イスラエルのギラッド・コーヘン駐日大使は10月13日、東京・丸の内の日本外国特派員協会で記者会見し、その中で10月11日にBS-TBSで放送された「報道1930」で、ジャーナリストの重信メイ氏が出演したことを問題視した。


◎[参考動画]イスラエル「総攻撃に移行する」“天井のない監獄”の現状は?【10月11日 TBS-BS 報道1930】|TBS NEWS DIG

重信メイ氏は、国際テロ組織、日本赤軍を率いた重信房子・元最高幹部の娘である。それゆえコーヘン氏は、メイ氏の番組出演が「市民を暗殺しても構わない」というメッセージを送ることになると主張。「殺人者やテロリストの一族」に発言の場を与えるべきではない、などと話した。

だが、これをウクライナ戦争の現状に例えてみれば、コーヘン氏の主張は珍妙極まりないものになる。現在、複数の日本人がウクライナ戦争および近隣国に「義勇兵」「医療スタッフ」「ボランティア」として参加しているが、誰がかれらを「テロリスト」と呼ぶだろうか?

イスラエルは、1936年のパレスチナ独立戦争を受けたピール委員会裁定(イスラエルはパレスチナの15%を国土とする)いらい、入植地を拡大することでアラブ人を隔離地に追いやってきた、いわば侵略国家なのである。ヨルダン川西岸・ガザ地区を隔離し、いわば「21世紀のアパルトヘイト政策」を行なっているのが、イスラエルなのである。

ロシアのクリミア併合、ドンバス併合が明らかに侵略戦争・領土分割であるとしたら、イスラエルのパレスチナ侵攻も、まちがいなく侵略戦争・領土併呑である。いまわれわれは、人間的な尊厳をかけてロシアと戦うウクライナ人を、英雄的だとすら称賛する。侵略者が占領地のロシア化、強制連行、殺戮やレイプを重ねるがゆえに、ウクライナ人の悲惨な現実に支援を惜しまない。

ロシアの侵略行為を許すならば、東ヨーロッパ(旧ソ連圏)全体が、あるいは極東がプーチンの専制支配に蹂躙される可能性があるからだ。パレスチナで起きていることも、侵略という本質は同じである。


◎[参考動画]イスラエルとパレスチナ双方の大使が都内で会見 互いに非難(2023年10月14日)

◆重信房子のハーグ事件への関与は立証されていない

日本赤軍はPFLP(パレスチナ民族解放戦線)の支援組織として、いわば公募ボランティアから出発し、のちに軍事作戦に従うことになるが、いわば義勇兵的な参加形態であった。

重信房子個人で言えば、ハーグ事件(オランダのフランス大使館襲撃・人質事件)の共同共謀正犯として起訴されたが、事実関係は公判でも明らかにされていない。ライラ・ハリド、カルロス(この事件の主導者)も、重信の関与を否定している。
コーヘン駐日大使は、リッダ事件にも言及している。

「私が尊敬するTBSのニュースで、50年前にイスラエル人を殺害した、重信の娘にインタビューしているのを見た。重信の娘は、日本のテレビでコメンテーターをしていた。これは何だ?」

日本赤軍(当時は赤軍派)は1972年5月、イスラエル・テルアビブのリッダ空港(現ベングリオン空港)で約100人を死傷させた銃乱射事件を起こしている。この点を念頭に置いた発言だが、じつはこの事件は民間人の死者の大半が、イスラエル兵の銃射撃だったことも明らかになっている。

すなわち、当初は管制室を襲撃するはずだったものが、警備のイスラエル兵と銃撃戦になり、民間人を巻き込んだ惨劇となったのだ。そしてこの作戦はPFLPが立案し、奥平剛士と安田安之、岡本公三が「パトリック・アルグレロ隊」(名称の由来は、70年にPFLPの作戦で殉死したニカラグア人)として参加したものだ(重信房子『革命の季節』『戦士たちの記録』幻冬舎刊参照)。当時の重信房子はPFLPの広報部の仕事を手伝っていて、作戦そのものに関与していない。


◎[参考動画]重信房子(元・日本赤軍) 第17回反戦・反貧困・反差別共同行動 in 京都での挨拶(2023年10月15日)

◆ハマスを生み出したのは、イスラエルである

コーヘン駐日大使への我々からのメッセージとして、あえてイスラエルをテロ国家と規定しよう。

なぜならば、遠因がイギリスの二枚舌外交(パレスチナにアラブ国家とユダヤ人国家を約束)にあるとはいえ、入植地の一方的な拡大と、自国民保護の名目で軍事占領、殺戮と隔離政策を推し進めてきたのが、イスラエルにほかならないからだ。
かつてのPFLPの抵抗も、現在のハマスの軍事行動も、イスラエルの侵略に原因があるのだ。

すでに75年にわたって、殺戮と蹂躙、血の報復が行われてきたパレスチナで、イスラエルはガザ地区への地上軍事侵攻、すなわちジェノサイドサイド(大量虐殺による民族浄化)に出ようとしている。そしてわれわれ日本人にとって、パレスチナ紛争はよくわからない問題である。

誰かに訊いてみるといい。パレスチナ紛争が侵略戦争であり、自分の住む家をうしなった難民問題であることを、どれほどの日本人が知っているだろうか。宗教紛争だと思い込んでいる日本人も少なくないはずだ。それゆえに、パレスチナ問題を熟知している重信房子、メイ母娘が解説につとめることが、いまの日本には必要なのだ。


◎[参考動画]【オプエドLIVE】重信メイ【緊迫の中東 戦火の根源を探る】(2023年10月18日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年11月号