本来なら〝復興五輪〟の開幕に合わせて7月にもオープンする計画だったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて五輪自体が1年延期。展示の準備も滞った事で開館が9月にずれ込んだ。〝復興五輪〟と連動し、指定管理者を「公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構」(斎藤保理事長、以下機構)に決め、初代館長に〝山下チルドレン〟の高村昇・長崎大学教授を選ぶ。感染症の問題が無ければ、復興大臣や県知事、双葉町長などが大々的にテープカットでもしただろう。ここまで揃えば、原発事故被害の実相を後世に伝えるような施設にする事など、むしろ無理だったのかもしれない。

展示内容の忖度ぶり、物足りなさもさることながら、現場で驚かされたのはスタッフたちの〝厳戒態勢〟だった。

「伝承館」では常にスタッフが〝監視〟をしている。語り部も観客も取材者も

結果的に筆者が取材したのは2日目だったが、オープン初日の取材も「感染拡大防止」を理由に福島県庁内の記者クラブに限定。県生涯学習課が窓口となり、事前に取材者を登録させた。筆者のようなフリーランスには当然、事前申し込みが必要である事など知らされない。「フリーランスの方もたくさんいて連絡の取りようが無い」と担当者は電話で釈明したが、最終的には「入館料(600円)を支払ってお客さんとして入っていただく分には大歓迎ですよ。もちろん、撮影に関しても記者クラブの皆さんと同じ扱いになります」という事で現場に向かった。ちなみに、事前に取材を申し込んだ記者クラブメディアは入館料を払わずに入館したという。

電話での県職員の説明では「一部、写真や動画の撮影を遠慮していただいているが、撮影可能のエリアもある。それは記者クラブの皆さんも同じ」という事だったので腕章を付けたカメラを手に入館したが、最初のプロローグシアターから2階の展示室に上がるスロープで写真撮影していると、遠くのスタッフが「撮影しないでください」と声がかかった。2階に上がったところで改めて「館内は全面的に撮影禁止なんです」とのこと。「取材であればどうぞ」という事で話はいったん終わったが、再び声をかけられた。「取材の方がいらっしゃるとは聞いていないとのことなので、ちょっとよろしいですか」。1階に向かうように言われ、展示スペースの外に出された。そこからが大変だった。

指定管理者の機構が24日、今後の取材は事前申請が必須との告知を急きょホームページに掲載した。禁止事項だらけで、福島県は何を守ろうとしているのか

館内には至るところに緑色の制服を着たスタッフが立っていて、入館者の様子を見ている。スタッフとは別に警備員もいる。順路とは別の階段で1階に下りると広報担当者が現れたが、他に4、5人のスタッフが筆者を取り囲んだ。まるで犯罪者か暴漢でも取り押さえようとしているかのよう。こちらは大声を出しているわけでも何でも無い。それを伝えると周囲のスタッフは我に返ったように下がり、広報担当者だけが残った。事情を説明し、改めて写真撮影も含めた取材を始めた。排除の姿勢を見せつけられたようだった。

一般来館者にはやはり、館内での写真撮影を全面的に禁じているという。スタッフが来館者に「現在、報道の方が写真を撮影しておりますが、皆さんは撮影禁止ですのでよろしくお願いします」と呼びかける念の入れよう。今やスマホで撮影してSNSに投稿する時代。福島県内外から多くの人に訪れて欲しいのならばSNSでの〝宣伝〟はむしろ歓迎するはずだが、担当者は「著作権の問題や個人情報の部分もあり撮影は御遠慮いただいています。どれを撮影しているか確認する事も出来ないですし…」と話した。将来の〝解禁〟には含みを持たせていたが、当面は全面撮影禁止という。

実は「伝承館」の展示内容を説明する事前の記者レクでは朝日新聞を中心に厳しい質問が飛び交っていた。高村館長も囲み取材で「伝承館の一番の主眼はですね、復興のプロセスというものを保存してそれを情報発信していく事」と語っていただけに、展示内容には期待出来ないとの声も少なくなかった。実際、展示物は思わず目を見張るものや息を呑んでしまうようなものは無く、原発事故から10年の苦痛や怒りは伝わって来ない。確かに、高村館長の言う「復興のプロセス」がきれいにまとめられている。それをSNSで広められてしまったら再び批判の的になってしまうと恐れたのだろうか。そう邪推してしまうほど、表面をさらっとなぞっただけ。国や東電のパンフレットを読んでいるような錯覚に陥るような内容なのだ。

福島県庁内にもポスターが何枚も貼られた。「伝承館」とは名ばかりで、実際には「復興PR館」だった

「この看板こそ、原発遺構として最も重要な遺構です」。双葉町の大沼勇治さんは原発PR看板の現物展示を望んでいたが叶わなかった(赤線は全て筆者)

建設にあたり、県は24万点もの資料を収集。その中から〝厳選した〟150点余が展示されている。確かに、原子炉建屋が爆発する映像や当時の東電テレビ会議の映像を観れば、あの頃の記憶はよみがえる。しかし、原発事故は「爆発しました、避難しました、除染しました、復興が進んでいます」で語れるほど簡単なものでは無いのだ。

「原発避難」だけで1つのフロアを埋め尽くす事が出来るだろう。なぜ福島県だけが「年20ミリシーベルト」まで基準値を上げられたのか、それによって裁判を起こした人々が南相馬にいる事も触れられていない。フレコンバッグの現物は展示されているが、除染で生じた汚染土壌の再利用問題は正面から取り上げない。溜まり続ける汚染水の海洋放出問題は?原発事故によって自ら死を選んだ人がいる事や生業を奪われた人がいる事は?そして何より、加害企業である東電が自ら立てた「3つの誓い」を反故にして、法廷で被害者たちに侮辱的な言葉を浴びせ続けている事は触れられていない。

原発事故がひとたび起きると被害は深く複雑で、10年ではとても解決出来ない事を次の世代に伝えなくてどうするのか。それよりも写真撮影を禁じる方が大事なのだろう。あらゆるところに、この施設の性格が表れている。

双葉町の大沼勇治さんが現物展示を望んだ原発PR看板「原子力 明るい未来の エネルギー」は結局、写真が展示された。現物が大きい事もその理由の1つだが、建物の前には広い芝生が広がっている。サビを防止する加工を施して屋外に展示する事も出来た。しかし、福島県は「加工する時間も費用もかかる」としてやらなかった。福島県が本当に「伝承」したいものは何なのか。推して知るべしと言えよう。(了)

◎【東日本大震災・原子力災害伝承館】
(上)館長選びの時点ですでにこうなる事は決まっていた 展示で伏せられた原発事故被害の実相
(下)館内撮影全面禁止、スタッフは〝厳戒態勢〟 事故被害の伝承よりも福島県が守りたいものとは

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

『NO NUKES voice』Vol.25

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2020年9月11日発行
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総力特集 ニューノーマル 脱原発はどうなるか
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[グラビア]〈コロナと原発〉大阪、福島、鹿児島

[報告]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
 二つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織

[インタビュー]水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
    コロナ収束まで原発を動かすな!

[座談会]天野恵一さん×鎌田 慧さん×横田朔子さん×吉野信次さん×柳田 真さん
    コロナ時代の大衆運動、反原発運動

[講演]井戸謙一さん(弁護士/「関電の原発マネー不正還流を告発する会」代理人)
    原発を巡るせめぎ合いの現段階

[講演]木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
    危険すぎる老朽原発

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
    反原発自治体議員・市民連盟関西ブロック第四回総会報告

[報告]片岡 健さん(ジャーナリスト)
    金品受領問題が浮き彫りにした関西電力と検察のただならぬ関係

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
「当たり前」が手に入らない福島県農民連

[報告]島 明美さん(個人被ばく線量計データ利用の検証と市民環境を考える協議会代表)
    当事者から見る「宮崎・早野論文」撤回の実相

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
   消える校舎と消せない記憶 浪江町立五校、解体前最後の見学会

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
    《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈9〉
    「原発事故被害者」とは誰のことか

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
    多量の放射性物質を拡散する再処理工場の許可
    それより核のゴミをどうするかの議論を開始せよ

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
    具体的なことと全体的なことの二つを

[報告]板坂 剛さん(作家/舞踊家)
    恐怖と不安は蜜の味

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
    山田悦子の語る世界〈9〉普遍性の刹那──原発問題とコロナ禍の関わり

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    マンハッタン計画と人為的二酸化炭素地球温暖化説

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
    コロナ下でも萎縮しない、コロナ対策もして活動する
《北海道》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《石川・北陸電力》多名賀哲也さん(命のネットワーク代表)
《福島・東電》郷田みほさん(市民立法「チェルノブイリ法日本版」をつくる郡山の会=しゃがの会)
《規制委・経産省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京》柳田 真さん(たんぽぽ舎、とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
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福島県双葉町に9月20日、オープンした「東日本大震災・原子力災害伝承館」(JR常磐線・双葉駅から徒歩約30分)は大方の予想通り、原発事故被害の実相を後世に語り継ぐような施設にはならなかった。県内在住の来館者からは「原発事故直後の記憶がよみがえった」との声があった一方、県外から訪れた人は「展示がきれいすぎるというか優等生すぎますね。原発事故が発生した当時のエグさをもっと出さないと伝わらない」と物足りなさを口にした。それもそのはず。初代館長を選ぶ段階で、既に施設の性格が決まっていたのだ。

「伝承館」の初代館長に就任したのは、アーカイブ施設とは全く無縁の高村昇・長崎大学教授。原発事故直後に山下俊一氏とともに福島入りし、県内を巡って〝放射線被曝の心配は無用講演会〟をした人物だ。

1993年長崎大学医学部を卒業。講師、助教授、准教授を経て、2008年度から長崎大学大学院・医歯薬学総合研究科の教授。2013年度からは長崎大学原爆後障害医療研究所の教授を務めている。原発事故直後の2011年3月19日、山下氏と福島県の「放射線健康リスク管理アドバイザー」に就任した。

初代館長に就任した高村昇氏。福島県の内堀雅雄知事を表敬訪問した際、取材陣に「復興」を何度も口にした

高村氏は山下俊一氏とともに原発事故直後に福島県入り。県内を講演して巡って「安全安心」を説いた

当時の講演では、「放射性セシウム137 が体に入った場合の半減期は30年では無い。子どもであれば2カ月、大人でも3カ月程度で半分になる」、「100ミリシーベルトを下回る場合、現在の科学ではガンや疾患のリスクの上昇が証明されていない。一方、煙草を吸う人のガンになるリスクは、1000mSvの放射線を被曝するのと同程度のリスクと考えられている」、「鼻血が止まらなくなったとか…そのような急性の症状が出現する被曝線量は500から1000mSv以上と言われている。福島の人がそのような線量を被曝しているとは考えられないので、放射線の影響ではないと思う」と、放射線被曝への不安を鎮静化させる事に終始した。甲状腺検査など原発事故による健康影響を調べる「県民健康調査」の検討委員も務めている。

高村館長は今年7月、福島県の内堀雅雄知事を表敬訪問した際の囲み取材で、筆者の質問に「私も最初、この依頼があった時はかなり驚きました。まさに今おっしゃったとおり、私はアーカイブの専門家ではありませんので、自分で良いのかなと確かに思いました」と答えた。日本原子力文化財団が発行する月刊誌「原子力文化」8月号でも「私自身は医療の専門家であり、いわゆるアーカイブス学の専門家ではなく、昨年福島県から伝承館の館長就任を打診されたときには大変驚きました」と綴っている。ではなぜ、このような人物を館長候補に選んだのか。

「伝承館」の指定管理者である「公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構」(斎藤保理事長、以下機構)は、福島県からの推薦を受けて高村氏に館長就任を依頼したと説明している。機構に推薦した側の福島県生涯学習課の担当者は今年4月、取材に対し、次のように説明した。

「3つあります。まず、人格的なものが1つあると思います。考え方に偏りが無い、人格的に温厚で高潔な方である。これが1つ目の理由です。もう1つは本県の復興、避難地域等の支援に関わってこられた方であるという事です。そして、伝承館の運営に必要な能力を持っている方であるという事。これらの3点が推薦理由です。検討過程で何人かの名前が候補に上がりましたが、最終的に高村先生が適任だろうという結論に至りました。高村先生には数カ月前に推薦の打診をし、『ご協力出来るのであれば』と快諾していただきました」

これでは、福島県立博物館長を務めた赤坂憲雄氏など、適任な専門家を押しのけて専門外の高村氏が選ばれた理由が分からない。しかし、高村氏自身の発言に答えがあった。キーワードは「復興」だ。

「伝承館」の基本理念には「福島県の光と影を伝え」とあるが、実際には「光」の部分に重きが置かれている

就任要請を受諾した理由について、囲み取材で筆者に「伝承館というのは原子力災害からの復興という事を主眼としていると聞きましたので、それであれば、この9年間福島で地域の復興に携わってきた者としてお手伝い出来る事があるんじゃないかと考えました」、「この伝承館の1つの主眼というのが、原子力災害からの復興に関する資料収集という目的がある。それを展示する。収集して展示して情報発信するという目的がある。原発事故直後の説明会から、地域の復興、県民健康調査もそうですが、そういった形で原子力災害からの復興に多少なりともかかわった人間としてですね、そういった側面から伝承館の館長としての役割を果たしていきたい」と話した。

月刊誌「原子力文化」でも「福島の復興に多少なりともかかわってきた者として、福島の復興の証をを次の世代に伝え、福島の経験を活かして国内外の人材を育成するという伝承館のミッションに共鳴」したと書いている。つまり、原発の〝安全神話〟はどのように醸成されてきたのか、原発事故をなぜ防げなかったのか、住民たちはどのような苦しみを味わったのか、事故後の施策は正しかったのかなど、原発事故がもたらした怒りや哀しみ、苦痛などを後世に語り継ぐ施設ではそもそも無いのだ。〝復興五輪〟開催に合わせて「原子力災害から立ち直った福島の姿」を国内外に発信する施設であるならば、発生直後から放射能汚染や被曝リスクを否定し続けて来た高村氏が館長に選ばれるのもうなずける。

内堀知事に対し、高村館長は「ぜひイノベーション・コースト構想の一翼を担って行きたい」、「学校教育と連携しながら、今後の福島を担っていくような若い世代に、福島がどのように復興して行ったかをきちんと学んでいただく。人材育成も重要なミッションだと考えております」と〝決意表明〟した。

「復興のあゆみ」を展示するのが主眼だから、原発事故の生々しさも被害の実相も伝わらない。これが53億円かけて建設した施設の本当の顔だった。(つづく)

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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    金品受領問題が浮き彫りにした関西電力と検察のただならぬ関係

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
「当たり前」が手に入らない福島県農民連

[報告]島 明美さん(個人被ばく線量計データ利用の検証と市民環境を考える協議会代表)
    当事者から見る「宮崎・早野論文」撤回の実相

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
   消える校舎と消せない記憶 浪江町立五校、解体前最後の見学会

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
    《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈9〉
    「原発事故被害者」とは誰のことか

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
    多量の放射性物質を拡散する再処理工場の許可
    それより核のゴミをどうするかの議論を開始せよ

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
    具体的なことと全体的なことの二つを

[報告]板坂 剛さん(作家/舞踊家)
    恐怖と不安は蜜の味

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
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「見通しが甘い気がする。みんな死んじゃうじゃないか。何のために裁判をやっているのか。もっとスピード感を持ってやってもらわないと裁判を起こした意味がなくなってしまう」

7月16日に福島地裁郡山支部で開かれた「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」の第30回口頭弁論。原発事故後、全域を帰還困難区域に指定された浪江町津島地区の約680人が原告団に加わり、2015年9月から国と東電を相手取った裁判を続けている。

郡山駅前で「ふるさとを返せ!」と書かれたプラカードを掲げる原告。原告たちは、放射性物質に汚染された故郷の原状回復を強く望んでいる

最近の裁判所は新型コロナウイルス感染拡大防止を理由に法廷で傍聴出来る人数を制限しており、法廷に入れない原告を対象に弁護団による学習会が別途開かれた。

席上、原告団に加わっている男性が弁護団に想いをぶつけた。静かな口調ではあったが、明らかにいらだっていた。言葉には怒りが込められていた。津島の人々が求める「原状回復」について、弁護団が「仮に最悪の事態を想定すると」という前提で「他の請求と比べるとハードルが高い」と説明した事がきっかけだった。

原子力発電所の爆発事故や放射性物質拡散による放射能汚染に関しては、当然の事だが津島地区の住民たちには落ち度は全く無い。100%被害者。原発事故前の状態に戻せと求める(原状回復)のは当然だ。

だからこそ、原告たちは慰謝料を求めるだけでなく、「津島地区全域について、本件原発事故由来の放射線量を2020年3月12日までに毎時0.23マイクロシーベルトに至るまで低下させよ」と求めた。実際には原発事故から10年目を迎えても係争中のため期限は変動するが、原告たちの「せめて、年間1ミリシーベルト(毎時0.23マイクロシーベルト)まで空間線量が下がるように除染をしてくれ」という願いは変わらない。学習会で「実際にはハードルが高い」と説明されて、原告の男性が怒りを口にしたのは無理も無い。

「津島訴訟」の原告には高齢者も多い。非の無い被害者が闘い続けなければいけない事も、原発事故被害の1つと言える

ではなぜ、原状回復を求める事は「ハードルが高い」のか。

弁護団は、①抽象的不作為請求、②場所的範囲の特定性、③実現不可能性──の3つの観点から次のように説明した。

「この訴訟では結果の目標だけを示していて、国や東電に具体的に何をしてもらいたいかを特定せずに請求しています。これを法律学的には『抽象的不作為請求』と言います。例えば民事訴訟で判決が言い渡され、借りたお金を返済するとか住まいを明け渡すとか被告が自分でやってくれれば良いのですが、実行してくれない場合には、判決を前提として今度は裁判所に『強制執行』をお願いしなければなりません」

国や東電は2016年4月15日付の答弁書の中で、ともに「除染は現実的に不可能な事を強いるものであるから原告の請求は認められない」として棄却するよう求めている。仮に原告の主張が認められたとしても、実際に除染を行うか否かは未知数。国や東電が判決に従わないのであれば、強制執行を求めるしか無い。しかし、被告側にやってもらいたい内容が具体的に特定されていないと、実際には裁判所はなかなか動いてくれないという。

「『空間線量を毎時0.23マイクロシーベルト以下に低下させる強制執行』を裁判所に求めた場合、じゃあ、どうやってやりますか?という部分が具体的に決まっていないと裁判所もやってくれません。強制執行が難しいとなると、じゃあ、そもそも訴訟で請求する意味があるのかという懸念が生じてしまい、裁判所が判決で認めない事もあり得ます。裁判になじむのか、という観点から難しい請求だという指摘があるのはそのためです」

実際、2017年10月10日に言い渡された「『生業を返せ、地域を返せ!』福島原発訴訟」の福島地裁判決(金澤秀樹裁判長)では、原状回復請求について「本件事故前の状態に戻してほしいとの原告らの切実な思いに基づく請求であって、心情的には理解できる」としながらも、「求める作為の内容が特定されていないものであって、不適法である」として棄却している。

生業訴訟の弁護団は当時、声明の中で「現在の裁判実務において、作為内容を具体的に特定しない作為請求が認められることは技術的に困難な部分があり、現在のわが国の司法判断の限界を示しているとも言える」と指摘した。

②の「場所的範囲の特定性」に関しては、今回の訴訟では「津島地区全域」としているので問題無い。あとは③の「実現可能性」だ。弁護団は次のように説明した。

「津島全域の空間線量を下げてくれ、というのは分かります。一方で、広大な範囲を毎時0.23マイクロシーベルト以下に下げる方法や、取り除いた汚染土壌を保管するやり方が一般的に確立されていないという指摘もあります。裁判所は『不可能は強いない』という考え方をしますから、それなら請求を認めても意味が無いのではないかという結論に至る可能性はあると思います。東電はそういう反論をしています」

原発事故以降、福島県内外で何年間も除染は行われてきた。既に方法論は確立しているのではないか。原告からは当然の質問が出た。これには弁護団も同じ考えだった。

「少なくとも環境省のガイドラインもあるし、ある程度、広範囲にわたる除染の事例もあるでしょうから、今さら『出来ない』という話にはならないはずです。方法論が確立されていないというのは裁判所が請求を認めない理由にはなり得ないと思います。ただ、最悪の事態を想定した時に、裁判所がそこをどう判断するか心配だという事です」

そんなに難しいのなら、なぜ請求に「原状回復」を加えたのか。

「これだけハードルが高いという話をすれば、そういう話になると思います。提訴を準備している段階で弁護士の間でも議論はありました。慰謝料請求だけに絞る方がいいのではないかという弁護士もいました。一方で『住民の皆さんの気持ちを考えると、原状回復請求も加えるべきだ』という意見もありました。議論を重ねた結果なのです。原告になろうと考えている方々が『ふるさとを返して欲しい』と強く口にしていた事も後押ししました。津島の皆さんの強い想いがあったのです」

「仮に強制執行が難しいとしても、請求を認める判決を裁判所が言い渡したら、判決をテコにして世論に訴えかけるとか、国会議員に働きかけて除染のための立法を求めるなど、いろいろと動く事が出来ます。国のスタンスを変えるためにも重要な訴訟、重要な判決になると考えています」

来年にも地裁判決が言い渡されると見込まれているが当然、そこで終わる事は無いだろう。仙台高裁、そして最高裁まで争いが続く可能性は高い。原告たちの年齢を考えると「早くしてくれないとみんな死んじゃう」という男性原告の気持ちも理解出来る。その想いを受け止めた上で、原告団の役員を務める女性はこう呼びかけた。

「裁判の進行に時間がかかっているのは、国や東電が認めるべき責任を認めないからです。そもそも、予定通りいかないのが裁判ってもの。私たちにとって裁判なんて初めての経験だし、想定した期間で終えられるなんてあり得ないと思うよ。国や東電という、押しても何しても動かないような相手と争っているのだから、勝つためにどうすれば良いか、弁護士さんたちと手に手を取って考えないと。それだけ大変な裁判をしているんだよ、私たちは」

皆、様々な想いを抱きながら原告団に加わっている。しかし、巨大な相手には一致団結しなければ勝てるはずも無い。女性原告の言葉は、一方的にふるさとを汚され、追われた人々の哀しい現実を言い表していた。第31回口頭弁論期日は今月25日に開かれる予定。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

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[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
    具体的なことと全体的なことの二つを

[報告]板坂 剛さん(作家/舞踊家)
    恐怖と不安は蜜の味

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
    山田悦子の語る世界〈9〉普遍性の刹那──原発問題とコロナ禍の関わり

[読者投稿]大今 歩さん(農業/高校講師) 
    マンハッタン計画と人為的二酸化炭素地球温暖化説

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
    コロナ下でも萎縮しない、コロナ対策もして活動する
《北海道》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《石川・北陸電力》多名賀哲也さん(命のネットワーク代表)
《福島・東電》郷田みほさん(市民立法「チェルノブイリ法日本版」をつくる郡山の会=しゃがの会)
《規制委・経産省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京》柳田 真さん(たんぽぽ舎、とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《浜岡・中部電力》沖 基幸さん(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

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4年前、福島県田村郡三春町に華々しくオープンした「コミュタン福島」(福島県環境創造センター交流棟)。8月10日、避難先から一時的に郡山に戻っていた松本徳子さん(「避難の協同センター」代表世話人、福島県郡山市から神奈川県に避難継続中)に館内を観てもらった。

政府の避難指示にかかわらず娘を守ろうと区域外避難をし松本さんの目に何がどう映ったのか。90分ほどの滞在で、松本さんは呆れたように言った。「こんなの茶番ですよ」。今月20日には双葉町に「伝承館」がオープンする。果たして「原発事故のリアル」が伝わるような施設になるのだろうか。

福島県田村郡三春町の工業団地にある「コミュタン福島」

◆「こんなの茶番だ」

「こんなの茶番ですよ。ちゃんちゃらおかしい」

展示スペースを一通り巡り、松本さんは呆れたように言った。もう笑うしかない、という感じでもあった。三春町の工業団地に建てられた立派な施設には、〝原発事故のリアル〟とはほど遠い空間が広がっていたからだ。

受付で手指消毒をし、額で体温を測って入館。途中、ボタンなどに触れる場面もあるため、ビニール手袋を渡された。料金は無料。入るとすぐに来館記念バッジが配られていた。

実は、2011年当時を少しだけ感じ取れるコーナーもある。地元紙2紙がパネル展示されていて「第一原発3号機も『炉心溶融』」、「20キロ圏 警戒区域」、「高濃度放射能漏れ」、「汚染水1万1500トン海に放出」、「子ども全員 甲状腺検査」などの見出しが目に飛び込んでくる。「2011・3・11 14時46分からのふくしまの歩み」という年表もあった。インパクトのある言葉に、一気に2011年に引き戻される。松本さんがスマホで撮影を始めた。しかし、あの頃を想起させる展示は結局、ここだけだった。

パネル展示の横で、10分ほどの動画が上映されていた。女性のナレーターが「ようやく許された一時帰宅。しかし、そこにあったのは、すっかり変わり果てた故郷の姿でした」、「人々の生活は、毎日が放射線という見えないものとの闘いになりました」、「原発事故は福島から多くの物を奪い去りました」と読んでいる。そして、途中から構成は一変。ナレーションも「着々と避難指示が解除されてきました」、「復興へ向けての歩みは、一歩一歩着実に進んでいます」に変わった。原発事故被害に触れているようでいて、しかし、区域外避難の苦労やモニタリングポスト撤去計画、除染で生じた汚染土壌の再利用計画などには一切、触れていない。上映中、松本さんは何度も首を傾げていた。

原発事故発生当時の生々しい様子を伝えるのは地元紙の展示くらい。松本さんは「茶番だ」と呆れた

◆「福島はがんばっている」

「コミュタン福島」は2016年7月21日、「福島県環境創造センター交流棟」として田村西部工業団地内にオープン。ホームページには「県民の皆さまの不安や疑問に答え、放射線や環境問題を身近な視点から理解し、環境の回復と創造への意識を深めていただくための施設です」と書かれている。

2013年02月28日の福島県議会で、当時の生活環境部長が次のように答弁している。

「福島県環境創造センターにつきましては、放射性物質に汚染された環境を一刻も早く回復するため、モニタリング機能を初め調査研究、情報収集・発信、そして教育・研修・交流の4つの機能を有する施設を三春町に、モニタリングや安全監視機能を有する施設を南相馬市に整備します。また、全体事業費は概算で約200億円、そのうち整備後10年間の調査研究費を含む維持管理費は概算で約100億円を見込んでおります」

福島県が2018年3月時点でまとめた資料では、「環境創造センター」全体の整備費は約127億円、年間維持費は約9億円とされている。それだけの金をかけて、特に子どもたちには何を伝えたいのか。

「放射線に関する学校での学習内容を踏まえ、「知る」「測る」「身を守る」「除く」のテーマ別に展示エリアを設け、このうち「知る」エリアでは、宇宙からの放射線についても展示するなど、子供たちの関心や疑問などにわかりやすく答えるようにするとともに、体験を通して学ぶ展示と知識を探求する展示等を組み合わせることにより、子供たちがみずから考え、行動する力が育まれるよう取り組んでまいります」(2014年03月03日の福島県議会)

「「知る」、「測る」、「身を守る」、「除く」のテーマ別に展示エリアを設け、体験や対話を通して子供たちの疑問にわかりやすく答えるとともに、学校の授業と連動した学習教材の配布、放射線測定器などを使った実験、360度全球型の環境創造シアターにおける「放射線の話」と題した映像での学習などを通して、子供たちの関心を高めながら放射線を正確に理解できるよう取り組んでまいります」(2016年06月28日の福島県議会)

しかし、歴代生活環境部長の期待に応えているのか反しているのか、来館した子どもたちの感想文は次のようなものだった。

「大きくなったら原発に関係する仕事について、避難している人が早く戻って来られるようにしたいです」

「コミュタンで学んだことがあります。福島はがんばっているということです」

「放射線で人々が苦しみましたが、放射線は悪いものばかりではなく、私たちの暮らしの中で使われていることが分かりました」

館内に展示されている子どもたちのメッセージ。放射線に対して好意的な内容ばかりだった

◆「広島を見習って」

「環境創造シアター、間もなく上映開始いたしまーす」

スタッフの声に誘われるように、全球型のシアターに入った。360度の迫力ある映像を堪能出来るという。しかし、内容は原発事故と全く関係無かった。「海の食物連鎖」。ナレーターは俳優の竹中直人。ディズニーランドのアトラクションのような5分番組を2本、続けて観たら、酔ってしまった。後に「放射線の話」と「福島ルネサンス」の2本を再び観る事になるのだが、こちらも物理の授業のようなものと福島の観光案内。ナレーターは福島出身の白羽ゆりと西田敏行だった。

「原発事故の生々しさはここでは扱っていません。そういうものは双葉町にオープンする『伝承館』であります」と男性スタッフ。シアターを出ると、「コミュタン、またくるー」、「福島がんば」など、目の前の画面に様々なメッセージが流れている。シアター前に設置されている機器で入力すると、「ニコニコ動画」のコメントのように、画面の右から左へ表示される仕組み。

90分ほど館内を歩き、松本さんは言った。

「広島の平和記念資料館のように、原発事故で起きた事を具体的に感じるものを展示しないと。ここにあるような綺麗事ではなくて、つらくなるようなもの、見たくなくなるものも必要だと思うんです。ここには感じ取れるものが無いですね。生々しさがありません」

そして、冒頭の言葉になった。「復興」と「がんばろう」と「原子力の有用性」が飛び交う施設。女性スタッフは、先の男性スタッフと同じような言葉を口にした。

「双葉町に出来る『伝承館』で、これまでを振り返るとこを強く展示していきます。コミュタンは、これからどうしていくかという方をフォーカスしているのです」

「伝承館」は9月20日、オープンする。そこでは「原発事故の生々しさ」は感じ取れるだろうか。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

9月11日発売開始『NO NUKES voice』Vol.25

『NO NUKES voice』Vol.25
紙の爆弾2020年10月号増刊
2020年9月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 ニューノーマル 脱原発はどうなるか
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[グラビア]〈コロナと原発〉大阪、福島、鹿児島

[報告]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
 二つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織

[インタビュー]水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
    コロナ収束まで原発を動かすな!

[座談会]天野恵一さん×鎌田 慧さん×横田朔子さん×吉野信次さん×柳田 真さん
    コロナ時代の大衆運動、反原発運動

[講演]井戸謙一さん(弁護士/「関電の原発マネー不正還流を告発する会」代理人)
    原発を巡るせめぎ合いの現段階

[講演]木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
    危険すぎる老朽原発

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
    反原発自治体議員・市民連盟関西ブロック第四回総会報告

[報告]片岡 健さん(ジャーナリスト)
    金品受領問題が浮き彫りにした関西電力と検察のただならぬ関係

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
「当たり前」が手に入らない福島県農民連

[報告]島 明美さん(個人被ばく線量計データ利用の検証と市民環境を考える協議会代表)
    当事者から見る「宮崎・早野論文」撤回の実相

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
   消える校舎と消せない記憶 浪江町立五校、解体前最後の見学会

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
    《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈9〉
    「原発事故被害者」とは誰のことか

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
    多量の放射性物質を拡散する再処理工場の許可
    それより核のゴミをどうするかの議論を開始せよ

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
    具体的なことと全体的なことの二つを

[報告]板坂 剛さん(作家/舞踊家)
    恐怖と不安は蜜の味

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
    山田悦子の語る世界〈9〉普遍性の刹那──原発問題とコロナ禍の関わり

[読者投稿]大今 歩さん(農業/高校講師) 
    マンハッタン計画と人為的二酸化炭素地球温暖化説

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
    コロナ下でも萎縮しない、コロナ対策もして活動する
《北海道》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《石川・北陸電力》多名賀哲也さん(命のネットワーク代表)
《福島・東電》郷田みほさん(市民立法「チェルノブイリ法日本版」をつくる郡山の会=しゃがの会)
《規制委・経産省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京》柳田 真さん(たんぽぽ舎、とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《浜岡・中部電力》沖 基幸さん(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

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◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B08H6NL5FX/

福島第一原発事故で全町避難を強いられた福島県双葉郡浪江町で7月31日、仮設商店街「まち・なみ・まるしぇ」が幕を閉じた。まだ避難指示部分解除前の2016年10月にオープン。避難指示部分解除後の2017年4月には、安倍晋三首相が訪れて「なみえ焼きそば」を食べてみせた。翌8月1日には「道の駅なみえ」が華々しく開業したが、仮設商店街から道の駅に出店する店舗はゼロ。切り捨てられた格好の店舗からは「道の駅に優先的に入れてやるという話だったのに……」と怒りの声があがっている。

8月1日、華々しくオープンした「道の駅なみえ」。しかし、仮設商店街から移った店はゼロだった

◆町長「大いに貢献された」

7月31日夕、浪江町役場横の「まち・なみ・まるしぇ」で、感謝状の贈呈式が行われた。吉田数博町長が10店舗の代表者一人一人に手渡した。

「皆さんが先駆者として仮設商店街に出店いただき、町民の帰還意欲につなげていただいた。大変な御苦労が多かったと思うが、おかげさまで今は160を超える飲食店や工場が町内で再開している。皆様方のご尽力の賜物だ」と吉田町長。休憩ずる場所も無く、食事も買い物も満足に出来なかった浪江町内で、一時帰宅した町民のために営業を続けてきた仮設商店街。関係者のみの小さなセレモニーを経て、ひっそりと幕を閉じた。感謝状には次のように綴られていた。

「あなたは東日本大震災および福島第一原子力発電所の事故により甚大な被害を受けた町の商業機能回復にご協力を賜り、町民の生活環境の向上に大いに貢献されました。よって、その御厚意に対し、心より感謝の意を表します」

2016年10月に盛大にオープンした時とは異なり、取材に訪れた記者は筆者の他に地元紙の2人だけ。テレビカメラは1台も無かった。仮設商店街の目の前にはイオンも出来た。

贈呈式後、取材に応じた吉田町長は「一応、今日を節目にしたい。そうでないとけじめがつかない。道の駅に入りますか、という話もしたが、町内に店を構える人もいるし、高齢だからもう良いよという人もいた。場所代を納める体力が無いという話もあった。運営会社を維持するために売り上げの20から25%を納めていただく必要がある。こういう田舎では高いなという気もするが、全国の道の駅の状況を考慮して率を決めたようだ。仮設商店街から一つのお店も道の駅に入らないのは寂しいですけどね」と話した。

そう、仮設商店街から道の駅に引っ越して営業を続ける店舗はゼロなのだ。「感謝」の言葉が飛び交う一方で、道の駅に受け皿は用意されていなかったのだ。

吉田町長から各店舗に贈られた感謝状。3年半の〝功績〟を称えているが、切り捨てられた格好の店側からは怒りの声もあがっている

◆店舗「切り捨てられた」

浪江町商工会の関係者が怒りをこめて話す。

「道の駅に移って営業を続ける店はゼロ。誰も行きません。『いいたて村の道の駅までい館』と全く同じですね。まあ、同じコンサルタント会社が担当したようですから、そうなるのでしょう。しかし誰がこうしてしまったのだろう。町長なのか議会なのかコンサルタント会社なのか……。様々な利権が絡み合っているのでしょうね。こうなる事で得をしている連中がいるのでしょう。前の町長と今の町長をうまく操った奴がいるんですよ。始める時は『道の駅に優先的に移れる』というふれこみだったが、途中から変わってしまった。だから皆、怒っているんです。感謝状なんか要らねえよって」

ある店舗の関係者は「道の駅を地元の人みんなで作り上げていくという感じじゃ無いですね。なぜ道の駅に出店しなかったのか? 手数料? 場所代? 運営会社に納めるお金が高くて払えないからですよ。いずれは道の駅に入れるという事で、赤字覚悟で営業を始めたのにね…。結局は切り捨てられたんですよ。そういう社会なのだから仕方ないですね」と肩を落とした。「切り捨てられた」という言葉が重い。

別の店舗は「お役御免」という表現を使った。

「そっくりそのまま道の駅に移る事になるのだろうって、私たちもそう思っていたんです。だから赤字でも皆で3年半、一生懸命頑張ってきた。でも、道の駅の説明会に行ってみたら全く話が変わっていた。7月いっぱいで出て行ってください、もう役目は終わったから、と。新しい場所が見つかるまではお貸ししますけどなるべく早く出て行ってください、という事になっていたんです」

「役場も完全に道の駅にシフトしちゃったんですね。結局、道の駅が出来るまでの体の良い〝つなぎ〟だったんだね。だから私たちは〝お役御免〟なんです。本当は今日で出て行かなければいけないんだけど準備が間に合わなかった、ここでしばらく営業を続けます。明日からは家賃と光熱費が発生します。家賃は3万円だったかな。確かに安いけど3万円売り上げるって大変なんですよ。人件費もありますしね」

◆町議「いつまでも甘えるな」

「皆さん、町内の生活環境が全く不十分な時期に創業いただきました。まだイオンも何も無い時期でした」

浪江町産業振興課の担当者は10店舗に感謝しつつ、当初からの予定通りだと繰り返した。

「元々、仮設の商業施設という事で、期限を区切っているという事は承知の上で入居していただいているはずです。未来永劫あそこで営業出来るという事ではありません。『なるべく早く出て行ってください』と、そこまで強烈な言い方をしているかどうかは分かりませんが、7月末をもって機能を終了するという事は以前から伝えています。道の駅と併存する事はありません」

「様々な事情があってしばらく残る場合には、いつまでも家賃無償というわけにもいきません。町内で事業を再開している方々が増えてきている中で、公平性を確保しなければいけないという観点もあります。一つのターニングポイントとして、8月1日以降は一定程度の負担をしていただきます。具体的に終了の時期が迫ると様々なご意見が出るのでしょう。いずれにしても、初めから期限を区切ってのスタートだったのです」

ある町議はさらに厳しい言葉でこう語った。

「今までタダでしょ。いつまでも甘えるなって事ですよ。当たり前じゃないですか。町内で事業を再開した人たちは全員、お金を払ってやってるわけですから。今まで家賃がタダだっただけでも……。これ以上、まだ甘えるの?いつまでも甘えるなって。仮設商店街に町は年間5000万円かけてたんだよ。ここで全員、店を閉めて退去するべきだと思いますよ」

別の町議は「悔し紛れにいろいろと言ってるんでしょ」と相手にしていない。原発避難者の住宅問題と似た構図がここにもあった。

仮設商店街の一角でカフェ「コスモス」を営んできた高野洋子さんは、馬場有前町長(故人)とは保育所からの同級生だという。

「『仮設商店街を始める事になったんだけど、やってくれる人が全然いない。誰かいないかな』って有(たもつ)に相談されてね。それで手を挙げたのよ」

役場近くには立派なホテルが出来た。道の駅の営業も始まった。一方で家屋解体が進み、さら地は増える一方。町立5校も年内には取り壊される。そして仮設商店街も。これが馬場前町長の描いた「町残し」のあるべき姿なのだろうか。

「まち・なみ・まるしぇ」のリーフレット。故・馬場町長は「町にとっての復興のシンボル」と綴っていた

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

月刊『紙の爆弾』2020年8月号【特集第4弾】「新型コロナ危機」と安倍失政

新型コロナウイルスに関して東京都は「with コロナ宣言」を出したが、原発事故後の福島は、残念ながら今も〝with 放射能〟状態にあるのが現実だ。郡山市の「五百淵(ごひゃくぶち)公園」(福島県郡山市字山崎)も自然豊かな森だが、9年間も〝with 放射能〟を強いられている。今月1日午後、汚染が続く森を歩いた。清流と野鳥の鳴き声が素晴らしい森はしかし、今も放射線を発している。

郡山市「五百淵公園」の空間線量は、いまだに0.4μSv/hを超える

◆「あぶない こどもたちだけでは あそんではいけません」

JR郡山駅から車で10分ほどの場所にある「五百淵公園」(福島県郡山市字山崎)。県立郡山商業高校近くあり、大きなため池を囲むように整備された周回道路を市民が散歩している。ある人は愛犬を連れて。またある人はジョギング姿で。一角に設置されたモニタリングポスト(リアルタイム線量測定システム)が0.189μSv/hを表示しているが、放射線被曝のリスクを周知する看板など無い。あるのは新型コロナウイルス感染拡大防止のために「人との接触は8割減らす!」と書かれた掲示だけだ。

周回道路から森の中に入ると、さっそく手元の線量計は0.3μSv/hを超えた。さらに進むと、「既存林 散策路の空間線量」(2月1日測定)と書かれた地図が掲示されていた。最も高い地点で0.4μSv/hと書かれている。しかし、やはり注意喚起はされていない。

森の中に設置された空間線量の掲示板

案内に従って進むと、せせらぎが流れていた。カルガモが羽を休めている。手元の線量計は0.3μSv/hを上回ったままだ。

「野鳥の森」と名付けられているだけあって、鳥の鳴き声が響いている。巣箱もあった。手元の線量計は、一番高い所で0.45μSv/hに達した。1時間ほどで森を出ると、ため池への転落防止のためか「あぶない こどもたちだけでは あそんではいけません」と書かれた看板が目に入った。しかし、放射線被曝に対する注意喚起は見つける事が出来なかった。

池への転落防止を呼び掛ける看板は設置されているものの、放射線被曝に関する注意喚起はされていない

◆「今後の五百淵公園の除染につきましては……」から3年が過ぎて

五百淵公園の汚染に関しては、郡山市議会でもたびたび取り上げられてきた。

2015年6月24日の建設水道常任委員会。蛇石郁子委員が次のように質した。

「五百淵公園の南側は…既に除染等は終えたと思うんですが…6月8日に測定してきました。50cmの高さで測定した中で、散策路の一部のところには…高いところで0.9μSv/hを示すところもあるんです…今後も再除染も含めて低減化を図る必要があるんじゃないかなと思います」

これに対し、公園緑地課長は「今後の五百淵公園の除染につきましては、除染の関係のガイドラインを含めまして今後検討していくように考えております。現在、幅が5メートルから10メートルぐらいの範囲で通路部分につきましては平成26年度に一応除染をしまして、ある程度、その通路幅分だけは低減をして、実際、現在そこの部分の通路部分を測りますと、大体0.5から0.6μSv/hぐらいの線量にまでなっております」と答えていた。

それから3年。2018年9月議会と12月議会で、2人の市議が一般質問で取り上げた。しかし、当局の答弁はいずれも積極さに欠けるものだった。

2018年9月11日に一般質問した飛田義昭議員は、次のように注意喚起の必要性を訴えた。

「私どもが実施した五百淵公園内にある野鳥の森の散策路で6カ所の計測を実施した結果に基づいて、その結果は0.2から0.7μSv/hの状況でありました。先日、この野鳥の森の草刈りを実施した市民の方々から、そんなに線量の高いところを私たちは草刈りをしたのかと言われました…野鳥の森の散策路を利用する人たちに安全の可否を判断させることでは、市民の安全・安心対策とは言えないと思います。例として申し上げますが、注意喚起すべきであると思います」

しかし、都市整備部長は「注意喚起はしない」と明言している。

「五百淵公園の森林内につきましては、国の基準に基づき、2014年に散策路の両側約10メートルについて堆積物除去や除草を実施し、線量の低減を図ったところであります。当該箇所はまさに森林であり、通常の公園内の除染に比べ線量が低減されにくいことから、本年7月27日に計測した散策路の空間放射線量率は0.18から0.56μSv/hとやや高い場所も確認されている…森林内を散策する場合においては、散策する時間が短時間であることから注意喚起は考えておりません」

ため池の一角に設置されたモニタリングポストの数値は、福島県のホームページで公表されているが、森の中はそれより高い

◆「現時点におきましては、注意喚起や再除染については考えてはおりません」

再除染についても同じように否定的な答弁だった。

「再除染に関してでございますが、答弁でもさせていただきましたけれども、やはりこの環境省の考え方、見解、除染の効果が面的に維持されており、一般的な生活環境の中では追加被曝線量が年間1mSvを超えないと推定されるということでございますので、現時点では考えておりません」

2018年12月6日に一般質問した飯塚裕一議員も、注意喚起や再除染を求めた。

「五百淵公園の散策路は、掲示板での線量の周知のみで、注意喚起等は行わないとしていますが、散策路は子どもたちも通ることが考えられるため、安全・安心のため再除染を行い0.23μSv/h以下とすべきと考えます。また、子どもたちにもわかるように注意喚起の看板等を設置することが必要と考えます」

都市整備部長は、3カ月前の答弁を繰り返すばかりだった。

「本年11月21日に計測した散策路の空間放射線量率は0.18から0.56μSv/hとやや高い場所も確認されているため、公園の入り口や散策路の中間地点の2カ所に空間放射線量率の計測値の掲示を増設し、既存の表示板についても最新のものに更新いたしました。公園利用者が森林内を散策する場合においては、散策する時間が短時間であることから注意喚起は考えておりません」

「再除染と注意喚起ということでございますが、先ほどの答弁と繰り返しになってしまいますが、環境省補助による継続モニタリング事業等において、測定値をウエブ公開しておりますし、同省によれば、除染により効果が面的に維持されているという見解もありますので、現時点におきましては、注意喚起や再除染については考えてはおりません」

「本市としましても、この五百淵公園が野鳥の観察を通じて交流とか学習をする場であり、そのままの自然を残しているという特色を踏まえるとともに、公園利用者の安全・安心を考慮して適切に対応したいと考えております」

このやり取りから2年ほど経ったが、森の現状は0.4μSv/h。それでも郡山市は注意喚起も再除染もしない。近くに住む女性は「放射線被曝の問題はもう、無かった事になりつつありますね」と話した。

「ここの桜はきれいですよ。秋はコスモスの花が咲きます。でも、残念ながら〝汚染の森〟になってしまいました」

福島市でも郡山市でも、自然豊かな森は9年経った今でも汚染が続いている。原発事故は終わっていない。しかし、すっかり忘れられている。行政も積極的に取り組まない。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

6月11日発売開始!〈原発なき社会〉をもとめて 『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

『NO NUKES voice』Vol.24
紙の爆弾2020年7月号増刊
2020年6月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/148ページ

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総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機
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[表紙とグラビア]「鎮魂 死者が裁く」呪殺祈祷僧団四十七士〈JKS47〉
(写真=原田卓馬さん

[報告]菅 直人さん(元内閣総理大臣/衆議院議員)
原子力とコロナと人類の運命

[報告]孫崎 享さん(元外務省国際情報局長/東アジア共同体研究所所長)
この国の未来は当面ない

[報告]田中良紹さん(ジャーナリスト/元TBS記者)
コロナ禍が生み出す新しい世界

[報告]鵜飼 哲さん(一橋大学名誉教授)
汚染と感染と東京五輪   

[報告]米山隆一さん(前新潟県知事/弁護士/医師)
新型コロナ対策における政府・国民の対応を考える

[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
コロナ禍は「世界一斉民主主義テスト」

[報告]小野俊一さん(医師/小野出来田内科医院院長)
新型コロナ肺炎は現代版バベルの塔だ

[報告]布施幸彦さん(医師/ふくしま共同診療所院長)
コロナ禍が被災地福島に与えた影響

[報告]佐藤幸子さん(特定非営利活動法人「青いそら」代表)
食を通じた子どもたちの健康が第一

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈8〉
新型コロナウイルス流行と原発事故発生後の相似について

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
コロナ禍で忘れ去られる福島

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈19〉
翼賛プロパガンダの失墜と泥沼の東京五輪

[インタビュー]渡邊 孝さん(福井県高浜町議会議員)
(聞き手=尾崎美代子さん
関電原発マネー不正還流事件の真相究明のために
故・森山元助役が遺したメモを公にして欲しい

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
僕らは、そして君たちはどうたち向かうか

[報告]平宮康広さん(元技術者)
僕が原発の解体と埋設に反対する理由

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
《対談後記》四方田犬彦への(公開)書簡

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
令和「新型コロナ」戦疫下を生きる

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈8〉
東京オリンピックを失って考えること

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
コロナ禍で自粛しても萎縮しない反原発運動、原発やめよう
《全国》柳田 真さん(再稼働阻止全国ネットワーク・たんぽぽ舎)
《六ヶ所村》山田清彦さん(核燃サイクル阻止一万人訴訟原告団事務局長)
《東北電力・女川原発》日野正美さん(女川原発の避難計画を考える会)
《福島》黒田節子さん(原発いらない福島の女たち)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団)
《東電》武笠紀子さん(反原発自治体議員・市民連盟 共同代表)
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
《鹿児島》向原祥隆さん(反原発・かごしまネット代表)
《福島》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟/杉並区議会議員)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

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原発事故以降、福島県が行っている「県民健康調査」。甲状腺検査ばかりに目が向きがちだが、調査のひとつに「こころの健康度・生活習慣に関する調査」がある。福島県内の市町村のうち広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村、南相馬市、田村市、川俣町、伊達市のうち特定避難勧奨地点に指定された区域に2011年3月11日時点で住民登録をしていた約20万人を対象に続けられている調査(調査票に記入する方式)で、設問の中に「放射線の健康影響」や「放射線の次世代影響」(遺伝的影響)もある。今回は、依然として根強い被曝リスクに対する不安に着目したい。

5月25日午後に福島市内のホテルで開かれた第38回県民健康調査検討委員会。新型コロナウイルス感染拡大防止の一環としてweb会議形式(委員は全員リモート参加)で行われたが、席上、2018年度「こころの健康度・生活習慣に関する調査」の結果も報告された。

web会議形式で行われた第38回県民健康調査検討委員会。議題は甲状腺検査にとどまらない

配布資料によると、自身や津波、原発事故の被災で生じた「トラウマ反応」に関する設問では、支援が必要と判断された人の割合は9.7%だった。2011年度の21.6%と比べると半減しているが、ここ3年は横ばい。依然として10人に1人は地震や津波、原発事故によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)の可能性がある事が分かった。

また、「放射線の健康影響」については、「可能性は極めて低い」と「可能性は低い」が合わせて66.4%に達した(2011年度は51.9%)。一方で「可能性は高い」と「可能性は非常に高い」の合計は33.5%で2011年度の48.1%と比べると減ったが、依然として3人に1人が被曝による健康影響を心配している事が分かる。

「放射線の次世代影響」(遺伝的影響)を懸念する回答も2011年度の60.2%より減って36.0%だったが、こちらも下げ止まり。依然として不安が少なくない。自身の放射線被曝が子や孫に遺伝して悪影響を及ぼすのではないか──。事故発生から9年が経過しても3人に1人が遺伝的影響への不安を抱いているというデータは非常に重い。「中通りに生きる会」が東電を相手に起こした損害賠償請求訴訟でも、この点に触れた原告が複数いた。しかし、国も福島県も遺伝的影響を否定するばかりで不安に寄り添わない。

「こころの健康度・生活習慣に関する調査」では、原発事故による被曝の健康影響や遺伝的影響について、依然として3人に1人が不安視している事が分かる

高村昇委員(長崎大学・原爆後障害医療研究所教授)は、一貫して放射線被曝の遺伝的影響を否定している。

今年2月の第37回会合でも「前もたしか申し上げた記憶があるんですけれども、例えば母子健康手帳の中に情報を入れていくであるとか、そういったものを含めた情報発信というものも今後お願いできればというふうに思います」と発言。不安払しょくを促していた。今回、筆者は記者会見で高村委員に認識を質したが、答えはやはり全否定だった。

「例えば広島であるとか長崎の原爆被爆者の二世調査ですね。こういったもの。あるいはチェルノブイリもそうですし、ガン治療で放射線治療をなさった方。いろいろな人における遺伝的調査というのは行われていますけれども、これまでのところですね、そういう意味では放射線の遺伝的影響は証明されていない。これは現時点での科学的な重要な知見だというふうに思います」

「さらに言えば、福島県における外部被曝線量を考えるとですね、福島において遺伝的影響が起こり得るか。私は考えにくいだろうと、これまでの科学的知見から考えても言えるのではないかというふうに私は思います。前回会合で母子手帳の話をしましたけれども、そういったこれまでの知見をふまえた説明をこれからもきちんと継続してする事が必要ではないかと考えております」

ちなみに、高村氏は7月にもオープンするアーカイブ施設「東日本大震災・原子力災害伝承館」の初代館長に就任した。「リスクコミュニケーション」の重要性を説き、遺伝的影響を含めた被曝リスクを全否定する人物が原発事故を後世に伝える施設の初代館長に就任するあたりに、福島県の被曝リスクへの向き合い方が表れている。

一方、遺伝的影響が生じる可能性を無視してはいけないという意見もある。

内科医として2011年4月から毎月のように福島に通い、診療や健康相談を続けている振津かつみさん(チェルノブイリ・ヒバクシャ教援関西)もその1人。2018年2月に福島市内で開かれた 「飯舘村放射能エコロジー研究会」 の第9回シンポジウム「原発事故から7年、不条理と闘い生きる思いを語る」にパネリストとして参加。福島県だけでなく周辺自治体も含めた「被曝者健康手帳」の必要性を強調した上で、次のように語っている。

「放射線被曝の遺伝的影響は、マウスなどの動物実験では証明されています。差別につながるとの指摘もあって非常にデリケートな問題ですが、ヒトでも次の世代への影響が起こり得ると考えて対策を講じていくという姿勢が被害の拡大を防ぐことであり、本当の意味で被害者の人権を守ることにつながるのです。科学というのはそういうものだと思います」

振津さんは、2019年7月に行われた原水爆禁止世界大会の福島大会でも「原発事故が起きた途端に『大した事は無かった』という動きが始まりましたが、原発事故から10年になるのを前に、被災者に必要な生活再建支援を打ち切り、切り捨てていく姿勢が強まっています。どうはね返していくかが問われています」と発言。放射線被曝の健康影響について、「人権」の側面からこう語った。

「国策で進められてきた原発の事故で被曝で強いられました。日本の法律では、一般公衆の年間被曝線量限度は1mSvです。福島県中通りでも、少なくとも2011年1年間だけで大半の人が1mSvを超えています。明らかに法律に違反した人権侵害です。ただちに健康上の問題は無いかもしれませんが、リスクを負ったという事なのです」

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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場が増えたという意味では一歩前進、しかしPCR検査の〝ハードル〟は高いまま。残念ながら、PCR検査数が一気に増えるという事にはならないようだ。

福島市は19日から、福島県内で初めてドライブスルー方式のPCR検査を導入。14日午前に福島市保健所の駐車場でメディア向けデモンストレーションが行われた。

19日からはマイカーに乗ったままPCR検査を受けられる

福島市は既に今月1日から市内の医療機関にプレハブのPCR専門外来を設置しているが、新たに設置されるPCR専門外来はドライブスルー方式。車に乗ったまま検体が採取される。いずれも設置される病院名は公表されない。マイカーで検査に訪れるのが難しい市民には、屋内型のPCR専門外来を案内される。

これまでは症状の有無などにかかわらず医療機関(帰国者・接触者外来)で検査が実施されていたため、通常診療の合い間を縫って検査をし、1人の検査が終わるとレントゲン室の消毒などが必要になるなど医療機関の負担が大きかったという。今後は、一般クリニックや「帰国者・接触者相談センター」で「感染リスクは高いが軽症」、「早急な治療を必要としない」などと判断された人は2カ所のPCR検査専用外来(一次外来)を案内されるため、ドライブスルー方式では「1人約20分ほどで終了。1日に20検体の採取が可能になる。医師や看護師が慣れて来れば、もう少し速くなるだろう」(中川昭生保健所長)。

公開されたデモンストレーションは、検査が必要と判断された市民がマイカーでPCR検査専用外来を訪れた場面から開始。指定された場所に車が止まると、まず事前に記入された問診票と体調面で変化が無いか看護師が確認する。さらに非接触式の体温計を額に近づけて検温。続いてパルスオキシメータを指先にはさみ、血中酸素飽和度も測る。この際、なるべく対面しないよう留意するという。

看護師から報告を受けた医師が最終的な説明を行い、「スワブ」と呼ばれる長い綿棒を鼻腔の奥に挿入して検体を採取する。鼻の奥まで達したら数秒待ち、ゆっくり回転させながら引き抜く事で検体が得られる。保健所によると、喉より鼻の方が検体を得やすいという。検査結果は後日、文書で伝えられる。医師や看護師は手袋を廃棄し、手や指を消毒した後に新しい手袋を装着する。

ただ、場が増えてもPCR検査の〝ハードル〟が低くなるわけでは無い。福島市保健所総務課の担当者は「希望する市民が全て検査を受けられるようになるわけではありません。そこまで間口を広げてしまったら希望者が殺到してしまうので、やはり医師や保健所が検査の必要性を判断するという流れは今後も変わりません」と説明した。

勝山邦子副所長も「採取する検体数を増やすためです。今まで『帰国者・接触者外来』で午後の時間を使って2人とか枠が少なかったんです。福島市ではそれでも、東京都のように何日も検査を待つような事態にはなっていませんが今後、検査を必要とする人が増えたらギリギリなんです。このPCR検査専用外来が機能すれば、1日で20人くらいの検体を採取出来るようになります」と意義を説明した。

しかし、一方で「検査の〝間口〟が広がるわけではありません」とも。これまで、市内の保育園や大学学生寮で感染者が見つかっても「症状が無く濃厚接触者には該当しない」などの理由で他の園児や学生のPCR検査を積極的には行ってこなかった。その姿勢は変わらないという。「必要だと判断すればPCR検査を行います。検査を希望する市民がいて、じゃあドライブスルーに来てください、とはなりません」。

中川所長も「希望者がPCR検査を受けられるようになるのは…。そういう可能性は出て来るとは思いますが…。あとは採取した検体を調べる側のキャパの問題もありますしね」と話した。現在、福島市保健所では最大で16人分の検体を調べる事が出来る。それを超える場合には民間の検査機関に委託するため、検体数が増える事そのものには特に問題は無いという。

検査の場が増えるのは大いに賛成だが、PCR検査の〝ハードル〟は高いまま。福島市保健所の姿勢には疑問も残る

福島市内では、保育園に通う男児の感染が判明(感染源は同居する父親と思われる)したが、市保健所は保育園の他の園児や保育士などは「濃厚接触者に該当しない」としてPCR検査を実施せず、2週間の健康観察にとどめた。判断の決め手となったのは男児が無症状である事だった。感染が分かった父親(症状あり)の濃厚接触者としてPCR検査を行ったら陽性だった、しかし症状が全く無いので感染させるリスクは低い─そういう判断だった。市保健所にはわが子を通わせる保護者からPCR検査を希望する声も寄せられたが、実施しなかった。結果として、2週間経っても体調を崩した園児や保育士はいなかったという。

また、大学の学生寮に住む大学生の感染も確認されている。この大学生は市内の学習塾で講師のアルバイトをしているが、市保健所は塾側が消毒などの対策を講じている事、個人指導であるうえに生徒は壁を向いて座り講師と対面しないため飛沫を浴びるリスクが低い事などを理由に濃厚接触者には該当しないと判断。PCR検査を行わなかった。学生寮で暮らす大学生も、聴き取りをした結果3人のみ(入寮者は、帰省などで寮を離れている学生も含めて145人)を濃厚接触者に該当すると判断し、そのうち1人だけにPCR検査を実施した(結果は陰性)。PCR検査の〝ハードル〟は非常に高いのが現実だ。

「PCR検査をして陰性と判定されても2週間は健康観察をするので、その意味では検査をしてもしなくても変わらないんですよ」と話す保健所職員もいる。これまで健康観察中に体調が悪化した市民がいないため、一定の成果が出ているとも言える。
しかし、なぜそこまでPCR検査数を抑えようとするのか。いきなり希望する市民全てに検査を実施するのは難しいだろうが、感染が判明した人とかかわりのある人を濃厚接触の有無にかかわらず検査する事は出来るはずだ。せっかく場が出来ても、入り口の段階で抑制してしまうのなら、有効活用される事にならないのではないだろうか。

多くの地元記者が駆け付けたデモンストレーション=福島市保健所

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

月刊『紙の爆弾』2020年6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る

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「五輪どころでねえ!」と声をあげているのは原発事故被害者ばかりでは無い。福島県災害対策課のまとめでは、2019年10月に発生した台風19号、21号に伴う水害では県内で37人が亡くなった(直接死、関連死の合計)。住宅の全半壊は、同課が把握しているだけで1万3000棟を上回った。県の災害対策本部は今年3月に解散したが特別警戒配備体制は続いており、被害回復にはまだまだ時間がかかる。

1986年の「8・5水害」に続き甚大な被害が出た郡山市水門町。女性が庭先に置かれた廃棄用コンテナを眺めながらため息をついた。

「うちは3メートルくらい水に浸かったかな。全壊と判定されて、ようやく修繕が始まったと思ったら、床板をはがしたところで作業が止まっているの。直さなきゃいけないのはうちだけじゃ無いし、家の中も乾かさなきゃならないからね。作業員さんも足りないらしいから。それに加えてコロナ騒ぎしてっばい。もう7カ月が過ぎたけど、まだまだこれからなのよ」

コロナ禍が無ければ、3月26日に「Jヴィレッジ」から聖火リレーが始まり、同月28日には郡山市内でも華々しくリレーされる予定だった。それが、新型コロナウイルスの感染拡大で1年延期。しかし、女性はコロナ禍が無かったとしても五輪どころでは無かったと話す。

水害被災地では住宅の修繕が緒についたばかり。コロナ禍が無くても「五輪どころでは無い」のだ

「夏のお盆くらいまでに作業に取り掛かってくれればいいけれど……。オリンピック? オリンピックなんて全然頭に無いよ。作業員さんがいつから来てくれるのかなって、毎日そればかり考えてる。朝、二階から眺めてさ、あゝ今日も作業員さんの車無いなってがっかりしてるんだよ」

水門町内には、不動産業者の「売地」看板が目立つ。人通りも少なくなった。年度末に家屋解体が行われ、さら地が増えたためだ。

「この家も、あそこの家も帰って来ないのよ。他の土地に移っちゃった。今年だって大水にならないなんて誰にも言い切れないからね」

甚大な被害が出た郡山市水門町では、家屋解体に伴うさら地が増加。「売地」の看板が至る所で目につく

別の女性は町内に立派な自宅を構えていたが、浸水で3月中に取り壊した。前の年に外壁を修繕したばかり。きれいな壁が哀しかった。

「うちは解体は早い方だと思います。さら地にして、同じ土地にまた家を建てるしか無いよねえ。どこかよそに移ると言っても年が年だから…」

女性はわが家を見上げながら今にも泣き出しそうな表情で話した。遠くから見るときれいな家だが、1階部分は水の力で完全に壊れてしまっている。2階は直接の浸水は無かったが、柱の損傷などを考えて取り壊す事に決めたという。

「私もオリンピックどころでは無いと思いますけど、世界の大会だしね。皆さん、今まで一生懸命練習して来て、その成果を出したいというのはしょうがないと思うの。でも、今回のコロナで来年も無理でしょ? 実際には」

女性は選手の心に想いを寄せて言葉を選びながら、東京五輪への複雑な想いを口にした。「8・5水害」を経験し、家庭菜園をやりながら静かな老後を送っていたところに再び大水害。気候が大きく変動する中で、またいつ、大雨による被害に遭ってしまうか分からない。

「雨で再び水が上がらないように、はあ、祈っています。ここで生活して行こうと考えていますから」

女性はそう言うと、家庭菜園に向かって歩き始めた。

JR東北本線・本宮駅周辺も、病院が孤立するなど大きな被害が出た。病院近くの精肉店は今年4月、半年ぶりに営業を再開させた。機械類など全てが水に浸かってしまったため新調した。「きれいになったのは良いけれど、お金の工面が大変で…」と店の女性は表情を曇らせた。

同じ本宮市内のパン店も、4月下旬にようやく営業再開にこぎつけた。再開初日には多くの常連客が駆け付け、パンはほぼ完売した。

「内装から全てやり直しましたし、職人さんも不足していたので時間がかかりました」と経営する女性は笑顔を見せた。水害被災地での職人不足は深刻で、郡山市内では青森や山形など県外から仕事に来ている職人と会った。

女性は、筆者が「オリンピックどころでは無いのではないか」、「五輪に多額の予算を充てるのであれば、水害被災地に分配するべきだ」と水を向けると「そうですよね」とうなずいた。

「補助金の申請をしたんですけど、書類に不備があったとかでまだ支払われていないんです。こういう被害ですから、書類といっても用意出来ないものもありますしね……。揃えるのにも限界があって四苦八苦しています」

本宮市のパン店は営業再開までに半年を要した。まだ振り込まれていない助成金もあるという

JOCも政府も「五輪は中止しない」と強調している。あくまで「1年間の延期」であって、それまでに新型コロナウイルス問題も片付ける算段なのだろう。その動きに呼応するように、福島市役所入り口では五輪までのカウントダウンが再開された。市内の「県営あづま球場」では、野球とソフトボールの試合が行われる事が決まっている。それだけに、他の市町村と比べても力が一段と入っている。市の担当者は「五輪に向けた気運を改めて醸成するために始めました。特に木幡市長の指示ではありませんよ」と話す。

福島県内では、原発事故避難者や県内在住者たちが2月下旬、「Jヴィレッジ」や「県営あづま球場」に集まり「オリンピックどころでねえ」と抗議の声をあげた。今年は原発事故から10年目だが、放射能汚染は続いており、なされるべき被害者救済も不十分だ。それどころか県外避難者の切り捨てが着々と進んでいる。都内の国家公務員宿舎に入居する〝自主避難者〟を追い出す訴訟を福島県が起こしたほどだ。

しかし、「五輪どころでねえ」のは原発事故被害者だけでは無いのだ。水害被災者たちは十分に救済されないまま、時間の経過とコロナ禍で忘れられてしまっている。家屋解体が本格化すれば、災害廃棄物はさらに増す。放射能汚染測定をして県外で燃やされているが、その数値は公表されない。五輪に多額の金を注ぎ込んでいる場合では無い。コロナ禍も含めて、予算は人の生活や生命を守るために分配されるべきなのだ。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的とした緊急事態宣言の解除に向けて〝終息ムード〟が漂う中、PCR検査を積極的に行わない行政への不満も多い。福島県福島市も市内の保育園や大学学生寮で感染者が見つかりながら、他の園児や入寮生などのPCR検査は「症状が出ていない」として一部を除いて実施していない。なぜPCR検査を行わないのか。福島市保健所の勝山邦子副所長が取材に応じた。

◆なぜ濃厚接触者にあたらないとPCR検査をしないのか

PCR検査に消極的な福島市保健所。無症状だと非濃厚接触者として検査していない

「濃厚接触にあたらないので塾の名前は公表しません。消毒など対策も講じられているし、生徒さんの特定も出来ています。その代わり、感染が分かった大学生に教わっていた生徒さんの健康状況は念のために把握させていただきます。濃厚接触者がいないという意味では保育園のケースと同じです」

陽性判定を受けた大学生(福島市内で家族と同居)は、福島市内の塾で講師のアルバイトをしていた。この大学生と同じ塾で講師のアルバイトをしている友人(大学内の学生寮で生活)を濃厚接触者としてPCR検査を実施したところ陽性だった。しかし、福島市保健所は個人指導である点と対面指導では無い点に着目。2人から指導を受けていた生徒は濃厚接触者には該当しないと判断した。

「お子さんは壁に向かって座り、先生(大学生)は脇から指導する形です。確かに先生と生徒の間にアクリル板が立っているわけではありませんが、対面していないために飛沫を浴びる可能性は大きく下がります。新型コロナウイルスは空気感染するものでは無いですから、同じ部屋にいるからといって感染するものではありません。大事なのは『飛沫』と『接触』です。それらを総合的に判断して濃厚接触者とは判断しませんでした」

なぜ濃厚接触者にあたらないとPCR検査をしないのか。検査を実施し、陰性であればひとつの安心材料になるではないか。しかし、勝山副所長は「無症状であれば健康観察にとどめる」との姿勢を崩さない。

「ひとつは症状が出ていないという事。万が一、症状が出てくれば検査を実施する事もあるかなとは思います。中には無症状で陽性になる方もいますが、症状が無いという事は一般的にはウイルス量が多くないので陰性になる可能性が高いのです。その代わりと言っては何ですが、この大学生から指導を受けていた生徒さんには、念のための健康観察として発熱や咳、味覚障害、倦怠感が生じたら連絡をいただくようにお願いしています。濃厚接触者に準じる形で最終接触日から2週間です。2週間経っても体調に異変が現れない場合は、基本的には安心していただいて良いと思います」

◆「PCR検査は『総合的な判断』で実施しています」

福島市内では、保育園に通う男児の感染も明らかになっている。同居する父親の感染が判明したため濃厚接触者とされ、無症状だったが検査をしたら陽性だと分かった。しかし、他の園児や保育士などは「濃厚接触者には該当しない」として健康観察にとどめ、PCR検査は実施されなかった。木幡浩市長は園児の感染が判明した直後の記者会見で「(保育園は)感染の広がりが懸念される状況ではありません」などと断言。市議からは批判の声があがった。

保育園も学生寮も、結果として集団感染に発展しなければもちろん良い。しかし、今のやり方ではそれはあくまで結果論。まるで〝ギャンブル〟だ。なぜ接触機会の少ない人も含めて積極的にPCR検査を行わないのか。それが安心につながるのではないのか。

大学の学生寮には145人が入寮(帰省などで寮を一時的に離れている学生も含む)しているが、福島市保健所がPCR検査を実施したのは濃厚接触者と判断した3人のうち、症状のあった1人だけ(結果は陰性)。保育園は2週間の健康観察期間が終了。結果として当該園児以外に感染したと思われる子どもは(公式には)いないとして、勝山副所長は胸をなでおろした。だが、県民からは積極的なPCR検査の実施を望む声もある。検査を実施するだけの能力もあるが、勝山副所長は検査に消極的な理由を明言しない。

「無症状の場合は検査をしても……。医師である中川昭生所長の判断で検査をする場合もありますが、症状が無いとなると検査をしても陰性と判定される可能性がかなり高いのです。もちろん可能性であって絶対ではありません。状況によっては必要な場合があると思います。濃厚接触ですね。同じ学生寮で暮らしていても当該学生と全く接点の無い学生は検査をする必要は無いのかなと思います。濃厚接触者だからといって全部検査しているわけではありません。PCR検査は『総合的な判断』で実施しています」

感染が分かった大学生が暮らす学生寮には145人が入寮しているが、PCR検査を実施したのはわずかに1人だけ

とにかく「濃厚接触」。そして「症状の有無」。なぜその定義から抜け出す事が出来ないのか。なぜ検査数を抑えようとするのか。飛沫と接触さえ気を付けていれば、マスクと手洗いさえ入念にしていれば、県境をまたいだ往来をしても問題無い事になってしまう。しかし、勝山副所長も認めているように、どれだけ気を付けていても100%、絶対という事はあり得ない。それでも感染してしまう事は十分にあり得る。だから自粛が呼びかけられ、多くの人がそれに従っている。しかし、PCR検査の実施という話になると、様々な「要件」が顔を出して来てしまう。「ゼロでは無いから健康観察をし、症状が出たら検査をする」と勝山副所長。話を聴けば聴くほど、まるでPCR検査を実施しないための理由を探しているかのようだ。

「保護者の方々の気持ちは理解出来ます」と勝山副所長。しかし、現実にはPCR検査は積極的に実施されず、情報もほとんど明らかにされない。例えば、感染の分かった大学生は「公共交通機関」を利用して寮から学習塾まで通っていたが、それが電車なのかバスなのか。そこは伏せられている。

「言うまでもありませんが、感染した事は責められるべき事ではありません。私だって感染する可能性はあるのですから。でも、これまで会社名など具体的に公表する事によってとても大変な目に遭っているのも事実です。これまで市内の会社が従業員の感染を公表したケースがありましたが、感染した方と接触が無い方も含めて困るような場面もあったようです。ある事無い事を言われたり…。公表してみると困る事があるのも事実なのです」

であればなおさら、徹底してPCR検査をするべきだが、それもなされない。〝ギャンブル〟のような健康観察が続くばかりなのだ。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

月刊『紙の爆弾』2020年6月号 【特集】続「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る

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