ああ無情!「仁義なき候補者選考」で立憲民主党の宮口参院議員が離党に追い込まれる さとうしゅういち

◆宮口議員、立憲から事実上「お払い箱」

筆者が立候補した2021年4月執行の参院選広島再選挙(河井案里さんの当選無効に伴う)で当選した立憲民主党の宮口治子参院議員が2025年1月20日、離党届を提出しました。ご本人の記者会見などによると立憲民主党に「残っても居場所がない」状態だったということです。

2021年参院選広島再選挙では、立憲民主党は2020年の段階で『檻の中のライオン』で有名な弁護士の楾大樹(はんどう たいき)先生を候補者として内定していました。ところが、同年秋に立憲民主党が旧国民民主党と合併し、森本しんじ参院議員が合流したことで雲行きが怪しくなります。

結局、森本しんじ参院議員の秘書・福田玄さん(2025年衆院選において、国民民主党から立候補し、比例中国ブロックで当選)の妻の宮口治子さんに候補者は差し替えられ、楾大樹先生ははしごを外されることになります。

楾先生がはしごを外された経過については、楾先生の著書『茶番選挙 仁義なき候補者選考』(あけび書房)をご参照ください。

さて、宮口さんは、立憲民主党や国民民主党、共産党などの推薦・支援も得て、自民党の公認候補や筆者らを破って見事に当選されます。だが、広島県選挙区は改選数は2。立憲民主党で2025年参院選改選分の議席を独占することになります。

このままでは、立憲民主党の票が割れれば、共倒れの危険もある。そう判断した同党は2024年12月、宮口議員を下ろして、森本しんじ参院議員に候補を一本化することになりました。宮口議員の今後の処遇については、県連がなんとかする、はずでした。

しかし、宮口議員が記者会見したところでは「代案はなかった」ということで、立憲民主党に残っても比例代表や他選挙区への国替えも含めて選挙に出られない状況に追い込まれたのです。楾先生のはしごを外した立憲民主党が、今度は宮口議員を使い捨てにしたのです。だが、筆者にはこの結果は予想できました。

◆「宮口さんは具体的に政策が分かる人ではないから」と立憲広島

なんどか、ご紹介していますが、重要なことなので繰り返します。2021年4月上旬の前半。すでに再選挙の告示が迫っている時期でした。

筆者は、広島3区市民連合幹部から「どうか、宮口さんとの一本化をしてほしい」と要請を頂いていました。ただ、政策も何もなしに一本化では、これは、自民党を批判できなくなる。そう考え、宮口さんサイドに話し合いをお願いするメールをお送りしました。具体的には「伊方原発の即時廃炉を含む原発ゼロ」でわたしが降りて宮口さんを支援するということを考えていたのです。

そうした趣旨で筆者が宮口さんにメールに対して、宮口陣営幹部だった立憲広島の地方議員にお電話をいただきました。それは「宮口さんは具体的な政策が分かる人ではないから」です。

宮口さんは政策が分かるか人かどうか? 実際のところは本人ではないからわかりません。問題は、そういう認識で当時の立憲広島が宮口さんを楾大樹先生のはしごを外してまで擁立したことです。なお、当時は、筆者は楾先生が候補者に実は内定していたのにはしごを外された、と言う話はうかがっていませんでした。

「ダメだこりゃ。立憲民主党」と筆者は判断し、予定通り立候補し、20848票をいただきました。

もう一度申し上げます。宮口さんに対して「具体的に政策が分かる人ではないから」という認識で選挙をしていた立憲民主党さん。楾大樹先生に対しても失礼ですし、宮口さんに対しても失礼です。

2024年12月に森本真治議員で一本化することが決まった後、そうはいっても何らかの形で宮口さんの処遇を党が考えるとの期待をご本人も持っておられたようなSNS投稿はされていました。

宮口さんの支持者の中にもそれを期待する向きもありました。しかし、立憲広島の幹部の本音が、「宮口さんは具体的に政策が分かる人ではないから」である以上、宮口さんに居場所がなくなるのは時間の問題でした。

女性を軽視するにもほどがあります。広島県出身の石丸伸二さん(前安芸高田市長)が東京で「政策はない」新党を結成し、多くの人から失笑を買いました。筆者も石丸さんは支持しませんが、しかし、「具体的に政策が分かる人ではない」と認識している人を担いできた立憲広島にも石丸さんを批判する資格はありません。

◆「金権腐敗」と並ぶ広島政治のもうひとつの闇「古い政治文化」を一掃しよう!


筆者は、2021年2月から3月にかけ、何度も、各野党に統一候補へ向けて公開討論会を開くよう求めました。しかし、全く、それはされなかったことは、痛恨の極みです。なるほど、当時の立憲幹部の皆様にとり、河井事件糾弾という目的のためなら、政策はどうでもよかったのかもしれない。しかし、そのつけがいま噴出しているのではないでしょうか?

公正で透明な候補者選考は、今後も求められます。これが立憲民主党内部でも、野党共闘においてもすべきではないでしょうか? 予備選挙とまでいわずとも公開討論会は開くべきではないのか?

筆者は「金権腐敗政治」と並ぶ広島の政治のもう一つの闇=「古い政治文化」を一掃し、政策議論や政治家の政治姿勢を重視する政治・選挙の在り方にリニューアルしなければならないと改めて再確認しました。

■[資料]参院選2019・再選挙2021・参院選2025関連年表

《2019年》
 7月 参院選広島=改選数2。河井案里さんが当選。

《2020年》
 6月18日 河井案里さんと夫の克行さんが公選法違反・買収容疑で逮捕される。
 本社社主・さとうしゅういち、各地での街頭演説で補選の場合の立候補を表明。


《2021年》
 2月3日 河井案里さんが議員辞職表明(法的には当選無効に)
 2月4日 本社社主・さとうしゅういち、野党各党の県連などを訪問し、推薦願を提出 各野党に公開討論会の開催など求める。
 3月10日 本社社主・さとうしゅういちが記者会見で立候補表明 「広島の政治をリニューアル」
 3月14日 宮口氏が立候補表明。本社社主、あらためて、宮口氏を含む各候補に公開討論会呼びかけも実現せず。
 4月上旬 市民連合幹部から野党系候補者一本化への要請をいただく。それを受け、立憲系無所属(当時)宮口氏陣営にメール。伊方原発廃炉含む原発ゼロでの一本化を申し出るが、宮口陣営幹部の立憲県議は「宮口さんは具体的な政策が分かる人ではないから」と電話で返答。その女性蔑視ぶりにあきれる。一本化を断念する。
 4月8日 参院選広島再選挙告示 
 4月25日 投開票。本社社主・さとうしゅういちは、20848票を獲得。

《2023年》
 4月 本社社主・広島県議選に立候補。楾大樹先生も応援に駆けつけてくださる。
 立憲民主党から楾先生が声を掛けられていたのに、はしごを外されていたことを知る。 
 7月 祇園公民館で檻の中のライオン講演会
 8月 祇園のカラオケ喫茶で檻の中のライオン講演会
 12月 呉で本社主催の檻の中のライオン講演会

《2024年》
 4月 楾先生が『茶番選挙 仁義なき候補者選考』(あけび書房)出版。
    6月から県内各地で出版記念講演会開催
 12月 立憲広島、2025参院選広島で宮口議員を公認申請せず、森本しんじ参院議員に一本化。

《2025年》
 1月20日 宮口議員が立憲民主党に離党届
 2月16日 投票率も人口流出もワーストワン!これでいいのか広島!?
 「檻の中のライオン」楾大樹先生と広島を語り合う会(開催予定)

【告知】投票率も人口流出もワーストワン!これでいいのか広島!?
「檻の中のライオン」楾大樹先生と広島を語り合う会
ところ 広島市東区牛田公民館研修室3
とき 2025年2月16日(日)13時開場 13時半開始 15時45分終了 ※オンライン併用
楾先生からのお話しの後、フリートークなど。
主催 広島瀬戸内新聞
問題提起 楾大樹(はんどう たいき)先生(弁護士、元広島県民) 
聞き手 さとうしゅういち(広島瀬戸内新聞代表)
参加費 2000円(書籍・『茶番選挙 仁義なき候補者選考』代込み)

※本書購入済みの方は会場にご持参の上、700円。オンライン参加の場合も700円。本書をご自身でご購入下さい(右のQRコードから購入できます)。また、広島都市圏内の方はなるべくリアル参加をお勧めします。オンラインはzoomです。ご連絡の上、指定口座までご送金ください。

連絡先:佐藤 090-3171-4437 hiroseto2004@yahoo.co.jp 
 X(旧Twitter):@hiroseto

広島は平和都市として持ち上げられ、現在、広島駅前など、町並みはリニューアルが進行中です。だが、本当の意味で、広島はリニューアルされているのでしょうか?

広島県は、3年連続人口流出全国ワーストワン。特に若い人が広島から出て行かれています。そして、衆院選2024では、投票率も48.4%と全国ワーストワンを記録してしまいました。産業廃棄物への規制も緩く、三原や安佐南区をはじめ県内各地に全国からゴミが押し寄せ、大問題を引き起こしています。

為政者を「ライオン」に、憲法を「檻」にたとえ、為政者を主権者がきちんとチェックしていくことが大事という「檻の中のライオン」を著し、全国各地1100箇所以上で講演され、つい最近、広島からの転出を決意された弁護士・楾大樹先生。実は、参院選広島再選挙2021の某政党の候補者にも内定したものの、はしごを外されるという経験もされています。

24年にはその経験をレポートした『茶番選挙 仁義なき候補者選考』を出版されました。広島の政治の舞台裏を見てしまった楾大樹先生を囲み、郷土・広島が抱える課題について語り合いませんか?

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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冤罪犠牲者の青木恵子さん、大阪高裁にホンダに対する損害賠償請求の再審を申し立て 尾﨑美代子

東住吉事件の冤罪犠牲者青木恵子さんが、1月24日午前中、大阪高裁に自動車メーカー本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)に対する損害賠償請求の再審を申し立てました(民事での再審申し立ては大変珍しいとのこと)。

◎[参考動画]【独自】火災で女児死亡の冤罪事件 無期懲役で一時服役の母親が賠償求め自動車メーカーに「再審」申し立て(関西テレビ2025/01/24)

30年前自宅で発生した火災事故で娘を失った青木さん。しかも青木さんと同居男性が保険金目当てで娘を焼死させたとして逮捕、起訴され、無期懲役が確定し服役した。

その後、再審で火災は当時青木さん宅にあったホンダの車からガソリンが漏れ、それが車庫に隣接する風呂場の種火に引火し、火災を引き起こしたことがわかり、青木さんらに無罪判決が下された。

青木さんはその後、ホンダに損害賠償を求める国賠訴訟も訴えていた。しかし、こちらは、不法行為から20年経過すると損害賠償を求める権利が失われるとする「排斥期間」が経過したからとの理由で認められなかった。

いやいや、警察、検察、裁判所は誤って青木さんを犯人にして、獄中につないでいた。和歌山刑務所に服役していた青木さんは、亡くなった娘に対する損害賠償の請求権をもっておらず、裁判したくても訴えられなかったのだ!裁判できなくさせていたのは、警察、検察、裁判所だろう。

そんななか、青木さんの刑事裁判弁護団に関わっていたお1人の弁護士の方が、昨年7月に判決が下された旧優生保護法の国賠訴訟で「排斥期間の適用は容認できない」との判決が出たことを報道で知った。「排斥期間」は1989年に最高裁がこれを決めて以降多くの裁判で適用されてきた。青木さんのホンダ国賠もそうだった。

「排斥期間」の適用を容認できない」との情報を知った弁護士は、これは青木さんにも適用出来るのではと考え、今回の申し立てに至った。

青木さんから「カンテレで5時20分に短いニュースで出るらしいから見れたら見てね」と連絡がきたので、お客様と見ていた。それから10数分したら、青木さん本人が店に入ってきた。みんなで「おめでとう!」と言いました。今日は青木さんの誕生日でもあります。

青木さん「お金の問題じゃないの。ホンダにはメグちゃん(娘さん)にひとこと謝罪して欲しい」。

この願いを叶えてやるために、皆さんもこの裁判にご注目を!

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

「カウンター大学院生リンチ事件」(「しばき隊リンチ事件」)から10年(中・補)── あらためてその〈意味〉と〈責任〉を問う 鹿砦社代表 松岡利康

昨年2月以来、くだんの大学院生リンチ事件の主たる暴行実行犯・金良平(ハンドルネーム・エルネスト金、略称エル金)が鹿砦社と森奈津子さんを提訴し係争中のところ、私たちの代理人を務めていただいていた内藤隆弁護士が、去る1月6日急逝された。

内藤弁護士には1996年以来約30年近く、主に東京での訴訟や法律問題でお世話になった。最初の案件は、大相撲の八百長問題で日本相撲協会から東京地検特捜部に刑事告訴された件だった。内藤弁護士のご尽力で不起訴となった。

また、大手パチスロメーカー・アルゼ(現ユニバーサルエンターテインメント)からの、「名誉毀損」に名を借りた言論・出版弾圧事件の民事訴訟をご担当いただいた。損害賠償請求額、なんと3億円! 最終的には600万円で確定したが、私たちは減額されたとはいえ不当判決と認識している。刑事事件のほうは懲役1年2月、執行猶予4年で確定した。これも不当判決だ。これにも弁護団の一員として名を連ねていただいた。

ちなみに、刑事事件で主任弁護人を務めていただいた中道武美弁護士も、一昨年亡くなられた。謹んでお二人のご冥福をお祈り申し上げ、大学院生リンチ事件の‟延長戦”として係争中の対エル金訴訟勝利の決意を固めるものである。無抵抗の大学院生М君に長時間卑劣な暴行を加えた徒輩に負けるわけにはいかない。

リンチ直前の加害者ら(左から李信恵、金良平、伊藤大介)

◆社会運動内部における暴力の問題 ── 私の体験から

前回、反差別運動や学生運動など社会運動内部における暴力の問題について私的体験を少し記した。もう少し詳しく聞きたいというリクエストが複数あった。ここに私が本件リンチ事件に、被害者の大学院生М君の側に立って関わった要因もあると思うので、私がなぜ金良平らによる集団リンチ事件に怒り、なぜ真剣に取り組んだかを、予定を変更して今回、前回の「中」を補完するもの(「補」)として申し述べておきたい。

私は1970年(昭和45年)に大学に入ってから、当時の多くの若者同様、ノンセクトの学生運動に関わった。最盛期(1968年~69年)は過ぎたとはいえ、まだ集会やデモには多くの若者が参加していた。そして、運動内部における暴力事件を直接的、間接的に体験したり見聞きしてきた。

なにより私自身が対立する日本共産党(以下日共と略記する)・民青(日本民主青年同盟の略。日共の学生青年組織として当時権勢を誇った)のゲバルト部隊に襲撃され1週間ほど入院した経験がある。

1971年春、大学3回生の時だ。早朝3人でビラ撒きをしようとしていた矢先、突然に多勢の短い角材を持った集団に急襲された。たった3人なので捕捉され袋叩き、激しいリンチを受けた。しばらくして助けにきた仲間によって近くの病院に運ばれた。この前年師走には、のちにノーベル賞を受賞する作家の甥っ子で同じ自治会の先輩が、やはり同じ日共のゲバルト部隊によってリンチされ一時は医者も諦めたほどの危篤状態になった(奇跡的に回復)。

2件目は、時々ビラ撒きで顔を合わせていた中核派の活動家だった大学の先輩、正田三郎さんが、71年暮れ、泊まり込みで支援に行っていた関西大学で深夜、当時内ゲバを繰り広げていた革マル派の秘密部隊に襲われ、仲間の京大生Tさんと共に亡くなった事件を知った時には動転した。私が日共ゲバルト部隊に襲われて半年余り後のことだった。

3件目。私は大学時、定員30名ほどの小さな寮にいた。先輩に藤本敏夫(故人)さんがいる(私が入った時にはもういなかった)。

私が在学中(70年代前半)は、比較的平和な時期だったが、卒業後(70年代後半)、学生運動は混乱と対立、分裂の時期になる。私のいた大学や寮も、それに巻き込まれ、遂には学友会、自治会の解散ということに繋がっていったが、79年3月、突然深夜に対立する勢力に襲撃され寮生が監禁され椅子に針金で縛られ激しいリンチを受けているという連絡があった。

寮母さんは、お母さんの時代(戦前)から母子で寮に住み込みで働いており学徒出陣で戦地に赴く学生を見送ったという。だからすごく反戦意識の強い方でデモに行かず寮に残っている寮生には「なんでデモに行かないの?」と叱責されたというエピソードがある人だった。私が学費値上げ反対闘争で逮捕された際には身元引受人を買って出てくれた。

79年3月31日で退職という直前の3月19日、黒百人組(この組織の創設者は元社民党代議士Hだ)的グループによる武装襲撃事件は起きる。寮母さんから悲痛な電話があり、仕事も途中で抜け駆け付けた。そして、後日開かれた寮母さんの退職記念会には、生前の藤本敏夫さんも駆け付けた。

4件目は、前回も触れた「八鹿高校事件」である。70年代、部落解放運動をめぐって部落解放同盟と日共は激しい対立関係にあった。新左翼系は、反日共という立場から解放同盟を応援していた。私たちもそうだった。ところが、私と一緒に自治会運動に関わり、いろいろ指導してくれた先輩が、卒業後教師になり、赴任した高校が、なんと兵庫県立八鹿高校だった。

私の先輩は反日共系だったので、当初日共から殴られたと思っていたが、事実はそうではなく解放同盟からだったので私も混乱した。この情報は水面下で同志社関係者に広まった。この事件で同志社では解放運動は浸透しなかったと私は思っている。先輩が、社会的に大きな話題となったこの事件に巻き込まれ激しいリンチを受けたことを知った時には大きなショックを受けた。いつかネットで凄絶な暴行を受けている場面(裁判資料)を見た時のショックは言葉にならない。

こういうことも、かつては解放同盟の行き過ぎた糾弾闘争もあって表立っては言えなかった。部落解放運動、この中心的担い手組織・部落解放同盟も、時代と共に社会が、こうした暴力を排除する雰囲気になるにつれ、このことを反省したからか、現在ではこうした暴力によって糾弾することをやめている。

かつて解放同盟による糾弾闘争がまだ収束していないさなか、私は出版企画で、当時の解放同盟の幹部であった師岡佑行氏(京都部落史研究所所長。故人)、土方鉄氏(作家で『解放新聞』編集長。故人)の対談をやったことがある。お二人は公の建物である京都部落史研究所内で大声で糾弾闘争を激しく批判され、組織内部に向けても暴力的な糾弾闘争の是正を訴えられていたそうだ。その後、お二人の努力は報われていき、今では(完全ではないが)、解放同盟が糾弾闘争を行うことはなくなった。

さらに、これは私が直接体験したわけではないが、1972年に早稲田大学で起きた川口大三郎君リンチ殺人事件で、昨年映画にもなり話題になった。この大学を暴力的に支配していた革マル派が、文学部の自治会室で、川口君を対立する党派の活動家と見なしリンチ殺人を行った事件だ。

なぜ私がこの事件に戦慄を覚えたかというと、私が通っていた高校は大学の付属高校だったが、この上部の大学が革マル派の拠点で、当時隣接していた女子大もそうだった。両大学とも地方組織ながら、革マル全学連の中央委員を出していたほどの強固な拠点だっだ。

日常なんらかの形で接していたので、この革マル派に違和感はなかった。そして、私は早稲田大学の文学部を第一志望で受験し、地方出身者は素朴なので身近な党派、その大学の主流派の組織に入りやすく、おそらく私は早稲田の文学部に入っていれば革マル派に入り、そのリンチ事件に関わったのではないかと震え上がった。幸か不幸か早稲田には落ちて、殺人犯にならずにすんだ。

この時の、その大学のキャップは草創期からの黒田寛一(故人。同派の創設者)の愛弟子で、九州の同派のトップをも務め、中核派に襲われ、半身不随の障がい者となりその後の人生を送り数年前に死亡した。

◆リンチに連座した者、加害者を擁護した者、被害者を追い詰めた者、事件を闇に葬ろうとした者らを許してはならない!

M君に対する集団リンチ事件の件で相談があった際に、前述したようなことが心の中を過り、「これもなにかの縁、この若い研究者の卵を助けてやらないといけないな」という気持ちになった。

この集団リンチ事件を顧みるに、民主主義社会を自認する、この国の社会運動から暴力はなくなっていなかったということだ。あれだけの凄惨なリンチを行っていながら金良平らは、あろうことか、いったん出した謝罪文を反故にし、約束した活動自粛も撤回し開き直った(このことが被害者М君に更に大きな精神的打撃を与えた)。「エル金は友達」なる村八分運動もなされ、これもМ君の精神を追い詰めていったことはМ君本人が言っている。挙句、リンチの場に連座した伊藤大介はのちに、深夜右翼活動家を呼び出し暴行に至り有罪判決を受けている。

金良平近影。今でも現場で凄んでいる
リンチ被害者М君を精神的に追い詰めた村八分運動「エル金は友達」
同上

金良平の蛮行は、厳しく弾劾されるべきであり、真摯な反省もなく開き直り、被告(森奈津子さんと鹿砦社)らによってみずからの犯歴が暴露されたと、被害者顔して提訴に及んだことは全く遺憾至極だ。М君は、金良平による長時間にわたる激しい暴力によって人生が狂わされたことを決して忘れてはならない。

ことは金良平にとどまらず、このリンチの現場に連座した李信恵ら4人、さらには加害者に加勢し事件の隠蔽に努めたり被害者М君を精神的にも追い詰めた徒輩(有田芳生、岸政彦、中沢けい、香山リカ、安田浩一、神原元、辛淑玉、野間易通、師岡康子ら)の所業を決して許してはならない。リンチ事件は、たとえ10年経ったにせよ、本質的にはなんら終わってはいないのだから──。(本文中、一部を除き敬称略)

《関連過去記事カテゴリー》  

M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B07CXC368T/

鹿砦社 http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000541

2025年に輝くキックボクサーたち 堀田春樹

1月下旬になって語るテーマでもないですが、昭和の隆盛期と比べて、正月松の内のキックボクシング興行は殆ど行われないのが現状です。

キックボクサーは注目を浴びるトップ選手だけでなく、不器用でも全敗でも各々に面白い個性があります。戦う場が少ない(出場出来る興行が少ない)選手も居ますが、昨年目立った中から、今年も話題を生むであろう選手を幾名か独断で選びました。

◆今年もトップクラスで輝くエース格

デビューから順風満帆に勝ち続けられる選手は殆ど存在しませんが、今年も上昇気流に乗って活躍、仮に同等以上の相手に負けても第一線級から脱落することは無いだろうと考えられるクラスには、

・ムエタイ殿堂三階級制覇、吉成名高(エイワスポーツ)

・壱センチャイジム(=与那覇壱世/元・ルンピニージャパン・バンタム級Champ)

・ジャパンキックボクシング協会の代表的エース格、睦雅(=瀬戸睦雅/ビクトリー)

・ニュージャパンキックボクシング連盟の代表的エース格、大田拓真(新興ムエタイ)等が存在します。

若干低迷しているものの、巻き返しが期待される中では、

・大田拓真の実弟、王座から落ちてはいるが大田一航(新興ムエタイ)

・IBFムエタイ世界王座から落ちて以降、奪回が待たれる波賀宙也(立川KBA)

・WMO世界王座には撥ね返されるも再浮上狙う瀧澤博人(ビクトリー)

・壁を撥ね返して再びメインイベンターとなるかNJKFバンタム級チャンピオン.坂本嵐(キング)

◆諸々の話題性増すと見込まれる選手

チャンピオンロードを歩み出して間もない選手や、ランカー以下でもこれから飛躍が臨める選手では、

・皆川裕哉を倒して王座戴冠したJKAフェザー級チャンピオン.勇成(Formed)

・一昨年9月、畠山隼人(E.S.G)を倒して王座戴冠後、激しい試合で勝っても負けても存在感増すNJKFスーパーライト級チャンピオン.吉田凛太朗(VERTEX)

2025年もメインイベンターの自覚持って戦う吉田凛太朗

・王座認定され、これから実績積み重ね勝負のNJKFウェルター級チャンピオン.小林亜維二(新興ムエタイ)

・テツジムの新エース、12月に王座戴冠したNKBフェザー級チャンピオン.勇志(テツ)

・勇志の御勧めでテツジム期待の秘密兵器、NKBバンタム級ランク入り確実、雄希(テツ)

・一昨年の王座戴冠から初防衛も果たしたNKBフライ級チャンピオン.杉山空(HEAT)

王座は初防衛果たして勢いに乗るNKBフライ級チャンピオン杉山空、他団体交流戦も期待

・令和の全日本キックボクシング協会でデビュー戦から最終試合(メインイベント)出場、ぜひとも飛躍して欲しい存在、バンタム級の北川広翔(稲城)

2024年3月16日、全日本初陣デビューからこれまで4戦3勝(1KO)1敗の広翔

・広翔同様に全日本キックボクシング協会を担う期待が掛かる野竹勇生(ウルブズスクワッド)

令和の全日本キックボクシング協会で次代のエース格候補No.1、野竹勇生

・古き時代の頑固一徹、渡邉ジムから現れた今時の新星、NKBバンタム級、4戦無敗の香村一吹(渡邉)

名門・渡邉ジムで久々のチャンピオン誕生に至るか、香村一吹

・国崇の後輩、関西で人気上昇中、NJKFスーパーバンタム級6位.庄司理玖斗(拳之会)

・与那覇壱世の後輩、センチャイジム期待の佐藤蒔音

壱世を追うセンチャイジムの期待の星、佐藤蒔音

・昨年は不振だったが、大化けしそうな存在感は大きいWMOインターナショナル・スーパーウェルター級チャンピオン.モトヤスック(=岡本基康/治政館)

・昨年3月に王座認定試合に勝利、今後もJKAメインイベンターの自覚持って戦うJKAフライ級チャンピオン.西原茉生(治政館)

・瀧澤博人、睦雅をピッタリ追うビクトリージム第3の男、JKAフライ級1位.細田昇吾

睦雅、瀧澤博人先輩の背中追って王座挑戦も近い細田昇吾

・高橋一眞に挑んだ二度挑戦の王座は敵わずも、次は豪腕で戴冠成るかNKBライト級1位.棚橋賢二郎(拳心館)

・2月22日に棚橋賢二郎と王座争うNKBライト級2位.蘭賀大介(ケーアクティブ)

・全日本キックボクシング協会を背負う責任重大のエース、スーパーフェザー級チャンピオン、瀬川琉(稲城)

・かつての名チャンピオン赤土公彦氏の御子息、まだまだ新人クラスも注目され期待値高い赤土公亮と剛琉の兄弟。

・小国ジム、かつての名チャンピオン佐藤友則、米田貴志の秘蔵っ子、吉仲悠(VALLELY)

・NKBライト3位.山本太一(ケーアクティブ)、“れいわ”の山本太郎氏並みに、耳に残る響きと、地道な努力に大器晩成型の期待感高まる存在。

今後も“太一やるじゃん”のアグレッシブな展開で魅せるか山本太一

◆ベテランの存在感

ピーク過ぎても老獪なテクニックで燃え尽きていない選手たち。メインイベンターから新人まで幅広い対戦相手と戦う元・チャンピオンが多い中、

・石川直樹(元・日本フライ級Champ/KickFul)

2023年8月に国崇からの対戦要求後にツーショットに収まった石川直樹

・国崇(=藤原国崇/元・WBCムエタイ日本スーパーバンタム級Champ/拳之会)

・片島聡志(元・WPMF世界スーパーフライ級Champ/KickLife)

・健太(=山田健太/元・WBCムエタイ日本ウェルター級Champ/E.S.G)

・藤原あらし(元・WPMF世界スーパーバンタム級Champ/バンゲリングベイ)

・オーシャン・ウジハラ(=氏原文男/元・WBCムエタイ日本フェザー級Champ)等
が若い選手の壁となって立ちはだかります。

◆生き残りを懸ける選手

第一線級を維持出来なければ引退という瀬戸際ながら、踏ん張る選手たち。

「お前、もう辞めろ!」と会長や身内から言われることはあっても、ルール的に引退勧告を受けることは無いキックボクシング界では、王座陥落や格下に連敗しても、自身のやる気次第で歳取っても、引退してもまた再起する選手も居るものです。

プロボクシング大手のジムとなると「試合の次の日、ジムに行ったら自分のロッカーが撤去されていた」という実例もあり、負ければ捨てられる厳しい世界でもある中、捨てる神あれば拾う神ありのキックボクシングは再起の道が広く開かれている業界でもあります。

そのキックボクシング界、まだ諦めてはいないという選手では、

・勝次(=高橋勝治/元・WKBA世界スーパーライト級Champ/TEPPEN)は連敗してもリベンジ精神満々でどのような完全燃焼へ進むかが見もの。

・JKAウェルター級1位.大地フォージャー(=山本大地/誠真)、政斗(治政館)に倒され初防衛成らなかったが出直しは可能、去就に注目。

・JKAフェザー級1位.皆川裕哉(KICK BOX)も初防衛成らなかったが、再浮上の期待が掛かります。

・日本フェザー級1位.木下竜輔(伊原)、現在の新日本キックボクシング協会を牽引するエース格と期待されながらジョニー・オリベイラに敗れ王座に就けずも、このままで終わるつもりは無いと闘志を燃やしています。

新日本キックボクシング協会を盛り上がられるか、右ストレートが強い木下竜輔

以上は私目線で2024年に見てきた選手たちで、今年も勝敗だけでなく、今後の試合レポートに登場することが考えられる、記録より記憶に残る話題を振り撒きそうな選手たちでした。

まだ注目株は大勢居ます。更に私が取材に行っていない大手イベントに登場する選手、去就が不明な選手も大勢居ますが、紹介しきれていないところは御容赦ください。

選手実績にはチャンピオンの肩書きが多いキックボクシング界です。それぞれはプロモーター主体の任意団体の王座で今後、国レベルのチャンピオンに成れるか、更なる上のメジャー競技に進むかも視野に入れて頑張って貰いたい2025年です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

LGBT犯罪録 かなざわシャブのま事件──金沢レインボープライド事務局長が覚醒剤で逮捕〈6〉森 奈津子

金沢レインボープライドの奥村兼之助事務局長が逮捕されたのが、2024年3月下旬。それが報道によって明らかにされたのが、6月5日。

その間、二ヶ月以上、金沢レインボープライドは事件を伏せていた。いや、伏せていただけではない。問題の施設「かなざわにじのま」でイベントを開催しつづけていたのだ。

その事実に対し、LGBT当事者の間からは批判の声があがった。

「報道でバレなければ、ずっと隠すつもりだったの?」
「全然、反省してない! あまりにも不誠実!」
「こんなの、地域の人たちに対する裏切りだよ。恥じてほしい」

金沢レインボープライドの公式HPの「かなざわにじのま」のページでは、三つのイベント「にじのまカフェ」「にじのま保護者会」「にじのま相談室」が定期的に開催されていたのがわかる。

交流会「にじのまカフェ」2023年9月の案内画像。「私たちが待ってます!」の文字が添えられたスタッフの写真の中には覚醒剤常習者の奥村事務局長も
「にじのま保護者会」2024年5月の案内画像。未成年のLGBTの子を持つ親御さんも、覚醒剤常習者と接していたのか……
奥村事務局長逮捕後もコンスタントに開かれている「にじのま相談室」。悩みをかかえる性的マイノリティをいきなり放り出すわけにはゆかないという、スタッフの良心ゆえだと信じたい

「にじのまカフェ」に関しては「性の多様性やジェンダーのお話をする」との説明があるが、特に性別や年齢、性自認や性的指向の制限は定めてはいない交流会のようだ。「にじのま保護者会」は性的マイノリティの保護者の集まり。「にじのま相談室」は「いろんな性について、気軽に相談できます」との説明がある。

どれも悪くはない企画だが、その施設に覚醒剤常習者のゲイが常駐しているとなったら、肌寒いものを感じる。

HPには「かなざわにじのま」のイベントカレンダーもあるが、奥村事務局長が逮捕された3月と翌4月をくらべたら、イベントの数が激減しているのが一目でわかる。

かなざわにじのまのイベントカレンダー。奥村事務局長が逮捕された2024年3月には予定がびっしり入っていたが、12月はスカスカだ

3月は「にじのま営業日」がほぼ毎日だ。その中に、「にじいろカルチャー 楓書法教室」「くるまみ酒場」「金沢泉丘高校探求H班 ワークショップ」や、先述の「にじのまカフェ」「にじのま保護者会」「にじのま相談室」が入っている。

しかし、4月には「にじのま営業日」が月に13日と、半減している。おそらく、逮捕された事務局長がこれを担っていたためだろう。「にじのまカフェ」等のイベントも5件、3日間のみになっている。

そして、5月になると、「にじのま営業日」はさらにまた半減、たった6日だけのオープンだ。

これでは、事件を知らされなかったスタッフたちが「幹部たちの間でけんかでもあったのか?」と疑ったというのも、うなずける。と同時に、彼らの気持ちを思うと、なにやら胸が痛んだ。他のLGBT団体の元ボランティアスタッフが「自分は体のいい奴隷だった」「なにがしろにされ、ただただ無料でこき使われ、搾取されていた」と語るのを、聞いたことがあるのだ。金沢レインボープライドのスタッフがそんな扱いを受けていなかったことを願うばかりだ。

こんな調子では、スタッフだけでなく、にじのまを利用していた地域の人たちも、おかしいと感じたにちがいない。

このスカスカのカレンダーは、2024年12月になっても回復していない。かつてはほぼ毎日だった「にじのま営業日」が12月には5日。他のイベントは4回。

この半端な日数は、自粛しているわけではなく、施設運営がうまく回っていないためだと思われる。二ヶ月強の隠蔽と信用失墜が裏目に出ているのだとすれば、逆に、3月に事務局長逮捕を公表し、謝罪していれば、施設のにぎわいも回復していた可能性もある。

せっかく、クラウドファンディングで750万円も集めて、伝統的な金沢町家を改装し、「かなざわにじのま」としてオープンしておきながら、きちんと地域に貢献できているのか? はなはだ疑問に思う。

とにかく、隠蔽と謝罪とその後の対処が、よろしくなかった。それは、メインイベントの「金沢レインボープライド2024」の開催にも言えることだろう。(つづく)

◎森奈津子 LGBT犯罪録 かなざわシャブのま事件  ── 金沢レインボープライド事務局長が覚醒剤で逮捕
〈1〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=50290
〈2〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=50306
〈3〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=50381
〈4〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=51912
〈5〉https://www.rokusaisha.com/wp/?p=52094
〈6〉https://www.rokusaisha.com/wp/?p=52123

▼森 奈津子(もり・なつこ)
作家。1966年東京生。立教大学法学部卒。1990年代よりバイセクシュアルであることを公言し、同性愛をテーマにSFや官能小説、ファンタジー、ホラー等を執筆。
Xアカウント https://x.com/MORI_Natsuko
森奈津子 LGBTトピック https://x.com/morinatsu_LGBT

『LGBT問題 混乱と対立を超えるために』女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会=編著 定価990円(税込み)

A5判 総164ページ(巻頭カラー4ページ+本文160ページ)
定価990円(税込み) 1月28日発売!

1:「心は女性」を支持する人々へ 織田道子
2:私の講演会はLGBT活動家としばき隊につぶされた 森奈津子
3:キャンセル・カルチャー事例集 井上恵子
4:50人の小説家を巻き込んだ、芥川賞作家による個人情報拡散騒動 斉藤佳苗
5:脅かされる女性・子どもの安全と言論の自由 台湾からの寄稿文
6:私はなぜ「シス」という言葉を使わないのか 千田有紀
7:LGBT問題をめぐる日本の歴史と現状のまとめ 斉藤佳苗
8:女性スペースを守る法律を 滝本太郎
9:少女たちの乳房切除を日本は止められるのか? 森奈津子
10:兵庫県知事選挙とLGBTアライ 繁内幸治
11:LGBT活動家の背後に存在する大富豪たち 斉藤佳苗
12:LGBTQ運動と生殖補助医療の不穏な関係 野神和音
13:私の彼女はトランス女性 山田響子
14:LGBTQSの時代──生得的異性限定の性的指向・スーパーストレート 三浦俊彦
15:「男性」になる、ということ 浅利進
16:性暴力被害者へのグルーミング 郡司真子
17:トランス支援活動評価のための課題:用語集の形で 三浦俊彦
18:性の多様性と社会の在り方 井上恵子
19:書評『LGBT問題を考える』 細川亙
20:書評『マテリアル・ガールズ』 三浦俊彦

◎紀伊国屋書店 https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-04-4910027200252
◎yodobashi.com https://www.yodobashi.com/product/100000009004080049/

広島駅北口巨大「湯崎」病院構想に暗雲 さとうしゅういち

湯崎英彦・広島県知事が広島都市圏の病院を統廃合して2030年度の開院を目指している、広島駅北口の巨大病院構想に暗雲が垂れ込めてきました。

湯崎知事は、広島市南区宇品にある県立広島病院=通称・県病院=、広島市中区にある中電病院、そして広島市東区の広島駅北口のJR広島病院及び広島県立広島がん高精度治療センター(これ自体が、湯崎英彦知事の肝いりで出来ました)の4病院を統合し、独立行政法人の巨大病院を1300~1400億円かけて開設しようとしています。

JR広島病院はまだ新しい建物になって10年も経過していないのですが、新巨大病院の立体駐車場に作り替える計画でした。ところが、このところの建築資材や工賃の高騰で、1300~1400億円とされていた事業費が「大幅に増える」見込みとなったのです。

広島駅北口にあるJR広島病院(広島市東区)

これを受けて、これまでは、このいわゆる「湯崎病院」推進一辺倒に近い論調だった地元マスコミにも変化がみられます。

統合予定JR病院 引き続き医療関連施設とする案が浮上(NHK 広島県のニュース)

解体予定のJR広島病院 整備費高騰で建物活用に変更も 広島県新病院計画

◆若い医師を引き寄せる?!

そもそも、県立広島病院=県病院は、国の公的病院の再編計画の対象外です。現状で何か問題があるわけではないのです。ただ、湯崎知事ら県幹部は、『新病院を東京や大阪と肩を並べる高度医療・人材育成の拠点とする』『最新鋭の機械で若い医師を東京などから引き寄せる』と豪語しておられます。

随分と挑戦的な取り組みです。そもそも、医師に限らず、若者の多くは広島からいったん出て行く。東京でいわば煌びやかなことも経験して、しかし、東京の悪い部分も知って、30代、40代、50代で広島に戻ってくることも多い。身近な例で恐縮ですが、筆者の父親も今年84歳になりますが60歳で東京から福山市内の実家に戻るようになり、現在は東京と広島両方で仕事を続けています。

医師とて一人の若者。若い先生方を引き留めようというのも無理があるでしょう。筆者自身は逆に、大学まで東京ど真ん中を堪能したからこそ、広島での生活が長続きしているのかもしれない、と思っています。ですので、東京や大阪と同じ土俵で競うことは自滅の道でしかないと考えています。最近の広島の問題はむしろ、中堅世代も人口流出に転じている点です。

◆地域医療の現場を支える先生方にこそ報いを

さて、事業規模を見直せば、東京の若手医師を満足させるには余計に不十分なものになるでしょう。また、最新鋭の機械にあこがれて来るような先生方と地域医療のしんどい部分をになう先生方では人物像が異なってくるでしょう。地域医療のしんどい部分を担う先生方を確保するのであれば、東京から一定程度経験を積んだ先生方にUターン、Iターンしていただきやすいような環境整備をすればよいことです。

具体的には、第一に収入のアップです。第二に、労働環境の改善です。例えば、今、ペイシェントハラスメント(患者や家族による暴言・暴行など)がようやく注目されてきてはいます。埼玉県ふじみ野市では2022年1月27日、渡辺宏被告人が「母親を生き返らせろ」などと理不尽な要求をした挙句にドクターや介護士を殺傷した事件が起きました。その事件を教訓に『ふじみ野市地域の医療と介護を守る条例』が制定されました。こうした他地域の例も参考にしながら、先生方が働きやすい環境をつくっていけばいいのです。巨大病院をつくる必然性は何処にもない。
 
◆チェックが効きにくい独立行政法人方式

もう一つの問題は、この病院の運営主体は独立行政法人であるということです。県の直営=地方公営企業法全部適用=であれば、議会のチェックが効く。逆に民間企業であれば株主のチェックが効く。ところが独立行政法人はチェックが効きにくい組織形態です。

また、県の直営であれば、大震災や大規模感染症などの非常にも対応しやすい。湯崎知事らは、独立行政法人の方が予算は弾力的に運用しやすいと主張するが、県の直営でも知事が専決処分で補正予算を組めばよいだけです。

実際に、過去の大水害やコロナなどの非常には、専決処分と言う例も各自治体ではあります。専決処分乱発はデモクラシーの観点から問題はありますが、あくまで非常時対応なら、選挙で直接選ばれている首長がかなり自由に予算を動かせます。

◆利便性が低下する島しょ部や安芸郡

また、そもそも、県病院の地元住民や県病院を利用してきた島しょ部のみなさま、あるいは、県病院を救急利用することも多い安芸郡などの住民の納得が得られているとはとてもではありませんが思えません。

一方的に、当局のエライ人がしゃべるようなセミナーは何度か開催されていますが、ガチンコの議論が地域でされたわけではない。

◆ますます栄える広島駅周辺に巨大病院、混雑は大丈夫か?

そもそも、この広島駅周辺は2025年3月の新駅ビルのオープンなどでさらに混雑が予想されます。すでに、新しい駐車場が広島駅北側に完成しています。また、『湯崎』病院に近接してプロバスケチーム『ドラゴンフライズ』本拠地構想も持ち上がっています。

現在でもカープやサンフレッチェ広島の試合時には人や車で混雑する広島駅周辺ですが、激化が予想されます。救急車は入れるのか? 通院患者は無事に到着できるのか? そもそもこんな混雑したところに巨大病院と言うのは相性が悪すぎます。

◆消費税も多額投入

また、この巨大病院構想には、地方消費税や国税の消費税を財源とする補助金が注ぎ込まれます。消費税は社会保障のために使うという建前と裏腹に、むしろ地域医療の利便性を壊しかねない構想に使われることに筆者は反対です。
 
◆兵庫県見習い、広島市各区に非常時に対応しやすい公営病院を

もちろん、もうJR西日本から予定地を購入する債務負担行為を県は起こして議会の議決も経てはいます。ただ、例えば、JR広島病院をそのまま県の直営病院にすると言う手もあります。兵庫県では阪神淡路大震災の教訓から、公的病院の再編に当たっては、再編後の病院は基本的には県立病院としています。

それこそ、JR広島病院をそのまま県立病院にしてしまうという手もある。中電病院についても同様です。例えば、能登半島大震災や阪神淡路大震災のような大震災が広島で起きる可能性は低くありません。その場合は、川の中州で構成されている広島は分断されかねないのです。各区に非常に対応しやすい公営病院があった方がよいと考えます。

◆『湯崎病院』構想は白紙から見直し、県民的議論を踏まえた医療行政を

『湯崎』病院構想は『詰み』つつある。いまこそ、白紙から見直すべきです。その上で、県は、県民的な議論を踏まえ、今後の医療の在り方をつくっていくべきです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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大阪・関西万博開催まで三か月を切り、維新は「機運」を「醸成」しろと言うが…… 尾﨑美代子

◆年末の紅白でも全く取り上げられなかった国家プロジェクト

4月13日の万博開催まで三か月を切ったが全く盛り上がらない。先日関東在住の方とZOOM会議を行った際「万博っていつからですか?」と聞かれた。今日は京都在住の方からも同じことを聞かれた。国家プロジェクトなのに、年末の紅白でも全く取り上げられなかった。

なんというか、この状態、全校生徒からシカトされている、超いじめ状態にあっているようなもの。虐めは虐められる側にも問題があるという人がいるが、私は確実に虐める側に問題があると思う。

しかし万博に関しては、このご時世に万博やろうとブチ挙げた維新の会に大いに問題があると考える。チケットは全く売れてない。企業が買った(買わされた)分が、そのうち大安売りで出てくるだろう。

維新のやることは全てそうだ。大阪城公園の樹木をバッサバッサと切り倒して作られた劇場「KEREN」が開演するとき、ある人から「吉本のお偉いさんに怒られるのでチケット、ただで貰って」とメールがきたね。

新今宮駅北側に星野リゾートが開業したと同時に高架下に造られた「新今宮屋台村」、当初は営業していたが今は閉まったまま。地元で有名なホルモン屋を立ち退かせてまで作った割にはどうなってるんだ。ていうか、カラ家賃、今誰が払ってるんだ。

◆40億円近くかけた「機運醸成キャンペーン」の愚

万博が全く盛り上がらないなか、焦った連中が始めたのが40億円近くかけた「機運醸成(きうんじょうせい)キャンペーン」。昭和どころか、大正、明治なおっさんらがひねり出したこのネーミング。「三者凡退」の世界だな。若い連中で「おっさん、あっすみません。部長、こんなネーミング、ダメダメですよ」という人がいなかったのか?それが一番怖い。こんなネーミングで機運が醸成するかよ! 

「今回はだめだけど、70年万博は良かったね」という声もあるが、そうだろうか。私の住む釜ヶ崎は、先の70年大阪万博開催のため、労働者を大量に集めるために作られた地域だ。釜ヶ崎の研究を続ける原口剛さん(神戸大准教授)によれば、70年万博の工事では、尻無川水門事故で11名が生き埋め死亡、会場造成工事で17人が死亡、開幕後の地下鉄天神橋筋六丁目の建設工事で、ガス爆発で79名死亡、420名重軽傷の犠牲を出すなど、多くの労働者が犠牲になっている。

◆「カジノで儲けて福祉に回す」

工事が遅れに遅れ、開演時に完成してるパビリオンはわずか3ケ国だという。今後突貫工事が必至だろうが、そんな工事現場でさらに犠牲者は増えるだろう。わずか184日間(4月13日~10月13日)の万博のために、多くの労働者が犠牲になり、私たち府民・市民が赤字を背負う羽目になる万博にはやる意味があるのか? しかも、万博開催のために、昨年12月1日、釜ヶ崎のセンター周辺に野宿する人たちがいきなり強制排除された。釜ヶ崎からこそ万博に反対していかなくてはならない。なのに、仲間と作った万博反対のチラシを、釜ヶ崎の越冬闘争の現場で多くのちに読んでもらおうとまいたら、「(公園の)外でまけ」とどやされたそうだ。なぜ?

万博開催の目的は、そのあとに予定するIR・カジノをやるためだ。カジノ(ばくち場)建設のために道路や鉄道を整備の整備費用に税金を使ったら、さすがにまずいと考えた維新は、まずはその前の万博のために道路や鉄道を整備しましたと口実につかった。

元市長の松井は「カジノで儲けて福祉に回す」とのたまった。「父ちゃん、ボートで取ったら、お前らに美味しいモノ食わせてやっからよ」の世界だ。「父ちゃん、住ノ江(ボート)行くのやめて、今日の夕飯のコメ買って」と父ちゃんの足元に縋りつくところだろうよ。

吉村、松井よ! 生活保護のおっちゃんらが月末頼りにしていた激安スーパー玉出のひと玉19円のうどんもなくなったんだぞ。万博、IR・カジノにつぎ込む金は、いますぐ生活に困窮した人たちの生活費用に回せ!

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』(鹿砦社)
尾﨑美代子著『日本の冤罪』(鹿砦社)
https://www.kaminobakudan.com/
タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2025年2月号

◎Yodobashi.com https://www.yodobashi.com/product/100000009004001320/ ◎Rakuten books https://books.rakuten.co.jp/rb/18082281/

【新刊のご案内】『LGBT問題 混乱と対立を超えるために』女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会=編著

LGBT思想の本質とは何か?
社会が安易に受け入れることに問題はないのか?
対話と議論のための、当事者・研究者・専門家による20篇!

A5判 総164ページ(巻頭カラー4ページ+本文160ページ)
定価990円(税込み) 1月28日発売!

『LGBT問題 混乱と対立を超えるために』女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会=編著 定価990円(税込み)

1:「心は女性」を支持する人々へ 織田道子
2:私の講演会はLGBT活動家としばき隊につぶされた 森奈津子
3:キャンセル・カルチャー事例集 井上恵子
4:50人の小説家を巻き込んだ、芥川賞作家による個人情報拡散騒動 斉藤佳苗
5:脅かされる女性・子どもの安全と言論の自由 台湾からの寄稿文
6:私はなぜ「シス」という言葉を使わないのか 千田有紀
7:LGBT問題をめぐる日本の歴史と現状のまとめ 斉藤佳苗
8:女性スペースを守る法律を 滝本太郎
9:少女たちの乳房切除を日本は止められるのか? 森奈津子
10:兵庫県知事選挙とLGBTアライ 繁内幸治
11:LGBT活動家の背後に存在する大富豪たち 斉藤佳苗
12:LGBTQ運動と生殖補助医療の不穏な関係 野神和音
13:私の彼女はトランス女性 山田響子
14:LGBTQSの時代──生得的異性限定の性的指向・スーパーストレート 三浦俊彦
15:「男性」になる、ということ 浅利進
16:性暴力被害者へのグルーミング 郡司真子
17:トランス支援活動評価のための課題:用語集の形で 三浦俊彦
18:性の多様性と社会の在り方 井上恵子
19:書評『LGBT問題を考える』 細川亙
20:書評『マテリアル・ガールズ』 三浦俊彦

◎紀伊国屋書店 https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-04-4910027200252

◎yodobashi.com https://www.yodobashi.com/product/100000009004080049/

阪神・淡路大震災から30年──年月の渇きの中で 鹿砦社代表 松岡利康(被災地西宮在住)

1995年1.17の阪神・淡路大震災から30年が経った。光陰矢の如しで、あっというまだった。このかん私たちは何をしてきたのだろうか。真に復旧・復興は成ったのか? 見かけの復旧・復興は成ったかもしれないが、私たちの精神の奥深くの復旧・復興はどうか? 私は、亡くなった6432人の方々に恥じない生き方をしてきたのか、汗顔ものだ。

1995年1.17、当時私は兵庫県西宮市に住んでいた(今も住んでいる)。運命の午前5時46分、当時住んでいたマンションにドカンという衝撃があった。てっきりダンプカーがマンションにぶつかったものと思った。その後、被害の甚大さが判明するが、その衝撃の直後、新聞が投函された(新聞配達の方のその時の様子は想像できないが、いまだに不思議)。

本日1.17には、ここ兵庫、とりわけ阪神間では、いろいろなイベントがあるという。それはそれでいいだろうが、見かけの復旧・復興で取り残された人たちがいることを忘れてはならない。震災後建てられた無機質なコンクリートのビルや復興住宅で、それまであった地域の人々の交流がなくなり孤独死も多くあったという。ハコ物の建物を建てればよしとする行政の復興策は、はたして良かったのか? 

◆被災地・西宮の被害の甚大さを知って欲しい!

阪神・淡路大震災での死者数は全体で6432人、うち兵庫県6402人で、残り僅かが大阪と京都で、死者のほとんどは兵庫県だ。兵庫県では、神戸市が4564人、次いで私が住む西宮市が1126人、隣の芦屋市443人、宝塚市117人となっている。神戸市は範囲が広いので多いのは当たり前といえば当たり前だが、西宮市が1100人以上の死者数だということは、さほど知られていない。熊本地震が277人というから実に4倍近くに及ぶというのに、だ。それほど、西宮は地味な街なのだろう。ちなみに、そのこともそうだが、関西以外の人で甲子園球場が西宮にあることを知っている人も少ない。大阪のイメージが強いようだ。

西宮の公園という公園には長い期間仮設住宅があったことが記憶に蘇る。甲子園球場でプロ野球や高校野球のこだまする時でも、近くの公園において仮設住宅でつましく暮らす人々がいる異様な風景。私は折に触れて、ファックス通信「鹿砦社通信」(現「デジタル鹿砦社通信」)で批判してきた。西宮の公園から仮設住宅がなくなった時、復旧・復興が成るものと思っていたが、実際には仮設住宅がなくなっても復旧・復興は成らなかった。

その年の暮れ、全壊したビルを慌ただしく再建し(西宮市の建築許可第一号という)、そのビルに入ることができた。瓦礫を運ぶ車も日々行き来した。長い間、それを眺めながら過ごした。

東京の取次や出版関係者らが心配して電話してくれた。なかなかつながらず、「マツオカもいよいよ終わりやな」と不謹慎なことがささやかれたようだ。この10年後も同じようなことを言われた。

こういう時に強いのが私の真骨頂、不謹慎な物言いだが、「地震(じしん)で自信(じしん)をつけた」などとうそぶいたこともあった。

混乱した当地で鬱々としていても始まらない。活路を東京に求め文京区音羽、鳩山邸の崖の下に5坪の小さな事務所を借りて東京支社を設置した(会社としては、創業地は東京なので、出戻ったというのが正確)。

ちょうどこの頃を境に、私たちの出版社は、いわゆる〈スキャンダリズム〉、俗にいう「暴露本出版社」に本格的に舵を切り、取次会社のデータでは前年比「999.9%」(正確に言うと伸び率が大き過ぎてこういう数値になったものと思われる)の伸び率だったという。この意味でも、私たちにとって阪神・淡路大震災は、大きなターニング・ポイントだったといえよう。

鹿砦社と松岡の新たな歴史が始まった。──

◆当時感動した歌、『TOMORROW』と『心の糸』

阪神・淡路大震災では人々を勇気づける音楽も流れた。記憶に強く残っているのは岡本真夜の『TOMORROW』と、「阪神・淡路AID SONG」と銘打ち、香西かおり・伍代夏子・坂本冬美・長山洋子・藤あや子らレコード会社や事務所の垣根を越えて当代の若手演歌歌手5人が歌った『心の糸』だろう。

『TOMORROW』と『心の糸』

『TOMORROW』は、新人のシンガーソングライターの岡本真夜が彗星のように現れ、瓦礫の中から日々流れたことを思い出す。

「♪ 涙の数だけ強くなれるよ
アスファルトに咲く花のように
見るものすべてに おびえないで
明日は来るよ 君のために」

若いのに凄い歌詞を書くものだと思った。実際に、多くの人々の心を打ち出荷枚数200万枚超(実売約180万枚)で大ヒット、この年のNHK紅白歌合戦にも出場を果たしている。

一方、『心の糸』は公式チャリティソングとして1.17からさほど日が経たない同年4月26日に発売された。「震災ソング」としては、その後、当地の教師が作詞・作曲した『しあわせ運べるように』が作られ、こちらが有名になり定着した。最近では神戸市の公式市歌に選定されているとのことだが、私にとっては『心の糸』だ。

しかし、地元の人でもさほど知らないように(例えば、クールファイブの『そして、神戸』は誰もが知っているが、サザンクロスというグループが歌う『三宮ブルース』は地元の人でもほとんど知らないのと同じケースだ)、これだけ有名歌手を揃えていながら『心の糸』はまったく忘れられてしまった。悲劇の曲だ。アマのほうがプロに勝った格好のケースといえよう。なんとかならなかったのか。本来なら、その年の紅白歌合戦での前川清『そして、神戸』、昨年の石川さゆり『能登半島』のように、紅白歌合戦でみなで歌ってもいいような歌だった、と私は思う。私は毎日社歌のようにラジカセで流していた。──

「♪ そして陽が昇り 朝の幕があく
昨日までの悲しみ 洗い流すように
覚えてて あなた 私がここにいることを
忘れないで あなた 歩いた道のほとり
心の糸を たどりながら
過ぎし日を重ねてみたい
心の糸を 手さぐりながら
夢の続き 捜していたい

時を巻き戻すことが出来たなら
涙なんかみせずに生きてこれたけれど
ありふれた日々を送れることのしあわせを
まぶた閉じてひとり 今更ながら思う
心の糸をほどかないで
この街を捨てて行けない
心の糸を 結び直して
うつむかずに歩いて行くわ

心の糸をほどかないで
この街を捨てて行けない
心の糸を結び直して
うつむかずに歩いて行くわ」

詞の一字一句が心に沁みる。
「時を巻き戻すことが出来たなら
涙なんかみせずに生きてこれたけれど
ありふれた日々を送れることのしあわせを
まぶた閉じてひとり 今更ながら思う」

全くその通りだ。

30年以上前に「時を巻き戻すこ」とはできないけれど、「心の糸を結び直してうつむかずに歩いて行く」ことはできる。次の30年は、おそらく生きていないけれど、残りの人生、もう一度「心の糸を結び直してうつむかずに歩いて行く」ことを、いろんな人に迷惑をかけ愚鈍に生きてきた私だが、震災30年に際し、バカはバカなりに、あらためて決意した次第である。


◎[参考動画]心の糸

鹿砦社が発行した一連の震災関連出版物
鹿砦社が発行した一連の震災関連出版物
鹿砦社が発行した一連の震災関連出版物
鹿砦社が発行した一連の震災関連出版物
折に触れて書いた震災関係の「鹿砦社通信」の記事(『紙の爆弾 縮刷版・鹿砦社通信』に収録)
折に触れて書いた震災関係の「鹿砦社通信」の記事(『紙の爆弾 縮刷版・鹿砦社通信』に収録)
折に触れて書いた震災関係の「鹿砦社通信」の記事(『紙の爆弾 縮刷版・鹿砦社通信』に収録)

斎藤元彦・兵庫県知事の「SNS軍師」折田楓社長の広島県事業受託を巡る問題 さとうしゅういち

2024年11月17日執行の出直し兵庫県知事選挙。当初は劣勢を伝えられた斎藤元彦知事による「大逆転裁判」をもたらした『SNS戦略』の『軍師』を務めたのが西宮市内のPR会社、(株)merchuの折田楓社長でした。

大学教授や弁護士らが斎藤知事と折田社長を公職選挙法違反(買収)の容疑で刑事告発。兵庫県警が受理し、現在捜査中です。

さて、その折田社長ですが、広島県や広島市の広報支援事業も受託していました。この度、広島瀬戸内新聞のH記者(広島市在住)が情報公開請求を行い、広島県とmerchuの契約関連書類など一式を1月10日、入手しました。

その書類によると、折田社長は、2022年度から3年連続で、広島県の公式イスタグラムと公式Xの発信を支援視する事業を年間1,305万4,800円(消費税込み)で受託しています。

なぜか、折田社長側の印鑑は黒塗りで公開されています。ちなみに、お名前が西村楓となっているのは、戸籍上のお名前なのでしょう。

さて、問題の仕事の中身ですが、主にはInstagramでは、県民及び、広島県に興味を持つ20-40代女性を主なターゲット。Xは20-50代の県民を主なターゲットとしています。

インスタグラムが広島県の魅力を伝えるのに対して、Xについては、有事の際に緊急情報をリアルタイムで伝えられるようにする、というわけです。

ここまではわかります。ただ、この程度の内容のことが、年間1300万円かけることなのか?はなはだ疑問です。

H記者が、似たような事業を手掛ける県内の類似業者に取材したところ、『月30万円~50万円が相場』ということです。

もちろん、兵庫からわざわざ、折田社長たちに交通費をかけて写真の撮影などに来てもらえば高くつきます。しかし、それなら、最初から、県内の業者にやってもらうか、あるいは、SNS関係に詳しい若手の女性職員などに思い切って任せればよいのではないでしょうか?

湯崎英彦知事(在任2009年~)になって目立つのは、やたら、外部の煌びやかなコンサルタントなどに頼む傾向が強くなっていることです。確かに、昔の藤田雄山前知事の時代には、他都道府県の先進的なものを取り入れる姿勢もみられなかったように記憶しています。それはそれで問題でしたが、湯崎県政は湯崎県政で県庁内部や地元で地道にやってこられた人や企業にとって『面白くない』状態になっているのではないか?

その結果として、県全体の総合力が発揮できていないのではないか?

折田社長には、一年目だけお願いし、あとは若手のやる気のある女性職員にでも引き継いだらよかったのではないか? その方が、広島県庁で地域のために頑張っていこうという人にとってもやる気が出るのではないか?

筆者は、元県庁職員としてそのように考える次第です。そろそろ、広島県政の路線転換が必要だ。

筆者は、この問題について、折田社長が悪く申し上げるつもりはありません。こういう事業をさせたのは湯崎英彦知事ですから。広島県政として、あまりにも外部重視にした結果、地元人材・企業が面白くなく、人口流出にもつながっているのではないか?そのことを問うているのです。

ただ、折田社長は、2024年12月以降、マスコミとも連絡が取れていないという。広島県との委託し要所によると、毎月10日ごろに、県からSNSのアクセス状況の報告を受け、折田社長側が専門家としての見地からそれをブラッシュアップして20日ころまで回答することになっている。それができていないのです。

下手をすると、2024年12月、25年1月、2月、3月の仕事ができていない恐れがある。そうなると、返金も含めた問題の処理が必要になるのではないか?

筆者は今後ともH記者とともに、この問題について取材を続けます。また、広島県、湯崎英彦知事の県政の在り方、すなわち、県内よりも県外企業を向いたあり方を厳しく問うていきます。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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