なぜロシアは西側諸機関との協定を破棄しないのか?

アンドリュー・コリブコ

ロシアは西側主導の秩序に挑戦しているものの、西側との全面的な断絶を目指す「革命国家」ではない。西側諸機関との協定を維持し、将来の関係再構築や内部からの改革も視野に入れつつ、BRICSなどを通じて段階的に多極化を進めることが、その大戦略だと筆者は論じる。

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ロシアが目指している世界秩序とは、西側と軍事・政治面で対等な立場に立ったうえで、BRICSを通じて西側の経済的覇権を平和的に切り崩し、徐々に多極化した世界へと移行していくものである。

ロシア大統領の国家院(下院)全権代表を務めるガリー・ミンフは8月下旬、タス通信(TASS)に対し、「関係省庁は、NATOとのパートナーシップ協定や、WTO、IMF、世界銀行を含む国際金融機関との協定を破棄することに反対している」と語った。その理由は、これらの協定が「まだその可能性を使い果たしていない」うえ、プーチン大統領がこうした組織との対話の窓口を維持したいと考えているからだという。またTASSによると、ミンフは、西側とは異なり、ロシアは常に自らが負う義務に責任を持っているとも述べた。

こうした政策方針が改めて確認されたことは、多くの「ロシア人ではない親ロシア派(Non-Russian Pro-Russians=NRPR)」を驚かせたかもしれない。彼らの多くは、影響力のある親ロシア派インフルエンサーによって、ロシアは2022年以降「革命国家」になったと思い込まされてきた。そのため、西側諸機関とのこうした協定など、とっくの昔に破棄されているはずだと考えていたのである。

しかし、それは有力なNRPR系インフルエンサーたちが念入りに作り上げた「もう一つの現実」だった。彼らは注目や影響力を獲得したり、特定のイデオロギーを広めたり、寄付を募ったりするために、そうした物語を作り上げてきた。そしてロシアの「ソフトパワー監督者」たちも、「ポチョムキン的」なソフトパワー戦略の一環として、それを黙認してきたというわけだ。

ここでいう「ポチョムキン的」なソフトパワーとは、戦略的な目的のために、このような「もう一つの現実」を作り出すことを指す。もっと冷笑的に表現するなら、たとえ誤った前提に基づくものであっても、できるだけ多くの外国人にロシアを支持させるという発想である。その典型が、「プーチンは表向きとは裏腹に、実は反シオニストだ」という悪名高い言説だ。

【黒薮注】プーチンは元々、ロシアの国益に応じてイスラエルとの関係を重視してきたが、2023年以降は国際情勢の変化に伴ってイスラエルへの批判を強めた。

こうした手法には倫理面でも戦略面でも多くの問題があり、NRPRのコミュニティー内で早急に議論されるべきだろう。しかし、それとは別に重要なのは、ミンフの発言によって改めて広く知られることになった、客観的に存在する政治的・法的な現実を明確にしておくことである。

確かにロシアは「特別軍事作戦」を通じて、西側主導の一極体制に挑戦している。この作戦は当初、主としてウクライナを起点とするNATOからの脅威を無力化することを目的としていた。そうした脅威は、ロシアを恒常的な戦略的威圧にさらすために作り出されたものだった――というのが私の見方であり、その点については別の記事で説明している。

しかし、ロシアによる西側への挑戦は、全面的なものではない。プーチン大統領をはじめロシア側が当初からすべての制裁の撤回を要求してきたことからも分かるように、ロシアは一貫して、いずれ西側との貿易関係――エネルギー取引を含む――や投資関係を再開することを想定していた。

ただし、「特別軍事作戦」以前と、ロシアが作戦後に思い描いていた状況との間には、重要な違いがある。それは、ロシアが最大限の目標を達成した後、西側諸国と軍事・政治面で対等なパートナーになるという点だ。

そのうえでロシアは、西側との関係から利益を得ることになる。例えばNATOとの関係では、戦後の欧州の安定を維持することがそれに当たる。同時に、経済機関については内部から改革を進める一方、BRICSなどを通じて西側に代わる非西側の制度や枠組みづくりを主導していく、という構想である。

ロシアの大戦略上の目標は、一貫して世界の多極化を加速させることにある。ただし、有力なNRPR系インフルエンサーたちがほとんど説明してこなかったのは、この多極化が段階的に進められることを想定しているという点だ。その狙いは、世界システムに大きな衝撃が生じ、それが逆にロシアの利益を損なうリスクを可能な限り小さくすることにある。

つまり、ロシアが実現しようとしている世界秩序とは、まず西側と軍事・政治面で対等な立場を確立し、その後BRICSを通じて西側の経済的覇権を平和的に切り崩しながら、世界を徐々に多極化へと導いていくというものなのである。

この大戦略上の目標や、その段階的な進め方をどう評価するかはともかく、これがロシアの実際の政策であり、以前から現在に至るまで、ロシアが現実に実行している方針であることは確かだ。

したがってロシアは、自らが構想する将来の世界秩序を実現していくためにも、西側諸機関との協定を維持しておく必要がある。念のために言えば、これはロシアの政策を正当化するための弁明ではなく、その理由を説明しているにすぎない。

逆に、もしロシアが将来こうした協定を実際に破棄することになれば、それはロシアの大戦略が根本的に転換したことを意味するだろう。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月15日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source: https://korybko.substack.com/p/why-wont-russia-sever-its-agreements

「国とは一体、何なのですか?」 沖縄振興予算問題と第二次高市内閣改造人事に関して

江上武幸

「国とは一体、何なのですか」

この言葉は、筑豊じんぱい訴訟の弁護団長であった(故)松本洋一弁護士が、国を相手とする裁判において、国の代理人席に向かって常に口にされていた言葉です。

松本先生は、筑後川上流の下筌・松原ダム建設反対闘争、カネミ油症食品公害事件、福岡予防接種禍事件、三井山野炭鉱ガス爆発事故、三井有明鉱火災事故、そして炭鉱夫じん肺訴訟と、一貫して社会正義の実現と人権擁護のために尽力された弁護士でした。と同時に、北九州市長選に二度出馬して保守陣営の心胆を寒からしめた地方政治家でもあります。

先生は、福岡予防接種禍事件の控訴審において、国の代理人席に向かって次の問いを発しておられます。

「国とは一体何なのですか。1審で負ければ高裁・最高裁までいって、何がなんでも国の主張を通そうとする。国とは何が何でも裁判に勝つためにあるのですか。国民が健康で幸せに暮らせるように何かをする、それが国ではないですか。私はそう思ってきました。だからもう一度聞きたい。国とは一体、何なのですか。」

*(『俺たちはボタじゃない 筑豊じん肺訴訟18年4か月の軌跡』(2006年・海鳥社)

福岡市に出かけると、天神界隈で幼い子供を連れたアジア各地からの若い夫婦や、家族・親族ぐるみの観光客をたくさん見かけます。

一方で私の事務所では、幼い子供を抱えた若年夫婦の離婚問題、家族・親族間の骨肉を争う相続問題、個人・法人を問わない破産問題、奨学金返済や生活費のため夜のアルバイトをして人生を誤った女子大生からの相談など、社会のひずみを目のあたりにする仕事ばかりをしています。そのため、日本社会の貧困化を余計に肌で感じます。

後継者がいなくなった地方の田畑や山林、家屋は荒れ果てたまま放置され、都会に出た子供たち(私たちの世代でもあります)は、将来食糧危機に直面しても帰る田舎がありません。「未婚」「少子化」「非正規雇用」「子供食堂」「オレオレ詐欺」などの寒々した言葉にあふれ、野菜農家の労働者も韓国・台湾・ベトナムからではなくネパール・ミャンマー・インドネシアなどからの出稼ぎが増えているようです。アジアにおける日本の経済的地位の衰退を痛感せざるをえません。

ご存じのように、目下、福岡県は県議会議長就任をめぐる金銭疑惑で大揺れに揺れています。小選挙区制度の導入によって「自民党でなければ人にあらず」といった風潮が全国津々浦々に広がり、国会議員はもちろんのこと都道府県・市町村レベルまで二世三世の世襲議員が主流を占める時代になってしまいました。福岡県議会も議員の世襲化・政治の家業化が見え隠れしているように思います。

中選挙区制の時代には、自民党は派閥ごとに色分けされ、国会議員を頭に県議から市町村議員に至るまで系列化されつつも、それぞれが選挙区内の農林水産、商業・経済の業界団体と密接に関係し、地方の意見・要望を国政に反映する道筋が開かれていました。他方、旧社会党・共産党などの働く者・生活者を代表する野党が自民党と対峙する形の「55年体制」と呼ばれる政治構造がありました。

その結果、中選挙区時代には複数の自民党候補者と野党候補者が入り乱れて票を奪い合う選挙戦が繰り広げられ、政治好きな大人たちにとっては華やかなお祭り気分を味わうことができました(*政治は「まつりご」といいますが、「政治とは飢饉や災害から人々を守り、皆が安心して暮らせるように祈り働く行為である」という古来からの考えを表す言葉です)

55年体制によって曲がりなりにも国民各階層や地方の意見を国政に反映できる政治が長く続き、公害問題など様々な問題を抱えながらも、世界第2位となるまでの経済発展を遂げてきました。

外交面でも、1956年の日ソ共同宣言、1965年の日韓基本条約、1978年の日中平和友好条約など、平和主義の憲法の精神に基づき近隣のアジア諸国との友好関係を築き上げることが出来ました。日本はヨーロッパのスイスのように、アジアの永世中立国としての道を選択することも可能だったのです。

このように内政・外交とも戦後に定着した日本の中選挙区制を、わざわざ小選挙区制に変更する必要性は全くありませんでした。小選挙区の導入によって失われた30年の歴史を取り戻すには、今後数世代の努力が必要となるでしょう。誠に残念なことです。

中選挙区制から小選挙区制への選挙制度の変更は、1970年代に社共統一による革新政府の誕生が現実化したため、革新統一政府による安保条約の一方的廃棄通告により、日本各地(特に沖縄県)に展開している米軍基地を手放さざるを得なくなる事態が生じるのを阻止する必要を感じたアメリカが、主導して実施したものと考えて間違いありません。

*戦後、日本がアメリカの支配下にあったことは、ネット社会の普及によって誰の目にも明らかになっています。とりわけ、れいわ新選組の伊勢崎賢治参議院議員(国際平和研究、教育専門家)の国会での発言は核心をついており、爽快感を覚えます。また、核保有論には賛同できませんが、アメリカ生活の長い国際政治アナリストの伊藤貫氏のアメリカ政治の分析も参考になります。

その他にも、元外交官の孫崎亨氏の『アメリカに潰された政治家』(小学館)を始めとする多数の著作、ジャーナリスト兼作家の吉田敏浩氏の『日米合同委員会の研究』(創元社)を始めとする著作など、ネット社会のおかげでこれまで知らなかった書籍の存在も知ることができました。(*ただし、ありがたいと思う反面、「知らなければよかった」と思うことも多々あり、複雑な心地になります)。

アメリカが、日本の選挙制度を中選挙区制のままにしておくと社共統一による革新政府が誕生しかねないと危惧したことは先に述べたとおりです。それを防ぐためにアメリカは日本に小選挙区制の導入を図ったと考えられます。

小選挙区制度が設けられている国としては、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、インドなどがあります。アメリカ以外はかつてのイギリス帝国の名残であるイギリス連邦の加盟国で、アメリカもイギリスから独立した国ですから元々は一体です。イギリスは「労働党」と「保守党」、アメリカは「民主党」と「共和党」が二大政党として、他の政党の台頭を許さない仕組みを作っています。

これらの二大政党のうちいずれの党が政権を握っても支配体制が揺るがないようにするのが、小選挙区制度での真の狙いです。中選挙区制から小選挙区制への変更は、「ゲリマンダー(区割の恣意的変更)」などは足元にも及ばない、政権党に一方的に有利な大変革なのです。

中選挙区制のもとでは、旧社会党・共産党の革新統一の力で美濃部東京都知事、飛鳥田横浜市長、蜷川京都府知事、黒田大阪府知事、奥田福岡県知事などの革新自治体が次々と誕生しました。そのままの革新の勢いが続けば、1970年代後半には自民党に代わる革新統一政府が誕生しかねない政治情勢が生まれていました。今の世代の人たちは、そのような時代があったことなど想像すらつかないかもしれません。

日本列島は「中国・ソ連に向けた不沈空母」と言われてきました。アメリカが米軍基地を永続的に設置し続けるには、自民党政府に代わる革新統一政府の誕生を断固阻止する必要があります。アメリカとその意向を受けた政治家・官僚は、社会党の分裂、社共の対立、国鉄・郵政・タバコ産業の分割民営化、連合の結成、官公労の組織率の低下、ソ連・中国の体制批判による社会主義・共産主義に対する嫌悪感の醸成など、小選挙区制と二大政党制の導入をはかる以前から、その下準備を着々と整えていたのです。

1970年(昭和45年)3月に高校を卒業した私の世代は、家庭の経済状態が許せば大学に進学することが出来る時代に生まれました。

前年の1969年(昭和44年)には東大の入試が初めて中止され、東大を目指していた先輩は京都大学や一橋大学、私立大学などに志望校を変更せざるを得ませんでした。 大学内では、全共闘・民青・原理研究会・勝共連合・生長の家などの学生が入り交じり、騒然とした雰囲気が漂っていました。多くの学生はノンポリとして過ごしましたが、学生運動の影響は大なり小なりその後の人生に影を落とし、あるいは影響を及ぼしています。

1968年(昭和43年)10月21日の国際反戦デーには、新宿駅周辺で過激派学生のデモ隊による騒乱事件が発生し、学生730人が逮捕されるという事件が起きました。この逮捕劇について、日大全共闘のシンパで逮捕された経験のある人物から次のような話を聞いたことがあります。

「事件の際、デモ隊の最前列にいた者たちが一斉に姿を消したため、後列にいた自分たちがデモ隊の最前列に押し出され、機動隊から一斉検挙された。つまり、騒擾罪を適用するために公安が学生デモを新宿駅構内に誘導していたことがわかった。自分は親父が田舎で開業医をしており、地元の国会議員に頼んだため早く釈放してもらった。」

1960年の安保反対闘争の際、国会に突入したデモを先導した全学連指導部に対し、右翼のフィクサーであった田中清玄氏が多額の資金援助をしていたことが後日明らかになりました。世の中の出来事には必ず何か裏が隠されているものです。

話がそれましたが本題に入ります。

沖縄県知事選挙が終わって間もなくして、須田慎一郎氏のYouTube報道番組「虎ノ門二ュース」で、「沖縄県知事選予算増額の真相玉城デニー県政には振興予算3000億円が出なかった本当の理由」と題した配信がありました。

財務官僚出身で30代前半の政治家志望の若者が出演しており、玉城デニー県知事時代に沖縄振興予算3000億円を出さなかった理由について、次のように話していました。

「沖縄振興予算を2021年度までは年間3000億円とすることについては、国と沖縄県の間で政治的約束があった。しかし、2022年からの沖縄振興予算については新たに政府と沖縄県は協議すべきところ、玉城知事は政府と財務省に直接出向いて予算措置の陳情をすべきだったのに、それをしなかった。それで従来通りの3000億円は交付しないことにした。しかし、沖縄県の振興のためには特別予算が必要なことは分かっているので、玉城知事とその支援者のために使われることがないよう、市町村に直接交付することにした。」

私がこの話で最も引っ掛かり(憤り)を覚えたのは、30代前半の元財務官僚の政治家志望の青年が、登録者数140万人を超える影響力のあるネット番組で、自民党政府と財務省の一体化ぶりを自慢げに語る姿でした。彼は、財務省が2022年以降、沖縄県に3000億円の振興予算を交付しなくなったのは、玉城知事が自ら上京して政府と財務省に予算の陳情に来なかったからであると、悪びれることもなく言い放ったのです。続けて、県に交付すれば知事らのために使われるので県を通さずに市町村に直接渡すことにしたという裏話まで披露しました。

この政治家志望の若者の姿を見ると、現役通産官僚だった古賀茂明氏が著した「日本中枢の崩壊」(講談社刊)の表題が思わず頭をよぎります。戦後80年近く、アメリカ支配から脱しきれないままきてしまった結果、このような考えを持つ若い官僚が日本の中枢で育ち、将来の日本を動かしていくのかと思うと脱力感に襲われます。

政治の世界に目を向けると、第二次高市改造内閣の閣僚メンバーが発表されました。山下貴司氏(法務大臣)と古川俊治氏(デジタル大臣)の2人は、岡口基一元裁判官の弾劾裁判において、山下氏は弾劾裁判員として、古川氏は訴追委員として登場した人物です。この2人が弾劾裁判で果たした役割については、「裁判官はなぜ葬られたか」(岡口元裁判官著・講談社)に詳述されています。

山下氏は元検事、古川氏は弁護士資格保有者です。検事と弁護士とが裁判官を罷免するという構図でした。岡口(元)裁判官は罷免判決を受け、裁判官の身分を失っただけでなく弁護士になることもできず、退職金の支給も受けることが出来ませんでした。しかし、現役時代の岡口裁判官の力量は高く評価されており、長年におよぶ裁判実務の知識・経験・処理能力に裏付けされた著作(司法試験受験者や実務家向け)も多数発行され、現在は受験指導や全国からの講演依頼で忙しい毎日を送っておられるようです。

「法と良心以外にはいかなる権威や圧力にも屈しない」という裁判官魂を失わず、前向きに裁判や法に向かい続ける姿には頭が下がります。

岡口裁判官の罷免裁判は最高裁判所が訴追していないにもかかわらず、国会の訴追委員会の決議にて弾劾裁判が開かれた初めてのケースと言われています。しかし、その背後には「法と良心以外の何物にも干渉されない。」という独立精神を持った裁判官の存在を認めない最高裁事務総局の強い意思が横たわっていると考えます。政権与党も最高裁による申立てがなくとも、国会の訴追委員会による訴追があれば弾劾裁判を開けるという前例を作ってしまいました。

今回の岡口裁判官に対する罷免判決は、石田和外最高裁長官時代の「青法協(青年法律家協会)裁判官への弾圧」と並び、いやそれ以上に、個々の裁判官の市民的自由を完全に剥奪するという戦後司法史上最大の汚点だと言わざるをえません。

この弾劾裁判で、法と良心にのみ従った判決を下す勇気をもった若い裁判官達が萎縮したり、あるいは市民的自由のない生活に見切りをつけて中途退官したりすることがないことを祈るばかりです。

第二次高市改造内閣に入閣した山下・古川の両氏も、政権に従順な裁判官を求める自民党の意向を受け、岡口裁判官を罷免するための弾劾裁判で積極的役割を果たしました。そのような政治家が国政の中枢を占める大臣に就任できるのが、現在の日本国なのです。

米軍基地があるかぎり、日本人は日本人だけで日本の行く末を決めることは出来ません。押し付け憲法であるとして日本国憲法をないがしろにし、ひたすらアメリカの顔色を窺い、指示通りに動いてさえいれば政治生命を失うこともなく、官僚として冷や飯を食わされることもありません。あえてそれに背を向けて、せっかく手に入れた豊かな生活を世のため人のために捧げる必要などないと考える人たちが今の日本の「国」を作っているのです。

いつも笑いを絶やさなかった(故)松本弁護士から、「それじゃ身も蓋もないじゃないか」と叱られてしまうかもしれません。

確かに、周りを見渡せば絶望的になりますが、時代は確実に世代交代しています。私たちが学生時代に抱いたような理想や熱意を持ちながら、未来に向かって努力を続ける若い世代が次々と誕生し、必ずや次の時代を切り開いていってくれるはずです。

小選挙区制のもとで水と油の野党の大同団結を図ることにエネルギーを注ぐより、中選挙区制に戻して全ての政党・政治家による百家争鳴の選挙戦を見るのが楽しくはないでしょうか。世襲政治家ではなく、そのような選挙の洗礼を受けて誕生した政治家こそが真の政治家といえるのではないでしょうか。

*出世には魅力を感じない若い世代の裁判官・検事・弁護士が、「司法の独立と裁判官の独立」を取り戻すため、岡口元裁判官に負けないよう自由闊達にのびのびと仕事に励まれることを期待します。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月23日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼江上武幸(えがみ・たけゆき)
弁護士。福岡・佐賀押し紙弁護団。1951年福岡県生まれ。1973年静岡大学卒業後、1975年福岡県弁護士会に弁護士登録。福岡県弁護士会元副会長、綱紀委員会委員、八女市役所オンブズパーソン、大刀洗町政治倫理審査会委員、筑豊じんぱい訴訟弁護団初代事務局長等を歴任。著書に『新聞販売の闇と戦う 販売店の逆襲』(花伝社/共著)等。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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なぜ中国はウクライナへのドローン関連製品の販売を止めないのか

アンドリュー・コリブコ

ウクライナのドローン生産は、今なお中国製部品への依存が大きい。なぜ中国はロシアとの緊密な関係を維持しながら、ウクライナへの関連製品の流通を止めないのか。筆者は、戦争の長期化によって中国が得る地政学的・経済的利益と、双方を支える「積極的中立」という戦略から読み解く。

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ウクライナ紛争が延々と続けば、アメリカが計画している「(再び)東アジアへ軸足を移す」戦略の本格的な実施も、それだけ先送りされる。また、ロシアが豊富な天然資源を中国に格安で売る状況につながる可能性もある。そして中国は、いわば「積極的中立」という立場を維持することができる。

ラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティ(RFE/RL)は先月末、「ウクライナのドローン戦争が浮き彫りにした、中国への不都合な依存」と題する記事を掲載した。

この記事では、EUがウクライナのドローン調達用として約束した60億ユーロのうち、最初の10億ユーロをこの夏に拠出したことが取り上げられている。

注目すべきなのは、この資金を使ってウクライナが中国製の部品を購入することも認められている点だ。つまり、率直に言ってしまえば、以前指摘されたように「EUが中国に金を払い、ウクライナによるロシア兵への攻撃を間接的に支援する」という構図になっている。

RFE/RLによれば、ウクライナは中国から完成品のドローンを購入する量を減らしているものの、モーター、リチウム電池、光ファイバーなどの中国製部品に対する需要は依然として非常に大きい。

さらに、「2026年上半期だけで、中国製部品の輸入額はすでに前年1年間の約76%に達した」という。

またRFE/RLはウクライナ側の報告書を引用し、「2025年上半期にウクライナが輸入したドローン部品の金額ベースで38%が中国からのものだった」としている。

この記事の狙いは、ウクライナと西側諸国に危機感を持たせ、ドローンの国内生産を大幅に増やす必要があると訴えることにあるようだ。そうすることで、記事に登場する専門家の一人が「敵対的な相互依存」と表現した、ウクライナの中国への依存を減らそうというわけである。

記事ではさらに、「中国は依然としてウクライナ最大の貿易相手国であり、一方のウクライナは中国にとって重要な農産物供給国である」と説明している。これは事実であり、中国がウクライナへのドローン関連製品の販売を完全には止めない理由の一つでもある。しかし、理由はそれだけではない。

現在の中国とロシアの関係は、歴史上でも非常に良好な水準にある。それでも2023年初頭の時点ですでに、「中国はウクライナ戦争で誰にも勝ってほしくないのではないか」という見方があった。

その理由は、ある程度コントロール可能な形で戦争が長期化すれば、アメリカが計画する「(再び)東アジアへ軸足を移す」戦略の本格的な実施を、いつまでも遅らせることができるからだ。

それだけではない。天然資源の豊富なロシアが中国への依存を強めすぎれば、モスクワは石油や天然ガスをはじめとする天然資源を、北京に非常に安い価格で売らざるを得なくなる可能性がある。

こうした冷徹な利益を追求するため、中国は一方で、ウクライナにとって欠かせないドローン、部品、光ファイバーなどの供給源となってきた。
仮に中国企業から直接供給されているのではなく、中国擁護派が主張するように第三国などの仲介業者を通じた間接的な供給にすぎないとしても、中国製品が重要な役割を果たしていることには変わりない。

その一方で中国は、ロシアにとっても、西側諸国による制裁の圧力を逃がすための欠かせない「安全弁」の役割を果たしている。その結果、ウクライナはロシアの軍事技術上の進歩にある程度ついていくことができる。同時にロシア経済も、西側諸国が制裁によって引き起こそうとした深刻な危機を回避できている。

そして中国は、「積極的中立」とでも呼ぶべき立場を維持している。ここでいう「積極的中立」とは、中国がウクライナとロシアの双方を積極的に支援することで、どちらか一方の側につくことを避けている、という意味である。

中国はウクライナによるドローン関連製品の購入から金銭的利益を得ている。また、大幅に値引きされたロシア産エネルギーを大量に輸入することで、中国経済の成長にもつなげている。さらに、中国が実はロシアと「同盟」を結んでいるわけではないと示すことで、西側諸国から中国自身に向けられる圧力を、相対的に弱める効果も得ている。

この政策をどう評価するかは別として、結果としてウクライナ紛争の長期化に寄与してきたことは否定できない、わたしは考える。

ロシアが「特別軍事作戦」と呼ぶ軍事行動を開始する数週間前、中国とロシアは「限界のない」パートナーシップを宣言していた。もし中国がこの関係に沿ってウクライナへのドローン関連製品の販売を停止していたなら、ロシアは現在までに、この紛争で掲げた目標をより多く達成できていたかもしれない。場合によっては、最大限の勝利を収めていた可能性さえある。

もちろん、ウクライナにとっては、中国からのドローン関連製品よりも、アメリカによる軍事・情報面での支援のほうが重要である。しかし、アメリカによる支援が近いうちに終わる兆しはない。したがってロシアは、中国に対してウクライナへのドローン関連製品の供給を今度こそ完全に止めるよう働きかけるべきだ――というのが、この記事の結論である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月8日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/why-wont-china-cut-ukraine-off-from

ロシアが新設した「1945年の対日戦勝記念碑」が象徴する、日露対立の再燃

アンドリュー・コリブコ

ロシアがハバロフスクに1945年の対日戦勝を記念する巨大なモニュメントを建設した。筆者は、プーチン大統領の択捉島訪問とあわせ、日露間の歴史的対立が再び強まりつつある象徴だと分析。その背景には、米国のアジア太平洋戦略や日本の軍事的役割の拡大があると指摘している。

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この状況を招いた責任はロシアではなく、米国にある。米国は、事実上その保護下にある日本が、1956年の日ソ間の妥協案に基づいて南千島列島をめぐる問題を解決することを認めなかったからだ。この妥協案では、色丹島と歯舞群島を日本側に引き渡すことになっていた。

日本の高市早苗首相は、ロシアが新たに建設した「1945年の対日戦勝」を記念するモニュメントについて不満を表明した。

アイルランド人ジャーナリストのブライアン・マクドナルドは、ハバロフスクのアムール川を見下ろす目立つ場所に建てられたこの記念碑について、「その大きさと、どれほど目立つ場所にあるのかが分かるように」と映像を公開した。

さらに、次のように伝えている。

「地元当局から『イワン』と名付けられた兵士像は、日本の皇室の権威を象徴する菊の紋章が付いた国境標識を打ち壊す姿で表現されている。当局はこれを『対日戦勝を記念するロシア最大のモニュメント』と説明している」

この問題のより大きな背景には、プーチン大統領による択捉島訪問がある。択捉島は現在ロシアが実効支配しているが、日本が自国領として主張している4島の一つであり、プーチン氏の訪問は日本側の強い反発を招いた。

ロシアを代表するアジア専門家の一人、ゲオルギー・トロラヤは最近の記事で、プーチン氏の択捉島訪問をきっかけに事態が急速に動き、ロシアの安全保障を複雑にする可能性があると指摘した。

しかしわたしは以前の記事で、プーチン氏はそうした事態はいずれ避けられなくなるので、この点を見越して先手を打ったのではないか、と論じた。今回の記念碑の公開を考えれば、この見方には筋が通っている。

そもそも、大規模な記念碑は短期間で建設できるものではない。そのためプーチン氏は、択捉島を訪問する以前から、ロシアを取り囲む新たな「防疫線(cordon sanitaire)」のうち、北東アジア方面に国民の関心を向けることを計画していたと推測できる。

これら一連の動きは、ロシアが、米国の支援を受けた日本による対露封じ込めの動きを認識していることを示している。

だからこそプーチン氏は、択捉島に対するロシアの主権を改めて強調した。そして今回の新しい記念碑も、ロシア国民に日本との歴史的な対立を思い起こさせる効果を持つことになる。

歴史を忘却している人のために振り返ると、日露の競争は19世紀末に始まった。ロシアが北東アジアへ勢力を拡大し、中国の満州地域や朝鮮半島への影響力を強めたためである。日本は1894~1895年の日清戦争で、朝鮮半島をめぐって中国と戦っていた。

その約10年後に起きた日露戦争では、アジアの国がヨーロッパの大国を初めて破った。その後、日本は朝鮮を併合し、やがて満州に傀儡国家を建国することになる。

そして1945年8月、ロシア(当時のソ連)は日本に対して「雪辱を果たした」。ヤルタ会談での合意に基づき、ソ連は「満州戦略攻勢作戦」を開始した。この攻勢によって、日本軍は満州、朝鮮半島北部、樺太南部、そして千島列島から急速に排除された。

今回建設された記念碑が記念しているのは、この戦いである。

ロシア政府は、この歴史を国民に改めて思い出させることで、日本との歴史的な対立関係が再び強まることを国民が受け入れやすくなるよう、徐々に意識を整えようとしている。わたしは、この対立関係が今後、長期間にわたって日露関係を特徴づけることになると予想している。

わたしは、こうした状況を招いた責任はロシアではなく、米国にあると思う。米国は、事実上その保護下にある日本が、1956年の日ソ間の妥協案に従って南千島列島をめぐる領土問題を解決することを認めなかった、というのがわたしの主張だ。

1956年の妥協案では、色丹島と歯舞群島を日本側の管理下に戻すことになっていた。その結果、領土問題はその後およそ70年間にわたって未解決のまま残された。そしてこの問題は、日本の地政学的な国家意識の重要な一部となり、多くの日本国民にとって感情に強く訴える問題にもなった。わたしは、現在、米国がこの問題を利用していると主張している。

日本には、米国が構想する「AUKUS+」――つまり、アジア太平洋地域にNATOのような軍事ネットワークを構築する構想――を主導する役割が与えられている。

【黒薮注】AUKUS+:「AUKUS+」とは、米英豪3カ国の安全保障枠組みとして、それを日本、韓国、カナダ、ニュージーランドなど他の同盟・友好国との協力へ広げていく構想。インド太平洋における、より広い軍事・技術協力ネットワークの構想。日本政府にとって、憲法9条がこの構想の障害になっている可能性が高い。

その最大の目的は中国を封じ込めることだが、日本が再軍備を進め、ロシアにとってより大きな脅威となるにつれて、ロシアを取り囲む「防疫線」の北東アジア方面も強化されることになる。

したがって、プーチン氏が択捉島に対するロシアの主権を改めて強調することも、ロシア政府が国民に対して、日本との歴史的な対立関係が再び強まることを徐々に受け入れさせようとすることも、十分に理にかなった対応なのである。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月9日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/russias-new-monument-to-its-1945?utm_campaign=post&utm_m

「香害」と電磁波 ── 科学的根拠と疑似科学の境界線

黒薮哲哉

「香害」に科学的な根拠はあるのか、それとも疑似科学なのか? この問いと並行して語られるテーマに、電磁波による人体への影響をめぐる議論がある。電磁波による人体への影響に科学的根拠があるのか、それとも疑似科学なのかという問いは、「香害」と同様に重要なテーマである。

2005年から、わたしは電磁波問題を取材してきた。そもそもの動機は、自宅がある集合住宅の屋上に携帯電話の基地局を設置したいという打診がNTTドコモとKDDIからあり、マンションの管理組合で話し合うことになったことである。しかも、基地局は、わたしの書斎の天井を隔てた真上に設置する計画だった。幸い、管理組合が「NO」の判断をし、計画は中止になった。

携帯電話の基地局からは、マイクロ波(電子レンジにも使われている電磁波)が放出される。わたしは電磁波関連の書籍や記事を参考にして、人体に有害であるという結論に達した。わたしが参照した資料によると、基地局の周辺で、目まい、吐き気、耳鳴り、食欲不振、不眠、精神不安などが多発しているという。アンケートなどを根拠に、電磁波は「有害」という結論を出している論考が目立った。

さらに、基地局周辺では、癌の発症率が高いとするデータも紹介されていた。

わたしはこれら情報を信頼していた。事実、電磁波の取材を始めたころに執筆した二冊の書籍、『あぶない!あなたのそばの携帯基地局』(花伝社)、『電磁波で苦しむ人々』(花伝社)には、市民運動体が実施したアンケートを根拠に、携帯電話基地局の周辺で健康被害が多発していると記した。

しかし、その後、検証を重ねるにつれて、奇妙なことに気付いた。日本全国には数え切れないほどの基地局が設置されているが、その99%からは健康被害の報告がないという事実である。一方、市民運動団体が撤去を求めている基地局に限って、健康被害の存在が主張されている。しかも、その「事実」の裏付けとなっているのは、おもに市民運動団体が住民を対象に実施したアンケートである。

アンケートの結果は、実施者の設問や説明の仕方によって大きく左右される可能性がある。アンケートを実施する前に、「基地局の周辺で健康被害が相次いでいますが、あなたは何か体調の異変を感じませんか?」というような説明をされると、回答が誘導される可能性が高い。というのも、目まい、吐き気、耳鳴り、食欲不振、不眠、精神不安といった症状は、電磁波の有無とは無関係に生じることがあるからだ。設問の立て方によっては、体調不良をすべて電磁波に結び付けることになりかねない。

こうした検証結果から、わたしは電磁波についての見解を変えた。残念なら、『あぶない!あなたのそばの携帯基地局』と『電磁波で苦しむ人々』の内容は解釈の一部に誤りがある。

◆「携帯電話基地局の周辺で癌が多発」は事実

しかし、それが「電磁波は安全である」という結論を導くものではない。というのも、携帯電話基地局の周辺で癌が多発していることを示唆する科学的、かつ客観的な疫学調査が複数存在するからだ。

たとえば、ブラジルの大学が実施した調査では、癌で死亡した人の自宅と、最も近い基地局との距離を測定した。この方法で7000件余りのケースを調査したところ、発癌と基地局との関係が示された。ドイツやイスラエルの調査でも、類似した方法論で導かれたデータが報告されている。

となれば、やはり基地局を無制限に設置することには問題がある。

【参考記事】地局の周辺ほど癌が多いことを示すブラジルの疫学調査、癌による死亡7191例と基地局の距離の関係を検証 疫学調査①

わたしも含め、情報は十分な検証を経て拡散すべきだろう。あくまで科学的な根拠に基づいたデータが必要だ。もちろん、予防原則を重視し、少しでも健康被害の可能性があれば対策を取る必要はある。しかし、「香害」と同様、少なくとも主観で左右されるアンケートのデータを過信することには問題がある。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月2日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

ロシアのアジア問題第一人者、プーチン大統領の択捉島訪問を建設的に批判

アンドリュー・コリブコ

プーチン大統領の択捉島訪問をめぐり、ロシアのアジア専門家トロラヤ氏は、日米との緊張を高め、ロシアの外交的選択肢を狭める可能性を指摘した。背景には、米英豪の安全保障枠組みAUKUSと日本などの協力拡大があり、米日韓と露中朝という二つの陣営への分断が進む可能性がある。

ロシアのアジア専門家トロラヤ氏
ロシアのアジア専門家ゲオルギー・トロラヤ氏

※   ※   ※   ※

ロシア国内で、ロシアの外交政策に対する建設的な批判が表に出ることは極めて珍しい。ましてや、その分野の第一人者であるトロラヤ氏のような専門家から批判が出ることは、なおさらである。

ゲオルギー・トロラヤ氏を「ロシアを代表するアジア問題の専門家」と呼んでも、決して大げさではない。同氏は数々の肩書や実績を持ち、その一つが、ロシア科学アカデミー経済研究所の「アジアにおけるロシア戦略センター」所長である。

だからこそ、ロシアの有力シンクタンク「ヴァルダイ・クラブ」に寄稿した最新の分析で、トロラヤ氏が最近の日露間の緊張について建設的な批判を行ったことには、大きな意味がある。

この緊張は、プーチン大統領が前例のない択捉島訪問を行った後に高まった。択捉島は、日本政府が自国領であると主張する北方四島の一つである。トロラヤ氏はまず、かなり大胆な予測を示した。

「将来の歴史家が、アジアにおける新たな地政学的構図の出現を、この出来事から始まったと位置づける可能性は十分にある」

そして、次のように説明している。

「もしワシントンが、ロシアの対日姿勢の変化を単発的な出来事としてではなく、モスクワが『太平洋の大国』としての地位を確立しようとしている証拠だと受け止めるなら、米国はまさにその次元で、この挑戦に対抗する可能性がある」

その場合、地域の安全保障環境を大きく変えるような、段階的なエスカレーションが起こる可能性があるという。トロラヤ氏は、その流れを次のように説明している。

  1. 外交的な抗議
  2. 新たな制裁
  3. 千島列島周辺での偵察活動の強化
  4. 北海道での日本の軍事演習
  5. 日米共同軍事演習
  6. 米海軍のプレゼンス拡大
  7. 日本による新たな長距離ミサイルの配備
  8. 米国の攻撃システムの一時的な配備
  9. 米国のミサイルの恒久的な配備

原文ではこの後の記述がやや不明瞭になっているが、最後の段階として、日本が核武装へ向かう可能性を示唆している。まさに「アジアにおけるロシア戦略」を専門とするトロラヤ氏は、さらに次のように結論づけている。

「ロシアのアジア太平洋政策全体という観点から見ると、従来の『多極型』モデルは、今や決定的に崩壊した。このモデルでは、ロシアは日本や韓国など、他の有力国との関係を利用することで、中国への依存を『バランスさせる』という選択肢を持っていた」

つまり、これまでのロシアには、中国との関係を深めながらも、日本や韓国とも関係を維持し、中国への過度な依存を避ける余地があった。しかし今回の展開によって、その外交的な選択肢が失われたという見方である。トロラヤ氏はさらに、この動きによって、「米国・日本・韓国」と「ロシア・中国・北朝鮮」という二つの陣営の形成が加速する可能性があると予測している。最後にトロラヤ氏は、次のように述べた。

「ロシアはアジア太平洋地域で戦略的な存在感を高める一方、外交的に動ける余地を失う可能性がある。現在の世界的対立の段階では、このような『交換条件』は正当化できるように見えるかもしれない。しかし、アジア外交ははるかに長い時間軸で物事を考えることに慣れている。
 ロシアの選択肢が狭まっているという印象を与えないことが重要であり、長期的に信頼でき、予測可能なパートナーであるというロシアの評価を維持し続ける必要がある」

ロシア国内では、ロシアの外交政策に対する建設的な批判が公に示されることは極めて珍しい。特にトロラヤ氏のような、その分野を代表する専門家の場合はなおさらだ。

そのため、この分析の行間を読むならば、トロラヤ氏は、プーチン大統領の択捉島訪問が長期的かつ重大な戦略的影響をもたらすと考え、その訪問を残念に思っている、と解釈することもできる。ただし、トロラヤ氏の業績に敬意を表しつつも、彼の分析では一つの可能性が十分に考慮されていない。

それは、プーチン大統領自身が、こうした一連の動きはいずれにせよ避けられないと考えている可能性である。米国がアジアで進めている計画を考えれば、そのような判断にも一定の合理性がある。

その米国の計画は、簡単に言えば、NATOに似た軍事ネットワークをアジアに構築することだと説明できる。この記事では、それを「AUKUS+」と呼んでいる。詳しくは原文でリンクされている別の記事で説明されている。

【黒薮注】AUKUS+:「AUKUS+」とは、米英豪3カ国の安全保障枠組みとして、それを日本、韓国、カナダ、ニュージーランドなど他の同盟・友好国との協力へ広げていく構想。インド太平洋における、より広い軍事・技術協力ネットワークの構想。日本政府にとって、憲法9条がこの構想の障害になっている可能性が高い。

また、この構想は、米国のエルブリッジ・コルビー国防次官(政策担当)が、プーチン大統領の訪問に先立つ8月初めに語った内容ともつながっている。したがって、プーチン大統領がロシア極東への訪問予定の一環として択捉島を訪れたのは、

「米国がアジアで何を計画しているのか、ロシア側は把握している。そして、それに先手を打って対応する」

というメッセージを送るためだった可能性もある。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月7日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/russias-top-expert-on-asia-constructively?utm_campaign=post&utm_medium=web

ライプツィヒ事件には「偽旗作戦」の特徴がそろっている

アンドリュー・コリブコ

ドイツ・ライプツィヒで、ウクライナの貨物機付近から爆発物を積んだドローンなどが相次いで発見され、ドイツ側はロシアの関与を指摘した。しかしプーチン大統領はこれを「偽旗作戦」だと反論している。本稿では、事件をめぐる不自然な点や過去の類似事例、ドイツの急速な再軍備という背景を踏まえ、この事件が戦時体制への移行や今後の対ロシア政策のエスカレーションを正当化するために利用されている可能性を考察する。

※   ※   ※   ※

この事件は、ドイツ経済を戦時体制へ移行させることを正当化し、それによって生じる問題から国民の目をそらし、さらに将来ロシアに対して大規模なエスカレーション(対立の激化)に踏み切ることを正当化するために行われたものだ、というのが私の見方である。

ドイツは、先月ライプツィヒで起きた事件についてロシアを非難した。この事件では、爆発物を積んだドローン1機が、ウクライナの貨物機の近くにある滑走路上で発見された。また別のドローンは、着陸しようとしていた別の貨物機に衝突したものの、爆発しなかったと報じられている。さらにその後、3機目のドローンが空港施設の近くで発見された。

プーチンは、ロシアの仕業だとするドイツ側の主張を非難した。そして、証拠が意図的に仕込まれていることから、自分はこれを「偽旗作戦」だと考えていると述べた。また、その目的について、ロシアへの恐怖をあおることでドイツ国内の問題から国民の目をそらすことではないかと推測した。

こうした見方に懐疑的な人は、ばかばかしいと思うかもしれない。しかし私が見る限り、ライプツィヒ事件には偽旗作戦を疑わせる特徴がそろっている。

まず、ドイツ側の説明に従えば、ロシアはまるで漫画に出てくるような、とんでもない失態を犯したことになる。世界でも屈指の技術を持つとされるロシアのドローン操縦部隊が、もし本当にNATOに対する史上最も衝撃的な「ハイブリッド戦争」の攻撃を命じられていたのだとすれば、ドローン1機を滑走路に放置し、もう1機は着陸中の貨物機に衝突したのに運悪く爆発せず、さらに別の1機まで近くに残していったことになる。これは信じがたい話である。

【黒薮注】ハイブリッド戦争:ハイブリッド戦争(Hybrid Warfare)とは、通常の軍事攻撃だけでなく、サイバー攻撃、情報操作、経済的圧力、破壊工作など、さまざまな手段を組み合わせて相手国を弱体化させる戦い方のこと。

プーチンの「偽旗作戦」説を支持する2つ目の理由として挙げたいのが、昨年秋に起きた似たような出来事だ。当時、正体不明のドローンによって、スカンジナビアの主要空港が一時的に全便の運航を停止する事態となった。

ゼレンスキーは、予想どおりロシアを非難し、ロシア船舶に対してデンマーク海峡を封鎖するよう求めた。ライプツィヒ事件と同じく、その主張を裏付ける証拠は公表されなかった。しかし私は、この出来事によって、ヨーロッパで正体不明のドローン事件が起きた際にロシアの責任だとし、それを根拠に対ロシア政策をさらにエスカレートさせる、という前例が作られたと考えている。

そして3つ目の点として、ゼレンスキーが当時提案した対ロシア措置は結局実現しなかったものの(おそらくNATOとロシアの直接戦争を避けるためだったのだろう)、今回のライプツィヒ事件をきっかけに、何らかのエスカレーションが起こる可能性がある。

私は8月下旬の記事で、ロシアとの対立を大幅に激化させた場合、ロシア側よりもNATO側のほうが得るものが多いだろうと論じた。その具体的な形として考えられるのが、この夏に失敗した対ロシア・ドローン攻撃を大規模かつ長期的に再開し、ロシアの「脱工業化」と「非軍事化」を狙うというものだ。これが来年試みられる可能性もある。

ここで忘れてはならないのは、現在ドイツが、アメリカに次いでウクライナにとって2番目に重要な軍事支援国となっていることだ。ドイツは今年春、ウクライナの長距離攻撃能力を発展させることで合意している。

またドイツは急速に再軍備を進めており、その経済も戦時体制へと移行しつつある。その背景には、2030年ごろにロシアとの戦争が起こる可能性があるというEUの予測を踏まえ、それまでにヨーロッパ最大の陸軍を持つというドイツの目標がある。

しかし、こうした政策は有権者の間で不人気となっている。そのため私は、ライプツィヒ事件を利用して、この政策を正当化する必要があるのだと考えている。

ここまで述べてきたプーチンの「偽旗作戦」説に関する私の見方をまとめると、次のようになる。

昨年秋、スカンジナビアで「ロシアのドローン」に対する恐怖が広がったことで、その後ヨーロッパで同様の事件が起きた際、証拠がなくてもロシア政府の責任だと非難するための下地が作られた。そして今回、ドイツはライプツィヒ事件について実際にそれを行った、というわけだ。

一方で、ロシアのドローン操縦部隊がこれほど無能だったという説明は信じがたい。それにもかかわらず、その説明が広められているのは、ドイツ経済の戦時体制への移行を正当化し、それに伴って生じる国内問題から人々の目をそらし、さらに将来ロシアに対して大規模なエスカレーションを行うことを正当化するためだ、というのが私の見方である。

先ほど述べたように、そのエスカレーションとは、この夏に失敗した対ロシア・ドローン攻撃を大規模かつ長期的に再開し、ロシアの「脱工業化」と「非軍事化」を狙うという形になる可能性がある。

しかし、それを実行すれば、改定されたロシアの核ドクトリンに照らして、ロシアが核兵器使用を検討する一線、いわゆる「核の敷居」を越えてしまう危険性がある。

少なくともプーチンは、ウクライナに対して再び限定的な形で「事態を沈静化させるために、あえてエスカレートさせる(escalate to de-escalate)」という対応を取るだろう。しかし、そこから事態が制御不能に陥る可能性も常に存在する。

したがって私は、最終的にスカンジナビア諸国がそうしたように、ドイツも対立をさらに激化させることは避けるべきだと考えている。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月3日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source: https://korybko.substack.com/p/the-leipzig-incident-has-all-the

シコルスキ氏の「欧州軍団」構想は、ポーランドがウクライナに「平和維持部隊」を派遣するための手段なのか

アンドリュー・コリブコ

アジア版NATO構想と並行して、欧州では「欧州軍団」構想がある。これは、NATOに代わる新たな軍事同盟をつくるものではなく、欧州が自らの防衛をより多く担うことで、NATOの「欧州の柱」を強化しようとする動きと位置づけられる。執筆者のコリブコは、この枠組みが将来的にポーランド軍のウクライナ派遣に利用される可能性を指摘する。

ポーランドのラデク・シコルスキ外相

※   ※   ※   ※

保守派のカロル・ナヴロツキ大統領は、ポーランド軍の最高司令官であり、軍をめぐる大きな権限を持つ。ところが、与党のリベラル連立政権が「欧州軍団」の枠組みを使って一部のポーランド軍の部隊をEUの指揮下に移した場合、話は別だ。そうなれば、その部隊のウクライナ派遣をナヴロツキ大統領が阻止できるのかどうかは、はっきりしない。

ポーランドのラデク・シコルスキ外相は最近、ギリシャのメディアとのインタビューで「欧州軍団(European Legion)」の創設を提唱した。シコルスキ氏は次のように述べている。

「私は『欧州軍団』の創設を強く支持している。これは常設の専門部隊であり、より広い欧州の枠組みから経験豊富な職業軍人を募ることができる。戦争終結後には、実戦経験を積んだウクライナの退役軍人もその対象になり得る。要するに、欧州は自らの安全保障に自ら責任を持たなければならないということだ」

さらに、こう付け加えた。

「われわれの裏庭で火事が起きるたびに、ワシントンに電話をかけるわけにはいかない。それが通常の軍事的脅威であれ、モスクワがアフリカや中東からの移民流入をEUに対する武器として利用する事態であれ、同じことだ。ただし、ここは明確にしておきたい。これはNATOに代わる別の組織をつくったり、既存の仕組みを二重化したりする話ではない。必要なのは、より強力なNATOの中に、より強力な『欧州の柱』を築くことだ。われわれの利益は互いに補完し合うものであって、相反するものではない」

この発言に驚いた向きもあった。というのも、シコルスキ氏は1年半前、ゼレンスキー大統領が提唱した「欧州軍(Army of Europe)」構想を退けていたからだ。当時、ポーランド外交のトップである同氏はこう述べていた。

「この言葉の使い方には慎重であるべきだと思う。人によって意味するところが違うからだ。もしそれが各国軍を一つに統合するという意味なら、そのようなことは起こらない」

ここに両構想の最大の違いがある。「欧州軍」は各国軍を統合する構想であり、現実味に乏しい。一方、「欧州軍団」は志願制の部隊として想定されている。

後者についてもう少し詳しく見てみると、シコルスキ氏が念頭に置いているのは、EU加盟国とウクライナの兵士から構成される即応部隊で、何らかのEU機関の指揮下に置かれるものとみられる。その目的は、危機が発生した際に迅速に対応することにある。そして、紛争地域に各国の兵士が実際に配置されることで、NATO全体、あるいはEU内の「有志連合」をその紛争に関与させる「トリップワイヤー(引き金)」として機能することになると考えられる。

シコルスキ氏がこの構想を打ち出したのは、英国、フランス、ドイツの3カ国――いわゆる「E3」であり、先行きが不透明とも報じられている「有志連合」の中心国――が、停戦成立後にウクライナへ部隊を派遣する計画を確認してから2カ月後のことだ。

一方、シコルスキ氏が属するリベラル連立政権と激しく対立している保守派のカロル・ナヴロツキ大統領は、2025年5月、大統領選挙の決選投票を前に、ポーランド軍のウクライナ派遣は認めないと書面で誓約している。

ナヴロツキ氏は軍の最高司令官ではある。しかし、リベラル派の国防相が「欧州軍団」を通じて一部のポーランド軍部隊をEUの指揮下に置いた場合、「有志連合」の計画の一環としてそれらの部隊がウクライナへ派遣されるのを、ナヴロツキ氏が阻止できるのかどうかは不透明だ。

ここ数カ月、ポーランド国内ではウクライナに対する世論が悪化している。ゼレンスキー大統領が、ヴォルィーニ虐殺に関与したOUN-UPA(ウクライナ民族主義者組織・ウクライナ蜂起軍)の関係者を称揚したことがその背景にある。そのため、与党リベラル派がこのような措置に踏み切れば、2027年秋に予定される次回の下院(セイム)選挙を前に、再選への望みを損なう可能性がある。

【黒薮注】ヴォルィーニ虐殺(Volhynia massacres):第二次世界大戦中の1943~1944年ごろ、現在のウクライナ西部を中心に、ポーランド系住民が大規模に殺害された事件を指す。中心的な実行主体とされるのが、ウクライナ民族主義者組織(OUN)の一派と、その武装組織であるウクライナ蜂起軍(UPA)。彼らは、将来の独立ウクライナ国家の領域からポーランド系住民を排除することなどを目的として、ヴォルィーニ(ヴォルヒニア)地方や東ガリツィアでポーランド人の村々を襲撃した。数万人規模のポーランド人民間人が殺害された。

それでも、「最近締結されたポーランド・ドイツ防衛協定は、ワルシャワの利益よりもベルリンの利益を優先していることに疑いの余地はない」とされている。また、ドナルド・トゥスク首相はドイツと非常に緊密な関係にあり、保守派野党の「影の実力者」からかつて「ドイツの工作員」と非難されたことさえある。

したがって、もしドイツが「欧州軍団」を通じたポーランド軍のウクライナ派遣を要求した場合、トゥスク首相が来年、政権維持を危うくするリスクを冒してでもそれに応じる可能性は排除できない。

ただし、そのような軍事派遣をロシアが容認するかどうかは、また別の問題である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

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文化放送「香害」番組削除をめぐり波紋 市民団体が抗議、横浜副流煙事件の被告家族は文化放送を擁護

黒薮哲哉

「香害」や化学物質過敏症の危険性を訴え、「被害者」への配慮を社会に求めている市民団体「カナリア・ネットワーク全国」(共同代表・青山和子、深谷桂子)が、文化放送が8月5日に放送したYouTubeラジオ番組に抗議し、その後、番組が削除された問題で、新たな事実が判明した。

カナリア・ネットワーク全国は、BPO(放送倫理・番組向上機構)に対しても申立書を送付した。さらに、同団体だけではなく、日本消費者連盟なども8月10日に文化放送に抗議していたことが分かった。

文化放送が8月5日に放送した「香害」に関するラジオ番組は、YouTubeでも視聴できるようになっていたが、現在はアクセスできなくなっている。カナリア・ネットワーク全国は、番組で「香害」について話した村中璃子医師の見解に誤りがあり、海外における「香害」の実態などが過小評価され、事実に反する内容が放送されたと主張している。

結果として、市民団体からの抗議の後に、一つのラジオ番組が削除されたことになる。

こうした動きを受け、横浜副流煙事件の被告の家族である藤井敦子さんが、文化放送に申し入れを行った。

申入書全文1頁
申入書全文2頁
申入書全文3頁(全3頁)

■申入書全文(PDF)

申入書では、「香害」をめぐる主張には疑似科学的な側面があるとの見解を示し、その根拠として、藤井さんの夫が副流煙の発生源であるとして提訴された事件(請求額4518万円、藤井さん側が勝訴)で明らかになった具体的な事実を紹介している。

例えば、被告である夫が不在だったときにも、同じマンションに住む原告家族3人が煙の臭いを訴えていたという事実である。これは原告側の日誌から、時系列的にも確認されている。

また、この裁判では、日本禁煙学会の作田学医師が、「受動喫煙症」を訴えていた原告について、本人を診察することなく「受動喫煙症」とする診断書を交付していたことも明らかになった。さらに、原告の一人には長い喫煙歴があったことも判明している。

こうした診断基準について、横浜地裁は次のように認定している。

「その基準(日本禁煙学会の『受動喫煙の分類と診断基準』)が受動喫煙自体についての客観的証拠がなくとも、患者の申告だけで受動喫煙症と診断してかまわないとしているのは、早期治療に着手するためとか、法的手段をとるための布石とするといった一種の政策目的によるものと認められる。(認定事実(4)ア)」

こうした複数の事実に基づき、藤井さんは、「香害」をめぐる主張には疑似科学的な側面があると主張している。

◆「香害」をめぐるアンケートの非科学的側面

なお、この問題に関して、やはり「香害」を訴えている日本消費者連盟のウェブサイトには、次のような記述がある。

私共は、「香害」問題に取り組んでいる市民団体です。2017年夏に、市民から香害被害の声を募る「香害110番」を行って以来、香害の解決を求めて、省庁との交渉を続けております。2020年には、9000人以上からの回答を得た香害アンケート結果を発表。香害被害者の約20%が、通学や通勤・就労に支障を来たしているという深刻な現状を明らかにしました。2022年には、香りを長持ちさせるマイクロカプセル等の徐放技術を日用品に使用しないことをメーカー等に求める署名活動を行うなど、香害をなくすために様々な活動を行ってまいりました。( 出典 https://nishoren.net/cuj-25274 )

このアンケートの具体的な調査方法が不明なため断言はできないが、「香害」の被害を把握するために実施されたアンケートの中には、調査方法の妥当性について検討を要するものもかなりある。

例えば、ある市民団体が実施したアンケートでは、「香害」に取り組むネットワークにも調査票を送り、その活動の参加者も回答する形式になっていた。その結果、極めて高い「有症率」が示された。

吐き気や頭痛などの症状や不快感は、「香害」以外のさまざまな要因によっても日常的に生じ得る。そのため、自己申告によるアンケート結果から、「香害」と症状との因果関係までを判断する際には慎重さが求められる。

[参考記事]禁煙ファシズムに審判、横浜・副流煙裁判で被告の藤井さんが完全勝訴、日本禁煙学会理事長・作田学医師の医師法20条違反(無診察で診断書を作成する行為の禁止)を認定

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「松竹裁判」の危険な兆候、司法権力による政党への介入

黒薮哲哉

松竹伸幸氏が日本共産党に対し、除名処分は不当だとして提訴している裁判が注目を集めている。先日、東京地裁で行われた尋問には多数の傍聴希望者が詰めかけ、抽選が行われたそうだ。

わたしは双方を取材していないので、原告・被告のどちらの主張に理があるのかを評価する立場にはない。しかし、それ以前の問題として指摘しておきたいことがひとつある。それは、政党をめぐる問題に裁判所が介入することが、今後どのような影響を及ぼすのかという点である。

改めて言うまでもなく、政党は任意団体である。共産党の場合は、科学的社会主義の思想のもと、社会主義をめざそうという人々の集まりである。一般企業や教育機関など、一定の公共性を有する組織とは、その性質が異なる。共産党以外の政党についても、それぞれの理念に基づいて政治活動を展開している。

松竹氏をめぐる裁判では、共産党の方針や、それに基づく党員への処分の当否について、裁判所という国家機関が司法判断を下すことになる。ここには慎重に考えるべき問題がある。司法が政党内部の意思決定にどこまで関与できるのか。その範囲が際限なく広がれば、国家権力が政党の自律性を脅かすことにもなりかねない。

わたしは、この裁判が、政党の自律と司法の関係をめぐる極めて重要かつ慎重に扱うべき問題を含んでいると考えている。判決内容によっては、日本を専制国家に暴走させる危険性を孕んでいる。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月29日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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