報道や執筆が本職ではないのに、伝えようとする思いの強さが職業ジャーナリストを上回るような文章を書く人は少なくない。『日本の冤罪』の著者である尾﨑美代子さんもその一人だ。

 

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

尾﨑さんは普段、大阪・西成でフリースペースを兼ねた居酒屋『集い処はな』を営みつつ、日雇い労働者や失業者の支援、脱原発活動に取り組んでいる。私が最初に会ったのは和歌山カレー事件関係の集まりの場だったが、気さくな感じで声をかけてもらい、いつのまにか親しくなった。この間、尾﨑さんは当欄や月刊誌『紙の爆弾』で労働者の人権問題や脱原発、冤罪事件に関する記事を書くようになったが、私はいつも尾﨑さんの記事に感銘を受けていた。伝えようとする思いの強さが常に溢れているからだ。

本書は、そんな尾﨑さんが独自に取材、執筆した16の冤罪事件に関する計18本の記事をもとに編まれたものだ。伝えようとする思いの強さは本書でも健在で、それはたとえば次のような部分に現れている。

湖東記念病院事件の項

滋賀県警と山本刑事は刑事責任をきちんととり、美香さんに謝罪せよ。検察、裁判所も目を覚ませ。
 そして、一日も早く西山美香さんに無罪判決を!(45ページ)

日野町事件の項

裁判所には、阪原さんのこの悲痛な訴えが届かなかったのか。一日でも早く阪原さんと遺族に、再審無罪を言い渡せ!(107ページ)

名張毒ぶどう酒事件の項

人の心を持った鹿野裁判長には、(引用者注:故・奥西勝さんの妹で、再審請求人の)岡美代子さんに一刻も早く再審無罪を言い渡していただきたい(251ページ)

一読しておわかりの通り、何の迷いもなく取材対象である冤罪犠牲者やその関係者の思いを共有し、真っすぐな言葉で雪冤の実現を訴えている。だからこそ、この冤罪を何とかしたいという尾﨑さんの本気の思いが読み手に届く。本当は中立ではないのに、損得勘定や保身から中立を装ったような記事ばかり書いている職業ジャーナリストでは絶対書けない文章だ。

本書の冒頭には、先日亡くなった布川事件の冤罪犠牲者・桜井昌司さんとの対談をまとめた記事も収録されている。これを読むと、がんに冒されながら、亡くなる直前まで冤罪仲間たちを救おうと全国各地を飛び回っていた桜井さんが尾崎さんに心を開いて言葉を発しているのがわかる。それも尾崎さんの冤罪事件や冤罪犠牲者への向き合い方が桜井さんに信頼されているからだろう。

報道や執筆を職業としている人が自分の姿勢を見直すために読んでみると良い本だと思う。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。著作に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ─冤罪死刑囚八人の書画集─』など。

[著者略歴]尾﨑美代子(おざき・みよこ)1958年、新潟県生まれ。中央大学中退。大学生時代の80年代、山谷(東京)の日雇労働者、野宿者問題の支援に関わる。90年代初頭大阪に移住して以降は、同じく日雇労働者の町・釜ヶ崎に住みながら、フリースペースを兼ねた飲食店「集い処はな」を経営。釜ヶ崎で知り合った仲間たちと、3・11以後福島支援、反原発運動を始め、講演会、上映会、支援ライブなどを続ける。その傍ら、かつてより関心のあった冤罪事件の取材・執筆活動を続ける。

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

◎鹿砦社HP https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000733

国民の大多数が「冤罪被害者」と認識する袴田巌さんの再審開始が決まったのをうけ、筆者は当欄において、過去に袴田さんの無実の訴えを退けた存命の裁判官10人に対する公開質問を行った。袴田さんの再審無罪が確実な状況となったことについて、どのように受け止めているのかなどの質問をまとめた書面を特定記録郵便で一人一人に送り届け、回答を求めたものだ。

その結果、返事があったのは10人中6人にとどまり、残り4人は筆者の質問を無視した。返事があった6人も回答を避ける内容の返事ばかりだった。無辜の人に殺人犯の汚名を着せ、絞首刑に処そうとしたことを真摯に反省する様子は、10人の誰からも窺えなかった。

もっとも、筆者は元々、彼らが質問に対し、真摯な回答をしてくることなど期待していなかった。今回の取材では、日本の歴史に残る重大な冤罪を生んだ裁判官たちの無反省ぶりを明るみに出せ、むしろ意義のある企画になったと思う。

冤罪裁判官10人に送った公開質問

◆想像以上の栄達を果たしていた冤罪裁判官たち

そして今回、新たな発見もあった。袴田事件の冤罪裁判官たちが想像していた以上の栄達を果たしていたことだ。

現在は新潟家裁所長の菊池則明氏や、長野地家裁松本支部長の内山梨枝子氏のように組織内で出世を遂げた者もいれば、広島県公安委員会の委員を務めた小西秀宣氏や、日本大学大学院法務研究科の教授となった大島隆明氏のように「第2の人生」で立派な地位や職を得た者もいた。

いずれ劣らぬ栄達ぶりだが、中でも際立っていたのが、袴田さんの第一次再審請求を「棄却」で確定させた最高裁第二小法廷の裁判官4人(今井功氏、古田佑紀氏、中川了滋氏、津野修氏)が旭日大綬章を受章していたことだ。

〈最高裁判所判事としてその重責を果たすとともに、我が国司法制度の発展に貢献した〉

4人は旭日大綬章を与えられるに際し、そのように「功績」をたたえられていた。

「死刑の冤罪」を生んだ裁判官たちがそのような評価を受け、権威ある勲章を受章していた当否については、袴田さんが晴れて再審で無罪判決を受けた際に改めて検証されるべきだと思う。

最後に、この公開質問の企画については連載中、多くの方から好意的な感想や激励の言葉を頂け、励みになった。改めて感謝申し上げたい。

◎「冤罪被害者」袴田巌さんの無実の訴えを退けた存命の裁判官たちに公開質問
〈01〉大島隆明氏(現在は弁護士、日本大学大学院教授)2018年に再審を取り消した東京高裁の裁判長
〈02〉菊池則明氏(現在は新潟家裁所長)2018年に再審を取り消した東京高裁の裁判官
〈03〉竹花俊徳氏(現在は弁護士)2004年に袴田さんの即時抗告を棄却した東京高裁の裁判官
〈04〉古田佑紀氏(現在は弁護士)第一次再審請求を「棄却」で確定させた最高裁の裁判官
〈05〉内山梨枝子氏(現在は長野地家裁松本支部長)1994年に再審請求を棄却した静岡地裁の裁判官
〈06〉林欣寛氏(現在は札幌高裁事務局長)2018年に再審を取り消した東京高裁の裁判官
〈07〉小西秀宣氏(現在は弁護士)2004年に袴田さんの即時抗告を棄却した東京高裁の裁判官
〈08〉今井功氏(現在は弁護士)第一次再審請求を「棄却」で確定させた最高裁第二小法廷の裁判長
〈09〉中川了滋氏(現在は弁護士)第一次再審請求を「棄却」で確定させた最高裁の裁判官
〈10〉津野修氏(現在は弁護士)第一次再審請求を「棄却」で確定させた最高裁の裁判官
《総括》袴田事件の「冤罪裁判官」10人に対する公開質問が明らかにしたこと

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年10月号

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

 

津野修氏。現在は弁護士をしている

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

10人目は津野修氏。2008年3月24日、袴田さんに対して特別抗告を棄却する決定を出し、袴田さんの第一次再審請求を「棄却」で確定させた最高裁第二小法廷の裁判官の一人だ。

◆「津野氏の略歴」と「津野氏への質問」

津野氏は1938年10月20日生まれ、愛媛県出身。大学卒業後は大蔵省に入省し、内閣法制局長官まで出世した。2003年に弁護士登録。翌2004年に最高裁の裁判官に就任し、袴田さんの第一次再審請求を「棄却」で確定させたのち、2008年10月20日付けで定年退官。現在は弁護士になり、東京都港区虎ノ門にある『原・植松法律事務所』に所属。関東地区に在住の松山市にゆかりのある人たちが集う『松山愛郷会』の会長を務めている。
この間、2009年11月に旭日大綬章を受章。その際、読売新聞東京本社版2009年11月3日朝刊では、津野氏のことが以下のように紹介されている。

最高裁判事として司法制度の発展に貢献した。

そんな津野氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、『原・植松法律事務所』に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。回答が届けば、紹介したい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。津野様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

津野様が旭日大綬章を受章された際、読売新聞東京本社版2009年11月3日朝刊では、津野様のことが以下のように紹介されています。

〈最高裁判事として司法制度の発展に貢献した。〉

津野様は、これがご自身に相応しい評価だと思われますか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

※津野氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成十九年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

 

中川了滋氏。現在は弁護士をしている

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

9人目は中川了滋氏。2008年3月24日、袴田さんに対して特別抗告を棄却する決定を出し、袴田さんの第一次再審請求を「棄却」で確定させた最高裁第二小法廷の裁判官の一人だ。

◆「中川氏の略歴」と「中川氏への質問」

中川氏は1939年12月23日生まれ、石川県出身。司法試験合格後、当初は弁護士をしていた人で、第一東京弁護士会会長や日弁連副会長などの要職に就いた経験もある。2005年に最高裁の裁判官に就任し、袴田さんの第一次再審請求を「棄却」で確定させたのち、2009年12月22日付けで定年退官。現在は再び弁護士となり、東京都千代田区有楽町にある『丸の内仲通り法律事務所』に所属。2011年6月には、旭日大綬章を受章している。

なお、中川氏が旭日大綬章を受章した際、内閣府のホームページでは、中川氏の「功労概要」が以下のように公表されている。

最高裁判所判事としてその重責を果たすとともに、我が国司法制度の発展に貢献した。また、多年にわたり弁護士として法社会の安定化に寄与した。

そんな中川氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、『丸の内仲通り法律事務所』に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。回答が届けば、紹介したい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。中川様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

中川様が旭日大綬章を受章された際、内閣府のホームページでは、中川様の「功労概要」が以下のように公表されています。

〈最高裁判所判事としてその重責を果たすとともに、我が国司法制度の発展に貢献した。また、多年にわたり弁護士として法社会の安定化に寄与した。〉

中川様は、これがご自身に相応しい評価だと思われますか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

※中川氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成十九年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

 

今井功氏。現在は弁護士をしている

8人目は今井功氏。2008年3月24日、袴田さんに対して特別抗告を棄却する決定を出し、袴田さんの第一次再審請求を「棄却」で確定させた最高裁第二小法廷の裁判長だ。

◆「今井氏の略歴」と「今井氏への質問」

今井氏は1939年12月26日生まれ、兵庫県出身。袴田さんの第一次再審請求を「棄却」で確定させたのち、2009年12月26日に定年退官。退官後は弁護士になり、現在は東京都千代田区神田錦町にある『今井法律事務所』に顧問として所属している。この間、みずほフィナンシャルグループの監査役や、みずほ銀行の監査役を務め、2011年6月には、旭日大綬章を受章している。

なお、今井氏が旭日大綬章を受章した際、内閣府のホームページでは、今井氏の「功労概要」が以下のように公表されている。

多年にわたり最高裁判所判事等としてその重責を果たすとともに、我が国司法制度の発展に貢献した

そんな今井氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、『今井法律事務所』に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。回答が届けば、紹介したい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。今井様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

今井様が旭日大綬章を受章された際、内閣府のホームページでは、今井様の「功労概要」が以下のように公表されています。

〈多年にわたり最高裁判所判事等としてその重責を果たすとともに、我が国司法制度の発展に貢献した〉

今井様は、これがご自身に相応しい評価だと思われますか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

※今井氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成十九年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在ま
で57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

 

小西秀宣氏。現在は弁護士をしている

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

7人目は小西秀宣氏。東京高裁の裁判官だった2004年8月26日、安廣文夫裁判長、竹花俊徳裁判官と共に袴田さんの第一次再審請求の即時抗告審を担当し、袴田さんの即時抗告を棄却する決定を出した人だ。

◆「小西氏の略歴」と「小西氏への質問」

小西氏は1949年3月27日生まれ、広島県出身。安廣裁判長らと共に袴田さんの即時抗告を棄却する決定を出した後、法務省人権擁護局長、広島地裁所長、東京高裁部総括判事などを歴任し、2014年3月27日付けで定年退官。現在は弁護士となり、広島市中区東白島町で『小西法律事務所』という事務所を営んでいる。

広島県公安委員会で委員を務めているのをはじめ(現在は3期日で、任期は今年7月8日まで)、公益財団法人交通事故紛争処理センターの理事や中国電力の企業倫理委員会の副委員長にも就いており、公共的な仕事に積極的に取り組んでいる様子が窺える。

なお、広島県公安委員会のホームページでは、「公安委員会の役割」について、以下のように説明されている。

公安委員会は、警察の民主的管理と政治的中立性を確保するために設けられており、警察を管理する機能とともに、県民の良識を代表して警察の業務に県民の考えを反映させるという役割も持っています。

そんな小西氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、『小西法律事務所』に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。回答が届けば、紹介したい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。小西様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

小西様が委員を務めておられる広島県公安委員会のホームページでは、「公安委員会の役割」について、以下のように説明されています。

〈公安委員会は、警察の民主的管理と政治的中立性を確保するために設けられており、警察を管理する機能とともに、県民の良識を代表して警察の業務に県民の考えを反映させるという役割も持っています。〉

小西様が裁判官だった頃に出された、袴田巌さんの無実の訴えを退ける内容の決定については、広島県民の良識に沿うものだと思われますか?

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※小西氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成十九年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

 

林欣寛氏。現在は札幌高裁の事務局長をしている

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

6人目は林欣寛氏。2018年6月11日、その4年前に静岡地裁(村山浩昭裁判長、大村陽一裁判官、満田智彦裁判官)が認めた袴田さんの再審を取り消す決定を出した東京高裁(裁判長は大島隆明氏)の裁判官の一人だ。

◆「林氏の略歴」と「林氏への質問」

林氏は1978年9月6日生まれ、愛知県出身。大島裁判長らと共に袴田さんの再審を取り消す決定を出した後、2020年4月1日に司法研修所の教官に異動し、2022年4月8日からは札幌高裁の事務局長を務めている。

「司法研修所の教官」は、司法試験に合格した修習生を指導する職で、「高裁の事務局長」は管内の司法行政(たとえば裁判官や職員の人事関係事務、会計事務、一般の庶務など)の責任者だ。つまり、林氏は東京高裁の裁判官として袴田さんの再審を取り消す決定を出した後、法廷で人を裁く仕事をしていないのだと思われる。

そんな林氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、札幌高裁に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。林様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

林様は、大島隆明裁判長らと共に袴田さんの再審を取り消す決定を出されたのち、2度の人事異動で「司法研修所の教官」と「札幌高裁の事務局長」に就いておられますが、この2つの職はいずれも、法廷で人を裁くことをしない職だと思われます。林様がこのような職に就かれていることは、袴田さんの再審を取り消す決定を出されたことと何か関係があるのでしょうか? 何か関係があるのであれば、どのような関係があるのか、具体的に教えて頂けましたら幸いです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この質問に対して、林氏からは以下のような回答が郵便で届いた。なお、林氏に郵送した「郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒」は、回答と一緒に返送されてきた。

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令和5年7月3日

片岡健様

札幌高等裁判所事務局総務課

事務連絡

あなたから当裁判所に送付された2023年5月22日付け林欣寛宛ての書面に同封されていた郵便切手84円分(返信用封筒に貼付)を返送いたします。
なお、本件についてお答えできることはありません。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

林氏については、追加取材をすることを検討している。

※林氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成二十八年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

 

内山梨枝子氏。現在は長野地家裁松本支部長をしている

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

5人目は内山梨枝子氏。静岡地裁の裁判官だった1994年8月8日 、鈴木勝利裁判長、伊東一廣裁判官と共に袴田さんの第一次再審請求審を担当し、再審請求を棄却する決定を出した人だ。

◆「内山氏の略歴」と「内山氏への質問」

内山氏は1960年8月12日生まれ、北海道出身。1989年4月に千葉地裁で裁判官人生をスタートさせ、その次に勤務した静岡地裁で鈴木裁判長らと共に袴田さんの再審請求を棄却した。

その後は1995年4月に静岡家地裁浜松支部、1999年4月に名古屋地裁、2003年4月に静岡家地裁、2007年4月に静岡家地裁富士支部、2009年4月に静岡地家裁富士支部長、2012年4月に大阪高裁、2015年4月に静岡家地裁、2018年4月に横浜地家裁小田原支部──という異動を重ね、2022年4月より長野地家裁松本支部長を務めている。

見ておわかりの通り、内山氏の勤務地は、袴田事件が起きた静岡県もしくはその隣県がほとんどだ。

そんな内山氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、長野地裁松本支部に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。内山様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

内山様がこれまで裁判官として勤務された地は、静岡県もしくはその隣県がほとんどです。袴田事件が起きた県であり、釈放後の袴田巌さんやその姉・ひで子さんらが暮らしている静岡県もしくはその隣県の裁判所で勤務されることについて、心理的な抵抗はなかったのでしょうか?

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この質問に対して、内山氏からは以下のような回答が郵便で届いた。なお、内山氏に郵送した「郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒」は、回答と一緒に返送されてきた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

令和5年6月19日

片岡健殿

長野地方裁判所松本支部庶務課

5月22日付けの当支部所属裁判官宛ての取材依頼に対する回答について

標記取材には応じません
なお、返信用切手は返還します。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

内山氏については、追加取材をすることを検討している。

※内山氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成二十八年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ─冤罪死刑囚八人の書画集─』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ─冤罪死刑囚八人の書画集─」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

 

古田佑紀氏(『司法大観 平成十九年版』より)。現在は弁護士をしている

4人目は古田佑紀氏。2008年3月24日、袴田さんに対して特別抗告を棄却する決定を出し、袴田さんの第一次再審請求を「棄却」で確定させた最高裁第二小法廷の裁判官の一人だ。

◆「古田氏の略歴」と「古田氏への質問」

古田氏は1942年4月8日生まれ、北海道出身。司法試験合格後、元々は検察官や法務官僚として働いていた人だった。法務・検察では、次長検事まで出世している。

2005年に最高裁の裁判官に就任し、袴田さんの第一次再審請求を「棄却」で確定させたのち、2012年4月8日付けで定年退官。現在は弁護士になり、東京都中央区八重洲にある『村田・加藤・小森法律事務所』に所属している。

2013年11月には、旭日大綬章を受章。2015年から2021年まで東芝で社外取締役を務めた。

なお、古田氏が旭日大綬章を受章した際、内閣府のホームページでは、古田氏の「功労概要」が以下のように公表されている。

〈最高裁判所判事としてその重責を果たすとともに、我が国司法制度の発展に貢献した。また、多年にわたり次長検事等として法秩序の維持に貢献した。〉

そんな古田氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、『村田・加藤・小森法律事務所』に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。

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【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。古田様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

古田様が旭日大綬章を受章された際、内閣府のホームページでは、古田様の「功労概要」が以下のように公表されています。

〈最高裁判所判事としてその重責を果たすとともに、我が国司法制度の発展に貢献した。また、多年にわたり次長検事等として法秩序の維持に貢献した。〉

古田様は、これがご自身に相応しい評価だと思われますか?

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この質問に対して、古田氏からは以下のような回答が郵便で届いた。

個別の事件に関する取材はお受けしておらず、コメントを差し控えます。

古田氏については、追加取材をすることを検討している。

※古田氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成十九年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

国民の大多数から「無実なのに死刑囚にされた冤罪被害者」と認識されている袴田巌さんの再審がついに行われることになった。袴田さんは1966年の逮捕から現在まで57年にわたり、殺人犯の汚名を着せられてきたが、無事に再審が行われれば、無罪判決を受けることは確実だとみられている。

このような状況の中、過去に袴田さんに対し、無実の訴えを退ける判決や決定を下した裁判官たちはどのような思いで、どのように過ごしているのだろうか。当連載では、該当する裁判官たちの中から存命であることが確認できた人たちに対し、公開質問を行っていく。

3人目は竹花俊徳氏。東京高裁の裁判官だった2004年8月26日、安廣文夫裁判長、小西秀宣裁判官と共に袴田さんの第一次再審請求の即時抗告審を担当し、袴田さんの即時抗告を棄却する決定を出した人だ。

現在は弁護士をしている竹花俊徳氏(竹花俊徳公式ホームページより)

◆「竹花氏の略歴」と「竹花氏への質問」

竹花氏は1947年10月18日生まれ、長野県出身。安廣裁判長らと共に袴田さんの即時抗告を棄却する決定を出した後、仙台高裁秋田支部長、水戸家裁所長、静岡家裁所長などを歴任し、65歳の誕生日である2012年10月18日付けで定年退官。その後、定年が70歳の簡裁の裁判官となり、川口簡裁、さいたま簡裁、東京簡裁に勤務し、2017年10月18日付けで定年退官。現在は弁護士となり、東京都新宿区西新宿にある『弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部』に所属している。

なお、竹花氏は、公式ホームページで次のように述べている。

〈刑事事件・少年事件の被疑者・被告人になってしまったあなたに寄り添い、あなたの立ち直りの力になりたい。あなたが無実の罪で容疑を掛けられていたとしたら、それを晴らす力になりたい。そう考えて弁護士になりました。〉

そんな竹花氏に対しては、以下のような質問を書面にまとめ、郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒を同封のうえ、『弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所東京支部』に特定記録郵便で郵送し、取材を申し込んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【質問1】

袴田巌さんは再審が決まり、無罪判決を受けることが確実な状況となりました。竹花様はこの状況をどのように受け止めておられますか?

【質問2】

竹花様は、公式ホームページで次のように述べておられます。

〈刑事事件・少年事件の被疑者・被告人になってしまったあなたに寄り添い、あなたの立ち直りの力になりたい。あなたが無実の罪で容疑を掛けられていたとしたら、それを晴らす力になりたい。そう考えて弁護士になりました。〉

竹花様は袴田巌さんについて、「無実の罪で容疑を掛けられた人ではない」と認識されているのでしょうか?

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この質問に対して、竹花氏からは以下のような回答が郵便で届いた。なお、竹花氏に郵送した「質問をまとめた書面」や「郵便切手84円分を貼付した返信用の封筒」は、回答と一緒に返送されてきた。

片岡健様

お世話になっております。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所です。

この度は、弊所所属弁護士の竹花俊徳への取材をご依頼いただきありがとうございます。

こちら検討させていただいたところ、竹花が業務多忙のため、今回の取材は見送らせていただきます。

ご要望にお応えできない形となってしまい大変申し訳ございませんが、何卒ご理解の程よろしくお願い申し上げます。

2023年5月25日
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所

竹花氏については、追加取材をすることを検討している。

※竹花氏の生年月日と出身地、異動履歴は『司法大観 平成二十八年版』と『新日本法規WEBサイト』の情報を参考にした。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

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