米国CIAの別動隊とも言われるNED(全米民主主義基金)が、ロシアの反政府系「市民運動」やメディアに対して、多額の資金援助をしていることが判明した。

 

出典=ベネズエラのTelesur

NEDがみずからのウエブサイトで公表したデータによると、支援金の総額は、2021年度だけで1384億1074ドル(1ドル140円で計算して、約19億4000万円)に上る。支援金の提供回数は109回。

米国がロシア国内の「市民運動」とメディアに資金をばら撒き、反政府よりのニュースや映像を制作させ、それを世界に配信させている実態が明らかになった。ウクライナ戦争やそれに連動したロシア内部の政情を伝える報道の信頼性が揺らいでいる。ウクライナ戦争は、メディアと連携した戦争とも言われてきたが、その裏側の疑わしい実態の一部が明らかになった。

良心的なジャーナリストさえ情報に翻弄されている可能性がある。

NEDは、メディアを対象とした資金援助に関して、たとえば次のように目的を説明している。

▼高品質の調査ジャーナリズムに一般の人々がアクセスできる機会を増やすと同時に、そのような報道の存在を広く知らしめる。地域や国際機関による報告に焦点をあてた調査ジャーナリズムを遂行する。その目的を達成するために、デジタルコンテンツを作成する。

▼地域ジャーナリズムの発展を支援し、重要な政治や社会問題に関する独立したニュース源の分析結果を公衆に提供する。 コンテンツは、一般市民に影響を与える政治情勢の展開や人権侵害に対する市民活動などのトピックに焦点を当てたビデオ形式を含み、定期的にオンラインやSNSで発信する。

一方、ロシアの「民主化運動」に対する資金提供については、たとえば次のように目的を説明している。

▼活動家、政治家、公共思想のリーダーを繋ぐネットワークを強化し、ロシアの民主的発展のための国際支援を提唱する。 政治と時事問題に関する専門家による分析を実現する。 客観的で事実に基づいた報告とそれを裏付ける証拠は、(注:ロシア政府が)偽情報キャンペーンで使う中心的な筋書きを正すために使用する。 出版物を世に出し、著者と共に定期イベント、公開プレゼンテーション、各種の集会を開く。それにより、重要な発見事項をテーマとした公開討論を促進する。

▼ロシアの民主化運動を地球規模の連帯で促進する。ヨーロッパの政治家やオピニオンリーダーと活動家の間でネットワークを強化する。 国内の信頼できる独立した情報源を提供して、(注:ロシア政府の)プロパガンダに対抗する。

※以上の出典 https://www.ned.org/region/eurasia/russia-2021/

これらの資金援助の性質から察すると、「市民運動」が反政府運動を展開して、それをメディアが発信する共闘関係が構築されていると想定される。独立系メディアの独立性にも疑問符が付くのである。歪んだニュースが巧みに制作されている可能性が高い。

実際、NEDに関する白書類の中には、「市民運動」のメンバーにNED資金が日当として支払われているという情報もある。たとえば中国外務省が、今年の5月に公表したNEDについての報告(ファクトシート)は、ウクライナにおける「市民運動」について次のように報告している。

2013 年、ウクライナで大規模な反政府デモが起きた。その際にNED は多額の資金を提供して、国内で活動をしている NGOの65団体の活動家、一人ひとりに賃金を支払った。

NEDが絡んでいる国の「市民運動」や独立系メディアの情報は慎重に見極めなければならない。「市民運動」の資金源を確認する必要がある。

◆NEDとラテンアメリカ諸国

今回、明らかになったNEDによるロシアへの1384億1074ドルの援助額は、他諸国の反政府運動への資金援助に比べて桁はずれに多額だ。たとえば、下のグラフは、ラテンアメリカ諸国に対するNEDの支援額を示している。

ラテンアメリカ諸国に対するNEDの支援額

最も高額なのは、キューバの反政府勢力に対する支援で、470万ドル(2018年度)である。ロシアへの支援額1384億1074ドルはその金額の3倍近くになっている。

◆口実は、他国の「民主主義」を育てること

全米民主主義基金(NED)は、1983年に米国のレーガン政権が設立した基金である。表向きは民間の非営利団体であるが、支援金の出資者はアメリカ議会である。米国民の税金である。

NED設立の目的は、他国の「民主主義」を育てることである。親米派の「市民運動」や特定のメディアなどに資金を提供することで、親米世論と反共思想を育み、最終的に親米政権を設立することを目的としている。その意味では、ウクライナを舞台に展開している代理戦争の裏側で、メディアを巻き込んだこうした戦略が展開されていることに不思議はない。報道されていないだけで、米国による内政干渉の手はロシア国内に延びているのだ。

かつて米国の対外戦略は、軍事力による他国への軍事進行やクーデターを主体としていた。しかし、ベトナム戦争での敗北を皮切りに、その後も軍事作戦の失敗が相次いだ。民主主義に対する国際世論の高まりの中で、米国内でも軍事作戦が批判の的になり始める。そこで従来の直接的な軍事作戦に代って「代理戦争」に切り替える傾向が生まれ、さらにはNEDを通じた「市民運動」や独立系メディアの育成により、他国の内政を攪乱したうえで、クーデターなどを試みる戦略が浮上してきたのである。

NEDについて西側メディアはほとんど報じていないが、非西側諸国では、その行き過ぎた活動が内政干渉として強い反発を招いている。ロシアのケースも同じ脈絡の中で検証する必要がある。マスメディアの情報を鵜呑みしてはいけない。

◎[参考記事]米国が台湾で狙っていること 台湾問題で日本のメディアは何を報じていないのか? 全米民主主義基金(NED)と際英文総統の親密な関係 

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

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2014年に起きた「川崎老人ホーム連続転落死事件」では、同施設の介護職員だった今井隼人被告(29)が勤務中、80~90代の入所者3人を各居室のベランダから転落させ、殺害したとして一、二審共に死刑判決を受けた。しかし、無実を訴える今井被告は、現在も逆転無罪を諦めておらず、最高裁に上告中だ。

今井被告は本当にこの事件の犯人なのか。前編に引き続き、筆者が東京拘置所で今井被告と面会し、本人から聞き取った無実の訴えについて、事実関係に照らしながら紹介する。

◆自白が嘘なら、なぜ客観的事実に整合したのか?

今井被告の裁判の最大の争点は、捜査段階の自白が信用できるか否かということだ。

前編では、自白した理由に関する今井被告の説明には、とりあえず合理性があることをお伝えした。だが一方で、今井被告が自白した取り調べは録音録画されており、しかもその自白内容は客観的事実とよく整合している。

たとえば、仲川さんの事件について、今井被告は「仲川さんの部屋にあったパイプ椅子をベランダに持ち出し、その上に仲川さんを立たせたうえで転落させました」と自白しているが、実際に4階のベランダにはパイプ椅子が転がっていた。今井被告が本人の主張するように本当に無実なのであれば、なぜ、このような客観的事実と整合する自白ができたのか。

筆者がその点を質すと、今井被告は指を2本立て、「このような自白になった理由は2つあります」と言い、こう説明した。

「1つは、勤務中に仲川さんの部屋に入ることもあり、室内にパイプ椅子があったのを覚えていたことです。そしてもう1つは、仲川さんが亡くなった際に第一発見者に呼ばれ、ベランダに行って下を見た時、視界に“椅子っぽい物体”が入っていたことです。それで、取り調べでは最初、『仲川さんを“茶色い木の椅子”に立たせました』と供述したのですが、刑事に誘導され、最終的に『黒っぽいパイプ椅子に立たせました』と供述したのです」

この今井被告の説明については、納得しかねる読者もいるだろう。しかし、無実の被疑者がやってもいない容疑を自白する場合、自分が知っている情報をもとに「自分が犯人だったらどうするか」と想像しながら、やってもいない犯行を供述するのが一般的だ。今井被告の話は、冤罪における虚偽自白でいかにもありそうな話ではある。

一方、1人目の被害者・丑沢さんについて、今井被告は「丑沢さんを転落させた際には、丑沢さんの手を持ち、ベランダの柵に手をかけさせた」と自白している。そして実際、ベランダの柵には丑沢さんの指掌紋が付着しており、自白の内容がやはり客観的事実に裏づけられた形となっている。

今井被告はこの点について、こう説明した。

「僕は、丑沢さんが亡くなった時、警察の人たちが現場を調べていたのを見ていたのです。その時、『捜一』という腕章をした人がベランダの柵にポンポンと白い粉をつけていたので、丑沢さんの指掌紋がベランダの柵についていることがわかりました。それに合わせて、そういう自白をしたのです」

さらに今井被告はこう説明した。

「僕の自白は、犯人でなければ知りえない秘密の暴露はなく、供述心理学者の鑑定でも『犯行を体験していない可能性が高い』と判定されています。僕の自白は、あの施設の介護職員なら誰でも語れる内容なのです」

実際、一、二審判決を見ても、今井被告の自白の中に「秘密の暴露」にあたる供述があったとは示されていない。今井被告の話には、無下に否定しがたい説得力があるのは確かだ。

今井被告が収容されている東京拘置所

◆犯行予告のような発言をしたされる件の真相

ただ、裁判では、今井被告について、他にも怪しげな事実が示されている。

1人目の被害者・丑沢さんが亡くなった後、今井被告が同僚に対し、2人目の被害者・仲川さんや3人目の被害者・浅見さんが亡くなることを予見するような発言をしていたというのだ。

今井被告はこの点について、こう説明した。

「丑沢さんが亡くなった後、僕は再発防止のため、ベランダに防犯カメラをつけたり、柵を高くしたりすることを提案しました。それと共に自殺願望のようなことを口にしている危ない入所者の名前を4、5人挙げ、対策が必要だと言っていたのです。そのように名前を挙げた中に仲川さんと浅見さんもいたのです」

この今井被告の主張については、にわかに信じがたい読者もいると思われる。だが、よくよく考えると、仮に今井被告が犯人だとすれば、事前に犯行を予告するようなことを言い、疑われるリスクを高めるほうがむしろ変な話だ。

実際、一、二審判決を見ると、今井被告の主張を裏づける事実も示されている。浅見さんは事件前に「もう死にたい」「早く殺して」と口走っていたことが判明しており、丑沢さんも転落死する前、帰宅願望が高まり、「家に帰りたい」と言っていたというのだ。

これらの事実は、今井被告の主張を裏づけるのみならず、被害者たちが自ら転落死した可能性があることを示しているようにも思われる。

◆家族にも自白したのはなぜか?

もっとも、今井被告には、他にもまだ不利な事実がある。それは、警察に犯行を自白後、母親と妹にも罪を認める発言をしていることだ。

この点について、今井被告はこう説明した。

「母と妹に罪を認めたのは、取り調べの延長線上でのことです。警察で自白後、刑事から取り調べで話したことを母と妹にも話すように言われ、『やっていない』とは言えなかったのです。『やっていない』と言えば、刑事が機嫌を損ね、マスコミから守ってもらえなくなり、取り調べも元に戻ってしまうと思ったからです」

前編で既述した通り、今井被告は逮捕前からマスコミに追いかけ回され、「疑惑職員」と報じられたりもした。そして今井被告によると、刑事から「警察がマスコミから母ちゃんと妹を守ってやるから」と言われ、迎合してしまったことが、身に覚えのない罪を自白した理由の1つであるとのことだった。とりあえず、説明の辻褄は合っている。

だが、自白したら死刑などの重い罪になることはわからなかったのか? そう質すと、今井被告は、こう答えた。

「自白した時は、そこまで深く考えられませんでした。死刑とか、そういうことは思い浮かばなかったのです」

では、今井被告にとって、母親と妹はどのような存在だったのか?

「大切な存在です。うちは父親がいなかったので、僕は自分が家の長として2人を守らなければいけないと思っていました」

◆窃盗事件の被害者への思い

最後に、今井被告本人が聞かれたくないだろうことを突っ込んで、聞いてみた。

―― 今井さんは、どんな思いで介護の仕事をしていたのですか?

「僕が介護職員になったのは、祖父母を介護した経験が役に立つと思ったからです。実際、仕事は大変でしたが、人に感謝される仕事なので、やりがいはありました。被害者の方が亡くなった時はショックで、もうこういうことがないようにしたいと思っていました」

―― ただ、今井さんは、入所者から現金や貴金属を盗んでいた。そして、その盗んだ金で同僚におごったりしていたそうですが、なぜ、そんなことを?

「見栄を張りたかったんだと思います」

―― 窃盗の被害者の人たちへに対して、今、どんな思いを抱いていますか?

「申し訳ないことをしたと思います。示談が成立した人もいますが、人の気持ちはお金で買えません。取り返しがつかないことをしたと思っています」

終始堂々としていた今井被告だが、この時は殊勝な面持ちだった。ただ、答えをはぐらかすような様子はなく、正直に話している印象を受けた。

今井被告の冤罪の可能性については、今後も検証を続け、当欄でも報告させて頂きたいと思う。(完)

◎冤罪を訴え、最高裁に上告中 ──「川崎老人ホーム連続転落死事件」死刑被告人との対話
〈前編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44047
〈後編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44051

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。編著に電子書籍版『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(鹿砦社)。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ[電子書籍版]─冤罪死刑囚八人の書画集─」(片岡健編/鹿砦社)

党綱領を自ら否定した自民党は即時解散せよ 岸田内閣改造人事の真相 月刊『紙の爆弾』2022年10月号

安倍元首相国葬前の9月23日、広島1区発で「安倍晋三さんは、介護現場に何をしたのか?」を検証するオンラインおしゃべり会が筆者のよびかけで開催されました。

なお、この日は、リアルでも「総がかり行動」主催で、安倍晋三さんの国葬を中止するよう求めるデモが原爆ドーム前から岸田総理の事務所の前まで実施されています。

岸田総理は、国葬の理由として、安倍さんが憲政史上最長の総理であったことをあげておられます。しかし、在任期間が長いということは、それだけ、悪いことについても責任が重いということです。そのことについてもきちんと検証することが、本当の意味での「追悼」ではないでしょうか?

◆筆者から安倍晋三さんへの「追悼の言葉」―― 介護破壊の悪行三昧

まず、20時のオンラインミーティングの開始から、20分ほど、筆者(介護福祉士・元広島県庁職員=元介護保険担当)から問題提起と称する故・安倍晋三さんへの追悼の言葉をおくらせていただきました。

以下はその要旨です。

介護保険導入は2000年4月であり、介護保険が発足してからの22.5年のうち、介護保険発足から約22.5年のうち、4割弱の約8.7年が安倍晋三さんの総理だった期間である。きわめて大きな影響、それも悪い影響を与えた総理大臣で言わざるを得ない。介護の社会化が大義名分だった介護保険だが、利用者負担増でそれが揺らぎ、一方で、我々介護労働者の給料労働条件は劣悪なままだ。

第一次安倍政権(2006年9月-2007年9月)において、安倍さんは2007年参院選では「KO負け」し、短命政権に終わり、大きな影響はなかったとも言える。これにより、民主党が躍進し、2009年介護報酬改定(麻生太郎政権)では、我々介護労働者について一定程度の処遇改善加算制度が導入されるきっかけになった。言い換えれば自民党が民主党の政策を模倣した結果だ。

その3年後の2012年度の介護報酬改定は、民主党政権下で行われることになった。民主党は、マニフェストで介護労働者の大幅給料アップを掲げていた。しかし、東日本大震災からの復興財源調達を理由に、自民党政権以上の改善はされず、介護労働者の失望を買った。民主党は、震災復興財源の調達のため、公務員=旧社会党=総評時代から支持基盤も失った。古い基盤も新しい支持者も失い、民主党は自滅。安倍晋三さん、あなたは政権に返り咲いてしまった。

2012年末、政権に返り咲いたあなたは「消費税増税は全額社会保障に使う」と約束し、2014年10月に5%から7%に税率を引き上げた。当時、新人の介護労働者だったわたしは、「これで俺の給料は上がる」と喜んだが、あなたを信じたわたしが愚かだった。あなたは、2015年度から介護報酬を引き下げた。当時のわたしの勤務先の老人ホームの社長は、「消費税増税でモノも値上がりし、経営が苦しくなる。報酬も下がる。覚悟しておけ」と訓示した。こうした介護業界の苦境により、多くの仲間が現場を去った。利用者側はこの年度から一部に2割負担が導入された。サービスの利用控え圧力が進んだ。ここだけの話だが、2割負担を回避するために、名目上離婚されたとみられる方も存じている。

あなたは、2015年9月の自民党総裁選挙で「介護離職ゼロ」を掲げた。家族の介護のために仕事を辞めることに追い込まれる人をなくすということだ。それ自体は結構だが、あなたのやった利用者負担増などはそれに矛盾している。

2018年度の介護保険法改定では、2割負担の対象を拡大し、3割負担も導入した。そもそも、お金持ちとも言えない人から過剰に負担を求めすぎているのではないか?もしお金持ちに負担を求めるなら、税金をしっかり負担いただくのが筋だろう。

2018年末、あなたは、入管法改定で特定技能制度を導入した。日本人で介護労働者になる人が足りないからと言って、外国人を呼び込もうという安易な考え方だ。2022年現在、わたしの勤務先の中には、外国人の時給を日本人より高めに設定している介護施設経営者もおられる。日本人がやりたくない仕事を外国人はやりたがるとどうして安易に思えたのか?いまや、円安は進み、給料を上げないともっと外国人労働者も来てもらいにくくなるだろう。

2019年介護報酬改定(臨時)をあなたはおこなった。介護職員等特定処遇改善加算を設置したが、対象が非常に狭く実効性が薄いと言わざるを得ない。

2020年に新型コロナ禍が勃発し、ただでさえ人員不足で厳しい介護現場に追い打ちをかけた。あなたは、介護職員に5万円の慰労金は出した。菅、岸田政権では同様の措置はなかったから、この点はまだ「より少なく悪かった」かもしれない。あなたは、その年の9月に退陣した。そして2022年7月8日、山上徹也被疑者の凶弾に斃れたのである。

安倍晋三さん、あなたは無責任極まる男だ。しかし、あなたの応援でいま総理になっている岸田さんがましか?と言えばそうとも言えない。岸田さんは我々介護労働者の給料アップをしてくれたが、3%としょぼい。物価上昇、最低賃金/他業界の給料アップも加味すれば人手不足解消効果はないのではないか?一方で、岸田政権はIT化による人員基準の緩和などを検討している。しかし、例えば、夜勤帯でどれだけ削減できるのか? とくにコロナのもとでは怖すぎる。

また、岸田さんは、給料アップを2022年10月以降は介護報酬で賄うという。これは利用者負担増につながり、それを恐れて給料改善をやらない事業者も出る恐れがある。そもそも、介護保険の在り方に無理があるのだ。資本の論理と福祉は両立しないのではないだろうか。

安倍晋三さんのでたらめを忘れないとともに、岸田さんへの批判を強めないといけない。

安倍晋三さんが事実上票の差配までしていた旧統一協会が介護現場に与えた影響も指摘しなければならない。男尊女卑と緊縮財政が旧統一協会信者の主張の特徴だ。男尊女卑を前提に家族ですべての責任を負え、というのが基本的なスタンスだ。山上徹也被疑者も旧統一協会の男尊女卑に腹を立てていたという。

男尊女卑と緊縮財政が組み合わされば、ケア労働者の低賃金になる。「こんなのは女のやることだから」と低い給料にされたのだ。そして、利用者負担増で社会化に逆行することになるのだ。

この「問題提起」(筆者の追悼の言葉)を受けて、残りの時間で参加者に自由に意見を交換していただきました。

◆自民党べったりの介護経営者に苦労 ―― 四国地方の女性労働者

四国地方の介護福祉士の女性Aさんは、くしくも安倍晋三さんの地元の山口県出身でもいらっしゃいます。この女性は、ご両親の介護のため、近く退職されるとのこと。この方は訪問介護に従事されています。自民党のべったりの法人で、自民党政治家の活動に動員されるということです。それでも、福利厚生は充実していたが、安倍政権の介護報酬引き下げで、福利厚生も削られ、職場はぎすぎすしていづらい状況になっているということです。

筆者からは「自民党県議・市議らが理事長でなおかつ悪徳な社会福祉法人は全国に多くあった。NHKも含めてそれをマスコミも糾弾した。ただ、当時の安倍政権はそれも悪用して、介護報酬カットへの雰囲気づくりをしていたように見受けられる。その結果は現場の労働者が苦しむだけになっている。」と「悪徳法人が介護報酬カットに悪用されて労働者が苦しむ」構図への憤りの感想を述べさせていただきました。

◆統一地方選で「地方議員兼悪徳法人経営者」の打倒を!

また、関西地方の30代男性Bさんからは、こうした自民党べったりの法人が多い状況に驚愕したと感想をいただきました。この男性からは「こういうことを共有化していかないといけないと思った。」とご感想。

筆者は「ただし、こうした法人の存在をもって介護報酬カットに悪用されたらたまらない。それよりもこうした県議・市議兼悪徳法人経営者という方は、選挙で有権者が打倒すべきだと思う。統一地方選は大事だ。」と回答させていただきました。

◆「反共」で教条的な緊縮財政の「旧統一協会」

四国在住の女性Cさんからは「なぜ、旧統一協会は緊縮財政なのか?」とのご質問をいただきました。

筆者は「『反共』がキーワードだと思う。かつては保育園を増やす政策を取った美濃部東京都知事に対して、統一協会ズブズブの人間を旧民社党が刺客として送り込んだこともある。庶民のための財政支出を共産主義と決めつけて否定するのが統一協会の信者の方には多い。」と筆者の経験上と断りをいれつつ回答させていただきました。

◆年々増加する利用者負担

四国の介護福祉士女性Aさんからは、介護報酬本体以外に、いろいろな加算が取られるようになり、低所得者の負担も増えている、と指摘がありました。

筆者からも「利用者負担増では、今後は、例えば、孫世代に介護負担が行く恐れがある。昔は嫁=母親でもある=におしつけられていたが、そうはいっても昔よりは男女平等が進む中で、嫁=母親に行かない=ぶん、孫に押し付けられ、ヤングケアラーがさらに増える恐れがあるのではないか。昔のように嫁へ押し付ける男尊女卑は論外として、若い人が過剰に介護にエネルギーを取られるのも報道されている通り、まずい。実際、大学生とか、新社会人くらいの孫が介護をされているケースは、わたしもだんだん目にするケースが増えている。本当は(社会人として仕事をおぼえることも含めた)勉強にもっと集中したほうがいいのだが、おっさんが余計な世話を焼くのもどうかとおもい、隔靴掻痒だ。」とヤングケアラー増加への懸念を示しました。

◆仕事に対して報酬が低すぎる

東北地方の看護師女性も「看護も介護も仕事に対して給料が少なすぎる。」と訴えます。やはり欧州のように公営でやるほうが望ましいとおっしゃいます。

広島市内の別業界の会社員男性も「介護労働者の友達がいるが、昔は看護師がやっていたようなことも、専門知識がそこまでない介護士がやっている。入所者を最後まで看ることも多くなり、精神的に厳しいと思う。やはり、給料の引き上げは必須だと思う」とおっしゃいました。

◆「少子化対策」より「まず、安心」を

また、高齢者が増える中で少子化をなんとかしないと難しいのではないか?というご意見もいただきました。

これについて筆者は「ただし、日本の場合は、高齢者も多く働いている。この点が欧州とは大きく違う。コンビニでも工事現場でも、各種派遣労働者でも年金が少なく働かざるを得ない人がたくさんいる。高齢者を悪者にするのもまた誤りではないか?」と指摘したうえで「環境破壊をせずに一人当たりの豊かさをふやすチャンスでもある。問題は、人口が減るのに、まだ山を開いて大型商業施設や住宅地をつくったりする行政の在り方ではないか? いますぐ子どもがふえたとしても、労働力になるのに時間がかかるので、人口減少を前提に、新規開発はやめて土砂災害警戒区域からはむしろ撤退し、そこで平時は食料をつくるなどの方向も必要ではないか?」と提案しました。

そして「大阪維新の会は高齢者を悪者にして子育て支援重視を言っているが、これも、実際には奴隷であるところの子どもがほしいだけ。自分に反抗的な意見を言った高校生を橋下徹さんは泣かせている。それが維新の本質だ」と維新をばっさり切り捨てました。

また、山口県の女性からも「労働条件も悪い、教育を受けたら借金を背負うこんな国で、子どもを産んだらむしろ子どもがかわいそうだ。まず、教育や労働条件の改善などをする方が先ではないか?」とのお話をいただきました。

◆「チャレンジ」の前に「安心」を

広島県内の女性からは、筆者に対して政治家として何をまず取り組みたいか?とのご質問をいただきました。

「前回、2011年、河井案里さんと対決した県議選立候補時に掲げた公約のうち、まだ実現していない介護する家族を支援する条例(ケアラー支援基本条例)」をぜひ実現したい。特に広島県内は、なぜか女性の健康寿命が短く、男性が妻の介護をするケースも多く拝見する。ある一定年齢以上の男性の方はそうした中で追い詰められる場合も多い。また、ヤングケアラーや、逆に親御さんが高齢になった後、障害をお持ちのお子さんをどうするかという問題など、課題も複雑化している。2011年時点ではわたしが広島でも最初に提案したが、今回はぜひ、実現したい。」

「現知事は高速道路5号線二葉山トンネル問題について、教育長はご自身の疑惑について木で鼻を括ったような対応で、安倍晋三さんうり二つになりつつある。他方で、ご両人とも政策の中身も、保守的な広島県の風土へのいら立ちはわかるが、無理やりアメリカ的なものを押し込もうとしてうまくいっていないように見られる。基本的なニーズが満たされない中でアメリカ的なチャレンジを煽られても、ついていけない県民も多いと思う。」と指摘。

「まずは、安心を県民に。その上でチャレンジだ。知事も教育長もアメリカ的な方向に傾いている中では、安心重視の議員がもっと議会に必要だ。」
と力を込めました。

国葬反対署名の報告も国葬反対署名に取り組む広島市内の20代男性からは、国葬反対署名を3115筆集めて内閣府に提出したことが報告されました。その上で、今後は「奨学金チャラ」の署名活動を進めることが報告されました。

筆者からは「介護現場でも、例えば機能訓練指導員で資格を取るために大学や専門学校に行き、奨学金返済を抱える若者が多くいる。奨学金チャラにもぜひ取り組もう。」と呼びかけさせていただきました。

◆安倍政治の問題点を忘れぬとともに地元から遠慮なく岸田政治をただそう

安倍晋三さんの国葬で安倍晋三さんの問題点を覆い隠すことは許されません。在任期間が長いからこそ影響力も大きい。だから、きちんと検証すべきです。今回は東北から四国まで広い範囲のみなさんのご参加で安倍晋三さんの問題点を検証できました。ご参加ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

それとともに、岸田さんもかならずしも「安倍さんよりまし」とも言えない実態も浮き彫りになってきました。きちんと地元・広島からこそ、遠慮なく岸田政治もただしていかなければなりません。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

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◆同情を禁じ得ないショボさ

国論を二分、いや反対多数のなかで安倍国葬儀が行なわれた。

連日にわたって渋谷や新橋で、あるいは新宿でくり広げられてきた国葬反対デモの総決算。国葬儀それ自体の過剰警備による痛々しさを、警察都市化した東京の現場から、国葬の惨状をレポートする。

直前の毎日新聞の世論調査(9月17~18日)では、賛成27%、反対67%。産経新聞社とFNNの合同世論調査(17~18日)でも、賛成31.5%、反対62.3%であった。岸田首相の国会での説明に「納得できない」と答えた人は72.6%(産経新聞調査・NHK調査も72%)にのぼっている。

単に保守系ではなく、右翼系の新聞とされる「産経新聞」でこれなのだ。これだけで、国民の圧倒的多数が「国葬反対」「納得できない」であることがわかろうというものだ。国葬などせずに、身内だけでひっそりと送っていれば、故人もここまで恥をかくことはなかったはずだ。

◆G7首脳の出席も、ゼロになった

期待された「弔問外交」も、いっそう寂しいものになった。出席を表明していたカナダのトルドー首相が、ハリケーンの被害対策で急遽欠席することになったのである。

岸田文雄総理にとっては大きな誤算であろう。岸田氏は安倍氏の国葬の意義に弔問外交を前面に押し出していたが、G7の首脳ではトルドー氏だけが出席を表明していた。そのトルドー氏も来なかったのだから。

ツイッターでは「これはしゃあない」「自国の災害対応が優先ですからね」と欠席に理解を示す意見もあれば、「言い訳かもね。行っても意味ないと気付いたのかも」「プーチンでも呼んだらいいのでは」「日本も台風被害対応のため中止にしたらいいよ」と冷ややかな書き込みもあった。(東スポWEB 2022/09/25)

海外での報道を紹介しておこう。

「暗殺された指導者の国葬に日本国民が怒る理由」(米ニューヨーク・タイムズ)
「安倍国葬 なぜ英女王の国葬よりもコストがかかるのか話題に」(英BBC)
「安倍国葬、なぜ日本は分断しているのか」(ロイター)
「岸田首相、安倍国葬を決めて人気急落」(英フィナンシャル・タイムズ)

まさに、驚きをもって報じられているのだ。

◆党内からの猛批判

国葬反対という位相にもさまざまなものがあるが、ここでは自民党内からの批判を挙げておこう。というのも、安倍元総理の実績を「国賊」とまでこき下ろす、閣僚経験のある自民党議員がいるからだ。

自民党の村上誠一郎元行革相は9月21日、朝日新聞の取材に対して安倍元総理の国葬について「そもそも反対だ。出席したら(国葬実施の)問題点を容認することになるため、辞退する」と述べ、参加しない意向を明言した。

村上元行革相は不参加の理由について「国葬に納得できないため」と説明したうえでこう主張する。「安倍氏の業績が国葬に値するか定かではないうえ、国民の半数以上が反対している以上、国葬を強行したら国民の分断を助長する」と。そして「こうしたことを自民党内で言う人がいないこと自体がおかしなこと」と語ったのである。

さらには安倍元総理の政権運営についても「安倍氏は財政、外交をぼろぼろにし、官僚機構を壊したとの見方もあり、その責任は重い」「財政、金融、外交をぼろぼろにし、官僚機構まで壊した。国賊だ」などと、安倍元総理を批判していた(9月20日)。まさに歯に衣着せぬ、とはこのことである。

国民を分断すること(批判勢力を叩く扇動政治)で、際立った政治焦点をつくり出した宰相。カルト教団と結託することで選挙に勝ってきた政治家の、末期の評価がこれなのであろう。

◆荘厳だった英女王の国葬

国葬それ自体の問題点(法的根拠がない)はともかく、王室の一大儀典を見せられたわれわれは、日本の文化的貧困をも思い知らされた。エリザベス女王の国葬である。あまりにも荘厳なものだった、と同時に世界が見送る儀式であった。

もちろん、英連邦から離脱の要求や動きもあり、女王自身の治世が大英帝国の宗主国としての位置からのリタイヤ。それにともなう植民地支配の暗い記憶からのフェイドアウト、癒しを必要とするものだった。その意味では、帝国主義支配の過酷な歴史と向かい合い、

女王の国葬は黙とうの後、国家斉唱とバグパイプ奏者による演奏で終わった。チャールズ国王やウィリアム皇太子などイギリス王室をはじめ、世界中から2000人が参列した葬儀の最後には、歌詞を「ゴッド・セイブ・ザ・キング」に変えて国家斉唱が行われた後、女王専属のバクパイプ奏者が「スリープ,ディアリー,スリープ」を演奏した。これは女王の遺言だったという。

国葬が行われたウェストミンスター寺院からウェリントン・アーチまでは、宮殿近衛兵の警護による行進だった。経由したバッキンガム宮殿ではスタッフが外に並び棺を見送った。さらに棺は霊柩車に移され、国歌が演奏される中埋葬場所のあるウィンザー城へ向かった。女王の子供達であるチャールズ国王、孫のウィリアム皇太子とヘンリー王子は徒歩でその行進に参加した。

◎[関連記事]エリザベス女王追悼と安倍国葬 元総理の業績と予算への疑義(2022年9月11日)

◆わずか数十名で棺を警備したイギリス近衛連隊

注目したいのは、外縁部ではともかく沿道の一般国民の見送りはフリーハンドで、女王の棺を宮殿近衛兵連隊(数十人)がすぐ近くで歩きながら護り、行進を妨害できないようにしていたことだ。

わが国では安倍国葬儀にかかる費用が、16億5000万円と発表されている。そのうち警備費用が8億円(延長勤務手当5億円・派遣旅費3億円)、外国要人の接遇費(車両手配や空港の受入体制)が6億円である。動員される警察官は2万人だという。イギリスの国葬のように、数十人で核心部は護れるのではないか。

国葬の数日前から行なわれている検問(何の意味があるのか?)、要人送迎にはワンレーンだけ確保すればいいのに、全面通行止めにする意味不明の交通規制。過剰警備のあり方を見直すべきではないか。当日(27日)の重警備の実態をお伝えしよう。

◆9.27 東京フォトレポート

けっこうな暑さでした。暑さ寒さも彼岸までと言いますが、まだまだ続くようで。本日も酷暑なり。

無党派をふくむ左派系の集会、300人程度。明大駿河台校舎裏の錦華公園、ここは神奈川県警の警備でした。ここを取材したあと九段下に向かいましたが、内閣府のピケット隊が「一般献花はあっちにまわれ!」で、靖国神社側へ。
 

この向こうが武道館。靖国通りは警察車両(借り上げのレンタカー「わ」ナンバー)。が車列をなす。車内は休憩場所を兼ねているようでした。つまり8億円の大半は、警察官への手当とレンタカー代だったわけだ。
 

一般献花の会場は、武道館をおおきく迂回した千鳥ヶ淵。長蛇の列に、献花台の写真取材は断念(待ち時間3時間)。
 

大音響のサウンドデモは、さすがに効果があって坂の上まで響いてきました。地方からの参列者も音響にビックリ。
 

九段下、にぎやかでした。このあと、献花用の花をDバッグに入れていたのが目立って、NHKの取材をうけました。自転車用のヘルメットで「安倍さんも苦労してきた方ですから花で送ってあげたい」とか言いながら「国葬儀には反対です」「警察警備がグロテスクで、英王室の国葬には遠く及ばない」「カネをかけすぎ」というのがニュースで映ったら、わたしです。
 

ヘルメットのデモ隊列も、老人が多かった……。
 

国葬儀開催の午後2時から、国会正門前で「そうがかり行動」の集会。こちらは日共系の労組も参加で数千人。

 

 
◆未確認、某重大事件 「ミスタープロ野球、心肺停止」の報

最後に、安倍国葬儀の陰で、まさに陰に隠された国民的な重大事をお知らせしておこう。

公表されていれば、国葬にすべきとの議論が起こったであろう、国民的なスーパースターの「逝去(心肺停止)」にかんする情報である。

まだ公表されていない、その意味ではオフレコ情報に属するものだが、ジャーナリストの山岡俊介氏によれば、警視庁関係者からの情報として、ミスタープロ野球こと長嶋茂雄氏の病状が「心肺停止」であると判明したという(山岡氏のSNS参照)。

事実であれば、ご快癒を祈りたい。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2022年10月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年秋号(NO NUKES voice改題 通巻33号)

赤色に錆び付いた人事制度の弊害。人脈社会の腐敗。それを彷彿させる事件が、琵琶湖湖畔の滋賀県大津市で進行している。

 

新理事長に就任する河内明宏医師(出典:九州医事新報)

大津市の佐藤健司市長は、9月9日、大津市民病院の次期理事長の名前をウェブサイトで公表した。新理事長に任命されるのは、滋賀医科大付属病院の泌尿器科長・河内明宏教授である。河内教授の理事長就任は、今年の6月に既に内定していたが、今回、任命予定者として公開されたことで、近々、公式に理事長に就任することが確実になった。任期は、2022年10月1日から25年3月31日である。

デジタル鹿砦社通信でも報じてきたように、河内教授は滋賀医科大病院の小線源治療をめぐる事件に関与した当事者である。はたして公立病院の理事長に座る資質があるのか、事件を知る人々から疑問の声が上がっている。

佐藤市長に対して、新理事長選任のプロセスを公開するように求める情報公開請求も提出されている。

◆滋賀医科大付事件の闇

小線源治療は、前立腺がんに対する治療法のひとつである。放射性物質を包み込んだシード線源と呼ばれるカプセルを前立腺に埋め込んで、そこから放出される放射線でがん細胞を死滅させる治療法だ。1970年代に米国で始まり、その後、日本でも今世紀に入るころから実施されるようになった。この療法を滋賀医科大の岡本圭生医師が進化させ「岡本メソッド」と呼ばれる高度な小線源治療を確立した。

【参考記事】前立腺癌の革命的な療法「岡本メソッド」が京都の宇治病院で再開、1年半の中断の背景に潜む大学病院の社会病理

この岡本メソッドに着目したのが、放射性医薬品の開発・販売を手掛けるNMP社だった。NMP社は、岡本メソッドを普及させるために2015年、滋賀医科大付属病院に寄付講座を開設した。講座の指揮を執るのは、岡本医師だった。

ところがこれを快く思わない医師がいた。泌尿器科長の河内明宏教授である。河内教授は、寄付講座とは別に泌尿器科独自の小線源治療の窓口を開設し、前立腺がんの患者を次々に囲い込んだ。そして部下の成田充弘准教授に患者を担当させたのである。

 

滋賀医科大事件を記録した『名医の追及』(黒薮哲哉著、緑風出版)

しかし、成田准教授には、小線源治療の実績がない。専門は前立腺がんのダビンチ手術で、小線源治療は未経験だった。それを憂慮した岡本医師が、成田医師による手術を止めた。幸いに塩田学長も未経験者による手術のリスクを察して、河内教授らの計画を中止させた。

河内教授は計画がとん挫したことに憤慨したのか、岡本医師を滋賀医科大から追放するために動き始める。水面下で河内教授が取った行動は不明だが、松末病院長と塩田学長は、なぜか小線源治療の寄付講座の閉鎖を決めた。その結果、岡本医師の治療の順番待ちをしていた98名の前立腺がん患者が混乱に陥ったのである。

寄付講座の開設に際して、河内医師には関連する公文書を偽造した疑惑がある。寄付講座の人事を決める際に、みずからの息がかかった成田医師を幹部として送り込むことを企て、「岡本」の三文判を使って、人事関連書類を偽造したのである。岡本医師が成田准教授の寄付講座への抜擢を承諾したかのように工作したのである。

書類の偽造に気付いた岡本医師は、弁護士を通じて河内教授を大津警察署へ刑事告訴した。大津警察署は、2020年8月21日に河内教授を大津地検へ書類送検した。地検の取り調べを受けた河内教授は、公文書偽造の責任を部下の2人の女性に押し付けたらしく不起訴となった。地検は、2人の女性に非があると結論づけたようだが、不自然きわまりない。

さらに河内教授は、岡本医師の医療過誤を探すために、無断で岡本医師の患者の診療録を閲覧していたことも分かっている。

◆佐藤市長、「地域医療に精通している方であると判断」

滋賀医科大病院の事件を知る大津市民からは、河内教授の理事長就任について、人選に問題があるのではないかとの声があがっている。

「有印公文書偽造という汚点を持つ医者は、全国を探してもそんなにいないと思います。市役所でも、他人のハンコを使って文書を偽造したとなれば、処分を受けます。しかし、河内教授は、何のお咎めを受けることもなく、理事長に就任するわけです。その合理的な理由がまったく分かりません」

大津市のウェブサイトに掲載された「任命理由」は次のようになっている。

地方独立行政法人市立大津市民病院(以下「市民病院」という。)は、平成29年4月から地方独立行政法人として病院運営を開始し、現在、第2期中期目標期間(令和3年度から6年度までの4年間)において中期計画に掲げる目標達成に向けて取組を進める一方で、新型コロナウイルス感染症に対応する病院として、大津保健医療圏域のみならず滋賀県下の多くの重症例に対応するなど、公立病院としての責務を果たしながら病院運営を行っています。

河内明宏氏は、平成25年から滋賀医科大学の教授として医師の人材育成や研究などで長く滋賀県内の医療に携わってこられました。理事長の選任を進める中で、県内の複数の医療関係者から河内氏の名前が挙がったことから、滋賀医科大学をはじめ医療機関等と信頼関係を醸成され、地域医療に精通している方であると判断しました。

これまでの経歴を生かし、院内外における調整能力を発揮するとともに、自身の専門である泌尿器科をはじめとする医師確保を図っていただけることを期待して、理事長として任命するものです。

◆人脈重視の社会

河内教授の理事長就任の件でも明らかなように、要職にある人物は、不祥事を起こしても、負の影響を受けないことがままある。そして再び平気な顔で要職に就く。それは医療界だけではなく、政治界でも、学術研究界でも同じである。論文を盗用しても学者として生きられる。仲間から批判されることもない。お互いにかばい合う。実績よりも、人脈で世渡りを続ける土壌が日本にはあるのだ。

大津市民病院の人事騒動は、日本社会の前近代的な実態を露呈している。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

2014年に起きた「川崎老人ホーム連続転落死事件」では、同施設の介護職員だった今井隼人被告(29)が殺人罪に問われ、一、二審共に死刑判決を受けた。しかし、無実を訴える今井被告は、現在も逆転無罪を諦めず、最高裁に上告中だ。

筆者は、今井被告が本当にこの事件の犯人なのか疑問を抱き、今年の春頃から検証を始め、今井被告本人とも東京拘置所で計4回面会し、手紙のやりとりをしてきた。この取材を通じ、今井被告の冤罪の可能性は無下には否定できないと思うに至った。

前後編2回に分け、事実関係に照らしながら今井被告の無実の訴えを紹介したい。

◆事件のあらましと今井被告の第一印象

まず、事件の経緯を簡単に整理しておく。

事件が最初に世間の耳目を集めたのは2015年9月のことだった。前年(2014年)11、12月、川崎市の有料老人ホーム『Sアミーユ川崎幸町』で80~90代の入所者3人が4階と6階のベランダから転落死し、神奈川県警が捜査していると報道されたことによる。

それに伴い、同施設では、職員が入所者を虐待する事件や、職員が入所者から現金や貴金属を盗む事件が起きていたことも表面化。そのうち、盗みをはたらいた職員は、当時から転落死事件との関連を疑われてマスコミに追いかけ回され、週刊誌に「疑惑職員」と報じられたりもした。それが、当時23歳の今井被告だった。

翌2016年2月、神奈川県警は今井被告を殺人の容疑で逮捕。その決め手は、県警の任意調べに対し、今井被告が「被害者たちをベランダから投げ落とした」と“自白”したことだった。

その後、今井被告は裁判で自白を撤回し、無実を主張した。しかし、2018年3月、横浜地裁の裁判員裁判で入所者の丑沢民雄さん(事件当時87)、 仲川智恵子さん(同86)、浅見布子さん(同96)の3人を各居室のベランダから転落させ、殺害したとして死刑判決を受ける。そして、二審・東京高裁でも無実の訴えを退けられ、現在は最高裁に上告中という状況だ。

筆者が今井被告と初めて東京拘置所で面会したのは、今年4月初旬のことだった。今井被告はこの日、深緑色の長袖Tシャツを着た姿で面会室に現れた。

「頂戴したお手紙は届いています。同封されていた雑誌の記事のコピー、郵便書簡もありがとうございます」

今井被告は、落ち着いた口調でそう言った。坊主頭で、セルフレームの眼鏡をかけており、風貌は真面目そうな印象だ。体格は報道のイメージより大柄に感じられ、年齢のわりに物腰は堂々としていた。

◆取り調べで自白した理由

事前に取材の趣旨は手紙で伝えてあったので、筆者は今井被告に対し、単刀直入に質問した。

「本当に無実なら、なぜ一度、自白したのですか?」

今井被告は指を2本立て、「僕が自白した理由は大きく2つあります」と言い、以下のように説明した。

「1つは、マスコミから守って欲しかったということです。当時、僕と母、妹はマスコミに追いかけ回され、40人くらいに路上で囲まれたこともありました。カメラでパシャパシャ撮られ、『何もしていません』と答えても、『関与しているんでしょう』『本当はどうなんですか』と延々と言われ続けました。取り調べの刑事に『警察がマスコミから母ちゃんと妹を守ってやるから』と言われ、僕は刑事に迎合してしまったのです」

実際、今井被告が逮捕前からマスコミに追いかけ回され、「疑惑職員」と報じられたことは前記した通りだ。「マスコミから守って欲しかった」という主張は、とりあえず客観的事実に整合している。

逮捕前から「疑惑職員」と報じられた今井被告(週刊文春2015年9月24日号)※記事本文は一部修正した

では、自白したもう1つの理由は何か。今井被告はこう続けた。

「認めなければ、取調室をいつ出られるかわからない状態だったことです。取調室から早く出たい。逃げ出したい。そんな思いから自白したのです。自白後の取り調べは録音録画されていますが、自白に至るまでの経緯や取調室の状況は録音録画されていません。録音録画される前は、刑事からネチネチと取り調べを受けていて、その状態に戻りたくなかったのです」

この話を聞き、「無実の人間がその程度の理由で、やってもいない重大事件の罪を自白することがあえりるのか?」と疑問に思う人もいるかもしれない。しかし実際には、無実の人間のほうがむしろ、身に覚えのない罪を簡単に自白しやすいというのは供述心理学の定説だ。無実の人間は、自分が刑罰を受ける未来をリアルに想像できないので、取り調べの苦しみから逃れたくて、安易に自白してしまうのだ。

今井被告が語る「自白した理由」には、とりあえず合理性があると言える。

◆裁判で犯行動機が不明とされている事情

そもそも、今井被告はなぜ、疑われたのか。それは、『Sアミーユ川崎』で3件の転落死があった日にすべて出勤していた唯一の職員だったことだ。

そういう状況であれば、疑われても当然だ。だが、逆の視点から見ると、「そのような疑われるのが自明の状況で犯行に及ぶだろうか?」という疑問も浮かぶ。その点に水を向けると、今井被告はこう答えた。

「僕が3件の現場にいたから犯人だというのは逆におかしいというのは、一般論的に言えばそうだと思います。我々も一、二審で当然、『犯人であれば、普通はそういう状況でやらない』と主張しています」

自分自身のことを“一般論的に言えば”と語る今井被告。無実を主張する被告人は、裁判が進むにつれ、自分自身の行動などを客観的に語るようになることがよくある。今井被告もそのパターンかもしれない。

では、裁判で犯行動機はどう認定されているのか。実はこの事件で動機は、真相を見極めるための大きなポイントだ。

一、二審判決によると、1人目の被害者・丑沢さんについては、今井被告は介護業務中、認知症だった丑沢さんから暴言や暴力行為を受け、うっぷんを募らせ、転落死させたとされる。一方、2人目の被害者・仲川さんと3人目の被害者・浅見さんについては、実は今井被告が犯行に及んだ動機が裁判でも特定されていない。

今井被告はその点について、こう説明した。

「丑沢さんは正直、大変な人でしたので、僕は丑沢さんの事件で(嘘の)自白をした際、動機は『ストレスが溜まっていたからだ』ということにしました。しかし、仲川さんと浅見さんの件については、僕は動機を供述できなかったのです」

無実の被疑者は、身に覚えのない犯行を自白する際、事件について知っている情報をもとに、「犯人はどうやったんだろう?」と想像しながら犯行を供述する。今井被告は、仲川さんの件については、もっともらしい動機を想像で供述できたが、仲川さんと浅見さんの件については、もっともらしい動機を思いつかなかったというわけだ。

実を言うと、今井被告は裁判前、精神鑑定を受けている。そして一審判決では、その鑑定医の証言に基づき、今井被告は仲川さんと浅見さんについて、「心臓マッサージを行っているところを他人から見られるなどして周囲から評価されたい」と考え、犯行に及んだように認定されていた。しかし、二審判決でこの認定が否定され、動機は不明のままなのだ。

一般的に言えば、動機が不明というのは、冤罪事件の判決でよくあることだ。犯人ではない人間を犯人と認定すると、どうしても辻褄が合わないところが出てくるためだ。加えて、自白した理由についても、今井被告の説明はとりあえず合理性があると言えるのは既述した通りだ。

次回も引き続き、事件の検証結果を報告する。(つづく)

◎冤罪を訴え、最高裁に上告中 ──「川崎老人ホーム連続転落死事件」死刑被告人との対話
〈前編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44047
〈後編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44051

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。編著に電子書籍版『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(鹿砦社)。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ[電子書籍版]─冤罪死刑囚八人の書画集─」(片岡健編/鹿砦社)

党綱領を自ら否定した自民党は即時解散せよ 岸田内閣改造人事の真相 月刊『紙の爆弾』2022年10月号

 

星野陽平の最新刊『CIA陰謀論の真相 ── 元エージェントが明かす米情報機関対日工作の全貌』

◆実体と関係の深い闇

表題にあげた星野陽平の労作を批評するまえに、実体(組織の存在)と相対(人間の諸関係)、および歴史観について前提的な議論を提起しよう。

いま評判の哲学書がある。かつて『恋愛論』で一世を風靡した竹田青嗣の『新・哲学入門』(講談社現代新書)である。冒頭から引用して、その問題意識をつかんでおこう。

「哲学の本義は普遍認識を目がける普遍洞察にある。だが、現代哲学では、稀な例外を除いて、哲学の根本方法を否定する相対主義哲学がその舞台を席巻してきた。」

「普遍認識の否定、これが相対主義哲学の旗印である。それは現代の流行しそうだったが、現代哲学の最大の病でもあった。」

「いまわれわれは、哲学の概念と像を根本的に刷新しなければならず、そのため、根本的に新しい哲学を必要としている。」「現代哲学には、独断論と相対主義の方法だけが残された。」

要するに普遍的存在をテーマにすべき哲学が、実体的な存在の解明を回避しているという、現代哲学への批判がその問題意識である。それでは、竹田が批判する「相対主義」とは何なのだろうか? われわれはデカルトの主体・客体という、近代的な図式への批判に立ち返って、相対主義を解き明かしておくべきであろう。

「われ、見るゆえにわれあり」がデカルトの存在論である。客体を見る「わたし」は、見るという行為において存在する。ここにすでに、近代的な相対主義がひそんでいる(客体によって存在が反証される)のを、われわれは感得する。しかしながら、それでは客体を認識する主体とは、何に由来するものなのか。絶対的な主体? そんなものは立証不可能である。

現代哲学の出発点は、じつにこれなのである。フッサールの共同主観性、メルロ・ポンティの間身体性、ハーバマスのコミュニケーション論、等々。

実体(モノ)と関係(コト)。絶対存在から相対的な関係性へ。これが現代哲学のテーマであった。典型的な論攷に、現代マルクス主義哲学の大家・廣松渉の哲学入門書を挙げておこう。奇しくも同じ版元の新書である。その煽りにはこうある。

「〈実体(モノ)〉的三項図式にかわり、現相世界を網のように織りなす〈関係(コト)〉的存立構制、その結節としてたち顕れる『私』とは、どのようなものか?量子論からイタリアの戯曲まで、多彩なモデルで素描する、現代哲学の真髄!」『哲学入門一歩前──モノからコトヘ』(講談社現代新書)。

実体と関係は、こうして概念として対立するようにみえる。少なくとも哲学者たちの世界では──。

実体論と関係論の相克はしかし、現実の社会関係(人間関係)を分析するうえで、相互に協力しあい、世界を認識する者(私)の中で、縦横に役立つはずだ。

なぜならば、われわれは現実存在としての実体(個別の存在)と関係性(社会的諸関係)に分裂させられながらも、ひとつの人格としてつねに統一されているからだ。それをどう評するかは、哲学者の恣意性であって、思想の趣味にすぎない。

◆個人的な体験であるところが凄い

哲学論の前置きが長くなった。いよいよ星野陽平の大著の分析に入ろう。

実体として、星野によればCIAの陰謀は現実に存在するが、その分析方法はじつに相対的である。なぜならば、方法論として星野が採用しているのが一般にジャーナリストが向き合う、自分の体験をもとにしているからだ。

自分の周囲の人間関係、それは星野の場合は芸能界をめぐる、さまざまな「動力(欲望)」を媒介にしているがゆえに、個人的でありながら「普遍」的である。たぶん彼でなくても体験できるが、彼においていっそう深刻な陰謀として立ち顕われるのだ。これはジャーナリストとしての星野の嗅覚・才能であろう。

星野がCIAの陰謀と向かい合うことになったのは、彼の『芸能人はなぜ干されるのか』であった。芸能界に張り巡らされた陰謀(干す)は、強大な芸能プロの存在がなさしめる陰謀であり、その背後には黒幕として暴力団の存在、それと争闘するCIAの存在が見え隠れする。

われわれを惹き込むのは、凡百の批評家や芸能評論家が外在的に論評するのではなく、すべて星野の実体験をもとにしていることだ。そこに「妄想」や「推論」があるのは言うまでもないが、ほかには代えがたい「実感」がある。時には相手と喧嘩をし、その修復にあたっては意図をさぐる。まさにドラマチックである。

しかも、その大半がSNSを媒介にしていることが、評者(横山)のような旧世代には目からウロコが落ちるというか、呆れるというか……。日々のSNSのメッセージを読み取る「能力」には、とてもついていけない。

◆陰謀史観の愉しみ

ロシア革命がユダヤ資本の陰謀であり、レーニンをはじめとするボリシェビキ幹部の大半はユダヤ人だった。この陰謀史観は事実でありながら、ロシアの労働者農民の歴史的偉業(革命的大衆行動)ゆえに、ロシア革命史研究から除外されてきた。

ユダヤの陰謀論はやがて、ディープステート論として「結実」する。すなわち、ユダヤ資本による連邦準備銀行の独占が歴代のアメリカ大統領(政権)をあやつり、世界支配の野望を計画に上せているというものだ。それもコミンテルン(死後)勢力と結びつき、国家外の国家が世界を支配していると。ほとんどは妄想だが、世界を解説する与件としては面白い。

星野のCIA陰謀論の源流は、占領下日本(東京租界)から出発する。渡辺プロ誕生の秘密、および国鉄下山・松川事件の謀略性。岸信介・佐藤栄作・安倍晋三にいたる政治家のCIA人脈。もちろんCIAコードを持つ正力松太郎まで、源流をさかのぼる。黒幕たちの戦後史をたどりながら、これは新しい世代によるひとつの戦後史だなと、松本清張いらいの謀略史観に酔う。

ところで、陰謀史観はその本質が陰謀であるがゆえに、陰謀の本当の実体には迫れない。関係性(人間関係・社会的諸関係)という実体をもとに、推論するしかないのである。それゆえに、歴史観の強靭さがもとめられる。それを妄想力というべきか、信念(妄念)というべきかは知らない。

◆歴史観の闇

ひとつだけ、特定の史観が強靭な構造をもっていることを、最後に述べておこう。マルクス主義的な「史的唯物論」は、歴史のすべてが「階級闘争の歴史である」(マルクス『党宣言』)から出発する。すべてが階級闘争の反映であるのだから、原因をそこにもとめれば説明がつく。

歴史観としてともかく、その「壮大な物語」(フランシス・フクヤマ)が歴史的には虚構だったことが、今日では明らかになっている。共産主義社会はおろか、その初期である社会主義すら実現できず、その多くが帝国主義的専制国家(独裁社会)となった。人間のはばひろい生活を包摂するには、政治革命論では無理があったともいえよう。

もうひとつ例に挙げておきたいのは、マルクス主義ほどは流行しなかったが、日本史における「先住・渡来」史観である。作家の矢切止夫が典型の歴史観で、日本史の戦乱・政変はすべて先住民系の氏族と渡来民の闘いであったというものだ。

日本史のどこを切り取っても、先住民系と渡来民系の争いがあり、その時々にどちらかが優勢であると。開国派(海外貿易派=蘇我氏・大和奈良王朝・平氏政権・室町幕府)と鎖国派(物部氏・平安政権・源氏政権・江戸幕府)という具合に、日本史はピッタリと合致するのだ。ある意味で、日本の外交史の本質を解いている。

これらを「争闘史観」と呼べば、マルクス主義の「階級闘争史観」との近似性がよくわかるが、もちろん別ものである。

世界史的な陰謀を成しているのは、ユダヤ資本やCIAだけではなく、アメリカだけでも全米民主化連盟など多数ある。ここから先は、星野陽平にCIAにとどまらない、世界史的陰謀組織の実態究明を期待したいものだ。

なお、筆者(横山)は星野が学生時代からライターを志していた時期に出会い、その後の歩みは知らなかったが、為替論や市場論をへて芸能取材に転じてきたこと。その旺盛な取材力と筆力(筆量)に感服している。本書の中にもその軌跡は触れられているが、フリーランスとしての苦闘やバイタリティに賛辞を贈りたい。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

星野陽平の最新刊『CIA陰謀論の真相 ── 元エージェントが明かす米情報機関対日工作の全貌』

9月3日、筆者の自宅(広島市東区)近くの地下を通る広島高速道路公社(広島県と広島市が折半で出資)の高速道路5号線の二葉山トンネルをめぐる問題を議論するシンポジウムが広島弁護士会館で開催されました。

◆シールドマシン故障に予算オーバー、地盤のトラブルも相次ぐ

 

予算オーバー。工事は進まない。地盤沈下。行政の対応はお粗末。このトンネル工事はまさに、広島県政および市政における、最大級といっていいほどの「問題のデパート」です。

広島市内のトンネルをめぐっては、同じく広島市東区の高速道路1号線の福木トンネル工事で地盤沈下の被害が出て中止になった経緯があります。そのため、二葉山トンネル計画地の真上の住民からも反対運動が起きました。結局、知事の湯崎さんが現地を訪れ「住民に犠牲を強いるような工事はしない」とあいさつし、住民も納得した経緯があります。

ところが、工事が始まった2018年からシールドマシンの故障などが相次いだことから、この二葉山トンネル住民の間で工事速度も遅々としたもので、再度延長された工期が2022年7月12日に来ても、トンネル自体が半分程度しか完成していません。いま、建設工事紛争審査会に下駄が預けられています。

 

もちろん、地盤のトラブルも今回のシンポジウムでも報告されたように相次いでいます。シールドマシンのカッターを交換するたびに、周囲の地盤に悪影響が及びます。

さらに、予算もいつのまにか高速道路5号線全体でいえば倍増以上してしまいました。そもそも、企業への移転補償が当初予算の700億の予算の半分近い320億円もありました。それ自体が疑惑ですが、さらに、その倍以上の1500億円の予算にいつのまにか膨れあがったのです。

この中には、どさくさに紛れて、凍結された事業も盛り込まれています。市の北部へ向かう五号線を広島市南方の南の呉に向かうためにわざわざつなぐ、まさに意味不明の事業です。平安時代の方違え(遠くへ旅行する際に運勢が悪いと考えられた方角を避けていったん違う方角へ向かう)でもありますまい。

◆シールドマシン故障に関する負担は受注者側の責任

まず、「二葉山トンネルを考える会」越智修二代表が、発言。相次ぐシールドマシンの破損について、これは想定外の(固い)岩盤があったからではない、とは指摘。故障に関する負担は受注者側の責任だ、と指摘しました。

「県や市はこれ以上、JVを甘やかして予算を追加で出すべきではない。」と筆者も感じました。

 

◆住民をなめ切っている湯崎さん

ついで、二葉山トンネル建設に反対する牛田東三丁目の会の棚谷彰代表は「知事の湯崎さんはシールド工法で工事を始めることを決めた際、住民にあいさつに来られ、「住民に犠牲を与えながら工事を進めることはない」と断言した。」と報告。

しかし、地盤沈下を発生させるシールドマシンのカッター交換は計画5回に対して41回もされました。そして右の写真のような被害が発生してしまったのです。

牛田東一丁目では、介護を必要とするご家族が騒音・振動にびっくりし、仮住まいに移転せざるをえなくなった事例もあったそうです。認知症の方など、こういった刺激で不穏になられ収拾がつかなくなることはよくあります。本当に勘弁してほしいですよね。

棚谷代表は憤まんやる方ないご様子でしたが、当然です。湯崎さんは県民をなめ切っています。

 

◆なぜか、欠けやすいカッターを使用し大失敗

ついで、元トンネルボーリングマシン技術者の三浦克己さんが講演。二葉山トンネルでは、性能が優れていると企業側も認めている20インチのカッターではなくなぜか17インチのカッターを使用。その結果、当然、カッターが破損しやすくなった。そこで、カッターの歯が欠けるのを恐れて遅く掘る。そして、カッター回転量が増えて摩耗が進むという悪循環だそうです。

そして、排出した土砂量も想定より多くなっている。空洞が出来ている恐れがあるそうです。

◆トンネル工学の泰斗が無責任な県・市に憤り

大阪大学名誉教授の谷本親伯先生が基調講演として「市民目線で見えるもの」と題してお話しされました。まず、冒頭、「この場にいてほしいのは、公社の方や議会の方だ。」などと嘆かれました。

その上で、
・県や市にインハウス(自前の)技術者がいるのか
・受注者(大林組系JV)は請負人として責任を果たしているのか?
・掘り進むのが月に50mなのは適切か?
・それについて企業秘密だと逃げる施工者をきちんと追及しているのか?
などと問題提起をされました。

その上で、谷本先生は「(安全管理には)行政がきちんと責任を持つべきであり、いま、被害を調査している住民に変わって調査すべきだ。今は事業者に調査を任せている。今回の広島の二葉山トンネルでも博多であった陥没事故でも、行政は施行業者に安全管理を丸投げし、住民を守ろうとしていない」などと指摘。

本来であれば、県や市がきちんと現場の地盤などの状況を24時間体制でチェックするべきだ(がしていない)と、広島の行政の無責任さに怒りを込めておられました。
「大学教授も本当のことを言ったら、行政が仕事をさせてくれない。自分も豊浜トンネルの事故の時、良心に基づいたコメントをしたら、それ以来行政の仕事がしにくくなった。」と回想。この点については、マスコミも頑張れ。と𠮟咤激励されました。

◆予算面でも全くの失敗、シールド工法

そして、予算面で見てもシールド工法は全く失敗だったと指摘。今のTBMよりナトム工法のほうがいい。というのがトンネル専門家としての意見だとしました。
質疑応答の中で谷本先生は、他の自治体でも状況は変わらない、と指摘。例えば調布市当局は外環道現場の陥没事故について住民の安全のためになにかするのか?という先生の問い合わせに、「業者の問題だから一切タッチしない」という回答だったそうです。これはちょっとショックでした。調布市はトップが広島県・市のような自民党系官僚出身者ではなく、野党共闘系の市長を持つ自治体だからです。

◆まともに追及する政治家を出さぬ県民・市民にも責任──会場から憤りの声

この問題をめぐる住民訴訟の弁護団も務めた経験のある山田延廣弁護士は、きちんとこの問題を追及するような県議や市議を出してこなかった県民・市民にも責任がある、と指摘しました。

被害住民の方からは、施行業者(大林組系JV)から補償の対象外だとされたことへの怒りが表明されました。

 

地元の東区の村上厚子・元市議(2019年県議選にも立候補した経験あり)からは、県議会も市議会も「いま、工事を止めたらどれくらい損が出るのか?」などといういわゆる出来レースの質問しかしない県議や市議ばかりだと指摘がありました。

◆元職場・広島県庁のふがいなさに憤り

筆者は、会場から東区の自宅へ自転車で帰宅する途中、現場を撮影しました。あまりにも、無責任な県や市。元県庁職員として、知事も議会も腐っているこんな県であることが恥ずかしく、また、心から憤りをおぼえました。

一方で、県も市も技術が分かる役人がいない。それで、施工業者に舐められているのも事実でしょう。これも筆者の県庁在職中、広島県が全国のトップを切って進めてきた公務員削減の弊害です。専門家を抱えておかないといざというとき住民を守れないのです。そのことも感じました。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2022年10月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年秋号(NO NUKES voice改題 通巻33号)

藤井正美はしばき隊/カウンターの中心メンバーとして鹿砦社に入り込み、在籍3年間で勤務時間の大半を私や従業員にわからないように業務とは無関係のツイッターやメールに勤しんでいたことが発覚しました(ツイッターは退社前、メールは退社後)。退社後詳細に分析し、その悪質性から、当然ながら給与返還を求め提訴したわけですが、一審の大阪地裁は私たちの請求にゼロ回答、逆に藤井が反訴した部分で鹿砦社に賠償金11万円を課しました。おかしいと思いませんか? 〈常識〉があれば誰しもおかしいと思うでしょう。

直近に藤井代理人・神原元弁護士に懲戒問題が起こったりしていますが、ちょっと前に起きた本件と類似の問題として兵庫県加古川市の職員が8年間に、やはり勤務時間中にSNSを閲覧したとして給与返還させられています。これについては準備書面にも盛り込みましたが、下記のように少し申し述べておきます。――

顔出しで街頭演説する藤井正美

◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇

本件と類似した事件として、前回準備書面提出締切直前に、「勤務中に私的なネット閲覧1654時間、市職員が給与475万円を返還」と2022年7月28日付け読売新聞オンラインが報じ、この記事の写しを裁判所に提出しました。

その後、兵庫県加古川市役所にも確認し事実と判明しました。加古川市役所の職員は「8年間、早朝や通常勤務中に846回(計1654時間)、公用パソコンで業務と無関係のインターネットを閲覧」(読売オンライン記事より)しました。

一方、鹿砦社に在職した3年間に藤井はツイッター1万8535回、1235時間(1tw当たり4分換算)、メールは数えきれないほど膨大で費やした時間も計り知れません。更にはツイッターのダイレクトメールも、これは発掘できませんでしたが、かなりの量だと推察されます。加古川市役所の職員は政治的目的はなかったと推察しますが、藤井は政治的目的を持って大学・団体・企業に恫喝さえ行っています。こうした藤井の所業を説明し、更に一審判決で鹿砦社の主張が全く認められず、逆に賠償金を課せられたと申し述べたところ非常に驚いていました。

この加古川市当局の判断こそ〈社会通念〉にも〈一般常識〉にも適うものです。一審裁判所(大阪地裁)は、なぜこうした判断ができなかったのか、大いに疑問です。司法には〈常識〉もなければ「良識の府」としての矜持もないのか、と疑念を禁じ得ず本件控訴に至った次第す。鹿砦社の主張はシンプルであり、司法に〈社会通念〉や〈常識〉に従った判断を求めるということにすぎません。

ここでは賛否はともかく、施行から10年余り経つ「裁判員裁判制度」が導入されたのは、端的に言えば、司法に市民感覚を採り入れるという主旨だったと思料します。仮に本件訴訟を、一般から選ばれた裁判員が審理すれば、おそらく控訴人の主張が100%近く認められると確信します。

本控訴審にあって大阪高裁には加古川市役所と同様〈社会通念〉や〈常識〉に従った判断を下すよう強く求めるものです。われわれは決して無理や無茶を言っているのではありません。再三繰り返しますが、控訴人・鹿砦社は〈社会通念〉や〈常識〉に従った判断を大阪高裁に求めます。大阪高裁は、われわれ、つまり鹿砦社だけではなく、日本の中小企業主の主張に虚心に耳を傾けていただきたいと思います。今後SNSが更に拡がることは想像に難くありませんが、本件一審判決が確定すれば、世の中小企業は立ち行かなくなります。よって、〈社会通念〉や〈常識〉を著しく欠いた一審判決の破棄を強く求めるものです。

勤務時間中に藤井が発信したツイートのほんの一部

◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇

*参考までに読売新聞オンライン2022年7月28日の記事を引用しておきます。

 勤務中に私的なネット閲覧1654時間、市職員が給与475万円を返還

 兵庫県加古川市は27日、勤務中に私的にインターネットを閲覧してその間の給与や手当を不当に受け取ったとして上下水道局の男性主査(48)を停職6か月、公金10万円を紛失した課の責任者だった都市計画部の男性主幹(55)を戒告にするなど計4人を懲戒処分、7人を口頭厳重注意にした。

 市の発表では、男性主査は、農林水産課や市街地整備課員だった2014年4月~今年3月の8年間、早朝や通常勤務中に846回(計1654時間)、公用パソコンで業務と無関係のインターネットを閲覧。主査は6月、給与475万5957円と利息分の全額を市に返還した。

 さらに当時の上司だった都市計画部主幹(56)を減給10分の1(3か月)、環境部主幹(57)を同(1か月)、当時の都市計画部長2人を口頭厳重注意とした。

 また、男性主幹が課長を務めていた債権管理課では今年3月9日、窓口で8人から納付された139万1817円のうち10万円を紛失。窓口の職員が高額の現金を機器で数えずに受け取り、未施錠の金庫やロッカーに保管するなど管理が不適切だった。主幹は6月、利息分を含めて弁済。当時の税務部長ら3人と、窓口職員2人は口頭厳重注意とした。

《関連過去記事カテゴリー》
しばき隊リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B07CXC368T/
鹿砦社 http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000541

今回紹介する米子ラブホテル支配人殺害事件は、被告人の石田美実さん(65)の裁判が今日までに極めて特異な経過をたどってきた事件だ。

強盗殺人罪などに問われた石田さんは、2016年に鳥取地裁の裁判員裁判で懲役18年の判決を受けたが、2017年に広島高裁松江支部の控訴審で逆転無罪判決を勝ち取った。しかしその後、(1)最高裁で無罪判決を破棄されて控訴審に差し戻し、(2)広島高裁の第2次控訴審で裁判員裁判に差し戻し、(3)鳥取地裁の第2次裁判員裁判で無期懲役判決、(4)広島高裁松江支部の第3次控訴審で控訴棄却――という経過をたどり、現在は松江刑務所に勾留されながら最高裁に上告している。

つまり、石田さんは今日までに6度の裁判を受けながら、いまだに裁判が終結していないことになる。

私は2016年の最初の裁判員裁判の頃からこの事件を継続的に取材し、石田さんのことを冤罪だと確信するに至った。それゆえに私としては、一度は無罪判決を受けた石田さんが再び有罪とされたうえ、延々と被告人という立場に留め置かれ、身柄も拘束され続けていることが気の毒でならない。

ここでは、まず、この事件の概略と問題点を説明したうえ、石田さんの雪冤のために必要と思われる情報を募らせて頂きたい。

◆石田さんが有罪とされ続けている理由

事件が起きたのは、今から13年前に遡る。2009年9月29日夜10時過ぎ、米子市郊外のラブホテル「ぴーかんぱりぱり」の事務所で支配人の男性(当時54)が頭から血を流して倒れているのを従業員の女性が発見。支配人は病院に搬送されたが、頭部を激しく攻撃されていたほか、ヒモのようなもので首を絞められていた。そして一度も意識が戻らないまま、約6年に及ぶ入院生活を送り、2015年9月27日に息を引き取った。

警察の調べによると、現場の事務所では、金庫の中などの金が事件前より減っており、犯人は支配人の首を絞める際、事務所にあった電話線かLANケーブルを使ったと推定された。警察は支配人が事務所に入った際、金目的で侵入していた犯人に襲われたとみて、捜査を展開した。

しかし、警察の捜査は難航し、なかなか容疑者の検挙に至らなかった。捜査の結果、事件発生当時にこのホテルで店長をしていた石田さんが逮捕されたが、それは事件から4年半も経過してからのことだった。

石田さんは逮捕前の任意捜査の段階から一貫して容疑を否認。今日に至るまで無実を訴え続けてきた。そんな石田さんが裁判で有罪とされているのは、一見怪しげな事実が色々揃っていたからだ。

たとえば、石田さんは、事件翌日に230枚の千円札を自分の銀行口座に入金しており、さらにこの日から車で大阪に行くなどして1カ月以上も家をあけ、警察からの再三の事情聴取の呼び出しにも応じなかった。有罪率が極めて高い日本の刑事裁判では、被告人にこの程度の怪しげな事実が揃っていれば、いとも簡単に有罪とされてしまいだがちだが、現実に石田さんはそうなってしまっているわけだ。

実際には、銀行口座に入金していた230枚の千円札は、ホテルの店長だった石田さんが営業に必要な千円札が足りなくなった場合に備え、1万円札の両替用にストックしておいたものだった。石田さんは「あのお金が盗んだものなら、銀行口座に入金したりしませんよ」と言っていたが、たしかに犯人ならそんなアシのつくような真似はしない。

また、石田さんは元々、長距離トラックの運転手だったため、長期間に渡って家をあけることはよくあったし、仕事とは関係なく大阪で車上生活をしたこともあった。つまり、事件翌日から1カ月以上に渡って家をあけたことも、石田さんにとっては特別な行動ではなかった。裁判で有罪の根拠とされた石田さんの一見怪しげな事実は、本来、およそ有罪の根拠にはなりえないものだった。

現場のホテルの建物。現在は「ぴーかんぱりぱり」とは別のホテルに ※写真は一部修正

◆雪冤のために解消すべき疑問 ── 石田さんが犯人でなければ、一体誰が犯人なのか

もっとも、この事件では、石田さんが犯人でなければ、一体誰が犯人なのか――という疑問が残っている。というのも、事件が起きた現場のラブホテル「ぴーかんぱりぱり」は米子市郊外のひとけのない場所にあり、このホテルと無関係の人間がふらりと強盗目的で訪れることは考えにくい。そんな状況下、このホテルの店長だった石田さんは事件が起きた時間帯、現場のホテル内に居合わせていたことは確かだ。

このような構図の事件では、裁判で被告人を犯人と認めるには辻褄の合わない事実が色々判明しても、「被告人が犯人でなければ、一体誰が犯人なのか」という疑問が解消されないと、結局は有罪という結果になりがちだ。石田さんの裁判でも、事件発生時に現場にいた従業員たちの中に真犯人だと断定できるほどの人物が具体的に見当たらなかったため、石田さんが犯人にされてしまっている感がある。

ただし、一方で石田さんの裁判では、事件発生直後に現場に臨場した警察官たちの捜査が極めてずさんだったことが明らかになっており、別の真犯人の侵入や逃走の形跡が見過ごされていた可能性が浮上している。そこで、今回はこの事件について、「石田さんが犯人でなければ、一体誰が犯人なのか」という疑問の解消につながる情報を募りたい。

たとえば、事件が起きた2009年9月29日以前に現場のホテル「ぴーかんぱりぱり」に仕事で出入りするなどしてホテルの内情を知りえた人物で、かつ、その当時に不審な言動が見受けられた人物をご存じの読者はおられないだろうか。そのような「真犯人の要件を満たす人物」をご存じの方は、私のメールアドレス(katakenアットマークable.ocn.ne.jp)までご一報頂きたい。

※メールで連絡をくださる人は、アットマークを@に変えてください。
※この事件については、私は『冤罪File』(希の樹出版)No.26、No.28、 No.32でも詳しくレポートしている。No.32は現在も同誌の公式ホームページでバックナンバーを販売中のようなので、関心のある方は、ご参照頂きたい。
詳細はhttp://enzaifile.com/publist/shosai/12.html

▼片岡健(かたおか けん)
ジャーナリスト。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ[電子書籍版]─冤罪死刑囚八人の書画集─」(片岡健編/鹿砦社)

党綱領を自ら否定した自民党は即時解散せよ 岸田内閣改造人事の真相 月刊『紙の爆弾』2022年10月号

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