1967年、茨城県で発生した強盗殺人事件(布川事件)で無期懲役の判決が下され、29年間服役、その後再審で無罪が確定した桜井昌司さんの国賠訴訟の控訴審で、8月27日、東京高裁は完全勝訴判決を下した。54年目に念願の「普通のオヤジ」に戻れた桜井さんに、判決への思い、今後の方針などを語っていただいた。(聞き手・構成=尾崎美代子)

 

9月13日夜、大阪市内の祝勝会で歌う桜井さん

◆自分はなぜ勝てたのか?

── おめでとうございます。判決後の報告会で、桜井さんは自分の言っていることが54年かかってようやく認められたと仰ってました。判決決定に考えられたことは?

桜井 9月13日、判決決定後、行った記者会見でも言いました、自分はなぜ勝てたのかと考えたら、自分は人さまとの出会いに非常に恵まれていた。何故恵まれていたのかと考えたら、自分は人さまの思いを素直に受け入れて、いつも「これでいいんだ」「有難い」と生きてきた。それが良かったのかと思いました。俺なんかが勝って申し訳ない。もっと勝ってほしい人がいる。でもこれからは、その人たちのために自分はこれから命をささげたいと思いました。

── 報告会では、大勢の弁護団の方々が一人一人が自己紹介され、本当に素晴らしいと思いました。

桜井 弁護団は全体で30人、実質動いてくれるのは24、25人いました。4~5人で一つの班を作り、全部で5つの班をつくって、「アリバイ班」「自白班」などに分けて取り組んできた。皆さん、無償です。弁護士の皆さんから「この裁判に関わりたい」と思ってもらうことも必要だと感じました。僕たちが(刑務所の)中にいる時はやはり本人がいないので、活動も停滞していた。しかし、1996年に僕と杉山が出てからは活発になって、有罪の根拠となっている点について、全て反論していこうとなった。自白、アリバイ、そこに録音テープ問題なんかが出てきて、どんどん増えていきましたね。

── 中にいるときから、絶対出たら裁判でやり返すと考えていましたか?

桜井 そんなこと考えてない。出られるとも考えてなかった。ただ目の前のことを一所懸命やるしかなかった。しかし、1994年に同じ冤罪を主張して否認し続ける石川一雄さんが仮釈放されたので、じゃあ、俺たちも出られるのかなと思ってきた。

── 判決日が半年延期になりましたが、判決は予想通りでしたか?

桜井 あの書き方ならば、延期になるはずないと思ったね。もちろん負けるとは思わなかったけど。

── 13日の記者会見で記者から「桜井さんは最高裁で闘えなかったのが残念と言っていますが、あれは本気なんですか」と聞かれたそうですが?

桜井 記者ではなく、一般の人だけどね。そりゃ、私はいつも本気ですよ。最高裁までいけば、判例がつくられ、それが今後非常に力を持ってくる。検察官の証拠開示を命令したら、全国の再審事件に波及するからね。でも、それだけは検察は必死で止めたかったと思いますよ。裁判所としても、これで決着させたいという配慮だったかと思いました。最高裁にいったら判例にするよう、こっちも必死で説得するし、その自信もあった。しかしそこは叶わなかった。でも一審の判断が取り消されたわけではないからね。

9月13日夜の祝勝会で、花束を貰う桜井さん

◆判決文が読まれている間に考えていたこと

── ブログ「桜井昌司『獄外記』」に、以前鍼灸師さんに「怒りの炎に包まれている」と言われたが、今回その怒りが消えたかな?と書いていましたが。

桜井 怒りは消えたみたいです(笑)。その鍼灸師さんには、その場で「刑務所29年行った」と言っただけで、俺のことそう知らないのに、そう言われた。昨日は、その鍼灸師さんに「細胞に疲労が出ている」と言われました。確かに疲れが出ていて、ずっとぐっすり眠れてなかった。それが昨日はぐっすり寝れた。今朝も、起きて風呂入ってご飯食べたらまた眠くなった。判決がでるまでは9時に寝て12時に目が覚めてと、眠りがおかしくなっていた。それなりに緊張していたんだね。そう意識してなかったが。

── 肩の荷が下りた?

桜井 肩の荷が下りたのは再審で無罪になったとき、今回は何か晴れ晴れした気持ち。

── 判決文読まれている間、天井を見上げていましたね。どんなことを考えていましたか?

桜井 杉山のことも考えたな。あいつも国賠やればよかったと思っただろうな、とか(笑)。あと判決文は、最高裁にいかないように考慮したのかなと感じたね。書き方として、警察、検察に抵抗しにくい書き方でした。吉田検事、早瀬刑事の個人の問題にし、個人が悪いんであって、組織には影響を及ばせない。上告しにくいように、個人の問題に帰結していた。全体ぼくの日記や手紙を引用したりした。早瀬刑事に僕は「(逮捕されたことを)新聞に出さないと言ったのに、出したな」と抗議の手紙を出していたから。しかし結果として、それらも全て冤罪を主張する時の力になったね。何が力になるかわからないよね。あと「これは完全無罪だな」とか考えていました。

 

9月14日、大阪高裁前で日野町事件の獄死した冤罪被害者阪原弘さんのご遺族と

◆法制審議会に冤罪被害者を入れろ!

── 今後は、これまで通り冤罪犠牲者の支援や講演活動、再審法改正の活動を行っていくということでしょうか?

桜井 そうだね。今、冤罪犠牲者の会として法務省などに要請にいこうと考えています。「法制をつくれ!」「冤罪者の声を聞け!」「法制審議会に冤罪者を入れろ!」とね。犠牲者の声を聞かなくてどうするんだと。先日、中村格が警察庁の新長官になったでしょう。要請行動に行ったら、彼に言ってやりたい。「レイプ犯を逃がしてやるような警察庁長官では無理かも知れないけど、再審法を正せ」「安倍晋三に仕えたら何やってもいいのか」「我々はそんなのは許さない」とね。

── あと検察の上訴権も辞めさせないと?

桜井 検察官の上訴権と控訴権を認めているのは日本しかない。戦前の法律の名残で、戦前は検察官にも「不利益再審」を与えたからね。検察も新たな証拠で訴えることが出来るとね。あと証拠開示法は絶対必要です。一般事件では証拠開示法はまがりなりにもできた。但し、証拠かの中身まではわからない。その中身までわかるような法律を作らせないとだめだね。冤罪仲間の支援では、とにかく「高知白バイ事件」をなんとかしたい。しかし、高知県でやってくれる弁護士を探すのは大変です。高知県警とまともな喧嘩になるからね。あれも、スリップ痕を捏造した100%デッチあげの事件だからね。

── ほかにやりたいことは?

桜井 ないね。2年前、余命一年と宣告された時も、特別なかったからね。ただ、もう一回四国に巡礼に行きたい。これは何としてもやりたい。今度はゆっくり回りたい。

── 日本は、いつまでも冤罪をつくるような司法があるから、政治全体が腐っていく気がしますが。

桜井 司法の歪みだね。日本の政治のいい加減さ、デタラメさが全てにおいて、検察がいい加減だから、安倍晋三なんかが逮捕されない。彼が韓国の政治家だったら、大変なことになっている。検察、警察が悪いことをしたら罰せられる法律を作ればいいだけです。それがないから平然としている。僕への賠償金も、国は国税、県は県税から払うのだから、個人の警察、検察の腹は痛まない。例えば早瀬刑事が悪かったら、彼が警察に頂いた財産を全部取り上げればいい。証拠捏造や嘘を付いたことが発覚した場合ね。そうすれば証拠捏造や嘘をいうことをやめる。個人の責任をはっきりさせれば、個人個人が「私はそういうことはできません」と断ることができる。西山美香さんにも青木恵子さんにも、警察、検察個人は絶対謝らない。加藤官房長官も、今回「真摯にうけとめて」というだけ。誰も個人では謝ってないし、責任もとっていない。今度の申し入れも、内閣府、国会、検察庁、法務省、警察庁の5ケ所に行く予定です。

 

9月18日、大阪弁護士会館の日野町事件の集会で歌う桜井さん

◆裁判官も少しずつ目覚めてきている

── 桜井さんが考えている構想は?

桜井 今は国賠という方法しかないが、自分が考えたのは、司法審査会。検察審査会を司法審査会に広げて、警察、検察、裁判所の間違いに対して、審査会にかける。証拠を特別に管理する場所をつくり、司法審査課で再審開始が決まったら、警察、検察、裁判官らには一切触らせず、弁護士でやっていく。そして司法審査会が国賠的なこともする。警察、検察、裁判所の罪を追及して罰金を科していく。そういう制度を、私が総理大臣になったらやります(笑)。

── 原発訴訟もですが、少しずつ裁判所も変わりつつありますね。

桜井 冤罪事件でも裁判官も少しずつ目覚めてきている。これまでは検察官べったりだったが、少し離れ始めた感じがある。もちろん今でもべったり人もいるが、目覚める人も出てきたのは間違いない。裁判官と、人を常に罰しよう、罰しようという検察の意識は違うからね。いつも人を罰したいと考えている人はまともな感覚は無理。そういう人が法務省を牛耳ってたら、人権なんか考えても無理だって。法務省は独立しないとだめ。その制度を、みんな知らないからね。そういうことを知る人が少しでも増えるようにしていきたいね。そういう声が増えたら、必ず社会は変わる、変えられる、そう考えています。

── 今日はお忙しいところありがとうざいました。

「桜井さんの1週間」── 9月13日、控訴審判決決定後、東京で最後の記者会見、夜、大阪・大国町「ピースクラブ」で祝勝会。14日、滋賀県日野町事件で、高裁で再審決定を受けた検察控訴の闘いを行う阪原さん兄妹さんらと高裁前宣伝活動。16日、大阪地裁、東住吉事件の国賠で、原告青木恵子さんの最終意見陳述傍聴、夜、富田林MAPcafeで勝利パーティー、18日、大阪弁護士会館で日野町事件の再審開始を求める集会へ。桜井さんの闘いはまだまだ続く。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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『NO NUKES voice』Vol.29 《総力特集》闘う法曹 原発裁判に勝つ

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政治なんて言うものは誰がやっても同じ、ましてや自民党政治家に変化は期待できない。というアパシー(無関心)が支配しはじめて、どのくらいになるのだろうか。

それは端的に国政選挙の投票率の推移にしめされている。投票率が50%ということは、政党支持率が30~40%である自民党が、おそらく全国民の20%の支持で議会多数派を占め、政治権力を掌握していることになる。

衆議院議員選挙(大選挙区・中選挙区・小選挙区)における投票率の推移(総務省)

参議院議員選挙(地方区・選挙区)における投票率の推移(総務省)

つまり、自民党長期政権はアパシーに支えられているといって、さしつかえないだろう。

だが、この「何も変わらない」という意識は、変化の実感を政治と結びつけて考えない、人間の耐性によるものが大半なのである。

消費税が3%から5%になっても、8%/10%になっても「ふところの痛み」に慣れてしまう耐性である。年間を通じて、100万円かかっていた消費財が110万円になっても、買い物一回当たりの消費税(食費など)の増額が800円ならば、この耐性に慣らされてしまうのだ。

だが、もしもこれが、国民皆保険がなくなったのだとしたら、どうだろう? 一回の歯科治療で自己負担分6,000円支払っていたものが、じつに2万円となるのだ。それが一カ月のうち4回つづけば8万円だ。もはや歯医者に行か(け)なくなるか、保険適用をもとめるデモや暴動が起きるであろう。

このような生活不安に、徐々に慣らされる耐性……。これが政治へのアパシーにつながっていると、エーリッヒ・フロム(社会心理学者)ならば喝破するのではないだろうか。

そして、そのような耐性を喚起する批判精神、批評文化の衰退こそが、本当の日本の危機なのであろう。

◆政治は変化しうる

じっさいには、政治は変化をもたらしてきた。いや、政治そのものが変化してきた。これが史実である。

昭和の自民党政権に耐性ができていた世代には、1993年に55年体制が、じつに38年ぶりに崩壊した記憶は、まだ新しく感じられるのではないだろうか。

その後も、2010年の民主党政権をわれわれは体験している。いやその前に、小泉政権による「自民党をぶっ壊す」体験もあった。

小選挙区制は政権交代を可能にするいっぽうで、一党支配・党の一元的な支配をも可能にしてきた。そしてその流れは、新自由主義・自己責任論・規制緩和という思想潮流と軌を一にしてきた。

1960年代以降の、いやもっと巨視的にみれば戦後復興の経済背長が、90年代以降の停滞のなかで限界が見えてきたからだ。そこにはデフレスパイラル社会という、史上はじめての国民経済の変化があった。民営化(国鉄・郵政)と規制緩和をひとつの旗印に、市場においては新自由主義、国民に対しては自己責任。そして社会保障の漸減と小さな政府に結実してきたのだ。

この「自己責任論」については、明治以降の天皇制権力のもとにおける廃仏毀釈(宗教の抹殺)、武士道の国民的な普及(切腹・自害の奨励)が精神史的な基礎になっていることは、別稿シリーズ「天皇制はどこからやって来たのか」でも明らかにしてきた。

さて、その新自由主義と自己責任論が、国民生活において限界をきざしているのも、このかんの天災とコロナ禍のなかで明らかになってきた。簡単に言おう。

シャンパンツリーの頂点からシャンパン(おカネ)が下層にまでこぼれてくる。がゆえに、大企業の先端技術に投資し、国際競争力を高めることで国民経済を押し上げる。ことは出来なかったのである。

アベノミクスの欠点が「労働分配」「所得配分」の欠落にあることは、この通信でも何度となく明らかにしてきた。そしてそれがいま、ほかならぬ自民党総裁候補の口から、アベノミクス批判として、語られはじめていることに注目したい。

アベノミクスを継承すると公言する高市早苗は別として、河野太郎と岸田文雄および石破茂においては「同一賃金を保証する労働分配」「所得分配」が政治公約のなかで語られている。党内で本命とみなされている岸田は「小泉政権いらいの新自由主義を転換し、国民の所得倍増をめざす」とまで明言している。

◆21世紀の資本主義をどう考えるか

マルクスが資本主義の限界と国家の死滅、共産主義の必然性を説いたのは19世紀である。20世紀には社会主義革命が実現し、その政治的・経済的限界も明らかになった。21世紀になってからも、資本主義の危機は論じられてきた。

近代経済学のマクロ派から、あるいはマルクス派から、資本主義危機論が論壇をリードしてもいる(水野和夫・斎藤孝平ら)。

だが、かれらの誰ひとりとして、商品(貨幣)経済からの脱却の展望は語りえない。資本主義の危機は強調されても、資本主義(貨幣による商品の等価交換)に代わる経済と社会は、まったく語られないのだ。じっさいに社会主義(共産主義の過渡的社会)をやってみて、それが無理だとわかったのだから。

とはいえ、わが国においてはいまだに馴染みにくい言葉だが、社会主義(社会民主主義)は、じつは日本においても実現されてきた。戦後のフォーディズムの需要(トヨタ・出光・松下)、具体的には労働分配率の高次化、社会保障の拡充、終身雇用などである。

慧眼な読者諸賢におかれては、すぐに気づくことであろう。これらが小泉改革のなかで、いずれもが捨象され、切り捨てられてきた諸策であることを。

近代ヨーロッパにおいて、社会主義思想は「王権よりも国民の社会的権利を」であり、自由と平等は博愛精神において実現される、というものであった(サン・シモン、フーリエ)。

だから、社会主義は近代の理想とされ、ナポレオン三世は社会主義者を自認し、ヒトラーですら「国家社会主義」を理念としてきたのである。

いままた、戦後第二のぶり返しが訪れていることを、われわれは直視しようではないか。自民党みずからが、変化を求めているのである。総裁選挙の情勢および、個々の主張について、さらに精緻なレポートをお届けしたい。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』10月号! 唯一の脱原発マガジン『NO NUKES voice』vol.29!

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旧レイシストをしばき隊(現C.R.A.C.)、カウンター、ANTIFA等と呼ばれる反差別運動に関わる者たちを、私は「反差別チンピラ」と名づけた。単に自分たちを批判しただけの無辜の市民をも彼らはツイッター上でネットリンチの標的にし、暴言、恫喝を繰り返してきたからだ。

 

旧しばき隊代表の有名なヘイト発言

彼らの「オラつき」はとどまるところを知らず、マイノリティ当事者が標的になることも少なくない。たとえば、カウンターを批判した在日コリアンの方々にまで反差別チンピラ諸氏は暴言を吐き、さらにはそれを正当化するために、彼らをなりすまし認定、つまり偽コリアン扱いし、民族の誇りを深く傷つけ、いかんなく集団ネットリンチの標的にしたのである。

もしや、彼らしばき隊/カウンター界隈の「反レイシズム」のスローガンは、なにかの冗談なのだろうか? いつぞやは、「No Hate, No Life(ヘイトがないと生きていけない)」だの「Fight for Racism(レイシズムのために闘う)」だのというスローガンを掲げたメンバーが、ウォッチャー各位に「かっこつけて無理に英語表現にするからボロが出る」と失笑されていたが、あれこそが彼らの隠された本音だったのだろうか?

[左]「ヘイトがないと生きていけない」、[右]「レイシズムのために闘う」

そんなしぱき隊/カウンター界隈がLGBTの運動に「寄生」したら、同じようなことをするにちがいない――と数年前、バイセクシュアルである私は危惧したが、それはまったくもって「案の定」であった。

私が「しばき隊のような暴力的な勢力はLGBTの運動には必要ない」という主旨のツイートをすれば、反差別チンピラ諸氏は「暴力的な勢力などない!」「しばき隊などという団体は存在しない! デマを流すな!」と、自己紹介よろしく暴力的なリプを集団でかましてくるのである。

捨て身のギャグなのだろうか?

性的マイノリティの味方を気取りながらも、自分らに従わない当事者は全力でバッシングし、つるしあげるのだから、笑わせる。なんという醜悪な全体主義であろう。多様性もなにも、あったものではない。

やがて、いい歳してネットで集団いじめをしている彼らを、私は新たに「中年紅衛兵」と名づけるに至った。

彼らに言わせれば、「被差別者当事者であっても差別主義者の可能性はある」「運動の邪魔だから潰す」だそうである。そんな本末転倒なことを匿名でうそぶいてる間に、身バレして消えたり、あるいは、ツイッター運営に悪質アカウント認定されて永久凍結され、私を潰す前に自主的に消えてゆくのである。

捨て身のギャグなのだろうか?(二回目)

[左]発言者は身バレ済みの僧侶の異性愛者男性 [右]匿名掲示板5ちゃんねるでは、森に対する集団いやがらせが呼びかけられた

 

ANTIFAのTシャツを着用する共産党・池内さおり氏と吉良よし子氏

ここで特筆すべきは、私や他のLGBT当事者がしばき隊界隈の異性愛者たちに不条理にも「レイシスト」「差別主義者」のレッテルを貼られ、卑劣に叩かれていても、LGBT活動家たちは完全に見て見ぬふりをしていることであろう。

これは、一体、どうしたことか? いくらなんでも、アクティビストを名乗る者が腰抜けすぎやしないか? LGBT同胞が異性愛者に集団でいやがらせされているのに、LGBT活動家が完全スルーとは何事ぞ!

ただ、まあ、すでにLGBT活動家がしばき隊界隈と共闘しているのは、私も把握してはいた。

LGBT活動家は、大抵、立憲民主党、日本共産党、社会民主党とつながっているうえ、中には正式な党員もいる。ゆえに、なんでもかんでも自民党批判につなげて無理筋の自民批判ツイートを繰り返すLGBT活動家も珍しくない。

また、しばき隊界隈が野党三党と強固につながっていることは、ウォッチャーの間では周知の事実だ(マスコミはひたすら隠しているが)。ネットで画像検測すれば、しばきイベント(笑)に実にいい笑顔で参加している野党の先生方の写真がザクザクヒットする。

[左]反差別デモ・東京大行進(2013年)で、しばき隊関連団体・男組組長の故高橋直樹氏と並ぶ共産党の小池晃氏 [右]小池晃氏が手にする横断幕には「TOKYO NO HATE」の文字

[左]池内氏、吉良氏が参加した「ブルドーザーデモ」では、安倍首相(当時)のマスクを生首のように扱った [右]ブルドーザーで安倍首相のマスクを轢く猟奇的パフォーマンスには、後に批判殺到

ところで、日本最大のLGBTイベント「東京レインボープライド」の名は、報道等で耳にした方も多いと思う。これは、簡単にご説明すれば、「世界各国、日本各地で開催されている性的少数派の人権を訴えるLGBTパレードの東京版」といったあたりか。

パレードでは、LGBT団体やLGBT関連ショップ・企業の華やかなフロート(山車)が徒歩の参加者と共に公道上のコースをたどり、歩道には多くの見物人が集まる。その中には、しばき隊界隈LGBT団体「TOKYO NO HATE」のフロートも出て、共産党の元衆議院議員・池内さおり氏の姿も見られた。

立憲民主党、共産党、社民党の「手先」という点では、LGBT活動家もしばき隊/カウンター系活動家も、同じ穴のむじななのである。

[左]東京レインボープライドでは、しばき隊界隈文化人・香山リカ氏と共産党・池内さおり氏がツーショット! [右]東京レインボープライドにTOKYO NO HATEのフロートで参加する池内さおり氏

そんな彼らのLGBT差別反対運動の頂点が、雑誌「新潮45」に掲載された杉田水脈氏の論考の中のLGBTに対する「生産性がない」という表現に端を発したデモであろう。

2018年7月27日19時から実行された「杉田水脈の議員辞職を求める自民党本部前抗議」。それは、巨大な尺玉の花火ごとく、夏の宵に花開いた「しばきの華」であった。

ただし、人生同様、社会運動も、山があれば谷もある。

大いに盛りあがって絶頂に達し、自民党本部前で爆発したLGBTの反差別デモは、それがしばき隊界隈主導であり、暴力的であったと判明したがゆえに、すぐさまヒュルルンと一気にしぼみ、多くの一般LGBTは賢者タイムに入り、「しばき」にはピクリとも反応しなくなったのである。いまだ、しばき行為を前にギンギンに屹立しているものは、しばき隊界隈と共闘を続けるLGBT活動家のジメジメと湿った闘志だけであろう。(つづく)

 

▼森奈津子(もり・なつこ)

作家。立教大学法学部卒。90年代半ばよりバイセクシュアルであることを公言し、同性愛をテーマにSFや官能小説、ファンタジー、ホラーを執筆。『西城秀樹のおかげです』『からくりアンモラル』で日本SF大賞にノミネート。他に『姫百合たちの放課後』『耽美なわしら』『先輩と私』『スーパー乙女大戦』『夢見るレンタル・ドール』等の著書がある。
◎ツイッターID: @MORI_Natsuko https://twitter.com/MORI_Natsuko

◎LGBTの運動にも深く関わり、今では「日本のANTIFA」とも呼ばれるしばき隊/カウンター界隈について、LGBT当事者の私が語った記事(全6回)です。
今まさに!「しばき隊」から集中攻撃を受けている作家、森奈津子さんインタビュー

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

『暴力・暴言型社会運動の終焉』

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B08VBH5W48/

9月16日、京都新聞朝刊は「県、西山さん確定無罪に反論」の見出しで、湖東記念病院事件で服役後再審無罪を勝ち取った西山美香さんの国家賠償請求訴訟において、滋賀県がふたたび西山さんを「犯人視」していることが明らかになったことを伝えた(2021年9月15日付京都新聞電子版)。詳細を確かめるべく西山さん弁護団長の井戸謙一弁護士に16日夕刻、急遽電話で詳細を伺った。(聞き手=田所敏夫)

井戸謙一弁護士

── 本問題の大まかな経緯を教えてください。

井戸 西山さんは再審での無罪確定を受け、2020年12月25日、国と滋賀県を相手取り、約4300万円の国家賠償を求める裁判を大津地裁に起こしました。国に対しては検察官の起訴の違法等、滋賀県に対しては滋賀県警の捜査の違法等が根拠です。この裁判の進行には難しい側面があります。再審裁判を闘ってきましたから原告側は記録を持っているのですが、民事裁判にはそれを証拠として出せないのです。刑事訴訟法に「刑事裁判で開示を受けた証拠は刑事裁判以外で使ってはならない」旨の条文があるからです。刑事裁判以外に使うと弁護人が懲戒請求されたり最悪の場合は刑罰も課せられます。日弁連は大反対しましたが、検察サイドの要求で平成16年に新たに加わった条文です(第281条の4)。裁判員裁判導入の際に証拠開示の規定が整備されたことの見返りに検察、法務省側が求めたものです。

ともかくその条文ができたので、本当であれば原告側が刑事裁判の証拠をこの裁判の証拠として出せば済むのですが、出せない。そこでこちらは裁判所に対して「文書送付嘱託」の申し立てと、「文書提出命令」の申し立てをしました。「文書送付嘱託」とは、大津地裁の民事部が、刑事記録を保管している大津地検に対し、記録を大津地裁の民事部に送付することを嘱託するよう求めるものです。送付されてきた記録をコピーして、国賠訴訟に証拠として提出する予定です。それに対して被告の国は、裁判所に対し、「必要な書類は国から証拠として出すから、送付嘱託を採用するかどうかは留保してくれ」と申し入れていました。国は6月にある程度は証拠を出してきましたが、つまみ食い程度でそれでは全く足りない。

── 刑事の再審裁判の記録の一部しか国は出してきていない、ということでしょうか。

井戸 今回の場合記録は3種類あります。刑事裁判確定審の一件記録。そして再審請求審、これは第一次と第二次がありますが、その一件記録。それから再審公判の一件記録です。原告側がこのすべてに対して「送付嘱託」を申し立てたのに対して、国はその一部しか証拠として出してこなかったわけです。国との間ではこちらが「もっと記録を出せ」、「出さない」とのやり取りがいまも行われています。

一方滋賀県は、滋賀県警が捜査をして、送検したのですから、捜査記録の写しは持っているでしょうが、裁判になってからの記録は全く持っていません。県は国に対して刑事記録の謄写をさせるよう求め、国はそれに応じ、県は一応謄写(コピー)をしました。そして、それに基づいて、昨日(9月15日)、基本的な主張を記載した第1準備書面を出してきました。その書面で「原告(西山さん)が殺人犯である」という趣旨の主張をしてきたのです。

これまで再審無罪になった元受刑者が提起した同種の国家賠償請求はいくつもあります。それらの訴訟の被告(国、都道府県)は、原告が無罪であることを前提とした上で、「捜査に違法はなかった」「過失はなかった」等と主張するのが常でした。布川事件、東住吉事件、松橋事件などでも同様です。湖東記念病院事件でも、国はその旨の主張をしています。

刑事訴訟で無罪が確定しているのに、国賠訴訟で、被告が「こいつが犯人だ」という主張をするのは前代未聞だと思います。ところが滋賀県の準備書面には「被害者を心肺停止状態に至らしたのは原告である」、「そもそも取調官に好意を抱き嘘の自白をすることはあり得ない」、「知的障害があるというのも嘘だ」、「(原告が奇異な行動をとったのは)捜査を攪乱しようとしたものだ」等とという趣旨のようなことが書いてある。これは捨て置けない。

── 刑事裁判の否定を意味しませんか。

井戸 そうです。滋賀県は、無罪判決をした大津地裁や有罪立証をせず、無罪判決に控訴しなかった大津地検に喧嘩を売っているのです。

── 再審無罪確定後の国家賠償請求訴訟で、国の姿勢は過去の同種訴訟と変わらないけれども、滋賀県が再審無罪で確定しているのに、また「犯人視」してきた。

井戸 そうです。

滋賀県大津裁判所に入る西山美香さん、井戸謙一弁護士ら弁護団(2020年12月/写真提供=尾崎美代子)

── なぜこんな主張が出てくるのでしょうか。

井戸 わかりません。我々も、まさかこんな主張が出てくるとは思いませんでした。この裁判では、美香さんが無実であることを前提に警察や検察のやり方に過失があったかどうか、違法な捜査があったかどうかが争点になると考えていました。「犯人であるかどうか」が争点化されるなど思っていませんでした。

── 警察の日常捜査に知事は権限を持ってはいないと思いますが、被告として滋賀県がこのような主張をしてきたのですから、知事には重大な責任があるのではないでしょうか。

井戸 滋賀県として代理人を選任しこのような準備書面を書いてきたのですから、三日月知事に責任はあると思います。再審無罪確定後、県警本部長は形の上では県議会「ご迷惑をおかけした」と謝罪しました。知事の目の前で県警本部長が謝罪しながら、今回の「犯人視」はまったくの二枚舌です。

── 法律解釈論の側面はあるかもしれませんが、西山さんからすれば、せっかく獲得した「無罪」がまた引き裂かれることになりませんか。

井戸 そうなんです。ようやく平穏な生活を送りだしたのに、またこういうことで精神的に不安定になるのではないかと心配になります。これは、美香さんに対する名誉棄損、侮辱であり、セカンドレイプです。

── 滋賀県が「犯人視」主張をしてきたことに対して、社会に対してどんなことをおっしゃりたいですか。

井戸 どれだけ三日月知事の意向が反映しているのかはわかりませんが、「こんなことでは済ませられない」ことを滋賀県には自覚してもらい、考え直させなければならないと思っています。県議会に働きかけようと思います。あとは市民の皆さんに「知事への手紙」などいろいろな方法で抗議をして頂きたいです。滋賀県が「このままでは放置できない」という状況に追い込みたいです。

── 再審無罪決定後に、県がこのような主張をすることは、わたしたちの生活にとって、どのようなことが起こる懸念があるのでしょうか。

井戸 冤罪を生み出した当事者が真摯に反省し、原因を究明し実務の改善をしないと冤罪は繰り返されるでしょう。今回の主張は改善どころか反省もしていない。「無罪になったけど本当は有罪なんだ。俺たちのやったことは全く問題なかったんだ」と堂々と開き直っているわけです。そして、滋賀県警の姿勢を滋賀県が是認しているわけです。これでは冤罪はなくなりません。今後、滋賀県ではまだまだ冤罪が作り出されるのではないかと、うすら寒くなります。

── お忙しい中ありがとうございました。

※これまで大事件の代理人であっても、市民集会でも井戸弁護士は熱を込めて語ることはあっても法律家としての理性が揺るぐことはない。井戸弁護士は今回、法的に「前代未聞」な滋賀県の態度を指弾するなかで、これまで聞いたことがない怒り・憤りを含んだ語調と言葉を発せられた。冤罪は文字通り「罪」なのに、罪を冒してもそれを反省するどころか、再び被害者を傷つける滋賀県。滋賀県は西山さんが同県の住民であることを、完全に失念しているようにしか思えない。

《追記》

本原稿を書き上げたあと、17日夕刻に井戸弁護士は、フェイスブックで以下の展開を公開した。

「昨日は、滋賀県警の不当な準備書面について抗議の書込みをしたところ、多くの人が〈いいね〉を押していただき、シェアしていただき、ありがとうございました。本日午後5時、三日月知事は、緊急記者会見を開き、準備書面の内容は誠に不適切であったとして、全面的に謝罪されました。会見の直前には、私に電話をいただき、やはり全面的に謝罪されました。知事ご自身は、準備書面の内容を把握されていなかったようです。準備書面の内容を全面的に見直すということですので、今回の問題は、ひとまず解決に向かうと思います。多くの方々が滋賀県当局に抗議の意思を届けて頂いた成果です。本当にありがとうございました。
 ただ、今回明らかになった問題をこのままで済ませてはいけないと思います。今回の騒動で明らかになったことは、県警本部の幹部らは、昨年6月に県警本部長が謝罪したにも関わらず、いまだに、美香さんが殺人犯であり、裁判所や検察庁の判断が誤っているのであり、自分たちの捜査には何の問題もなかったと考えているということです。自分たちの過ちを頑として認めない組織は、必ず同じ過ちを繰り返します。滋賀県警で不祥事が相次いでいるのもむべなるかなです。この滋賀県警の体質を明るみに出しただけでも、美香さんが国賠訴訟を起こした意味があったということができるかもしれません。滋賀県警の皆さんには、もう一度大津地裁の無罪判決と大西裁判長の説諭を読み直して、虚心坦懐に自分たちがした仕事を振り返ってみてほしい。そして、市民の皆さんには、警察のあり方について問題意識を持ち続けてほしいと思います。二度と冤罪被害を繰り返さないために。」

三日月知事は井戸弁護士に謝罪し、内容を見直すと連絡した。しかし、滋賀県警の「無反省」体質については、この展開により問題が浮き彫りになったといえよう。(2021年9月18日 田所敏夫)

[関連記事]
◎片岡健-滋賀患者死亡事件 西山美香さんを冤罪に貶めた滋賀県警・山本誠刑事の余罪(2018年2月16日)
◎片岡健-中日新聞が報じた西山美香さんの作文疑惑調書、元凶はやはり山本誠刑事か(2019年6月12日)
◎尾崎美代子-組織ぐるみで西山美香さんを「殺人犯」に仕立てた滋賀県警は責任をとれ! 湖東記念病院事件の冤罪被害者・西山美香さんに1日も早く無罪判決を!(2019年6月20日)
◎尾崎美代子-冤罪を生まないために──冤罪被害者・西山美香さんが国と滋賀県を提訴した理由〈前編〉井戸謙一弁護士が語る提訴の概略(2021年1月6日)
◎尾崎美代子-冤罪を生まないために──冤罪被害者・西山美香さんが国と滋賀県を提訴した理由〈後編〉西山さんと井戸弁護士による質疑応答(2021年1月7日)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』! 唯一の脱原発マガジン『NO NUKES voice』vol.29!

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◆一般人の非英雄的反体制的言論活動

昔も今も、人間が考えたりやることは同じなのだなぁ……。あらためてそう思わされたのが、高井ホアン著「戦前不敬発言大全」(合同会社パブリブ刊・2019年)である。

国民を監視して弾圧し続けた特高警察(特別高等警察)による「特高月報」に掲載されている、一般市民による天皇批判や反戦的言動の記録をまとめた本だ。

日中全面戦争が始まった1937(昭和12)年から太平洋戦争末期の1944(昭和19)年まで、つまり戦前というよりは戦中の庶民のホンネがのぞける。

本書の帯には、「天皇の批判を投書や怪文書でコッソリ表明……犠牲を顧みる一般市民の非英雄的反体制的言論活動」とあるように、一般人の不敬表現や反戦表現をチェックした記録だ。

特高による監視弾圧活動は、たとえば共産党や宗教団体や労働運動にかかわる人に関しては、ある程度記録され、書籍等にもなっている。

ところが、組織とのかかわりが不明か、あるいは無関係の一般人・普通人の言動が記録されているのは珍しい。

◆戦中の“匿名掲示板”を見る思い

どんな言論表現活動かというと……。

「早く米国の基地にしてほしい」
「天皇陛下はユダヤ財閥の傀儡だぞ」
「実力のある者をドシドシ天皇にすべきだ」

などというありさまだ。なんだか今はやりの謀略論的な内容も記載されている。もう少し見てみよう。

《五月二十三日大阪市南区鰻谷中之町(心斎橋筋)の公衆便所内壁窓横手に鉛筆を以て「戦争反対」「天皇ヲ殺セ」と落書きしあるを発見す(捜査中)》特高月報 昭和13年5月号

あまりにストレートな表現だ。

《昭和15年12月 大阪市東成区北生野町一ノ五六 浜野三五郎(36)(中略)「何んだ天皇陛下も我々も一緒じゃないか機関銃でパチパチやってしまえ」と不敬言辞を弄す。(二月十九日不敬罪として検事局へ送致》(特高月報 昭和16年2月号)

住所氏名年齢などが記載されて送致されたりしている事件も記載されているが、匿名の落書きもまた多い。

《五月十三日南海鉄道高野線北野田駅構内便所に鉛筆にて「生めよ殖やせよ陛下のように 下手な鉄砲数打ちゃあたる」と落書きしあるを発見す。(大阪府)(捜査中)》(特高月報 昭和16年5月号)

ちなみに本書は第1巻であり、第2巻『戦前反戦発言大全』と合わせ1184ページに約1000の発言が収録されている。

全般を通してみると、まるで巨大掲示板のようだ。あるいは、ツイッター、フェイスブック、匿名ユーチューバーを彷彿させるところもあり、遠い昔のこととは思えない。

およそ80年前の庶民と現代に生きるわれわれとの時間の隔たりが感じられず、つい最近の出来事のかのような錯覚にさえ陥る。

高井ホアンさんの著書『戦前不敬発言大全』(左)と『戦前反戦発言大全』(右)(共にパブリブ刊)

◆希望と絶望が同時に

現在でも、政権批判やマスコミ批判、御用文化人などを揶揄したり、SNSが普及したことによってさまざまな試みが見られる。

かつても、素朴な怒りや疑問を表現した膨大な人々がいる。本書のページをめくっていくと、人々の息遣いや温かみすら感じてくる。

ひどい時代でも、まっとうで反骨心ある人々が少なからずいたことに希望を持てる。しかし彼らは組織化されず、その言論は広がることはなかった。

では、現在のSNSの言論表現はどうだろうか。何かを生み出すことはできているだろうか。もちろん、戦前戦中に比べれば直接的な弾圧法規は激減しているし、インターネットの発達により量的拡大はしているが……。

本書に描かれた戦中巨大掲示板を知ることで、現在とこれからの社会をどう考えればいいのだろう?

高井ホアンさん

◆25歳で本書を著わした高井ホアンとは?

著者の経歴を知って驚いた。

高井ホアンは1994年生まれの27歳。本書を世に出したのは、まだ25歳だった。

著者プロフィールによれば、日本人とパラグアイ人とのハーフで、「小学校時代より『社会』『歴史』科目しか取り柄のない非国民ハーフとして育つ」とある。

彼がどのような思いで本書を執筆し、SNS全盛の現代をどうとらえているのだろうか。本人を招いて講演会を企画した。

………………………………………………………………………………………………

◎第139回草の実アカデミー◎
2021年9月18日(土)
「消されなかった戦中の“匿名掲示板”から今を考える」
講師:高井ホアン氏(作家・ライター)
日時:9月18日(土)
13時30分開場、14時開始、16時30分終了
場所:雑司ヶ谷地域文化創造館 第3会議室
https://www.mapion.co.jp/m2/35.71971291,139.71364947,16/poi=21330448165
交通:JR目白駅徒歩10分、東京メトロ副都心線「雑司ヶ谷駅」2番出口直結
資料代:500円
主催:草の実アカデミー
【申し込み】(定員18名)
フルネームと「9月18日参加」と書いて下記のメールアドレスに送信してください。
kusanomi@notnet.jp

★★★感染防止対策にご協力を★★★
・受付の名簿に必要事項をお書きください。
・会場入りの際は手洗いかアルコール消毒をお願いします。
・会場内ではマスク着用をお願いします。
・暑くても窓を開けて換気をするのでご了承ください。

………………………………………………………………………………………………

▼林 克明(はやし まさあき)
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

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アフガニスタンを20年にわたり占領していた米軍が撤退した。米軍の撤退を突然の出来事のように報じる向きもあるが、アフガニスタン、イラクへの武力攻撃・侵攻一連のプログラムを終えた米国は、早い時期から「アフガニスタンからは2020年をめどに引き上げる」ことを表明していた。今次の米軍撤退はそのプログラムが主として米国側の事情により、1年延期延期されただけのことである。しかし、日本内での報道は「米軍撤退=タリバン復権の危機」とのトーンで埋め尽くされている。

アフガニスタンは遠い国ではあるが、日本は「中村哲」という偉人を通じて、米国の侵攻前、侵攻後も深い関係を維持してきた。本当のところアフガニスタン情勢はいま、どのように推移しているのか。冷静な情報は日々アフガニスタンとの連絡に接し、現地事情を知っているひとから教えていただこう。

幸いアフガニスタンで長年医療・教育・灌漑など幅広い支援をおこなっている「ペシャワール会」のメンバーが、わたしの師匠筋にあたる。早速アフガニスタン情勢について伺った。ここでは諸般の事情で「先生」と表記する。

◆「テロとの闘い」の名の下にアメリカはアフガニスタンで誰と闘っていたか

── アフガニスタンは都市部以外は農民社会ということですね。

先生 そうです。8割5分は農民の社会です。アメリカ軍は空爆をして「タリバンを100人征伐しました」と発表しますが、実は爆撃を受けたのは多くの場合一般の農民です。村が全部焼かれたり、爆弾で吹っ飛ばされたり。ベトナム戦争の「ソンミ村」と同じ事態が数多く繰返されました。農地に出ていたお父さんが空爆を目撃して「あれはうちの村じゃないか」と気になり、戻ってみると家が潰されてそこにお嫁さんや子供たちの遺体がある。

アフガニスタンの1家族は10人以上15人くらい居るのが普通です。おじいちゃんおばあちゃん、子供が10人くらいいるのも普通。それが皆殺しにあっている。瓦礫をのけて遺体を埋葬すれば「アメリカ軍憎し」の気持が沸きます。「アメリカ軍をやっつけるために何かできることがあれば、すぐ駆けつけるぞ!」との気分は全土に広がっています。アメリカが攻撃をやればやるほど、反感を生み孤立してきた。ベトナム戦争でもそうだったようですが、アメリカ軍は機関銃を撃っている(攻撃している)間は安心感があるそうです。ベトナムの「ソンミ村」皆殺しにしている間に恐怖感は抱かない。でも私は2007年に現地で事件発生後3日後に、なにがあったかの跡を目撃しました。

ジャララバードのバザールで女性が買い物かごに爆弾を入れて、7、8台のアメリカ軍の車列に飛び込み自爆しました。バザールですから周りには人がたくさんいます。アメリカ軍の兵士はバザールにいた群衆に向けて自動小銃を乱射しました。関係あろうがなかろうかパニックになりバザールにいたひとびとに乱射をしたアメリカ軍の兵士は、ジャララバードから東のトルハムという国境近くにベースを作っていたので、ジャララバードからトルハムまで2時間くらいの道程を乱射しながら戻りました。

私は日本を出発する前に新聞で「70人くらいのタリバン(テロリスト)が掃討された」とのニュースを見て現地入りしました。トルハムの国境から西に向かっていたらドライバーが「3日前にアメリカ軍が乱射しながら東に走っていった」という。たしかに道路沿いの木の皮には新しい弾痕があちらこちらに残っていました。それだけではなく、道路の脇で遊んでいた子供たちが何人も殺されているわけです。ドライバーは「ここで何人死んだ」といって悲しそうに説明してくれました。

それがアメリカのいう「テロとの闘い」の実態です。つまりテロリストと闘っていたのではなく農民と闘っていたということです。カーブル(田所注:「カブール」は現地では「カーブル」と発語されるという)やジャララバード、つまり都市部以外の農村地帯では、タリバンか地元の軍閥が支持されているということです。地縁血縁の世界です。カーブルやジャララバードには水がなくて農業ができない人が流れ込んできます。仕事がないので最初は物乞いをしたりして生活しています。そのような人たちが日銭にありつくために、アメリカ統治下政府の兵隊・警察や傭兵になります。あるいは軍閥の傭兵ですね。その人たちはアメリカ軍の側にいて、農民と敵対していたので「アメリカ軍の手先になっていた」報復を受けるとの恐怖が生まれる。それで国外退避を希望したひとびとがカーブルの空港に集まったわけです。ちょっと前までには自分たちがタリバンや農民をいじめていたから報復が怖い。そういうことです。

◆自衛隊の作戦は最初から破綻していた

先生 アフガニスタンの1家族は10人から20人です。日本大使館員は次の日にイギリスの軍用機で脱出しています。アフガニスタン現地採用で残ったひとがが20人いたとしたら、脱出させなければいけないのは20×20で400人のはずです。大使館で働いていたお父さんだけが逃げるわけにはいきません。家族がいますからね。自衛隊の飛行機を3機送ったそうですが、3機で300人くらいしか乗れない。逃げたい人の数は300人ではきかなかったでしょう。500人はいたとも考えられる。500人乗せなければいけないのに300人分の飛行機しか飛ばしていなかった。作戦は最初から破綻していたというしかないですね。自衛隊が何を獲得したかといえば、「国境を越えて飛んで行って戦場に着陸した」ということだけです。

── 自衛隊機の派遣については国会での質疑もありませんでした。

先生 勝手に飛んで行ってアリバイ的に一人だけ連れて帰ってきた。でもあの1人は赤十字の飛行機かもしれない。中村哲やワーカーがそういう飛行機で移動したことも過去にはありましたから。現地の大使館は事情はわかっているはずですから、手配はできるはずですが大使館はなにもしないで、まともな作戦計画もなしに「自衛隊が勇ましく行きました」というだけではないでしょうか。

中村哲がもし生きていて、こういう事態の時にアフガニスタンにいたら、かつては大使館から「国外に退去してください」とペシャワール会に連絡が必ず来ていました。でも過去そういう状況でも「われわれは大丈夫です。作業を進めます」と大使館の言うことを聞かなかったから、ついにペシャワール会には連絡もなくなりました。JICAなどは退避しても、ペシャワール会は現地で作業をいつも続けていました。そういうことが続いいたので「あれ、ペシャワール会には退避勧告もなかったぞ」と冗談をいっていたこともあります。退避勧告を伝えてもどうせいうことをきかないから大使館は連絡をやめたのでしょう。

カーブルに集まった5000人、8000人ともいわれる群衆は家族まで含めて集まってきた、ということでしょう。それから映像を見るときの注意点ですが、タリバンがターバンを巻いていますね。あれは南部の部族に多い正装です。北部の部族は中村哲がかぶっていたような帽子のような形をかぶることが多いです。北部同盟やパシュトゥン語を話す部族ですね。なにをかぶっているかで部族をおおよそ見分けることができます。これから現地の映像は、なかなか出てこないのではないかと思います。

── CNNの映像を見ていると不自然です。アフガニスタンから最後に飛び立つ輸送機の映像には、男性しか映っていません。家族が一人もいない。しかもカメラに向かって手を振っている人が写っています。あれが真剣な脱出を望む姿だとは思えません。映像合成の技術を使えば簡単に作れるのでしょう。

先生 カメラの位置が全部アメリカ軍側ですね。どうもおかしいと思う情報ばかりが日本に入ってくるようです。現地の農村部は落ち着いているそうです。ペシャワール会はジャララバードから車で1時間半ほど山に入った、クナール河のそばに工事現場があります。工事現場の山手にダライヌールという渓谷があり伊藤和也君が亡くなったところです。

ペシャワール会はダライヌールに診療所を作り持っています。診療所は5日ほど診療を中止しましたが再開しました。水路工事をいろいろな場所でやっていますが、まだ中止しています。いつ再開してもよい状況にありますが、内部でのトラブルがないように慎重に対応しています。本当は一刻も早く作業を再開したい。そうしないと作業に関わっている人に給料が払えませんから。生活がかかっていますからね。工事再開のスタンバイをして、現地と日本の事務局では毎日連絡をとっています。いまのところ怪我人もなければ争いも起こっていないということです。

田舎の方ではほぼそうではないかと思います。空港に集まったのはアメリカ軍に協力していた人ですから、アフガニスタン全土からみれば一部でしょう。政府軍も生活のために仕事をしていたのであって、命がけではないでしょう。であれば逃げるは不思議ではない。怖いのは怖いでしょう。

── 現地で恐怖を訴える人は英語を話していますね。

先生 農村部へ行ったら英語を話す人はいません。現地の部族の言葉を話します。

◆「元に戻るだけ」のアフガニスタン

── そしてカラシニコフを持っていると聞きました。

先生 ロケットランチャーもあります。ソ連時代に鹵獲したものもあれば、アメリカ軍が残した武器も加わったでしょう。私はソ連軍の錆びた戦車を見ました。でも現地の人は武器として使うのではなく、鉄として売ります。武器、機械ではなく鉄を溶かして鍋や鍬を作るのです。

── タリバンは日本では完全な「悪者」のように報じられますが、1990年代半ばから政権を担い、各国は大使館をおいていた。日本の大使館もありました。簡単にいえば「元に戻るだけ」だと思いますが、細部をわたしはわかりません。ですから先生に全体像を伺いたかったのです。

先生 私はアフガニスタンを経験してきましたが、たとえですけれども九州に住んでいる私は山形県の詳細などわかりません。同じことではないでしょうか。ジャララバードのひとはカンダハールのことは知らない。ジャララバードのパシュトゥン族はカンダハルを「あんな怖いところに行ったらいけない」というわけです。

◆何より尊重すべきはアフガニスタンの自決権

── 日本での報道はあまりにも酷いと感じます。アフガニスタンの土を踏み、いまでも日々の情報をもっているかたにお話を聞くことが重要だと思います。

先生 せっかくですから、もう一つ。「マドラサ」という神学校があります。私は「マドラサはタリバンの養成所でしょ。テロリスト養成所でしょ。それを中村哲は援助しているからろくなものじゃない」と言われたことがあります。そのひとはネットの情報だけでそのように言ったのでしょうが、「マドラサ」は神とともに生きているイスラムの人たちの精神的なよりどころです。

ペシャワール会は「マドラサ」もモスクも造りました。マドラサでは孤児を勉強させながら食べさせていました。孤児の寄宿舎です。だから村の人からは感謝されました。マドラサは互助組織なわけです。孤児の親代わりを村全部で担う。マドラサがある場所では物乞いをする子供が少ないですね。ジャララバードやカーブルなど大きな町では物乞いをしている子供もいます。ですから「マドラサ」とモスクは農民たちの日常的な精神的な支えになる場所なのですね。用水路ができたときよりも「マドラサ」やモスクができたときのほうが喜びは大きかったようですよ。これは我々にはあまりない感覚ですね。

ですがアメリカ軍は「マドラサ」やモスクを意図的に爆撃してもいます。コーランを破り捨てたり。それにより農民たちは「反米」になる。アメリカが失敗したのはよその国に入って行って、自分のやり方を通そうとしたからです。民族の自決権は守らないといけない。アフガニスタンの自決権は、内戦を起こそうがどうしようが、アフガン人同士で決めればよいということです。中村哲はそのことには口を出しませんせした。「いずれおさまるから」と。「戦争なんかやっている暇はない干ばつのほうが大事」だと。ひたすら医療支援と運河の工事に没頭していました。

※以上が先生からうかがったお話だ。わたしが付け加える言葉はなにもない。


◎[参考動画]中村哲 ペシャワール会現地代表 (日本記者クラブ 2016年8月26日)


◎[参考動画]2021年度 ペシャワール会 現地報告会(NDN-TV 〔日本電波ニュース社〕2021年7月21日)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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菅義偉総理が総裁選出馬を断念したことで、総選挙による「政権交代」はほぼないとみていいだろう。総裁選が自民党の「談合選挙(密室政治)」にはならず、したがって自民党員の政治意志が結集した「新総裁」のもとでの総選挙が、それなりに求心力を発揮するからだ。

そのいっぽうで、今回の総裁選挙が自民党の内部分裂、あるいは来年の参院選挙での与野党のねじれを招来しかねないことを指摘しておきたい。極端な政治路線をもった候補の登場、そして乱立ともいえる選挙になるからだ。

その意味では今回の自民党総裁選挙は国政の方向、および国民生活への影響がきわめて大きく、とりわけ向こう10年にわたる政治構造を決定する可能性が高い。

ここでいう自民党の「内部分裂」とは、ながらく自民党を支配してきた派閥力学がそれとして完結(妥協)するのではなく、長期の政治路線をはらんでいるという意味である。これまでにない、極端な政治路線の候補者の登場がそれだ。

すなわち、本命視されてきた岸田文雄の、派閥均衡による多数派の選出ではなく、河野太郎という「赤い自民党員」「共産主義者」の出馬、そして安倍晋三をはじめとする極右派の期待が、極右の女神・高市早苗に注がれているからだ。

共同通信社が9月4~5日に実施した全国緊急電話世論調査は、次の首相にふさわしい候補として、河野太郎行政改革担当相が31.9%でトップだった。

以下、石破茂元幹事長26.6%、岸田文雄前政調会長18.8%、野田聖子幹事長代行4.4%、高市早苗前総務相4.0%、茂木敏充外相1.2%、下村博文政調会長0.6%の順となった。※有効回答者数は固定電話538人、携帯電話533人。

これをみるかぎり、河野太郎の圧倒的人気は明らかだ。自民党員(地方票)においてもこれは同様であろう。地方党員の人気では有力をほこった石破茂も、河野太郎に比べれば「賞味期限切れ」感を否めない。そのいっぽうで、安倍晋三の高市早苗を支持するうごきが、永田町を揺るがしている。

キングメーカーをめざす安倍はここ数年、自身の後継者に岸田文雄を据えてきた。安倍にとって理想の継承劇は、菅義偉によるコロナ危機の克服とオリンピックの成功、その成果を禅譲というかたちで岸田へつなぐというものだった。

ところが、肝心の岸田が独自の政治的発信をするようになったのだ。わけても安倍に看過できないのは、岸田が森友学園など一連の政治疑惑の解明(改ざん文書の糾明など)を口にしたのである。これが安倍の「逆鱗」に触れたのは言うまでもない。なぜならば、安倍は政治資金規正法違反の「容疑者」なのだから。

もうひとつ、岸田は3月25日に発足した「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」の「呼びかけ人」に名をつらねることで、安倍の怒りを買ったのである。

そもそも岸田は党内の大宏池会構想、すなわち党内融和による保守リベラル路線を政治的基盤に持っている。ここ数年の安倍一強路線、官邸トップダウンの強権政治に不満をもつ党員の支持を得ているのだ。

こうして発信力を身に着けた岸田が、安倍にとってはにわかに鬱陶しい存在になった。前回指摘した通り、安倍が「もう一期」と情けをかけていた菅を、退陣に追い込んだのは岸田の「役員連続3期制」という提案だった。菅は二階を切ることで、みずからの基盤をうしない、解散総選挙の道を封じられたのである。岸田は総理総裁への血路をひらいた半面、安倍と二階というキングメーカーの支持をうしなった。けっして楽な総裁就任にはならないであろう。

岸田新総裁の成否については、総裁選情勢の変化のなかで再検証するとして、ダークホース視されている河野太郎と高市早苗のうち、今回は高市早苗という人物について分析してみたい。

◆期待される女性宰相に見合う政治家は?

もともと自民党には、隠然たる女性宰相待望論があった。ベテラン男性議員の不満を承知で、人気のありそうな女性議員候補を比例代表上位に入れてきたものだ。買収で刑事犯罪者となった河井案里に1億5000万円もの選挙資金をつぎ込んだのも、民主党の蓮舫議員のように舌鋒鋭い、国民受けする女性議員が欲しかったからなのである(安倍晋三の言)。

だからこそ、小渕優子や稲田朋美など、女性の幹部候補者が閣僚に抜擢されてきたのである。二階幹事長のもとで、総理願望のつよい野田聖子が前面に出てきているのも、自民党の「中高年男性党」からの脱皮志向にほかならない。

だが、酒豪で血筋がいいというだけで、パッとしない小渕優子。防衛大臣に起用してみたものの、官僚の懇切丁寧な指導にもかかわらず、ほとんど役に立たなかった稲田朋美。彼女の答弁はボロボロで、省内の管理も満足にできなかった。

やる気も能力も十分だが、なぜか総裁選出馬を冗談としか思ってもらえない野田聖子。いずれも将来の女性宰相としては、ちょっとまだ無理という感じだ。

 

小粥義雄(著)ヒトラー政治戦略研究会(編)『HITLER(ヒトラー)選挙戦略』(永田書房1994年)

ちなみに、野田聖子のウィークポイントとされている在日韓国人夫のヤクザ経歴は、反社からの更生として美談に描くべきだと思うが、どうだろう。日本の総理大臣の夫が在日韓国人で、しかもかつては逮捕歴が2回もあるヤクザだった。いま、将来の総理夫婦は激務のかたわら、体外受精で得られた障がい者の我が子を育てている。どんな人間でも懸命に努力し、やる気さえあれば総理大臣にもなれる。痛みを知るからこそ、国民に寄り添った政治が実現できる。素晴らしいことではないか。今回、その野田聖子をも出し抜くように、総裁選出馬宣言を行なったのが高市早苗である。

高市氏は「説得できない有権者は抹殺」などの記述がある『HITLER ヒトラー選挙戦略』(小粥義雄、永田書房)に推薦文を寄せたり、安倍改造内閣に入閣した際には、ネオナチ団体代表と写真を撮ってもいた。「先の戦争は侵略戦争ではなかった」「国会デモを取り締まれ」「福島原発事故で誰も死んでいない」などという暴論も吐いてきた。

その後、総務相を経験するなかで政治的なバランスをとれるようになり、政策もつくれるようになったのが、現在の高市早苗である。もともと髪をピンク色に染めたレディース(女性暴走族)もどきだったのだから、その学習能力と変化する力には定評がある。安倍子飼いの女性政治家のなかでは、いまや傑出した存在になったといえよう。

◆高市早苗の政策綱領『日本経済強靭化計画』批判

たんに出馬を宣言してみただけではなく、ちゃんと政策綱領もあるのだ。「総裁選に出馬します!――力強く安定した内閣を作るには、自民党員と国民からの信任が必要だ。私の『日本経済強靭化計画』」(文藝春秋9月号)の中から政策の項目だけ並べてみよう。

 

高市早苗『美しく、強く、成長する国へ。私の「日本経済強靱化計画」』(ワック2021年9月15日)

国会議員の矜持/危機管理投資と成長投資を優先/「改革」から「投資」への転換/必需品は国内生産・調達が基本/情報通信機器の省力化が急務/深刻な「中国リスク」/中国への技術流出に歯止めを/日本に強みがある技術を伸ばす

なかなか立派ではないか。このなかで、経済政策は「ニューアベノミクス(サナエノミクス)」を提唱している。金融緩和・財政出動につづく第三の矢の産業振興については、「成長投資」として、以下のジャンルを挙げている。

「産業用ロボット、マテリアル(工業素材)、膜技術、量子技術(基礎理論・基盤技術)、電磁波技術などにおいて、日本は技術的優位性を持つ。」

ではその「投資」の財源はというと、
「インフレ率2%を達成するまでは、時限的にプライマリーバランス(PB)規律を凍結して、戦略的な投資にかかわる財政出動を優先する。頻発する自然災害や感染症、高齢化に伴う社会保障費の増大など困難な課題を多く抱える現状にあって、政策が軌道に乗るまでは、追加的な国債発行は避けられない。」

そこで生じる財政問題については、
「日本は、自国通貨建て国債を発行できる(デフォルトの心配がない)幸せな国であること」「名目金利を上回る名目成長率を達成すれば、財政は改善すること」「企業は借金で投資を拡大して成長しているが、国も、成長に繋がる投資や、将来の納税者にも恩恵が及ぶ危機管理投資に必要な国債発行は躊躇するべきではないこと」としている。

読者諸賢はすぐにおわかりだと思うが、この経済政策には経済の根幹が欠けている。消費を促進する国民の可処分所得、およびそれを可能とする配分問題がないのである。

亜細亜大学系列経済短大や近畿大学の経済学部で教鞭をとったにしては、経済の実体が商品開発ではなく消費にあることを理解していないからこうなるのだ。どんなに優れた技術力があり、優秀な商品が開発されたとしても、買い手がいないのでは売れない。そもそもデフレとは、過剰生産による不況なのだ。

神の手による「経済」はともかく、政治家にとって「法」の運用はただちに国民生活に直結する。民主主義の根幹を揺るがしかねない「法」の無理解があるとしたら深刻である。

◆危惧される「上から」の放送法理解

かならずしも、政治家が法律の専門家である必要はないが、立法と行政に関わる以上は、法運用の基本的な原則は不可欠である。

自民党憲法草案が「国民に義務を課す」ものであるように、自民党政治家の大半は法律が国民の遵守義務、統制法と考える傾向にある。これは高市においても同様である。

高市の総務相時代に、その放送法理解が権力主義的な理解、すなわち放送法の精神を「上からの取締法」と誤読している事態がおきた。

2016年2月のことだ。衆議院予算委員会の答弁において、高市は「放送法の違反(政治的公平に違反)を繰り返した場合、放送法4条違反を理由に、電波法76条に基づいて、行政が何度要請しても、全く改善しない放送局に何の対応もしないとは約束できない。将来にわたり可能性が全くないとは言えない」と述べたのである。ようするに、政府が気に入らない政治的批判があった場合、それが是正されないときは放送内容に介入するというのだ。

この発言に対して、田原総一朗ら7人が呼びかけ人となって、発言が憲法及び放送法の精神に反しているとする抗議声明を出したのは当然であろう。

高市は同年3月の衆議院総務委員会でも、「特に無線の放送は、有限希少な国民的資源である電波の一定の帯域を排他的かつ独占的に占有しているということから、公共の福祉に適合していることを確保するための規律を受けることとされています。これは放送法第1条にも書かれております」と述べている。政府が放送を規律する必要があるという解釈をあらためて示したのである。

放送法第1条は、放送の行政からの独立。すなわち政権の介入を禁じるものであって、高市の理解は180度ちがうものだ。表現・報道の自由を保障しているのが、放送法にほかならないのである。

この問題について、アメリカの国務省は2017年3月3日に公表した人権報告書(「世界各国の人権状況に関する2016年版の年次報告書」)で、日本では「報道の自由に関する懸念がある」として、高市の「電波停止」発言を一例に挙げている。

◆抜きがたい極右的体質

経験値とともに、物腰の柔らかさや受け答えの柔軟さは出てきたものの、彼女の極右的体質を見誤ってはならない。

「選択的夫婦別姓制度」導入の議論では、反対派の議員連盟「『絆』を紡ぐ会」の共同代表となっている。その意味では、反対の立場から積極的賛成の立場にいたった岸田文雄と真っ向から論戦を交わしてほしいものだ。

高市は「家族単位の社会制度を崩壊させる可能性がある」として、導入に反対する文書を自民党籍を持つ42道府県の議長宛てに、自身の名前が入った封筒で発送したという。まさに筋金入りの岩盤保守ではないか。

安倍前首相が会長を務める創生「日本」が2012年におこなった研修会で、こんな発言をしていたという。

「さもしい顔して貰えるものは貰おう。弱者のフリをして少しでも得しよう。そんな国民ばかりでは日本国は滅びてしまいます」

「安倍総理はつねに日本と日本人の可能性を信じつづけて、多くの方が真面目に働く、人様にご迷惑をかけない、自立の心を持つ、そして秩序のある社会をつくる。それによって日本がどんどん成長していく。まあ、本当に気の毒な方々のためにも頑張っていける、力強い国をつくれるんだ。その思いがすべての閣僚に浸透していたからこそ、私たちは自由に働かせていただきました」

これは本心からなのか、なりふりかまわず安倍に媚びへつらう言辞なのか。これから始まる高市のテレビでの発言と見比べてみたい。

「なりふりかまわず」というのが、高市のひとつのキーワードともいえる。これは師匠たる安倍晋三の持ち味でもあった。2014年には「週刊ポスト」に天理教への2万円の「お供え」を買収行為として暴露されている(天理教団は高市の選挙区)。同時期に統一協会への祝電が問題視されたものだ。

今後は総裁選にむけて、なりふりかまわない言動が顕在化することであろう。そこがウィークポイントでもあり、彼女の売りでもあるのだ。健闘と失言に注目しよう。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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新聞社が販売店に課している新聞のノルマ部数(広義の「押し紙」の原因)は、半世紀近く水面下で社会問題になってきた。今年に入ってから、わたしは新しい調査方法を駆使して、実態調査を進めている。新しい方法とは、新聞のABC部数(日本ABC協会が定期的に公表している部数)の表示方法を調査目的で、変更することである。ABC部数を解析する祭の視点を変えたのだ。そこから意外な事実が輪郭を現わしてきた。

現在、日本ABC協会が採用している部数の公表方法のひとつは、区・市・郡単位の部数を半年ごとに表示するものである。4月と10月に『新聞発行社レポート』と題する冊子で公表する。しかし、この表示方法では時系列の部数の変化がビジュアルに確認できない。たとえば4月号を見れば、4月の区・市・郡単位の部数は、新聞社ごとに確認できるが、10月にそれがどう変化したかを知るためには、10月号に掲載されたデータを照合しなくてはならない。冊子の号をまたいだ照合になるので、厄介な作業になる。

そこでわたしは、各号に掲載された区・市・郡単位の部数を時系列で、エクセルに入力することで、長期間の部数変化をビジュアルに確認することにしたのである。

かりにある新聞のABC部数に1部の増減も起きていない区・市・郡があれば、それは区・市・郡単位で部数をロックしていることを意味する。ABC部数は新聞の仕入部数を反映したものであるから、その地区にある販売店に対して、ノルマ部数が課せられている可能性が高くなる。

新聞は「日替わり商品」なので、販売店には残紙を在庫にする発想はない。正常な商取引の下では、読者の増減に応じて、毎月、場合によっては日単位で注文部数を調節する。販売予定のない新聞を好んで仕入れる店主は、原則的には存在しない。

販売店に搬入される総部数のうち、何パーセントが「押し紙」になっているかはこの調査では判明しないが、ノルマ部数と「押し紙」を前提とした販売政策が敷かれているかどうかを見極めるひとつのデータになる。

従前は、販売店の内部資料が外部に暴露されるまでは、「押し紙」の実態は分からなかったが、この新手法で新聞社による「押し紙」政策の有無を地域ごとに判断できるようになる。

ちなみに「押し紙」は独禁法違反である。

朝日新聞販売店で撮影された残紙

◆香川県の市郡を対象とした調査

が、こんな説明をするよりも、実際に作成した表を紹介しよう。下記の表は、香川県の市・郡をモデルにして、朝日新聞を調査した結果である。同一色のマーカーは、ロック部数と期間を示している。

香川県ABC(朝日)

上の表から、たとえば丸亀市のABC部数の推移を検証してみよう。次に示すように、2016年4月から2018年10月の約3年の間、朝日新聞の部数(読者数)は一部も変動していない。常識的にはあり得ないことだ。

2016年4月:7500部
2016年10月:7500部
2017年4月:7500部
2017年10月:7500部
2018年4月:7500部
2018年10月:7500部

東かがわ市に至っては、3年間に渡って同じ部数がロックされている。また、高松市の場合は、ロックの期間こそ1年だが、5年間でロックが3度も行われている。しかも、その部数は、それぞれ2万2002部、1万8877部、1万3882部と大きなものになっている。

◆長崎県の市郡を対象とした調査

次に示すのは、長崎県の朝日新聞のケースである。香川県のようにすさまじい実態ではないが、西彼杵郡などで典型的なロック現象が確認できる。

長崎県ABC(朝日)

なお、2019年10月から翌年の4月にかけて、西彼杵郡の部数が一気に590部も増えている。その反面、長崎市の部数が一気に1913部減っている。(いずれも表中に赤文字で表示した。)不自然さをまぬがれない。

◆読売新聞との比較

モデルケースとして香川県と長崎県を選んだのは、「押し紙」裁判を取材する中で、これらの県で部数をロックしている可能性が浮上したからだ。 

さらにわたしは全国の都府県を抜き打ち調査した。その結果、東京都と大阪府を含む、多くの自治体でロックが行われていることが判明した。

香川県と長崎県における読売新聞社の部数ロックについては、9月7日付けの記事、「読売新聞の仕入部数「ロック」の実態、約5年にわたり3132部に固定、ノルマ部数の疑惑、「押し紙」裁判で明るみに」で紹介している。

◆名古屋市の17区を対象とした調査

名古屋市の各区における朝日新聞のロックについても、データを紹介しておこう。やはり部数のロックが確認できる。

名古屋市ABC(朝日)

わたしがこの調査結果を最初に公表したのは、ウェブサイト「弁護士ドッドコム」である。その際に朝日新聞社は、「本社は、ASA(黒薮注:朝日新聞販売店)からの部数注文の通りに新聞を届けています。 ASAは、配達部数の他に、営業上必要な部数を加えて注文しています」とコメントしている。

このような弁解がこれまで延々とまかり通ってきたのである。それが「押し紙」問題が解決しない原因だ。

一方、日本ABC協会は部数ロックの現象について、わたしが行った別の取材で次のように答えている。日経新聞の部数ロックを提示した際の見解であるが、一般論なので他の新聞社についても当てはまる内容だ。参考までに紹介しておこう。

「ABCの新聞部数は、発行社が規定に則り、それぞれのルートを通じて販売した部数報告を公開するものです。この部数については、2年に1度新聞発行社を訪問し、間違いがないかを確認しています。」

◆独禁法の新聞特殊指定に抵触

独禁法の新聞特殊指定は、新聞社が販売店に対して「正当かつ合理的な理由がないのに、次の各号のいずれかに該当する行為をすることにより、販売業者に不利益を与えること」を禁止している。

(1)販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること(販売業者からの減紙の申出に応じない方法による場合を含む。)

(2)販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること。

部数ロックは、(2)に抵触する可能性が高い。しかも、業界ぐるみで部数ロックの販売政策を敷いている疑惑がある。

公正取引委員会は調査に着手する必要があるのではないか。さもなければ、日本の権力構造の歯車だとみなされかねない。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

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ご承知のとおり、2021年8月11日から14日頃にかけて、九州地方と広島県内では一時は大雨特別警報が発令されるほどの大雨となりました。広島県内では、広島市安佐南区の祇園山本という場所で総雨量が700ミリを突破。観測点近隣の安佐南区や西区では大規模な土砂災害が広島土砂災害2014(2014年8月20日)や西日本大水害2018(2018年7月6日)に続いて発生しました。周辺自治体でも、安芸高田市や北広島町、竹原市などで浸水などの被害が相次ぎました。

わたしは、8月29日、土砂の除去作業などのボランティアに政治活動上の事務所もある地元の安佐南区の被災現場に入りました。広島は8月に入って全国同様に新型コロナウイルス感染者が爆発的に増加、27日には緊急事態宣言が出されるありさまでした。今回は「コロナ」と「水害」のダブルパンチ状態の現場から報告・提言します。

◆2度の大水害による危機感で、人的被害は最小限に

2014年水害の安佐南区八木(筆者撮影)

今回の水害でも、田んぼの様子を見に行くなどして流されて亡くなられたり、行方不明になられたりした方はおられました。ただし、今回は2014年、2018年のような、大規模な土砂災害により多数の犠牲者が出る、という最悪はさけられたのは、不幸中の幸いです。

2014年の土砂災害は、広島市安佐南区東部の山沿いからJR可部線・国道54号線に沿うように、安佐北区の可部地区、さらには安芸高田市の一部に異常に強い雨雲がかかり、短時間に猛烈な雨が降ったことでもたらされ、関連死ふくめ77人が犠牲になりました。

2018年の西日本大水害は、広島、岡山、愛媛を中心に広い範囲で3日間の総雨量が400ミリ程度に達するという形でもたらされました。平野部に大きな川が流れる岡山(64人が死亡・不明)では洪水による犠牲者、山間部に住宅地があり、多くの人が住んでいる広島(114人が死亡・不明)では土砂災害による犠牲者が広範囲で顕著でした。

今回は広島の総雨量はおおかったものの、猛烈な雨が降る時間帯がほとんどありませんでした。わたしがボランティア活動で伺った場所でも、2018年や2014年のような「土砂が1m近くつもっている」という状況ではありませんでした。水分を含んで重いのには閉口しましたが、土砂の厚みは10数センチというところでした。

それでも、多くの砂防ダムが土砂で満杯となっていましたし、実際に物理的な土砂災害、浸水被害も多く出ており、犠牲者が出てもおかしくはありませんでした。

やはり、今回は2014年、そして2018年の大災害の教訓が生かされたといえるでしょう。

2018年水害南区似島の土砂(筆者撮影)

2014年の広島土砂災害の後も、被災地以外の県民や地方議員の間には「他人事」のような空気が感じられました。もちろん、多くの県民が、あの時はボランティアにかけつけました。ただ、まさか、自分のところでおきるということまでは具体的にイメージされていた方は少なかったようです。しかし、2018年の大水害では、2014年に被害がなかった安芸区、南区や東区でも大きな被害が出ました。

「2014年の災害の後、砂防ダムができて大丈夫と思っていた。だが、他方でそうはいっても、想定外の災害が続いているので、怖いから早めに避難した。」(今回うかがった被災地在住の30代男性)などの声を多くうかがいました。危機感の高揚が多くの命を救ったのはたしかです。

◆国・自治体の対応は改善も、引き続きチェックが不可欠

今回の水害にあたっては、以前よりは行政も迅速な支援をしています。広島市は、前回2018年の水害に続いて、民有地の土砂の撤去を市で行う、業者に頼んだ場合にはその費用を市が後払いすることを決めました。また、罹災証明書の発行手数料を無料にするなどしています。

国も激甚災害指定をいち早く表明しました。これには、主な被災地である広島3区の与党候補が国土交通大臣を擁する公明党大物であるという背景はあるでしょう。本来は選挙の思惑とは関係なく復旧支援はするのが筋ですが、前回の安倍晋三さんの「宴会三昧」よりは進歩です。

ただ、2度の水害がおきる前は、広島県もまるで「災害が起きない」ことを前提としたかのような新自由主義路線だったことは忘れてはいけません。そして、それが今回の大水害でも、そして今後起き得る災害でも不安材料です。広島県は河井案里さんと不倶戴天の政敵だった前知事のもと、86あった市町村を23に合併させました。そして、県職員は採用の異常な抑制などで削減して、県の仕事は市町村に渡したのです。

しかし、受け皿となる市町村も、合併後に地方交付税を減らされ、現場公務員を総体として減らさざるをえなかったのです。とくに、合併された側の旧市町村への公務員の配置が手薄になりました。その結果として、2018年の大水害からの復旧はすすんでいません。「予算がついても職員を減らしすぎて事業を回せない」(広島市内の県議)のが実態です。

2021年の参院選広島再選挙でわたしが回った際もいまだにブルーシートがかかったままの被災箇所がありました。また、ある2018年最大の被災地では「ここに来てくれた候補者はあなただけだ。あなたに投票する」というお言葉を頂きました。だが、そもそも二大政党の候補者が広島都市圏とは縁が浅い落下傘気味の方だったとはいえ、被災地に無関心だったのは大問題です。

引き続き、県民の皆様による、自治体や国政政党へのチェックは不可欠です。

[写真左]2021年水害の土嚢と土砂の跡、[写真右]2021年4月でも2018年西日本大水害のブルーシートが土砂崩れの山肌を隠すようにまだ残る(筆者撮影)

◆コロナで「ボランティア頼み」に限界――現場公務員補充・サンダーバード創設を

今回の水害の復旧にあたって、新型コロナウイルス感染爆発の中、県内各自治体とも、他の自治体からのボランティア受け入れはしない方針です。善意が感染爆発を加速させたら元も子もないので、仕方がないことです。わたし自身も、今回、安佐南区よりも被害が大きいと報道されている西区田方地区や、安芸高田市、北広島町に入りたい気持ちはありました。西日本大水害2018でもわたし自身、安佐北区口田南や南区似島、安芸区矢野地区、坂町小屋浦地区などにはいっています。しかし、今回は自重して事務所のある安佐南区限定の活動をさせていただきました。

とはいえ、もし、災害の規模が西日本大水害2018並みであった場合にはどうだったでしょうか? 考えるだけでぞっとします。土砂の除去作業なども進まず、衛生状態もさらに悪化するなど、悲惨な事態になったかもしれません。

1995年の阪神淡路大震災、そして2011年の東日本大震災。そして、西日本大水害2018などで、ボランティアの活躍が注目されました。

たしかに、ボランティア精神は素晴らしい。行政ではやりにくい、きめ細かなことを機動的におこなうなど、ボランティアは「自発的」(※本来、無償とは限らない)であるがゆえの優位性はあります。

しかし、とくにこの20数年間、行政の側が「ボランティア精神」にただのりして、本来付けるべき予算をつけなかったりしていたのではないでしょうか? とくに、西日本大水害2018の際に当時の安倍晋三総理が連日のように宴会やゴルフに興じて、被災地を軽視してきたのは、「ボランティアがなんとかしてくれるからそれにただのりしている」面もあったのではないでしょうか?

だが、コロナのもとで、それは通用しなくなりました。それぞれの自治体で現場公務員を補充するべきは補充していく必要があります。

そして、もうひとつは、気候変動の中で、こうした大規模災害は国内外とわずして増えています。これからも増えるのは避けられません。日本は災害超大国であり、災害に対応するノウハウはそれだけに蓄積されています。それをいかして国内外の災害に対応する災害救助隊=サンダーバードを創設することを改めて提案します。それこそが、日本がすべき国際貢献のひとつです。世界最初の戦争被爆地であり、この7年間で3度も激甚災害クラスの災害に見舞われた広島から訴えるものです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/29547261/

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一昨日9月9日午後1時30分から大阪地裁第16民事部809号法廷において、鹿砦社が、元社員であり「カウンター/しばき隊」の中心メンバーだった藤井正美を相手取って損害賠償を求めた民事訴訟における証人調べ(本人尋問)が行われた。

またもや闘いの舞台・大阪地裁

本来なら翌日の昨10日に報告予定のところ、藤井の詭弁、同代理人の神原元弁護士の三百代言を長時間傍聴し気分が悪くなり遅れてしまい本日になったことをお詫びする。

これまでは争点準備手続き(非公開で傍聴者なし、当事者だけの参加)による審理であったので、この裁判において原告、被告双方が傍聴席の前に姿を現したのは、この日が初めてである。とはいえ、原告・鹿砦社代表松岡にとって法廷は数えきれないほどの経験がある。被告・藤井正美にとって、法廷内がどのように感じられたのかは想像するしかない。

傍聴席には鹿砦社の応援に合計9名の方々が駆けつけてくださった。平日にもかかわらず、ありがたいことだ。一方藤井側の応援はゼロ。しばき隊の仲間は冷たい。

◆意外と冷静だった松岡の尋問への対応

証言は原告松岡への森野俊彦弁護士の主尋問で幕を開けた。森野弁護士は松岡に藤井を雇用した経緯、入社後藤井の業務態度などをよく通る聞き取りやすい声で質問していった。松岡も落ち着いて回答する。

森野弁護士の主尋問のあとには、被告・藤井の代理人、神原元弁護士の反対尋問に移る。神原弁護士はやや高い声で傍聴席から聞いていると、少し早いテンポで松岡に質問を投げかける。松岡は時に「質問の意味がよく理解できませんので、もう一度お願いします」と聞き返すなど、松岡には珍しく終始冷静に質問に回答した。

直情型の松岡はかつて、ある裁判での尋問で書類を投げつけたほどで心配された。松岡は開廷前、「天気晴朗、明鏡止水の心境だ」と嘯いていたが、内心は怒りと闘志が燃えたぎっていたに違いない。

◆元社員・藤井正美の詭弁と開き直り、いまだに反省と謝罪の言葉はなかった

休憩を挟み、藤井への尋問は神原弁護士の主尋問から始まった。このやり取りの総体を一言で表せば「笑止千万」だ。神原弁護士による主尋問のあと、森野弁護士が藤井に対して反対尋問を行なった。

森野弁護士の質問内容は事前に裁判所に通知していた内容とほぼ同じであったが、時にゆっくり時間を取り、また別の質問では「あなたは」と始めながらも明らかに声の厚みが増し、藤井は回答に窮する場面もあった。

《自分を取り巻く今の環境は、3・11以降に反原発~反レイシズム~反安倍の流れを当たり前のように進んできた「縦糸」と、音楽やサッカーなどが「横糸」になったゆるやかな繋がりで編まれているんだけど、いずれ誰かが本にでもしてくれるだろう(笑)》

上記のように藤井が「いずれ誰かが本にでもしてくれるだろう(笑)」と希望していたことが、藤井発信のツイッターから判明した(もちろんそれだけが理由ではない)こともあり書籍に取り上げたのに、この日の藤井の弁解はその希望とまったく矛盾していた。

藤井正美2015年月別ツイート数一覧(『カウンターと暴力の病理』より)

藤井正美2015年9月のツイート数一覧(『カウンターと暴力の病理』より)

神原弁護士のツイート(2021年9月8日)

この期日前にも例によって、神原弁護士は「圧勝」(弁護士として品のない表現と感じるのは、われわれだけか?)とのお得意ツイートを投稿していたが、果たして実態は……? 傍聴された方々は、どう感じたであろうか?

この方は過去の裁判で勝訴でもないのに実質「勝利宣言」をするなど、不思議な言語感覚の持ち主であることは承知していたが、今回もそれは同様。

◆次回期日は11月4日午前11時30分から
 これで結審

双方の尋問(証言)終了後、裁判長は今後の扱いについて原告・被告双方に意向を聞いた。原告代理人森野弁護士は「最終準備書面を出したいのでもう1期日入れてほしい」旨主張、対する神原弁護士は「本日結審で」と意向を示したため、裁判長はじめ右・左陪席は「合議します」と短時間法廷から裏に去った。

神原弁護士のツイート(2021年9月9日)

合議の結果は11月4日に期日が入ることになった。あれ? 神原弁護士、大阪から帰る新幹線の中(?)からも「圧勝」宣言をしていたけど、これは法廷内での「圧勝」なのか。

今回の「通信」では、原告・被告双方の証言内容に特別取材班は一切触れない。理由は藤井の証言の中に判決へ影響を及ぼすであろう、重大な内容が複数個所あったからである。読者諸氏には消化不良で申し訳ないが、法廷闘争を勝ち抜くために、わざわざ藤井が提供してくれた「リーサルウェポン」は11月4日まで非公開だ。

◆敗訴が続く神原弁護士の風体に驚いた

この日の神原弁護士は、上着の裾も、ズボンもしわだらけ。ズボンの中に押し込んだつもりのシャツは、無残にも上着を押し上げてはみ出していた(これまで多数神原弁護士の姿を傍聴席から見た人物によれば、「こんな姿は初めてだった」という)。反対尋問で松岡に近づいた際に「神原弁護士は息が上がっていて驚いた」と松岡は振り返る。

神原弁護士のツイート(2021年9月9日)

そして神原弁護士は松岡への反対尋問中、鹿砦社支援者であふれる傍聴席へ過度に神経質になってしまった。ただでさえ甲高い声をさらにヒートアップし、あろうことか裁判長に「今、傍聴席で発言した人がいました。退廷させてください!」と泣きつく始末。おいおい「圧勝」の名が泣くぞ。

閉廷後、鹿砦社支援者は法廷から廊下へ出たところへ、神原弁護士と藤井が出てきた。支援者の中から「神原先生、『リンチ事件はなかった』というウソのHPは消してください」、「弁護士は法律を守ってください」、「弁護士はウソをつかないで」とあちこちから声が上がった。これが「圧勝」の実態である。神原弁護士は「さらば大阪」と、ほうほうの体で川崎に戻っていった――。

このところ神原弁護士は敗訴が続いている。『週刊金曜日』植村隆社長の訴訟、対森奈津子訴訟控訴審、そして李信恵のリンチ事件への連座と「道義的責任」を認定した対李信恵訴訟控訴審(賠償金は減額されつつ付いたが実質的に李信恵敗訴である)……自称「左翼」神原弁護士の「正義は勝つ」という看板が汚されていく……。

前述の通り、次回期日は11月4日(木)11:30から今回同様大阪地裁本館809号法廷で開かれる。最終準備書面の提出が主とした内容になろうが、われわれは最後まで気を緩めず闘い続ける。皆様のご支援をよろしくお願いする次第だ。

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B07CXC368T/
鹿砦社 http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000541

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