《2月のことば》Power to the People(鹿砦社カレンダー2023より。龍一郎揮毫)

 
年が明け、あっというまに2月になりました。
「1月は去(い)ぬ、2月は逃げる、3月は去る」といいますが、これから月日が経つのは、あっというまです。
心して一日一日を悔いのないように過ごしましょう。

「Power to the People」はジョン・レノンがベトナム戦争末期の1972年に発表した曲名です。
私たちの時代には「人民に権力を」と訳しましたが「人々に力を」と訳す人もいました。
いずれにしろ、世界中の「人民」や「人々」が力を結集しベトナム戦争の終結に至らしめたというのは歴史的事実です。

今、ウクライナ戦争が始まり1年が経とうとしています。
これが戦争の末期なのか、さらに継続する節目なのか分かりませんが、世界中の人々の力によってウクライナ戦争の終結が一日も速く来ることを心から祈りたいと思います。
平和への「種を蒔いたら いつか芽を出す花が咲く」ことを祈りたい。

さて、私事ながら、2月1日という日は、51年前の1972年2月1日、まだ20歳になったばかりの私は、志を同じくする学友と共に学費値上げに抗し、これを実力で阻止せんと闘い逮捕された日です。
100名以上の学友が検挙され43名が逮捕、10名が起訴されました。
「春秋に富む若者」(判決文より)であった私(たち)の志とは何だったのか、以後51年間、反芻しながら生きてきました。
私にとっては、誕生日、「名誉毀損」の名の下に逮捕された7月12日と共に、三大記念日の一つです。

あの酷寒の日のピュアな志を想起しつつ、残り少なくなった人生を生きていきたい──。

(松岡利康)

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年2月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年冬号(NO NUKES voice改題 通巻34号)

《1月のことば》頑張れ自分 負けるな俺(鹿砦社カレンダー2023より。龍一郎揮毫)

新しい年、2023年を迎えました。
昨年はいろいろな意味で暗い年でした。
昨年の今頃はまだウクライナ戦争は起こっていませんでした。
一国の首相が殺されるなどと誰が想像したでしょうか。
新型コロナの勢いは3年経っても衰えません。

ウクライナ戦争は、当初の予想に反し、まだ続いています。
いつこの国に飛び火するかわかりません。
かつて私たちはベトナム戦争に抗議の声を挙げました。
日本だけでなく世界中で抗議の声が挙がりました。
そうした抗議の声が続いたからこそベトナム戦争は終わり、
日本の平和も80年近く維持できていると思っています。
これからはどうでしょうか?

コロナ禍を躓きの石として私たちの出版社も、他の中小企業や書店などと同様苦しみもがいています。
もう17年余り前になりますが、『紙の爆弾』創刊直後の、「名誉毀損」に名を借りた出版弾圧の時同様、皆様方のご支援でふたたび奇跡の復活に向けて苦しみもがいています。
おそらくコロナがなかったなら左団扇で社長交代もあったでしょう。
今は社長交代どころか生きるかくたばるかの瀬戸際です。

1月の言葉は別のものでしたが、急遽変更になりました。

「頑張れ自分 負けるな俺」

まさに今の私たちの心境を表わす言葉です。
みずからに更に鞭を打ち、この苦境を突破するしかありません。
本年もよろしくお願い申し上げます。

(松岡利康)

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年1月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年冬号(NO NUKES voice改題 通巻34号)

 

日本の崩壊がいよいよ可視的なレベルにまで高まってきました。「国民総中流」、「Japan as NO.1」との形容があったことすら知らない世代が既に成人を迎えています。安倍、菅のあと就任した岸田首相は、所信表明演説で「改憲の迅速化」と「原発の再稼働」を明言しました。ほかにも些末なことに言及していましたが、ほとんどすべての政策が2022年年末に「破綻」していることは、自民党支持者を含め多くの国民が同意するところです。

広島出身の岸田総理には主としてマスメディアから、的外れな期待もありました。また来年開かれるサミットを広島で開くことに、積極的な意味を見出す言説です。しかし考えてみてください。2000年の「沖縄サミット」は沖縄に少しでも平和の助け舟を出したでしょうか。幾度も選挙で辺野古基地建設反対の意思を表明しても、結局政府は「沖縄無視」を決め込んでいます。広島サミットが実施されてもその果実はほとんど皆無でしょう。

「二酸化炭素」を最大の悪者とする世界において原発は国連が発するSDGsとのお題目から、生き残る護符を得ました。広島で各国首脳が原爆被害者に哀悼の意を表面上表したところで、現在最も深刻な問題である「核兵器」、「原発」の削減や廃止についての議論にまで話題が及ぶことは「絶対」といってよいほどありません。

わずか一世紀前弱の記憶はおろか、十年ほど前の記憶すら、権力者や金持ちにとって不都合であれば「なかったものにしよう」、「被害を最小化に閉じ込めよう」と蠢いて恥じないのがこの国の心象です。どこまで矜持と良心を放棄すれば気が済むのか、と当該人物顔の前十センチ前で尋ねてみたいと思うのは、気が短いせいでしょうか。

ことしは大きな戦争が起きました。おそらくは専門家でも予想できなかった規模と戦法によってウクライナがロシアに侵略されました。冷戦終結前は同じ国であり言語も似通った近隣国による不幸な戦争です。この戦争に軽薄な日本の政権を含む右派は「現在の日本国憲法では国が守れない」、「米国と核兵器を共有すべきだ」と無知丸出しの恥ずべき感情を吐露しました。その失当さは本文で「原発を止めた裁判官」、樋口英明さんが看破していただいています。

この国も、世界もどうやらこれまでよりも格段に速度の速い文明の転換点に確実に入ったようです。きのうまで当たり前であったことが明日認められる保証がどこにもない時代です。今一度「なにが起こるかわからない」時代への心の準備を再確認し、まずは原発の全廃に向けて進もうではありませんか。

2022年12月
季節編集委員会

12月11日発売 『季節』2022年冬号(NO NUKES voice改題 通巻34号)

季節 2022年冬号
NO NUKES voice改題 通巻34号 紙の爆弾 2023年1月増刊

[グラビア]福島の記憶 2011-2022(写真=飛田晋秀

鈴木エイト(ジャーナリスト)
《インタビュー》大震災の被災地で統一協会は何をしていたか

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
人は忘れっぽい、でも忘れるべきでないこともある

今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
マボロシが蘇ってきたような革新炉・次世代炉計画

菅 直人(元内閣総理大臣/衆議院議員)
時代に逆行する岸田政権の原発回帰政策

樋口英明(元裁判官)
《インタビュー》「原発をとめた裁判長」樋口さんが語る「私が原発をとめた理由」
《緊急寄稿》40年ルールの撤廃について

飛田晋秀(福島在住写真家)
《インタビュー》復興・帰還・汚染水 ── 福島の現実を伝える

広瀬 隆(作家)
《講演》二酸化炭素地球温暖化説は根拠のまったくないデマである〈後編〉

鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
《検証・福島県知事選》民主主義が全く機能していない内堀県政が続く理由

森松明希子
(原発賠償関西訴訟原告団代表/東日本大震災避難者の会Thanks&Dream[サンドリ]代表)

最高裁判決に対する抗議声明
司法の役割と主権者である私たちが目指す社会とは

伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
「原発事故避難」とは何なのか

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
経産省「電力ひっ迫」で原発推進のからくり

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
原発政策の転換という反動的動きを見て

漆原牧久(「脱被ばく実現ネット」ボランティア)
自分の将来、すべてが変わってしまった
311子ども甲状腺がん裁判第二回口頭弁論期日に参加して

板坂 剛(作家/舞踏家)
何故、今さら猪木追悼なのか?

松岡利康(鹿砦社代表/本誌発行人)
いまこそ、反戦歌を!

細谷修平(メディア研究者)
シュウくんの反核・反戦映画日誌〈3〉
映画的実験としての反戦 『海辺の映画館―キネマの玉手箱』を観る

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
「辞世怠(じせだい)」原子炉ブームの懲りない台頭

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈18〉
文明世紀末から展望する~新たなユートビアは構築可能か~

再稼働阻止全国ネットワーク
「原発の最大限の活用と再稼働の全力推進」に奔走する岸田政権に反撃する!
《北海道》佐藤英行(後志・原発とエネルギーを考える会 事務局長)
《東海第二》横田朔子(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《新潟》小木曾茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
《志賀原発》藤岡彰弘(志賀原発廃炉を求める「命のネットワーク」有志)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《川内原発》向原祥隆(反原発・かごしまネット代表)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)

反原発川柳(乱鬼龍選)

《12月のことば》望むことは あなたと生きることだ(鹿砦社カレンダー2022より。龍一郎揮毫)

師走に入りました。このカレンダーも最後の1枚となりました。

皆様方にとって、この1年はいかがでしたか?

世間の大半は、コロナ禍の影響で塗炭の苦しみを味わっておられることでしょう。

加えてウクライナ戦争や円安による物価高──。

特にウクライナ戦争は対岸の火事ではなく、かつてのベトナム戦争を想起させて深刻です。

いつ日本に飛び火してくるかもしれません。

一日一刻も早い停戦を望みます。

先の大戦で、世界で初めて原爆を落とされ、沖縄を最前線として全土が焦土化された日本は、今こそイニシアティブを取り和平に向けて奮闘すべきです。

今、どのような苦しみを味わおうとも、日々多くの人々が殺されているウクライナの情況に比すればなんともありません。

「望むことは あなたと生きることだ」──励まし合い共に生きていこう!

*来年のカレンダーが出来上がってまいりました。『紙の爆弾』の定期購読者/会員の皆様から(同誌と一緒に)発送を開始いたします。ご期待ください!

(松岡利康)

『紙の爆弾』と『季節』──今こそタブーなき鹿砦社の雑誌を定期購読で!

《11月のことば》今を生きろ(鹿砦社カレンダー2022より。龍一郎揮毫)

2022年のカレンダーも残すところ2枚となりました。いつまでも終息しない新型コロナ禍、これに苦しめられながらアップアップの日々でした。加えて台風、水害などの自然災害、知床観光船の沈没事故、沖縄「本土復帰」50周年、安倍前首相暗殺、目を世界に転じれば、2月に始まったロシアによるウクライナ侵略戦争……目まぐるしくいろいろなことが起きました。あまりに日々の生活に追われ気づきませんでしたが、じつは本年は歴史の転換点だったのかもしれません。

目を背けたくなるような出来事が続き、また酷暑、コロナ禍などに苦しめられてきましたが、現実から逃げることなく「今」を精一杯生きようではありませんか!

「鹿砦社カレンダー2023」の制作も、校了し今月末の完成予定です。『紙の爆弾』『季節』定期購読の皆様方には、12月発行の本誌と共にお届けいたします。まだ定期購読をなされていない方は今からでもよろしくお願いいたします。毎年好評で品切れになりますので、お早目にどうぞ!

(松岡利康)

『紙の爆弾』と『季節』──今こそタブーなき鹿砦社の雑誌を定期購読で!

《10月のことば》あるがままで いいんだよ(鹿砦社カレンダー2022より。龍一郎揮毫)

「あるがまま」でいることは、実は難しいことです。若い時には、格好つけたり粋がったりしました。必要以上に背伸びしたりもしました。みなさん、そんな経験ないですか?

齢を重ね、酸いも甘いも経験し、もう格好つけることにも粋がったりすることにも背伸びすることにも疲れました。

肩の力を抜いて自然体で生きてゆこう。「あるがまま」に──。

月日の経つのは速いもので、今年のカレンダーも、あと3枚となりました。ここ3年近くコロナ禍との闘いでした。これだけ長期化するとは思ってもいませんでした。税金や社会保険、公的融資等の猶予措置も終わり、挫けるケースも出始めています。励まし合い支え合って、この難局を乗り越えていきましょう!

来年のカレンダーの制作も進んでいます。書家・龍一郎も、ここ数年連れ合いやご母堂、さらには師と仰ぐ中村哲医師を亡くしたり、みずからも大病で病に伏し今も闘っている中で心血を注いで揮毫しています。『紙の爆弾』や『季節』の定期購読者の方々には12月発行の号と共にお届けいたします。ご期待ください! 未だ定期購読を申し込まれていない方は今すぐお申し込みください。

(松岡利康)

『紙の爆弾』と『季節』──今こそタブーなき鹿砦社の雑誌を定期購読で!

《9月のことば》秋桜がきげんよく咲いている 幸せそうにゆれている(鹿砦社カレンダー2022より。龍一郎揮毫)

9月になりました。

ここ甲子園では高校野球が終わると、暑さの中にも涼風が吹き、一気に秋に向かいます。時の経つのは速いもので、今年も3分の2が過ぎたことになります。

一昨年からずっと新型コロナと、これによって惹き起こされた経営上の打撃に苦しみながら過ごしてきました。私たちだけではありません。皆様方のうち多くの方々もそうでしょう。知人の中には店を閉じた人もいます。

もう秋桜(コスモス)が咲く季節かあ、今年も残り3分の1、木枯しの吹く季節が来るまでに、しっかり身支度したい。──

(松岡利康)

『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

1945年8月15日に大日本帝国は、天皇ヒロヒトがあらかじめ録音しておいた「玉音放送」をNHKラジオを通じて放送し、国民に敗戦を伝達した。連合国との戦争に無条件降伏したのだから、あの戦争は「負け」であった。第二次大戦における日本の敗戦、それにとどまらず15年戦争の総体が敗戦に帰結したのは歴史的に確定した事実である。

勿論わたしも日本の敗戦にはこれまで全く疑義を持ったことはなかった。戦前と戦後が隔絶せず、不謹慎な地下水脈で繋がっている構造への不信感は持っていたにせよ(あるいは敗戦処理を自国民の手では充分になしえなかったのではないかとの疑義も)、日本の敗戦を疑ることはなかった。史実的にはわたしがどのように感じようと日本の敗戦は確固としたものであって、どんな材料を持ってきたところで「日本の敗戦」を疑う視点は、焦点のずれた議論だ。


◎[参考動画]宮内庁:玉音放送の原盤を初公表(毎日新聞)

それを承知の上で、あえてごく最近ではあるが頭に浮かんだ想念がある。

あの戦争で日本は負けた。これは間違いない。しかし、形式上の負けの陰に隠れて、「戦前日本(大日本帝国)が死守したかったもの」の確保が、実のところ果たされているのではないか。つまり「敗戦」との言葉の陰には「実体的には不変」である秘匿すべき本質の保持。なにを差し置いても、どれだけの被害が出ようとも、死守したかった唯一最大の精神的幻想はいまも戦前同様に生きつづけているのではないか、と感じる事件が起きたからだ。

今次わたしを再びこの問題に立ち返らせたのは、他でもない7月8日に安倍元首相が殺された、その日の午後からであった。あの事件がきっかけになり、わたしの想念は元首相が殺されたことよりも「戦前日本(大日本帝国)が死守したかった何ものか」へと思考が傾注した。

事件は参議院選挙中であったこともあり、各政党は次々に「民主主義に対する卑劣な攻撃で、絶対に許すことができない」旨のコメントを発信し、選挙活動を1日停止した。驚いたことにネットニュースでチェックしていたら、地上波各局のアナウンサーは黒いネクタイや、あからさまな喪服を着て同じ内容を繰り返し放送していた。

「民主主義に対する卑劣な攻撃で、絶対に許すことができない」最初の違和感はこのコメントだ。わたしは第一報をラジオで聞いた。現場の様子の録音だ。安倍元首相の演説が始まって間もなく、火薬の爆破音が聞こえ、二回目の爆破音が明瞭に聞こえた。素人のわたしにその音だけで判断できたことは、使用された武器は一般の拳銃やライフルではないことだ。拳銃やライフル(自動小銃)はあのような爆音はしない。むしろ文字にすれば「パン」あるいは「タタタ」という感じの軽い音がするものだ。だからアナウンサーが「銃で撃たれた」と伝えていたので、武器は水道管かなにかを利用して作ったものだとすぐにわかった。そしてそうであれば、組織的な犯行ではなく、完全に個人的な犯行である可能性が高い。いまの日本で組織的に政治目的を保持しながら、独自の銃器や爆弾の作成を実行している団体があると、わたしには思えなかったからだ。つまり政治的な文脈ではなく「個」と「個にかかわる国家的なもの」の観点をクローズアップせざるを得なくなるのではないか、と直感した。

わたしの直感通り犯行実行者に、政治的な目的がなかったことは数日で判明した。背景に未だ知られていない力学がある、との説も残ってはいるが、統一教会の存在が事件に大きくかかわっていることがはっきりした。

ここでわたしの想念が行きつ戻りつしはじめたのだ。安倍元首相が統一教会と懇意であることは、従前から前から知っていた。それに加え安倍元首相が敬愛してやまない祖父である岸信介が日本に統一教会を招き入れた、実質上の最大功労者であることも承知していた。安倍元首相は岸信介のすべてに心酔していた。小学生時代に当時家庭教師をしていた現衆議院議員の平沢勝栄に東大闘争の様子を見せられれたとき、安倍元首相は「おじいちゃんは悪くない!」と憤激したエピソードを平沢から聞いたことがある。祖父と孫の間睦まじい関係はいいだろう。ただ「おじいちゃん」はいかにも不思議な人物である。

岸信介は大戦中に商工大臣の地位にあり、戦後東京裁判でA級戦犯と認定された。ところが3年半の勾留のあと岸は不起訴で保釈されている。A級戦犯で有罪が下った14名のうち7名は死刑が執行され、残りの7名も終身禁固や有期禁固刑が言い渡されている。死刑を免れたA級戦犯のほとんどは1952年全国的に展開された「戦犯保釈運動」などの影響で出獄しているのではあるが、岸が起訴すらされなかった理由は(あれこれ解説は散見するが)わたしには判然としない。

そして、公職追放されたにもかかわらず岸は周知のとおり、総理大臣の地位にまで上り詰め、戦争中は内閣の一員として対峙していた、米国と日米安保条約を締結する。「鬼畜米英」が終戦から15年もせずに「軍事同盟」を結ぶに至るメンタリティーを、まずわたしは理解できない。もっとも岸個人ではなく、自民党の議員も同様の行動をしたのだから、「日本人って不思議な精神性をしているなぁ」といったところだ。

岸は米国とは安保を締結し、韓半島からは文鮮明を招き入れていたのだ。統一教会の教義は日本を韓国に貢がせる国としていて、本来日本の保守政治家には親和性のない教義だと思われるかもしれないが、文鮮明はたくさんの土産を岸に用意したのだろうし、岸だって相手が誰であれ「利用できるものは利用する」人間であるから、利害が共有できたのだろう。

だからといって、岸個人や自民党に多少都合がよくても、日本国民や日本外交(国益)に統一教会が利益をもたらしたのかといえば、回答は7月8日に出た通りである。多くの人が最近になって安倍元首相の死を「身から出た錆」、「自業自得」と表現している。そう表したい気持ちもわからなくはないが、その奥に緞帳のように広がる、さらなる暗黒が見落とされてはいないだろうか。

手がかりを示してくれるのは岸信介だ。彼はどうしてあれほど熱心に満州国建国に尽力したのか。どうして東京裁判で起訴されなかったのか、なぜ米国との軍事同盟を自身の総理の座と引き換えにも優先したのか、そして文鮮明(=統一教会)をはじめとする、主張においてまったく相容れない団体とも深い関係を築いたのか。岸は何を得ようとしなにを守ろうとしていたのか。岸の行動は「戦前日本(大日本帝国)が死守したかった何ものか」を象徴的に体現したと考えられないだろうか。

安倍元首相が「戦前日本(大日本帝国)が死守したかった何ものか」のために殉じたい、と考えたことはあっただろうか。彼は常々支離滅裂な愛国論を語り、軍拡にも熱心であったが、敬愛する祖父のまいた種が皮肉にもみずからの命を奪うことをあらかじめ知っていたら、統一教会との関係を従来通り続けただろうか。

安倍元首相殺害は大きなニュースではあるが、統一教会を整理すれば問題は片付くだろう。しかし岸信介までさかのぼってその精神性の問題まで掘りあかされることを政府は望んでいない。被疑者を4か月もの長期間精神鑑定すると決定したのは、これ以上被疑者の口から吐かれる言葉を封じるためであり、国葬を手早く決めたのも安倍元首相の称揚のためというより、この事件が触れるかもしれない更なるやっかいな「戦前日本(大日本帝国)が死守したかった何ものか」の問題には、絶対に議論を向けたくなかったのが岸田総理の本音ではないか。その証拠に総理大臣就任時あれほど声高だった「憲法改正」が今次内閣発足の際には一切言及されることはなかったではないか。

終戦記念日の8月15日、形式上の敗戦に隠れて戦後から生き残った「戦前日本(大日本帝国)が死守したかった何ものか」は決して弱体化しておらず、むしろその総体がもとよりさらに厄介な代物に変容しているのではないだろうか。

今次にあっては理性的、合理的な判断分析はことごとく無化され放逐される。わたしたちに流布されるニュースやコメントの大半は、したがってほとんどが非本質的である。本文中「戦前日本(大日本帝国)が死守したかった何ものか」との表現で、わたしが示唆した概念は、おそらく多数の読者には了解していただけるであろう。

龍一郎・揮毫

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

旧統一教会問題と安倍晋三暗殺 タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年9月号

『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

《8月のことば》今いる場所で希望の灯をともす(鹿砦社カレンダー2022より。龍一郎揮毫)

人はよく困った時には、苦しみから、その情況やその場所から逃げたいと考えます。
ある意味で致し方のないところです。

「隣の芝生やよく見える」と言いますが、老境に差し掛かった私の経験から言っても、実際には、そうでもありません。

「今いる場所」が、たとえ地獄であっても、逃げずに踏ん張り続けよう──そこに「希望の灯をともす」。

龍一郎が当社のイベントで揮毫した「誠」という字を道場のシンボルとされている、伝説の空手家・中村誠先生は、今年のカレンダーはひときわ素晴らしいとおっしゃっておられました。私も同感です。

揮毫した龍一郎は、このかん毎年、ご母堂、学生時代から苦労を共にしてきた妻、そして師と仰ぐ中村哲医師の死と、相次いで不幸に見舞われてきました。

そこを乗り越えてきた龍一郎だからこそ言える言葉が今年のカレンダーには表現されています。

今私(たち)は、長引くコロナ禍を主たる要因として苦境に喘いでいることを隠しませんが、逃げずに「今いる場所で希望の灯をともす」ように頑張っていきたい、と思う酷暑の日々です。

(松岡利康)

「誠」 *大会で掲げられた「誠」の旗。凄い迫力だ。

「中村哲」 *中村哲医師お別れ会の看板も龍一郎が揮毫した。

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