環状線JR新今宮駅の目の前に建つ「あいりん労働福祉センター(あいりん総合センター)」(以降、「センター」と呼称)は、1970年「就労の斡旋と福祉の向上」を目的に開設され、あいりん職安や公益財団法人西成労働福祉センターのほか、売店、シャワー室、食堂、足洗い場、娯楽室などが入り、仕事を探すだけではなく、日雇い労働者や生活に困窮した人たちが、最低限の生活を維持出来る場所として機能してきた。

新今宮駅前に建つ「あいりん労働福祉センター」(あいりん総合センター)。この中に「あいりん職安」「西成労働福祉センター」始め、諸々の施設が入居している日雇い労働者の町・釜ケ崎を象徴する建物

しかしここ数年建て替え問題が急速に進み、3月11日には隣接する南海電鉄高架下に建設された仮庁舎に一部の業務を移転、3月末には閉鎖される事態となった。

仮庁舎、本庁舎の建設費用は大阪府の税金が使われるが、現在、大阪地裁で、この仮庁舎の建設費用が違法であるとして、大阪府を提訴した「公金違法支出損害賠償請求事件」の裁判が争われている。

建設時「100年持つ」と言われたセンターがなぜ突然建て替えとなったか? なぜ仮移転先に操業81年の老朽化し危険な南海電鉄高架下が選ばれたか? センター閉鎖となったら、そこを使う、とりわけ生活に困窮した人たちはどうすればいいのか? 釜ヶ崎から報告する。

◆橋下徹氏が大阪市長時代にぶちあげた「西成特区構想」

センター1、3階では現在も80~100人の人たちが段ボールを敷き横になったりして休んでいる

センター建て替え問題が本格化したのは、2011年橋下徹氏が大阪市長になって以降である。橋下氏が「西成が変われば大阪がかわる」「西成をえこひいきする」とぶちあげた「西成特区構想」のなかで、釜ヶ崎再編が本格的に着手され、センター建て替えへと一挙に流れがかわってきた。

ご存じの方もいるだろうが「釜ヶ崎」という日本最大の日雇い労働者の町は、1970年大阪万博(日本万国博覧会)に必要な労働者(力)を大量に確保するため、まさに国によって作られた町である。

橋下氏は西成特区構想の目的を、(1)生活保護受給率が高いこと、(2)不法投棄が多いこと、(3)結核の罹患率が高いことなどの「西成の諸問題」を解決し、「子育て世代」を呼び込むこととしているが、生活保護受給者の増加とは、そうして集められた労働者の多くが家族と別れ単身のまま働き続け高齢化し、生活保護を受給せざるを得なかっただけのことで、その責任は労働者にはない。不法投棄の多さも結核の罹患率の高さも、経費節約で不衛生な環境のドヤに労働者を押し込めてきた結果でもあり、責任はドヤ主たちや釜ヶ崎という町を作ってきた国や行政の側にあるはずだ。

◆「弱者」を閉め出すジェントリフィケーション

「西成労働福祉センター」の中には横になり休めるスペースはない

西成特区構想の狙いとは結局のところ、高齢化し、「金を生まないどころか金(税金)を食う」元の住民を追い出し、子育て世代など「金になる」新しい住民に置き換えようというものだ。「(釜ヶ崎は)家賃や土地代が安い上に交通アクセスなどの利便性が高い、(すると)『こういう経済的ポテンシャルがある土地を労働者や貧しい人たちに占有させておくべきではない』という主張がまかり通ってくる。それは間違いなくジェントリフィケーションの論理です」と「ジェントリフィケーションと報復都市」(著・ニール・スミス)を翻訳・紹介している神戸大学准教授・原口剛氏はいう。

橋下氏の意向をうけ、鈴木亘氏(学習院大学経済学科教授)が大阪市の特別顧問に就任、「西成特区構想有識者座談会」などが開催されてきたが、事態が大きく転換したのが2014年9月から始まった「まちづくり検討委員会」である。それまで釜ヶ崎には労働者の側で活動する人たち、そうした勢力に敵対するように警察と一体となり労働者の弾圧や排除に加担する人たちがせめぎあってきたが、そうした人たちが「一同に」集められ始まったのがこの会議である。会議は6回開催され、全て公開で誰でも傍聴できたが、その後各部門に分かれた会議はいずれも非公開となった。センター問題を検討する「労働施設検討会議」は西成区役所内で行われているが、会場前で「これまで通り一般傍聴を認めろ」と要求する人たちを排除するために、役所の要請で西成警察署員が導入される場面もあった。

◆「労働施設検討会議」の実態

センター建て替えも仮移転先を南海電鉄の高架下に決めたのもこの会議だが、これほど秘密裏に行われる会議の実態とはどういうものか? 同会議に委員として参加する釜ケ崎地域合同労組委員長の稲垣浩氏に聞いた。

「会議は大阪市大教授の福原宏幸氏が司会を務めるが、全体的には大阪市、大阪府、そして国が作った青写真に基づいて進められているという感じだった。議事録には誰がどう発言したか証拠が残らない。委員は意見をいうだけ。役所は自分たちの都合のいい意見だけとって、計画を進めていくという感じでした」。

どこで誰が決めたか不確かなままだが、問題なのは、そうして「決まった」センター建て替えと南海電鉄高架下への仮移転などが、釜ヶ崎の住民にはほとんど知らされていないことだ。行政はその都度「ホームページに掲載されています」と説明するが、それでどれだけの人たちに情報を周知出来きたのか? 携帯やパソコンを持たない(持てない)人たちにとって「ホームページってどこにあるんや? センターの近くに出来たんか?」という話になりはしないか?

◆仮移転先の南海電鉄高架下施設の建設費用が異常に高い

更に、ほかにいくつか候補のあった仮移転先が、何故わざわざ危険な南海電鉄高架下になったのか? つきつめていくと仮移転先の南海電鉄高架下施設の建設費用が異常に高いことがわかった。例えば大阪地裁横の天満警察署の建て替えに伴なう仮庁舎の建設費用と比較しても、同じ鉄骨構造2階建て、面積は倍近い天満署の仮庁舎が約2.7億円であるのに対して、センター仮庁舎は約7.5億円である。公金の支出は、地方自治法によって必要最低限度内に納める必要があるにも関わらず、非常に高いのはおかしい、ということで2018年6月「住民監査請求」を行なったが、結果棄却され、その後現在の裁判を争うこととなった。

頑丈な造りの「西成労働福祉センター」

簡易なプレハブ構造のあいりん職安

裁判では、同じ場所、同じ機能を持って移転する「あいりん職安」と「西成労働福祉センター」を比較して、金額の違いを問題にしている。両建物の平方メートルの単価を比較すると、あいりん職安の仮施設が3万2,172円に対して、センターは4万5,733円と約1万円の差額が生じる。この差額は両者の建設手法の違いから生じているようだが、それは現場で外観を見ただけでも一目瞭然だ。

あいりん職安は、本施設完成に伴い撤去が予定されていることから、簡易な構造物になっているが、センター仮移転施設は頑丈な造りで、仮移転完了後も、他の施設として転用し、何十年も使用できるような建造物になっている。しかもこちらには終了後に原状回復するための解体工事費も入っていない。

これは同じ南海電鉄の難波駅高架下に作られ、話題のエリアと注目されている「なんばEKIKANプロジェクト」と良く似た構造だ。こうした「高架下ビジネス」は近年全国規模で展開されているようだが、難波駅の高架下で南海電鉄が儲けるのは勝手だが、現在建設されている構造物は府民の税金で作られている。これは大問題ではないのか?

◆「耐震性に問題」といいながら上階の「医療センター」と「市営住宅」は閉鎖せず

もう一つ、釜ヶ崎公民権運動や釜ヶ崎地域合同労組がセンターと交渉を重ねる中、3月末1、3階を閉鎖して以降も、上の「医療センター」と「市営住宅」は閉鎖せず出入り出来ることがわかった。たしかセンター建て替えの最大の理由は、耐震性が弱く、次の大震災で倒壊し、住民に被害が及ぶからではなかったか? 阪神淡路大震災後、何度も耐震性が問題にされながら、点検も補修工事もしなかったくせに、ここにきて突然「耐震性に問題」とは良く言えたものだが、大地震で倒壊の危険性があるというなら、2年間医療センター(80床)の入院患者、職員の命はどうでもいいのか? 「30年内に7割~8割の確率で起こる」と言われる南海トラフ地震は、30年後に起こるか、明日起こるかは予測不可能だ。ならば1、3階閉鎖と同時に、上の医療センター、市営住宅も閉鎖すべきではないのか? 「医療センターと市営住宅の移転先施設がまだ完成していないので、上は使います」というなら、今日明日を生き延びる人たちのために1、3階も開放されるべきだ。

3月18日西成区役所で開かれた「労働施設検討会議」の会場入り口で、「釜ヶ崎公民権運動」の人たちが、参加委員に配布したチラシがある。そこにはこう呼びかけられている。「4月からあいりん総合センター閉鎖で、人が死ぬことになっても平気ですか?」

▼尾崎美代子(おざき・みよこ)https://twitter.com/hanamama58
「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主。

月刊『紙の爆弾』4月号!

〈原発なき社会〉を目指す雑誌『NO NUKES voice』19号 特集〈3・11〉から八年 福島・いのちと放射能の未来

◆学校で起きる諸問題

今日、学校(この記事では主に小中高を指す)では様々な問題が起きている。いじめ(という名の犯罪行為)とそれによる自殺、外国にルーツを持つ子供たちへの差別、過酷すぎる教員の職場環境……。

『いじめは、なぜ学校で次々に起きるのか』(『月刊Wedge』2012年7月31日=2018/11/16筆者閲覧)

『「日本人」になれない外国ルーツの子供たち』(クーリエ・ジャポン2018年10月14日=2018/11/16筆者閲覧)

『公立小中学校の教員はブラック勤務が前提?!週60時間以上働いても残業代は支払われず』(東洋経済2017年3月3日=2019/3/2筆者閲覧)

去る2月19日に、大津市立中学2年の男子生徒=当時(13)=の自殺をめぐる損害賠償請求訴訟で加害者側に賠償請求が命じられた。この事件では、自己保身集団である教育委員会と学校はまともにいじめについて調査をしないばかりか隠ぺいまで行っていたという。これに限らず、学校でのいじめは後を絶たない。嫌がらせレベルから暴行・脅迫レベルまで範囲は広い。

外国にルーツを持つ児童に関しても問題は多い。昔から在日朝鮮人の子供たちが出自から学校で嫌な思いをするということはあった。これに加え、両親がブラジル人でその児童も日本語がうまく話せず学校に授業についていけなくなる、または両親のどちらかがインドネシア出身で、宗教的な違いから学校になじめず引きこもるか荒れるといった事例を見聞きしたことがある。

教室の様子。現代はこのような教室で国家が決めたカリキュラムに沿って授業が行われる

近年はこのようなことが増えている。そういえば残虐性で恐れられたイスラーム国の兵士には、フランスやイギリスなどヨーロッパ出身者が多くいた。彼らはアラブ諸国から移住したヨーロッパ社会で疎外感を抱き、やがてイスラーム国に加わることによって、その社会に対して牙をむくようになったのである。この事実は今後移民が増える日本社会に大きな示唆を与える。

教える側も大変である。2019年時点で、小中学校とも週当たりの労働時間が60時間以上が70%以上を占める。週60時間労働は、月残業時間が80時間強の状態に相当する。私のいとこは名古屋市内で小学校の教師をやっているが、非常に大変だという。剣道部出身にもかかわらずサッカー部の顧問をやらされ、指導要領の改訂で教える内容が増加したなどでいつも夜遅くまで残業をしていて、まったく生活に余裕がないようである。

◆「国家の、国家による、国家のための」近代教育システム

このような状況が続くと、「先生に問題がある」や「生徒の生育環境に問題がある」といった以上に、根本的に今の教育システム自体に何らかの問題があるのではないかと考えてしまう。

そもそも今の教育システムは近代の西欧で登場し、その後世界に広まったものである。近代の西欧では、国民国家の形成や産業化に伴い同質な文化を持つ「国民」労働者が必要となった。そのために「国歌」「国史」「国語」が形成されることになった。このように近代教育システムというのは、国家が効率的に人間を動員しやすくなるために作られたものであり、「子供のためにどう教育するか」という視点が根本的に欠けている。

それは「義務教育」(高校は義務教育ではないが指導形態は小中と同じである)の名で児童・生徒を強制的に教室に押し込めて、中央政府が定めたカリキュラムに従って、生徒の様々な特性(性格、民族出自、宗教など)を一般的には無視したうえで画一的なコンテンツを頭の中に叩き込む。その目的は同質的な「国民」という、国家にとって使い勝手の良い者を作り出すためである。

近代以降の日本でも「教育勅語」によって国家や天皇に対する忠誠や奉仕が徹底された。現代の世界でも学校などで実践される、掲げられた国旗に対して頭を下げたり国歌を歌うといった行為はまさに国家への忠誠心を示すものである。また、同質的な「国民」を「生産」すべく教育の場では「国語」や「国史」が教え込まれ、その過程でアイヌなど少数先住民の言語や文化が壊滅的なダメージを受けたのは有名である。このように近代の教育システムというのは、本質的に「国家の、国家による、国家のための」教育制度であり、そこでは生徒一人一人に応じた教育は軽視される傾向にある。(後編につづく)

▼Java-1QQ2
京都府出身。食品工場勤務の後、関西のIT企業に勤務。IoTやAI、ビッグデータなどのICT技術、カリフ制をめぐるイスラーム諸国の動向、大量絶滅や気候変動などの環境問題、在日外国人をめぐる情勢などに関心あり。※私にご意見やご感想がありましたら、rasta928@yahoo.ne.jpまでメールをお送りください。

衝撃『紙の爆弾』4月号!

◆自民党と大差がない野党各党

ことしは統一地方選挙のおこなわれる年にあたる。参議院議員選挙もおこなわれる。衆議院の解散があれば、衆参同日選挙となるかもしれない。地方・都道府県・国政の方向を軌道修正する機会が選挙なので、ことしの選挙でぜひ!と望ましい変化に向けての選挙展望などを披瀝してみたいのだけれども、自分に嘘をつかないと、評論家のようにいい加減なことしかいえない。

評論家の皆がいい加減であるとはいわないが(皆ではなく多くがいい加減であることは確かだ)、「政治評論家」や「政治学者」と自・他称し、されている方々が、あれこれ述べる展望や予想には、どうも違和感がぬぐえない。

自民党内の力学分析や石破の処遇へのコメントに、現実変化へのいかほどの意味があるだろうか。民主党だか国民民主党だかわからない、結局は「保守」を自称する立場としては野党各党には、主張の違いを見つけるのが難しい。これはわたしの不勉強に起因する問題ではなく。各党の政治理念と行動や公認予定者の顔ぶれを眺めると、自民党と大差がないのではないかとしか思えない、ありさまが原因なのだ。

◆多くの野党議員に共通する「細野豪志的」危うさ

民主党政権時代には大臣も経験し、山本モナとの不倫をパパラッチに撮られたことのある細野豪志はその象徴的な人物といえよう。細野はその昔原発の勉強をしたいと、ルポルタージュライター明石昇一郎さんのもとに訪れたことがある。「ふんふん」と明石さんの説明に細野は原発の危険性を理解したようであった。ところが、福島第一原発事故後、内閣府特命大臣(消費者及び食品安全)に任命されると、もっぱら原発事故の危険性隠しにやっきになる。

故鳩山邦夫の秘書の経歴を持ち、やはり原発事故後に一時「正義の味方」と勘違いされた上杉隆と都内の某レストランで会食していた細野とたまたま隣の席になったことがある。“胡散”臭いの発し方にかけては劣らぬ二人の会食に気が散って、料理の味よりも隣の会話に神経が向かったが、話の内容はどうということのない内容だった。細野は自民党に入党を前に(?)二階派入りをするという。3月16日朝日新聞デジタルには「漂流する細野氏『民主のホープ』はメンツ捨て自民へ」の見出しが。「民主のホープ」だったかどうかは別にして、細野が節操のない男であることは、彼の政治家としてまた個人としての活動歴を振り返れば、一目瞭然だろう。

ところが困ったことに、細野ほどではないにしろ、自民党以外の政治家には「細野的」危うさが拭い去れない、議員や政党ばかりで、「この党になら投票したい」、「この候補者になら投票したい」と感じられる対象がほとんど存在してくれないのだ。

◆いまこそ「自民党と正反対の主張」を掲げる政党の登場を望む

前述の通り民主党をルーツにする各政党は、その主張において自公政権に対する明確な対抗勢力ではない。社民党は力が弱すぎる(沖縄での存在感は別にして)、日本共産党は「野党共闘」を強調するが、自民党と主張が変わらない野党が共闘して選挙に勝っても、政治が変わる保証があるのだろうか。日本共産党はマルクス主義による社会主義の実現を求める政党だと、同党は主張しているが、そうであれば野党であっても本質が自民党と大きく変わらない政党との連携は矛盾しないか。

わたしの拙い想像であるが、「自民党と正反対の主張」(護憲・集団的自衛権反対・原発即時廃止・消費税廃止・法人税と累進課税の増税・少子化を前提にした社会の再構成・身の程にあった自然を壊さない、壊持続可能な産業界再編)などを掲げた政党が現れれば、かなりの得票をえられるのではないだろうか。

◆大阪では「ファシズムA」VS「ファシズムB」という選択

大阪では知事・市長・府会・市会の同時選挙がおこなわれる。でも知事・市長選挙の選択肢は実質「維新か自民(プラス諸野党)」という、正直不幸としか言いようがない2択になりそうだ。「ファシズムA」と「ファシズムB」のどちらからかしか選べない。「民主主義」が原則の社会でこんな2択は選挙といえるだろうか。多様性どころではない。どちらが当選したって「大阪都構想」以外には変わりがないことは選挙民は知っているだろう。

でも本当の間接民主主義は、こんなに似通った(ほとんど同じ)主張の二者から選ばなければならない、窮屈な制度ではないはずであるし、根本的に政治思想の異なる(国家主義、新自由主義ではなく、社民主義や社会保障重視主義)オプションがなければ、政治で社会は変わらない。

今日日本の行き詰まりと閉塞感は、名称は異なるがその実、中身の変わらない政党しか存在せず、選挙で社会を変えることのできる政党や候補者がない。このことに由来するのではないだろうか。


◎[参考動画]2019年3月18日参議院予算委員会(山本太郎=国民民主党・新緑風会の質疑部分)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

〈原発なき社会〉を目指す雑誌『NO NUKES voice』19号 特集〈3・11〉から八年 福島・いのちと放射能の未来

衝撃月刊『紙の爆弾』4月号!

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

◆警察、検察、裁判所の間違いは「仕方ない」で許される異常な社会

桜井昌司さん(写真提供=加藤由紀さん)

3月2日、東京都内の甲南大学東京キャンパスで「冤罪犠牲者の会」の結成総会が開催された。発起人である桜井昌司さん(布川事件)には昨年11月、本通信でインタビューし、会の結成に向け準備を進めているとお聞きしていたが、こうした会の結成が初めてと知り、正直驚いた記憶がある。

日本には、長年無実のまま獄中に囚われた冤罪犠牲者が、その後再審で無罪を勝ち取っても「無罪になって良かったね」程度で済まされ、片や間違いを犯した警察や検察、裁判所に対しても「間違いは仕方ないね」と許してしまう風潮があるが、それを変えていかなくてはならない時期に、今あるのではないか。

「捜査機関が自白の強要や証拠の捏造をし、裁判所もそれを見過ごしてきたから冤罪はおきた。犠牲者自身が声をあげ、司法をかえていきたい」「警察や検察、司法は冤罪が明らかになっても誰も責任をとらない。悪いことをしたら責任とって欲しい」。桜井さんのこうした発言からも、会を作る意義が強く伝わってくる。

桜井さんが会を作らなければと考えたきっけかけは、昨年7月滋賀県の大津地裁で死後再審が決まった「日野町事件」(1984年発生)の審理の中であったと説明している。実は審理の過程で、故阪原弘さんの無期懲役の有力な証拠とされた写真の撮影順が、警察の都合の良いように入れ換えられていたことが判明した。その際、警察は「良くあることです」と平然と言い放ったという。このとき桜井さんは「警察と検察の犯罪的な行為を止めさせない限りは、これからも同じように冤罪犠牲者は作られる」と会の結成を決意し、多くの冤罪仲間に参加を呼びかけ、準備をはじめた。

総会では、会の共同代表に、青木恵子さん(東住吉事件)、藤山忠(すなお)さん(志布志事件)、矢田部孝司さん(痴漢冤罪事件)の3名が、事務局には発起人桜井さんほか5名が、それぞれ選出された。会には現在、足川事件、氷見事件で再審無罪が確定した当事者はじめ、再審請求中の袴田事件や狭山事件、現在公判中の今市事件など約40事件の当事者、家族らが参加している。事件の大小問わず、窃盗、痴漢、覚醒際使用などあらゆる冤罪をかけられた犠牲者が結集する画期的な会の発足となった。

会は今後、冤罪犠牲者を作らせない法律と再審のルールをつくることを行動目的とし、具体的には裁判当事者への証拠閲覧権の付与、警察や検察の証拠悪用を防ぐ証拠管理所の設置、検察が無罪判決や再審開始を不服として上訴できる権利の廃止、冤罪を生んだ捜査関係者らの処罰、などを求めるとしている。

写真右から袴田巌さんと姉の袴田秀子さん(写真提供=加藤由紀さん)

◆「仲間とともに冤罪被害者を助けていきたい」(青木恵子さん)

共同代表のお一人、青木恵子さんにお会いし、詳しいお話をお聞きした。

総会には当事者、支援者ら50名のほか、マスコミ、弁護士、学者ら含め85名が参加した。中には青木さんも知らない方、知らない事件もあり、改めて冤罪犠牲者の多さを知ったと驚かれていた。青木さんが個人的に支援している名古屋の鈴鹿殺人事件の加藤映次さんのご両親も参加されていたが、獄中にいる加藤さん本人よりも社会にいる家族のご苦労、辛さが、会の交流の場で少しでも癒されればと感じたという。

会見で青木さんは「仲間とともに冤罪被害者を助けていきたい」と話されていたが、青木さん自身が服役中、多くの支援者に助けられたとの思いがあるからだ。とりわけ桜井昌司さんの面会が青木さんに希望を与えてくれたという。

「『自分は29年入っていて仮釈放で出た。俺たちの闘いは難しいが、青木さんは絶対勝てる。出てきたら、こっち側でいろんな人の支援をやろう』と言われました。その後も手紙に『ガソリン撒いて火傷をしないなんてことはあり得ない。裁判所が(実験を)やればいい。青木さんは絶対勝てる』と書き添えてありました。私は初めて無罪なのに無期懲役になった人と会ったので、桜井さんのことを信じられました。今でもあの面会の時のことを思いだすと涙がでます。それほど桜井さんの面会が私に希望を与えてくれました」。

「出てきたらこっち側でいろんな人の支援をやろう」。桜井さんに言われたように、出所後の青木さんは精力的に犠牲者や家族への支援活動を続けている。最初に参加した鹿児島県の志布志事件の集会を皮切りに、大崎事件、名張事件、袴田事件、鈴鹿殺人事件、仙台筋弛緩剤事件、大仙事件、恵庭OL殺人事件、今市事件、福井女子中学生殺人事件などの集会や判決に駆けつけた。日野町事件、星野冤罪再審事件、それから滋賀県湖東記念病院事件にも。ほか大学や弁護士会館での講演会、集会など呼ばれたところへはなるべく行くようにしている、という。

「冤罪犠牲者の会」の目的のひとつに法律を変える、再審のルールを作ることがある。「日本の検察は上訴権が認められているから、だらだら裁判を引き延ばす。それがなかったら、これまでどれだけの犠牲者が救われてきたことか」と青木さん。その青木さん自身、じつは和歌山刑務所に服役中の2012年3月7日に再審開始の決定が出て、釈放されることになったが、出る10分前に釈放が取り消された苦い経験をもつ。

「あの再審開始が決まった時はいちばん嬉しかったですね。それまでの裁判で初めて勝ったから、再審無罪を勝ち取ったときより嬉しかった。でも日本は『再審法』がないから、釈放できないと弁護士も思っていました。私は詳しい法律は知りませんが『なぜ出れないの? 釈放を要求して! ダメでもやって』と弁護団に無理を言いました。で、弁護団が裁判所に手続きに行ったら、裁判所に『やっときましたか?』と言われたそうです。そんな感じで釈放が認められたが、条件はとても厳しかったです。釈放されることは、出るまで一切秘密にしなければならないとか。釈放の日にちが4月2日月曜日午後14時と決まり、私は金曜日の昼から工場も行かず、釈放になる前の部屋に移った。もちろん出る気満々だから荷物も全部捨てました。当日弁護団は3人来ました。頼んでいた服を貰って着て、30分前から座って待っていました。あと10分という時、職員が走ってきて『あなたを釈放できなくなった』といったのです。『詳しくは弁護士に聞いて』といわれ、また中の服に着替えさせられた。弁護士も慌てて大阪の弁護士などに連絡とったみたいです。検察が高裁に抗告していて高裁の裁判官が取り消ししたと説明され、『これが同じ血の通った人間のすることか』と思いました」(青木恵子さん)。

まさに天国から地獄を経験した青木さん。結局3年かかり、2015年10月23日検察の即時抗告が棄却され、刑の執行停止が決定、2日後にようやく釈放された。翌2016年8月10日、大阪地裁で無罪判決が言い渡されたのである。

総会後の交流会で。写真右から袴田秀子さん(袴田巌さんの姉)、青木恵子さん、西山美香さん(湖東記念病院事件の冤罪犠牲者)。この原稿を書き終え入稿しようとした矢先、「湖東記念病院事件」再審開始決定との嬉しいニュースが飛び込んできた。西山さんは和歌山刑務所で青木さんと一緒の工場で働いていた(筆者撮影)

青木さんは現在、時間が比較的自由に使えるチラシ配りや集金のアルバイトをやりながら、冤罪犠牲者の支援や講演活動などのため全国を走り回っている。そのうえで自身も2つの裁判を闘っている。1つは、警察と検察の違法捜査で20年にわたり拘束されたとして、国と大阪府に計約1億4500万円の国家賠償を求める裁判、もう1つは、娘を焼死させた火災はホンダの車のガソリン漏れが原因として、メーカーのホンダに約5200万円の損害賠償を求めた裁判である。こちらは昨年10月26日、20年が過ぎると請求権がなくなる「除斥」という規定を適用し、訴えを退ける判決が出て、現在大阪高裁で控訴審が争われている。

最後に青木さんに今後やりたいことについてお聞きした。

「やれることは全部やりたい。自分の裁判が終わっても一生、冤罪を無くす活動をしていく。そして冤罪犠牲者の会で法律を変えていく努力をしていきたい。法律が変われば、冤罪者を助けることが出来るから。」

◎冤罪のない社会をめざして 布川事件冤罪被害者、桜井昌司さんインタビュー
〈1〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=28887
〈2〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=28894
〈3〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=28898

▼尾崎美代子(おざき・みよこ)https://twitter.com/hanamama58
「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主。

衝撃月刊『紙の爆弾』4月号!

〈原発なき社会〉を目指す雑誌『NO NUKES voice』19号 総力特集〈3・11〉から八年 福島・いのちと放射能の未来

滋賀県東近江市の湖東記念病院で2003年、男性患者(当時72)の人工呼吸器のチューブを抜いて殺害したとして、殺人罪で懲役12年が確定し、服役した元看護助手の西山美香さん(39)=同県彦根市=が申し立てた再審請求で、最高裁第2小法廷(菅野博之裁判長)は、裁判のやり直しを認める決定をした。3月18日付で検察の特別抗告を棄却した。裁判官3人による全員一致の結論で、事件発生から16年を経て再審開始が確定した。


◎[参考動画]「無罪判決に向け頑張る」 再審確定で西山さん涙(KyodoNews 2019/03/19公開)

最高裁での再審開始決定は、西山さんが冤罪被害者であることを、無実であることを明かすことになるだろう。このようなケースに接するたびに、ひとりの人間を犯罪者と決めつけ服役させたり、場合によっては死刑を言い渡した裁判官や検事、警察官の個人としての責任は問えないものか、といつも疑問がわく。職務として合法的な手段により無辜の市民に刑事罰を押し付ける。こんなことをされたらたまったものではない。仕事でひとを「罪人」と決め付けるのは「犯罪」ではないのか。

鹿砦社代表の松岡が、本人のFacebookで取り上げているが、アルゼ(事件当時、現在はユニバーサルエンターテインメント)により刑事告訴され、逮捕後神戸拘置所に192日も勾留された事件が、他人事ではくその恐ろしさを示している。

◎アルゼ(現ユニバーサル)岡田和生と私の15年戦争(2017年7月3日付デジタル鹿砦社通信)

◎【緊急NEWS!】私を嵌め逮捕―長期勾留―有罪判決を強い、鹿砦社に壊滅的打撃を与えた旧アルゼ創業者(元)オーナー・岡田和生氏の逮捕に思う(2018年8月9日付デジタル鹿砦社通信)

名誉毀損とされた書籍を読んでも、市民感覚からすれば「どこが名誉毀損になるのか」まったくわからない。松岡が書いている通り、アルゼの経営者には警視総監など警察関係者が天下りで就任していたので、実は警察に喧嘩を売っていたのが実情だったのが、逮捕勾留の理由だったのではないか。にしても出版による名誉毀損で逮捕をしなければならない理由がどこにあるというのだ。逮捕勾留は、証拠隠滅や逃亡の恐れがある場合にのみ認められる。松岡の場合、証拠は既に出版した書籍だから隠滅の手段はないし、会社の代表だから社員を放り出して逃げることもないじゃないか。

◆「りんご箱から腐ったりんご」を取り除く井戸謙一弁護士

西山さんの「冤罪」問題を井戸謙一弁護士から聞かされたのは、2年ほどまえだっただろうか。まだどのメディアもこの問題を取り上げておらず、本コラムでさまざまな事件についての取材を執筆している片岡健氏だけが追いかけていた。

◎滋賀患者死亡事件 西山美香さんを冤罪に貶めた滋賀県警・山本誠刑事の余罪(2018年2月16日付デジタル鹿砦社通信)

「実刑判決を受け服役中なんです。あとしばらくしたら満期です。田所さんも是非取材して書いてくれませんか」と井戸弁護士から説明と依頼を受けた。当時わたしは「M君リンチ事件」の取材に忙しく、残念ながら西山さんの事件には手付かずだった。あれから不思議なご縁で、井戸弁護士とはたびたび取材者として、関係者としてお目にかかったり、連絡をさせていただいたりするご縁をいただいた。

井戸謙一弁護士

3月20日、朝日新聞ほか多くの新聞の一面トップは西山さんの再審決定を報じている。19日の午後、井戸弁護士は西山さんの記者会見やその後の取材対応で忙殺されていたに違いない。その真っ最中に滋賀医大附属病院係争関係で、重大な事項が生じた。関係者が井戸弁護士に急報を告げると超多忙のなか「5分だけなら」と井戸弁護士は相談に応じてくださった。夜、関係者及びわたしが送ったメールへも短時間で返信いただいた。西山さんの再審決定の美酒に浸る猶予もなく原発事故被害者、冤罪被害者、刑事被告人、滋賀医大問題関係者……想像を越えるだろう数の人びとの相談に井戸弁護士は瞬時に判断を下す。

弁護士のなかには「かみそり」なんとかと持ち上げられたり、「人権派」と自他称し・されながら、その実暴利を貪り、あるいは「どうしてこんな事件のこんな当事者の弁護に就任するのか」と首を傾げたくなる言行不一致の人物が少なくない。裁判官時代に志賀原発の運転差し止め判決、住基ネット差し止め判決を下した井戸謙一弁護士は、法廷の中だけを見ている弁護士ではなく、事件や争いの本質がどこにあるのか。問題の核心はなにか。そのためにはどのような論理構成が必要で可能かを依頼者の立場で考え、アドバイスを与え、冒頭の西山さん冤罪事件を立件前の証言の変化から緻密に解き明かし、再審を勝ち取った。

たくさんの事件を受任しながら、井戸弁護士は滋賀医大附属病院問題に必ず、法を駆使した「メス」を入れるだろう。そのことが滋賀医大附属病院の腐敗解消の端緒となり、患者の命が救われると同時に、滋賀医大附属病院に勤務する、真面目で誠実な関係者への激励と名誉回復にも繋がるだろう。「悪貨は良貨を駆逐する」が「りんご箱から腐ったりんご」を取り除くことも可能なのだ。


◎[参考動画]〈湖東記念病院事件・再審確定〉元看護助手・西山美香さん会見(shiminjichi second 2019/03/19公開)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

〈原発なき社会〉を目指す雑誌『NO NUKES voice』19号 特集〈3・11〉から八年 福島・いのちと放射能の未来

衝撃月刊『紙の爆弾』4月号!

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

日本人がアジアや欧米、南米で強盗や盗難、誘拐される事件は年に何度か報道で伝えられる。日本人がこれらの犯罪のターゲットになるのは「日本人=金持ち」だとの加害者側の意識があってのことでことだ。貧乏人を狙っても金品は盗めない。80年代から今世紀の初頭まで日本人は確かに、世界基準からすれば裕福な収入を得ていて、海外で犯罪被害のターゲットとなりうるだけの資格と名声を有していた。

◆「安すぎる日本社会」の誕生と「中流」の消失

 

◎カンボジアでハイヤー運転手を刺殺か 日本人2人逮捕(2019年3月18日朝日新聞/ハノイ=鈴木暁子)

さて、お蔭様とはいわないが、消費税が導入されて以来、日本は長らくデフレが続いており、大企業を除いて賃金は上がらず、非正規雇用労働者が爆発的に増えたことにより、決して「裕福」な国民が多数を占める国ではなくなった。

80年代にも安価な衣料品店がなかったわけではなかろうが、いまはユニクロで下着からジャケットまでをそろえても選び方次第では一万円でお釣りがくる。こんなに安く衣服を揃えることが80年代には一般的にはできなかった。庶民にとっても衣服はもっと高価だった。100円ショップがあちこちに開店し、幅広い品揃えで低所得層だけではなく、多くの人々が安価に商品を購買することができるようになった。

モノが安く買えるのはありがたい。けれども30年前と比べて同じものの値段が変わらないのは、総体として経済が成長していない(萎縮している)、賃金が上昇していないことの副作用でもある。だからかつてはオセアニアの国々を訪れると、土地からファーストフードまでが日本の物価と比較して、大雑把に半額程度であったけれども、豪州もニュージーランドも30年前から毎年着実に経済成長を続けているので、いま日本人がこれらの国を訪れたら、決して物価が安いとは感じないだろう。

6年前にニュージーランドを訪れた際にUSBメモリー(4ギガか8ギガ)を買おうと物色していたら、たしか4000円か5000円ほどの値段だった。あまりに高いので店員に「もう少し安く買える場所はないだろうか」と聞いたら「ない。ここはアジアじゃないから物価は安くないんだ」といわれた。完全にかつての「世界で2番目の経済大国」であった時代は過ぎ去り、日本は「アジアの一員」に収まるべくして収まったのか、と感慨を覚えた記憶がある。


◎[参考動画]カンボジアでタクシー運転手殺害か 日本人男ら逮捕(ANNnewsCH 2019/3/18公開)

◆「新自由主義」が生み出した「階級社会」の残酷

 

◎日本の年金生活者が刑務所に入りたがる理由(2019年3月18日BBC NEWS JAPAN/エド・バトラー)

わたし個人は経済成長至上主義者ではまったくないので、日本が分不相応に「金持ち」であった時代の矛盾(アジアをはじめとする諸国への経済侵略と搾取)に目を向ければ、現在の日本の下降傾向はある意味当然の帰結とも考えることができよう。ただ、問題であり、度外視できないのは、多くの国民が等しく収入の非上昇を被っているのではなく、一部にはめちゃくちゃに儲けている少数者の層が出来上がり、それ以外の人々との乖離が甚だしく拡大していることだ。「一億総中流」との言葉が20世紀のある時期、当たり前のように語られていたが、いまでは誰もこの国が「総中流」だなどとは感じていないだろうし、「中流」に至ることができない低所得者層がどんどん増加している。

このような所得を基準にした、国民の経済的状態の分布は自然に生じたものではない。逆進性元凶(金持ちほど優遇され、貧乏人ほど厳しい状況におかれる)消費税の導入とその税率の相次ぐ引き上げと、相反する所得税の累進税率緩和(高所得者にかけられる税率の低下)と法人税の引き下げ。そして何よりも「雇用の自由化」とのことばで示される「雇用主側の裁量の拡大」(派遣労働の解禁、ホワイトカラーエグゼンプション・実質残業代ゼロ)といった政策が、所得中間層を減らし、低所得層を増加させ、一部に特権的な趙富裕層を生み出してきたのだ。

このような政策の総体が「新自由主義」と呼ばれるものであり、「新自由主義」は現在も進行中であるので、これからますます日本では所得格差が広がり、分かりやすい「階級社会」が深刻に進行する。

 

◎[参考音声]Japan's Elderly Crime Wave(2019/01/31BBC音声レポート) https://www.bbc.co.uk/sounds/play/w3cswf65

「資本主義」自体はもともと「イデオロギー」があって、それを達成しようとする思想・行動の帰結ではなく、産業発展とともに貨幣経済が年々成長を遂げないと維持できない、いわば「状態」をあらわす概念ではないかと、わたしは考えている。「社会主義」や「共産主義」、「社会民主主義」は思想と到達目標を持つ「イデオロギー」を政策に反映させ、経済至上が必ず孕む「資本主義」の問題を解決しようと、考え出された「人為的」営為だ。「社会主義」・「共産主義」を標榜する国の多くは、権力独裁が産む問題の数々により、終焉を迎えたが、かといって放置すれば必ず「儲け第一」だけで暴走する「資本主義」が中長期的に見て社会的・世界的に優位かといえば、そのようなことはまったくない。

「資本主義は状態だ」と私見を述べたが、「資本主義の最終形態は新自由主義」である。「新自由主義」にも思想はない。大企業・多国籍企業や富裕層の所得・利益を最大化すること。それが最大のテーゼである。総合的な社会観や社会保障への考慮などは「新自由主義」のうかがい知るところではない。わたしたちが生活している「いま」はそういう時代の真っ只中であることを認識しておけば、政府が提供してくる政策の意図や、企業活動の将来がおのずから理解されるであろう。

「新自由主義」の被害者たちは、以下のようにここが先進国か、との疑問を呈せざるを得ないほど追い込まれる。カンボジアで日本人が殺されることはあっても、殺す側に回る日が来るとは衝撃であるし、年金で生活できない高齢者が自ら犯罪を犯し進んで服役を望む。ふたつの記事は「新自由主義」の社会がどう暗転するかをわかりやすく示している。

◎カンボジアでハイヤー運転手を刺殺か 日本人2人逮捕(2019年3月18日朝日新聞/ハノイ=鈴木暁子)https://www.asahi.com/articles/ASM3L3RGYM3LUHBI00M.html

◎日本の年金生活者が刑務所に入りたがる理由(2019年3月18日BBC NEWS JAPAN/エド・バトラー)https://www.bbc.com/japanese/47453931

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

〈原発なき社会〉を目指す雑誌『NO NUKES voice』19号 特集〈3・11〉から八年 福島・いのちと放射能の未来

衝撃月刊『紙の爆弾』4月号!

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

日本国内にいるとそれほど気にならないことも、隣人には敏感に受け止められているようだ。隣人とは韓国の人々である。いま日本人は、意識的に米韓関係の危機を煽っているようだ。言い換えれば、アメリカに忠実なポチであることで日米同盟を誇ろうというものであろうか。隣人の云うところを聴こう。

「毎日東京の空気を吸いながら取材していて、このところ『韓米関係に問題がある』という発言をよく聞く。2月、かつて北朝鮮の核問題に関する6カ国協議の日本側首席代表を務めた藪中三十二・元外務次官の講演会に行ったが、ここでも韓米関係についての質問が出た。南北関係が進展したら在韓米軍の大幅削減や撤収が既定の事実となるのではないか、というもので、韓米関係に対する不信に根差した質問だった。同じく2月に慶応大学で開かれた北東アジア情勢に関する討論会でも、同様の言及があった。」(朝鮮日報)おそらく意識的に、日本の保守層が発信していることを、韓国のジャーナリズムは敏感にキャッチしているのだろう。


◎[参考動画]6カ国協議(ANNnewsCH 2017/09/19公開)※2年前の動画

◆アメリカのポチを競い合っていた日韓両国なのに

オバマ政権時代の朴政権下では、韓国の保守(反共・親日)系の論壇や報道で、日韓のどちらがオバマと親しいかという記事が中央日報や朝鮮日報の紙面を飾っていた。保守系各紙では、オバマの滞在時間が日本のほうが長かったこと、あるいはオバマが寿司を残したことなどもニュースになっていたものだ。基本的に反日ではあるが、韓米同盟を最重視し、いっぽうでは北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)との関係では日本も「友邦」であるという立場だった。

朴槿恵前大統領は父親ゆずりの親日家でありながら、反日を装うことで政権の求心力を維持してきたと言われている。いまや態度は180度変わった。朝鮮日報の云うところをさらに聴いてみよう。

「日本では、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は北朝鮮との関係ばかりを重視し、米国のトランプ大統領は全てをカネでしか勘定せず、同盟は危険水位に達しているという認識が広がっている。合同演習の中止で『カカシ』と化した韓米同盟の次の動きは在韓米軍の削減および撤収、と予想している。日本のある月刊誌が2月号の記事に付けたタイトルが、こうした雰囲気を象徴的に示してくれる。「韓国が壊す『アジアの秩序』:日米韓同盟『空洞化』の代償」」だと云うのだ。

アメリカとの親密さを韓国と競っているのは、日本も同様である。反韓・嫌韓の空気は、それをいっそう助長してきた。書店ではいまだに反日本や反中本が、その無内容な罵詈雑言のボルテージだけで売れているのが現状だ。そして韓国にたいする日本の優位の証しとして、アメリカとの親密な同盟関係が挙げられてきた。これは安倍政権の外交政策の基本路線である。安倍政権の支持率は虚構のアベノミクスとともに、この日米同盟の「揺るぎなさ」にあると言えよう。

しかしである。日本がアメリカとの同盟を誇れば誇るほど、東アジアにおける孤立は明らかである。今度は労働新聞(朝鮮労働党機関紙)の云うところを聴かないわけにはいかない。米朝首脳会談(トランプ・金)の決裂を受けての論調である。

「(米朝の)新しい関係を樹立して朝鮮半島に恒久的で強固な平和体制を構築し、完全な非核化へと進むことはわれわれの確固とした立場」としたうえで、共同声明も合意書も成らなかったことについて「唯一、日本の反動層だけはまるで待ち焦がれていた朗報に接したかのように拍手をしながら小憎らしく振る舞っている」「島国野郎たちは実に憎たらしく、ビンタをくらわせたい輩だと言わざるを得ない」と云うのだ。周知のとおり、わが安倍総理は米朝首脳会談にあたって、トランプ大統領に「拉致問題の解決を」議題にするよう電話で懇願した。


◎[参考動画]韓国・文在寅大統領と圧力強化で一致(ANNnewsCH 2017/11/23公開)

◆そして完全に孤立してしまった

「日本の反動層」が米朝会談に反対しようがしまいが、アメリカ政府の判断は変わらなかっただろうが、少なくとも日朝首脳会談などというものが、絵にかいた餅以前の課題であることは明らかになった。アメリカにすり寄り、ポチのように振舞うことによって、日本はますますアジアでの孤立を深めてしまうのだ。

朝鮮半島が分裂国家であるうえに、韓国もまた「反共」と「反日」の政治的分裂国家である。左派にかぎらず、右派にかぎらず、政権が代わるたびに元大統領が訴追され、あるいは暗殺・処刑される政治的分裂国家なのだ。いまその韓国文政権は、校歌や国家まで親日分子が作ったもの排除するという親日粛清、および「アカ」という言葉の追放に踏み込んでいる。

文大統領は三・一運動100周年の記念演説において歴史戦争に火をつけた。「日帝が独立運動家にレッテルを張った言葉」である「パルゲンイ(アカ=共産主義者)」という用語を「一日も早く清算しなければならない代表的な親日の残滓である」と云うのだ。

日本の報道機関は文大統領が「日本との新しい関係」に言及したことを奇貨のように報じたが、内容をまったく誤読している。行き詰った日韓関係は、歴史戦争の決着をぬきに一歩の前進もないことを、肝に銘ずるべきであろう。鳩山友紀夫前総理のように、従軍慰安婦像に額ずけとは言わない。少なくとも訪韓の努力をするふりくらいは、見せてもいいのではないか。東アジアに緊張感をつくり出し、それを政権維持の動力にするのは、いかにも危うい。


◎[参考動画]斎木外務次官続投へ(ANNnewsCH 2015/09/19公開)※4年前の動画

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

衝撃月刊『紙の爆弾』4月号!

JOC会長竹田恒和の退任がどうやら確実になったようだ。「東京2020年」欺瞞の根源がいよいよ正面から問われる局面を迎えた。さて、この重大事態に竹田氏以外の関係者はどう弁明するだろうか。どう身を処すか。主たる関係者を挙げてみよう。

森喜朗東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長、同委員会名誉会長御手洗冨士夫(日本経済団体連合会名誉会長、キヤノンCEO)。同委員会の理事には、アイドル商法の頭目、秋元康の名前が目に留まる。その他多くの元スポーツ選手が名を連ねているが、彼らを責めるのはやや気の毒な面もあるだろう。

逆に絶対に忘れてはならないのは「2020東京五輪招致演説」で「過去も現在も未来も放射能はブロックされていて健康被害は皆無だ」と言い放った、常習虚偽発言癖の安倍晋三の責任である。そして「スポンサー」として「東京2020」に名を連ねる大企業群と全国紙を初めとしたマスコミ。ボランティアという名の「ただ働き」に学生を誘導する、文科省とそれに諾々と応じる大学たち。その他全ての官庁、行政組織が「東京五輪」の神輿担ぎに分担された役割を着々とこなしている。


◎[参考動画]安倍晋三総理大臣のプレゼンテーション IOC総会(ANNnewsCH 2013/09/08)

◆「欺瞞だらけ、嘘だらけ、欲得だらけ」の象徴

あちこちが尖っているので、触ると切り傷を負いそうな「東京五輪」のシンボルマーク。東京五輪は「欺瞞だらけ、嘘だらけ、欲得だらけ」を象徴し、その本質に触れようとすると怪我をするように、あえてあのように刺々しい意匠が準備されたのだろうか。護身体勢で丸まり、敵に触れさせまいとする「針ねずみ」のように「本質を尽かせない」精神的効果を狙った防御的武装形状をあのデザインから感じ取る感性は、過敏すぎか。その意図は大筋で成功しており、「復興」と何の関係もない「東京五輪」があたかも、被災地になにものか有益をもたらすような誤解と世論誘導は、マスコミ上で抜かりなく展開されている。


◎[参考動画]原発事故に関する安倍総理の答え IOC総会質疑応答(ANNnewsCH 2013/09/08)

ところがスポンサーに名を連ねる朝日新聞が被災地のひとびとを対象におこなった世論調査では「五輪は復興に結びつかない」と感じている人が過半数を越えている、との報道がある。表面上は繕えても、真実は変わらないのだ。どれほど熱心に空疎な言葉を日々流し続けても、被災地で生活苦に直面している方々にとっては、「復興五輪」などとの枕詞は現実とまったく結びつかない。事故前の原発立地などとは異なり「交付金」などで、恒常的に中毒性の「うまみ」があるわけでもない。

利用しようとしているものたちと、無自覚に利用されているひとたちを除けば「復興五輪」など、言葉を尽くして糾弾すべき道義的犯罪であり、経済的詐取である。当の被災地のひとびとは肌身にしみてそれを実感しているのだ。

私は「東京五輪」へ向けた準備が着々と進行し続けても、この道義的大犯罪への糾弾を変更したり、撤回するつもりはまったくない。騙す側は財力が豊かで、組織力も権力も有し、系列企業に勤務するひとびとの口封じを無言で強制する。純粋な競技としての「スポーツ」を纏うことにより、本音である「金儲け」、「総動員体制の強化」、「常時管理・監視社会の完成」を目的とする推進者たちの本音は、濃霧のかなたにおぼろげにしか確認できない。

美辞麗句(復興)、非政治性(スポーツ)を最大限活用しながら総動員体制は、奴らの意図に沿いますます強化が進む。乱暴に単純化すれば「東京五輪に賛成・加担することは翼賛体制に積極的に加担すること」だと決めつけることだって、社会科学的には可能だろう。

ようやくそのことにひとびとが気づくチャンスが訪れた。日常は欺瞞によって塗り固められ、真実は隠される。悪意が「聖典」を叫んでいる。天皇制とも極めて近しい問題をはらむ「東京五輪」総体の的確な理解が進めば、推進者や賛同者に対するまなざしには変化が生じるはずだ。

竹田会長が辞任に至っても疑問を呈することができない感性であれば、それは「絶望」と同程度の惨劇に等しい。


◎[参考動画]安倍総理NYで大胆発言連発「右翼と呼びたいなら・・・」(ANNnewsCH 2013/09/26)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

衝撃月刊『紙の爆弾』4月号!

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

小室圭氏の母親の金銭問題は、どうやら解決しそうにない。たかが400万円、返せばいいではないかという論者もいるが、そうできないから事態は混迷しているのだ。誰かが肩代わりすればよい(漫画家の小林よしのり氏が申し出た)というものでもないだろう。借金を返さないことが問題にされているのだ。いやしくも皇族の一員となる人物の、社会的な評価が問題にされているのだから──。

 

『おめでとう眞子さま 小室圭さんとご結婚へ 眞子さま 佳子さま 悠仁さま 秋篠宮家の育み』(サンデー毎日増刊2017年9月30日号)

ひるがえって考えるに、皇籍は離脱する(平民になる)わけだし、いっそ婚姻に先立って皇族であることも否定してしまえば、ふたりは一緒になれる。そう、問題にされている「納采の儀」は皇室の伝統的な行事ではあっても、皇室典範に規定されたものではないのだ。つまり公式の行事ではなく、天皇家の私的な祭儀なのである。そうであれば、ふつうに平民としての婚約をすればいいのではないか。

いや、婚約(結納)などという形式をはぶいても結婚はできる。皇籍離脱にさいしての一時金さえ拒否すれば、税金を身勝手な恋愛に使ったという批判も形を成さないであろう。ましてや、巷間噂されている「準皇族にふさわしくない」などという批判も当たらない。そもそも「準皇族」とか「準皇室」という言葉は、皇室典範にも過去の禁裏の事例にもないのだ。皇位(王位)を拒否してまで、みずからの愛をつらぬいた例は、わが王朝が典拠にしてきたイギリス王室にはある。そう、エドワード8世である。その偉大な生涯をたどってみよう。

◆世紀の大恋愛

エドワード8世は、1894年にジョージ王子(後のジョージ5世)とメアリー妃の長男として生まれた。第一次世界大戦が勃発すると、陸軍のグレナディアガーズに入隊。一兵士として最前線に派遣するよう直訴したが、陸軍大臣であるホレイショ・キッチナーが、王位継承権第1位にあるプリンス・オブ・ウェールズが捕虜となるような事態が起こればイギリスにとって莫大な危害が及ぶとの懸念を示したことから、拒否されることとなった。

エドワードは最前線を可能な限り慰問に訪れ、これによりミリタリー・クロスを授与され、後に退役軍人の間で大きな人気を得ることに繋がった。1918年には空軍で初めての飛行を行い、後にパイロットのライセンスを取得ている。1922年に来日している。 大戦後は海外領土における世論がイギリスに対して反発的なものになるのを防ぐために、自国領や植民地を訪問した。訪問先では度々絶大な歓迎を受けた。いっぽうでは失業問題や労働者の住宅問題に関心を寄せている。国内外を問わず大変な人気者となった。

1936年にキング・ジョージ5世が死去すると、独身のまま王位を継承。即位式には既婚者で愛人のウォリス・シンプソン夫人が立会人として付き添った。王室関係者がウォリスを友人扱いしたため、エドワード8世はウォリスに対して「愛は募るばかりだ。別れていることがこんなに地獄だとは」などと熱いまでの恋心を綴ったラブレターを送った。ウォリスと王室の所有するヨットで海外旅行に出かけたり、ペアルックのセーターを着て公の場に現れるなどしている。そしてついには、ボールドウィン首相らが公人たちが出席しているパーティーの席上で、ウォリスの夫アーネストに対して「さっさと離婚しろ!」と恫喝した挙句に暴行を加えるなどといった騒ぎまで引き起こした。カッコいい。

ウォリスのほうも離婚手続きを済ませ、いつでも王妃になれるよう準備をしたが、エドワードとの関係を持ちながら、駐英ドイツ大使のヨアヒム・フォン・リッベントロップとの関係があったと取りざたされた。夫がある身で二人の恋人って、この女性もすごいね。


◎[参考動画]エドワード8世 世紀の恋

エドワード8世はウィンストン・チャーチルと相談し「私は愛する女性と結婚する固い決意でいる」と国民に直接訴えようと、ラジオ演説のための文書を作成する準備をしたが、ボールドウィン首相は演説の草稿に激怒した。首相は「政府の助言なしにこのような演説をすれば、立憲君主制への重大違反となる」とエドワード8世に伝えた。チャーチルは「国王は極度の緊張下にあり、ノイローゼに近い状態」であるとボールドウィン首相に進言したが、首相はそれを黙殺した。さらには事態を沈静化させるために意を決し、「王とウォリス・シンプソン夫人との関係については、新聞はこれ以上沈黙を守り通すことはできない段階にあり、一度これが公の問題になれば総選挙は避けられず、しかも総選挙の争点は、国王個人の問題に集中し、個人としての王の問題はさらに王位、王制そのものに対する問題に発展する恐れがあります」という文書を手渡し、王位からの退位を迫った。

この文書をきっかけに、エドワード8世は退位を決意したといわれている。正式に詔勅を下し、同日の東京朝日新聞をはじめとする日本国内の各新聞社の夕刊もこのニュースをトップで報道した。同日午後3時半に、ボールドウィン首相が庶民院の議場において、エドワード8世退位の詔勅と、弟のヨーク公が即位することを正式に発表したのである。

エドワード8世はBBCのラジオ放送を通じて、王位を継承するヨーク公への忠誠、王位を去ってもイギリスの繁栄を祈る心に変わりはないことを国民に呼びかけた。自分は王である前に一人の男性であり、心のままに従いウォリスとの結婚のために退位するのに後悔はないとした。在位日数はわずか325日だった。この一連の出来事は「王冠を捨てた愛」あるいは「王冠を賭けた恋」と呼ばれた。まことに、世紀の大恋愛というにふさわしい一幕ではないだろうか。


◎[参考動画]King Edward VIII’s Abdication Speech

◆禁忌の愛

このところ、女性週刊誌が「眞子さまの駆け落ち婚」という見出しを掲げて、小室圭氏との婚約・婚姻の可能性を報じている。すでに秋篠宮殿下の「二人結婚したいのなら、何らかのことをしなければ」「国民の理解が得られない」「納采の儀は行なえない」という、宮家としての結論は出ている。その意志はおそらく、天皇・皇后両陛下も同意見なのであろう。したがって小室氏と眞子内親王が皇室を離脱して、納采の儀も行わないまま「駆け落ち婚」をするとなると、これまでの皇室アイドル化路線と、天皇制(憲法第1条および皇室典範)との矛盾が顕在化することになる。いや、アイドル化という象徴天皇制のひとつの帰結が、生身の人間と国家と結びついた天皇国事行為との矛盾を顕在化させるのだ。ここはもう、個人としての眞子内親王および小室圭氏を応援したくなるというものだ。おりしも天皇代替わりの季節、ふたりから目が離せない。


◎[参考動画]眞子さま 小室圭さん 婚約内定会見 ノーカット1(ANNnewsCH 2017/09/03)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

衝撃最新刊!月刊『紙の爆弾』4月号!

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

◆京都新聞から朝日新聞に乗り換えたものの……

10年余り購読していた京都新聞から、朝日新聞へ変えた。理由は「京都新聞のレベルが低すぎる」からだ。新聞社の論調云々のはなしではなく、卑近な例をあげれば、日付と曜日を間違える。考えられないような低レベルなミスが、あまりにも多く目につき、読んでいると精神的に負荷を感じ始めたので、朝日新聞に乗り換えたわけだ。

毎日ではないが、出先や駅売りの新聞を買って読んでいる限り、朝日新聞は、「まだ読める」範疇の新聞だとの思い込みと、30年ほど前までの習慣もあり、少しはまともな新聞が読めるだろうと期待したが、これまた裏切られてしまった。

約30頁の紙面の10頁を全面広告が占めて、「新聞を読んでいる」気がしない。これは地方の特性だろうか。大都市ではこのようにけばけばしい保険や、健康サプリメント、旅行の広告などは入らないのだろうか。全誌面の3分の1に及ぶ、全面広告は、あたかも、テレビ番組で2分おきにCMが入るように、読者が「真面目に」記事を読もうとする気持ちを萎えさせる。

これでは読者が離れるのは無理もなかろう。誌面広告のターゲットは高齢者だ。当の高齢者も「これじゃあ広告の間に記事があるようなもの」とそっぽを向くのだから、総体としての紙面づくりが間違っている。値段はそのままでよいから全面広告を抜いた20頁の「新聞」を読ませてはいただけないだろうか。

◆新聞社の危機感のなさは紙面に顕著にあらわれている

新聞社の危機感のなさは紙面において顕著にあらわれている。実は朝日新聞だけではなく、全国紙も地方紙も、発行部数を年々減らしている。新聞販売店には、新聞だけではなく、家電量販店の業務兼業を進める新聞社もあると聞く。

新聞社も実は「新聞の危機」には気が付いているのだろう。そのわりには紙面の充実(権力監視や調査報道)に力が割かれている様子はうかがえず、まじめで、真にジャーナリズム魂を持った記者は、社内で居心地が悪いらしい。

新聞社という総体が希代の犯罪「東京五輪」のスポンサーに加担する道義的犯罪に手を染め、何ら悪びれた様子はない。「記者クラブ」のぬるま湯につかった若い記者は、「獲物を追う目」ではなく「そつなく仕事をこなす組織人」として振舞うことに力を注ぐ。そして知識が薄い。どっかの頓珍漢が「天皇陛下の味方です」と、聞かれもしないのに恥をさらす本音を語る題名の書籍を出していた。わたしも本音では「新聞の味方です」と言いたいし、そうであってほしいといまでも考えている。

日々目にする新聞記事の6割は、どうでもよく、2割は「なに馬鹿いってるんだ」と蹴飛ばしたい。が、残りの2割と(ここが重要なのだが)その新聞に書かれていないことから、真実や事実を推測したり、調査する動機が生まれる。わたしは、そうやって新聞を利用してきた。情報量と情報源の多様さの点で、インターネットがあれば新聞は「無くてもよい」のだが、それでも新聞紙の手触りと、その中から喚起される、注意や関心にはいまだに未練がある。

◆だからといってほかに「マシ」な選択肢があっただろうか?

このままでは新聞はなくなるだろう。読む価値がなくなってしまったから。それより早く同じ理由で週刊誌も消える可能性が大きいだろう。週刊誌を買うことはめったにないが、週刊誌の広告には、「相続の損得」や「死ぬ前にやっておくこと」、「こんな病院は疑え」、「飲んではいけない薬」とどう考えても65歳以上をターゲットにしているとしか思えない特集が並ぶ。「昭和のグラビア」で河合奈保子や中森明菜の写真を見て喜ぶ若者がいるだろうか。「死ぬまでセックス」を国民運動のように特集しているが、なんだかなぁ……。

京都新聞から朝日新聞への購読変更は失敗であった。だからといってほかに、「マシ」な選択肢があっただろうか。日刊紙の中で読み応えのある新聞は全国紙の中にはない。沖縄の沖縄タイムスと琉球新報は安心して読めるが、わたしの居住地では購読できない(ネット購読はできるらしいが)。沖縄2紙のほかにも真っ当な地方紙はあるだろうが、それらは主流ではない。

新聞も社会(どの範囲を「社会」と定義するかはデリケートな論点だが)の写し鏡だということだろうか。だとすれば、「社会」もそう遠くない将来に終焉を迎える。その兆候は皮肉なことに「新聞」の中に充分凝縮されている。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

衝撃最新刊!月刊『紙の爆弾』4月号!

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

前の記事を読む »