◆規模停電の脅しで原発再稼働を推進

昨年の6月21日、梅雨が明けきっていない東電管内で「電力ひっ迫の注意報」(予備率が5%を下回る予想)が経産省により発令された。すぐにも警報に切り替えそうな勢いで、担当課長が緊急記者会見をしていた。

実際には90%台の後半の設備利用率(発電設備に対する電力需要)で、電力ひっ迫は起こらなかった。もちろん、呼びかけに応じて実施された節電も影響している。

14~15時台に最大5254万kW(以下、万kWを省略)の需要に対して供給力は5674で8%上回る程度に準備されていた。警報発出は3%を下回る場合とされているから、まだ余裕があった。東京電力エリア内の2022年最大電力は8月2日の5930で、このときは6440の供給力を用意していた。

6月末のピークは、その後にも来たが、「電力ひっ迫注意報」は30日午後6時で解除されている。この時期に電力がひっ迫するというのは想定外だった。もちろん、地震などで大型火力のいくつかが止まればたちまちひっ迫するし、それは3月22日に実際に起きて経験したことでもある。

東京では毎年夏のピークは、梅雨明けの季節に起きることが多い。梅雨明けで日照が多くなり、気温が急速に上がる一方で、まだ湿度が高いため蒸し暑い。暑さに慣れていないこともあり、冷房需要が急激に高まる。通常は、7月下旬に起きるこの 「梅雨明けピーク」が、今年は例年にない気象で1カ月早まってしまった。これがいろいろなミスマッチを生じさせたのである。

◆「電力ひっ迫に備えて原発」は正解か?

実際には原発で大電力を供給している時に災害が発生したら停電のリスクは高まる。それは東日本大震災と2007年の中越沖地震で起きている。原発も火力も海沿いに多数立地しているから、津波が発生すれば被災する。

地震で発電所に大規模な破壊が生じなくても、高圧送電線や変電所が被災すれば電気は送れない。地震や津波では原発こそが停電のリスクが高い。

自然災害に対処する場合、ひとつひとつが小さくても広く分散して設置され、地産地消の仕組みを基礎として広域連系ができていることが強靱さを発揮する。できるだけ消費地に近いところに立地し、被災しても早期復旧が見込める火力発電がよいだろう。

もう多くの人は忘れてしまったのかもしれないが、東日本太平洋沖地震後の復旧も圧倒的に火力が早かった。被災した原発15基は、未だに1基も稼働していないが、火力は震災の年の7月までにすべて復旧している。近い将来発生する南海トラフ地震では、西日本各地でブラックアウトしたまま復旧に長期間要する。防災対策上も極めて深刻な事態を招くだろう。

夏の節電要請は、震災直後の2012年以来7年ぶりと各社報じた。ではその前はいつだったのだろうか。2007年である。7月16日に中越沖地震が発生し、柏崎刈羽原発が全部止まったため政府から節電要請が出されている(経済産業省関東圏電力需給対策本部決定 平成19年7月20日付け)。

原発が地震に弱いことも実証済だ。被災した柏崎刈羽原発7基のうち、2011年までに再稼働したのは4基に留まっている。過去の「電力危機」は東電管内においてはすべて原発が原因といっても過言ではない。(つづく)

本稿は『季節』2022年冬号掲載の「経産省『電力ひっ迫』のからくり」を再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

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3月10日発売 『季節』2023年春号(NO NUKES voice改題)福島第一原発事故 12年後の想い


〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年春号
NO NUKES voice改題 通巻35号 紙の爆弾 2023年4月増刊

《グラビア》福島発〈脱原発〉12年の軌跡(写真=黒田節子
      東海村の脱原発巨大看板(写真=鈴木博喜

樋口英明(元裁判官)
《コラム》原発回帰と安保政策の転換について

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》戦争は静かに日常生活に入って来る
《講演》放射能汚染水はなぜ流してはならないか

乾喜美子(経産省前テントひろば/汚染水海洋放出に反対する市民の会)
《アピール》放射能汚染水反対のハガキ作戦やっています

今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
《講演》懲りない原子力ムラが復活してきた
日本の原子力開発50年と福島原発事故を振り返りながら

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福島第一原発事故 12年後の想い
森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream[サンドリ]代表)
あなたは「原発被害」を本当に知っていますか
黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち)
フクシマは先が見えない
伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
何を取り戻すことが「復興」になるのか
今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
呆れ果てても諦めない
佐藤八郎(飯舘村議、福島県生活と健康を守る会連合会会長、生業訴訟原告団)
私たちが何をしたというのか
佐藤みつ子(飯舘村老人クラブ副会長、生業訴訟原告団)
悔しさだけが残ります
門馬好春(30年中間貯蔵施設地権者会会長)
中間貯蔵施設をどうするか
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鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
区域外避難者はいま

水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
裏切られた2つの判決
福島原発刑事裁判と子ども脱被ばく裁判

漆原牧久(「脱被ばく実現ネット」ボランティア)
病気になったのが、自分でよかった
311子ども甲状腺がん裁判第3回・第4回口頭弁論期日報告

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家/舞踏家)
《対談》戦後日本の大衆心理[前編]

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
反社はゲンパツに手を出すな!

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
突然のごとき政治的変更を目前にして

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈19〉
2023年に生きる私が、死について考える

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の再稼働と再稼働の全力推進に怒る! 岸田内閣に大反撃を!
「規制をやめた」規制委員会に怒り! 山中委員長と片山長官は辞任せよ!

《全国》永野勇(再稼働阻止全国ネットワーク)
総攻撃には総力を結集して反撃を!
「福島を忘れない!原発政策の大転換を許すな!全国一斉行動」の成功を!
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
岸田政権による原発推進政策に抗し、女川原発2号機の2024年再稼働阻止を!
《福島》橋本あき(福島県郡山市在住)
「環境汚染」から「裁判汚染」まで 多岐にわたる汚染
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東海第二原発差止訴訟・控訴審決起集会に参加して
《東海第二》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東京に一番近い原発=東海第二原発 2024年9月の再稼働を止めるぞ!
《東京》平井由美子(新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会)
環境省が新宿御苑へ放射能汚染土を持ち込もうとしている!
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
原発推進に暴走する岸田政権、追従する大阪地裁 行きつく先は原発過酷事故
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
再稼働推進委員会が経産省と癒着、「規制の虜」糾弾
《反原発自治》けしば誠一(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
岸田政権の原発推進大転換を許すな!
5月27日反原発自治体議員・市民連盟第13回定期総会へ
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『また「沖縄が戦場になる」って本当ですか?』ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 編
 
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汚染水放出のトリチウム濃度について東電は「海洋放出の場合」 「海水中のトリチウムの告示濃度限度(水1リットル中6万ベクレル)に対して、 「地下水バイパス」及び「サブドレン水」(原発建屋周囲の地下水汲み上げ井戸)の運用基準(水1リットル中1500ベクレル)を参考に検討する、としている。

一見、法令上の規制値から40分の1に下げているので安全と思われるかもしれないが、それは誤解だ。

放射性物質による公衆の年間被曝制限値は1ミリシーベルトと定められている。

1500ベクレルとは、現在も放出されているサブドレン水及び地下水バイパスの排出運用に基づき設定された値である。これ以外にも放射性物質が漏出している福島第一原発では、法定基準値で排出したら他の放射性物質との合計で1ミリシーベルトを超えることから、トリチウムについては1500ベクレルとした。

事故によりさまざまな放射性物質を拡散させる福島第一原発では、排水中にトリチウム以外にもセシウムやスト097ロンチウムなどの放射性物質が含まれることから、それらが混在していても全体として公衆への被曝線量が法定基準内に収まるよう2012年に設定されたのである。

サブドレンとは、建屋周りの地下水を汲み上げて排水することで建屋などへ流入する地下水を低減させるために使用する井戸。地下水バイパスとは原発の上流側の海抜35メートルの高台に12本の井戸を設け、地下水を連続して汲
み上げ排水する設備だ。

アルプスで処理した水も、ストロンチウムやセシウムが全部なくなるわけではないし、その他の放射性物質も残留するとして、その値が告示濃度以下であっても環境への影響、人体への影響を抑えるために設定されている。現在は排水中のトリチウムが1500ベクレルを超えることは認められないことから、サンプリングで超えた場合はすべてタンクに貯蔵される。このことから東電はそれを目安として排出する
ことにしている。

一般の原発では存在しない1500ベクレル/リットルという基準を定めなければならないほど、福島第一原発の環境は汚染されていることを示している。

貯蔵すればトリチウムの総量は減る海洋放出について全国漁業協同組合連合会(全漁連)は、反対の意志を変えていない。県漁連と国・東電との間では「関係者の理解なしには放出をしない」ことを文書により約束している。

国も東電も反故にすることはしないという。しかし一方で海洋放出に関する「説明会」が1000回以上開催されており、既成事実化しようとしている。放射性物質は常に「減衰を待つ」ことが基本だ。

トリチウムの半減期は12.3年で、初期値が850兆ベクレルでも2052年時点で約90兆ベクレルに減る。さらに、濃縮すれば体積を大幅に削減できる。

123年経てば1000分の1になるので問題はさらに解決しやすくなる。

トリチウムの量を減らすには、時間経過を待つのが最も効率的だ。地元をはじめ多くの人々が求めているのは100年以上の長期保管だ。

これについて経産省は「2011年12月から30~40年での廃止措置終了時においては、アルプス処理水についても処分を終えていることが必要」としている。そして「貯蔵継続は廃止措置終了まで(注:最長2052年まで)の期間内で検討することが適当」と期限を切る。

東京電力は4月12日に海洋放出の関連費用が4年で計430億円に上る見通しだと明らかにした。これだけの費用を掛ければ、数年で新しく地下式のタンクで備蓄することは可能だ。地上タンクもなくすことができ、防災上も有利である。

肝心の廃炉が40年以内に完了する見通しは、まったくない。この前提で検討を進めること自体が全体をミスリードさせている。考え方を変える必要がある。ありもしないゴールを想定して汚染水放出を正当化することなど許されない。(完)

◎山崎久隆《特別寄稿》福島第一原発からの「汚染水海洋放出」に反対する
〈1〉放出にいかなる理由があるのか 
〈2〉「汚染水対策」は最初から失敗 
〈3〉「1500ベクレル」の根拠 

本稿は『季節』2022年夏号(2022年6月11日)掲載の「福島第一原発からの『汚染水海洋放出』に反対する」を本ブログ用の再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年冬号(NO NUKES voice改題 通巻34号)

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年2月号

東電は「どのような処分方法であっても、法令上の要求を遵守することはもちろんのこと、風評被害の抑制に取り組む」(市民団体の質問への回答より)としているが、その処分方法は国の小委員会でも「大気放出」 「海洋放出」の2つしか議論されていない。地元の漁協などへの反対意見に対しても「放出」前提の対策のみで話が進んでいる。国も東電も放出以外の方法を検討していない。

2012年想定で、 2021年度末の段階では汚染水の新たな発生はなくなり、建屋内部の滞留水もデブリの冷却用に注入される日量5トンから6トン(3基合計で20トン程度)に留まるとされていた。

これは、凍土遮水壁や建屋及び周囲の土地の雨水浸入防止措置で、新たな水の流れ込みを押さえることで達成できるとしていた。

ところが、2017年頃になって、地下水や雨水の侵入防止がうまくいかないことが顕在化し、結局、当時最大でも80万立方メートル(現状の6割程度)で留まるはずが、今も増え続けている。

浸水防止の失敗が、汚染水増加を食い止められない事態を生んだ。2021年中には1日平均150立方メートルも浸入する状況になっている。

凍土壁が地下水を十分食い止めきれず、随所に漏れがあること、特に下部(底の部分)はもともと止められていないこと、建屋の損傷部や敷地の土壌部(舗装さえ完了していない)からの雨水浸入が止められないことが原因だ。

最初から、恒設の止水壁を地下に造り、 「地下ダム」を構築すると共に地上部をチェルノブイリ原発のドームのような構造物で覆うなどしていれば、汚染水の増加は防ぐことができたし、そうした主張や提案は市民から東電にも国にもされていたのに採用しなかった。また、その責任を指摘し追及する人もほとんどいない。

今からでも、これら対策を最優先にし、汚染水の発生量をゼロにする対策を構築すべきだ。

◆「放出基準値」の異常

申請されている放出方法では、汚染水は1日当たり最大約500立方メートルを排出する計画で、 「1500ベクレル/リットル」の濃度まで海水で薄めて流すという。その総量は「トリチウムで年間22兆ベクレル」で、原発が稼働していた時の管理目標値を使う。

原発の時代の管理目標値を、どうして廃炉になった原発で使えるのか、その法的根拠は何かが疑問だ。

さらに福島第一原発が実際に稼働していた時代には、年間放出量実績は平均約2兆ベクレル程度だった。実績として管理目標値の10分の1に抑えていたとも言える。ところが今度は原発でさえない(即ち経済的なメリットも何もない)施設から年間22兆ベクレルを放出するという。

40年かけて毎年22兆ベクレル放出の場合、開始時点では汚染水は総量137万トンほど、さらに毎日130トン程度溜まり続けるために、全体量はすぐに大きく減らない。現状の風景の約1000基のタンク群はそのまま。目に見えてタンクが減りはじめるのは2040年頃以降である。

東電はタンクの貯蔵限界を2023年秋とし、最長で24年1月まで貯蔵可能としている。その段階で137万トンを越えるという。しかしこれは放出開始時期を2023年春と仮定し、逆算して日量130トンの汚染水発生を推定した結果にすぎない。大型台風がひとつ襲来したり梅雨や秋の長雨でもあれば崩れてしまう。

建屋の止水を進めることが最も効果的なのだから、これを進めていけば少なくてもタンク容量から、放出時期を23年にする根拠はなくなる。単なるつじつま合わせでなく、対策と効果を正しく評価して、優先すべきことを明確にする必要がある。(つづく)

◎山崎久隆《特別寄稿》福島第一原発からの「汚染水海洋放出」に反対する
〈1〉放出にいかなる理由があるのか 
〈2〉「汚染水対策」は最初から失敗 
〈3〉「1500ベクレル」の根拠 

本稿は『季節』2022年夏号(2022年6月11日)掲載の「福島第一原発からの『汚染水海洋放出』に反対する」を本ブログ用の再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
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福島第一原発の事故から、早くも11年余の時が経過した。この間に何度か地震に遭遇したが、大きな被害は受けていない。この地域は常に巨大地震と津波の脅威が迫っているとされるところであり、重大事故を再発する潜在的な危険性は大きい。

発生した場合、爆発的な炉心溶融ではなく、炉心の真下にあるデブリの拡散と1000基を超える汚染水貯蔵タンクの倒壊のような、放射性物質の拡散事故が大きな被害をもたらす恐れがある。また、使用済燃料プールの冷却ができなくなり、燃料破損・溶融も懸念される。言い換えるならば、原子炉建屋の倒壊が最も危険である。

それに対する安全対策は最優先事項だ。しかし現状はそうなっていない。

政府は、2021年4月に福島第一原発のタンクに溜まり続けている「汚染水」約134万トンについて、 「海洋放出」で処分することを決定した。その理由として費用対効果と共に、汚染水タンクが地震で倒壊した場合の放射性物質大量拡散を防ぐためとしている。

しかし、海洋放出を始めたからといってすぐにタンクがなくなるわけではない。30~40年とされる「廃炉期間」の間に順次減っていく程度である。最初の数年は、見かけも減った印象などないし、地震のリスクも変わらずに存在し続ける。

福島県民や漁業関係者をはじめとして、強い反対の声を押し切ってまで強行する合理的な理由は見当たらない。また、東電は敷地をタンクが占領している状態で、廃炉に必要なデブリ取り出しの施設、設備が設置できないことを理由としている。しかしこれは合理的な敷地利用で対処可能であり、理由にはなっていない。

すでに規制委員会の審査がほぼ終わり、2022年6月には排水用地下トンネル本体工事着工、2023年春頃にも放出開始されるとされる。その最新の状況をお伝えする。

◆福島第一原発の「汚染水」とは何か

NHKは2021年4月の関係閣僚会議での海洋放出決定以降、「汚染水」という表現をやめた。「風評被害を招く」との主張が国会でされたことが原因だ。

他の報道機関も「福島第一原発の貯蔵タンクの水」を「アルプス処理水」または「処理水」と呼ぶようになっている。なお、アルプスとは「ALPS・多核種処理設備」のことだが、以下「アルプス」と表記する。

しかし、どのように表現しても「流れ込んだ雨水と地下水と、冷却用の注水が溶け落ちた炉心いわゆるデブリに接触して汚染された水」を「多核種除去設備・アルプスで処理した水」であることに変わりはない。

最初の 「汚染」 を重視するか 「処理」を重視するかで、呼び方に違いがある。汚染の大小があるにしても、トリチウムなどの放射性物質が混じる水だ。「アルプス処理」をしてもトリチウムの量が1リットル当たり数百万ベクレルにも達するものもあるので「トリチウム汚染水」とも言える。しかしアルプスを通してもストロンチウムやセシウムなどは全部除去しきれないので「(放射能)汚染水」でもある。

現在貯蔵されているタンクの水は、そのまま薄めて海に流せるものは3割以下、残りは再度アルプスで処理して流すとしているから、国の基準でも現在の水は大半が汚染水であることに変わりはない。(つづく)

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〈2〉「汚染水対策」は最初から失敗 
〈3〉「1500ベクレル」の根拠 

本稿は『季節』2022年夏号(2022年6月11日)掲載の「福島第一原発からの『汚染水海洋放出』に反対する」を本ブログ用の再編集した全3回の連載記事です。

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