しばき隊の活動家が森奈津子氏と鹿砦社を訴えた裁判、実名報道の是非が争点、東京地裁立川支部で結審

黒薮哲哉

しばき隊の活動家・A氏が、作家の森奈津子氏と鹿砦社に対して、プライバシーを侵害されたとして、110万円を請求した裁判が、6月2日、東京地裁立川支部で結審した。判決は、7月14日に言い渡される。

提訴の背景は、森氏とA氏の間で行われていたツイッターでの交戦である。しばき隊についての論争の中で、森氏が、A氏が過去に起こした暴力事件の事実を立証する略式命令書をツイッター上で公表したことである。そこには、「被告人を罰金40万円に処する」などと記されている。改めて言うまでもなく、この罰金はA氏が起こした暴力事件の代償である。

略式命令の入手元は、鹿砦社である。鹿砦社は、A氏とその「仲間」が、起こしたある集団暴力事件を断続的に取材してきた唯一の出版社である。これまでしばき隊関連の本を6冊出版している。その中には、森氏が投稿したルポも含まれている。こうした背景があったので、森氏とA氏によるツイッター上の交戦に鹿砦社も注視していたのである。

ちなみに前科に関する事実は、公表が認められる場合と認められない場合がある。認められる場合は、実名を使用する意義と必要性がある場合である。それが認められないケースでは、プライバシー侵害が認定される法理となっている。

◆2024年12月深夜、大阪市北新地で

A氏らしばき隊のメンバー数人が関与した事件は、2014年12月の深夜、大阪市の北新地で起きた。メンバーの中には、当時、カウンター運動の旗手としてマスコミが賞賛していた李信恵氏も含まれていた。暴力事件の背景には、組織内の金銭をめぐるもめごとがあったようだ。

ワインバー(酒場)に入ったA氏らは電話で、当時、大学院の博士課程に在籍していたM君を呼び出した。M君が店に入ると、興奮した李信恵氏がM君の胸倉を掴み威嚇した。一旦は、仲間が割って入ったが、その後、A氏がM君を店外へ連れ出し、およそ40分にわたって殴る蹴るを暴行を加え、瀕死の重傷を負わせたのである。

リンチ直後の被害者М君

これら一連の経緯については、大阪高裁は、判決の中で次のような事実認定を行っている。

「被控訴人(注:李氏)は、Mが本件店舗に到着した際、最初にその胸倉を掴み、AとMが本件店舗の外に出た後、聞こえてきた物音から喧嘩になっている可能性を認識しながら、飲酒を続け、本件店舗に戻ってきたMがAからの暴行を受けて相当程度負傷していることを確認した後、「殺されるなら入ったらいいんちゃう。」と述べただけで、警察への通報や医者への連絡等をしないまま、最後は負傷しているMを放置して立ち去ったことが認められる。

 この間、BやCはAに対し暴力を振るわないよう求める発言をしているが、被控訴人が暴力を否定するような発言をしたことは一度もなく、被控訴人は遅くともMが本件店舗内に戻った時点では、MがAから暴行を受けた事実を認識していながら、殺されなければよいという態度を示しただけで、本件店舗外に出てAの暴行を制止し、又は他人に依頼して制止させようとすることもなく、本件店舗内で飲食を続けていた。このような被控訴人の言動は、当時、被控訴人がAによる暴行を容認していたことを推認させるものであるということができる。(略)(控訴審判決、7P)」

この事件について、森氏と鹿砦社を訴えたA氏の代理人・神原元弁護士は「街角の小さな喧嘩にすぎない」と訴状に記しているが、事実とは著しく異なる。そのことは事件後のM君の顔写真で確認できる。また、M君が録音していた暴行の際の罵声(CD有)からも凄まじい暴力の実態が推測できる。

第一、「街角の小さな喧嘩」であれば、簡易裁判所が40万円の罰金を課すはずがない。また、M君がA氏らに対して起こした民事裁判でも、約110万円の支払命令が下されている。

確かにこの事件をマスコミが報じることはなかったが、それをもって、「街角の小さな喧嘩にすぎない」とは言えない。報道されなかった背景には、カウンター運動に参加している著名人や記者クラブによる組織的な隠蔽工作があったのである。『ヘイト・スピーチとは何か』(岩波新書)の著者で、弁護士の師岡康子弁護士も隠蔽工作に関与した一人である。知人に充てて、事件の隠蔽を依頼するメールを送付している。

筆者の推測になるが、隠蔽工作の背景に国会で、ヘイトスピーチ解消法が成立直前になっていた事情があった。A氏が主導した暴行事件は、どうしてももみ消す必用があったのだ。そこで事件を「無かったこと」にしたのである。

◆しばき隊が関与した暴力事件で、M君は人生の軌道を狂わされた

さて、A氏の暴行を受けたM君は、その後、どのような軌跡をたどったのだろうか。ノンフィクション作家で精神科医の野田正影氏が行った精神鑑定書は、「外傷事件から6年が過ぎているが、被害者は典型的な『精神的外傷後ストレス障害』(PTSD=Post Traumatic Stress Disorder)の精神障害に苦しんでいる」。「本件例は、WHOの診断ガイドラインに基づいても、アメリカ精神医学会の『精神疾患の分類と診断の手引き』(DSM-5)に基づいても、疑う余地のない『精神的外傷ストレス障害』である」と結論付けている。

実際、M君は事件後、PTSDに悩まされて、博士論文を執筆できなくなった。事件の残像に苦しめられたのである。そのために内定していた大学での研究職も断念せざるを得なくなった。しばき隊が関与した暴力事件で、人生の軌道を狂わされたのである。その最大の責任が主犯のA氏にあることは論を待たない。

7月14日に言い渡しが予定されている判決で、東京地裁立川支部がどのような判断を示すかは不明だが、ジャーナリズムの記録性を重視するという観点からすれば、A氏の実名報道は何ら問題がない。過去に連合赤軍の永田洋子らが起こした集団リンチ事件で主犯格の実名が公表されているわけだから、この事件も例外ではない。M君も、ひとつ間違えば命を落としていた可能性もあるのだ。

◆神原弁護士は、M君の現在を想像したことはあるのか?

なお、この裁判の原告代理人は、神原元弁護士である。神原弁護士は、自由法曹団の常任幹事を務めている。自由法曹団といえば、健全な社会進歩に貢献する人権派弁護士の集まりのような印象があり、事実、素晴らしい仕事をしてきた弁護士も少なくない。

しかし、北新地でのしばき隊による事件のように、自由法曹団の常任幹事が、重大な集団暴力事件を起こした組織を全面的に擁護する姿勢には疑問を感じざるを得ない。どこか歯車が狂い始めているのではないか?「街角の小さな喧嘩にすぎない」と訴状に記すこと自体がM君に対する侮辱である。犯罪者にも人権はあるが、客観的な事実だけは曲げてはいけない。一体、神原弁護士は、M君の現在を想像したことはあるのだろうか?

判決後はしゃぐ加害者ら。右端が神原弁護士

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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