去る6月6日、福島県「県民健康調査」検討委員会は、福島第1原発事故当時18歳以下(胎児を含む)だった県民を対象に実施している2巡目(本格調査)の甲状腺検査で、今年3月末時点で30人が甲状腺がんと確定診断されたと発表した。

右から代表世話人の千葉親子氏(元・会津坂下町議会議員)、河合弘之氏(弁護士)、世話人の牛山元美氏(医師)

2巡目の検査は、約38万人の対象者のうち約27万人で完了。「悪性ないし悪性の疑い」と診断されたのは57人(昨年12月末時点は51人)で、このうち30人が手術により甲状腺がんの確定診断を受けた。

この数字を概観すれば、これより前の平成23年度~25年度前後まで実施されてきた1巡目(先行調査)と合わせると131人の甲状腺がんの確定診断者が出たことになる。

さらにいえば、確定診断とは手術実施者のことで、手術をしていない段階で、甲状腺にあるのう胞が「悪性ないし悪性の疑い」と検出された人数は1巡目、2巡目を合わせ173人と発表されている。福島県検討委は、確定診断が昨年12月末時点の16人から30人に増加した原因を不明としているが、「甲状腺がん発生は原発事故の影響とは考えにくい」との見方を変えていない。以下、本稿は「3・11甲状腺がん家族の会設立会見」詳報の最終となる。

◆質問9=原発事故で被ばくした方に対しても、国は被ばく手帳を作っていただければと思います

【Q9】 広島の原爆被爆者です。6歳の時に被爆して、急性放射能障害、原爆ぶらぶら病、目の障害、甲状腺機能障害による甲状腺全摘出手術、肺がん、と6歳の時から余命宣告を突き付けられて70年間、生きてきました。今、福島の子供たちは、そういう状態で、これからの人生を歩んでいかなくてはならないと思うと本当につらいです。

そんな私が、こうして元気で生き延びてこれたのは、2つ要件があります。一つは、被爆者同士の支え合いです。日本被団協を中心とする各地の被爆者の会に行き、支え合ってきました。もう一つは、国の公的医療保障です。原爆被害者擁護法に基づいて、被曝者健康手帳が交付され私たちは医療を無料で受けることができます。この二つによって、厳しい人生をなんとか元気で生きていくことができたと思います。

今回の家族会設立は、皆さまのこれからの支えになっていくと思います。福島では、子供だけでなく、大人の方の甲状腺がんも発生していると聞きます。私の友人の福島在住の方も、甲状腺がんで摘出手術を受けていらっしゃいます。大きな広がりとなっていくためには、子供さんだけでなく大人の方、そのご家族の方々にも、同じように広まっていっていただきたいと思います。

そして、原発事故で被ばくした方に対しても、国は被ばく手帳を作っていただければと思います。そういった観点で、福島では、世代を超えた人たちとのつながりも持っていくことをお考えでしょうか。

【A】(千葉氏) そういうお話は、会の中でもありました。この会は子供だけでなく、大人も対象にしていく体制を作りたいと思っております。また、原発事故の放射線の影響を考えるならば、福島県だけの問題ではないという話にもなりました。今後、もっと充実した会の方針・中身を作っていきたいと思っております。

【A】(河合氏) この会の設立の意味は、そこにありまして、政策提言をきちんとしていきたい。個人で孤立していては、Aさん、Bさんという形では、ダメなのです。患者さんが結束して申し入れや発言をしたりすると、それが社会的勢力の発言として見なされます。そこで、初めて注視され尊重されるようになります。そのための団体、患者の会ということになります。もちろん、その基礎として情報交換し、慰め合い、団結する必要があり、それが第一目的ですが、そのあとに来るものが、きちんと社会的勢力を作り、申し入れをし、自分たちの要求を政党に反映させていくこと、これがこの3・11甲状腺がん家族の会の目的ということになります。

◆質問10=将来的には訴訟を考えていますか?

【Q10】 将来的には訴訟を考えていますか。

【A】(河合氏) 今の所は、考えていませんが、申し入れをして政策要求をして、きちんと通らない場合には、それを敢えて排除することはないと思いますが、今の所は考えていません。

◆質問11=医学論争、疫学論争で裁判をやっていくことが必要ではないか?

【Q11】 因果関係を追及されても、政府は交渉では絶対認めないと思うので、医学論争、疫学論争で裁判をやっていくことが必要ではないか。それは視野に入れていますか。

【A】(河合氏) 視野には入れていますが、きちんとした社会的勢力を作って、きちんと政府に政策を要求することで、その正当な目的が認められないとは限らないと思っています。先ほど、ご家族が言うように、まずは、因果関係を認めてもらうということが大事だと思います。

因果関係を認めない時、それは、損害賠償ということは大よそない、治療だけはしてやるよ、という、その治療も、恩恵的な、家父長的な治療になると思います。だから、きちんと資料を出して、まずは因果関係を認めなさい、国と東電に責任があることを前提に対策を取って下さいとする。何も、モノを下さい、とかお情けを下さいと言うのではありません。きちんとした正当な要求を通すには、被害者がきちんと団結しないといけない。そのための会になります。

◆質問12=癌宣告の時に、医師の方からセカンド・オピニオンのお話がきちんとありましたか?

【Q12】 癌宣告の時に、医師の方からセカンド・オピニオンのお話がきちんとありましたか。患者には、色々な患者会がありますが、その様な紹介を受けることができましたか。癌の状態について、最初に説明はどのくらい時間として受けることができましたか。

【A】(白い服の方) セカンドオピニオンについては、はっきりなかったという記憶があります。患者会の紹介については、甲状腺がんなど全部を含めた患者会の説明はありました。診察時間は、通常は10分くらいであったと思います。

【A】(黒い服の方) セカンドオピニオンについての説明は、私にはありませんでした。患者会についても連絡はありません。診療時間は同じように10分くらいだったと思います。

◆質問13=福島県立医大に対する不審感?

【Q13】 甲状腺疾患を含めた患者の会の紹介というのは、福島県立医大からだと思います。案内をもらって、参加しようと思わなかったのは、県立医大に対する不審からですか。

【A】(白い服の方) 案内を頂き、妻が話を最初聞きにいきました。患者会というよりは、先生の説明会というような感じで、甲状腺がんの子供の親は、そこでは見受けられなかったと聞きました。

【A】(黒い服の方) 通知がくれば参加したかというと、参加したかもしれないが、そういった患者会があるというのも、家族会ができて初めて知った話です。非常にびっくりしました。

◆質問14=再発や手術後の生活の困難さ

【Q14】 再発や手術後の生活の困難について教えてください。

【A】(牛山氏) 今回の県立医大の手術ですが、片側の甲状腺の手術しかしていません。片方を残すと、うまくいけば薬を飲まずに生活していくことができます。しかし、甲状腺がんが再発している方が既におり、疑いの方もいます。ベラルーシでも、結局、もう一つも手術しなくてはいけないという話を聞いています。手術後は、モノが飲み込みにくくなったり、声がかれることがあったりということがあります。後遺症について、今回は直接は聞いていませんが、事例としてはそういうことになります。

【A】(白い服の方) 薬は毎日飲んでいます。やはり、甲状腺を半分とりまして、何カ所かのリンパ節も取りまして、後遺症的にいうと、モノが飲み込みにくいとか、声がかすれて出ないということかがあります。

◆質問15=何が必要で、何が一番足りていないのか?

【Q15】 何が必要で、何が一番足りていないでしょうか。

【A】(白い服の方) 精神的なケアを充実させていただきたいです。

【A】(黒い服の方) 今後望むのは、メンタルのケアをやっていただきたいと思っています。

◆質問16=がん宣告を受けたときのお気持ちは?

【Q16】 がん宣告を受けたときのお気持ちは?

【A】(白い服の方) 10代で癌と言われ、妻も子供もショックでした。

【A】(黒い服の方) 本人は顔面蒼白となり、立っていられないほどのショックで、数日間はふさぎこんでいました。

◆質問17=甲状腺がん家族の会の活動方針は?

【Q17】 今後は、交流会や相談会ということになると思うが、会の活動方針について。

【A】(牛山氏) 設立するということで、今回ワンステップになったわけですが、具体的にはこれからです。[了]


◎[動画]20160312甲状腺がん患者家族会設立記者会見(UPLAN三輪祐児さん公開)

▼白田夏彦[取材・構成]
学生時代に山谷、沖縄などの市民運動を訪問。その後、9・11同時多発テロ事件をきっかけにパレスチナ問題の取材を開始。第二次インティファーダ以降、当地で起こった非暴力直接行動を取材。以降、反戦や脱原発などの市民運動を中心に取材。現在、業界紙記者。

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2016年3月12日、3・11甲状腺がん家族の会が設立された。設立時の正会員は5家族7人、代表世話人には河合弘之さん(弁護士)と千葉親子さん(元会津坂下町議)が就いた。これまでほとんどタブー視されてきた福島での被曝被害の核心を伝える貴重な設立会見を7回に分けて詳報する。第6回は前回に続き福島におられる会員ご家族のお二人と東京の会見会場をスカイプで繋いでの質疑応答。

◆質問4=福島県では声を上げづらい環境にあるといいますが……

【Q4】 福島県では、放射線など、声を上げづらい環境にあるといいますが、そういう中で、家族会がどういう存在になっていくことを期待したいですか?

【A】(白い服の方) 今まで誰にも話すことができなかったわけです。この会ができて、同じ境遇を持つ方とお話ができて、自分たちの様子や相手の様子だとかを話すことができて、今まで何の情報も無かったものですからこれでお互い情報交換をし、少しでも話すことだけでも気持ちが楽になったということが私の中で非常に大きいと思います。

【A】(黒い服の方) 数えるほどしか会は持てていませんが、それぞれ子供たちの状況がこうであったと、情報交換ができるだけでも、家族会が支えになってくれているなと思っております。

◆質問5=どういう形で孤立しがちになってしまうのか?

【Q5】 家族の方にお聞きしたいのですが、孤立している状況があると思うが、どういう形で孤立しがちになっているのか。その思いをもう一度お聞かせ願いたいです。

【A】(白い服の方) 同じ様なことになるかもしれませんが、自分の子供が癌であるということを誰にも言うことが出来ませんでした。子供自身も友達などに言うことができず、学校には伝えましたが、公に相談することができないため、家族だけで悩むということが色々ありました。誰に相談していいかということも正直分からなかった。病院に行った時に医師に話すだけで、他では甲状腺がんを周りの人たちに話すことができなかった状態です。

【A】(黒い服の方) 孤立というか、自分の子供が癌と診断され、赤の他人に相談できるかといえば、多分、そのように出来る人は、なかなかいないと思います。癌を治すのはどうしたらいいのか。『癌=死』というのが強かったものですから、怖かったというのが正直あります。

◆質問6=政府、県、東京電力に訴えたいこと

【Q6】 政府、県、東京電力に訴えたいことがありましたら、お聞かせ下さい。

【A】(白い服の方) 放射線の影響とは考えにくいとという見解がされているが、もし放射線の影響ではないならば、他の原因とは一体何なのか、みんなに、166人の方々に、原因が何なのかを言ってもらいたい。

【A】(黒い服の方) 因果関係が無いと言っているが、本当は、そこには何があるのかということを知りたいです。

◆質問7=東電に関して訴えたいこと

【Q7】 東電に関して訴えたいことはありますか。

【A】(白い服の方) 今のところ思い当たるまでにはないです。

【A】(黒い服の方) 今の段階では、東京電力さんが確たる原因だというところにはないので、その辺はコメントは控えさせて頂きたいと思います。

◆質問8=家族会を設立しなくてはならなくなった具体的な理由

【Q8】 先ほどから、ご家族の孤立が言われていますが、もう少し具体的に、たとえば本来であれば病院だとか行政が、相談、ケアするということがあると思います。今回、家族会を設立しなくてはならなくなった理由を具体的にもう少し教えていただきたい。

【A】(白い服の方) 病院に行った時しか先生に話すことができない。その病院も、非常に混んでおりまして実際、診察時間が5、6分くらいじゃないかと思います。その中で色々聞くということが、ちょっとできない状況でして、あと行政の方にも、相談というのはしていないが、手術後の体調が悪かったりとか、そういうことがありまして、健康増進に関する課がありまして、そこには一度、相談したことがあります。

【A】(黒い服の方) 病院の方から、限られた時間で、忙しくなかなか聞けなかったということもありますが、なんというか、その当時、息子は病気について、病院、行政などにも相談はしないでほしいということを言っていたので、敢えて、相談ということはしていませんでした。(つづく)


◎[動画]20160312甲状腺がん患者家族会設立記者会見(UPLAN三輪祐児さん公開)

▼白田夏彦[取材・構成]
学生時代に山谷、沖縄などの市民運動を訪問。その後、9・11同時多発テロ事件をきっかけにパレスチナ問題の取材を開始。第二次インティファーダ以降、当地で起こった非暴力直接行動を取材。以降、反戦や脱原発などの市民運動を中心に取材。現在、業界紙記者。

2016年3月12日、3・11甲状腺がん家族の会が設立された。設立時の正会員は5家族7人、代表世話人には河合弘之さん(弁護士)と千葉親子さん(元会津坂下町議)が就いた。これまでほとんどタブー視されてきた福島での被曝被害の核心を伝える貴重な設立会見を7回に分けて詳報する。第5回は福島におられる会員ご家族のお二人と東京の会見会場をスカイプで繋いでの質疑応答。

◆震災当時10代だった女子の父親(白い服の方)による自己紹介

私は、中通り地方に住む、震災当時10代の女子を子供に持つ父親です。今まで、子供の病気のことは、周りの誰にも言えず病院の先生と家族で話すだけでした。しかし、この間に甲状腺がん家族の会ができまして、同じ病気の子供を持つ親と子供の手術後の体調やその他の悩み事など、今まで誰にも話すことができなかったことを話すことができました。このことは、本当に良かったと思っております。

また、同じ境遇の人達と話しあうことで気持ちが大変楽になりました。病気の治療のこと、子供の将来のことを周りにいる人達に話せることが、私たち家族にとって大変力になり、また、様々なことを相談できる世話人の方たちも大変力強いと思っております。

そして、定期的に会の人たちが集まり、情報、意見を交わすことなどができれば良いと考えています。私たち家族たちと同じ立場にある方が多くいると思います。是非、この会の方へ勇気を持ってアクセスしていただければと思っております。以上です。
 
◆震災当時10代だった男子の父親(黒い服の方)による自己紹介

私は中通り地方に住む当時、10代であった男子の父親です。突然、息子が癌と言われまして、息子も私もショックが大きく大変つらい思いをしました。今回、こうした家族の会が設立できたということで、本当に気持ちの分かりあえる皆さんとお話しただけでも気持ちの救われる思いでいっぱいです。まだまだ、多くの方がたくさんのことを悩んでいらっしゃると思いますが、是非とも歯を食いしばりこの会に参加して頂ければと思います。

◆質問1=ウクライナでは子供の甲状腺がんと原発事故の因果関係を認めているが……

【Q1】 河合弁護士と牛山医師に質問します。政府が、原発事故と甲状腺がん被害の因果関係を否定しております。そうなると、こちらが立証しなくてはならないわけですが、チェルノブイリ事故を受けて、ウクライナでは事故由来とされる、がん患者1000人以上を治療、入院させている病院がある訳です。

そこの小児科部長に聞きましたが、福島原発直後、日本政府とそこの病院で30回以上行き来して情報交換をしているといいます。

ウクライナ政府はチェルノブイリから100キロ圏、つまりは当時、放射能プルームが飛んでいったとされる地域で発生した甲状腺がんの子供たちの因果関係を認め、病院に受け入れさせている。その小児科部長が言うには、明らかに(原発事故と)因果関係はあると言っていました。それを踏まえ、今回、家族会ではウクライナに調査団を出す考えはおありでしょうか。医師や弁護団とか。そこまでしないと白を切ると思いますよ。政府は。

【A】(河合氏) 急な質問で、答えにくいですが、財政基盤がそこまであるのかという問題もあります。チェルノブイリに調査団を派遣することが、社会的見解、政府見解を変えさせることに効果が出てくるかどうか、費用対効果を考えた上で対策を考えたいと思います。
 
【A】(牛山氏) 私自身は、2013年にベラルーシに派遣され、医学アカデミーで研修を受けさせていただきました。そこで、伺ったお話と日本で言われているベラルーシの実情とは微妙に違っていて、医師らにおいても、当時の資料と最近の資料でお話されることとは違ってきています。だから、非常に難しいと感じています。

しかし、そういう情報交換をしていかないと本当のことは分からない。チェルノブイリも30年経ちやっと分かってきていることがあるので、私たちもそこから学ばなくてはならない。お金が無くても、個人的にやっていかなくてはならないと思っているし、そういう所に行き、勉強したいという医者は他にもいます。

◆質問2=福島の医療現場で最も不審や不安などを感じた対応は?

【Q2】 福島の2人の保護者の方に質問したいのですが、お子さんが治療や手術を受ける時、医師、県立医大の方になるとは思いますが、その中で最も不審や不安などを感じた対応は何でしょうか。具体的な事があれば教えてください。こんなことが一番ショックだったということかあれば上げていただきたい。

【A】(白い服の方) 甲状腺がんが、放射線の影響とは考えにくいと言われました。それでは、逆に何が原因かを詳しく知りたいというのが本当の所です。(原発事故が原因とは)考えにくいとされる中、何度も検査しています。(原発事故が原因とは)考えにくいとされる中、なぜ何度も検査されるのかという思いもあります。原因がはっきりわからない中、再発、転移する可能性があるのか、無いのか、それが一番心配な所です。

【A】(黒い服の方) 最初に癌だと診断された時、息子の目の前で「あなたは癌ですよ」と言われた時は、ものすごくショックでした。もう少し、なんというか、10代思春期の人間に対し、あの言い方はちょっと辛かったのではないかと思いました。私たちも当然のことながら甲状腺がん関係の知識は何もございません。とにかく、わらにもすがる思いで先生の言うことを聞いて、治療すれば大丈夫なのかなと思っておりました。今後、治療が長く続く間、再発する可能性というのも未だ払しょくできない不安材料です。

◆質問3=「過剰診断ではないか?」と言われてしまうのような日本の状況について

【Q3】 国内では、過剰診断ではないか?という言われ方など、どこか患者の方々であるとか、被害者の存在が放り置かれてしまうようなことが出てきていると思います。そういった状況をどう思いますか?

【A】(牛山氏) 本当にその通りです。ご家族や患者さんがどのように感じているのかということを、この会の設立により、やっと聞くことができました。あまりにも、情報が出てこないのです。福島県立医大がまとめているとは思いますが、きちんとケアがされているのかといえば、決してそうではなかったと思います。こうしたことを家族会設立により改善していければと思っています。

【A】(白い服の方) エコー検査の性能が上がるなど、色々言われていますが、機械の性能も向上しているので、見つかるはずもなかったものが見つかるということは、あるとは思います。娘については、比較的大きな状態で見つかりましたので、これは明らかに癌だと分かる状態で見つかっていますので、過剰診断ではないと思います。

【A】(黒い服の方) 早期で癌が見つかっていますが、過剰診断だということを強く感じたということはないです。(つづく)


◎[動画]20160312甲状腺がん患者家族会設立記者会見(UPLAN三輪祐児さん公開)

▼白田夏彦[取材・構成]
学生時代に山谷、沖縄などの市民運動を訪問。その後、9・11同時多発テロ事件をきっかけにパレスチナ問題の取材を開始。第二次インティファーダ以降、当地で起こった非暴力直接行動を取材。以降、反戦や脱原発などの市民運動を中心に取材。現在、業界紙記者。

2016年3月12日、3・11甲状腺がん家族の会が設立された。設立時の正会員は5家族7人、代表世話人には河合弘之さん(弁護士)と千葉親子さん(元会津坂下町議)が就いた。これまでほとんどタブー視されてきた福島での被曝被害の核心を伝える貴重な設立会見を7回に分けて詳報する。第4回は河合弘之代表世話人による追加談話。

図01=放射線被害の全体と甲状腺がん等疾病被害の概念図

先ほどの図(図01)を、もう一度示します。この大きなマルが放射線被害の全体です。そして、その大半を占めるのが財物補償と精神的慰謝料です。でも、財物損害も精神的慰謝料も元は病気になる、白血病や甲状腺がんになる、ということから発生します。この部分が否定されると、原発の損害、大きな損害、全体があるかないかわからない、いい加減なものになるということになります。

今ここ(病気:甲状腺がん、白血病)が、否定されているのです。それが大問題なのです。ここを絶対否定させてはならない。きちっと社会的にも、政治的にも、立証されていかなくてはならないというのが、私の意見です。

図02=線量と発病率の関係は〈しきい値〉なしの直線モデルが世界的な合意と説明する河合弘之弁護士

もう一つ。これを見てください(図02)。現在、世界的合意は、放射線量と白血病、その他の発病率は閾値(しきいち=いきち)なしということがあります。ここから下は安全という閾値が無いのです。そして、この直線モデルが示すように、線量と発病率は正比例というのが世界的な合意です。IAEAもこのことを認めています。その事実が第一にあります。

そして、ある原発から大量の放射性物質が放出され、その放出範囲に住んでいる人間が甲状腺がんになったら、原則として、その甲状腺がんや白血病は、その原発事故のせいだということで認定すべきで、逆にその子供の甲状腺がんは、別の理由だということをきちんと立証できれば原発事故が原因であるということは適応されない。

つまり、Aという子供が誤ってレントゲン検査において、大量の被曝をしたという医療ミスですとか、道端に転がっていた放射性物質を間違えて掴んでしまい、口に入れてしまったから甲状腺がんになってしまったなど、別の理由をきちんと立証できない限り、今言った3つの条件(放射性物資の大量放出、放出範囲に居住、別の罹患原因証明ができない)に絡む場合、甲状腺がん等の発症は、原発事故による放出された放射性物質に因果関係があると認定すべきであると思います。

そもそも、福島原発から発せられた放射性物質が「子供に付き、甲状腺にくっつき、そこから発癌した」などということを立証することは不可能なことです。その不可能な立証をできていないということを理由に「考えにくい」という言葉を用いて否定するということは、法律的にも間違いです。法律的には、因果関係というのは、被害を訴える側が立証しなくてはなりませんが、本件の場合や公害の場合には、立証責任は転換されるということになっています。まさにさっき言った、3つの条件に絡む場合には転換されていく。例外的な理由を否定する方が、例外的理由を立証しなくてならないという、判断理由の枠組みを変えないと、被害者は全く救済されないのだ、ということを私は強く訴えたいと思います。

 

そして、もう一つ。ここ(甲状腺のある首筋)に、手術の跡が既に残っている。手術跡ができている女の子がいます。もし、交通事故でこういうことが起きれば、女子の容貌に著しい醜状を遺すということで、これに対する後遺症慰謝料を何百万円という、高額な慰謝料を受けることが本来できます。そういう子供たちが何人も発生しているのに、そういう子供たちは一切そういう請求をしていません。そんなことができる環境にないのです。仮にADRをやっても、東京電力は、否定すると思います。「因果関係が考えにくいと、医者が、専門家が、言っていますよ・・・」と。そういうことになる。

しかし、そういうことが、許されて良いのでしょうか。僕は、術後の様子は見ていませんが、テレビや新聞で見ております。こういう風になって、こんな風になっている。そのことだけでも重要なことです。もちろん、そこから、さらに悪化することもあるが、そのことだけでも救われなくてはいけないのに、それも放置されているというのが、今の状態なのだということを、皆さんに知っていただきたいと考えております。以上です。
 
▼白田夏彦[取材・構成]
学生時代に山谷、沖縄などの市民運動を訪問。その後、9・11同時多発テロ事件をきっかけにパレスチナ問題の取材を開始。第二次インティファーダ以降、当地で起こった非暴力直接行動を取材。以降、反戦や脱原発などの市民運動を中心に取材。現在、業界紙記者。

2016年3月12日、3・11甲状腺がん家族の会が設立された。設立時の正会員は5家族7人、代表世話人には河合弘之さん(弁護士)と千葉親子さん(元会津坂下町議)が就いた。これまでほとんどタブー視されてきた福島での被曝被害の核心を伝える貴重な設立会見を7回に分けて詳報する。第3回は内科医で同会世話人の牛山元美さんの談話。

◆福島原発事故以前、小児甲状腺がんは非常に少なかった

会見する牛山元美さん

私は神奈川県内の病院に内科医として勤務しております。福島原発事故当時は、被曝を心配して、当時、小中学生だった二人の子供を九州の親せき宅に避難させました。事故後は、福島県内や関東で健康相談会や保養に参加し、子供を持つ親たちの不安を直に耳にしてきました。また、福島県内の医師不足を知り、2012年11月から福島県内の病院で、月一回の当直支援を始めました。 

福島県の健康調査により、原発事故当時、18歳以下だった子供たちに甲状腺がんが多発していることが明らかになっています。この5年間で、県が把握しているだけでも既に116人が手術を受けています。甲状腺がんは、進行度も遅く命に関わることはない、悪性度も低い癌だといわれていますが、実はそれは中年以降の女性にみられる成人の甲状腺がんについての話です。2011年の福島原発事故以前、小児甲状腺がんは非常に少なく、診療経験のある医師は、日本の甲状腺専門医の中でも非常にまれでした。

◆スクリーニング効果、過剰診断とはそぐわない事実

チェルノブイリ原発事故後に、7000例増えたとされる小児甲状腺がんは、腫瘍が小さくてもリンパ節や肺に転移を引き起こしやすく進行しやすいといわれています。今回、ほとんどの方を手術された福島県立医大の報告を見ると、手術を受けた方の90%以上は、腫瘍の大きさが既に手術適応基準を超えていたり、または小さくても、リンパ節転移や肺転移を引き起こしていたり、甲状腺の外に拡がり進行していたものであったり、すぐに手術することができて良かったという症例でした。

これは、たくさん甲状腺がんが見つかったのは検診のせいだ。スクリーニング効果だ、それは過剰診断だという意見とはそぐわない事実です。では、なぜこれだけの甲状腺がんが福島の子供たちから見つかったのか。未だ全く解明されていません。放射線の影響かどうかも、県の検討委委員会の中ですら意見の相違があり「(原発事故の)影響とは考えにくい」とか、「(原発事故の)影響を否定するものではない」とか、非常にあいまいな表現がされています。

◆相談に応じる医療機関が福島県内にはほとんどない

患者さんやご家族は、今回、診断された甲状腺がんがなぜ起こったのか、とても悩んでおられます。お母さまは、すぐにおっしゃるのですが、「あの頃の食事が悪かったからなのでしょうか?」「放射線汚染を気にせず食べ物を食べさせたから、だから癌なったのでしょうか?」「外で遊ばせたのがいけなかったのか…」高校生の子は、「自転車で通学したからいけなかったのか」、皆さん自分を責めています。また、遺伝的なものなのか。そんな風に本人も、親御さんも、自分がいけなかったのかと、とても悩んでおられます。

実は手術を受けて、その後再発された方も複数おられます。再手術前、治療方法についてセカンドオピニオンを気にする方も当然いらっしゃるわけですが、福島県内では「それは県立医大に行くように」と言われ相談に応じる医療機関もほとんどなく、実現が困難な状態です。より良い医療を受けたいという、患者として、またその親として当然の願いを実現させたいと思います。担当医師とのコミュニケーションもうまく取れていない、それをうまく取れるようにお手伝いもしたいと思っております。

◆福島の健康相談会では放射能という言葉すら口にしにくくなっている

甲状腺がんというものについて、忌憚のない意見の交換や適切な情報の共有をし、出来る限り、その不安を取り除いてあげたい。また、日常生活でも健康に関する疑問に気軽に答え、より安心でき、健康的な生活を楽しめるようサポートをしたいと思っております。

また、叶えばですが、患者さんがご自身の経験を活かせるよう、例えば手術の経験を、また新たに患者さんになった他の方に伝えることができる、そんな手助けもしていきたいと思っております。最近では、福島に健康相談会に行っても放射能という言葉すら口にしずらくなっています。また、福島県内では、放射能という問題は過去の話になっています。

◆問題を解決できるよう力を貸してください

そんな今、臨床医としてやれること、やるべきことがあるのではないかと思っております。私は原発事故当時、ちょうど18歳以下であった子供を関東で育てている母親でもあります。また、病気を抱えている患者さんの日常生活への助言や様々な不安を軽減することが主な任務の一つである内科の臨床医でもあります。その様なことを使命感に持ち甲状腺がん家族会の世話人になりました。  

甲状腺外科医たちが、今回、家族会のアドバイザーになってくれています。甲状腺がんという病気になっても、より良い治療を受け、不安を減らし、安心して幸せに生活できるように医師として力を尽くしたいと思っております。どうぞ、甲状腺がんと診断された福島の子供さんやご家族の方が一人でも多く、この家族会に参加され、つながり、力を合わせ、問題を解決できるよう力を貸してください。以上になります。ありがとうございました。


◎[動画]20160312甲状腺がん患者家族会設立記者会見(UPLAN三輪祐児さん公開)

▼白田夏彦[取材・構成]
学生時代に山谷、沖縄などの市民運動を訪問。その後、9・11同時多発テロ事件をきっかけにパレスチナ問題の取材を開始。第二次インティファーダ以降、当地で起こった非暴力直接行動を取材。以降、反戦や脱原発などの市民運動を中心に取材。現在、業界紙記者。

2016年3月12日、3・11甲状腺がん家族の会が設立された。設立時の正会員は5家族7人、これまでほとんどタブー視されてきた福島での被曝被害の核心を伝える貴重な設立会見を7回に分けて詳報する。今回は千葉親子(ちかこ)さんの会見談話。

◆被曝者になってしまったという切ない思い

代表世話人の千葉親子さん(元・会津坂下町議会議員)

東日本大震災と、それに伴う原発過酷事故が起きてから昨日で5年になりました。この間、国内外の多くの方々に励ましをいただいたことに感謝申し上げます。今、私たちは福島県の現状に向き合いながら、悩み、苦しみ、励ましあいながら、傷つきながらも頑張っています。

時間の経過とともに諸課題も多岐にわたり、個人の力ではどうにもならないことがたくさん聞こえてきます。甲状腺がん問題もその一つです。小さなお子さんからお年寄りまで二百万人の県民が、原発事故により放射能の降り注ぐ下で生活をしていた事実は、けして忘れてはならないことと思います。

事故後、甲状腺検査が始まりました。甲状腺がんの発見が相次ぎました。原発事故が起きるまでは、甲状腺がんという言葉などはあまり耳にしない病気でした。一巡目の先行調査から二巡目と検査が進む中、甲状腺がんと宣告されたご家族の方々の悩みや苦しみに私たちは出会いました。過酷な原発事故や放射能のことなど交錯する情報の中で、保養の手立ても無く過ごす中、子供のことを思い、親御さんたちは、「あの時、外出させなければよかった」「あの時、避難しておけばよかったのではないか」「無用な被曝をさせたのではないか」とご自分のことを責め続けておられます。3・11以降、甲状腺検査を受け、被曝者になってしまったという切ない思いを抱えながら誰にも相談できない状態に置かれているのです。

◆今、起きていることの事実に触れ、悲しい怒りがこみ上げた

福島県健康調査検討委員会では「放射能の影響とは考えにくい」と説明を繰り返すばかりです。専門家の間でさえも、原発に由来する・由来しないと意見が分かれました。そんな曖昧な中、がんと診断された方も、被曝をした多くの県民も不安を抱えた5年となりました。

私たちは昨年、ご家族の方々と集いました。その日の私は初めての出会いでとても緊張していました。きっと、ご家族の方たちも家族同士が出会えることの期待と、どんな集まりなのか、どんな人が来ているのか、と不安があったろうと思います。

懇談が始まってからは、話す家族も、聞く私たちも涙でした。今まで色々な所で聞いていた不条理な出来事が目の前で話すご家族の方に、今、起きていることの事実。そのことに触れ、私も悲しい怒りがこみ上げました。ご家族同士の意見交換では、医師への不信感や診療の制約、情報不足が話題になりました。「病気の症状がこれからどうなっていくのだろう」「毎日のとまどいを誰には話したらいいのだろう」「誰に相談したらいいのだろう」という生の声を聞き、ご家族の孤独感を知りました。

懇談が始まる前の緊張していた雰囲気も、お茶会のころには、皆で持ち寄ったお茶菓子を分け合って、とても和やかな雰囲気になり「来てよかった」「同じ思いで話すことができた」と明るいお顔になられたように感じました。

◆同じ悩みや痛みを抱えている方同士が話し合うことで癒される

子供たちは、原発事故の後、理不尽な形で甲状腺がんと診断され、心に傷がつき、手術で体にも傷を残すことになってしまいました。私たちは、日頃から情報交換や情報提供が出来て、気軽に話し合い、支え合えあうことのできる関係と気軽に相談できる場所が必要だと思いました。同じ悩みや痛みを抱えている方同士が話し合うことが、どれだけ癒されるのか、どんな力にも勝ることだと思いました。

一人で悩まないで下さい。多くの患者の家族の皆さんと手をつなぎ、語り合う場所を持ちましょう。情報を共有し、課題を共有しながらそこから希望を掴みましょう。患者家族の皆さまには、気軽にお声をかけていただきたいと思います。そして、周りには安心して集えるようどうか温かく見守って頂きたいと思います。わたしたちも、そのお手伝いをさせて頂きたいと思っております。このような会が身近な所で色々と広まり、家族の方が安心して話しのできるような場所ができることを望みながら私の挨拶とさせていただきます。


◎[動画]20160312甲状腺がん患者家族会設立記者会見(UPLAN三輪祐児さん公開)

▼白田夏彦[取材・構成]
学生時代に山谷、沖縄などの市民運動を訪問。その後、9・11同時多発テロ事件をきっかけにパレスチナ問題の取材を開始。第二次インティファーダ以降、当地で起こった非暴力直接行動を取材。以降、反戦や脱原発などの市民運動を中心に取材。現在、業界紙記者。

2016年3月12日、3・11甲状腺がん家族の会が設立された。設立時の正会員は5家族7人、代表世話人には河合弘之さん(弁護士)と千葉親子さん(元会津坂下町議)が就いた。これまでほとんどタブー視されてきた福島での被曝被害の核心を伝える貴重な設立会見を7回に分けて詳報する。

冒頭、設立趣意書が読み上げられる

◆司会者からのことわり

家族のお二方は、福島県からの中継での参加になります。お二方は、マスコミの前に出るのは、未だセンシティブで難しい状況になります。スカイプで、顔を隠しての会見になることをご了承ください。代表世話人3人のあいさつ後、甲状腺がんのお子さんを持つご家族二人のお話、質疑応答という流れになります。時間は1時間ほどと考えております。どうぞ、よろしくお願いいたします。

◆代表世話人、河合弘之弁護士による「甲状腺がん家族の会」設立主旨談話

右から代表世話人の千葉親子氏(元・会津坂下町議会議員)、河合弘之氏(弁護士)、世話人の牛山元美氏(医師)

代表を務めております弁護士の河合でございます。本日、甲状腺がん家族の会を設立致しました。名称は「3・11甲状腺がん家族の会」といいます。目的は、社会的に孤立している甲状腺がん患者家族同士の親睦を高めるとともに、患者の治療および、生活の質を高めることができるように情報交換を行い、関係機関に働きかけることであります。現在の正会員はご家族7人であります。中通り在住が4家族、浜通り在住が1家族。男の子の家族が3家族、女の子の家族2家族であります。

それから、代表世話人は私、千葉親子(元会津坂下町議)、副代表世話人が武本泰(医療学校教師)、飛田晋秀(写真家)、世話人が牛山元美(医師)でございます。また、甲状腺専門アドバイザーとしても、医師の方に何人かお願いしてあります。

設立趣意書の読み上げ。※参考(当会HP)http://311kazoku.jimdo.com/

◆現行の訴訟では被曝被害の損害がスポッと抜けている

会設立の概要としては以上になりますが、代表世話人としての私の考えを少しご説明したいと思います。3・11以降、本当にひどい、規模の大きな深刻な被害が出ている訳ですが、ADR(裁判外紛争解決手続)で問題にされ、訴訟で問題とされているのは、全部、財物損害と慰謝料だけです。放射能被曝の被害、損害の核心はその放射線から発生した病気であります。健康被害などという、甘い表現で私は申しません。放射線による病気、そして、とりわけ小児甲状腺がん、それから小児にも青年・大人にも発症する白血病、これが被害の核心であるというふうに考えます。

放射能被曝被害の考え方が図で示される

日本で今、大変なADRと訴訟の争いが発生しています。訴訟は、一万人もの人が起こしています。でも、それは全部、財物損害と慰謝料だけなのです。ちょっと図で書きますと、この様に膨大な賠償の請求がきているわけです。まず、財物の損害。それから、精神的な苦痛とか恐怖に対する慰謝料。で、それだけが問題にされていて、こうした白血病になった人や甲状腺がんになったという、病気になった・身体に損害を被ったということがスポッと抜けているのです。

◆「考えにくい」は「考えられない」と同義

メディアの人は感じてほしいのですが「変だな?!」と「一番肝心の損害や救済の追及が欠けているな」と。それが皆、何のせいかというと、原発と因果関係があると「考えられない」、「考えにくい」ということで押さえこまれている、否定されているから。「考えにくい」というのは「考えられない」というのと社会的には同義語です。

そして、この財物損害は、要するに放射能のある所にいると、健康被害を被るから、病気になるから、怖いから(自宅など、すなわち放射線計測区域から)出るわけです。子供が病気になる、怖いから出るわけですよね。だから財物損害の原因も、その放射能によって病気になる怖れなわけです。精神的苦痛も、放射能で病気になるのではないかと思うからです。だから、膨大に発生し、追及されている損害の中核部分が、スポッと台風の目のように空白になっているのです。

◆ジグソーパズルの一番の中核部分

これが、(原発事故と放射線被害の)因果関係が、あるのかどうかわからないということになると、財物損害とか精神的慰謝料とか、全部、根拠が無くなるのです。気のせいだとか、大丈夫だよ、ということになると、全部根拠がなくなる。全てここから発生しているから、財物損害や慰謝料が発生する。ここを無くしてしまおうというのが、今のやりかただろうと私は考えています。ここが、スポッと抜けたままだとどうなるのか?まるでジグソーパズルの一番の中核部分がスポッと抜けたままになっているのですが、文字通り、底抜けになるのです。

つまり、放射能の被害はよくわからない、気のせいだよ、因果関係が考えにくい。そうなると、じゃあ、財物損害も発生しないということになりかねません。それから、慰謝料というのも気のせいだよと、家が放射能で住めなくなる…それも本当にそれで病気が発生するかどうかわからないから、はっきりとしないということになると、放射能は怖くない。放射能が怖くなければ、原発は怖くない、だから原発を再稼働しよう、原発をどんどんやろうと、こういう論理になっていくのです。

◆一番肝心な部分の戦い

だから、この事実をきちん明らかにして、そして因果関係があるのだということをはっきりさせていくことが、全ての面、被害者救済にも重要だし、原発を無くしていくことにも重要なんだ、ということが私の考えです。ここが、まさに天下分け目の戦いというか、一番肝心な部分の戦いにこれからなっていきます。今までは、この問題が、なぜスポッと抜けていたかというと、患者の皆さんが完全に分断されています。お互い、顔見知りでもありません。だから、団結も生まれていません。お互い名前もろくに知りません。完全に分断されているだけでなく、この治療の過程において、現代医療において当然認められるべき、インフォームド・コンセントとセカンド・オピニオンが完全に否定された状態です。

「なぜ、私がこんなことになったのでしょうか?」と患者さんが医師に聞いた時、「あなたは、こうこう、こういう訳で、結果こうなったのだよ」という「だから、こういう治療が必要で、こうで、こうやって手術するんだよ」と、さらに、それでも不安が出てくれば、さらに説明を受けるという形でやっていくというのが普通の医療じゃないですか。それが(医師が)「あなたは癌です。切りましょう。」―(それに対し、患者が)「原発事故が原因でしょうか?」と聞くと、(医師により)「違う!」と、そういう風に言われてしまう。

そこには、問答無用の恩恵的な、家父長的な治療があっても、インフィームド・コンセントがないんです。そして、不安だからセカンド・オピニオンを求めようとしても、そんな事をして、ばれようものなら大変なことになる、というような恐怖感を持っているから、セカンド・オピニオンを求められない。

また、セカンド・オピニオンが、本来出せる人たちも、今の体制の中では、福島県立医大とか福島県とかに遠慮して、余計なことを言うと後で面倒なことになるからということで、(例えば、福島県外の病院でセカンド・オピニオンを求めた場合)「私は福島県から来ました。がんと言われています。本当でしょうか?」と聞こうにも、福島県の方だと分かると「県立医大に行ってください」ということになる。セカンド・オピニオンも求められない。こうやって分断され、完全に抑え込まれている。

◆押さえきれない気持ち

そして、僕たちも、さっき申し上げたように、ここが原発の放射能被害の中核ですから、何度かアプローチをしようとしました。しかし、一切アプローチできなかった。たとえば、福島県庁や県立医大の方にお聞きしようと思っても「とんでもない、個人情報ですから、そんな事は教えられません。」となる。

分断と、個人情報保護ということの二つの壁により、私たちは166人という数が分かっても、どこの誰というのは分からなかった。私としては、これがこのまま放置されていたら、本当にこれは憂慮すべき事態だ、と思っていたところに「もうこれは、我慢できない!」とカミング・アウトする人たちが出てきた。これは、押さえきれない気持ちから出たのだと思いますよ。そして、私の所に相談があったので、私が最終的に代表世話人を引き受けることになった。それまでは、千葉さん、牛山さん御二方が大変尽力されたわけですが、私の問題意識としては、以上、お話しした通りです。

全ては何から始まるのかと言うと、患者さんがお互いに住所氏名を知り合い、どういう状態にあるのかということを情報交換することから始まる。そこからスタートするというのが、今日の会の設立主旨であります。


◎[動画]20160312甲状腺がん患者家族会設立記者会見(UPLAN三輪祐児さん公開)

▼白田夏彦[取材・構成]
学生時代に山谷、沖縄などの市民運動を訪問。その後、9・11同時多発テロ事件をきっかけにパレスチナ問題の取材を開始。第二次インティファーダ以降、当地で起こった非暴力直接行動を取材。以降、反戦や脱原発などの市民運動を中心に取材。現在、業界紙記者。