「安倍政権の敵=すべて正義」という思考回路になっているのだろうか。いま話題の国会議員夫妻、河井克行氏(57)と案里氏(46)の公選法違反(買収)事件に関し、普段は「反権力」をウリにする識者たちが繰り広げる発言を見ていると、そう思わざるをえない。

これまでの報道などを見る限り、河井夫妻が地元広島で大勢の地方政治家たちに金を渡していたことや、昨年7月の参院選の際に官邸から河井陣営に1億5000万円の資金が渡っていたことは事実で間違いないだろう。ただ、河合夫妻は「買収」目的で金を渡したことは否定し、無罪を主張している。であれば、無罪推定の原則に従い、夫妻の主張の信ぴょう性も慎重に検討されるべきだろう。

しかし、「反権力」がウリの識者たちのメディアやSNSでの発言を見ていると、河井夫妻を有罪と決めつけたうえ、検察の捜査が政権中枢に及ぶことを期待する意見に終始しており、「検察の応援団」と化している趣だ。しかも、彼らの発言内容を見ていると、自分で独自に取材などはしておらず、報道の情報に依拠して発言しているのは明白だ。

彼らは普段、「権力は暴走する」だとか、「権力は監視しないといけない」だとか、「現場に足を運ぶのが取材の鉄則だ」などと言っておきながら、自己矛盾を感じないのだろうか。

筆者自身、安倍首相のことは好きではないし、無罪推定の原則を絶対視しているわけでもない。しかし、普段は「反権力」をウリにする識者らがこの事件に関し、事実関係をないがしろにし、「検察の応援団」となって盛り上がっている様子には、正直げんなりしてしまう。

有罪視報道を繰り広げるマスコミ

◆事実を見極める目を曇らせるものとは……

検察捜査への疑念を表明した橋下氏と堀江氏のツイッターでのやりとり

この事件に関する著名人の発言をチェックしてみると、普段は「反権力」などと声高に言わない人たちのほうが、むしろ「権力監視」や「無罪推定」といった原理原則に沿った発言をしていることがわかる。たとえば、元大阪府知事の橋下徹氏だったり、実業家の堀江貴文氏だったりだ。

スポーツ報知の記事(http://ur2.link/UqHa)によると、橋下氏は報道番組に出演した際、金を受け取った政治家たちが河井夫妻側の意図について「選挙買収目的でした」と検察の有罪立証に資する証言をし、立件されずに済んでいることを問題視。堀江氏もこのスポーツ報知の(グノシーで配信された)記事に、ツイッターで反応し、橋下氏とやりとりする中で、「正式に司法取引してないんですか、、普通にすればいいのに」(http://ur2.link/oZWJ)などとツイートしている。要するに2人は、暗に検察が違法な司法取引をやっている疑いを指摘しているわけだ。

そして橋下氏は結論的に、金を受け取った地元広島の地方政治家たちの証言の信用性に疑問を投げかけたうえ、「有罪心証報道が先行し過ぎ」(http://ur2.link/THKi)と述べている。刑事事件や事件報道の見方として、きわめて的確な意見で、まったくケチのつけようがない。

翻ってみると、橋下氏や堀江氏は普段、「反権力」をウリにする識者たちから批判的されることが多い人たちだ。そういう人たちがこの事件の検察捜査への疑念を表明する一方で、普段は「反権力」をウリにする識者たちが報道の情報に依拠して「検察の応援団」に化している現実を目の当たりにすると、「歪んだ党派性」は事実を見極める目を曇らせるのだということを再認識させられる。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第11話・筒井郷太編(画・塚原洋一/笠倉出版社)が配信中。

月刊『紙の爆弾』2020年7月号【特集第3弾】「新型コロナ危機」と安倍失政

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

黒川弘務元検事長が新聞記者たちとの賭けマージャンを週刊文春に報じられた騒動をめぐっては、検察とマスコミはそこまでズブズブだったのか……と驚く声、呆れる声があちこちで沸き上がっている。それでも、ひと昔前に比べたら、検察とマスコミのズブズブ感は薄まっているのかもしれない。2016年に発行された書籍『田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と特捜検察「栄光」の裏側』(朝日新聞出版)を読めば、おそらく誰もがそう思うだろう。

同書は、朝日新聞のウェブサイト「法と経済のジャーナル」で22回に渡って連載された「特ダネ記者がいま語る特捜検察『栄光』の裏側」を書籍化したもの。朝日新聞、NHKの両社で検察取材を担当した記者1人と元記者2人が、2013年に亡くなった吉永祐介元検事総長のエピソードを中心に検察の捜査や、検察報道の今と昔について、裏の裏まで語り合っているのだが、その中では、検察とマスコミの超ズブズブぶりも具体的エピソードと共に明かされた凄い一冊だ。

◆元検事総長から捜査資料を提供されたことをNHK記者が告白

『田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と 特捜検察「栄光」の裏側』(朝日新聞出版)

吉永氏は東京地検特捜部の副部長時代にロッキード事件の捜査を指揮したのをはじめ、数々の特捜事件を手がけ、「検察のレジェンド」と呼ばれる存在。本書でこの吉永氏のことなどを語り合っているのはNHK元記者の小俣一平氏(1952年生まれ)、朝日新聞元記者の松本正氏(1945年生まれ)、同・現役記者の村山治氏(1950年生まれ)の3人だ。いずれも検察取材が長く、小俣氏と松本氏の2人は吉永氏に深く食い込んだ記者だったという。

そんな同書では、村山氏が担当した前書きに、小俣氏のことを次のように紹介する文章が出てきて、いきなり驚かされる。

〈小俣さんは、歴代のマスコミ各社の記者の中で最も吉永さんに食い込んだ記者だった(中略)吉永さんの家族同然で、吉永さんが亡くなるまで濃密に付き合った。2006年には、吉永さんの捜査資料をもとに、坂上遼の筆名で『ロッキード秘録 吉永祐介と四十七人の特捜検事たち』(講談社)を執筆した〉(P19)

小俣氏が元検事総長の吉永氏と「家族同然」の付き合いをしていたというのも凄いが、何より特筆すべきは、小俣氏が吉永氏の捜査資料をもとに本を書いたことがあけすけに語られていることだ。普通に考えると、小俣氏に捜査資料を見せた吉永氏の行為は国家公務員法上の守秘義務違反にあたるからだ。

黒川氏と新聞記者たちの賭けマージャンが発覚した際には、黒川氏が捜査情報を記者らに提供するなどの守秘義務違反を犯しているのではないかと疑う声が飛び交った。黒川氏と記者たちの間でそのようなことが本当にあったのだとしても、吉永氏と小俣氏のズブズブぶりに比べたら、まったくかわいらしいものである。

ロッキード事件では、マスコミが検察と手を組み、田中氏を追及していた(朝日新聞東京本社版1983年1月27日朝刊1面)

◆朝日新聞社会部長はロッキード事件で検察の捜査を支持することを事前に確約

ロッキード事件に関しては、さらに凄い話が出てくる。村山氏によると、検察が捜査開始宣言をする2日前、朝日新聞の佐伯晋社会部長が密かに東京・霞が関の検察庁ビル8階の検事総長室に布施健(たけし)検事総長を訪ねていたというのだが、同席した東京高検検事長の神谷尚男氏から次のように持ちかけられたという。

「法律技術的に相当思い切ったことをやらなければならないかもしれない。それでも支持してくれますか」(P69)

これに、佐伯氏は「もちろん」と答えたというのだが、「法律技術的に相当思い切ったこと」とは、5月27日付けの当欄で紹介した「嘱託尋問」のことだろう。

検察が日本で起訴しないことを約束し、最高裁も刑事免責を保証したうえで、アメリカで行われたロッキード社のコーチャン氏らに対する嘱託尋問では、コーチャン氏らが田中氏への贈賄を証言し、検察が田中氏を刑事訴追するための有力証拠となった。しかし、当時の日本では刑事免責は制度化されておらず、コーチャン氏らの証言は最高裁に証拠能力を否定されたというのはすでに述べた通りだ。

当時、この証言の違法性がほとんど注目されなかったのは、マスコミが水面下で検察と手を組んでいたからだったのだ。

◆「田中角栄を逮捕した男」は自宅で毎日のように大勢の記者と飲み会

同書では、松本氏もひと昔前の検察とマスコミのズブズブぶりをこう証言している。

〈吉永さんや当時の特捜部の幹部は、「マスコミこそが、特捜の応援団なんだ。その支えを失ったら、検察は終わりだ」とよく話していました〉(P98)

実際、ロッキード事件の捜査、公判に関する当時の新聞記事を見ると、マスコミが検察の応援団と化し、田中氏を一緒に追い込んでいるような雰囲気だ。マスコミにとっても、検察と手を組み、政治権力者の疑惑を追及するのは「正義の実現」という認識だったのだろう。

そして極めつけが、吉永氏と記者たちの関係を振り返った次のくだりだ。

〈吉永さんは、田中元首相の一審公判の判決前後に東京地検次席検事を務めた。東京地検次席検事は、検察のスポークスマンで、毎日定例会見を開き、記者の夜討ち朝駆けも受ける。夜はたいてい、自宅に記者が大勢来て、酒を飲む。そういう中で毎日のようにトイレが汚れた。誰かが酔っぱらって粗相をするのだ。それを見つけるといつも吉永さんは長男を捕まえ「お前また汚しただろ」と叱りつけた。後に、長男は小俣さんに「あれは親父が犯人だったんですよ。検事のくせに他人のせいにするんですよ」と話した。鬼検事の吉永さんも家庭では普通のダメ親父だった〉(P98)

東京地検次席検事の自宅で、毎夜、記者が大勢集まり、酒を飲んでいた……。黒川氏の賭けマージャンの会場が産経新聞の記者の自宅だったとか、黒川氏が記者に提供されたハイヤーに便乗して帰宅していたとか、これに比べれば実に些細なことだと思えてくる。

賭けマージャンが発覚した黒川氏が訓告、朝日新聞の元記者が停職1カ月といずれも甘い処分で済み、刑事責任も追及されないことについては、批判する声が少なくない。しかし、これまで検察とマスコミがズブズブに付き合っていた歴史を振り返ると、検察も新聞社も賭けマージャンくらいで厳しい処分を下すことはできないというのが実情なのだろう。

この本の著者たちの言葉の1つ1つは、賛同できるか否かはともかく、検察とマスコミの裏面を世に伝える貴重な資料であることは間違いない。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第9話・西口宗宏編(画・塚原洋一/笠倉出版社)が配信中。

月刊『紙の爆弾』2020年7月号【特集第3弾】「新型コロナ危機」と安倍失政

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

元検事長の黒川弘務氏が新聞記者らとの「賭けマージャン」を週刊文春に報じられ、辞職に追い込まれた一件をめぐっては、検察とマスコミのズブズブぶりに対しても批判の声が渦巻いている。「権力監視が使命」などとうたうマスコミが実際には捜査当局とズブズブだというのはもはや常識だが、「それにしても、ここまでとは……」と驚いた人も少なくなかったのだろう。

実を言うと、検察とマスコミがズブズブなのは、検察官が現職の時だけの話ではない。退官後、マスコミに天下る検察幹部も散見されるからだ。今回はその実例を紹介したい。

◆松尾氏はテレビ東京の監査役に7年近くも在任

監査役を務めるテレビ局に自分の活躍を報道させる松尾邦弘氏(テレ東NEWSより)

筆者は当欄で、検察OB14人が検察庁法改正案に反対意見を表明し、ヒーロー扱いされた異常事態の危うさを繰り返し指摘してきた。あの14人の中でも存在感が際立っていた元検事総長の弁護士・松尾邦弘氏については、マスコミに天下った検察官の実例としても真っ先に紹介しなければならない。

というのも、松尾氏は2013年6月にテレビ東京ホールディングスの社外監査役となり、それから7年近くに渡って在任し続けているからだ。このように東京キー局の役員に検察OBが長く名を連ねるケースは珍しく、松尾氏は検察とマスコミがズブズブの関係であることを象徴する人物だと言っていい。

では、松尾氏以外の検察官のマスコミへの天下り状況はどうかと言えば、現在、テレビ局や新聞社、通信社に天下っている例は見当たらない。一方で目立つのは、広告代理店に天下っている検察官たちだ。何しろ、広告代理店の大手各社が揃って検察官の天下り先となっているのだ。

◆高橋まつりさんの過労死をきっかけに電通に天下った検察OB

まず、業界最大手の電通グループ。2015年12月、入社1年目の女性社員・高橋まつりさん(当時24)が過労を苦に自殺し、大バッシングされたのをうけ、同社は2017年2月、有識者3人から成る「労働環境改革に関する独立監督委員会」を設置した。その委員長を務めたのが、元福岡高検検事長の弁護士・松井巖氏だった。そして松井氏は今年3月から同社の社外取締役についている。

高橋さんが自殺に追い込まれた件では、電通は検察に労働基準法違反罪で略式起訴され、罰金50万円の有罪判決を受けているが、このように同社が刑事事件の加害者となったのをきっかけに、検察OBが役員のポストをゲットしたわけだ。

次に、扱い高が業界2位の博報堂DYホールディングス。同社では、2015年6月から最高検刑事部長だった弁護士の松田昇氏が社外取締役を務めている。松田氏は元々、2005年1月から同社の完全子会社である博報堂の社外監査役を務めており、社外役員としては破格の長期在任だ。ズブズブ中のズブズブだと言っていい。

そして最後に、総合広告代理店の中では扱い高3位のADKホールディングス。現在の役員に検察OBはいない同社だが、元々、検察との結びつきは前出の2社よりも強い。前身のアサツーディ・ケイ時代、2012年3月から2014年3月にかけて元検事総長で弁護士の大林宏氏が社外取締役を務め、さらに2014年3月から2015年3月まで大林氏の後任を務めたのも元広島地検検事で作家の弁護士・牛島信氏だったくらいだ。

ちなみに牛島氏が検察官として働いたのは若い頃に2年程度だが、同氏は弁護士としてはやり手のようで、松竹で社外監査役、エイベックス・グループ・ホールディングスで社外取締役を務めたこともある。マスコミとは切っても切り離せないエンターテイメント業界ともつながっているわけだ。

こうした前例をみると、新聞記者らと賭けマージャンをするほど親密な関係だった黒川氏も何事もなければ、退官後はマスコミに天下っていた可能性がありそうだ。「懲戒免職にならないのはおかしい」と批判され、退職手当をもらうことにまで厳しい目を向けられている黒川氏だが、すでに地位以外の様々なものを失っているのかもしれない。

▼片岡健(かたおか けん)
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6月7日発売!月刊『紙の爆弾』2020年7月号【特集第3弾】「新型コロナ危機」と安倍失政

6月11日発売!〈原発なき社会〉をもとめて 『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

1977年に北朝鮮に拉致された当時中学1年生の横田めぐみさんの父親で、拉致被害者家族会の初代代表の横田滋さんが5日、老衰のために亡くなった。87歳だった。

これをうけ、マスコミは一斉に滋さんの逝去を悼む報道を繰り広げたが、1つ気になることがある。それは、北朝鮮から「めぐみさんの遺骨」として提供された骨について、マスコミ各社が「めぐみさんとは別人の骨」だと決めつけていることだ。それは確かに日本政府の公式見解ではあるのだが……。

あの骨は本当に「めぐみさんとは別人の骨」だったのだろうか。改めて考えてみたい。

「拉致問題は安倍首相らに政治利用されてきた」という声もある(安倍晋三公式サイトより)

◆問題の骨からは「めぐみさんとは別人のDNA型」が検出されてはいるが……

まず、事実関係を振り返る。

北朝鮮が日本人13人の拉致を認め、金正日総書記が謝罪したのは2002年のことだった。その後、13人のうち5人は日本に帰国したが、めぐみさんら残り8人は死亡したと伝えられ、帰国は叶わなかった。北朝鮮によると、めぐみさんは北朝鮮で結婚し、女の子を出産したが、1994年に自殺し、1997年に火葬されたとのことだった。

しかし2004年、北朝鮮から提供された「めぐみさんの遺骨」について、日本政府が調べたところ、とんでもない結果が出る。帝京大学医学部の吉井富夫講師(当時)の鑑定により、遺骨から「めぐみさんとは別人」のDNA型が複数検出されたのだ。

これにより、北朝鮮から「めぐみさんの遺骨」として提供された骨が「めぐみさんとは別人の骨」であり、「めぐみさんは、本当は生きているのに北朝鮮が隠している」というのが日本政府の公式見解になった。そして日本のマスコミの多くもこれに追随した。対する北朝鮮は「日本の鑑定は捏造だ」「めぐみさんは本当に死亡した」と主張して譲らず、これ以降、両国の間で拉致問題は未解決のまま、平行線をたどってきたわけだ。

一方でこの間、鑑定を行った吉井氏に取材した英国の科学雑誌「ネイチャー」の記者が、同氏から「鑑定は、断定的なものではない」という内容の証言を引き出し、同誌で発表。それ以来、「日本政府の見解こそが間違いだ」「再鑑定をすべきだ」などという声もくすぶり続けている。

では、一体、日本と北朝鮮の主張、どちらが正しいのか。結論から言うと、筆者は「どちらとも断定できない」という立場だ。ただ、問題の骨について、「めぐみさんとは別人の骨」だとし、「めぐみさんは、本当は生きているのに北朝鮮が隠している」とする日本政府の見解に信ぴょう性がまったく感じられないでいる。

問題の骨に関する日本側のDNA型鑑定について、北朝鮮に反論されたため、外務省はHPで再反論した

◆第三者に追認されていない鑑定、北朝鮮が嘘をつく動機も見当たらない

その理由は第1に、問題の骨から「めぐみさんとは別人のDNA型」を検出できたのは、この世で吉井氏ただ1人であることだ。問題の骨はもともと、1200度の高温で火葬されたもので、DNA型が検出できるのかが疑問視されていた。そして実際、この骨のDNA型鑑定は警察庁科警研でも行われながら、科警研では誰のDNA型も検出されていないのだ。

第三者により再現できない「科学鑑定」というのは、一般的に信用性が低いものである。

第2に、鑑定手法の問題だ。現在、DNA型鑑定は天文学的な精度で個人識別ができるようになっている。しかし、それは状態の良い試料を「核DNA型鑑定」という手法で行った場合の話だ。吉井氏が行なったのは「ミトコンドリアDNA型鑑定」で、これはDNAの量が微量でも可能な鑑定手法だが、精度や再現性に問題があるというのが専門家の間では常識だ。

実際、刑事裁判でも、核DNA型鑑定で有意な結果が得られず、ミトコンドリアDNA型鑑定でのみ何らかの有意な結果が得られている事件では、ミトコンドリアDNA型鑑定の信用性が争点になり、審理が紛糾しがちだ。吉井氏の鑑定について、ミトコンドリアDNA型鑑定であることのみを根拠に「間違っている」と断定することはできないが、第三者による再鑑定により鑑定結果が追認されていない以上、信用するのは無謀だとは言い切れる。

そして第3に、そもそも、北朝鮮が日本に対し、めぐみさんの生存を隠し、「死んだ」と偽りたくなる動機があるとも思い難い。北朝鮮にとって、そんな嘘をついても何のメリットもないからだ。

むしろ、仮にめぐみさんが生きていれば、北朝鮮はめぐみさんを日本に帰国させることを交換条件に、日本から経済支援を引き出そうと考えるほうが自然だろう。

あの骨が北朝鮮の主張通り、本当に「めぐみさんの遺骨」であるならば、偽物扱いされためぐみさんは気の毒だ。この問題については、「北朝鮮は嘘をつくに決まっている」と決めつけたりせず、冷徹に事実関係を見極めるべきだ。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第10話・奥本章寛編(画・塚原洋一/笠倉出版社)が配信中。

月刊『紙の爆弾』2020年7月号【特集第3弾】「新型コロナ危機」と安倍失政

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国民的批判を浴びた検察庁法改正案が今国会での成立が見送られるまでの一連の騒動では、法案に反対の声をあげた元検事総長の松尾邦弘氏ら検察OB14人がヒーロー扱いされる「異常事態」が起きた。筆者はこの件について、当欄で繰り返し問題性を指摘してきたが、今回は大企業2社の不祥事の実例に基づき、くだんの検察OBたちがヒーロー扱いされる危うさを改めて指摘しておきたい。

◆なぜ、東芝、関電に捜査のメスが入らないのか

くだんの検察OBたちは法務省に提出した意見書(※朝日新聞デジタルに全文が掲載されている)において、検察が「政財界の不正事犯」を捜査対象にしていることを根拠に、検察への内閣の介入を許す恐れがある法案への反対意見を述べた。次の一文には、そんな彼らの熱い思いがほとばしっている。

〈時の政権の圧力によって起訴に値する事件が不起訴とされたり、起訴に値しないような事件が起訴されるような事態が発生するようなことがあれば日本の刑事司法は適正公平という基本理念を失って崩壊することになりかねない〉

これは正論と言えば、正論だ。だが、この正論に基づいて批判されるべきは、安倍政権だけではない。他ならぬ検察もこの正論によって批判されるべき存在だ。なぜなら、検察は時の政権の圧力を受けるまでもなく、起訴に値する事件を不起訴としたり、起訴に値しないような事件を起訴するような事態を頻発させているからだ。

近年では、東芝と関西電力の事件で実際にそういうことが起きている。

まず、東芝の事件。2015年に証券取引等監視委員会の立入調査により発覚した同社の粉飾決算は、総額が実に2000億円超に及んだ。不正発覚時の経営陣は揃って引責辞任に追い込まれ、粉飾決算が行なわれた間の社長3人、最高財務責任者2人は東芝や株主たちから損害賠償請求訴訟を起こされている。しかし、これほどの大事件を起こした東芝に対し、なぜか検察は捜査のメスを入れていない。

続いて、関西電力の事件。原発が立地する福井県高浜町の助役だった森山栄治氏(昨年3月に死去。享年90)から同社の役員ら75人が総額約3億6000万円相当の金品を受領していたとされる事件は、昨年9月、共同通信のスクープで表面化した。同社が森山氏の要求に応じ、工事を発注した事例があり、金品を受領した役員らは特別背任や総収賄などの罪で捜査されて当然の事件だ。しかし現時点で、検察はこの事件も本格的に捜査しようとする気配がない。

一体、検察はなぜ、この2社の事件に捜査のメスを入れないのか。事実関係を調べると、背景に「邪な事情」があることを疑わざるをえない。この2社は事件の発覚前から現在に至るまで大物検察OBの天下りを受け入れ続けているからだ。

◆東芝、関西電力に続々と天下る検察OBたち

まず、東芝。粉飾決算が発覚する14年前の2001年から2004年まで同社で社外監査役、社外取締役を歴任した筧栄一氏は、元検事総長だ。さらにこの筧氏の後任で、2004年から2009年まで社外取締役を務めた清水湛氏は、元最高検検事である。

そして東芝は2015年に粉飾決算が発覚すると、「特別調査委員会」を設置したのだが、元大阪高検検事長の北田幹直氏が同会の委員として名を連ねている。さらに同会の調査では真相解明が進まず、東芝は次に「第三者委員会」を設置したのだが、その委員長を務めたのは元東京高検検事長の上田廣一氏だ。大物検察OBが役員に名を連ねた大企業で粉飾決算が発覚したのをうけ、その調査を任せられたのも別の大物検察OBたちだというわけだ。

さらに東芝は粉飾決算発覚後、新たに社外取締役として、元最高検次長検事の古田佑紀氏を迎え入れている。大物検察OBが役員に名を連ねながら重大な不正が行われたにも関わらず、それ以後も東芝では検察OBたちが利権を拡大させていたわけだ。こうした事実が揃う中、東芝の粉飾決算が事件化されないのでは、検察の公正さが疑われても仕方ない。

東芝の粉飾決算発覚後、社外取締役についた古田氏(東芝ホームページより)

一方、関西電力はどうか。

昨年6月に退任するまで同社で長く社外監査役を務めた土肥孝治氏は、「関西検察のドン」との異名を持つ元検事総長だ。そしてその後任として同社の社外監査役についたのは、元大阪高検検事長の佐々木茂夫氏だ。この2人の社外監査役の交代があった時点で、社内ではすでに役員らの金品受領事件が発覚していたので、この人事はそれと無関係ではないだろう。

しかも、この事件は社内の調査委員会の調べにより発覚しているのだが、その委員長を務めた小林敬氏は、大阪地検の特捜部がフロッピーディスク改ざん事件を起こした時の検事正だ。小林氏は役員らの不正を知りながら、公表するなどの措置を講じていなかったわけだ。

関西電力の役員らの不正発覚後、社外監査役についた佐々木氏(2019関西電力グループレポート)

さらに共同通信のスクープでこの不正が表面化すると、関西電力は「第三者委員会」を設置して真相解明にあたったが、その委員長を務めた但木敬一氏も元検事総長だ。そして事件発覚後、土肥氏から社外監査役の地位を引き継いだ佐々木氏は、この6月の株主総会で社外取締役に選任される見通しだ。大物検察OBが監査役を務めながら役員らが重大な不正に手を染めたのに、また新たに別の大物検察OBたちの天下りを受け入れ、刑事責任を追及されずじまい……、関電も東芝とまったく同じ道をたどっているわけだ。

こうした事実関係からすると、検察は「大企業を食い物にする組織」だとみなされても仕方ないだろう。そんな検察のOBたちをヒーロー扱いしていたら、彼らは調子にのり、東芝や関西電力の事件で起こしたのと同じようなおかしなことを今後も続発させることだろう。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第9話・西口宗宏編(画・塚原洋一/笠倉出版社)が配信中。

7日発売!月刊『紙の爆弾』2020年7月号【特集第3弾】「新型コロナ危機」と安倍失政

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

検察庁法の改正案が国民的な批判にさらされ、今国会での成立を見送られるに至った一連の騒動は、ますます事態が混とんとしてきた。法が改正されたら、検事総長の座に長く君臨する可能性を疑われた「政権の守護神」こと黒川弘務東京高検検事長が「文春砲」により失脚したためだ。

しかし、この間に検察OBたちが法案への反対を表明し、ヒーロー扱いされたことの問題性は、社会の多くの人に見過ごされたままだ。そこで引き続き、当欄でこの問題に言及しておきたい。

今回言及するのは、法案に反対した検察OBたちが法務省に提出した意見書で、ロッキード事件の捜査や公判を自画自賛したことに関してだ。問題の意見書は、朝日新聞デジタルに全文が掲載されているので、必要に応じて参照して頂きたい。


◎[参考動画]“検察庁法改正案”攻防が激化……検察OBが反対表明(ANNnewsCH 2020/05/15)

◆検察の証拠は「刑訴法一条の精神に反する」

検察OBたちが意見書でロッキード事件の捜査や公判を自画自賛したことに関して、筆者はすでに当欄で以下2点の問題を指摘している。

【1】ロッキード事件で逮捕、起訴された元首相の田中角栄氏は裁判で一、二審こそ有罪とされたが、最高裁に上告中に死去したために有罪が確定しておらず、田中氏を有罪扱いした意見書の内容は「無罪推定の原則」に反すること(5月18日付け記事)

【2】意見書を法務省に持参した元検事総長の松尾邦弘氏は、退官後、三井物産に社外監査役として天下っているにも関わらず、三井物産の同業他社である丸紅の元社長らが逮捕、起訴されたロッキード事件の検察捜査を絶賛しており、公正さを疑われても仕方がないこと(5月22日付け記事)

これだけ見ても、検察OBたちの意見書が稚拙なものだったことはおわかり頂けると思われる。これに加え、今回新たに言及するのは、ロッキード事件の捜査、公判を通じて大きな問題になった「嘱託尋問」に関してだ。

この事件では、ロッキード社で副社長などを務めたコーチャンらがアメリカで行われた「嘱託尋問」で、田中氏らへの贈賄を証言し、この証言は日本の検察が田中氏らの有罪を立証するための有力な証拠となった。しかし、この嘱託尋問は、日本の検察がコーチャンらを起訴しないことを確約し、最高裁も刑事免責を保証したうえで行われたものだった。当時は日本に刑事免責の制度は無かったから、本来、そんな証言を日本の裁判で証拠にすることは許されない。

実際、田中氏らと共に立件された秘書官の榎本敏夫氏の裁判では、最高裁が榎本氏の有罪を維持した一方で、判決(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/355/050355_hanrei.pdf)でコーチャンらの証言の証拠能力を否定している。その中でも特筆すべきは、大野正男判事が補足意見でこの証言を事実認定の証拠とすることを次のように厳しく指弾したことだ。

〈公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ事案の真相を明らかにすべきことを定めている刑訴法一条の精神に反するものといわなければならない〉

これは、コーチャンらの証言を法廷に示した検察の有罪立証に向けられた批判だとも受け取れる。このような批判を受けたロッキード事件の担当検事たちが退官後、再び公の舞台に出てきて、この事件の捜査や公判を自画自賛するのは、本来、大変恥ずかしいことなのだ。


◎[参考動画][1976年2月] 中日ニュース No.1153_1「ロッキード献金事件 ついに証人喚問へ」

◆「人民裁判」を肯定したに等しい検察OBたち

検察OBたちの意見書を改めて読み直すと、酷さが際立っているところは他にもある。以下の部分だ。

〈かつてロッキード世代と呼ばれる世代があったように思われる。ロッキード事件の捜査、公判に関与した検察官や検察事務官ばかりでなく、捜査、公判の推移に一喜一憂しつつ見守っていた多くの関係者、広くは国民大多数であった〉

〈新聞もテレビもロッキード関連の報道一色に塗りつぶされて日本列島は興奮の渦に巻き込まれた〉

ロッキード事件における検察の捜査や公判活動が国民から熱烈な支持を受けていたことを得意げに書いているが、これでは「人民裁判」を肯定したに等しい。この意見書に名を連ねた検察OBたちはおよそ法律家とは思い難い。

むしろ、このように当時、日本全国が報道の影響でのぼせ上がっていたからこそ、明らかにアンフェアな手続きで得られたコーチャンらの証言により田中氏らが刑事訴追されたことについて、当時の国民は問題性に気づかなかったのだろう。

冤罪問題に対する世間一般の関心が薄かった昭和の時代ならともかく、この令和の時代に、ロッキード事件を手柄話のように公然と語る検察OBたちがヒーロー扱いされる現状は、やはり相当危うい。この問題については、今後もさらに言及していきたい。

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◎盛り上がる検察官「定年延長」法案批判、いくつかの的外れな批判(5月14日)

▼片岡 健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第9話・西口宗宏編(画・塚原洋一/笠倉出版社)が配信中。

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国民的な批判にさらされた検察庁法改正案について、政府・与党はついに今国会での成立を断念した。政権が検察に介入する恐れが指摘された法案が、このコロナ禍のどさくさに紛れて成立することが回避されたのは、とりあえず良かったと言えるだろう。

一方、この間に、法案に反対の声を上げた14人の検察OBがヒーロー扱いされる「異常事態」が起きたことも忘れてはならないだろう。筆者はその問題性について、5月18日付けの当欄で指摘したが、この件に関して、新たに「深刻な問題」がわかった。それを紹介しておきたい。

◆「天下り」で甘い汁を吸ったのは4人

検察庁法改正案に反対の声をあげた検察OB14人は、法務省に提出した意見書で検察が「政財界の不正事犯」も捜査対象にすることを根拠に、検察の独立性が確保されることの重要性を説いている。それ自体は正論と言えば正論だ。

しかし実際には、この意見書を法務省に提出した元検事総長の松尾邦弘氏、元最高検検事の清水勇男氏の両名が退官後に大企業に天下り、自分たちこそが財界とズブズブになっていたことは5月18日付けの当欄で指摘した通りだ。

では、新たにわかった「深刻な問題」とは何なのか。それは、問題の検察OB14人のうち、前出の松尾氏を含む4人が社外監査役や社外取締役として天下っていた企業がよりによって政権与党の自民党に政治献金をしていた、ということだ。

つまり、この4人は、検察の独立性の重要性を主張しながら、他ならぬ自分たちが検察の捜査対象となりうる政財界の仲間入りを果たし、役員報酬を与えられるなどの甘い汁を吸っていたのである。以下に、その4人の名前と各人の天下り先が自民党にどれほどの政治献金をしていたのかを示す。

なお、ここに示した各社の自民党への献金額は、令和元年11月29日付け官報に掲載された「平成30年分政治資金収支報告書の要旨」において、自民党への献金の受け皿となる政治資金団体「国民政治協会」に対する献金額として記載されていたものだ。また、天下り先の会社名の横の()内は、各人が天下り先で与えられた役職だ。

【1人目:元東京高検検事長・村山弘義氏の天下り先の平成30年の自民党への献金額】
・三菱電機(社外取締役) 2000万円

【2人目:元大阪高検検事長・杉原弘泰氏の天下り先の平成30年の自民党への献金額】
・三菱ケミカルホールディングス(社外監査役) 1000万円 ※献金をした際の名義は、三菱ケミカル

【3人目:元検事総長・松尾邦弘氏の天下り先の平成30年の自民党への献金額】
・トヨタ自動車(社外監査役)   6440万円
・三井物産(社外監査役)     2800万円
・損害保険ジャパン(社外監査役) 1360万円
・小松製作所(社外監査役)    800万円

トヨタ自動車のHPで監査役として紹介されている松尾邦弘氏

【4人目:元最高検次長検事・町田幸雄氏の天下り先の平成30年の自民党への献金額】
・三井化学(社外取締役)  250万円
・双日(社外監査役)    1100万円
・みずほ銀行(社外取締役) 2000万円 ※献金をした際の名義は、みずほフィナンシャルグループ

さて、どうだろうか。検察の独立性の重要性を主張する検察OBたちが実際には、自分たちこそ検察の捜査対象となる政財界とズブズブであることが一目瞭然だろう。

◆検察OBたちの天下り先の同業他社が検察の捜査対象に……

ところで、このように、自民党に政治献金をしつつ、大物検察OBたちの天下りを受け入れている企業の名前を見てみると、すぐに気づくことがあるだろう。それは、検察に犯罪を摘発された企業は1社もない、ということだ。

一方で、ここに社名を挙げた検察OBたちの天下り先の同業他社が検察の捜査対象になっている例は散見される。

たとえば、松尾氏の天下り先であるトヨタの同業他社である日産自動車は、会長だったカルロス・ゴーン氏が逮捕、起訴されている。また、あの有名なロッキード事件では、同じく松尾氏の天下り先である三井物産の同業他社である丸紅の元社長らが逮捕、起訴されている。しかも、松尾氏ら検察OBが法務省に提出した意見書では、このロッキード事件を絶賛しているのだから、公正さを疑われても仕方ない。

この問題は深掘りできそうなので、今後も当欄で続報をお伝えしたい。なお、以下に、今回の調査結果のエビデンスを示しておく。

……………………今回の調査結果のエビデンス……………………

【※1】村山弘義氏が三菱電機に天下っているエビデンス
三菱電機株式会社有価証券報告書 第141期(自 平成23年4月1日 至 平成24年3月31日)31ページ
https://www.mitsubishielectric.co.jp/ir/data/negotiable_securities/pdf/141.pdf

【※2】杉原弘泰氏が三菱ケミカルホールディングスに天下っているエビデンス
株式会社三菱ケミカルホールディングス有価証券報告書 第1期(自 平成17年10月3日 至 平成18年3月31日)60ページ
https://www.mitsubishichem-hd.co.jp/ir/pdf/20060705-1.pdf

【※3】松尾邦弘氏がトヨタ自動車、三井物産、損害保険ジャパン、小松製作所の4社に天下っているエビデンス
三井物産株式会社 第93回定時株主総会招集ご通知46ページ
https://www.mitsui.com/jp/ja/ir/library/business/__icsFiles/afieldfile/2015/07/13/ja_93notice.pdf

【※4】町田幸雄氏が三井化学、みずほ銀行、双日の3社に天下っているエビデンス
双日株式会社アニュアルレポート2014(2014年3月期)全ページ版 65ページ
https://www.sojitz.com/jp/ir/reports/annual/upload/ar2014j_a.pdf

【※5】上記の検察OB4人が天下った各社が平成30年に政治資金団体「国民政治協会」に献金した金額
平成30年分政治資金収支報告書の要旨(令和元年11月29日付け官報)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000664153.pdf#page=1

▼片岡健(かたおか けん)

全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第9話・西口宗宏編(画・塚原洋一/笠倉出版社)が配信中。

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「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

黒川弘務東京高検検事長の定年を半年延長した閣議決定や、内閣の裁量で検事総長らの定年延長を可能にする検察庁法の改正案をめぐり、安倍政権が検察に不当な介入をしようとしているとの批判が巻き起こっている。そんな中、検察の大物OBたちが法務省に対し、検察庁法改正に反対する意見書を提出し、喝さいを浴びている。

実際には、意見書は、高齢の検察OBが過去の栄光をひけらかすなどしている稚拙な内容で、検察OBらしい独善的な主張も見受けられる。しかし、高まる政権不信の反動により、これが素晴らしい内容に思える人も少なくないらしい。それは大変危ういことなので、この意見書の問題をここで指摘しておきたい。

◆有罪が確定していない田中角栄氏の逮捕を自画自賛

法務省に乗り込む場面をマスコミに撮影させた清水氏(左)と松尾氏(朝日新聞デジタル5月15日配信)

意見書に名を連ねた検察OBは、検事総長経験者の松尾邦弘氏ら14人で、取りまとめたのは元最高検検事の清水勇男氏だ。その全文は、朝日新聞デジタルに掲載されているが、大きな問題は2つある。

1つ目の問題は、あのロッキード事件で検察が田中角栄氏ら政財界の大物を逮捕したことを自画自賛するようなことが書かれていることだ。

清水氏は、検察がいかに素晴らしい組織かということを主張するに際し、自分自身が捜査に関わったこの事件の話を持ち出したようだが、実際には、逮捕された田中氏は裁判で一、二審共に有罪とされたものの、最高裁に上告中に死去しており、有罪は確定していない。つまり、本来は「無罪推定の原則」により有罪扱いされてはいけない立場だ。

清水氏は現在、弁護士をしているようだが、自分の過去の仕事を得意げに語る中、ここまでわかりやすく「無罪推定の原則」を踏みにじっていたのでは、弁護士をしていることにも相当問題があると言わざるを得ない。

◆検察OBは自分たちこそ財界とズブズブ

2つ目の問題は、検察が「政財界の不正事犯」も捜査対象としていることを根拠に、「検察が時の政権に圧力を受けるようなことがあってはいけない」という趣旨の主張を繰り広げていることだ。

この主張については、まさしく検察官特有の独善的な主張だというほかない。なぜなら、この意見書に名を連ねた検察OB自身が財界とズブズブの関係にあるからだ。

まず、意見書を取りまとめた清水氏自身が退官後、公証人を務めたのちに東証一部上場企業の東計電算に監査役として天下っている。また、清水氏と共に法務省に足を運び、意見書を提出した前出の松尾氏は、検事総長経験者だけに天下り先はさらに豪華だ。あのトヨタ自動車をはじめ、旭硝子、ブラザー工業、テレビ東京ホールディングス、損害保険ジャパン、三井物産、セブン銀行、小松製作所の各社に監査役として天下ったほか、日本取引所グループに取締役として迎えられている。

これほど財界にどっぷり浸った2人が、「政財界の不正事犯」も捜査対象にしている検察の独立性の重要さを訴えるというのは、国民をバカにしすぎではないだろうか。

安倍政権は元々、「モリカケ」や「桜を見る会」など様々な疑惑が取り沙汰された中、コロナ対策も不評を買い、さらに検察の人事に関しても不可解な動きをしているので、国民の政権不信が高まるのは当然だ。しかし、その反動により、これまで数々の冤罪を生んできた検察のOBたちが、自分たちの権勢をアピールするかのようなおかしな動きをしていることまでヒーロー扱いされる現在の社会の空気は相当危うい。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第9話・西口宗宏編(画・塚原洋一/笠倉出版社)が配信中。

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「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

検察官の定年を引き上げたり、内閣や法相の判断で定年を延長できたりする検察庁法改正案に対する批判が凄まじい。そんな中、再燃しているのが、黒川弘務東京高検検事長の定年延長問題だ。

黒川氏は、本来なら今年2月、検事総長以外の検察官の定年である63歳の誕生日を迎え、検察を去るはずだった。しかし、1月に「検察庁の業務遂行上の必要性」を理由に半年間の定年延長が閣議決定され、これが「政権に近い黒川氏を次の検事総長にするための布石ではないか」と批判されていた。この問題が今、改めて取り沙汰されているわけだ。

しかし、黒川氏の定年延長問題と関連づけた法案に対する批判には、的外れなものも見受けられる。安倍内閣や黒川氏を擁護する気は毛頭ないが、その点を指摘しておきたい。

◆黒川氏の定年延長に法改正は必要ない

異例の定年延長が改めて批判されている黒川弘務東京高検検事長(東京高検のHPより)

法案に対する批判のうち、明らかに的外れなのは、「検察庁法が改正されたら、黒川氏の定年が延長される。そして安倍政権に都合のいい黒川氏が検事総長になってしまう」というたぐいのものだ。検察庁法が改正されようがされまいが、閣議決定された黒川氏の半年間の定年延長がゆらぐことはないからだ。黒川氏が次の検事総長につくために検察庁法を改正する必要もまったくない。

この法案を批判している人たちのうち、野党や大手マスコミ、弁護士などの有識者は、当然、そのことをわかっている。だから、「安倍政権は、政権に近い黒川氏を検事総長にするために検察庁法を改正しようとしている」とは言わず、「安倍政権は、問題のあった黒川氏の定年延長を“事後的に”正当化するために検察庁法を改正しようとしている」などというロジックで批判している。

しかし、このロジックもずいぶん無理がある。今年1月になされた閣議決定に問題があったなら、たとえ法律を変えようと、事後的に正当化されるわけがないからだ。「事後的に正当化される」などというのは、批判のための批判に他ならない。

◆「黒川氏は出世争いに負けていた」は本当か?

この問題をめぐる批判を見ていると、もう1点、的外れだと思える批判がある。それは、黒川氏が定年延長を閣議決定されるまで、次期検事総長の座を争っていた同期の林真琴名古屋高検検事長に「出世争い」で負けていた、というものだ。なぜなら、黒川氏と林氏の経歴を比較すると、黒川氏が出世争いでリードしていたのは明らかだからだ。

検事総長に昇り詰めるまでの出世コースとしては、法務省の刑事局長と事務次官を歴任したのち、法務・検察のナンバー2である東京高検検事長につき、最後に検事総長に就任するのが王道だ。そして2人のうち、先に刑事局長についたのは林氏だったが、その後、黒川氏が先に法務事務次官について逆転し、そのまま東京高検検事長について、検事総長に王手をかけている状態だったのだ。

「黒川氏の定年延長がなければ、林氏が次の検事総長になるはずだった」という見方をしている人たちは、黒川氏が2月に定年を迎えて検察を去っていれば、林氏がその後任として東京高検検事長につき、夏に勇退する稲田検事総長の後釜に座っていたはずだ――という筋書きを描いているようだ。

しかし近年、林氏のように法務事務次官を経ずに検事総長になった者はいない。検察では、組織の不祥事などのために期せずして検事総長に就任した笠間治雄氏ら一部の例外をのぞけば、検事総長に昇り詰めるまでにつく主要ポストはほとんど不動であり、林氏が特例的な扱いをされてまで検事総長につけたかはおおいに疑問だ。

もっとも、黒川氏が林氏に先んじて法務事務次官につき、さらに東京高検検事長へと出世の階段を昇ったことについては、官邸の強い意向がはたらいたと言われている。それ自体は事実の可能性が高そうに筆者も思う。ただ、そうだとしても、黒川氏と林氏の「検事総長レース」は、遅くとも黒川氏が東京高検検事長についた時点で勝負は決していたとみたほうが素直だ。

黒川氏の定年延長の閣議決定や、現在行われようとしている検察庁法の改正については、あちらこちらで指摘されている通り、「政権の都合により検察人事が左右される恐れがある」という問題はたしかに存在するだろう。しかし、的外れな批判をしていると、本質的な問題も見えづらくなるので、注意が必要だ。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第9話・西口宗宏編(画・塚原洋一/笠倉出版社)が配信中。

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コロナ騒動により外出自粛を強いられる日々だが、これは自分と向き合い、自分の能力を伸ばすチャンスかもしれない。そのことを教えてくれるのが、全国各地の刑事施設で長期の獄中生活を強いられている受刑者や死刑囚たちだ。

受刑者や死刑囚が獄中でとてつもなく上手な絵を描けるようになったり、精巧な工芸作品を作れるようになったりした例は枚挙にいとまがないが、筆者がこれまで取材した重大事件の犯人たちの中にもそういう例は数多い。その中でもとくに印象深かった西口宗宏という死刑囚のことを紹介したい。

◆絵を描くことを生きる支えに

西口は2011年の11、12月に、大阪府堺市で歯科医夫人・田村武子さん(当時66)と象印マホービン元副社長の尾崎宗秀さん(当時84)を相次いで殺害し、現金や商品券などを奪う事件を起こした。殺害方法はいずれも両手足を拘束したうえ、顔にラップを巻きつけて窒息死させるという惨たらしいもので、昨年2月、最高裁に上告を棄却され、死刑が確定している。

筆者はこの西口が死刑確定まで4年半ほど面会や手紙のやりとりをした。残酷きわまりない殺人事件を起こした西口だが、会ってみると、小柄の弱々しい感じの男で、何も知らなければ、とても殺人犯に見えない人物だった。

「死は怖くないですが、死刑は怖いですね。自死しようと考えたこともありますし、いつも頭に死があります」

面会の際、そう語っていた西口は常に死刑の恐怖に苦しんでいる様子だった。精神的に不安定だからか、あまり食事を食べられず、がんばって食べても吐いてしまうため、顔色がいつも悪かった。

そんな西口が生きる支えにしていたのが、絵を描くことだったのだ。

西口の描いた絵。罪の意識を表現したものと思われる

◆獄中で絵を描き続け、賞をもらうまでに

西口の写経には、いつも絵が添えられていた

西口は獄中で毎日、被害者のために写経と読経をしていたが、写経のやり方は独特で、写経した紙に一緒にイラストを描いていた。元々、漫画好きだったそうなのだが、写経と一緒に描くイラストも漫画のようなタッチで、自分自身が死刑を恐れて苦しむ様子や、別れた妻子を思い出して後悔する様子が表現されていた。

そのうち、西口は経典とは関係なく、絵そのものを描くことに没頭するようになった。描く絵は抽象的な作風のものばかりだったが、写経に添える絵と同様に死刑を恐れたり、罪悪感に苦しんでいたりする自分自身を表現したような作品が多かった。そして絵を描き続けるうち、どんどん腕を上げ、死刑廃止団体が毎年開催している「死刑囚表現展」で賞をもらうまでになった。

「ここでは、絵の具は使えないので、色鉛筆を水で溶かし、絵の具のようにして使っているんです」

面会中、絵の話をする時の西口は楽しそうだった。筆者にくれる手紙やハガキにも毎回、絵が描き添えられていたが、それらはユーモアや温かみの感じられる絵が多かった。西口にとって、絵を描くことは心の支えだったのだろうが、絶対に逃げ出せない獄中で死刑の恐怖や罪の意識に苦しむ日々の中、自分と向き合い続けたことが西口の能力を開花させたことは間違いない。

許されざる罪を犯した西口だが、コロナ騒動により外出自粛を強いられる日々の中、時には自分と向き合ってみることの有効性を教えてくれる実例だとは思う。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(同)も発売中。

7日発売!月刊『紙の爆弾』2020年6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る

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