◆野党共闘が奏功した静岡補選

132におよぶ与野党一騎打ちの小選挙区で60前後が激戦になり、その大半が野党共闘の有利に進んでいる。その実態を裏付けたのが、10月24日の参院補選静岡選挙区である。

無所属新人の山崎真之輔を立憲民主と国民民主が推薦し、自民党の新人を1万6000票あまりで破った(56万票)。共産党候補も10万票を獲得し、もともと革新系が強い静岡とはいえ、野党共闘の効力が証明された格好だ。

いっぽう、自民党王国の参院山口選挙区では、共産党候補が7万3000票、N党候補5000票と、自民候補の21万票に大差をつけられ、野党一党単独候補では太刀打ちできないことが、あらためて立証された。

一騎打ちの選挙区で相手に10ポイント以上の差をつけ、当選が有力な候補は43人(自公37、立憲16)である。「自公」「立憲」候補が10ポイント差の範囲で競り合っているのは57選挙区にのぼる。そのうち、前回野党候補が敗れた選挙区は39もあり、与野党逆転のオセロゲームの可能性も十分あり得るのだ。

◆一騎打ちでの激戦区

上記の静岡で、ことに話題となっているのは民主党(民進党)から希望の党(集団移行)の旗振り役だった細野豪志であろう。

ここは立憲民主の小野のりかず、無所属で出馬の細野豪志、自民党の吉川たけるの三つ巴となった。

周知のとおり、細野は希望の党崩壊後は自民党(二階派)入党に転じ、支持母体だった連合を裏切るという破天荒な動きに出ていた。だが、反共産党的な言辞いがいに大義名分のない移行は、地元の怒りを誘いこそしても、自民党の一部からしか歓迎されていない。まだ50歳と政治家としては若手の細野が、単なる風見鶏に終わるのか、自民党政治家として大成するのか、注目に値すると提言しておこう。

さらに他の選挙区の情勢を見てゆこう。

小選挙区制導入以降、8回の選挙で自民が議席を独占してきた東京25区は、前回は自民の井上信治がダブルスコアで圧勝したが、野党一本化で状況は一変している。井上と立憲の島田幸成氏横一線で並ぶ展開になっているのだ。

福島4区は前回選挙では、希望・共産・社民と野党候補が乱立していた。希望の小熊慎司はわずか1200票差で自民菅家一郎に敗れたが、今回は立憲から出馬の小熊氏に一本化され、菅家氏とは10ポイント以上の差をつけて優位に立っている。

自民の桜田義孝が3連勝中の千葉8区も、野党統一候補の本庄知史(立憲新人)が桜田に大差をつけている。桜田義孝は五輪担当大臣でありながら「パラピック」発言、サイバーセキュリティ戦略副本部長でありながら「パソコンは打ったことがない」「(USBを)使う場合は穴を入れるらしいが、細かいことは、私はよくわからないので、もしあれ(必要)だったら私より詳しい専門家に答えさせるが、いかがでしょう」などと言う無能政治家だが、無能であることと選挙で強いのは別問題で、2009年の与野党逆転選挙以外は、すべて選挙に勝ってきた7期目のベテラン議員である。

与野党一騎打ちが激戦となっている証左として、野党有力候補の圧勝という情勢がそれを裏付けてもいる。

与野党一騎打ちとなった香川2区の玉木雄一郎(国民民主)は圧勝の情勢、沖縄1区も赤嶺政賢(共産)が当選圏である。立憲が57選挙区を次々と制すれば、まさかの政権交代も夢ではなくなる。

◆維新の三倍増は、自民党への忌避か

野党共闘を「選挙談合」と批判している維新の会が、専門家の分析では三倍増(公示前の11から30前後へ)となりそうだ。小選挙区では大阪いがいは苦戦しているものの、比例で得票を伸ばすと見られている。明らかに保守層の自民忌避であろう。

久々に候補者4名という総裁選挙で求心力を回復したかにみえたが、自民党らしい収束の仕方、すなわち派閥とキングメーカーの争闘と妥協で、岸田新政権は難破寸前といえよう。従来の枠組みを取り払い、清新な印象の公約もことごとく覆し、政権自体の人気は急落している。何を喋っているのか、よくわからない。野党党首との討論のさいにも基本的な事実を間違える(立憲と共産党の公約をちゃんと読んでいない)のポンコツぶり、いっぽうでは意味不明の饒舌さに、岸田の政治能力が疑われはじめているのだ。

◆一掃される安倍チルドレン

日に日に、自民凋落の気配が濃厚となるなかで、危機感を強めているのが安倍元総理である。当落線上にある細田派の18人のうち、安倍チルドレンが6人もいるのだ。

子飼いの政治家が一掃されかねない情勢なのだ。まさに驕れる者も久しからず、である。岸田自民党の敗北というよりも、安倍晋三長期政権の政治的凋落こそが、国民の審判になるのかもしれない。(了)

当落線上にある細田派18人のうち、安倍チルドレンが6人(名前色付き)を占める

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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菅義偉の総理降板で、与野党の政権交代はほぼない。という結論で、それではどのくらいの自民敗北になるのかが、今回の総選挙の見どころとなっていた。自民党幹部は単独過半数は大丈夫、という見方であると報じられている。

ところが、である。各報道機関の世論調査、および調査機関の選挙分析によれば、自民単独過半数どころか、与党(自公)の過半数すら危ういのではないかという数字が出ているのだ。

小選挙区289のうち、自公候補と野党共闘の「一騎打ち」となったのが132。自民党は公示前勢力(276議席)から30~40議席を減らすとみられている(自民党関係者)。じつに63選挙区で接戦となっているのだ。

公明党も9選挙区のうち2選挙区が接戦で、比例区をふくめて公示前勢力の29議席確保が微妙であるという。

つまり与党の過半数(233)確保がギリギリではないかと、大半のメディア・調査機関が選挙予測をはじき出しているのだ。派手に政策論争をかわし、メディアを独占したかの様相だった総裁選挙の勢いはどこへ行ったのだろうか。

たしかに自民党は、比例代表投票先の調査(共同通信、10月16・17日)で29.6%を占めている。2位以下、立憲民主党は9.7%、共産党が4.8%、維新の会3.9%、国民民主0.7%、れいわ新選組0.5%、社民党0.5%で、野党共闘(4党)の15.5ポイントを大きく引き離している。公明党の4.7%と合わせれば、安定多数は確実視されても不思議ではない。

しかるに、同調査ではじつに39.4%の回答が「まだ決めてない」のである。

◆自民党の「選挙の神様」が予測する30~40減

元自民党事務局長で「選挙の神様」と呼ばれる久米晃氏によると、自民党30~40減の根拠はこうだ。

「4年前の総選挙を基準に考えています。野党は、立憲民主党と希望の党に割れて、共産党からも維新からも候補者が出た。あの時、マスコミの何社かが、仮に野党が統一候補を組んでいたら、あるいは立憲、希望が割れなかったらどうなるかシミュレーションして、自民党はマイナス64になったんです。そこから私は、『野党が統一候補を組んだら1+1=2にならないが、1+1=1.5くらいにはなる。そうすると野党協力が進むという前提で自民党はマイナス30くらいになる』と。それを目算にして判断するという考え方です。マイナス30のベースからどれだけプラスにできるのか、あるいはさらにマイナスが増えるのか。うまくいけばマイナス20や10で済む。ただ、国民の期待と不満がどの程度なのか、まだ分からない。最悪マイナス40もある。これからの戦い方次第です」(日刊ゲンダイ)。

久米氏が言う「野党統一候補」は、10月13日に共産党が126人の候補者のうち、一本化のために22人を取り下げることで決着した。社民党関係者によると、「ほぼ90%は一本化が果たせたので、自公をギリギリまで追い詰めることができる」という。

とくに自民党では金田勝年、桜田義孝、石原伸晃、下村博文、松島みどり、後藤田正純、原田義昭、江藤征十郎といった閣僚経験者が当落線上にあるという。公明党も北側一雄 斎藤鉄夫らが危ないという。

与野党逆転の政権交代までは行かないものの、自民党の単独過半数割れが現実のものとなれば、これまでの独善的・強権的な国会運営は続かないであろう。

その現実性を、個別の選挙区でみていこう。

◆石原伸晃と下村博文がピンチ?

もしこの人が落ちたら自民支持者だけではなく、ちょっと国民的なショックではないかと考えられるのが、東京8区(杉並区)の石原伸晃である。

この選挙区は、れいわ新選組の山本太郎代表が出馬表明した直後に撤回したことで、全国的な注目を集めてもいる。最終的に立憲民主党の新人吉田晴美氏が野党統一候補に落ち着いたが、ドタバタ劇で注目度がアップしたかたちだ。日本維新の会の新人笠谷圭司も出馬しており、まさに激戦区として注目をあびる。

前回(2017年)の総選挙では、立憲民主の吉田晴美が石原に約2万3000票差と迫る健闘だった。この時に出馬した共産党候補と得票を合計すれば、石原に約1108票差まで肉薄する計算となる。

その石原伸晃は出陣式の演説でマイクを握った瞬間、最前列の歩道から「何もやってないじゃないか!」と、絶叫して批判を繰り返した女性がいたため、演説を中断する事態となった。

杉並はもともと、新左翼の中核派系の区議・都議が長年議席を得る(現在は区議に二会派5名)ほど、いわゆる革新系の土地柄である。区議レベルでは、自民15人、公明7人、共産6人、立憲4人、新左翼系5人、自民反主流派(維新含む)4人、その他革新系無所属6人。ようするに、自公22人に対して、反自民が25人という構造なのだ。

東京11区(板橋区)の下村博文はどうだろう。前回、下村は104612票だったが、立憲民主の候補が60291票、希望の党が42668票、共産党候補が25426票だった。今回、立民と共産は統一候補とならなかったが、それでも前回票を参考にすれば、下村は1653票差という薄氷の勝利なのだ。

自民党総裁選挙出たことのある石原はもとより、危ない筋からの献金を居直った元文科相の下村博文を、知らない有権者は少ないことだろう。この二人が落選でもしたら、岸田政権の求心力は確実に落ちると断言しておこう。

ふり返ってみれば、8月ごろには自民党の独自調査で、64議席減という数字があったのだ。菅ポンコツ政権がこのまま続けば、確実に政権交代が起きると、この通信でも報じてきたとおりだ。

さらに個別の選挙区情勢に肉薄して、自民単独過半数割れの「危機」を予測していこう。(つづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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◆異例の寄稿タイミングとそれぞれの思惑

財務省事務次官・矢野康治が『文藝春秋』11月号に論文を寄稿した、「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』」が話題を提供してくれた。

むかしなら「省庁の中の省庁」の旧大蔵省の事務次官、霞が関の最高ポストである。公職中の公職者が、在任中に寄稿するのは異例のことだ。

この異例の寄稿の裏には、麻生太郎の岸田政権への直撃異見、および政権が直面する総選挙への牽制があるとされる。この寄稿に、リフレ派の安倍晋三と高市早苗が猛反発するのも、おそらく織り込みずみであっただろう。だが、その政局的な思惑はどうでもいい。

財務省(旧大蔵官僚人脈)=古典経済学派、経済産業省(旧経済企画庁・通産省)=ケインジアンという構造が、いまだに残っていることをこの寄稿および、それへの反発(経産官僚を背景にした安倍・高市ライン)が鮮明にしたといえよう。未読の方のために、矢野の粗雑な論攷を紹介しておこう。

「最近のバラマキ合戦のような政策論を聞いていて、やむにやまれぬ大和魂か、もうじっと黙っているわけにはいかない、ここで言うべきことを言わねば卑怯でさえあると思います」

「数十兆円もの大規模な経済対策が謳われ、一方では、財政収支黒字化の凍結が訴えられ、さらには消費税率の引き下げまでが提案されている。まるで国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話ばかりが聞こえてきます」

与野党ともに、国民生活が窮乏化するおり、生活保障のために交付金を選挙公約に掲げていることへの「警鐘」であろう。

◆矢野は10年前にも同じ論理で経済破綻を提言していた

だが敢えて言うが、矢野の杞憂とはまったく無関係に、国庫には「無尽蔵にお金がある」のだ。なぜならば、貨幣は資源ではなく加工品だからだ。しかも日本の紙幣(日銀券)は「正貨(金銀貨幣)」と交換できない不換紙幣であり、単なる印刷物なのだ。まったく心配ない、造幣局がなくならない限りは。

「今の日本の状況を喩えれば、タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものです。氷山(債務)はすでに巨大なのに、この山をさらに大きくしながら航海を続けているのです。タイタニック号は衝突直前まで氷山の存在に気づきませんでしたが、日本は債務の山の存在にはずいぶん前から気づいています。ただ、霧に包まれているせいで、いつ目の前に現れるかがわからない。そのため衝突を回避しようとする緊張感が緩んでいるのです」

上記の比喩に用いられている「タイタニック」は、いうまでもなく「ハイパー・インフレ」である。だが、ハイパー・インフレで国民経済が破綻すると、はたして言えるのだろうか。矢野は10年前にも同じ論理で経済破綻を提言しているが、それいらい事態は変わっていないではないか。いや、財政破綻によるハイパー・インフレの到来は、25年以上も前から「警鐘」を鳴らされてきたのではなかったか。

財政が破綻するという意味では、国家財政は1000兆円をこえる「借金」で、すでに破綻している。国債の発行過多によって国債の利率が低下し、短期金利の低減のいっぽうで、長期金利が高騰すると考えられている。

そこから、カネの動きが金融機関から不動産に移行し、不動産インフレを生じさせる。好況によるバブルではなく、不況による不動産バブルが発生するというのだ。そこで相対的に金融機関の信用が低下し、金融機関それ自身も貸し渋り傾向となる。

いっぽう、国債金利の低減が円安をまねき、海外資本および投資の海外逃避・輸入農産物の価格高騰、資材の高騰をまねくというものだ。

◆現実にはならなかったハイパー・インフレ

これらはしかし、25年前から言われていたことであって、この四半世紀の史実は、ぎゃくにデフレ・スパイラルという過剰生産を背景にした、低価格競争による不況だった。業界参入の枠を破壊した、規制緩和という新自由主義経済の跋扈がそこにあった。

産業界の枠組みはともかく、労働市場にまで規制緩和を持ち込んだことで、国民の階層化・購買力の低減(消費の低減)、すなわち消費不況を招いてしまったのだ。

これらは経済の実体を生産力と見間違い、消費を軽視した経済音痴の政策が招いたものと指弾せざるをえない。このかんのパンデミックで、外食産業や観光産業という、国民の消費の柱こそが経済の大黒柱であることに、ようやく気付いたのが「分配の必要」なのである。

国債がいくら増えても、日銀がオペレーション買いで引き受けるかぎり、いや発行者が買い支え続けるかぎり、国債という紙切れは円という紙切れに変わって、市中に出回る。問題は国民に「分配」されて、消費に回るかどうかなのだ。

もっと単純に、おカネを際限なく刷ればカネが余って、やがてはハイパー・インフレになる。最後は国家財政が破綻して国民経済が崩壊する。と、純粋に考える人もいるかもしれない。

だが、国家財政が破綻しても、あるいは国民経済が崩壊しても、国民は生き残るのだ。

ハイパー・インフレと呼ばれるものが、物不足・食糧不足によるものであるのは、歴史が教えているところだ。かりに国家財政が破綻しても、それは戦間期ドイツや革命後のロシア、戦後の日本が体験していることだが、物資さえあれば国民は生き残るのだ。

単に生き残ったばかりではない、戦間期ドイツは戦争賠償金にこそ苦しんだが、鉄鋼資本を中心に戦後復興が軍事大国化へとつながった。革命ロシアも列強の干渉と内戦に苦しんだ(戦時共産主義)ものの、スターリン革命という大増産運動で革命後の復興をはたし、戦後は米ソ超大国という冷戦時代に耐えるまで国力を回復した。日本の戦後復興のめざましさは、いうまでもないだろう。韓国の朝鮮戦争後の復興も、20世紀最後の奇跡とも呼ばれたものだ。

ひるがえって現在の日本に、物資不足・食糧不足が現実のものとしてあるだろうか。たしかに貧困から孤独な餓死者が出ているが、国民の大半はダイエットのためにカネを使っているのが現実なのだ。

百歩ゆずって、輸入原材料の高騰から物価が現在の100倍や1000倍になったところで、デノミを行なえば何ということはない。本物の物資不足が訪れるとすれば、矢野の危惧とはまったく関係のない、地球温暖化による干ばつや海産物の枯渇であろう。

そのときにこそ、貨幣経済が崩壊して農本主義が復活するかもしれない。これはある意味、市民農園で野菜を自給している、わたしの個人的な願望でもある。その願望はしかし、なかなか現実のものにはならないと予告しておこう。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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自民党総裁選後、総選挙直前の発行ということもあって、政局の記事が多いかと思っていたところ、このかんの政界の激変を反映してか、慎重な記事が目立った。自民党の総裁選パフォーマンスが自民党支持を押し上げたことで、政権交代にはやや懐疑的にならざるをえないのは仕方がないであろう。そのいっぽうで、専門分野のレポーターの記事が目を惹いた。

◆継続して分析すべき、当面する課題──総選挙とコロナ対策、そして介護保険

 

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大山友樹「なりふり構わぬ公明党の宗教闘争」は、創価学会票の低減が分析されている。自公連立が22年目にはいって、議員数は伸びもせず減りもしない、その意味では固定票をもとにした政治が、ここにきて自民党の長期政権にたいする批判のあおりで、危機を迎えているという。ほかならぬ学会内の矛盾である。

そして公明党は、遠山清彦議員への貸金業者法違反疑惑という地雷を抱えている。総選挙で自民党が単独過半数を割ったときに、連立政権の根幹からヒビが入る可能性は、この事件をどう評価するのか、学会の内部事情にかかっている。

青木泰の「政権選択に求められるコロナ対策」は、10月に入ってからの激減を前に書かれたレポートだが、世代別の感染・死亡率のデータを冷静に分析し、直近の段階での分析が詳しい。このレポーターならではの専門的なレポートの継続を期待したい。

「利用者の知らぬ間に大きく変質 介護保険はなぜ崩壊するのか?」(新田進二)は、ちょっと衝撃である。気になる方は詳読されたい。

◆日大疑惑は検察VS警察の覇権抗争に発展か?

「疑惑まみれの日本大学と検察の攻防」(青山みつお)は、日大附属病院の背任事件にかかる、安倍晋三の関与をさぐっている。青山のレポートによれば、日大の闇カネが錦秋会グループ(大阪の医療法人)に流れ、そこから政治家に流れた可能性があるという。そして検察独自の動機として、黒川弘務検事長の定年延長を画策した、安倍晋三がターゲットだという。

そのいっぽうで、山口敬之(安倍官邸の御用物書き)のレイプ事件を隠ぺい(逮捕中止)した中村格が、警察庁長官に就任している。こちらは安倍の肝入りの人事ではないかと考えられる。したがって日大疑惑は、検察と警察の権力抗争という様相を呈してくる。その中村格については、西道弘(元公安・現イスラム教徒)の連載に詳しい。この筋でのうごきに注目したい。

◆麻生太郎の中東地下水脈

「疑史倭人伝」(佐藤雅彦)は「麻生太郎のイスラム国との腐れ縁」である。なんと、麻生セメント(麻生家)がイスラム国と、本業をつうじて密接な関係にあるというのだ。すなわち、フランスの多国籍セメント企業・ラファルジェの経営に参画し、麻生セメントがイスラム国と共存共栄の関係にあるという事実だ。財閥政治家の本体に、日本ではなくフランス司法当局のメスが入る可能性がある。注目したい。

◆記録されるべき事件

シリーズ「日本の冤罪」(尾崎美代子)は、築地公妨でっち上げ事件である。この事件はテレビの報道特集でも紹介され、警察の現場捜査の恣意性、トンデモない実態を国民が知る契機となった。女性警察官の虚偽通報からはじまり、検事のこれまた恣意的な自白強要(起訴猶予と引き換えの同意)であった。そして国賠訴訟へと発展し、警察の無法を満天下に示すことになる。国賠訴訟という、国民的な利益を知らしめたのも、大きな成果といえよう。こうした事例は、国民の法的権利を担保するスタンダードとして、何度も語られるべきであろう。

◆自衛隊への国民的理解を策する警備出動?

本通信でも明らかにしてきたが、東京オリンピック・パラリンピックへの自衛隊動員問題(警備出動)である。

自衛隊法違反の警備事実が指摘される「東京オリ・パラ後も続く安全・安心の国民監視体制」(足立昌勝)をお読みいただきたい。

かつて、自衛隊は平和憲法の異端児ともいうべき、戦後社会の日陰者だった。それがいつの間にか、国民的な人気職種になりつつあるという。あいかわらず人員不足は変わらないが、自分はならないまでも憧れの職業。愛すべき自衛隊というイメージが定着してきた。軍隊であることを否定しつつも、世界有数の軍事力を誇り、災害救援力では相当の力量があるという。ならば、国会をつうじた国民的な議論を、たとえば災害救助任務の拡大や警備出動の可否として、議論すべきときではないか。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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武家の傀儡から天皇制国家の元首へ、そしてアメリカ民主主義のもとでの象徴天皇制。さらにはアイドル化路線による、国民的な融合性の浸透と、変化をとげてきた。ここに天皇制の可変性がある。

すこし、歴史的解説をしておこう。

さかのぼれば古代においては奈良王朝という、近世の絶対権力に近い強権を振るったこともある。天皇制はその時代に即応した、きわめて柔軟なありかたで生き延びてきた。

天皇家が信仰する宗教においても、同様なことがいえる。古代奈良王朝は仏教を国是としてきた。平安期には上皇が出家して法皇となり、この天皇家の仏教信仰は神道と融合したものだった。鎌倉・室町・江戸期の全般をつうじて、天皇は神仏とともにあり、朝廷文化はそのまま神社仏閣・仏教美術と一体であった。

明治維新による近代において、初めて国家神道が仏教を排撃(神仏分離令による廃仏毀釈)し、天皇家は神道の祭祀を家職にすることとなった。

政治権力による宗教統制は、奈良朝の仏教令(僧尼のの国家免許化)、徳川政権のキリスト禁教(宗門改め制度)いらい、明治時代以降の近代は、きわめて厳格な宗教統制の時代だった。とくに軍事政権とむすび付くことで、その強権性は増したといえよう。

だが、柔軟な可変性があるということは、天皇家の神道祭祀が普遍的なものではないことを意味している。江戸時代までは宮中祭祀(朝儀)も神仏に対するものであって、宗廟とされる伊勢神宮にすら神宮寺が存在したのである。つまり神道は天皇家にとって、絶対的な祭祀ではないのだ。じつは太平洋戦争の敗戦後にも、改宗を具体化する試みがあった。

◆日本民主化のために天皇がキリスト教に改宗する可能性があった

 

ウィリアム・P. ウッダード『天皇と神道―GHQの宗教政策』(サイマル出版会)

事実として伝わっているのは、連合国最高司令官のダグラス・マッカーサーが、日本の民主化の柱として、天皇のキリスト教への改宗を検討していたことである。

プリンストン大図書館収蔵のジェームズ・フォレスタル米海軍長官(当時。後に初代国防長官)の日記によれば、マッカーサーが「天皇のキリスト教への改宗を許可することを幾分考えたが、その実現にはかなりの検討を要する」と発言したことが明記されている。

GHQ宗教課のウィリアム・ウッダード元調査官も「天皇はキリスト教徒になるのではないか」とのうわさが流れた、と回想録に書いている。

また、皇居の警護も担当していたエリオット・ソープGHQ民間情報局局長の回想録には、ローマ法王庁の駐日大使が天皇との会見を何度も要求した経緯が明らかにされている。

こうしてGHQとローマ法王庁を中心に、天皇のキリスト教改宗計画が動き始めていたが、当の昭和天皇はどう考えていたのだろうか。

◆カトリック関係者との接触

じつは昭和23年(1948)に、昭和天皇はふたつのルートからカトリック関係者に接近しているのだ。

カトリック団体聖心愛子会の聖園テレジアというドイツ生まれの修道女。慈生会のフロジャックというフランス人神父がその窓口である。

フロジャックが日本のカトリックの現状をローマ法王庁に報告する前に会い、その後はローマ法王庁から来日したスペルマン枢機卿らの一行と会っている。

さらには、側近の者に地方のキリスト教事情も調べさせている。

それに先立つ1946年9月7日の『昭和天皇実録』によると、元侍従次長の木下道雄が7月28日から8月17日まで、九州でカトリックの状況を視察して天皇に報告しているのだ。牧師の植村環から、香淳皇后とともに聖書の進講を受けてもいる。

1946年は獄中や中国から復帰した共産党員が、本格的な活動を始めた時期である。4月に日比谷公園で「幣原反動内閣打倒人民大会」を開催して7万人を集めている。翌47年には25万人の「米飯獲得人民大会(食料メーデー)」が皇居前広場で開催されている。「朕はタラフク食っているぞ ナンジ人民飢えて死ね」と書いたプラカードが掲げられ、デモ隊の一部が坂下門を突破して皇居に乱入している。ようするに、戦後革命が胎動を始めた時期なのである。

◆キリスト教シンパだった昭和天皇と香淳皇后

昭和天皇のキリスト教(カトリック)との接点は、皇太子時代の大正12年(1922)にさかのぼる。半年間におよぶ欧州訪問のときである。

イタリアを訪問したさいに、天皇はローマ法王ベネディクト15世と会見している。このとき法王は、日本がカトリック教会と連携することを勧めている。朝鮮の3.1運動のさいに、カトリック教徒が動かなかった事実をつたえ、かりに日本がカトリック国になっても、天皇制は影響を受けないと説いたという。

この連載でも明らかにしたとおり、太平洋戦争の講和工作を、日本はふたつのルートで行なっていた。不可侵条約を結んでいたソ連とは敗戦間近だったが、開戦以前に考えられていたのがローマ法王庁による講和だったのである。これは開戦にあたって、昭和天皇から提起されたものの、軍部には一顧だにされなかった経緯がある。

じつは、キリスト教に親しみを持っていたのは、昭和天皇だけではない。香淳皇后が戦前からキリスト教徒と親しかったのだ。多くのキリスト者が「自由主義者」として特高警察と憲兵隊に弾圧されているさなか、すなわち開戦後の昭和17(1942)年から44(同19)年にかけて、皇后はキリスト教徒の野口幽香を宮中に招き入れて、定期的に聖書の講義を受けていたのである。天皇もこれを黙認していた。

のちに正田美智子が昭和皇太子妃として入内したとき、彼女の出身大学がカトリック系であることが問題視された。皇太子妃もクリスチャンなのではないかと、もっぱら学習院女子のOG会(常磐会)から疑義が出たのである。

◆神社神道、皇室神道には中身がない

敢えていえば、神社神道には、ほとんど宗教としての教理や信心の内容がない、形式的な儀式をもって行われる祭祀である。

その衣裳や形式は素朴であって、それゆえに日本的な美意識に耐えるものがある。とはいえ、カトリックや仏教の煌びやかな美術的な世界を持たない。形式の単純さは、教理の希薄ゆえでもある。それゆえに、古神道においては仏教の菩薩道(修行)とむすび付き、あるいは補完されて生き延びてきたのだ。

神道神話の物語性は、じつに人間的・世俗的であり、そこに救いを求めるには人間臭すぎる。なにしろ、神も死んで黄泉の国へ行くのである。じっさいに、皇室宗廟の大半は寺院にある。寺院を通じてしか、極楽に行けないと歴代の天皇たちが知っていたからだ。

したがって、神道の祭祀たる昭和天皇と香淳皇后がキリスト教に心情をかさね、あるいは改宗していたとしても、何ら不思議ではないのだ。眞子内親王と佳子内親王が、そろって国際基督教大学(ICU)を選んだのも、じつは偶然ではない。そのICUは、ほかならぬマッカーサーが設立に尽力した学校であり、教職員はキリスト教徒であることが求められる。

それほどまでに、皇室神道の底は浅いのだ。ここにも、天皇制が崩壊するほころびがあると指摘しておこう。(つづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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本来ならば、岸田新政権の閣僚の分析を急がなければならないところだが、金権疑惑の甘利明を別として、麻生派を厚遇し安倍(細田派)にシフトした以外は、大過ないという印象である。ただし、副総理というほとんど実験のない名誉職に、麻生太郎を据えたことに疑問が残る。名誉職とはいえ、記者やメディアの格好の標的になるからだ。太郎さんの失言に期待しよう。

◆7月の都議選の結果をうけて、総選挙における自民敗北を前提に予想されていた小池新党の動向

さて、それよりも当然の人事である二階派排除によって、総選挙の政局が大きく動きそうな気配だ。7月の都議選の結果をうけて、総選挙における自民敗北を前提に予想されていた、小池新党の動向である。

6月いらいの小池都知事の動向を、本通信の記事をもとにたどってみよう。

例の入院騒動が彼女自身の体力と相談しながら、じつは都議選情勢を見ながらの「仮病」だったことを、その時期の本通信はとらえてきた。

「政局を騒がせる女帝、小池百合子は現在の日本政治には欠かせない政治家ということになるだろう。都議選挙に応援演説も何もせず、このまま様子見をするのか。都議選挙の見どころは、小池知事の動静に決まった。」(2021年6月28日付「小池都知事『入院』の真相と7月4日都議会選挙・混沌の行方」

はたして、小池百合子はうごいた。

その結果、都議選はおおかたの見方をくつがえして、都民ファーストの善戦、自民の復活ならずという事態となった。おそるべし小池百合子、と誰しもが舌を巻く一幕であった。「紙の爆弾」ですら、予定記事のタイトルをことごとく外した。

※「《速報》2021年都議会選挙 都民ファーストの善戦、自民党の復活は不十分に」(2021年7月5日)
※「この秋、政権交代は起きるのか? ── 『紙の爆弾』最新号を参考に、都議選後の政局を俯瞰する」(2021年7月8日)

そして、いよいよ菅義偉では総選挙が無理、ということが明らかになってくる。と同時に、その政局は小池新党の可能性をひらき、二階俊博による大連立構想(小池との提携)が水面下に顕われていた。

「9月の上旬までにコロナ禍がワクチンによって収束し、オリパラが成功裏に終了しないかぎり、もはや菅の続投はないだろう。それが総選挙(衆議院選)における自民党の大敗によるのか、総裁選による『菅おろし』によるものかはともかく、確実に菅政権は崩壊する。」

7月には菅の退陣は読めていた。問題なのは、小池新党が本当に準備されるのかどうか。この夏の動静にかかっていると、本通信は断言してきた。

※「五輪強行開催後に始まる「ポスト菅」政局 ── 二階俊博が仕掛ける大連立政権」(2021年7月21日)

「小池と都民ファーストに求められるのは、この夏をつうじて総選挙出馬のタマを育成・確保できるかどうかである。」

これらの予測はしかし、岸田文雄の二階おろし(菅おろしでもあった)によって、大きく主導権が代わるところとなった。

岸田は3Aの操り人形ではなく、二階のコントロールする傀儡でもなかったのだ。いっぽうで、発信力とトンデモ発言(自民党的にという意味で、反原発・女性天皇容認)の河野太郎を阻止するために、3Aラインの高市早苗擁立、岸田側面援助によってトップ当選を果たす。その結果、蚊帳の外に置かれたのが二階俊博なのである。

ところが、二階の連立構想などを頼らずとも小池新党の流れは、この夏のあいだに、ひそかな水流となっていた。

◆ふたつの「小池新党」

そのひとつは、都民ファーストを基盤とした「ファーストの会」である。10月3日に荒木千陽代表が設立を発表し、10月31日に行なわれる総選挙に、都内25の小選挙区に少なくとも複数の候補を擁立すると明らかにした。

もうひとつは、8月に始動した上田清司(前衆院議員・前埼玉知事)の「新党構想」である。国会内で開いた上田清司の会合には、笠浩史、吉良州司、井上一徳らが参加し、首長経験者を前面に出して国政に乗りこむ、というものだった。この上田市の動きが、小池都知事の国政復帰と連動しているのではないか、という観測がもっぱらだった。

ところが、小池知事は国政復帰を否定し、ふたつの動きに姿を見せていない。


◎[参考動画]都民ファが国政新党「ファーストの会」を設立(ANN 2021年10月3日)

◆第三の極になれるか

都民ファーストがめざすのは、大阪における維新の会の地域政党としての定着が、国政進出によって果たされていること。これであろう。わかりやすい。

都議選挙では自民党から「区議と都議しかいない政党に、政策は実現できない。われわれ自民党は、永田町で戦い、都議会で調整し、区議がはたらいて政策を実現する」という、田舎選挙とはいえ国会議員を持たない弱点を突かれたものだ。

もういっぽうの上田新党は、鳩山友紀夫元総理や河村たかし名古屋市長にもはたらきかけ、文字どおり首長クラスを前面に立てた、地方からの国政参加を旗印にしている。これはちょっと複雑怪奇だ。

両者はいわば、小池なき小池新党である。これに国民民主との提携なり共同会派が実現すれば、自民党/公明党×立憲民主/共産党/社民/れいわ新選組という与野党対決の第三の極となる可能性がないわけではない。

都議選では都民ファーストの健闘が自民党の議席回復を阻止し、いっぽうで立憲民主と共産党は微増だった。その意味では自民に代わる保守層(女性票)が都民ファーストに流れ、反自民野党の票はそれほど食わなかったことになる。

そうすると、小池新党の登場は自民党に分が悪く作用するのかもしれない。

だが断言しておこう。小池百合子のパフォーマンスの余地が、あまりにも少ないことを。いかに政治判断にすぐれようとも、決断をする与件がなければ政治は成立しない。

そして、もしもその与件が、ふたたび麻生太郎副総理の失言になるのだとしたら、岸田の派閥バランス人事の陥穽というべきであろうか。


◎[参考動画]麻生財務大臣、西村経済再生担当大臣が最後の会見(ANN 2021年10月4日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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義母に嫌われるほど目立つ、一部の国民から妬みを招くほど人気がある。それが昭和皇室のスーパースター、美智子妃であった。香淳皇后が抱いていた敵意が、美智子妃の存在が皇太子明仁を「脇役」「添え物」にするほど、彼女は皇室アイドル化路線の体現者であった。

その人気は、平成の世になってからもつづいた。いや、皇族や旧華族の一部に嫌われた昭和時代にも増して、皇后としてのその華やかな存在が重みを増し、そして叩かれたのだった。いわゆる美智子皇后バッシングである。

それは平成皇太子の結婚という、いわば慶事を前後して行なわれた一大キャンペーンだった。

●平成5(1993)年4月「吹上新御所建設ではらした美智子皇后『積年の思い』」(『週刊文春』4月15日号)
●6月「宮内庁に敢えて問う 皇太子御成婚『君が代』は何故消えたのか」(『週刊文春』6月10日号)
●6月「宮内庁記者が絶対書けない平成皇室『女の闘い』」(『週刊文春』6月17日号)
●7月「皇室の危機『菊のカーテン』の内側からの証言」(『宝島30』8月号)
●7月「『宝島30』の問題手記『皇室の危機』で宮内庁職員が初めて明かした皇室の『嘆かわしい状況』」(『週刊文春』7月22日号)
●9月「天皇訪欧費用『2億円』の中身」(『週刊新潮』1993年9月9日号)
●9月「美智子皇后が訪欧直前の記者会見で『ムッ』としたある質問」(『週刊文春』9月16日号)
●9月「美智子皇后のご希望で昭和天皇の愛した皇居自然林が丸坊主(『週刊文春』)9月23日号)
●9月「宮内庁VS防衛庁に発展か 天皇・皇后両陛下は『自衛官の制服』お嫌い」(『週刊文春』9月30日号)

ご記憶にあるだろうか。記事に憤激した右翼団体が、発行元の出版社に街宣車で押しかけるという事態も起きたものだ。

上記の記事のうち、吹上新御所建設では、昭和天皇が愛した皇居内の自然林を伐採し、香淳皇后との「別居」を実現したというものだ。なかでも宮内庁職員の「内部告発」がリアルに暴き出す皇室の内幕は雑誌の増刷につながり、国民の関心をかった。大内糺(仮名)という人物の匿名記事である。

暴露記事の背景には、天皇の代替わりのさいに侍従や女官が総入れ替えになるので、お役御免となった人々から、過去の憤懣や内情が暴露されたものと考えられる。現役の職員からの「タレコミ」があったかもしれない。

たとえば、皇太子妃時代の美智子妃が友人を招いて、その宴が深夜にまで及ぶ。そのかん、お付きの侍従や女官たちは勤務が解けないというもの。

いわく「美智子様は宵っぱりで、午前1時、2時になってもインスタントラーメンを注文したりするので、当直職員は気を許すことができない」

あるいは「華美な生活を好み、キリスト教に親和性が高く、皇室になじまない」「パーティーなどの計画も、美智子様がウンとおっしゃらないと話が進まない」などと痛烈に批判する。

宮内庁関係者によると、昭和皇太子夫妻の宵っぱりは事実だったようで、職員たちの不満がそこに反映されているという。

◆皇后を襲った失語症

皇室記者たちによれば、「思わず首をかしげたくなる記事」だったが、いや、だからこそ皇后美智子のショックは大きかった。この「キャンペーン」で失語症になったというのだ。10月の誕生日には、以下のコメントを発表している。

「どのような批判も,自分を省みるよすがとして耳を傾けねばと思いますが、事実でない報道がまかり通る社会になって欲しくありません。今までに私の配慮が充分でなかったり,どのようなことでも,私の言葉が人を傷つけておりましたら,許して頂きたいと思います。」

このコメントが皇后への同情論として、国民にいっそうの美智子礼賛をもたらした。そしてその後は「美智子皇后の雅子妃イジメ」というキャンペーンが週刊誌を飾ることになるのだ。

その大半は、雅子妃の帯状疱疹などの体調不良にむすびつき、あたかも美智子妃が嫁いびりをしているかのような報道が相次いでいく。そして雅子妃の公務からの離脱がはじまり、平成皇太子の「雅子への人格否定」発言が飛び出すのである。

どこの家庭にもある嫁姑の確執は、ここまで見てきたとおり皇室においても変るところはない。ある意味で国民はその噂をもって、皇室に人間らしい親しみを感じ、あるいは芸能報道的な好奇心をくすぐられるのだ。

単に事件としての皇室スキャンダルではなく、ファンとしての手がとどく芸能記事なのである。そこにこそ、戦後天皇制の国民意識への下降、国民的融和性という本質があるのだ。(つづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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◆そもそも自民党は本当に「国民政党」なのか?

自民党総裁選挙はおおかたの予想どおり、岸田文雄新総裁の誕生となった。


◎[参考動画]【速報】新総裁に岸田文雄氏を選出 自民党総裁選(TBS 2021年9月29日)

第1回投票
      議員票  地方票  合計
岸田文雄  146   110   256 ☆
河野太郎   86   169   255 ☆
高市早苗  114    74   188
野田聖子    34    29    63
   
決戦投票
      議員票  地方票  合計
岸田文雄  249     8   257☆当選
河野太郎  131    39  170

110万人の自民党員が投票する選挙を、国民の意志といえるのかどうか。党内選挙にすぎないものを、メディアが大々的に取り上げるのはいかがなものか。という意見があるのは当然だが、しかし国政選挙の選挙行動の大半が自民党員によるものであれば、自民党総裁選が実質的に総理大臣を決める選挙になるのも仕方がないであろう。

選挙に行かない国民、政治に興味のない国民が自民党政権を支えてきたことは、前信(2021年9月21日付本通信)で明らかにしたとおりだ。

そして、そのアパシーをそれとして放置(浮動層は投票に来ない方がいい=森喜朗発言)しながら、総選挙を政治ショーとして国民(自民党支持者)への求心力を発揮したのである。党内の政策論争を、ここまでテレビでアピールし、候補者個人のパーソナリティーにいたるまで発信した自民党の手管に感心するにかない。

ひるがえっていえば、野党も代表選挙こそやってはいるが、およそ国民に開かれたものとは言えない。党員・サポーターに限定せずに、国民に投票権を開放するぐらいの工夫があってしかるべきではないか。たとえば、立憲民主党が自民党候補をふくめた国民投票を実施し、自民党政治家に負けたらこう宣言するのだ。

「われわれが政権を担うときは、自民党から閣僚を招致する」などと。冗談ではなく、そのくらいのパフォーマンスによる訴求力が、いまの野党には必要なのだ。

国民政党を自認する共産党に至っては、党大会で幹部会推薦の執行部が追認されるだけの、いまだにレーニン「共産主義以上のあるもの(信頼に基づいた選出)」(「何をなすべきか」1902年)を踏襲しているありさまだ。

これでは、将来かりに共産党政権が成立しても、中国や北朝鮮のように公開選挙に因らない指導部が独裁制を敷くと思われても仕方がないであろう。共産党には、拠点校である立命館、都立大学、東京大学出身者が幹部の多数を占めるという、学閥傾向がある。このかんの野党共闘や大衆運動局面での幅広イズムも、この上意下達の中央集権組織の力によるものであることを、知っておくべきであろう。パルタイはどう変わってもパルタイなのである。こうした野党の現状を考えると、自民党の柔軟さ、幅の広さが際立つ総裁選挙となった。

というわけで、ここ3週間にわたり国民の注目を集め、メディアを独占してきた自民党の「国民政党」としての総決算が終わった。


◎[参考動画]【ノーカット】自民党岸田文雄新総裁 挨拶(日本テレビ 2021年9月29日)

◆岸田で挙党一致ができるのか?

今回の総裁選の構造は、周知のとおり複雑な人間関係(感情)が支配するところとなった。政治は理念や政策ではないのか、という疑問が噴出しそうなところだが、政治は感情で動くものなのだ。

新鮮さと発信力で国民的な人気となった河野太郎は、これまた国民に人気のある石破茂と小泉進次郎を陣営に迎えることで、党内主流派の感情的な反発を買った。

すなわち、石破茂とは不倶戴天の敵である安倍晋三の反発である。同じく、みずからが総理だったころに「麻生おろし」の急先鋒だった石破憎しの一点で、自分の派閥の候補でありながら、河野太郎の背後から弾を撃つ派閥の領袖・麻生太郎。

いずれにしても、河野太郎は「赤い自民党員」「反原発や女系天皇など、何を言い出すかわからない男」として、党内人気は若手の改革派以外はゼロに近かった。若手の自由投票運動も派閥の領袖、とりわけ安倍晋三の猛烈な切り崩しに遭ったといえよう。

いっぽうの岸田文雄は、二階俊博を幹事長の座から引き下ろすという、彼にしては大胆かつ訴求力のある発信によって、しかし二階派の支持をうしなった。そこで岸田が選択したのは、決選投票における高市早苗との選挙協定だった。政策においては、およそ正反対の極右派高市と組み、最終的に派閥選挙に乗っかるかたちで決選投票を勝ち抜いたのである。

このリベラル(宏池会)と極右(安倍派)の提携は、ほかならぬ岸田陣営の祝勝集会の場に、高市早苗が\(^o^)/をしながら現れることで周知の事実となった。岸田政権は多数派形成の野合で成立したのである。ここに、旧態然たる自民党の田舎政治があるにしても、自民党は総選挙の「新しい顔」を得たのである。

ひきつづき、10月はじめには明らかになる党内人事、就任後の閣僚人事に注目したい。選挙の結果は、そのまま政局なのである。


◎[参考動画]【LIVE】自民党 岸田文雄新総裁 記者会見(FNN 2021年9月29日)

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ノンフィクション作家の小説、新宿の70年前後を舞台にした青春群像である。高部務には『新宿物語』『新宿物語70』という先行作があり、シリーズ三弾目となる。ノンフィクション作家ならではの、時代背景の描写がリアルで、団塊の世代には懐旧を、その後の世代には追体験が楽しめること請け合いだ。

 

9月25日発売! 高部務『馬鹿な奴ら ベトナム戦争と新宿』

トカラ列島(屋久島の南西)の諏訪之瀬島に移住者たちがつくったコミューン、ピンク映画の男優体験、アンパン(シンナー)とフーテン仲間の死、

歌舞伎町のジャズ喫茶・ヴィレッジゲート、新宿風月堂、名曲喫茶王城、モダン・アート、蠍座など、いまはなき実在の店が登場するように、これらのエピソードは実体験なのであろう。

実在の事件も登場する。ベ平連の米兵脱走支援(イントレピッド号)である。

作品全体をやわらかくしている仲間内の会話、マリファナにジャズ、フォークソング、ゴーゴー喫茶の日常生活のなかに、アメリカ兵のベトナム体験の生々しさが、突如として陰惨な戦争を持ち込むことになる。このあたりは、書き手のやさしい人柄を思わせる文体のなかに、垣間見せるノンフィクション風の棘(とげ)だ。殺したベトコンの眼をえぐり出し、切った耳をコレクションする。

作品の背景にはベトナム戦争があり、米軍基地と立川の街を舞台にしたタミオの章も、新宿の空気をいっそう広くしたような時代の気分がある。飲み逃げ米兵に射殺されたクラスメイトの父親の記憶、轟音をたてて飛びかう米軍機。そして物語は三里塚闘争へと展開する。

◎参考カテゴリーリンク「三里塚」http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=63

◆つぎは70年代を描いてほしい

ノンフィクション風のフィクションという評価でも、三里塚の東峰十字路事件(警官3名が殉職)は、事実をふまえたほうが良かった。

警官を「殲滅」したのは駒井野に立てこもった中核派ではなく、青年行動隊が主導した反中核派連合(社青同解放派、ブント系では叛旗派と情況派、黒ヘル、京学連、日中)である。

ベトナム戦争を侵略戦争(帝国主義戦争)と批判し、反戦運動を繰り広げていた新左翼諸派のなかに、セクト主義や内ゲバという「戦争=党派闘争の病根」が顕われているのを、主人公は時代の雰囲気とともに感じ取っているが、そこはべ平連な位置から踏み込んでいない。

ラストシーンで「連合赤軍の妙義山でのリンチ事件は、政治闘争を超えて殺人集団になり下がった下衆の集まりだな」と、喫茶店ウィーンで語る反戦青年委員会の言葉は、そのまま70年代に内ゲバ大量殺人の地獄を見ることになるはずだ。

来年は、その連合赤軍事件50年である。高部には70年代の政治運動の頽廃、反戦をとなえながら人を殺すにいたる運動の悲劇を書いてほしいと思う。

※『馬鹿な奴ら』は9月25日発売 
定価1540円(税込)四六判 304ページ ソフトカバー装 鹿砦社・刊
【内容】第一章 日本に誕生したコミューン / 第二章 ピンク映画 男優誕生 / 第三章 フーテンの無縁仏 / 第四章 新宿にも脱走兵がいた / 第五章 奨学生新聞配達少年 / 第六章 前衛舞踏カップル

【著者プロフィール】 1950年山梨県生まれ。『女性セブン』『週刊ポスト』記者を経てフリーのジャーナリストに。新聞、雑誌での執筆を続ける傍ら『ピーターは死んだ――忍び寄る狂牛病の恐怖』や『大リーグを制した男 野茂英雄』(共にラインブックス刊)『清水サッカー物語』(静岡新聞社刊)などのノンフィクション作品を手掛ける。 2014年、初の小説『新宿物語』(光文社刊)、続けて『新宿物語70』(光文社刊)執筆。『スキャンダル』(小学館刊),『あの人は今』(鹿砦社刊)。『由比浦の夕陽』で2020年度「伊豆文学賞」優秀作品賞受賞。

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政治なんて言うものは誰がやっても同じ、ましてや自民党政治家に変化は期待できない。というアパシー(無関心)が支配しはじめて、どのくらいになるのだろうか。

それは端的に国政選挙の投票率の推移にしめされている。投票率が50%ということは、政党支持率が30~40%である自民党が、おそらく全国民の20%の支持で議会多数派を占め、政治権力を掌握していることになる。

衆議院議員選挙(大選挙区・中選挙区・小選挙区)における投票率の推移(総務省)

参議院議員選挙(地方区・選挙区)における投票率の推移(総務省)

つまり、自民党長期政権はアパシーに支えられているといって、さしつかえないだろう。

だが、この「何も変わらない」という意識は、変化の実感を政治と結びつけて考えない、人間の耐性によるものが大半なのである。

消費税が3%から5%になっても、8%/10%になっても「ふところの痛み」に慣れてしまう耐性である。年間を通じて、100万円かかっていた消費財が110万円になっても、買い物一回当たりの消費税(食費など)の増額が800円ならば、この耐性に慣らされてしまうのだ。

だが、もしもこれが、国民皆保険がなくなったのだとしたら、どうだろう? 一回の歯科治療で自己負担分6,000円支払っていたものが、じつに2万円となるのだ。それが一カ月のうち4回つづけば8万円だ。もはや歯医者に行か(け)なくなるか、保険適用をもとめるデモや暴動が起きるであろう。

このような生活不安に、徐々に慣らされる耐性……。これが政治へのアパシーにつながっていると、エーリッヒ・フロム(社会心理学者)ならば喝破するのではないだろうか。

そして、そのような耐性を喚起する批判精神、批評文化の衰退こそが、本当の日本の危機なのであろう。

◆政治は変化しうる

じっさいには、政治は変化をもたらしてきた。いや、政治そのものが変化してきた。これが史実である。

昭和の自民党政権に耐性ができていた世代には、1993年に55年体制が、じつに38年ぶりに崩壊した記憶は、まだ新しく感じられるのではないだろうか。

その後も、2010年の民主党政権をわれわれは体験している。いやその前に、小泉政権による「自民党をぶっ壊す」体験もあった。

小選挙区制は政権交代を可能にするいっぽうで、一党支配・党の一元的な支配をも可能にしてきた。そしてその流れは、新自由主義・自己責任論・規制緩和という思想潮流と軌を一にしてきた。

1960年代以降の、いやもっと巨視的にみれば戦後復興の経済背長が、90年代以降の停滞のなかで限界が見えてきたからだ。そこにはデフレスパイラル社会という、史上はじめての国民経済の変化があった。民営化(国鉄・郵政)と規制緩和をひとつの旗印に、市場においては新自由主義、国民に対しては自己責任。そして社会保障の漸減と小さな政府に結実してきたのだ。

この「自己責任論」については、明治以降の天皇制権力のもとにおける廃仏毀釈(宗教の抹殺)、武士道の国民的な普及(切腹・自害の奨励)が精神史的な基礎になっていることは、別稿シリーズ「天皇制はどこからやって来たのか」でも明らかにしてきた。

さて、その新自由主義と自己責任論が、国民生活において限界をきざしているのも、このかんの天災とコロナ禍のなかで明らかになってきた。簡単に言おう。

シャンパンツリーの頂点からシャンパン(おカネ)が下層にまでこぼれてくる。がゆえに、大企業の先端技術に投資し、国際競争力を高めることで国民経済を押し上げる。ことは出来なかったのである。

アベノミクスの欠点が「労働分配」「所得配分」の欠落にあることは、この通信でも何度となく明らかにしてきた。そしてそれがいま、ほかならぬ自民党総裁候補の口から、アベノミクス批判として、語られはじめていることに注目したい。

アベノミクスを継承すると公言する高市早苗は別として、河野太郎と岸田文雄および石破茂においては「同一賃金を保証する労働分配」「所得分配」が政治公約のなかで語られている。党内で本命とみなされている岸田は「小泉政権いらいの新自由主義を転換し、国民の所得倍増をめざす」とまで明言している。

◆21世紀の資本主義をどう考えるか

マルクスが資本主義の限界と国家の死滅、共産主義の必然性を説いたのは19世紀である。20世紀には社会主義革命が実現し、その政治的・経済的限界も明らかになった。21世紀になってからも、資本主義の危機は論じられてきた。

近代経済学のマクロ派から、あるいはマルクス派から、資本主義危機論が論壇をリードしてもいる(水野和夫・斎藤孝平ら)。

だが、かれらの誰ひとりとして、商品(貨幣)経済からの脱却の展望は語りえない。資本主義の危機は強調されても、資本主義(貨幣による商品の等価交換)に代わる経済と社会は、まったく語られないのだ。じっさいに社会主義(共産主義の過渡的社会)をやってみて、それが無理だとわかったのだから。

とはいえ、わが国においてはいまだに馴染みにくい言葉だが、社会主義(社会民主主義)は、じつは日本においても実現されてきた。戦後のフォーディズムの需要(トヨタ・出光・松下)、具体的には労働分配率の高次化、社会保障の拡充、終身雇用などである。

慧眼な読者諸賢におかれては、すぐに気づくことであろう。これらが小泉改革のなかで、いずれもが捨象され、切り捨てられてきた諸策であることを。

近代ヨーロッパにおいて、社会主義思想は「王権よりも国民の社会的権利を」であり、自由と平等は博愛精神において実現される、というものであった(サン・シモン、フーリエ)。

だから、社会主義は近代の理想とされ、ナポレオン三世は社会主義者を自認し、ヒトラーですら「国家社会主義」を理念としてきたのである。

いままた、戦後第二のぶり返しが訪れていることを、われわれは直視しようではないか。自民党みずからが、変化を求めているのである。総裁選挙の情勢および、個々の主張について、さらに精緻なレポートをお届けしたい。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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