昨年来、「東京五輪が終わるまで無いだろう」と言われていた死刑執行だが、新型コロナの感染拡大により、東京五輪の中止が正式に決まるのも時間の問題となってきた。となると、久しぶりに死刑執行が行われる日もそう遠くはないだろう。

そんな情勢の中、筆者が個人的に心配している死刑囚が2人いる。今回はその2人について、書いておきたい。

◆冤罪なのに、再審請求していない死刑囚

1人目は、新井竜太死刑囚(51)である。

確定判決によると、新井死刑囚は従弟の高橋隆宏(47)という男と共謀し、2008年3月、高橋の「養母」を保険金目的で殺害し、さらに2009年8月、金銭トラブルになっていたおじの男性も殺害したとされる。2件の殺人はいずれも高橋が実行したが、罪を認めて深い反省の態度を示した高橋は無期懲役判決を受けるにとどまり、容疑を全面否認した新井死刑囚が犯行の首謀者と認定され、死刑判決を受けたのだ。

しかし、筆者が取材したところ、実際には新井死刑囚は「冤罪」だった。高橋が2件の殺人をいずれも自分1人で勝手に実行しながら、「すべては新井に命令されてやったことだ」と供述し、新井死刑囚に罪を押しつけ、まんまと死刑を免れたというのが真相なのだ。

何しろ、殺害された高橋の「養母」の女性は、そもそも高橋が出会い系サイトでひっかけ、養子縁組して借金をさせるなどし、金をむしり取っていた女性だった。2009年8月に殺害されたおじの男性と金銭トラブルになっていたのも高橋であり、新井死刑囚におじを殺害しなければならない動機は何も無かったのが現実だ。

もっとも、筆者が新井死刑囚のことを心配するのは、「冤罪」だと思っているからだけではない。心配する一番の理由は、新井死刑囚が再審請求をしていないことだ。

そのへんが新井死刑囚の変わったところなのだが、死刑を怖がるそぶりを見せたくないのか、筆者が何度も家族を通じて再審請求するように言ったのだが、聞き入れてくれないままなのだ。そして再審請求をしていないがゆえに、死刑執行の人選をする法務・検察官僚たちから狙われるのではないかという気がしてならないのだ。

新井死刑囚と伊藤死刑囚はいずれも東京拘置所に収容されている

◆最高裁にも同情された死刑囚も再審請求をしていない……

筆者が心配する2人目の死刑囚は、伊藤和史死刑囚(41)である。

確定判決によると、伊藤死刑囚は2010年3月、会社の同僚らと共謀し、勤めていた長野市の会社の経営者とその長男、長男の内妻を殺害し、金を奪ったとされる。そう書くと、とんでもない凶悪犯のようだが、実際はかなり複雑な事情があった。

被害者一家は、地元ではヤクザ顔負けの怖い人たちで、伊藤死刑囚や共犯者の男らを家に強制的に住み込みにさせ、自由を奪い、奴隷のように働かせていたのだ。そのせいで追い詰められた伊藤死刑囚たちが被害者一家から逃げ出すため、犯行を決意したというのが真相だった。

そのような複雑な事情があったため、2016年4月に伊藤死刑囚の上告を退け、死刑を確定させた最高裁の裁判官たちも判決(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/924/085924_hanrei.pdf)で、「動機、経緯には、酌むべき事情として相応に考慮すべき点もある」と言わねばならなかったほどだ。

伊藤死刑囚の上告を退け、死刑を確定させた最高裁判決(2016年4月26日)

そして実を言うと、この伊藤死刑囚も筆者の知る限り、再審請求をしていない。再審請求さえしておけば、最高裁の判決内容から考えても、法務・検察官僚たちが死刑執行の対象に選びづらい死刑囚であるにもかかわらずに、だ。

当欄の1月5日付けの記事で書いた通り、現法務大臣の上川陽子氏は非常に死刑執行に積極的な人物だ。今はおそらく菅内閣最初の死刑執行を早く実現したくてたまらないはずである。それだけに、私はこの2人が心配で仕方ないのだが、万が一、この2人が死刑執行されるようなことがあれば、読者の方は「誤った死刑執行」だと受け止めて頂きたい。

▼片岡 健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』(画・塚原洋一、笠倉出版社)がネット書店で配信中。分冊版の最新第15話では、寝屋川中1男女殺害事件の山田浩二死刑囚を取り上げている。

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

伊藤詩織氏というジャーナリストの女性が、山口敬之氏という元TBSワシントン支局長の男性にレイプされたと実名で告発したうえ、1100万円の損害賠償などを求めて東京地裁に提訴した件に関し、私は当欄で2018年3月1日、以下のような記事を発表した。

◎伊藤詩織氏VS山口敬之氏の訴訟「取材目的の記録閲覧者」は3人しかいなかった

伊藤詩織氏の著書『Black Box』

この件はこの頃から様々なメディアで大々的に報道されていたが、その大半は訴訟記録の閲覧という初歩的な取材すらされていないものだった。そのことを明るみに出したこの記事は、SNSなどで大きな反響を呼んだ。

訴訟はその後、東京地裁が2019年12月、伊藤氏の訴えを認め、山口氏に330万円の賠償を命じる判決を出したが、山口氏がこれを不服として控訴し、現在は東京高裁で控訴審が行なわれている。この間、私の上記記事に触発されたのか、様々な人が裁判所でこの訴訟の記録を閲覧し、インターネット上では、裁判で明らかになった事実に基づいた議論が活発になされるようになった。

もっとも、この件に関しては、まだ見過ごされている重要なことが1つある。それは、伊藤氏と山口氏の性行為がレイプにあたろうがあたるまいが、この事件には複数の被害者が存在することだ。

この事件の現場となった寿司屋とホテル、そして2人のことをホテルまで乗せたタクシーの運転手である。

◆まぎれもない被害者なのに、沈黙する人たち

まず、寿司屋。伊藤氏は「レイプドラッグを飲まされたと思っている」と公言しているが、それが事実か否かはともかく、伊藤氏が山口氏と共に店で飲食中、前後不覚の状態に陥ってトイレで寝込んでしまったことや、一緒にいた山口氏がそのような事態になるのを防げなかったことは確かだ。店が迷惑を被ったことは間違いない。

また、ホテルも事件の現場にされたばかりか、訴訟の証拠として特別に提供した防犯カメラの映像がインターネット上に流出させられる被害に遭っている。ホテルは伊藤氏と山口氏の双方に対し、「映像の使用は裁判手続きの場に限る」との誓約書を提出させていたにもかかわらず、いずれかがその誓約を破ったのである。

そして2人をホテルまで乗せたタクシーの運転手は、前後不覚になっていた伊藤氏が乗車中にシートに嘔吐し、一緒にいた山口氏がそれを防げなかったため、その日はそれ以後、営業できなかったのだという。タクシーの業務ではたまに起こることだとはいえ、運転手は当然腹が立っただろう。

伊藤氏と山口氏の2人は法廷の内外で「自分こそが被害者だ」と声高に主張し合い、お互いを批判し合っているが、2人の主張はいずれも事実関係に様々な争いがある。事実関係を検証するまでもなく、まぎれもない被害者である寿司屋、ホテル、タクシーの運転手はこの間、伊藤氏や山口の言動やそれを伝える報道をどんな思いで見つめているのだろうか。

沈黙し、何も語らない彼らの心中こそがこの事件の「最大のBLACK BOX」だと私は思う。

伊藤氏と山口氏の訴訟は現在、東京高裁で行われている

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。創業した一人出版社リミアンドテッドから新刊『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史)を発行。

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

昨年は死刑執行が1件もなかったが、今年はそうはいかないだろう。私がそう予想する最大の理由は、昨年9月に発足した菅義偉内閣で上川陽子氏が法務大臣に再任されていることだ。

安倍内閣でも法務大臣の経験がある上川氏がこれまでに死刑執行を命じた人数は計16人。これは、法務省が死刑執行の公表を始めた1998年11月以降の法務大臣では最多記録だ。今回の在任中も「やる気満々」であるのは間違いない。

さらに言えば、上川氏が委ねられた「菅政権で最初の死刑執行」は、国民ウケするインパクトのあるものになるだろう。上川氏の死刑執行の実績を見ると、実際にそういう観点から執行する死刑囚を選んできたことは明らかだからだ。

死刑執行の最多記録を持つ上川陽子法務大臣(法務省HPより)

◆国民ウケするインパクトのある死刑執行を重ねてきた上川氏

2015年6月、上川氏が法務大臣として初めて死刑執行を命じたのは、闇サイト殺人事件の神田司死刑囚(44)だった。この事件では、被害女性の母親が犯人たちの死刑を求める署名活動を行い、実に30万人超の署名を集めて話題になっていた。つまり上川氏は、こうした大勢の国民の期待に応える形で死刑を執行したわけだ。

上川氏が次に死刑執行を命じたのは2017年12月だが、この時に対象とした関光彦死刑囚(44)、松井喜代司死刑囚(69)はいずれも「再審請求中」だった。しかも、関死刑囚は1992年に千葉県市川市で会社員一家4人を殺害した犯行時、まだ19歳の「少年」だった。

「再審請求をしていようが、死刑は執行する」「犯行時に少年だろうが例外ではない」

そのようなメッセージが込められた死刑執行の人選も、死刑制度容認派が8割を超える日本国民の意向に沿ったものだろう。

そして上川氏の真骨頂がオウム死刑囚13人の大量執行だ。それは、2018年7月16日と同26日、2度に分けて行われた。戦後を代表する大事件の最終決算ともいうべきこの死刑執行により、それを法務大臣として担当した上川氏の名前も歴史に残ることになった。

このように国民ウケするインパクトのある死刑執行を重ねてきた上川氏。それだけに「菅政権で最初の死刑執行」も国民ウケするインパクトのあるものになるだろうと私は思うのだ。

◆上川氏ならやりそうな「スピード執行」

では、上川氏が具体的にどんな死刑執行を考えているかというと……。

私は、死刑確定から1年前後の死刑囚の「スピード執行」ではないかとにらんでいる。

というのも、死刑執行については、法で「判決確定から6カ月以内にしなければならない」と定められているのに、実際はそれよりはるかに長い年月を要することが多く、「死刑執行が遅すぎる」と批判する声は多い。となると、国民ウケするインパクトのある死刑執行を行ってきた上川氏としては、速さで評価される「スピード執行」はぜひやってみたいところだろう。

かつて大教大池田小事件の宅間守元死刑囚が判決確定から約1年と異例の速さで死刑執行された際、それを肯定的に評価する声は多かった。そのことも上川氏は当然知っているはずだ。

そして昨年中に判決が確定したばかりの死刑囚たちの顔ぶれを見ると、宅間元死刑囚と同じく、法廷で無反省の言葉を連ね、自ら一審だけで裁判を終わらせた死刑囚が複数いる。そのことも私が上川氏が「スピード執行」を狙っているだろうと思う理由だ。

というより、私には、そもそも、菅政権で上川氏が最初の法務大臣に選ばれたのは、そういう特定の死刑囚の死刑を執行させたい思惑があったのではないかと思えてならない。言うまでもないことだが、ここで私が念頭に置いている「特定の死刑囚」とは、昨年3月に判決が確定した相模原障害者施設殺傷事件の植松聖死刑囚のことである。

法務省。死刑執行の手続きの多くはここで行われる

▼片岡 健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』(画・塚原洋一、笠倉出版社)がネット書店で配信中。分冊版の最新第15話では、寝屋川中1男女殺害事件の山田浩二死刑囚を取り上げている。

月刊『紙の爆弾』2021年1月号 菅首相を動かす「影の総理大臣」他

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

昨年来、「東京五輪が終わるまでは死刑執行はないだろう」と言われていたが、その東京五輪自体が無くなってしまい、本稿を書いている時点では、今年は久々に「死刑執行ゼロ」で終わりそうな気配だ。

死刑関連の重要な判断を立て続けに出した大阪高裁

しかし、それでも死刑関連の話題は今年も色々あった。その中から重要な話題トップ5を選定した。

◆今年もあった死刑判決の破棄!

まず5位。淡路島5人殺害事件の平野達彦被告が1月に大阪高裁であった控訴審判決で、第一審裁判員裁判の死刑判決を破棄された話題を挙げておきたい。

筆者は過去、平野被告と面会したり、その裁判員裁判を傍聴したりしていたが、事件の背景に国家的な陰謀があるように訴える平野被告は明らかに重篤な精神障害者だった。今回の控訴審判決は平野被告の完全責任能力を否定し、減刑したものであったから、事実に忠実な判決ではあった。

この種の事件では、これまで裁判官が無理な理屈で強引に被告人の完全責任能力を認め、死刑判決を宣告してきたが、近年は他にも熊谷市の6人殺傷事件など被告人の責任能力が厳格に判断され、死刑が回避されるケースが増えている。

平野被告の死刑が回避されたことによりこの流れがいっそう強まりそうな予感がする。


◎[参考動画]男女5人刺され死亡 兵庫・淡路島(共同通信2015年3月9日)

第4位は、大阪高裁が11月、寝屋川中1男女殺害事件・山田浩二被告の控訴取り下げを有効だと認める決定をしたことだ。山田被告は2018年12月に大阪地裁の裁判員裁判で死刑判決を受けたのち、自ら控訴を取り下げて死刑を確定させた。さらにその後、弁護人の異議申し立てにより控訴取り下げが無効との決定を受けながら、再び自ら控訴を取り下げていた。

異例の経過をたどり、これで今度こそ山田被告の死刑が確定する公算が大きいが、弁護人が異議を申し立てており、死刑が確定するか否かの土俵際での応酬はもう少し続きそうだ。


◎[参考動画]遺体は不明の中1少女 大阪・高槻の殺人死体遺棄事件(共同通信2015年8月18日)

◆「官邸の守護神」と呼ばれた男とオウム死刑囚大量執行の関係

第3位は、相模原大量殺傷事件の植松聖死刑囚が3月に死刑確定したことだ。裁判が始まる前、植松死刑囚と面会していた筆者は当欄で何度か植松死刑囚の実像を紹介している。知的障害者を大勢殺害したことから、「差別主義の身勝手な殺人犯」として報じられてきたが、実際には、植松死刑囚は自分が正しいことをしていると本心から思っており、要するに善悪の基準が常人と異なる人物だった。

このような植松死刑囚の実像がメディアでは十分に報じられているとは思えず、第3位に選定した。なお、植松死刑囚の実像を知りたい方には、笠倉出版社から出ている拙著『平成監獄面会記』、その漫画化版である『マンガ「獄中面会者物語」』(画・塚原洋一)を参照して頂きたい。


◎[参考動画]植松聖被告に死刑判決(テレビ東京2020年3月16日)


◎[参考動画]【Nスタ】植松聖被告に死刑判決、遺族「19の命を無駄にしない」
(TBS2020年3月16日)

第2位は、安倍政権下で「官邸の守護神」と呼ばれた黒川弘務東京高検検事長の賭け麻雀による失脚だ。「それが死刑と何の関係が!?」と思われた方もいそうだが、実は黒川氏は在職中、ある重大な死刑関連の任務に携わっていた。それは、麻原彰晃元死刑囚をはじめとするオウム死刑囚13人の大量執行だ。

2018年にあの大量執行があった際、黒川氏は法務省の事務方トップである事務次官の地位にあった。法務大臣や全国各地の検察、拘置所などと連絡を取り合い、死刑執行全般を取り仕切る役割を務めたとみて間違いない。

この黒川氏が前評判通り、東京高検検事長の次に法務・検察の最高位である検事総長に就任していれば、死刑執行のペースが上がっていたように思われる。黒川氏の失脚は、そういう意味で死刑関連の重要なトピックだ。


◎[参考動画]高検検事長の『定年延長』は安倍政権の“守護神”だから?立憲・本多議員が追及(テレビ東京2020年2月5日)


◎[参考動画]黒川検事長が辞任へ 森大臣「賭博罪にあたる恐れ」(ANN2020年5月21日)

◆来年は次々に死刑執行がある? 帰ってきた「あの人物」

そして第1位は、菅内閣で上川陽子氏が再び法務大臣に就任したことだ。上川氏が法務大臣を務めるのは4回目だが、これまでも在任中は上記のオウム死刑囚13人の死刑を執行したほか、あの有名な闇サイト殺害事件の神田司死刑囚や、犯行時に少年だった市川一家4人殺害事件の関光彦死刑囚らを次々に絞首台に送ってきた。

今年は東京五輪が無くなっても、コロナ禍で拘置所職員に負担をかけたくないためか、このまま死刑執行が一件もないまま年が明けそうだ。そんな状況下、法務大臣に上川氏が再任されたのは、菅義偉首相が「来年はまたどんどん死刑を執行したい」という思惑を抱いていることを窺わせる。

オウム死刑囚を大量執行した上川氏が再び法務大臣に……(法務省HPより)


◎[参考動画]闇サイト事件、死刑執行 名古屋で女性会社員殺害(共同通信 2015年6月25日)


◎[参考動画]元少年の死刑20年ぶり執行 群馬の3人殺害も、上川法相が命令(共同通信2017年12月19日)


◎[参考動画]慎重に執行の準備進めた法務省 大臣が説明会見へ(ANN 2018年7月6日)


◎[参考動画]オウム元幹部の死刑執行で会見する上川陽子法相(朝日新聞2018年7月26日)


◎[参考動画]【菅内閣発足・閣僚記者会見】上川陽子法相(時事通信2020年9月18日)

◎片岡健が選んだ《2020年死刑問題トップ5》と関連記事

【1】菅内閣で上川陽子氏が再び法務大臣に就任
・とんでもないことをするかも内閣 菅政権の発想が浅薄すぎる件について(2020年10月27日 横山茂彦)
・菅義偉政権が推し進めるマイナンバー制度強行普及の不気味 国民ナンバリングこそが独裁権力の本質である(2020年12月9日 横山茂彦) 

【2】安倍政権下で「官邸の守護神」と呼ばれた黒川弘務東京高検検事長の賭け麻雀による失脚
・黒川元検事長を訴追せよ! 検察の自浄作用こそ、民主主義を担保する(2020年6月2日 横山茂彦)
・黒川氏は氷山の一角! 検察庁法改正案に反対した松尾邦弘氏をはじめ、検察は天下りでもマスコミとズブズブ(2020年6月17日 片岡健)

【3】相模原大量殺傷事件の植松聖死刑囚が3月に死刑確定
・相模原障害者施設殺傷事件とマスコミ「植松聖は絶対悪だ」と言えるのか?(2018年5月30日 片岡健)
・報道によって別人のように変わる相模原殺傷事件・植松聖被告(2019年8月2日 片岡健)
・相模原殺傷事件裁判:マスコミが伝えない「植松聖に関する重要な情報」(2020年1月30日 片岡建)

【4】大阪高裁が、寝屋川中1男女殺害事件・山田浩二被告の控訴取り下げを有効と認める決定
・寝屋川中1男女殺害事件犯人、面会室や手記で見せた実像(2019年6月21日 片岡健)

【5】淡路島5人殺害事件の平野達彦被告が1月に大阪高裁であった控訴審判決で、第一審裁判員裁判の死刑判決を破棄
・淡路島5人殺害事件へのコメントを控える元祖「集スト被害」殺人犯の見識(2015年4月30日 片岡健)
・《2020年展望・死刑》最大の注目は一審死刑の淡路島5人殺害事件の控訴審判決(2020年1月6日 片岡健)
《死刑破棄殺人犯の実像1》真顔で「政府の陰謀」を訴えた淡路島5人殺害犯(2020年2月6日 片岡健)

◎[カテゴリー]片岡 健 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=26
◎[カテゴリー]司法と冤罪 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=13

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』(画・塚原洋一、笠倉出版社)がネット書店で配信中。分冊版の最新第14話では、会津美里町夫婦殺人事件の高橋明彦を取り上げている。

月刊『紙の爆弾』2021年1月号 菅首相を動かす「影の総理大臣」他

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

筆者はこれまで当欄で、様々な冤罪の話題について書いてきた。2020年を振り返り、個人的な視点から今年の冤罪の重要な話題トップ5を選定した。

まず5位。やはり、これを挙げておかないわけにはいかないだろう。先日報道があったばかりの免田栄さんの逝去である。

死刑囚としては初めて再審で無罪を勝ち取った免田さん。死刑囚が再審無罪になった前例がない状況の中、独房で絶望することなく無実を訴え続け、その訴えを司法に認めさせたのは偉業だと言っていい。筆者は5年ほど前、免田さんに取材を申し込んだことがあるが、免田さんの体調がすぐれず、実現しなかった。それは残念だが、享年95歳だから大往生だろう。

第4位は、米子市のラブホテル支配人殺害事件の第2次裁判員裁判で石田美実さんが無期懲役の判決を受けたことだ。

石田さんは2016年に鳥取地裁の裁判員裁判で懲役18年の判決を受けたのち、翌2017年に広島高裁松江支部の控訴審で逆転無罪を勝ち取った。しかし検察が最高裁に上告したところ、最高裁に無罪判決を破棄され、その後に広島高裁で審理を鳥取地裁に差し戻す判決を受け、またイチから裁判員裁判をやり直す羽目になっていた。

この事件はすでに当欄で何度か紹介しているので、ここでは事件の内容には触れない。しかし、一般市民が一度受けた無罪判決を取り消され、延々と被告人の立場に留め置かれるのは、検察官も上訴ができる日本の裁判制度特有の問題だ。来年1月末に発売される雑誌『冤罪File』2021年冬号で第2次裁判員裁判の詳細を報告しているので、関心のある方は参照して頂きたい。

第3位は、2005年に栃木県旧今市市で小1の女児が殺害された「今市事件」で、勝又拓哉さんの無期懲役判決が確定したことだ。

この事件は冤罪を疑う声が非常に多いが、勝又さんが実際に冤罪であり、無実であることは当欄で繰り返し報告してきた通りだ。

支援者が多数存在し、勝又さんへのサポート体制は万全だが、勝又さんのお母さんは体調が良くないこともあり、少しでも早く勝又さんの濡れ衣が晴れて欲しい。

第2位は、やはり当欄で繰り返し取り上げてきた湖東記念病院事件の再審で、西山美香さんが無罪判決を受けたことだ。

過去記事を検索してみたところ、筆者が当欄で初めて西山さんが冤罪であることを伝えたのは、2012年のことだった。あれからもう8年になるのか……と感慨深いものがある。

もっとも、西山さんの恋心につけ込み、虚偽の自白をさせて冤罪に貶めた滋賀県警の山本誠刑事がその後、県警内で出世しているなど、この事件にはまだ放置できない問題が色々ある。今後も事件に関する動きが何かあれば、当欄で報告したいと思う。

実家でくつろぐ西山さん。今年、ついに再審無罪を勝ち取った


◎[参考動画]“事件性の証拠ない”元看護助手に無罪(テレビ東京 2020年3月31日)

そして最後に第1位は…。

これはもう完全に個人的な思いから、あの有名冤罪事件・布川事件の桜井昌司さんが国と県に約1億9000万円の国家賠償を請求した訴訟の控訴審が12月15日、東京高裁で結審したことにさせて頂いた。

一審判決では国と県が約7600万円の国家賠償を命じられているが、2度目の判決は来年6月25日に出るという。

2014年、広島であった冤罪被害者・守大助さんの支援者集会で話す桜井さん

なぜ、この事件を1位に取り上げたかというと、桜井さんが現在、ガンで闘病中で、余命宣告も受けているからだ。ご本人は回復に向かっていると公言しているが、予断を許さない状況であることは間違いない。桜井さんは自分自身の冤罪を晴らすだけでなく、様々な冤罪被害者に手を差し伸べてきた人で、筆者自身、取材でお世話になったこともある。

来年6月の判決が、長年冤罪闘ってきた「生きたレジェンド」桜井さんの努力に報いるものになって欲しいと願い、この件を第1位とした。


◎[参考動画]『塀の中の白い花~ほんとに何もやってません』(FMたちかわ/84.4MHz)で2020/11/2と11/16の2回に渡って放送した、桜井昌司さんへのインタビュー全編(冤罪犠牲者の会)

◎片岡健が選んだ《2020年冤罪問題トップ5》と関連記事

【1】布川事件と桜井昌司さん
・冤罪のない社会をめざして 布川事件冤罪被害者、桜井昌司さんインタビュー
〈1〉(2019年1月16日尾崎美代子)
〈2〉(2019年1月18日尾崎美代子)
〈3〉(2019年1月22日尾崎美代子)
・布川事件冤罪コンビ「ショージとタカオ」のショージさん、大阪トークライブ──シャバに出てきて23年、「桜井昌司」で本当に良かった!
〈前編〉(2020年4月14日尾崎美代子)
〈後編〉(2020年4月17日尾崎美代子)

【2】湖東記念病院事件と西山美香さん
・刑事への好意につけこまれた女性冤罪被害者が2度目の再審請求(2012年10月8日 片岡健)
・滋賀患者死亡事件 西山美香さんを冤罪に貶めた滋賀県警・山本誠刑事の余罪(2018年2月16日片岡健)
・湖東記念病院事件・再審開始決定を勝ち取った井戸謙一弁護士の思想と行動(2019年3月21日田所敏夫)
・中日新聞が報じた西山美香さんの作文疑惑調書、元凶はやはり山本誠刑事か(2019年6月12日片岡健)
・組織ぐるみで西山美香さんを「殺人犯」に仕立てた滋賀県警は責任をとれ! 湖東記念病院事件の冤罪被害者・西山美香さんに1日も早く無罪判決を!(2019年6月20日尾崎美代子)
・《湖東記念病院事件》冤罪を作った滋賀県警・山本誠刑事 法廷で自白していた不当捜査への「上司と検事」の関与(2020年4月29日片岡健)

【3】今市事件と勝又拓哉さん
・今市女児殺害事件をめぐる冤罪疑惑──見過ごされた自白調書の明白なウソ(2017年4月6日片岡健)
・《殺人現場探訪08》今市女児殺害事件 自白の「嘘」を如実に示すわいせつ現場(2017年7月24日片岡健)
・栃木県警の「今市事件証拠遺棄」を否定した栃木県行政不服審査会の不見識(2018年4月2日片岡健)
・《殺人事件秘話13》今市事件:隠ぺいされた被告人以外の人物の「不審車両」(2019年1月23日片岡健)
・検証・冤罪疑われる今市事件の自白調書
【上】嘘を見抜くポイントは漫画と服装(2019年7月30日片岡健)
【中】自宅と現場を見れば嘘は一目瞭然(2019年8月31日片岡健)
【下】犯行の詳細を語れなかった被告人(2019年9月6日片岡健)
・冤罪説根強い今市事件 上告棄却の勝又拓哉氏が手記に綴った「再審無罪への決意」(2020年3月27日片岡健)

【4】米子市ラブホテル支配人殺害事件と石田美実さん
・無罪判決を受けた被告人が勾留される理不尽 ―― 米子ラブホテル殺害事件(2018年12月27日)

【5】免田事件と免田栄さん

◎[カテゴリー]片岡 健 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=26
◎[カテゴリー]司法と冤罪 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=13

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』(画・塚原洋一、笠倉出版社)がネット書店で配信中。分冊版の最新第14話では、会津美里町夫婦殺人事件の高橋明彦を取り上げている。

月刊『紙の爆弾』2021年1月号 菅首相を動かす「影の総理大臣」他

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

タイトルに「毒親」と入った本が続々と発売されるなど、今年も続いた毒親ブーム。そんな中、7月に公開され、話題になった映画が長澤まさみ主演の『MOTEHR マザー』だった。

同作は、2014年3月に埼玉県川口市で起きた、当時17歳の少年による祖父母殺害事件が題材。少年の母親の毒親ぶりに世間の注目が集まったのは、同年12月、少年の裁判員裁判がさいたま地裁で開かれた時だった。

当時の報道によると、母親は少年を学校にも通わせずに働かせ、赤ん坊だった娘(少年にとっての妹)の世話も少年に任せ、自分自身はホストクラブに通う日々。その挙げ句、少年に「殺してでも、金を借りてこい」と示唆し、自分の両親(少年にとっての祖父母)の家に向かわせ、少年が本当に祖父母を殺害する事態を招いたように伝えられた。

母親も自分の裁判で懲役4年6月の判決を受けたが、少年の裁判の結果はそれよりはるかに重い懲役15年。そのことが同情的に報道されたりもした。

実を言うと、私はこの母親が札幌刑務支所で服役中、彼女と手紙のやりとりをしていた。その実像に触れると、「史上最悪の毒母」という世間的なイメージとは少し異なるところもあった。ここで少し紹介してみたい。

この事件を題材にした長澤まさみ主演の映画『MOTHER マザー』の公式HP

◆凄まじかった本の差し入れの要求

「長澤まさみさんが私の役をやって、事件のことが映画になるみたいで……今テレビで初めて知ったんです! どうにかならないでしょうか……」

今年6月中旬のある日、久々に電話してきた彼女は焦った口調でそう言った。上記の映画『MOTHER マザー』が7月から公開されるのを知って驚き、その勢いのままに私に電話をかけてきたのだ。

「もう映画の公開をとめられないですよね……」

彼女は電話口で嘆いていたが、要するに映画により世間の人たちが自分のことを思い出すのがいやなのだ。公開が間近に迫った映画の公開をとめられないかと発想すること自体、やはり思考回路が少し変わっている人ではあるのだろう。

実際、服役中に手紙のやりとりをしていただけでも、彼女は毒親らしさを感じさせることがよくあった。とくに印象に残っているのは、本の差し入れの要求がすさまじかったことだ。手紙に毎回、石田衣良、新堂冬樹、誉田哲也など、好きな作家の名前とその作品名を連綿と綴ったうえ、〈来月(12月)のクリスマス前までぐらいに古本でいいので、送ってもらえないでしょうか?〉〈出来たら、年末年始の休みになる前に単行本(小説本)を送ってほしいのです〉などと自分の都合最優先で一方的にせがんでくるのだ(〈〉内は彼女の手紙から引用。以下同じ)。

小説以外にも、女性がよく読む『LDK』という雑誌やクロスワードパズルの本、フリーペーパー、求人誌など、彼女は何ら遠慮なく次々に欲しい物の差し入れを求めてきた。このほかにも、生活支援の受け方を調べて欲しいとか、出所後に東京に帰る交通手段を教えて欲しいとか、よくそこまで頼めるな……と思うほど、本当に頼みごとが多かった。

報道では、彼女は事件前、生活費をあちこちに無心していたようにも伝えられていた。実際に彼女と付き合ってみて、ああいう報道はやはり本当だったのだろうと思ったものだった。

事件の現場になった祖父母宅

◆手紙に綴ってきた「母親としての愛情」

一方、彼女は人懐っこいところがあった。たとえば、手紙で唐突に、〈顔は若い頃、おにゃん子の内海って言われたな~(笑)最近は友近って、言われた時もありました。性格は明るい、天然で、ちょっと短気の時も〉などと自己PRみたいなことを書いてきたことがある。

そうかと思えば、出所後に私と会いたいと切り出し、〈お酒、飲みに行きたいですワ~、カラオケも。私カラオケ大好きだったから〉などと、てらいもなく綴ってきたこともあった。事件前の彼女は男が絶えなかったように報じられていたが、それはこういう小悪魔的な性格があってこそだろう。

彼女は裁判の際、少年に「殺してでも、金を借りてこい」と示唆したことを否定したと報じられたが、私に対しても改めてそう主張した。

彼女の主張をそのまま記せば、〈弁護士が私を悪く言っているとか、本人(息子)も怖くなって私のせいにしているんだって検事さんがそう言っていました〉〈ありもしないことを言われ、本当に我慢しました。本当にショックで仕方なかったです〉ということになる。

このあたりの真相がどういうことだったかは、私にはわからない。ただ、彼女は少年に対し、母親としての愛情をまったく有していないわけではないように思われた。

〈息子のこと大好き。離れたことも一度もなかった〉

彼女は手紙にそう書いてきたことがある。実際、彼女は仕事をせず、金がないために野宿した時期も少年を自分の両親に預けたりはせず、一緒に過ごしていた。それが少年本人にとって幸せなことだったか否かはともかく、彼女としては息子と一緒にいたかったのは確かだろう。

もっとも、服役中は「出所したら、息子に会いに行きたい」という趣旨のことを手紙に綴ってくることもあったが、出所後に実際に息子に会ったという話は聞かない。息子との縁はもう切れているか、あるいは服役先の刑事施設に面会に行っても、拒絶されているのかもしれない。


◎[参考動画]映画「MOTHER マザー」予告編(出演:長澤まさみ)

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』(画・塚原洋一、笠倉出版社)がネット書店で配信中。分冊版の第13話では、林振華を取り上げている。

月刊『紙の爆弾』2021年1月号 菅首相を動かす「影の総理大臣」他

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

ウィキペディアで調べものをしていたら、ある異変に気づいた。「検事総長」のページから、それまで記載されていた歴代検事総長たちの天下り先の企業名・団体名が丸ごと削除されていたのだ。

履歴表示を見ると、その削除が行なわれたのは10月1日18時46分のこと。削除を実行した人物のIPアドレスは、240f:6f:c6e8:1:bc91:7593:489b:f90eで、削除された文字数は3929文字に及ぶ。

この人物の素性は不明だが、いかがわしい事態であるのは間違いない。法務・検察のトップである歴代検事総長たちの天下り先は、検察が捜査や公判活動を適切に行っている否かを見極めるのに有用な公益性の高い情報だからだ。

ウイキペディア「検事総長」のページの編集の履歴。右の状態から、歴代検事総長の天下り先の情報が丸ごと削除され、左の状態になっていた

◆検事総長の天下り先は公益性の高い情報である理由

たとえば、関西電力の歴代役員が、同社の原発が立地する福井県高浜町の元助役から金品を受け取っていた「原発マネー還流問題」。この問題では、多数の市民が金品を受け取っていた関電の歴代役員を大阪地検に刑事告発したが、地検はなかなか告発状を受理しようとしなかった。

このことが公正か否かを見極めるに際し、この問題が発覚する以前、元検事総長の土肥孝治氏が長く同社の監査役を務めていたという情報は重要な判断材料だ。そのことは論を待たないだろう。

また、2015年に東芝が2000億円超の粉飾決算をしていたことが発覚した際、「なぜ、東芝に東京地検特捜部の捜査のメスが入らないのか?」と疑問を口にした人は多かった。そういう人たちにとって、元検事総長の筧栄一氏が同社で監査役や取締役を務めていたことは見過ごせない情報であるはずだ。

そして忘れてはいけないのが、旧通産省工業技術院の元院長・飯塚幸三氏が“上級国民”であるために逮捕を免れた疑いを抱かれ、国民的バッシングを受けている池袋暴走事故だ。

「暴走したのは、乗っていた車(トヨトのプリウス)の不具合のせいだ」

飯塚氏が裁判でそう主張し、無罪判決を求めているのに対し、実は飯塚氏の主張を否定し、有罪を立証しようとしている検察からは岡村泰孝氏、松尾邦弘氏、小津博司氏…と歴代検事総長たちがトヨタに絶えることなく監査役として天下っている。この事実を知ると、事件の見え方が多少なりとも違ってくるだろう。

ウィキペディアの情報は正確性に問題があるのは確かだ。それでも最初にウィキペディアで情報を入手し、それから他の資料で裏付けをとるのは効率的な調べもののやり方だ。筆者自身、これまで「検事総長」のページに出ている歴代検事総長たちの天下り先の情報を糸口に、取材や検証を進めたことは何度もある。それが削除されたら、歴代検事総長の天下り先を調べられなくなるわけではないが、関連する問題を見過ごすことは増えるかもしれない。

現時点で深読みし過ぎると、陰謀論のような話になってしまうので控えるが、いかがわしい事態であるのは確かだ。今後、また何か有意な発見があれば当欄で報告したい。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。創業した一人出版社リミアンドテッドから新刊『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史)を発行。

月刊『紙の爆弾』2021年1月号 菅首相を動かす「影の総理大臣」他

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

10月22日の当欄では、私が8月に立ち上げた“一人出版社”から発行した書籍『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」の告白』(著者・久保田祥史、発行元・リミアンドテッド)について紹介させて頂いた。同書はおかげさまで、Amazonの裁判関連部門で売れ筋ランキング1位になるなど好調な売れ行きだ。

我が田に水を引くような言い方で恐縮だが、同書は平成の大事件の知られざる加害者側の内実について、実行犯が綴った手記により明るみに出した内容だ。それゆえに多くの人に関心を持ってもらえたのだろう。

私が現在取材中の事件の中には、このほかにもう1件、映画になるほど有名な事件でありながら加害者側の内実がほとんど知られていない事件がある。今回はその事件について紹介したい。

◆手紙で取材依頼をしたら、丁寧な返事の手紙が届き……

〈此の度は、私の事件に於いて、関心を抱き、御丁寧に手紙を頂いたことに感謝申し上げます〉

これは、2014年2月中旬のある日、山形刑務所から私のもとに届いた手紙の一節だ。丁寧な礼の言葉を綴っている差出人の名は、三上静男(71)。山田孝之主演の映画『凶悪』(2013年公開)でリリー・フランキーが演じた殺人犯“先生”のモデルになった男だ。

三上は茨城県で不動産業を営んでいた男だが、その疑惑が表面化したのは2005年のことだった。殺人罪などで死刑判決を受けた元暴力団組長の後藤良治(62)が月刊誌『新潮45』に対し、「三上という男と一緒に金目的で人を殺した余罪が3件ある」と告白。これが同誌で記事になったのを機に警察も動き、検挙された三上は2010年に裁判で無期懲役刑が確定したのだ。

そんな事件が題材の『凶悪』は公開時、“先生”役のリリーの怪演が話題になった。とくに保険金目当てに初老の男を殺す場面では、笑いながら被害者に何度もスタンガンをあて、いたぶる演技が圧巻だった。こんな冷酷な男なら、いくらでも金目的で人を殺すだろうと観客の誰もが思ったことだろう。

だが、実は三上本人は取り調べや裁判で、「後藤の告白はデタラメだ」と訴えていた。私がその主張を聞きたく思い、三上に取材依頼の手紙を出したところ、冒頭のような返事の手紙が届いたのだ。

三上から届いた手紙

◆自分について書かれた雑誌の記事を「真実がない」と主張

三上の手紙には、『新潮45』の記事について、こう書かれていた。

〈読みましたが、真実がないので、笑ってしまいました。私は現在まで新潮45の記者から取材を受けたことはありません〉

要するに、三上は「自分は無実なのに、『新潮45』は自分に取材もせず、いい加減な記事を書いたのだ」と言いたいわけだ。さらに手紙には、こんなことも書かれていた。

〈当時、証拠開示された調書が2m程の高さになりましたが、何度も読みましたが、司法取引がされている調書が散見されております〉

三上と後藤が主犯格として罪に問われた保険金殺人事件では、実は共犯者とされた後藤の舎弟たちが検察に起訴されていなかった。弁護側はその点を問題視し、「検察は後藤の舎弟たちと違法な司法取引をし、罪を見逃す代わりに無実の三上に罪を押しつける証言をさせたのだ」などと主張していた。三上は手紙で、改めてそのことを私に主張したわけだ。

弁護側の主張によると、「そもそも、後藤は自分の死刑を先延ばしにするために事件をでっち上げ、無実の三上を巻き込んだのだ」というのが事件の真相だとのことだった。

◆不自然な内容だった死刑囚の告白

実際、三上の周辺を取材してみると、三上の評判は意外に悪くなかった。

「いい人そうに見えたけどね。魚やワカメを持ってきてくれたこともあったしね(笑)」と話してくれたのは、茨城県にある三上の自宅近くで小さなストアを営む店主の男性だ。また、山形刑務所で以前服役し、獄中で三上と親しくしていた男性もこんな話を聞かせてくれた

「三上さんは面倒見がよく、僕も服役中は親切にしてもらいました。刑務所で知り合った者同士は出所後、手紙のやりとりや面会を禁じられているのですが、また三上さんに会えるものなら会いたいですよ」

さらに取材を進めたところ、裁判で三上の弁護を手がけた弁護士から興味深い話を聞かせてもらえた。三上は今も無実を訴えており、再審請求を考えているというのだ。

「後藤の供述の内容は、三上さんが妻子と一緒に暮らす自宅で被害者を何日も軟禁し、その挙げ句にリンチをして殺害したという不自然なものでした。妻子と暮らす自宅で普通そんなことはしませんよ」

言われてみればその通りで、たしかに後藤が供述する殺人の筋書きは違和感がある。

三上は私にくれた手紙で、冤罪を訴える冊子を自費出版する意向も明かしていた。私はこの事件の取材を今も続けているので、何かめぼしい新事実が見つかれば、当欄でも報告させてもらうつもりだ。


◎[参考動画]三上がモデルの役を怪演したリリー・フランキー。『凶悪』予告編動画より

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。創業した一人出版社リミアンドテッドから新刊『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史)を発行。

最新刊『紙の爆弾』12月号!

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

2009年5月、愛知県蟹江町で母子3人を殺傷し、2018年に最高裁で死刑が確定した中国人の林振華(37)。中国の名門高校を卒業後、焦がれの日本に留学したエリートは、なぜ異国の地で凶悪犯罪に手を染めたのか。

死刑確定が間近に迫った頃、林は私に宛てた計6通の書簡で、来日後に空腹のためにおにぎりを万引きし、日本語学校で孤立してしまったことを明かした。それでもなお、大学入学のために勉強を続け、国立の静岡大学に合格した林だったが――。

ここで再び、落とし穴に落ちるのだ。

◆万引きが招いた「合格した大学に入学できない」という悲劇

「入学には、高校卒業時の成績表が必要なので大至急用意にするように」

合格発表後、林は静岡大学側からそう告げられ、驚いた。入学のために高校卒業時の成績表が必要という話は聞いたことがなかったからだ。急遽、中国にいる父が動いてくれたが、審査などに時間を要して期限までに必要書類が揃わず、結局、静岡大学に入学できなかった――。

〈後で分かったが、普通、みんなそれを受験前に予め用意するのだけど、先生とも先輩ともコミュニケーションを取らなかった私はそのこと自体を知らなかった。それも後の祭りです〉(※〈〉内は、計6通の書簡のいずれかから引用。以下同じ)

おにぎりを万引きしたことが、合格した大学に入学できない悲劇を招いたのだ。

林が「転落の軌跡」を綴った6通の書簡

◆空き巣に入った家で3人を殺傷

その後、林はコンピュータの専門学校に1年通い、三重大学に合格する。しかし、再び手違いがあった。

〈私が間違ったのか、事務方のミスなのか、経済学科を希望したのに、入ったのは文学学科でした。今でも謎です。でも一つ確かなのは、それが私の学業に対するモチベーションの低下に繋がりました〉

飢えの恐怖を覚えていた林は三重大学入学後、コンビニ、ホンダの工場、焼き鳥屋、ラーメン店、割烹料理の厨房など、様々なアルバイトを掛け持ちした。学業も両立したため、寝る時間がほとんど無く、2年生の時についに倒れてしまった。

〈学校にも、仕事にも、しばらく行けなくなりました。動かないとお金が入りません。しかもその間も学費がべらぼうにかかります(年間53万円)。私はまた金欠になり、その日その日の生活になりました〉

林は再び、万引きに手を染め、警察沙汰に。罰金刑を言い渡されると共に「罰金を払わない場合、労役所に留置し、作業をさせることになる」と説明を受け、うろたえてしまったという。

〈そうなったら、学校を退学させられます。自分のキャリアはもちろんパーになるし、両親の期待も裏切ってしまいます。私は必死でお金を工面しようとしました。しかし3月末に学費を払ったばかりで、その時もアルバイト先のコンビニの店長にいくらか貸してもらったぐらいお金に困っていたので、どうしようもありませんでした〉

労役所に留置されたからといって、本当に大学を退学になるかは疑問だが、当時の林はそう思い込んだ。そして金を得るため、最悪の選択をしてしまうのだ。

〈思いついたのは空き巣でした。何日も眠れない日が続き、頭が混乱したのと、よくテレビニュースで見かけるからです。鉄レンチを持って行ったのは、窓ガラスを割るためでした。初めてのことだから心細く、小刀も持って行きました。それらは結局、事件を起す凶器になってしまいました〉

こうして林は空き巣に入ったはずの被害者宅で、家族たちに鉢合わせし、3人を殺傷してしまった――。

〈母が法廷で、「もし可能なら私が息子に替って罰を受けたいと思います」と言いました。両親が今でも私のことを愛してくれたなと思いました。その反面、自分はとんでもない親不孝だなと思いました〉

筆者が原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』分冊版第13話でも、林の「転落の軌跡」は詳細に描かれている  © 笠倉出版社/片岡健/塚原洋一

◆「罪を犯したら罰を受けるのは当然」

実を言うと林は死刑が確定前、獄中で首を吊ったり、鉛筆削りの刃で静脈を切ったりするなど自殺を試みている。

〈結果として命は助かったが、病院で酸素マスクを付けて目が覚める時、白い天井を見上げて、走馬燈が頭の中で走り巡らせるうちに(ママ)、自分が一度死んだ感覚でいます〉

林はそのため、死刑確定が間近に迫った時期も〈死ぬことは怖くないです〉と達観していたが、一方で苦痛を感じることもあることを明かした。

〈時々、後悔、被害者、両親、恋人などに対する申し訳ない気持ち、嘆きがいっぺんに押しかけて、押し潰されそうになる。毎日歩く屍のような感じです〉

では、夢を追って留学したはずの異国で死刑囚となり、人生の最期を迎えることをどう思うのか。

〈寂しいと思います。私は犯罪を犯すために日本に来た訳ではありません。自分の力で中日友好の架け橋役になれたらいいなと思いました。日本は法治国家です。罪を犯したら罰を受けるのは当然です。それについては文句を言うつもりはありません。でも、両親に会えなくなるのは、やっぱりすこし心許ない気持ちです〉

そんな林がこれまでの人生で楽しかった思い出とは――。

〈中学と高校の濃密な受験勉強の時間かなと思います。一生懸命頑張って、いい成績が取れて父と母に褒められる。単純だけど楽しい時期だと思います。あとは彼女と付き合う日々です。遠距離恋愛だけど、毎晩モニターを挟んで語り合い、ふたりの将来の設計図を描く。自分は一人じゃないなと実感する幸せな時間でした〉

もっとも、もしも時間を過去に戻せるなら、この「幸せな時間」よりもっと戻りたい時があるという。

〈初めて万引きする自分にストップをかけたい。「その初めの一回はだめだよ」と〉

異国の地で一度の万引きをきっかけに人を殺め、死刑囚となった林振華。死刑執行を先延ばしにすべく再審請求を繰り返す死刑囚は少なくないが、林は潔く死刑を受け入れそうだ。

◎親日家だった元エリートの中国人死刑囚、書簡に綴った「転落の軌跡」
【前編】
【後編】

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』(画・塚原洋一、笠倉出版社)がネット書店で配信中。分冊版の第13話では、林振華を取り上げている。

最新刊『紙の爆弾』12月号!

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

新型コロナウイルス騒動の勃発以来、中国のことを発生源と疑う人たちが反中感情を強めている。この現象は私に対し、以前取材した1人の中国人のことを思い出させた。

林振華(りん・しんか)、37歳。母国中国の名門高校を卒業後、日本で経済を学ぶために来日した「親日家」だった。しかし、国立の三重大学に在学中、母子3人を殺傷する事件を起こし、現在は死刑囚として名古屋拘置所に収容されている。

中国のエリートはなぜ、日本で転落したのか。林は裁判で死刑が確定間近だった2018年9月下旬から10月初旬にかけて、私の取材に応じ、来日以降の顛末を計6通の書簡に綴った。林が起こした事件はメディアでも大きく報道されたが、書簡には世間に知られていない事実も多く記されていた。今読み返しても、有名事件の貴重な資料と思える内容だ。

そこで当欄で前後編2回に分けて紹介したい。

◆人の命を殺めたら、命で償うのは当然

〈被害者やその関係者に対して、ただ申し訳ない気持ちで一杯です。相手は何の罪もない人たちです。自分の一番安心して寛ぐはずの家で殺されて、または怪我して怖い思いをして、または大切な人も失って悲しい思いをして、そう思うと、私自身も言葉を失うぐらいつらくなります〉(※〈〉内は、計6通の書簡のいずれかから引用。以下同じ)

林は自分が起こした事件について、書簡でそう振り返っていた。真摯な反省の気持ちが込められた文章ではあるが、林が起こした事件は擁護しようのない大変悲惨なものだった。

2009年5月1日の夜、三重大学の学生だった林は愛知県蟹江町の会社員・山田喜保子さん(当時57)宅に侵入して金品を物色中、帰宅した喜保子さんと鉢合わせになり、持参したモンキーレンチで頭部を殴って殺害。さらに次男のケーキ店店員・雅樹さん(当時26)も帰宅してきたため、その場にあった包丁で刺し殺した。

その後、今度は三男の会社員・勲さん(同25)が帰宅してくると、用意していたクラフトナイフで首を切りつけ、手首を電気コードなどで縛り上げて拘束。最終的に現金約20万円や腕時計を奪い、逃走したのだった。

そんな事件は警察の初動捜査の不手際もあり、長く未解決だったが、林は2012年に三重県で自動車を盗んで逮捕された際、DNAの型が山田さん宅で採取されたDNAと一致。容疑を認めて逮捕され、2015年2月、名古屋地裁で中国籍の被告としては初めて裁判員裁判で死刑判決を受けた。そして2018年9月、最高裁に上告を棄却され、死刑が確定した――。

林はこの裁判の結果について、書簡にこう綴っている。

〈裁判について、私は不満や納得できないことはありません。人の命を殺めてしまったら、命で償うのは当然です。両親が面会に来た時、「弁護士先生の言う通りに」と念を押されなかったら、私はたぶん控訴しませんでした〉

この時期、林はすでに死刑が確定することは確実な状況だったから、裁判での情状を良くするために反省している芝居をする必要はない。罪を償うため、本気で死刑を受け入れる覚悟を決めていることが窺える。こんな男がなぜ、殺人犯となったのか。そもそも、日本に留学してくるまでに、どんな人生を歩んだのか。

林が「転落の軌跡」を綴った6通の書簡

◆国際舞台で活躍したかった

林は中国の山東省生まれ。両親は2人とも気象庁で働いており、その間に生まれた一人っ子だった。少年時代は〈ガリ勉で本の虫〉だったという。

〈私は中学の時、特に中三の時、毎日夜12時まで勉強しました。高校はスパルタ教育で悪名高い?全寮制校でした。朝5時から夜10時まで教室に缶詰めです。土日も授業で一、二カ月に一度の頻度で家に帰れる、そんな具合です〉

この過酷な進学校で、林の成績は常に学年10位以内。当時、将来の目標は大手の商社マンか、銀行マンになることだったという。

〈国際的舞台で活躍する人間になりたいと思いました。そのため、特に英語の勉強に力を入れてました〉

高い志を持って努力していた林は、将来を誓い合った恋人もいた。だが、2003年10月の高校卒業時、選んだ進路は日本への留学だった。

〈私が中国にいた時、日本はまだ世界二位の経済大国でした。その時も不思議に思いました。こんな小さな国から、一体どこからそんな富を生み出す力があるのかと。あと、日本の漫画やアニメも大好きでした〉

そんな記述からは林が大きな希望を抱き、来日したことが窺える。ところが、現実は最悪の結末を迎えたわけである。

〈両親が貯金を果たして私に留学の夢を叶えさせました。なのに、私はその期待を裏切りました。そう思うと心が痛いです。抉られるように痛いです〉

両親のことを思い、林が自責の念に苦しむ様子がよく伝わってくる。

◆万引きで人生が暗転

日本に憧れていた林だが、実は高校卒業まで日本語を勉強していなかった。そのため、当初は京都で日本語学校に入学したが、勉強には苦労したという。

〈一緒に日本に来た子たちはみんな中国で六年間日本語を勉強したので、日本語がペラペラです。最初からすごいハンディキャップでした。私もその現実を認識しているので、勉強に力を入れました。最初に買った本が広辞苑です。毎日ラジオを流しっ放しで訛りを直し、語彙を増やしました〉

努力が実り、短期間に日本語を身につけた林だが、〈一つ誤算がありました〉と振り返る。経済的問題だ。

〈私は日本に来た時、32万円を持参しました。2004年3月末、日本語学校では次の半年間の授業料を請求されます。金額は30万円です。それを支払って、私は突然一文なしになります。その時私はすでにバイトを始めましたが、給料は4月末まで待たなければなりませんでした。その間を食い繋ぐことができませんでした。何日も、何も食べない日もありました〉

林は当時、飢えをしのぐため、コンビニのゴミ置き場を漁り、賞味期限切れで廃棄された弁当を食べたこともあった。そしてついに誘惑に負け、スーパーでおにぎりを万引きした結果、店員に捕まり、警察沙汰になってしまう――。

筆者が原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』分冊版第13話でも、林の「転落の軌跡」は詳細に描かれている © 笠倉出版社/片岡健/塚原洋一

〈それ以来、いつも優しかった先生たちの私を見る目が変ったのです。今考えてみると、お金がない時、素直に友人に頭を下げて借りればいいのですが、当時、私は自尊心が強かったため、それができなかった。目線を避けるために、私は極力教職員室にいかないようにした。周りの友人とも疎遠になった。毎日授業が終わると、バイト以外の時間は部屋に引き篭もった〉

孤独な人間となった林だが、その年の大学受験では静岡大学に合格した。が、落とし穴が待っていたのだ。

◎親日家だった元エリートの中国人死刑囚、書簡に綴った「転落の軌跡」
【前編】
【後編】

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』(画・塚原洋一、笠倉出版社)がネット書店で配信中。分冊版の第13話では、林振華を取り上げている。

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