西側メディアと「草の根ファシズム」を牛耳っている米国政府系の資金、2025年度はラテンアメリカ向けが60億、アジア向けが87億円

黒薮哲哉

米国の対外戦略、特にメディア戦略と「草の根ファシズム」について考察する際、米国政府系の全米民主主義基金(NED)の活動を軽視するわけにはいかない。2025年度のラテンアメリカ向けの支援金額は3,680万ドル(60億3000万円)である。また、アジア向けの支援金額は5,320万ドル(87億2000万円)である。

ラテンアメリカ向けの支援金額のうち、最も大きな比重を占めるのは、ベネズエラ、キューバ、ニカラグアの反政府勢力に対する支援である。同基金のウェブサイトは、これら3カ国について、次のように述べている。

「NEDとその中核機関は、この地域全体で現地主導の取り組みを支援し、地域社会が民主化の好機を捉え、強まる弾圧に抵抗し、不可欠な活動を維持できるよう、戦略的な助成金を提供しました。キューバ、ニカラグア、ベネズエラでは、市民団体が厳しい制約の下でも独立した情報流通を維持し、人権侵害を記録し、市民の声を上げるために残されたわずかな場を保護しました。中国とロシアが同地域への関与を深める中、NEDの支援を受けた研究者やジャーナリストは、こうした影響が国内のガバナンスにどのような影響を及ぼし、国家主権を侵食し得るかを市民が理解できるよう支援しました。」

一方、アジア向けの支援資金のうち、最も大きな比重を占めるのは中国向けである。チベットや新疆ウイグル地区に関する根拠のないニュースの資金源となっていると言っても過言ではない。

◆NEDと4つの中核機関

NEDは1983年に、米国のロナルド・レーガン大統領によって設立された。CIAから戦略上のアドバイスを受け、USAID(アメリカ合衆国国際開発庁)から資金援助を受けてきた。

同基金のウェブサイトによると、「NEDは、その4つの中核機関である国際民間企業センター(Center for International Private Enterprise=CIPE)国際共和研究所(International Republican Institute=IRI)全米民主国際研究所(National Democratic Institute=NDI)、およびソリダリティ・センター(Solidarity Center)とともに、中東欧、ラテンアメリカ、アジア太平洋地域、そしてアフリカ全域で高まる民主化運動のニーズに応えてきました」という。

引用した4つの関連団体については、今後調査する必要があるだろう。西側メディアや市民団体と深いつながりを持っている可能性が高い。メディアが世論誘導の道具へと変質したとき、最も直接的な被害を受けるのは、西側メディアが流す情報を過信している人々である。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月27日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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だれがニカラグアを孤立させてきたのか ── オルテガ大統領、選挙中止宣言の背景

黒薮哲哉

7月19日のニカラグアの革命記念日の演説で、同国のダニエル・オルテガ大統領が、今後、選挙は実施しないと発言したことが波紋を広げている。たとえばコスタリカ、グアテマラ、パナマといった近隣諸国は、抗議の意思を示すために自国の大使を召還した。オルテガ大統領夫妻による独裁が始まったというのが西側メディアの報道である。

ニカラグアのダニエル・オルテガ大統領

これを受けて、ニカラグア国民議会のグスタボ・ポラス議長は、

「重要なのは、この国において、クーデター犯や祖国への裏切り者が参加する選挙、あるいは外国の資金や外国の勢力、外国の組織から資金提供を受けている政党や団体が参加する選挙は容認できないことを、憲法上の規定として明確にしておくことだ」(スペインの国際通信EFE)

と弁解した。

ラテンアメリカで刻々と議会制民主主義が成熟している状況の下で、ニカラグアの方針が歓迎すべからぬものであることは言うまでもない。が、同時に筆者は、深い同情を感じる。誰がニカラグアを孤立させているのかという問題である。

言論の自由に関するニカラグアの状況を、1979年の革命の時期まで遡って検証してみよう。

◆文盲を撲滅キャンペーン

革命後、ニカラグア政府は言論の自由を全面的に認める方針を取った。独裁政権の時代にニカラグアの人々が最も手にしたかった宝のひとつであるからだ。まず、文盲を撲滅するためのキャンペーンを展開した。仕事を終えた農民や労働者が、夜間に文字の指導を受ける光景が全国に広がった。指導しているのは、大学生たちである。教師の一人がこんなふうに話していた。

「これらの人々は知力が劣っているから、文字が読めないのではありませんよ。独裁政権が教育の機会を与えなかったからに文字を習得していないのに過ぎません。被害者ですよ。学習すれば、だれでも読み書きができるようになります」

◆ユージン・ハーゼンファス事件

当時、わたしは米国にいた。米国のメディアは、ニカラグアには言論の自由がないと報じていた。あるときダニエル・オルテガ大統領が、米国を訪問して、講演した。その時、1人の青年が、ニカラグアで言論弾圧が行なわれるとして、大統領に釈明を求めた。大統領は、「そんなことはしていない」と、強く否定して、青年をニカラグアへ招待することを約束した。何の制限もしないので、自分の眼で言論弾圧が行われているかどうかを確かめてほしいと告げた。

1986年10月5日、ニカラグアの反政府ゲリラの支配する地区へ、武器を空輸していた米軍機が、地対空ミサイルで撃墜された。米国人のユージン・ハーゼンファスが捕虜となった。ハーゼンファスは裁判にかけられ、禁錮30年の判決を受けえた。しかし、3か月後、クリスマスの前に、ニカラグア政府は恩赦でハーゼンファスを釈放して、帰国された。当時の政府は、米国との和解を希望していた。その一環としての釈放だったと思われる。

ラテンアメリカの左派政権の国は、ニカラグアだけではなく、キューバも、ベネズエラも米国との良好な関係を望んでいた。それを常に否定して、「反米」のレッテルを張ってきたのは、西側である。

◆香港の雨傘運動と同じパターン、背景にNEDの影

1990年、ニカラグアの大統領選で野党連合が勝利して、オルテガ大統領は下野した。革命政府が構築した議会制民主主義のルールを重視したのである。オルテガ大統領は下野したことで、米国はコントラへの支援を中止した。その結果、ニカラグア内戦は終わったのである。逆説的にみるとニカラグアの人々は、野党連合の大統領に投票することで、平和を獲得したのである。従って、客観的にみれば公平な選挙ではなかったが、オルテガ大統領は投票結果を受け入れたのである。

その後も、ニカラグアは2代にわたり保守派の大統領が続き、2007年に再びオルテガ大統領の政権になった。その後、何の根拠もなく、ニカラグアはオルテガ大統領による独裁国家だという報道が行なわれるようになった。とりわけオルテガ大統領の妻であるロサリオ・ムリンニョが副大統領になってからは、独裁政権というレッテル張が激化した。

こうした流れと並行して、米国政府系の全米民主主義基金からニカラグアの市民団体やメディアに資金提供が行われた。オルテガ大統領を追放するためのメディア戦略が展開されるようになったのだ。そして2018年、香港の雨傘運動とまったく同じ事が起きた。「草の根ファシズム」が広がり、政府に対する暴動が起きた。世論誘導やフェイクニュースで世論を誘導し、混乱を起こし、政権の転覆を企てる試みが行われた。これに対してオルテガ大統領も強引な対抗策を取った。452人のニカラグア人を国籍を剥奪したのである。その中には、国際的に著名な作家のセルヒオ・ラミレス氏も含まれていた。

◆だれがニカラグアを孤立させてきたのか?

トランプ政権は、ラテンアメリカに対する干渉を強めた。ホンジュラスやチリの大統領戦況にトランプ政権が介入したことは、ほとんど公知の事実となっている。2007年1月には、ベネズエラに軍事介入して、ニコラス・マドゥロ大統領夫妻を拉致した。その後、キューバを標的にすることも公言した。さらにキューバの次のニカラグアという見方が定着している。

こうした状況の下で、オルテガ大統領が選挙の中止を宣言したのである。

繰り返しになるが、選挙の中止は、憂慮すべき事態だが、その背景を歴史的にさかのぼると、一方的にオルテガ大統領を非難するわけにはいかない。事態は複雑だ。だれがニカラグアを孤立させてきたのかを再検証する必用がある。

【参考記事】米国政府系の反共謀略組織・NEDからラテンアメリカ諸国の市民団体やメディアに63億円

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月25日)掲載の記事「ニカラグア、選挙中止宣言の背景に何があるのか?」を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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ドイツが計画する8,000億ユーロ規模の再軍備を進める要因とは何か

アンドリュー・コリブコ

日本で急速に進む軍事大国化の流れは、ウクライナをめぐる紛争を媒体として、ヨーロッパでも起きている。次のアナリシスは、かつての日本の同盟国ドイツの動きに焦点を当てたものである。

イデオロギー上の動機、経済的利益、そして個人的な利害が、支配層であるリベラル系の支配層による重大な決定の背景にある。この決定によって、ドイツはロシアによって、アメリカに代わる最大の脅威と見なされる存在になるとされている。

英紙フィナンシャル・タイムズは7月初め、「ドイツ、歴史的な方針転換として再軍備のため8,000億ユーロを借り入れへ」と報じた(【黒薮注】8,000億ユーロは、約144兆円)。その背景には、アメリカが進める「NATO 3.0」という構想がある。この構想では、NATO加盟国であるヨーロッパ諸国に自国の安全保障についてより大きな責任を負わせようとしている。

実際には、EUが西ユーラシアにおけるロシア封じ込めの中心的な役割を担うことを意味している。これは、トランプ第2次政権が過去1年間でロシアの周囲に築いた新たな「緩衝地帯(コルドン・サニテール)」構想に沿ったものであり、この地域ではドイツが主導的な役割を果たす計画となっている。

現在ドイツは、ウクライナと協力して、中・東欧地域(CEE)の主導権をめぐりポーランドと競争している。仮にポーランドが独自の「勢力圏」を築くことに成功したとしても、ドイツが計画する8,000億ユーロ規模の再軍備によって、ドイツが依然として大きな影響力を持つことに変わりはない。

すでにEUは「ロシアがEUに対して感じている以上の脅威を感じている」とされている。一方、今後ロシアは、「アメリカよりも、ドイツの方がより大きな脅威と感じるようになる可能性がある」とも指摘されている。

ロシア前大統領で現在は安全保障会議副議長を務めるドミトリー・メドベージェフは5月初め、ドイツの再軍備が1941年を想起させる脅威になると警告した。また、ロシアの著名な専門家ドミトリー・トレーニンは最近、ロシアとの戦争の危険をあおっているのは、もはやアメリカではなくEUだと主張している。

EUの事実上の指導国がドイツである以上、現在モスクワが2030年前後に起こり得ると見ているNATOとロシアの軍事的衝突への流れを作るうえで、ドイツが最も大きな責任を負っていることになる、というのがこの記事の見方である。

この動きを進める主な要因は、イデオロギーと経済の二つだとされる。

イデオロギーの面では、支配層であるリベラル・エリート層は、新冷戦を「民主主義と独裁主義の対立」と捉えている。一方、経済面では、比較的慎重な政治家たちに対して、軍需産業がこの分野への大規模な投資によってドイツの産業空洞化を防ぐと説得しているという。

しかし実際には、産業空洞化を招いている主な原因は、高いエネルギーコストと中国との競争だとしている。

それにもかかわらず、支配層であるリベラル・エリート層は、中・東欧地域、そして「NATO 3.0」のヨーロッパ側全体で主導権を握るため、ポーランドと競争する方針をすでに決めている。

ただし、その代償として国内の社会・経済の安定が損なわれていることは明らかだとされる。実際、イギリスのメディアも最近、「ドイツは静かに崩壊しつつある」と報じている。

ロシアは、核兵器を保有するアメリカがNATO第5条の義務を本当に果たすかどうかを試そうとは全く考えていないにもかかわらず、現在のドイツ政府は国民の生活を改善することよりも、ロシアの封じ込めを優先している、というのがこの記事の結論である。

※【黒薮注】NATO第5条:「加盟国の一国が武力攻撃を受けた場合、それを加盟国全体への攻撃とみなし、各国が支援する」という集団防衛の規定。北大西洋条約の第5条に定められている。

支配層であるリベラル・エリート層が前述のイデオロギーを重視している背景には、その一部が、それこそが低迷する自国経済を立て直す鍵だと思い込まされていることがあるという。また、このような地政学的な役割を担うことで得られると考えている名声も、その姿勢に影響している可能性がある。

この役割を果たすことで、ヨーロッパ各国のエリートから評価されること、さらに、自分たちが憧れの対象としているアメリカのエリートから公に認められることは、彼らにとって個人的にも重要な意味を持っている、とこの記事は述べている。

ロシアの立場から見ると、ドイツは西ユーラシアにおいて最も深刻な安全保障上の脅威へと急速に変わりつつあり、この流れが変わると政策担当者は考えるべきではない、としている。

一方で、NATO第5条があるため、ロシアによる先制攻撃は現実的ではない。また、現在のドイツ政府の政策によって一般のドイツ国民がロシアの核攻撃の対象になっていると訴えたとしても、それによって状況が変わることはないとしている。

それでも、ドイツ主導のEUがロシアを攻撃するような事態になれば、ロシアは核兵器による報復を行うことに疑いの余地はない、というのがこの記事の結論である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月22日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/whats-driving-germanys-planned-800?utm_campaign=post&utm_medium=web&triedRedirect=true

閉ざされた扉の向こうにある司法――日本における法廷アクセスの問題

黒薮哲哉

本記事は、世界ジャーナリスト評議会(GJC、トルコ)の国際誌『Global Media』に掲載した記事(筆者・黒薮)の日本語訳である。上写真 左ページはトルコ語、右ページは英語)

安倍晋三元首相を暗殺した罪に問われた山上徹也被告の裁判は、日本でこれまで十分に注目されてこなかった問題、すなわち一般市民による司法制度へのアクセスのあり方を浮き彫りにした。

2026年1月、奈良地方裁判所は山上被告に無期懲役を言い渡した。この事件は国内外から大きな関心を集めたが、実際に公判を傍聴できた人はごくわずかだった。

計15回の公判には、毎回700人から800人が傍聴を希望して裁判所を訪れた。しかし、用意された傍聴席はわずか64席だった。その半数は抽選で一般市民に割り当てられ、残りは裁判所の判断により、報道機関やフリーランスのジャーナリストに配分された。

外国人記者のうち、すべての公判に出席したのはただ一人、フランス人ジャーナリストで元AFP通信特派員のカリン・ニシムラ氏だけだった。ニシムラ氏は月刊誌『世界』への寄稿記事で、この裁判をきっかけに、日本の司法制度の透明性をめぐる、より広範な問題を提起した。

フランスでは、社会的関心の高い事件の裁判が行われる際、仮設法廷を設けたり、映像システムを使って複数の部屋をつないだりすることで、より多くの人が傍聴できるようにすることがある。2015年11月に発生したパリ同時多発テロ事件をめぐる裁判では、当局が約500席を備えた仮設法廷を設置した。それでも席が足りないことが明らかになると、映像中継と大型スクリーンを用いて、さらに11の法廷に審理の様子を中継し、数千人が裁判の経過を見守れるようにした。

日本では、社会的意義の大きな事件であっても法廷への入場が厳しく制限されているため、このような対応は想像しにくい。

◆福島原発事故とその法的余波

この問題は、山上被告の裁判に限ったものではない。原子力をめぐる訴訟でも、同様の傾向が見られる。

2011年の地震と津波によって引き起こされた福島第一原発事故の後、政府や東京電力を相手取った数多くの訴訟が提起された。その多くは現在も続いている。

例えば、福島県で実施された甲状腺検査では、子どもや若年層の間で多数の甲状腺がんが確認されており、その原因や法的責任をめぐる議論が続いている。日本が地震の多い国であることや、原子力エネルギーをめぐって長年議論が続いてきたことを考えれば、こうした訴訟に国民の関心が集まるのは当然だろう。

しかし、裁判へのアクセスは依然として制限されている。多くの市民は自ら公判を傍聴することができず、メディアの報道に頼らざるを得ない。小規模な週刊誌や月刊誌は、原告や被災地の視点に立った貴重な報道を行うことが多いものの、大手新聞やテレビ局ほどの発信力や影響力は持っていない。

◆法廷へのアクセスは問題の一部にすぎない

日本では、一般の傍聴人が法廷での審理を撮影したり、録音・録画したりすることは、原則として禁止されている。ジャーナリストも同様の制限を受ける。そのため、スマートフォンで社会のほぼあらゆる場面を即座に記録できる時代になっても、法廷スケッチは依然として裁判報道に欠かせないものとなっている。

さらに近年、新たな課題も浮上している。裁判所では、デジタルプラットフォームを通じて法廷と法律事務所をつなぎ、一部の手続きをオンラインで行うケースが増えている。こうした仕組みは効率を高める一方で、一般市民から裁判の過程を見えにくくする恐れもある。事件に直接関わっていない人にとっては、審理で何が起きたのかを知る現実的な手段がほとんどない場合も多い。

その結果、一般市民が裁判について理解するためには、審理への立ち入りを認められた比較的少数の記者に大きく頼らざるを得なくなる。重要な法的議論が、ごく限られた視点を通してしか伝わらないというリスクが生じるのである。

とはいえ、日本に表現の自由がないわけではない。法律上、言論の自由と報道の自由は強く保障されている。実際、第二次世界大戦後の日本は、概してジャーナリストを政治的迫害から守ってきた実績があり、この点では他の多くの国と比べても良好な状況にある。

◆国境を越えるジャーナリズム

民主主義社会は、法的に発言する権利だけでなく、情報を収集する能力によっても支えられている。裁判手続きへのアクセスが制限され、写真撮影や録音・録画が禁止され、公判がますます一般の人々の目の届かないところで行われるようになれば、市民は、自分たちの名の下に正義がどのように執行されているのかを理解するうえで、大きな障害に直面することになる。

こうした制限は長い間「当たり前」のものとして受け入れられてきたため、批判の対象になることはほとんどない。多くの日本人ジャーナリストは、キャリアを通じてこの制度の中で仕事をしてきた。慣れ親しんだ慣行は、時として問題として認識されにくくなるものだ。

だからこそ、ジャーナリスト同士の国際交流が重要になる。他国の制度に目を向けることで、自国では疑問を持たれないまま受け入れられている前提に気づくことがある。透明性、効率性、プライバシー、安全保障の間でどのようにバランスを取るかは、社会によって異なる。完璧な制度は存在しないが、他国との比較は、自国の制度を見つめ直すきっかけになる。

ジャーナリズムは、国境を越えることで豊かになる。他の民主主義国が共通の課題にどのように向き合っているかを検証することで、記者は自国社会に対する新たな視点を得ることができる。世界の相互依存がますます深まるなか、こうした知見や発想の交換は、ジャーナリズムが果たす最も価値ある役割の一つだと言えるだろう。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月24日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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ブダノフ氏、民族的に純粋な国家を目指すウクライナ民族主義者の幻想を打ち砕く

アンドリュー・コリブコ

皮肉なことに、彼らが実際に築き上げたのは「ファシストの理想郷」ではなく、リベラルな暗黒社会だった。

「ウクライナ民族主義者組織(OUN)」と、その武装部門である「ウクライナ蜂起軍(UPA)」は、民族的に純粋な国家を目指してポーランド人などを大量虐殺した組織であり、「マイダン」後のウクライナの建国の父と位置づけられている。

【黒薮注】マイダン:本来はキエフの独立広場を指すが、現在では一般に2013~2014年にウクライナで起きた大規模な反政府運動を意味する。

そのため、ウクライナの民族主義者たちは、2014年から続くロシアとの戦い、とりわけ2022年の特別軍事作戦開始後の戦いによって、この目標に近づけると考えていた。キエフ政権がロシア語、ロシア文化の一部、そしてウクライナ正教会を禁止したことも、彼らに希望を抱かせた。

しかし、その幻想は、ゼレンスキーの大統領府長官キリル・ブダノフによって打ち砕かれた。ブダノフは6月下旬、春にも述べていた、人口減少を補うために移民をさらに受け入れる必要があるという主張を改めて示した。彼は「今では私たちの人口は大幅に減っている。誰かを怖がらせたいわけではないが、本当に大幅に減っている」と述べた。

それより約6週間前の5月初め、社会政策相デニス・ウリューチンは、現在ウクライナ国内に暮らしている人は2,200万~2,500万人にすぎないと明らかにしていた。そのうち少なくとも1,000万人は年金受給者だと、ウクライナ年金基金が4月初めに推計している。

さらに懸念されるのは、ユニセフが昨年、18歳未満の子どもは660万人いると推計していたことだ。これらを合わせると、国内に残っている生産年齢の成人はわずか600万~900万人ということになる。

世界銀行が公表している2024年の最新データでは、人口に占める男性の割合は46%と推計されている。単純に計算すれば、ウクライナの生産年齢男性は約276万~414万人しかいないことになる。そのうち、正確な割合は不明だが、現在の戦闘によって死亡したり、恒久的な障害を負ったりした人も少なくない。

戦略国際問題研究所が2026年初めに示した、ウクライナ側の死傷者数は50万~60万人という推計を受け入れるなら、これはおそらく実際より低い数字だとしても、ウクライナに残る生産年齢の男性は最大でも約200万人強~350万人にすぎないことになる。

したがって、ブダノフが「今では私たちの人口は大幅に減っている」と述べたのは、決して誇張ではない。EU域内にいる430万人のウクライナ人のうち、成人男性は26%にすぎず、人数にすると100万人を少し上回る程度である。しかも、戦闘が終わった後も、その全員が帰国するわけではない。

そのためウクライナは、経済を支えるため、あるいは人口を補うために、文化的背景の異なる外国人の大量移住を進めざるを得なくなる。西ヨーロッパの例を見るかぎり、彼らが現地社会に同化することは期待できない。

さらに、移民の多くはウクライナ語を話せず、英語にも堪能とはかぎらないため、ウクライナ政府が彼らの言語を現実的に禁止することはできない。なお、2024年に成立した法律は、国家官僚機構全体で英語の使用を義務づけており、この動きも民族主義者たちを困惑させたに違いない。

民族主義者たちは、戦闘が終われば民族的に純粋な国家が実現すると夢見ていた。しかし実際には、ウクライナは西ヨーロッパでも特に多文化化が進んだ国々と同じような社会へ向かっている。

さらに、多様な住民同士の共通語として、日常生活では英語がウクライナ語に取って代わる可能性も高い。民族主義者の立場から見て同じように問題だったのは、ゼレンスキーが2022年5月の世界経済フォーラムで、西側の協力国に対し、「ウクライナの特定の地域、都市、自治体、または産業を支援・管理する役割」を提案したことである。

その結果、ウクライナは、民族主義者たちが自らの「犠牲」によって守れると考えていた国家のアイデンティティーと主権の両方を、この戦闘を通じて失うことになった。

そのため、民族主義者と国家の間で対立が生じる可能性は高い。ただし、これは十分に予想できる展開であるため、ウクライナ保安庁はすでに彼らを監視し、反対運動が表面化するのを事前に防ごうとしている可能性がある。特に、暴力的な形に発展する動きは警戒されているだろう。

皮肉なことに、ウクライナの民族主義者たちは、最終的に「ファシストの理想郷」ではなく、リベラルな暗黒社会を築くことになった。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月15日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/budanov-crushed-ukrainian-nationalists

しばき隊の弁護士が共産党の演説会に登壇

黒薮哲哉

7月2日に、『しんぶん赤旗』で、暴力的なカウンター運動との決別を発表したばかりの日本共産党の演説会に、なんとしばき隊の弁護士、神原元氏が登場した。下記の写真は、X上の画像のスクリンショットである。わけが分からないというのがわたしの実感だ。ようやく選挙の投票先を共産党へ戻せると思っていた矢先なので残念だ。

共産党は、今年の7月で結成104年を迎えた。100年の活動を経て、国民の支持率が10%(マスコミの調査では3%程度)に満たないのは、やはりどこかに問題があるからだろう。フィデル・カストロは、グランマ号の上陸から、約2年で独裁政権を倒した。エルサルバドルのファラブンド・マルティ民族解放戦線も早かった。時間を費やせば、運動が好調に進展するとは限らない。

共産党はかつては、「押し紙」問題にも熱心に取り組んでいたが、次第にこの問題から遠のいた。マスコミと正面から対峙することを避けたのではないか。

わたしが最初に同党の異変を感じたのは、2014年である。吉良よし子議員が、携帯電話基地局の設置を促進するように、国会で政府に要請した時である。

携帯電話基地局で癌の発生率が高いことを示す疫学調査は複数存在する。予防原則の立場から、規制すべきというのがわたしの見解だ。共産党の紙智子議員も、電磁波に警鐘をならしていた。

ところが、吉良議員がとんでもない言動に及んだのである。わたしの推測になるが、携帯電話が手放せない青年層にこびた結果ではないかと思う。小沢一郎との共闘も間違っていた。

共産党は暴力的なカウンター運動から距離を置くことを宣言しながら、2014年12月の大学院生暴行事件をなかったことにしようとして来た弁護士と共闘したのである。情報弱者なのだろうか?

神原弁護士が、しばき隊を擁護するために、過去にどのような裁判を起こしてきたかを正確に検証すべきだろう。わたしは、共産党の民主集中制を批判するつもりはないが、情報の分析そのものが間違っている場合がままあることに苦言を呈したい。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月22日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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ニカラグア革命47年 西側メディアは何を伝え、何を伝えないのか

黒薮哲哉

ニカラグアは、7月19日に47回目の革命記念日を迎えた。1979年7月17日、40年にわたってニカラグアの政治・産業・軍部を私物化してきたソモサ独裁政権が崩壊し、その2日後の7月19日、FSLN(サンディニスタ民族解放戦線)が首都マナグアを制圧した。

この国については、西側メディアによって断続的にネガティブな情報が発信されてきたため、客観的な政情が見えにくくなっているのが実情である。西側報道のどこまでが事実で、どこからが事実とは異なるのかを検証する必要がある。

◆米国とニカラグアの関係史

その前に、米国とニカラグアの関係を簡単に振り返っておこう。歴史的に敵対してきた事実があるのだ。

起点は1856年である。この年、米国人の冒険家ウイリアム・ウォーカーがニカラグアに乗り込み、傭兵を率いて首都を占領し、自ら大統領を名乗った。しかし、ウォーカーは民衆の蜂起によって、あっけなく殺された。その後、米国海兵隊はたびたびニカラグアに侵攻し、占領を繰り返すようになった。

これに対し、1927年、アウグスト・サンディーノが率いるゲリラが武装抵抗を開始した。サンディーノは1933年1月、米国海兵隊を完全撤退へと追い込んだ。

しかし、米国のニカラグア支配への野望は終わらなかった。翌1934年、サンディーノは国家警備隊に拘束され、殺害された。遺体は、あらかじめ掘られていた墓穴に埋葬された。これを契機として、ソモサ一家による軍事独裁政権が誕生する。ソモサ一家は米国を後ろ盾に、親子3代、約40年にわたってニカラグアを支配した。しかし、この独裁政権は1979年、FSLNによる革命によって崩壊したのである。

米国はこれに対抗し、隣国ホンジュラスを事実上の米軍基地化し、そこを拠点に傭兵部隊コントラを使って革命政権の転覆を図った。1980年代のニカラグアは内戦の時代である。

そのさなかの1984年、大統領選挙が実施され、現在のダニエル・オルテガ大統領が約70%の得票率で当選した。しかし、1990年の大統領選挙では野党連合に敗れ、FSLNは下野する。

FSLNが政権を失うと、米国はニカラグアへの軍事介入から手を引き、内戦も終結した。

その後は保守政権が続いたが、2007年にFSLNが政権に復帰し、以後、ダニエル・オルテガ政権が現在まで続いている。

◆ニカラグア革命はキューバ革命の模倣ではなかった

わたしが初めてニカラグアを取材したのは1985年である。

当時、わたしは、ニカラグア革命はキューバ革命の模倣だと思っていた。しかし、現地の人々に話を聞くと、彼らが手本としていたのはフランス革命だという。独裁政権の下では議会制民主主義そのものが存在しなかったため、まず民主主義制度を築くことを優先していたのである。

FSLNには社会主義へのこだわりはあるものの、その根底にある理念は民族自決である。自国の運命は、自国民自身が決めるという考え方だ。

意外なことに、ニカラグアが中国との国交を回復したのは2021年12月である。わずか5年前である。その際、両国は文書によって内政不干渉を確認した。その後、中国の支援もあり、生活水準は急速に向上しているようだ。

◆西側メディアがニカラグアを批判する際に持ち出す3つの論点

西側メディアがニカラグアを批判する際に持ち出す論点は、わたしが見る限り3つある。

第一は、大統領と副大統領をオルテガ夫妻が占めていることである。第二は、報道規制である。第三は、反政府勢力に対する取り締まりである。

オルテガ夫妻が国の要職である大統領と副大統領を占めることは、権力の集中という点では問題をはらんでいる。しかし、副大統領のロサリオ・ムリージョ氏が卓越した政治手腕を持つ人物であることも事実である。

ロサリオ氏は古くからFSLNに参加し、亡命先のコスタリカではFSLNの地下放送を立ち上げるなど、大きな役割を果たした。詩人としても知られている。能力や実績の乏しい人物が権力の座に就いている場合とは、事情が大きく異なる。

反対派への弾圧やメディア規制も、やはり客観的な事実とみられる。しかし、なぜそのような政策が採られるようになったのか、その背景まで考える必要がある。だれに責任があるのかを考察しなければならない。

『メディア黒書』でもたびたび報じてきたように、米国のNED(全米民主主義基金)は、多額の資金を提供することによって、ニカラグアで反政府勢力を育成してきた。詳しくは次の記事を参照されたい。

米国政府系の反共謀略組織・NEDからラテンアメリカ諸国の市民団体やメディアに63億円

米国の対外戦略を論じる際、NEDの存在を考慮しなければ正確な分析はできない。しかし、西側メディアは、あたかもNEDが存在しないかのような前提で報道している。これは方法論としても、完全な誤りである。

NEDの戦略は、対象国の市民運動やメディアに資金を提供し、米国の方針に沿わない政権への敵対感情を醸成することである。そして社会の混乱を拡大させ、最終的には「市民」の手によるクーデターへ導くという手法を採る。典型例が香港の雨傘運動である。

日本のメディアによる香港報道も、NEDの存在を無視した「現実」の上に成り立っている。TBSが重用してきた周庭氏も、NED戦略の産物にほかならないというのが、わたしの見方である。

ニカラグアでも、香港とほぼ同じ構図が生じた。反政府市民運動は拡大し、2018年には暴動へと発展した(ニカラグア政府はクーデターと位置付けている)。死者も出た。当然、暴力行為に及んだ者は投獄され、メディアに対する規制も強化された。

◆西側メディアによるニカラグア報道の偏向

以上の経緯を踏まえると、西側メディアによるニカラグア報道は、必ずしも全体像を正確に伝えているとはいえない。NEDの存在を報道から切り離してしまえば、ニカラグアで起きている出来事の背景は見えなくなり、全体像もかすんでしまうのである。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月20日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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ニューヨークタイムズが「日本におけるロシア人のスパイ活動」を報じた真の狙いは

アンドリュー・コリブコ

ニューヨーク・タイムズが報じた「日本におけるロシアのスパイ活動」を扱う記事は、日本国内でロシアに対する警戒感を過度に高め、対ロシア強硬政策を正当化することが目的である。筆者は、その結果として、日本が情報機関の強化や軍備増強を進め、それに対抗してロシア・中国・北朝鮮の軍事協力が一層強化される可能性を指摘する。以下の論評から西側メディアが果たす負の役割も垣間見える。

その狙いは、日本社会と政府の双方に反ロシア的なスパイ・ヒステリー(スパイをめぐる過熱した危機感)を煽り、より強硬な対ロシア政策を正当化させることにある。その結果、トランプ2.0が日本を取り囲むように構築した新たな「緩衝地帯」の一翼を担い、この島国が北東アジアにおけるロシア封じ込めにおいて、より積極的な役割を果たすことになるのだ。

『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』は週末、「プーチンはいかにして日本をスパイの巣窟に変えたのか(How Putin Turned Japan Into a Den of Spies)https://www.nytimes.com/2026/07/12/world/asia/russia-spies-japan-war-drones-electronics.html?eafs_enabled=false【日本語訳】chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2026/07/4deb84ffe99b57f5d6ae7f270cf7d654.pdf
という記事を掲載した。この扇情的な見出しは、ロシアが日本社会に深く浸透しているかのような印象を与える。しかし実際の記事の内容は、ロシア軍情報機関の一部門が日本から軍民両用(デュアルユース)の部品を調達したとされる手法について述べたものに過ぎない。記事によれば、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)第20局は、アエロフロート航空の日本支社とその公式提携先を利用し、ベトナムを経由した積み替えによってこれらの調達を行ったとされている。

NYTの記事の狙いは明白である。第一に、日本社会と政府の双方にロシア恐怖に基づくスパイ・ヒステリーを引き起こし、それによって日本による対ロシア政策の一層の強硬化を正当化することである。その最も直接的な形としては、象徴的な措置ではあるが、ロシア外交官の追放が考えられる。また、アエロフロート航空に対する制裁が日本だけでなく、東京が(共通の後ろ盾である米国からの水面下の働きかけを受けつつ)他の地域諸国にも同調を促すことで、周辺諸国へと広がる可能性もある。

仮にそうした展開にならなかったとしても、NYTは「当局者らはスパイ活動の脅威を認識しており、何十年も続いてきた情報収集上の制約を取り除こうとしている」と報じている。また、「日本には外国情報機関すら存在しない」とも指摘している。記事全体の文脈からすれば、たとえ米国が戦後に課した憲法のために法的(de jure)には実現しなくても、事実上(de facto)はこれを口実として外国情報機関が創設される可能性を示唆している。この記事によって引き起こされるかもしれないロシア恐怖のスパイ・ヒステリーこそ、その実現に一役買うかもしれない。

実際、NYTは「外国政府は、日本の技術がロシアへ密輸されていると繰り返し日本政府に警告してきた」と述べており、その中にはウクライナ政府や、匿名の西側当局者も含まれている。日本は何らかの理由でこれまで行動を起こさなかったが、今回を契機にようやく動き出す可能性がある。より大きな文脈で見れば、日本は従来から、モスクワが実効支配する南クリル諸島(日本が「北方領土」と呼ぶ地域)の帰属問題が未解決であるとの認識から、ロシアを潜在的な脅威と見なしてきた。しかし、その認識は今後さらに強まる可能性がある。

だからといって、日本が近くロシアに対して軍事的威嚇を始めるという意味ではない。むしろ、社会と政府に広がる可能性のあるロシア恐怖のスパイ・ヒステリーによってロシアへの脅威認識が一層強まり、その影響が今後さまざまな形で現れる可能性があるということだ。その中には、「緩衝地帯(cordon sanitaire)」構想における役割も含まれる。米国が組織するこの地政学的戦略において、日本には北東アジアでロシア・北朝鮮・中国の三国に同時に圧力をかける役割が期待されており、一方で他の米国の同盟国もロシアやその他の周辺地域で同様の役割を果たすことになる。

実際には、日本は米国の承認の下で軍備増強をどれほど急速に進めるか、さらに米国の最新兵器(特に中距離ミサイル、長距離ミサイル、無人機)をどれだけ受け入れるかによっては、三カ国すべてに対する「沈まない米国の空母」となり得る。第二次世界大戦当時の同盟国であったドイツと同様、日本の再軍備はロシアの国家安全保障に深刻な脅威をもたらし、その結果、限られた兵力や装備をこの戦線へ再配置せざるを得なくなる可能性がある。

米国がこの地域で構築を目指しているNATO型の安全保障ネットワークは、「AUKUS+」と呼ぶことができ、その主な標的は中国であり、北朝鮮にも一定の焦点が当てられている。しかし、日本におけるロシアのスパイ活動を扱ったNYTの記事の狙いを踏まえれば、米国が日本のロシアに対する脅威認識をさらに強め、ロシア封じ込めにおいて日本がより大きな役割を担うことを期待しているのは明らかである。その結果として、ロシアと中国、そして北朝鮮との軍事協力はさらに強化され、事実上の地域同盟が形成される可能性も排除できない。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月17日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/the-motives-behind-the-nyts-story?

しばき隊と日本共産党の決別

黒薮哲哉

しばき隊と日本共産党の決別は歓迎すべきことだ。共産党を離党した家登氏(右)としばき隊の関係を証拠付ける写真を昨日入手した。

Ⅹ上で公開されていたものだ。写真の中央は、しばき隊の女性リーダー、ジャーナリスト、人権派の李信恵氏。

共産党はなぜ重大な判断ミスを犯したのだろうか。おそらく事実が正確に伝わっていなかたのでは? マスコミ情報を過信したことも裏目に出た。情報の分析があまいのではないか?

※黒薮哲哉FB「メディア黒書」、日本メディアの構造的腐敗を読み解く 2026年7月15日付けより転載

《追記》松岡利康(鹿砦社代表)2026年7月16日記

しばき隊と日本共産党との癒着は、私たちが総力で取り組んだカウンター大学院生リンチ事件、いわゆる「しばき隊リンチ事件」の頃から公然と関係を誇示していました。大学院生リンチ事件は、神原元弁護士をはじめとするしばき隊系の者らが「リンチはなかった」との開き直りとデマを吹聴しても消せない歴史的事実です。

共産党が、今頃になってしばき隊を縁を切ると言っても遅いと言わざるをえないし、おそらく水面下では関係は続くものと考えています。

もし本当に共産党がしばき隊との関係にケリをつけようと思うのならば、まずは歴史を溯り、くだんの大学院生リンチ事件の総括を行うべきでしょう。ちなみに、上記写真の左は、しばき隊と行動を共にする福島恵美鶴ヶ島市議。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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米国からアジアへ、多額のNEDメディア向け資金、日本ファクトチェックセンター(JFC)は、GoogleやMetaから

黒薮哲哉

◆アジアにおける全米民主主義基金(NED)の支援対象団体

全米民主主義基金(NED)が2025年度にアジア地域を対象として交付した助成金の総額が明らかになった。NEDのウェブサイトによると、助成金の総額は530万ドル(約8億4,800万円)だった。助成を受けたのは、メディアや市民団体である。

これらの資金は、NEDの支援対象となるメディアや団体の活動に充てられてきた。2025年度の報告書(NEDウェブサイト)では、中国について次のように評価している。その内容は、西側メディアで広く報じられている論調と概ね一致している。

中国および北朝鮮のパートナー団体は、活動家のネットワークや新たな情報通信手段を活用し、国家による統制の実態を明らかにするとともに、独立した情報へのアクセス拡大に取り組みました。

中国は国内で政治的統制と自由への抑圧を一層強める一方、世界的な影響力の拡大にも力を注ぎ続けました。中国共産党(CCP)は香港、チベット、東トルキスタン(新疆)での弾圧を強化するとともに、デジタル検閲、国境を越えた弾圧、エリート層の取り込み(エリート・キャプチャー)という自国モデルを近隣諸国やさらに広い地域へ輸出しました。北京の影響力は、地域の情報環境、ガバナンスの規範、市民社会への制約にますます大きな影響を及ぼし、アジア全体の民主的価値に対する長期的な課題となっています。このような状況の中、NEDの支援を受けたパートナーは、中国共産党の影響力の実態を明らかにし、独立した情報流通経路を拡大するとともに、市民社会の活動空間を守る取り組みを進めました。

◆日本のメディアはどうか

日本のメディアがNEDから資金提供を受けたという情報は確認できなかった。

一方、日本ファクトチェックセンター(JFC)は、設立時にGoogleから150万ドル、Yahoo! JAPANから2,000万円、さらにLINEから500万円、Metaから400万円の資金提供を受けている。

【裏付け】

Upon its establishment in October 2022, JFC received grant support of USD 1.5 million from Google.org and 20 million yen from Yahoo! JAPAN.

In addition, in October 2023, JFC received funding of 5 million yen from LINE Yahoo! and, in December of the same year, 4 million yen from Meta.

https://www.factcheckcenter.jp/funding-en

◆メディアの活動資金と報道のあり方

メディアの活動資金が、NEDをはじめとする米国政府系の基金や大企業から国境を越えて提供されていることは、報道のあり方を考える上で一つの判断材料となる。資金がなければ十分な取材活動が難しい側面はあるものの、その資金提供が報道の質や編集方針にどのような影響を及ぼすのかについては、慎重に見極める必要がある。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月10日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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