◆はじめに

この通信での私の手記「ロックと革命 in 京都」、鹿砦社代表の松岡さん名付けて「京都青春記」は昨年8月31日で連載を終えた。

「長髪一つで世界は変わる」17歳の革命以降、私の「京都青春記」のテーマは「戦後日本はおかしい」だった。それは「山崎博昭の死-ジュッパチの衝撃」を経て学生運動-「戦後日本の革命」へと進み、そしてよど号赤軍としてピョンヤンへ飛んで今日に至るがこのテーマはいまも変わらない。もちろん若い頃、そんなことを意識していたわけではない、あくまで「いま思えば」の話だが、それだけは確信を持って言える。

あの敗戦で「天皇陛下万歳からアメリカ万歳に変わっただけ」の戦後日本、以来「米国についていけば何とかなる」を自己の生存方式にしてきたわが国、そんな戦後日本からの大転換を図ることは戦後世代である私一個の人生テーマにとどまるものではない。いまや日本人全体のテーマ、「戦後日本の革命」として突きつけられているのではないだろうか。

「ロックと革命in京都」連載を終えるに当たって、私は次のことを「最後に言いたいこと」として訴えた。

“いまは「覇権帝国の米国についていけばなんとかなる時代じゃない」どころか「覇権破綻の米国と無理心中するのか否か」というところまで来ている。

いま日本はどの道を進むべきか?「戦後日本の革命」は現実問題として問われてくる!

自身の運命の自己決定権─自分の運命は自分で決める、自分の頭で考え自分の道を自分の力で開く!

それは戦後日本の曖昧模糊となったアイデンティティの再確立の道でもあると思う。”

こんな結語を書いた以上は、自分はどうするのかを含めた「これから」のことを「ロックと革命 in 京都 1964-70」の続編として、「戦後日本の革命 in ピョンヤン」といったものに書かねばならないと思う。今回はその第一弾。

◆2024年は「大混乱の時代」の始まり

今年2024年の元日、主要新聞各紙の新年社説は、イマイチすっきりしない歯切れの悪さ、一言でいって混乱しているように思えた。

米日政府公報紙的な読売はその筆頭だ。「磁力と発信力を向上させたい-平和、自由、人道で新時代開け」と題してこれまでの普遍的価値観だけでなく「人命を守れ」などの「共通感覚」、人道をキーワードに「人々が一致して困難に立ち向かう」といった「ご説ごもっとも」的な、わかったようでわからない社説。昨年の読売の元日社説が「平和な世界構築へ先頭に立て-防衛、外交、道義の力を高めよう」と題し、抑止力強化、「反撃能力保有」を決めた安保3文書閣議決定直後でもありその主張はかなり明解だったのに比べれば、今年の社説は言語不明瞭もはなはだしい。

リベラル系は朝日の「暴力を許さぬ関心と関与を」、毎日の「人類の危機克服に英知を」という「じゃあどうすりゃいいの」? 抽象的な倫理を説く方針不明のただのお説教。

財界系の日経は「分断回避に対話の努力を続けよう」と対中、対ロ、対朝抑止力保持と同時に「分断回避」の外交的努力を説くという経済界の動揺ぶりを示すかのような社説。

ただ最右翼の産経だけは「『内向き日本』では中国が嗤う」と題し、国内政局にとらわれて「対中対決」をおろそかにするなという比較的明解な主張。トランプ政権誕生を念頭に「米核戦力の配備や核共有、核武装の選択肢を喫緊の課題として論じる」必要を説くなど保守右翼らしい主張をそれなりに展開。

産経を除けば大手主要紙の迷走ぶりは言論界の混乱を示すものだった。

その産経も内心の動揺という点では他のマスコミと変わるところはない。ハマスのイスラエルへの「先制的軍事行動」直後の昨年10月下旬、産経グループのフジテレビ「プライム・ニュース」では「“世界動乱の時代”の幕開けか」というテーマで「これはアメリカを中心とする国際秩序が破綻していることを映すのか」が番組の問いかけだった。案の定、出演者の弁舌は当惑を隠せない歯切れの悪いものだったが、すでにこの頃には「米国についていけば何とかなる」思考方式から抜け出せないマスコミ言論界の混乱が始まっていたのだろう。

 

米調査会社ユーラシアグループによる2024年の世界的リスク予測

米調査会社、ユーラシアグループが発表した2024年の世界10大リスク、そのトップにはなんと「米国の敵は米国」が上げられた。「大統領選で分断と機能不全が深刻化する」がその理由だ。そして3位が「ウクライナ分割」で「今年、事実上、分割される」としている。現在、ロシア軍が支配している東部のロシア人居住地域(すでに二つの地域が独立国家樹立)をウクライナが取り戻すことは事実上、不可能だということ、ウクライナは敗北を受け入れるしかないという悲観論だ。

「米国の危機」が世界のリスクのトップ、これはトランプ大統領が出現すれば世界は大混乱に陥るということを念頭に置いたものだ。バイデンがなったところで米中心の国際秩序破綻は免れえないが、トランプになればそれがもっと加速されるということだろう。それは3位のウクライナは敗北を認めるしかないという判断にも反映されている。また2位に上げられた「瀬戸際に立つ中東」もイスラエルの勝利はありえないということだろう。実際、すでに米国がイスラエルに停戦とパレスティナ国家樹立の受け入れを説得していることにそれは現れている。しかしネタニヤフ政権はそれを拒否、ネタニヤフを説得できないバイデン、ここでも米国の権威失墜が明らかになっている。

主戦場の対中対決に加えてウクライナと中東の戦争という3正面作戦にとうてい米国は耐えられないことを米国自身が認めたことで、「パックスアメリカーナ(アメリカの平和)の時代は終わった」、その現実を世界の誰もが目にした。

これは覇権大国、米国中心の世界観からすれば「世界動乱の時代の幕開け」という想像だに恐ろしい時代としか思えないのだろう。新年の日本の新聞各社の年頭社説の混乱ぶりはその反映と言える。

◆「パックスアメリカーナの終わり」はいいことなのだ

「パックスアメリカーナの終わり」に右往左往する日本の言論界に代表されるわが国の混乱、それは「米国についていけば何とかなる」という戦後日本の生存方式に慣れ親しんできた報いだとも言える。

1960-70年代の「一億総中流」の高度経済成長日本も、‘80年代の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」のバブルに浮かれた金満日本も二度とやってはこない。「米国についていけば何とかなる」、そんな戦後日本の「太平の夢」から醒める時が来たのだ。

一言でいって戦後日本は失敗に終わった、この現実を受け入れ直視することが重要だと思う。

人間にしても国にしても誰もが失敗は犯しうる。龍一郎さんではないが、「人生に無駄なものなどなにひとつない」、要は失敗からは教訓を汲み新たな出発の力に換える、これは一個の人間だけでなく国も同様だ。失敗を自覚すれば、そこから教訓を見つけることだ。それが人間や国の自力更生力というものだろう。

だから「パックスアメリカーナの終わり」は戦後日本の幻想から醒める時、「米国についていけば何とかなる」生存方式を改め自分の手で自分の未来を開く「戦後日本の革命」のチャンスにする、そんな積極的、能動的な思考が問われていると思う。

そのためには「パックスアメリカーナ」に身を委ねることになった戦後日本の出発点自体がおかしかったのではないか、このことを考える必要があると思う。

大日本帝国の「天皇陛下万歳」が「アメリカ万歳」に変わっただけ、すなわちその覇権主義が対米従属のそれに変わっただけ、それが戦後日本の実相だ。今日の「パックスアメリカーナの終わり」を前にして混乱するのではなく、戦後日本の出発点自体がおかしかったのではないか、このことから教訓を汲むことが重要だと思う。

ここからは少し理屈っぽくなるが、やはり理知を考えることは重要だと思うから我慢して聞いて頂きたい。

「パックスアメリカーナ」を支えてきたのは「G7=先進国」主導の国際秩序だった。

「G7=先進国」とはかつての帝国主義列強諸国だ。

第二次大戦敗戦で反省を迫られた日独伊ファッショ枢軸国だが、ドイツはユダヤ人虐殺など「ナチスの残虐性」だけを反省、日本は「軍国主義者、軍部の暴走」といったファッショ支配の反省を求められたが、自己の植民地支配についての反省は求められなかった。米英仏は反ファッショ民主主義陣営、「正義」の側だから自己の植民地主義の反省の必要すら感じていない。一言でいって「G7=先進国」の誰ひとり植民地支配を反省していない。

これが戦後世界の真実だった。

エリザベス女王の国葬の際、あるアフリカの首脳は「女王からは生前、植民地支配謝罪の言葉は一言もなかった」と不満を述べた。インド政府はチャールズ新国王戴冠式で王妃のかぶる冠の世界最大のダイヤがインドから強奪したものだと英国に抗議した。その抗議を受けその冠は使われなかった。これはほんの一例だが、かつての植民地支配を受けた発展途上国、グローバルサウスと呼ばれる国々共通の考えだ。それはなにも過去への恨みだけではない、いまも続く「G7=先進国」の覇権体質、植民地主義体質への批判なのだ。日韓間の歴史認識問題をめぐる抗争も同様のものだ。

「G7=先進国」のリードする国際秩序、法の支配は現代版植民地支配秩序に過ぎないことを世界は知っている。この現代版植民地主義は先進資本主義国の勤労者にとっても邪悪なものになっていることが明らかになりつつある。

国と民族の自主権より上位に人類益、地球益を置き国境の壁をなくさせたグローバリズム、それは世界の富を1%に集中し99%には格差と貧困を強いた。「国境の壁をなくす」、それは発展途上国では関税障壁撤廃などによる先進国巨大資本の「自由な経済活動」で国の民族産業の自立的発展を阻害するものになった。より安価な労働力を世界に求める巨大資本の自由な海外進出は、先進国の国内産業を空洞化させ労働者から職場を奪い中産階級を没落させた。

だから「G7=先進国」の国際秩序、現代版植民地主義秩序は、グローバルサウスだけでなく先進資本主義諸国の勤労者にも等しく格差と貧困を強いるものであることを世界は知った。その端的表現が米国白人労働者層のトランプ人気であり、昔は金持ちの党だった共和党はトランプ党になって、いまや「貧しい者の党」になったという現象に象徴されるものだろう。

「一億総中流」「昭和の夢よいま一度」などもうありえないというわが国の事情も同じだ。

このような「パックスアメリカーナの終わり」を嘆くのではなく新時代の既成事実と受け入れ、戦後日本の生存方式から抜け出すことを考えることがいま重要なことなのだ。

それはわれわれ日本国民にとって悪いことではない、いいことだと思う。

「ロックと革命in京都」の結語としたこと-いま日本はどの道を進むべきか?「戦後日本の革命」は現実問題として問われてくる! 自身の運命の自己決定権─自分の運命は自分で決める、自分の頭で考え自分の道を自分の力で開く! それは戦後日本の曖昧模糊となったアイデンティティの再確立の道でもある。

このような積極的な思考がいまわれわれ日本人に問われている。

このような観点から今後の「戦後日本の革命inピョンヤン」を書いていこうと思う。

このことを2024年、私の新年の抱負としたい。

◎ロックと革命 in 京都 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=109

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

震災の後で日本の原発がすべて止まった。2012年5月のことだ。東日本大震災による東京電力(以下東電)福島第一原発事故で、原発の危険性、そして再びどこかの原発が過酷事故を起こしたら今度は国が滅亡するとの危険性を感じた当時の民主党政権は、「2030年代に脱原発を目指す」との政策を決定しようとした。


◎[参考動画]「2030年代原発ゼロ」決定 新設・増設一切認めず(2012/09/14)

しかし巨額の資金を投じて原発と核燃料サイクル事業を推進してきた原子力産業や原子力ムラ、核兵器保有技術を保有しておきたいとの一部政治家などの力で、脱原発政策は潰された。

かつて日本の核燃料サイクル政策にはウランサイクルとプルトニウムサイクルという2つの流れがあった。ウランサイクルはウラン燃料を採掘し、核燃料に加工して原発で燃やし、使用済燃料を再処理してプルトニウムとウランを抽出、これを使ってウラン・プルトニウム混合燃料(MOX燃料)を生産して、また原発で燃やすサイクルを指す。

一方、プルトニウムサイクルは再処理した後のプルトニウムを使って高速炉の燃料に加工し、高速増殖炉を動かしてプルトニウムを再生産するサイクルをいう。

日本はプルトニウムサイクル完成を目指して高速増殖炉「もんじゅ」と「常陽」を建設した。しかし「もんじゅ」は1995年にナトリウム漏洩火災事故を起こして無期限停止、その後廃炉になった。高速炉がなければプルトニウムサイクルは成立しないので、今ではウランサイクルのみの核燃料サイクルを目指している。

核燃料サイクルとは、ウラン採掘から高レベル放射性廃棄物を処分するまでの1連の工程を指したものである。ウランサイクルは鉱山から採掘されたウランを使って核兵器を作る工程だったが、核拡散防止条約(NPT)の下では核武装は原則として禁じられていること、平和利用と称して核兵器開発に転用可能な技術が多々あることで技術移転も厳しく規制されていて、世界で核燃料サイクルを保有する国は核武装国に限られている。

しかし日本だけは、現在も核燃料サイクルを機能させる政策を有している。すでに脱原発を達成したドイツは、以前は核燃料サイクルの完成を目指した時代があったが、今は廃棄物貯蔵施設とウラン濃縮プラントしか存在しない。

◆再処理工場は完成しない

核燃料サイクルのバックエンドとは、原発から再処理工場を経て放射性廃棄物の処分までを指す。使用済燃料の流れである。そのうち、日本国内で計画されている事業は核燃料再処理、MOX燃料製造、放射性廃棄物の貯蔵と処分である。

核燃料は再処理せず、燃料体のままで保管もできるし、処分もできる。実際に軍用ではなく商業再処理を行っている国は現在ではフランスしかない。したがって、米国や英国やドイツなどでも使用済燃料はそのまま貯蔵されている。

日本でもそのまま貯蔵するという選択も可能だが、核燃料は全量再処理し、プルトニウムはMOX燃料に、回収ウランは再利用、高レベル放射性廃棄物はガラス固化体に加工して地下300㍍に埋め捨てとの方針が、法律で決められている。

その中核施設が青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場だ。しかし、着工からすでに30年、1997年に完成する予定だったが、今の計画では「2024年度上半期」とされる。実際には、これまでの審査状況から、来年に終わるなど到底考えられない。審査会合では日本原燃が提出した申請書6万ページのうち約3100ページに、誤記や記載漏れがあったことが明らかになった。これでは何も進むはずがない。(つづく)

◎山崎久隆 核のごみを巡る重大問題 日本で「地層処分」は不可能だ
〈1〉震災後も核燃料サイクルが残った
〈2〉再処理工場は稼働できない
〈3〉科学的根拠に乏しい経産省「科学的特性マップ」の異常さ
〈4〉放射性廃棄物「地層処分」を白紙にし、本当の議論を

本稿は『季節』2023年冬号掲載(2023年12月11日発売号)掲載の「核のごみを巡る重大問題 日本で『地層処分』は不可能だ」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。共著に『核時代の神話と虚像』(2015年、明石書店)ほか多数。

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号

通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫

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広島県の湯崎英彦知事は、既報の通り、2030年度開院予定で、広島県立広島病院(県病院)、JR広島病院、中電病院、広島高精度放射線治療センターなどを統合し、広島駅北口に1000床規模の巨大病院をつくる計画です。人材育成や高度医療を行い、若手医師を引き寄せる、という触れ込みです。

 

新病院予定地になるJR広島病院

新病院開設に先行して、新病院予定地になるJR広島病院は2025年度から県がつくる独立行政法人に組み込まれ「県立二葉の里病院」と改称し、5年間だけ存続、その後は新病院の駐車場になる計画です。

これだけでもわかりにくい。なぜ、新しいJR広島病院を壊さなければならないのか? しかも、1300~1400億円という消費税を財源とした公費を投入するのです。

その上、周辺の交通渋滞が懸念されます。周辺では2025年度には巨大な広島駅ビルも開業し、現在よりも交通が激しくなることは明らかです。その上で巨大病院です。救急車や通院患者を乗せた車の病院到着が遅れる可能性は高まります。

◆がん高精度放射線治療センターが赤字累積

そして、さらなる暗雲が湯崎知事の行く手に立ち込めています。がん対策日本一を掲げる湯崎知事が肝いりでつくった「がん高精度放射線治療センター」。新巨大病院予定地の隣にあります。「リニアック」と呼ばれる放射線治療装置を使用した放射線治療を行います。そのセンターが2015年に開業して以来、累積赤字が9億円になるというのです。この赤字の扱いを巡って、広島県当局も頭を痛めています。大まかに言えば、初期の設備投資にお金がかかり、それがそのまま赤字になって今も改善していないということです。

そして、リニアックという当時は最新式だった設備もいまや、県病院が2022年10月に新型のものを導入するなど、がん高精度放射線治療センターの優位性は崩れています。

◆「現時点」では否定的でも将来は「県費」で救済?

こうした中、現時点では、県費投入での救済には当局も議会も否定的ですし、新巨大病院を担う「独立行政法人」も負担することはない、とされています。しかし、それはあくまで「現時点」でのことです。ほとぼりが冷めたころに、県費をこのセンターの赤字の穴埋めに使ってしまおう。そういうことは十分起きえるのではないでしょうか? 正直、湯崎英彦知事は、今回の病院問題でも、産廃問題など他の問題でも説明責任を果たそうとしません。「こんな」知事のもとでは、なし崩し的な公費による赤字穴埋めの可能性は高いと言わざるを得ません。

◆見通しが甘すぎる湯崎知事が巨大病院を進める「泥船医療行政」

むろん、「儲からないことだからこそ行政がやるべき」という意見もまた正しい。県は事業なら赤字だからやらないというのではなく、県民に必要とされているかどうかで実施の可否を判断すべきです。しかし、それにしても、湯崎知事の見通しは甘すぎたと言わざるを得ません。

問題は、そんな見通しの甘い湯崎知事のもと、広島県が進める医療行政が、新巨大病院というさらに大型の事業に乗り出そうとしていることです。広島県民にとってこのことは恐怖であり脅威ではないでしょうか?

予算1300~1400億円という全国でも例のない巨大病院開設事業。それも、高度医療を進めるという。しかし、高度医療をやるというなら、高度な機械が必要で、べらぼうな初期投資が必要になります。そして、一度病院を造れば、その機械の更新にも将来お金がかかります。

とてもではないが、保険診療の枠内では採算が取れないのではないか?そうなったとき、湯崎知事はどうするのか? あるいは、湯崎さんはそのときは知事ではないかもしれない。後始末をさせられるのは県民です。

◆大赤字の挙句に地域医療崩壊

そして、高度医療と称する新巨大病院に資源を集中させた挙句、広島市南区の現県病院周辺、中区の現中電病院周辺の住民から医療の選択肢を奪うのが、湯崎知事の構想です。そして、付け加えれば、現県病院は島しょ部にお住いの皆様からすれば県病院は船で行きやすい唯一といっていいほどの大型病院です。

下手をすれば、大赤字を出した挙句、いままで便利だった地域の利便性も低下する。踏んだり蹴ったりの結果になりかねません。

母親を介護する主婦で元看護師の広島瀬戸内新聞・熊田栄子記者はこの新巨大病院問題など広島県の医療行政について精力的な取材を行っています。熊田記者は「がん高精度放射線センターの件でも、あそこの高額な機器に県費を入れて、地域の医療は後回しになっている。安芸津病院の耐震化がほっとかれたのはそういうことだ。大金をはたいて設備や機器を入れて、儲かる時はいいけど、そうでない時は、県費を注ぐ。」と指摘します。

また、過疎地の医療で活躍するドクターを養成する、と湯崎知事は意気込みますが、最新式の機械に引き寄せられるようなドクターと、地域医療の本当に厳しい現場で仕事をしたがるドクターの人物像は重なりません。

◆病院赤字は医療ツーリズムで穴埋め?!

熊田記者は新巨大病院が赤字になった場合、海外の富裕層を呼び込む「医療ツーリズム」を湯崎知事が考えているのではないか?とも懸念しています。筆者も、最近の湯崎知事の「一部の人の金儲けを優先させる」行動から推測してその可能性は高いとみています。

その場合、採算は取れるのかもしれませんが、そんな話は、そもそも県が公の医療へ回すべき資源を割いてでやるべきではありません。湯崎知事は、やりたいなら、県知事を退陣し、ご自分で民間企業を立ち上げてやるべきです。

◆やはり高度医療は国主導で

熊田記者は「高度医療は国で担うべき」と主張しています。筆者も同感です。高度医療には巨額の投資がかかります。採算ラインにのせようと思えば、ある程度患者数が必要です。しかし、広島県内だけでは確保は難しいでしょう。さりとて、県外からも患者を集めるとなれば、県民以外のために公費を使うことになります。高度医療の便益は結局県外にも及びます。「国が高度医療は責任をもって担う」のが筋ではないでしょうか?

ともかく、湯崎英彦知事が進める医療行政はまさに泥船で、広島県を破滅させかねません。こんな事業に消費税をつぎ込むなら消費税を下げてほしい。広島県議会も多数派は結局、湯崎知事支持。2025年11月の広島県知事選挙で県民の手に広島を取り戻す。「泥船医療行政」から県民を避難させるには、これしかありません。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年2月号

今年最初の「キックボクシング 2023年の回顧と2024年の展望」の中で述べました、新団体の全日本キックボクシング協会設立と活動に向けての記者会見が1月20日に後楽園ホールで行われ、概要が発表されました。

[左]原点回帰、初陣興行ポスター [右]全日本キックボクシング協会の役員と加盟ジム一覧

栗芝貴代表は、

「私達はこの度、昨年8月1日、全日本キックボクシング協会を設立致しました。この協会名は皆さんの御存知のとおり、日本のキックボクシング最初期に作られた名称です。
 これは私達がもう一度、この素晴らしい格闘技を見つめ直すという気持ちを込めて、この団体名となりました。キックボクシングがプロスポーツ競技として益々発展し、子供達に夢や希望を与える目標に掲げて設立に至りました。現在の立ち技格闘技は多様化された幾つかのルールへと移行しております。私達が目指す本格キックボクシングは、ムエタイを始め、世界各国の強豪選手にも対等に戦える技術や精神を身に付けて、会場に来られた皆様には感動や勇気を感じて頂けるように選手を育てていくことが重要であると考えます。」

という設立の趣旨を語りました。

全日本キックボクシング協会代表となった栗芝貴代表

団体名については、「いろいろ調べましたが、以前(平成期)の全日本キックボクシング連盟と昭和期の石原慎太郎氏がコミッショナーを務めた旧・全日本キックボクシング協会の繋がりは無く、その後存続していない模様。どなたも関わっていないので問題無いと思います」と説明。

協会副代表に就任したかつての名チャンピオン、小野瀬邦英氏は「この6年程、キックボクシング界から離れていたのですが、またこの機会を昨年、栗芝会長からお話を頂いて、日の当たるところへ出して頂き、そしてまた皆さんとお会い出来ることを嬉しく思います。今後とも頑張りますので宜しくお願い致します」と語り、過去の垣根を越えた新たな顔合わせの栗芝代表との連携に注目が集まります。

かつて日本キックボクシング連盟でエース格を務めた小野瀬邦英氏が副代表を務める

◆原点回帰

栗芝代表は、

「我々がやりたいのは、やはり本格キックボクシングです。他の団体との違いは、試合によってヒジ打ち無しとか、ヒザ蹴り無しというルールは無いことです。ヒジ打ち有り、ヒザ蹴り有りという中で、時間の都合(興行内)もあるんですが、3回戦と5回戦という元来のラウンド制で、58年前にスタートしたキックボクシングという競技の姿へ、もう一度その原点に立ち返って作り上げる。世間やテレビ側に合わせるだけのイベントではなくて、プロ競技として確立したい。私達の認識はプロスポーツ競技として、常に選手が上を目指す道筋を作っていかなければならない。デビュー戦からチャンピオン目指す志を皆で共有して、原点に返って頑張ろうという気持ちで原点回帰になりました。そして我々が経験してきた様々な経験の中で、どうしたらお客さんが後楽園ホールに集まって頂けるかチャレンジしていきたいです。」

と語った。

全部で19軒の加盟ジムが発表された中、大半は新鋭のジムで、平成初期までに選手として活躍後、ジムを立ち上げ実績積み上げた会長は幾人かいますが、仲ファイティングジムとして加盟している仲俊光会長は唯一、昭和の全日本キックボクシング協会で王座挑戦まで経験した大御所でしょう。

かつての新団体立ち上げは、チャンピオンを抱えていたジムが新加盟し、初回興行から豪華カードやタイトルマッチが備わっていたものでしたが、この全日本キックボクシング協会は“1からのスタート”と言えるほど新人から育てるスタートである。正に原点からスタートする初陣興行は、3月16日土曜日に、新人戦中心ではあるが、全13試合がマッチメイクされています。今後の興行で6月、9月、12月に勝ち上がっていく選手からランキング入りし、全ての階級でチャンピオン揃うのはまだ先の話となる模様。

新日本キックボクシング協会で2022年10月23日に日本フェザー級王座挑戦まで経験した瀬川琉(稲城)はメインイベンタークラスだが、内臓損傷の為、リハビリトレーニング中で復帰時期を調整中。6月の第2回目興行か、それ以降に復帰予定という。この瀬川琉と王座を争う有力候補にあるのが同じく新日本キックでフェザー級で戦った仁琉丸(ウルブズスクワッド)だが、これが今度の全日本キックボクシング協会最初のタイトルマッチ(王座決定戦)となる可能性は高い模様。

エース格としてチャンピオン目指し、他団体にも喧嘩売る勢いでアピールした瀬川琉

◆確立したプロスポーツへ

近年はどこの団体も集客力が落ちていく中、イベント系格闘技は集客力があるが、栗芝代表らが育ってきた新日本キックボクシング協会や日本キックボクシング連盟といった団体が培ってきた日本タイトル戦。こういった道筋を築いていかなければ、何らかのショー的要素ばかりで将来、キックボクシングは無くなってしまうんじゃないかという強い想いがあったという。

「私は今から36年ぐらい前になりますけど、日本プロスポーツ大賞新人賞を頂きまして、他のプロスポーツ競技選手と同様に表彰されるような舞台に立たせて頂いたのですが、このような表舞台へまた選手を送り出せるよう、このキックボクシングをもう一回原点に立ち戻って、プロスポーツ競技として確立していくことが一番の志です。」

と栗芝代表は語る。

瀬川琉と稲城ジム栗芝貴会長、愛弟子が勝つと喜びのあまりツーショットに収まること多かった

◆任期は3年?

栗芝氏は過去39年間、伊原ジムで伊原信一会長のもとで裏方として支えて来られましたが、今回の設立後も「小野瀬くん代表やって!俺裏方やるから。」と言ったところが、小野瀬氏から「それダメです!」と突っ撥ねられて、「ならば俺、3年で全国に全日本キックボクシング協会の名前轟かせる。3年でスター選手作る。その暁には代表は小野瀬くんに代わるという計画です。組織が発展する為には、ルール、人事、常に刷新していかねばならないと思っています。一応3年で代表を代わっていく為には、後楽園ホール満員にして、この3年で作り上げていくのが僕の責任と思っています。」という“常に刷新”という発言には組織の在り方として進化が期待出来る部分です。

栗芝貴氏が過去、新人賞を受賞した日本プロスポーツ協会表彰式での、プロ野球や大相撲、プロボクシングの各競技者と並ぶ舞台に立ったことは何よりも誇らしい経験だったでしょう。しかしキックボクシング競技の確立性が伴わなかった過去、キックボクサーはステージの上でも周囲の注目が集まり難い存在でした。

確立したプロスポーツを目指すことは50年前からしっかりやるべきだった基礎固め。原点回帰して、本来有るべきキックボクシングの確立を、今から目指すことは素晴らしいことながら、これから3年でどこまで進化させられるか。まず3月16日の初陣興行に注目が集まります。今後、キックボクシング界に新風を巻き起こせれば、全日本キックボクシング協会設立の意義は、より活きてくるでしょう。

記者会見に出席した役員と各ジム会長が揃った

◎全日本キックボクシング協会 http://www.ajkba.com/

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年2月号

◆『グレタ たったひとりのストライキ』という本

グレタはその後も気候運動を続けている。

私は最近、書店で『グレタ たったひとりのストライキ』(海と月社)という本を見つけて購入し読んだ。この本はグレタの母親であるマレーナ・エルンマンが、グレタが学校ストライキを始めるまでの背景と家庭環境などについて書いた伝記である。スウェーデンでは2018年に、日本では2019年に出版された。この本の226ページ以降には、学校ストライキを始めたグレタが両親と交わした会話が以下のように紹介されている(下線引用者)。 

グレタはカーペットの上に座っていた。……

「それから、原子力について話す人たち」と彼女は続ける。「あの人たちは、原子力のことしか話題にしない。気候危機や環境危機なんて存在しないかのように、原子力のことだけしゃべりたいの。だから事実を知らない。もっとも基本的なことについても耳にしたことがないんだって。ただ、「じゃあ、原子力についてどう考えるのか? 」って言いたいだけ。そして、未来社会の問題を全部自分の手で解決したかのような笑みを浮かべる。だけど恐ろしいのは、多くの政治家も同じってこと。内心では、原子力ではもう解決できないって知っているのに、同じことを繰り返してる」

「科学者はどう言っているの?」と私が聞くと、スヴァンテが答えた。

「IPCCは、原子力は大きな包括的解決策の小さな部分にはなりうると言っている。でも、エネルギー問題は再生可能エネルギーでしか解決できないとも言っている。どっちにしても、決定するのは科学者の仕事じゃない。気候研究の科学者たちは、政治や現実の条件を考慮しない原子力に置き換えるなら、明日にでも何千もの発電所が必要になる。だけど、原子力発電所は完成までに10~15年はかかる。そんな事実は反映されてないんだ」……

「そう、私たちには新たな非化石燃料が膨大に必要。それも、いますぐ」とグレタは言った。「いちばん安くて早いベストの代替手段に投資する必要がある。それなのに、どうして建設に10年もかかるものに投資しなくちゃいけないの? 太陽光や風力を利用した発電所なら数ヵ月で完成するのに、どうして、どの会社も投資したくないほど費用のかかるものに投資しなくちゃいけないの? 太陽光や風力ならずっと安いし、しかも分単位でコストが下がっている。全然リスクがないものがほかにあるのに、どうしてリスクが高いものに投資しなくちゃならないんだろう? 既存の核廃棄物の最終処分の問題だって解決してないのに。それに、すべての化石燃料を原子力に置き換えるとしたら、今日から毎日ひとつずつ原子力発電所を完成しなくちゃ間に合わない。建設に必要なエンジニアを教育するだけでも100年単位の年月が必要なのに。だから原子力は実現可能な代替手段じゃない。そんなことはとっくにわかってる。なのに、どうしてその話ばかりする人たちがいるの? 私、ほんとうに怖い。政治家って、こんなこともわからないほど馬鹿なの? それとも、時間を無駄にしたいの? どっちがひどいことなのかわからないけど」

「原子力の問題は、多くの人たちにとって、すごく大きなシンボルなんだろうね」とスヴァンテが言い、アイランドキッチンのスツールに座った。「もし気候の話をしたくないんだったら、原子力の話題を持ちだすことだ。そうすれば、そこで話が止まってしまうから。原子力は、気候問題の解決を遅らせたい人たちにとって最良の友だ。自分もそうだったから、よくわかるよ。原子力発電を続けることはいい解決策だと、僕も以前は考えていた。それを完全に閉鎖しろと主張する環境活動家たちに対し、なんて後ろ向きなんだとうんざりしていた。人類は常に問題解決できるんだと、僕は信じたかったんだと思う。これまでだって、どんな解決策だって見つけてきたじゃないかってね。だから、現状の社会秩序を変える必要もないし、行きたい場所に旅行に行けばいいって。こっそり憧れていたレンジローバーも買えるって」……

君は原子力を話題にするのを絶対に避けたほうがいい。人々が完全な解決策について話さないのは、それに興味がないからだろう。5年や10年前だったら、また違ったかもしれない。そのころには、原子力発電の拡大は解決策の一部だという気運がまだあった。でも、べつの危機が起こってしまった

◆グレタの原発観

私はこの本を読んで、グレタさんに手紙を書いた時の自分の認識が誤りであったことに気付かされた。両親との会話の中で、グレタは「全然リスクがないものがほかにあるのに、どうしてリスクが高いものに投資しなくちゃならないんだろう? 既存の核廃棄物の最終処分の問題だって解決してないのに。……だから原子力は実現可能な代替手段じゃない。……私、ほんとうに怖い。」と言っている。

グレタに手紙を書いた時私は、彼女が原発の危険性や害悪についての認識が不十分なために原発を容認するような発言をしているのだと思っていた。しかし、この会話からは、グレタは原発のリスクも害悪も充分認識していることがうかがえる。

しかし父親のスヴァンテは「君は原子力を話題にするのを絶対に避けたほうがいい」とアドバイスする。その後に続く「人々が完全な解決策について話さないのは」以降の父親の発言は、何度読んでも意味がわからない。

彼が「別の危機が起こってしまった」と言っているのはもしかしたら福島原発事故のことを指しているのかもしれない。だとしても、そのことをもってなぜ「原子力を話題にするのを絶対に避けたほうがいい」ということになるのだろうか? そして彼は「原子力発電を続けることはいい解決策だと、僕も以前は考えていた」と言いながら、その考えがどう変わったのかについては具体的に何も語っていないのである。

両親との会話の中でグレタは「それから、原子力について話す人たち……は、原子力のことしか話題にしない。気候危機や環境危機なんて存在しないかのように、原子力のことだけしゃべりたいの。」と言っている。ここでのグレタのコメントは事実に反している。

グレタがここで「原子力について話す人たち」と言う対象が原発反対派のことか推進派のことか、あるいは両者を指しているのかは明確ではない。いずれにしても、原発推進勢力は「気候危機や環境危機なんて存在しないかのように、原子力のことだけ」話してきたわけではない。彼らは地球温暖化が世界的な共通認識になった1980年代以降1貫して、CO2を排出しない原発は温暖化対策に有効であり、気候危機対策のためにこそ原発が必要だと主張し続けてきたのである。グレタはなぜか、その重要な事実をオミットしている。

この本の読者の多くは、グレタは原発に反対だという印象を持つだろう。確かにグレタはこの本の中で原発に批判的な発言をしている。しかしグレタが本当に原発に反対であるなら、日本の一部の環境団体のように「原発にも化石燃料にも反対」と唱えるべきなのだが、彼女は運動の中では原発への反対は1切主張せず、もっぱら化石燃料反対を訴え続けている。彼女は理由不明な父親のアドバイスに忠実に従っているのだ。

2021年9月24日、グレタはドイツに乗り込み、「ドイツは気候変動の最大の悪者の一人だ」と演説した。ここでのグレタには、福島原発事故の教訓に学び脱原発を決めたドイツ政府の功績など眼中にないかのようである。

◆原発の「救世主」となったグレタ

こうして、グレタ・トゥーンベリは原子力発電の「救世主」となった。2011年の福島原発事故によって深刻な打撃を受け息をひそめていた原発推進勢力は、グレタが火をつけた気候運動によって反転攻勢の足掛かりをつかんだ。

グラスゴーでのCOP26開催中の2021年11月9日、フランスのマクロン大統領は「他国に依存せず、温室効果ガスも排出しない電源を確保していくため」福島原発事故以来ストップしていた原発の新設を再開する方針を発表した。

2022年1月1日、欧州委員会はEUタクソノミーに原発を含める方針を打ち出し、7月6日の欧州議会で最終決定した。韓国では2022年5月に発足した尹錫悦政権が、前政権の脱原発政策を転換し、脱炭素推進のためと称して原発回帰にかじを切った。

岸田政権はGX(グリーントランスフォーメーション)を推進して脱炭素社会を実現するという名目で、2023年5月12日にGX推進法を、5月31日にGX脱炭素電源法を、それぞれ国会で可決・成立させた。すべて気候危機対策を謳った原発推進である。

グレタはそうした原発推進の動きに対して反対を表明しない。それどころか2022年10月、ドイツ公共放送ARDのインタビューで、気候保護のために原発は現時点でよい選択かと問われ、「それは場合による。すでに(原発が)稼働しているのであれば、それを停止して石炭に変えるのは間違いだと思う」(『毎日新聞』電子版2022年10月14日付)と答えたことが報じられた。

この発言は原発の積極推進を主張するものではない。しかし世界的な環境活動家グレタが気候危機対策に原発が有用だと改めて認めたことは、世界の原発推進勢力にとって絶大な激励のメッセージとなったはずだ。

2021年に私がグレタさんに1通目の手紙を書いてから2年近くが経つ。返事はまだ来ない。かつて自分自身が語った「原子力は実現可能な代替手段じゃない」という言葉とは真逆の方向に向かっている今の世界の状況を彼女はどう見ているのだろうか。あるいは、これは彼女自身の当初の目論見通りの結果なのだろうか? グレタの運動は、原子力を「実現可能な」代替手段として蘇らせる上で、大きな役割を果たしてきたように見える。

私は折りを見て、彼女に2通目の手紙を書きたいと思っている。「あなたが本当に地球環境を憂うるなら、原発廃絶のためにこそ運動してほしい」と。(完)

気候危機運動の旗手 グレタ・トゥーンベリさんへの手紙
〈前編〉彼女がダボス会議で行った演説内容への疑問
〈後編〉そして彼女は原子力発電の「救世主」となった

本稿は『季節』2023年秋号(2023年9月11日発売号)掲載の「グレタ・トゥーンベリさんへの手紙」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ・こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで

《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫

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米国の外交政策を考えるときに、欠くことができない視点がある。それは全米民主主義基金(NED = National Endowment for Democracy)による世論形成のための工作である。

NEDは1983年に当時のロナルド・レーガン米国大統領が設立した基金で、ウエブサイトによると、「海外の民主主義を促進する」ことを目的としている。言葉を替えると、米国流の価値観で他国の人々を染め上げ、親米政権を誕生させることを目的に設立された基金である。そのための助成金を、外国のNGO、市民団体、それにメディアなどに提供してきた。「第2のCIA」とも言われている。

台湾政府とNED(全米民主主義基金)の面々。台湾のIT大臣・オードリー・タンの姿もある

NEDの活動の範囲は広く、毎年100カ国を超える国と地域のさまざまな組織に対して、2,000件を超える助成金を拠出している。NEDの財源は米国の国家予算から支出されるので、助成金の支出先、支出額、支出の目的は年次報告書で公開されている。従って年次報告書を見れば助成金の中身が判明する。(ただし、支出先の団体名までは追跡できない。)

2021年11月18日付けのキューバのプレンサ・ラティナ紙は、NEDによる助成金の特徴について、次のように述べている。

「米国民主主義基金(NED)が2021年2月23日に発表した昨年のキューバ向けプログラムに対して割り当てられた資金についての報告書によると、42のプロジェクトのうち、20がメディアやジャーナリストの活動に関連するものだった。割り当て額は、200万ドルを超えている」
 
NEDが採用したのは、キューバの左派政権を転覆させるための世論形成にメディアを動員する戦略だった。メディア向けのプロジェクトが全体の半数近くに及ぶ事実は、親米世論の形成が米国の外交戦略に組み込まれていることを示している。実は、この傾向は他の地域におけるNEDの活動でも変わらない。

台湾はNEDの活動が最も活発な自治体のひとつである。今年の1月に行われた総統選挙に焦点を合わせ、NEDと台湾政府の間でさまざまな工作が行われた。この点に言及する前に、助成金の支出先と金額をいくつか紹介しておこう。

◆世界各地で親米プロパガンダ

西側メディアは報じていないが、香港の雨傘運動のスポンサーはNEDであった。たとえば2020年度には204万ドルの助成金が、2021年度には43万ドルの助成金を支出している。日本の主要メディアは周庭を「民主主義の女神」と報じていたが、とんでもない話である。

また、中国の新疆ウイグル自治区と東トルキスタンの反政府運動を支援する団体に対しては、2021年度に258万ドルの助成金を提供している。「中国政府によるジェノサイド」というプロパガンダを拡散するための資金だった可能性が高い。

ちなみに少数民族に接近して、親米世論を形成する手口は、わたしが知る限りでは1980年代にはすでに始まっている。83年にNEDが結成されたちょうどそのころ、ニカラグアのサンディニスタ政権が、同国のカリブ海沿岸に住む少数民族・ミスキート族に迫害を加えているというニュースが盛んに流された。そしてサンディニスタ政権に異議をとなれる反政府ゲリラ・コントラが、ミスキート族の若者を軍に勧誘する事態が生まれた。

当時のNEDの年次報告書は確認できないが、最近の年次報告書では、ニカラグアの反政府組織向けの助成金も確認できる。たとえば2018年には約128万ドルが、2020年には157万ドルが支出されている。

ニカラグアでも香港の雨傘運動に類似した過激な「市民運動」が広がり、2018年にはクーデター未遂事件が起きた。ニカラグア政府が首謀者らを逮捕・投獄したところ、今度はニカラグア政府による「人権侵害」がニュースとして世界へ拡散された。

ベネズエラの反政府運動に対しても、NEDは助成金を支出している。2018年は201万ドルが、2020年には、323万ドルが提供された。

ロシアの反政府運動へも多額の助成金が支出されており、2021年の金額は約1,384万ドルである。この中には、もちろんメディア向けのものも含まれており、「反プーチン」の世論形成を意図した可能性が高い。

1979年7月のニカラグア革命。ニカラグアに反米政権が誕生した

◆だれが台湾海峡の火種なのか?

台湾の民進党とNEDは兄弟のように親密な関係にある。2019年、台湾の蔡英文総統は、NEDのカール・ジャーシュマン代表に景星勳章を贈った。これは台湾の発展に貢献した人物に授与されるステータスの髙い勲章である。2022年11月、NEDは台北で世界民主化運動第11回世界総会を開いた。さらに2023年7月には、蔡英文総統に対して、NEDは民主化功労章を贈った。同年、台湾のIT大臣オードリー・タンは、NEDの設立40周年に際して、ビデオでお祝いのメッセージを送った。

しかし、NEDは台湾に対しては、直接の助成金は支出していない。両者の関係は次のような構図になっている。

2002年、台湾外交部は台湾民主基金会(TFD)を設立した。「世界の民主主義ネットワークの強力なリンクになる」というのが、設立目的である。運営予算は台湾の国家予算から支出される。

その見返りとして、アメリカ政府は巨額の資金援助を台湾政府に直接与えている。例えば、日本の代表的な新聞である日経新聞によれば、アメリカ政府は2023年7月、台湾政府に3億4,500万ドルの軍事援助を行った。

1978年の米中共同声明の中で、米国は中華人民共和国が中国の唯一の合法政府であることを承認した。従って中国政府にとって、台湾におけるNEDの活動は内政干渉にほかならない。

中国は世論誘導などしなくても、台湾を統合する自信を持っていると推測される。と、いうのも経済的に台湾が中国に依存しているからだ。台湾の輸出の3割から4割は中国向けであり、多くの台湾人が中国本土で事業を展開している。経済関係が、そのほかの関係も決定づけるのは、自然の理である。

こうした状況に焦りを募らせるのが、台湾政府と米国なのである。

NEDから民主化功労章を授与された蔡英文総統

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

黒薮哲哉のタブーなき最新刊!『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』

昨年3月7日の”黒船”襲来(つまり英公共放送BBCによるドキュメント放映)以来、わが国の芸能界のみならず社会全体が震撼させられている。言うまでもなく、これまでわが国芸能界を支配してきたジャニーズ帝国の崩壊である。これはその後、宝塚歌劇団の若き劇団員の自死、さらにダウンタウン松本による「性上納」問題へと拡がった。どれもまだ現在進行形で終わりが見えない。

 

『ジャニーズ帝国 60年の興亡』鹿砦社編集部=編

1995年、ジャニーズ事務所による理不尽な出版差し止めによって惹起されたスキャンダル暴露攻勢を始めた際には、まさかここまで来るとは想像だにしなかった。かつてベルリンの壁崩壊が東欧の民主化、そうして巨大なソ連崩壊へと繋がったことを想起する。何度も繰り返して言ってきたが、蟻が象を倒すこともありえ、また針の一穴がダムを崩壊させることもありえるということだ。

四半世紀余りも前からジャニー喜多川による未成年性虐待(当時の言葉で言えば「ホモ・セクハラ」)やジャニーズ事務所による理不尽な芸能界支配を批判、告発してきたわれわれとしては、やはりその〈集大成〉、あるいは〈総決算〉を行う必要がある。

しばらくは事態の推移を眺め、マスメディアからの取材協力要請に協力しつつも、途中からそれに違和感を覚え、『文春』よりも以前から立て続けにスキャンダル暴露に務めてきた立場は、これだけでも自負できることで、今夏から急遽集大成的な書籍をまとめる作業に集中した。

私は長年の不摂生が祟り目の疾患で編集実務が十分にできなくなり編集者としては役立たずになっているが、そうも言ってはおれず執念でことに当たった。

そうして世に送ったのが『ジャニーズ帝国60年の興亡』だ。A5判、2段組み、320ページの大部の本になった。東京新聞紙上で斉藤美奈子さんが「労作」と正当に評価してくれた。他にも幾つか正当に評価してくれた記事を見た。

『東京新聞』2023年11月22日付け

ところで、鹿砦社に対して斉藤美奈子さんにしても栗原裕一郎氏にしても「イエロージャーナリズム」といったイメージで見てきたようだ。2人ともみずからそう言っている。「イエロージャーナリズム」の対極に立派な本来の「ジャーナリズム」なるものがあるのかわからないが、立派な本来の「ジャーナリズム」がこれまでジャニー喜多川による未成年性虐待を放置し隠蔽してきたことに比べればマシだと思う。

また、栗原氏は「小出版社の孤独な奮闘が見直されることにもなった」と評価する一方で、「夥しく出版されたジャニーズ関連本にも怪しげなものが多い」とも詰る。これらジャニーズ関連本、とりわけスキャンダル系、告発系のものには直接私がすべてにわたり精魂込めて編集に関わったので、一冊たりとも「怪しげなもの」はないと自認する。

『週刊読書人』2024年1月5日号

思い返せば、ジャニーズ関連本にも、パチスロ界の雄・アルゼ(現ユニバーサルエンターテインメント)に対する本(4点)でも、さらに大学院生リンチ事件(しばき隊リンチ事件)に対する本(6点)でも、力を抜いたものはなく、生来鈍愚な田舎者である私は精魂込めて「奮闘」した。

その〈返り血〉は、決して小さくはなかった。逮捕・勾留(192日)もされ有罪判決も受けた(このことにより新規の銀行口座も作れなくなった。複数の金融機関を提訴し争ったがすべて敗訴)し巨額な賠償金も支払った。賠償金含め訴訟費用は1億円を越す。安全圏から、あれこれ講釈を垂れるのではなく、みずからが当事者となり身銭を切って「奮闘」してからものを言って欲しいものだ。

鹿砦社のアルゼ告発書籍

いわゆる「イエロージャーナリズム」には「イエロージャーナリズム」の意地がある。元々「芸能人にはプライバシーはない」とする私(たち)にとって、芸能人のプライバシーを時に侵害するのもやむをえない。芸能人たる者、みずからそういう職業を選んだのだから──。

最近、同世代の死が相次いでいる。齢72、もうわれわれの時代ではない。『ジャニーズ帝国60年の興亡』は、私の拙い出版人生の〈集大成〉の一つである。

今、まことしやかで、きれいな言論が増え、「怪しげな」「イエロージャーナリズム」はほとんど見当たらなくなった。そうした中で「孤独な奮闘」をするのもおつなものだ。われながら特異な出版人生だったな(苦笑)。

(松岡利康)

鹿砦社編集部編『ジャニーズ帝国 60年の興亡』A5判 320ページ 定価1980円(税込み)

【主な内容】
Ⅰ 苦境に立たされるジャニーズ
  2023年はジャニーズ帝国崩壊の歴史的一年となった!
  文春以前(1990年代後半)の鹿砦社のジャニーズ告発出版
  文春vsジャニーズ裁判の記録(当時の記事復刻)
 [資料 国会議事録]国会で論議されたジャニーズの児童虐待

Ⅱ ジャニーズ60年史 その誕生、栄華、そして……
1 ジャニーズ・フォーリーブス時代 1958-1978
2 たのきん・少年隊・光GENJI時代 1979-1992
3 SMAP時代前期 1993-2003
4 SMAP時代後期 2004-2008
5 嵐・SMAPツートップ時代 2009-2014
6 世代交代、そしてジュリー時代へ 2015-2019
7 揺らぎ始めたジャニーズ 2020-2023

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◆核兵器禁止条約発効から3年

2024年1月22日。核兵器禁止条約発効からちょうど3年になります。核兵器禁止条約は、市民運動が国際的にスクラムを組んで、国家を動かしてできた条約です。1月15日にサントメ・プリンシペが批准し、70か国が加わる条約となっています。

米露中英仏や印パ、朝鮮、イスラエルの核兵器保有国を市民の横のつながりで包囲していく。その先頭に立たなければならないのは、やはり広島です。最近の広島市の松井市長は、平和記念公園とパールハーバーの姉妹協定など、原爆投下の反省がいまだない米国政府に忖度する方向に走っています。

しかし、広島市がリードする平和首長会議には、ホノルルはじめ多くの米国など核保有国の自治体も参加しており、核兵器禁止条約を推進しています。こうした自治体やそこに住む市民の横のつながりを大事にしたいものです。

◆四国電力側は「爆睡モード」(?!)の弁護士も 原告本人最終尋問

その1月22日、広島地裁では筆者も原告である「伊方原発運転差止広島裁判」の原告本人最終尋問が行われました。

原告を代表して広島市在住の会社員・森本道人さんと福島県南相馬市から京都に避難中の福島敦子さんが出廷し、原告・被告双方の弁護士からの尋問を受ける予定でした。

しかし、実際には、原告側の弁護士による主尋問のみが行われました。その間、被告の四国電力側の弁護士の中には居眠りどころか爆睡モードではないかと疑われる状態の方もおられました。

そして、裁判長に「被告側、反対尋問はありませんか?」と聞かれると、原告側の主任弁護士が「ありません」と答え、あっさり、二人の最終尋問は終わりました。

◆広島市民/フクシマからの避難者 それぞれの立場で熱弁

被告弁護人の一部が爆睡モード(?)だからと言って、原告弁護士による尋問への回答という形での原告お二人の訴えに迫力がなかった、というわけではありません。それぞれの立場で熱弁を振るわれました。

森本道人さんは広島市在住。一部上場の大手化学会社の製造設備の技術者で、2011年3月11日には千葉県市原市で東日本大震災に遭遇しました。地震の翌日、広島に帰る新幹線の中でニュースのテロップで原発の爆発を知ります。そして、屋内退避指示などのニュースを見て「原発とは、放射線とは、恐ろしい、許しがたい」と思ったと振り返りました。

そして、その後、自分なりに勉強され、日本の放射線規制はICRP(国際放射線防護委員会)の勧告をもとにしていて、それは広島のABCC(現・放影研)の調査をもとにしていること、内部被ばくを過小評価していること、欧州放射線リスク委員会などからは見直しを勧告されていることなどを知りました。そして、経産省のエネルギー白書でも電気の消費量が下がり続けていること、使用済み核燃料の最終処分場も決まっていないことなどをあげ、伊方原発の停止を求めました。

福島敦子さんは2011年当時、原発から20kmの福島県南相馬市に在住。下水処理場の水質分析の仕事に従事していました。年収300万円くらいで正社員、職場環境は良好だったそうです。二人の娘は小学生で、福島さんの両親も歩いて15分の所に在住で、5人で仲良く生活していました。

しかし、3月11日に地震が発生。その日は、職場の片づけや、地震で壊れた下水処理場への対応などで帰れず、帰宅は12日の午前0時過ぎに。翌日も午前中は出社し、午後は自宅の片づけをしていたところ、突然、防災無線が鳴り、避難を呼びかけてきたのです。

しかし、屋内退避のほかはどこへ避難しろという指示も行政からはなく、そうした中で、車でその夜には娘二人と両親と5人でまず飯館村へ避難。しかし、飯館村へ向かう道は大渋滞で、同村の道の駅も長くとどまれる状況ではなく、押し出されるように川俣町の警察署へ移動し、そこの駐車場で一夜を過ごしたそうです。

そして、翌13日に福島市の飯坂温泉に避難。そこでは、「死ぬときは死ぬんだ」があいさつ代わりになっていたそうです。

ただ、なぜか、福島さんが避難していた福島市などは放射線量が高かったのです。のちに、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)で、福島第一原発から北西方向の飯館村―福島市に放射能が濃く飛び散ったことが明らかになったのですが、そんなことも知らずに、当時の福島さんたちは放射線が高い地域に長くいてしまったわけです。

その後、14日に3号機爆発、15日に4号機爆発、そして、19日に職場の元上司からプルトニウムが原発敷地外で発見されたことを聞いて、さらなる遠方避難を決断。京都へ移り、南相馬の会社は退職。京都府内で非正規公務員を経て、就活に苦戦しつつも契約社員として働くようになったのです。

両親とは別れ別れになってしまった。子どもたちも祖父母とは別れ別れになってしまいました。

現在、国は避難区域の人たちへの医療補助を削減しようとしています。また、福島さんが原告団長となっている京都での避難者訴訟では、国や東電は、なんと「賠償金を払いすぎたので返してほしい」ということまで言いだしたのです。

だが、現実には、現在でも現地では山火事が起きれば、放射線量が一挙に上がる状況もあります。福島さん自身も一度、南相馬に車で帰り、放射線量を測定し、福島市でも1mSV/年を余裕で超えてしまう場所もあることを確認したそうです。また、能登北陸大震災で北陸電力による志賀原発のトラブル隠しに対して、2011年の東電と同じことを繰り返している、と断罪しました。

二度と、自分と同じ思いをする人が出てほしくない。原告となった理由を福島さんはずばり述べられました。

広島の被爆者が、核兵器に反対するのと同じ理由です。

◆7月17日(水)、最終弁論へ

尋問終了後、大浜寿美裁判長は、原告・被告双方に、新たな主張は4月26日までに提出すること、7月1日を最終準備書面の期日とし、7月17日(水)を最終弁論とする、と言い渡しました。

◆「元日大震災」で破綻明白な地震想定・避難計画 見直し迫る判断を

さて、この間、1月1日には、M7.6の北陸能登「元日」大震災が発生しました。能登半島の広い範囲で地盤が4mも隆起しました。志賀原発の過酷事故は避けられたものの、復旧までに半年以上かかる大ダメージを受けました。能登半島ではもっとも壊滅的な被害が出た珠洲市にも2003年までは原発計画が存在していました。しかし、地元の住民の反対運動で撤回されました。

その原発予定地は、今回の大震災で孤立集落になっています。孤立集落が生じるということは、原子力防災計画も機能しないということです。福島の場合は、そうはいっても道路などは崩れていませんが、能登半島のように崩れていれば避難も出来ません。

また、原発が孤立すれば、震災で原発にダメージがあっても、電力会社の社員も応援に駆け付けられず、それこそ、フクシマを上回る事故になっていた可能性が高かった。

被害に遭われた地元の皆様には心からお見舞い申し上げるとともに、しかし、皆様が「珠洲原発」を阻止したことが、大げさではなく日本を救ったと言わざるを得ません。

今回の「元日」大震災では、3つ以上の向きも角度も異なる活断層が同時に動きました。今までは、向きや角度が異なる活断層が連動するということは国も想定していませんでした。

しかし、そうした地震が実際に起きてしまった以上、地震動についての基準も見直す必要があります。ひずみが近くに溜まれば、あまり注目されていない断層も動いて大地震を引き起こす。そもそも、日本列島自体が、地震で地形ができているようなものである。

当然、伊方原発についても、それは見直される必要があります。国に、伊方原発についても基準を見直すよう迫る判断を裁判所には求めます。

◎伊方原発運転差止広島裁判 https://saiban.hiroshima-net.org/

◎原発賠償訴訟京都原告団を支援する会 http://fukushimakyoto.namaste.jp/shien_kyoto/ 

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年冬号

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年2月号

広島市長、教育勅語引用の抗議に反論 『使い方とかけ離れた議論』」と1月19日付の朝日新聞の記事を目にした。

見出しだけではさっぱり意味が分からない。まさか「平和都市」を標榜する原爆被爆地の市長が、21世紀に「教育勅語」を真顔で持ち出すことなどはあるまい、とは思ったが時代が時代であるので、真相がわからない。広島市役所に電話をしてことの次第を聞いた。

◆広島市長は「温故知新」の解説例として「教育勅語」を利用した?

広島市の代表番号に電話をかけ、問い合わせ内容を伝えたら、教育委センターに繋がれた。

── お待たせしました。広島市研修センターのキョウゴクと申します。

鹿野 お邪魔します。市長が職員の研修に「教育勅語」を使っていると報道で知りました。事実でしょうか。

── はい。

鹿野 どのように「教育勅語」を使っているか、教えて頂けますか。

── 研修の中でということですかね。

鹿野 はい。

── 市長としましては職員研修の中で、市長が大事にされている考えがありまして、それが「温故知新」という考え方なんですけど。それでまあ、先輩が作り上げたものや良いものはしっかりと受け止めて、後輩に繋ぐことが重要であるということともに、一つの事象の中に「良い点と悪い点」が混在していることもあるので、全体を捉えて「良い」とか「悪い」を判断するのではなく、中身をよく見てから、多面的に物事を捉えることが重要です、ということを説明する中で、その中で、教育に関する一例として「教育勅語」を紹介している、と伺っております。

鹿野 ということは「温故知新」を解説される例として「教育勅語」を利用されているということでしょうか。

── ええ。

鹿野 引用されている「教育勅語」を市長はどのように解釈なされているのでしょうか。

── 解釈をしているというのは……。市長としましては、まず「教育勅語」そのものを評価する、ということではないんですけども。また研修の中ではですね、「教育勅語」自体は国会において排除などが決議されたもの、とは紹介はしているのですが、そういったものであったとしても自ら検証をすること、考えてみることを通じて「温故知新」を極めることに繋がるのではないか、と考えているのが市長の思いの一つではあるんですよ(注:太字は筆者)。

鹿野 「教育勅語」はそれほど長い文章ではありませんが、どの部分を「温故知新」と関係あると考えて引用なさっているのでしょうか。

── どの部分をということですかね? 新人研修で引用している部分ですけども、

「爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信シ
恭儉己レヲ持シ博愛衆ニ及ホシ學ヲ修メ業ヲ習ヒ
以テ智能ヲ啓發シ德器ヲ成就シ進テ公益ヲ廣メ……」

この部分を載せているという状況です。

鹿野 それは「温故知新」とは関係ない部分です。

── あ、あ、あ、貴重なご意見ありがとうございます。

鹿野 「爾臣民父母」からの部分は、父母に敬意をもって、兄弟仲良くして、という文章です。

── ええ。

鹿野 当該部分の言葉はそれ以外の解釈は出来ません。

── あ、ああ。貴重なご意見ありがとうございます。

鹿野 意見ではありません。日本語ですから。文字通りに理解すれば「温故知新」とはまったく関係がありません。

──  あの「教育勅語」自体を一例として取り上げるために、一部を抜粋してここに載せている、ということだと思うのですけども。

◆「良いものです」とか「悪いものです」と画一的にとらえて判断することではなくて……

鹿野 市長は「温故知新」を大切にしているので、それを説明する資料として「教育勅語」の一部を使っている。

──  いや、あのー、こちらがお伝えしたいのは「温故知新」の考え方が市長にとっては大切だということですけど、その中で一つの事象があった時に、その事象を、たとえば「良いものです」とか「悪いものです」と画一的にとらえて判断することではなくて、中身を自分の目で検証する行為。で、多面的に物事を考えることが重要だということを説明するということで、そういったことを受講者に伝えたいということで、例としてですね、一部抜粋という形ですが、全文を載せるということではなく抜粋して、「教育に関する勅語」を一例として紹介しているということです。

鹿野 市長は正しいかそうでないか「自分で検証しなさい」と研修対象者の方に語っている。

── ええ、そうですね。

鹿野 わたしは市長が語っていること(自分で検証する)を今しているのです。そもそも「温故知新」をどのように理解なさっていますか。

── 以前学んだことですとか過去、昔の事柄をもう一度調べ直したり、考え直すことによって、新しい道理とかそういった知識を深堀したり、とかですね、そういったことかなと思ううんですが。間違ってますでしょうか。

鹿野 「温故知新」四文字です。理解の幅はあるかもしれませんが、文字通り解釈をすれば、「故きを温ねて新しきを知る」との故事と解釈いたします。

── 文字通りの意味ということですね。

鹿野 「温故知新」を大切にしている市長が、先ほど聞いた部分を引用されたうえで、研修をなさっている。

── そうですね。講義をしているということです。

◆「教育勅語」は世界的に民主主義が勃興していている状況を、日本語にして民主主義を謳ったもの?

鹿野 引用された「教育勅語」が「温故知新」とどのように関連するのですか。

── どの部分が、ということですかね。

鹿野 引用されている箇所は「爾臣民父母ニ孝ニ兄弟……」ですね。

── ええ、ええ。

鹿野 この部分のどこにも「故きを温ねて新しきを知る」部分は見当たらないのではないですか。

── あ、ああ、そういうご理解をされているということですね。

鹿野 いえ、理解ではなく文言だけを読んでです。この部分をどう理解すれば「故きを温ねて新しきを知る」を見いだせるのか分からない。

── 「教育勅語」は戦争が終わった後に、日本人を戦争に持ち込んでいく、という表現が正しいかどうか、あれなんですけども。そういった中で「教育に対する勅語」が戦争が終わった後に、国会において排除等が決議された過去のものということ、を伝えてはいるんですけども。その中で「教育勅語」の言葉の一部を引用しているんですが、抜粋してあるものと、その上に英訳も書いてあるんですよ。実際の資料の中には。市長としましては英訳文とですね、幕末から明治期にかけて世界的に民主主義が勃興していく時代にかけて、「教育勅語」を日本語に訳して漢文調にしたと、説明をしているのですが。(注:太字は筆者)

鹿野 ということは、「教育勅語」は世界的に民主主義が勃興していている状況を日本語にして、民主主義を謳ったものだと、取りあげられていらっしゃるのですか。

── うーん、そういう……どういったらいいでしょうか。

鹿野 あなたのおっしゃったことを復唱しているだけです。

── あの……お伺いしたいいですけれども、よろしいですか?

鹿野 はい。

── あなた様の希望としましては現在「教育に関する勅語」を広島市において新規職員採用研修で一部を引用している、という状況があるのですが、その引用を止めてほしいということですか?

鹿野 いいえ。先ほど来申し上げている通り、お尋ねをしたくて電話しています。まったく意味が理解できない。だからわたしの疑問点をお尋ねしているだけです。

── 疑問を感じているということですか。

鹿野 わたしは、わからないのです。

── は、はあ。それは「教育に関する勅語」を一部引用している箇所が、「温故知新」に合う考え方ではないからわからないと。

鹿野 いいえ。「温故知新」を市長が大切にしていることも電話するまで知りませんでした。

── あ、あ、はい。繰り返しで申し訳ありませんが、あなた様がわからないと言われているのは、「教育勅語」を引用している部分について、なぜこの部分を引用していることが分からない、ということですか。

鹿野 先ほど仰った「教育勅語」は一度国会で排斥された歴史があること、及びわたしは「教育勅語」全文を暗記しております。その経緯を鑑みて「教育勅語」を、どのような意図で引用されどのような目的で研修でお使いになったか、それが知りたいのでお尋ねしています。

── 研修資料にそのように使っているとお伝えしました。

鹿野 はい。ただ市長が「温故知新」を大切にされているから、その資料にだと。

── はは、そこで「教育勅語」とどう繋がっているかが分からい、ということですか。

鹿野 そうです。

── (しばらく無言)

鹿野 いかがでしょうか。

(中略)

── この文(「教育勅語」)からは「温故知新」が読み取れないということですね。

鹿野 引用箇所として教えて頂いた部分に、日本語の解釈上「温故知新」に関わる文言はありません。

── こちらが引用している部分について「温故知新」に関わる部分はない?

鹿野 「こちら」ではなく、市長が引用しているのではないですか。

── ええ、そうです。(無言)

◆「教育勅語」の文章の全ての主語は「朕」ですから

鹿野 再度伺いますが「教育勅語」から引用している箇所に、「温故知新」と結びつく部分はありますか。

── 引用している部分が直接「温故知新」のものかどうかは解釈が、感じ方や捉え方はあると思うんですけど。「教育勅語」自体が過去に国会で排除等の決議がされたものであったとしても、それ自体をも自ら検証して考えるという行為が「温故知新」を極めてゆくことに繋がるんじゃないか、という思いを込めて説明をしていたんですけども(注:太字は筆者)。

ただ、引用箇所についてのご意見を今頂きましたので、それはこちらの職場の中でもでも共有はさせていただきたいと思います。

鹿野 はじめのお答えと違いますね。一度国会で排斥されたものであって、もう一度検証することによって「教育勅語」の正当性があると市長は考えていると。

── 自ら考えてみることが「温故知新」を極めることに繋がっているということで……・

鹿野 天皇の命令により人々を従わせた文言が、敗戦により国会で排斥された。「教育勅語」がです。その中にもう一度価値を見出せ、ということですね。

── いいえ「朕は」という部分は除いた部分で……(注:太字は筆者)。

鹿野 そのような解釈は無理です。この文章の全ての主語は「朕」ですから。

── ご意見ありがとうございます。

鹿野 意見ではありません。もう結構です。

※   ※   ※   ※

勅語(文部省より全国の諸学校に交付されたる教育に関する勅語)

まったく話にならない。「主語」の意味すら理解していない広島市役所の職員は、市長の行為にもかかわらず「教育勅語」を研修で用いることの正当性を、職務上の義務であるかのように、支離滅裂な回答を続けた。

まさか、とは思ったが広島市長は新人職員研修に、なんの躊躇もなく「教育勅語」を利用している。しかも調べてみると松井一実は広島市長に就任した翌年の2012年から昨年まで10年以上「教育勅語」を使い続けている。

わたしの問いに応じた教育センターの「キョウゴク」氏の言葉は、あたかも「教育勅語」の不当性を指摘することが不当であるかのように、不思議。不満気であった。キョウゴク氏の応対は新人職員研修が論理破綻した人間を創り上げることの証左と見るべきか。

「教育勅語」には評価すべき点などまったくない。なぜならば、本文でいくら美談が述べられようとも、この文章全体の主語が「朕(天皇)」だからである。天皇は私人や一般の公人、貴族とも違い、明治憲法上「不可侵」であり「神」扱いされていた存在だから(こんな基礎的な事実は繰り返す必要もないだろうが)天皇の発語は批判を許さない、絶対語だったのだ。

時代錯誤も甚だしい、皇国史観の片鱗(教育勅語)を平然と原爆を落とされた広島市長が使い続けるている。第二次世界大戦敗戦による「戦後」は、広島市においても広島市民みずからのの手(市長選挙)で蹂躙され、時代は既に「戦中」である。呆れてしまうが、呆れている場合か。

広島市長、松井一実が「教育勅語」を10年以上にわたり職員研修に利用している事実は、まず広島市民によって、最大級に指弾されなければならない。

◎[関連記事]これで「平和都市広島」を名乗れるのか? 新人研修に「教育勅語」を11年以上使用してきた松井一實市長にびっくり仰天!(さとうしゅういち)

▼鹿野健一 (しかの・けんいち)
1965年兵庫県西宮市生まれ。複数の企業と大学に勤務の後、現在はフリーライター。国際情勢・政治・教育・冤罪・原発などに関心を持つ。反原発季刊誌『季節』副編集長。単著『大暗黒時代の大学』(鹿砦社)。共著『オイこら!学校』(教育資料出版会)、『1970年端境期の時代』、『抵抗と絶望の狭間/1971年から連合赤軍へ』(鹿砦社)など。

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◆気候危機運動の旗手 グレタ・トゥーンベリの誕生

グレタ・トゥーンベリは、オペラ歌手のマレーナ・エルンマンと俳優スヴァンテ・トゥーンベリの長女として2003年1月3日ストックホルムで生まれた。2011年に気候変動について初めて知り、なぜ気候変動の対策がほとんど行われていないのか理解できなかったため、落ち込んで無気力になり、その後アスペルガー症候群と診断された。

2018年8月、15歳のグレタは「気候のための学校ストライキ」という看板を掲げて、より強い気候変動対策をスウェーデン議会の前で呼びかけを始めた。他の学生も自分のコミュニティで同様の抗議活動に参加し、「未来のための金曜日(Fridays for Future)」の名前で気候変動学校ストライキ(School Climate Strike)運動が組織された。グレタが2018年12月のCOP24で演説して以降、学生ストライキは世界各国に広がり、世界の若者の間に気候危機運動が大きな広がりを見せた。

◆「グレタ・トゥーンベリ 気候変動の最前線をゆく」というTV番組

私は2021年7月18日にBS朝日から放映された「グレタ・トゥーンベリ気候変動の最前線をゆく」という番組を視聴した。この番組はBS朝日のホームページで以下のように紹介されている。

「世界で最も影響力を持つ環境活動家、グレタ・トゥーンベリ。その力強いスピーチで、人々の心を動かしてきた彼女は、次のように打ち明けます。『私の声ではなく、科学に耳を傾けてほしい』。この番組は、18歳を迎えた彼女が、大学を休学して世界中を旅した1年間に密着。各地の国際会議に赴き、演説を行う舞台裏や、気候変動の実態に触れるため、世界中の様々な土地を訪ね、科学者たちと対話を重ねる姿を記録します。……英国BBCが制作した最新の2作を解説情報とともにお届けします。」

番組ではグレタが、①カナダ・ジャスパー国立公園、②カナダ・アサバスカ氷河、③アメリカ・カリフォルニア州パラダイス村、④スウェーデン・ヨックモック、⑤ポーランド・ベウハトゥフ石炭発電所、⑥スイス・ボンド村などの気候変動の現場を訪ね歩く姿が映し出されていた。

⑤ポーランド・ベウハトゥフ石炭発電所の場面についてBS朝日のHPでは「EU域内で最大の石炭発電所であり、最もCO2を排出している施設を訪ね、当事者と対話する。化石燃料からの脱却の難しさを学ぶ。」と紹介されている。

グレタはポーランドの火力発電所を視察し、それに続いて廃坑になった炭坑を訪れ元炭鉱労働者たちと交流する。炭坑の中でグレタは元炭鉱労働者たちに歓待され、「私たちはエネルギー転換のために職を失ったが、私たちはあなたの考えは正しいと思う。今後もぜひ頑張ってほしい」といった励ましの言葉を受ける様子が映し出される。

その後、その体験を踏まえてダボス会議(2020年1月21日)で演説し、以下のように言う。

「先週私は職を失ったポーランドの炭坑労働者の方々と会いました。彼らでさえ諦めていませんでした。むしろ変わらなければならないという事実をあなたたち以上に理解していました。」

私はこの発言に問題を感じた。なぜなら、グレタが訪れたポーランドでは再生エネルギーに加えて代替主力電源として原発の建設が進められており、将来的には代替電源の約5割を原発でまかなう予定になっているからである。その事実と考え合わせると、彼女の発言は代替電源としての原発の推進を擁護しているように聞こえる。

◆グレタ・トゥーンベリさんへの手紙

彼女の発言の背景には、原発の危険性や有害性の認識の不足があると考え、私は彼女に手紙を書くことにした。そして以下の手紙を英文で書いて2021年9月1日に送った。

 グレタ・トゥーンベリ様

 私は日本の東京に住む市民です。

 今回お手紙を差し上げたのは、最近日本で放映された、あなたの活動を紹介するテレビ番組を見て思うことがあったためです。番組の中であなたはポーランドの石炭火力発電所を視察し、続いて廃坑になった炭鉱を訪れ、元炭鉱労働者たちと交流されていました。そしてその体験をもとにダボス会議で演説し以下のように発言されました。「先週私は職を失ったポーランドの炭坑労働者の方々と会いました。彼らでさえ諦めていませんでした。むしろ変わらなければならないという事実をあなた達以上に理解していました。」私はあなたのこの発言に疑問を感じました。なぜならポーランドでは代替電力源として原発の建設が進められており、将来的には代替電源の約5割を原発でまかなう予定だと聞いているからです。その事実と考え合わせると、あなたの発言は代替電源としての原発の推進を擁護しているかのように聞こえてしまいます。

 ご存じのように、日本のフクシマでは2011年に深刻な原発事故が起きました。事故後、放射能汚染から逃れるため何万もの人々が避難生活を余儀なくされ、10年経った今もその多くが故郷に戻れないままなのです。私たち日本人の大多数は、もうあのような恐ろしい事故被害をもたらす原発は使用したくないと思っています。そして私はまた、他のどの国においても原発を推進してほしくないと思っています。なぜなら原発事故がひとたび起きれば、放射能汚染が国境を越えて広がるからです。1986年のチェルノブイリ事故の際そのような事態が起きたことをあなたもご存じのことと思います。

 私はあなたが、地球環境の向上のために勇気ある行動を続けてこられたことを知っています。しかし今私があなたに知っていただきたいと思うことは、日本に住む人々にとって環境への最大の脅威は原子力発電だということです。私は先日のテレビ番組の中であなたが世界各地の気候変動の現場を訪ねて歩く姿を拝見しました。私は、機会があればぜひあなたが日本に来てフクシマの現状を見ていただくことを希望します。そして、原発による環境破壊の実態を直接見ていただき、原発により苦難を味わっている多くの日本人の願いを感じ取っていただきたいと思います。

どうか、今後あなたが活動を進める際、深刻な環境破壊の実例であるフクシマを念頭に置いてください。そして、あなたの発言や行動が原子力発電の推進につながることがないよう配慮してください。そのことを私は日本の一市民として切に望みます。      敬具

(つづく)

本稿は『季節』2023年秋号(2023年9月11日発売号)掲載の「グレタ・トゥーンベリさんへの手紙」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ・こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号

通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫

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