さとうしゅういち
今年は被爆81周年。そして、原爆ドーム世界遺産登録から30年です。核兵器の脅威が世界で高まり、中堅国家が次々と核武装を検討する今、核拡散を止めるために必要なのは、複雑な軍縮交渉でも、巨額の予算を伴う兵器削減でもありません。必要なのは、「核先制不使用(NFU)」という、ただの“言葉”です。
秋葉忠利・前広島市長は、8月5日の原水爆禁止世界大会広島大会の分科会でこう語りました。
「核の先制不使用は、言葉だけでできる。兵器を減らす必要も、態勢を変える必要もない。」
NFUは、核保有国が「核で先に攻撃しない」と宣言するだけで成立する。これほど簡便で、これほど効果が高く、これほど政治的に実現可能な核軍縮手段は他にない。
◆しかし日本政府は、そのNFUを“妨害した”
NFUは簡単にできます。中国もインドもすでに採用しています。米国もオバマ政権が踏み出しかけました。そして、地域限定ですが、東南アジアやアフリカ、中南米、中央アジアやモンゴルの非核兵器地帯はNFUが実現しているとも言えます。
にもかかわらずNFUが世界に広がらなかった理由は、核保有国の頑迷さではなく、
被爆国・日本政府の構造的矛盾にあります。秋葉氏はこう指摘しています。
「オバマが核先制不使用に踏み出そうとしたとき、日本の外務省が反対した。」
被爆国でありながら、核兵器の非人道性を訴えるべき立場でありながら、日本政府は米国の核使用を“正当化”し、NFUの採用を妨害しました。この矛盾が、NFUという“安全装置”を世界から奪い、核拡散の連鎖を加速させています。
◆トランプとプーチンの暴走が、中堅国家の核武装を正当化した
NFUが存在しない世界では、核保有国は「いつでも先に核を使える」。その状態で、トランプは核態勢強化を進め、核使用のハードルを下げた。プーチンは核威嚇を繰り返しながらウクライナへ侵攻した。この二大国の“例外主義”は、世界に危険な教訓を広げた。
「核を持たない国は侵攻される」
「核を持てば抑止できる」
こうした“合理的恐怖”が、中堅国家の核武装検討を一気に加速させています。
韓国、トルコ、サウジ、エジプト、インドネシア、ベトナム――。いずれも地域の不安定化と大国の暴走を見て、核武装の正当性を手に入れてしまった。NFUが存在しない限り、彼らの核武装は“合理的選択”になってしまいます。
◆日本が核武装すれば、世界のタガは完全に外れる
秋葉忠利は強い言葉で警告しました。
「日本が核武装すれば、一挙にタガが外れ、中堅国が核武装し、人類は滅亡に向かう。」
被爆国である日本が核武装に向かえば、世界はこう考える。
「被爆国ですら核武装するなら、我々も核武装して当然だ」
NFUが存在しない世界で、日本の核武装は核ドミノの“引き金”になります。
◆だからこそ、日本はNFUを“世界に広げる側”に回らなければならない
NFUは、核拡散の連鎖を止める唯一の現実的手段だ。そしてNFUは、言葉だけでできる。では、どうNFUを世界に広げるのか。秋葉忠利がこの日示した答えは、理念ではなく、現実の国際政治を動かす“戦略”でした。
◆日本が呼びかけ、中堅国家で徒党を組み、トランプに迫れ
秋葉はこう提案しました。
「日本が呼びかけて中堅国家でグループを組む。その上で、トランプらに迫ればいい。」
中堅国家は核武装を検討している。つまり、彼らは“核武装カード”を持っている。日本が彼らを束ねれば、そのカードは“交渉力”に変わります。
トランプは理念では動かない。しかし、ディール(取引)なら動く。だからこそ、中堅国家連合はトランプにこう迫るべきです。
「我々は核武装を検討している。しかし、あなたが核先制不使用を宣言するなら、核武装はしない。」
これは、トランプにとって“核拡散の危機を防ぐための取引”になる。NFUは言葉だけでできる。だからこそ、このディールは現実的なのです。
◆被爆国・日本は、核廃絶の“理念”ではなく“戦略”を持て
秋葉忠利がこの日、広島で示したのは、被爆国が道義的立場だけでなく、戦略的な外交プレイヤーとして核軍縮を動かす方法だった。日本が核武装すれば世界は滅亡に向かう。
しかし日本が中堅国家を束ね、NFUを世界に広げる側に回れば、核拡散の連鎖を止める“最後の防波堤”になれる。
被爆地・広島から発するべきメッセージは、もはや「核廃絶を願う」ではない。
「核先制不使用を宣言せよ。それができなければ、世界は滅亡する。」
これが、秋葉忠利がこの日、示した“戦略的核軍縮論”の核心である。
◆イラン核問題もNFU(核兵器先制不使用)で打開を
イランのペゼシュキアン大統領は8月7日、X(旧ツイッター)でこう述べた。
「広島と長崎への原爆投下は、人類に対する最悪の犯罪の一つだ」 「二度と繰り返してはならない」
大統領は国民の直接選挙で選ばれる。したがって、この発言は イラン市民の反核世論を反映した民主的な声 と理解するのが自然だ。
さらに大統領は、トランプ米政権がイランへの大規模攻撃を示唆していることを念頭に、「米政権は国家を滅ぼし、民間インフラを破壊しようとしている」と非難した。この発言は、イランの核問題を「市民の反核」と「国家の核開発」という二重構造の中で理解すべきだ という重要な示唆を含む。
◆イランは世界最多の「平和首長会議」加盟国
イランは1016都市が広島と長崎が主導する平和首長会議(Mayors for Peace)に加盟している。これは世界最多であり、市民社会レベルでは世界屈指の反核・反戦ネットワークを持つ国だ。
つまり、「イラン=核で暴れる国」という西側の粗雑な言説は、市民社会の実態とはまったく異なる。イランの市民は、広島・長崎と同じ方向を向いている。
では、なぜイランは核開発を進めるのか。理由は単純で、そして深刻だ。
● 米国はNFU(核先制不使用)を採用していない
● イスラエルもNFUを採用していない
● トランプは「イランを石器時代に戻す」と発言
● プーチンは核威嚇を繰り返す
つまり、NFUが存在しない=核保有国が先に核を使う可能性が残る。
この構造のもとで、イランは核開発を“合理的自衛”として進めざるを得ない。
市民は反核。国家は核開発。この二重構造こそ、NFUが欠落した世界の危険性を象徴している。
◆NFUがあれば、イラン核問題は「構造的に」解決できる
NFUは、核保有国が「核で先に攻撃しない」 と宣言するだけで成立する。兵器削減は不要/予算も不要/軍事ドクトリンの大幅変更も不要。秋葉忠利が言った通り、NFUは“言葉だけでできる”最も簡便で効果の高い核軍縮手段だ。NFUが広がれば、イランはこう考える。
「核保有国は先に核を使わない」
「ならば核武装の必要性は下がる」
「核開発の正当性が消える」
つまり、NFUはイラン核問題の“原因”に直接作用する唯一の政策 だ。
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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