30%を切る支持率、40%をこえる不支持という凋落の中、岸田文雄総理が第三次の内閣改造を行なった。改造による支持率回復をテコに、秋の総選挙を展望し、その「勝利」をもって、来年の自民党総裁選挙を単独再任で乗り切るのが政権の戦略である。

さてその改造内閣だが、女性5人を入れる「変化」を目玉にしているが、右派議員の就任が目立つ。いま失っている岩盤保守層の支持回復がその狙いであるのは言うまでもない。その目玉が木原稔の防衛大臣起用、高市早苗の留任である。とりわけ木原は右派中の右派ともいえる、再軍備論者・改憲論者である。その過去の言動をお伝えしよう。

◆木原稔という政治家

いよいよこの男が防衛大臣になった、と危機感を持っていうべきであろう。15年の安保戦争法を安倍政権下(首相補佐官)で推進し、メディア統制を提唱してきた木原稔である。

まずは過去の言動から紹介していこう。自民党青年局長時代の2015年6月、木原は文化芸術懇話会なる団体を立ち上げ、党内の右派系議員を結集したのだが、講師に呼んだのが百田直樹だった。

百田尚樹は、集団的自衛権の行使容認に賛成の立場を表明し、政府の対応について「国民に対するアピールが下手だ。気持ちにいかに訴えるかが大事だ」と指摘した。「日本を貶める目的をもって書いているとしか思えないような記事が多い」と持論を展開した。


◎[参考動画]内閣改造で熊本1区選出の木原 稔衆議院議員を防衛相に起用 (TKU official 2023/09/13 19:00)

◆青年局長更迭

これを受けた参加者の発言には、愕くべきものがあった。

大西英男衆院議員(東京16区)「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番。政治家には言えないことで、安倍晋三首相も言えないことだが、不買運動じゃないが、日本を過つ企業に広告料を支払うなんてとんでもないと、経団連などに働きかけしてほしい」

井上貴博衆院議員(福岡1区)「福岡の青年会議所理事長の時、マスコミをたたいたことがある。日本全体でやらなきゃいけないことだが、スポンサーにならないことが一番(マスコミは)こたえることが分かった」

長尾敬衆院議員(比例近畿)「沖縄の特殊なメディア構造をつくったのは戦後保守の堕落だ。先生なら沖縄のゆがんだ世論を正しい方向に持っていくために、どのようなアクションを起こすか。左翼勢力に完全に乗っ取られている」

主催者の木原稔は会合後、記者団に「党所属国会議員として、党や政府が進めようとしていることを後押しするのは当然だ」と強調したが、この会合は「自民党を後ろから撃つもの」として青年局長を更迭されたのだった。

高市早苗の総務相時代のメディア統制発言と双璧の、広告によるメディアの締め上げ戦略である。

菅義偉元総理の学術会議任命権発言も同様だが、政権に批判的なメディア・研究者の存在こそが、政権の政策をより優れたものにする担保なのである。木原をはじめとする右派政治家たちは、自分がロシアや中国の専制体制を是とする立場になっていることに気づいていないのだ。

◆明文改憲への戦略

木原は2018年1月に櫻井よしこ氏が理事長を務めるシンクタンク「国家基本問題研究所」が開催した月例研究会では、憲法改正への戦略を語っている。これは安倍政権の解釈改憲を、さらに明文改憲へ煽るものと言えよう。

「私の理想は2012年の自民党改憲草案、二項を削除する改憲案だ」

「安倍総理が、二項を残すという決断をされました。それは、いろいろなことを慮ってのことです。選挙は勝たなければいけません。国民投票も勝たないと意味がない。改正もされない」

「もし、憲法改正は一回しかできないという法律なら、二項削除で戦うしかないと思っています。しかし、憲法改正は何回でもできる。一度、改正に成功したら、国民のハードルはグッと下がると思います。そして、一回目の改正を成功させたあとに、二回目の改正、三回目の改正と、積み重ねていけばいいと思っています。最終的には前文も当然、改正しなければいけない」

憲法9条を尊重できない人物に、その9条が最も表象する自衛隊の文官トップ・防衛相が、務まるはずがないではないか。

◆沖縄でのデマ

木原はまた、デマゴーグでもある。

2015年6月に行われた沖縄全戦没者追悼式で首相の安倍晋三に怒号が浴びせられたことについて、木原はこう述べている。

「主催者は沖縄県である」

「たくさんの式典や集会を見ているから分かるが、明らかに動員されていた」

「そういったことが式典の異様な雰囲気になった原因ではないか」

などと、やじを飛ばしたのは県の動員による参列者であると断言したのだ。

主催した県は「動員などはあり得ない」。主催者の一人である県議会議長の喜納昌春は「いくら何でもひどすぎる。ゆゆしき発言で、悲しくなる」「自民党に沖縄のことを何も知らない議員がいることが問題。末期的だ」と木原を批判した。

◆統一教会との関係

木原と統一教会の関係も疑惑が多い。

2012年の衆院選の際に提出された選挙運動費用収支報告書に、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の関連団体「世界平和連合」から10万円の寄付を受けたことが記載されていたのだ。

2018年には、統一教会の関連団体「天宙平和連合(UPF)」が主催する自転車イベント「ピースロード」の実行委員に就任。以後、2021年まで実行委員を務めている。

2019年1月26日には、木原は統一教会熊本教区長の永井義行、日韓トンネル推進熊本県民会議の事務局長の佐藤民雄とともに駐福岡大韓民国総領事館を訪問。孫鍾植総領事と、韓国九州の交流増進案について話し合いをしている。

まるで実現性がなく、単に統一教会への資金カンパの口実にすぎない日韓トンネルの推進者と同席すること自体に、政治的なセンスのなさを露呈したのだ。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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デジタル鹿砦社通信の小島卓編集長から、『情況』8月発売号の紹介をしてみてはいかが、というお誘いをいただきました。ありがたくお受けしたいと思います。

過日、『情況』第6期にご注目を、という記事をアップしたことがあります。おかげさまで、第6期『情況』誌は3号をかさね、11月発売号が出れば晴れて「3号雑誌」(勢いよく刊行したものの、3回で休刊)の誹りをまぬがれるわけです。読者の皆さまのご購読、ご支援に感謝いたします。

◆新しい論壇誌のスタイル

 

変革のための総合誌『情況』2023年夏号[第6期3号]【特集】音楽

さて、新左翼系の老舗雑誌と『情況』は呼ばれてきました。しかし、新左翼そのものが衰退、解体している昨今、その存続意義はあるのかという問いが生まれます。
じじつ、新左翼的な記事はほとんどなくなり(かつては、三里塚闘争や安保闘争、狭山闘争などが誌面を埋めた)、唯一果敢に闘われている沖縄反基地闘争(辺野古基地反対運動)も、新左翼特有の実力闘争ではなく、不服従の抗議闘争というのが実態だと思います。

運動誌・理論(学術)誌・オピニオン誌と、3つの性格を併せ持ってきた『情況』ですが、いまも有効なのはおそらく研究者にとっての論文発表の場、なのではないでしょうか。全国の大学図書館に70冊ほど、しかし岩波の『思想』、青土社の『現代思想』には遠く及びません。そして何よりも、学術誌は売れないのです。

もうひとつはオピニオン誌(論壇誌)としての性格で、第5期はここに比重を置いてきました。できればワンテーマこそが、クオリティマガジンとしてのステータスを高めるものになるはずですが、編集部をオープンにした結果、ごった煮の雑誌となったわけです。あれもこれも載せてくれと、ぶ厚い雑誌になりました。

雑誌というものは雑なものの集合体、いろんなファクターを入れた大船ですから、それはそれでいいのですが、いまひとつテーマの掘り下げに苦しんできたのが実態でした。

新しい編集部(第6期・塩野谷編集長)は、ヘンに背伸びをせず(難しいテーマを抱え込まず)、身近なテーマを掘り下げるところに特長があります。創刊号は「宗教」、2号目は「動物」、今回は「音楽」でした。

「音楽」は鹿砦社通信でもたびたび取り上げられていますが、時代性とテーマをその中にふくんでいます。プロテストソングを80人以上のアンケートで実施、特集の記事も20本と多彩なものになっています。政治と音楽(芸術)というテーマそれ自体、メッセージや音楽性の相関、扇動性、快楽といったかなり広い論軸を持っているものです。

その意味で、政治的なテーマや経済論評、政治経済の提言や批評がやや有効性をうしなっている(論壇誌で残存しているのは『文藝春秋』『世界』『中央公論』ほどしかない)現状では、人間にとって切実な「動物=食物」「音楽=日常に接する音」から人間を掘り下げる。これはなかなか良い手法だと思います。次号は「メンタルヘルス」だそうで、やはり切実なテーマだなと思います。

◆鹿砦社の広告について

ところで、『情況』は鹿砦社様の広告を表3(巻末)に定期掲載しています。『週刊金曜日』が当該者(団体)の抗議で、鹿砦社の広告を拒否した契機となった『人権と利権』も掲載しています。当然のことです。ご出稿いただいていることに、あらためて感謝するものです。

明らかに差別や人権侵害を目的とした刊行物でないかぎり、その表現や主張に、結果として差別的な内容・人権侵害的な内容が含まれていたとしても、誌上で批判・反批判をするべきです。そこにこそ、イデオロギー闘争としての「反差別」「人権擁護」が成立すると考えるからです。

したがって、今回の『週刊金曜日』の措置は、ファシストの焚書行為に相当するものと、わたしは考えます。『人権と利権』は運動内部に存在する「利権」を暴き出し、健全な反差別運動の発展をめざす視点から編集されていると、一読してわかるものです。

内容に誤りがあり、あるいは不十分であると考えるならば、批判の論攷を書けば良いのであって、人の眼に触れさせないのは矛盾の隠ぺい、自由な批判を抑圧するものにほかなりません。

『情況』も、昨年の4月刊で「キャンセルカルチャー特集」を組みました。2021年の呉座勇一さん(日本中世史・『応仁の乱』が50万部のベストセラー)のツイッターアカウントをめぐり、女性蔑視とするネット上の論争が起きた件をめぐり、執筆者から「情況の不買運動」を呼びかける論攷も掲載しました。

反差別運動の基本は、現代社会が資本主義の景気循環において相対的過剰人口を生み出し、そこにレイシズムの歴史的ファクター(差別意識)が結合することで、差別を再生産する社会であること。この基本認識があれば、差別を排除するのではなく俎上にあげて、分析・批判することを通じて、差別意識を変革していくことが求められるのです。

差別は個人・組織が起こすものですが、差別社会にこそ原因があることを忘れるならば、差別者のキャンセル、排除によって変革を放棄し、結果的に差別を温存することになります。すなわち『週刊金曜日』の今回の措置(広告拒否)こそが、差別を温存・助長するものにほかならないのです。

◆共産同首都圏委の逃亡

「排除」といえば、本通信でも何度か取り上げてきた、共産同首都圏委のウクライナ帝間戦争論について、8月発売号の「ウクライナ戦争論争」(本誌特別解説班)で結論を書きました。

首都圏委は人づてに聞いたところ「横山と論争をしないことに組織決定した」というのです。「排除」いや「逃亡」です。もう笑うしかありませんが、かれらは書き散らした論旨改ざん(論文不正)、誤読・誤記、引用文献の版元の間違いなど、恥ずかしいばかりの誤報の後始末もしないままなのです。そこでわれわれが彼らに代わって、訂正とお詫びを誌面に書きました(苦笑)。

また、新たな論敵として労働者共産党(元赤軍派の松平直彦氏が代表)の批判も全面展開しています。同世代の元活動家、研究者たちから「メチャメチャ面白い」の連絡をいただいています。

紹介と論軸の提起が長くなりました。今後とも、鹿砦社の出版物とともに『情況』をよろしくお願いいたします。(筆者敬白)

変革のための総合誌『情況』2023年夏号[第6期3号]【特集】音楽

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▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
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◆地対空ミサイルで爆破・撃墜

モスクワの北西部にあるトベリ州で23日、ビジネスジェットが墜落した。

このビジネスジェットは、ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジンの所有で、タス通信はロシア連邦航空局の情報として、乗客名簿にプリゴジン氏の名前があったと伝えた。

また緊急事態省によると、ジェット機には乗員3人を含む10人が搭乗していたが、全員が死亡したとみられる。連邦航空局の発表は事件の一時間後であり、事前に知っていたかクレムリンからの情報と考えられる。通常、連邦航空局は事件を実地調査しないかぎり、発表しないからだ。

独立系ディアによると、ジェット機はモスクワ郊外から飛行していた。高度8500メートルを飛行中、突然墜落したという。ということは、間違いなくミサイル攻撃である。

ワグネルに近いテレグラムチャンネル「グレーゾーン」は、地対空ミサイルが発射された痕跡があるとして、「撃墜された」と報じた。

プリゴジンの死亡は、確定的な状況である。


◎[参考動画]プリゴジン氏死亡とワグネル発表 搭乗したジェット機が墜落…目撃者「ドローン攻撃」(ANN 2023年8月24日)

プリゴジンの盟友であるセルゲイ・スロヴィキン上級大将が、8月18日付の大統領令で航空宇宙軍総司令官を解任されていることから、計画的な爆殺だったといえよう。

われわれは、プリゴジンが反乱を起こす1か月前から、粛清される可能性を指摘してきた。まさに熾烈な権力闘争の行方は、独裁者による粛清だった。過去の記事から紹介しよう。独裁者は不満分子・反乱分子を決してゆるさない、歴史の証言である。

◎横山茂彦「勇者たちは地獄に堕ちるのか? ロシアの民間軍事企業「ワグネル」創設者プリゴジンはプーチンに粛清されるかもしれない」(2023年5月27日)

弾薬が70%足りない。ショイグ(国防相)、ゲラシモフ(参謀総長)! 弾薬はどこにあるんだ」「あれほど要求したのに、送られてきたのは、たった10%だ!」と、軍首脳を罵倒してきた民間軍事会社ワグネルのプリゴジンは、バフムトを完全制圧したとして(ウクライナ軍部はこれを否定し逆包囲を示唆)、前線からの撤退を表明した。

ロシア軍がワグネルに弾薬を送らない理由が、プリゴジンのクーデターを怖れているのではないかという説がある(中村逸郎「現代ビジネス」ほか)。

独裁者がみずからと対抗するナンバー2を許さないのは、ナチスドイツのヒトラーとエルンスト・レームの関係に明らかだ。

二人の関係を描いた戯曲『わが友ヒットラー』で、三島由紀夫はレームに「軍隊は男の楽園」と語らせ、その軍隊を統制する政治が左右の過激分子を排除する権謀術策であることを証していく。

プーチンがワグネルおよびプリゴジンのクーデターを怖れていたのは間違いない。そして粛清がヒトラーの発案で、スターリンがそれを評価し、プーチンに継承されたことを明らかにしておこう。

ふたたび過去の記事から引用になる。エルンスト・レームのナチス突撃隊(SA)がプリゴジンのワグネルに酷似していることから、ヒトラー・スターリン流の粛清劇が不可避であることが証明された。プリゴジンが武器弾薬で不満を持ったように、ナチスの粛清も武器への不満だった。

◎横山茂彦「スターリン流の粛清劇がはじまる プリゴジンの反乱 ── 熾烈な権力闘争の行方」(2023年6月28日)

ナチスドイツの『長いナイフの夜』は、独自の指揮系統と武器供与をもとめたナチス党突撃隊(党の軍隊)とプロイセンいらいの国防軍の矛盾だった。ナチスの党内対立(権力の強化をめざすゲーリング、ヒムラーらとエルンスト・レーム)もあった。ヒトラーは盟友レームと国防軍の矛盾に悩み、しかし最後はみずから親衛隊を率いて粛清を断行したのである。『裏切りは許さない』と。

これは法に拠らない虐殺・死刑執行であり、西欧諸国はヒトラーの無法を批判したものだった。しかし唯一、この粛清劇を称賛したのが、ソ連の独裁者スターリンだった。政治局会議で、スターリンはこう発言した。

『諸君はドイツからのニュースを聞いたか? 何が起こったか、ヒトラーがどうやってレームを排除したか。ヒトラーという男はすごい奴だ! 奴は政敵をどう扱えばいいかを我々に見せてくれた!』(スターリンの通訳だったヴァレンティン・ベレシコフの証言)。

この発言から5ヶ月後の1934年12月に、スターリンの有力な後継者かつ潜在的なライバルと目されていたセルゲイ・キーロフが暗殺された。キーロフ暗殺を契機に、スターリンはソ連全土で大粛清を展開していくことになるのだ。

このスターリンを「偉大な指導者」と評価してきたプーチンは、レーニンの「分離(独立)をふくむ連邦制」を批判して、今回のウクライナ侵攻に踏み切ったのだった。レーニンが批判した「スターリンの粗暴さ」を体現しているのが、プーチンその人なのである。

おそらくプリゴジンは、密かに粛清されるであろう。だからいったん国外に退去させ、ロシア国民との接点をなくしてから、人々がプリゴジンの名を忘れかけた時期に『窓から転落させる』か、毒物で密殺すると予告しておこう。すでに昨年らい、10人をこえるプーチンに批判的なオリガルヒや政治家が、プーチンの命で密殺(不審死)されているという。

残念ながら、窓から転落死、毒物での密殺という、われわれの予告は外れた(苦笑)。ミサイルで堂々と破壊・爆殺したのだから凄いというしかない。

ところで、叛乱劇から1か月後の7月段階には、プリゴジン死亡説が飛び交っていた。

◎横山茂彦「クレムリンで何が起きているのか? 飛び交うプリゴジン死亡説とプーチン逮捕の可能性」(2023年7月21日)

反乱を起こしてから3週間以上、ワグネル創始者プリゴジンの行方がわかっていない。そしていま、死亡説が飛び交っているのだ。

「プリゴジンを目にすることは二度とない」

海外のメディアに、アメリカ軍陸軍のエイブラムス元大将はこう話したという。

「公の場でプリゴジンの姿を目にすることは、もう二度とないだろう。彼はすでに死んでいると思う」

これ自体は推測にすぎないが、プリゴジンの死亡説を裏付けるように、ここに来てワグネルの新たなトップが就任するとの噂がある。その人物の異名は「白髪」を意味する“セドイ”、ワグネル創設メンバーのひとり、アンドレイ・トロシェフだ。
「反乱の5日後、プーチン大統領がプリゴジンたちワグネル幹部と会った際、プーチンは“セドイ”こと、トロシェフのトップ就任を提案したという。プリゴジンはこれに同意しなかったという。それ以来、ブリゴジンの変装写真などは表に出てきたが、詳しい消息はわからないままだ。

かつて、ヒトラー暗殺計画(1944年7月20日事件=ヴォルフスシャンツェ総統大本営爆破)では、事後に数千人が逮捕・処刑されたと言われている。ブリゴジンの反乱も、プーチンと会談するなど平和裏に収められた形だが、そのことがブリゴジンの命運を決めた。いくらおもねってみても、独裁者は反乱者をけっして許さないのだ。

もっとも、ヒトラー暗殺計画はイギリスによるものもふくめると、じつに42回あったとされている。これらの大半は戦後に判明したものである。

すでにウクライナのゼレンスキー大統領に対する十数回の暗殺計画が阻止された(英国情報部)ことを考えると、現在のプーチン大統領も暗殺未遂に遭遇していても不思議ではない。5月30日に起きたモスクワ郊外ノボオガリョボへの8機の自爆ドローンは、明らかに大統領公邸を狙ったものだった。

ここから先はロシア国内、わけてもクレムリン内部の反乱に注目である。

すでにオルガリヒのうち、戦争に疑問を持つ者たちは秘密裡に殺され、ブリゴジンに一味した将官たちは連座する運命にある。だが、ロシア国内においても、反乱の芽はつぎつぎに起きるはずだ。反乱が軍部とクレムリンに波及したときこそ、確実にウクライナ戦争は終局する。

ここウクライナが反転攻勢に出ているが、しかし鉄壁の防御陣営を築いた最前線で膠着状態がつづいている。

そのいっぽうで、ウクライナの無人機およびロシア国内から発したと思われるドローンが、ロシアの空軍基地で戦略爆撃機を破壊した。いよいよクレムリン内部で権力闘争が勃発し、プーチン政権が危機を迎えると指摘しておこう。そのさいに、プリゴジン事件をこえる流血になるのは必至だ。


◎[参考動画]露政権の「粛清」観測相次ぐ プリゴジン氏のジェット機墜落(産経ニュース 2023年8月24日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

◆世論調査はどこまで信用できるか

朝日新聞8月21日朝刊によると、「岸田内閣支持 続落33%──マイナ 首相が指導力『発揮せず』79%」だという。

世論調査はおおむね3000前後、無作為に電話調査したものを集計する。わたしも過去に三回、新聞社から電話調査を受けたことがある。かなり作為的な質問で「国会で予算案が可決されましたが、安倍内閣を支持されていますか?」と誘導尋問に近いものだった。質問の仕方もその結果も、新聞社・報道局によってバラツキもあるものだ。

7月22・23日に毎日新聞が行なった全国世論調査では、岸田内閣の支持率28%で「退陣危険水域」だった。この記事では「自民党幹部が心配しているのは、内閣支持率よりも自民党支持率だ」という。

朝日新聞(7月15・16日)では28%、上記の毎日新聞では24%、時事通信(7月7~10日)が23.6%だった。前述の朝日新聞(8月21日)も28%である。


◎[参考動画]処理水放出「説明が不十分」7割 内閣支持率は続落

いっぽう、自民支持傾向がつよい(前述の恣意的な誘導質問的な調査が現認できた)読売新聞・産経新聞はどうだろうか。

7月の調査になるが、読売新聞は内閣支持率が35%(6月から6ポイント下落)、自民党支持率は34%だった。

産経新聞・FNN合同(8月19・20日)では、内閣支持率41.5%(7月から0.2ポイント増)。FNN(フジニュースネットワーク)と産経新聞社は、2020年の6月に、委託先の社員が14回にわたり、電話をかけずに架空の回答を入力していたことが明らかになっているから、あまり信用できない実態があると言い添えておこう。

◆政治的な感性こそが問題 マイナ対応と自民党女性局のフランス研修問題

岸田不支持はいうまでもなく、マイナンバーカードの健康保険証リンク不備問題であろう。登録時の入力ミス(前に受け付けた人のデータが残る)によるものだが、構造的なものと断じてもいいだろう。

そもそも60年代の住民基本台帳法、70年代の国民総背番号制、そして今回のマイナンバーカードと、国民をデジタル管理すること自体が無理なのだ。なぜならば国民がデジタルに馴染まなかったにもかかわらず、無理を要求しているからだ。自治体がマイナンバー受付指導をしなければならない実態、すなわち個人のPCやスマホでは受け容れてくれないソフトしか作れない技術力に原因がある。

だとしたら、これまで機能してきた保険証登録をそのままにして、少なくとも人の生命を左右する医療現場に混乱をもたらすべきではなかった。ここでの不作為が政治不信として顕現しているのだから、岸田文雄総理自身の政治的感性が問題となる。

もうひとつは、物価高のなかで生活に苦しむ国民に「わたしたち、楽しんでまーす」とばかりに、パリの街角で記念撮影をした自民党女性局の政治的感性である。

◆改造内閣は9月下旬

政局で当面注目されるのは、秋の内閣改造である。ところが岸田総理の外交日程がきびしい。

9月上旬はインドネシアでASEAN関連首脳会議、インドでG20首脳会議と、重要な外交日程が続く。11日ごろの帰国となり、19日から米ニューヨークで始まる国連総会の一般討論演説に出席するまでの間に、首相は人事のタイミングを模索していたという。

政府筋は「人事は帰国後の9月最終週でいいだろう」と指摘した。自民党関係者も「9月下旬の可能性が出てきた」と語った。

とはいえ、人事が遅れれば、秋に想定される臨時国会の召集時期もずれ込む可能性がある。物価高対策のための補正予算案を求める声が出ている中、首相周辺には「国会召集を遅らせるのは得策ではない。人事は9月中旬に済ませるべきだ」との意見も根強いという。

人事では茂木幹事長の処遇が焦点となる。マイナ問題で批判を浴びた河野太郎デジタル相、週刊文春で家族を巡る疑惑が報じられた木原誠二官房副長官らの去就にも注目が集まる。 


◎[参考動画]警察庁「木原副長官や官邸から接触はなかった」 木原氏は書面で回答

◆安倍派の動向

もうひとつの政局は、党内最大派閥安倍派の動向である。

会長不在の状態が続いている安倍派(清和政策研究会・100人)は8月17日の派閥総会で後継体制について協議した。新たな意志決定機関として「常任幹事会」を設置し、会長代理の塩谷立元文科相が取りまとめ役の「座長」に就く案を了承した。下村博文元政調会長が訴えていた会長選出論は霧消した。

常任幹事会の構成も一任された塩谷氏は総会後、記者団に「(常任幹事会を)派閥の重要事項を決定していく機関とし、閣僚経験者を中心に選任したい」としている。

萩生田光一政調会長、松野博一官房長官、西村康稔経済産業相、世耕弘成参院幹事長、高木毅国対委員長の有力者5人組の選任が有力だ。

事実上の「下村氏はずし」を後押ししたとみられているのが、森喜朗元首相である。8月7日の北國新聞のインタビューでは、会長にしてほしいと頼み込んできた下村博文が「今までのご無礼をお許しください」と土下座したと暴露している。下村を追い返したが「了解を得た」と触れ回っているとして、怒りを吐露したのだ。これで下村の後継の芽はなくなったといえよう。

とはいえ、後継者を決定できない派閥政局は深刻で、5人組にも決定的な力はない。このまま派閥後継者が決まらないと、派閥それ自体の求心力の低下は避けられないであろう。その先にあるのは、派閥の分裂と雲散霧消である。この危機感は、まだいまのところ感じられない。そこに危機があるのだ。


◎[参考動画]【日経CNBC 投資家アンケート】岸田政権を「支持しない」が74.2%、増税路線への警戒や成長面の政策の分かりにくさを指摘

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年9月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

デジタル鹿砦社通信の小島卓編集長から、太田出版刊行の『はたちの時代 60年代と私』の編集後記を書いてほしいとの依頼をいただきました。小島編集長の話では、武蔵小金井駅北口のくまざわ書店で、平積みになっている本をめくったら、横山の企画・編集であることを知ったとのこと。

力をこめて編集した本が、思いのほか好評を博していることもあり、このお話はありがたくお受けしたいと思います。と、いつになく丁寧語で書き始めました。

 

重信房子『はたちの時代 60年代と私』(太田出版)

◆元気な出所姿に感激

12年前に東京拘置所で重信さんと面会したとき、これが最後になるかもしれないからと周囲の人を誘った記憶があります。彼女のことは明大土曜会でもしばしば話題になり、芸能関係にかこつけて慰問訪問をすることは可能ではないか、などと話をしたこともありました。

その明大土曜会そのものが、重信房子を支えるために発足した会合なのですから、昨年6月の出所には参加者みんな感慨深いものがありました。多少は歳をとったとはいえ、人への気づかいがあふれる重信さんの輝くような笑顔が、初夏のマロニエ通りのいろどりに映えていたのを思い出します。

誰にも好かれるひとがら、彼女が結果的にシャバに軟着陸した理由を知ったような気がしたものです。とはいえ、10回以上のガン手術をへての現在なのです。ともに生きる喜びと、健康への祈念を忘るべからず……。

◆学生運動の端境期を描く

さて『はたちの時代』です。

当時のままを書き残して若い世代に伝えたい、事実を書いておきたいという重信さんの発意で、「オリーブの樹」「さわさわ」「野次馬雑記」などに連載された原稿、および新たに書き起こしていた赤軍派時代をまとめて、一冊にしたものです。

新左翼の活動家・理論家にありがちな政治論文で事実を粉飾してしまうのではない、まことに等身大の評伝・史実になっていると思います。

とくに、学生運動にとって三派全学連のつまづきとなった「2.2協定」について、ここまで詳述した公刊本は初めてでしょう(宮崎繁樹教授の私家版『風雲乱れ飛ぶ』・『明治大学新聞』が原資料)。

この「2.2協定」は、1966~1967年の明大学費闘争で、最終的に学内の混乱を収拾する策として、値上げ分はプールしたままいったん妥結する、というものでした。学生たちの大衆討議に付さないまま、いわゆる「暁の妥結」「深夜のボス交」と呼ばれてきました。しかし闘争の過程は、きわめて誠実に自治会民主主義の手続きを履行し、大衆的な議論を尽くしています。その議論の結果、夜間部の学費は値上げをせずに凍結という、いわば「改良の果実」もあったのでした。

そのいっぽうで三派全学連の結成は、同じ年の10.8羽田闘争(初めてヘルメットとゲバ棒が登場し、機動隊を敗走させる)をはじめ、実力闘争と革命的敗北主義にひた走るのです。したがって、社学同をふくむ三派は明大自治会の執行部(社学同)をつるし上げ、斎藤全学連委員長の罷免へと事態が発展したのです。これが、戦後学生運動(民主主義)から全共闘運動(革命的敗北主義)への転機でした。ここを丹念に記述したところに、重信さんの『はたちの時代』の画期性があると申せましょう。

重信房子さん

◆ブント分裂の秘密

もうひとつ、重信さんはブントの分裂「7.6事件」も、実況中継のように詳述しています。その前段にある不可思議な「藤本敏夫拉致事件」も詳しく書いています。

赤軍派の武装闘争路線がもたらしたブントの分裂劇は、もっぱら政治思想路線の分岐として分析されてきました。思想的には「唯銃主義」への批判として、解決したのかもしれません。

しかし、この事件の背後には、いまだに謎が多いのです(この点については『情況』2022年春号の「特集解説」を参照)。事件の事実関係として、権力の謀略があったのかどうか(たとえば中島慎介さんは『抵抗と絶望の狭間に』鹿砦社刊において、当日の軍事的作業を遂行した人物が消えてしまったと述べています)。

本書にも触れられていますが、当時の赤軍フラクの高校生活動家が、ブント幹部を殴るよう強要された事実も、最近になって明らかになりました。関係諸氏の事実との向かい合いを期待したいものです。

◆なぜ太田出版だったのか

小島編集長からは、太田出版からの発行になった経緯を知りたいとの御所望もありました。デジタル鹿砦社通信の読者は関西の方が多いと思いますので、出版社が多い東京の事情(疑問)が、たぶんこれに重なります。

太田出版という版元は、当初、たけし軍団などで知られる太田プロの出版部でした。歴史はまだ浅く、いわゆる老舗大手ではありません(情況出版や鹿砦社のほうがよっぽど老舗です)。

北野武や東国原英夫らの本を皮切りに『完全自殺マニュアル』や『バトルロワイヤル』、雑誌では『クイック・ジャパン』『エロティクス』など、90年代サブカルチャーを代表する出版社だとされています。柄谷行人が『批評空間』の発売元を移管したのも、太田出版の勢いに依拠したいというものだったと思います。

当時、わたしは『情況』第二期編集部にいて、太田出版の奔放かつダイナミックな出版事業を羨ましく眺めていたものです。というのも、当時の情況出版の営業担当に元社青同解放派の方がいらして、同じ解放派出身の高瀬社長と懇意にしていたのです。

ここまで読まれた方で、新左翼の事情に詳しい方はピンときたことでしょう。新左翼(三派)はそれぞれ、党派の機関誌(『共産主義』『共産主義者』など)に準じる商業雑誌を持っていました。ブント系では『情況』のほかに京大出版会の『序章』があり、解放派が『新地平』、中核派は『破防法研究』。やや遅れて80年代に共労党系(いいだもも他)が『季刊クライシス』を、同志社出身のブント系ノンセクト松岡利康さんが『季節』(エスエル出版会)を発行し、わたしの世代の必携書になったものです。

それらの中で、岩波の『思想』や青土社の『現代思想』に伍して、学術的論壇を形成しえたのは、太田出版の『批評空間』およびそれを継承した『at』(連載陣に大澤真幸さん・上野千鶴子さんら)でした。われわれの『情況』は、第三期にいたって運動誌と学術誌の境目の曖昧さ、実践と理論をいまひとつ結び付けられないジレンマの中で低迷していきました。

時代を驚かすベストセラーを出しつつ、ニューアカ後のポストモダン状況を、正面から引き受けたのが、2000年代の太田出版だったといえましょう。わたしが太田出版の扉を叩き、ふたつの路線で企画を提案したのはそんな時期でした。ちょうどアソシエ21(御茶の水書房・情況出版などが母体)から柄谷行人さんが離脱し、NAMを立ち上げた時期だったので「なぜ、横山はNAMの太田出版に与しているのか」と疑念を持たれたこともありました。

◆『アウトロー・ジャパン』の頃

じつは思想界の動向とは、あまり関係がありません。わたしが持ち込んだのは、ヤクザ路線と新左翼路線だったのです。

ヤクザのほうは宮崎学さん(キツネ目の男)を媒介に北九州の工藤會、新左翼は荒岱介さんの実録ものでした。じつはこの時期、早稲田の学生たちがアソシエ21を自分たちのバックボーンにしたいと訪ねてきたので、わたしが彼らを出版の仕事(テープ起こしなど)でフォローすることにしたのでした。のちに彼らは、出版社の取締役、編集プロの社長、業界紙の記者、通信社の記者になりました。

工藤會の溝下秀男さんは当時、洋泉社(宝島社系)から出版した著書『極道一番搾り』などが文庫本化され、『実話時代』を舞台に現役親分論客として一世を風靡していました。いっぽうの荒岱介さんは、ワークショップ(昔の政治集会)を開けば700人を動員する全盛期で、故廣松渉さんも注目していた理論家でした。

溝下さんと宮崎さんの『任侠事始め』『小倉の極道謀略裁判』、荒さんの『破天荒伝』『大逆のゲリラ』など、確実に2万部近くは重版するので、高瀬さんから「横山さん、これを機に雑誌をやってみませんか」と提案されたのが『アウトロー・ジャパン』でした。

これは個人的には思い切った冒険で、官能小説作家として軌道に乗っていた仕事量の半分以上を、雑誌の編集作業に割くことになりましたが、このとき助けてくれたのが、今回の『はたちの時代』の版元編集者・村上清さんなのです。今回、10年ぶりのタッグとなりました。こういう人脈は、出版業界の記録として書き記しておくべきでしょう。

◆出版界はけっこう人脈で成り立っている

太田出版の高瀬社長は一昨年に亡くなられましたが、幻冬舎の社外役員も務められていました。見城徹さんとご昵懇だったのです。

その見城さんといえば、重信房子さんの歌集やアラブ関係の本(近著では『戦士たちの記録』2022年刊)を多数出されています。学生運動での挫折や奥平剛士さんの闘い(リッダ闘争)が、生き方として強い影響を及ぼしているということのようです。

その幻冬舎は、宮崎学さんの本を文庫化していた関係で『アウトロー・ジャパン』に広告出稿をしてくれたものです。付言すれば、鹿砦社(松岡さん)も広告を出してくれました(スキャンダル大戦争)。いまも鹿砦社は『情況』の貴重な広告スポンサーです。

高瀬さんも東アジア反日武装戦線の大道寺将司さんの支援、句集の発行などをされていました。出版文化のこころざしというものは、けっきょく伝えたい記録と史実、ゆるがせにできない証言を活字化すること、なのだと思います。

という思いを綴りながら、本をお読みいただいているすべての読書子のみなさんに、心から感謝いたします。活字の道しるべが心の癒しに、あるいは明日の指針になりますように。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年9月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

反乱を起こしてから3週間以上、ワグネル創始者プリゴジンの行方がわかっていない。そしていま、死亡説が飛び交っているのだ。

「プリゴジンを目にすることは二度とない」

海外のメディアに、アメリカ軍陸軍のエイブラムス元大将はこう話したという。

「公の場でプリゴジンの姿を目にすることは、もう二度とないだろう。彼はすでに死んでいると思う」

これ自体は推測にすぎないが、プリゴジンの死亡説を裏付けるように、ここに来てワグネルの新たなトップが就任するとの噂がある。その人物の異名は「白髪」を意味する“セドイ”、ワグネル創設メンバーのひとり、アンドレイ・トロシェフだ。

反乱の5日後、プーチン大統領がプリゴジンたちワグネル幹部と会った際、プーチンは“セドイ”こと、トロシェフのトップ就任を提案したという。プリゴジンはこれに同意しなかったという。それ以来、ブリゴジンの変装写真などは表に出てきたが、詳しい消息はわからないままだ。

いっぽう、ブリゴジン氏に一味した将官グループへの捜査も、風雲急を告げている。

◆数千人・数万人が取り調べを受けている?

プリゴジンと近いことから、共謀した疑いが持たれているのがスロビキン将軍(ウクライナ侵攻の元副司令官)である。そのスロビキン将軍に二重スパイの疑いが出てきている。ロシアメディアでは、国防省からの仕事として、ワグネルとのパイプ役を命じられていたというのだ。スロビキン将軍は特別軍事作戦だけでなく、シリアでも戦闘経験を持つ経験豊富な指導者で、ワグネルとの交流経験もあるため適任だったからだ。

いっぽう、アメリカCNNは、スロビキン将軍が、ワグネルの秘密のVIPメンバーだったと報じた。英シンクタンク「ドシエセンター」が入手した文書では、スロビキン将軍を含む30人以上の軍や情報当局の高官が、VIPとして登録されていたことが判明したという。スロビギンには、ワグネルとの関係を巡って拘束情報が出ているのは間違いない。訴因はワグネルの反乱の動きを、事前に知っていたという理由にほかならない。

いまクレムリンでは、とてつもない規模の捜査が行われているようだ。

親クレムリンの政治コンサルタントのセルゲイ・マルコフは、テレグラムで「スロビキン将軍が尋問されている。彼だけではない。大規模な捜査が始まった。ロシア連邦保安庁(FSB)の数百人の捜査官が、数千人を取り調べることになる。あるいは数万人になるかもかもしれない。プリゴジンと接触した将軍や将校は全員尋問されるだろう」と指摘している。

ウクライナのメディア「キーウ・ポスト」は「モスクワ治安筋の話として、スロビキン氏は現在逮捕されていないが、捜査には協力している(6月30日)としているが、大規模な捜査が行われているのは間違いない。

プリゴジンのクーデターは、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の解任をプーチン大統領に訴えるのが名分だった。プリゴジン氏はロシア軍の支持を得られると見込んでクーデターを起こしたが、スロビキン将軍はプリゴジン氏のはしごを外し、投降を呼びかけたのだった。現在、プーチン氏の命を受けたFSBが、裏切り者をあぶり出している。クーデターをきっかけに、プーチン氏は「中枢にメスを入れることができるし、疑心暗鬼が解消されることになる」と語ったという。

◆独裁者は裏切り者をけっして許さない

かつて、ヒトラー暗殺計画(1944年7月20日事件=ヴォルフスシャンツェ総統大本営爆破)では、事後に数千人が逮捕・処刑されたと言われている。ブリゴジンの反乱も、プーチンと会談するなど平和裏に収められた形だが、そのことがブリゴジンの命運を決めた。いくらおもねってみても、独裁者は反乱者をけっして許さないのだ。

もっとも、ヒトラー暗殺計画はイギリスによるものもふくめると、じつに42回あったとされている。これらの大半は戦後に判明したものである。

すでにウクライナのゼレンスキー大統領に対する十数回の暗殺計画が阻止された(英国情報部)ことを考えると、現在のプーチン大統領も暗殺未遂に遭遇していても不思議ではない。5月30日に起きたモスクワ郊外ノボオガリョボへの8機の自爆ドローンは、明らかに大統領公邸を狙ったものだった。

ここから先はロシア国内、わけてもクレムリン内部の反乱に注目である。

すでにオルガリヒのうち、戦争に疑問を持つ者たちは秘密裡に殺され、ブリゴジンに一味した将官たちは連座する運命にある。だが、ロシア国内においても、反乱の芽はつぎつぎに起きるはずだ。反乱が軍部とクレムリンに波及したときこそ、確実にウクライナ戦争は終局する。

◆プーチン逮捕はあるか?

もうひとつ、プーチン大統領をめぐって政治焦点化しているのが、新興5か国(BRICS)首脳会議への出席だ。

プーチンには、ウクライナへ侵攻(子供の連れ去りなど)で、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ている。(BRICS)首脳会議の会場となる南アフリカは、ICC加盟国である。理論上、南アフリカ裁判所はプーチンが来訪したら逮捕しなければならないのだ(条約履行義務)。

南アフリカのラマポーザ大統領は「プーチン氏を逮捕すればロシアと戦争になる恐れがある」との見解を示した。ラマポーザ大統領が地元裁判所に提出した文書をロイターなどが7月18日に報じたものだ。

BRICSは中国・インド・ロシア・ブラジル・南アフリカで構成され、南アフリカが今年の議長国を務めている。ラマポーザ大統領は、プーチン氏が訪問した場合でも逮捕を回避できるようICCと協議していることを明らかにした。 

南アフリカでは与党のアフリカ民族会議(かつてのネルソン・マンデラ大統領も所属した政党)がロシアと友好関係にあり、ウクライナ侵攻でもロシアへの表立った批判を避けていた。そのいっぽうで、野党は政権の親ロ姿勢を批判しており、プーチンが入国した場合に逮捕するよう政府に求め、地元裁判所に訴えを起こしている。プーチンが逮捕を怖れて会議に出席しないようなら、国際的な求心力も喪失することになる。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年8月号 岸田政権の対米隷属と“疑惑の銃弾”の真相/神宮外苑再開発「伐採女帝」小池百合子と維新の敗北/LGBT理解増進法の内実/ジャニーズ「再発防止チーム」が期待できない理由他

G7サミットで得られた内閣支持率を元手に、総選挙に打って出ようとした岸田政権は、マイナンバーカードの不備で失速。解散は先送りになった。解散自体が自民党総裁選挙を足固めであって、いわば党利以前の私欲にすぎなかったところに、現在の政権のもろさがある。

ここで付言しておけば、日本社会のデジタル化はほぼ不可能だと、われわれは以前から提言してきた。ネットおよびIT経験で、それなりに標準的な水準に居ると「自賛」している筆者ですら、マイナンバーの取得に大変苦労した。筆者の周辺にいる高齢者たちで、ITやSNSを満足に使えている人は極めて少ない。

国民総背番号制の試みは1970年に始まり、90年台の住民基本台帳の失敗を経て、今回が三度目の挑戦である。

なるほど理論的にはカードを一元化し、免許証や健康保険証を統合するのは一見簡単にみえる。しかしこの間の「他人のデータが出てきた」「医療現場では使えない」現象は、デジタル技術とセーフティシステムの難しさを物語っている。写真認証は本当にできるのか? 筆者の手元にあるマイナンバーカードの写真は、駅前の身分証写真用のポラロイドで撮った、じつに解像度の悪い代物である。こんな写真で登録していいのかと思うほどだ。

さりとて、スマホで撮った画素の低い写真を、これまた簡易プリンターにすぎないPC印刷で仕上げるくらいしか、いまや方法がない(かつて愛用した一眼レフを使うのに、2000円以上するバッテリー電池を買い、高額となったカラーフイルムを現像するのは、いかにも不経済だ)。デジタル技術は政治家が思っているほど利便性がなく、使う側の国民も途方に暮れる現実がある。

◆公明党と自民党の蜜月の終わりは、国土交通相ポストの帰趨だ

マイナンバーカードの愚痴に話は逸れたが、岸田政権が解散に踏み切れなかった理由はもうひとつある。東京都議会レベルでの公明党との与党提携の崩壊のきざしである。

国政選挙並みの試金石と言われた都議補選(大田区・改選数2)の結果については、『紙の爆弾』(8月号)の「小池百合子と維新の敗北」(横田一)に詳細が解説されているが、そこで指摘されているとおり「公明党支援なしの影響」が政治的な注目点だった。

都レベルでの自公提携の崩壊は、東京28区(練馬区東部)で自民党が公明党候補を認めない方針に始まった。この東京28区は10増10減によって新設された選挙区だが、足立区議選(自民大敗・公明躍進)など統一地方選の総括から、都レベルでは公明党が立候補を取り下げるかたちでの自公提携は、これ以上看過できないところまできているのだ。これが公明党側の理由だ。

いっぽう、自民党が公明党との提携をスポイルしたい背景にあるのは、もっぱら公明党が独占してきた国土交通相ポストだと言われている。公明党は第三次小泉内閣の北側一雄、第一次安倍政権の北芝鐵三いらい、国交相を自公政権の定番ポストにしてきた。とくに第二次安倍政権以降は、太田昭宏、石井啓一、赤羽一嘉、斎藤鉄夫と、4期連続で独占してきた。この権益が、自民党政治家たちの不満を買っているのだ。

国の基本インフラをささえる公共事業の要が国交省であり、その決定権をにぎるのが国交大臣だからだ。国家予算の大半でもある公共事業はしかし、同じく大きな比重をしめる社会保障費(全国一律の医療費・保険費・福祉費など)とは異なり、個別の事業者が参入するいわば利権が発生する事業である。参入企業はそれぞれに後援会組織を社内につくり、政治的代理人(多くは自民党議員)を支援している。つまり国交省をめぐる基本構造が自民党政治なのである。

いっぽうの公明党も、地域政治を実現するには道路や下水道といった、住民生活に結びついた基本インフラをみずから采配することが不可欠なのだ。ここに自公政権のアキレス腱がある。秋の解散も内閣改造も、この国交相ポストがキーワードになると指摘しておこう。

◆互いに心中したくない維新と小池

もうひとつ、注目しておきたい政局がある。

「小池百合子と維新の敗北」は大田区都議補選の政治的焦点が、神宮外苑再開発問題であったことを指摘する。再開発の背後に、いまや国民的な嫌悪感をもって語られる森喜朗の暗躍があったことに、有権者は敏感に反応したと言っていいだろう。トップ当選の無所属候補は、都民ファーストを脱党した森喜朗の利権告発者だった。

さて、小池党と維新の会の蜜月が噂されて久しいが、今回の選挙で都民(大田区民)は維新に拒否反応をしめした。この結果を見て、政治判断に長けている小池百合子は維新との距離をとりはじめるであろう。小池百合子の狙いは、維新や国民との野合ではなく、自民党政治への軟着陸だと言われてきた(各社政治部記者)。このラインは間違いのないところだが、政変に近い局面が顕われたときに、その判断力がふたたび問われると予告しておこう。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年8月号 岸田政権の対米隷属と“疑惑の銃弾”の真相/神宮外苑再開発「伐採女帝」小池百合子と維新の敗北/LGBT理解増進法の内実/ジャニーズ「再発防止チーム」が期待できない理由他

プリゴジンのバフムト撤退および国防相批判、参謀総長批判が、プーチンに粛清の「長いナイフの夜」を招来させるのではないかと、ちょうど一カ月前にわれわれは指摘してきた。

◎「勇者たちは地獄に堕ちるのか? ロシアの民間軍事企業『ワグネル』創設者プリゴジンはプーチンに粛清されるかもしれない」(2023年5月27日)

◆政変をめざしたのは明らかだったが……

その後、ワグネルの宿営地がロシア正規軍のミサイル攻撃を受け、プリゴジンは報復としてロシアのヘリコプターを撃墜して13名を殺害した。

そしてプリゴジンは軍幹部の粛清をもとめて、モスクワ進軍を開始したのだった。その過程でプリゴジンは地方で小政治集会をひらき、国民の支持を取り付ける行動に余念がなかった。さらには南部の大都市ロストフ・ナ・ドヌーの軍事拠点を占拠し、市民の大歓迎を受けたのである。この大歓迎は、メディアやネットでは有名だが、じっさいにワグネルを観たのは初めてだった市民の「大歓迎」であったとされる。伝説のヒーローたちが、手際よく軍司令部を占拠したことへの愕きでもあった。

このワグネルの「行進」がムッソリーニのローマ進軍(国王エマニエーレ3世による総理指名)、ヒトラーのミュンヘン一揆(失敗・投獄)に倣い、政変をめざしたのは明らかだったが、プーチンに「裏切り」と断じられ、検察当局が捜査を開始した段階で、部下に撤退を命じた。クーデターは未遂におわり、プリゴジンはベラルーシに「亡命」したと伝えられている。

この「亡命」劇は、ただちに粛清に乗り出せないプーチンが、盟友ルカシェンコ(ベラルーシ大統領)と相談の上、収拾策に出たものだ。プーチンの政治力の低下を指摘する声は多い(西側首脳)が、軍事衝突を回避した手腕は独裁者の冷徹を感じさせる。プーチンは政治危機を脱したのだ。


◎[参考動画]プリゴジン氏 反乱収束以来初めて声明発表(2023年6月27日)

◆スターリン流の粛清劇が待っている

ナチスドイツの「長いナイフの夜」は、独自の指揮系統と武器供与をもとめたナチス党突撃隊(党の軍隊)とプロイセンいらいの国防軍の矛盾だった。ナチスの党内対立(権力の強化をめざすゲーリング、ヒムラーらとエルンスト・レーム)もあった。ヒトラーは盟友レームと国防軍の矛盾に悩み、しかし最後はみずから親衛隊を率いて粛清を断行したのである。「裏切りは許さない」と。

これは法に拠らない虐殺・死刑執行であり、西欧諸国はヒトラーの無法を批判したものだった。しかし唯一、この粛清劇を称賛したのが、ソ連の独裁者スターリンだった。政治局会議で、スターリンはこう発言した。

「諸君はドイツからのニュースを聞いたか? 何が起こったか、ヒトラーがどうやってレームを排除したか。ヒトラーという男はすごい奴だ! 奴は政敵をどう扱えばいいかを我々に見せてくれた!」(スターリンの通訳だったヴァレンティン・ベレシコフの証言)。

この発言から5ヶ月後の1934年12月に、スターリンの有力な後継者かつ潜在的なライバルと目されていたセルゲイ・キーロフが暗殺された。キーロフ暗殺を契機に、スターリンはソ連全土で大粛清を展開していくことになるのだ。

このスターリンを「偉大な指導者」と評価してきたプーチンは、レーニンの「分離(独立)をふくむ連邦制」を批判して、今回のウクライナ侵攻に踏み切ったのだった。レーニンが批判した「スターリンの粗暴さ」を体現しているのが、プーチンその人なのである。

おそらくプリゴジンは、密かに粛清されるであろう。だからいったん国外に退去させ、ロシア国民との接点をなくしてから、人々がプリゴジンの名を忘れかけた時期に「窓から転落させる」か、毒物で密殺すると予告しておこう。すでに昨年らい、10人をこえるプーチンに批判的なオリガルヒや政治家が、プーチンの命で密殺(不審死)されているという。

ウクライナ戦争が軍幹部による陰謀(プーチンへの嘘の進言)であり、不正義の軍事行動であると断じたプリゴジンは「正義の行進」をモスクワまで続けるべきだった。まさに「侵略戦争を内戦へ」(レーニン)と転化することで、かれの「正義」は実現されるべきだったのだ。なぜならば、国民の多くは彼の「正義」を支持していたのだから。


◎[参考動画]夢の亡国共産主義④スターリンの大粛清

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

月刊『紙の爆弾』2023年7月号

◆重要捜査対象者だった木村三浩の指摘

『紙の爆弾』最新号で興味を惹かれたのは「文藝春秋『赤報隊』特集の罠」(木村三浩)である。文藝春秋」は赤報隊の正体を、野村秋介の周辺にいた右翼として描いているのだが、その論拠は盛田正敏(サム・エンタープライズ=不動産業)という人物の証言だという。

 

月刊『紙の爆弾』2023年7月号

すなわち、盛田が野村に渡した3000万円が赤報隊の逃走資金となったのではないか。そしてリクルートから盛田の会社に1000万円が寄付されたのも、野村への「対策金」、つまり赤報隊対策だったというものだ。

この種の「証言」は右翼や任侠系実業家にはありがちな「大言壮語」「オレだけが知っている秘話」であって、その人物を検証しなければならない。

盛田正敏は後藤忠政(山口組直参でのちに破門)の企業舎弟で、イトマン事件にも関与していたと言われている。02年には銀行取引が停止となり、ヤクザの借金回収に追われて渡米。帰国後は島田紳助やダウンタウンの浜田雅功の任侠右翼との関係を『週刊現代』で証言するなど、極道ネタを切り売りしてきた。いわば事件師(事件ネタを食い扶持にする)といってもいいだろう。

木村の記事は、この『文藝春秋』のエビデンスのいい加減さを指摘したものである。木村自身が9人の重要捜査対象者だったことから、当事者でもある。

たしかに野村秋介や鈴木邦男が赤報隊に会った、と匂わせたことはある。野村の朝日新聞本社での拳銃自決が、赤報隊への「俺が責任を取るから、もう朝日を攻撃するな」というメッセージだったと、野村に好意的な人々は解釈してきたものだ。

しかし、木村は直接触れていないが、被害者である朝日新聞の記者たちが右翼および民族派を徹底的に取材し、行き着いた調査の方向性は、木村が指摘するとおり「勝共連合(旧統一教会)」だった(樋田毅はその著書『記者襲撃』(岩波書店)のだ。樋田の著者に従いながら、事件捜査・取材の概要をふり返ってみよう。

◆赤報隊右翼説は、当初から外されていた

『文藝春秋』の特集も明らかにしているとおり、当初警察庁は朝日新聞阪神支局銃撃事件の犯行の態様、犯行声明の内容から右翼事件と断定した。まもなく捜査線上に木村をふくむ9名の右翼関係者がリストアップされ、個別に事件当日のアリバイ調査、ポリグラフ(嘘発見器)の任意捜査がおこなわれた。

しかるに、ほぼ全員にアリバイがあり、ポリグラフにも引っ掛からなかった。リストに挙げられた9人は、総合的に「シロ」と判断されたのだった。

もしかしたら、犯人は右翼ではないのかもしれない。捜査陣および朝日新聞関係者には、そう感じられた。本物の右翼であれば、みずからの犯行として警察に出頭する。そのうえで、犯行(天誅)の大義を堂々と述べるはずだ。かれらは往々にして売名的だが、逃げ隠れすることを嫌う。右翼事件にしては、赤報隊の隠密的な行動は異様だった。

取材した右翼関係者も口々に言った。

「従来の民族派が起こしたものと異なり、乾いた匂いのする事件だ」(野村秋介)、「こうした事件は、やわな右翼では起こせない」(民族派の活動家)、「周辺の右翼にあの事件を起こせそうな奴はいない」(行動派の民族活動家)と。そして樋田は、その民族活動家たちから「(犯行は)統一教会ではないのか」と逆に質問されるのだ。前掲書から他の民族派活動家の言葉を引用しよう。

「(犯行グループは)本心のキーワードを隠し、右翼を装っているのだ。テロ事件を繰り返すには強固な秘密組織が必要だ。右翼には秘密組織など作れない。それが可能なのは、左翼を除けば、α教会しか考えられない。君たち朝日新聞はα教会の秘密組織について取材してきたのか」

樋田の著書で「α教会」とされているのが、統一教会(世界基督教統一神霊教会・現在は世界平和統一家庭連合)である。

◆事前にあった脅迫状と幹部の演説

当時、朝日新聞および『朝日ジャーナル』(週刊誌)は、統一教会の霊感商法に対して紙面を割いて批判していた。統一教会(勝共連合)が中心となっていた「スパイ防止法制定促進会議」に対しても、朝日新聞は言論の自由を侵害する法案であると、反対の論陣を張っていたのだ。

統一教会は朝日新聞東京本社の前に街宣車を連日のように乗りつけ、朝日新聞を批判する演説を行なっていた。そして事件が起きた年の2月には、統一教会名で「ソ連のスパイ朝日社員どもに告ぐ。俺たちはきさまらのガキを車でひき殺すことにした……」で始まる脅迫文が届いてもいた。

文中に「俺たちが殺すのは共産サタンで人間ではない。てめえらバイキンだ、サタンだ」「俺はM16ライフルを持っている。韓国で訓練を受けてきた」とあることから、いかにも統一教会らしさを装っている。少なくとも統一教会を熟知している何者か、朝日と統一教会の対立をよく知っている者からの脅迫であろう。

朝日の記者たちが取材を開始してみると、事件の2か月前に統一教会の「関西の対策部長」を名乗る人物が、大阪の会合で「神側(統一教会)を撃ってくる人たちに対し、たとえ誰が霊的になってサタン側に立つ誰かを撃ったとしても、それは天的に見たならば当然許される」と話したという証言が得られた。

◆秘密の武装組織は存在したか?

前出の統一教会幹部が「サタン側に立つ誰かを撃ったとしても」が、朝日新聞阪神支局事件を指すのだとしたら、本当に武装した秘密組織があったのだろうか。反共の立場で共闘する右翼団体にも、統一教会はよく出入りしていたという。樋田の前掲書から紹介しよう。

日本青年旭心団の本部長・松本効三も勝共連合(統一教会)の若者たちと親しかった一人だが、心を許さなかった理由として「連中の持っている宗教は恐ろしい。人間をすっかり変えてしまう」と語り、「朝日新聞襲撃もα連合の可能性があると私は思っている」と語ったという。

松本の論拠は、同じ世代の右翼活動家が統一教会に取り込まれたかに見えたが、その活動家は「α連合には分からない部分があり、恐ろしい組織だ」と語ったからだという。松本によれば「この分からない部分というのは秘密組織か何かを指している」のではないかというのだ。

松本自身が観光ビザで韓国に行き、ベトナム戦争派遣の猛虎部隊に体験入隊した経験があった。したがって、統一教会の若者たちが韓国内で軍事訓練をするのも、たやすいのではないかというのだ。

いや、わざわざ韓国に行くまでもない。統一教会は当時、全国で26店舗の銃砲店を持っていた。その多くは射撃場を併設し、来客に試射させてもいたのだ。韓国の統一教会は銃砲メーカーを経営し、そこで生産したエアライフルを日本に輸出していたのである。統一教会の日本人会員(元自衛官)が、義勇兵としてケニアに派遣されていることも明らかになっている。統一教会は銃器とわかちがたく結ばれていたのだ。

◆証言をひるがえした会員たち

樋田ら朝日の記者たちは、統一教会の秘密軍事部隊の存在を追っている。そして早稲田大学の原理研に所属していた、元信者の証言をとったのだ。その元信者は大学卒業後に統一教会の会長秘書を務めたのち、特殊部隊に所属したという。その任務は、信者であることを隠して金山政英元駐韓大使の私的研究所に入り、研究所にあった韓国と北朝鮮、民団および総連の資料を入手していたという。別の女性元信者も、統一教会の非公然の軍事組織に所属し、銃を撃つ練習をしていたことを明らかにしている。

その女性元信者によれば、軍事訓練の指導は習志野空挺団出身の幹部が担当し、数人のグループで参加したという。実際に多かった任務は監視活動で、焼き芋の屋台をリヤカーで引きながら、監視対象の周辺を探ったという。ほかの元信者は、生道術(空手の一種)を身に着けた数十人の屈強そうな男性が集められて、軍事訓練を行なったと証言している。特殊な任務で軍事訓練をしていた秘密組織が、統一教会のなかに間違いなく存在していたのだ。

ところが、秘密軍事組織の証言をした元信者に再度取材したところ、かれらは先の証言をひるがえしている。というのも、元信者は統一教会に復帰していたのである。銃の訓練をしたという証言も「そんなこと言いましたか? 私は覚えていません」と否定した。この否定こそが、松本効三がいう統一教会の「分からない部分があり、恐ろしい組織」であり、民族派活動家が言う「テロ事件を繰り返す……強固な秘密組織」が「可能なのは、左翼を除けば、α教会しか考えられない」という評価に合致する。

直接的な証拠こそないが、朝日新聞襲撃事件の実行部隊は、統一教会が秘密裡に組織した軍事組織、あるいはその任務を請け負ったプロ的な軍事グループと見るのが自然ではないだろうか。

◆タイトルを重視する編集者の落とし穴

さて、木村が「罠」だと指摘した『文藝春秋』の「勝共隠し」に立ち返ろう。

今になって『文藝春秋』が赤報隊事件を特集したのを、木村は新谷学編集長が「編集長の職を退くにあたっての、新谷氏の思いも関係しているのではないかと推察する」と、やんわりした感想のオブラートに批判を包み込んでいる。

言論の士であり、リアルな政治活動家らしい感想だが、スクープとファクトを編集の髄としてきた新谷にとって、この特集は編集長としての汚点になると、ここでは指摘しておこう。まさに木村が指摘するとおり、エビデンスに欠ける「スクープ」なのだから。

じつは、あえて「罠」というほど巧妙でも突飛でもない。ひとつのテーマを掘り下げるとき、徹底的に他の有力なテーマを封印する編集手法なのだ。あたかも「スクープ」が真実であるかのように描き出す雑誌ジャーナリズムの、とくに文春砲と呼ばれた方法論がそこにあるだけなのだ。

野村秋介大人の死が過去のものとなり、野村をよく知る鈴木邦男が逝去した今だから、飛び出してきた「スクープ」だともいえよう。墓碑銘を穢すことはあっても、慰霊することにはつながらない。

なお、「紙爆」最新号には、横田一による「旧統一教会『500億円新施設』と
変化する『合同結婚式』」の現地取材レポートが掲載されている。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年7月号

反プーチン勢力(ロシア義勇軍・自由ロシア軍など)がウクライナから越境攻撃するなど、ウクライナ戦争は緊迫の度を高めている。

ロシアの内戦のきざしとともに、注目を集めているのがワグネルのプリゴジンの発言(映像パフォーマンス)である。

「弾薬が70%足りない。ショイグ(国防相)、ゲラシモフ(参謀総長)! 弾薬はどこにあるんだ」「あれほど要求したのに、送られてきたのは、たった10%だ!」
と、軍首脳を罵倒してきた民間軍事会社ワグネルのプリゴジンは、バフムトを完全制圧したとして(ウクライナ軍部はこれを否定し逆包囲を示唆)、前線からの撤退を表明した。

投降したワグネルの兵士(懲役囚)の話では、ウクライナ兵の位置を知るために丸腰で最前線の標的にされたという。ワグネルに「退却はない」のだそうだ。その戦い方はしかし、弾薬不足を証明しているのかもしれない。


◎[参考動画]ワグネル「バフムト撤退」表明 ロシア軍に陣地を引き継ぎ(2023年5月25日)

◆クーデターを怖れている?

ロシア軍がワグネルに弾薬を送らない理由が、プリゴジンのクーデターを怖れているのではないかという説がある(中村逸郎「現代ビジネス」ほか)。

独裁者がみずからと対抗するナンバー2を許さないのは、ナチスドイツのヒトラーとエルンスト・レームの関係に明らかだ。

二人の関係を描いた戯曲『わが友ヒットラー』で、三島由紀夫はレームに「軍隊は男の楽園」と語らせ、その軍隊を統制する政治が左右の過激分子を排除する権謀術策であることを証していく。

その三島が激賞した映画「地獄に堕ちた勇者ども」は鉄鋼王の一族が、ナチスに乗っ取られていくドラマの中に、レーム粛清の「長いナイフの夜」を挿入している。休暇先でのドイツ人らしからぬ陽気な乱痴気騒ぎと、眠りこけている朝、SSを中心とした正規軍に虐殺されるシーンの対比が凄まじい。


◎[参考動画]「地獄に堕ちた勇者ども」La Caduta degli dei〈The Damned〉(1969伊・西独)

ちなみにイタリアの原題は「La caduta degli dei(神々の堕落)」で、西ドイツでは「Die Verdammten(くそ野郎)」。共同制作国でも、ナチスを扱う分だけ表現が違うわけだが、アメリカはドイツの原題をそのまま「The Damned(くそったれ)」である。品がなさすぎる。邦題がいちばん相応しいと思う。

◆緩慢なる粛清

ところで一説には、プリゴジンに届けられたのは弾薬だけではなく、「バフムトの陣地を離れたら、祖国に対する国家反逆罪になるという脅し付きだったのだ」(前出、中村)という。

ロイターは「 ロシア民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は、ウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトから部隊を撤退させれば祖国に対する反逆と見なすと示唆されたと明らかにした」と報じている。だとしたら、これは緩慢な粛清ではないのか。

「この戦争のみならず、シリア内戦の時も、プリゴジン率いるワグネルはロシアの正規軍よりも最前線に立って戦ってきました。それもすべては、『盟友』プーチンのために他なりません。しかし、ここ最近のやり取りから、プーチン側はプリゴジンを切り捨てたように見えます」(中村)

プーチンとプリゴジンの関係は、プーチンがサンクトペテルブルク市第一副市長だった頃からだという。プリゴジンは継父とともに始めたホットドッグ店のネットワークからレストラン経営に転じたころ、プーチンが店に通うようになったという。

公式の記録では、2001年にプーチンとシラク仏大統領が、プリゴジンが経営する「ニューアイランド(船上レストラン)」で食事をしている。このときプリゴジンは、個人的に料理を提供したという。2002年にはジョージ・W・ブッシュ大統領を迎え、2003年にはプーチンが同レストランで誕生日を祝っている。

◆戦争を商売にする者たち

ワグネルは約5万人とされているが、ロシア軍の先鋒隊として世界各地で戦闘を行なっている。

提携する軍隊は、ウクライナドンバスの親ロシア派だけではなく、シリア正規軍・イランのイスラム革命防衛隊・中央アフリカ軍・モザンビーク国防軍・マリ軍・リビア革命軍など。そして派遣先でワグネルグループの子会社を通じて権益を得ているのだ。かつての関東軍がアヘン利権で戦費をおぎなったように、独立した政商軍隊なのである。それゆえに派遣先では戦争犯罪行為を訴追され、国際犯罪組織に指定されてもいる(アメリカなど)。

このことはまた、現代世界が21世紀の今日もなお、戦争(侵略と内戦)という経済実体を持っていること、グローバル資本主義のもとでもなお、ナショナリズムと国家主義の堅牢さがあることを雄弁に物語っている。

独裁政権をめぐる権力闘争もまた権謀術策にまみれ、戦争の中で人命を食い物にしながら残虐に行なわれるのだ。プリゴジンとプーチンの関係から目を離せない。


◎[参考動画]【ドキュメンタリー】“プーチンの料理人”がウクライナに「囚人兵」を派遣 ロシア軍事企業「ワグネル」の暗躍【TV TOKYO International】(2023年1月27日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

月刊『紙の爆弾』2023年6月号

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