

※古賀茂明(元)通産官僚、前川喜平(元)文部科学事務次官、孫崎享(元)外交官、岡口基一(元)裁判官らが、政治家・官僚・マスコミ人の劣化による「日本全体の崩壊」を危惧しておられます。そのような良識ある官僚OBや現役官僚の方々がたくさんおられるのは救いです。

岡口(元)裁判官によれば、近時、裁判官の任官希望者が減っており、中途退職者も増えてきているとのことです。「鯛は頭から腐る」「沈む船からネズミは逃げる」と言われますが、出世に関心のない若い世代の人たちが中心となって沈む船にとどまり、腐った鯛を生き返らせてほしいものです。

先の大戦で、本来死ぬべきではなかった多くの若者が真っ先に死に追いやられ、本来戦争責任をとって死ぬべきであった大人たちが、のうのうと生き残るという恥ずべき歴史を日本は持っています。そのような歴史を繰り返してはなりません。

※先ごろ102歳で人生を閉じられた裏千家の千玄室さんは、80年前の戦争を知る世代の人間がいなくなってしまったことで、日本が再び、あのような悲惨な戦争を引き起こす情けない国になるのではないかと心配し、残された私たち一人ひとりに警戒を怠らないよう警告して旅立たれました。生前、田中角栄氏も同じことを話しておられたとのことです。

※新聞・テレビ等のマスメディアの報道の自由度が世界第70位で、先進国の中では最低にランキングされるという惨憺たる状況にありますが、若い世代の新聞・報道記者らが奮起して国民の知る権利に応え、傾いた船をまっすぐに進めるために頑張ってくれることを期待しています。

次回は、弁護士人口の大幅増大、弁護士事務所の法人化と宣伝の自由化、弁護士報酬規程の撤廃などがもたらした弁護士業界の弊害と解決策等について、地方の単位弁護士会の決議・意見書等を参考に、私見を述べたいと思います。

なお、引き続き西日本新聞と毎日新聞の押し紙裁判の行方に注目していただければ幸いです。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年1月19日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼江上武幸(えがみ・たけゆき)
弁護士。福岡・佐賀押し紙弁護団。1951年福岡県生まれ。1973年静岡大学卒業後、1975年福岡県弁護士会に弁護士登録。福岡県弁護士会元副会長、綱紀委員会委員、八女市役所オンブズパーソン、大刀洗町政治倫理審査会委員、筑豊じんぱい訴訟弁護団初代事務局長等を歴任。著書に『新聞販売の闇と戦う 販売店の逆襲』(花伝社/共著)等

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu