東京都江東区にある高層マンションに楽天モバイルが通信基地局を設置する計画が浮上して、住民の一部から健康被害に対する不安の声があがっている。問題になっているマンションが立地しているコミュニティーは東京湾に近く、海の輝きが空に反射して白光を放っているかのような、明るく近代的なイメージがある。何棟もの高層ビルがそびえている。都心にも近く、住環境としては申し分がない。その生活圏へ楽天モバイルが事業を拡大してきたのである。

同じような問題が全国各地で起きている。電磁波問題は化学物質による汚染とならぶ新世代公害の代表格にほかならない。正体が透明で認識が難しい。

さまざまな形状の携帯電話基地局

筆者は2005年から通信基地局からの電磁波問題を取材しているが、今回、楽天が設置を計画している基地局は、マンションのエントランスの「天井内」に設置するタイプのものである。従って外部からは目視できない。

同じようなタイプの基地局設置は、大阪市浪速区など他の地域にある高層マンションでも問題になったことがある。浪速区のケースでは理事会の総会で却下された。電磁波による人体影響を懸念する住民の声が強かったからである。理事会が住民の安全を賃料収入に優先した結果にほかならない。

ちなみに浪速区の件では、楽天モバイルは建物の屋上にも基地局を設置する計画を打診していた。

楽天モバイルは2023年度のうちに基地局の数を全国で6万基超にする計画を立てている。それにともない筆者のところに、「トラブル相談」が殺到している。大半のケースは解決しているが、和歌山県や千葉県の市川市では、一部住民の反対を押し切って基地局設置を強行した経緯がある。

他の電話会社も各地でトラブルを起こしており、KDDIのケースでは、住民が裁判所へ調停を申し立てる事態にもなっている。

◆電磁波による人体影響の何が問題なのか

携帯電話やスマホには、おもにマイクロ波(ミリ波を含む)と呼ばれる帯域の電磁波が使われる。マイクロ波による人体影響をどう評価するのかという問題の答えは、専門家により、あるいは筆者のような取材者によりかなり異なる。

かつて電磁波・放射線はエネルギーが高いガンマ線やエックス線などには遺伝子毒性があるが、エネルギーが低い電線などから漏れるものは安全だと考えられていた。しかし、現在では、電磁波・放射線のエネルギーの大小にはかかわりなく人体影響があるとする説が欧米で有力になっている。

筆者が最も懸念しているのは、マイクロ波の持つ遺伝子毒性である。遺伝子を傷つけて癌を発症させる要因のひとつになる可能性である。「電磁波過敏症」の人が一定の割合で存在することは紛れない事実だが、その中に心因性のものがかなり含まれている可能性も否定できない。基地局の直近に住んでも、頭痛や吐き気など知覚できる症状が現れていない人も多いからだ。

従ってマイクロ波の危険性を評価するためには、心因的な要素を排除した客観的な動物実験や疫学調査の結果を検討する必要がある。とりわけ疫学調査は、人間を対象としたデータの科学的な分析であるから信頼度が高い。医学的な根拠よりも優先するのが世界の常識となっている。

◆ブラジルの疫学調査、基地局に近いほど癌による死亡率が高い

2011年、ブラジルのミナス・メソディスト大学のドーテ教授らは、携帯基地局から住居までの距離と発癌リスクの関係を検証する大規模な疫学調査の結果を公表した。調査対象は、ベロオリゾンテ市。この地域で1996年から2006年の間に癌で死亡した7191人を対象として、それぞれの自宅と直近の基地局の距離を測定し統計としてまとめたのである。(一部、癌死亡者の統計が若干欠落している年がある)その結果、基地局に近い住居に住んでいた人ほど癌による死亡率が高いことが分かった。

次の図は、癌による死亡者の住居から基地局までの距離を示したものである。

ブラジルの疫学調査をまとめた図表

7191人の癌死亡者のうち、3569人が基地局から100メートル以内に集中している。基地局から離れれば、離れるほど癌による死亡率は下がる。

ドイツには、医師たちが1993年から2004年までナイラ市で行った疫学調査のデータがある。調査を公平に実施するために特定の団体から資金提供は受けなかった。調査対象は、調査期間中に住所を変更しなかった約1000人の医療機関への通院患者である。基地局は93年に最初のものが設置され、その後、97年に他社の局が加わった。合計で2局である。

実験の対象患者を基地局から400メートル以内に住むグループ(仮にA地区)と、400メートルより外に住むグループ(仮にB地区)に分けた。そして2つの地区における発癌の情況を比較した。

最初の5年については、癌の発症率に大きな差がなかった。しかし、99年から04年の5年間でA地区の住民の発癌率が、B地区に比べて3.38倍になった。しかも、発癌の年齢もA地区の方が低年齢になった。たとえば乳癌の平均発症率は、A地区が50.8歳で、B地区は69.9歳だった。

さらにイスラエルでも、類似した疫学調査が行われ、同じような傾向が示された。これらの疫学調査が行われたのは、5Gよりもはるかにエネルギーの低い電磁波が使われていた時代である。電磁波のエネルギーが高くなれば、それに連動して人体影響も顕著になるという確証はないが、紫外線よりもエックス線が、エックス線よりもガンマ線の方がより危険度を増す事実から察すると、5Gの電磁波は旧世代の携帯電話に使われた電磁波よりもはるかに高いリスクをはらんでいる。

ちなみに現在では、基地局の数が増えすぎて、この種の疫学調査は実施そのものが困難になっている。

◆心臓に悪性腫瘍が増えたことを示す「明確な証拠」

ラットを使った動物実験でも、マイクロ波による発がん性は裏付けられている。たとえば2018年、アメリカの国立環境衛生科学研究所は、NTP(米国国家毒性プログラム)の最終報告を行い、動物実験でマイクロ波と癌の関係が明白になったと発表した。

最終報告によると、動物実験の期間である2年間に、オスのラットの心臓に悪性腫瘍が増えたことを示す「明確な証拠」が得られたという。一方、マイクロ波を放射しなかった実験群のラットに心臓の腫瘍は発生しなかった。

NTPは10年に渡る長期プロジェクトで、予算も3000万ドル。最大級の国家プロジェクトである。

同じ年に、イタリアでも同じような動物実験の結果が発表されている。米国の実験は、おもに携帯電話末端からのマイクロ波を想定したもので、イタリアの実験は、基地局からのマイクロ波を想定した実験である。いずれも人体への影響(発癌性)があると結論付けた。

◆規制値の国際比較

こうした欧米の動きを反映しているかのように、たとえば欧州評議会はマイクロ波の安全基準を厳しく設定している。日本の総務省が定めている規制値よりも、1万倍も厳しい数値になっている。次に示すのが数値の国際比較である。

・日本: 1000 μW/c㎡
・スイス: 9.5μW/c㎡
・欧州評議会: 0.1μW/c㎡、(勧告値)

総務省の規制値は1990年に制定されたもので、その後の疫学調査や動物実験を正しく反映していない。検証は行ったが、「安全」として改訂していない。現時点で医学的な根拠が解明されていないから、欧米なみに厳しく規制する必要はないという考えに立っている。その背景にどのような力が働いているのかは分からない。

◆「予防原則」が最優先

東京都江東区で浮上している楽天モバイルの基地局問題を放置することは、住民を人間モルモットにすることに等しい。5Gのマイクロ波による人体影響があるかどうかを判断するためには、少なくとも10年の観察を要する。長期にわたり5Gマイクロ波を浴び続けたとき、人体がどうなるかを示すデータはまだ十分に存在していない。

と、なれば過去の疫学調査や動物実験の結果を尊重して、リスクを回避するのが正しい選択肢なのである。個々の住民がその権利を持っている。「予防原則」を優先すべきなのである。楽天モバイルは、それを尊重しなければならない。

◆楽天モバイルへ質問状

筆者は、楽天モバイルの広報部へ次の質問状を送付した。また、電話で真摯に回答するように求めた。

質問項目は次の5点。

1,基地局の設置に反対者がいるのに工事を進めるのか?

2,健康被害が出た場合、貴社は補償するのか?

3,今後、新しい入居者に対して電磁波のリスクを説明するのか?

4,電磁波の「非熱作用」についての楽天の見解

5,楽天から政界関係者に対して、過去に政治献金の類いを贈ったことはあるか。

◆楽天からの回答

楽天モバイルからの回答は次の通りである。

お世話になっております。楽天モバイル広報部でございます。
ご質問の件、以下の通り回答申し上げます。

1,基地局の設置に反対者がいるのに工事を進めるのか?
2,健康被害が出た場合は貴社は補償するのか?
3,今後、新しい入居者に対して電磁波のリスクを説明するのか?
4,電磁波の「非熱作用」についての楽天の見解

1~4への回答:
個別の基地局に関する回答は差し控えます。

5,楽天から政界関係者に対して、過去に政治献金の類いを贈ったことはあるか。

5への回答:
回答は差し控えます。

以上、ご確認の程、よろしくお願いいたします。

楽天モバイル広報部

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年2月号

2023年を展望という大上段な気分ではなく、現状確認とこれからの方向性を探るために、一度黒薮哲哉さんとじっくり時間をかけて直接お話がしたい、と昨年後半から感じていた。1月20日私の希望は実現した。3時間半にわたって休憩をはさむことなく、「横浜副流煙事件裁判」、「押し紙」、「中南米情勢」など各論から「ジャーナリズム」の課題や新自由主義の諸問題まで話題は広がった。3時間半あれば深くはないにせよ一応語り尽くすことはできるだろう、との計算はわたしのミスだった。時間が圧倒的に足りなかったのだ。だぶん黒薮さんも同様にお感じではないだろうか。

いずれにせよ、以下は黒薮さんにわたしが伺う形を基本とした、2023年1月における「現状確認」と「方向性」の模索である。お忙しい中時間を割いていただき、原稿の校正にも快く応じてくださった黒薮さんに感謝するとともに、この対談(インタビュー?)が、読者のみなさんにとって何らかの示唆となれば、幸いである。(田所敏夫)

◆横浜副流煙事件裁判 ── なぜ原告の訴えは棄却されたのか?

田所 藤井さんの事件についてあらためてお伺いいたします。横浜副流煙事件裁判は、藤井さんが提訴されて一年目くらいから黒薮さんは取材を始められ、藤井さんが元の代理人を解任された後、黒薮さんも加わっての本人訴訟に切り替わったのですね。

黒薮 厳密にいえば藤井さんがご自分の判断で元の弁護士を解任し、ご自分で書証の準備をされていました。それをチェックしてほしいと要請があったので読んでいる中で、これは支援しようと私も思い立ち支援に加わりました。最初に取材した時は、支援に加わるつもりはなかったのですが。

田所 そうですか。そして結論は地裁判決で完全勝利のうえ、診断書を書いたとされる作田学医師の行為が医師法20条違反との判断を得られました。高裁でも原告の訴えが完全に棄却され、藤井さんが勝訴が確定したわけですね。

 

黒薮哲哉さん

黒薮 そうです。

田所 事件についての裁判所の判断は、極めて妥当だと思いますが、この事件は多様な問題を含んでいるように思います。「禁煙ファシズム」や「スラップ訴訟」の側面もありますし、映画化で焦点化された「化学物質過敏症」の問題にも関わります。

黒薮 この事件について知った時、最初に感じたのは訴訟自体がおかしいということです。約4500万円を藤井さんは請求されていたわけで、これは一般に言われている「スラップ訴訟」だと感じました。厳密にいえば「スラップ訴訟」は住民運動などに対する大企業による訴訟を指しますが、日本では広く「不当な訴訟」と理解されています。それが問題だと思ったのが藤井さんを支援した理由の一つです。また禁煙ファシズムの問題も感じました。

田所 その時点でこの事件が映画化されることは予想されましたか。

黒薮 映画になることは予想はしなかったです。ただ、最初藤井さんにお会いした時に書籍にまとめるべき重いテーマだと思いました。藤井さんにも、書籍にすれば広く訴えることができますよ、と伝えました。


◎[参考動画]映画 [窓] MADO 予告篇

 

田所敏夫さん

◆スラップ訴訟の後ろに宗教団体?

田所 この事件で原告を支えたのは日本禁煙学会とその理事長である作田学氏ですか。

黒薮 日本禁煙学会は、原告を組織的に支援したということは否定していますが、作田氏は5本も意見書を裁判に書面を出しています。意見書などですね。一般的に専門家に意見書を書いてもらうには1通につき30万円位かかると言われています。そうすると常識的には個人が負担するには過重ですよね。ですから何らかの組織が原告支援に関わった可能性は高いと思います。

田所 聞き及ぶところによると何某教の方々と仲のいいかたがただと伺いました。

黒薮 そうですね。

田所 藤井さんも、田所の認識と同じだ、とおっしゃっています。

黒薮 私もそうだと思います。本当のところはね。

田所 「宗教と政治」が昨年大きな問題になりました。もしも宗教がスラップ訴訟の後ろにいることが事実であれば、大変なことですね。

黒薮 宗教団体、とくに新興宗教の人たちは自制心なしに感情に任せて行動してしまう人が多いです。そのような流れが背景のひとつにはあったと思います。(つづく)

▼黒薮哲哉(くろやぶ てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

田所敏夫『大暗黒時代の大学 消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY007)

毎日新聞・網干大津勝原店(姫路市)の元店主から、筆者が入手した預金通帳や「取扱票」を調べたところ、元店主から毎日新聞社の担当員の個人口座に繰り返し金銭が振り込まれていることが判明した。金銭どのような性質のものなのかは現時点では不明だが、この販売店は昨年の12月に、「押し紙」が原因で廃業に追い込まれており、金額の中に「押し紙」により発生した金額が含まれていた可能性もある。

元店主は、次のように話している。

「山田幸雄(仮名)担当から個人口座への金銭の振り込みを命じられました。『押し紙』代金の支払いに窮しており、指定された個人口座に新聞代金を振り込めば、特別な取り計らいをすると言われました」

筆者は、毎日新聞・東京本社の山田担当に電話で事実関係を確認した。まず、本人が毎日新聞社販売局に所属している山田幸雄氏であることを確認した。次に山田氏が大阪本社に在籍した時代に、網干大津勝原店を担当した時期があることを確認した。さらに元店主と面識があることを確認した。

しかし、山田氏は元店主による告発内容については、「記憶にない」と話している。

「毎日新聞」の「押し紙」(ビニール包装分)、折込チラシ(新聞包装分)。いずれも秘密裡に廃棄されている

◆総額約420万円の内訳明細

元店主が山田担当の個人口座に送金した日付と金額は次の通りである。

※記録性を優先して預金通用が採用している元号で表示する。

平成30年4月10日:200,000
平成30年6月7日: 100,000
平成30年7月2日: 550,000
平成30年7月23日: 80,000
平成30年9月3日: 900,000
平成30年10月1日:900,000
平成30年11月1日:900,000

令和2年1月17日: 50,000
令和2年2月6日: 20,000
令和2年2月17日: 300,000
令和2年3月6日: 90,000
令和2年4月7日: 50,000
令和2年5月19日: 50,000

平成30年度(2018年)の合計は、363万円である。また令和2年度(2020年度)の合計は、56万円である。総計で419万円が山田担当の個人口座に振り込まれたことになる。

個人口座への振り込みを裏付ける資料の一部。取扱票

◆里井義昇弁護士が新聞代金・約3,900万円を請求

既に述べたように元店主は昨年12月に販売店の改廃に追い込まれた。その際に、毎日新聞社から、里井義昇弁護士(さやか法律事務所)を通じて、3,915万5,469円を請求された。請求の中身は、里井弁護士によると、「未払新聞販売代金」である。仮に元店主が山田担当の個人口座に振り込んだ金額に、「押し紙」で発生した卸代金が含まれていたとすれば、里井弁護士が行った約3,900万円の請求にも問題がある。

実際、元店主は同店には大量の「押し紙」があったと話している。「押し紙」を排除してほしかったから、担当員の個人口座に金銭を振り込んだのである。

「押し紙」の程度については、現在、発証数などを過去にさかのぼって調査しているので、詳細が判明した段階で公表する。

◆背景に新聞社の優越的な地位
 
新聞社の系統を問わず、販売店主が担当員の個人口座に金を振り込まされたという話は、しばしば耳にしてきた。昔は、「担当員になればすぐに家が建つ」と言われた。店主が担当員を接待するのは当たり前になっている。網干大津勝浦店の店主も新聞社の担当員らを姫路市の魚町で接待することがあったという。

今回、筆者が得た預金通称など内部資料により、金銭の流れについての裏付けが得られた。

新聞社の販売店に対する優越的地位の濫用はここまでエスカレートしているのである。

【毎日新聞・社長室のコメント】
 調査中であり、社内で適切に対応していきます。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年2月号

デジタル鹿砦社通信(1月14日付け)で紹介したYouTube番組に、SNS上で波紋が広がっている。ニューソク通信が配信した須田慎一郎さんの下記インタビュー番組である。既にアクセス数は、10万件を超えた。


◎[参考動画]内部告発で医療界に激震!!安易な診断書交付が悲劇を生む!!化学物質過敏症の深い闇!!横浜副流煙裁判との共通点とは…?

配信直後からSNS上で、出演者に対する批判が広がった。それ自体は、議論を活性化するという観点から歓迎すべき現象だが、ツィートの内容が事実からかけ離れたものがある。わたしに対する批判のひとつに、「取材不足」という叱咤があった。化学物質過敏症がなにかを理解していないというのだ。

 

◆「その他のご質問に関しましては、回答を控えさせて頂きます」

この番組は、化学物質過敏症の専門医である宮田幹夫医師による診断書交付に科学的根拠が乏しいという主張を、舩越典子医師が展開したものである。患者の希望に応じて、宮田医師が診断書を交付している節があるという告発である。

告発の根拠となったのは、宮田医師が舩越医師に送付した書簡だった。そこには舩越医師が宮田医師に紹介した患者についてのコメントが記されている。患者が精神疾患なのか、それとも化学物質過敏症なのか診断できないのに、「エイヤア」の精神で診断書を交付した経緯を宮田医師が自ら記している。舩越医師はそれを医師としての重大な過ちと受け止めたのである。

既に述べたように、SNS上で炎上しているわたしに対する批判のひとつに「取材不足」という指摘がある。わたしが宮田医師や他の専門医を取材していないという批判である。たとえば網代太郎氏の次のツイートだ。

黒薮氏は、おそらく宮田医師へ取材していない。他のMCS専門家へも取材していないであろう。舩越医師一人の見解を検証もせずに、たれ流している。
彼が、自称ジャーナリストに過ぎないことは、以前から分かっていることであるが。

 

わたしは11月30日(2022年)に、宮田医師に対して書面で質問状を送付した。それに先立って取材を申し込んだが、宮田医師に応じる意思がないことが分かったので、書面での質問状送付に切り替えたのである。質問事項に関しては、プライバシーにかかわることが含まれているので公表しないが、回答(鹿砦社のファックスで受診)は極めて単純なものだった。次のような文面である。

 この度は取材のお申し込みを頂き、ありがとうございました。
 お問い合わせのありました化学物資過敏症の診断基準については、1999年に米国国立衛生研究所主催のアトランタ会議において、専門家により化学物質過敏症の合意事項が設けられております。こちらをご確認頂ければと思います。
 その他のご質問に関しましては、回答を控えさせて頂きます。
 ご理解頂きますように宜しくお願い申し上げます。

網代氏は、わたしが宮田医師以外の専門医を取材していないと述べているが、これも事実ではない。たとえば数年前に内田義之医師に対するインタビューを「ビジネスジャーナル」に掲載している。

※黒薮哲哉「芳香剤や建材等の化学物質過敏症、急増で社会問題化か…日常生活に支障で退職の例も」(2018年5月11日付け「ビジネスジャーナル」)

内田医師は、次のように日本の診断基準を批判している。

私は、日本も米国の診断基準を採用すべきだと考えています。グローバルにデータを比較するという意味でも、日本の診断基準は問題があります。これでは化学物質過敏症の実態を、ほかの国と比較することはできません。ですから専門家が議論して、新たに診断基準を決めるべきでしょう。これは国の役割であると考えます。

化学物質過敏症に罹患した患者の声については、別の機会に紹介しよう。

◆ツィッターの社会病理

ちなみに網代氏は、毎日新聞の元記者である。この問題についてわたしや舩越医師を批判するツイートを多数発信している。

投稿者は頭に閃いたことをそのまま発信してしまう傾向がある。新聞記事を執筆する際には、十分な裏付けを取るが、ツイッターとなると網代氏のような中央紙の記者経験者でも、安易に言葉を発信する傾向があるようだ。

余談になるが、わたしはツイッターの「中毒」になった人達を何人も見てきた。その中には政治家や弁護士、大学教授なども含まれている。若者もいれば、高齢者もいる。軽薄な言葉を吐き散らしていて、言葉に対する感性の鈍さを見せ付けられた。

◎[過去記事リンク]禁煙ファシズム http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=114

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年2月号

YouTube配信サイトであるニューソク通信は、1月8日、診断書の不正交付をめぐる問題をクローズアップした。タイトルは、「内部告発で医療界に激震!! 安易な診断書交付が悲劇を生む!! 化学物質過敏症の深い闇!! 横浜副流煙裁判との共通点とは…?」。

番組のキャスターはジャーナリストの須田慎一郎さんで、出演者は舩越典子(典子エンジェルクリニック、大阪府堺市)医師と筆者(黒薮)の2名だった。

周知のように横浜副流煙裁判では、日本禁煙学会の作田学医師が原告のために交付した診断書が問題になった。客観的な事実とは異なる所見が記された診断書が争点のひとつに浮上した。しかも、その診断書を根拠に、被告に対して原告が4500万円を請求したのである。

この裁判では、宮田幹夫・北里大学名誉教授(そよ風クリニック)も、原告のために診断書を交付していた。それは「化学物質過敏症」の病名を付したものであった。

この診断書自体に何か問題があるわけではないが、昨年の暮れごろから、舩越典子医師が、宮田医師の診断書交付行為そのものを疑問視する声を上げた。

「化学物質過敏症」の病名を付した診断書を容易に交付しているというのである。筆者も、このような宮田医師に対する評価は、取材先でよく聞いていた。

「宮田先生のところへ行けば、診断書を交付してもれる」
 と、言うのである。

◆そよ風クリニックへ患者を送れ

発端は、舩越医師の外来を受診した女性患者だった。舩越医師は、問診や眼球の動きをみる検査などを実施した。検査結果の評価については、外部の専門家にも相談した。その上で化学物質過敏症とは診断しなかった。それでも念のために患者を宮田医師に紹介した。宮田医師はこの患者を診察して、化学物質過敏症の病名を付した診断書を交付した。

患者に対する所見は医師によって異なるのが普通だから、最初、舩越医師は宮田医師による診断を疑問視することはなかった。ただ、宮田医師が実施した検査の結果を知りたいと思ったという。

ところがその後、宮田医師が舩越医師に対して書簡を送付し、その中で前出の患者について、精神疾患か化学物質過敏症かを判断できないまま、「化学物質過敏症」の病名を付した診断書を交付した旨を伝えてきたのである。しかも、今後、舩越医師が化学物質過敏症の診断に迷う時は、患者を自分のクリニックへ送るように言ってきたのである。検査結果は添付されていなかった。

昨年末、筆者は現場に足を運びそよ風クリニックを確認した。左の建物の2階がクリニックで、右の1階がコインランドリー

◆顔出し・実名による内部告発
 
わたしは、横浜副流煙裁判(反訴)の原告・藤井敦子さんを通じて舩越医師と面識を得た。藤井さんは、不正な診断書交付により被害を受けたこともあって、この診断書の不正交付には敏感だった。そこでニューソク通信にネタを持ち込んだ。

ニューソク通信は、宮田医師の診断書交付をテーマとしたYouTubeを制作することを決めた。最初は筆者がひとりで津田信一郎さんのインタビューを受ける予定になっていた。と、いうのも舩越医師が顔出し・実名による内部告発を嫌ったからだ。

しかし、藤井さんが、実名で告発するように舩越医師に強く勧めた。それに応じて、舩越医師がカメラの前で実名を名乗り、事件の詳細を語ることを決意したのである。

◆日本の言論の自由度

いつの時代からか、メディアに登場する際には、顔と実名を隠すのが半ば当たり前になってしまった。ドキュメンタリーの原則が無くなっていた。その悪しき影響をわたしも受けていたのか、最初、舩越医師の名前を匿名にすることに疑問をさしはさむことはなかった。

しかし、冷静に考えてみると、特別な事情がある場合は別として、実名で顔をだして内部告発するのが常識なのである。何も悪いことはしていないうえに、他人を批判するときは、自身の責任を伴うからだ。

ちなみに横浜副流煙裁判(反訴)の原告・藤井夫妻は最初から実名主義を貫いている。それが功を奏して、裁判を通じて禁煙ファシズムに対する批判はどんどん拡散している。強い説得力を発揮している。

舩越医師が藤井さんとコンタクトを取れたのも、実名を名乗り素顔を出していたからにほかならない。こんな当たり前のことが困難に張っている背景に、日本の言論の自由度が現れていないか。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年2月号

ウィキリークスの創立者で著名なジャーナリストであるジュリアン・アサンジの動静は、日本ではほとんど報じられていない。皆無ではないにしても、新聞・テレビはこの話題をなるべく避ける方向で一致している。

アサンジが直面している人権侵害の重さと、ジャーナリズムに対する公権力による露骨な言論糾弾という事件の性質からすれば、同業者として表舞台へ押し上げなければならないテーマであるはずなのに、地球の裏側で起こっているもめごと程度の扱いにしかしていない。その程度の認識しか持ち合わせていない。

メディア関係者にとっては我が身の問題なのだが。

 

「だれにも知る権利、質問する権利、権力に抗する権利がある」(写真出典:Defend Assange Campaign)

ウィキリークスは、インターネットの時代に新しいジャーナリズムのモデルを構築した。内部告発を受け付け、その情報を検証した上で、内部告発者に危害が及ばないように配慮した上で、問題を公にする。ニューヨークタイムズ(米国)、ル・モンド(仏)、エルパイス(西)などの大手メディアと連携しているので、ウィキリークスがリークした情報は地球規模で拡散する。

CIAの元局員のエドワード・ジョセフ・スノーデンが持ち出した内部資料なども、ウィキリークス経由で広がったのである。西側の公権力機関にとっては、ウィキリークスは大きな脅威である。

ジュリアン・アサンジは、ウィキリークスを柱とした華々しいジャーナリズム活動を展開していた。たとえば2009年には、ケニアの虐殺事件をスクープしてアムネスティ・インターナショナル国際メディア賞を受賞した。2010年には、米国の雑誌『タイム』が、読者が決める「パーソン・オブ・ザ・イヤー」の第1にランクされた。

ちなみにインターネットという媒体は、報道の裏付け資料を記事と一緒に紹介できるメリットがある。それにより記事の裏付けを読者に示すことができる。それを読んで読者は考察を深める。これこそが最新のジャーナリズムの恩恵にほかならない。

このような機能は、紙媒体ではない。その意味では、インターネットの時代がアサンジを生みだしたと言っても過言ではない。

なお、アサンジはコンピュータに入り込んで情報を盗み取るハッカーだという誤解があるが、ハッキングに及んだのは高校生の頃である。知的好奇心に駆られたのが原因とされている。後年、彼が設立するウィキリークスの活動とは無関係だ。

◆アサンジに対する弾圧、スェーデンから米国へ

しかし、アサンジのジャーナリズムが国境を越えて脚光を浴びてくると、水面下でさまざまな策略が練られるようになった。とはいえ、テロリストでもない人間をそう簡単に逮捕できるわけではない。西側諸国が大上段に掲げている民主主義や言論の自由の旗の下では、暴力に訴えることはできない。そこで西側の公権力機関が行使したのは、別件によるでっち上げの逮捕だった。

2010年、まずスェーデンの刑事警察が、アサンジに対する逮捕状を交付した。そして国際指名手配の手続きを取った。スェーデンで2人の女性に対して性的暴行を犯した容疑である。アサンジは、女性たちとの性的関係は認めたが、それは合法的なものであると主張した。

この年の12月にイギリスのロンドン警察庁は、スェーデンの要請に従ってアサンジを逮捕した。翌年には裁判が始まり、イギリスの最高裁は、2012年6月、アサンジをスェーデンへ移送することを決めた。

これに対してアサンジは、ロンドンにあるエクアドル大使館に駆け込んだ。大使館への亡命であった。当時、エクアドル大統領が、左派のラファエル・コレアであたっことが、亡命が認められた要因だと思われる。エクアドル本国への移送は不可能だったので、アセンジは数年にわたり建物内部に留まったのである。

メキシコへの亡命受け入れを提案しているメキシコのロペス・オブラドール大統領(写真出典:Defend Assange Campaign)

しかし、エクアドル大統領が交代した後の2019年、イギリス警察がアサンジを逮捕した。大使館へ踏み込んだのである。大使館も承知の上だった。

アサンジの逮捕を受けて、米国の司法省は機密情報漏洩などの罪でアサンジを起訴し、イギリスに対してアサンジの移送を求めた。スェーデンはアサンジの捜査を打ち切ったので、以後、アサンジの事件は、米国による移送要求を柱とした構図に変わったのである。

ちなみに、スェーデンはアサンジを国際指名手配をした段階で、身柄を拘束した後、米国に引き渡す計画だったのではないかとの推測もある。

かりにアサンジが米国で裁判にかけられた場合、禁錮175年の判決を受ける可能性がある。

イギリスの裁判所は、アサンジの米国への移送を認めるかどうかの審理に入った。審理は紆余曲折したが、最終的に2022年6月に、内務大臣の承認により移送が決まった。アサンジは、現在、欧州人権裁判所へ上訴している。

◆ノー天気な日本の新聞・テレビ
 
アサンジの救出運動は、欧米で広がっている。2022年11月28日には、ニューヨークタイムス(米)、ガーディアン(英)、シュピーゲル(独)、ルモンド(仏)、パイス(西)が、アセンジの起訴を取り下げるように求めた共同声明を発表した。いずれもウィキリークスと共闘関係にあったメディアである。出版は犯罪ではなく、このような前例を作ってはいけないとする主旨である。

言論弾圧といえば、旧ソ連のイメージが付きまとうが、西側諸国でもメディアに対する弾圧が行われているのである。それに最も鈍感なのは、日本の新聞・テレビではないか。自分たちは、「自由社会」で言論の自由を謳歌していると勘違いしている。もっと広い視野で世界を見るべきだろう。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年2月号

昨年の11月に総務省が公開した2021年度の政治資金収支報告書によると、新聞業界は政界に対して、総額で598万円の政治献金を行った。献金元は、新聞販売店の同業組合である日本新聞販売協会(日販協)の政治連盟である。さすがに日本新聞協会が政治献金を支出するわけにはいかないので、パートナーの日販協が献金元になっているのである。

わたしが知る限り、献金が始まったのは1990年代の初頭である。当時は、元NHKの水野清議員や、元日経新聞の中川秀直議員らに献金していた。

2021年度の献金先は、延べ103人の政治家(政治団体)である。献金先が100件を超えたのは、同年の秋に衆院選が実施されたことが影響している。実際、献金先の政治家の大半は衆院選の候補者だった。

献金先の候補者が所属する政党の大半は自民党だった。公明党の候補と立憲民主党の候補も若干含まれていた。

次に示すのが献金の実態である。(掲載の都合上、2つの表に分割して表示した)

セミナー料金等

寄付金1

◆自民党安倍派へ64万円

献金の実態について、何点か特徴を指摘しておこう。
 
最も献金額が多いのは、清和政策研究会(現在は安倍派)に対するものである。64万円である。清和政策研究会は「保守本流」、「親米」、「タカ派」、「復古主義」などのキーワードで特徴づけられる自民党の派閥である。前会長は、改めて言うまでもなく、故安倍晋三首相だった。

高市早苗議員に対して、セミナ料―16万円と寄付5万円の総計21万円を献金している。また、中川雅治議員に22万円、柴山昌彦議員に25万円の献金を実施している。

日販協による献金の支出で最も特徴的なのは、小遣い程度の金額(5万円)を多人数の政治家にばら撒いていることである。このばら撒きスタイルは昔から一貫して変わらない。

◆政治献金と引き換えに「押し紙」政策の黙認

献金の目的は、わたしの推測になるが次の4点である。

 ①新聞に対する軽減税率の適用措置継続
 ②新聞に対する再販制度の継続
 ③NIE(教育の中に新聞を運動)の支援
 ④「押し紙」政策の放置

いずれも新聞社経営に直接かかわる問題である。消費税は、「押し紙」にも課せられるので軽減税率の適用措置の継続は、大量の「押し紙」を抱えている新聞業界にとっては不可欠である。

【参考記事】新聞に対する軽減税率によるメリット、読売が年間56億円、朝日が38億円の試算、公権力機関との癒着の温床に

また、再販制度は、新聞販売店を新聞社の下部組織としてコントロールする上で重要な制度である。再販制度が撤廃されて販売店相互が自由競争を展開すれば、販売網が崩壊するからだ。

NIEは、若年層に向けた新聞の有力なPR手段となっている。NIEが実を結び、現在の学習指導要綱(小・中・高校)には、授業での新聞の使用が明記されている。新聞を卓越した「名文」と位置づけて使用する。

さらに献金により、独禁法違反の「押し紙」の取り締まりを回避することで、新聞社が莫大な利益を得る構図がある。次の記事を参考にしてほしい。

【参考記事】「押し紙」を排除した場合、毎日新聞の販売収入は年間で259億円減、内部資料「朝刊 発証数の推移」を使った試算 

ここにあげた①から④の殺生権を政府などの公権力機関が握った場合、新聞ジャーナリズムに負の影響が生じることは言うまでもない。日本の新聞が政府広報の域をほとんど出ない最大の理由である。

新聞業界から政界への政治献金の提供は、両者の癒着関係を物語っている。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年1月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年冬号(NO NUKES voice改題 通巻34号)

企業には広報部とか、広報室と呼ばれる部門がある。筆者のようなルポライターが、記事を公表するにあたって、取材対象にした企業から事実関係や見解などを聞き出す時にコンタクトを取る窓口である。新聞社の場合は、ある程度の記者経験を積んだ者が広報の任務に就いているようだ。

 

毎日新聞大阪本社(出典:ウィキペディア)

今月に入って、兵庫県姫路市で毎日新聞・販売店の改廃にともなう事件が起きた。店主が、新聞の仕入れ代金などで累積した約3916万円の未払い金の支払いを履行できずに、廃業に追い込まれたのである。公式には双方の合意による取引の終了である。

請求は、さやか法律事務所(大阪市)の里井義昇弁護士が販売店主に内容証明で催告書を送付するかたちで行われた。里井弁護士は、催告書の中で、店主が積み立てた信認金(約80万円)を未払い金から相殺することや、12月分の読者からの新聞購読料は毎日新聞社のものであるから、店主が集金してはいけない旨も通知していた。

集金した場合は、「株式会社毎日新聞社としましても、民事上のみならず、それにとどまらない刑事上のものを含めた法的対応を講ずることを検討せざるを得ませんので、たとえ購読者の方より申し出がありましても、一切収受等することなく、後任の販売店主への支払いをと伝えられるようご留意ください」と述べている。
 
かりに請求金額に「押し紙」による代金が含まれていれば、実に厚かましい話である。

◆「押し紙」問題に向き合わない毎日新聞の社員

 

毎日新聞の「押し紙」。ビニール包装分が「押し紙」で、新聞包装分が折込広告。記事とは関係ありません

毎日新聞社は、この販売店に対する新聞の供給を15日から停止している。そして別の拠点から配達を始めた。

毎日新聞が請求している約3916万円の中身については、今後、筆者が調査して、「押し紙」が含まれていれば、「押し紙」裁判を起こす方向で検討する。クラウドファンディングで裁判資金を募る予定だ。

また、里井弁護士に対しては、懲戒請求を視野に入れる。「押し紙」であることを認識していながら、高額な金銭を請求した可能性があるからだ。里井弁護士は過去にも「押し紙」裁判にかかわった経緯がある。従って「押し紙」とは、何かを知っている可能性が高い。

筆者はこの改廃事件についての毎日新聞の見解を知るために、同社の東京本社・社長室広報ユニットに対して2度に渡って問い合わせた。(質問状は、文末)しかし、返ってきた答は、いずれも「個々の取引に関することは、お答えできません。」というものだった。たったの1行だった。回答者は、石丸整、加藤潔の両社員である。

わたしは2人の社員が「押し紙」問題から逃げていると思った。自分たちが制作した新聞を配達してくれる人が、借金を背負ったまま露頭に放り出されようとしているのに、何の声もあげない冷酷さに驚いた。

筆者は、「押し紙」問題は、商取引の問題であると同時に、人権問題である旨を2人にメールで知らせ、再度回答するように求めたが、やはり回答しなかった。筆者は、2014年12月17日にしばき隊が起こしたリンチ事件の後、識者の多くが事件の隠蔽に走ったことを思い出した。

これは日本が内包する深刻な社会病理なのである。企業社会の中で身体にしみ込んだ処世術に外ならない。

ちなみに日本新聞協会の会長は、毎日新聞社の丸山昌宏社長である。

◆弁護士が資金回収の最前線に

かつてサラ金や商工ローンの厳しい取り立てが社会問題になったことがある。「目の玉を売れ」とか、「腎臓をひとつ売れ」といった罵倒を浴びせて、借金を取り立てることもあった。幸いにこの問題には、メスが入った。武富士は倒産し、同社の代理人を務めていた弘中惇一郎らに対する信用も堕ちた。

かつて社会問題の矢面に立ったサラ金の武富士(出典:ウィキペディア)

「押し紙」の取り立ても、サラ金や商工ローンと同様に凄まじい。毎日新聞・網干大津勝原店の場合は、弁護士が資金回収の最前線に立っている。幸いに現時点では、催告書の送付以外に毎日新聞社の目立った動きはないが、今後、どのような手段に出てくるのかは予断を許さない。

店主には、妻子がいる。

「自分はどうなってもいいが、妻子を露頭に迷わすわけにはいかない」

と、話している。

失業の不安が頭から離れないらしく、毎日、筆者のところに電話がかかってくる。筆者も新聞業界の裏金問題を取材していて業界紙を解雇された体験がある。失業後は、未来が描けないことが苦痛だった。店主も同じ気持ちではないか。

これまで何人もの店主がみずから命を絶っている。失踪者もいる。週刊誌もたびたび店主の自殺を報じているので、新聞社の社員が「押し紙」の悲劇を知らないはずがない。だが、毎日新聞の2人の社員は、自社の問題であっても、逃げの一手なのである。

筆者は2人に対して、会社員としてではなく独立した個人として「押し紙」を告発するように書き送ってみたが、やはり回答はなかった。

この問題は、今後、内部資料を精査し、現地を取材して、続報を出していく。筆者が毎日新聞社に送付した2通目の質問状は次の通りである。回答は、既に述べたように、「個々の取引に関することは、お答えできません。」の1行だった。

筆者は、新聞社の社員が1行の作文しかできない事実に驚愕した。

◆毎日新聞社に対する公開質問状

               公開質問状

毎日新聞 社長室
石丸整様
加藤潔様

発信者:黒薮哲哉
連絡先:xxmwg240@ybb.ne.jp 電話:048-464-1413

 先日、毎日新聞・網干大津勝原店の改廃問題について問い合わせをさせていただきました。これに対して、貴殿らは「個々の取引に関することは、お答えできません。」と回答されました。

 改めて質問させていただきますが、貴社の「押し紙」問題をわたしが報じる際に、今後、貴社の見解を確認する必要はないと理解してもよろしいでしょうか。この点について、必ず回答していただくようにお願い申し上げます。

 さらにこの機会に、「押し紙」問題について貴社社長室の見解を教えてください。

社長室は、毎日新聞社で最も功績があるジャーナリストで構成されている機関だと理解しております。特に毎日新聞グループホールディングス社長の丸山昌宏氏は、日本新聞協会の会長を兼任するなど、日本を代表する新聞記者です。それを前提に次の4点についてお尋ねします。書面でご回答ください。貴社のジャーナリズムの信用性にかかわる重大問題なので、必ず回答ください。

1、貴社が網干大津勝原店に対し、里井義昇弁護士(やさか法律事務所)を通じて請求されている金額は、約3915万円になります。店主は、この金額は残紙の代金が大半を占めていると話していますが、同店に残紙があったことは認識しておられたのでしょうか。それとも残紙以外の請求なのでしょうか?

2、貴社長室が考える「押し紙」の定義を教えてください。

3、仮に網干大津勝原店の残紙が「押し紙」であっても、貴社は今後も店主に対する新聞代金の請求を続ける方針なのでしょうか? 残紙が「押し紙」であることを知りながら、請求を続ける行為は、サラ金業者の借金取り立てと性質が変わらない蛮行だとわたしは考えています。まして貴社は過去の「押し紙」裁判の中で、和解というかたちで販売店に慰謝料を払ったことが繰り返しあり、「押し紙」の存在を認識しているはずです。実際、貴社の出身である河内孝氏も『新聞社』の中で、「押し紙」の存在に言及されています。

4、貴殿らのジャーナリストとしての「押し紙」についての見解を教えてください。会社員としてではなく、ジャーナリストとしての見解です。

※なお必要であれば、貴社の販売政策を裏付ける内聞資料等を提供させていただきます。
 
回答は、12月22日(木)の夕方までにメールでお願いします。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

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たとえば隣席の同僚が使っている香水が神経に障って、使用を控えるように要望する。同僚は、取り合ってくれない。けんもほろろに撥ねつけた。総務部へも相談したが、「あの程度の臭いであれば許容範囲」と冷笑する。

次に化学物質過敏症の外来のあるクリニックを訪れ、すがるような気持ちで診断書を交付してもらい、それを持って再び総務部へ足を運ぶ。やはり拒絶される。そこでやむなく隣席の同僚に対して高額な損害賠償裁判を起こす。

化学物質過敏症を訴える家族が団らんする場面

夜が深まると壁を隔てた向こう側から、リズムに乗った地響きのような音が響いてくるので、隣人に苦情を言うと「わが家ではない」と言われた。そこでマンションの管理組合に相談すると、マンションに隣接する駐車場の車が音の発生源であることが分かった。「犯人」の特定を間違ったことを隣人に詫びる。

新世代公害の正体は見えにくい。それが人間関係に亀裂を生じさせることもある。コミュニティーが冷戦状態のようになり、住民相互に不和を生じさせるリスクが生じる。

◆実在の事件をドラマに、ロケは事件現場

 

左から主題歌「窓」の作曲者:Ma*To、主題歌を歌う小川美潮、音楽を担当した板倉文の各氏。Ma*To氏は横浜副流煙裁判の被告として法廷に立たされた。

デジタル鹿砦社通信でも取り上げてきた横浜副流煙裁判をドラマ化した『[窓]MADO』(監督・麻王)の上映が、池袋HUMAXシネマズ(東京・池袋)で12月16日から29日の予定で始まる。

煙草による被害を執拗に訴える老人を西村まさ彦が演じる。また、煙草の煙で化学物質過敏症になったとして隣人から訴えられ、4500万円を請求されるミュージシャンを慈五郎さんが演じる。慈五郎さんは、上映に際して次のようなメッセージを寄せている。

「煙草がメインテーマになってくる話なのですが、今、煙草自体を吸うシーンが、あまり見られなくなっています。コンプライアンスの問題だと思いますが。その意味で、こんなに真っ向から煙草をテーマにした映画っていうのは、勇気もいるだろうし、共感できる部分も色々あります」

この映画は実際に起きた事件をベースにしたドラマである。ロケも事件現場となった横浜市青葉区のすすき野団地で行われた。その意味では、事件をドラマで再現したと言っても過言ではない。

しかし、法廷に立たされた被害者であるミュージシャンを擁護した映画ではない。ミュージシャンを訴えた家族の立場からも事件を考察して、新世代公害の複雑な側面を描いている。その意味では客観性が強い作品である。

◆新世代公害という未知の領域

かつて公害といえば、赤茶けた工場排水が海へ放出されている光景とか、工場の煙突から黒々としたスモッグが立ち昇る場面など、具体的なイメージがあった。従ってカメラは問題の所在を特定することができた。それゆえに映像化も容易だった。

ところが新世代公害は正体が見えにくい。それゆえにマスコミの視点もなかなかそこへは向かない。が、水面下では公害の世代交代が急速に進んでいて、新しい形の被害を広げている。コミュニティーの破壊をも起こしている。

米国のCAS(ケミカル・アブストラクト・サービス)が登録する新生の化学物質の件数は、1日で1万件を超えると言われている。複合汚染を引き起こす。

新世代公害の実態は大学の研究室の中ではある程度まで解明されていても、どのように人間関係やコミュニティーを分断していくのかという点に関しては考察されてこなかった。映像ジャーナリズムも、この点を凝視することを怠ってきたのである。背景に利権があるからだ。

『[窓]MADO』は、この未知の領域に正面から挑戦した作品である。


◎《予告編》映画 [窓]MADO 12/16(金)公開 @池袋HUMAXシネマズ

■『[窓]MADO』の公式サイト https://mado-movie.jp/

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年1月号

人種差別に抗する市民運動を進めると自認していると思われるグループ、「しばき隊」が2014年12月17日の深夜に大阪市の北新地で、大学院生リンチ事件を起こしてからまもなく8年になる。

リンチ直後のM君

この間、被害者のM君としばき隊の間で、あるいはM君を支援する鹿砦社としばき隊の間で、裁判の応酬が続いてきた。しかし、それも、鹿砦社が自社に潜り込んでいたしばき隊のシンパを訴えた控訴審判決(11月17日)を最後に表面上の係争は終わった。鹿砦社は上告せず6年半にわたる一連の法廷闘争はピリオドを打ったのである。

事件そのものは、『暴力・暴言型社会運動の終焉』(鹿砦社)など6冊の書籍に記録されているが、記憶の中の事件は忘却の途についている。同時に距離をおいて事件を多角的に検証する視点が筆者には浮上している。あの事件は何だったのか?

筆者はこの事件を通じて、マスコミとは何か、インテリ層とはなにか、司法制度とは何かという3つの点について検証している。記者クラブはM君と鹿砦社から記者会見の機会を完全に奪った。M君や鹿砦社が原告であった裁判で、大阪司法記者クラブ(大阪地裁の記者クラブ)は、幾度にもわたる記者会見開催要請を、すべて拒否したのだ。これに対してしばき隊関連訴訟の会見はほぼすべて開き、発言者の主張を新聞紙などマスコミに掲載するなど、活動を支援し続けた。その典型として、リンチ事件の現場にいた女性を繰り返しテレビや新聞に登場させた。

一部の文化人は事件を隠蔽するために奔走した。その中には、『ヘイトスピーチとは何か』(岩波新書)で、差別を取り締まるための法整備を提唱していた師岡康子弁護士もいた。

裁判所は、杜撰な審理でM君と鹿砦社に敵意ともとれる態度を示した。形式的には、被害者のM君を勝訴させざるを得なかったが、しばき隊の女性リーダーの責任は問わなかった。M君に対する賠償額も小額だった。

◆法曹界のタブー、「報告事件」

筆者は、この事件の一連の裁判は、最高裁事務総局が舞台裏で糸を引いた「報告事件」ではないかと疑っている。「報告事件」とは、最高裁事務総局が関与したペテン裁判のことである。

元大阪高裁判事の生田暉夫弁護士は、『最高裁に「安保法」違憲判決を出させる方法』(三五館刊)の中で、報告事件とは何かに言及している。

報告事件については、担当裁判官からではなく、担当書記官や書記官の上司から最高裁事務総局の民事局や行政局に直接、裁判の進展状況が逐一報告されます。

最高裁事務局が「報告事件」に関する情報を収集して、判決の方向性が国策や特定の企業の利害などに反する場合は、裁判官を交代させたり、下級裁判所へ判決の指標を示すことで、判決内容をコントロールするというのだ。実際、筆者も裁判が結審する直前に裁判官が交代した不自然な例を何件も知っている。また、最高裁事務総局に対する情報公開請求により、「報告事件」の存在そのものを確認した。これについては、次の記事を参照にしてほしい。

最高裁事務総局による「報告事件」の存在が判明、対象は国が被告か原告の裁判

差別を取り締まる法の整備を進めることで、徐々に言論統制への道を開きたい公権力機関にとって、極右集団もしばき隊も利用価値がある。彼らを取り締まるよりも、「泳がせる」方が言論を規制する法律を作る根拠に厚味が出るからだ。世論の支持を得やすい。

筆者が情報公開請求により最高裁事務総局から入手した「報告事件」を裏付ける文書。大半が黒塗りになっていた。「勝訴可能性等について」の欄は、下級裁判所が「報告事件」に指定された裁判において、最高裁事務総局が応援している側に勝訴の可能性があるかどうかを記入する。可能性が低い場合に、最高裁事務総局は担当裁判官の交代などを行い、判決の方向性を変えるようだ。このような制度が存在すること自体、日本における三権分立がすでに崩壊していることを意味する。

◆偏向した裁判所とマスコミ

M君は、40分もの間、殴る蹴るの暴行を受け、罵声を浴びた。顔は腫れ上がり、鼻骨を砕かれた。その時の音声記録も残っている。リンチ直後のM君の顔写真もある。全治3週間である。リンチが続いている間も、リーダーの李信恵は、ワインを味わい、ツイッターを発信した。

一連の裁判の当事者は、次のように分類できる。

(1)M君VS野間易通
(2)M君VSしばき隊
(3)鹿砦社VS李信恵
(4)鹿砦社VS藤井正美

最初にM君は、しばき隊のリーダー・野間易通に対して名誉を毀損されたとして損害賠償裁判を起こした。野間がツイッターで、「おいM。おまえリンチされたって言ってるんだけど、ほんとうなの?」とか、「日本人として腹を切れ」といったツィートを投稿した。裁判所は野間に対して、M君に10万円を支払うように命じた。

次にM君はリンチ事件の現場にいたしばき隊の5人に対して、治療費や慰謝料などの損害賠償を求めた。請求額は1106万円。5人の被告には、李信恵も含まれていた。大阪地裁は、3人の被告に総計で約80万円の支払いを命じた。大阪高裁は支払額を約115万円に引き上げた。しかし、地裁も高裁も李信恵に対する請求は棄却した。M君は勝訴したとはいえ判決内容に納得していなかった。

ちなみに当時、李信恵はウエブサイト「保守速報」に対して、名誉を毀損されたとして裁判を起こしていた。保守速報が、ネットに差別的な発言を掲載したことが訴因だった。この裁判で裁判所は、李信恵の主張を認め、保守速報に対して200万円の支払いを命じた。差別を規制する法整備を進める層が、李信恵の勝訴を高く評価したのは言うまでもない。メディアも李信恵を、反差別運動の騎士としてクローズアップした。

M君を原告とする裁判と李信恵を被告とする裁判を単純に比較することはできないが、筆者は両者のコントラストに衝動を受けた。司法もマスコミも李信恵の味方だった。

M君VSしばき隊の裁判。3人のメンバーに対して約80万円の支払い命令が下ったが、李信恵の事件関与は認定されなかった。その日の夜、神原元弁護士(右)らは祝杯をあげ、ツイッターで宴会の様子を写真で公表した。

◆李信恵に対して10万円の支払い命令

しばき隊の体質を告発し続ける鹿砦社に対して、李信恵はツイッターで鹿砦社攻撃を繰り返していた。たとえば次の投稿である。

「鹿砦社って、ほんまよくわかんないけど。社長は元中核派?革マル派?どっち?そんなのも知らないおいら。在日の普通の女に、ネットや普通の暮らしの中で嫌がらしかできない奴が、革命なんか起こせないよね。爆笑。おいらは普通の自分の暮らしを守りたいし、クソの代理戦争する気もないし。」

「鹿砦社の人は何が面白いのか、お金目当てなのか、ネタなのかわかんないけど。ほんまに嫌がらせやめて下さい。私に関することだけならいいけど、私の周りに対してのやり方が異常だし酷すぎる。私が死んだらいいのかな。死にたくないし死なないけど。」

これに対して鹿砦社は、李信恵を被告とする損害賠償裁判を起こした。裁判所は、李信恵に対して10万円の支払いを命じた。M君が野間易通を提訴した裁判で、裁判所が野間に命じた額と同じである。李信恵が保守速報から勝ち取った200万円に比べると極端に額が少ない。

鹿砦社から提訴された李信恵は、「反訴」のかたちで、鹿砦社が出版した『反差別と暴力の正体』など、M君リンチ事件を取材した4冊の書籍やデジタル鹿砦社通信に掲載した記事に対して名誉毀損裁判を起こした。この裁判で大阪地裁は、李信恵を勝訴させ、鹿砦社に対して165万円の損害賠償などを命じた。損害賠償額は控訴審で李信恵がリンチの現場に連座していたことを認定し、激しいリンチが行われていてもそれを止めず、被害者M君を放置して立ち去った「道義的批判を免れない」とし110万円に減額された(下記に記述)。

◆業務中のツィータ投稿が1万8535件

M君事件に関する一連の裁判の最終ラウンドとなったのは、鹿砦社が同社の元社員・藤井正美に対して起こした損害賠償裁判だった。藤井は、鹿砦社に在籍していた3年の間、業務中に社のパソコンを使って業務とは無関係なことをしていた。勤務中のツイッター投稿数だけでも、1万8535回に及んでいた。

その中には、鹿砦社の松岡社長を指して「棺桶に片足を突っ込んだ」人間と揶揄するツイートも含まれていた。「松岡」という名前は明記していなかったが、しばき隊の仲間内では周知だったと思われる。

藤井が退職した後、削除されていたパソコンのデータを復元したところ、鹿砦社が圧力団体であるかのような誤解を招きかねない「取材申し込みのメール」を近畿大学など複数の機関に送付していた事実が判明した。

鹿砦社は藤井に対して損害賠償を求めた。ツイッター投稿の足跡と物量、つまり勤務時間中に仕事をしていなかったすべての証拠が請求の根拠となった。仕事をなまけていた印象だけでは、請求の根拠はないが、業務放棄の物的な証拠が残っていたわけだから、社会通念からすれば、請求が認められる可能性があった。また、ツィートの内容が鹿砦社や松岡社長を中傷していた。

鹿砦社による提訴に対して、藤井正美は反訴した。鹿砦社のネット上発信及び出版した書籍で名誉を毀損されたという理由である。

大阪地裁は鹿砦社の請求をすべて棄却し、逆に藤井の「反訴」を認めて鹿砦社に11万円の支払いを命じた。鹿砦社は控訴したが棄却された。

◆李信恵の言動は、「道義的批判を免れない性質」

これら一連の裁判の中で、筆者が唯一注目したのは、李信恵が鹿砦社の書籍などに対して起こした名誉毀損裁判の控訴審判決(大阪地裁)だけである。李信恵の勝訴は覆らなかったが、大阪高裁は損害賠償額を減額した上に李信恵の言動を次のように認定した。

被控訴人(注:李氏)は、本件傷害事件と全く関係がなかったのに控訴人により一方的に虚偽の事実をねつ造されたわけではなく、むしろ、前記認定した事実からは、被控訴人は、本件傷害事件の当日、本件店舗において、最初にMに対し胸倉を掴む暴行を加えた上、その後、仲間であるAがMに暴行を加えている事実を認識していながら、これを制止することもなく飲酒を続け、最後は、負傷したMの側を通り過ぎながら、その状態を気遣うこともなく放置して立ち去ったことが認められる。本件において控訴人の被控訴人に対する名誉毀損の不法行為が成立するのは、被控訴人による暴行が胸倉を掴んだだけでMの顔面を殴打する態様のものではなかったこと、また、法的には暴行を共謀した事実までは認められないということによるものにすぎず、本件傷害事件当日における被控訴人の言動自体は、社会通念上、被控訴人が日頃から人権尊重を標榜していながら、AによるMに対する暴行については、これを容認していたという道義的批判を免れない性質のものである。(控訴審判決、10P、裁判所の判断)

本来であれば、この事実認定を起点として、M君リンチ事件に関する一連の裁判を審理すべきだったのだ。というのも事件の最初の火種を作ったのは、M君の胸倉をつかんだ李信恵だったからだ。仲間が一時的に李信恵をなだめたものの、彼女に代って、彼らがM君に危害を加えたのである。M君自身は李信恵に殴られたと話している。

M君が李信恵らリンチの現場に連座した5人を訴えた大阪地裁裁判では李信恵がM君の胸倉を掴んだことは裁判所も認定しつつも、M君を殴ったのか、殴ったとしたら「平手」か「手拳」かが争点になった。ここにおけるM君の混乱を衝かれ裁判所はM君の証言を「信用できない」とした。考えてもみよう、長時間の激しいリンチで意識が朦朧としている中で、記憶が飛んでしまったり曖昧になるのは致し方ないのではなかろうか。この判決が最高裁で確定したことが、李信恵(原告)vs鹿砦社(被告)訴訟では控訴審で、国際的な心理学者の矢谷暢一郎ニューヨーク州立大学名誉教授による学的な意見書や精神医学の権威・野田正彰の「鑑定書」をもってしても覆すことができなかった。しかし、それは枝葉末節で根源的な問題ではない。根源的な問題は、リーダーとしての李信恵の言動が仲間によるリンチの発火点になった点なのである。

その意味で少なくともM君がしばき隊を訴えた裁判の判決内容は、根本的に間違っている。120万円程度の損害では済まない。

◆M君を「反レイシズム運動の破壊者」呼ばわり

2014年12月17日にしばき隊がリンチ事件を起こした直後、師岡康子弁護士は反差別運動の活動家・金展克に次のメールを送付して、M君が李信恵らを刑事告訴しないようにM君を説得するように依頼した。

そのひと(注:M君)は、今は怒りで自分のやろうとしていることの客観的な意味が見えないかも知れませんが、これからずっと一生、反レイシズム運動の破壊者、運動の中心を担ってきた人たちを権力に売った人、法制化のチャンスをつぶした人という重い批判を背負いつづけることになります。

筆者は、人権よりも「市民運動」の政策目的を優先するこの弁護士に、薄っぺらなヒューマニズムを感じる。冷血といおうか。M君リンチ事件に端を発した一連の裁判は、筆者にとっては、劣化した日本を考える機会であった。幸いに事件の記録は、鹿砦社が刊行した6冊の書籍に詳細に記録されている。

ジャーナリズムの役割とは、こういうものではないだろうか。

※登場人物の敬称は略しました。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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鹿砦社 http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000541

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