《横浜・副流煙裁判》東京高裁判決を誤解させる「またも会」の投稿 作田医師による医師法20条違反をごまかす手口

黒薮哲哉

8月20日に東京高裁が判決を下した横浜副流煙事件「反訴」の判決をめぐって、日本禁煙学会の会員である「またも会」(アカウント名)が世論を誘導するとんでもない策略を展開している。判決が認定した作田学理事長による医師法20条違反(無診療による診断書交付を禁止)の認定が行われていないかのような誤解を生む投稿をツイッター上で展開しているのだ。

既報したように、この判決で東京高裁は、作田医師による医師法20条違反を認定した。判決の主旨は、作田医師による医師法20条違反は認定するが、それにより藤井さんが損害を被ったわけではないので、金銭請求は棄却するというものである。ここでいう損害とは、この裁判の争点だった「訴権の濫用」の有無である。

◆「またも会」の手口

「またも会」の手口は、ネット上に判決文を提示する際に、あるテクニックを使って、読者が判決の主旨を誤解して、「医師法20条違反」はなかったかのように誘導する操作である。もっともその操作を意図的にやってのか、それとも偶然なのかはわからないが、偶然にしては、あまりにも低い確率のことが実現された。

そのテクニックに言及するために、まず作田医師の不法行為を認定すると同時に、藤井夫妻の請求を棄却した判決の箇所を引用しよう。「またも会」のツイート上には、この箇所の記述であるテクニックが施されているのだ。読者は、青文字と赤文字で表示した箇所に注意してほしい。文脈が変わる箇所である。

(2)被被告人作田に対する請求について

ア 控訴人は、被控訴人作田による本件診断書①、②の作成交付について、①記載内容の違法性、②無診察の違法(医師法20条違反)、③作成目的の違法がある旨を主張する。

被被告人作田において、被控訴人A子を診察しないで同人についての診断書を作成したことは、医師による

また、被控訴人将登に喫煙を辞めさせるために診断書を作成したことは、診断書作成経過や、その内容の妥当性等も関連し、診断書の趣旨・目的を逸脱すると言う余地もあると言うことができるものの、このことから直ちに、控訴人らの不法行為の被侵害利益に足りる得る利益が侵害されたということはできない。

作田医師が医師法20条には違反したが、藤井夫妻に経済的な損害は与えていないとする主旨の記述である。

ところが「またも会」がXにアップしたスクリーンショットは次のように表示されている。少なくとも筆者をはじめ複数の知人のスマホ上では、次のように表示された。

全文を書き起こしてみると次のようになっている。

(2)被被告人作田に対する請求について

ア 控訴人は、被控訴人作田による本件診断書①、②の作成交付について、①記載内容の違法性、②無診察の違法(医師法20条違反)、③作成目的の違法がある旨を主張する。

被被告人作田において、被控訴人A子を診察しないで同人についての診断書を作成したことは、医師による

PM2.5測定モニターを交付することを含め、被控訴人作田において、これらの行為を、別件訴訟に根拠がないことを知りながら、別件訴訟の維持のために行ったとうかがわせる事情もない。

ウ したがって、控訴人らの被控訴人に対する損害賠償はいずれも理由がない

この記述は、作田医師による医師法20条違反はなかったことになっている。赤の箇所から以下が画面上で、すり替わって表示されているのだ。

厳密にいえば、判決文の6ページの下から9行目を切り取り、7ページの8行目以下を張り付けた形になっているのだ。繰り返しになるが、それが意図的に行われたかどうは分らない。参考までに、わたしが実験的に偽造したものを下、提示しておこう。上のスクリンショットと同じ構成になる。

スマホではなく、PCで表示しても同じ画面が表示されたが、つなぎ目のカーソルと併せると境界線がみえる。しかし、カソールを操作しながら文面を読む人はほとんどいないだろう。

◆判決の主旨を真逆に解釈する危険性

なぜ、X上の表示でこのような現象が起きたのか。Xに複数の図面をアップした場合、最初に表示される枚数が決まっており、それを超えた枚数については、画面をクリックしてはじめて表示される。したがって「またも会」の投稿では画面をクリックすれば全文が読める。このような方法により、公文書を偽造したのではないという言い訳は一応は可能になる。

しかし、画面をクリックしない限り、読者を誤解に導く可能性が高い。従ってまったく問題がないとは言えない。

筆者が「書面内容」に違和感を感じたのは、事前に判決の全文を読んでいたからである。作田医師による医師法20条違反を否定する記述は、どこにも見当たらなかったことを記憶していたからである。

このような「またも会」の投稿を、仲間と思われる人々が拡散した。その中には、元毎日新聞の有名なジャーナリストも含まれている。画面をクリックして全文を表示できれば、判決の主旨を真逆に解釈する危険性があっても、法的に問題はないのか改めて調査したい。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年8月26日)掲載の同名記事
を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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《「押し紙」の実態》中央5紙は年間で約96万部減部数、京都新聞3社分に相当、地方紙の減部数にも歯止めかからず ── 2025年7月度ABC部数

黒薮哲哉

2025年7月度のABC部数が明らかになった。それによると、読売新聞は前年同月比で約43万部減、毎日新聞は約27万部減と、大幅な減少に歯止めがかからない状況となっている。

中央紙(朝日、毎日、読売、日経、産経)の合計では、前年同月比で約96万部の減少となった。これは、発行部数28万5千部の京都新聞規模の新聞社が3社ほど消えたのに等しい規模である。

[図表]中央紙の発行部数と減少数(前年同月比)

地方紙も発行部数を減らしている。地元に根付いているため中央紙ほどの急落は見られないが、減少傾向に歯止めはかかっていない。次の表は主要な地方紙の2025年7月と2013年12月の発行部数を比較したものである。

[図表]ブロック紙・地方紙の発行部数と減少数(前年同月比)

◆なぜ、「押し紙」がジャーナリズムの問題なのか?

なお、ABC部数には「押し紙」が含まれているため、減部数がそのまま購読者数の減少を示すわけではない。新聞販売店の経営悪化により「押し紙」の負担に耐えられず、販売網を維持するために新聞社側が「押し紙」を減らした結果も影響している可能性がある。実際には、購読者離れと「押し紙」削減の両方がABC部数を引き下げていると考えられる。

「押し紙」は莫大な販売収入を新聞社にもたらしてきた。たとえば、毎日新聞の場合、2002年度の内部資料に基づく試算では、年間で259億円に達していたとされる。

[参考記事]国策としての「押し紙」問題の放置と黙認、毎日新聞の内部資料「発証数の推移」から不正な販売収入を試算、年間で259億円に

公権力(政府や公正取引委員会)が、「押し紙」を黙認したり、逆にメスを入れることをほのめかせば、簡単に新聞の紙面内容に介入できる構図になっている。不正な金額が莫大だから、それが可能になるのだ。

「押し紙」問題を放置したまま新聞ジャーナリズムの再生を語っても、まったく意味をなさないゆえんにほかならない。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年9月6日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

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ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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《書評》『司法が原発を止める』、樋口英明裁判官と井戸謙一裁判官の対話、人を裁くただならぬ特権の舞台裏

黒薮哲哉

本書は、原発の操業を差し止めた二人の裁判官による対談集である。自らが執筆した原発訴訟の判決、法曹界に入った後に肌で感じた最高裁事務総局の違和感、裁判官として交友のあった人々の像など、大半の日本人には知りえないエピソードが登場する。

筆者にとって法曹界は取材対象の一分野である。と、いうのも2008年から09年にかけた次期に、読売新聞社から3件の裁判を起こされ、総計約8000万円を請求された体験があるからだ。これら3件の係争の背景には、新聞業界で尋常化している「押し紙」問題を告発した事情がある。「押し紙」による損害は年間で、少なく試算しても1000億円を超える。当然、ジャーナリズムの重要なテーマである。

巨大メディアが、日本を代表する人権擁護団体である自由人権協会の代表理事、喜田村洋一弁護士を代理人に立て、フリーランス記者をつぶしにかかった事件を、司法がどう裁くかを、自分の問題として考えた。

本書を一読して印象深かったのは、職業人として心血を注いだ判決を書いている裁判官の姿である。本書の対談者である井戸謙一氏と樋口英明氏が身に付けている高い職業倫理については、人伝いに聞いていたが、判決文を執筆する際に言葉の細部にまで神経を走らせているとまでは想像しなかった。たとえば次のくだりである。

「(樋口)福島第一原発事故が起こった後に井戸さんの判決を読み返して、本当に驚いた。言っていることはもちろん正しいですし、判決文の中に「砦」という言葉が出てくるのです。原発の運転を停止する際に必須な「止める・冷やす・閉じ込める」についてです。「最後の砦である機能も失われて」という表現。あの部分が強く印象に残っています。あそこは光って目立つ感じです。また、すごく丁寧に一つひとつの論点について説示してあるのが印象的でした。なぜこの判決が最高裁で破られたのか、それが不思議です。」

「(井戸)私は控訴審(高裁)に向けて判決文を書きましたよ。論理の中に穴があってはいけないので、とにかく穴がないように細かく細かくチェックして、あの文章を作っていました。」

井戸氏は、自らがかかわった身代金目的の誘拐事件では、「殺意が確定的か、未必的かという事実認定と量刑を死刑にするか無期懲役にするか」をめぐって、他の2人の裁判官と、「月曜日から金曜日まで、毎日、夜の11時ごろまで合議」を繰り返したという。正常な裁判官にとって、判決は丹精込めた「作品」にほかならない。

これに対して、筆者が30年近く取材してきた「押し紙」裁判の判決には、杜撰なものが多数を占める。おそらく結論が先に決まっていることがその原因だと思われる。たとえば数年前に日本経済新聞の販売店主が、「押し紙」裁判(京都地裁)で敗訴した事件がある。筆者は、原告から主要な裁判資料を入手して、内容を確認した。その結果、「押し紙」の損害を受け続けた原告が弁護士のアドバイスを受け、十数回にわたって内容証明で「押し紙」の仕入れを断っていたことなどが分かった。しかし、裁判官(合議)は、内容証明をもとに店主と日経新聞社が話し合ったから、過剰になっていた新聞は、押し売りされた部数には該当しないという奇妙な論理を組み立て、原告の請求を棄却していた。

また、「押し紙」裁判では、判決の直前になって、最高裁事務総局が不自然な裁判官の人事異動を行うことも日常茶反になっている。原発裁判と同様に、筆者は裁判そのものの公平性を疑わざるを得ない場面に繰り返し遭遇してきた。それゆえに、本書の内容が新鮮に感じられた。司法の原点をみたような気がした。

裁判官には、人を裁くただならぬ特権が付与されている。当然、司法ジャーナリズムは、裁判官を監視しなければならない。そのためには何が必要なのか。筆者は、判決という一種の「作品」を公けの場で批評することが重要な意味を持つと思う。当然、判決の著者を公表しなければならない。裁判の提訴と判決だけを報道することが、司法ジャーナリズムではない。

本書の企画は、新しい司法ジャーナリズムの試みとしても意義深い。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年7月19日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

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《禁煙ファシズム》訴権の濫用を問う横浜・副流煙裁判、和解が決裂、東京高裁

黒薮哲哉

東京高裁が和解を提案していた横浜副流煙事件(控訴審)は、被控訴人(作田学医師ら4人)が、和解を拒否したために、8月20日に判決が言い渡されることになった。控訴人(藤井敦子さんら2名)は、作田氏が作成した診断書に瑕疵があったことを認める内容の和解案を提案していた。

事件の概要(PDF)

◆訴権の濫用

既報してきたようにこの裁判は、藤井さんらが、前訴の勝訴を受けて、起こした反スラップ裁判である。藤井さんの夫・将登さんが吸う煙草の副流煙で健康を害したとして、隣人家族3人が4518万円の金銭支払いを求めて起こした裁判が、訴権の濫用に該当するとして起こした訴訟である。

前訴の中で、最も大きな争点となったのは、作田医師が原告3人のために交付した診断書である。そこには「受動喫煙症」という病名が付されていたが、診断のプロセスに重大な疑惑があることが次々と判明した。

たとえば作田医師がトラブルの現場を確認することなく、患者の訴えを鵜呑みにして、一方的に将登さんを副流煙の発生源と事実摘示したことである。また、原告のひとりに約25年の喫煙歴があった事実である。さらに別の原告については、診察することなく、診断書を交付した事実である。

面識すらなかったのである。この点に関して原審は、医師法20条違反を認定した。

つまり事実的根拠に乏しい診断書を、根拠として4518万円の高額訴訟を起こしたのである。しかも、提訴した後も作田医師は、5通もの意見書を作成して将登さんを批判するなど、一貫して原告3人を支援し続けた。

作田医師が交付した診断書には前提事実に根拠が乏しく、しかも、それを自覚していた可能性が高い。作田医師が理事長を務めていた日本禁煙学会は、訴訟提起も推奨しており、藤井さんのケースは、訴権の濫用に該当する可能性がある。

8月20日に下される判決内容とはかかわりなく、不当裁判に対して「反訴」することは、スラップを防止する上で重要である。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年6月27日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

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ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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西日本新聞 4月と10月に「押し紙」を増やす変則的な手口【YouTube配信9】

黒薮哲哉

「4・10増減」(よんじゅう・そうげん)と呼ばれる変則的な「押し紙」の手口がある。4月と10月に「押し紙」を増やす販売政策である。なぜ、4月と10月なのか。

結論を先に言えば、4月と10月のABC部数が、折込広告の設定枚数(折込定数)を決めるための有力なデータになるからだ。4月の数値は、6月から11月の折込定数に反映し、10月の数値は、12月から翌年の5月までの折込定数に反映する。新聞社は、それを知っているから「4・10増減」に走るのである。

西日本新聞の元販売店主(長崎県)が起こした「押し紙」裁判は、「4・10増減」が争点になった。裁判の中で、西日本新聞社が、全販売店の実売部数や残紙の程度を把握していたことを示す内部資料の存在が明らかになった。それにもかかわらず第一審で裁判所は、西日本新聞の「押し紙」政策を認定しなかった。7月3日には、控訴審の判決がある。

一目瞭然の「押し紙」政策の存在が客観的に立証されていながら、新聞社に軍配を上げ続ける裁判官の姿勢。

これは、裁判官が有する人を裁くただならぬ特権を悪用しているのではないか?

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年6月22日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

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西日本新聞押し紙訴訟 控訴審判決を前にして

江上武幸(弁護士)

7月3日(木)午後1時25分の西日本新聞押し紙訴訟福岡高裁判決の言渡期日が迫ってきました。既報のとおり、福岡地裁判決は前年の4月1日に東京高裁・東京地裁・札幌地裁から転勤してきたいわゆる「東京組」と呼ばれる3人の裁判官達による判決でしたので、敗訴判決が出る可能性はある程度予期せざるを得ませんでした。

しかし、この裁判では、西日本新聞社が原告販売店に毎年4月と10月に前月より200部も多い部数を供給し続けていること、その目的は、原告の押し紙の仕入代金の赤字を補填するために折込広告部数算定の基礎となるABC部数を大きくするためであること、つまり、押し紙政策を続けるために西日本新聞社が主導して折込広告料の不正取得(詐欺行為)を行わせていたことが明らかでした。

また、押し紙を行っている新聞社は、西日本新聞社に限らず押し紙の責任を販売店に押し付けるために、販売店の実配数は知らないし知り得ないと主張します。しかしこの点についても、西日本新聞社は販売店の実配数を把握しており、毎月、実売部数を記載した部数表を作成し、外部に知れないように本社で厳重に管理している事実を認めました。

この裁判は販売店が勝訴する条件が充分に揃った裁判でしたので、敗訴判決を聞いた瞬間、東京組の裁判官3名を福岡に派遣した最高裁事務総局の、新聞社の押し紙敗訴判決は出させないという強い意志を感じました。

* 福岡地裁判決の問題点については、5月25日に投稿した「控訴準備書面(全文)」をご覧ください。

福岡高裁の裁判官達が九州モンロー主義が支配した時代にみられた「最高裁なにするものぞ」という気概に満ちた判決をくだしてくれるかどうか、皆様と共に期待しながら待ちたいと思います。

なお、近時、司法試験合格者の裁判官希望者が少なくなっており、若い裁判官の中途退官も増えていると聞いています。外部からはこれらの情報はなかなか知ることはできませんが、幸い、岡口基一元裁判官がフェイスブックで裁判の独立と裁判官の果たすべき役割について積極的に発信しておられますので、それらの様子を伺い知ることができています。

裁判所内部からも岡口元裁判官と同じ危機意識をもった人たちの動きが表面化してくれることを期待しています。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年6月16日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼江上武幸(えがみ・たけゆき)
弁護士。福岡・佐賀押し紙弁護団。1951年福岡県生まれ。1973年静岡大学卒業後、1975年福岡県弁護士会に弁護士登録。福岡県弁護士会元副会長、綱紀委員会委員、八女市役所オンブズパーソン、大刀洗町政治倫理審査会委員、筑豊じんぱい訴訟弁護団初代事務局長等を歴任。著書に『新聞販売の闇と戦う 販売店の逆襲』(花伝社/共著)等。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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新聞特殊指定に関する情報公開期限を延長、公取委が通知

黒薮哲哉

2025年4月21日付けで筆者が公正取引委員会へ申し立てた新聞特殊指定に関する情報公開請求に対して、同委員会は、5月27日付けで「開示決定等の期限の延長について(通知)」と題する文書を筆者宛てに送付した。延長の期間は、開示請求があった日から60日以内である。延長の理由は、「行政文書の精査及び開示の可否の検討に時間を要するため」としている。

通知文書の全文は次の通りである。

開示決定等の期限の延長について(通知)
http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2025/06/IMG_0001.pdf

◆公取委と新聞協会はなぜ、1999年の新聞特殊指定で「押し紙」政策を加勢する改定を行ったのか

メディア黒書で繰り返し報じてきたように、公正取引委員会は1999年7月に新聞特殊指定を改定した。その発端は、1977年に公取委が北國新聞に対して「押し紙」の排除勧告を行うと同時に、日本新聞協会に対しても、「押し紙」の事象が確認できる旨を申し入れたことである。

これを受けて公取委と新聞協会は、解決の方向性で協議を重ねた。しかし、その果実として改定された1999年の新聞特殊指定は、かえって新聞社の「押し紙」政策を加勢する内容になっていた。

そこで筆者は、両者がどのような話し合いを重ねたのかを検証するために、情報公開請求を行ったのだ。

この件については、次のYouTubeでも解説している。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年6月3日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
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しばき隊の活動家が森奈津子氏と鹿砦社を訴えた裁判、実名報道の是非が争点、東京地裁立川支部で結審

黒薮哲哉

しばき隊の活動家・A氏が、作家の森奈津子氏と鹿砦社に対して、プライバシーを侵害されたとして、110万円を請求した裁判が、6月2日、東京地裁立川支部で結審した。判決は、7月14日に言い渡される。

提訴の背景は、森氏とA氏の間で行われていたツイッターでの交戦である。しばき隊についての論争の中で、森氏が、A氏が過去に起こした暴力事件の事実を立証する略式命令書をツイッター上で公表したことである。そこには、「被告人を罰金40万円に処する」などと記されている。改めて言うまでもなく、この罰金はA氏が起こした暴力事件の代償である。

略式命令の入手元は、鹿砦社である。鹿砦社は、A氏とその「仲間」が、起こしたある集団暴力事件を断続的に取材してきた唯一の出版社である。これまでしばき隊関連の本を6冊出版している。その中には、森氏が投稿したルポも含まれている。こうした背景があったので、森氏とA氏によるツイッター上の交戦に鹿砦社も注視していたのである。

ちなみに前科に関する事実は、公表が認められる場合と認められない場合がある。認められる場合は、実名を使用する意義と必要性がある場合である。それが認められないケースでは、プライバシー侵害が認定される法理となっている。

◆2024年12月深夜、大阪市北新地で

A氏らしばき隊のメンバー数人が関与した事件は、2014年12月の深夜、大阪市の北新地で起きた。メンバーの中には、当時、カウンター運動の旗手としてマスコミが賞賛していた李信恵氏も含まれていた。暴力事件の背景には、組織内の金銭をめぐるもめごとがあったようだ。

ワインバー(酒場)に入ったA氏らは電話で、当時、大学院の博士課程に在籍していたM君を呼び出した。M君が店に入ると、興奮した李信恵氏がM君の胸倉を掴み威嚇した。一旦は、仲間が割って入ったが、その後、A氏がM君を店外へ連れ出し、およそ40分にわたって殴る蹴るを暴行を加え、瀕死の重傷を負わせたのである。

リンチ直後の被害者М君

これら一連の経緯については、大阪高裁は、判決の中で次のような事実認定を行っている。

「被控訴人(注:李氏)は、Mが本件店舗に到着した際、最初にその胸倉を掴み、AとMが本件店舗の外に出た後、聞こえてきた物音から喧嘩になっている可能性を認識しながら、飲酒を続け、本件店舗に戻ってきたMがAからの暴行を受けて相当程度負傷していることを確認した後、「殺されるなら入ったらいいんちゃう。」と述べただけで、警察への通報や医者への連絡等をしないまま、最後は負傷しているMを放置して立ち去ったことが認められる。

 この間、BやCはAに対し暴力を振るわないよう求める発言をしているが、被控訴人が暴力を否定するような発言をしたことは一度もなく、被控訴人は遅くともMが本件店舗内に戻った時点では、MがAから暴行を受けた事実を認識していながら、殺されなければよいという態度を示しただけで、本件店舗外に出てAの暴行を制止し、又は他人に依頼して制止させようとすることもなく、本件店舗内で飲食を続けていた。このような被控訴人の言動は、当時、被控訴人がAによる暴行を容認していたことを推認させるものであるということができる。(略)(控訴審判決、7P)」

この事件について、森氏と鹿砦社を訴えたA氏の代理人・神原元弁護士は「街角の小さな喧嘩にすぎない」と訴状に記しているが、事実とは著しく異なる。そのことは事件後のM君の顔写真で確認できる。また、M君が録音していた暴行の際の罵声(CD有)からも凄まじい暴力の実態が推測できる。

第一、「街角の小さな喧嘩」であれば、簡易裁判所が40万円の罰金を課すはずがない。また、M君がA氏らに対して起こした民事裁判でも、約110万円の支払命令が下されている。

確かにこの事件をマスコミが報じることはなかったが、それをもって、「街角の小さな喧嘩にすぎない」とは言えない。報道されなかった背景には、カウンター運動に参加している著名人や記者クラブによる組織的な隠蔽工作があったのである。『ヘイト・スピーチとは何か』(岩波新書)の著者で、弁護士の師岡康子弁護士も隠蔽工作に関与した一人である。知人に充てて、事件の隠蔽を依頼するメールを送付している。

筆者の推測になるが、隠蔽工作の背景に国会で、ヘイトスピーチ解消法が成立直前になっていた事情があった。A氏が主導した暴行事件は、どうしてももみ消す必用があったのだ。そこで事件を「無かったこと」にしたのである。

◆しばき隊が関与した暴力事件で、M君は人生の軌道を狂わされた

さて、A氏の暴行を受けたM君は、その後、どのような軌跡をたどったのだろうか。ノンフィクション作家で精神科医の野田正影氏が行った精神鑑定書は、「外傷事件から6年が過ぎているが、被害者は典型的な『精神的外傷後ストレス障害』(PTSD=Post Traumatic Stress Disorder)の精神障害に苦しんでいる」。「本件例は、WHOの診断ガイドラインに基づいても、アメリカ精神医学会の『精神疾患の分類と診断の手引き』(DSM-5)に基づいても、疑う余地のない『精神的外傷ストレス障害』である」と結論付けている。

実際、M君は事件後、PTSDに悩まされて、博士論文を執筆できなくなった。事件の残像に苦しめられたのである。そのために内定していた大学での研究職も断念せざるを得なくなった。しばき隊が関与した暴力事件で、人生の軌道を狂わされたのである。その最大の責任が主犯のA氏にあることは論を待たない。

7月14日に言い渡しが予定されている判決で、東京地裁立川支部がどのような判断を示すかは不明だが、ジャーナリズムの記録性を重視するという観点からすれば、A氏の実名報道は何ら問題がない。過去に連合赤軍の永田洋子らが起こした集団リンチ事件で主犯格の実名が公表されているわけだから、この事件も例外ではない。M君も、ひとつ間違えば命を落としていた可能性もあるのだ。

◆神原弁護士は、M君の現在を想像したことはあるのか?

なお、この裁判の原告代理人は、神原元弁護士である。神原弁護士は、自由法曹団の常任幹事を務めている。自由法曹団といえば、健全な社会進歩に貢献する人権派弁護士の集まりのような印象があり、事実、素晴らしい仕事をしてきた弁護士も少なくない。

しかし、北新地でのしばき隊による事件のように、自由法曹団の常任幹事が、重大な集団暴力事件を起こした組織を全面的に擁護する姿勢には疑問を感じざるを得ない。どこか歯車が狂い始めているのではないか?「街角の小さな喧嘩にすぎない」と訴状に記すこと自体がM君に対する侮辱である。犯罪者にも人権はあるが、客観的な事実だけは曲げてはいけない。一体、神原弁護士は、M君の現在を想像したことはあるのだろうか?

判決後はしゃぐ加害者ら。右端が神原弁護士

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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《関連過去記事カテゴリー》  

M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

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鹿砦社 http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000541

中国レポート② 遼寧省広佑寺 宗教が禁止されているというのは事実か?

黒薮哲哉

日本で定着している中国に関する情報には、誤ったものがかなり含まれている。たとえば宗教が禁止されているという情報である。社会主義の国では唯物論哲学が主流なので、その対極にある観念論哲学の典型である宗教が禁止されているという机上の論理が広がった結果ではないかと思うが、これは事実ではない。

昨年(2024年)の9月、筆者は中国遼寧省の広佑寺を訪れた。広佑寺は、漢代に建立された名刹(めいさつ)で、明の時代に仏教の聖地として繁栄した。

何層にも重なった屋根をもつ木像建築物で、奈良市にある大仏殿に形状が類似しているが、規模は遥かに大きかった。澄んだ空を背に聳えた建物に近づくと、暗褐色の恐竜に呑み込まれるような威圧感を感じた。

入場は無料。だれでも境内を散策することができる。バックグランド・ミュージックのようにお経が絶え間なく流れていた。本堂の床に跪いて祈りを捧げている人もいる。線香の煙も漂っていた。

日本の寺院でも目にする光景であるが、ひとつだけ違いがあった。立て看板が設置されていて、そこに「未成年の宗教活動(祈りなど)を禁止する」と書かれていた。つまり宗教を信仰するかどうかは、成人した後に、自分の頭で考えなさいとアドバイスしているのである。宗教2世の悲劇が問題になっている日本や韓国ではありえない対策である。「宗教を禁止している」というのは事実ではなく、成人してから決めるように奨励しているだけなのである。

情報の信憑性は、やはり現地へ足を運ばなければ確認できない。それが唯一の事実を確認する方法なのである。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年3月14日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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5月28日(水)に「押し紙」問題を考えるインターネット番組を生放送、レイバーネットネットTVが企画

黒薮哲哉

古くて新しい社会問題──「押し紙」問題を検証するインターネットの番組が5月28日、午後7時30分から、生配信される。タイトルは、「新聞『押し紙』のヤミ」。レイバーネットTVが企画した番組で、出演者は次の通りである。

出演者:黒薮哲哉(フリージャーナリスト、「メディア黒書」主宰)
    岩本太郎(ライター、週刊金曜日)
    中川紗矢子(元毎日新聞記者、イギリス在住/オンライン)

アシスタント:馬場朋子

放送日 2025年5月28日(水)19:30~20:40(70分放送)

・視聴サイト https://www.labornetjp2.org/labornet-tv/216/
(YouTube配信 https://youtube.com/live/mKSHrurEzXs?feature=share

企画の発端は、レイバーネットTVによると、昨年末に同事務所宛てに「一枚のFAXが届いた」ことである。「送り主は「読売新聞東京本社管内 読売新聞販売店 店主有志一同」。『34店を代表してやむにやまれずお伝えします』の書き出しで、『読売新聞の予備紙(押し紙)率が40%を超えていて、その負担に耐えきれず倒産、破産とともに一家離散などの悲劇が各所で生まれている。事実を知らせ世論喚起をしてほしい』という内容だった」。

番組の詳細については、次のURLを参考にしてほしい。

http://www.labornetjp.org/news/2025/0528kokuti

◆「押し紙」は一部も存在しないという立場を取ってきた新聞各社

ちなみに日本新聞協会をはじめ、新聞各社は、「押し紙」は一部も存在しないという立場を取ってきた。たとえ残紙があっても、それは販売店が自発的に購入した新聞であるから予備紙に該当し、新聞社が押し売りしたものではないという主張である。

とりわけ読売新聞の代理人を務めている自由人権協会代表理事の喜田村洋一弁護士は、20年来この考えに固執していて、法廷でも、堂々とこの主張を繰り返してきた。

たとえば、読売が『週刊新潮』に対して起こした裁判の中で、喜田村弁護士は、当時の宮本友丘専務に次のように証言(2010年11月16日、東京地裁)させている。

喜田村弁護士:この裁判では、読売新聞の押し紙が全国的に見ると30パーセントから40パーセントあるんだという週刊新潮の記事が問題になっております。この点は陳述書でも書いていただいていることですけれども、大切なことですのでもう1度お尋ねいたしますけれども、読売新聞社にとって不要な新聞を販売店に強要するという意味での押し紙政策があるのかどうか、この点について裁判所にご説明ください。

宮本:読売新聞の販売局、あと読売新聞社として押し紙をしたことは1回もございません。

喜田村弁護士:それは、昔からそういう状況が続いているというふうにお聞きしてよろしいですか。

宮本:はい。

喜田村弁護士:新聞の注文の仕方について改めて確認をさせていただきますけれども、販売店が自分のお店に何部配達してほしいのか、搬入してほしいのかということを読売新聞社に注文するわけですね。

宮本:はい。

2012年7月6日には、元販売店主の家屋を仮差押えするなどの行為にも及んでいる。(下写真参照)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年5月20日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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