ニュージャパンキックボクシング連盟からチャンピオン二人を迎えた今回の新日本キックボクシング協会興行「MAGNUM 53」。

勝次はタイミング悪いスリップ気味ノックダウンを奪われ判定負け。勝てる試合を落とした印象が残る。

高橋亨汰はベテラン健太から効かせたノックダウンを奪う判定勝利。新日本キックボクシング協会の新しいメインイベンターに迫りつつある存在となった。

アルゼンチンから来日、伊原ジムに所属し、2018年5月、デビュー1年で王座獲得したリカルド・ブラボは、その後もムエタイ・ラジャダムナンスタジアム出場も経験し、着実に力を付けて来た中、パンチの連打で順当にイベント「TENKAICHI」からの刺客、幸輝を仕留めた。

女子キックの七美 vs KAEDEは男子に劣らぬ高度な蹴り合いを見せる展開で、女子キック界そのものの実力向上が感じられる試合となった。

◎MAGNUM 53 / 10月25日(日)18:00~20:06
主催:伊原プロモーション / 認定:新日本キックボクシング協会

◆第8試合 63.6kg契約3回戦

WKBA世界スーパーライト級チャンピオン.勝次(藤本 / 63.5kg)
    VS
NJKFスーパーライト級チャンピオン.畠山隼人(E.S.G / 63.05kg)
勝者:畠山隼人 / 判定0-2 / 主審:少白竜
副審:椎名28-28. 宮沢28-29. 仲28-29

勝次の右ストレートも畠山隼人の顔面をかするところまで

飛びヒザ蹴りを読まれたか、畠山隼人の右ストレートでノックダウンを奪われる勝次

開始早々から畠山のパンチの幾つかが勝次の顔面にヒットし、左コメカミ辺りが赤く腫れ始め、勝次はやや印象悪いスタートから畠山のパンチに合わせて蹴りとやパンチで探りを入れていく。勝次は飛びヒザ蹴りで畠山をコーナーに追い込むが、畠山は想定内と見えるディフェンスでパンチを返す。

第2ラウンドには勝次のローキックが畠山の左足にヒットし始め、畠山の動きを弱める効果が出てきたが、畠山も勝次の動きに合わせて蹴りとパンチで返し、明らかな差は出ない展開。

第3ラウンド、勝次はパンチと蹴りで畠山をコーナー付近に追い詰めたが、飛びヒザ蹴りを放って着地する辺りで連打から右ストレートを浴びてしまい、ノックダウンを取られてしまった。押されて尻もちを付くようにダメージは無く、勝次は立ち上がり反撃をするも、残り時間は少なく畠山は凌いで終了した。

畠山隼人に打たれて下がるシーンも幾度か見られた勝次

反撃もヒットしない勝次、焦りが見え始める

◆第7試合 70.0kg契約 5回戦

日本ウェルター級チャンピオン.リカルド・ブラボ(伊原 / 69.9kg)
    VS
幸輝(インター/ 69.5kg)
勝者:リカルド・ブラボ / TKO 2R 1:35 / 主審:桜井一秀

第1ラウンドに様子見からリカルド・ブラボが左フックでノックダウンを奪い、その後、連打でスタンディングダウンを奪うが、両者のローキックの攻防は強く速く、幸輝がリカルド・ブラボを下がらせる展開も見られていた。第2ラウンドにはリカルド・ブラボが再び連打から左フックで幸輝を仕留めると、強いダメージを負った幸輝をレフェリーストップされて終了。

パンチ力ではリカルド・ブラボが優った

リカルド・ブラボが連打で倒すと幸輝は立ち上がれず

◆第6試合 62.0kg契約 5回戦

日本ライト級チャンピオン.高橋亨汰(伊原 / 61.85kg)
    VS
健太(前WBCムエタイ日本ウェルター級C/E.S.G / 61.65kg)
勝者:高橋亨汰 / 判定2-0 / 主審:椎名利一
副審:宮沢48-47. 少白竜48-48. 桜井48-47

距離を取った中でのパンチと蹴り中心の展開は互いに主導権を奪うに至らないが、高橋亨汰は顔面前蹴りもあり、健太に調子付かせない圧力があった。後半に向かうにつれ徐々に健太がベテランの読み深さがある接近戦で、プレッシャー与えるように出てヒジ打ちの圧力で巻き返しも見られる。

最終ラウンドで健太がパンチやヒジ打ちで攻勢を掛けたところで高橋亨汰の右フックがカウンターでヒット。健太からノックダウンを奪うと更に顔面前蹴りで圧倒するも健太は組み合って凌ぎ、高橋亨汰が判定勝利を掴む。

高橋亨汰のカウンター右フックが健太にクリーンヒット

ベテラン健太からノックダウンを奪って勝利を決定づけた高橋亨汰

高橋亨汰がノックダウンを奪った後の前蹴りが健太のアゴにヒット

◆第5試合 53.0kg 契約3回戦

泰史(元・日本フライ級C/伊原 / 53.0kg)
    VS
景悟(LEGEND / 52.5kg)
引分け0-0 / 主審:仲俊光
副審:椎名29-29. 少白竜29-29. 桜井29-29

泰史が追い、多彩に攻めてロープ際に追い込む展開も、景悟もヒジ打ちやヒザ蹴りの的確なヒットで劣勢を免れる。印象点は泰史の前進にあるが、景悟のヒットは泰史を上回り、差が付き難い終了となった。

泰史の前進する圧力でのハイキック、この後、景悟も多彩に返していく

◆第4試合 女子スーパーバンタム級3回戦(2分制)

七美(真樹オキナワ / 54.95kg)
    VS
KAEDE(LEGEND / 55.2kg)
勝者:KAEDE / 判定0-3 / 主審:宮沢誠
副審:椎名28-30. 仲28-30. 桜井28-29

◆第3試合 女子54.0kg契約3回戦(2分制)

アリス(伊原 / 52.3kg)
    VS
上野hippo宣子(ナックルズ / 53.5kg)
勝者:アリス / 判定3-0 / 主審:少白竜
副審:椎名30-27. 仲30-29. 宮沢30-28

◆第2試合 女子49.0kg契約3回戦(2分制)

オンドラム(伊原 / 48.8kg)
    VS
ERIKO(ファイティングラボ高田馬場 / 48.75kg)
勝者:ERIKO / 判定0-3 / 主審:桜井一秀
副審:仲27-30. 少白竜27-30. 宮沢28-30

◆第1試合 ジュニア女子43.5kg契約3回戦(2分制) 当日計量

曽我さくら(クロスポイント大泉)
    VS
安黒珠璃(闘神塾)
勝者:安黒珠璃 / 判定0-3 (19-20. 19-20. 19-20)

《取材戦記》

年頭から3興行連続でメインイベントを務めた勝次。いつものスポンサー名入り赤いダウンは纏わずタオルを肩に掛けてリング下まで入場。トランクスもシルバー一色。初心に帰った意気込みが感じられたが、先月の潘隆成戦に続き判定負け。

コロナ禍の中、勝次は藤本ジム所属のまま、伊原プロモーションとマネージメント契約を結んだ練習場という意味での“ジム移籍”当初は、例え今までに無い綿密な指導を受けていたとしても、それはまだ身体が心理面と共に馴染んでいない可能性があった。潘隆成に敗れたことで後が無い焦りも加わったかもしれない。2月2日のロンペット・ワイズディー(タイ)戦の敗戦含めれば3連敗となってしまった勝次。この先行きどうなるか。崖っぷちから足を滑らせ、まだ崖から手でぶら下がっている状態なら這い上がることは可能かもしれないが、キックボクシングだからこそ続けられるサバイバルマッチ。その厳しい境地は今後も続くのだろう。

新日本キックボクシング協会としてもコロナウイルス蔓延対策によるソーシャルディスタンスを保つ興行が続き、こんな苦戦が続くのはどこの団体も同じ。他団体との交流戦体制も得ながら生き残りの戦いも続きます。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩 編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

上條英男『BOSS 一匹狼マネージャー50年の闘い』。「伝説のマネージャー」だけが知る日本の「音楽」と「芸能界」!

◆年金崩壊のきざし

朝日新聞の調べによると、日銀とGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の東証1部企業における持ち株が、同上場企業の8割(1830社)におよんでいることがわかった。※調査には東京商工リサーチとニッセイ基礎研究所が協力。

まずはGPIFについて、その危機的な状況を説明しておこう。

ご存じのとおり、公務員の共済年金を除くサラリーマン、個人事業主などの公的年金を管理運用するのがGPIFである。年金で株を買うという、それ自体の問題点はかねてより指摘されてきた。国民が将来のためにサラリーや日々の貯えから支払った年金が、ある意味では「賭博」ともいえる株式市場に運用されているのだ。

その規模は2019年6月末時点で「161.7兆円」にも上り、安倍総理(当時)が「世界最大の機関投資家」と豪語していたものだ。それがコロナ禍の中で、20兆円も損失しているというのだ(3月段階)。

◆3月期までに、20兆円の運用損

GPIFが運用する資産は35兆3082億円(2020年3月末時点)で、東証では12%である。日本全体では、株式時価総額548兆円(同)に対して6.4%を占めている。上場企業の株式を直接保有する株主としては、安倍の言うとおり日本市場の最大株主である。

この「世界最大の機関投資家」としての公的年金資金運用は、2018年度に2兆3795億円の収益を上げ、市場運用を始めた2001年度からの収益累計が65.8兆円に達したと報じられた(※損失を含まない)。もちろん、常に収益を上げてきたわけではない。

2015年度には第2四半期(2015年7月~9月期)に7兆8899億円、第4四半期(2016年1月~3月期)に4兆7990億円の損失を計上し、年度を通して5兆3098億円の損失を計上しているのだ。

さらに、2016年度の第1四半期(2016年4月~6月期)には5兆2342億円、2017年度の第4四半期(2017年1月~3月期)には5兆5408億円の損失に見舞われた。2018年度の第3四半期(2018年9月~12月期)には、アメリカ中心とした世界的な株安に円高が加わったこともあり、14兆8038億円という大きな損失を余儀なくされている。

そして2019年度の第4四半期(20年1~3月期)の運用損失は、コロナ禍をモロに受けて、17兆7072億円となってしまった。収益率がマイナス10.71%と急激に悪化し、保有資産残高(われわれの年金)は19年12月末に170兆円あったものが、150兆6332億円にまで縮小したのだ。じつに20兆円もの損失である。識者は年金で博打(株式投機)など、とんでもないと言っていたはずだ。

全日空が大幅な減便を余儀なくされ(ボーナス支給なし)、三菱重工の国産初のジェット旅客機・スペースジェット(旧MRJ)が日の目を見ないまま、ついに事業そのものを事実上凍結。トヨタをはじめとする自動車産業の多くが、これから倒産の危機を迎えるかもしれない(関係者)。上場企業が倒産すれば、運用資金30兆円が紙屑になる可能性もあるのだ。GPIFはいますぐにも、株式市場から撤退するべきではないか。と、われわれは考えたくなる。だがそれがまた、金融恐慌への序曲になるのは、歴史が教えるところだ(29年恐慌)。


◎[参考動画]2019年度運用状況(GPIF channel 2020/07/03)

◆目前にある金融恐慌

株価の暴落は、まず企業の資金調達力を減少させる。企業がやむなく生産停止に追い込まれると、つぎに信用不安が発生して貸付停止。紙幣の供給が止まり、金融機関が機能不全にいたる。そして取り付け騒動。これが金融恐慌である。

現在の日本はコロナ禍で消費が逓減し、外食や観光、小売りなど消費部門に資金が回らなくなっている。これに直撃されているのが航空業界、自動車産業などの基幹産業である。大手の倒産は中小企業の連鎖倒産をまねき、街には失業者があふれる。
これはアメリカで現実に起きていることだ(10万以上の中小企業が倒産)。連邦政府の公式発表は9月段階で失業率7.9%だが、フルタイムの失業率では、女性は30.8%、男性は22.3%(元財務省勤務のGene Ludwig氏の算出)だという。

日本も政府発表は7月が2.9%、8月は3.0%だが、休業者(雇用されているが、自宅待機などの実質失業)を入れると、6.2%だという(野口悠紀雄、9月13日、東洋経済ウェブ)。だからこそ、公的資金での株運用をやめられないのだ。

かりにGPIFが東証から撤退した場合、12%もの株価減(23500円×0.12=2820円の下落)がもたらされ、株式市場がイッキに暴落するのは必至だ。したがって株式投機による損失過剰という冒険を犯しながら、年金の破綻まで進まざるを得ないのだ。処方箋があるとすれば、日銀がかぎりなく買い支えるしかない。


◎[参考動画]2020年度第1四半期の運用状況(速報)(GPIF channel 2020/08/06)

◆買いオペの限界も

いっぽう、日銀の株式保有額は31兆円である。本通信でも幾度か、MMT論としてリフレの有効性を解説してきた。リフレはアベノミクスの専売特許ではなく、デフレ下の経済政策としては消費の活性化につながる。そのはずだった。

買いオペによる景気浮揚理論は、簡単にいえば下記のとおりだ。
1 日銀が市場で株を買う。
2 市場に資金が調達され、金融機関の金利が低下する。※別途に、マイナス金利の金融緩和。
3 金利低下で融資が容易になり、生産設備や住宅などに投資が向かう。
4 生産の増加、企業収益の改善で雇用が好転する。
5 消費が増えて景気が浮揚する。

この4と5が、安倍がさかんに言っていた、上から下への利潤還元である。大企業の競争力が利潤を生み、その利益は国民全体に還元される。ところが、名目上の株価上昇と円安によって、企業は国際競争で利潤を得たものの、それを国民(従業員・下請け)に還元することはなかった。企業は利潤を内部に貯め込んだのである。

日本銀行調査統計局「参考図表:2020年第2四半期の資金循環(速報)」(2020年9月18日)より

◆内部留保は資本の原理である

昨年末段階で、企業の内部留保(利益剰余金)は470兆円、現預金で230兆円だという、いわば内部のカネ余りにもかかわらず、臆病な経営者たちはそれを従業員賃金、下請け企業への支払いに向けなかったのである。ために政権が財界にたいして、賃上げを求めるという事態も生起した。だが、それは実現しなかった。

これこそが、ピケティが説く「不等式「r>g」なのだ。資本収益率(return)は、必ず経済成長率(growth)を上まわる。労働者の賃金が、かりに経済成長率どおりに増加しても、資本蓄積がそれを上回ることで、資本家と労働者の格差、上級国民と一般国民の格差は拡大するのだ。

経済学で言えば、景気循環のなかで下層労働者が生産関係から排除され、あるいは安く雇用される。これはまさに、アベノミクスの労務政策(雇用の自由化)である。上から下への利潤還元もしたがって、不可能な経済原理なのだ。

問題はリフレで得られたカネ余りを、国民に還元する方法だったのである。最低賃金を引き上げる(対価としての法人減税)、企業に利潤を吐き出させる課税。政権が法的に実行できるのはこれだったのだ。

コロナ禍はこれから先、大規模な倒産をもたらすであろう。もはや雇用の問題ではなく、生活と生存の問題である。今からでも遅くはない。企業に内部留保を吐き出させよ。


◎[参考動画]黒田総裁会見、日銀が追加緩和 国債購入の上限撤廃(TBS 2020/04/27)


◎[参考動画]黒田日銀総裁インタビュー(abcxyz2016/07/29)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他

〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』Vol.25

原発事故後も福島県双葉郡浪江町の「希望の牧場・ふくしま」で牛を飼い続けている吉沢正巳さんが10月26日夕、福島市の福島県庁や福島駅周辺で「海洋放出断固反対!」と怒りの声をあげた。浪江町には請戸漁港があり、吉沢さんは「汚染水を海に流されたら請戸の漁業はおしまいだ」と危機感を募らせる。県庁前では「内堀知事は国の言いなり。なぜ黙っているんだ」と激しい〝檄〟を飛ばしたが、当の内堀知事は相変わらず「国が国が」と主体性を発揮しないまま。のらりくらりと国の決定を待っている。

◆「知事は国の言いなりだ」

「浪江町の希望の牧場の宣伝カーです。浪江町には請戸漁港があります。福島第一原発からわずか6kmの距離です。汚染水を海に流されたら、請戸の漁業はもうおしまいです。海洋放出断固反対!絶対に認めるわけには参りません」

「内堀知事はいったい何をしているのか。何もはっきりした事を言おうとしません。意見表明をしようとしない。なぜ黙っているんだ。そんな事で福島県の漁業の発展を守る事が出来るだろうか。福島県の漁業を守るべき県知事としてのリーダーシップは発揮されないのではないでしょうか」

夕暮れの福島県庁に激しい〝檄〟が響いた。BGMは映画「ゴジラ」のテーマ曲と牛の鳴き声。庁舎を貫くような怒声が轟いた。

「佐藤栄佐久知事はかつて、プルサーマル計画や東電のトラブル隠しの際、しっかりと意見を表明したではありませんか。なぜ内堀知事は模様眺めなのか。なぜ黙っているんだ。そんな事で福島の海の安全を守る事が出来るだろうか。内堀知事は国の言いなり。リーダーシップを全く発揮出来ていない。そんな事で良いのだろうか。浪江町から言います。海洋放出断固反対!」

福島県庁前で内堀知事に「リーダーシップを発揮しろ」と檄を飛ばした吉沢さん

吉沢さんは福島駅東口から西口にも車を走らせ、原発汚染水の海洋放出反対を訴えた。

「国は27日にも汚染水の海洋放出決定を発表しようとしていましたが、福島県民大勢の反対の声に押されて発表出来ませんでした。当然です。汚染水の海洋放出絶対反対!福島の未来、福島の海を皆で守って行きましょう。漁師の皆さんは不安な気持ちでいっぱいです。福島県民は納得などしていません。なのに、国は強引に海に流そうとしております。とんでもない被害、とんでもない迷惑。今こそ力をこめて反対の声を福島から全国に向けて起こして行こうではありませんか」

「請戸の魚がまた、基準値を超える放射能にまみれた状態で売れなくなる。10年におよぶ私たちの苦労、努力はいったい何だったのでしょう。薄めれば良い?ふざけるなですよ。薄めたって様々な放射性物質は残っています。それは魚に影響をおよぼす。食物連鎖の結果、それは私たちの食卓に上がるのです。海洋放出断固反対!」

吉沢さんは福島駅周辺でも「原発汚染水の海洋放出反対」を訴えた

◆「当事者である国や東電が~」

しかし、当の内堀知事は相変わらず「国が国が」と繰り返すばかりだ。

「先週の政府会合において報告された主な意見としては、処理水の安全性に対する懸念や風評の影響、復興の遅れ、遅延、合意プロセスへの懸念が多くを占めていました。この結果は、処理水についての情報が十分伝わっていない事や風評対策が具体的に示されていない事が主な要因であると考えております。国においては、これまで示された様々な意見や分析結果をふまえ、対応方針を慎重に検討していただきたいと考えております」

26日午前の定例会見。テレビユー福島の記者が「このままだと(海洋放出への賛成、反対で)対立や分断が生まれかねない。県として国との間に入って調整していく考えは無いのか。間に入って調整出来るのは県しか無い」と質したが、知事の答えはまさかの「ご意見として受け止めさせていただきます」だった。

「トリチウムを含む処理水の取り扱いについては、福島県内外で開催された『関係者からの意見を伺う場』において風評に対する懸念などの様々な意見が出されているとともに、福島第一原発の地元の立地町からは『保管継続による復興や住民帰還への影響』を危惧する意見が示されています。処理水の取り扱いにあたって最も重要な事は風評であります。国においては様々な意見や県内の実情を十分ふまえた上で、特に本県の農林水産業や観光業に影響を与える事が無いよう、対応方針を慎重に検討していただきたいと考えております」

原発避難者を主体的に救済しようとしないように、汚染水問題でも主体的に動こうとしない内堀知事。会見では、最後まで「国が~」だった。

「原発事故に伴う廃炉・汚染水対策あるいは中間貯蔵施設の問題、仮置き場設置の問題…。全てがひとつの解をシンプルに出す事が出来ない難しい問題だ、という事をこの9年半あまり経験しております。当事者である国と東京電力が責任をもって、この問題にしっかり取り組んでいただきたいと考えております」

当の内堀知事は相変わらず「国が国が」。定例会見でも意見表明していない

◆「国の〝御発信〟見極めたい」

これまで様々な団体が行った申し入れや緊急街宣でも、「知事は今声をあげないで、いつ声をあげるんですか?内堀知事は自信を持って、きちんと国に意見してください」、「内堀知事は福島県民の代表として、政府が処分方針を発表する前に海洋放出に反対だという県民の声を国に届けて欲しい。決まってしまってからでは、海に流されてしまってからでは取り返しがつかないんです」という声があがった。新地町の漁師は「内堀知事が『海洋放出反対』を表明していません。県民を守る立場の知事ですから、『海に流しては駄目だ』とはっきりと言ってもらいたいです」と怒りを口にしている。

これに対し、内堀知事は定例会見で「これまで福島県として国および東京電力に対し、トリチウムに関する正確な情報発信と具体的な風評対策の提示にしっかり取り組むよう求めて来たところであります。特に風評の関係では、本県の農林水産業、観光業に対する影響を与えないよう訴えている。県として今まで無言で、何も言わずに来たという事では全く無い」と反論した。

河北新報記者の質問に対しても「東電の廃炉・汚染水対策に福島県として様々な観点から幾度も幾度も意見を申し上げております。国、東京電力が当事者として、福島県を含め様々な意見を真摯に受け止めて慎重に対応していただきたいと考えております」と答えた。

一方で「汚染水対策の問題は、あしかけ6年ほど議論しております。原発敷地には一定の限界があって、タンクを保管し続ける事が難しい。そういう動機をもってこの議論がスタートしたと考えております」、「今後、政府としてどういった形で方向性を定めるのか。どういった形でそれを訴えていくのか。注視して参ります。今後、国としてどういった御発信をされるのか、その点をしっかりと見極めていきたい」とも語った内堀知事。当事県が陸上保管継続を否定し、国の発信に「御」を付けているようでは、吉沢さんが「リーダーシップを何ら発揮出来ていない」と怒るのも当然だ。

〝檄〟は知事室にも届いただろう。出発前、吉沢さんは「道行く人々から『うるせえぞ』って言われるくらいの音量で訴えないと駄目」と話していたが、歩道からは文句どころか「そーだ!」、「がんばれよ」との声が飛んだ。多くの県民が海洋放出に反対の声をあげている。次は内堀知事が動く番だ。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

NO NUKES voice Vol.25

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

昨年4月、東京・池袋で母子2人が死亡、9人が重軽傷を負った車の暴走事故をめぐり、再び「上級国民」バッシングが巻き起こっている。

きっかけは事故直後、車を運転していた旧通産省工業技術院の元院長・飯塚幸三被告(89)が「証拠隠滅や逃亡の恐れがない」として警察に逮捕されなかったことだった。このことを「上級国民」であるための特別扱いだと受け止めた人たちが一斉に非難の声をあげた。

そして10月8日、東京地裁であった初公判。ブレーキペダルと間違えてアクセルペダルを踏み続けた運転ミスがあったとして起訴された飯塚被告だが、次のように「無罪」を主張した。

「アクセルペダルを踏み続けた記憶はない。車に何らかの異常があったのだと思う」

メディアや世間の人々の多くがこれを「罪を免れるための言い逃れ」と受け止め、再び激怒したのだ。

この上級国民バッシングの中、事件の本当の構図が見えづらくなっているように思うので、ここで指摘しておきたい。


◎[参考動画]【池袋暴走事故】飯塚元院長「体力に自信があったが、おごりもあった」書類送検を前に単独取材(TBS「報道特集」2019年11月9日放送)

◆トヨタの前では、元上級国民の老人など吹けば飛ぶような存在に過ぎない

この事件の本当の構図。それを見極めるには、まず飯塚被告が乗っていた車がトヨタのプリウスであることに着目する必要がある。なぜなら、飯塚被告が裁判で「事故の原因は車の異常」だと主張したことは、11人が死傷した事故の「真犯人」がトヨタである可能性を主張したに等しいからである。

言うまでもないことだが、トヨタは日本を代表する大企業であり、財界のみならず、政界やマスコミにも強い影響力を持っている。政権与党である自民党には莫大な企業献金を、マスコミには莫大な広告費をそれぞれ投入しているからだ。

対する飯塚被告。たしかに「上級国民」と形容されるにふさわしい経歴の人物だが、すでに現役を退いており、現在は「かつて上級国民だった老人」に過ぎない。日本の権力構造の最上位に位置するトヨタと利害関係が対立することが明らかになった時点で、飯塚被告が「上級国民」ゆえに特別扱いされることもありえないと明らかになったと言っていい。

◆飯塚被告と利害関係が対立するトヨタは検察ともズブズブという現実

トヨタで社外監査役を務める元検事総長の小津博司氏。飯塚被告と利害関係が対立するトヨタと検察はズブズブだ(トヨタHPより)

トヨタについては、他にも見過ごせないことがある。それは、同社が法務・検察のトップである検事総長の天下りを継続的に受け入れていることだ。

現在、同社の監査役には第27代検事総長の小津博司氏が名を連ねているが、小津氏の就任前は第22代検事総長の松尾邦弘氏が、松尾氏の就任前は第17代検事総長の岡村泰孝氏がそれぞれ同社の社外監査役を務めている。トヨタと検察はまさにズブズブの関係だと言っていい。

こうした事実を踏まえたうえで、改めてこの事件を見つめ直してみよう。そうすれば、「真犯人」はトヨタである可能性を指摘し、無罪を主張している元上級国民の老人が「トヨタとズブズブの関係にある検察」に刑事訴追され、法廷外でも「トヨタから莫大な広告費を投入されたマスコミ」に激しくバッシングされていることがわかる。つまり、微力な老人がトヨタ、検察、マスコミという絶対的強者たちと対峙し、孤立無援に近い状態で闘っているというのがこの事件の本当の構図なのである。


◎[参考動画]検察改革に意欲 新しく就任の東京高検検事長(2011/08/12)

◆アメリカから届いたトヨタに関する驚愕の情報

もっとも、このような話をしても、飯塚被告の無罪主張を「罪を免れるための嘘」と決めつけている人には、今一つピンとこないだろう。そういう人に紹介したいのが、交通事故に詳しいジャーナリストの柳原三佳氏が10月21日、ヤフーニュースで発表した以下の記事である。

アメリカで起きたレクサス暴走死亡事故 緊迫の通話記録と「制御不能」の恐怖

この記事によると、かつてアメリカで自動車が速度制御不能になる事故が相次いだことがあり、とくに1999年から2010年にかけては、トヨタ車だけでそういう事例が実に815もあったという。

絶対に不具合を起こさない乗り物など、そもそもこの世に存在しない。トヨタがどれほど立派な企業であろうが、製造する車に絶対に間違いがないかというと、そんなわけはないのである。

もちろん、飯塚被告の無罪主張を無条件に信じるわけにもいかない。しかし、事故が車の異常である可能性を指摘する飯塚被告の主張は特別奇異なものではないことは確かだ。頭から嘘と決めつけず、その主張に耳を傾け、慎重に真偽を見極める必要があるだろう。そうしないと、かえって事故の「真犯人」が罪を免れ、被害者やご遺族が報われないことになる可能性も否めない。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。創業した一人出版社リミアンドテッドから新刊『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史)を発行。

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

◆個別政策に具体性がなさすぎる

個別の政策で、国民の目に見えるかたちで改革を進める。というのが菅政権の特質であるかもしれない。しかし細かい個別政策でありながら、大雑把な印象をまぬがれない。

たとえば、菅政権が声高に打ち出している携帯料金の値下げだが、具体性がよくわからないのだ。どのような使用条件で、どこまで安くなれば良いのか。これ自体、野党時代からの献策にもかかわらず、「必需品となっているのだから、安くせよ」という具合で、内容がよくわからないのである。

通信システムに詳しい「bit Wave」によれば、ガラケー(携帯電話)の最低料金は1126円、スマホは3313円だという(いずれも月額)。大手3社の料金プランからの算出だというから、格安スマホではない。じつは格安メーカーでは税抜きで月額1000円を謳うところは少なくない。

ぎゃくに月額料金が5000円を超えるのは、いわゆるギガホと呼ばれるデータ量の多いスマホで、ゲームでの使用や動画視聴を前提にしている。じっさい、筆者のスマホは大手だが、G4で月額2000円強(5分以内カケホ)である。大手もじっさいは、かなり格安に近づいているのだ。おそらく菅総理は、現状を知らないのであろう。
上記のとおり電気やガスとちがい、使用条件や内容がまるで違うものに大雑把な網を掛けることで、かえって混乱を招くのではないか。ガラケーの最低標準料金を指し示すとか、乗り換えの自由化(2年継続契約の破棄)など、現実に進んでいることも視野に入れながら、この案件は担当政務官を置くとかの策がもとめられる。具体性を欠いた菅の思い付き政策が実るのかどうか、楽天モバイルが参画する2年後(1年間のサービス低価格は無視)の結果を興味を持って待ちたいものだ。

ところで、気になるのは菅総理の取り巻き。ブレーンである。

加藤勝信官房長官を議長に、西村康稔経済財政・再生相、梶山弘志経済産業相が副議長を務めるという。参加者は金丸恭文(フューチャー会長)、国部毅(三井住友フィナンシャルグループ会長)、桜田謙悟(SOMPOホールディングス社長)、竹中平蔵(人材派遣会社パソナグループ会長)、南場智子(ディー・エヌ・エー会長)、三浦瑠麗(山猫総合研究所代表)、三村明夫(日本商工会議所会頭)だ。


◎[参考動画]成長戦略の“具体策検討会議”スタート(ANN 2020年10月16日)

◆竹中提言の縮小経済論

かりに菅総理に秀でた政治哲学があるとすれば、数十年単位のヴィジョンや国家モデルではなく、その実行力なのであろう。反対や異見があっても、粛々と進めるのが官房長官時代からのスタイルである。手続きさえ踏めば、それはそれでもいいかもしれないが、問題は中身なのである。

すでに上記の通り、成長戦略会議で菅のブレーンが明らかになっている。そのうち、竹中平蔵の存在がクローズアップされているのが気になる。そして、さっそくとんでもない発言が飛び出した。社会保障を廃止し、ベーシックインカムを導入するというものだ。

コロナ禍はこれから先、来年の決算期を待たずに、大規模な倒産をもたらすであろう。もはや雇用の問題ではなく、国民と生活と生存の問題である。この機に、労働市場自由化の仕掛け人でもある竹中平蔵が「ベーシック・インカム」を唱えはじめたのは、偶然ではない。

竹中の提言は「国民全員に毎月7万円を給付するなら、高齢者への年金や生活保護者への費用をなくすことができる。それによって浮いた予算をこちらに回すので、財政負担はそれほど増えることにはならない」というものだ。年金崩壊どころか、廃止してしまえというのだ。

これに対して、宇都宮健児がツイッターで、「7万円では家賃を払って生活ができるはずがない」「お金を支給するので教育や医療などの福祉サービスはお金で買えというベイシックインカム案では教育や医療が商売になる危険性がある」「まず教育や医療などの福祉サービスをしっかりと低価格または無償で提供する社会をつくるのが先だ」と投稿した。正論である。


◎[参考動画]竹中平蔵氏 【後編】アフター・コロナに勝ち残るために Part3. 2020年9月17日(木)放送分 日経CNBC「GINZA CROSSING Talk」(ソニー銀行2020/10/05)

◆社会保障費・生活保護こそがベーシック・インカムである

ベーシック・インカム論の基礎には、ケインズ派(ウィリアム・ベヴァリッジ)の「ゆりかごから墓場まで」を目標としたイギリスの社会保障や雇用施策に対して、新自由主義派の「小さな政府」論がある。

前者は社会保障を前提に、補足的な公序モデルであり、マクロ的には有効需要創出の公共投資(ニューディール)である。後者である竹中提言は、社会福祉の切り捨て(それにともなう行政コストの削減)を財源に、いわば緊縮財政で構造不況を乗り切ろうというものだ。そこには個別の事情、妊娠休業や子育て、病傷などの多面的な社会保障を切り捨て、カネ(7万円)を渡すから自助努力をしろという新自由主義の発想が見え見えである。竹中が切り捨てようという社会保障費・生活保護こそが、じつは現代のベーシック・インカムの実体なのである。

コロナ禍が示すように、経済というものがおカネの動き、経済の血流としての消費をまったく理解できないがゆえの、竹中流緊縮論なのである。大企業の内部留保の解消、格差の是正(最低賃金の底上げ)こそが、消費の回復につながるのだと、あらためて指摘しておこう。

◆中小企業の「淘汰」をいとわない最賃論

もうひとり、菅総理のブレーンとして成長戦略会議に名を連ねるのが、デービッド・アトキンソン(経済政策アナリスト・小西美術工藝社社長)である。アトキンソンの主張は、最低賃金制の底上げが基調となっている。が、最賃制に対応できない中小企業の経営者は、潰れて退場するのもやむなし、というものなのだ。

言うまでもなく、最低賃金制の底上げ(たとえば山本太郎は時給1500円、年収で300万円弱を主張)は、達成企業に減税措置をはかることで、企業経営の健全化と購買力(消費)の活性化を目標にしたものである。しかるにアトキンソンは、最低賃金制の底上げに対応できない中小企業を淘汰し、その結果は労働者が路頭に迷うこともいとわないのだ。淘汰とは起業による市場原理である。いまこの日本に、企業の展望が微塵ほどもあるというのだろうか?

このような人物の影響が「自助・共助・公助」なる、菅政権のスローガンなのだ。一見すると正論に聞こえる菅総理の言外に「(わたしのように)努力しない者は救われない」という新自由主義の発想があることを指摘しておこう。


◎[参考動画]【ダイジェスト】デービッド・アトキンソン氏:日本人が知らない日本の「スゴさ」と「ダメさ」マル激トーク・オン・ディマンド 第934回(2019年3月2日)

◆正月明けは11日? 誰が10兆円を決めたのか?

菅ブレーンの危険性とともに、とんでもない思い付きとは、このことであろう。
西村康稔経済再生相が語ったという「「(1月)11日の月曜日が休みでありますので、そこまでの連続休暇とかですね、あるいは休暇を少し分散をしていただくとか。もちろんテレワークも、それぞれの企業でも積極的にやられていると思いますけれども、是非そうした休暇が集中しないような取り組みも是非ご検討いただければ」を冗談交じりに聞いていたところ、本気だというのだ。経済3団体にもこれを要請するという。コロナ対策という意味なのだろうが、経済に与える影響は少なくない。


◎[参考動画]年末年始の長期休暇を 西村再生相が新経連と会談(KyodoNews 2020年10月21日)

たとえば、これで少なくとも1月の上旬に刊行される雑誌は、年内の刷了・取次搬入が要求されることになる。いや、取次が上記の要請に応じてしまえば、発行日を遅延させるしかないのだ。他の業界もおおむね、とんでも発想と考えることだろう。政府は少しでも経済の停滞を考慮したのだろうか。

そのいっぽうで、コロナ対策をふくむ臨時予算に、10兆円が計上されたという。国会を開かないまま、政権が勝手に決めたのである。ここにも法律を理解しない菅総理の「とんでもなさ」が明らかだ。国会という国民の代表から、あたかも全権委任されたかのように勝手に予算を組んでしまう暴挙である。すべて政治家の行動は法律の裏付けが必要であることを、この男は知らないのである。

すでに学術会議の会員任命拒否において、菅が法律を理解していないのは明白になった。このさき、とんでもない発想から非常識なことを実行しかねない政権であることが、徐々に明らかになってきた。そして怖ろしいのは異論を排除する、蛇の執念のような実行力を持っていることだ。

菅の蛇のように冷酷な眼を見ていると、内容はともかく「失敗しても、まだ次のチャンスがある日本にしたいんです」「事実、わたくしは失敗したんです」と、明るく力説していた安倍晋三が懐かしくなってくるというものだ。


◎[参考動画]菅総理 初の所信表明演説(ANNnewsCH 2020年10月26日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他

〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』Vol.25

原発事故による高濃度汚染で帰還困難区域に指定された福島県双葉郡浪江町の津島地区。慰謝料支払いと原状回復を求めて国や東電と係争中の住民たち「ふるさと津島を映像に残す会」(以下、残す会)を中心につくったDVD「ふるさと津島 消えゆくふるさと 最後の7つの物語」の第1回自主上映会が10月18日、福島市内で行われた(「ふくしま市女性団体連絡協議会」主催)。11月には茨城県牛久市でも上映される予定だが、津島の住民たちはどんな想いで荒廃と家屋解体で壊れゆくふるさとを映像に残そうとしたのか。何を後世に伝えたいのか。DVDで語られた言葉のごく一部を紹介しながら、住民たちの想いに迫りたい。

福島市内で開かれたDVD「ふるさと津島」の第1回自主上映会

「あゝ津島……ふるさとを思い出すだけで、気づけば数時間過ぎているない」

窪田たい子さんの〝津島弁〟でのナレーションが、観る者を一気に自然豊かな津島地区へと導く。だがしかし、これは単に郷愁を誘うだけの映像では無い。9年半前の原発事故で住み慣れたふるさと、愛するふるさとを奪われ追われた人々の「証言集」なのだ。福島県が53億円もの国費で双葉町に建設した「伝承館」では触れられていない、ふるさと津島への想いと無念さが凝縮されている。

「私たちのふるさと津島はいま、山に飲み込まれようとしています。除染が始まり、家屋の解体も始まりました。なつかしい風景が失われてしまう前に、生きた証が消えてしまう前に、ふるさと最後の姿をここに残しておきたいと思います。これは、福島第一原発の事故で放射能に汚染され、帰る事の出来ないふるさと津島の物語です。どうぞ、おらたちの話を聴いてくれっかい?」

三瓶春江さんは「わが家は父と母の生きた爪痕だと思う」と表現した。

「原発事故によって放置され、朽ちていく。そんな姿であったとしても、自宅は壊したくない。でも、住めるわけでも無い。どれだけの想いで解体するのかという事を皆さんに知って欲しいのです。解体する前になぜ、DVDに残そうと考えたか。津島は私たちが生きてきた『歴史』なんです。解体してしまった後で『ここは津島だったんですよ』、『ここに家があったんですよ』と言ったとしても、誰も信用しません。建物があるからこそ、ここに家があって生活していたと伝えられる事だと私は思います。だから、解体する前に想いを、津島があったんだという歴史を刻む事が一番大事だと考えているんです。本当であれば原発事故前のきれいな状況で撮っていただいた後に、現状を撮ってもらえば一番良かったんだけど、まさか原発事故でこんな事になるとは思っていなかった……」

「私たちは国や東電に何一つ悪い事をしたわけではありません。自然の力(地震や津波)によって原発が破壊されたという事だけでは原発事故は語れません。私たちが住んでいたふるさとを一日も早く返していただきたいと希望しております」

会場を訪れた三瓶春江さんは「原発事故を自分の事として考え、危機感を持って欲しい」と訴えた

「残す会」会長の佐々木茂さんは、 「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」口頭弁論期日のたびに郡山駅前でマイクを握り、道行く人々に原発事故被害の大きさや裁判への理解を訴えてきた。「ふるさとを一日も早く返していただきたい」という切なる願いは、訴訟で「原状回復請求」という形で盛り込まれている。
石井ひろみさんは、横浜から津島に嫁いで来た。

「ここがふるさとになるんだ、ふるさとにしなきゃと思って生活していましたけど、やっぱりここが私のふるさとなんだと一番実感したのが、原発事故後の避難先に自衛隊音楽隊が慰問に来た時ですね。演奏会の最後に皆で『ふるさと』を歌いましょうとなったんですが、一小節目を歌ったら泣けて泣けて、それ以上歌えなくなってしまって…。津島が私にとってそれほどの存在になっていたんだなとつくづく実感しました」

「残念ですね本当に。何でこうなっちゃったのかね……。私はあきらめる事は出来ないですね。無かった事には出来ない。自分で取り戻せるんだったら明日にでも取り戻したいですけど、自分の手の届かない所に行ってしまった気がします」

原告団事務局長を務める武藤晴男さんは、傷みの激しい自宅で涙を拭った。「ふるさと喪失」などという言葉では表せない現実がある。ふるさとも平穏な日常も全てを奪い尽くした原発事故。しかも一方的に、突然に。挙げ句、法廷で「既に相応の賠償金を支払っただろう」、「新たな住まいを確保出来たのだから大人しくしろ」とでも言わんばかりに主張する国や東電の態度にも納得出来るはずが無い。

原告団長の今野秀則さんは、津島地区で「松本屋旅館」を経営していた。「私で4代目だから大切にしたいんだけど、果たして地域として再生出来るかどうか……」と不安を口にしている。

「空間と時間と人との関係。私はそういうものを大事にして、ここで生涯を閉じるというか未来につなげていくという気持ちでいたんですけど、それが突然、原発事故で遮られた。その悔しさがありますね。悔しさも何も、それが本来の自分の姿であるはずなのに……」

訴訟の原告団長を務める今野秀則さんも、涙ながらに悔しさを語っている

DVDは、窪田さんのこんな言葉で幕を閉じる。

「1日も早く家に帰りたい。自分が骨になる前に帰りたい。しかし、その願いは叶いそうにもねえなあ。津島はやがて、地図から消えてしまうのかなあ。ここが私たちのふるさと津島。100年後の子孫へ。この物語を贈ります。またな。さようなら」

DVD「ふるさと津島」は税込1000円で購入出来る

ハンカチで涙を拭いながら観た人もいた。しかし、津島の人々を〝他人事〟にしてはいけない。〝かわいそうな人たち〟と遠くで憐れんでいるだけではいけない。津島の人々が求めているのは同情では無い。だから、上映会場を訪れた三瓶春江さんは「自分の事として考えて欲しい」と力をこめて挨拶した。

「原発事故で私たちが避難を強いられた実情が全然報道されていません。『原発事故はもう終わった』とでも言うような状況です。でも、あの時もしも状況が違っていたら、中通りが私たちのようになっていたかもしれません。今、政府は原発再稼働を進めていますが、いつかはこういう事になり得るという危機感を皆さんに持っていただきたいのです。私たちの現状を観ていただく事が、世界に広めていただく事が被害者としての私たちの責務だと考えています。ぜひ多くの人に広めてください」

DVD「ふるさと津島 消えゆくふるさと 最後の7つの物語」はクラウドファンディングなどで寄せられた資金でつくった。税込1000円。自主上映会の基本料金は1日税込3万円。購入、自主上映いずれも「残す会」のホームページ(https://www.furusato-tsushima.com/)から申し込める。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他

NO NUKES voice Vol.25

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

119代光格(こうかく)天皇は、近代の天皇権力を強く主張した天皇である。30年以上も在位し、退位後の院政をふくめると、幕末近くまで50年以上も権力を握っていた人物である。博学にして多才。朝儀再興にも尽くし、その事蹟は特筆にあたいする。

光格(こうかく)天皇

なかでも有名なのは、寛政の改革期に松平定信と争った尊号一件と呼ばれる事件であろう。自分の父親(閑院宮典仁親王)に太上天皇号の称号を贈位しようとしたところ、松平定信がそれに猛反対して争った事件である。父親の典仁親王が摂関家よりも位階において劣るため、天皇は群議をひらき参議以上40名のうち35名の賛意をえて、太上天皇号の贈位を強行した。皇位を経験しない皇族への贈位に、先例がないわけではなかった。

ところが、老中松平定信はこれを拒否した。議奏の中山愛親、武家伝奏の正親町公明を処分し、勤皇派の浪人を捕縛する事態に発展した。この事件の裏には、十一代将軍徳川家斉が実父・一橋治済に大御所号を与えようとしていた事情があり、治済と対立関係にある定信は贈位を拒否するしかなかったのだ。そして勤皇派の台頭を背景にした公武の対立が、徐々に煮詰まりつつあった。

光格天皇の行動の基底には、彼が傍系であったことが考えられる。閑院宮家からいきなり天皇家を継ぐことになった光格天皇は、血統としては傍系であって、後桃園天皇の養子になることで即位している。天皇としての立場も当初は微妙な位置にあり、そのことから自己のアイデンティティを持つために、天皇の権威を強く意識したのではないかと考えられる。

孝明(こうめい)天皇

◆孝明天皇と幕末の激流

その子・仁孝天皇もたいへんな勉強家で、朝儀の再興につとめ、漢風謚号の復活や学習所の設立を実現する。この学問所(のちに京都学習院)には、気鋭の尊皇攘夷派が集うことになる。そして仁孝天皇の崩御後、幕末のいっぽうの大立役者、孝明(こうめい)天皇の即位へといたる。

学究肌の祖父・光格天皇、実父・仁孝天皇にたいして、孝明帝は政治的かつ意志的な天皇であった。一貫して強行な攘夷論をとなえ、しかしその政治方針は佐幕・公武合体派だった。幕末動乱における孝明天皇の役割り、決定的なシーンをふり帰ってみよう。

ペリー来航に先立つ弘化3年(1846年)、孝明天皇は父帝崩御をうけて16歳で即位した。この年、アメリカの東インド艦隊司令官・ビッドルが来航したほか、フランス・オランダ・デンマークの船舶があいついで来航し、通商をもとめてきた。

16歳の孝明帝は幕府にたいして、対外情勢の報告と海防の強化をうながしている。まさに少壮気鋭の君子である。朝廷内部に口出しをする幕府に反発していた、歴代の天皇とはおよそ次元がちがう。国のすすむべき指針を、みずから口にしたのである。

いよいよペリー艦隊が来航すると、天皇はさらなる海防強化を幕府にもとめ、参勤交代の費用を国防費にあてるよう提案している。そして幕府がむすんだ日米和親条約には「開港は皇室の汚辱である」と、断固反対の意志をあらわす。老中堀田正睦の調印許諾の勅許を、天皇は断乎として拒否したのである。

けっきょく、幕府は大老井伊直弼が勅許を得ないまま欧米各国と通商条約をむすび、ここに日本は開国する。その一報をうけた孝明天皇は激昂した。もはや今の幕閣は頼りにならない。尊皇攘夷派の重鎮である水戸斉昭に、幕政改革の詔書を下賜するのだった(戊午の密勅)。ここにいたって、幕府と朝廷の外交方針をめぐる対立は極限にいたる。それは当然ながら、すさまじい反動をもたらした。

すなわち、幕藩体制が崩壊させかねない朝廷のうごきに激怒した井伊直弼による安政の大獄、尊皇攘夷派にたいする熾烈な弾圧がおこなわれたのである。そして日本は、局地的ながら、流血の内乱に陥った。

桜田門外の変によって井伊直弼が殺害されると、京都市中は尊皇攘夷派の活動が活発になり、それを弾圧する寺田屋事件(薩摩藩による粛清)。8月18日の政変による、長州派公卿の追放(七卿の都落ち)。さらには禁門の変において、長州勢を一掃する事態となる。尊皇攘夷をとなえる長州を、攘夷をねがう朝廷が排除するというアンビバレンツな事態は、ひとえに幕府との関係をめぐる落差である。そこに孝明天皇の悲劇があった。この「落差」については、くわしく後述する。

天皇は公武合体を促進するために、妹宮の和子内親王を14代将軍家茂に嫁さしめようとした。有栖川熾仁親王と婚約中であった和宮がこれを拒否すると、生まれたばかりの寿万宮をかわりに降嫁させるなどと、妹を相手にほとんど脅迫である。和宮の降嫁が実現しなければ自分は譲位する、和宮も尼寺に入れるなどと、無茶なことを言いつのっての縁組強行だった(「公武合体の悲劇」参照)。

しかしながら、幕府とともに攘夷を決行するという天皇の政治指針は、開国・倒幕の情勢に押しつぶされていく。諸外国の艦隊が大坂湾にすがたを見せると、さすがに通商条約の勅許を出さざるをえなかった。慶応2年には薩長同盟が成立し、世論は「開国」「倒幕」へと傾いていくのである。

孝明天皇と薩長の「落差」を解説しておこう。近代的な改革・開明性を評価される明治維新は、じつは毛利藩(長州)と島津藩(薩州)による徳川家打倒の私闘でもあった。関ヶ原の合戦いらい、徳川家の幕藩体制のまえに雌伏すること268年。倒幕は薩長両藩の長年の念願であり、ゆるがせにできない既定方針だったのだ。

天皇は形勢逆転をはかって、一橋慶喜(水戸出身)を将軍に擁立するが、その直後に天然痘に罹患した。いったん快方に向かうものの、激しい下痢と嘔吐にみまわれてしまう。記録には「御九穴より御脱血」とある。この突然の死には暗殺説があり、長州藩士たちによるものとも、岩倉具視らの差し金によるものともいわれる。いずれも明確な証拠があるわけではないが、傍証および証言はすくなくないので後述する。

◎[カテゴリー・リンク]天皇制はどこからやって来たのか

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

◆ファイトマネーの在り方

チャンピオンになりたい! そんな志持ってジムに入門。デビュー戦を控え、与えられるファイトマネーはチケット。そんな時代は長く続く。勿論現金払いもあるが、チケットの方が比率は大きいだろう。

そんな選手がほとんどで、そのチケット捌きの苦労は練習より辛いという選手も多い。しかしそれは興行を成り立たせる為には欠かせない要素でもあり、仕方ない部分でもある。

昭和50年代のキックボクシングテレビ放送打ち切りから平成初期頃までは、「キックボクシングってまだやってるの?」なんて言われること当たり前の時代に、世間一般に向けては、なかなか売れるものではなかった。

大きいものから小さいものまで横断幕が並ぶ

興之介が幟旗に向けて入場中

◆どんな捌きをしているか

1982年(昭和57年)、ある選手が会長から3,000円の自由席券を30枚ぐらい渡されて、「全部2千円で売ろうと思う!」と言っていたのを聞いたことがあった。額面より値引きしてでも買って貰う為の苦労だろう。

デビューしキャリアを積んでいくうち、このチケット捌きは必然的に割り振りが大きくなっていく。生活を支える為、普通の企業に正社員やアルバイトとして勤めて、そこが活気ある従業員が大勢いる職場で人気者となれば、百枚単位のチケットも捌くことは可能だろう。

チケットを50枚でも100枚以上でも捌くことが継続されれば、「頑張れ○○君、皆で応援に行くからね!」と会社ぐるみでの応援団となり、横断幕や幟旗などが舞うことも多い。そんなチケット捌きからの活気ある応援は、興行への大きな貢献度もあると言えるだろう。

それに対し、チケット捌ける選手が捌けない選手の分まで頑張って捌いている例もある。

先輩選手が、「売れないなら俺が何とかしてやる、持って来い!」

そんな後輩選手とのそんなやりとりも聞いたことがあった。そんな田舎から出て来たばかりや、孤独な選手は、「何とか捌きました!」と言っても内情は自分で抱えているだけかもしれない。或いは無料で配っているかもしれない。或いはディスカウントショップに持ち込んで極端に安く引き取って貰っているかもしれない。

それで会場はチケット捌けた各選手の応援団だらけ。応援する選手の試合が終われば、単に帰ってしまう人も含めて、ドドドっと出口に向かい祝勝会へ向かう集団の姿はよくある光景。チケット完売なのにメインイベントに進むにつれ、空席が目立っていく背景にはこうした現状があるのである。

髙橋三兄弟も人気者、縦型横断幕が贈られている

◆チケット捌きの苦労!

これは1990年代のあるチャンピオンの話。

「デビュー戦は地方のリングでファイトマネーは無償。知り合いも皆無だったので、激励賞も無かった。2戦目は、3,000円券10枚で、“バック無し”だったのでファイトマネーは3万円だった!」と言う。

このチケット捌きにはバック有りとバック無しがあるらしい。“バック”とはプロモーターや会長に額面の33パーセントをマネージメント契約上の金額として支払うことである。割り振りされたチケットを捌けなければ自腹を切り、ジム会長(プロモーター)に33パーセントを支払う羽目となる(チケット戻しは無い)。その代金は選手の親が出しているかもしれない、またはアルバイトで必死こいて稼いだ安月給を充当している場合もあるかもしれない。或いはキッチリ定額で捌き、ジムに33パーセントバックしても、何万円も何十万円も自分のファイトマネーとして、プロとして実践する選手も居るのかもしれない。バック無しであっても現金含めたファイトマネー総額から33パーセント以内という規定で差し引かれているのが契約上の義務である(総額が曖昧で何パーセント引かれているか分からない場合も多い)。

ある時代、有名外国人選手が出場するビッグイベント興行を手掛けた某ジム会長。それが大変な赤字を抱えてしまうと、その負債が長い期間、足枷になる場合もあるという。

そんなある興行を前に起きたこと。その所属ジムの某選手の話では、会長から選手4人に5,000円券20枚を「アルバイト先でも捌いてくれ!」と頼まれてしまったが、その売り上げは全額会長戻し。それは、“選手たちも貢献してね”という意味だった。その会長は、無理を押し付けている為、「もし売れなかったら、“売れませんでした”でもいいからね!」と柔軟に対応してくれたが、選手皆、会長とは厳しくも信頼ある仲で、反発する意識は無く、なぜか心に余計なプライドが宿って、「自分に割り振られた分ぐらいは必ず捌きます!」と受けてしまった。カッコつかないし、ヘタレと思われたくなかったのである。

しかし、その某選手は、自身が出場する試合は仕事先で毎度100枚ぐらい捌くものの、このビッグイベントも20枚ぐらいなら割とすぐ捌けるかなと思ったところが、自身が出場しないと5,000円券がなかなか捌けない。すると、「半額の2,500円ならば買ってもいい!」と言うのが数名居た程度だったという。

昔、私も貰ったことある招待券、タダでも来なかった友達の分

そんな状況で、「会長、チケット売れませんでした、戻させてください!」とは絶対言いたくない。それで、「まあこんなボランティアは今後もう無いだろう。それにたかが10万円程度でも、育ててくれた会長への恩返しと思えばいいか!」と妥協する心も芽生えたという。

例え半額にしてでも何とか捌きたかったが、他の選手にはその内情は一斉語らず、
「俺はとりあえず何とか20枚捌いたよ!」と見栄を張ったら、それで終わりではなくなった。それを聞いた他の3選手、「すみません。会長には内緒で、俺らの分も少しでいいから、お手伝いお願い出来ないでしょうか?」と頼まれてしまい、“少し”と言うから仕方無いなあと思っていると、内2人はキッチリ20枚ずつ持って来たという。全く売れなかったようだ。赤字の歪みはこんなところにも表れるのだった。

テレビ出演も多いスポーツストレッチングトレーナーの兼子ただしは毎度、オレンジTシャツ一色となる大応援団となった(2014.4.20)

◆これもプロの仕事!

選手がチケット捌きをしなければならないのは試合出場とそれに懸けるトレーニングとは別の労働力であろう。職場や後援会、近所付き合い、学生時代の仲間がいない場合、住宅街や団地を一軒一軒回って、キックボクシングのチケットを押し売りする選手はいないだろうが、新聞購読勧誘員のような悪びれない労働はなかなか出来るものではない。

そんな過酷さは関係無くても、選手のチケット捌きの実情から、2016年9月に(株)ブシロードが「KNOCK OUT」を手掛けた際、「手売りを無くしたい!」と語っていた木谷高明社長。選手がチケットを捌くことへ、「そんな時間があったらトレーニングに専念して欲しい!」との意向で、「選手のチケット手売りをやめさせ、誰が出るか発表しなくてもチケットが売れるようにしたい。手売りをやってる限り先は無く、手売りは供給側の事情で、お客さんの需要側に立ってないことです!」と語っていた。それ自体は将来を見据えた選手に優しい運営システムだが、その負担をいつまでも自社戦略でカバーできるものではなかっただろう。

後援会など応援してくれる仲間内が居る選手は「チケットでなければ困る!」という例もあるといい、そのバランスが難しいようでもあった。

また、「試合、練習、チケット捌き含めてプロの仕事だ。みんな昔からやってんだ。それぐらいの甲斐性持て!」という古い世代の会長たちも居る。それはプロボクシングの古き時代からキックボクシングまで、長きプロ興行の習慣である。こんな習慣はまだ延々と続くのだろう。捌ける選手はそんな営業力有る選手で逞しさもあるが、捌けない選手は現役生活が続けられないほど自分で赤字を抱える場合もあることは、何とか改善していかねばならない問題である。

フェザー級2位、兼子ただしは(株)SSS社長、最大級の応援団で毎度客席を埋めた大歓声はチャンピオンクラスだった (2017.3.12)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩 編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

上條英男『BOSS 一匹狼マネージャー50年の闘い』。「伝説のマネージャー」だけが知る日本の「音楽」と「芸能界」!

◆安倍から菅へと続くマスコミの迷走

安倍から菅へ……。総理代替わりを経たここ数か月のメディアを見ると、テレビと新聞(特にテレビ)を見ないようにすることが、日本をまともにし安心して暮らせる社会になる最短距離だと思わざるを得ない状況だ。

あの手この手でテレビや新聞に圧力をかけて政府と与党に気に入られる報道を仕向けてきたのが、足掛け8年にわたる安倍政権だった。メディアへの介入は安倍晋三という国会議員の得意技ともいえる。

その政権を継承する菅義偉政権下で、メディアと権力支配層との癒着がますます露骨になってきた。その異常さに気づかないかマヒしている人がいることが、危険だ。

高い支持率を維持してきた安倍政権も、末期とくにコロナ禍が深刻するなかでに支持率は低迷していた。また森友事件、加計事件、文書改ざん、河合克行前法相の公選法違反事件など、問題は山積みで先行き不当名な状況であった。

そのときテレビが傾注していたのは、吉村洋文・大阪府知事を持ち上げること。連日、異様なほど府知事を持ち上げていた。

その様子をみれば、安倍政権終焉を見て取った支配層が、次の支柱の一つとして日本維新の会の勢力拡大を推進しようとしていることが分かる。そうすれば、憲法問題で文句を言う公明党を排除して維新の会にとって替えることもでるだろう。

ところが、7月の東京都知事選挙で、日本維新の会推薦の小野泰輔候補が、小池百合子、宇都宮健児、山本太郎につぐ4位と振るわず、勢力拡大に一時的にブレーキがかかった。

8月末に安倍前首相が退陣を表明すると、「よくやった」「ごくろうさま」「お疲れ様でした」という無批判の気持ち悪い街頭インタビューをテレビ各局は放映する始末だった。安倍政治に対する厳しい評価と分析などは皆無に近かった。

◆“パンケーキ”に見る政権との癒着ぶり

そして自民党総裁選がはじまれば、明らかに菅氏に有利な投票システムにしようとしているのを、ただ漫然として伝えるだけ。おまけに、ほかの2人の候補についてはおざなりで、菅氏についての報道が圧倒的な比率を占めていたのは記憶に新しい。

そして菅政権誕生となると、維新の会の法律顧問、橋下徹氏をテレビは積極的に出演させいる。春から初夏にかけて吉村洋文大阪府知事をヨイショする姿勢から一貫していると言えよう。

一方、菅総理はパンケーキで有名な渋谷の店で「パンケーキ朝食懇談会」を催し、16社の記者たちが出席したという。(朝日新聞・東京新聞・京都新聞 の記者は欠席)

メディアの幹部が安倍首相とたびたび会食を共にしていたのと変わらない。それどころか、安倍政権時代以上に政権へすり寄る姿勢が目立っているのではないだろうか。

◆政権とマスコミによる日本破壊活動が進行

菅政権の体質を見事に表したのが、日本学術会議への人事介入だ。説明不足だろうが説明しようが、政権に批判的な学者を日本学術会議から排除するのが目的であるのは間違いない。

そして9月16日に菅政権が発足してから一か月経過したときの報道に驚いた。10月16日のNHKは「菅政権発足1か月の評価」を放映。夜9時からの「ニュースウォッチ9」では、官邸記者が菅政権を礼賛してなんの批判的分析もなし。最後に形だけ野党が批判していると一言あっただけ。

10月17日のNHK「ニュース7」は、中曽根康弘元首相の葬儀を政府と自民党共催で実施した話。9600万円の税金を使った件や、全国国立大学に弔意を求めるなど問題が多いのに、ただ政府と自民党の宣伝を放映しただけだった。

そして10月19日朝テレ朝「羽鳥慎一モーニングショー」。政治ジャーナリストの田崎史郎氏が出演し菅政権の1か月を論評。相変わらず政府与党のヨイショだった。

日本学術会議の新会員任命拒否や中曽根元首相の合同葬で大学に弔意表明を求める二つの事件は、思想統制し政権批判者を排除する政権の体質が現れている。

それを批判するどころか、右から左に横流しに宣伝しているマスコミ。そして、政権擁護するテレビのタレント文化人たち。まさに政権・マスコミ・応援団による日本社会破壊活動ではないのか。

「どうせマスコミでしょ」と投げやりになっても、異常事態に「マヒ」してもいけない。まだそのおかしさに気づかない人もいるので、騙されないで自分の身を守るためにも、いまメディアがどうなっているか知る必要があるだろう。

─────────────────────────────────────────────────────────

総理代替わりの時期に何が起きているのかをしっかり把握し、今後の道を探りたいと、筆者は憲法とメディア法が専門の田島泰彦氏(早稲田大学大学院非常勤講師・元上智大学新聞学科教授)に講演をお願いした。

10月31日(土)第131回草の実アカデミー

田島泰彦氏(早稲田大学非常勤講師・元上智大学教授)

テーマ 「パンケーキとジャーナリズム~総理代替り期にみる報道の現状~」
講師 田島泰彦氏(早稲田大学非常勤講師・元上智大学教授)

日時:10月31日(土)13:30 時開場、14時00分開始、16:40終了
場所:雑司ヶ谷地域文化創造館 第4会議室

交通:JR目白駅徒歩10分、東京メトロ副都心線「雑司ヶ谷駅」2番出口直結
資料代: 500円

★★★【申し込み方法】25人限定★★★
フルネームと「10月31日参加」と書いて下記のメールアドレスに送信してください。
kusanomi@notnet.jp

【参加にあたってのお願い】
◎受付で氏名と連絡先を確認してください。
◎会場入りするときは手洗いをお願いします。(消毒ジェルも用意します)
◎参加者はマスク使用をお願いします。


─────────────────────────────────────────────────────────


◎[参考動画]テレビによる日本破壊活動? 最近のメディアと政権の癒着ぶり(講演案内)

▼林 克明(はやし・まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他

〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』Vol.25

〈彼は無実です。これは冤罪です。もう一度いいます。彼は無実です。この事柄が取り上げられて、彼が一日でも早く、獄から開放(原文ママ)されることを願っています〉

 

久保田祥史『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(片岡健編著)

これは、最近発売された書籍の一節だ。書名は『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』。標題の事件の実行犯である久保田祥史が獄中で綴った手記に基づき、平成の大事件のほとんど知られていない真相をつまびらかにしたものだ。

引用した部分も久保田の手記の一部だが、久保田が「彼は無実です」と言っているのは、この事件の「首謀者」とされている無期懲役囚・小松武史のことである。

実を言うと、同書は筆者が今年8月に創業した一人出版社から発行したもので、筆者は同書の編著者でもある。手前みそで恐縮だが、同書の内容は読んでくれた人にインパクトを与えられているようだ。それはおそらく、久保田が手記で明かしたこの事件の冤罪疑惑がこれまでほとんど報道されてこなかったからだろう。

この事件は今月26日で発生から21年になる。その頃には、この事件を回顧するような報道がテレビや新聞で散見されると思われる。その前にここで、久保田が手記で明かした事件の真相を紹介しておきたい。

◆元々、被害者を殺害する動機が見当たらなかった武史

事件が起きたのは1999年10月26日の昼過ぎだった。埼玉県桶川市のJR桶川駅前で一人の女性が待ち伏せていた男にサバイバルナイフで刺され、搬送先の病院で亡くなった。被害者は、埼玉県上尾市の猪野詩織さん。跡見学園女子大学の2年生だった。詩織さんは事件前、元交際相手・小松和人が営む風俗店の従業員らから凄絶な嫌がらせに遭っていた。

そんな背景もあり、この事件では当初から和人に疑いの目が向けられた。果たして約2カ月後、埼玉県警が検挙した実行犯の久保田は、和人が東京・池袋で営む風俗店の店長だった。しかし、ここから事件は意外な展開をたどる。久保田が取調べに対し、こう供述したからだ。

「私が被害者を殺害したのは、小松“武史”に依頼されたからです」

小松武史は和人の兄である。東京消防庁で消防士として働きながら、和人の風俗店経営を手伝っており、久保田にものを頼める立場ではあった。そこで埼玉県警は武史を事件の「首謀者」と断定し、逮捕した。対する武史は「久保田に殺害の依頼などしていない」と容疑を否定し、冤罪を訴え続けたが、裁判でも事件の首謀者と認定され、2006年に最高裁で無期懲役刑が確定したのだ。

もっとも、詩織さんに対してストーカー化していたとされる元交際相手の和人ならともかく、武史には、詩織さんを殺害する確たる動機は見当たらなかった。しかも、キーマンである和人は捜査中に逃亡先の北海道で自死し、事件の核心部分は結局、捜査で十分に解明されずじまい。当時、この結末には誰もがモヤモヤした印象を抱いたものだった

こうした経緯を振り返ると、久保田が武史のことを「無実」だとか「冤罪」だと言い出したのも決しておかしな話ではない。むしろ起こるべくして起こった事態だと言っていい。

◆実は裁判でも武史の冤罪を証言していた久保田

実は久保田が武史のことを「無実」だとか「冤罪」だと訴えるのは、この手記が初めてではない。久保田は2002年に武史の裁判に証人出廷した際にも、「武史から被害者の殺害を依頼された」という当初の供述を覆し、「本当は誰からも殺害の依頼は受けていない。自分が勝手に暴走してやったことだった」と“真相”を明かしているのだ。

このことは当時、新聞各紙でも報じられている。しかし、記事が小さかったり、埼玉地方面のみの掲載だったりしたため、世間にはほとんど知られずじまいだったのだ。

久保田によると、犯行に及んだ本当の目的はやはり、詩織さんに対してストーカー化していたとされる和人の思いに応えるためだったという。しかし犯行後、元々悪印象を抱いていた武史からトカゲのしっぽ切りのような扱いをうけ、憎悪を募らせた。そこで武史に復讐するため、武史を「首謀者」に仕立て上げるような供述をしたという。

だが、久保田は服役中、武史を貶めたことに罪の意識を感じるようになった。そのため、上記のように裁判で本当のことを話したのだという。そして宮城刑務所で服役中に手紙をやりとりしていた筆者の依頼に応じ、事件の真相を便せん50枚の手記に綴ったのである。

久保田が獄中で綴った手記

◆昨年発行した電子書籍版は武史が再審請求の証拠に

 

久保田祥史『桶川ストーカー殺人事件 実行犯の告白』(片岡健編著)

実を言うと筆者はこの手記を昨年5月、「桶川ストーカー殺人事件 実行犯の告白」と題する電子書籍として発行している。すると同11月、千葉刑務所で服役中の武史が同書を「自分が無罪である新規・明白な証拠」であるとして、さいたま地裁に再審請求を行う異例の事態となった。

同書に収録した久保田の手記では、虚偽の供述により武史を「首謀者」に仕立て上げた経緯が詳細に綴られている。さらに久保田の手記の原本も掲載していたので、武史の弁護人が再審請求の証拠になりうると判断したのだ。

そこで、筆者はこの機会に、久保田が手記で明かした事件の真相を少しでも世に広め、記録として残したいと思った。そして電子書籍に大幅に加筆、修正し、新情報も盛り込み、改めて紙の書籍化したわけだ。

久保田が犯行に及んだ理由は、和人の思いに応えるためだったと前記したが、実際には、この時の久保田の心情は複雑だ。そのあたりのことは同書を読んで頂けばわかると思う。

もちろん、同書の内容を無条件で信じて欲しいと言うつもりはない。しかし、平成の大事件の実行犯が自分の当初の供述が嘘だったと明かし、首謀者の男が冤罪だと訴えているだけでも重大な事態だ。関心のある方はぜひご一読頂きたい。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。創業した一人出版社リミアンドテッドから新刊『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史)を発行。

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

前の記事を読む »