《ウィークリー理央眼028》秋山理央写真集『ANTIFA』遂に発売!

自身初の単行本『秋山理央写真集 ANTIFA ヘイト・スピーチとの闘い 路上の記録』が、11月21日に発売になった。是非お近くの書店で購入して欲しい。


『秋山理央写真集 ANTIFA ヘイト・スピーチとの闘い 路上の記録』
写真=秋山理央 文=朴順梨 発行=鹿砦社
定価1944円(本体1800円)

もともとジャーナリズムに興味があったわけでもなく、何の志も持たないカメラマンである私はただただ「今の日本」を記録することだけに専念してきた。

3.11以降、福島原発事故に端を発した反原発デモが日本各地で頻発していたにも関わらず、大手メディアはなかなか取り上げなかった。もちろん様々な理由があって、それはある意味で仕方がないことだった。
「ならば自分でやってやろう」と、2011年6月から反原発のデモにカメラを向け徹底的に記録することにした。こんなにもデモが起こっているのに報道が少な過ぎるのは不自然だと思ったからだ。
当時は、あるいは今でもそうかもしれないが、デモはハードルが高く特殊な行為という感覚が強かった。私もその感覚を持っていた一人だったが、考えてみると私たち市民にとって一番身近な主張の場はデモだった。

次の行動に繋げてもらう為にも、明確な「原発反対」の立場の自分が一つのメディアとなり、人々の消えていくはずだった想いを記録し残すことにした。デモのマイナス・イメージを払拭し、デモ文化を根付かせようと心に決めたのだ。
現在でもほぼ全ての土日は取材に出掛け、年間100?150回程度の撮影を続けられている理由はそこにあるのかもしれない。

デモや抗議を行なう人々を撮り始めて4年半、反原発から反レイシズム、反安保法制を訴える路上の姿を追い続けて、遂に写真集が世に出ることとなった。正直なところ、出版が決まっても感動があったわけではなかった。月刊誌と季刊誌での連載を抱え、本・新聞・テレビ・その他に多数の写真や映像を提供していたので、本が出るからと言って特別な感情が沸き起こりはしなかった。…現物を手にするまでは。
制作の過程で見ることができたのは印刷見本のみで、きちんと製本されている完成状態のものがなく、出版の素人の私には想像が全くできていなかった。しかし、写真集の現物を手にしてみると、紙も印刷も良くて驚いた。質感も良かったし、重量感があって、「絶対に買って損はしない!値段以上の価値がある本だ!」と仲良くしている友達にメールしてしまった。自分が撮って選んだ写真なのに、だ。

この写真集には、2013年3月31日?2015年10月4日までの期間、12都道府県と韓国・ソウルの路上で行なわれた41の反レイシズム行動の写真140点が時系列に沿って収録されている。時が進むにつれて、路上でのヘイト・スピーチとの闘いが広がりを見せていくことを感じる事ができるはずだ。
今回、掲載写真にはキャプションはあえて付けず、記すのは日付と撮影場所だけにした。彼女自身がヘイト・スピーチの被害者でもあるライターの朴順梨さんに寄せてもらった文章に心を揺さぶる力を感じたので、写真ページはビジュアルに特化し「写真集」としての完成度を重視した。言葉は彼女に任せ、私の想いは全て『ANTIFA(アンチ・ファシズム)』と冠したタイトルに込めた。

ヘイト・スピーチに抗議するカウンターは広く理解され、多数の支持を得る必要はないのかもしれない。そもそも差別が無ければ不要の存在なのだから。しかし、カウンターをするしかない状況は今でも変わらず存在している。
私はこれからも記録者として、路上の事象を写し取っていくつもりだ。

▼秋山理央(あきやま りお)
1984年、神奈川県生まれ。映像ディレクター/フォトジャーナリスト。
ウェブCM制作会社で働く傍ら、年間100回以上全国各地のデモや抗議を撮影している現場の鬼。
人々の様々な抗議の様子を伝える写真ルポ「理央眼」を『紙の爆弾』(鹿砦社)で、
全国の反原発デモを撮影したフォトエッセイ「ALL STOOD STILL」を『NO NUKES voice』(鹿砦社)にて連載中。
11月21日には全国の路上でヘイト・スピーチと闘うカウンターの姿を追った初写真集『ANTIFA アンティファ ヘイト・スピーチとの闘い 路上の記録』(鹿砦社)が全国書店にて発売決定!

《ウィークリー理央眼》
◎《027》戦争法案に反対する若者たち VOL.21 金沢
◎《026》戦争法案に反対する若者たち VOL.20 新宿
◎《025》戦争法案に反対する若者たち VOL.19 川越
◎《024》戦争法案に反対する若者たち VOL.18 郡山
◎《023》戦争法案に反対する若者たち VOL.17 弘前

 

大塚隼人が引退し、ムエタイ王者がリングに上がった11.15「Kick Insist 5」

今年の新日本キックボクシング協会は、年間11回興行があり、興行はジム持ち回りですが、後楽園ホールだけで8回、定期興行において各チャンピオンが随時出場する安定した団体です。興行のひとつを受け持つビクトリージムは共催ながらリーダーシップを持って年1回のディファ有明で興行を打ち、「Kick Insist」という興行タイトルで東日本大震災復興チャリティーイベントとしての5年目を迎え、そのスケールも年を重ねる毎に大きくなってきました。
Kick Insist 5 / 11月15日(日)16:00~20:25(主催:ビクトリージム、治政館ジム / 認定:新日本キックボクシング協会)

◆元・日本ウェルター級1位の大塚隼人引退式

今回のイベントのひとつは、元・日本ウェルター級1位の大塚隼人(ビクトリー)が引退式を行ないました。2012年10月、当時の日本ウェルター級チャンピオン、緑川創(目黒藤本)に挑戦も3-0の判定負け。その緑川創選手が今回快くエキシビジョンマッチの相手となって対戦に応じてくれました。

大塚は試合から遠ざかり、“太った”という言い方は正しいとは言えませんが、ドッシリとした体格に変貌。悔いなくお互いが激しく打ち合いました。引退式は興行を開催するジム会長との信頼関係が伺える、最後の勇姿を披露させて頂けるリング。大塚は協会役員に囲まれ、伊原信一協会代表から労いの言葉を受けたセレモニーの後、引退テンカウントゴングを聴きました。

大塚隼人テンカウントゴング

大塚隼人もビクトリージム坂戸支部を任される立場となって第2の人生を歩み出しています。王座挑戦は2度。2014年7月には、緑川創が返上して王座決定戦となって、同級2位の渡辺健司(伊原稲城)に2-1接戦の判定負け。恵まれた環境で、入門からタイトル挑戦まで育ててくれた八木沼広政会長への恩返しを果たすため「絶対チャンピオンになります」と言って挑んだいずれの試合も敗れ去ってしまいました。

しかし、2010年6月には日本人キラーだった元ラジャダムナン系スーパーライト級チャンピオンのガンスワン・Bewell(タイ)をパンチでグラつかせると一気にノックアウト勝利し、2012年2月には過去にKO負けを喫した相手、元ラジャダムナン系ライト級チャンピオンのソーンラム・ソー・ウドムソン(タイ)に狙ったカウンターヒジ打ちで切ってリベンジTKO勝利。チャンピオンにはなれませんでしたが、これを超えなければ世界に行けないという“日本人の壁”となって立ちはだかったムエタイボクサー2人に貴重な勝利を挙げている大塚隼人選手でした。

大塚隼人EX緑川創

そんな中、日本人の壁の向こうにある本場の試合を披露しようと、ビクトリージムの八木沼会長が、頻繁にタイ国のムエタイジムを回り、選手を選抜して招聘された今回のビッグカードが実現。

◆メインイベント56.0kg契約5回戦

タイ国ルンピニー系バンタム級チャンピオン=クワンペット・ソー・スワンパッディー(タイ/56.0kg)
VS
タイ国ムエスポーツ(プロムエタイ)協会バンタム級9位=ペップンソーン・ペッチンダー(タイ/55.4kg)

勝者:クワンペット・ソー・スワンパッディー / TKO 5R 1:44 / 主審.ノッパデーソン・チューワタナ(タイ)

現役ルンピニー系バンタム級チャンピオン.クワンペット

一流ムエタイボクサーの簡単には崩れないバランスいい体幹と技。その関節柔らかい蹴りの躍動感が美しく、ムエタイの神秘さが冴え渡ります。序盤は静かな展開から、ややクワンペットが好戦的に、日本人でもわかりやすいパンチと蹴りで次第に優勢に進めている印象。第4ラウンドには攻めの圧力が増していき、その勢い維持したまま第5ラウンド途中、レフェリーが突然試合を止め、クワンペットのTKO勝利を宣言。攻防の差がつき、ペップンソーンの勝ち目は無いと判断されてのストップ。日本では相当の劣勢にならないと止めず、ダメージが深くなければ最後までやらせるのが普通でしょう。タイでは実力均衡する対戦が多く、接戦を展開し、ギャンブラーを唸らせる試合が圧倒的ですが、“接戦”という範疇から外れ、試合を止めてしまう展開も珍しいことではないようです。「何で止めたのだろう」という疑問も残りつつ、タイからのレフェリーに対する抗議も無く、堂々としたレフェリー裁定に貫禄すら感じた観客の様子でした。

◆セミファイナル63.0kg契約3回戦

WKBA世界スーパーフェザー級チャンピオン=蘇我英樹(市原/62.8kg)
VS
元・ラジャダムナン系フェザー級6位=セーンアティット・ワイズデー(タイ/62.4kg)

勝者:セーンアティット・ワイズデー / TKO 3R 2:24 / 主審.桜井一秀

レフェリーが止めた後も諦めない蘇我英樹

5年連続のKick Insistに出場し、激戦を繰り広げる蘇我英樹は、第3ラウンドにヒジで切られてTKO負け。セーンアティットが一枚上手な蹴りと、蘇我の攻めを見透かす中、諦めない捨て身の攻めはいつもの蘇我。5月に爆椀・大月晴明に劣勢に立たされるも、倒すか倒されるかの好ファイトを展開して判定で敗れ、8月には元・ラジャダムナン系スーパーバンタム級チャンピオンのペッシーニ・ソー・シリラットにも激戦の末判定で敗れましたが、ムエタイ第一線級の倒しに来るタイプとの対戦を好む試合ばかり。激戦の末、倒して勝つことも多く人気を誇るが、現在はこれで3連敗と今後の巻き返しロードの展開が注目されます。

◆55.0kg契約3回戦

日本バンタム級チャンピオン=瀧澤博人(ビクトリー/55.0kg) VS チャンプアレック・ゲッソンリット(タイ/55.2kg)

勝者:瀧澤博人 / 3-0 (主審.椎名利一 / 副審.仲 30-27. 桜井 30-26. 和田 30-28)

瀧澤博人は200グラムオーバーで来たチャンプアレックに危なげない圧倒。来年1月には世界へ向けたビッグマッチが予定されます。

◆52.0kg契約3回戦

日本フライ級チャンピオン=麗也(高松麗也/治政館/51.8kg) VS クックリット・ゲッソンリット(タイ/54.0kg)

勝者:麗也 / 3-0 (主審.仲俊光 / 副審.椎名 30-27. 桜井 30-26. 和田 30-27)

麗也は2kgオーバーで来るクックリット・ゲッソンリットにパンチでダウン奪って判定勝利。倒しきれなかったことに不満の表情ではありましたが、2kgオーバー相手に圧勝。

ビクトリージムから出場した選手は6名で2勝3敗1分。ランカー以下は負けが多かったようですが、日本フェザー級3位.石原将伍(ビクトリー)は元・ルンピニー系フェザー級チャンピオンのナコンレック・エスジム(タイ)にKO寸前の計3度ダウン奪うも、ナコンレックも強いパンチで油断ならない捨て身の反撃あって大差判定勝ち。瀧澤博人と共に2人が勝利を挙げました。日本vsタイ国際戦としては3勝1敗でした。

◆『CHACHACHA』『LAMBADA』の石井明美さんがミニコンサート

休憩の合間にもうひとつのイベント、石井明美さんのミニコンサートで過去ヒット曲の『CHACHACHA』と『LAMBADA』を唄いました。テンポのいい曲とまたちょっと懐かしい曲に休憩時間ながら、観衆も聴き入っている人が多く、終わった後も拍手がたくさん鳴り響いていました。

「昔から、お父さんがキックボクシングを見ていて、テレビでは(私も)観ることあったんですが、こうやって実際にまさか自分がリングの中で唄えるとは。どのようなタイムテーブルになるのかなと見てみたら、唄う場所は“リングの中”と聞いてから気分が高まっています。」という石井明美さんでした。現在もテレビには昔ほど頻繁ではないですが、歌番組に出演されているようです。

石井明美さん初のキックのリングでミニコンサート

今年最後の興行は、12月13日(日)に後楽園ホールでの目黒藤本ジム主催興行、日本ライト級チャンピオン.勝次(目黒藤本)の初防衛戦、3位.春樹(横須賀太賀)の挑戦を受けます。先日のNO KICK NO LIFEで黒田アキヒロ(フォルティス渋谷)に逆転負けを喫した勝次のメンタル面と技術の建て直しがどういう展開に持っていくか興味ある一戦となります。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない。」

◎キック新時代を牽引するRIKIXジムの「NO KICK NO LIFE」
◎ルール変更の紆余曲折から辿る日本キックボクシング界の栄枯盛衰クロニクル
◎新日本キック「MAGNUM39」──トップ選手のビッグマッチと若いチャンピオンたち

タブーなき総力取材!「脱原発」×「反戦」の共同戦線雑誌
『NO NUKES voice(ノーニュークスヴォイス)』第6号
11月25日発売!

「年末ジャンボ」狂騒曲!所ジョージ、米倉涼子、原田泰造らが銀座に現る

一攫千金を! 宝くじの当選欲に飢えた人々が銀座に集結。11月25日、「年末ジャンボ宝くじ」の販売初日とあって、すでに朝6時から300人を超える人が今か今かと「西銀座チャンスセンター」の前で「年末ジャンボ宝くじ」の発売を待っていた。

そんな中、普通の芸能人、またそれを取材するスタッフならまず寝ている午前8時40分から「西銀座 チャンスセンター」前で「年末ジャンボ宝くじ&年末ジャンボミニ7000万記念イベント」なるイベントが開催。所ジョージ、米倉涼子、原田泰造ら「宝くじCM」に出ているメンツが集まり、1等賞金が7億円、前後賞が各1億5000万円ということで、「10億円分の札束を積み上げたツリー」の前で「もし1億円当たったらどうするか」をテーマにMCを展開するという、必死に並んでいる客からすればなんともむかつく〝ちゃらいイベント〟が行われていた。


カメラ約50台がひしめくなかで、「もし10億円が当たったら」というテーマでトークは進む。米倉涼子が「セレブ留学」、原田泰造が「サウナ経営」、所ジョージが「世田谷のガレージを改造する」というなんのひねりもない答えをフリップに書 いて、スタッフだけの乾いた笑いと拍手が、雨模様の空にむなしく響いていた。

所ジョージが「俺のところなんか朝着いたとたん、連れてきたスタッフがいつのまにかいないと思ったら、宝くじをいつのまにか買いに言っていたよ」などと購入を誘導するような台詞を吐けば、女性MCが原田に「どこで宝くじを買う予定ですか」と聞くと「あちこちで買います。今日もマネージャーにここで(西銀座チャンスセンター)で買いに行ってもらいましたけど」と暗に購入を勧めれば、米倉も「ぜひ年末ジャンボ宝くじを買ってこのツリーを一度、自宅で見てみたいです」とまるで街中で「年末ジャンボ」のコマーシャル撮りが行われているのではないか、というわざとらしさだ。


米倉たちは、札束のツリーを目の前に奪い合うようなポーズをしてお茶目なフォトセッションになっていたが、実はスタッフが「撮影禁止」という札を持って立ったポイント(パーティションで仕切られていた)の裏では売り場があり、客がタレントたちをうらめしそうに見ていた。

「この仕切り線が天国と地獄を分けているよな。何が夢の10億円だよ。3人あわせれば10億円くらいありそうなメンバーだよな」とサラリーマン風の中年男性が友人とおぼしき若い男につぶやいていた。囲み取材では、米倉が私生活のことを聞かれるのを避けたためか、原田と所だけがインタビュアに対応し、シナリオありきのやりとりをこなした。

「まあ、庶民と金持ちタレントの差がクリアになったイベントだったな」と見物客。イベント終わりで大粒の雨が落ちてきて、濡れながら長蛇の列を作る客たちがまるでこの「年末ジャンボ」狂騒曲に踊らされたようにも見えた。

▼ハイセーヤスダ(編集者&ライター)
テレビ製作会社、編集プロダクション、出版社勤務を経て、現在に至る。週刊誌のデータマン、コンテンツ制作、著述業、落語の原作、官能小説、AV寸評、広告製作とマルチに活躍。座右の銘は「思いたったが吉日」。格闘技通信ブログ「拳論!」の管理人。
◎愛国的な韓国人や日本のネトウヨが卒倒しそうな韓国艦「テ・ジョヨン」の姿
◎美しきムエタイ女子リカ・トングライセーンのど根性ファイトに大喝采!
◎川崎中1殺害事件の基層──関東連合を彷彿させる首都圏郊外「半グレ」文化

「脱原発」×「反戦」の共同戦線雑誌 『NO NUKES voice』第6号が11月25日発売開始!

 

第3回を迎え、ANTIFAのパレード/デモとなった「東京大行進」

JR新宿駅の南口改札付近は今から約3年前に、演説中の在特会関係者が、「うるさい」と抗議をした老人を暴行した場所である。しかし今日はその前を、「差別をやめよう! 一緒に生きよう!」というコールと「SAY NO TO RACISM」などのプラカードを掲げた一団が、笑顔で通り過ぎていった。
11月22日、パレード『東京大行進2015』が、新宿の中央公園を起点に約4キロに渡って開催された。東京大行進は「差別を許さない。一緒に生きよう」をテーマに、2013年9月から始まった。人種や国籍、ジェンダーその他の偏見に基づくすべての形態の差別に反対するためのもので、今年で3回目を迎える。今回は4つのフロート(梯団)が登場し、それぞれ「I AM THE BEST ?? ?? ? ??」「人種差別撤廃推進施策法案のすみやかな成立を!」「ファシズムを許さない」「Refugees Welcome! Bring The Noise, Tokyo 難民ウェルカム! 騒げ東京!」とテーマを掲げ、音楽やスピーチなどで盛り上げていた。

フロートはそれぞれに違ったカラーを持ち、道行く人達の目を引いていたが、なかでも注目されていたのは「ファシズムを許さない」若者による第3フロート、「YOUTH AGAINST FASCISM」(Y.A.F)だろう。SEALDsが参加し、「憲法守れ!」「安倍は辞めろ!」「民主主義ってなんだ?」の、おなじみのコールを繰り返していたからだ。メンバーの何人かは過去2回の行進にも参加していたが、フロートとして参加したのはこれが初めてになる。アップテンポで新宿を軽やかに駆け抜ける姿に、「SEALDsだ!」などの声が沿道からあがっていた。

しかし同時に、
「彼らは、差別反対って言わないんだ……」
という声も聞こえてきた。そして一部参加者からも「ワシントン大行進へのリスペクトから始まっているのだから、差別反対に絞った方がよいのではないか」「政権批判は、主張がぶれている気がする」などの意見が、パレード終了後にあがっていた。
なぜ差別反対で始まったにも関わらず、政権批判を盛り込んだのか。それに対して、実行委員代表の西村直矢さんは言う。
「これは東京大行進2015がANTIFA(アンチ・ファシズム)のパレード/デモでもあり、現政権が排外主義を内包する極右である以上、反安倍政権の主張が出現するのは必然だと私は考えています。そしてすべての参加者に通底するのは、自らの社会を自ら正し守るというポジティブな意識ではないでしょうか」と。つまり現政権が右傾化にかじを切り続けている以上、その存在を許容していては差別問題も解決には至らない。あらゆる差別に反対するなら、政治の在り方そのものを変えなくては、道が開けないのかもしれない。
そしてもうひとつ、これは私自身も被差別当事者として残念に感じてやまないのだが、今の日本には、差別問題に対して憤りや関心が向かないマジョリティが多数存在する。そんな彼らにいくら「差別はいけないことだ」と訴えても、なかなか響かない。しかし自身の生活と密接している政治についてなら、関心や怒りを持つ人の数はぐんと増える。自分事への関心をきっかけに、日本で起きているレイシズムにも目を向けてもらえたらと、個人的には思う。
「すべての被差別者や支援者が連帯することは、1人が100歩進むのではなく、100人で1歩前に踏み出せることになる。より広い連帯のなかで、在日が抱える差別問題を問い直して行動すれば、運動の幅も広がっていくと思う」
これは今年もパレードに参加していた、上瀧浩子弁護士が第1回の頃に話していたことだ。今年の第1フロート先頭で横断幕を掲げていたのは、反差別を訴え続けてきた民主党の有田芳生議員と、政権与党に反対の立場を取る共産党の池内さおり議員、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長の伊藤和子弁護士、そして東京レインボープライドの山縣真矢共同代表だった。違う問題に取り組む彼らが一緒に歩くように、より広い連帯をしていくことで、重たいドアをこじ開けることができるようになるかもしれない。

2時間に渡るパレードには約2500人(主催者発表)が参加し、無事に幕を閉じた。しかしながらパレードの最中、参加した児童に向かってモノを投げつける事件が起きている。幸い大事には至らなかったものの、これは立派な犯罪である。子どもをターゲットにしていることも、卑劣極まりない。このような犯罪を未然に防ぐという課題はあるものの、第4回を楽しみにしながら、2016年を待ちたいと思う。

▼朴 順梨(パク・スニ)
1972年、群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。雑誌編集者を経てフリーライターに。主な著作に北原みのりとの共著『奥さまは愛国』(河出書房新社)、『離島の本屋』、『太陽のひと ソーラーエネルギーで音楽を鳴らせ!』(共にころから)など。ヘイト・スピーチに抗うカウンターの姿を追った『秋山理央写真集 ANTIFA アンティファ ヘイト・スピーチとの闘い 路上の記録』に収録された『「私」と秋山理央、新大久保の路上にて』も話題に。

歌舞伎町ぼったくり裏事情《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる

外国人が同国人を安心させてぼったくりするのは「同胞ぼったくり」なんて呼ばれている。
「韓国人や中国人が同胞をだますのが多いですね。たとえば、『私が出資しているから大丈夫』とか『観光ガイドにはない裏情報で長い間、日本にいる僕しか知らない』として、ぼったくり店にぶちこむ。出てきた客に文句を言われる前に姿を消す」と韓国人キャッチ。

影野臣直氏氏。20歳の頃、大学生ながら歌舞伎町でぼったくりを始める

◆歌舞伎町の「食物連鎖」

こうした「ぼったくり」は、歌舞伎町ならではの「食物連鎖」だと影野氏は指摘する。

「ホステスがホストに金をつぎこむ。そしてホストが遊んでぼったくりに遭う。ぼったくりで儲けた男の連中がホステスにつぎこむ、という風に回転する。私は、ぼったくりが減らないひとつの原因はキャッチが増えたことによると考えています。昔は脱サラで一攫千金を夢見てキャッチになりたがる人がたくさんいたんですが、最近は、ほかの業界で使いものにならなくなった連中にくわえて、半グレのような不良が『ひとまずキャッチでもやるか』と気軽に入ってくるようになった。僕らがぼったくりをしていた時代はそれが本業なのでもう少し人情もあったものです。客が数十万円を払ってショックを受けているところへ、私たちも立場があるから、せめて泣き半にして、半分にしましょう。30万なら15万に、という人情があった。それに比べるといまのぼったくりは、すぐ暴力をふるってしまい、まるで余裕がないのです。それが、まるで弱肉強食の『食物連鎖』、キャッチの声のかけかたも強引になる。それで警察がさらにきつくマークする」

不良少年たちが安易にキャッチになることが確かに増えた。歌舞伎町では、未成年との淫行をガイドする連中も増えているという。

◆事件性があれば警官はいつでも容疑者をパクれる

今年6月10日、歌舞伎町交番に「ぼったくり被害に遭った」と駆け込んできた客を警察が保護し、新宿署へ搬送、そして加害者側の店員を取り調べた。この手の弁護士に強いぼったくり側の弁護士が登場しても警察は怯まなくなっている。

「飲食店がこれまでバカのひとつ覚えみたいに『民事不介入』を振りかざして調子にのっていたからです。いくら民事不介入といっても、事件性があれば警官はいつでも容疑者をパクれる(逮捕できる)。これは借金の取り立て、地上げの立ち退き、どんな民事上の事件でも、いきすぎた行為には恐喝等で、事件送致できますし、これは僕らが逮捕された時代からあまり高圧的な態度で相手を畏怖させたり暴力行為、また「飲み代を払え」と強く請求することは犯罪となります。私自身も強盗と恐喝2件で逮捕されたのですからね。これまで逮捕された店側の人間は、略式起訴で罰金50万円以下程度だったところ今後は正式な起訴(地裁での公判請求)もありうるので、そうなれば店員は20日間の検事勾留もついて身柄拘束されるでしょう」

これまで「文句があるなら警察に行きましょう」と自ら客を連れて交番前に行き、警察が対応しないことを嬉々として見せつけていた連中がいたが、これだけ警察が本気になると交番前のパフォーマンスもできなくなる。

こうなるとキャッチは立場がますます弱くなり、最近は「4000円ぽっきりだというなら証拠に一筆書いてくれ」とスマートフォンで顔を撮影されることもあるという。

「ただ、こうなると店側もまた新しい抜け道を探すでしょう。警察にもメンツがありますから街頭の防犯カメラでキャッチと客のやりとりを無断で録音したり、客を装って店内に潜入する囮捜査など、不当捜査があるかもしいれませんし、泥沼のいたちごっこになる可能性もあります」と影野氏。

苦しいキャッチはさらに悪質化。「私に前金を払ってください。追加一切なし」といって、客から路上で料金を受け取り店に紹介。店側は後に「金をもらってない」と再請求するケースもある。

「あまりに極端なぼったくりが頻発すると、今後は条例を強化した改正もありうるでしょう。たとえば料金表について営業許可を申請する際に東京都公安委員会に届け出る仕組みとか。国家権力が店の営業にも関与するようになると、歌舞伎町の飲食店は成立しなくなりますよ」(影野氏)

今日もまた、歌舞伎町では多くのキャッチが「4000円ぽっきり」などと客に声をかけているが、その動向は歌舞伎町の治安に直結している。

◆警察監視強化で歌舞伎町から池袋、上野、錦糸町にシフトするぼったくり店

10月上旬、ある土曜に歌舞伎町を歩いていると、まったくキャッチを見かけなくなった。見かけるのは、居酒屋のユニフォームを着て「3000円で飲み放題、いかがですか」と声をかけている“合法な声かけ”の店員たちだけ。

歌舞伎町のスナックのバーテンが言う。
「もう、キャッチをしていると、すぐに二人組で赤いベストを着た警官が『やめなさい』と止めに入る。常に見張られているのです。歌舞伎町でぼったくりは難しくなったと思います」

そして、クラブ店員が言う。
「10月上旬に、警官たちがぼったくり店やキャッチを徹底にパトロールした。『このままだと摘発されるぞ』と。それで、逮捕されては叶わないと、ぼったくり店はあわてて池袋、上野、錦糸町などに散ったのです」。 [完]

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影 小林俊之)

(小林俊之+影野臣直)

小林俊之+影野臣直!強力タッグの短期連載ルポ[全8回]
新宿・歌舞伎町ぼったくり裏事情──キャッチ目線で見た「警察の対応変化」
《1》「ぼったくり店」はどうやって生まれるのか?
《2》なぜ銀座のクラブにはゴタがないのか?
《3》メニューに金額明示があれば違法性はない?
《4》東京五輪を前に警察が浄化作戦を始動?
《5》御一人様51万円「クラブ・セノーテ」事件の衝撃
《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界
《7》「ガールキャッチ」復活と増えるプチぼったくり
《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる

スクープ!武黒一郎=元東電フェローを直撃! 大注目の総力特集は「脱原発と反戦・反安保」!

11月25日発売開始!『NO NUKES voice』第6号!

原発は菅直人×武黒、反戦はSEALDs×ハンスト学生の『NO NUKES voice』第6号!

この夏は熱かった。11月も後半になり記憶が薄れかけている向きもあろうが、安保法案をめぐる抗議行動は国会周辺だけでなく全国で多彩に闘われ、そこではこれまで少なかった若者の姿があった。その中心としてメディアの寵児にのし上がった感すらある「SEALDs」。中心メンバーの奥田愛基さんは国会でも発言するなど多くの注目をあつめた。「本当に止める」、「民主主義ってなんだ」といたフレーズがネット上でも飛び交い、大きな話題となった。

だからこそ、本日11月25日発売の『NO NUKES voice』(NNV)第6号の特集は「脱原発と反戦・反安保」だ。

◆菅直人元首相の「告白」から見えてくるマスメディアが伝えてこなかった真実

まず、特集の頭を飾るのは、当時首相であった菅直人さんの激白だ。「いまこそ、私の話を聞いてほしい なぜ、あの時、情報が正しく伝わらなかったのか?」は、反原発運動に長年携わってきた槌田敦さん(物理学者)が聞き手となることにより、他媒体では決して実現できない踏み込んだ事実をいくつも掘り起こしている。首相官邸内でどのような思案がめぐらされたのか、情報は正確に伝わっていたのか、最高責任者として事故直後福島に飛ぶ決意をした理由とは……。息をのむような事実がこのインタビューでは明らかにされている。

少しだけ種明かしをすれば、「菅インタビュー」は今日のマスメディアが重要な事柄を全くと言っても過言でないほど「伝えていない」ことを示す証拠を読者に提供してくれる。

◆「SEALDs」奥田愛基に鹿砦社松岡社長が挑む激論生録インタビュー!

「SEALDs」奥田さんへのインタビューは発行人である松岡社長自らが敢行した。このインタビューは「提灯持ち」視点からのそれではない。よってこれまで他のメディア(一部右派メディアを除く)で紹介されたのとは全くことなる角度から遠慮なく疑問がぶつけられており、「SEALDs」現象が一体何だったのかを理解するためには必読だ。

同時にやはり松岡社長自ら斬り込んだミサオ・レッド・ウルフさんへのインタビューも「激論」と表現しても過言ではないだろう。「反原連」の指導者として、これまでもNNVに登場したミサオ・レッド・ウルフさんへの松岡直撃は予定調和と対極に位置する。反・脱原発運動が今後進むべき道筋、3・11後これまで歩んできた道程を振り返り、成果と問題点を浮かび上がらせる示唆に富んでいる。「反原連」支持者、「反原連」に違和感を抱く方双方にとって読み逃すことが出来ない。

◆「SEALDs」現象と対を成す「ハンスト実行委員会」の学生たちの座談会実現!

若者の活躍では「ハンスト」を戦術に闘った「ハンスト実行委員会」の座談会は内容において「SEALDs」現象とは一線を画す「硬派」のそれと言えよう。僅か10数人のメンバーが4人のハンスト実行者を支え、最長149時間のハンストを戦い抜いた学生たちが見据える未来は「現状肯定」ではなかった。「SEALDs」現象との対比は必ずや読者に強い刺激となるだろう。

◆鹿砦社が執念で実現した武黒一郎=元東電副社長のおっかけスクープルポ!

そして、鹿砦社といえば名物「直撃取材」だ。今回のターゲットは元東電副社長で検察審議会により強制起訴が決定した「武黒一郎」だ。我が取材班の執念は果たして実ったのか……。捕捉した! 武黒の変わり果てた姿を長時間の張り込みの末に自宅で激写に成功!武黒と取材班のやりとりも執念のなせる技。NNV取材班の執念恐るべしである。

◆上野千鶴子さん、鎌仲ひとみさんの熱きインタビュー、各地の運動報告もますます充実!

他にも社会学者の上野千鶴子さん、映画監督の鎌仲ひとみさんなど熱きインタビューが盛りだくさんだ。そして、特集を締めるのは今号で編集長を降りる松岡社長による「解題 現代の学生運動―私の経験に照らして」である。自ら「SEALDs」や「ハンスト実行委員会」に接触し、語った松岡社長にとって「学生運動」は他者のそれではなく、現在の彼を規定している一部である。自らの経験とこんにちの「学生運動」を解析し若い世代へ送る辛口のエール。この文章は「ヘサヨ」、「ブサヨ」といった語彙を持つ方々からはたいそうな顰蹙を買うであろうし、賛否両論激論を喚起すること必至だ。

運動報告では経産省前テント広場裁判「被告」の淵上太郎さんが東京高裁の不当判決を糾弾し、高木久美子さん(笑顔でつながろ会代表)、本間龍さん(元博報堂)、渋谷三七十さん(ライター)、納谷正基さん(『高校生進路情報番組ラジオ・キャンパス』パーソナリティー)、中村通孝さん/松浦寛さん(FB9条の会)など全国各地の情報が満載だ。

雑誌は「総力特集」、「全力取材」をキャッチコピーに多用するが、NNV6号は誇張抜きに取材班が「総力」を挙げた濃密な報告と思想と行動が詰め込まれている。今すぐ書店へ! (田所敏夫)

タブーなき総力取材!「脱原発」×「反戦」の共同戦線雑誌
『NO NUKES voice (ノーニュークスヴォイス)』 第6号
11月25日発売!

●主な内容●
秋山理央(映像ディレクター、フォトジャーナリスト)
ALL STOOD STILL Vol. 6『冬ニモマケズ』
[報告]淵上太郎さん(経産省前テントひろば裁判「被告」)
経産省前テント裁判控訴審 東京高裁不当判決に抗議する!
[報告]本誌特別取材班
福島原発事故A級戦犯=武黒一郎(東電元フェロー=副社長)を直撃!

[特集]脱原発と反戦・反安保―世代を超えて
[インタビュー]菅直人さん(元内閣総理大臣)
いまこそ、私の話を聞いてほしい なぜ、あの時、情報が正しく伝わらなかったのか?
[インタビュー]上野千鶴子さん(社会学者)
知っていたのに 何もしなかった私も 共犯者だった
[インタビュー]鎌仲ひとみさん(映像作家)
映画と一緒に旅しながら民主主義のエクササイズ続ける
[インタビュー]Misao Redwolf さん(首都圏反原発連合)
再び脱原発のコールの爆発を!──今後の超党派市民運動の行方
[提案]佐藤雅彦さん(ジャーナリスト)
うたの広場
[インタビュー]奥田愛基さん(「SEALDs」メンバー)
デモするたびにパクられてたら 俺、国会行ってないすよ
[座談会]学生ハンスト実行委員会
私たちは直接行動で状況を切り開こうとした
[報告]松岡利康(本誌発行人)
解題 現代の学生運動―私の体験に照らして
[報告]高木久美子さん(笑顔つながろ会代表)
3・11 放射能汚染に負けない! 笑顔でつながり、みんなで立ち上がろう!
[報告]本間龍さん(元博報堂社員、作家)
原発プロパガンダとは何か?(第四回) 福島民報・福島民友(三)
[報告]渋谷三七十さん(ライター)
地獄への道案内は罪! もはやつける薬がない「原発推進メディア」を斬る!
[報告]納谷正基さん(『高校生進路情報番組ラジオ・キャンパス』パーソナリティ)
反原発に向けた想いを次世代に継いでいきたい(5)
このシリーズの連載を始めた真の意味を、そろそろ打ち明ける時がきた……
[運動情報]中村通孝さん/松浦寛さん(FB憲法九条の会)
原発をゼロにしてから死ぬのが、大人の責任だと思う
ほか

「Paix2」のプリズン・コンサート365回達成をギネスブックが認定却下した理由

全国には刑務所や少年院が300以上あるという。そのすべてをボランタリーに訪れ「プリズン・コンサート」と称されるようになった「慰問」を継続している女性ミュージシャンデュオ「Paix2(ペペ)」の活動は既にご存知の方も多いだろう。

が、ご存知ない方のために、念のために再度ご紹介しておこう。「Paix」はフランス語で「平和」を意味する。manamiさん、megumiさんの二人は2000年にデビューし、その年に1日署長を務めた鳥取県倉吉警察署の方の勧めにより刑務所や少年院などの慰問をはじめる。

◆他の慰問とは一味違う自由な「Paix2」の「プリズン・コンサート」

Paix2「しあわせ」(日本コロムビア2015年6月17日発売)

デビュー以前、manamiさんは岡山大学研究所の技術補佐員で、megumiさんは看護師だった。「Paix2」はその後も精力的に「プリズン・コンサート」を続け、2005年には法務大臣から「プリズン・コンサート」を評価され表彰を受け、2012年には『逢えたらいいな プリズン・コンサート300回達成への道のり(限定版)』を鹿砦社から出版している。さらに2014年には「保護司」に、2015年には「矯正支援官」にそれぞれ法務大臣から任命されている。芸能界きっての活躍である。杉良太郎も「特別矯正監」に任命されているが、杉良太郎の「慰問」は講演が殆どだそうで、果たしてどれほど施設内の人が喜ぶものだろうか。

『体験的獄中マニュアル 新法下での過ごし方』(西本裕隆著 2009年鹿砦社)で「慰問」についての興味深い言及がある。「刑務所では1~2か月に1回、土曜の午前中に慰問が行われる。これは外部の人間が受刑者の前で歌を歌ったり踊りを披露したりするもので、娯楽の少ない刑務所生活においてはこの慰問が楽しみだと言う受刑者もいる。しかし、大多数の受刑者は楽しみにはしていない。かえって迷惑だと思っている受刑者の方が多い。それはこの慰問が強制参加であることと感謝の強制があるからだ。(中略)慰問の内容だが、外部の一般の人が演奏会をしたり、踊りを踊ったりあるいはカラオケ大会をしたりといった素人芸を見せられるというものである。」

素人のカラオケ大会に「感謝の強制」をさせられたのでは受刑者も迷惑千万だろう。

逆に「Paix2」の「プリズン・コンサート」では施設にもよるが、通常許されない「手拍子」などが比較的自由に許されるケースもある。刑務所が「Paix2」の活動を理解しているので受刑者もこの時ばかりは(限られてはいるけれども)、感情の発露を許されることがあるそうだ。そして多くの受刑者は彼女たちの歌や演奏に感激し、涙を流す姿も珍しくないという。出所後「Paix2」のコンサートを見にくる方も少なくないそうだ。

◆ギネスが「Paix2」の偉業を却下した理由

その「Paix2」が全国全ての刑務所を訪問したのをきっかけに約1年前「ギネスワールドレコーズ」に申請を行ったところようやく下記の連絡が返ってきたそうだ。

「ギネスワールドレコーズよりご連絡いたします。
この度は、ギネス世界記録へのご申請をありがとうございます。
ご申請頂きました内容について、審議いたしましたので、ご連絡いたします。

ご申請内容:15年間に亘り、全国の刑務所・少年院で「Prisonコンサート」と称し、ボランティアで通算365回のコンサートを行った女性デュオ

残念ながら、ご申請いただきました記録名に関しては、ギネス世界記録の記録としては、認められません。ギネス世界記録ではたいへん多くのお問合せおよび申請を頂いており、本ケースのように新しいカテゴリーの場合は、まず弊社の理念と照らし合わせたうえで、あらゆる角度から審議され、新たなカテゴリーとして設定可能かどうか判断させて頂いておりますことを、まずご報告いたします。

ご申請内容が記録対象となり得るかどうかにあたり、「微細化されていないこと」、「狭義に過ぎないこと」等も検討されます。この度いただきました申請に関しましては、コンサートの開催場所について「刑務所で」などの細分化はしていないため、残念ながら、審議した結果、ギネス世界記録の対象にはあたらないと判断されました。」

要するに「却下」だ。かつては大食い世界記録やドミノ倒しの数、けん玉を多数の人が同時に載せる人数などは認めているのに、刑務所・少年院への365回の慰問の意味が「ギネス」にはわからないらしい。

この判断を下したのは「ギネスワールドレコーズジャパン 記録管理部」なるセクションだ。「ギネス」は日本の刑務所は「世界的にも劣悪極まりない」と悪評が高いことを知らないのか、あるいは「Paix2」の活動自体を評価する気がないのか。恐らく回答は後者だろう。

そりゃあ、たくさんの申請があるだろうけども、そのほとんどは「質」ではなくてもっぱら「回数」や「量」に審査の重点がおかれているんじゃないか。そもそも「ギネス」ってなんなんだ? そう思って調べてみたら日本で買うと馬鹿高いあの「ギネスビール」の販売元が始めたのが、この「どんなことでも質より量」を競わせる「お遊び」の胴元だった。なーんだ。ビール屋の余技だったんだ。

◆「無料」申請とは別に有料95,000円の申請ルートもあるギネスブック商法

それにしては世界中で既に権威化したといっても過言ではない「ギネス」。かつては「ギネスブック」で大儲けして現在では記録の申請を「有料」と「無料」の2つの方法で受け付けている

「有料」申請の金額を見て驚いた。なんと9万9千円もする。しかもこれでも値下げした金額らしく、かつては12万5千円も取っていたと書かれている。「有料」申請は「ファーストトラック」と呼ばれ、申請への返答も「無料」よりも短時間であるらしい。

「無料」申請でも「証拠物の最終審査結果のご連絡」の「目安」は「約3ヵ月」となっているが「Paix2」への回答には1年近くを要している。か・な・り、怪しくはないか。この「ギネス申請商法」。

「Paix2」への回答で「申請内容が記録対象となり得るかどうかにあたり、『微細化されていないこと』(中略)も検討されます。(中略)この度いただきました申請に関しましては、コンサートの開催場所について『刑務所で』などの細分化はしていないため、残念ながら、審議した結果、ギネス世界記録の対象にはあたらないと判断されました。」と自ら設けた「微細化されていないこと」基準に「Paix2」の申請は「細分化されていない」、つまり「問題なし」と書いておきながら結果が「却下」なのは文章として意味をなさない。

私の邪推かもしれないが「Paix2」が「有料」で申請をしていたら記録は受理されていたのではないか。この「却下」回答理由文章のいい加減さと「有料」申請の異常ともいえる高料金がそう想起させるのだ。

ただ、金を払って「質は関係なく、量や回数だけ」(頭を使うなということか?)に没頭すれば獲得できるのが「ギネス」記録の実態のようだ。重ねて強調するがこの申請料金の9万5千円はいかにも胡散臭い。

「Paix2」の価値を汚さないために申請が受けつけられなかったのはむしろ僥倖というべきかもしれない。

Paix2『逢えたらいいな―プリズン・コンサート300回達成への道のり』(鹿砦社2012年04月20日刊)

Paix2 official website

Paix2 official website
Paix2 official blog of Manami(まなみ)
Paix2 official blog of Megumi(めぐみ)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎安保法採決直後に若者弾圧!ハンスト学生への「不当ガサ入れ」現場報告
◎「反社会勢力との取引」を拡大解釈する銀行の「口座開設拒否」は人権侵害だ!
◎挙句の果ての「1億総活躍」──狂気、矛盾、悪意、恫喝づくしの安倍暴走政権

スクープ!武黒一郎=元東電フェローを直撃! 大注目の総力特集は「脱原発と反戦・反安保」!

11月25日発売開始!『NO NUKES voice』第6号!

歌舞伎町ぼったくり裏事情《7》「ガールキャッチ」復活と増えるプチぼったくり

ここのところ、「ソープやデリヘルが歌舞伎町で激減している」と聞くが、歌舞伎町の最新流行では「ギャルの手こきサービス」がある。

「風俗のメッカだった歌舞伎町も、時代の流れで性風俗が減退。客もハードなエロスが求めなくなった。ただ、手軽な20分1500円の“手コキ”は大流行。AVルームに現役の女子大生や仕事を終えたOLが大量に働いていて、相場3000円程度でやっているんですが、現役の女子大生ですとか言って10万円以上の値段で案内したこともある。これは事前に値段交渉で提示するので絶対に揉めません。これこそメディアが報じない『隠れたプチぼったくり』なんですよ」

ぼったくりに遭わない方法は「キャッチを無視するしかない」という。

一方、「ガールキャッチ」も最近、復活しつつある。6月、歌舞伎町のキャバクラ店「LUMINE」で、22歳のホステスが逮捕。容疑は2015年3月11日の深夜、20代の男性会社員2人に「料理は何を頼んでも3000円。時間も無制限」と紹介しておいて、実際にはテーブルチャージ代7万円を請求するぼったくり。

男性2人は1時間超の飲食で24万円を請求され、全額支払った。一説には同店の背後には中国系のマフィアがいたとされるが、女性が客を誘う「ガールキャッチ」は過去、歌舞伎町で横行していた手口だ。

◆「ガールキャッチ」の元祖、影野臣直氏が嘆く「にわかぼったくり店」の跋扈

ぼったくりを始めた頃の影野臣直氏(撮影/渡辺克己)

1999年2月、新聞に「梅酒一杯15万円」の見出しで報道された「元祖ぼったくり事件」の逮捕者で、その後は「元ぼったくりの帝王」として作家になった影野臣直氏は「ガールキャッチ」を始めた元祖だ。美女を路上に立たせて「安く飲めますよ」と男性にしなだれかかり、そのまま彼女が客の相手をする。この「ぼったくり」の原型を作った人物だけに、現在のぼったくり事情にも精通している希有な人物だ。
「ゲリラぼったくりとは、聞こえがいいけど、私に言わせれば『ぼったくり』の美学も知らない『にわかぼったくり店』ですよ。ほかの場所からブラリとやってきて、1、2ヶ月で稼いではほかの盛り場に移るということをやっている。彼等は、客を踏みつけるように根こそぎ金を奪う。私たちがやっていた時代は、ぼったくった相手に、『せめてもの店からのプレゼントです』とヘネシーを一本プレゼントしたり、客の懐具合を見て適度なぼったくりをしていました。歌舞伎町には昔から私以前にも連綿とぼったくり業者がいたんです。ぼったくり条例は、『明確な料金の義務化』と『乱暴な言論や暴力による料金不当取り立ての禁止』をうたっていますが、値段表なんて、たとえば店内を赤い照明にして、細かい赤い文字で書けば読めませんし、料金取り立ても、やんわりと『遊んだ分は払って下さいよ』と丁重に請求すれば条例に触れない。キャッチと聞いた値段とは違う、という主張も店としては『そんなキャッチは知らない』と言い張ればいいだけで、抜け道はいくらでもあるんですよ。客は払わないと無銭飲食になるわけですしね。そもそも『飲食業』で登録していれば一定の値段をつけますが『サービス業』の登録店は、どんな値段をつけてもOKという仕組みがあります。そういうこともあって警察も民事不介入だったんです。『ぼったくり防止条例』もザル法だったので、成功例を見た半グレたちが、『みかじめ』さえ払えば堂々と営業できる歌舞伎町でぼったくりを始めました。だからこそ、ゲリラぼったくりの飲食店が増えたのでしょう」

◆現役ガールキャッチ女性の告白──「人生経験として、一度ぼったくられるのもいいかも」

風林会館の前にいた現役のガールキャッチ女性に話を聞いた。24歳で、鹿児島出身の真鍋かおり似。彼女は、ガールキャッチだが女性客を捕まえるのがうまい。

カップルを狙って、「彼女の前でかっこつけそうな男」をバーに連れて行くのだが、相方の女性の服装を褒めるなどして親しくなり、信用させる。ときには「前に会ったことある」とウソをついて近寄るという。

まずはこのカップルをしこたま飲ませて泥酔させ、数十万円を支払う伝票にサインさせる。2人を別の部屋に分けて彼には「彼女が支払いはあなただと言った」と言い、彼女には「彼が支払いはあなたからもらえと言った」と言い、二重に金をとるひどいこともやるという。

「1年くらい前は、居眠りをする薬をビールに入れて泥酔させて、ATMまで客を連れて行って、金を引き出させたこともある」と女性。ぼったくりに関して、罪悪感はないのか。

「歌舞伎町に来て、そんな警戒もせず安く飲めると考えるほうがおかしいでしょ。それに、こうして勉強になった方がいいんです。人生経験として、一度ぼったくられるのもいいかも」[つづく]

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影小林俊之)

(小林俊之+影野臣直)

小林俊之+影野臣直!強力タッグの短期連載ルポ[全8回]
新宿・歌舞伎町ぼったくり裏事情──キャッチ目線で見た「警察の対応変化」
《1》「ぼったくり店」はどうやって生まれるのか?
《2》なぜ銀座のクラブにはゴタがないのか?
《3》メニューに金額明示があれば違法性はない?
《4》東京五輪を前に警察が浄化作戦を始動?
《5》御一人様51万円「クラブ・セノーテ」事件の衝撃
《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界
《7》「ガールキャッチ」復活と増えるプチぼったくり
《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる [近日掲載]

スクープ!武黒一郎=元東電フェローを直撃! 大注目の総力特集は「脱原発と反戦・反安保」!

11月25日発売開始!『NO NUKES voice』第6号!

一番人気はチアリーダー? 日本ラグビーはなぜ五郎丸効果を活かせないのか?

鳴り物入りで、英ワールドカップの日本代表の活躍を受けて開幕した感のある今年の「ジャパンラグビートップリーグ」。初日に続いて「集客」が2日目もぱっとしない。試合はつまらなく、天気も駄目ダメだったが、この悪しきムードを一掃したのは、「秩父宮」に登場した意外な「大和撫子」だった。

◆「五郎丸効果」で関係者は盛り上がっているものの……

五郎丸歩(ヤマハ発動機)の「五郎丸ポーズ」が流行語大賞をとり、ラグビー日本代表メンバーはテレビ番組、CMに雑誌にと引っ張りだこ。ラグビーの大ブレイクがやってきたと思いきや、なんと11月13日に行われた開幕戦の「パナソニックーサントリー戦」で前年の8月の開幕戦より370人少ない、1万792人の観客数で責任問題となっているのが「ジャパンラグビートップリーグ2015-2016」 。ここではラグビー関係者が観客をかき集めるのに奔走している。

初日を終えると「ジャパンラグビートップリーグ」の関係者たちは、出場する東芝やリコーの関係者のみならず、マスコミ相手に急遽「来てください」と緊急コール。ホームページには、磯山さやかが初戦を観た「楽しかったです」との感想のツイッターと前出・人気ラガーの五郎丸のつぶやきを並列で掲載するなど痛いほど必死に集客をPRしている。

2日目、秩父宮ラグビー場で行われた「リコーブラックラムズ VS NTTコミュニケーションズシャイニングアークス」(午前11時40分開始)と「東芝ブレイブルーパス VS クボタスピアーズ」(午後2時開始)は、雨がぱらつく中、少しずつ観客が集まってきて、スタンドの半分強をなんとかして埋めた。

「それでも、マスコミは押し寄せました。記者は25人、カメラマンは30人以上。こんなにマスコミが押しかけたのはちょっと記憶がありません。平尾誠二(現神戸製鋼コベルコスティーラーズ総監督兼任ゼネラルマネージャー)が率いた全日本が1991年にワールドカップで初勝利して以来かも」(ラグビー雑誌記者)

◆「記念観戦」の一見客がほとんどだった

しかし試合は「リコー VS NTTコミュ」は、39-12でNTTが勝利し、「東芝-クボタ」のマッチは47-3と一方的で、ダブルヘッダーにもかかわらず後半は2試合とも負けているためかバックスも守備で走らず、やや気が抜けた雰囲気がスタンドを支配。2試合目の「東芝 VS クボタ」戦では日本代表のキャプテンで、東芝でフランカーを務めるリーチ・マイケルが最初のトライを決めた前半が終わると「雨も強いし、もういい」とばかりに多くの人が席をたった。つまり「記念観戦」の一見客がほとんどだったのだ。

「休みなのに観戦しろと言われたので来た」(20代の東芝社員)、「派遣社員ですが、昨夜に上司から頼まれたので応援に来ました」(30代リコー派遣社員)という、「人数合わせ」の観客ばかりの中、西側スタンドで「GO! GO! スピアーズ!」と黄色い声をあげて男性客の視線を集めたのは、「スピアーズ」のチアガールたちだ。

◆クボタ「スピアーズ」のチアリーダーは質が高い……

ちょうど踊りの練習をしていたのだが、これが売店でごった返す空間で行っていたため、いっせいに男性客に取り囲まれる。

「撮影しないでください」とスタッフが注意してまわる。
「じゃあ、こんな目立つところでやらなくても」という声もある中、
「実は『スピアーズ』のチアリーダーは質が高くて、ファンがついているメンバーがいるほどなんですよ。僕も実はチアリーダー目当てに来ました」(男性客)というラグビー関係者が涙ぐみそうな人も。

それでも、初心者でもわかるように、「今のプレイはノックオンです。ボールを○○選手が落としたために反則となります」などプレイのひとつひとつに電光掲示でリプレイが出て、解説のアナウンスがついたり、ファンサービスで試合前にプレゼントを選手が観客席に投げ入れるなどして、集客への工夫が感じられた。

「03年からリーグがあるが、チームで実力差がありすぎる。少なくとも実力を均衡にしないといけない」(前出・ラグビー雑誌記者)との声も。

一番盛り上がるのが「チアリーダー」では情けない。2019年のワールドカップに向けてさらなる充実が求められるラグビー界の現状と課題がかいま見えた秩父宮だった。

(小林俊之)

◎歌舞伎町ぼったくり裏事情《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界
◎山口組が分裂した本当の理由──マスコミが注目する「内部抗争」の真実
◎「工藤會壊滅ありき」で福岡県警が強引に人権を無視し続ける邪な理由

独裁者を撃つ反骨の砦『紙の爆弾』!

 

キック新時代を牽引するRIKIXジムの「NO KICK NO LIFE」

“リキ”と“キック”を掛け合わせジム名にしたRIKIXジムの小野寺力会長が主催する「NO KICK NO LIFE」興行が通算で5回目を迎えました。

RIKIXジム「NO KICK NO LIFE」会場(2015.11.9)

メインイベントは62.0kg契約ノンタイトル5回戦で、日本ライト級チャンピオンの勝次(高橋勝次/目黒藤本/62.0kg)VS WPMF日本ライト級チャンピオンの黒田アキヒロ(フォルティス渋谷/62.0kg)戦。チャンピオンが多いと言われている中での日本の代表的立場同士の戦いはかなりの好カード。全8試合で全28ラウンドと観る側も疲れない、ほどほどの長さの興行で、2回目となる「TSUTAYA O-EAST渋谷」というライブハウスを利用した入場者数は今回平日でも約800人という超満員の来場。

キックボクシングとしては小規模ながら、こういう「客席がリングに近い会場」は今後も人気が上がりそうで、“土日祝日”に興行が重なる日、または平日の狭間を狙った小規模興行は、会社帰りのファンの足運びも考慮した時間帯で、帰り道でも飲食に困らない繁華街と交通の便がいい渋谷など主要駅のライブハウスの利用が予想されます。

◆“キックの赤い薔薇”小野寺力会長が生んだ「NO KICK NO LIFE」の世界

小野寺力会長の現役時代デビュー戦。山田浩に判定勝利(1992.11.13)。今日に繋がる第一歩を踏み出した日ともいえる

小野寺力氏は現役時代、“キックの赤い薔薇”というキャッチフレーズを持ち、キックの老舗の名門・目黒ジムに所属した歴代チャンピオンの中でも一番と言われるテクニックを持った元・日本フェザー級チャンピオン。まだ現役時代の2002年9月にライブハウスのSHIBUYA-AXで興行を打ち、メインイベントを務めるとともに興行運営に関わり、アイディアマンとなって現在に活かされています。

2003年11月にはRIKIXジムを大田区北千束(大岡山)に開設。2005年10月には自身の引退興行として大田区体育館で「NO KICK NO LIFE」を初開催。同年、ラジャダムナン系とルンピニー系のフェザー級王座統一を果たしたアヌワット・ゲオサムリット(タイ)にパンチの強打で2ラウンド3ノックダウンでKO負けを喫するも、最強相手を選んでの完全燃焼に更なる評価を得ました。

プロモーター小野寺力RIKIXジム会長(2014.2.10)

8年4ヶ月ぶり「NO KICK NO LIFE」開催となった2004年2月、大田区総合体育館で今度は後輩の、前・ラジャダムナン・スーパーライト級チャンピオンの石井宏樹(目黒藤本)がムエタイ4階級制覇のゲーオ・フェアテックス(タイ)とWPMF世界スーパーライト級王座決定戦で対戦。ハイキック一発で2ラウンドKO負け、2005年2月の第3回開催では、RIKIXジムから初のチャンピオンとなった愛弟子・田中秀弥が引退試合、シュートボクシングの代表的名チャンピオンのアンディ・サワー(オランダ)にハイキック一発で2ラウンドKO負けを喫しました。この完全燃焼しての引退は選手の理想像となり、今後も選手の感情を受け止め、その舞台に力を注ぐであろう小野寺会長です。

◆日本チャンピオン対決「高橋勝次 VS 黒田アキヒロ」戦は黒田が逆転勝利!

この日、メインイベントの日本チャンピオン対決は、勝次がパンチで先手を打ち主導権を握る。飛び蹴りも多発、勝次の攻勢が続くも第4ラウンドに入ると黒田のローキックが効いたか、勝次も手数が減る。黒田も簡単には崩れない強さがあるのだと感じさせるチャンピオンの意地。第5ラウンド終了が近くなる2分30秒あたりで、黒田の右ストレートが勝次のアゴを捕らえる展開逆転のダウン。残り少ない時間(20秒)では再び逆転も難しく、3-0(49-47、49-48、49-47)の判定で黒田アキヒロが逆転勝利を飾りました。

勝次(右)vs黒田アキヒロ(2015.11.9)
勝次(ダウン)vs黒田アキヒロ(ポーズ)(2015.11.9 )

「勝次は相手を見過ぎるクセがあり、そこを突かれる場合が多い」と言う目黒藤本ジム陣営。「チャンピオンなんだから、今更、事細かな基本を教わる立場ではない。それまでに教わったことを反復練習と、相手の攻撃を避ける練習を繰り返しやらないといけない。」という別の厳しい陣営の意見もありました。

新日本キックボクシング協会代表・伊原信一氏、目黒藤本ジムの藤本勲会長も並んで観戦。ステップアップして上のステージへ進みたい勝次への査定は厳しいものとなるかもしれないが、12月13日の目黒藤本ジム主催興行では、勝次の日本ライト級王座初防衛戦を同級3位の春樹(横須賀太賀)を相手に行なわれます。汚名返上へ、あと1ヶ月で、原点に返って立て直さねばなりません。

◆セミファイナル「前口太尊 VS 中尾満」戦は激闘の末、前口がKO勝利!

セミファイナル出場のJ-NETWORKライト級チャンピオンの前口太尊(PHOENIX)は、梅野源治が所属する強豪揃いのジム。マイク・タイソンから名前を肖り、一発で試合を終わらせるハードパンチを持つ。対する中尾満(元・日本ライト級暫定チャンピオン/エイワスポーツ)は、新日本キックで伊原ジムに所属していた2010年8月、石井達也(目黒藤本)との日本ライト級挑戦者決定戦で勝利し、後に暫定王座に昇格した経緯を持つ。

63.0kg契約5回戦で行なわれたこの試合、前口太尊が第2ラウンドにコーナーに詰めヒザ蹴り連打と更に右フックで2度ダウンを奪った後、中尾満が右フックで逆転のダウンを奪う。こういう展開は勝負がわからなくなる盛り上がりを見せるが、結局、再び前口太尊がロープに詰めヒザ蹴り連打をする中、レフェリーが止め、前口が第2ラウンド2分56秒、3ノックダウンによりKO勝利を収めました。

前口太尊(左)vs中尾満.最初のダウン(2015.11.9 )
前口太尊のマイクアピール(2015.11.9)

セミファイナルとメインイベントでの、逆転の攻防で締め括られ、ファンのボルテージも最高潮。(錯覚とはいえ)渋谷の街全体が盛り上がった印象でした。

全8試合中、RIKIXジムから4人が出場で1勝2敗1分。目黒藤本ジムから2人が出場で1敗1分。他はフリーのジムが中心です。来年はまた大田区総合体育館から始まる予定。どこの団体問わず、今度はどんなメンバーが揃うかも期待されます。興行も継続化され「NO KICK NO LIFE」も軌道に乗ったと言えるでしょう。

「NO KICK NO LIFE」のラウンドガールたち(2015.11.9)

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない。」

◎ルール変更の紆余曲折から辿る日本キックボクシング界の栄枯盛衰クロニクル
◎新日本キック「MAGNUM39」──トップ選手のビッグマッチと若いチャンピオンたち
◎群雄割拠?大同小異?日本のキックボクシング系競技に「王座」が乱立した理由

唯一無二の特報を同時多発で怒涛のごとく!『紙の爆弾』!