尾﨑美代子
福島県飯舘村の長谷川健一さんと出会ったのは、3・11後の8月、京都の講演会だった。「福島で起きていることを一人でも多くの人に知って欲しい」としわがれ声で訴える長谷川さん。私は休憩中楽屋を訪れ、大阪での講演を依頼した。すでに各地で講演会が入っており、私たち「西成青い空カンパ」が長谷川健一さん大阪2daysを開催したのは、暮れも押し迫る12月18、19日だった。「西成青い空カンパ」では支援ライブや上映会を行い、こつこつカンパを集め、長谷川さんの住む伊達東仮設住宅自治会へ送ってきた。2013年に来阪した際、長谷川さんは「もう関西の人は福島のことなんか忘れたのかな」と少し寂しそうだった。
翌年の春、長谷川さんから珍しく写真が添付されたメールが送られてきた。それは仮設住宅の自治会室に設置されたコピー機の写真だった。私たちの送ったカンパを使い買ったのだという。当時、飯舘村の人たちは、原発ADRを準備していた。毎週弁護士さんが手弁当で福島に通い、村の人々に訴訟に向けた聞き取り調査を行っていたそうだ。「ADRに向けて訴訟資料など大量にコピーする必要があるので、とても助かっています」と書かれていた。メールからは久々に元気そうな長谷川さんを感じられた。

その後も何度か飯舘村を訪れた。あれは いつだったか? あれから何度飯舘村を訪れただろうか? いつだったか、飯舘村から福島駅に送って貰う車中、草ぼうぼうの田んぼを見ながら、長谷川さんが私にこう聞いてきた。
「尾崎さん、この田んぼ、このままでいたらどうなると思う?」。
秋の田んぼは枯れ草で覆われていた。枯れ草が枯れ、翌年春にはまた雑草がはえ、それがまた枯れて……その繰り返しではないかと私は言った。すると長谷川さんはまっすぐ前を向いたまま、こう言った。
「違うんだ。このままにしていたら田んぼは森に返るんだ」。
その少し前、長谷川さんのお父さんが私と同じ新潟県出身で、新潟から福島に入った開拓者だったことを知った。お父さんの出身は、私の実家がある「越後岩塚駅」から3つ目の「宮内駅」。長谷川さんのお父さんはその駅のある宮内から福島に入ったという。よその地域から福島へ開拓に入ったという方の苦労話は、飯舘村の人から何度も聞くことがあった。それこそ、鍬や鋤ひとつで入植し、森林の木を伐採し、土地を耕してきたのだろう。長谷川さんは、両親から受け継いだその土地が徐々に荒れ、森に戻るのをみたくなかったのだろう。長谷川さんは避難指示が解除された飯舘村前田地区に戻り、家の前の広大な土地にそばを植えはじめた。「夏になったらここいら一面が真っ白になるから……」。そういっていた長谷川さん。

「サマショール」とはウクライナ語で「自主帰還者」を意味するそうだ。避難指示が解除されたとき、長谷川さんは花子さんとご両親と飯舘村に帰ることを決めた。ひとつは、高齢と長い避難生活で認知症を患ったお母さんがそれを望んでいたこともあったそうだ。そして、長谷川さん自身、ご両親が必死で開拓してきた土地を守りたかったのだろう。
私は、けっきょく長谷川さんのそばの花を見ることはなかった。お父さんの田舎が私の故郷の近くなんですという話をするきっかけもなかった。長谷川さんの訃報を聞いたとき、あの日まっすぐ前を見て放った長谷川さんの言葉を思い出した。
「このままにしていたら、田んぼは森に返るんだ」。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

季節2026年夏号
『NO NUKES voice』改題 通巻46号
紙の爆弾2026年7月増刊
2026年6月11日発行
A5判 132ページ 定価770円(税込み)
《グラビア》原発事故〈収束〉と被災地〈復興〉という欺瞞(北村敏泰)
樋口英明(元福井地裁裁判長)
《報告》なぜか、裁判官が辞めていく
小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《インタビュー》柏崎刈羽原発再稼働の不安 老朽原発は事故を起こす
木村英昭(ジャーナリスト)
《報告》原発を巡る三年間の動向 ── 時系列が可視化する統治の変化
高橋博子(奈良大学教授)
《報告》日米両政府の核兵器観 放射性降下物・残留放射線・内部被ばく
後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
《報告》脱原発の思想 日本はなぜ脱原発に向かわないのか
山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
《報告》東京電力「原子力中核企業化」戦略の内実
菅野みずえ(「ALPS処理水を海に流すな」裁判原告)
《インタビュー》私の15年、3・11はまだ続く
北村敏泰(ジャーナリスト)
《報告》まやかしだらけの「復興」
十六年目も終わりはない東北三県の被災地から
和田央子(イノベーション・コースト構想を監視する会)
《報告》高市軍拡政権と福島イノベーション・コースト構想
末田一秀(関電株主代表訴訟原告/はんげんぱつしんぶん編集長)
《報告》関電株主代表訴訟の闘い
原発地元への不正な金の流れを断ち切るために
守田敏也(フリーライター)
《報告》浜岡原発基準地震動捏造問題が示すもの
原発再稼働は六層の点で認められない
中道雅史(核燃料廃棄物搬入阻止実行委員会事務局長)
《報告》《徹底解説》核と軍の拠点・青森県《後編》
森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
《報告》「『原発被害』って何だろう?」を共有する
近畿三訴訟団「近畿訴訟団交流会」
木村三浩(一水会代表)×板坂 剛(作家/舞踊家)
《対談》民族派と左翼の融合は可能か《後編》
淀川乱歩(SF作家)
《奇想科学小説》マロ博士の島
平宮康広(元技術者)
《報告》石炭火力発電vs原発および再エネ発電〈1〉
再稼働阻止全国ネットワーク
司法は再稼働を推進するな! 市民運動と原発訴訟
《北海道》小野有五(北大名誉教授、行動する市民科学者の会・北海道)
泊原発の再稼働をめぐって
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
特重施設の猶予延長を許すな
《柏崎刈羽》小木曽茂子(再稼働を考える県民ネットワーク事務局)
新潟はあきらめない!
《東海第二》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
原電は水戸地裁判決に従い、東海第二原発の再稼働を断念せよ
《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
静岡地裁は原告の不正主張を看過し、浜岡原発訴訟を強行に終結
《志賀原発》藤岡彰弘(廃原発watchers能登・富山)
矜持の見られない二つの判決、審理進行にめげない!
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「嘘・騙し」「データねつ造」「トラブル隠ぺい」「約束反故」なしには動かせない原発と決別し、自然エネルギーのみで成り立つ社会を!
《島根》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
住民の安全を脅かす島根原発2号機の再稼働 安全神話を復活させる国と思考停止する司法を許さない!
《四国》小倉正(原発さよなら四国ネットワーク)
伊方原発をめぐる四県の仮処分/本訴の闘いと市民運動
《佐賀》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会代表)
裁判に至るまでの道のりは突然ではなかった
《鹿児島》向原祥隆(ストップ川内原発!3・11鹿児島実行委員会共同代表)
敷地内乾式貯蔵を阻止して停止に追い込む
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
空しい規制委への異議申立・長引いて良かったテント裁判
《本の発掘④》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク)
『3・11と憲法』(森英樹・白藤博行・愛敬浩二編 日本評論社)
反原発川柳(乱鬼龍 選)
◎鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?group=new
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