シコルスキ氏の「欧州軍団」構想は、ポーランドがウクライナに「平和維持部隊」を派遣するための手段なのか

アンドリュー・コリブコ

アジア版NATO構想と並行して、欧州では「欧州軍団」構想がある。これは、NATOに代わる新たな軍事同盟をつくるものではなく、欧州が自らの防衛をより多く担うことで、NATOの「欧州の柱」を強化しようとする動きと位置づけられる。執筆者のコリブコは、この枠組みが将来的にポーランド軍のウクライナ派遣に利用される可能性を指摘する。

ポーランドのラデク・シコルスキ外相

※   ※   ※   ※

保守派のカロル・ナヴロツキ大統領は、ポーランド軍の最高司令官であり、軍をめぐる大きな権限を持つ。ところが、与党のリベラル連立政権が「欧州軍団」の枠組みを使って一部のポーランド軍の部隊をEUの指揮下に移した場合、話は別だ。そうなれば、その部隊のウクライナ派遣をナヴロツキ大統領が阻止できるのかどうかは、はっきりしない。

ポーランドのラデク・シコルスキ外相は最近、ギリシャのメディアとのインタビューで「欧州軍団(European Legion)」の創設を提唱した。シコルスキ氏は次のように述べている。

「私は『欧州軍団』の創設を強く支持している。これは常設の専門部隊であり、より広い欧州の枠組みから経験豊富な職業軍人を募ることができる。戦争終結後には、実戦経験を積んだウクライナの退役軍人もその対象になり得る。要するに、欧州は自らの安全保障に自ら責任を持たなければならないということだ」

さらに、こう付け加えた。

「われわれの裏庭で火事が起きるたびに、ワシントンに電話をかけるわけにはいかない。それが通常の軍事的脅威であれ、モスクワがアフリカや中東からの移民流入をEUに対する武器として利用する事態であれ、同じことだ。ただし、ここは明確にしておきたい。これはNATOに代わる別の組織をつくったり、既存の仕組みを二重化したりする話ではない。必要なのは、より強力なNATOの中に、より強力な『欧州の柱』を築くことだ。われわれの利益は互いに補完し合うものであって、相反するものではない」

この発言に驚いた向きもあった。というのも、シコルスキ氏は1年半前、ゼレンスキー大統領が提唱した「欧州軍(Army of Europe)」構想を退けていたからだ。当時、ポーランド外交のトップである同氏はこう述べていた。

「この言葉の使い方には慎重であるべきだと思う。人によって意味するところが違うからだ。もしそれが各国軍を一つに統合するという意味なら、そのようなことは起こらない」

ここに両構想の最大の違いがある。「欧州軍」は各国軍を統合する構想であり、現実味に乏しい。一方、「欧州軍団」は志願制の部隊として想定されている。

後者についてもう少し詳しく見てみると、シコルスキ氏が念頭に置いているのは、EU加盟国とウクライナの兵士から構成される即応部隊で、何らかのEU機関の指揮下に置かれるものとみられる。その目的は、危機が発生した際に迅速に対応することにある。そして、紛争地域に各国の兵士が実際に配置されることで、NATO全体、あるいはEU内の「有志連合」をその紛争に関与させる「トリップワイヤー(引き金)」として機能することになると考えられる。

シコルスキ氏がこの構想を打ち出したのは、英国、フランス、ドイツの3カ国――いわゆる「E3」であり、先行きが不透明とも報じられている「有志連合」の中心国――が、停戦成立後にウクライナへ部隊を派遣する計画を確認してから2カ月後のことだ。

一方、シコルスキ氏が属するリベラル連立政権と激しく対立している保守派のカロル・ナヴロツキ大統領は、2025年5月、大統領選挙の決選投票を前に、ポーランド軍のウクライナ派遣は認めないと書面で誓約している。

ナヴロツキ氏は軍の最高司令官ではある。しかし、リベラル派の国防相が「欧州軍団」を通じて一部のポーランド軍部隊をEUの指揮下に置いた場合、「有志連合」の計画の一環としてそれらの部隊がウクライナへ派遣されるのを、ナヴロツキ氏が阻止できるのかどうかは不透明だ。

ここ数カ月、ポーランド国内ではウクライナに対する世論が悪化している。ゼレンスキー大統領が、ヴォルィーニ虐殺に関与したOUN-UPA(ウクライナ民族主義者組織・ウクライナ蜂起軍)の関係者を称揚したことがその背景にある。そのため、与党リベラル派がこのような措置に踏み切れば、2027年秋に予定される次回の下院(セイム)選挙を前に、再選への望みを損なう可能性がある。

【黒薮注】ヴォルィーニ虐殺(Volhynia massacres):第二次世界大戦中の1943~1944年ごろ、現在のウクライナ西部を中心に、ポーランド系住民が大規模に殺害された事件を指す。中心的な実行主体とされるのが、ウクライナ民族主義者組織(OUN)の一派と、その武装組織であるウクライナ蜂起軍(UPA)。彼らは、将来の独立ウクライナ国家の領域からポーランド系住民を排除することなどを目的として、ヴォルィーニ(ヴォルヒニア)地方や東ガリツィアでポーランド人の村々を襲撃した。数万人規模のポーランド人民間人が殺害された。

それでも、「最近締結されたポーランド・ドイツ防衛協定は、ワルシャワの利益よりもベルリンの利益を優先していることに疑いの余地はない」とされている。また、ドナルド・トゥスク首相はドイツと非常に緊密な関係にあり、保守派野党の「影の実力者」からかつて「ドイツの工作員」と非難されたことさえある。

したがって、もしドイツが「欧州軍団」を通じたポーランド軍のウクライナ派遣を要求した場合、トゥスク首相が来年、政権維持を危うくするリスクを冒してでもそれに応じる可能性は排除できない。

ただし、そのような軍事派遣をロシアが容認するかどうかは、また別の問題である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月26日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/is-sikorskis-european-legion-proposal?utm_campaign=post&utm_medium=web

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文化放送「香害」番組削除をめぐり波紋 市民団体が抗議、横浜副流煙事件の被告家族は文化放送を擁護

黒薮哲哉

「香害」や化学物質過敏症の危険性を訴え、「被害者」への配慮を社会に求めている市民団体「カナリア・ネットワーク全国」(共同代表・青山和子、深谷桂子)が、文化放送が8月5日に放送したYouTubeラジオ番組に抗議し、その後、番組が削除された問題で、新たな事実が判明した。

カナリア・ネットワーク全国は、BPO(放送倫理・番組向上機構)に対しても申立書を送付した。さらに、同団体だけではなく、日本消費者連盟なども8月10日に文化放送に抗議していたことが分かった。

文化放送が8月5日に放送した「香害」に関するラジオ番組は、YouTubeでも視聴できるようになっていたが、現在はアクセスできなくなっている。カナリア・ネットワーク全国は、番組で「香害」について話した村中璃子医師の見解に誤りがあり、海外における「香害」の実態などが過小評価され、事実に反する内容が放送されたと主張している。

結果として、市民団体からの抗議の後に、一つのラジオ番組が削除されたことになる。

こうした動きを受け、横浜副流煙事件の被告の家族である藤井敦子さんが、文化放送に申し入れを行った。

申入書全文1頁
申入書全文2頁
申入書全文3頁(全3頁)

■申入書全文(PDF)

申入書では、「香害」をめぐる主張には疑似科学的な側面があるとの見解を示し、その根拠として、藤井さんの夫が副流煙の発生源であるとして提訴された事件(請求額4518万円、藤井さん側が勝訴)で明らかになった具体的な事実を紹介している。

例えば、被告である夫が不在だったときにも、同じマンションに住む原告家族3人が煙の臭いを訴えていたという事実である。これは原告側の日誌から、時系列的にも確認されている。

また、この裁判では、日本禁煙学会の作田学医師が、「受動喫煙症」を訴えていた原告について、本人を診察することなく「受動喫煙症」とする診断書を交付していたことも明らかになった。さらに、原告の一人には長い喫煙歴があったことも判明している。

こうした診断基準について、横浜地裁は次のように認定している。

「その基準(日本禁煙学会の『受動喫煙の分類と診断基準』)が受動喫煙自体についての客観的証拠がなくとも、患者の申告だけで受動喫煙症と診断してかまわないとしているのは、早期治療に着手するためとか、法的手段をとるための布石とするといった一種の政策目的によるものと認められる。(認定事実(4)ア)」

こうした複数の事実に基づき、藤井さんは、「香害」をめぐる主張には疑似科学的な側面があると主張している。

◆「香害」をめぐるアンケートの非科学的側面

なお、この問題に関して、やはり「香害」を訴えている日本消費者連盟のウェブサイトには、次のような記述がある。

私共は、「香害」問題に取り組んでいる市民団体です。2017年夏に、市民から香害被害の声を募る「香害110番」を行って以来、香害の解決を求めて、省庁との交渉を続けております。2020年には、9000人以上からの回答を得た香害アンケート結果を発表。香害被害者の約20%が、通学や通勤・就労に支障を来たしているという深刻な現状を明らかにしました。2022年には、香りを長持ちさせるマイクロカプセル等の徐放技術を日用品に使用しないことをメーカー等に求める署名活動を行うなど、香害をなくすために様々な活動を行ってまいりました。( 出典 https://nishoren.net/cuj-25274

このアンケートの具体的な調査方法が不明なため断言はできないが、「香害」の被害を把握するために実施されたアンケートの中には、調査方法の妥当性について検討を要するものもかなりある。

例えば、ある市民団体が実施したアンケートでは、「香害」に取り組むネットワークにも調査票を送り、その活動の参加者も回答する形式になっていた。その結果、極めて高い「有症率」が示された。

吐き気や頭痛などの症状や不快感は、「香害」以外のさまざまな要因によっても日常的に生じ得る。そのため、自己申告によるアンケート結果から、「香害」と症状との因果関係までを判断する際には慎重さが求められる。

[参考記事]禁煙ファシズムに審判、横浜・副流煙裁判で被告の藤井さんが完全勝訴、日本禁煙学会理事長・作田学医師の医師法20条違反(無診察で診断書を作成する行為の禁止)を認定

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月1日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。
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▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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「松竹裁判」の危険な兆候、司法権力による政党への介入

黒薮哲哉

松竹伸幸氏が日本共産党に対し、除名処分は不当だとして提訴している裁判が注目を集めている。先日、東京地裁で行われた尋問には多数の傍聴希望者が詰めかけ、抽選が行われたそうだ。

わたしは双方を取材していないので、原告・被告のどちらの主張に理があるのかを評価する立場にはない。しかし、それ以前の問題として指摘しておきたいことがひとつある。それは、政党をめぐる問題に裁判所が介入することが、今後どのような影響を及ぼすのかという点である。

改めて言うまでもなく、政党は任意団体である。共産党の場合は、科学的社会主義の思想のもと、社会主義をめざそうという人々の集まりである。一般企業や教育機関など、一定の公共性を有する組織とは、その性質が異なる。共産党以外の政党についても、それぞれの理念に基づいて政治活動を展開している。

松竹氏をめぐる裁判では、共産党の方針や、それに基づく党員への処分の当否について、裁判所という国家機関が司法判断を下すことになる。ここには慎重に考えるべき問題がある。司法が政党内部の意思決定にどこまで関与できるのか。その範囲が際限なく広がれば、国家権力が政党の自律性を脅かすことにもなりかねない。

わたしは、この裁判が、政党の自律と司法の関係をめぐる極めて重要かつ慎重に扱うべき問題を含んでいると考えている。判決内容によっては、日本を専制国家に暴走させる危険性を孕んでいる。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月29日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

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「倒産31件」では見えない新聞販売店の経営危機 ――『しんぶん赤旗』記事が見落とした「押し紙」問題

黒薮哲哉

8月22日付の『しんぶん赤旗』に掲載された記事には、重大な事実誤認がある。見出しは「新聞販売店倒産 年間50件超えか」「購読者離れに歯止めかからず」である。

この記事は、東京商工リサーチの調査によると、2026年1~7月の新聞販売店の倒産が31件に上り、このままのペースで推移すれば年間50件を超えるおそれがあるとしたうえで、新聞の休刊や廃刊が進む背景として、購読者の新聞離れや広告収入の減少を挙げている。

しかし、この数字だけでは新聞販売店が置かれている実態を十分に捉えることはできない。販売店の経営が行き詰まった結果、店舗や販売区域を残したまま経営者が交代したケースや、倒産という形を取らず自主的に廃業したケースは、「倒産31件」という数字には含まれていないからである。

仮に倒産によって消滅した販売店が31件だったとしても、それとは別に店主の交代は各地で行われている。新聞業界紙を見ても、店主交代の記事が継続的に掲載されている。

では、なぜ店主交代が行われるのか。その背景の一つとして指摘しなければならないのが、「押し紙」の問題である。実際の購読者数を上回る新聞の仕入れを余儀なくされれば、その代金が販売店の経営を圧迫する。資金繰りが悪化し、借入金の返済や金融機関との取引に支障を来すこともあり得る。

その結果、新聞代金の支払いが困難になり、開業時などに新聞社へ差し入れた保証金等との精算を経て、店主が販売店経営から退くケースもある。

現在、大阪地裁で係争中の毎日新聞社を被告とする「押し紙」をめぐる訴訟でも、販売店の経営と新聞の供給部数との関係が争点となっている。

【参考記事】「押し紙」を隠す経理マジック――毎日新聞裁判で判明した日本の新聞社のビジネスモデルに、ジャーナリズムが機能しない客観的な理由

『しんぶん赤旗』が指摘するように、「購読者の新聞離れと広告収入の減少」が新聞販売店の経営を圧迫していることは間違いない。しかし、販売店経営の実態を論じるのであれば、それだけでは不十分である。新聞社から販売店に供給される新聞の部数と、実際に読者へ販売される部数との乖離、すなわち「押し紙」として問題にされてきた過剰な新聞供給が販売店経営に与える負担についても検証する必要がある。

「倒産31件」という数字だけでは、新聞販売店が直面している経営問題の全体像は見えてこないのである。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月24日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

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ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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米国は「AUKUS+」を通じて、アジアで「NATO 3.0」構想を実行しつつある

アンドリュー・コリブコ

米国は、中国への抑止力を強化するため、日本やフィリピンなどの同盟国に、これまで以上に大きな防衛上の役割を担わせようとしている。この記事では、米国が欧州でロシアに対して構築してきた安全保障の仕組みをアジアにも応用し、AUKUSや既存の同盟関係を結びつけた「AUKUS+」とも呼べるネットワークを形成しつつあると分析する。日本で浮上している改憲の動きの背景にある事情も、行間から読み取れる。

※   ※   ※   ※

米国は、ロシアに対して用いてきた地域的な封じ込めモデルを、中国に対しても再現しようとしている。

米国のエルブリッジ・コルビー国防次官(政策担当)は8月上旬、東南アジア歴訪の最初の訪問地であるマニラで、重要な演説を行った。この演説は、米国が「NATO 3.0」という考え方をアジア地域に持ち込むことを事実上表明したものだといえる。

【黒薮注】NATO 3.0:ここではNATOの変遷を意味して、NATO 1.0は冷戦期、NATO 2.0は冷戦後、そしてNATO 3.0は、米国だけに負担を集中させず、ポーランド、日本、フィリピンなどの「前線国家」により大きな防衛負担を担わせ、米軍と一体化した地域的な抑止網をつくる段階。

第2次トランプ政権の軍事・戦略政策を設計する中心人物であるコルビーの説明によれば、米国は、現在の地域秩序を維持する責任を、同じ利益を共有する同盟国やパートナー国に、これまで以上に負担させようとしている。この場合、各国が共有する利益とは、コルビーの言葉でいう「特定の国による覇権に支配されないアジア」である。明言こそしていないものの、その狙いは中国を封じ込めることにある、と筆者は見ている。

コルビーは、第2次トランプ政権の政策を正当化する根拠として、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」、そしてピート・ヘグセス国防長官が5月下旬のシャングリラ・ダイアローグで行った演説を挙げた。その政策とは、日本からボルネオ島まで続く「第一列島線に沿って、敵の攻撃を拒否できる態勢を整え、それによって抑止力を維持する」というものだ。

フィリピンは第一列島線のほぼ中央に位置している。そのため、別のところで「AUKUS+」と呼ばれている安全保障ネットワークを構築するうえで、フィリピンは代わりの利かない重要な国となる。

【黒薮注】AUKUS+:米・英・豪の3か国が、潜水艦や最先端軍事技術を共同で開発・運用し、軍事的な連携を深める枠組み。

この構想では、米国の支援を受けた日本とフィリピン(そして場合によってはインドネシア)が中核を担うと考えられている。コルビーは次のように述べた。

「われわれは、『力による平和』という考え方を支え、アジアにおいて長期的に望ましい勢力均衡を維持するため、敵の攻撃を阻止・拒否できる強力な防衛体制を積極的に構築している。

われわれは前方展開態勢を組織的に強化し、拠点の防御力を高めるとともに、相応の負担を引き受ける意思のある重要な国々との軍事的な相互運用性を大幅に高めている。

これは、カメラの前で見せるための象徴的な軍事演習を行うだけの話ではない。現実に起こり得る軍事侵攻を打ち破ることのできる、実戦能力を備えた戦力を配備するということだ。」

この発言からは、米国の意図が明確に読み取れる、と筆者は見ている。つまり米国は、アジア太平洋地域で自らがすべてを直接担うのではなく、同盟国を前面に立たせて支援する「後方からの指導(Leading From Behind)」という形で中国を封じ込めようとしている、ということだ。そのための仕組みが、アジアに「NATO 3.0」型の体制を導入し、「AUKUS+」のネットワークを急速に構築することだと筆者は見ている。

ここで特に重要なのは、コルビーがフィリピンを「模範的な同盟国(model ally)」と呼んだことだ。これは、ヘグセス国防長官が2025年初頭の欧州歴訪でポーランドを訪れた際、同国について使った表現と同じである。そのため筆者は、米国がアジアにおいてフィリピンに、欧州におけるポーランドと似た役割を担わせようとしていると推測している。

したがって今後、フィリピンは米国にとってアジアにおける重要な軍事拠点となり、その地政学的な位置を利用して、中国を封じ込めるうえで中心的な役割を担うようになると考えられる。これは、ポーランドがロシアに対して担っている役割とよく似ている。ポーランドのカロル・ナヴロツキ大統領も最近、この役割を改めて確認しており、いずれの場合も米国との緊密な連携のもとで進められる。

もちろん、フィリピンだけで中国を封じ込めることはできない。それは、ポーランドだけでロシアを封じ込めることができないのと同じである。むしろ両国に期待されている主な役割は、米軍のための兵站・補給拠点となり、必要な場合には米軍が作戦を開始・展開するための足場となることなのである。

実際のところ、筆者によれば、最終的な狙いはフィリピンとポーランドに十分な軍需物資、米軍部隊、ミサイルなどを配備しておき、それによって中国やロシアの軍事行動を抑止することにある。具体的には、中国が台湾に対して軍事行動を起こすことを抑止すると同時に、現在の戦闘が最終的に終結した後、ロシアが再びウクライナに対して同様の軍事行動を取ることを防ぐ、という構想である。それでも中国やロシアが軍事行動に踏み切った場合には、それぞれフィリピンやポーランドが介入し、その後を追う形で米国も介入するという仕組みが想定されている、と筆者は見ている。

日本についても、フィリピンと同じような役割を担えるよう準備が進められている。ただし実際に戦争が起きた場合、日本は最初から直接参戦しない可能性がある。その理由として筆者が挙げているのは、紛争のエスカレーションを抑える必要があることと、もし日本が参戦して中国から直接報復を受ければ、世界経済に大きな衝撃を与える恐れがあることだ。日本経済は、ポーランドはもちろん、フィリピンと比べても世界経済にとってはるかに重要な存在である。

一方、日本、ポーランド、フィリピンの3か国はいずれも米国と相互防衛の関係にある。そのため、想定される紛争において、中国やロシアが台湾やウクライナで活動する日本・フィリピン軍、あるいはポーランド軍だけを攻撃するのではなく、日本、フィリピン、ポーランド本国を直接攻撃した場合、米国の軍事的対応を招くことになると筆者は考えている。

コルビーの演説から読み取れるのは、筆者によれば、米国がロシアに対して構築してきた地域的な「封じ込め」の仕組みを、中国に対しても再現しようとしているということである。つまり欧州では、ポーランドなどの同盟国を前線の重要拠点としてロシアを抑止・封じ込める。一方アジアでは、フィリピンや日本などを重要拠点として、中国に対して同様の体制を構築しようとしている、というのが筆者の見方である。

筆者は、こうした動きが世界の安定に極めて大きな影響を及ぼし、米中・米露の直接衝突、ひいては第三次世界大戦に発展する危険性を高めると警告している。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月16日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

Source:https://korybko.substack.com/p/the-us-is-implementing-the-nato-30

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

プーチン大統領、悪化する日露関係を嘆く

アンドリュー・コリブコ

ロシアのプーチン大統領は8月中旬、太平洋艦隊の司令官らとの会合で、近年の日露関係の悪化に懸念を示した。記事は、日本が米国などとの安全保障協力や軍備強化を進め、北東アジアにおける対ロシア包囲網の中心的役割を担いつつあると分析。これに対しロシアも太平洋方面の戦力を増強し、中国や北朝鮮との連携を深める可能性があると指摘している。

※   ※   ※   ※

米国がこの1年間にロシアの周囲に築いてきた「封じ込めの包囲網(cordon sanitaire)」の北東アジア方面を日本が主導するようになるにつれ、日露間の緊張がさらに高まることは避けられないかも知れない。

プーチン大統領は8月中旬、ロシア太平洋艦隊の司令官らとの会合で、日露関係について語った。プーチン氏は、ここ数年で両国関係が悪化したことを嘆き、その原因となるような行動をロシア側はまったく取っていないと主張した。そして、現在では「日本が最新の防衛関連文書で、初めてロシアを主要な脅威の一つに位置づけるまでになった」と述べた。

その後、プーチン氏はクリル諸島(日本でいう北方領土を含む)をめぐる問題について簡単に振り返り、日本の対ロシア政策が、貿易や対話を重視する姿勢から、制裁と対立を重視する方向へ転換したことに不満を示した。

ロシア太平洋艦隊のヴィクトル・リーナ司令官は、日本が地域で形成されつつある新たな政治・軍事的枠組みに加わっており、それらはNATOの一部のような役割を果たしているとの見方を示した。具体的には、次の枠組みを挙げた。

〇日本・韓国・米国の3か国協力
〇日本・フィリピン・米国による「JAPHUS」
〇日本・オーストラリア・インド・米国による「Quad(クアッド)」
〇オーストラリア・日本・米国による「AJUS」

リーナ司令官はさらに、「これらの国々は共同で作戦・戦闘訓練を行っており、その頻度も規模も一貫して拡大している」と述べた。

そして、北東アジアにおけるこうした不安定化の動きの中で、日本が中心的な役割を担っていると指摘した。その理由として、日本が急速に軍事力を強化していること、さらに「非核三原則」を廃止する案が出ていることを挙げた。非核三原則が廃止されれば、将来的に日本が核兵器を保有・製造したり、外国の核兵器を国内に配備させたりする可能性が生じる、と原文は論じている。

こうした動きは、7月下旬の記事「ロシアの政府高官が、自国に対する日本の脅威の高まりに言及した」で論じられた内容を、さらに裏付けるものでもある。

また、8月初旬、エルブリッジ・コルビー米国防次官(政策担当)が東南アジア歴訪の最初の訪問先で重要な演説を行った後に論じられた、「米国はAUKUS+を通じてアジアで『NATO 3.0』構想を実行している」という見方とも一致している。

【黒薮注】AUKUS+:米・英・豪の3か国が、潜水艦や最先端軍事技術を共同で開発・運用し、軍事的な連携を深める枠組み。

【黒薮注】NATO 3.0:ここではNATOの変遷を意味して、NATO 1.0は冷戦期、NATO 2.0は冷戦後、そしてNATO 3.0は、米国だけに負担を集中させず、ポーランド、日本、フィリピンなどの「前線国家」により大きな防衛負担を担わせ、米軍と一体化した地域的な抑止網をつくる段階。

もっとも、リーナ司令官がQuadをNATOの一部のように表現した点については議論の余地がある。インドは独立した外交路線を強く維持しており、現在もロシアにとって重要なパートナーだからだ。しかし、それ以外のリーナ司令官の発言については、先ほど述べた見方とおおむね一致している。

【黒薮注】Quad:日本・アメリカ・オーストラリア・インドの4か国による協力枠組み。

今回の会合で重要なのは、プーチン大統領が日露関係の悪化を嘆き、同時に太平洋艦隊の司令官が「日本によるロシアへの脅威が高まっている」と評価したことである。これは、ロシアが北東アジアの安全保障環境の変化を認識していることを示している。

今年の夏にも述べたように、この1年間でロシアの周辺には一種の「封じ込めの包囲網」が形成され始めている。筆者はその背景に、第2次トランプ政権の「新レーガン・ドクトリン」があり、それによって世界各地でロシアの影響力を後退させようとしているとみている。

その中で日本には、北東アジア方面を主導する役割が与えられているという。それは今後、米軍ミサイルの日本への定期的な配備、海上での挑発的な行動とその頻度の増加、さらには日本の急速な軍備拡大と並行した核武装の可能性という形で現れると考えられる。

ロシア側も、こうした事態に備えつつある。プーチン大統領と太平洋艦隊司令官らとの会合内容は、そのことを示していると筆者はみている。その結果、今後ロシア太平洋艦隊の戦力が増強され、中国や北朝鮮との協力もさらに強化される可能性が高い。

読者が忘れてはならないのは、ロシアは日本を一度も脅したことがなく、むしろ米国との連帯を優先した日本の側が、これまで述べてきた手段によってロシアを脅す道を選んだのだ、という点である――これが筆者の主張である。

この政策は日本自身の経済的利益も損なっていると筆者は考えている。資源に乏しい島国である日本が、地理的に近いロシアのエネルギー資源や鉱物資源を利用する機会を、自らあらかじめ排除してしまっているからだ。ただし、制裁の適用除外となっている大型エネルギー事業「サハリン2」は例外である。

【黒薮注】サハリン2:ロシア極東のサハリン島周辺で天然ガスと石油を開発し、主にアジアへ輸出する大型エネルギー事業。三井物産と三菱商事もこのプロジェクトに出資してきた。

したがって日本には、現在の反ロシア的な政策を見直す経済的な動機もある、というのが筆者の結論である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月17日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

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https://korybko.substack.com/p/putin-lamented-the-worsening-of-russian?utm_campaign=post&utm_medium=web

サラ金・商工ローンの比ではない「押し紙」商法 毎日新聞元販売店主が保証金など約1600万円を没収された経緯を証言

黒薮哲哉

兵庫県の阪神地区にある毎日新聞の元販売店主が起こした「押し紙」裁判で、原告代理人の江上武幸弁護士は、原告の「陳述録取書」を提出した。元販売店主は、「押し紙」によって損害を受けたとして、毎日新聞社に約1億6000万円の損害賠償を求めている。「陳述録取書」の全文は次の通りである。

◎「陳述録取書」https://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2026/08/2608112a_0001.pdf

◆サラ金・商工ローンの比ではない「押し紙」商法

かつて、サラ金や商工ローンによる厳しい借金の取り立てが社会問題になった。幸い、マスコミの追及などを通じて問題にメスが入り、被害者を救済する道が開かれた。コンビニエンスストアの店主に対する親会社の優越的地位の濫用も社会問題となり、これについてもメスが入った。

これらに対して、半世紀にわたって水面下で問題となってきたのが、新聞販売における「押し紙」である。

今回提出された元販売店主の「陳述録取書」には、販売店を開業する際に毎日新聞社に預けた保証金と販売店譲渡代金、合わせて約1600万円が没収された経緯が記されている。これらの預け金は、不動産取引でいう敷金のようなもので、廃業時に返還されるのが原則である。

しかし、元販売店主の場合、「押し紙」によって発生した新聞仕入れ代金の未払いを理由に、これらの預け金が没収された。

サラ金・商工ローンやコンビニをめぐる問題にはメスが入った。それでは、なぜ新聞社の「押し紙」は容認されているのだろうか。それは新聞社が日本の権力構造の「広報部」として組み込まれているからにほかならない。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月12日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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◎twitter https://twitter.com/kuroyabu


ウクライナ紛争で「最大限の勝利」を得られなければ、ロシアは本当に存続できないのか?

アンドリュー・コリブコ

ロシアはウクライナ紛争で「最大限の勝利」を収めなければ、国家として存続できないのか。ロシア指導部が勝利の必要性を強調する一方、米国との交渉では一定の妥協に応じる姿勢も示している。本稿は、ロシアがすべての目標を達成しないまま紛争が終結した場合を想定し、その後に直面する軍事・安全保障上の課題と、国家存続への影響を考察する。

※   ※   ※   ※

ここで最も重要なのは、ロシアが他国との軍拡競争についていけるだけの軍事力を維持し、国民も長期にわたる厳しい状況に耐え続けられるかどうかである。これは、ロシアの著名な専門家ワシリー・カシンが5月下旬に示した見方ともよく似ている。

ロシア前大統領で、現在は安全保障会議副議長を務めるドミトリー・メドベージェフは7月下旬、次のように述べた。

「われわれ共通の課題は、国を守ることだ。国を守る唯一の方法は、特別軍事作戦で勝利することである」

ロシア政府は、プーチン大統領をはじめ、「勝利」の条件として次のことを挙げてきた。ウクライナの非軍事化と「非ナチ化」、憲法上の中立への復帰、そして5つの地域すべてを失ったことをキーウが正式に認めることである。こうした目標をすべて達成する「最大限の勝利」は、ロシアの国益を幅広く守るうえで最善の結果だろう。

しかし、紛争が終わるまでにこれらの目標をすべて達成できなかったとしても、ロシアという国家が存続できなくなる可能性は低い。

ロシアがすべての目標を達成しないまま紛争が終わる可能性も否定できない。セルゲイ・ラブロフ外相は最近、「アンカレッジの精神」を守るというロシアの姿勢を改めて確認した。この構想では、報道によれば、トランプがゼレンスキーにドンバスを譲るよう説得できれば、プーチンは戦闘を停止するとされている。

また、西側諸国、特に米国とフランスは、ウクライナを前面に出した新たな「消耗戦」をロシアに対して進めている。これは民間の物流インフラも標的としており、トランプがロシアに対して「緊張を高めることで、最終的に緊張を下げる」という方法を取っているためだ。この動きが大幅に激しくなれば、プーチンの判断も変わる可能性がある。

ここでこうした可能性を挙げているのは、ロシアが「最大限の勝利」を目指すことについて妥協すべきだと言うためではない。なぜロシアが妥協する可能性があるのかを示すためである。

そこで、メドベージェフの発言を踏まえ、ロシアが「最大限の勝利」を達成できなかった場合にどうなるのかを検討してみよう。

仮に紛争が終わった時点でも、ウクライナが軍事力を維持し、「非ナチ化」されず、憲法上の中立に戻らず、さらに5つの地域すべてを失ったことを正式に認めなかったとしても、ロシアはおそらく存続できる。その理由を簡単に説明する。

まず、ウクライナが軍備を維持・強化し続けるなら、ロシアもそれに合わせて軍備を強化することになる。NATO、特にドイツが軍備を強化し続けた場合も同じである。その結果、軍拡競争が続くことになる。次に、「マイダン」後のウクライナがナチ国家のまま存続した場合、ロシアはそこから生じる思想的な脅威に対抗する必要がある。

【黒薮注】「マイダン」後のウクライナ:マイダンは2013年末から2014年にかけて、首都キーウの独立広場(マイダン・ネザレージュノスチ)を中心に起きた大規模な反政府運動。この運動の結果、2014年2月に親ロシア派とされたヤヌコーヴィチ大統領が政権を離れ、その後ウクライナは極右化した。

そのため、ロシアは、偽情報などを事前に見抜くための対策、メディア・リテラシー、「民主的安全保障」の政策をさらに強化し、民族間の関係を安定させる政策も改善し続けることになる。また、ロシアの元情報機関幹部アンドレイ・ベズルコフが以前提案したように、軍と社会の文化をより一体化することも役立つだろう。

【黒薮注】アンドレイ・ベズルコフ(Andrey/Andrei Bezrukov)は、ロシアの元対外情報工作員で、特に米国で長期間「一般市民」として生活しながら活動していたことで知られる人物。

一方、ウクライナが中立国にならないことで生じる脅威については、ロシアの大陸間弾道ミサイル「サルマト」によって、NATOの部隊配備を抑止することが可能だと考えられる。

最後に、キーウが係争地域の一部を支配し続けた場合の人道上の問題については、第三国の仲介による合意を結び、希望する住民がロシアへ移住できるようにすることで、その影響を減らせる可能性がある。

しかし、そのような合意が成立しなかったとしても、ロシアという国家の存続そのものを脅かすことにはならないだろう。ロシアが軍拡競争で後れを取らず、国民が困難に耐え続けることである。このシナリオは、ロシアの著名な専門家ワシリー・カシンが5月下旬に示唆したものとも似ている。

一方、仮にロシアが「最大限の勝利」を達成したとしても、米国はすでにロシアの周辺に緩やかな「封じ込めの壁」を作っている。北極・バルト海地域では英国が中心となり、中央ヨーロッパではポーランドが中心となっている。ロシア南部の周辺地域ではトルコが、北東アジアでは日本が中心的な役割を果たしている。

これによってロシアはさまざまな脅威に直面している。それらすべてを説明することは今回の分析の範囲を超える。しかし、この状況は、ベズルコフが述べた「ロシアは西側との『新たな戦争』に数十年間巻き込まれる可能性がある」という警告に、一定の説得力を与えている。

◆筆者アンドリュー・コリブコによる注釈

背景を説明すると、プーチンは昨年末、安全保障会議との会合で、ウクライナ紛争を終わらせるために、具体的な内容は明らかにしていないものの、一定の「妥協」に応じたと実際に述べている。

「もちろん、これは秘密ではありません。この問題について公の場ではほとんど議論しておらず、ごく一般的な話しかしていませんが、秘密というわけではありません。

ウクライナ情勢を解決するためのトランプ大統領の和平案については、アラスカでの会談前から話し合われていました。その事前協議の中で、米国側はわれわれに一定の妥協を求め、彼らの言葉で言えば、『柔軟な姿勢』を示すよう求めました。

アラスカ会談で最も重要だったのは、アンカレッジでの協議を通じて、いくつかの複雑な問題や困難があるにもかかわらず、われわれがそれらの提案に同意し、米国側が求めた柔軟な姿勢を示す用意があることを確認した点です。」

また、ラブロフ外相も今年の夏の初めに、同じ立場を改めて確認している。

「私はアンカレッジでの発言を非常に大切にしています。ウラジーミル・プーチン大統領は次のように述べました。

『アンカレッジに関連して、われわれは米国側がまとめた妥協案を受け入れるよう求められました。われわれはそれを検討し、すぐにではありませんでしたが、アンカレッジに到着した際に、同意すると伝えました。』

また大統領は、『本日、つまり2025年8月15日に成立した合意が、ウクライナ問題を解決するための出発点となり、さらに広い意味ではロシアと米国の関係を前進させる出発点となることを期待している』とも述べました。」

ここでクレムリンとロシア外務省の公式ウェブサイトに掲載されているこれらの事実をあらかじめ紹介しておくのは、この記事をめぐって、誰かが私に対する個人攻撃をしてくる可能性がかなり高いと思っているからだ。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月12日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/would-russia-really-cease-to-exist?utm_campaign=post&utm_medium=web

新聞の没落止まらず、読売新聞が500万部割れ、朝日新聞も300万部割れ目前 ―― 2026年6月ABC部数

黒薮哲哉

2026年6月度のABC部数が明らかになった。それによると、読売新聞は500万部の大台を割り込み、約499万8,000部となった。この1年間で約44万5,000部を減らした。
朝日新聞は約306万部で、現在の減少傾向が続けば、年内にも300万部の大台を割り込む可能性が高い。この1年間だけで約17万5,000部を減らした。

詳細は次の通りである。カッコ内は前年同月からの減少部数。
朝日新聞:3,059,598部(174,715部減)
毎日新聞:1,054,237部(157,335部減)
読売新聞:4,997,651部(444,899部減)
日経新聞:1,173,206部(115,233部減)
産経新聞:740,939部(57,313部減)

なお、ABC部数には、いわゆる「押し紙」が含まれている。そのため、ABC部数として公表された数字が、そのまま読者に配達・販売された実配部数を示しているとは限らない。

「押し紙」とは、新聞社が販売店に対し、実際の販売部数を上回る新聞を供給する行為を指す。この問題については海外でも言及されており、英語版Wikipediaは、日本の新聞発行部数をめぐる事情について、次のように説明している。

Oshigami (押し紙) is a practice in the Japanese newspaper industry which describes the deliberate oversupply of newspapers to suppliers and businesses for the profit of the wholesaler. Along with the older age of the Japanese population (younger people are less likely to read newspapers),[1] oshigami is one component of the apparent endurance of print circulation in Japan while printed media has seen rapid decline elsewhere with the rising popularity of online media.

【訳】「押し紙」とは、日本の新聞業界における慣行の一つで、卸売業者側(黒薮注:新聞社のこと)が利益を得るために、販売店や企業に対して意図的に新聞を過剰供給することを指す。

日本の人口の高齢化(若年層は新聞を読む傾向が低い)と相まって、オンラインメディアの台頭によって他国では印刷媒体の発行部数が急速に減少している一方、日本では印刷媒体の発行部数が比較的堅調に推移している。その背景を構成する一因として、「押し紙」が挙げられる。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月17日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
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ロシア高官が言及した「日本がロシアにもたらす脅威」の高まり

アンドリュー・コリブコ

ロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官が、日本の安全保障政策に対する警戒感を強めている。米国の短・中距離ミサイルシステム「タイフォン」の日本への一時配備や、ウクライナとのドローン技術協力が進めば、千島列島やサハリン、太平洋艦隊司令部のあるウラジオストクが脅威にさらされる可能性があるとの見方だ。こうした動きは、ロシアと中国、北朝鮮の軍事・安全保障協力を加速させる可能性もある。一方で、日露関係改善の余地も残されている。日本をめぐる北東アジアの新たな安全保障構図と、その行方を左右する米国の思惑について、アンドリュー・コリブコが解析する。

※   ※   ※   ※

日本が米国の短・中距離ミサイルシステム「タイフォン」を一時的に配備していることに加え、ウクライナの最新鋭ドローン技術に関心を示していることは、千島列島(クリル諸島)、ウラジオストクにあるロシア太平洋艦隊司令部、そしてエネルギー資源が豊富なサハリンにとって、大きな脅威になり得る。

アジア太平洋地域を担当するロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官は7月下旬、タス通信のインタビューに応じ、日本がロシアに与える脅威が高まっているとの認識を示した。

プーチン大統領の側近であるニコライ・パトルシェフは昨年末、「日本はアジアにおける米国の政策を推進するうえで、これまで以上に大きな役割を担うようになる」との見方を示していた。また6月上旬には、「日本とフィリピンは中国を封じ込めるうえで、より大きな役割を担うことになる」との分析も示されている。その役割には、米国のミサイルを国内に配備することも含まれる。

こうした動きに関連してルデンコ氏は、米国との演習の際、日本が短・中距離ミサイルシステム「タイフォン」を一時的に配備したことを非難した。こうした配備はすでに2度目だとして、

「これに対して、われわれが対抗措置を取らないということは決してない」と警告した。

さらに、「われわれは、アジア太平洋地域の平和維持をめぐり、中国との連携を強化している」とも述べた。

ただし、ここではロシアと北朝鮮の緊密な軍事関係については触れられていない。両国は相互防衛を定めた条約も新たに結んでいる。

ルデンコ氏はさらに、「日本のドローンメーカーと、ウクライナの戦闘用ドローン開発企業との協力がどのように進展しているか、われわれは注視している」と語った。

この発言の1週間足らず前には、ジャパン・タイムズが、日本がウクライナのドローン生産能力の拡大に投資する可能性があると報じている。その見返りとして、日本がウクライナの最新ドローン技術を利用できるようになる可能性があるという。

こうした能力は、おそらく主として中国や北朝鮮を念頭に置いたものだろう。しかし、ロシアにとっても深刻な脅威になる可能性がある。

というのも、日本は第二次世界大戦後にロシアが実効支配している島々について、ロシアが「南クリル諸島」と呼ぶ一方、日本は「北方領土」と呼び、ロシアによる領有を認めていない。この領土問題は、日露両国が平和条約を締結できていない大きな理由となっている。

さらに、日本海を挟んだ対岸には、ロシア太平洋艦隊の司令部が置かれているウラジオストクがある。

したがって、日本がウクライナからドローン技術を獲得すれば、千島列島、ウラジオストク、そして豊富なエネルギー資源を持つサハリンが、その攻撃可能範囲に入る可能性がある。

記事の見方では、日本が将来、米国のタイフォン・ミサイルシステムを交代制で受け入れるようになり、さらにウクライナから取得したドローン技術を本格的に導入すれば、日本はロシアを取り囲む「防疫線(cordon sanitaire)」の北東アジア方面を担うことができる。

【黒薮注】防疫線:本来は衛生学上の用語で、ここでは軍や警察など公権力が出入りを制限する線を意味する。

筆者は、この「防疫線」を第2次トランプ政権が過去1年間にロシア周辺に構築してきたものだと捉えている。

これに対してロシアは当然、中国や北朝鮮との軍事・安全保障面での二国間関係をさらに強化する必要があると考えるだろう。地域の脅威が大幅に高まれば、ロシア・中国・北朝鮮の3か国による安全保障協力の枠組みを模索するところまで進む可能性もある。

一方でルデンコ氏は、日露関係を修復するためには、まず日本側が行動を起こすべきだというロシアの立場も改めて示した。

日本にとっても、そうする理由はあるかもしれない。前述のようなロシア・中国・北朝鮮の軍事協力強化が現実になれば、日本自身の安全保障にとっても、日本がロシアにもたらそうとしているのと同程度の脅威になり得るからだ。

この記事が6月にも指摘していたように、ウクライナ紛争が政治的な形で終結し、それに伴って対ロシア制裁が段階的に解除されることになれば、天然資源が豊富なロシア極東への投資機会が、日本や「Quad(クアッド)」諸国に開かれる可能性がある。それが日本にとって、ロシアとの関係改善を進める経済的な動機になるかもしれない。

【黒薮注】Quad(クアッド):日本、アメリカ、オーストラリア、インドで構成

ただし、日本の外交政策は米国の方針から強い影響を受けているため、米国の了承なしに日露関係が現実的に改善する可能性は低い、と筆者はみている。

そのため最終的な問題は、米国がどちらの道を選ぶのか、という点に行き着く。

米国は、日本に北東アジアで積極的にロシアを封じ込める役割を担わせるのか。その場合、ロシア・中国・北朝鮮の軍事・安全保障協力がさらに強化されるという代償を伴う可能性がある。

それとも、そのような事態を未然に防ぐため、日露関係の改善を促すのか。

米国がどちらを選択するにせよ、その影響は今後数十年にわたって続くことになるだろう。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月15日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/a-top-russian-diplomat-touched-upon