「気候危機」論の起源を検証する〈3〉「気候危機」論はその生い立ちからして原発推進と不可分の関係にある 原田弘三

◆1988年のハンセン証言

1986年4月26日、史上最悪の原発事故、チェルノブイリ事故が起きた。事故で31人が死亡、13万5000人の住民が避難を余儀なくされた。この事故から2年後の1988年6月23日、アメリカ上院エネルギー委員会の公聴会において、NASA所属のジェームズ・ハンセンが「最近の異常気象、とりわけ暑い気象が地球温暖化と関係していることは99%の確率で正しい」と発言した。

同年アメリカは1930年代以来の大干ばつに見舞われ、熱波が各地を襲い、山火事が多発していた。ハンセンはこの異常気象の原因がCO2の人為排出だと示唆したのである。この証言を行ったハンセンは後に地球温暖化防止のため原発を推進するようオバマ大統領に提言を行い、以後も原発を積極的に支持する発言を続けている人物である。この公聴会の議長をつとめた上院議員のティモシー・ワースは過去の気象記録で最高気温が記録された日を開催日に選び、当日は委員会の冷房を切っていたという。

ワースは後に、「地球温暖化の問題に乗っかる必要がある。たとえ地球温暖化の理論が間違っていても経済.環境政策の点では我々は正しいことをしているのだ」と述べている。ともあれ、このハンセン証言を契機に雑誌やTV放送などのメディアを通して、地球温暖化についての認識が1気に広まった。

温暖化=「気候危機」論の広がり1989年3月、オランダのハーグで「環境サミット」が開かれ、「温暖化防止への国際協力」を盛り込んだ「ハーグ宣言」が採択された。この会議は従来環境問題にはさほど熱心でなかったフランスが急遽オランダ、ノルウェーと共同で開催したものである。

フランスの独走が目立ったこの会議について、科学史家の米本正平氏は以下のように指摘している。

「フランスは政府主導で原発を進めてきた、欧州で唯一の国である。ところが86年のチェルノブイリ原発事故以降、ドイツなど他国の環境保護派から批判の矢面に立たされてきた。それをここで、電力供給の75%が原発という自国のエネルギー供給の状態を逆手にとり、二酸化炭素排出量が大きい、石炭火力発電を主力とする他欧州諸国をにらみつける形で、地球温暖化問題を軸に一気に新しい課題でヘゲモニーをとろうとした、と考えるのがいちばん妥当であろう。」(『地球環境問題とは何か』岩波書店、1994年)

日本原子力研究開発機構のHPは、このハーグでの会議は「地球温暖化防止対策に第1歩を踏み出す画期的な会議」だったと書いている。

イギリスのサッチャー首相は1989年11月にニューヨークで開かれた国連総会で、CO2を削減して人為的地球温暖化を阻止すべきだとスピーチし、世界の首脳に先駆けて地球温暖化問題を国際社会でアピールした。当時サッチャー政権は炭鉱労働組合の弱体化を図るとともに石炭火力から原子力への切り替えを目論んでいた。サッチャーは退任後立場を変え、地球寒冷化の方が温暖化よりもはるかに害が大きく、科学が歪曲されていると著書で主張している。

一方、1988年6月に開催されたトロント.サミットで地球温暖化問題の重要性が指摘され、その声明に基づいて同年11月に国際連合気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が設立された。IPCCはこれまで6回報告書を出している。2022年4月に発表された第6次評価報告書第3作業部会報告書には「原子力は、低炭素エネルギーを大規模に供給することができる」と書かれており、発電時CO2を出さない原発が「気候危機」対策として有効であることが示唆されている。

◆結び

CO2の増加により地球が温暖化するという学説はすでに19世紀に発表されていた。しかしCO2温暖化説の提唱者アレニウスは地球温暖化を「危機」ではなく「恵み」と認識しており、宮沢賢治もそうした認識に基づく作品を書いていた。そして1970年代までは地球寒冷化説の方が優勢であり、地球温暖化が社会の主要関心事となることはなかった。

転機となったのは1979年の「チャーニー報告」である。スリーマイル島原発事故の起きたこの年、米政府は米国アカデミーに気候に対する人為起源CO2の影響について諮問を求め、同アカデミーはCO2の人為排出が地球の気温上昇を招き、それが気候に大幅な変化をもたらすとする報告書を出した。

さらにチェルノブイリ原発事故の2年後、1988年のハンセン証言を契機に地球温暖化が社会的な関心を集め、各種機関による地球温暖化対策が本格的に進められるに至った。「気候危機」論を世界に広める上で大きな役割を果たしたのが、原発大国フランスと、サッチャー政権のもとで炭坑労組潰しと石炭火力から原発への転換を進めていたイギリスである。2011年の福島原発事故後、いくつかの国が脱原発を決め、他の国々も原発推進に慎重姿勢を取った。しかし、グレタ・トゥーンベリが気候ストライキを始め気候運動が世界的な盛り上がりを見せる中、EUはタクソノミーに原発を含めることを決定し、韓国は脱原発を撤回、フランス、日本が相次いで原発の積極推進に回帰した。

このように、「気候危機」論は原発推進を目論む勢力によって提唱され、以後一貫して原発を推進する役割を果たしてきたのである。

「気候危機」論のもう1つの大きな推進力は、金融商品としてのCO2により利潤を得る国際金融資本であることは本誌2023年夏号の拙稿「『気候危機』論についての一考察」で述べた。

いずれにせよ、「気候危機」論はその生い立ちからして原発推進と不可分の関係にある。したがって、私たち市民は「気候危機」論の動向について常に警戒感をもって注視していかなければならない。(終わり)

──────────────────────────────────────────────────

▼「気候危機」関連年表

1760年代  イギリスで産業革命起こる
1896年   スヴァンテ・アレニウス、CO2の地球温暖化効果を指摘する論文を発表
1906年   アレニウス『宇宙の成立』を発表、CO2の地球温暖化効果を一般向けに解説
1932年   宮澤賢治『グスコーブドリの伝記』発表
1979年 3月 スリーマイル島原発事故
1979年 7月 米国アカデミー「21世紀半ばに二酸化炭素(CO2)濃度は倍になり、
      気温は3±1.5℃(1.5-4.5℃)上昇する」とする「チャーニー報告」を公表
1986年 4月 チェルノブイリ原発事故
1988年 6月 アメリカ上院公聴会にてジェームズ・ハンセンが「最近の異常気象、
      とりわけ暑い気象が地球温暖化と関係していることは99%の確率で正しい」と証言
1988年 6月 トロント・サミット開催
1988年 11月 国際連合気候変動に関する政府間パネル(IPCC)発足
1989年 3月 ハーグで環境サミット開催、「温暖化防止への国際協力」を盛り込んだ
      「ハーグ宣言」を採択
   11月 英サッチャー首相、国連総会で
      「CO2を削減して人為的地球温暖化を阻止すべき」とスピーチ
1991年   ソ連崩壊
1992年 6月 ブラジルで地球サミット開催、「気候変動枠組条約」採択
1995年   第1回気候変動枠組条約締約国会議(COP1)開催
1997年   COP3開催、「京都議定書」採択、排出量取引制度創設
2001年   IPCC第3次評価報告書を発表、マイケル.マン作成のホッケースティック曲線を採用
2002年   サッチャー元首相、地球温暖化を否定する著書『Statecraft』を発表
2005年   EU、世界で初めて「排出量取引制度(EU-ETS)」を開始
2006年   アル・ゴアのドキュメンタリー映画『不都合な真実』公開
      (ゴアは翌年ノーベル平和賞を受賞)
2007年   英国裁判所で『不都合な真実』には誇張があるため
      学校内での上映に際しては注釈を付すよう命じる判決
2008年   ハンセン、地球温暖化防止のため原発を推進するようオバマ大統領に提言
2009年11月 クライメートゲート事件(マンのホッケースティック曲線は捏造であるとの疑惑が浮上
      英国下院は「問題なし」とする調査結果を公表)
2011年 3月 福島原発事故
2011年 7月 ドイツ、脱原発を決定
2015年   COP21開催、「パリ協定」締結
2017年   韓国、脱原発を決定
2018年   グレタ・トゥーンベリ、気候ストライキを開始
2021年 8月 IPCC第6次評価報告書を発表、
      人間の活動により温暖化が起きていることは「疑う余地がない」と断定
2021年11月 仏マクロン大統領、原発新設再開を宣言
2022年   EU、タクソノミーに原発を含めることを決定
2022年   韓国、脱原発を撤回し原発推進に回帰
2023年 5月 日本、国会でGX推進法を可決、成立

──────────────────────────────────────────────────

本稿は『季節』2023年冬号掲載(2023年12月11日発売号)掲載の「『気候危機』論の起源を検証する」を本通信用に再編集した全3回の連載記事です。

◎原田弘三 「気候危機」論の起源を検証する[全3回]
〈1〉CO2増加による気温上昇は、本当に「地球の危機」なのか
〈2〉転機となった「チャーニー報告」
〈3〉「気候危機」論はその生い立ちからして原発推進と不可分の関係にある

▼原田弘三(はらだ こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

3月11日発売 〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年春号 能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年春号(NO NUKES voice 改題)

能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

《グラビア》能登半島地震・被災と原発(写真=北野 進

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 能登半島地震から学ぶべきこと

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 地雷原の上で踊る日本

《報告》井戸謙一(弁護士・元裁判官)
 能登半島地震が原発問題に与えた衝撃

《報告》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 珠洲・志賀の原発反対運動の足跡を辿る

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 「大地動乱」と原発の危険な関係

《講演》後藤秀典(ジャーナリスト)
 最高裁と原子力ムラの人脈癒着

《報告》山田 真(小児科医)
 国による健康調査を求めて

《報告》竹沢尚一郎(国立民族学博物館名誉教授)
 原発事故避難者の精神的苦痛の大きさ

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表
 命を守る方法は国任せにしない

《報告》大泉実成(作家)
 理不尽で残酷な東海村JCO臨界事故を語り継ぐ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
《検証》日本の原子力政策 何が間違っているのか《2》廃炉はどのような道を模索すべきか

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
すべての被災者の人権と尊厳が守られますように

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈後編〉

《報告》漆原牧久(脱被ばく実現ネット ボランティア)
「愛も結婚も出産も、自分には縁のないもの」311子ども甲状腺がん裁判第八回口頭弁論期日報告

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
本当に原発は大丈夫なのか

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
日本轟沈!! 砂上の“老核”が液状化で沈むとき……

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
松本人志はやっぱり宇宙人だったのか?

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈23〉
甲山事件五〇年目を迎えるにあたり誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈中〉

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
能登半島地震と日本の原発事故リスク 稼働中の原発は即時廃止を!
《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(志賀原発に反対する「命のネットワーク」)
《六ヶ所村》中道雅史(「原発なくそう!核燃いらない!あおもり金曜日行動」実行委員会代表)
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
《東海第二》久保清隆(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《地方自治》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)

《反原発川柳》乱 鬼龍

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0CWTPSB9F/

「気候危機」論の起源を検証する〈2〉転機となった「チャーニー報告」 原田弘三

◆温暖化説に基づいた物語『グスコーブドリの伝記』

宮沢賢治(1896-1933)が1932年に発表した童話『グスコーブドリの伝記』は、CO2温暖化説に基づいた物語である。主人公ブドリは、生まれ育った農村が冷害に苦しむのを目の当たりにし、火山を噴火させCO2を噴出させて温暖化を起こすことを考えつく。しかし火山を人工的に噴火させる作戦を実行するにはチームの最後の1人が犠牲にならなければならない。ブドリは進んでその役を担い自らが犠牲となって火山からCO2を噴出させ、その結果起きた温暖化によって村は冷害から救われる、というのがこの物語のあらすじである。

1970年代までは寒冷化説が主流生態学者、吉良竜夫が1971年に著した『生態学からみた自然』(河出書房新社)には、CO2温暖化説が以下のように紹介されている。

「氷期のCO2生因説をとるプラスは、いまの燃料消費の増加が持続するとすれば、30年後の21世紀初めには、大気中のCO2濃度が50%高くなり、地表気温は2度上がるだろうという。……いまより2度高温というと、BC5000年ごろの縄文時代中期がそれで、そのころの貝塚の分布から推定した海面の位置は、現在より10mほど高く、関東平野のおく深くまで東京湾が侵入していた。こんなことが起こっては大変で、世界のおもな都市は全部水没してしまう。炭酸ガス危機説とよぶゆえんである。」

この記述から、この頃までにCO2増加による温暖化を「危機」とみなす学説が唱えられていたことがわかる。

しかし吉良は同書の中で続けて以下のように書いている。

「じつは、人間のCO2放出による地球の気温上昇の問題は、現時点ではかなり影がうすれている。というのは、大気汚染、とくに自動車排気が原因で、微小な凝結核が世界の大気中に激増したために、雨をもたらす過冷却状態の雲が少なくなり、その結果、微氷晶からなる安定した雲がふえて降水量を少なくし、またふえた雲の反射や微粒子の吸収によって、地表にとどく太陽輻射量をへらしているらしいことが、問題とされはじめたからである。現にここ数年は、世界各地で気温の低下と降水量の減少が注目されており、アメリカでは豪雨・豪雪がへり、霧雨やほこりのような雪がふえているという。」

つまり、1970年代初頭までにCO2増加による気温上昇を「危機」とみなす学説が一定唱えられていたが、それは決してメジャーではなく、1971年当時はむしろ衰退傾向にあったのである。

実際、1970年代には『冷えていく地球』(根本順吉著、家の光協会、1974年)、『ウェザー.マシーン気候変動と氷河期』(N.コールダー著、原田朗訳、みすず書房、1974年)、『氷河時代-人類の未来はどうなるか』(鈴木秀夫著、講談社、1975年)、『大氷河期-日本人は生き残れるか』(日下実男著、朝日ソノラマ、1976年)など、氷河期の到来による「危機」を示唆する書籍が相次いで出版されていた。

◆転機となった「チャーニー報告」

1979年3月28日、米ペンシルバニア州のスリーマイル島原発で重大事故が発生した。2号機がメルトダウンを起こし、放射性物質を含む水蒸気が外部に漏れ出したため、14万4000人の住民が避難する事態となった。この事故の起きた1979年、米国大統領行政府科学技術政策局は全米科学アカデミーに対し、「気候に対する人為起源CO2の影響」について諮問を求めた。マサチューセッツ工科大学のジュール・グレゴリー・チャーニー教授を座長とする臨時調査委員会がこれに答えた学術報告をまとめ、7月に「チャーニー報告」と呼ばれる報告書を公表する。

この報告書は「21世紀半ばに二酸化炭素(CO2)濃度は2倍になり、気温は3±1.5℃(1.5-4.5℃)上昇する」という予測を示した。そして報告書は以下のように結論付ける。

「大気中のCO2濃度が実際に2倍になり、大気と海洋の中間層がおおよその熱平衡に達するのに十分な長さのままである場合、地球の気温は3℃程度の変化が起こり、これらが地域の気候パターンの大幅な変化を伴うと推定される。」

この報告書は「地域の気候パターンの大幅な変化」という漠然とした表現ながら、温暖化を否定的にとらえる視点に立っている。温暖化の弊害を指摘する学説は以前から存在していたが、このチャーニー報告は一国の権威ある学術機関が温暖化を「危機」と見る視点を打ち出したという点で、画期的なものであった。(つづく)

──────────────────────────────────────────────────

▼「気候危機」関連年表

1760年代  イギリスで産業革命起こる
1896年   スヴァンテ・アレニウス、CO2の地球温暖化効果を指摘する論文を発表
1906年   アレニウス『宇宙の成立』を発表、CO2の地球温暖化効果を一般向けに解説
1932年   宮澤賢治『グスコーブドリの伝記』発表
1979年 3月 スリーマイル島原発事故
1979年 7月 米国アカデミー「21世紀半ばに二酸化炭素(CO2)濃度は倍になり、
      気温は3±1.5℃(1.5-4.5℃)上昇する」とする「チャーニー報告」を公表
1986年 4月 チェルノブイリ原発事故
1988年 6月 アメリカ上院公聴会にてジェームズ・ハンセンが「最近の異常気象、
      とりわけ暑い気象が地球温暖化と関係していることは99%の確率で正しい」と証言
1988年 6月 トロント・サミット開催
1988年 11月 国際連合気候変動に関する政府間パネル(IPCC)発足
1989年 3月 ハーグで環境サミット開催、「温暖化防止への国際協力」を盛り込んだ
      「ハーグ宣言」を採択
   11月 英サッチャー首相、国連総会で
      「CO2を削減して人為的地球温暖化を阻止すべき」とスピーチ
1991年   ソ連崩壊
1992年 6月 ブラジルで地球サミット開催、「気候変動枠組条約」採択
1995年   第1回気候変動枠組条約締約国会議(COP1)開催
1997年   COP3開催、「京都議定書」採択、排出量取引制度創設
2001年   IPCC第3次評価報告書を発表、マイケル.マン作成のホッケースティック曲線を採用
2002年   サッチャー元首相、地球温暖化を否定する著書『Statecraft』を発表
2005年   EU、世界で初めて「排出量取引制度(EU-ETS)」を開始
2006年   アル・ゴアのドキュメンタリー映画『不都合な真実』公開
      (ゴアは翌年ノーベル平和賞を受賞)
2007年   英国裁判所で『不都合な真実』には誇張があるため
      学校内での上映に際しては注釈を付すよう命じる判決
2008年   ハンセン、地球温暖化防止のため原発を推進するようオバマ大統領に提言
2009年11月 クライメートゲート事件(マンのホッケースティック曲線は捏造であるとの疑惑が浮上
      英国下院は「問題なし」とする調査結果を公表)
2011年 3月 福島原発事故
2011年 7月 ドイツ、脱原発を決定
2015年   COP21開催、「パリ協定」締結
2017年   韓国、脱原発を決定
2018年   グレタ・トゥーンベリ、気候ストライキを開始
2021年 8月 IPCC第6次評価報告書を発表、
      人間の活動により温暖化が起きていることは「疑う余地がない」と断定
2021年11月 仏マクロン大統領、原発新設再開を宣言
2022年   EU、タクソノミーに原発を含めることを決定
2022年   韓国、脱原発を撤回し原発推進に回帰
2023年 5月 日本、国会でGX推進法を可決、成立

──────────────────────────────────────────────────

本稿は『季節』2023年冬号掲載(2023年12月11日発売号)掲載の「『気候危機』論の起源を検証する」を本通信用に再編集した全3回の連載記事です。

◎原田弘三 「気候危機」論の起源を検証する[全3回]
〈1〉CO2増加による気温上昇は、本当に「地球の危機」なのか
〈2〉転機となった「チャーニー報告」

▼原田弘三(はらだ こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

3月11日発売 〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年春号 能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年春号(NO NUKES voice 改題)

能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

《グラビア》能登半島地震・被災と原発(写真=北野 進

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 能登半島地震から学ぶべきこと

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 地雷原の上で踊る日本

《報告》井戸謙一(弁護士・元裁判官)
 能登半島地震が原発問題に与えた衝撃

《報告》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 珠洲・志賀の原発反対運動の足跡を辿る

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 「大地動乱」と原発の危険な関係

《講演》後藤秀典(ジャーナリスト)
 最高裁と原子力ムラの人脈癒着

《報告》山田 真(小児科医)
 国による健康調査を求めて

《報告》竹沢尚一郎(国立民族学博物館名誉教授)
 原発事故避難者の精神的苦痛の大きさ

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表
 命を守る方法は国任せにしない

《報告》大泉実成(作家)
 理不尽で残酷な東海村JCO臨界事故を語り継ぐ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
《検証》日本の原子力政策 何が間違っているのか《2》廃炉はどのような道を模索すべきか

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
すべての被災者の人権と尊厳が守られますように

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈後編〉

《報告》漆原牧久(脱被ばく実現ネット ボランティア)
「愛も結婚も出産も、自分には縁のないもの」311子ども甲状腺がん裁判第八回口頭弁論期日報告

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
本当に原発は大丈夫なのか

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
日本轟沈!! 砂上の“老核”が液状化で沈むとき……

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
松本人志はやっぱり宇宙人だったのか?

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈23〉
甲山事件五〇年目を迎えるにあたり誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈中〉

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
能登半島地震と日本の原発事故リスク 稼働中の原発は即時廃止を!
《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(志賀原発に反対する「命のネットワーク」)
《六ヶ所村》中道雅史(「原発なくそう!核燃いらない!あおもり金曜日行動」実行委員会代表)
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
《東海第二》久保清隆(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《地方自治》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)

《反原発川柳》乱 鬼龍

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0CWTPSB9F/

「気候危機」論の起源を検証する〈1〉CO2増加による気温上昇は、本当に「地球の危機」なのか 原田弘三

◆はじめに ── 原発推進の口実に

今日「気候変動」あるいは「気候危機」という言葉を耳にしない日はない。多くのメディアや識者は産業革命以来の人為的CO2排出による温暖化が地球環境に危機を招くと説いている。しかし、温暖化が地球環境の危機として広く認識されるようになったのはそれほど古いことではない。筆者自身の体験に即して言えば、筆者が学生時代を過ごした1970年代には地球温暖化をメディアが報じることはなかった。しかしその後、地球の温暖化が急速に喧伝され、今日「気候危機」への対策が国際社会の共通課題とされているのである。

「気候危機」は私たち脱原発を目指す者にとって見過ごせないテーマである。なぜなら、それが原発推進の口実となっているからである。直近では岸田政権が「気候危機」対策としてのGX(グリーントランスフォーメーション)の名のもとに原発推進法制を成立させたことが記憶に新しい。

そこで「気候危機」論はいつ誰によって唱えられ、どのように広まってきたのか、振り返ってみたい。

◆CO2説を最初に唱えた科学者スヴァンテ・アレニウス

 
スヴァンテ・アレニウス(1859-1927)

大気中のCO2増加により地球が温暖化する可能性を最初に指摘したのはスウェーデンの科学者スヴァンテ・アレニウス(1859-1927)である。

彼は1896年に発表した論文の中で科学者として初めて、空気中のCO2の量の変化が温室効果によって気温に影響を与えるという考え方を示した。彼はまた一般向けの著書『宇宙の成立』(1906年)の中で、石炭などの大量消費によって今後大気中のCO2濃度が増加すること、CO2濃度が増えれば気温が上昇する可能性があることを述べた。

「空気中の二酸化炭素の量が現在の割合の半分に低下すると、気温は4度低下する。1/4に減少すると、気温が8度下がる。一方、空気中の二酸化炭素の割合が2倍になると、地表の温度が4度上昇する。二酸化炭素が4倍に増えると、気温は8度上昇する。」

このようにアレニウスはCO2の増加が地球を温暖化する可能性を指摘したが、彼は今日の気候危機論者のようにそれを地球環境の危機とは考えていなかった。彼は『宇宙の成立』の別の部分で以下のように書いている。

「地球に蓄えられた石炭が、未来のことも考えずに今の世代に浪費されているという嘆きをよく耳にするし、私たちは火山の噴火による生命や財産のすさまじい破壊に怯えている。ここでは、他のすべての場合と同様に、善と悪が混在しているという考えに一種の慰めを見出だせるかもしれない。大気中の二酸化炭素の割合の増加の影響により、特に寒い地域に関しては、地球が現在よりもはるかに豊かな作物を生み出し、人類の急速な繁栄のために、より平等でより良い気候の時代を享受することが期待できるかもしれない。」

つまり、アレニウスはCO2による地球温暖化により寒い地域が過ごしやすくなり作物生産が豊かになるため、地球温暖化は人類にとって好ましいものと見ていたのである。(つづく)

──────────────────────────────────────────────────

▼「気候危機」関連年表

1760年代  イギリスで産業革命起こる
1896年   スヴァンテ・アレニウス、CO2の地球温暖化効果を指摘する論文を発表
1906年   アレニウス『宇宙の成立』を発表、CO2の地球温暖化効果を一般向けに解説
1932年   宮澤賢治『グスコーブドリの伝記』発表
1979年 3月 スリーマイル島原発事故
1979年 7月 米国アカデミー「21世紀半ばに二酸化炭素(CO2)濃度は倍になり、
      気温は3±1.5℃(1.5-4.5℃)上昇する」とする「チャーニー報告」を公表
1986年 4月 チェルノブイリ原発事故
1988年 6月 アメリカ上院公聴会にてジェームズ・ハンセンが「最近の異常気象、
      とりわけ暑い気象が地球温暖化と関係していることは99%の確率で正しい」と証言
1988年 6月 トロント・サミット開催
1988年 11月 国際連合気候変動に関する政府間パネル(IPCC)発足
1989年 3月 ハーグで環境サミット開催、「温暖化防止への国際協力」を盛り込んだ
      「ハーグ宣言」を採択
   11月 英サッチャー首相、国連総会で
      「CO2を削減して人為的地球温暖化を阻止すべき」とスピーチ
1991年   ソ連崩壊
1992年 6月 ブラジルで地球サミット開催、「気候変動枠組条約」採択
1995年   第1回気候変動枠組条約締約国会議(COP1)開催
1997年   COP3開催、「京都議定書」採択、排出量取引制度創設
2001年   IPCC第3次評価報告書を発表、マイケル.マン作成のホッケースティック曲線を採用
2002年   サッチャー元首相、地球温暖化を否定する著書『Statecraft』を発表
2005年   EU、世界で初めて「排出量取引制度(EU-ETS)」を開始
2006年   アル・ゴアのドキュメンタリー映画『不都合な真実』公開
      (ゴアは翌年ノーベル平和賞を受賞)
2007年   英国裁判所で『不都合な真実』には誇張があるため
      学校内での上映に際しては注釈を付すよう命じる判決
2008年   ハンセン、地球温暖化防止のため原発を推進するようオバマ大統領に提言
2009年11月 クライメートゲート事件(マンのホッケースティック曲線は捏造であるとの疑惑が浮上
      英国下院は「問題なし」とする調査結果を公表)
2011年 3月 福島原発事故
2011年 7月 ドイツ、脱原発を決定
2015年   COP21開催、「パリ協定」締結
2017年   韓国、脱原発を決定
2018年   グレタ・トゥーンベリ、気候ストライキを開始
2021年 8月 IPCC第6次評価報告書を発表、
      人間の活動により温暖化が起きていることは「疑う余地がない」と断定
2021年11月 仏マクロン大統領、原発新設再開を宣言
2022年   EU、タクソノミーに原発を含めることを決定
2022年   韓国、脱原発を撤回し原発推進に回帰
2023年 5月 日本、国会でGX推進法を可決、成立

──────────────────────────────────────────────────

本稿は『季節』2023年冬号掲載(2023年12月11日発売号)掲載の「『気候危機』論の起源を検証する」を本通信用に再編集した全3回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

3月11日発売 〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年春号 能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年春号(NO NUKES voice 改題)

能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

《グラビア》能登半島地震・被災と原発(写真=北野 進

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 能登半島地震から学ぶべきこと

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 地雷原の上で踊る日本

《報告》井戸謙一(弁護士・元裁判官)
 能登半島地震が原発問題に与えた衝撃

《報告》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 珠洲・志賀の原発反対運動の足跡を辿る

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 「大地動乱」と原発の危険な関係

《講演》後藤秀典(ジャーナリスト)
 最高裁と原子力ムラの人脈癒着

《報告》山田 真(小児科医)
 国による健康調査を求めて

《報告》竹沢尚一郎(国立民族学博物館名誉教授)
 原発事故避難者の精神的苦痛の大きさ

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表
 命を守る方法は国任せにしない

《報告》大泉実成(作家)
 理不尽で残酷な東海村JCO臨界事故を語り継ぐ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
《検証》日本の原子力政策 何が間違っているのか《2》廃炉はどのような道を模索すべきか

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
すべての被災者の人権と尊厳が守られますように

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈後編〉

《報告》漆原牧久(脱被ばく実現ネット ボランティア)
「愛も結婚も出産も、自分には縁のないもの」311子ども甲状腺がん裁判第八回口頭弁論期日報告

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
本当に原発は大丈夫なのか

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
日本轟沈!! 砂上の“老核”が液状化で沈むとき……

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
松本人志はやっぱり宇宙人だったのか?

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈23〉
甲山事件五〇年目を迎えるにあたり誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈中〉

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
能登半島地震と日本の原発事故リスク 稼働中の原発は即時廃止を!
《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(志賀原発に反対する「命のネットワーク」)
《六ヶ所村》中道雅史(「原発なくそう!核燃いらない!あおもり金曜日行動」実行委員会代表)
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
《東海第二》久保清隆(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《地方自治》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)

《反原発川柳》乱 鬼龍

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0CWTPSB9F/

気候危機運動の旗手 グレタ・トゥーンベリさんへの手紙〈後編〉 そして彼女は原子力発電の「救世主」となった 原田弘三

◆『グレタ たったひとりのストライキ』という本

グレタはその後も気候運動を続けている。

私は最近、書店で『グレタ たったひとりのストライキ』(海と月社)という本を見つけて購入し読んだ。この本はグレタの母親であるマレーナ・エルンマンが、グレタが学校ストライキを始めるまでの背景と家庭環境などについて書いた伝記である。スウェーデンでは2018年に、日本では2019年に出版された。この本の226ページ以降には、学校ストライキを始めたグレタが両親と交わした会話が以下のように紹介されている(下線引用者)。 

グレタはカーペットの上に座っていた。……

「それから、原子力について話す人たち」と彼女は続ける。「あの人たちは、原子力のことしか話題にしない。気候危機や環境危機なんて存在しないかのように、原子力のことだけしゃべりたいの。だから事実を知らない。もっとも基本的なことについても耳にしたことがないんだって。ただ、「じゃあ、原子力についてどう考えるのか? 」って言いたいだけ。そして、未来社会の問題を全部自分の手で解決したかのような笑みを浮かべる。だけど恐ろしいのは、多くの政治家も同じってこと。内心では、原子力ではもう解決できないって知っているのに、同じことを繰り返してる」

「科学者はどう言っているの?」と私が聞くと、スヴァンテが答えた。

「IPCCは、原子力は大きな包括的解決策の小さな部分にはなりうると言っている。でも、エネルギー問題は再生可能エネルギーでしか解決できないとも言っている。どっちにしても、決定するのは科学者の仕事じゃない。気候研究の科学者たちは、政治や現実の条件を考慮しない原子力に置き換えるなら、明日にでも何千もの発電所が必要になる。だけど、原子力発電所は完成までに10~15年はかかる。そんな事実は反映されてないんだ」……

「そう、私たちには新たな非化石燃料が膨大に必要。それも、いますぐ」とグレタは言った。「いちばん安くて早いベストの代替手段に投資する必要がある。それなのに、どうして建設に10年もかかるものに投資しなくちゃいけないの? 太陽光や風力を利用した発電所なら数ヵ月で完成するのに、どうして、どの会社も投資したくないほど費用のかかるものに投資しなくちゃいけないの? 太陽光や風力ならずっと安いし、しかも分単位でコストが下がっている。全然リスクがないものがほかにあるのに、どうしてリスクが高いものに投資しなくちゃならないんだろう? 既存の核廃棄物の最終処分の問題だって解決してないのに。それに、すべての化石燃料を原子力に置き換えるとしたら、今日から毎日ひとつずつ原子力発電所を完成しなくちゃ間に合わない。建設に必要なエンジニアを教育するだけでも100年単位の年月が必要なのに。だから原子力は実現可能な代替手段じゃない。そんなことはとっくにわかってる。なのに、どうしてその話ばかりする人たちがいるの? 私、ほんとうに怖い。政治家って、こんなこともわからないほど馬鹿なの? それとも、時間を無駄にしたいの? どっちがひどいことなのかわからないけど」

「原子力の問題は、多くの人たちにとって、すごく大きなシンボルなんだろうね」とスヴァンテが言い、アイランドキッチンのスツールに座った。「もし気候の話をしたくないんだったら、原子力の話題を持ちだすことだ。そうすれば、そこで話が止まってしまうから。原子力は、気候問題の解決を遅らせたい人たちにとって最良の友だ。自分もそうだったから、よくわかるよ。原子力発電を続けることはいい解決策だと、僕も以前は考えていた。それを完全に閉鎖しろと主張する環境活動家たちに対し、なんて後ろ向きなんだとうんざりしていた。人類は常に問題解決できるんだと、僕は信じたかったんだと思う。これまでだって、どんな解決策だって見つけてきたじゃないかってね。だから、現状の社会秩序を変える必要もないし、行きたい場所に旅行に行けばいいって。こっそり憧れていたレンジローバーも買えるって」……

君は原子力を話題にするのを絶対に避けたほうがいい。人々が完全な解決策について話さないのは、それに興味がないからだろう。5年や10年前だったら、また違ったかもしれない。そのころには、原子力発電の拡大は解決策の一部だという気運がまだあった。でも、べつの危機が起こってしまった

◆グレタの原発観

私はこの本を読んで、グレタさんに手紙を書いた時の自分の認識が誤りであったことに気付かされた。両親との会話の中で、グレタは「全然リスクがないものがほかにあるのに、どうしてリスクが高いものに投資しなくちゃならないんだろう? 既存の核廃棄物の最終処分の問題だって解決してないのに。……だから原子力は実現可能な代替手段じゃない。……私、ほんとうに怖い。」と言っている。

グレタに手紙を書いた時私は、彼女が原発の危険性や害悪についての認識が不十分なために原発を容認するような発言をしているのだと思っていた。しかし、この会話からは、グレタは原発のリスクも害悪も充分認識していることがうかがえる。

しかし父親のスヴァンテは「君は原子力を話題にするのを絶対に避けたほうがいい」とアドバイスする。その後に続く「人々が完全な解決策について話さないのは」以降の父親の発言は、何度読んでも意味がわからない。

彼が「別の危機が起こってしまった」と言っているのはもしかしたら福島原発事故のことを指しているのかもしれない。だとしても、そのことをもってなぜ「原子力を話題にするのを絶対に避けたほうがいい」ということになるのだろうか? そして彼は「原子力発電を続けることはいい解決策だと、僕も以前は考えていた」と言いながら、その考えがどう変わったのかについては具体的に何も語っていないのである。

両親との会話の中でグレタは「それから、原子力について話す人たち……は、原子力のことしか話題にしない。気候危機や環境危機なんて存在しないかのように、原子力のことだけしゃべりたいの。」と言っている。ここでのグレタのコメントは事実に反している。

グレタがここで「原子力について話す人たち」と言う対象が原発反対派のことか推進派のことか、あるいは両者を指しているのかは明確ではない。いずれにしても、原発推進勢力は「気候危機や環境危機なんて存在しないかのように、原子力のことだけ」話してきたわけではない。彼らは地球温暖化が世界的な共通認識になった1980年代以降1貫して、CO2を排出しない原発は温暖化対策に有効であり、気候危機対策のためにこそ原発が必要だと主張し続けてきたのである。グレタはなぜか、その重要な事実をオミットしている。

この本の読者の多くは、グレタは原発に反対だという印象を持つだろう。確かにグレタはこの本の中で原発に批判的な発言をしている。しかしグレタが本当に原発に反対であるなら、日本の一部の環境団体のように「原発にも化石燃料にも反対」と唱えるべきなのだが、彼女は運動の中では原発への反対は1切主張せず、もっぱら化石燃料反対を訴え続けている。彼女は理由不明な父親のアドバイスに忠実に従っているのだ。

2021年9月24日、グレタはドイツに乗り込み、「ドイツは気候変動の最大の悪者の一人だ」と演説した。ここでのグレタには、福島原発事故の教訓に学び脱原発を決めたドイツ政府の功績など眼中にないかのようである。

◆原発の「救世主」となったグレタ

こうして、グレタ・トゥーンベリは原子力発電の「救世主」となった。2011年の福島原発事故によって深刻な打撃を受け息をひそめていた原発推進勢力は、グレタが火をつけた気候運動によって反転攻勢の足掛かりをつかんだ。

グラスゴーでのCOP26開催中の2021年11月9日、フランスのマクロン大統領は「他国に依存せず、温室効果ガスも排出しない電源を確保していくため」福島原発事故以来ストップしていた原発の新設を再開する方針を発表した。

2022年1月1日、欧州委員会はEUタクソノミーに原発を含める方針を打ち出し、7月6日の欧州議会で最終決定した。韓国では2022年5月に発足した尹錫悦政権が、前政権の脱原発政策を転換し、脱炭素推進のためと称して原発回帰にかじを切った。

岸田政権はGX(グリーントランスフォーメーション)を推進して脱炭素社会を実現するという名目で、2023年5月12日にGX推進法を、5月31日にGX脱炭素電源法を、それぞれ国会で可決・成立させた。すべて気候危機対策を謳った原発推進である。

グレタはそうした原発推進の動きに対して反対を表明しない。それどころか2022年10月、ドイツ公共放送ARDのインタビューで、気候保護のために原発は現時点でよい選択かと問われ、「それは場合による。すでに(原発が)稼働しているのであれば、それを停止して石炭に変えるのは間違いだと思う」(『毎日新聞』電子版2022年10月14日付)と答えたことが報じられた。

この発言は原発の積極推進を主張するものではない。しかし世界的な環境活動家グレタが気候危機対策に原発が有用だと改めて認めたことは、世界の原発推進勢力にとって絶大な激励のメッセージとなったはずだ。

2021年に私がグレタさんに1通目の手紙を書いてから2年近くが経つ。返事はまだ来ない。かつて自分自身が語った「原子力は実現可能な代替手段じゃない」という言葉とは真逆の方向に向かっている今の世界の状況を彼女はどう見ているのだろうか。あるいは、これは彼女自身の当初の目論見通りの結果なのだろうか? グレタの運動は、原子力を「実現可能な」代替手段として蘇らせる上で、大きな役割を果たしてきたように見える。

私は折りを見て、彼女に2通目の手紙を書きたいと思っている。「あなたが本当に地球環境を憂うるなら、原発廃絶のためにこそ運動してほしい」と。(完)

気候危機運動の旗手 グレタ・トゥーンベリさんへの手紙
〈前編〉彼女がダボス会議で行った演説内容への疑問
〈後編〉そして彼女は原子力発電の「救世主」となった

本稿は『季節』2023年秋号(2023年9月11日発売号)掲載の「グレタ・トゥーンベリさんへの手紙」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ・こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

『季節』2023年冬号
〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで

《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫
私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

気候危機運動の旗手 グレタ・トゥーンベリさんへの手紙〈前編〉 彼女がダボス会議で行った演説内容への疑問 原田弘三

◆気候危機運動の旗手 グレタ・トゥーンベリの誕生

グレタ・トゥーンベリは、オペラ歌手のマレーナ・エルンマンと俳優スヴァンテ・トゥーンベリの長女として2003年1月3日ストックホルムで生まれた。2011年に気候変動について初めて知り、なぜ気候変動の対策がほとんど行われていないのか理解できなかったため、落ち込んで無気力になり、その後アスペルガー症候群と診断された。

2018年8月、15歳のグレタは「気候のための学校ストライキ」という看板を掲げて、より強い気候変動対策をスウェーデン議会の前で呼びかけを始めた。他の学生も自分のコミュニティで同様の抗議活動に参加し、「未来のための金曜日(Fridays for Future)」の名前で気候変動学校ストライキ(School Climate Strike)運動が組織された。グレタが2018年12月のCOP24で演説して以降、学生ストライキは世界各国に広がり、世界の若者の間に気候危機運動が大きな広がりを見せた。

◆「グレタ・トゥーンベリ 気候変動の最前線をゆく」というTV番組

私は2021年7月18日にBS朝日から放映された「グレタ・トゥーンベリ気候変動の最前線をゆく」という番組を視聴した。この番組はBS朝日のホームページで以下のように紹介されている。

「世界で最も影響力を持つ環境活動家、グレタ・トゥーンベリ。その力強いスピーチで、人々の心を動かしてきた彼女は、次のように打ち明けます。『私の声ではなく、科学に耳を傾けてほしい』。この番組は、18歳を迎えた彼女が、大学を休学して世界中を旅した1年間に密着。各地の国際会議に赴き、演説を行う舞台裏や、気候変動の実態に触れるため、世界中の様々な土地を訪ね、科学者たちと対話を重ねる姿を記録します。……英国BBCが制作した最新の2作を解説情報とともにお届けします。」

番組ではグレタが、①カナダ・ジャスパー国立公園、②カナダ・アサバスカ氷河、③アメリカ・カリフォルニア州パラダイス村、④スウェーデン・ヨックモック、⑤ポーランド・ベウハトゥフ石炭発電所、⑥スイス・ボンド村などの気候変動の現場を訪ね歩く姿が映し出されていた。

⑤ポーランド・ベウハトゥフ石炭発電所の場面についてBS朝日のHPでは「EU域内で最大の石炭発電所であり、最もCO2を排出している施設を訪ね、当事者と対話する。化石燃料からの脱却の難しさを学ぶ。」と紹介されている。

グレタはポーランドの火力発電所を視察し、それに続いて廃坑になった炭坑を訪れ元炭鉱労働者たちと交流する。炭坑の中でグレタは元炭鉱労働者たちに歓待され、「私たちはエネルギー転換のために職を失ったが、私たちはあなたの考えは正しいと思う。今後もぜひ頑張ってほしい」といった励ましの言葉を受ける様子が映し出される。

その後、その体験を踏まえてダボス会議(2020年1月21日)で演説し、以下のように言う。

「先週私は職を失ったポーランドの炭坑労働者の方々と会いました。彼らでさえ諦めていませんでした。むしろ変わらなければならないという事実をあなたたち以上に理解していました。」

私はこの発言に問題を感じた。なぜなら、グレタが訪れたポーランドでは再生エネルギーに加えて代替主力電源として原発の建設が進められており、将来的には代替電源の約5割を原発でまかなう予定になっているからである。その事実と考え合わせると、彼女の発言は代替電源としての原発の推進を擁護しているように聞こえる。

◆グレタ・トゥーンベリさんへの手紙

彼女の発言の背景には、原発の危険性や有害性の認識の不足があると考え、私は彼女に手紙を書くことにした。そして以下の手紙を英文で書いて2021年9月1日に送った。

 グレタ・トゥーンベリ様

 私は日本の東京に住む市民です。

 今回お手紙を差し上げたのは、最近日本で放映された、あなたの活動を紹介するテレビ番組を見て思うことがあったためです。番組の中であなたはポーランドの石炭火力発電所を視察し、続いて廃坑になった炭鉱を訪れ、元炭鉱労働者たちと交流されていました。そしてその体験をもとにダボス会議で演説し以下のように発言されました。「先週私は職を失ったポーランドの炭坑労働者の方々と会いました。彼らでさえ諦めていませんでした。むしろ変わらなければならないという事実をあなた達以上に理解していました。」私はあなたのこの発言に疑問を感じました。なぜならポーランドでは代替電力源として原発の建設が進められており、将来的には代替電源の約5割を原発でまかなう予定だと聞いているからです。その事実と考え合わせると、あなたの発言は代替電源としての原発の推進を擁護しているかのように聞こえてしまいます。

 ご存じのように、日本のフクシマでは2011年に深刻な原発事故が起きました。事故後、放射能汚染から逃れるため何万もの人々が避難生活を余儀なくされ、10年経った今もその多くが故郷に戻れないままなのです。私たち日本人の大多数は、もうあのような恐ろしい事故被害をもたらす原発は使用したくないと思っています。そして私はまた、他のどの国においても原発を推進してほしくないと思っています。なぜなら原発事故がひとたび起きれば、放射能汚染が国境を越えて広がるからです。1986年のチェルノブイリ事故の際そのような事態が起きたことをあなたもご存じのことと思います。

 私はあなたが、地球環境の向上のために勇気ある行動を続けてこられたことを知っています。しかし今私があなたに知っていただきたいと思うことは、日本に住む人々にとって環境への最大の脅威は原子力発電だということです。私は先日のテレビ番組の中であなたが世界各地の気候変動の現場を訪ねて歩く姿を拝見しました。私は、機会があればぜひあなたが日本に来てフクシマの現状を見ていただくことを希望します。そして、原発による環境破壊の実態を直接見ていただき、原発により苦難を味わっている多くの日本人の願いを感じ取っていただきたいと思います。

どうか、今後あなたが活動を進める際、深刻な環境破壊の実例であるフクシマを念頭に置いてください。そして、あなたの発言や行動が原子力発電の推進につながることがないよう配慮してください。そのことを私は日本の一市民として切に望みます。      敬具

(つづく)

本稿は『季節』2023年秋号(2023年9月11日発売号)掲載の「グレタ・トゥーンベリさんへの手紙」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ・こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号

通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫
私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

「気候危機」論とは何か〈後編〉 最優先の課題は、原発の廃絶=脱原発である 原田弘三

◆「気候危機」対策の現況と評価

① COP26合意の背景

2021年11月、英国グラスゴーで開催されたCOP26会議で、産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑えることで合意、2050年までに世界のCO2排出量を実質ゼロにすることが世界目標となった。この決定プロセスについて、朝日新聞編集委員原真人氏は、以下のように書いている。

 ここ数年、世界を脱炭素の急進路線に一気にかじを切らせた立役者はおそらくグレタ・トゥンベリさんや環境NGOではなく、世界の金融ネットワークである。
 いま欧米金融界を中心に機関投資家、資産運用会社、投資コンサルティング会社などがこぞって脱炭素をめぐる国際的な指針づくりを進めている。企業が脱炭素にどれだけ熱心か情報を詳しく開示させ、市場で適正に評価するためだ。脱炭素市場に巨額の投資を呼び込もうという思惑である。仕掛け人は米投資銀行出身でカナダと英国の中央銀行総裁を歴任し、いまは国連の気候変動問題担当特使を務めるマーク・カーニー氏だ。同氏が提唱して発足した金融・投資家連合は「脱炭素に30年間で100兆ドルを投資しうる」と宣言している。狙うは化石燃料を利用する発電所やガソリン車を排し、代わって再生可能エネルギーや電気自動車への転換を1気に進めること。総とっかえの投資ブームを金融からの強力な締め付けで実現しようというのだ。(中略)
 かつて地球温暖化外交で日本政府の交渉官を務めた有馬純・東大特任教授は「いまや温暖化そのものが巨大ビジネスになった。金融や再エネ業者、環境NGO、学者、そしてメディアも含めて1種の気候産業複合体、『温暖化ムラ』とも言えるような1大勢力ができている」と指摘する。
 世界経済は1970年代はインフレで、80年代以降は政府や民間の借金積み上げで成長を遂げてきた。それも行き詰まり、昨今は中央銀行のお金のばらまきが頼りだ。それでも低成長から脱せないことに危機感を抱く金融・投資家連合が、次なる成長エンジンとして見込んだのが脱炭素マネーということか。(『朝日新聞』2021年12月22日付)

この記事は現代世界における脱炭素の位置付けを的確に描写している。1997年の京都議定書で設けられた排出権取引制度を通じてCO2の金融商品化が進んだことも、欧米金融界が脱炭素を後押しする大きな動機になっていると思われる。

欧州では月間10億~15億トンの排出権が売買され、月間500億~750億ユーロ(約6・5兆~9・8兆円)の巨大市場を形成している(『週刊東洋経済』2021年7月31日号 高井裕之「脱炭素で活況呈するEU排出権市場」)。「気候危機」論が普及し脱炭素対策が進めばこの排出権市場が拡大し、金融資本家にとっての利潤獲得機会が増大する。

脱炭素は、欧米金融資本の利潤獲得に貢献するものである。

② グレタ・トゥーンベリ氏の原発への態度

2021年7月18日にBS朝日から「グレタ・トゥーンベリ気候変動の最前線をゆく」という番組が放映された。この番組は英国BBCが18歳を迎えた彼女が大学を休学して世界中を旅した1年間に密着取材したドキュメンタリーを再構成したものである。

この番組の中でトゥーンベリ氏はポーランドの火力発電所を視察し、それに続いて廃坑になった炭坑を訪れ元炭鉱労働者たちと交流する。その後、その体験を踏まえてダボス会議(2020年1月21日)で演説し以下のように言う。

「先週私は職を失ったポーランドの炭坑労働者の方々と会いました。彼らでさえ諦めていませんでした。むしろ変わらなければならないという事実をあなた達以上に理解していました。」

この発言にはトゥーンベリ氏の原発容認姿勢が表れている。彼女が訪れたポーランドでは、再生エネルギーに加えて代替主力電源として原発の建設が進められており、将来的には代替電源の約5割を原発でまかなう予定になっている。その事実と考え合わせると、彼女の発言は「CO2削減のためには原発を使ってもよい」という主張に他ならない。

彼女は2022年10月、ドイツ公共放送ARDのインタビューで、気候保護のために原発は現時点でよい選択かと問われ、「それは場合による。すでに(原発が)稼働しているのであれば、それを停止して石炭に変えるのは間違いだと思う」と答え(『毎日新聞』電子版2022年10月14日付)、原発容認の姿勢をより明確に打ち出している。 

③ IPCCの原発への肯定的評価

IPCCが2022年4月に発表した第6次評価報告書第3作業部会報告書には「原子力は、低炭素エネルギーを大規模に供給することができる(高い確信度)」と書かれている。

しかしこの認識自体、事実に照らせば誤りである。原発がCO2を出さないのは発電場面のみであり、ウラン燃料の採掘・精錬・運搬、施設の建設、運転終了後の廃炉作業、使用済み核燃料の保管・処理まで含めれば、膨大な量のCO2を排出する。

IPCCが提唱するCO2の排出削減という目的に照らしても、原発は極めて不合理な選択である。IPPCがそのような不合理な主張をしているという事実を見過ごしてはならない。

◆むすび 脱炭素から脱却し本来の環境保護を

メディアはグレタ・トゥーンベリ氏を環境活動家と呼んでいる。しかし、先に見たようにトゥーンベリ氏は「気候危機」対策としての原発を容認している。言うまでもなく原発こそが最悪の環境破壊の元凶であり、それを容認するような運動を環境運動と呼ぶことは適切ではない。「気候危機」論と環境保護を同1視すべきではないのである。

石燃料の無制限な使用が環境に悪いことは誰も否定しえない。化石燃料の資源は有限であり、その使用は大気汚染をはじめ各種の環境汚染の発生を伴う。従って、「化石燃料の使用を抑制しよう」という「気候危機」論のテーゼは、環境保護と共通点がある。

しかし、CO2の排出が気候に悪影響を与えるため脱炭素を進めよう、という点において、「気候危機」論は環境保護とは別物である。CO2自体は汚染物質ではなく植物の生長に必須の物質である。しかし「気候危機」論においてはCO2を出すもの=悪、CO2を出さないもの=善という2項対立が作り出され、実際には環境に最も悪い原発が推進される。

欧米金融資本は脱炭素に利潤の源泉を見出し、強力に脱炭素を後押しし、各種国際機関、各国政府も脱炭素を推進する政策を打ち出している。しかし脱炭素は原発推進を促すため結果として深刻な環境破壊をもたらす。

原発以外の手段で脱炭素を進めればよいという議論もある。しかし化石燃料を一挙に再生可能エネルギーに置き換えることは困難なため、脱炭素を是認すれば「足りない分は原発で」という論理によって原発推進に道が開かれてしまう。そもそも「気候危機」論自体が科学的に不確かな議論である以上、脱炭素に同調すべきではないのである。

脱炭素は端的に言えば資本の論理である。われわれは資本主義社会に生活している以上、それに順応した生活形態を余儀なくされる。例えば生活の糧を得るために営利企業に労働力を提供し賃金を得る必要がある。しかし、だからと言ってわれわれ市民に資本主義体制を強化する義務はない。同様に、市民には脱炭素に加担する義務はないのである。 

市民は、IPCCの見解やそれに追随し無闇に危機感を煽るメディアの報道を額面通り受け取ることをやめ、脱炭素から距離を置くべきであろう。市民は真に環境によいことは何かを自分の頭で考え、大気、水、土地の汚染を防止し自然の植生を守り育てるという、環境保護本来の理念に立ち返るべきである。そうした環境保護の着実な活動こそ、今日の社会で求められている運動だと言える。その意味で、原発の廃絶=脱原発が最優先の課題であることは言うまでもない。(完)
           
◎「気候危機」論とは何か
〈前編〉二酸化炭素の人為排出は本当に気候に甚大な悪影響を与えているのか?
〈後編〉最優先の課題は、原発の廃絶=脱原発である

本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「『気候危機』論についての一考察」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ・こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号

通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫
私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

「気候危機」論とは何か〈前編〉二酸化炭素の人為排出は本当に気候に甚大な悪影響を与えているのか? 原田弘三

◆はじめに

岸田政権は今年2月に「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定したが、その中で二酸化炭素(CO2)を出さないエネルギー源として原発の活用が提唱されている。この背景にはCO2の人為排出が気候に危機をもたらしている、とするいわゆる気候危機論がある。そこで「気候危機」論とは何か、それはどのような意味を持つのか、発生以来の経過をたどりつつ検証してみたい。

◆「気候危機」論の概要

本稿において「気候危機」論という用語は、20世紀半ば以降の温暖化が人為起源のCO2などが主な原因で起き、それにより地球環境が危機に瀕しているとする考え方を指す。国際連合の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次報告書は、20世紀半ば以降の「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と述べている。そして、世界の平均気温が上昇していくにつれて、北極海の海氷面積の縮小、海面水位の上昇、洪水の多発、食料生産力の低下、サンゴ礁の消失などが起こるとされる。

「気候危機」論の高まりを受けて、「脱炭素」に向けた取り組みが世界的に推進されている。脱炭素とは、代表的な温室効果ガスであるCO2の排出量をゼロにしようという取り組みである。日本では2020年10月に、当時の菅義偉首相が「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と所信表明演説の中で述べた。これを受けて、環境省では「2050年までに年間で12億トンを超える温室効果ガスの排出を実質ゼロにすること」を目標として、産業構造や経済社会の変革に取り組むこととした。

◆「気候危機」論の歴史

1896年、スウェーデンの物理学・化学者スヴァンテ・アレニウスが石炭などの大量消費によって今後大気中のCO2濃度が増加すること、CO2濃度が2倍になれば気温が5~6℃上昇する可能性があることを述べた。この説は、社会の一部には浸透していた。しかし1970年代頃までは、「地球寒冷化」の方が学会の主流を占めていた。

1979年、スリーマイル島原子力発電所事故の発生後、アメリカ合衆国大統領行政府科学技術政策局から「気候に対する人為起源CO2の影響」について諮問を受けた全米科学アカデミーがこれらの学術報告をまとめ、「21世紀半ばにCO2濃度は2倍になり、気温は3±1.5℃(1.5~4.5℃)上昇する」とするチャーニー報告を発表した。

1988年6月23日、アメリカ上院エネルギー委員会の公聴会において、NASA所属のジェームズ・ハンセンが「最近の異常気象、とりわけ暑い気象が地球温暖化と関係していることは99%の確率で正しい」と発言した。この後雑誌やTV放送等のメディアを通して、地球温暖化説が一般に広まり始めた。そして同年8月には、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が設立された。

1992年6月にはリオ・デ・ジャネイロで環境と開発に関する国際連合会議(地球サミット)が開かれ、気候変動枠組条約(UNFCCC)を採択した。UNFCCCでは定期的な会合(気候変動枠組条約締約国会議、COP)の開催を規定した。

1997年のCOP3では、初めて具体的にCO2排出量の削減を義務づける内容を盛り込んだ京都議定書が議決された。

2006年5月、元米国副大統領アル・ゴア氏が出演するドキュメンタリー映画『不都合な真実』が公開された。翌2007年10月、人為的な気候変動問題の啓発に対してアル・ゴア氏がノーベル平和賞を受賞することが発表され、同年12月にIPCCと共に受賞した。

2015年12月12日、COP21においてパリ協定が採択された。この中で2020年以降の地球温暖化対策を定めている。産業革命前からの世界の平均気温上昇を「2度未満」に抑え、加えて平均気温上昇「1.5度未満」を目指すことが合意された。

2018年8月、15歳のスウェーデン人グレタ・トゥーンベリ氏が「気候のための学校ストライキ」という看板を掲げて、より強い気候変動対策をスウェーデン議会の前で呼びかけを始めた。他の学生も自分のコミュニティで同様の抗議活動に参加し、「未来のための金曜日(FridaysforFuture)」の名前で気候変動学校ストライキ運動が組織され、世界の若者の間に気候危機運動が大きな広がりを見せた。

◆「気候危機」論への疑問

「気候危機」論について筆者はいくつかの理由から疑問を持っている。以下にその要点をのべる。

① 『不都合な真実』における誇張

アル・ゴア氏は2006年の映画『不都合な真実』への出演を通じた「気候危機」問題の啓発によってノーベル平和賞を受賞した。しかしこの映画は2007年、イギリスで学校での上映に反対するグループによって上映差し止めを求める提訴を英国高等法院に起こされている。その結果裁判所は、上映差し止めの請求を退けたうえで、誇張がみられる9つの問題点を指摘し「注釈をつけて」上映するようにとの判決を下した。

例えば、映画ではグリーンランドの氷床が融解し海面上昇が「近い将来」20フィートに及ぶとしているが、科学者の合意では数千年かかり「近未来に海水面が上昇するというのは極端な主張で、人騒がせである」としている。

② ツバル水没の原因

京都議定書の採択と同時期、気候変動の影響による海面上昇でツバルという国が沈む、という報道が相次ぎ、ツバルは「温暖化で沈む国」として世界の注目を集めた。しかし、2021年に環境ジャーナリストの石弘之氏は、現地取材を踏まえてツバルは沈んでおらず陸地面積はむしろ拡大している、と伝えている。(『東洋経済ONLINE』2021年7月27日付 石弘之「『温暖化で沈む国』は本当か? ツバルの意外な内情」)

石氏のレポートによれば、1971年から2014年まで、少なくとも8つの環礁と、約4分の3の岩礁で面積が広くなっており、同国の総面積は73.5ヘクタールも拡大(国土面積約26平方キロメートルに対し2.9%の増加)していたという。これは波によって運ばれた砂が堆積して、浜が広がったことによる。ではなぜツバルで水没が起きていたのか。ツバルの首都の人口は、独立前の1973年には871人だったが、独立した5年後の1979年には2,620人に急増している。これが湿地や低地に多数の住居や行政施設の建設、井戸からの地下水汲み上げの増加と下水の垂れ流しを引き起こした。

同じ太平洋上の島でもハワイは水没していないことと考え合わせると、ツバル水没の原因は地球温暖化による海面上昇ではなく、人口増加と地下水利用に伴う地盤沈下と考えるのが妥当であろう。

③ 温室効果ガス以外の気候変動要因の捨象

地質学上「縄文海進」と呼ばれている事象がある。海岸沿いにあるはずの貝塚が、関東平野のかなり内奥部で多数発見されている事実から、縄文時代に属する6000年前には現在の関東平野の相当部分が海面下にあったことがわかった。気温も1~2度高かったことが判明している。

また、「マウンダー極小期」という事象もある。1645年~1715年の70年間は、それ以前にくらべて地球の平均気温が0.2度下がったことが判明しており、当時のロンドンではテムズ川が凍りつき、氷の上を人が歩いて渡っていた。またヨーロッパ全土で食糧生産が減少し、大規模な飢饉が発生した。この寒冷化の原因は太陽黒点の活動減少と考えられている。(『エコノミスト』2021年6月22日号、鎌田浩毅「太陽黒点の変化も気温に影響」)

「縄文海進」も「マウンダー極小期」も、人間活動の結果起きた事象ではない。したがって、気温上下や海面位の上下は過去数百年、数千年の時間軸では人間活動とは全く無関係に起きていたのであり、同様のことは今後も起こりうる。しかしIPCCは温室効果ガスの人為排出以外の気候変動要因を1切捨象して、温室効果ガスのみを問題視しそれへの対策を論じている。

CO2の人為排出が気候に影響を与えている可能性はないとは言い切れない。しかし、上記の諸事実から、CO2の人為排出が気候に甚大な悪影響を与えているという説には大きな疑問がある。したがって、CO2の排出を早急に削減すべきだという主張は合理的根拠を欠くと言わざるを得ない。(つづく)

本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「『気候危機』論についての一考察」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ・こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号

通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫
私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!