原発事故後に福島県内の学校で行われている甲状腺検査(集団検診)の継続を求める声が学校現場からあがっている。NPO法人「はっぴーあいらんど☆ネットワーク」(鈴木真理代表)http://happy-island.moo.jp/は12月17日、福島県に対し「学校における甲状腺エコー検査継続を求める要望書」を提出。教職員からの生の声も添えられた。現場の教職員達はなぜ、学校での集団検診が必要だと考えているのだろうか。そのうえで中止と継続、どちらが子どもたちを守る事につながるのか考えたい。

昨年12月に福島県知事などに宛てて提出された要望書には、学校での甲状腺検査を支える教職員からの維持・継続を求める声も添えられた

「甲状腺検査は必要です。本当に必要なことなら、多少業務が増えてもやむを得ないと考えます。また、学校を通して検査しなければ実施数(率)が下がり、意味のある検査にならないのではないでしょうか」

これは、福島県双葉郡富岡町の中学校に勤める教職員の意見。学校での甲状腺検査継続に賛同する教職員の声は200に達した。

「今後、福島の復興を担う子どもたちの健康のためにも、継続維持を要望します。他施設での全員受診は難しいかと……」(いわき市、中学校)

「学校検査の維持継続は、子どもたちの将来のために必要な事です。ぜひ続けてください」(福島市、小学校)

「検査を任意にしてしまうと特に高校生の受診率の低下は顕著に現れます。検査を定期的に受ける事で体の中の変化を早期発見出来ると思いますので、学校検査の継続をよろしくお願い致します」(郡山市、高校)

「福島県において学校での甲状腺検査は必要です。きちんと説明する事でデメリットの部分は解消されるはずです。ぜひ継続してください」(石川町、小学校)

「学校は会場を提供します。ぜひ続けてください。甲状腺の病気が増えて来るのは(原発事故から)時間が経過してからだと聞いています。よろしくお願いします」(会津若松市、小学校)

「原発事故による放射性物質から子どもたちの健康を守る取り組みは10年では終わらないでしょう」(西郷村、小学校)

こんな意見もあった。

「娘は小学校2年生の時に甲状腺検査のおかげで異状が分かり、現在も薬を服用しています。そのため症状は改善され、体力もつきました。甲状腺検査があったからこそ、早い時期にみつける事が出来たので、とてもありがたいと感じています。甲状腺検査の継続を熱望致します」(白河市、小学校)

学校で甲状腺検査を実施するとなれば当然、授業や行事の合い間に行わなければならない。子どもや保護者の意思を尊重するため、検査を受けたくない子どもへの対応も求められる。そのため、現場の教職員からは負担軽減を求める声も多くあがった。

「教職員の負担になっているところをしっかりと洗い出して欲しい。負担が少なければこの先の実施は可能だと思います。(放射線の)影響は未知数なので、出来る事はやった方が良いと思います」(郡山市、中学校)

「前日や休日の準備など検査のための仕事量は多いので、学校や養護教諭の負担を減らす実施方法を考えたうえで学校で甲状腺検査を行って欲しい」(郡山市、養護教諭)

「おおむね賛同致しますが、中学校の多忙化につながらない事を願います。やり方については工夫が必要かと思います」(白河市、中学校)

「授業を圧迫しないように配慮していただきたい」(白河市、小学校)

「検査の前の事務作業がかなり多いので人的支援をお願いしたいです」(矢吹町、小学校)

要望書は星北斗座長以下、県民健康調査検討委員会の委員にも届けられたという。それでも津金昌一郎委員(国立がん研究センター社会と健康研究センター長)は15日の会合で次のように述べ、学校での甲状腺検査継続に反対した。

「(甲状腺検査は)多くの人が期待している甲状腺ガンの早期発見により死亡などを避ける事が出来るという利益はほとんど無くて、特に甲状腺ガンと診断された人たちには重大な不利益をもたらすものと私は考えています。したがって、少なくとも集団での甲状腺検査は望ましいものでは無いと考えています」

猪苗代町の小学校養護教諭は「学校現場は大丈夫です。甲状腺検査はやるべきです」と書いた。多くの教職員が学校での甲状腺検査継続を望んでいる。検討委では、安部郁子委員(福島県臨床心理士会長)が「学校の先生方と話をする機会があるが、学校での甲状腺検査に対して『大変だなあ』と言葉では言うのですが、非常に大事だと言う認識をみんな持っておりまして、不登校のお子さんに対する検査の働きかけも一生懸命やっています。やめてはいけない」と継続を訴えた。津金委員は「不利益を受けている子どもたちがいないのであれば、私も(学校での)検査に賛成です」とだけ述べた。

今月15日に開かれた40回目の県民健康調査検討委員会でも、学校での甲状腺検査に強く反対する意見が出されたが、地元の2委員は継続を強く訴えた(福島市のホテル「ザ・セレクトン福島」)

昨年3月まで4期16年にわたって長野県松本市長を務めた菅谷昭さん(医師、現在は松本大学学長)も、次のような継続賛同のメッセージを寄せている。

「チェルノブイリの原発事故の医療支援に携わり、間近で健康被害を診てきたものとして、甲状腺検査を継続的に行なっていくことは被害を受けた当事者の健康影響を最小限で食い止めるために必要なものであり、今後起こり得る新たな事故に対する対策を後世に残すという意味でも、とても重要なことであると認識しておりました。ところが、東京電力福島第一原発事故から間も無く10年というときに、甲状腺検査の方向性を変える様な事が話し合われているということをお聞きしてとても驚いております」

「チェルノブイリと同様に少なからず汚染のある地域に住んでいた子供たちに甲状腺検査を継続的に行うことは、当時の子供たちの健康を見守るという意味でとても重要なことです。そしてまた長期にわたり同世代の検査を繰り返すことで原発事故の影響が明らかになり、それによって国からの補償を受けることも出来るという意味でも重要なことです」

「2011年の東京電力福島第一原発事故からはまだ9年しか経っておらず、当時の子供たちの健康状況の把握もまだ不完全な現状で、学校での検査(以下「学校検査」)を続けるべきかどうかという議論がなされる事は私には全く理解が出来ません。学校検査は、仕事を休んて゛検査に連れて行くなと゛保護者にかかる負担を軽減し、「検査を希望する子どもたちか゛等しく受診て゛きる機会を確保」するためにはとても重要なものです」

「私は福島の子どもたちに放射線の影響があるから検査を継続すべきであると言いたいのではなく、放射線の影響があるかどうかをしっかりと記録するべきであると言いたいのです。被曝線量が低いという不確かな根拠で軽率に検査縮小を論じるのではなく、少なくとも放射線の影響があるのかないのか明らかになるまでは、現在の検査体制を維持し継続すべきだと思います」

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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想像してみて欲しい。情報もロクに入って来ない中で「とにかく逃げろ」と言われた時の事を。放射線量も被曝線量も分からない。どこに逃げたら安全なのかも分からない。誰もが「きっと数日で戻れるだろう」と自宅を後にした。避難生活が10年に及ぶ事も、自宅へ続く道にバリケードが設置されて自由に立ち入れなくなる事も、頭に浮かばなかった。それが原発避難の現実だ。

立教大学教授の関礼子さん(環境社会学)は、専門家証人尋問の中で「原告は『土地に根ざして生きる権利』という、一般の人々が享受している権利を全て根こそぎ奪われた」と述べたが、津島の人々はふるさとを「喪失した」のでは無い。まさに「ある日突然、一方的に奪われた」のだ。何も知らされずに。

帰還困難区域に指定された津島地区は10年経ってもなお、自宅へ向かう道にバリケードが設置されている

原和良弁護士は7日の最終弁論で「津島の人々の境遇・想いは、現在に禍根を残す世界規模の問題と共通します」として、ふるさとを追われたユダヤ人について述べた。

「紀元前586年に起きた新バビロニアによるユダ王国の征服で、首都エルサレムに居住していたユダヤ人はふるさとを追われ、バビロンに捕囚されました。『ディアスポラ』という、ギリシャ語で『散らされた人』を意味する言葉の起源は、この『バビロン捕囚』にさかのぼります」

エルサレムの住民たちは突然、他国の征服で囚われの身となり、見知らぬ土地に散り散りバラバラに連行された。「ふるさとを追われたユダヤ人は、異なる言語や文化、伝統の中に放り出され、長い間、様々な差別や迫害に遭遇します」。それはまさに、放射性物質による〝征服〟で見知らぬ土地に散り散りバラバラに避難を強いられ、それまでと異なる生活環境の中で様々な差別や〝迫害〟に遭遇してきた津島の人々と重なる。

「原告らは『現代のディアスポラ』と言えるのです」

それだけ「迫害」された津島の人々が国や東電という巨大な壁に立ち向かうには、周囲の差別や偏見とも闘わねばならなかった。

白井劍弁護士は、原告たちが避難先で味わって来た悔しさを次のように表現した。

「原発被害者に対する偏見、誹謗中傷も根強いのです。この訴訟の原告の中にも、世間の偏見や誹謗中傷に傷付いた人はたくさんいます。ある女性原告は避難先で県営住宅に入居しました。自治会の清掃活動で、住民たちからこう言われました。『ここの御家賃は高いのよ。あなたたちは無料ですってねぇ』、『良いところに入れて良かったわねぇ』、『良いわねぇ、お金もらって』……」

決して少額では無い賠償金を得た人々への妬みには、その金の背景にある「被害」が抜け落ちてしまっているのだ。

絶対に起きないはずの原発で爆発事故が起き、津島の人々は平穏な暮らしを突然、奪われた。自宅は日に日に朽ちて行き、泣く泣く解体に踏み切った原告もいる。それらは全く無視され、避難先で新築の住まいを購入した、津島と違って近くにコンビニもスーパーもある便利な地域に暮らしている、など避難先での暮らしぶりを点でとらえられて傷つけられて来た。避難指示が出された区域からの避難者には精神的賠償として月額10万円が支払われた事から、運動会で走る子どもに「10万円が走っているぞ」と酷い野次が浴びせられた事もあった。

白井弁護士が例に挙げた女性原告は「なぜ悪い事をしているかのように中傷されなければならないのか」と憤りながらも口にする事など出来ず、ついに重いうつ病を患ってしまった。原告の三瓶春江さんは最終弁論で「差別や偏見のために、声をあげたくてもあげられない若者が大勢いる事を忘れないで」と訴えた。

「私の娘は裁判の中で、避難している人への差別や偏見のせいで津島出身である事を隠さなければならない哀しみ、自分が放射線被曝したかもしれない不安で結婚をためらってしまう胸の内を陳述しました。娘のほかにも、原発事故のせいで津島から離れ、つらく哀しい体験をした若者がたくさんいます。しかし、自分の体験や気持ちを素直に話す事が出来ません。避難した人に対する差別や偏見が今も消えないからです」

誰もが願う津島地区の復興。それには、原発事故前の状態に戻すのが大前提となる

避難先で生きて行くだけで精一杯の状況では、拳を振り上げて闘う事がどれだけ難しいか。白井弁護士は「権利主張の声をあげる事、裁判をする事はあまりにもハードルが高い」とした上で、「ひとつの地域の住民たちが、その地域の環境復元をメインに訴えた訴訟は『津島訴訟』だけ。加害者の責任で地域環境を復元しなければならない事を明確にするこの裁判は、原発被害者の歴史を変えようとする裁判です。四大公害裁判が公害被害者の歴史を変えたのと同じように」と、故・田尻宗昭さんの次の言葉を挙げた。

「誰か一人でも、必死になって球を投げ続ければ必ず歴史は変わる」

60年代後半、海上保安庁職員として工場排水などによる海洋汚染を摘発。70年代には東京都職員として土壌汚染問題に取り組んだ。「公害Gメン」と呼ばれるほど、環境問題と徹底して向き合った人物。白井弁護士は、津島の人々が「球を投げ続けた」5年余の、そしてこれからも続くであろう闘いを、次のように表現した。

「津島訴訟の原告たちは独りぼっちではありません。大勢の気心の知れた仲間たちが、力を合わせて連携して『必死になって球を投げ続けて』来ました。これからも、津島地区を自分たちの手に取り戻すまで、あきらめる事無く『必死になって球を投げ続ける』ことでしょう。この人たちが『必死になって球を投げ続ける』限り、必ず歴史は変わる。そう確信します」

2015年9月の提訴以来、口頭弁論期日は33回に上った。裁判所は原告たちが投げ続けた球をどのように返すのか。

「国や東電が私たちの津島を元通りの地域社会にしてくれるであれば、原発事故前と同じような生活が出来る状態に戻してくれるのであれば、お金は要りません」、「津島での元の生活に戻る事が出来るならゼニなんか一銭も要りません。ゼニ金の問題じゃ無いのです」と訴えてきた津島の人々の想いに応えるのか。

判決は半年後、7月30日に言い渡される。(了)

◎ふるさとを返せ 津島原発訴訟
結審(上)「原状回復」への強い想い 
結審(中) 津島の地を汚した者・東京電力の責任を問う
結審(下) 『現代のディアスポラ』たちの闘い

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他

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「私は30年間裁判官として全国を転々としたので、どこの歴史も文化も担っていません。日本中、どこに住んでも同じだと思っていたので、なぜそれほどまでして、こんな山奥に住みたいのだろうと、率直に言えば最初はそう思っていました」

大塚正之弁護士は東大経済学部を卒業後、裁判官として那覇地裁や東京地裁、大阪高裁や東京高裁など「全国を転々」。退官後に弁護士となった。弁護団に加わり、何度も津島を訪れ、原告の話を聴くにつれて、住民たちの想いが理解出来たという。

「中には、涙を流しながら『被曝しても良いから津島に戻りたい』とおっしゃる方もいました。津島が全てであり、大切な津島の『全て』を失った、あるいは失おうとしている。それを取り戻したいのだという事がはっきりと分かったので、津島を取り戻す訴訟をしなければならないと確信しました」

弁護団の共同代表を務める大塚正之弁護士。最終弁論で「 汚した環境を回復させる事は汚した者の責任」と語気を強めた

今月7日の法廷では7人の原告が最終弁論をしたが、異口同音に「ふるさとを返せ」、「津島に戻りたい」と述べた。

窪田たい子さんは「津島のほんの一部の除染が始まりましたが、全てをきれいにしてもらえなければ人は帰って来ません。全員が津島で元の生活が出来るように国と東電にはきちんと責任をとってもらわなければならないのです。お金の問題ではありません。私たちのふるさとを返してください」と訴えた。

「本人尋問の時、ふるさと津島に帰りますか?との質問に対して力強く『帰ります』と答えました。しかし、除染のロードマップも示されず、いまだにいつ帰れるのか全く不明の状況下にあります。今のままでは『廃村棄民』です」と語気を強めたのは佐々木茂さん。

武藤晴男さんは「私たちは、国や東電に対して文句ばかりを言っているわけではありません。早く前向きな気持ちで復興に向かいたいのです。そのための第一歩は今、朽ちていきそうな津島を、私たちが心から大好きだったあの津島へ戻す事です。そして、本当の津島を見る喜びを皆で揃って感じる事です」と求め、三瓶春江さんは、裁判官たちに「お願いします。津島を除染してください。義父を、亡くなった人たちを早く津島の土で眠らせてください。ふるさと津島の未来を消さないでください」と訴えた。

「私たち原告は、あの豊かな美しいふるさとを取り戻す、津島を汚れたままにはさせないとの希望を持ち続けています。現地を見てくださった裁判官に、その希望に最初の灯をともしていただきたいと心から願っています」と述べたのは石井ひろみさん。今野正悦さんの自宅は、昨年11月30日に解体工事が終わった。「先祖から受け継ぎ、大切にしてきたわが家を解体したいと思っている人はいないはずです。一生ここで暮らそうと思っていた自宅を突然、解体しなければならない。そんなつらい思いを、もう誰にも味わわせたくないです」と語った。

そして、原告団長の今野秀則さんが、次のような言葉で最終弁論を締めくくった。

「山林を含む津島地区全体が除染され元に戻らない限り、私たちの生活は取り戻せません。このままでは、地域の過去、現在、未来が全て奪われ、失われてしまいます。ふるさと津島を取り戻す事は、代替不可能な生きる場所を取り戻す事なのです」

大塚弁護士は原告たちの想いをさらに補うように、こう述べた。

「原告らはいま、津島において木々の間からこぼれ落ちる陽光を浴びる事が出来ない。あの津島の山々が作り出す新鮮な空気を吸う事が出来ない。それだけでは無い。美味しい津島の湧水を飲む事も、美しい小鳥のさえずりを聴くことも、マツタケ狩りをする事も、田畑を耕す事も、牛馬を育てる事も、幼なじみとの屈託の無いだんらんも、何もかもを奪われたのです。原告らはなぜ、津島の大地を汚した被告らから『出て行け、勝手に入るな』と言われないといけないのか。被告らに対し『津島にある全てのものを奪うな、元の美しい津島を戻せ』と言えないのか。被告らは、『津島を元に戻してくれ』という原告らに寄り添う事さえ出来ないのか」

東電は「最後の一人まで賠償貫徹」など「3つの誓い」を立てたが、法廷では「充分な賠償が済んでいる」、「避難先で家を購入したら避難終了」など、被害者を愚弄する言葉を並べている

原発事故の加害当事者である東電は「被害を受けられた方々に早期に生活再建の第一歩を踏み出していただくため」として「3つの誓い」(「最後の一人まで賠償貫徹」、「迅速かつきめ細やかな賠償の徹底」、「和解仲介案の尊重」)を立て、ホームページでも公開している。

だが、実際に代理人弁護士を通じて語られる東電の「本音」は、公表されている美辞麗句とは全くの真逆。最終弁論でも、棚村友博弁護士が「被害を軽視していない。最大限受け止めている」としながら、「原発事故後、賠償金を活用して住居を確保するなどして平穏な生活を取り戻した避難者」については避難生活を終了したとみなす」、「帰還困難区域住民への一律1450万円の賠償金など、既に支払った賠償金を上回る精神的損害は存在しない」などと言い放った。一方で、原告たちが強く求める「原状回復」についての言及は一切無し。「十分すぎるほどの賠償金を支払ったのだから、これ以上文句を言うな」と言わんばかりなのだ。

大塚弁護士の最終弁論は、そんな東電の姿勢を厳しく糾弾するものだった。

「この訴訟は、『金になるのであれば環境などどんどん破壊してかまわない』、『破壊した環境を元に戻すのにお金がかかるのなら戻さなくて良い』、『とにかく金が第一だ』という、これまでの間違った考え方に立ち続けるのか。それとも、汚した環境を回復させる事は汚した者の責任であるから元に戻す義務があるという、現代では当然と言うべき考え方に立つのか。どちらを選ぶのかを問いかけているのです」

「この訴訟で、何としても被告らに除染義務を認めさせ、放射性物質で地域を汚したら速やかに、住民が生きている間に、戻れるようにしなければならないという原則を確立する必要があります」

「津島の除染をしないという事は、歴史や文化を代々伝えて来た私たち人類の営みを踏みにじる言語道断の行為です。そんな事が許されるのなら地球環境に未来は無い」

地域を汚したら、汚した者の責任において元に戻す。そんな当たり前の事を認めさせるのに、被害者はどれだけ拳を振り上げ、声を張り上げないといけないのか。しかも、原告たちは差別や偏見との闘いまで強いられているのだった。(つづく)

◎ふるさとを返せ 津島原発訴訟
結審(上)「原状回復」への強い想い 
結審(中) 津島の地を汚した者・東京電力の責任を問う
結審(下)

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他

『NO NUKES voice』Vol.26 小出裕章さん×樋口英明さん×水戸喜世子さん《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか

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2011年3月の原発事故で帰還困難区域に指定され、今なお避難生活を強いられている福島県双葉郡浪江町の津島地区。643人の住民が国と東電を相手に起こした「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」(以下、津島訴訟)が今月7日、結審した。2015年9月29日の提訴から5年余。放射性物質の拡散でふるさとや住み慣れた自宅を奪われた住民たちは、何を求めて闘い続けて来たのか。共に歩んで来た弁護団は何を感じたのか。福島地裁郡山支部で行われた最終弁論を軸に、確認しておきたい。

「お金は要りません。国や東電が私たちの津島を元通りの地域社会にしてくれるであれば、原発事故前と同じような生活が出来る状態に戻してくれるのであれば、お金は要りません」

結審を翌日に控えた今月6日、郡山市役所内の記者クラブで開かれた記者会見。原告団長の今野秀則さんはきっぱりと言った。短い言葉の中に10年分の怒り、哀しみ、苦しみが凝縮されていた。「何としても自分たちの地域を取り戻す」という決意表明のようでもあった。

「地域社会が丸々ひとつ、地図から消されるような事は許されて良いのでしょうかね。私はとても納得など出来ません。私たち津島の住民は住めないような状況にさせられて、除染もされない。戻る事さえ叶わない。歴史が消えて無くなってしまう。納得出来ないでしょ? それを元に戻すために『原状回復』を求めているんです」

「津島訴訟」の原告たちが求めているのは原発事故前の美しい津島に戻す事

津島訴訟の闘いは、文字通り「原状回復」の闘いだった。訴状の「請求の趣旨」は次の2点だ。

〈1〉 被告は原告らに対し、津島地区全域について、平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質による同地域の放射線量(以下、「本件原発事故由来の放射線量」)を毎時0.046マイクロシーベルトに至るまで低下させる義務があることを確認する。

〈2〉 被告らは原告らに対し、津島地区全域について、本件原発事故由来の放射線量を平成32年3月12日までに毎時0.23マイクロシーベルトに至るまで低下させよ。

訴状には、原告の言葉も紹介されている。住民たちの想いが良く伝わってくる。

「東電と国の責任で元通りの津島を自分たちに返してもらいたいと心底思います。中ノ森山や広谷地の美しい自然を元通りにして欲しい。津島での元通りの毎日を返して欲しい。それ以上に望むものなど何もありません。津島での元の生活に戻る事が出来るならゼニなんか一銭も要りません。ゼニ金の問題じゃ無いのです」

これに対し、国や東電は2016年4月15日付の答弁書の中で、ともに「除染は現実的に不可能な事を強いるものであるから原告の請求は認められない」として棄却するよう求めている。

訴状でも「あくまでも津島地区の原状回復が、原告らが求めるものの主眼である」と綴られている

原発事故被害者による訴訟で、原状回復請求が認められた判決は無い。

2017年10月10日に言い渡された「『生業を返せ、地域を返せ!』福島原発訴訟」(生業訴訟)の福島地裁判決では、「本件事故前の状態に戻してほしいとの原告らの切実な思いに基づく請求であって、心情的には理解できる」としながらも、「求める作為の内容が特定されていないものであって、不適法である」として棄却。

2020年9月30日の仙台高裁判決も、「作為の内容は強制執行が可能な程度に特定されなければならない」などとして「不適法であり、却下すべき」との判断を下した。

仙台高裁も被害者に寄り添う姿勢は見せている。

「本件事故によって放出された放射性物質について自分たちが受容し、その線量や影響を受忍しなければならないいわれはなく、何としてでも本件事故前の状態に戻してほしいとの切実な思いや、放射性物質を放出させるような事故を起こした原子力発電所を設置・運転してきた一審被告東電及び国民の平穏生活権の保障に責任をもって当たるべき一審被告国において、どのような手段をもってしても原状回復をすべきであるとの強い思いに基づく請求であることがうかがわれ、心情的には共感を禁じ得ない」

「心情的には共感」しているものの、国や東電に原発事故前の状態に戻すよう命じる事は無かった。

「原状回復」のハードルが高い事は、津島訴訟の弁護団も当然、理解している。これまでの弁論期日に行われた学習会でも「この訴訟では結果の目標だけを示していて、国や東電に具体的に何をしてもらいたいかを特定せずに請求しています。これを法律学的には『抽象的不作為請求』と言います。『空間線量を毎時0.23マイクロシーベルト以下に低下させる強制執行』を裁判所に求めた場合、じゃあ、どうやってやりますか?という部分が具体的に決まっていないと裁判所もやってくれません」などと、法的な難しさが弁護団から原告たちに説明されている。

それでも、津島の住民たちは「原状回復」を請求の主軸に据えた。ハードルが高くても、元に戻して欲しいという想いが上回ったからだ。

事故など絶対に起きないと言われ続けた原発が爆発した。五重の壁で覆われているはずの放射性物質が大量に拡散され、風に乗って津島地区に降り注いだ。放射能汚染は9年10カ月経った今も続き、ごく一部で除染が始まったが、『特定復興再生拠点区域』として整備されるのは、津島地区全体のわずか1.6%にすぎない。地区全体をいつまでに除染するのか、計画すら示されていない。避難指示がいつ解除され、いつになったらわが家に戻れるのか。見通しは全く立っていない。主を失った家が日に日に朽ちて行く中、一刻も早く事故前の状態に戻して欲しいと住民たちが考えるのも当然だ。

ある弁護士は「提訴を準備している段階で弁護士の間でも議論はありました。慰謝料請求だけに絞る方がいいのではないかという弁護士もいました。一方で『住民の皆さんの気持ちを考えると、原状回復請求も加えるべきだ』という意見もありました。議論を重ねた結果なのです。原告になろうと考えている方々が『ふるさとを返して欲しい』と強く口にしていた事も後押ししました。津島の皆さんの強い想いがあったのです」と話す。

7日の最終弁論では、時に語気を強めながら原告たちの想いを代弁した弁護士がいた。(つづく)

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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『紙の爆弾』も『NO NUKES voice』も、ほぼ毎回紹介記事を書かせていただいているが、提灯記事を書いても仕方がないので、すこしばかり批評を。なお、全体のコンテンツなどは、12月11日付の松岡代表の記事でお読みください。

 

『NO NUKES voice』Vol.26 《総力特集》2021年・大震災から10年 今こそ原点に還り〈原発なき社会〉の実現を

今号は、松岡利康&『NO NUKES voice』編集委員会有志の「ふたたび、さらば反原連! 反原連の『活動休止』について」と富岡幸一郎・板坂剛の対談「三島死後五〇年、核と大衆の今」がならび、ややきな臭い誌面になっている。くわえて、わたしの「追悼、中曽根康弘」、三上治の「政局もの」という具合に、反原発運動誌にしては暴露ものっぽい雰囲気だ。

運動誌の制約は、日時や場所が多少ちがっても、記事のテンションや論調がまったく同じになってしまうところにある。いまも出ている新左翼の機関紙を読めば一目瞭然だが、20年前の、いや30年も40年前の紙面とほとんど違いがない、意地のような「一貫性」がそこにある。これが運動誌の宿命であり、持続する運動の強さに担保されたものだ。

そのいっぽうでマンネリ化が避けられず、飽きられやすい誌面ともいえる。その意味では『NO NUKES voice』も、編集委員会の企画にかける苦労はひとしおではないだろう。

◆記事のおもしろさとは?

暴露雑誌も運動誌も、けっきょくはファクト(事実)の新鮮さ。あるいは解説のおもしろさ、言いかえれば文章のおもしろさだ。

たとえば新聞記事は事件の「事実」を挙げて、その「原因」「理由」を解説する。わかりやすさがその身上ということになる。したがって、事実ではない憶測や主張は極力ひかえられ、正確さが問われるのだ。新聞記事は、だから総じて面白くない。日々の情報をもとめる読者に向けて、見出しは公平性、解説はニュートラルなもの、一般的な社会常識に裏付けられたものが必要とされるのだ。

これに対して、週刊誌は見出しで誘う。新聞やネットニュースの速報性には敵わないが、事件を深堀することで読者の興味をあおる。そして文章においても、新聞記事とはぎゃくの方法を採ることになる。事実ではなく、憶測から入るのだ。事実ではなく、疑惑から入るのだ。文章構成をちょうど逆にしてしまえば、新聞記事と雑誌記事は似たようなものになる。

じっさいに、わたしが実話誌時代に先輩から教えられたことを紹介しておこう。ある事実をもとに、それが総理大臣の親しい人物の女性スキャンダルだったら、見出しは「驚愕の事実! 総理官邸で乱交パーティーか?」ということになる。女性スキャンダルにまみれた人物と総理の関係を書きたて、いかに総理の周辺にスキャンダラスな雰囲気があり、あたかも総理官邸でそのスキャンダルが起きたかのごとく、そしてそれが乱交パーティーではないかという噂をあおる。その噂は「情報筋」のものとされ、最後に事実(他誌の先行記事=多くの場合週刊誌)がそれを裏付ける。

わずかな煙で、あたかも大火災が起きたかのように書き立てるのだ。これをやったら新聞記者はクビになるが、実話誌の編集者(実話誌に記者などいません)は、その見出しの卓抜さをほめられる。もちろん嘘を書いているわけではない。

では、運動誌でそんなことをやってもいいのか、ということになる。ダメです。はったりの実話誌風の見出しは立てられませんし、噂だけで記事をつくるのは読者への裏切りになることでしょう。

だからといって、おもしろくないレポートを淡々と書いていれば良い、というわけでもない。とりわけ市民活動家の場合は、書くことに慣れてしまっているから、ぎゃくに文章を工夫しない癖がついている。できれば、わたしの実話誌崩れの悪文や板坂剛の破天荒な文章から、よいところだけ真似てほしいと思うこのごろだ。

それほど難しいことではない。たとえば「ところで」「じつは」「信じられないことだが」「あにはからんや」という反転導入で、読者を思いがけないところに連れてゆく。いつも読んでいる週刊誌のアンカーの手法を真似ればよいのだ。

◆反原連による大衆運動の放棄

記事の批評に入ろう。

松岡利康&『NO NUKES voice』編集委員会有志の反原連への批判、とくにその中途半端な活動停止宣言への批判は、いつもながら凄まじい。ひとつひとつが正論で、たとえばカネがなくなったから活動をやめるという彼らは、福島の人々の被災者をやめられない現実をどう考えるのか。あるいはなおざりな会計報告、警備警察との癒着という、市民運動にはあるまじき実態を、あますところなく暴露する。

これらのことは首都圏の運動世界では公然たる事実になっているが、全国の心ある反原発運動に取り組む人々に発信されるのは、非常にいいことであろう。少なくとも運動への批判、反批判は言論をつうじて行なわれるべきものであって、絶縁や義絶をもって関係を絶つことは、運動(対話)の放棄にほかならない。

松岡利康&『NO NUKES voice』編集委員会有志「ふたたび、さらば反原連! 反原連の『活動休止』について」(『NO NUKES voice』26号)

◆デマやガセこそが、仮説として研究を推進する

富岡浩一郎と板坂剛の対談「三島死後五十年、核と大衆の今」にある、25年ぶりの対談というのは、文中にあるとおり鈴木邦男をまじえたイベントいらいという意味である。

富岡幸一郎×板坂剛《対談》「三島死後五〇年、核と大衆の今」(『NO NUKES voice』26号)

 

三島由紀夫の割腹自殺を報じる1970年11月27日付けの夕刊フジ1面(板坂剛さん所蔵)

じつは当時、夏目書房から板坂剛が「極説・三島由紀夫」「真説・三島由紀夫」を上梓したことで、ロフトプラスワンでのイベントになったのである。板坂が日本刀を持参し、鈴木邦男の咽喉もとに突き付けて身動きさせないという、珍無類の鼎談になったものだ。

板坂は「噂の真相」誌でたびたび、三島由紀夫の記事を書いていたので、おもしろい! こいつはひとつ、本にしてみたら。というわけで、夏目社長とわたしが岡留安則さん(故人)に連絡先を訊き出し、初台にあったアルテフラメンコの事務所に板坂さん(このあたりは敬称で)を訪ねたのを憶えている。富岡さんはすでに関東学院大学の教授で、イベントそれ自体を引き締める役割だった。

今回の記事は、いまや鎌倉文学館の館長という栄えある役職にある富岡幸一郎が、三島研究においては独自の視角から、いわば暴露主義的な業績を積んできた板坂の投げかける警句に、やむをえず応じながらそれを諫めるという、妙味のあるものとなった。

たとえば、ノーベル賞作家川端康成の晩年には、いくつかの代筆説がある。在野の三島研究者・安藤武が唱えたものだが、「山の音」「古都」「千羽鶴」「眠れる美女」を代筆したのが、北条誠、澤野久雄、三島由紀夫だというのだ。当時、川端康成は睡眠薬中毒で、執筆どころではなかったと言われている。真相はどうなのだろうか?

注目すべきことに、いまや三島研究の権威ともいうべき富岡も「『古都』の最後はそうかもしれない」と、認めているのだ。ガセであれデマであれ、それが活字化されることで、本筋の研究者たちも目を皿にして「分析」したのであろう。それは真っ当な研究態度であり、作品研究とはそこまで踏み込むべきものである。あっぱれ!

わたしの「中曽根康弘・日本原子力政策の父の功罪」は、知識のある方ならご存じのことばかりだが、史料的に中曽根海軍主計少佐の従軍慰安所づくりは、ネトウヨの従軍慰安婦なかった論に対抗するネタとしてほしい。中曽根が原発計画を悔恨していたのも事実である。もって瞑目すべし。

富岡幸一郎さん(右)と板坂剛さん(左)(鎌倉文学館にて/撮影=大宮浩平)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

『NO NUKES voice』Vol.26 小出裕章さん×樋口英明さん×水戸喜世子さん《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

◎鹿砦社HPhttp://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000645

2012年6月、福島の原発事故後、初めて再稼働の是非を審議していた福井県おおい町議会で、議長(当時)が取材陣にコメントを求められた際、ふざけて「一言だけ……『あ』。」と答えたことがあった。議長はその後不謹慎だったと辞任したが、全国から注目される原発再稼働が、こんな人たちに決められているのかと驚いたことを覚えている。


◎[参考動画]一言だけ「あ」とコメントのおおい町議長辞任へ(ANN 2012年6月13日)

再稼働を決める原発立地の町議会、しかしそこには必死で止めようと闘う議員もいる。そのお一人、美浜町の松下照幸議員に、議会について、原発の立地する美浜町の今、そしてこれからについてお話を伺った。(聞き手・構成=尾崎美代子)

◆もんじゅの下請企業の元職員が議長を務める美浜町議会

美浜町議員の松下照幸さん

── 老朽原発の美浜3号機の再稼働にむけて美浜町議会はどう動いたのでしょうか?

松下 美浜町議会は議員が14名います。議長は元もんじゅの下請企業の職員、あと関電OBが一人、土木関係の仕事をしていた議員などがいます。みな行政とつながっています。2年前、僕が3期目の1年頃などは、僕が発言するとすごいヤジが飛びました。その後私の存在が認められたのか、ヤジは飛んでいません。

12月4日に大阪地裁判決がでましたが、12月3日に僕は一般質問で老朽原発である美浜3号機の再稼働には反対と訴えました。地域の人から「松下さん、よかったね。判決が出てからだと後追いと思われるが、出る前にやったので値打があるね」といわれました。各家庭にケーブルテレビが入っていて、議会の様子が放映されます。これが大きい。僕らも一般質問に力をいれて、何日もかけて原稿をつくります。

一般質問への返答は、敦賀に常駐する規制委員会の人と相談して書いているのではないかと推測していますよ。あとややこしい質問の返答は、関電と相談していると思いますね。12月議会は6人やって、僕と河本(猛)議員は1時間びっしり、時間オーバーするくらいやりました。議長もいつもは止めるんですが、今回は少しだけやらせてくれましたね。

雪降る中、再稼働反対を訴えて、美浜町役場前に集まった人びと(写真提供=橋田秀美さん)

◆行政とつながる業者・関係者たちが「再稼働推進」を請願する

── 再稼働推進の請願を出したのはどういう人たちですかね?

松下 原発利権や行政発注工事とつながる業者、観光協会や商工会、区長関係からの請願書を推進側は2本にまとめて出しました。反対側は10本ほどだしました。僕は中嶌哲演さん(小浜市の明通寺住職)、木原壯林さん(若狭の原発を考える会)、全国の議員連盟234人の方の請願、そして美浜3号機の件で規制委を訴えた名古屋地裁での裁判のものが1本。それらを紹介議員として請願ごとに説明しました。

共通点として老朽原発を動かすなということ、あとは関電のコンプライアンス、ガバナンス問題などです。規制委は原発を安全に動かす仕組みをつくるといいますが、名古屋地裁の裁判の内容をみると、かなり手抜きをしていることがわかります。基準地震動も過小評価しているし、圧力容器のデータの問題でも関電のいいなりで、基本となる原データの公開を頑なに拒んでいる。それを認めたうえで再稼働を容認しているわけで、今後大阪地裁の判決が名古屋の裁判にも影響していくと思います。規制委は安全を保証する組織ではなく、福島の事故前の原子力安全保安院とよく似た事態に陥っていると思います。

同上(写真提供=橋田秀美さん)

◆原発があることの不安と、なくなることへの不安

── 町全体は、不安だが再稼働するしかないという感じですか?

松下 いや、ぼくが町を回っている感じでは、原発があることの不安と、なくなることへの不安とが半々だと思うね。ただ、町民の皆さんも大阪地裁の判決には驚いたようですね。判決後、全員協議会で関電と規制委の説明会がありました。本当はそれ抜きに、9日の原子力発電特別委員会で採決の予定でしたが、前日に説明会があり、大阪地裁の被告・規制庁が、議員全員に判決の不当性を訴えていました。判決は本意ではないと。

僕らは、規制委が判断した内容には問題があるし、自分たちが決めたガイドを守らなかったから問題だと判決はいっているので、なぜそれをやらなかったのか?と質問しました。規制委員会は、平均値やバラつきについては検討しなかったが、その他の要因の部分はきちんと検討している。地裁判決はそれをみていないという答弁でした。

── しかし判決の効力は最終的な結論が出るまで発揮されませんね。

松下 彼らは裁判の正当性や是非が問題ではなく、再稼働を続けることが最大の関心ごとだと思う。そのために控訴する。だけど上訴しても、動かすことに関して一定の理由があれば差し止めも可能という判決が、伊方原発の最高裁判決で示されている。彼らは、上訴すれば何年かけても再稼働できるというのを狙っているが、こちら側にも別の方策があるということです。最高裁判決は覆すことができないから。こういう問題があるから、基準地震動の見直しやデータのばらつきの問題を見直さないと、大きな地震がきたときに破壊されてしまうと理論的にやっていく裁判になるといいですね。

12月9日美浜町議会原発特別委員会で、再稼働を求める請願2件が採択され、反対を求める請願10件が否決された。関電原子力事業本部へ向かうため、美浜駅に集まった人たち(写真提供=河本猛美浜町議)

◆「原発には先がない」と知っている地元企業関係者

── あと、使用済み燃料の置き場を県外へ作る問題も決まっておらず、そう簡単には再稼働はできないでしょうね。関電の原発マネー不正還流事件については町の人の反応は?

松下 美浜町は、「あれは高浜の問題で美浜は関係ない」と宣伝しています。美浜原発とつながる地域の大手土木会社が、森山元助役に月50万か払っていたそうです。町は「美浜は関係ないから調査もしない」と言うが、問題ないなら、調べて問題ないというのが筋だが、最初からやらないということは、やっぱり臭いものに蓋をしたいということの状況証拠になりますね。あと美浜には、森山さんのような、関電と直接交渉するようなボスはいなかった。

── 再稼働しないとなると、困る人は多いでしょうか?

松下 困る会社もあるが、ただ田舎は仕事がなくなってもクッションがあってね。僕ら団塊の世代も原発で働いていたが、仕事がなくなって会社が倒産しても、大きな問題にはならなかった。定検短縮などで単価がどんどん切り下げられてきた。ある末端の経営者が僕を探し出し「非常に厳しい」という内部告発をしてくれました。関電の秋山会長の頃ですが、そのあたりから単価が切り下げられ、地元企業もなかなか利益をだせない、そういう状況なのでみんな「原発は先がない」と知っていた。再稼働できなくて、相当ひどい反発があるかといえば、それはない。銀行も調査していますが、そんなに影響はないというようだったようです。マスコミは一部の「困った。困った」という業者は取り上げるが、それ以外は取り上げない。原発に入る業者は設備関係ですが、違う仕事を取りにいくなどしているようですね。

── 私は原発の再稼働には反対ですが、地元の人は困るだろうなと思っていましたが?

松下 もうみんな原発に先はないなと思っていますよ。昔と金のまわり方が違う、どんどん単価を下げている。定検短縮で入れる業者も絞られていく。昔はいい加減な会社も入れたが、被ばくしてなんぼの仕事なので、単純作業が多いからね。

── 私の住む釜ヶ崎から原発の仕事に行った人がいるはずですが、ほとんど聞かない。厳しい緘口令が敷かれているからですかね?

松下 僕らが町で原発の学習会をやったとき、原発の仕事をする知り合いが来てくれた。話のあと、彼が前に出て「自分たちはこういう風にして問題を隠した」と具体的な話をしてくれた。その後、彼は仕事を貰えなくなったからでしょうか、町から出ていきました。これは都会の人が考えているより、相当厳しいですよ。

── 今日はどうもありがとうございました。

美浜町議会は、12月9日、原子力発電所特別委員会で再稼働を求める区長会や推進団体らの請願2件を賛成6、反対1で採決、15日の本会議でも採決された。しかし町には「原発に先はない」と思う人たちが増えていることも事実。一部の人たちの利権のためだけに、末端の被ばく労働者に犠牲を強いて、危険な老朽原発を動かすことは許されない!!


◎[参考動画] 原発廃炉後の美浜町の未来を見つめて 松下照幸さんのお話を聞く会(CNIC 2013年12月13日)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

『NO NUKES voice』Vol.26《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか

『NO NUKES voice』Vol.26
紙の爆弾2021年1月号増刊
2020年12月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 2021年・大震災から10年
今こそ原点に還り〈原発なき社会〉の実現を!

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《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか
小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
樋口英明さん(元裁判官)
水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
[司会]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)

[インタビュー]なすびさん(被ばく労働を考えるネットワーク)
被ばく労働の実態を掘り起こす

[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
どの言葉を使うかから洗脳が始まってる件。「ALPS処理水」編

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
原発災害の実相を何も語り継がない  「伝承館」という空疎な空間

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈10〉 避難者の多様性を確認する(前編)

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈20〉五輪翼賛プロパガンダの正体と終焉

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
東電福島第一原発の汚染水「海洋放出」に反対する

[報告]松岡利康&『NO NUKES voice』編集委員会有志
ふたたび、さらば反原連! 反原連の「活動休止」について

[対談]富岡幸一郎さん(鎌倉文学館館長)×板坂剛さん(作家・舞踊家)
《対談》三島死後五〇年、核と大衆の今

[報告]平宮康広さん(元技術者)
僕が放射能汚染水の海洋投棄と原発の解体、
再処理工場の稼働と放射性廃棄物の地層処分に反対する理由

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述家)
中曽根康弘・日本原子力政策の父の功罪

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
やがてかなしき政権交代

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
誑かされる大地・北海道
人類の大地を「糞垂れ島」畜生道に変えてしまった“穢れ倭人”は地獄に堕ちろ!

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈10〉人類はこのまま存在し続ける意義があるか否か(上)

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
原発反対行動が復活! コロナ下でも全国で努力!
《玄海原発》豊島耕一さん(「さよなら原発!佐賀連絡会」代表)
《伊方原発》秦 左子さん(伊方から原発をなくす会)
《高浜・美浜》けしば誠一さん(杉並区議会議員、反原発自治体議員・市民連盟事務局次長)
《規制委・環境省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京電力》佐々木敏彦さん(環境ネット福寿草)
《東海第二》小張佐恵子さん(彫刻家、いばらき未来会議、福島応援プロジェクト茨城事務局長)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団共同代表)
《福島第一》片岡輝美さん(これ以上海を汚すな!市民会議)
《地層処分》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《関西電力》老朽原発うごかすな!実行委員会

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『NO NUKES voice』Vol.26発行にあたって

本年は年頭から新型コロナに振り回された一年でした。いまだにとどまるところを知らない勢いです。

こうした中で、3・11から10年近く経ち必死で生きる福島現地の方々、意に反し故郷を遠く離れて暮らしておられる方々らの存在が忘れられようとしています。

今こそ Look back in anger ! (怒りを込めて振り返れ!) Don’t forget Fukushima ! と叫びたい気持ちです。皆様方には、なんとしてもこの師走を乗り切り無事に年を越していただきたいと願っています。

さて、本誌今号では、お馴染みの小出裕章さん、水戸喜世子さんに加え、かの歴史的な大飯原発再稼働差止め判決を下された樋口英明元裁判官の座談会を実現させることができました。くだんの判決同様、歴史的な座談会といえるでしょう。

「たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の流出である」(2014年5月21日、大飯原発再稼働差止め判決より。裁判長は樋口英明さん。本誌創刊号に判決要旨を掲載)

歴史に残る名判決です。本誌はこの精神を継承いたします。

皆様方、良い新年をお迎えください。そして3・11 10周年を共に笑顔で迎えましょう!

2020年12月11日 『NO NUKES voice』編集委員会

12月11日発売開始!『NO NUKES voice』Vol.26 《総力特集》2021年・大震災から10年 今こそ原点に還り〈原発なき社会〉の実現を

『NO NUKES voice』Vol.26
紙の爆弾2021年1月号増刊
2020年12月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 2021年・大震災から10年
今こそ原点に還り〈原発なき社会〉の実現を!

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《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか
小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
樋口英明さん(元裁判官)
水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
[司会]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)

[インタビュー]なすびさん(被ばく労働を考えるネットワーク)
被ばく労働の実態を掘り起こす

[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
どの言葉を使うかから洗脳が始まってる件。「ALPS処理水」編

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
原発災害の実相を何も語り継がない  「伝承館」という空疎な空間

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈10〉 避難者の多様性を確認する(前編)

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈20〉五輪翼賛プロパガンダの正体と終焉

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
東電福島第一原発の汚染水「海洋放出」に反対する

[報告]松岡利康&『NO NUKES voice』編集委員会有志
ふたたび、さらば反原連! 反原連の「活動休止」について

[対談]富岡幸一郎さん(鎌倉文学館館長)×板坂剛さん(作家・舞踊家)
《対談》三島死後五〇年、核と大衆の今

[報告]平宮康広さん(元技術者)
僕が放射能汚染水の海洋投棄と原発の解体、
再処理工場の稼働と放射性廃棄物の地層処分に反対する理由

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述家)
中曽根康弘・日本原子力政策の父の功罪

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
やがてかなしき政権交代

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
誑かされる大地・北海道
人類の大地を「糞垂れ島」畜生道に変えてしまった“穢れ倭人”は地獄に堕ちろ!

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈10〉人類はこのまま存在し続ける意義があるか否か(上)

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
原発反対行動が復活! コロナ下でも全国で努力!
《玄海原発》豊島耕一さん(「さよなら原発!佐賀連絡会」代表)
《伊方原発》秦 左子さん(伊方から原発をなくす会)
《高浜・美浜》けしば誠一さん(杉並区議会議員、反原発自治体議員・市民連盟事務局次長)
《規制委・環境省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京電力》佐々木敏彦さん(環境ネット福寿草)
《東海第二》小張佐恵子さん(彫刻家、いばらき未来会議、福島応援プロジェクト茨城事務局長)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団共同代表)
《福島第一》片岡輝美さん(これ以上海を汚すな!市民会議)
《地層処分》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《関西電力》老朽原発うごかすな!実行委員会

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◎鹿砦社HP http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000645

12月4日、大阪地裁の森鍵一裁判長は、関西電力の大飯原発3、4号機(福井県おおい町)について「規制委の判断には不合理な点がある。審査すべき点をしておらず違法だ」として、国に設置許可の取り消しを命じる判決をくだした。

大阪地裁前の様子(写真提供/松尾和子さん)

この裁判は、2012年福井県など11府県の住民127人が、規制委が大飯原発3、4号機について、新規性基準に適合するとした判断に誤りがあるとして、設置許可の取り消すよう求めた行政訴訟である。

2011年東日本大震災にともなう福島第一原発事故の教訓から、原子力規制委員会は2013年、原発の過酷事故、地震、津波、テロなどへの対策により強い新規性基準をつくったが、これにもとづく設置変更許可を取り消す司法判断は初めてのことである。ただし、原発が即座に停止する仮処分の決定と違い、取り消しの効力は判決確定まで生じない。

◆争点化された原発の耐震性判断基準

裁判の主な争点は、関電が算定した原発の耐震性を判断する目安となる「基準地震動」(想定される地震の最大規模の揺れを数値化したもの)が妥当かどうか、これをもとに原発の設置を許可した規制委の判断が妥当かどうかであった。

英語のバナーを持つアイリーンさんと右端の背の高い弁護士が、私らの住民訴訟の武村二三夫弁護士。しかもこの画期的判決を下した森鍵裁判長は、住民訴訟の裁判長(写真提供/松尾和子さん)

関電は、規制委の審査ガイドによって明示された算定方法にそって、審査前700ガルとしていた基準地震動を856ガルに引き上げ、安全対策工事を行ってきた。その後の2017年5月、規制委は大飯原発3、4号機が新規制基準を満たすとして設置許可を出していた。

これに対して原告側は、関電や国が想定した揺れは、過去に国内外で発生した地震規模の平均値で決めていたものであり、平均値を上回る揺れが考慮されていないと主張。審査ガイドには、基準地震動を定めるにあたって、(過去の地震を参考にした)経験式から導かれる数値は「平均値としての地震規模を与えるものであることから、経験式が有するぱらつき(不確かさ)も考慮されている必要がある」と規定しているが、実際の審査ではこの「ぱらつき」は考慮されておらず、基準地震動は過小評価されて設定されていたとの主張である。

さらに大飯原発の敷地内の断層の長さなどを踏まえると、基準地震動は少なくとも1150ガルであるため、「合理性を欠く規制委の設置許可は取り消すべきだ」と主張していた。

大阪地裁前の様子(写真提供/松尾和子さん)

対して国側は「基準地震動は科学的な知見をふまえ、余裕をもって策定されている。数値は妥当で原発の安全性は担保されている」などと反論していた。

判決で森鍵裁判長は、関西電力は過去に起きた地震の平均値を用いて将来、起こりうる地震の規模を想定したが新しい規制基準は平均値を超える規模の地震が発生しうることを想定しなければならないとしており、「最大規模の地震の揺れである基準地震動を設定する際には数値を上乗せすべきかどうかを検討する必要があった」と指摘、規制委に対して「地震規模の数値を上乗せするは必要があるかどうか検討していない。看破しがたい過誤、欠落がある」と述べ、原発の設置許可を取り消した。

◆「国は自らつくったルールを無視したと、裁判所が指摘した意義は極めて大きい」(武村弁護士)

裁判後の記者会見で原告弁護団の武村二三夫弁護士は「国は自らつくったルールを無視したと、裁判所が指摘した意義は極めて大きい」と語った。画期的なこの判決は、今後全国の原発に適用されなければならないだろう。

判決後、原告団は声明で「原子力規制委員会はこの判決を踏まえて、すべての原発および原子力施設等について、地震規模(地震モーメント及びマグニチュード)の見直しを行うべきである」とし、とりわけ来年1月に再稼働が目論まれている老朽原発・美浜3号炉の耐震性について、「敷地のほぼ直下にあるC断層が現行でも993ガルをもたらすが、『ばらつき』の標準偏差を考慮しただけで1330ガルに跳ね上がる。老朽化に伴う諸問題を抱えながら、このような危険性が放置されてよいはずはない」と、再稼働を中止し、耐震性の見直しを行うべきであると訴えている。

地裁判決後の報告集会(写真提供/Takamichi Negishiさん)

◆明日12月9日福井県美浜町に到着するリレーデモ最終日行動にご参加を!

福井県に入り、のどかな若狭町を歩くリレーデモ隊(写真提供/橋田秀美さん)

11月23日、大阪市内を出発したリレーデモは、沿道で「老朽原発を動かすな」と訴え続けながら進み、明日9日福井県美浜町に到着する。午後13時美浜駅に集合し、市内をデモ行進したあと、美浜町役場前でアピール行動と町議会へ「老朽原発再稼働を認めるな」と申し入れを行う予定だ。老朽原発の再稼働を許さない闘いに注目していこう!

★リレーデモ最終日 12/9(水)の行動予定
13:00 美浜駅前集合 → 美浜町内デモ行進
→ 美浜町役場まえでアピール行動および美浜町長議会へ申入れ → 美浜町内デモ行進
→ 関西電力 原子力事業本部 包囲 抗議行動 16:00 現地解散 
のぼり、旗、パネル、鳴り物など持ってご参加ください

★リレーデモへご支援のお願い
郵便振替からのご入金
加入者名 : 老朽原発うごかすな!実行委員会
口座記号・番号:00990-4-334563
通信欄に「老朽原発うごかすな!行動へのカンパ」とお書きください

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

12月11日発売開始!『NO NUKES voice』Vol.26 《総力特集》2021年・大震災から10年 今こそ原点に還り〈原発なき社会〉の実現を

『NO NUKES voice』Vol.26
紙の爆弾2021年1月号増刊
2020年12月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 2021年・大震災から10年
今こそ原点に還り〈原発なき社会〉の実現を!

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《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか
小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
樋口英明さん(元裁判官)
水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
[司会]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)

[インタビュー]なすびさん(被ばく労働を考えるネットワーク)
被ばく労働の実態を掘り起こす

[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
どの言葉を使うかから洗脳が始まってる件。「ALPS処理水」編

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
原発災害の実相を何も語り継がない  「伝承館」という空疎な空間

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈10〉 避難者の多様性を確認する(前編)

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈20〉五輪翼賛プロパガンダの正体と終焉

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
東電福島第一原発の汚染水「海洋放出」に反対する

[報告]松岡利康&『NO NUKES voice』編集委員会有志
ふたたび、さらば反原連! 反原連の「活動休止」について

[対談]富岡幸一郎さん(鎌倉文学館館長)×板坂剛さん(作家・舞踊家)
《対談》三島死後五〇年、核と大衆の今

[報告]平宮康広さん(元技術者)
僕が放射能汚染水の海洋投棄と原発の解体、
再処理工場の稼働と放射性廃棄物の地層処分に反対する理由

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述家)
中曽根康弘・日本原子力政策の父の功罪

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
やがてかなしき政権交代

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
誑かされる大地・北海道
人類の大地を「糞垂れ島」畜生道に変えてしまった“穢れ倭人”は地獄に堕ちろ!

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈10〉人類はこのまま存在し続ける意義があるか否か(上)

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
原発反対行動が復活! コロナ下でも全国で努力!
《玄海原発》豊島耕一さん(「さよなら原発!佐賀連絡会」代表)
《伊方原発》秦 左子さん(伊方から原発をなくす会)
《高浜・美浜》けしば誠一さん(杉並区議会議員、反原発自治体議員・市民連盟事務局次長)
《規制委・環境省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京電力》佐々木敏彦さん(環境ネット福寿草)
《東海第二》小張佐恵子さん(彫刻家、いばらき未来会議、福島応援プロジェクト茨城事務局長)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団共同代表)
《福島第一》片岡輝美さん(これ以上海を汚すな!市民会議)
《地層処分》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《関西電力》老朽原発うごかすな!実行委員会

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

関西電力は、運転開始から40年足った老朽原発3基について、来年1月美浜3号機、3月には高浜1号機の再稼働を目論み、準備を進めている。

福島県浪江町から兵庫に移住した菅野みずえさん(写真提供=EijiEtohさん)

3基については、すでに原子力規制委委員会の安全審査で最長で20年の延長運転が認められており、焦点は地元同意に移っている。

高浜町では、11月12日町議会の臨時本会議で、高浜原発1、2号機の再稼働を求める請願を賛成多数で採択したが、「立地地域の振興や原発の安全管理の徹底を求める」意見書を議決し、経産省などに提出、25日議会全員協議会で高浜原発1、2号機の再稼働について同意すると表明、野瀬豊町長に伝えられた。

一方、美浜町は、12月9日に原子力安全特別委員会を開き、11月30日開会の議会本会議の最終日(12月15日)に、美浜3号機の再稼動への同意を強行しようとしている。

この12月9日に向け、大阪市内から美浜町まで200キロのリレーデモを行い、沿道の住民たちに「危険な老朽原発動かすな」と訴えるとともに、ルート途中の自治体に申し入れを行っていく予定である。

11月23日、大阪市内の関西電力本社ビル前でリレーデモの出発式を兼ねた集会が開催され、約550人が参集、市民団体、労働組合、全国各地で闘う仲間、そして福島県浪江町から兵庫県に避難する菅野みずえさんからアピールがなされた。

その中から今回は、福井県地元からかけつけたお二人の発言をご紹介したい。

◆中嶌哲演さん(「原発に反対する福井県民会議」)

中嶌哲演さん(筆者撮影)

私は若狭と関西周辺の肩を結ぶ立場から、あまり皆さんが触れられていない2つの問題点に絞ってお話します。

1つは実質的に3基の老朽炉を止めていく上での問題です。昨年私は9月末から12日間断食抗議をしましたが、2つの目的をもっていました。1つは高浜1、2号機に2160億円、美浜3号機に1650円の巨費を投じて安全対策工事を強行していました。私はその工事の中止を求めました。当時工事の進捗率19%ないし20%に過ぎませんでした。一方、廃炉費用は高浜で450億円、美浜で490億円見込んでいますから、工事を中止して残った予算を廃炉の準備費用にまわすべきと訴えました。残念ながら工事は、コロナの影響のある今年のような様子を見せていませんでした。

コロナを通じて皆さんどうでしたか? 国民の命を守ること、そのために経済活動を控えなくてはいけなくなった、しかしそれによって生じる損失は、国の責任で補填するとなった。あれやこれやではなく、両方をむすびつけてやっていく、そういうことが国民の意識に浸透してきた。原発政策も同じではないですか? 原発を止めることによって、まず国民の命と安全を守る。しかしそれによって原子力ムラや地元の経済界が「経済が止めるのでは」と不安を抱える。しかしそうではないということを、昨年の断食の2つめの目的に掲げました。それは国会に上程されている「原発セロ法案」です。それを実質的に審議していけば、老朽炉を廃炉にすることなど実質的に審議していくなかで、様々な問題も十分解決できるという確信があったので、私は断食をやりました。当時すでに2000~3000人の人が高浜、美浜で働いていました。私が抗議の断食をやることが、彼らの生活の糧を奪うのではないかというジレンマを持ったわけですが、「ゼロ法案」の問題があるから私は確信をもって断食をしました。

2つめは、どんなに無茶なことでも横車を押して原子力ムラと行政はゴリ押しをしていました。地元高浜、美浜など立地自治体の議会の承認を得れば大丈夫ということでしゃにむになってやってきた。しかしその土俵の外におかれてきたのが私たち小浜市民や若狭町の自治体、嶺北の自治体です。知事には発言権はありますが。よもや関西の皆さんは全く土俵の外、単なる観客にすぎない。そういう土俵の外に除外された私たちが団結して迫っていく必要があると考えています。最後に私がずっと詠み続けてきた坂村真民の「あとから来る者のために」という詩を読み上げます。

あとからくる者のために
苦労をするのだ
我慢をするのだ
田を耕し
種を用意しておくのだ

あとからくる者のために
しんみんよ お前は詩を書いておくのだ
あとからくる者のために
山を川を海を きれいにしておくのだ

ああ あとからくる者のために
みなそれぞれの力を傾けるのだ
あとからあとから続いてくる
あの可愛い者たちのために
未来を受け継ぐ者たちのために
みな夫々自分で出来る何かをしてゆくのだ

山本雅彦さん(筆者撮影)

◆山本雅彦さん(「原発住民運動福井・嶺南センター/事務局長」)

報道されているように、美浜原発で関電の社員らがコロナに感染するという事態になっています。もし稼働している最中に運転員や機械などの保守にあたっている労働者の方がかかったら、原発は本当に安全に運転できるのか?もうこんな危険な綱渡りの運転はやめるべきではないか、そのことをまずお伝えしたいと思います

40年超えの老朽原発の危険性は皆さんが指摘するとおりです。しかし地元美浜・高浜町議会では、請願を採択するという形で同意しようとしています。まだ同意はしていません。これからもまだ止めることができます。

これまでの経過では、高浜町の商工会議所、自民党高浜支部が推進の請願をだし、これを採択するという形で再稼働を進めようとしています。高浜町議会に原子力政策委員会があり、ここで委員長を務めている元高浜町職員の松岡さんという方がいます。

山崎さんの話の途中「この関電です」のあとに。関電本社ビルに向かって「老朽原発うごかすな!」と訴える参加者(写真提供=EijiEtohさん)

彼は「私は再稼働の是非の議論はしたくない。高浜町に住む多くの人たちがどう思っているか、大方の人は賛成はしていない。また、私は継続審議をしたいといったが、関電の元社員である井上(井上順也)や小幡(小幡憲仁)議員らが『どうしても再稼働する。そしてその意見書をもって国にいき、経済的支援をしてもらうということで進められているのだから、絶対再稼働しないと困る』という圧力をかけてきたそうです。

松岡委員長は『それだったらあなたたちが意見書をつくればいい。私はやらない』と返事をしたそうです。その結果、高浜町の職員や関電の元社員の議員など少数の人たちによって意見書がまとめられ、再稼働の採択がなされたのです。こうしたことが、この間皆さんが抗議や要請行動をしてくださるなかでわかったことです。

皆さん、高浜町や美浜町の町民でさえ再稼働を認めていない、危険な原発は運転しないでと願っている。これに対して再稼働をしゃにむに進めようとしているのが、目の前の関西電力です!!

意見書を見ますと、高浜町の皆さんも本当に悩んでいるのがわかります。最後に再稼働をするにあたって、高浜町民が国民から非難されることがないようにということが書いてある。

再稼働に多くの国民が反対している。高浜町民の多くも止めて欲しいと願っている。賛成すれば国民に批判されるとわかっている。そういう再稼働は本当に止めにしなければいけません!皆さん、ともに頑張りましょう!

★リレーデモ最終日 12/9(水)の行動予定★
13:00 美浜駅前集合 → 美浜町内デモ行進
→ 美浜町役場まえでアピール行動および美浜町長議会へ申入れ → 美浜町内デモ行進
→ 関西電力 原子力事業本部 包囲 抗議行動 16:00 現地解散 
のぼり、旗、パネル、鳴り物など持ってご参加ください

★リレーデモへご支援のお願い★
郵便振替からのご入金
加入者名 : 老朽原発うごかすな!実行委員会
口座記号・番号:00990-4-334563
通信欄に「老朽原発うごかすな!行動へのカンパ」とお書きください

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

NO NUKES voice Vol.25

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

6期24年にわたって〝君臨〟した菅野典雄(かんの のりお)氏が勇退。元役場職員の杉岡誠(すぎおか まこと)氏が新たな村長に就任した飯舘村。原発事故発災から9年半が経ち、放射能汚染や被曝リスクに関する報道は激減。それを表だって口にする人も減った。その流れに抗うように空間線量率や土壌の放射能濃度を測り続けているのが伊藤延由(いとう のぶよし)さんだ。周囲から〝測定の鬼〟と一目置かれる伊藤さんは40代の杉岡村長に何を期待するのか。

「汚染や被曝リスクについて、役場はきちんと情報公開するべきです。われわれ、じじばばと比べると子どもは放射線に対する感受性が20倍も30倍も高いんですよ。そういう話を村民にきちんとして、その上で一人一人が判断するべきなんです。リスクについてきちんと説明して、そこから先は自己判断で良いと思います。だって、あそこで採ったイノハナは1万Bq/kg、サクラシメジは2万3000Bq/kgですよ。もちろん、キノコの種類によっても地形によっても土の種類によっても放射能濃度は異なりますが、それが原発事故から9年7カ月経った飯舘村の実情です」

杉岡村長が初登庁した10月27日朝、伊藤さんは村役場の駐車場で周囲を見渡しながらそう話した。

「新しい村長は放射能汚染と被曝リスクについてきちんと情報発信して欲しい」と期待する伊藤延由さん

震災・原発事故の発生以来、一貫して村政を担って来た菅野典雄氏はこれまで、「放射線に対する考え方は百人百様」と口では言いながら、被曝リスクに正面から向き合って来なかった。

一方で、「全村避難をさせられた我々は被害者。しかし、(加害者側にも)出来ない事はいっぱいある。加害者と被害者という立場だけでは物事は進まない」と公言。原発事故の加害当事者である国や東電についても「道路整備にお金を充てようとするなど、一生懸命に国は考えてくれた」、「東京電力さんは今日も駐車場の整理をしてくれている」(2017年1月の「いいたて村民ふれあい集会」での発言)と口にして来た。

月刊誌『自然と人間』(自然と人間社)2017年5月号に掲載されたインタビューでも、村の復興について「まず住民の被害者意識をどれだけ取り払うことができるか」、「『箱物行政』と批判したければいくらでも言ってください」、「国からも東電からもかなりのことをやってもらっています」と語っている。その時点での村の汚染や被曝リスクについては盛り込まれていなかった。

だからこそ、伊藤さんは「まずは情報公開だ」と語る。

「『放射能に対する考え方は100人いれば100通りある』は前村長の菅野典雄さんの言いぐさ。『伊藤さん、あんたが言っている事が全部正しいってわけじゃ無いんだからね』とも言われたよ。でも、だったら菅野さんが言うのも正しくないよね。要は、この放射能環境をどう見るかという事です。私自身が村で暮らしていて言うのも何だけど、本来、飯舘村には人が住んじゃいけないでしょ。『帰還困難区域の長泥を除染しないで避難指示解除する』という事だけがクローズアップされているけれど、じゃあ、他の19行政区は良いのかとなってしまう」

汚染や被曝リスクに向き合ってこなかった前村長の菅野典雄氏

飯舘村は2017年3月31日、全20行政区のうち長泥行政区を除く19行政区の避難指示が解除された。では「避難指示解除」イコール「被曝リスクゼロ」なのか。伊藤さんは疑問視している。

「長泥を除染しないで解除する、というのは逆の意味で全然問題無いんです。実は他の19行政区の土壌を測ると、汚染レベルは長泥と同じなんですよ。特に山の環境はね。だから飯舘村そのものが汚染されているんです。山を歩いてみてください。学校裏で採れたサクラシメジやイノハナの土を測ると9万Bq/kgですよ。19行政区の平均は4万2000Bq/kg。長泥はさすがに若干高くて4万7000Bq/kg。それくらいの差しか無いんですよ。だから飯舘村の放射能環境って本来、ものすごく悪いんです。今度の村長は『放射線防護の三原則についてはしっかり学んできました』と言っているので、きちんとやってくれると思って期待しています」

もちろん、前村長の言う通り、放射線による被曝リスクについての考え方は人それぞれ。そして、情報の出し方についても様々な考え方がある。ある村民は「俺はあんまりきっちりやってもらいたくねえ。あんまり情報公開されちゃうと、復興が止まっちまうもん。全然進まなくなるもん。悪い情報って本当に伝わりやすいからなあ」と苦笑した。それでも、伊藤さんは「村民の自己判断のためにも現状をきちんと発信するべきだ」と語る。

「『変な情報発信する事によって風評被害を招く』は内堀雅雄知事の決め台詞。『風評被害、風評被害』ってね。でも、やっぱり事実は事実としてきちんと情報公開をするというのが大前提ですよ。その上で『自生の山菜やキノコは食べないでください』、『食べてはいけない理由はこうですよ』と。杉岡村長には、そういう事を役場職員とか村議会議員に教育して欲しいんだ。これまでの村長は『私は放射能については勉強してませんから』と言っちゃう人だったから。だったら勉強しろよって思う。村民は放射能の被害を感じていないんですよ。色も形も匂いも無いから。法に基づいた情報公開をきちんとやって、どう判断するかという知識も住民に与えるというのが原発事故被災自治体の果たすべき責任だと思います。そこから先は自己判断。人それぞれで良いと思う。それすらやらないで、悪い事ばかり言われるから情報を出さないのは違うと思う」

村政を担う以上、被曝リスクばかり重視するわけにはいかない事も理解している。「もし杉岡村長が僕のような考えで進めたら村そのものが成り立たない」と伊藤さん。「ただ、看板などで被曝リスクについて注意喚起をする事は出来るでしょう。杉岡村長の言う『情報公開』の中にはそういうものも含まれると思いますよ」

杉岡村長は役場に初登庁した10月27日、筆者に次のように答えた。

「私は(日本大学理工学部物理学科で)物理学をやってきた人間なので、そこにもの(放射性物質)があるという事をきちんと認識をして、放射線防護の三原則(被曝時間の短縮、遮へい、線源との距離)がありますが、それを皆がきちんと知識として持ちながら、作物への吸収抑制なども知らないでやるのではなくて知った上で自分たちの努力を積み重ねていく事が必要だと考えています。もちろん情報はきちんと出します。もちろん情報公開します。情報を一方的に出すだけだと『どうすれば良いんだ』という話になりますので、情報はしっかり出すが、その情報の捉え方や対策方法なども一緒に発信していきたい」

今日も村の現実を測り続ける伊藤さん。新しい村長は放射能汚染の現実ときちんと向き合うのか。厳しい眼差しでみつめている。

新たに村長に就任した杉岡誠氏は、汚染や被曝リスクに関する情報発信を約束した

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

最新刊!『紙の爆弾』12月号!

NO NUKES voice Vol.25

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