「小出裕章―樋口英明」対談を去る7月20日松本で両氏にお願いした。松本での対談は昼過ぎからはじまり、前半後半あわせると6時間近くに達した。

『季節』は脱・反原発を中心に据えた季刊である。対談の冒頭、小出さんは原発問題の重要性と同様に「戦争」について発言された。戦争についての認識はお二人の間に少し違いがある。そこが対談の妙味である。やや先ではあるが9月11日に発売される『季節』をぜひ手に取ってご覧いただきたい。

◆何が何でも仮想敵国を据えておきたい国

「反戦」と「反核」(あるいは「反原発」)を論じることが困難度を増している。日本が平和主義を謳った憲法を持つ国である実感は、意図的に限りなく希釈されている。

「敵地攻撃能力」、「集団的自衛権」、「秘密保護法」、「盗聴法」、「海外派兵」、「国旗国歌法」……。これらはいまから振り返ってこの20年ほどのあいだに生起した法律ならびに出来事だ。そして2023年8月、ロシアとウクライナの戦争ではロシアだけではなく、ついにウクライナも「クラスター爆弾」(ウクライナがクラスター爆弾を使うに至り新聞はその呼称を急に「集束爆弾」と言い換えている)を使用するに至っている。モスクワ近郊でも無人機による爆撃が相次ぎ、ここへきて国際社会の中にも「停戦」を進める声が高まってきた。


◎[参考動画]米国がウクライナへの「クラスター爆弾」供与の決定に各国から反対の声(TBS【news23】2023/07/11)

他方、日本は軍拡のためには何が何でも仮想敵国を据えておきたいようだ。最近の仮想敵国は中華人民共和国と朝鮮民主主義共和国そしてロシア。そうだ、韓国が尹錫悦政権(保守政権)に代わるまでは、韓国をも敵視していたことも忘れてはいけない。

中国と日本のあいだには「日中平和友好条約」が結ばれている。米国ニクソン政権の中国と国交回復を視野に入れて、日本は「中華民国」(台湾)との国交を断絶し、大陸の政権と手を結んだのだ。けれども、台湾と日本の関係は実態が変わったわけではなく、中国との国交樹立後も台湾、中国双方と懇意にしてきた。国際条約の上で「日本と台湾の間には国交がない」ことは日本の中で案外知られていないのではないだろうか。

かたや中国と台湾の交流は数値化するのが不可能なほど深く結びついている。先富論により経済が資本主義化した中国は、市場があれば世界中何処へでも物を売る。自動車の輸出台数はついに昨年世界一になった。その逆に食糧輸出国から輸入国になって久しい13億人の胃袋は、さらなるタンパク質と美食を求めて、世界中の食物原料確保先を日々捜し歩いている。

勿論言葉も通じるし小さいながらも技術大国、台湾との間には25年以上前から深い人的交流が交わされている。台湾の現政権は民主進歩党(民進党)で、民進党は台湾独立を指向しているが、国民党は前総統馬英九が中国政権と親しい関係を維持している。

わたしの素朴な疑問なのだが、このような中国と台湾の間で「戦争」を起こしたいと当事者が望むだろうか。相互に多大な投資をして、人的にも結び付きが深い中国と台湾が、のっぴきならない状態になるだろうか。もちろん将来の出来事などは予測できない。けれども、もしそのような危機を望む集団がいるとすれば、それは覇権に関しての争いではなく、「軍事産業」の利益に関わることではないだろうか。


◎[参考動画]【総火演】陸自最大「富士総合火力演習」“進化する戦い方”も公開(日テレNEWS 2023/05/27)


◎[参考動画]宮古陸自施設で射撃訓練公開 抗議する住民の姿も(沖縄テレビ 2023/7/10)

◆敗戦の日に考える「平和主義」

2023年敗戦記念日のきょう、日本では憲法で謳われた「平和主義」が、相当に弱っている。逆に根拠なき「好戦論」、「軍事拡張論」、「日本は素晴らしいナルシズム論調」はかつてなく、恥知らずに胸を張っている。戦後に生れた世代のわたしが「次なる戦争」を肌身に感じる居心地の悪さは、既に日本人の頭の中が1930年代初頭同様に洗脳されていると感じるからだ。

当時の情報統制に比べれて洗脳の度合いは情報機器(スマートフォン)の進歩・拡散により、さらに静かに深く進んでいまいか。インターネットにしても決して自由な言論空間だとは思えない。他方マスメディアは、相も変わらず体制の提灯持ちだ。国民が騙される(すでに騙されている)土壌はかつてよりも汚泥のように厄介だ。

平和を指向する意思が弱っている。好戦論が元気だ。なぜだろう。漫然とした虚構が徐々にあまねく言論空間を侵食しているから、このような幻想・妄想がまかり通るのだ。

虚構を振りまく連中の姿が見えるだろうか。奴らは「反戦」や「平和」に、後ろ足で砂をひっかかけて、日銭(といっても驚くほど高額な)を稼いでいる。凝視しよう。見定めよう。敵の本性や氏名を明らかにしよう。そして嘘をつかない、裏切らないひとびとの姿を確認しよう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年9月号

田所敏夫『大暗黒時代の大学 消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY007)

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

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「ゆっさゆっさ」時代は揺れている。昨年よりも、一昨年よりも、もちろん10年前より40年前よりも気味悪く、不吉な方向にむかって。げんなりする。黙したくなる誘惑が襲う。

Long time ago 44年前
原子爆弾が落ちてきて
何十万人もの人が
死んでいったのさ

Long time ago 44年前
8月6日の朝 8時15分
何の罪も無い人が
殺されちまったのさ


◎[参考動画]LONG TIME AGO【THE TIMERS】Hiroshima 1989

Timers でZERRYこと忌野清志郎が「原子爆弾ブルース」を歌ってから34年、清志郎が逝ってから14年、広島原爆から78年目。

わたしの祖父は九州の生まれで、造船を学んだ後、造船技術者の職に就いた。複数の造船会社で働いたようだが、三菱造船に籍を置いたこともある。そういえば三菱のことを「ダイヤモンド」と呼んだ人たちがいた。美しさ幸せの象徴として名付けられたわけではないではない、ダイヤモンド。

彼は所用で出かけた東京で今から数えること100年前、1923年9月1日11時、予期せぬ大震災の最中に身を置く。酒が入らなければ多弁ではない彼が、関東大震災に驚嘆した体験は何度か自ら語りはじめ聞かせてくれた。

「ゆっさゆっさ、と揺れるんじゃのう。5分以上じゃったんじゃないかのう。長い揺れじゃった。長い。旅館の二階におった。ゆっさゆっさ揺れるんじゃのう。気持ち悪うてな」

そうか、大地震は「ゆっさゆっさ」揺れるものなのか。そう了解していたけれども、「ゆっさゆっさ」は彼の個性的な語彙選択による描写であった。大地震は「ゆっさ、ゆっさ」どころか「ドカーン」や「ゴー」であることを後年わたしは、阪神大震災と東日本大震災で二回、体験する。でも再び暗渠に時代が落ちてゆく今日を表す擬態語としてこそ「ゆっさゆっさ」がふさわしい気がする。

彼が九州大学の工学部で造船を学びだした時代、日本の国家的「ゆっさゆっさ」はすでに口火を切っていた。朝鮮半島を併合して中国大陸へも武力侵攻を続け、やがて太平洋戦争の破滅へと突っ込んでゆく前段階。「大正デモクラシー」との評価もあるけれども、外に向けてに日本は侵略と強奪の階段を上り始めたのではなく、すでに二階へあゆみを向ける「踊り場」にいたのだ。

大学で造船を勉強し当然造船業の技術者の職に就いた彼に、時代はどのように映ったのだろうか。彼にはマルキシズムやアナーキズムの風を受けた形跡はまったくないから、わたしが問えば過去の話はしてくれたのだと思う。そういえば退職後、テレビの国会中継を見ていて「今は、共産党しかまともなことは言えんね。もうほかの政党はダメじゃね」と頷き独り言のように話しかけられてちょっと驚いた記憶がある。まだ消費税が導入される前、社会党もあった時代だ。思考が混濁していたわけでもないのに、彼はどうして急に1980年代中盤に「今は、共産党しかまともなことは言えんね。もうほかの政党はダメじゃね」と発語したのだろう。

「天皇よりは長生きしたい」

あれはわたしの聞き違えだったのか。天皇ヒロヒトと同年に生まれた彼は、苦労はしただろうが社会的には明らかに成功者の範疇に入る。かといって軍国主義でも回顧の癖もなかった。まさか「虹をかけたい」などと思ったわけではあるまいに、「天皇(ヒロヒト)より長生きしたい」の真意はなにか。

Long time ago 44年前
人間の歴史で 初めてのことさ
この日本の国に
原子爆弾が落ちたのさ

知ってるだろ?
美少女も美男子も たった一発
顔は焼けただれ 髪の毛ぬけ
血を吐きながら
死んでいくのさ Oh


◎[参考動画]昭和天皇「原爆投下はやむをえないことと、私は思ってます。」

1945年8月6日、彼は広島市内にいた。市内中心近くにあった家にいたのか、造船所に近い別の場所に住居を求めていたのかはわからない。彼だけでなく息子数人はさらに爆心地近くに下宿していた。

Long time ago 44年前
原子爆弾が 落ちてきたことを
この国のお偉い人は
一体どう考えているんだろう?

Long time ago 44年経った今
原子爆弾と 同じようなものが
おんなじこの国に
つぎつぎと出来ている

8月6日や8月15日、それをはさむ戦中戦後についての記憶を彼から聞いたことはない。彼の記憶の中で歴史はどのように整理されていたのだろう。なにより、どこから「天皇よりは長生きしたい」思いが立ち上がったのだろうか。

ダイヤモンドが虹をかけたいと空を見上げるだろうか。そんなことはないだろう。

原爆はダイヤモンドめがけて落とされたとの解釈も象徴的に不可能ではないだろう。そしてダイヤモンドは「国防費2倍」の岸田政権独断決定に、表情を変えずに時代を超えて、歓喜しているに違いない。

「ゆっさゆっさ揺れる」関東大震災の話をしてくれたとき、彼に聞いておくべきだった。ダイヤモンドを始末しえたのか、そうではないのか、ひょっとして虹をかけたかったのか、あれは錯覚だったのか。


◎[参考動画]アニメ映画『はだしのゲン』(1983年/原作・脚本・製作者:中沢啓治/監督:真崎守/設定:丸山正雄)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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樋口英明元裁判官は鹿砦社が発刊する脱・反原発季刊誌『季節』にもたびたびご登場頂いている。このたび女川原発差し止め訴訟仙台地裁判決について樋口元裁判官からメッセージを頂いた。共同通信発で加盟社に配信された原稿は大幅に論旨が削られているとのことで、デジタル鹿砦社通信向けに寄せて頂いた、特別のメッセージである。(田所敏夫)

樋口英明さん

◆5月24日仙台地裁判決について 樋口英明

仙台地裁は、5月24日、東北電力女川原発2号機の再稼働差止めを求めた住民らの請求を退けました。今回の訴訟で原告の住民らは、早期の判決を求めるために、放射性物質が外部に漏れる事故が起きる具体的な危険性を主張せず、「原発事故が起きた場合の避難計画に不備があるから原発の再稼働は認められない」と訴えました。それに対して、仙台地裁は「事故の危険性は抽象的なものにすぎない。事故発生の具体的な危険性の主張立証がない以上、避難計画の不備だけでは差止めは認められない」としました。

2021年3月の水戸地裁判決が「事故発生の具体的危険性が認められないとしても、避難計画が不備であれば運転の差止めが認められる」としたのとは真逆の判断です。

仙台地裁の裁判官は原発の本質が分かっていません。原発の問題は決して難しい問題ではありません。次の二つのことさえ理解してもらえればよいだけです。一つ目は、原発は事故の時も自然災害に遭った時も運転を止めるだけでは収束せず人が管理し、電気と水で原子炉を冷やし続けなければ必ず事故になるということです。二つ目は人が管理できなくなった場合の事故の被害は極めて甚大だということです。現に福島第一原発事故では停電しただけで、「東日本壊滅」の危機に陥りました。

水戸地裁はこのような原発の本質を理解していたから避難計画の不備だけで原発の運転を差し止めたのです。地震大国日本で、避難計画が整備されていない原発を稼働させるということは、何千人もの乗客を乗せたタイタニック号が充分な救命ボートを用意せずに氷山の浮かぶ大海原に乗り出していくようなものです。いつどこで氷山にぶつかるかはわからないとしても、救命ボートは乗客の人数に応じて充分な数を備えるのは当然のことです。救命ボートが不足していることは出港を許さない十分な理由になるのです。

仙台地裁の判決は避難計画の不備は問題にしないとするもので、上の例によれば、救命ボートが一隻もなくてもタイタニック号の出航を認めるということになります。仙台地裁の判決は、「これが福島原発事故後の判決か」と我が耳を疑うあまりにも無責任な判決と言わざるを得ません。

樋口英明さん

◆原発廃絶のために静かに闘う樋口元裁判官

樋口元裁判官は原発に極めて強い危機意識を持ち、講演で全国を行脚し、原発運転差し止め訴訟などにアドバイザーとして関わっている。3月15日には参議院議員会館で国会議員にも向けた講演が実施された。樋口元裁判官は言う。

「原発問題は簡単なことなんですよ」

60分で原発問題の導入から、最先端までを語り尽くす樋口元裁判官の解説は、中立かつ司法の判断者としての経験を踏まえたものであるだけに、極めて訴求力が強いと感じる。

樋口元裁判官は単なる語り部ではなく「聞く側」がどうすれば理解しやすいかも模索されている。本公演は通常スピードで視聴しても決して長くは感じないが、見る人のためには「1.5倍速で再生してください。それが見る人にとっては快適です」とコメントを頂いた。細やかな心配りはなにより「脱原発を実現しなければ将来はない」との危機感に依拠しているのではないかと感じる。是非ご覧いただきたい。


◎[参考動画]院内集会 映画『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』上映後の元福井地裁 裁判長 樋口英明氏 講演(2023年3月15日)

▼樋口英明(ひぐち・ひであき)
元裁判官。1952年三重県生まれ。京都大学法学部卒。2014年、大飯原発3、4号機の運転差止判決、翌年、高浜原発3、4号機再稼働差止の仮処分決定を出した。2017年8月退官。主著に『私が原発を止めた理由』(旬報社、2021年)。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

6月12日発売開始‼ 〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年夏号
NO NUKES voice改題 通巻36号 紙の爆弾 2023年7月増刊

《グラビア》原発建設を止め続けてきた山口県・上関の41年(写真=木原省治
      大阪から高浜原発まで歩く13日間230Kmリレーデモ(写真=須藤光男

野田正彰(精神病理学者)
《コラム》原子炉との深夜の対話

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》核のゴミを過疎地に押し付ける心の貧しさ

樋口英明(元福井地裁裁判長)
《報告》司法の危機 南海トラフ地震181ガル問題の重要性
《インタビュー》最高裁がやっていることは「憲法違反」だ 元裁判官樋口氏の静かな怒り

菅 直人(元内閣総理大臣)
《アピール》GX法に断固反対を表明した菅直人元首相の反対討論全文

鮫島 浩(ジャーナリスト)
《講演》マイノリティたちの多数派をつくる
 原発事故の被害者たちが孤立しないために

コリン・コバヤシ(ジャーナリスト)
《講演》福島12年後 ── 原発大回帰に抗して【前編】
 アトミック・マフィアと原子力ムラ

下本節子(「ビキニ被ばく訴訟」原告団長)
《報告》魚は調べたけれど、自分は調べられなかった
 一九五四年の「ビキニ水爆被ばく」を私たちが提訴した理由

木原省治(上関原発反対運動)
《報告》唯一の「新設」計画地、上関原発建設反対運動の41年

伊藤延由(飯舘村「いいたてふぁーむ」元管理人)
《報告》飯舘村のセシウム汚染を測り続けて
 300年の歳月を要する復興とは?

山崎隆敏(元越前市議)
《報告》原発GX法と福井の原発
 稲田朋美議員らを当選させた原発立地県の責任

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山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
《報告》原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点

原田弘三(翻訳者)
《報告》「気候危機」論についての一考察

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家)
《対談》戦後日本の大衆心理【後編】

細谷修平(美術・メディア研究者)
《映画評》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈3〉
 わすれてはならない技術者とその思想 ──『Winny』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
《報告》今、僕らが思案していること

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
《報告》亡国三題噺
 ~近頃“邪班(ジャパン)”に逸(はや)るもの
  三重水素、原発企業犯罪、それから人工痴能~

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
《報告》山田悦子の語る世界〈20〉
 グローバリズムとインターナショナリズムの考察

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の全力推進・再稼働に怒る全国の行動!
福島、茨城、東京、浜岡、志賀、関西、九州、全国各地から

《福島》古川好子(原発事故避難者)
福島県富岡町広報紙、福島第一廃炉情報誌、共に現地の危険性が過小に伝えられ……
事故の検証と今後の日本の方向を望んでいるのは被害者で避難者です!
《東電汚染水》佐内 朱(たんぽぽ舎ボランティア)
電力需給予備率見通し3.0%は間違い! 経産省と東電は石油火力電力7.6%分を隠している! 
汚染水の海洋放出すべきでない!
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
運動も常に情報を受信してすぐに発信することが大事
4月5日定例の日本原電本店行動のできごと
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
中電が越えなければならない「適合性審査」と「行政指導」
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」事務局)
団結小屋からメッセージ付き風船を10年余飛ばし続けて
《高浜原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「関電本店~高浜原発230kmリレーデモ」に延べ900人、
「関電よ 老朽原発うごかすな!高浜全国集会」に320人が結集
《川内原発》鳥原良子(川内原発建設反対連絡協議会)
「川内原発1・2号機の九電による特別点検を検証した分科会」まるで九州電力が書いた報告書のよう
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
原発延命策を強硬する山中原子力規制委員会委員長・片山規制庁長官
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『3・11 大津波の対策を邪魔した男たち』(島崎邦彦・青志社)

反原発川柳(乱鬼龍選)

龍一郎揮毫

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本通信ですでにお伝えした通り「LGBT平等法」が国会で審議されている。国政政党の中に明確な「反対」は見当たらず、自民党から共産党までがこの法案に関しては「推進勢力」である。時あたかも「広島G7」。「G7の中でLGBT法がないのは日本だけ」との言説も聞かれるが、果たして「グローバルスタンダード」(?)はこの国のひとびとを幸せにするのだろうか。

ある筋から「中核派がLGBT法に反対しているよ」と教えてもらった。マスコミでは「過激派」と称される中核派であるが、中核派が「LGBT平等法」に反対する理由はどのようなものだろうか。中核派であることを隠すことなく杉並区会議員として2期目の再選を果たしたばかりの洞口朋子さんに電話でお話を伺った。後編の〈2〉を公開する。

 

洞口朋子=杉並区議会議員

洞口 たしかに性的マイノリティーをどう考えるかについては、私たち中核派の中でも、かなり討論し学習を重ねているのが正直なところです。その中で杉並区議会に「性の多様性条例」が出されましたので、私たち中核派の見解を2、3月の議会で出しました。

田所 わたしは共産党にもこの件で質問をしました。「バイセクシュアル」の人はいまのでデメリットを被っているでしょうか」と質問したところ、共産党のお答えは「バイセクシュアルについては考えたことがない」でした。LGBTとの言葉で括られていますが「多様性」とは文字どおり「多様」なのだからLGBTに収まらない人もいます。今の社会通念からすれば逸脱する人もいるが、仮に法律を作ればそのような指向の人をどう考えるのか、との議論が欠如していませんか。

洞口 表面的な「改善」や啓発活動をすれば差別がなくなるかのような、幻想を描いている。国政政党で言えば与党から野党まで皆さんが推進している。分裂がありながらも国として進めていく。広島でのG7を控えて「LGBTの制度がないのは日本だけだ」と言っていますが、私たちがまったく評価しないG7に向けて進んでゆこうとしている。しかも野党の人たちが進んで行っている疑問はもちろんあります。

女性や性的マイノリティーに対する絶えざる差別・抑圧を産み出す今の社会を表層的に変えれば良くなるとのものの見方は、甘いのではないかと思います。根本的な部分を変えないと。根本的な部分により絶えざる差別・抑圧が生み出される、と私は考えていますので政治的であれ経済的であれ社会的であれ、根本を問題にしないと、社会の構造として性的な差別・抑圧を産み出している根拠を経つことは出来ないのではないかと思います。

その立場から国が進めている、また杉並区や自治体が進めている「性の多様性」には反対です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

洞口氏からは「LGBT法案」の問題点だけでなく、杉並区政の現状についての見解や、社会全般についてのも意見を伺ったが、今回の議論からやや論旨が離れるのでその部分は割愛させていただだいていることをお伝えする。一見左派、リベラル層が賛成で保守層が反対しているかの様相を呈している「LGBT平等法」についての議論は、洞口氏(中核派)が見解を明示したように必ずしもそのような構図ではない。そもそも性自認と身体的性差、あるいは性指向と性趣向の区別すら冷静に考えず、若しくは知らずなんとなく「LGBT平等法」は論じられているのではないか。日本共産党と洞口氏へのインタビューを通じてそのことを感じた。

かたわらで原発推進法であるGX法が成立し、近く「少子化対策のために」社会保険料が増額されるらしい。国民総背番号制であるマイナンバーカードに健康保険と免許証の記録まで統合するという無茶を通すために、国民を2万円(マイナポイント)で釣って国民情報・資産の完全管理を進めているが、早くも住民票や健康保険で過誤が発生している。「武器ではないから」といいながら自衛隊の車両をウクライナに提供し、NATOの事務所を日本に設置する計画もあるという。これらどれをとってもわたしには「LGBT法案」より重大な課題に感じられる。けれどもことの軽重が完全に逆転しこの国の「総論」は迷走している。(了)

【付記】本通信5月20日掲載の《中核派現役区議会議員、洞口朋子氏に聞く「LGBT法案」の問題点〈1〉「性の多様性」の名の下に、これまで女性が勝ち取ってきたものが解体されようとしているのではないか(聞き手=田所敏夫)》の洞口氏の発言で、

「『性自認』よりも身体的な性差を上位に置いてしまうと」、との記載は、

「身体的な性差よりも性自認を上位に置いてしまうと」が正しい見解であると洞口氏から掲載後に訂正要請を受けました。本原稿で洞口氏の真意を伝えるとともに、20日掲載原稿の当該部分を訂正いたします。

◎中核派現役区議会議員、洞口朋子氏に聞く「LGBT法案」の問題点
〈1〉「性の多様性」の名の下に、これまで女性が勝ち取ってきたものが解体されようとしているのではないか
〈2〉絶えざる差別・抑圧を産み出す今の社会を表層的に変えれば良くなるとのものの見方は、甘いのではないか

◎洞口朋子(ほらぐち ともこ) 1988年宮城県生まれ。法政大学経済学部除籍。革命的共産主義者同盟全国委員会(中核派)幹部。都政を革新する会(旧:杉並革新連盟)メンバー。2019年より杉並区議会議員(2期目)。公式HP https://horaguchitomoko.jp/

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

本通信ですでにお伝えした通り「LGBT平等法」が国会で審議されている。国政政党の中に明確な「反対」は見当たらず、自民党から共産党までがこの法案に関しては「推進勢力」である。時あたかも「広島G7」。「G7の中でLGBT法がないのは日本だけ」との言説も聞かれるが、果たして「グローバルスタンダード」(?)はこの国のひとびとを幸せにするのだろうか。

ある筋から「中核派がLGBT法に反対しているよ」と教えてもらった。マスコミでは「過激派」と称される中核派であるが、中核派が「LGBT平等法」に反対する理由はどのようなものだろうか。中核派であることを隠すことなく杉並区会議員として2期目の再選を果たしたばかりの洞口朋子さんに電話でお話を伺った。

 

洞口朋子=杉並区議会議員

◆なぜ「LGBT法案」に反対なのか?

田所 杉並区議会議員に2期目の当選をされた洞口さんにお伺いいたします。今の国会に「LGBT平等法」を成立させようとの動きが、野党、与党双方からあります。洞口さんは「LGBT法案」に反対の立場を明らかにされたと伺いました。その理由を教えて頂けますか。

洞口 杉並区議会においても今年の春の議会でひとつの焦点になりました。杉並区ではこの4月から「杉並区性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例」通称「性の多様性条例」が施行されました。それには私の所属する「都政を革新する会」、「中核派」も反対です。

この条例の問題点は様々ありますが、「多様性」との表現はいかようにも取れる、ということです。多くの女性が訴えていることでもありますが、女性が歴史的に勝ち取ってきた部分と衝突しうる。今の社会の中で厳然として存在している「女性差別」の問題を度外視している。性的少数者の方たちの権利を私たちはもちろん守らなければいけない、という立場ですが、それと「女性の権利」、「女性の安全」が衝突してしまうという問題が大きいと思います。歴史的に見ても「男女雇用機会均等法」や「労働者派遣法」とセットで「男女平等」をうたいながら女性労働者を安価な労働現場に送っている。

また「男女平等」や「多様性」は一貫していまの政府にとって都合の良いものとして使われてきたと思います。女性が勝ち取ってきた「保護規定」などが女性が家庭から引っ張り出されることにより、労働者全体の雇用が破壊され、結局女性に「賃金労働」と「家内労働」の両方が押し付けられる。この構造とまったく同じです。

「LGBT法」は女性差別を固定化してゆくものにしかならないし、性的マイノリティーのみなさんが生きやすい社会を作ることになるとは思えない。「女性差別を無視してはいけない」という立場です。

田所 性的マイノリティーの問題を無視するわけではないけれども、それ以前に「女性差別」が度外視される問題の立て方はおかしいのではないか、とお考えであるということでしょうか。

洞口 そうですね。一言で言えば資本主義社会において、「多様性」や「男女平等」は欺瞞である、と。

田所 ちょっと、洞口さんそのお話は次にお伺いしますので。ごめんなさい。

洞口 はい、ごめんなさい。

◆杉並区の「性の多様性条例」は女性差別や女性被害の歴史を踏まえていない

田所 先ほどお伺いした杉並区の通称「性の多様性条例」に「多様性」の名でこれまで女性が勝ち取ってきた様々な権利が無視されている、これが反対をなさる根拠の一つでしょうか。

洞口 はい、そうです。

田所 私は「LGBT」法案について日本共産党にお尋ねしましたが、お答えは曖昧でした。「LGBT」との言葉は耳にしますが、「性の多様性」というときに固定的な概念で括れる人たちばかりではないのではないか、と疑問を持ちます。日本においては性の問題と「家制度」、「家父長制」は不可分であると感じますが、いかがでしょうか。

洞口 私もまったく同じ問題意識があります。杉並区議会でも「パートナーシップ制度」の創設を求める陳情が出されました。「事実婚を認めるべきだ」、「同性婚を認めるべきだ」との内容です。これは私も大賛成、重要だと思います。

「性の多様性条例」と「パートナーシップ制度」がかなり混乱して語られていることに問題があると思います。「パートナーシップ制度」と「多様性条例」が同じであるかのように「洞口は反対した!」と結構、雑な言われ方をします。

「性の多様性」条例の核心的は問題は、私有財産制度や今の社会の政治、経済的な基盤である「家族制度」で、女性が産む性であるがゆえに「子産み道具」や「家内奴隷」という言い方もされますが抑圧されている、実際に社会の中で性暴力や差別を受けているのが99%以上女性だとの歴史と現実をまったく踏まえていない。「性の多様性条例」を作れば問題が解決するかのように、ある意味幻想を煽っている。女性差別や女性被害の歴史を踏まえていないことが問題だと考えています。

田所 実態と乖離しているといことでしょうか。

洞口 そうですね。それどころか差別が固定化されてしまう、と考えています。

◆LGBTすべての人たちが「性自認至上主義」を望んでいるかと言えば必ずしもそうではない

田所 「マイノリティー」という言葉は日本でも定着しているように感じます。少数者に対する懐の深い考え方である一方、「マイノリティー」を名乗れば「保護の対象とされてしかるべきだ」と議論を飛ばして結果に行き着く傾向がありはしないかと感じます。

洞口 性的マイノリティー当事者の声を聞くことがあります。身体的な性差よりも性自認を上位に置いてしまうと、結局犯罪に繋がる。それをしてしまうとLGBTと言われますが、様々あるわけです。LGBTすべての人たちが「性自認至上主義」を望んでいるかと言えば必ずしもそうではない。いまの社会の抑圧構造、この社会の現実について声を上げるべき相手を見誤るような動き、本来であれば性的マイノリティーの人たちも、女性も「家制度」や「家族イデオロギー」にそぐわないということで、ともに声を上げていく人たちが対立させられている状況があると思います。

「性の多様性条例」も誰が差別者、非差別者と認定するのか。条例全体で曖昧なので非常に危機感を持っています。実際女性スペースに身体男性が「心は女性なんだ」と、いまオールジェンダーレストイレとかありますが、女性が勝ち取ってきたものが解体されようとしているのではないかとの危惧があります。(つづく)

◎中核派現役区議会議員、洞口朋子氏に聞く「LGBT法案」の問題点
〈1〉「性の多様性」の名の下に、これまで女性が勝ち取ってきたものが解体されようとしているのではないか
〈2〉絶えざる差別・抑圧を産み出す今の社会を表層的に変えれば良くなるとのものの見方は、甘いのではないか

◎洞口朋子(ほらぐち ともこ) 1988年宮城県生まれ。法政大学経済学部除籍。革命的共産主義者同盟全国委員会(中核派)幹部。都政を革新する会(旧:杉並革新連盟)メンバー。2019年より杉並区議会議員(2期目)。公式HP https://horaguchitomoko.jp/

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

◆ABC部数は数字自体に「押し紙」が含まれている

田所 ではABC部数はどうなのでしょう。ABC部数は新聞社が自己申告するのですよね。

 

黒薮哲哉さん

黒薮 ABC部数にも「押し紙」が含まれています。ABC部数が減っていることを捉えて「新聞が衰退している」と論じる人が多いのですが、正確ではありません。ABC部数は数字自体に「押し紙」が含まれているからです。「押し紙」を整理しなければABC部数は減りません。正しくは実売部数が減少しているかどうかで、「新聞が衰退している」かどうかを判断する必要があります。このような観点からすると、新聞社の経営は相当悪化しています。

田所 新聞は自分ではそのようなことを書きませんね。

◆販売店は奴隷のような扱いを受けている

黒薮 本当に販売店は奴隷のような扱いを受けています。たとえば販売主さんが、新聞社の担当社員の個人口座にお金を振り込まされたケースもあります。この事実については、店主さんの預金通帳の記録で確認しました。

田所 個人口座へですか。

黒薮 新聞社の口座に振り込むのであればいいけども、その店を担当している担当社員の個人口座に振り込んでいます。平成30年だけで少なくとも300万円ほど振り込まされています。それくらい無茶苦茶なことをされています。

田所 売り上げの全額ではないですね。一部を「私に寄こせ」と。

黒薮 証拠があるからその新聞社の広報部に資料を出して、内部調査するように言っているのですが、調査結果については現時点では何も言ってきていません。足元の問題には絶対に触れません。

◆新聞社の体質を変えなければ、今題は解決しない

 

田所敏夫さん

田所 逮捕されたら未決の人でも追っかけて報道するくせに、自分たちが取材されると逃げ回って答えない。不思議なことですが、私も同様の苦い経験があります。

黒薮 新聞社の人は、会社員としての意識しかないようです。それでは何のために記者になったのか意味がないと思います。後悔すると思いますよ。大問題があるのに黙ってしまったことに。記者を辞めて年を取ってから後悔すると思います。

田所 でも、後悔する人はまだ救われるでしょう。途中でそんなことたぶん考えなくなるのではないですか。メディア研究者の中にも「頑張っている記者を応援しましょう、ダメな記事には批判のメールや抗議をしましょう」という人は結構います。私にはそのような行為が有益だとは思えません。優秀な記者を応援して、ダメな記事を批判しても、新聞社の体質が変わるわけではないでしょう。「押し紙」を含め新聞社の体質を変えなければ、今題は解決しないと思います。

◆紙の新聞が無くなったから、自動的にネットのメディアが良くなるという訳ではない

田所 「新聞社の中ではそういう声は社内に広まるのです」という記者がいるのです。「新聞社は外部からの声にデリケートだ」という記者の人がいますが、私は嘘だと思っています。そんなことで良くなるのであれば、もっとましな新聞社になっているでしょう。経営構造の問題と「腰抜け」というか、そもそもジャーナリズムの意味が解っていない人、ジャーナリズムの仕事をしてはいけない見識・知識・問題解析能力・社会的態度を持ち合わせない人がたくさんその仕事に就いてしまっている。あるいは最初は志があっても挫けてしまう。これが合わさると日本の新聞には未来はない、ということですか。

黒薮 新聞に未来はないでしょうね。紙面内容もよくないし、「紙」という媒体も時代遅れです。これに対してインターネットは、賢明な人が使えば、使い方によっては強いメディアになるでしょう。

田所 ポイントは使い方ですね。情報量は膨大ですが使い方を知らないと、自分の趣味趣向のところに偏って、テレビのチャンネル位しか選択の幅がなくなってしまう性格もあります。問題意識と関心があれば発掘できるとても便利なものですが、意思がないと全く活かしきれない。たとえば動画投稿サイトなどは、一見自由に見えますが実はかなり細かい規制があったりする。決して自由な言語空間ではない。

黒薮 紙の新聞が無くなったから、自動的にネットのメディアが良くなるという訳ではない。そこもコントロールされて行きますからどうするかを考える必要があると思います。模範的な例としてはやはり、ウィキリークスがある。ああいうものが出てくると困るから設立者のジュリアン・アサンジンさんが逮捕され、懲役175年の刑を受ける可能性が浮上しているのでしょう。

◆2002年度の毎日新聞の「押し紙」は36%

田所 『週刊金曜日』の元発行人北村肇さんにかつてお話を伺いました。望ましいジャーナリズムの形は組織ジャーリストと中間規模のジャーナリズムとフリーランスが一緒になって、それぞれができることが違うのでチームを組めばよい成果を上げられるのではないかと指摘されました。ミニマムですが滋賀医大問題で元朝日新聞の出河雅彦さん、毎日放送、元読売新聞記者でのちにフリーライタに転身され昨年亡くなった山口正紀さん、そして黒薮さんに『名医の追放』(緑風出版)を書いていただき、私も少し加わりました。計画したわけではないですが自然の成り行きで、取材や取り組みができた例ではないかと思います。そのもっとダイナミックなことがインターネット上で実現できれば面白い展開ができる可能性がありますね。

黒薮 北村さんがその話をされたのは初めて聞きました。北村さんといえば毎日新聞の内部資料「朝刊 発証数の推移」を外部に流した方です。もう亡くなっているから言いますが、この資料を外部へ持ち出したのは間違いなく北村さんです。新聞の発証数(販売店が発行した新聞購読料の領収書の数)と新聞のABC部数を照合すると「押し紙」の割合が判明します。それによると2002年度の毎日新聞の「押し紙」は、36%でした。(【試算】毎日新聞、1日に144万部の「押し紙」を回収、「朝刊 発証数の推移」(2002年のデータ)に基づく試算 | MEDIA KOKUSYO)

田所 あの人だったらやると思います。

黒薮 毎日新聞の内部資料が外部へ流れたのは、北村さんがちょうど社長室にいらした時ですから、間違いなく北村さんでしょう。

田所 これは全然名誉毀損ではないですね。ジャーナリストとして北村さんへの尊敬の念ですね。

黒薮 その通りです。流出のルートもわかっています。最初は、さっきお話した滋賀県の沢田治さんに流しました。沢田さんから私のところに来て『Flash』や『My News Japan』などが記事にしてくれました。北村さんは自分の考えをそういう形で実践した人です。

田所 短い時間でもこちらが望む以上の答えをいつも頂けたのが北村さんでした。でも、あのように貴重な方から亡くなっていって。

黒薮 残念です。数少ない誠実な人です。(つづく)

◎遠慮・忖度一切なし!《本音の対談》黒薮哲哉×田所敏夫
〈01〉「スラップ訴訟」としての横浜副流煙事件裁判
〈02〉横浜副流煙事件裁判のその後 
〈03〉禁煙ファシズムの危険性 ── 喫煙者が減少したことで肺がん罹患者は減ったのか? 
〈04〉問題すり替えに過ぎない“SDGs”の欺瞞
〈05〉「押し紙」は新聞にとって致命的
〈06〉日本のタブー「押し紙」問題の本質を探る
〈07〉「押し紙」驚愕の実態 新聞社不正収入35年で30兆円以上
〈08〉新聞社社員個人への振り込みを強要されえた販売店主

▼黒薮哲哉(くろやぶ てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

4月25日発売!黒薮哲哉『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

田所敏夫『大暗黒時代の大学 消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY007)

近年、不思議な国際社会が牽引して日本でも「LGBT」なる言葉が流布している。それに関する立法も急速に進んでいるようだ。弱者の権利擁護はよいだろう。だが、それは戦争に向けた軍事費倍増や原発延命・新設のように明日にでも命にかかわる問題であろうか。あるいは文化や歴史に照らして無理はないものか。

この問題についての最先頭と思われる日本共産党に素直な質問を投げかけた。回答してくださった方は誠実ではあったが、こちらが腰を抜かすほど問題の本質に対して鈍感(あるいは無知)であった。以下、前編に引き続き、わたしと「日本共産党ジェンダー平等委員会」の方とのやり取りの後編である。

◆「B(バイセクシャル)のことは考えたことがない」!

田所 一番象徴的な疑問は、バイセクシャルの方がヘテロと比べてデメリットを被るということが私は論理的に理解できないのです。

共産党 バイセクシャルまでなんで認めなくてはいけないのか?

田所 いえ。認めなくてはいけないのではなく、いいんですよ。でもバイセクシャルの方々がヘテロの人と比べてどういうデメリットを受けていて法律で守られなければいけないのかがわからない。

共産党 法律で守るというより今当事者の皆さんが求めているのは、自分たちの性的指向もね、要は異性愛の人たちと存在としては対等なわけですよね。

田所 対等というより、対等以上に異性愛と同性両方できるわけでしょこれ彼ら彼女ならは。

共産党 そうですね。

田所 だから優越してるんじゃないかと思うんですけど。

共産党 まあ、その具体的ないろんな場面で、例えば学校の中でね非常に異性愛だけが恋愛のあり方なんだ、みたいなことを言われたときに、まあバイセクシャルということは同性を愛する時もあるわけですから……。

田所 ですからその人たちはそれで非常に自由なわけでしょ。同性愛の人が肩身の狭い思いをするのはよく理解できます。でもバイセクシャルの人は異性愛もできるし同性愛もできる。ならば異性愛が基本となって法律で認められる社会において異性愛者より何かデメリットを被るでしょうか。

共産党 まあね。純粋にね。ちょっと私も当事者の方にもっと話を聞いてみなければいけない、と思うんですけれども。

田所 私も若干は自分でお尋ねしたり調べているのですが、皆さんバイセクシャルの問題になると歯切れが悪いんです。私はレズビアン、ゲイとバイセクシャルの方を並列して「性的マイノリティ」という形でくくるのは間違ってるんじゃないかと思うんです。だから、教えていただいてるセクシャリティの専門の方でも、私がバイセクシャルのことをお尋ねするとちょっと歯切れが悪くなるのではないかと思うんです。

共産党 あんまりバイセクシャルだけを取り出して考えたことは、言われてみればなかったと気づきます。

田所 明らかに違うでしょ。だってバイセクシャルの方は今の性的概念とか法的概念の中で生きることもできるし、それプラスアルファ違う感覚も持っている。同性愛の人たちは今の法的概念の中からは、逸脱とまでは言わないけれども法律的には包含されないところにいる。立場が全然違う。

共産党 まあね、なぜLGBTというふうになってきたのかがね。もうちょっとよく調べなければいけないのかもしれませませんね。

田所 私はちょっと不自然だなと思います。

共産党 そういうご意見はすいません、初めて伺いました。

田所 ああ、そうですか。初めてですか。はあ。性の平等や自由を実現していただくのは私は大いに結構だと思うのですが、そこでちょっと問題の混在がないかなということは懸念しますね。

共産党 バイセクシャルの方がどういう悩みを持っているか……?

[画像左]東京レインボープライドでは、しばき隊界隈文化人・香山リカ氏と共産党・池内さおり氏がツーショット! [画像右]東京レインボープライドにTOKYO NO HATEのフロートで参加する池内さおり氏

◆多様性に例外があるのか?

田所 いや、バイセクシャルと同性愛者を並列に並べるのであれば、たとえば先ほど対象にならないよとおっしゃった一対多の関係というケース。男性であれ女性であれですよ。それが不承認によって行われている場合、不承認というのはその単一の人とその対象の多数の人の間での関係性、あるいはパートナーとの関係性が不承認、あるいは納得がいかない関係性であれば自由の範囲を逸脱する関係だということは言えると思うんです。けれども、仮にそれが関係者全員の承認のもとに行われているのであれば、それは多様性の中に入りませんか。

共産党 そういう議論もできますよね。

田所 議論ができるという話ではなく、今の社会観念からはたぶん褒められたことではありませんけれども、そういう人たちはもうずいぶん前からいるわけです。

共産党 そうですね。

田所 閉じられた世界でサークルを作ったりしている人たち。社会的に見ればちょっとへんてこな人ですけれども実際いるわけです。バイセクシャルの人たちは救済の対象と言うとおかしいですけれども、法的保護の範疇に入って、1対多数とういう指向を持っている人たちは「性的指向の自由」の範囲には入れてもらえないという線の明確な引き方が果たしてできるのかどうか。

共産党 バイセクシャルという場合、私のこれまでのイメージは、ずっとそれまで異性と付き合ったこともあるし結婚したこともあるし、だけどふと気づいたら女性を愛したいということで、女性と再婚する方っていらっしゃいますよね。

田所 結婚は社会制度の話であって、性についての指向、感覚は内面的な部分も多分あるのでやや異なるのではないでしょうか。例えば中学生とか高校生の時に恋愛感情とは違うけれども、同性の先輩に憧れると。恋愛というところまで行かないけれども憧憬の念を抱くことは別段珍しいことではない。中には性的な感覚に近い人もいるかも分からないですよね。男女の結婚生活を送ることに直結しないレベルで言ったら、多くの人は両性具有のメンタリティーを抱えてるかもわからないですよね。けどそれは一生懸命法律で何とかしなければいけないような問題なんでしょうか。

◆LGBTは分かりやすい略称なのか?

共産党 LGBTというのが性的マイノリティの分かりやすい略称としてね、使われているのでLGBT平等法とか……。

田所 私には分かりやすくないですね。私には混乱をきたす略称です。

共産党 えええ。まあ歴史的な経過でそうなってきたというのもあるんだけど。

田所 でも今私にお答えいただいている方もバイセクシャルについては、私がお尋ねすると「そこまで考えたことはなかった」とおっしゃっていただきましたでしょ。

共産党 それだけを取り出して、Lはこうだ、Bはこうだみたいに分けて考えたことはなかったです。大きくは性自認と性的指向ということで。LGBとT。LGBはひとまとまりっというか。そんな自覚でいましたので。

田所 そんなに明確なものかどうなのか、と思いますね。明確というかそんな簡単に既成の分け方があるからそれで分けられるというものなのか。どうしてこれを尋ねしたかというと最近共産党の街に掲げてあるポスターに頻繁にその文字が書かれてるんですね。

共産党 共産党は日本国憲法を全面的に実現する世の中を目指しているんですよね。その中にある両性の平等、個人の尊厳これを考えたときに、性的少数者の皆さんが声をあげて運動していらっしゃる、その声はきちっと受け止められる政治にしてゆく必要があると思って、10年くらい前ですかね、共産党はこの問題を掲げ始めているんですけど。運動によって私たちが気付かされて、私たちが取り組まなきゃいけないということで掲げているんです。

◆共産党がどうして「資本主義の矛盾」より「性の問題」を重視するのか?

 

ANTIFAのTシャツを着用する共産党・池内さおり氏と吉良よし子氏

田所 私は性の問題が課題ではないと言っているのではないです。共産党はもともと社会主義とか共産主義の社会作ろうというところから出発されたと思うんですけど、現在その問題はますます可視的に拡大してるんではないかと思うんですね。階級格差です。はっきり言えば、金持ちと貧乏人の差が私たちの毎日の生活の中では拡大してるのではないかと思います。それを資本主義の方法で果たして解決できるかということが1つは世界的な問題ではないかと思うのです。確かに性の問題も重要ですけれども、他の政党で資本主義の根本矛盾を問題視している政党は残念ながらないですね。

共産党 そ、そうですね。

田所 資本主義の根本的な矛盾、搾取の構造というようなことを考えてる政党が残念ながらないわけで、だから共産党こそがですね100年ぐらい歴史があるんでしたっけ。

共産党 ちょうど今年で100年です。 

田所 100年ですか、100年前に比べても今もっと資本主義の悪弊と末期症状は進行しているのではないかと私は思うのですけれども。

共産党 そういうのは共産党掲げ続けていますし、それとジェンダー平等を掲げることはね矛盾するどころか……。

田所 そうです。私は性的な問題を取り上げるなと言っているのではありません。丁寧に教えていただいたので考えていらっしゃることないは分かりました。けれどもせっかくお時間いただいてお相手いただきましたので性の問題に取り組まれるのも結構ですが、今こんな時代で他の野党も頼りないところばかりです。出発点に帰ってしっかり傾注していただくほうが応援しやすいですね。ご丁寧に対応いただきましてありがとうございます。

共産党 私もBのことはもう少し自分で勉強して、そういう疑問に答えられるように。

※        ※        ※        ※

日本共産党が革命を指向する政党だとは思わないけれども、政党名からはそれが良いか悪いかは別にしても、社会主義、共産主義をイメージさせられる。その日本共産党が、どうして格差、階級が拡大し転落の一途が明らかである今日の日本社会で、ここまで熱心に性の問題に力を入れるのか、共産党の方のお話をうかがっても、依然としてわたしには理解ができない。社会制度としての婚姻などに不合理・差別があれば制度を変更し、同性婚は認めればよいとわたしは考える。しかし、婚姻(社会制度)と性指向は似ているようであって、本質的には区別すべきテーマではないか。性指向は内面の問題であり、極めてでデリケートであるがゆえに、簡便な分類などは困難ではないか。

「人に迷惑」をかけなければどんな性指向だって、当事者が納得すればいいだろう。けれどもそのような内面にかかわることに、法律を持ち出すべきであろうか。

繰返すが、制度的差別に苦しむひとがいるのであれば、制度が救済すべきだ。しかし、内面に関する法律や規則は、可能な限り少ないに越したことはない、とわたしは考える。

その理由?不思議なことにLGBT平等法は共産党だけではなく、他の野党もこぞって賛成であり、さらには、与党自民党、公明党までもが意欲を見せている不可思議な様相に、不健全な意図を感じるからである。

この議論、わたしの視点に偏りはあるであろうか。

◎日本共産党ジェンダー平等委員会に直撃電話一問一答 LGBT平等法は大丈夫か?
〈前編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46514
〈後編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46519

▼田所敏夫(たどころ としお)
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ロシアのウクライナ侵攻により発生した長期にわたる戦争を視野に入れながら、たった12年前に現実であった、東日本壊滅の危機を忘却しそうな日本国。いま最優先に目を向けるべき課題は何なのか。日々の報道は情報の垂れ流しに過ぎず、議会制民主主義の中には「現状へ異議あり」の選択肢は見当たらない。

近年、不思議な国際社会が牽引して日本でも「LGBT」なる言葉が流布している。それに関する立法も急速に進んでいるようだ。弱者の権利擁護はよいだろう。だが、それは戦争に向けた軍事費倍増や原発延命・新設のように明日にでも命にかかわる問題であろうか。あるいは文化や歴史に照らして無理はないものか。

この問題についての最先頭と思われる日本共産党に素直な質問を投げかけた。回答してくださった方は誠実ではあったが、こちらが腰を抜かすほど問題の本質に対して鈍感(あるいは無知)であった。以下わたしと「日本共産党ジェンダー平等委員会」の方とのやり取りである。

大学院生リンチ事件加害者人脈にしてColabo熱烈賛同者で共産党支持者の自称フェミニスト・北原みのり

◆LGBTありきの議論への疑問

田所 ジェンダー平等委員会の方に教えていただきたいのですが、共産党が最近重要テーマに掲げていらっしゃるLGBTについて教えていただきたく電話を差し上げました。

共産党 はい。

田所 今LGBT法の制定を目指していらっしゃるということですね。

共産党 LGBT平等法ですね。

田所 LGBTという概念はあらゆるセクシャリティーを認めるということでしょうか。

共産党 性自認とか性指向によって差別されない。

田所 あらゆる性指向によって差別されない。そこなんですが、性的指向というのは、とてもデリケートな問題ではないかと思うんですね。人に告げるようなこともありますが、人に言えないような事柄もあるのではないかと思います。それを含めてすべての性的指向の自由を保証すると。

共産党 性的指向は趣味で選ぶもんじゃない、ということなんですよね。

田所 性的指向は趣味、勝手で選ぶものではない?

共産党 「しこう」というのがたぶん違っているんではないでしょうか。指という字に向かうという字を書くんです。今マジョリティーは異性愛が前提で、世の中が動いていますよね。

田所 はい。

共産党 カップルは男と女だと。だけども中には同性に対して性愛を感じる人たちもいますし、両性に対する場合もありますし。あるいはどこにも向かわないという方々もいると。特に今、性的指向で問題になっているのは同性愛の皆さんです。

同性愛がおかしい、異常だとみなされてばかにされたり差別されたりということが続いてきたわけですよ。そういうのを差別しないで欲しいと。そういう性的指向もあるんだと認めてほしいという声が上がってきて、また制度という点では日本の結婚・婚姻制度が異性婚しか認めていないと。それは憲法に違反するんじゃないか。

個人の尊厳を侵害するということで、裁判が戦われてます。だから性的指向は個人の尊厳の問題としてきちんと尊重する。そういう社会にしてゆこうと目指して今LBGT平等法を進めているのです。

田所 だから異性婚しか認められていない世の中で、同性婚を含めて認めて、というようなことが一番の大きな問題と理解したらいいんですか。

共産党 現実問題として一番差し迫った所ではそうだと思います。

◆「戸籍制度」を残したままの「家族形態の多様化」?

田所 同性婚を認めさせるとことを私も理解できるんですね。同性婚を認めている国はいっぱいあることも知っているのでわかるのですが、それは家族形態の問題にも関わってくることではないでしょうか。

例えば男同士が結婚しても子供が作れませんよね。女性同士でもそうです。子供が欲しい場合はいわゆる養子というかどこかからお子さんをもらってくるという形をとるわけですよね。生物学的に残念ながら男と男、女と女で子供はできないわけですから。

共産党 はい。

田所 同性婚で子供を持った家族形態を求めるのであればそういう方法しかないですよね。少し話はそれますがヘテロのカップルの中でも妊娠ができないとかしにくい方々が「代理母」と言って他の女性に結合卵子を預けて出産をするということもあります。

多分ご存知だと思うんですけれども。性的指向を実現するとそこから家族形態が多様化していくということも、現に同性婚を認めている国では、発展的と捉えればそうですし新たな課題と捉えればそうなのかもしれないんですけれども、たくさん報告はあることはご存知だと思います。そこまで考えると、日本の場合もちろん婚姻制度もそうなんですが「戸籍制度」の方がむしろ大きな弊害で個人を縛っていないかなとも思うのですが共産党の方はどうお考えでしょうか。

共産党 戸籍制度については、そういう見地から将来的に検討がなされる必要があるんじゃないかという見解を、党としては持っているんですけれども……。

田所 「戸籍制度」はまだ将来的な課題? これまで戸籍制度が焦点化されて問題とされたことはなかったですか。

共産党 戸籍制度ですか? まあ選択的夫婦別姓制などが議論されている中では……。

田所 いえいえ「戸籍制度」というのは中国と韓国と日本にしか世界中でない制度です。いわゆる封建的な家制度を守るための制度ということではないのでしょうか。昔の共産党の中で議論になったことはないのでしょうか。

共産党 封建制を支える制度?

田所 日本の封建制度や家制度を支える一つの法的根拠として、律令制と同様に導入されたのが戸籍制度であるという分析があります。共産党的な考え方でなくても、社会学、歴史学の中でも議論がありますが、戸籍制度の問題についてはあまり問題を感じていらっしゃらないということでしょうか。

共産党 共産党がジェンダー平等を掲げたことで、日本の法律に残るジェンダー不平等、家制度の名残を無くしてゆこうという大きな方向性は掲げていますのでね。そういうものの一つに戸籍制度も含まれてくるだろうと。

田所 戸籍制度については将来的に考えられるということですね?

共産党 今すぐ戸籍制度を無くしましょうということを掲げているとかそういう状態ではないということです。

◆「一夫一妻婚」を基本とした「多様な性の指向」?

田所 私が感覚的にわからないので論理的にお尋ねできるかどうかわからないのですけれども、「多様な性の指向」を認めるということですね。

共産党 認めるというより、それは現にあるものですからね。

田所 そこの線引きが私は難しいのではないかと個人的に思っているのです。「多様な性の指向」というのは文字通り多様であって、LGBTというところで示されるものは説明可能でわかる範囲の性指向なんですけれども、性指向の感覚は頭の中と体感の問題ですから、可能性はとても広いと思います。私たちが想像してあまり口にしたくないような指向を持っていらっしゃる方も現にいるのを私は知ってるんですけど、そのような指向も含めて全てを許容するということでしょうか。

共産党 例えば私も質問を受けたことがあるのは、一度に複数の人に恋愛を感じると、それも認めるのか。あるいは小児性愛のようなもの含まれるのかと聞かれたことがありますが、この二つに関してはそれを認めると、それによって著しく人権を侵害したり、尊厳を冒されることが起きてしまうので、いくら「個人の性愛は色々ある」としても、それまで含めて全部認めなければいけないという話ではないですよと。

田所 小児性愛は合意の上ではないですからね。合意の上でないのでなければ明らかに排除しなきゃいけなければいけない。犯罪かもしれません。

共産党 犯罪ですよ。何があろうとこれまでも性的指向の名の下に受け入れよう、などということは絶対に受け入れられない。複数のもね、それは男性一人に対して奥さん2人、3人とか言った場合に女性の側が、不倫というんですか、そういうことで苦しむ人が出てくる話なんで。

田所 だから男の人が浮気をするというイメージのことですかね。

共産党 そうですね。逆でもいいですけど。とりあえず私たちが目指しているのは「一夫一婦婚」というのですかね、そういう制度の中での話です。

田所 そこなんですよ。一夫多妻制はよく聞きますね。でも一妻多夫制も世界にあるわけです。少なくはなりましたが特にアジアにはあるんですね。それは「多様性」の中からは排除しなければいけない概念ですか。

共産党 多様性の中から排除する? だからねー、うーんと。

田所 一夫多妻制の封建性は広く西洋社会でもありますし日本でもあったことです。その封建性が排除されるべきだとお考えなのはわかるのですが、母系家族とか一妻多夫制という社会も世界にはある。それはどう考えお考えでしょうか。

共産党 まあそれは、私は何というかな、日本共産党がこうあるべきだと言える話ではないと思いますのでね。そういう価値判断というのか、歴史の中でね、そこは変わったり発展したりということはあり得るはなしなので。そこまで価値判断をいま、するっていうことはしないですね。懸念されているのはそういう話ですか? (つづく)

暴言の限りを尽くす共産党熱烈支持者にしてゲイのしばき隊員・平野太一(その1)

暴言の限りを尽くす共産党熱烈支持者にしてゲイのしばき隊員・平野太一(その2)

共産党大会で挨拶し同党機関紙「赤旗」に掲載された平野太一。同じ人物の発言か!?

◎日本共産党ジェンダー平等委員会に直撃電話一問一答 LGBT平等法は大丈夫か?
〈前編〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46514
〈後編〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46519

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年6月号

◆「原発をとめた裁判長」からの逆質問

過日、福井地裁裁判官時代に高浜原発3、4号機運転差し止めの判決を下した、樋口英明さんにインタビューしている中で、突然逆質問を受けた。

「憲法と法律の違いが分かりますか?」

樋口さんの質問に対してわたしは、「憲法は最高法規であって、国家権力を縛るもの。法律は憲法に従って行政や、国民にかかわる決まりを定めたもの……でしょうか」と歯切れ悪く答えた。

この問いは、法学部出身者にとって、至極容易な問答かもしれないが、法律を勉強したことのないわたしは、恥ずかしながら瞬時に即答できなかった。そんなわたしに、樋口さんは優しく教えて下さった。

「憲法は国が守らなければいけないことを定めたもので、法律は国民が守らなければならないことを定めたものです」

なるほど。端的にご説明頂ければ、その性質を知らないわけではなかった。いや、10年だか20年だか前には、わたしも「憲法は国が守らなければいけないことを定めたもので、法律は国民が守らなければならないことを定めたものです」と一言一句同じではなくとも、同様の回答ができたと思う。なぜ2023年の春、わたしはかつて自明であった「憲法と法律の違い」との基礎的な問いに窮したのか。自己弁護のようだけれども、その理由はわたしの個人的な劣化だけに求められはしないように思う。

◆忘れ去られた憲法順守義務

日本国憲法はまったく文言を変えることなく、泰然としてか肩身を狭い思いをしてかはわからないけれども、われわれの前に依然として鎮座している。

だが注意して観察すると、日本国憲法の鎮座しているさま(様子)は、かつてに比べて如何にも不安げで、落ち着きがなさそうだ。その理由は公務員や国会議員には憲法順守義務(憲法96条)が以下のように明確に記されている、にもかかわらず、現状は「改憲ありき」の議論に日本国憲法が取り巻かれているからではないだろうか。

「第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」

「国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」はどこに行った? 国会では堂々と改憲論議が推し進められているじゃないか。長年統一教会に支えられてきた自民党は言うに及ばず、創価学会の政治部隊、自称「平和の党」こと公明党、はやく「私たちは自民党と同じです」と本心を開示すればすっきりする、国民民主党や維新。中には少しまともそうな人がいるかもしれないけども、泉をはじめとして大方ダメな、立憲民主党。これらの政党はいずれも改憲審議を進めているじゃないか。

反原発からスタートしたはずなのにいつのまにか「積極財政推進」が政策の中心になってしまい、あろうことか古谷経衡にまでくっついた山本太郎氏がつくった政党(この党名は、反動的過ぎるのでわたしは断固として口にしたり書かない)。かつては社会党として自民党に対して一定の監視、抵抗の意義があったが、気が付いたら福島瑞穂氏以外ほとんどが立憲民主党に引っ越ししてしまった社民党。新自由主義という名の資本主義の暴走に直面しているのに、資本主義への正面から抵抗ではなく、なぜか「ジェンダーフリー」に熱心な日本共産党。どこにも現状に対する本質的な、批判、反論が見出せる国政政党はなく、「われこそは本当の保守」と、どうでもいい「保守争い」に、呆れ関心を失うのは主権の放棄だろうか。

戦前から変わらず、大マスコミはニュース、情報番組、ワイドショーで情報源になどなりようのない、コメンテーターだの御用学者、若手、古手の右翼芸人を次から次へと登場させる。

こんな環境に生れてきたら、体制迎合しか知らない若者が溢れても仕方ないだろうし、若者から現状変革の意思を感じ取るのは、至難の業だ。

◆憲法が規定する「本来の姿」

実体的に「憲法が国を縛るもの」ではなくなって久しい今日、ならば、本来の姿を再確認することから始めなければならないのかもしれない。30年前なら「馬鹿馬鹿しい」と一蹴されたであろうけれども21世紀に入る直前から自民党政治が重ねてきた諸政策、なかんずくどう考えても違憲である「自衛隊の海外派兵」をはじめとする軍事大国化を日々目にしていると、本来の「憲法」像がかすんでしまう。だから憲法が規定する「本来の姿」の再確認は無駄な作業ではない、といえまいか。

PKOに名かりたイラク派兵には名古屋高裁が違憲判決を下した。そのことが人々の記憶の中に生きているだろうか。武器輸出の解禁から集団的自衛権の容認、果ては「敵基地攻撃」という実質上の「先制攻撃」までを閣議決定してしまう今の政治は「憲法」によって最低限の監視の目を向けられているであろうか。視点を変えれば為政者は「憲法」の存在をしかるべく認識、あるいは感知しているだろうか。

わたしは、現在の政府やほとんどの野党、そして行政も「憲法」によって拘束されている、あるいは拘束されなければならない法理をほとんど忘れているか無視しているとしか思えない。

つまり、成文法としての日本国憲法は、依然われわれの前に鎮座しているけれども、シロアリに食い荒らされた美しい木造建築のように、実態は「無憲法状態化」しているのが、今日ではないだろうか。憲法が本来の機能を発揮できなければ、下位の法律も健全ではありえない。もちろん国(政府、司法、行政)も好き勝手し放題。これが今日の現実だと冷厳に凝視しよう。

違憲ではなく、「無憲法」状態の中でわれわれは短くない期間過ごしている。この認識をこそ身に刻んで、もう一度日本国憲法を前文から第百三条まで通読して頂いてはいかがだろうか。きょうは憲法記念日だ。殺伐とした現実と日本国憲法の間には、恐るべき乖離がある。それを気付くことに光明があるのかもしれない。


◎[参考動画]「日本国憲法」全文《CV:古谷徹》

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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『季節』2023年春号(NO NUKES voice改題)福島第一原発事故 12年後の想い

「よって原発の運転は許されない」……(龍一郎揮毫)

◆「押し紙」による不正収入は年間932億円規模

田所 実態として日本には5大紙を含め地方紙もたくさんありますが、ほとんどの新聞社が「押し紙」を続けているのですか。

黒薮 今ももちろん続いています。「押し紙」の収入は想像以上に巨額です。私がシュミレーションした数字があります。今問題になっている統一教会による被害額が、全国霊感商法対策弁護士連絡会によると35年間で1237億円です。一方で「押し紙」による収入がどれくらいかの規模になるのか想像できますか?。

 

黒薮哲哉さん

わたしは、2021年度日本新聞協会による統計を使って試算したことがあります。朝刊だけを対象にした試算です。それによると朝刊の総発行部数は、2590万部です。このうちの20%が「押し紙」だとします。20%は過少な数字なのですが、誇張を避けるために20%で計算しました。そうすると「押し紙」の部数は、全国で1日に518万部です。新聞一部の卸値はだいたい定価の半額です。朝刊の月間購読料は約3000円ほどですから、一部あたりの卸値を1500円で計算すると、月間で77億7千万円となります。これを12倍つまり1年で計算すると約932億円です。これが「押し紙」による不正な収入の額です。先ほどの統一教会による被害額は、35年で1237億円と説明しましたが、「押し紙」による不正収入は、たった1年で932億円です。これを35年ベースになおすと、32兆6200億円になります。これだけの不正なお金が「押し紙」から発生しているのです。

統一教会の事件は、大問題になっていますが、不正な収入の金額という点でいえば、新聞業界のほうがはるかに悪質なことをしているわけです。こうした事実は、ちゃんと暴露すべきなのです。

田所 統一教会は信者の数が新聞購読者ほどたくさんいるわけではないので、一人当たりの被害額が大きいからあたかも悪いと。実際悪いのですが、総額でみると新聞のほうが途方もない額を誤魔化している。

黒薮 「押し紙」を無くせば年間で932億円ほどの収入が、全国の新聞社からなくなってしまうわけです。この点に公権力が着目すれば、メディアコントロールが簡単にできます。新聞社に対して、あまり反政府的なことを書いていると「押し紙」問題にメスを入れますよ、とほのめかせばメディアコントロールが簡単に成立します。私は日本の新聞がおかしくなった最大の原因はここにあると考えています。

 

田所敏夫さん

◆「押し紙」とメディア・コントロール

田所 先ほど来ジャーナリズムの問題をいくつかの角度からお話してきましたが、そういったこととは全く別に、新聞の売り方が真っ当ではないから、新聞の報道内容まで真っ当ではなくなってきた、という事があり得ると。

黒薮 それが新聞がダメになった客観的な原因と構図だと思います。「新聞報道はおかしい」と感じている人はたくさんいて、新聞の再生のために何が必要かという議論を展開しますが、肝心なこの構図には着目してもらえません。

たとえば東京新聞の「望月衣塑子記者と歩む会」という集まりがあります。望月さんのような記者が次々に出てくればジャーナリズムが良くなる、という考え方でしょう。そのことを全て否定するわけではありませんが、記者個人ではなく、もっと客観的な新聞社経営の問題にジャーナリズムが堕落した原因を探るべきでしょう。ドブから蚊が発生すれば、まずドブを掃除する必要があるのと同じ原理です。「押し紙」による莫大な不正資金が新聞紙に流れ込んでいるようでは、徹底的な権力批判は不可能です。

田所 客観的かつ構造的な問題ですね。いくら内部で優秀な記者が頑張ったところで、詐欺的な商法で新聞社が儲けていれば「あなたは詐欺をしているでしょう」と検察から指弾された時、極端にいえば新聞は潰れてしまうという話ですね。

黒薮 これとまったく同じメディア・コントロールの手口が戦前・戦中にもありました。それは、政府による新聞用紙の配給制度です。新聞用紙をコントロールすることで新聞社に暗黙の力をかけて世論を誘導させました。同じ構造が今もあります。その道具として機能している政策が、「押し紙」の放置です。新聞社は「押し紙」で莫大な利益を得るので、この点に着目すれば効果的にメディアコントロールができるのです。

田所 テレビを見ると元新聞社の政治局長や通信社の論説委員が、極めて政府あるいは体制寄りのコメントをしていることが多く、ジャーナリズムの問題が新聞を弱めた原因ではないかと、考えがちですがもっと根深く構造的な、「新聞が詐欺的商法」から自ら根腐れを起こしてしまった。どの新聞も部数を減らし経営が厳しいし、販売店も一つの新聞だけではやっていけない。それでも「押し紙」問題に新聞社が気付くことはないのでしょうか。

黒薮 「押し紙」を無くしてしまうとその分の販売収入が減ってしまうので無理でしょう。「押し紙」収入を含めて年間の予算を組んでいますから。逆説的にいいえば、だからこそ「押し紙」問題がメディア・コントロールのネックになるわけです。

◆新聞社の利益構造の中に組み込まれている「押し紙」という麻薬

田所 例えは悪いですが過疎地で政府からの交付金や、原発立地で国から回ってくる特別交付金がないと行政が維持できないから、毎年の予算にそれを組み入れて行政を維持しているのと同じような、麻薬中毒患者のような新聞社の利益構造の中に「押し紙」が組み込まれている。でも麻薬患者は最後に麻薬への依存が強くなり体を壊します。今新聞は麻薬患者に例えるとどれくらいの状態でしょうか。

黒薮 もう意識がない(笑)感じじゃないですか。社名は出しませんが、何千万円もの借金を背負わされている店主は珍しくありません。

田所 販売店の店主さんがですか。それは「押し紙」を引き受けることにより新聞社に払うお金がないからですか。

黒薮 そうです。なぜ借金してしまうかといえば、新聞の卸代金を新聞社に納金できなければ、原則的に強制廃業させます。そこで店主さんは、どこかからお金をかき集めてとりあえず新聞社に支払います。その繰り返しで、莫大な額の借金を背負ってしまうのです。担当員のご機嫌を取るために、一部の新聞販売店は、キャバレーなどで接待しているようです。昔、官僚らの「ノーパンしゃぶしゃぶ」接待が問題になりましたが、新聞社の裏面はそのレベルなんですよ。

田所 こうした事情を新聞社は知っているのでしょうか。

黒薮 知らないはずがありません。ところが新聞社の言い分は「自分たちは、販売店から注文を受けた部数を提供しているだけで実売部数は把握していない」というものです。こうした嘘を平気で繰り返してきました。わたしは新聞社は一旦解体すべきだと思います。(つづく)

◎遠慮・忖度一切なし!《本音の対談》黒薮哲哉×田所敏夫
〈01〉「スラップ訴訟」としての横浜副流煙事件裁判
〈02〉横浜副流煙事件裁判のその後 
〈03〉禁煙ファシズムの危険性 ── 喫煙者が減少したことで肺がん罹患者は減ったのか? 
〈04〉問題すり替えに過ぎない“SDGs”の欺瞞
〈05〉「押し紙」は新聞にとって致命的
〈06〉日本のタブー「押し紙」問題の本質を探る
〈07〉「押し紙」驚愕の実態 新聞社不正収入35年で30兆円以上

▼黒薮哲哉(くろやぶ てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

4月25日発売!黒薮哲哉『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

田所敏夫『大暗黒時代の大学 消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY007)

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