◆コロナ無策の政府が国民に無理難題押し付け

人を殺すようなコロナ対策をしておいて何の反省もしない日本政府は、いま国民を刑務所に入れようとしている。

今国会の焦点になっている新型コロナウイルス対策としての特別措置法と感染症法などの改定の動きを見て、そう思わざるを得ない。

18日までに明らかになった政府案の骨子は次のとり。

(1)緊急事態宣言下で知事の営業時間短縮・休業の命令に違反した業者に50万円以下の過料。(特措法改定案)

(2)宣言をする前の予防措置として知事が営業時間の変更要請・命令が可能になり、違反した事業者には30万円以下の過料を科す(特措法改定案)

(3)入院を拒否したり入院先から逃げ出せば1年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑事罰を科す。(感染症法改定案)

(4)感染経路を割り出す積極的疫学調査に応じない感染者に対し50万円以下の罰金。(感染症法改定案)

日本で新型コロナウイルスの感染者が現れてまる1年が経過した。その間に政府が有効な対策をしてきたとは言い難い。

たとえば、台湾では中国の武漢で新型ウイルス感染者発症が明らかになるとほぼ同時に検疫の強化を実施した。

一方、日本政府がとった対応は対照的だった。一千万都市の武漢が完全封鎖された翌日の1月24日から1月30日まで、北京の日本大使館ホームページで、安倍首相(当時)が、春節の休日を利用して日本への旅行を歓迎する祝辞を掲載していた。

東京新聞WEB版(20年2月15日)によると、2月3日の衆院予算委員会で国民民主党の渡辺周氏は「あまりにもお粗末だ」として外務省の対応を批判。茂木敏充外相は「不安を与えた方に、おわび申し上げる」と謝罪した。


◎[参考動画]コロナで激減 訪日中国人 日本大使館が生配信でPR(ANNnewsCH 2020年12月20日)

◆「補償なき自粛要請」「Go To トラベル」「自宅療養9000人超(東京都)」の反省なし

初期の対応が遅れたことに加えて、昨年4月~5月の緊急事態宣言において、一人当たり10万円を給付しただけで、休業による損失補償は一部にとどまった。ロックダウン期間中に給与の6割から8割を政府が補償する国は何か国もある。

感染防止拡大に有効なのは、感染者と非感染者を接触させないことであり、そのうえで対策を講じた非感染者が社会や経済を回すのが効果的だ。そのためには感染の有無を調べる検査拡充が必須だが、PCR検査の拡充にも消極的だった。

「補償なき自粛」により、経済・生活がめちゃくちゃになって批判されたことを受け、Go To トラベルやGo To イートなどの政策に転じたものの、その効果や危険性を指摘されて撤回に至った。

コロナウイルスに感染し、高熱にうなされても入院できず命を落とす人が出ている。たとえば1月17日時点の東京都だけでも9043人が自宅療養を余儀なくされている。

NHKの報道によると、翌18日には、東京都3人、栃木県2人、神奈川県1人、群馬県1人が自宅療養中に死亡した。

そもそも昨年春先は、発熱しても4日間は医療機関を訪れず待機しろ、などという指示も出していた。

入院もできず死者まで出ているのに、入院を拒否あるいは入院先から逃げ出した人に懲役刑を科すという。

時間短縮に応じない業者へは罰金、積極的疫学調査に協力しない人にも罰金……。政府、自民党、公明党は、自らの失政を認めず、反省せず、謝罪せず。その挙句に国民を刑務所に送り込もうとしているのだ。

◆コロナが収束しても悪法は使われる恐れ

罰則導入を口にする前にやるべきことがたくさんある。生活や経済損失を徹底的に補填補償し、検査を実施して感染者と非感染者を分離し、臨時コロナ病棟などをつくるのが先決だろう。

発祥地の武漢ではプレハブの療養施設を突貫工事で建設し、ニューヨークでも広い空間を災害避難所のようにパーテーションで区切って感染者を療養させる大規模な施設も造営されている。


◎[参考動画]ニューヨーク1日2万人感染も医療崩壊しないワケ(ANNnewsCH 2021年1月17日)

特措法改正案や感染症法改正案が可決されれば、感染症対策に名を借りた人権・私権の制限が可能になる。

仮に法案が可決施行された場合、当面は感染症対策に適用されるだろう。しかし、近い将来に問題化する恐れがある。

廃止法案を可決しなければ法律は生き続けることになり、新型コロナウイルス禍が収束した後も、いつでもどこでも対象を微妙に変え、解釈を変えて適応可能になるからだ。

コロナ感染拡大や医療崩壊の危険に目が奪われ、安易に刑事罰を導入してしまえば、取り返しがつかない。

ところが、毎日新聞の1月16日実施の世論調査によれば、入院拒否した感染者への(罰則が「必要だ」との回答は51%、「必要ない」は34%、「わからない」は15%だった。

無責任でやるべきことをやらない政府がつくる罰則規定入りの法律で、自分や周囲が痛い目に遭わないとわからないのだろう。そうなっても自業自得だが、危険性を指摘している人々も巻き添えにするのは納得がいかない。

国民を刑務所に入れる前に一連の安倍晋三事件について法手続きをとり、コロナで苦しむ人々の手厚い補償をやれ、と言いたい。

▼林 克明(はやし まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他

◆経済政策優先のリベラル派

巷はGo To トラベル中止をめぐって大騒ぎである。今年冬から春にかけての新型コロナウイルス感染第一波では、政府は緊急事態宣言を出して外出・営業自粛を呼びかけた。

しかし政府は、自粛による損失補償をごく一部に限り、多くの人々が経済破綻した。その失政に対する世の中の“空気”を感じ取ったのか、表向きは「経済のことを考えてます」と示すための策がGo To トラベルだったのかもしれない。

大規模な自然災害が今後何年も続くといえるのだから、ここは大規模な財政出動で生活を補償して乗り切るしかないだろう。

こうした基本の必要性を改めて痛感したのは、アメリカ大統領選挙の動きを見てだった。経済活動の制限をしても感染拡大防止優先を主張する民主党バイデン候補に対し、コロナ対策を軽視し経済優先を明らかにしていたのはトランプ大統領だった。

しかし、この両者の差はコロナ対策に限定されるわけではなく、トランプ氏が当選した前回の大統領選においても明らかだった。

単純化しすぎかもしれないが、経済的苦境にあえぐ労働者階級(特に白人労働者層)に対して、リベラル派は「実利」(仕事とカネと生活)を与えられず、むしろ右派の方が経済活性化により生活保障をわずかながら推進させた。

振り返って日本。リベラル派から左派までを主な支持基盤とする政治勢力で、全面的に経済を出した「れいわ新選組」(以下「新選組」)は、「実利」を主要政策の上位にした点で、それまでのリベラル派新党とは明らかに違う。


◎[参考動画]みんなに毎月10万円を配り続けたら国は破綻するか?(れいわ新選組 2020年5月8日)

昨年(2019年)の旗揚げ3ヶ月後の参院選で緊急八策を全面に掲げて新選組はキャンペーンを重ねた

消費税廃止、最低賃金1500円政府補償、奨学金徳政令などが主柱である。

同党発足時は、山本太郎代表がかねてから強く主張して原発廃止などをスローガンにせず、ほとんど経済だけに特化して世論運動を始めたとき、

「なぜ政党名に元号を使うのか!」
「彼が大切にしてきた原発廃止をまっさきに掲げないのはがっかり」
「憲法問題はどうか……」

とリベラル派の中で批判的に見る人も少なくなかった。


◎[参考動画]東京は手遅れ? (れいわ新選組 2020年5月20日)

◆Go to“トラブル”からGo to 消費税廃止へ
 
そして参院選から2か月余り経ち、消費税が8%から10%へ増税されたことにより、昨年末には、リーマンショックを上回るほどの経済的被害が生じた。

そこにコロナ禍が襲い掛かり、多くの人々の生活が脅かされている。今こそ消費税廃止と財政出動による生活補償が必要だ。

新選組のコロナ緊急政策は、昨年の経済八策をベースに、①消費税廃止、②コロナ収束まで一人当たり毎月10万円給付、③コロナを災害指定にする。などが柱だ。

結党時から最大の政策担っている消費税廃止は、突然物価が10%下がり続けることと同じで、シンプルな即効性がある。この恒常的大幅減税で生き延びる個人や事業主により社会経済の再生がしやすくなる。

一丁目一番地の消費税廃止に加え、同党のコロナ対策の骨子のうち、毎月一人当たり10万円給付と災害指定について、どのような考えに基づいているか見てみよう。

一人当たり10万円の給付をコロナ収束まで続ける政策はどうか。問題は財源だが、政府には通貨発行権があるから事態が収束するまでは金を出せ、というのが新選組の基本的考え方だ。

山本太郎代表は、10万円給付の根拠としてインフレ率2%までの財政出同出動はまったく問題ないとしている。

この2%とは、インフレ率が2%までならば政府の債務が増えても大丈夫なラインといえる。この数字は、平成25年(2013年)1月の政府と日銀とで確認されたもの。

参議院調査情報担当室のシミュレーションによると、一人当たり毎月10万円を1年間給付した場合、人口を1億2000万人で計算すると144兆円の財政出動が必要になり、インフレ率は1.215%。

3年続けると1.809%で4年目は1.751%になり、その後は下がる。

月10万円ならインフレ率2%には達しないというのが、新選組の主張だ。たしかに、消費税が廃止されれば物価が10%も下がり、なおかつ月10万円あれば、コロナで倒産廃業した事業主や職を失った労働者は、生活は苦しくても飢餓状態にはならないだろう。


◎[参考動画]【コロナを災害指定せよ!! 2分Ver..】2020年6月29日 自由が丘街宣ダイジェスト(れいわ新選組 2020年7月3日)

◆コロナを災害指定したら家と生活費が補償される可能性

さらに一歩進めて、コロナを災害指定すると、生活者にどのような恩恵があるのか。

れいわ新選組のホームページによると、次のようなことが考えられる。

第1に、災害対策基本法60条3項により、外出禁止が可能になる。加えて63条1項により、当該地域への立ち入りを禁止できるので、いわゆるロックダウンが事実上可能になる。

第2に、そうなれば生活が破綻するので十分な補償が不可欠だ。そのために災害救助法4条を適用。この条文では、仮設住宅の供与、食料飲料水などの供給、生業に必要な資金等の給与もしくは貸与などが定められている。

このような「コロナ災害指定」の考え方の元には、1995年に起きた阪神淡路大震災の経験がある。災害復興制度の充実に取り組んできた兵庫県の弁護士がSNSに災害指定の意見を投稿したことから反響を呼んだのだ。

災害や復興関連の法制度を適用すれば、コロナで生活基盤を破壊された人々を救うことが可能なのである。しかも、新たな法改正は必要なく既存の法律を適用できる。

消費税廃止や、一人ひとりに月10万円給付やコロナ災害指定のほうが、Go to トラベルならぬ“Go to トラブル”よりは、確実ではないだろうか。


◎[参考動画]【街宣】 豊橋駅東口(木)(れいわ新選組 2020年12月17日)

▼林 克明(はやし・まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2021年1月号 菅首相を動かす「影の総理大臣」他

『NO NUKES voice』Vol.26 小出裕章さん×樋口英明さん×水戸喜世子さん《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか

安倍からす菅へ──。政治とメディアが動き始めている。

昨年10月からの消費増税とコロナショックで生活や社会の破壊が進む中で、政権(とりわけ菅政権)と日本維新の会の蜜月ぶりがはっきりしてきた。

日本学術会議の新会員任命拒否事件で、維新の会の生みの親・橋本徹氏が菅首相をさかんに擁護しているのは周知のとりだ。今や「菅義偉政権と維新」はセット。

この状況において、11月1日の「大阪市を廃止し特別区を設置することについての住民投票」(俗にいう大阪都構想)が焦点になっている。
 
大阪市廃止を批判する中で目立つのが「れいわ新選組」である。次期総選挙で大阪五区立候補予定者の大石あきこ氏をはじめ、山本太郎代表が大阪現地に乗り込み、大阪市を政令指定都市から特別区に格下げすることに反対運動を展開してきた。
 
結果は否決されたが、度重なる山本太郎氏の街頭演説などで世論が動いた可能性がある。今後は、大阪のみならず全国的に「維新VS新選組」が政治の核になる予感がする。維新的なるものVS新選組的なるもの、と置き換えてもいい。

◆山本太郎都知事選出馬で維新の勢力拡大阻止
 
その“予感”が強まったのは、新型コロナウイルスで緊急事態制限が発出されていた今年初夏。7月に予定されていた東京都知事選挙をめぐり様々な人々が水面下あるいは表に出て動いていた。

現職が強いことは自明であり、加えてコロナの影響で小池知事は連日連夜テレビに登場していたのだから、「何か事件」が起きない限り大量得票する可能性が高かった。

対する野党系の候補者として、宇都宮健児弁護士とれいわ新選組の山本太郎代表がリベラル派から期待されていた。

そして宇都宮氏が立候補を表明したのちに、ぎりぎりになって山本氏が出馬表明した。リベラル派分断という批判もおきたが、やはり「山本出馬」には重要な意味があったのではないか。

第一に、前年2019年夏の参院選で旋風を巻き起こした「れいわ新選組」の支持拡大が停滞し、その後大きな風は吹いていなかった。党代表の山本氏が都知事選に立候補しなければ、燃え上がった炎が自然沈下しかねないから政治的イベントが必要だった。

第二は、“維新勢力”の拡大阻止である。宇都宮候補に投票するのは、立憲民主支持の中のリベラル派や共産党支持層など、ある程度限られている。

無党派層を一定程度引き付けられるのは山本太郎だった。維新の会も無党派票をある程度取り込める。前年の参院選で日本維新の会から立候補した音喜多駿氏が当選。東京で初の議席獲得となった。

維新としては、ホップからステップを狙って小野泰輔氏を擁立したことだろう。立候補を表明する少し前、テレビ各局は維新の吉村洋文大阪府知事をさかんに持ち上げ、ブームを作ろうとしていた。その波に乗って小野氏が当選しないまでも順位をどこまで上げるかが最大のポイントだった。

ブームに乗った維新だから、仮に山本太郎代表が立候補しなければ、小池氏につづく第2位についた可能性もなくはないのだ。

そうなれば、東京都知事選というよりも、国政において与党勢力・右派勢力が一気に拡大し、リベラル派による挽回はきわめて困難になる。

結果は、(1)小池、(2)宇都宮、(3)山本、(4)小野、となった。東京都知事選という最大の首長選での4位は明らかに敗北であり、山本票より下回った事実は重い。山本票との差は約4万票で大差とは言えないが、勝つか負けるかは政治的に重大だ。これにより、春先からの維新勢力拡大にブレーキがかかったのである。

この結果をもたらしたのは、山本太郎出馬だろう。筆者は、現職の小池VSその他候補よりも、あるいは宇都宮と山本のどちらが得票数が多いかよりも「維新VS新選組」の結果に注目していた。

なぜなら、今後は維新か新選組かどちらに向かうかで日本は大きく変わる可能性があると考えるからである。

◆1869年体制と新自由主義勢力の行方

この原稿で二つの政党の略称である「維新」と「新選組」を取り上げるのは、明治維新に至る1860年代に実在した尊王攘夷派(維新勢力)と新撰組と同じ名称だからである。それは偶然なのか、それとも必然なのか。

言うまでもなく、戊辰戦争という内戦で江戸公儀(江戸幕府)を倒し明治維新を成就させたのが尊王攘夷派である。彼らを「維新勢力」と呼んで差し支えないだろう

これに最も激しく敵対したのは、江戸公儀を守る新撰組であったのは言うまでもない。彼らを現在の政党名で使用されている漢字になおし「新選組」と呼ぼう。

1869(明治2)年に戊辰戦争に勝利した明治維新勢力が、その思想や文化、機構などを根底に残し2020年の現在まで続いている。昔とは大幅に変わったとは言え、「維新勢力」が日本を統治している。

現在の日本維新の会は、「改革」「既得権打破」と口では言うが、いま権力を握っている支配層のシステムや思想を改革するどころか強化している。とりわけ新自由主義政策の拡大にやっきだ。

それに思想やシステム全般にノーを突き付けているのが「新選組」ではないか。まるで1860年代の政治闘争が再現されたかのようだ。

象徴的なのは、いわゆる大阪都構想をめぐる「日本維新の会(大阪維新の会)VSれいわ新選組」の対決だ。

11月1日投票の住民投票「大阪市を廃止し特別区を設置することについての住民投票」が告示された10月12日、山本太郎・れいわ新選組代表が反対の街頭演説を行っていたとき、大阪府警が妨害した事件があった。


◎[参考動画]大阪府警が山本太郎氏の街頭演説を中止させようとしたときのYouTube映像

大阪府警に力を及ぼせるのは与党である大阪維新の会である。

大阪市廃止を叫ぶ「維新」と全面対決する「新選組」。この間の両勢力の行動を見ている、150年以上前は主に京都市内で刃を交わしていた維新勢力と新撰組の闘争が大阪市内で再現されたかのようだ。

2020年の今は日本刀を振り回すわけではないが、意味的には通じるものがある。大阪の住民投票の結果の如何にかかわらず、維新VS新選組の構図は深まっていくだろう。

▼林 克明(はやし・まさあき)
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他

〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』Vol.25

◆安倍から菅へと続くマスコミの迷走

安倍から菅へ……。総理代替わりを経たここ数か月のメディアを見ると、テレビと新聞(特にテレビ)を見ないようにすることが、日本をまともにし安心して暮らせる社会になる最短距離だと思わざるを得ない状況だ。

あの手この手でテレビや新聞に圧力をかけて政府と与党に気に入られる報道を仕向けてきたのが、足掛け8年にわたる安倍政権だった。メディアへの介入は安倍晋三という国会議員の得意技ともいえる。

その政権を継承する菅義偉政権下で、メディアと権力支配層との癒着がますます露骨になってきた。その異常さに気づかないかマヒしている人がいることが、危険だ。

高い支持率を維持してきた安倍政権も、末期とくにコロナ禍が深刻するなかでに支持率は低迷していた。また森友事件、加計事件、文書改ざん、河合克行前法相の公選法違反事件など、問題は山積みで先行き不当名な状況であった。

そのときテレビが傾注していたのは、吉村洋文・大阪府知事を持ち上げること。連日、異様なほど府知事を持ち上げていた。

その様子をみれば、安倍政権終焉を見て取った支配層が、次の支柱の一つとして日本維新の会の勢力拡大を推進しようとしていることが分かる。そうすれば、憲法問題で文句を言う公明党を排除して維新の会にとって替えることもでるだろう。

ところが、7月の東京都知事選挙で、日本維新の会推薦の小野泰輔候補が、小池百合子、宇都宮健児、山本太郎につぐ4位と振るわず、勢力拡大に一時的にブレーキがかかった。

8月末に安倍前首相が退陣を表明すると、「よくやった」「ごくろうさま」「お疲れ様でした」という無批判の気持ち悪い街頭インタビューをテレビ各局は放映する始末だった。安倍政治に対する厳しい評価と分析などは皆無に近かった。

◆“パンケーキ”に見る政権との癒着ぶり

そして自民党総裁選がはじまれば、明らかに菅氏に有利な投票システムにしようとしているのを、ただ漫然として伝えるだけ。おまけに、ほかの2人の候補についてはおざなりで、菅氏についての報道が圧倒的な比率を占めていたのは記憶に新しい。

そして菅政権誕生となると、維新の会の法律顧問、橋下徹氏をテレビは積極的に出演させいる。春から初夏にかけて吉村洋文大阪府知事をヨイショする姿勢から一貫していると言えよう。

一方、菅総理はパンケーキで有名な渋谷の店で「パンケーキ朝食懇談会」を催し、16社の記者たちが出席したという。(朝日新聞・東京新聞・京都新聞 の記者は欠席)

メディアの幹部が安倍首相とたびたび会食を共にしていたのと変わらない。それどころか、安倍政権時代以上に政権へすり寄る姿勢が目立っているのではないだろうか。

◆政権とマスコミによる日本破壊活動が進行

菅政権の体質を見事に表したのが、日本学術会議への人事介入だ。説明不足だろうが説明しようが、政権に批判的な学者を日本学術会議から排除するのが目的であるのは間違いない。

そして9月16日に菅政権が発足してから一か月経過したときの報道に驚いた。10月16日のNHKは「菅政権発足1か月の評価」を放映。夜9時からの「ニュースウォッチ9」では、官邸記者が菅政権を礼賛してなんの批判的分析もなし。最後に形だけ野党が批判していると一言あっただけ。

10月17日のNHK「ニュース7」は、中曽根康弘元首相の葬儀を政府と自民党共催で実施した話。9600万円の税金を使った件や、全国国立大学に弔意を求めるなど問題が多いのに、ただ政府と自民党の宣伝を放映しただけだった。

そして10月19日朝テレ朝「羽鳥慎一モーニングショー」。政治ジャーナリストの田崎史郎氏が出演し菅政権の1か月を論評。相変わらず政府与党のヨイショだった。

日本学術会議の新会員任命拒否や中曽根元首相の合同葬で大学に弔意表明を求める二つの事件は、思想統制し政権批判者を排除する政権の体質が現れている。

それを批判するどころか、右から左に横流しに宣伝しているマスコミ。そして、政権擁護するテレビのタレント文化人たち。まさに政権・マスコミ・応援団による日本社会破壊活動ではないのか。

「どうせマスコミでしょ」と投げやりになっても、異常事態に「マヒ」してもいけない。まだそのおかしさに気づかない人もいるので、騙されないで自分の身を守るためにも、いまメディアがどうなっているか知る必要があるだろう。

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総理代替わりの時期に何が起きているのかをしっかり把握し、今後の道を探りたいと、筆者は憲法とメディア法が専門の田島泰彦氏(早稲田大学大学院非常勤講師・元上智大学新聞学科教授)に講演をお願いした。

10月31日(土)第131回草の実アカデミー

田島泰彦氏(早稲田大学非常勤講師・元上智大学教授)

テーマ 「パンケーキとジャーナリズム~総理代替り期にみる報道の現状~」
講師 田島泰彦氏(早稲田大学非常勤講師・元上智大学教授)

日時:10月31日(土)13:30 時開場、14時00分開始、16:40終了
場所:雑司ヶ谷地域文化創造館 第4会議室

交通:JR目白駅徒歩10分、東京メトロ副都心線「雑司ヶ谷駅」2番出口直結
資料代: 500円

★★★【申し込み方法】25人限定★★★
フルネームと「10月31日参加」と書いて下記のメールアドレスに送信してください。
kusanomi@notnet.jp

【参加にあたってのお願い】
◎受付で氏名と連絡先を確認してください。
◎会場入りするときは手洗いをお願いします。(消毒ジェルも用意します)
◎参加者はマスク使用をお願いします。


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◎[参考動画]テレビによる日本破壊活動? 最近のメディアと政権の癒着ぶり(講演案内)

▼林 克明(はやし・まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他

〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』Vol.25

前編に引き続き、後編は安倍政権の具体的な“犯歴”を列挙するのが目的である。

安倍政権がこれまで進めてきた日本破壊活動を、人体になぞらえて「血栓」(血管内にできる血の塊)と表現している。

第一の血栓を“イデオロギー系”とすれば、第二の血栓は“現世利益系”で、忖度や汚職に関係する分野である。

第一の血栓は、安倍自民党政権の好戦的で全体主義的な体質の起源である尊王攘夷思想。この思想にもとづいて明治国家はつくられ、第二次大戦の敗戦を招いた。そして、戦後も続いていることが、日本にとっての血栓(危険因子)だと前編で指摘した。

第二次大戦で彼らが復活していることは前編で指摘したが、それでも第二次大戦後は新しい憲法ができて、まがりなりにも日本は民主体制への道を歩みだした。

安倍政権とその支持者らにとっては、この日本国憲法体制=戦後レジームはとんでもないもので、少しでもかつての長州レジーム(エセ尊王攘夷体制)を復活させたいと彼らは意識的あるいは無意識的に考えているのではないだろうか。

「戦後レジームからの脱却」などと安倍首相は言い始めた。まさに第一の血栓を象徴する表現だが、実際にやったことを挙げる前に、まずは基本体質を明示する出来事を振り返ってみよう。

安倍退陣を求める大規模デモは何度も起きていた。写真は2018年4月、国会議事堂前

◆体質を表す失言(本音)

「こんな人たちに負けられない」

安倍政権転落の歴史的発言だ。2017年都議選最終日に東京秋葉原で、安倍辞めろコールをする人々に対しムキになって口(本音)を滑らせた。国民を分断させる総理の本質が、ひと言でわかってしまった歴史的発言だ。

「マスコミを懲らしめる」

失言の多さから“魔の自民党二回生”と言われる一群の人たちがいる。大西英男議員もその一人。勉強会「文化芸術懇話会」で、大西英男議員は「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番」とぶち上げた。あからさまな報道圧力だが、その後も反省する気配はない。

安倍晋三氏は、メディアを恫喝するのが大好きである。2001年10月30日にNHKが放送したETV特集シリーズ「戦争をどう裁くか」の第2夜「問われる戦時性暴力」で、慰安婦問題などを扱う民衆法定について放映した。放映前から、経済産業省・故中川昭一と、当時は副官房長官だった安倍晋三が番組に圧力をかけたとされる事件が有名だ。

「治安維持法は適法に運用された」

共謀罪法案が焦点になっていた17年5月2日の衆院法務委員会で、畑野君枝衆議院議員が治安維持法犠牲者の救済と名誉回復について質問し、金田勝利法相が答弁したもの。安倍自民政権の本質を表している。法手続きもデタラメに運用して国民を弾圧した治安維持法の運用を適法と考える安倍政権が共謀罪を強行成立させたのは悪夢としか言いようがない。

「(自民党候補の応援を)自衛隊としてお願いしたい」

安倍首相の秘蔵っ子、不祥事と失言連発の稲田朋美防衛大臣の発言だ。自民党が歴史的大敗を喫した17年都議会議員選挙の最中、自民党候補を応援する集会で「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としても、お願いしたいと思っているところだ」と訴えた。実力組織である自衛隊を政治利用するもので、ありえない発言。安倍首相は彼女を罷免もしなければ強い叱責もしなかった。

◆“尊攘派”が喜ぶトンデモ法の数々

基本的な「安倍エセ尊攘派政権」の体質を踏まえたところで、具体的に犯した重要案件をピックアップする。

特定秘密保護法

権力者たちが失政や不正を隠すために作った法律である。「秘密は秘密」なので何が秘密か一般人にわからないため、何をしたら逮捕されるのかわからない。特定秘密を洩らせば最高懲役10年という重刑だ。

「記憶にございません」「記録は破棄しました」などという政治家や官僚の答弁を“合法化”した悪法と言えよう。それは特定秘密に指定されています、といえば何で通ってしまう。

しかも、委員会では怒号が飛び交い与野党議員が議長席に詰めかける中、議長の発言も聞き取れず正式な記録も採れず、採決もどきをしただけで本会議に回して強行採決した。まったく非合法にでっちあげたのが特定秘密保護法。この悪しきパターンがこれ以降、国会の日常風景となった。

集団的自衛権の行使容認の閣議決定

他国のために軍事行動をとるのが集団的自衛権だ。歴代自民党政権は、自衛
隊の目的を専守防衛としてきたが、2014年7月1日に集団的自衛権の行使容認を閣議決定した。本来、憲法を改正しなければならないにも関わらず、20人に満たない閣僚たちによって“無血クーデター”がなされたに等しい。

安保関連法制の強行採決

集団的自衛権の行使とセットになった11本の法律から成り立ち、一つひとつ慎重審議すべき内容なのに、一本にまとめて審議を進める乱暴さだった。世界中どこにでも自衛隊を派遣できることになってしまい、さすがに危ないと思った人たちが国会に押し寄せ、大きな社会運動が起きた。

しかし、またしても強行採決。与野党対決法案を片っ端から強行採決する独裁ぶりを示したといえよう。この安保法制を成立・運用するためには情報を統制し、反対者を排除しなければならない。そのための秘密保護法、盗聴法拡大、共謀罪だ。

沖縄の新基地建設問題

安保関連法や共謀罪法の最先端に立たされているのが沖縄である。工事を強行し、反対者を逮捕。なかでも、沖縄平和運動センターの山城博治議長が抗議活動中に逮捕されて長期間拘束されたことに関し、共謀罪の先取りではないかと批判の声があがった。

このほか、県外からも大量の機動隊員を沖縄に導入し、機動隊員が「土人」発言で問題になった。近隣諸国には居丈高で好戦的対応をし、国民には抑圧的態度、その一方で宗主国に対しては靴底をなめるようなドレイぶり。

これこそまさに江戸時代末期から台頭した“尊攘派”の特徴を示す。

共謀罪、刑訴法&盗聴法改悪

しゃにむに戦争体制準備体制の確立に向かって暴走してきた安倍政権。2016年5月には、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」を成立させた。同法をわかりやすく表現すると、盗聴の対象を大幅に拡大し、司法取引の導入、法定での匿名証人を認めるなど、その後に成立した共謀罪への橋頭保ともいえるものだった。

これに共謀罪法が加わると、将来共謀罪法の対象に全部盗聴できるようにするなどが心配である。そうなったら超監視社会になってしまう。
  
極め付きは、2018年6月の共謀罪法の強行採決だ。委員会での審議も終わらないのに本会議で中間報告という形を悪用して強行採決してしまい、さっそく2018年7月11日から施行されている。

犯罪を実行していないのに逮捕を含む強制捜査をするからたまらない。何よりも、具体的に何をどうすれば共謀(犯罪の計画)にあたるのかほとんどの人がわからないところが危険だ。

一連の治安立法は、権力者の失政と不祥事を隠し、反対者を弾圧するために不可欠のものである。安倍政権にサヨナラした後にまっさきに実行すべきは、共謀罪法などのトンデモ法の一括廃止法案を可決することだろう。

◆第二の「血栓」汚職系

尊王攘夷的発想を土台とする第一の血栓につづいて、第二の血栓だ。これは汚職やデータ改ざんなどに関係する。もっとも、第一と第二は連動しているが。

森友学園問題

安倍昭恵夫人が名誉校長を務めていた森友学園運営の「瑞穂の國記念小学院」開校のために国有地を格安で払い下げ。値引きの理由だった地下に埋まっているゴミがもともとほとんどなかったことが判明した。

昭恵夫人から「安倍晋三からです」と100万円受け取ったと籠池泰典・森友学園前理事長は証言した。同学園は、過去に「安倍晋三記念小学校」の名目で寄付が募られていた。

安倍総理は。「私や妻が関わっているなら総理も国会議員も辞める」と2017年2月17日の衆院予算委員会で、民進党の福島伸享氏への答弁で明らかにした。関与は明らかも総理も議員も辞めず、昭恵夫人の証人喚問も拒否。

この事件をめぐっては、複数の死者が出ている。

加計学園事件

総理の親友である加計孝太郎氏が理事長を務める学校法人・加計学園。その岡山理科大学の獣医学部新設をめぐる事件である。安倍氏の「ご意向」で新学部の設立が認められたというものだ。

一切かかわりないということだったのに、「総理のご意向」なる文書の存在が明らかになり、「文書は間違いなく存在し官邸からの働きかけがあった」と文科省前事務次官の前川喜平氏が証言して大問題に。その後も、関与したとする証拠が出てきているにもかかわらず、責任を認めない。

河合克行・杏里夫妻事件

前法相の河井克行衆院議員と妻・案里参院議員が公職選挙法違反(買収)容疑で逮捕された事件だ。
 
2019年夏の参院選で、河井案里容疑者の陣営に自民党本部から支出された1億5000万円と、買収容疑がポイントである。

もちろん、自民党本部が買収目的で1億5000万円の資金を提供しているのなら、党総裁である安倍晋三氏の刑事責任が問われる可能性が高い。

そもそも自民党内で決して重鎮ではない河合案里氏に1億5000万円もの巨額資金を党本部が拠出したこと自体、普通ではない。

以上、「安倍さんがんばった」というバカコメントに代表されるような一部の風潮に対して、安倍政権が何をしたか前編と後編わけて記録した。

安倍政権とその追随者たちによって、血管のあちこちに血栓ができ、日本は危険な状態である。

いまなすべきは、体中にできた血栓を溶かすための地道で確実な作業ではないだろうか。

▼林 克明(はやし・まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

最新! 月刊『紙の爆弾』2020年10月号【特集】さらば、安倍晋三

8月28日、安倍晋三総理は、職を辞すことを記者会見で述べた。第一次安倍政権を投げ出した持病の潰瘍性大腸炎が再発し、激務に耐えられないというのが、辞意表明の理由である。

テレビはさっそく街頭インタビューを流した。相変わらずお手軽な手法である。

「大事なときなので、もうちょっと頑張ってほしかった」

「まだやりたいことがあったのではないかと? でも病気ならしかたないですね」

安倍さん頑張ってほしかった系のコメントがほとんどで、ネトウヨ以外では、こういう人に安倍政権は支えられてきたのだな、と感慨を新たにした。

記者会見の直後から、ポスト安倍をめぐっての報道が激増している。たしかにそれは大事だが、それよりも安倍政権の”犯歴”を記録し、未来永劫忘れないようにすることのほうがより価値がある。

まずは、安倍政権の土壌を作り上げてきた源泉は何か、ということが問題になる。


◎[参考動画]憲政史上最長 安倍政権の7年8カ月を振り返る(2020年8月28日)

◆日本という身体にはびこる”安倍血栓”

8月に入ってから筆者の体調が悪化し各種検査をしたところ、静脈性血栓症だと判明した。

血栓とは、血管内に形成される凝血塊。これが肺まで移動し、動脈内に血栓が生じると命取りになることもある。

これと同様に、安倍晋三とその仲間がやってきたことは、まさに日本社会に血栓をつくってきたようなもので、内部からの破壊活動に等しい。
 
同じ「血栓」でも、2系統に分かれるだろう。

第1に尊王攘夷派(水戸学)からの伝統による好戦的で全体主義的な「血栓」

第2には比較的単純な汚職系「血栓」だ。

◆日本の生命にかかわる「安倍血栓」

第1の「血栓」について語るには、150年以上前にさかのぼらなければならない。
 
1854年に日米和親条約を結び、1858年に日米修好通商条約による開国を機に、日本は国際社会にデビューした。

この日米修好通商条約は、江戸公儀の外交手腕により、列強間で交わしていた通商条約と同レベルである。関税自主権もあり、関税率は20%で国際水準(列強水準)だった。そのため、開港したとたん日本は貿易を拡大し、大幅な黒字国になっていった。(『日本を開国させた男、松平忠固~近代日本の礎を築いた老中』(関良基著、作品社

同時並行して、紆余曲折を経て問題をはらみながらも立憲主義構想(普通選挙による議会設立など)も浸透し始め、急速な近代化と民主化が期待された。(『赤松小三郎ともう一つの明治維新~テロに葬られた立憲主義の夢』(関良基著、作品社)

このように、議会制を実現し交易を奨励しいけば、早期に近代化を達成し“一等国”になっていた確率は相当高い。

その路線に真っ向から反対したのが“尊攘派”である。外国人に対するテロをエスカレートさせていき諸外国は激怒した。

対日強硬派の筆頭であった大英帝国を中心に日本は圧力をかけられ、1866年には基本20%だった関税を一律5%にさせられたのである。これにより日本は長期間、赤字国に転落し、工業化の原資を失って近代化が大幅に遅れた。

つまり尊王攘夷派は、自らテロをやりまくり自分自身で不平等条約をつくり、議会制民主主義の芽をつぶした。自分たちの不始末と大失敗を「江戸幕府が不平等条約を結ばされ、尊攘の志士たちが封建的な幕府を倒し、不平等条約撤廃のために死に物狂いで闘った」という歴史の捏造を行った。

おそるべきは、2020年の現在も、この明治維新神話が学校で教えられていることではないだろうか。

“尊攘派”は、明治になってからキリスト教徒弾圧、百姓一揆の弾圧、不在地主制度の強化(明治になって強化された)、大逆事件、治安維持法下の弾圧・・と国民に対して暴力を振るってきた。

ちなみに攘夷を唱えて1860年代にテロを頻発させていた人たちが、明治維新後はそっくり弾圧者としての役割を果たしているのは興味深い。

強権によって、水戸学を源とする尊王攘夷思想を国民が強要された末路が、1945年8月15日の敗戦であろう。

尊攘思想・靖国思想・皇国史観を支配の道具とする人々によって日本は壊滅させられたのだ。彼らのことを、まとめてヒゲカッコツキの“尊攘派”と定義しておこう。


◎[参考動画]E-girls☆安倍晋三内閣総理大臣 お疲れさまでした(2020年8月28日)

◆第二次大戦後“尊攘派”が復活 特高国会議員の跋扈

敗戦によって、江戸時代末期に芽生えた、立憲主義と貿易立国の方向へ舵が切られた。長い中世が終わり“ルネッサンス”が日本に起きたともいえるだろう。

だが、第二次大戦後まもなく始まった冷戦が、その流れに冷や水を浴びせた。

本来なら一層されるべき戦犯≒尊攘派が、日本を占領したアメリカ(連合国だが実質アメリカ)により、防共要員として残存させられることになった。

ほんの一部の人間が公職から追放されただけで、本来なら死刑や長期刑になるはずの“尊攘派”(大日本帝国の責任者たち)が、なんのお咎めもなく居座ることになったのである。

その延長線上に安倍政権が誕生し、日本会議に象徴される日本の右翼が存在している。これこそが日本が幸せになる道を阻んでいる。つまり水戸学発信源の尊王攘夷思想が生きている。

イデオロギー的血栓と言えるのではないだろうか。

特筆すべきは、尊攘体制後期を支えてきた特高警察幹部が、逮捕・処罰もされずに、冷戦開始後はつぎつぎに復活したこと。

たとえば小林多喜二を拷問して殺した主犯格の中川成夫は、戦後、東京都北区の教育委員長になっている(『告発 戦後の特高官僚~反動潮流の原泉』柳河瀬 精やながせただし著、日本機関紙出版センター2005年)

歴史的書籍ともいえる同書によると、靖国神社法案やスパイ防止法など、第二次大戦後に問題になった、きな臭さがただよう法案の陰には、“尊攘派”の子孫たる元特高警察官僚が暗躍している。

地位の高い特高官僚の要職にあった者だけで46人も自民党の国会議員になっている。もちろん、知事や地方議会、中央官庁幹部職員にも特高官僚はいる。

こうした基本路線をそっくり踏襲しているのが安倍政権であり、自民党政権なのである。この支配体制とイデオロギーの原泉である“尊攘派”と「明治維新」を全面批判・否定しない限り、どのような新政権が現れようとも、一般人は枕を高くして寝られはしないのだ。

次回は、こうした土台をもつ安倍自民党政権が、日本社会に血栓をつくってきた実態を振り返り記録しておきたい(つづく)


◎[参考動画]安倍政権7年半が問うものは【TBS報道特集】

▼林 克明(はやし・まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2020年9月号【特集】新型コロナ 安倍「無策」の理由

◎目次概要◎https://www.kaminobakudan.com/

◆43年ぶりに蘇った記憶

『ジェーン・ピットマン/ある黒人の生涯』……。

何十年も前に見たテレビ番組のタイトルを突然、思い出した。中学か高校のころNHKで見た記憶があるが、いつだったろう。そのタイトルとラストシーンの衝撃をいまだに忘れない。 

気になってインターネットで調べてみると、1974年にアメリカで制作されたテレビ映画だった。NHKの記録を確認すると、1977年8月30日(土)20時(再)と表示されている。再放送なのだが、おそらく私が観たのは、この日だったろう。

◎[参考動画]Jena Louisiana

 
それにしても、40年以上も前に1回だけ観たテレビ番組のタイトルや、ラストシーンを鮮明に覚えているのは不思議だ。当時高校2年生だった私は、それほど強烈に感情を動かされたのに違いない。

1962年当時、110歳だった黒人女性がインタビューを受け回想するという構成だ。黒人の苦難の歴史と同時代に生きた個人史が交錯するような演出だったと思うのだが、さすがにテレビで一度きり観ただけなのでほとんど覚えていない。ただひとつ鮮明に覚えているのは、ラストシーンである。 

当時のアメリカは、バスなどの交通機関には白人専用席があったし、公共の場所の水飲み場も白人専用のものがあった。黒人が白人専用の水を飲む運動がおこり逮捕者も死者も出るほど緊迫していた。日本の公園にもよくある、石かコンクリートの土台の上についているミニ噴水型の水飲み場である。

ラストで主人公のジェーンは、焦点となっていた屋外の水飲み場(裁判所の庭)に水を飲みに行く。

黒人の知人たちが、裁判所敷地と路面の境界あたりでとどまり、ジェーンを見送る。彼女はひとり、杖を突きながら、ヨロヨロ、ふらふらと一歩、また一歩と水飲み場に近づいていく。

建物前では白人たちが大勢その姿を見守り、銃を手にした警察官のような人もいる。

建物の入り口に近い場所にあるWhite Onlyと書かれた水飲み場にたどり着くと、じっと見ている白人を一瞥して、ジェーンはそっと口を近づけて一口水を飲む。

そして踵を返し、来た時と同じように杖をつきながらヨロヨロとゆっくりと去っていく……。
 
いま思い出しても心を揺り動かされる場面だが、43年もの間、頭の中から完全に消え去っていた。ところが、一気に記憶がよみがえる「事件」が起きたのだ。

◆白人専用の「鹿児島県政記者クラブ(清潮会)」

その事件は、7月28日に起きた。

『カメラを止めるな! 7月28日(前編)』(塩田康一鹿児島県知事の就任記者会見をめぐる県政記者クラブ「青潮会」とフリーランスとの戦いをスマホのカメラで撮り続けたドキュメンタリー)


◎[参考動画]カメラを止めるな! 7月28日(前編)

1時間56分ころから、早回しで20~30分が見どころだ。

編集なしの生々しい動画は、記者クラブはジャーナリスト集団というよりも、権力機構・統治機構の一部であることを示している。

この動画を見た私は、日本特有の「記者クラブ制度」が、日本社会を相当ゆがめているとの思いを新たにした。

中央官庁や地方自治体の庁舎や機関には、記者クラブというものがある。新聞社や放送局の記者たちがつくった任意団体であり法人格のある団体ではない。

その記者クラブが、一等地の建物に広いオフィスを無償で開設し、行政からの情報を独占的に得て、権力者が望む内容を報道するのがメインになっている。かつては電話代やファックス代その他もただ(つまり税金使用)だった。

クラブ付きの職員もいるが、それは各クラブが所属する行政の職員であり公務員である。まったく法的根拠のない構成員がちがつくった「内規」により記者クラブは運営されている。このような記者クラブにより”大本営発表”がいま現在も続いているのだ。

法的根拠なく白人(記者クラブ)が牛耳る記者会見からは、有色人種(一般人、SNS等で報道する人、フリーランス)を排除している。言ってみればアパルトヘイト(人種隔離政策)だから、私は『ジェーン・ピットマン/ある黒人の生涯』を思い起こした。

鹿児島県政記者クラブ(清潮会)への参加と質問権を求めてきた中心人物が、フリーランスの有村眞由美氏である。福島原発事故後から、鹿児島県知事の記者会見参加を記者クラブに申請しはじめ、足掛け10年にもわたり記者クラブに働きかけてきた。

そのかいあって、途中で記者会見出席は許されるようになった。

◆源泉徴収票を提出すれば白人専用の水道で水を飲んでもいいetc

とはいっても「オブザーバー参加で質問は禁止」ということであった。そのほか清潮会(鹿児島県政記者クラブ)が規約なるものを作成し、記者会見参加を望む外部の人間に内規を強要してきた。
 
一つ条件をクリアすれば、次の課題を設定する、というやり方である。

・源泉徴収票を提出すれば水飲み場を使える(会見室に入室できる)。
・提出しても源泉徴収票に印鑑がなければ水飲み場使用はできない(普通、源泉徴収票には印鑑はない)
・水道の蛇口をひねって水を出すのは許可するが、飲んではいけない(会見室に入場はできるが質問は禁止)。

なお、今回の記者会見前日、質問可能と記者クラブは連絡してきたが、様々な条件が課せられているという。
 
このような10年間を経て、今年7月の鹿児島県知事選で当選した塩田康一知事の就任記者会見に参加しようと有村氏は鹿児島にとび、冒頭のように会見室前の人間バリケードによって入室を阻まれたのだ。

ジェーン・ピットマンは最後に一口水を飲むことができたが、有森眞由美はまだ渇きをいやせていない。

ちなみに、7月28日は、記者クラブのオープン化ないし廃止を求めるジャーナリスト3人(畠山理仁・寺澤有・三宅勝久)が有村氏に同行した。

◆記者クラブは災害級の被害
 
記者クラブをめぐる新聞社やテレビ局社員とフリーランスの攻防とアメリカの人種差別を描いたテレビ映画を比較するのは、強引だと思う人もいるであろう。

確かに、奴隷として人権を奪われ、解放後も恒常的な暴力・差別・弾圧にさらされている黒人の状況とは違う。記者クラブをめぐって、非クラブ員がリンチで殺されてもいない。

だが、属性の違いによって一部の人たちが権力を握り利益を独占し、それ以外の人々を排除するシステムは共通する。いや、むしろアパルトヘイト(隔離政策)が記者クラブ制度の根幹にあると認識しない限り、問題は解決しない。

今年5月25日、全米どころか全世界を揺り動かした、警察官によるるジャージ・フロイト虐殺事件が起きたときでさへ、私は古いテレビ映画のことをまったく思い出さず、「7・28鹿児島県政記者クラブ人間バリケード事件」を動画で目の当たりにしたとき、43年ぶりに記憶が蘇った。それを素直に文章に書き留めているだけである。

記者クラブは災害レベルであり、日本ピープルにとって「禍」である事実を今こそ認識すべきではないか。

政治・経済・社会など各分野の問題を追及することはもちろん大切だが、様々な問題を伝える土台(報道)が土砂崩れを起こし、災害が起きていることを認識するほうが先決かもしれない。

そこで、10年にわたり記者クラブとの攻防を続けているフリーランスの有森眞由美氏に依頼し、下記の講演会を開催することにした。

7月28日、鹿児島県知事の就任記者会見参加をこばまれた有村眞由美氏(ジャーナリスト寺澤有氏のYouTubeより)

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■講演情報
『記者クラブ禍』~記者クラブとフリーランスの10年戦争
講師:有村眞由美氏(フリーランス)

日時:2020年8月22日(土)
13:30開場 14:00開始 16:30終了
場所:文京アカデミー「学習室」(文京シビックセンター地下1階)
東京都文京区春日1丁目16番21号
https://www.city.bunkyo.lg.jp/shisetsu/civiccenter/civic.html
交通:東京メトロ 丸の内線・南北線 後楽園駅 徒歩1分
   都営地下鉄 三田線・大江戸線 春日駅 徒歩1分
   JR総武線 水道橋駅(東口) 徒歩10分
資料代:500円

【申し込み】30名限定
氏名と「8月22日参加」と書いて下記のメールアドレスに送信してください。
kusanomi@notnet.jp
【参加にあたってのお願い】
◎受付で氏名と連絡先を確認してください。
◎会場入りするときは手洗いをお願いします。(消毒ジェルも用意します)
◎参加者はマスク使用をお願いします。
◎発熱している方や体調の悪い方は、今回は参加をご遠慮ください。

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▼林 克明(はやし・まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2020年9月号【特集】新型コロナ 安倍「無策」の理由

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◆東京都医師会の尾崎治夫会長の「法的拘束力もつ休業要請」

新型コロナウイルス感染拡大の中、一般市民からも野党からも「国会を召集しろ」という声が高まっている。

もっともな要求だが、そこには落とし穴もある。

7月30日、東京都医師会の尾崎治夫会長は、法的拘束力のある補償付き休業「要請」が必要だと発表し、話題を呼んでいる。法的拘束力のある要請とは実質「命令」だ。

テレビはこの発言を好意的に取り上げ、賛同する世論もあるが、”コロナファシズム注意報”を発令したい。


◎[参考動画]都医師会 PCR検査1400カ所に「抑える最後のチャンス」(FNNプライムオンライン)

◆自民党憲法草案の緊急事態条項に悪用の恐れ

そもそも、コロナ特措法(新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律)は、今年3月13日に可決し翌14日に施行されたばかり。
 
民主党政権時代に成立したインフルエンザ特措法の一部を変えたものである。具体的には、改正前の「新型インフルエンザ等」の定義の改正。法の対象に新型コロナウイルス感染症を追加した。

最大の問題点は、内閣総理大臣が必要と認めれば、緊急事態宣言することができ、権力の集中、市民の自由と人権が強く制限される危険があることだ。
 
これまでの安倍政権は、憲法を守らず、法律に違反し、国会で虚偽答弁を繰り返し、政権に忖度した役人も公文書を改ざん破棄するなどを繰り返してきた。

したがって、今度の新特措法を破ったり強引に拡大解釈してもなんの不思議もない。過去の事実を見る限り、こちらの可能性の方が高いとみなければならない。

もっとも心配なのは、憲法に緊急事態を盛り込む地ならし、ないし布石にしようと政府・自民党は目論んでいる疑いがあることだ。

2012年、自民党は憲法改正憲草案に「緊急事態条項」を盛り込んだ。これは緊急事態と内閣総理大臣が判断すれば、国会機能を停止し、政府が決める政令が法律と同等の効力を持つ。

行政の独裁になり、緊急事態の期間延長も可能という。その危険性ゆえにナチスの全権委任法のようだと批判がある。まさに日本を文明国から野蛮国に転落させる憲法草案といえるだろう。

新型コロナウイルスが問題になり始めた1月30日の二階派の会合で、自民党の伊吹文明元衆院議長が、「緊急事態の一つの例。憲法改正の大きな実験台と考えた方がいいかもしれない」と述べた事実は見逃せない。

人々の不安とストレスに乗じて「法的拘束力を持つ休業」を安易に取り入れた特措法の再改正をすれば、強権的抑圧体制が進むおそれがある。

これは上からの抑圧だが、もっと恐ろしいのが下からの圧力ではないか。

◆権力の弾圧と下からのファシズム──サンドイッチ規制

前述した自民党の伊吹文明氏が言う、憲法の緊急事態条項にコロナ危機を連動させる野望は、上からの民衆弾圧の思想だ。

一方、全体主義的な空気を一般人が下から煽り立てる危険も現実にある。

前回、緊急事態宣言が発出された日のテレビ朝日系『羽鳥慎一モーニングショー』を思い出す。その日のうちに緊急事態宣言発出か、という緊張した日の朝だった。

出演していたジャーナリストの青木理氏は、緊急事態宣言を出せ、政府に強力な権限を持たせよ、という空気が一般人の中にあることについて「非常によろしくない、非常によろしくない」と繰り返し警告していた。

それに対し、テレビ朝日社員のコメンテーターである玉川徹氏が、「上からでなく下から声が上がってきたのは非常にいいこと」という趣旨の発言を、青木氏のコメントに対応するかたちで繰り返した。

自粛警察、自粛ポリス、マスク警察などを見れば明らかだろう。

国家権力が直接的な強権を発動するのではなく、下から人権や私権の制限および権力の強化を求める機運が高まった時こそ、全体主義が暴走しやすい。

自由を求める少数の人々は、国家権力と民衆の間に挟まれるサンドイッチの具になる。デモ隊の左右を機動隊んが挟み込む規制を”サンドイッチ規制”と呼ぶ。それを立体的にしたようなイメージである。

国会を召集するのは当然としても、安易に「コロナ特措法」の強化に対しては、最大限の警戒を持つべきだ。

◆プラスマイナスで総合的に判断を

そうはいっても、これ以上感染が拡大したらどうするのか? 爆発的に増えたらどうするのか? という意見もあるだろう。その一方で、自由や人権が奪われ、権力が肥大化する恐れがある。

両者をプラスマイナスで考え、より深刻なマイナスを除去する方向で判断するしかないだろう。つまり、どちらがより日本社会に打撃を与えるかの判断が必要ではないだろうか。

コロナウイルスは必ず終息する(100%ではないが)が、いちど強権的システムを構築してしまえば、抑圧体制を容易に終息させることはできない。コロナ終息後も時の権力や支配者たちは、そのシステムを維持するだろう。

そうなれば、ステイホーム、Go to などの号令に従って尻尾を振る飼い犬のような生活が長期間続くことを覚悟しなければならないのだ。

▼林 克明(はやし・まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2020年9月号【特集】新型コロナ 安倍「無策」の理由

◎目次概要◎https://www.kaminobakudan.com/

◆声をあげ行動し徐々に実現

新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、東京都はネットカフェにも休業を要請した。安定した住居を持たずネットカフェなどで生活する「ネットカフェ難民」は、2018年から2019年にかけての東京都の調べによると約4000人。

文字通り路上生活を余儀なくされている人に加え、24時間営業のファストフード店やネットカフェが休業してしまえば、そこで寝泊まりする人々が路上にたたき出されてしまう恐れがあった。

そこで、ホームレス支援30団体以上が協力して「新型コロナ災害緊急アクション」を結成。東京都に緊急支援を要請してきた。

その結果、施設休業で済む場所を失った人をビジネスホテルに一時滞在できるようになっていった。

従来の収容施設で相部屋や室内に二段ベッドが並ぶ集団生活をせざるを得ない状況だった。

それでは、新型コロナウイルスに感染の恐れがあり、実際に行政を通して宿を得たものの相部屋が恐ろしいと、そこから出てしまった人もいる。

そこで、支援団体が交渉の末、東京都は原則個室のホテルを用意するように方針を定めることになった。

また、当初は都内に居住して6カ月以上という条件をつけていたが、支援者らの粘り強い交渉で、その条件を撤廃した。

5月25日に緊急事態宣言解除が決定されたあとも、東京都は必要ならホテル滞在期間を延長する措置を講じ、各区市に通達している。

ところが、23区と26市の中で唯一、コロナ災害による住居喪失者を一律にホテルから出してしまったところがある。

それが新宿区だ。

◆新宿区が虚偽通知で退去させた

5月29日、新宿区は「緊急事態宣言に伴う東京都の緊急一時宿泊事業としてホテルを利用されている皆様へ」と題する文書で「ホテル利用は5月31日(チェックアウト6月1日朝)まで」と利用者に通知したのだ。

実は、東京都は6月7日チェックアウトまで延長すると5月22日付で通達し、23区26市など東京都下のすべての自治体に伝わっているはずである。

しかも、6月1日付通知で、6月14日チェックアウトまで再延長されていた。それなのに新宿区は87名のホテル利用者を追い出してしまったのだ。

コロナ災害の状況では、就職先が確保されたなどというのは少数で、多くの人は野宿を強いられている可能性がたかい。

手違いや間違いではなく、明らかに虚偽の通知だとして、ホームレス支援団体が6月8日、新宿区役所まで抗議に出向いた。

抗議に訪れたホームレス支援関係者たち(6月8日新宿区役所)

抗議文を手渡す稲葉剛氏(つくろい東京ファンド代表理事)と受け取る関原陽子氏(新宿区福祉部長)

応対したのは、関原陽子・福祉部長と片岡丈人・生活福祉課長。支援団体関係者たちは、まず区としての公式見解と当事者に対する謝罪を求めた。

これに対し区側は、
「案内、説明が至らなかったことは深く反省しています」
「困っている人は相談にきてくださいと伝えている」
などと、何度質問しても、説明の仕方に不備があることを謝罪しても、虚偽事実を利用者に伝えたこととそれに対する謝罪はない。

当日、抗議に訪れていた生活保護問題対策全国会議の田川英信事務局長が説明する。

「これから先を心配するホテルを出された当事者と一緒に新宿区の窓口を訪ねました。すると担当者は、新宿区の決定として延長はできないと明言しました」(趣旨)

当事者と同行したのは、5月29日と6月5日。このときの対応から、窓口での手違いや説明不足などではなく、6月1日から住居喪失者にホテルから退去させると新宿区が方針を決めたことは明らかだろう。

実際、田川氏らが具体的事実を突きつけると、区側の説明はしどろもどろだった。

一方、市民団体が抗議におとずれた当日(6月8日)から、新宿区は、連絡先のわかっている元ホテル滞在者に連絡を取り始めたという。

退去させられて1週間も経っており、その間に電話を止められた人もいることだろう。

◆新宿区長が謝罪、お金を払いホテル滞在延長

話し合いは堂々めぐりでらちがあかず、会合は解散となった。

そして一夜明けた6月9日、吉住健一新宿区長が謝罪文を出した。以下に全文を示す。

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■ネットカフェの閉鎖によりホテルに宿泊されていた皆様への対応について

新宿区役所

新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言時に、宿泊先を喪失してしまったネットカフェ生活者へのホテル宿泊事業期間が延長されたことを、適切にお伝えしないまま、多くの方に退出していただいてしまっていました。

ご利用者の皆様に対して、寄り添った対応が出来ていなかったことを、率直にお詫び申し上げます。

また、この件につきまして、区民の皆様にも大変ご心配をおかけいたしました。

現在、ご連絡先の把握できている方には福祉事務所より、引き続きホテルを利用できる旨をご案内させていただいていますが、6月1日以降、14日までで宿泊できなかった期間の宿泊料相当(1泊3500円)を、支給させていただくことといたします。

本事業は東京都との連携事業ですが、制度の趣旨を鑑みて、適切に支援事業が執行されるよう、再発防止に取り組んでまいります。

この度は、困窮された方への配慮が至らず、申し訳ありませんでした。

令和2年6月9日
新宿区長 吉住健一

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以上のように、新宿区は謝罪してそれなりの対応をとった。形としては一見落着となったのだが、あえてここに記録するのは、再発防止を念頭に置いているからである。

新宿区や東京都のみならず厚労省を含めて、コロナ禍の生活困窮者をめぐり、類似する事態を今後も防がなければならない。

なお、6月25日に新宿に問い合わせたところ、ホテル利用者への1日3500円の支給は6月23日に支払われた。対象者は44人である。

新宿区役所正面に掲げられた新宿区民憲章には、「心のふれあう おもいやりのある福祉を考え実行します」と記されている

▼林 克明(はやし・まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2020年7月号【特集第3弾】「新型コロナ危機」と安倍失政

〈原発なき社会〉をもとめて 『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

◆コロナ対策はゆっくり、コロナファシズムは急展開

「自粛自粛はお金が足らぬ」大日本自粛連盟(5月5日高円寺)

コロナ感染拡大防止のため、政府は4月7日から非常事態宣言を出し、5月4日には5月31日までの延長を決めた。
 
新型コロナウイルスに関する情報が膨大に流れ始めた2月中旬、社会の流れる見るポイントを、筆者は3つ決めた。

(1)医学的科学的な対処法
(2)外出自粛などによる経済恐慌と生活破壊
(3)パンデミックによる全体主義への兆候

どれも大切でそれぞれが複雑に連動しているのは言うまでもない。そして、それぞれの項目に問題が続出している。

医学的な見地では、PCR検査をめぐって様々な情報や意見が飛び交い、非常事態宣言や外出自粛要請の根拠となる専門家委員会のシミュレーションに重大な疑問が沸き上がっている。

経済と生活の問題では、自粛強制による休業で経済破綻する人が続出している。政府は休業要請する一方で、かたくなに補償を拒んでいる。そのため、経済苦境に陥る人が激増している。

もっとも懸念されるのは、度を越した同調圧力でファシズム的雰囲気がパンデミックのように広がっていることである。

そのような風潮の中で、政府の要請(命令)に従うことを絶対視し、自分の小さな正義感を満足させるために「自粛警察」「自粛ポリス」などという人たちが現れ、従わない人々を「罰する」ようになった。

一般人ならともかく、政治家にも「自粛警察」はいる。筆頭は、休業要請に従わないパチンコ店を公表して大衆の攻撃の的に誘導した吉村洋文・大阪府知事。ナンバー2は、同じことをした小池百合子・東京都知事である。

休業を要請するだけで補償をしない政府に批判の矛先を向けるべきだろう。ところが、もっと厳しく規制しろ! 私権を制限しろ! 緊急事態宣言を早く出せ! とテレビと一般庶民が下から突き上げてきたのが現状である。

このようなファシズム的な空気の中で、ストレートに政府に批判を向ける人々がいる。それが、「要請するなら補償しろ」とスローガンをかかげて街頭デモを行なっている人たちだ。

「要請するならもっともっと毎月補償しろ!」(5月5日高円寺)

◆補償がなければ外出して働くしかない

4月中旬、生活苦に陥った人たちが「要請するなら補償しろ」と東京渋谷駅周辺でデモを開催したニュースをインターネット上で知った。

デモの第一弾は、4月12日。渋谷ハチ公前広場に集まり、安倍晋三首相の私邸がある富ヶ谷、麻生太郎蔵相の私邸がある神山町などの高級住宅街を練り歩いた。

デモ第二弾が4月26日にも同じ渋谷であると聞き、取材に行ってみた。呼び掛けたのは、休業でキャバクラでの仕事を4月上旬に失ったヒミコさんだ。

「私自身も生活苦のなかで精神的にとても苦しいです。もともとアルバイトで月収が10万円を切ることもあり苦しかったです。今度のコロナでその仕事も失いました。マスク2枚じゃ食えねえぞと思っている人はいっぱいいます。安倍さんや麻生さんに、月10万円で暮らせるか聞いてみたい」

デモを呼び掛けたヒミコさん。彼女は4月上旬に職を失った(5月5日高円寺)

ちょうど、すべての住民一人当たり10万円を給付するとの決定が発表されて間もない時期だった。その決定から約1カ月経過した今も、ほとんどの人は給付されていない。

デモをやり始めると、外出要請を破ってデモのために人が集まることに対し、コロナテロリスト! 乞食! などとインターネット上で罵声を浴びせる「コロナ警察」「自粛警察」も多かったが、賛同する声も多かった。

ヒミコさんは「非難があるけれど、デモやるべきだと思った」と言っている。2回のデモは、一般庶民を苦しめる側の安倍首相や麻生財務大臣らが住む地区で実施したが、今度は、デモに参加する人に、より近い存在の杉並区高円寺を選んだ。

デモを監視しメモする警察(5月5日高円寺)

◆「絶対に生き続けてしゃべり続けたい!」

5月5日夕方、中央線高円寺北口駅前広場に110人ほどが集まった。安定した給料と補償がある公安警察も多数「参加」し、こまごまとメモをとっていた。

いろいろな人がマイクを手に取り、思いを語った。

参加した男子学生は言った。

「夜に飲食をするなというのは、水商売とかそういう仕事をしている人への差別を感じる。そうじゃなくて休ませるなら補償しろと訴えたい」

自ら右派系と称する男性も広場に駆け付けた。

「私は、弱い人にやさしい『美しい国を取り戻そう』と主張するためにここにやってきました」

「弱者と困窮者に優しい『美しい国』日本を取り戻せ」(5月5日高円寺)

「要請は補償とセット」(5月5日高円寺)

前日に、デモが東京であることを知って京都からやってきた20代に見える女性は、こう話した。

「政府のひとたちは、私みたいな人間が一人でも死んでくれればいいと思っている。今まで税金を払ってきたけれど、今のような事態のときにこそ、その税金が私たちの家賃や給料になるべきじゃないですか!? ここで警察が監視してますが、私たちが納めた税金が警察ども給料になっている。みんな大変だと思うけど、絶対に生き続けしゃべり続けたい! いまの政府の奴らを許さない!」

まったくそのとおりで、たかだが110人のデモに制服警官や相当数の公安警察を導入しているのは、どうみても税金の無駄遣いであり、その分をコロナ被害者の補償につかうべきだ。

◆諮問委員会のメンバーを見ると補償は絶望的?

だが、休業だけ要請し、従わない(あるいは従えない)人々を追い詰める政府による虐待行為は、これからも続く可能性がある。

その兆候は、コロナウイルス対策のために政府が設置した「基本的対処方針等諮問委員会」に、緊縮財政派の専門家を新たに加えたことに現れている。

諮問委員会に4人の経済専門家を加えたのだが、そのひとり小林慶一郎・東京財団政策研究所研究主幹について、京都大学レジリエンス研究ユニット長の藤井聡教授が次のようにツイートしている。

〈「経済」専門家会議に入った小林慶一郎教授。この方は、「財政再建が経済成長率を高める」と完璧な嘘話をさも正しきモノのように大学教授の名を借りて語る人物。政府がこの人物を選んだ時点で「補償も給付もやらねぇよ!」と断定した事になります(5月13日付ツイート)〉

検察庁法の改正で、政権に都合のいい人物の定年延長を図ることは、非常に迅速に進め、経済危機にあえぐ人々にへの補償は、極端に遅い。

とくに、かたくななまでに補償しない政府の方針は、世界各国と比較して病的ともいえる。となれば、声を上げ続けることと、政権を倒す以外に道はない。

「永年の低賃金でコロナの前から非正規労働者は生活困窮しているんだ!!」(5月5日高円寺)

▼林 克明(はやし・まさあき)

ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2020年6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る

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