広島市の松井市長は11月30日からハワイの真珠湾を訪問することを発表しました。これは、今夏、米国政府=エマニュエル駐日大使=との間で締結した真珠湾国立公園との「姉妹公園協定」を具体化するためとのことです。

広島市は9月の定例市議会で「原爆投下に関わる米国の責任の議論を現時点で棚上げし、まずは核兵器の使用を二度と繰り返してはならないという市民社会の機運醸成を図っていくために締結した」と答弁しています。 その答弁を具体化した形です。

◆「原爆投下を反省しない米国政府」と組んで良いのか?

 

真珠湾の戦艦アリゾナ(撮影=広島瀬戸内新聞関西支社の鈴木記者)

筆者は、そもそも論として、広島の平和記念公園とパールハーバー=真珠湾の「姉妹公園協定」に反対です。広島市とホノルル市は姉妹都市であり、ホノルル市は広島市が主導する「平和首長会議」にも加盟しています。平和首長会議は核兵器禁止条約推進の署名活動もしており、広島市とホノルル市はそうした意味で「同志」の自治体であります。その一環として松井市長がホノルルに行かれることには異存はありません。ただし、きちんと平和行政の推進に効果があるかどうか、説明責任を果たしていただきたい、というスタンスです。

だが、米国政府は、いまだに広島への原爆投下を反省していません。「必要だった」というスタンスは崩していません。もはや、原爆投下は戦争の犠牲を減らすためではなく、日本人をモルモットとした「実証実験」であり、戦後に米国の強力な対抗馬になることが確実だったソビエトへのけん制でもあったという議論が主流となった今でも、米国政府はまったく反省していません。オバマ大統領が2016年に広島に来た時もまるで他人事のような挨拶であり、反省や謝罪の言葉はありませんでした。

日本政府についていえば、基本的にはいわゆる村山談話を継承し、第二次世界大戦における加害責任について一定のお詫びをしています。必ずしも十分ではないと筆者は考えますが、それでもまったく反省も謝罪もない米国に比べればすべきことはしています。

そんな米国政府の原爆投下責任を棚上げにして組んで良いのだろうか?そのことは、「核兵器の使用を二度と繰り返してはならない」という国際世論を後退させてしまうのではないか? そう思うのです。

「広島が米国政府を許したのであれば、俺たちが核兵器を使っても構わないよね?」と、米国以外の中露英仏はもちろん、インド、パキスタン、朝鮮、そして今ガザ虐殺で非難を浴びているイスラエルまで言いだしかねません。すくなくとも核兵器使用のハードルを下げる方向に「米国政府の責任棚上げ」はなると思います。

◆G7広島契機に「平和都市ヒロシマ」から「米国忖度都市 HIROSHIMA」への変質

そして、繰り返し指摘したいのは、2023年5月のG7広島サミットを契機に広島が曲りなりも「平和都市ヒロシマ」だったのが「米国忖度都市 HIROSHIMA」に変質しているということです。

すでに、今年度から広島市の平和教育の教材から『はだしのゲン』(小学校)や『第五福竜丸』(中学校)が削除されています。広島市教育委員会はマスコミの取材に様々な弁明をされています。しかし、こんな変更をさせたのは誰か?松井市長以外にあり得ないでしょう。すでに、教育行政については、第二次安倍政権における法改定で首長の「独裁」が事実上可能になっています。広島県の場合は、湯崎英彦知事がお気に入りの平川理恵教育長を任命して彼女に独裁的な教育行政をやらせています。他方で広島市の場合は松井市長が教育長には影が薄い方を任命し、松井市長が強力なリーダーシップを発揮している感があります。

そうした中で、G7で広島にお見えになる米国のバイデン大統領の「お目を汚さない」ようにはだしのゲンや第五福竜丸を削除させたのは、この間の流れを見れば、見え見えではないでしょうか?

そして、G7広島サミットでは、西側の核保有は肯定する「広島ビジョン」が採択されました。

また、対ロシア戦争中のゼレンスキー大統領がまるで「乱入」するかのように途中参加し、まるで対露戦争会議のようになってしまいました。

「平和都市ヒロシマ」は、「米国忖度都市 HIROSHIMA」に変質してしまいました。

◆ガザ虐殺応援団サミットでもあったG7広島、恥ずかしすぎる

あれから半年。ガザでは、ハマス政権の「反撃」に対してイスラエル総理のネタニヤフ被告人が大軍をガザ地区に送り込み殺戮を続けています。そして広島に集ったG7のうち、日本を除く米英仏独伊加や欧州委員長らは核兵器保有国でもあるイスラエルべったりです。ゼレンスキーも核兵器保有国であるロシアによる侵略被害者のはずが、核兵器保有国かつ侵略者であるイスラエルを全面支持する始末です。G7広島サミットはまさに、ガザ虐殺応援団サミットだったことに結果としてなってしまいました。

また、これはサミット広島県民会議を管轄する湯崎英彦知事の暴走になりますが、平和記念公園内にG7広島サミットの常設展示コーナーを5000万円かけて設けるということです。恥ずかしいからやめていただきたい。

広島がガザ虐殺応援団サミットの場に結果としてなってしまった。そのことへの反省も松井市長の現時点での行動からはみじんも感じられません。松井市長には、どうせ訪米するならハワイへ行くよりも、それこそ、長崎市長とも歩調を合わせ、ワシントンやNYに行って、アメリカや国連にネタニヤフの暴走を止めるよう要求したらいかがでしょうか?

◆広島市は米国政府より、まずは市民と連携の「王道」を

ここで強調したいのは、広島市はあくまで自治体であるということです。そもそも、米国政府と組む、というのがおかしな話です。

むしろ、強化すべきは世界各都市(自治体)とそこに住む市民との連携です。11月27日からNYで第二回締約国会議が始まる核兵器禁止条約。この条約も市民運動が各国政府を動かしたのです。米国政府との連携を急ぐ前に、まずは各国市民との連携を密にする。そして、日本政府にもせめて核兵器禁止条約の会議にオブザーバー参加はするよう圧力をかけつつ、核保有国に迫っていく、というのが王道ではないでしょうか?

米国政府のエライ人に一生懸命に胡麻をすったところで、良いように利用されるだけではないでしょうか?

◆「サミット期待・評価」の野党政治家も反省を……平和都市ヒロシマ回復への道

また、くりかえしになりますが、G7広島サミットについては立憲民主党や日本共産党などの国政野党の県議も2023年統一地方選におけるマスコミや市民団体のアンケートに答える形で「G7広島サミットに期待」「G7広島サミット誘致を評価せず」と表明してしまいました。筆者自身は県議候補では唯一「サミットに期待せず」「評価せず」と回答しました。その後の広島ビジョン発表で、日本共産党などの県議はあわてて政府批判に転じましたが、遅すぎました。すでに、松井市長や湯崎知事はアメリカ忖度の方向で暴走を加速した後でした。G7という核保有&イスラエル応援団に悪用され、「米国忖度都市HIROSHIMA」に変質しつつある広島。

一方で、2023年統一地方選でも広島市議選の候補者では、日本共産党や保守系無所属の一部候補でも「サミットに期待しない、誘致を評価しない」という筆者と同じ回答をした方もおられます。

国政野党の皆様にもご反省をいただいたうえで、平和都市ヒロシマを取り戻すため、ともに進んでいただきたいと強く要望します。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◆一帯一路「国際協力フォーラム」

去る10月17日と18日、中国の北京で第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが開かれた。

10年前、習近平主席の提唱でつくられたこの巨大経済圏構想「一帯一路」には、現在、国連加盟国193カ国中約8割の152カ国が参加しており、今回のフォーラムには、20カ国の首脳が登壇した。

だが、2017年、第一回フォーラムの時は、29カ国、2019年、第二回フォーラムでは、38カ国の首脳が参加していた。

それに比べ、今回の首脳参加が減り、特に欧州からの首脳の参加がハンガリーのビクトル・オルガン首相一人だけだったのは事実だ。

これをもって、米欧側は、中国の力の減退を騒ぎ立てている。

◆一帯一路の評価で決定的に欠けていること

一帯一路に対する上記の米欧側の評価には決定的に欠けていることがあるように思われる。

それは、2017年、2019年から2023年、この数年の間には、2019年、米国が中国に対して仕掛けた「米中新冷戦」があったという事実だ。

この「新冷戦」で米国は、全世界に向け、中国に対する包囲を呼びかけた。

クァッド(米、日、印、豪)による包囲、広範な「民主主義陣営」による中国をはじめとする一握りの「専制主義陣営」に対する包囲、その他にも包囲は、ネットや最先端技術など、「経済安保」の広範な領域にまで及んだ。

問題は、こうした包囲の結果がどうなったかだ。

今回開かれた第3回国際協力サミットフォーラムで最も注目すべきは、このことだったのではないだろうか。

だが、残念ながら、日本の大手メディアにあっては、こうした視点からの今回のフォーラムについての分析が何もなかったように思う。

◆「フォーラム」で何が明らかになったか

確かに今回の「フォーラム」への欧州各国からの参加はなかった。

しかし、アジア、アフリカ、中南米、南太平洋地域などいわゆる「グローバルサウス」の国々から、140余りの国々、30余りの国際機関の代表が参加した。

これは、米国によって仕掛けられた中国に対する包囲網が完全に破れていること、すなわち「米中新冷戦」がすでに大きく破綻しているということを見ることができるのではないだろうか。

一方、この一帯一路に対して、米欧側は、「債務の罠」だとの攻撃を強め、一帯一路に基づく中国の援助により途上国、グローバルサウスの国々が借金漬けに陥り、借金の形に中国に隷属化されていっているというキャンペーンを強めている。

実際、これが事実無根の誹謗中傷ではなく、こうした現実があるのは事実のようだ。

今回の「フォーラム」でも習近平主席自身、鉄道や道路建設など大規模投資中心から小規模事業投資優先、人への投資へと援助のあり方の転換を打ち出し、環境問題やきめ細かい支援を重視する姿勢を明らかにしたという。

この発言が単に米欧側の覇権の競争相手、中国に対する「債務の罠」攻撃をかわすための虚言なのか、それとも真に途上国への支援のあり方の改善を考えてのものなのかは、これからの「一帯一路」の進展がどうなるか、その現実によって判定されるのではないかと思う。

その上で、重要なことは、この開発援助こそが、米欧による援助と中国による援助を分ける決定的な違いになっているということだ。

米欧が新自由主義経済の見地から、経済自由化の法整備を強調し、市場メカニズムが貫徹されれば自ずと経済成長が実現されるというカネを出さない「援助」なのに対し、中国による援助が成長の起動力として大規模プロジェクトの必要性を痛感している途上国の要求に応えるカネを出す援助になっているということだ。

ユーラシア全土にわたる広域開発計画で、一帯一路の双方で交通、通信、エネルギー等のインフラの接続などの開発構想を提示しているのなどは、その一例だ。

今日、中国の一帯一路が「シルクロード経済ベルト」(一帯)、「21世紀海上シルクロード」(一路)の枠を超え、アフリカ、中南米、南太平洋地域にまで広がって行っているのには理由があり、この辺に「米中新冷戦」による中国包囲網が完全に破綻した要因があると言えるのではないだろうか。

小西隆裕さん

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼小西隆裕(こにし・たかひろ)さん
1944年7月28日生。東京大学(医)入学。東京大学医学部共闘会議議長。共産同赤軍派。1970年によど号赤軍として渡朝。現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

パレスチナ・ガザ地区では、イスラエルの総理・ベンヤミン・ネタニヤフ被告人※による攻撃で子どもを中心に多数の犠牲者が出ています。こうした中、広島でもネタニヤフ被告人に対してガザでの虐殺を止めるよう要求する行動が行われています。

(※イスラエルの現総理のベンヤミン・ネタニヤフ被告人は、日本の総理だった故・安倍晋三さんとほぼ同じようなことをやって、イスラエル警察に送検され、検察に起訴され、現職総理のまま被告人になっています。妻のサラ被告人も日本の安倍昭恵さんとほぼ同じことをやったとして罰金刑が確定しています。ネタニヤフ被告人は安倍さんと違い、野党共闘に打倒されましたがすぐに返り咲き、イスラエルの司法を日本の司法のように総理=行政府に忖度する司法に改悪しようとしています。)

このうち、11月3日の文化の日=日本国憲法公布記念日には原爆ドーム前でNO WAR NO KISHIDA 11・3ヒロシマ憲法集会2023が行われました。

 

広島市立大学准教授の田浪亜央江さん

各界のアピールの中では、広島市立大学准教授の田浪亜央江さんが中東研究者として発言。

「なんでこれまでもっとガザについて発信してこなかったのか? 後悔している」と振り返りました。

「かろうじてアメリカとは一線を画して中東アラブ諸国との関係を維持してきた日本が安倍政権下で特にイスラエルとの関係強化を図り軍事協力を進めてきた。その日本の責任は本当に大きい。日本のこの間のイスラエルとの軍事協力強化その動きは世界的に見ても突出している。」

「安倍政権で武器輸出3原則が変更され、原則自由、紛争当時国のみは除外するということで日本政府はイスラエルを紛争当事国と認めなかった。しかし今少なくとも、日本政府の立場に立っても今こうやって日々ガザの虐殺を進行しているイスラエルが紛争当事国でないわけはない。」と指摘。

「今私たちがすぐできることとしてイスラエルと日本の軍事協力をすぐに辞めさせることだ。自衛隊とイスラエルはもうすでに軍事協力共同研究を進めてきている。是非この場を借りてこのことを訴えたい。」と強調しました。

田浪さんたちは、毎日17時半、原爆ドーム前でガザ虐殺を止めろとスタンディングを行っておられます。じっと立ってくださるのでも構わないということです。夕方、広島市都心部に来られる方はちょっとでも良いのでのぞいてくださると幸いです。連絡先 tanami1012@yahoo.co.jp 

◆イスラエル=侵略者という原点

たしかに、ハマス政権(2006年のパレスチナ総選挙で勝利している)が、10月7日、ガザに対しては主に封鎖・武力行使、ヨルダン川西岸に対しては主にユダヤ人の入植という形で侵略を続けているイスラエルへの「反撃」を行いました。ただ、この「反撃」は民間人の拉致などを含むもので、国際人道法違反です。東京裁判に当てはめればいわゆるC級戦犯です。国際人道法は、侵略・攻撃側だけでなく、防衛側も守らなければならないものです。例えば、第二次世界大戦において、先に手を出した日本への米国の自衛権はあるが、東京大空襲や原爆投下は国際人道法に反します。ただ、世界最強の国・米国を裁けるような力を持った主体がないというだけです。

ところで、イスラエル自体が1948年の第一次中東戦争以降、とくに1967年のヨルダン川西岸やガザも含めた広範囲を侵略した第三次中東戦争以降、ずっとパレスチナ人を侵略してきました。そして、米国の仲介でパレスチナにおけるイスラエルとパレスチナの「二国家並立」で合意した1993年のオスロ合意以降も、イスラエルは約束を守りませんでした。特に、シャロン元首相が聖地訪問を強行してムスリムを挑発した2000年以降のイスラエルのやったことは酷すぎた。ヨルダン川西岸にはユダヤ人入植を続け、ガザは天井のない監獄状態に置かれてきた。そして、断続的に戦闘が行われ、多くの場合はイスラエルによるパレスチナ人への一方的な殺戮となった。上記の状況がある中で、ハマス政権による反撃が行われたわけです。

イスラエルがこの75年間ないし56年間やってきたことはいわば「平和に対する罪」であり「戦争犯罪」です。もちろん国際人道法にも反しています。東京裁判に当てはめれば、いわゆるA級戦犯、B級戦犯、C級戦犯すべてを含んでいるのが、これまでにイスラエル政府がやってきたことです。

◆G7広島、イスラエル全面支持の「こんな人たち」を集めた黒歴史だった

にもかかわらず、特にハマス政権による「反撃」当初は、米英仏独伊加といった日本以外のG7首脳は一致団結して一方的にイスラエルに与しました。言うなれば旧白人帝国主義国家の醜悪な面を嫌というほど見せつけられました。

ウクライナのゼレンスキー大統領もイスラエルを全面支持してしまいました。ウクライナについていえば、残念の一言です。侵略者イスラエルを一方的に支持したことに一片の正義もない。そして、ロシアに対する「ウクライナ防衛」という大義名分を自ら投げ捨ててしまいました。ゼレンスキー大統領は調子に乗ったのか、最近の「反転攻勢」が上手くいかずに焦っているのか、どちらかわかりませんが、ともかく、自分で自分の首を絞めてしまいました。これで、グローバルサウス諸国の中には、ウクライナーロシア戦争について「白人同士で勝手にやっておけ」という本音になってしまった国も多いのではないかと思います。ゼレンスキー大統領が支持を失うのは自業自得としても、巻き添えを食うウクライナ国民にとってはこのことは悲劇ではないでしょうか。

筆者は改めて「こんな人たち」(米英仏独伊加首脳+ゼレンスキー)を広島に集めたG7広島サミットは、広島にとって「黒歴史」だった、ということを改めて強く確信しました。

さらにこんなサミットの誘致を「評価」したり「期待」したりしてしまった、特に左派野党の政治家たちには反省していただきたいものです。

◆日本も米国の「最初は煽って後から梯子外し」にご注意!

さて、当初、米国は「ハマスは純粋な悪」(バイデン大統領)などと言ってイスラエルを煽りました。それにも支えられてネタニヤフ被告人が調子に乗って虐殺しまくっている面は否定できません。だがその後、国際的なイスラエル批判の世論を見て、だんだん、米国も一時戦闘停止などを言いだすようになりました。これをイスラエル側から見ればある種の梯子外しとも言えます。もちろん、米国でさえも距離を置かざるをえないこんな大虐殺を引き起こしたネタニヤフの自業自得ではあります。それでも、日本にとってはこれを他山の石としなければなりません。

米国の高官やマスコミは、2022年ころから2023年の前半くらいに、特に「台湾有事」を煽り立てました。それに呼応して麻生太郎さんらが「台湾(中華民国)とともに戦う覚悟」などと勢いづきました。

だが、そもそも、米国も日本も中華人民共和国が中国を代表する政府だ、と認めています。台湾を中華人民共和国軍が武力攻撃するような事態は絶対に避けなければならない。中華人民共和国とて、台湾=中華民国=の半導体には大きく依存しています。

しかし、万が一起きたとしても、日本に少なくとも武力で手出しをする権利は全くありません。「日本の安全保障に関わるから」程度で出兵したのならロシアのプーチン大統領によるウクライナへの自称「特別軍事作戦」と変わりません。日本はプーチンに対するのと同様の非難を米国以外のほとんどの国から浴びかねません。そして、「侵略者」の汚名を着た日本は中華人民共和国軍に「侵略への反撃」と称した攻撃の口実を与えてしまいます。そうなると、米国は米国で「俺たちは知らない」と米軍をグアムあたりに退避させることもあり得ます。下手をすれば南西諸島は中国軍の「日本による侵略への反撃」と称したミサイル攻撃にさらされます。またも沖縄は中央政府の捨て石にされる。本土に住む我々も、食料やエネルギーが止まり、下手をすれば日本が経済制裁の対象にでもなったら餓死よりほかなくなります。

今回のガザ戦争拡大における米国によるイスラエルを「最初は煽って後から梯子外し」について、日本人は刮目しておく必要があります。

日本国憲法9条とはまさに手を出して自滅しないようにする安全装置である。9条がありながら、台湾有事という名の中国の内戦にのめりこみ滅亡、などというバカげたことにならないよう、日本政府をチェックしなければなりません。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◆はじめに

 

10月下旬のフジTV「プライム・ニュース」では「“世界動乱の時代” の幕開けか」というテーマを取り上げた。ウクライナ戦争に続くハマスの軍事行動を契機に露わになった世界の現実を「(米国中心の)国際秩序の破綻か」としてとらえたものだった。

2023年は「パックスアメリカーナ(アメリカによる平和)の終わり」を世界が見、なかでも日本の誰もがそのことを知るようになった年になった。来るべき新年は「米覇権秩序の破綻」という現実を前提にこれにどう対処するかが問われるだろう。

とりわけ米国によって「対中対決の最前線」の役割を担わされたわが国にあって、それは明日のわが国の運命に関わる問題、他人事ではない。

◆「G7の孤立」さらした広島サミット

5月末にG7広島サミットが開催された。米国を中心とする「G7=先進国」が世界をリードするという会議だ。ここにはロシア制裁、ウクライナ支援に中立的態度をとるグローバルサウス数カ国首脳が招待され、目玉はゼレンスキー大統領出席の下、ウクライナ支援を世界に訴えるというものだった。

G7の「普遍的価値観、法の支配に基づく国際秩序」はG7会議が自ら認めるように、いま時代の厳しい挑戦を受けている。挑戦者は何も中ロ「修正主義勢力」だけではない、いまグローバルサウスと呼ばれる発展途上諸国が古い国際秩序から離反しつつある。

広島サミット後、G7に招待されたグローバルサウス諸国はこうG7を批判した。

「ウクライナとロシアの戦争のためにG7に来たんじゃない」(ルラ・ブラジル大統領)。インド有力紙は「ゼレンスキー氏の存在に支配されたG7」見出しの記事を配信。インドネシア有力紙は「世界で重要性を失うG7」見出しの記事を掲載、ベトナム政府系紙は「ベトナムはどちらか一方を選ぶのではなく、正義と平等を選択する」と書いた。

広島サミットはグローバルサウス諸国を取り込むどころか彼らの離反を招き、逆に「G7の孤立」を世界にさらす場になった。

8月、南アで開催のBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南ア)首脳会議では新たにサウジアラビア、アルゼンチン、イラン、アラブ首長国連邦、エジプト、エチオピアの6ヶ国の参加が認められ、BRICSはG7とは一線を画する新興国の国際秩序形成の巨大集団になった。

また9月にインドで開かれたG20首脳会議ではG7諸国が求めたウクライナ問題、「ロシアの侵略」明記やロシア非難の文言のない首脳宣言が採択されたことが世界の注目を集めた。また会議ではAU(アフリカ連合:20ヶ国網羅)の加入も決定され、G20でもG7先進諸国は全くの少数派に転落した。

今年、英国エリザベス女王の国葬の際、アフリカのある首脳は「女王は一度も植民地支配への謝罪の言葉を述べなかった」と不満を語った。また5月のチャールズ国王戴冠式の際にはインドと英国の間で若干もめごとがあった。カミラ王妃が即位式でヴィクトリア女王の王冠をかぶるかどうかを巡って起こったものだが、王冠の巨大なダイヤモンドは英国がインドから奪ったインド植民地化の象徴だったからだ。結果はその王冠をかぶらなかったが、インドは不快感を示した。7月に西アフリカのニジェールでは若手将校によるクーデターが起き、駐留フランス軍は年内撤収に追い込まれたが、いまも植民地主義の名残がしこりを残していることを示すものだった。

G7の「米欧日」先進諸国というのはかつての植民地主義者、帝国主義列強諸国だが、「韓国併合」を(当時の)国際法的に合法とする日本だけでなくかつて自分がやった植民地支配をまともに反省総括した国はどこにもない。「反省の模範」とされるドイツにしても「ナチスの残虐性」を反省しただけ、植民地主義に関しては反省も謝罪もない。米英仏「連合国」側の諸国は自分たちが「反ファッショ」正義の「民主主義国」側ということで反省の必要も感じていない。

だから「G7がリードする」米国中心の国際秩序はかつての植民地支配秩序の現代版「覇権秩序」に過ぎないことをグローバルサウス諸国は知っている。 

よって彼らがBRICSやG20でめざす国際秩序は、各国の主権尊重、内政不干渉、紛争の平和的解決といったASEANのような脱覇権の新しい国際秩序形成をめざすものになるだろう、パックスアメリカーナ、米覇権専横の時代は歴史の遺物として排斥される。

◆とどめを刺したハマスの先制的軍事行動

「パレスティナ置き去り-焦り」(読売10/9朝刊)-10月8日のハマスのイスラエルへの先制的軍事行動に対するマスコミの見方だ。サウジアラビアがイスラエルとの国交交渉に入り、UAE(アラブ首長国連邦)はすでに国交を結んだ、こうしたアラブ諸国の動きに「置き去り」にされるとの「焦り」をハマスの今回の軍事行動の理由としたが、果たしてそうだろうか?

そのような消極的なものではなく、パレスティナ国家樹立に向けた主導的、攻勢的、戦略的な観点に基づくものだという見方も可能だと思う。

その根拠は一言でいって、いまは米国の覇権力が衰亡段階にあることが明らかであり、よって米国の支えのないイスラエルなど怖くないとハマスが判断することはじゅうぶんありうることだ。

米国はいま、主戦場の対中対決に加え、ロシアの先制的軍事行動によるウクライナ戦争で「対ロ」の加わった二正面作戦を強いられ青息吐息なのに、このうえ「対中東」が加わる三正面作戦などとうてい耐えられるはずがない。だからいまはイスラエルとの戦争は負けない、いや勝てる-私たちにも想像できることが当事者のハマスにわからないはずがない。

事実、ハマス侵攻からほぼ1ヶ月も経った現在(10/31)、大量の戦車部隊待機のままイスラエルは空爆だけに終始している。イスラエル軍ガザ地区制圧戦争は北部の局地的侵攻に留まり「かけ声」だけに終わっている。「地上侵攻でハマス殲滅、ガザ地区完全制圧」を叫び、やられたら「十倍返し」が通例のイスラエル軍としては異例の事態になっている。米バイデン大統領自身「人質救出まで侵攻を停止するように」とイスラエルに圧力をかけたということだが、「人質救出」は「口実」、本音は「戦争にはするな」にある。最近は「中東地域派遣の米軍が攻撃を受けるから(実際、ヒズボラやフーシ派から無人機、ロケット攻撃を受けた)しばらく侵攻を控えてほしい」などと言い出している。

米国、イスラエルに戦意がなければいずれ停戦合意は成り、パレスティナ問題解決が国連などで上程され、発言権を失った米国に代わってロシア、中国、グローバルサウスの非米諸国が主導する解決案をイスラエルも受け入れざるを得なくなる事態に進むかも知れない。少なくともその可能性を秘めている。宿願のパレスティナ国家樹立も夢ではなくなる。

米ロ代理戦争のウクライナ軍「反転大攻勢」が半年以上も「かけ声倒れ」に終わり、最も軍事支援に積極的だったポーランド大統領が「ウクライナは溺れゆく人、なんにでもしがみつく。危険だ」とまで言うようになったが、ウクライナ事態に続く中東でのハマスの軍事行動は「米国の無力ぶり」を世界が知る上でとどめを刺したと言えるだろう。

◆動揺始まる日本の政界

2023年を通して「国際秩序の破綻」、すなわち「パックスアメリカーナの終わり」は、ウクライナとパレスティナでの戦争を通じて世界が眼にすることになった

米国によって対中対決の最前線を担う決断を迫られているわが国の政治家、政治勢力もこの「時代の潮目の変化」を誰よりも注視しているはずだ。先の鈴木宗男氏の大胆な訪ロ行動と「ロシアは勝つ」発言も「米国の終わり」を見越したものだろう。岸田派古参幹部の古賀誠氏は「日米安保に引っ張られすぎるのは危険だ」と岸田政権を批判した。対中対決を迫る米国との「無理心中」を躊躇する政治家、政治勢力が出てくる、いや、すでに出ていることを示すものだと思う。

新年に持ち越されたが「日本の代理“核”戦争国化」は米国の対中対決、対中“核”抑止力強化で譲れない日本への要求だ。これは何度もこの通信に書いたので詳細は省くがいつか必ずこれを押しつけてくる。「米国の終わり」の見えるいま、「米国との無理心中」を躊躇する政治家、政治勢力が出てくるだろうが、誰かを待つのではなく「無理心中拒否」の闘いを主導する政治家、政治勢力が出るべき時だと思う。

米国も日本国民の非核意識を恐れて虎の尾を踏まないように慎重に事を運んでいる。それは彼らの弱点でもあるということだ。ハマスの先制的軍事行動とまで行かずとも、主導的に非核を掲げ「核持ち込み」「核共有」を許さない「代理“核”戦争国化」阻止の積極的闘いを挑む時、日本人の性根が問われる時に来ている。

ピョンヤンからは「時代の風」を伝えることしかできないが、国内からこのような闘いが起こることを新年は期待している。いまはそのような時だと思う。

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)さん
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

イスラエルのギラッド・コーヘン駐日大使は10月13日、東京・丸の内の日本外国特派員協会で記者会見し、その中で10月11日にBS-TBSで放送された「報道1930」で、ジャーナリストの重信メイ氏が出演したことを問題視した。


◎[参考動画]イスラエル「総攻撃に移行する」“天井のない監獄”の現状は?【10月11日 TBS-BS 報道1930】|TBS NEWS DIG

重信メイ氏は、国際テロ組織、日本赤軍を率いた重信房子・元最高幹部の娘である。それゆえコーヘン氏は、メイ氏の番組出演が「市民を暗殺しても構わない」というメッセージを送ることになると主張。「殺人者やテロリストの一族」に発言の場を与えるべきではない、などと話した。

だが、これをウクライナ戦争の現状に例えてみれば、コーヘン氏の主張は珍妙極まりないものになる。現在、複数の日本人がウクライナ戦争および近隣国に「義勇兵」「医療スタッフ」「ボランティア」として参加しているが、誰がかれらを「テロリスト」と呼ぶだろうか?

イスラエルは、1936年のパレスチナ独立戦争を受けたピール委員会裁定(イスラエルはパレスチナの15%を国土とする)いらい、入植地を拡大することでアラブ人を隔離地に追いやってきた、いわば侵略国家なのである。ヨルダン川西岸・ガザ地区を隔離し、いわば「21世紀のアパルトヘイト政策」を行なっているのが、イスラエルなのである。

ロシアのクリミア併合、ドンバス併合が明らかに侵略戦争・領土分割であるとしたら、イスラエルのパレスチナ侵攻も、まちがいなく侵略戦争・領土併呑である。いまわれわれは、人間的な尊厳をかけてロシアと戦うウクライナ人を、英雄的だとすら称賛する。侵略者が占領地のロシア化、強制連行、殺戮やレイプを重ねるがゆえに、ウクライナ人の悲惨な現実に支援を惜しまない。

ロシアの侵略行為を許すならば、東ヨーロッパ(旧ソ連圏)全体が、あるいは極東がプーチンの専制支配に蹂躙される可能性があるからだ。パレスチナで起きていることも、侵略という本質は同じである。


◎[参考動画]イスラエルとパレスチナ双方の大使が都内で会見 互いに非難(2023年10月14日)

◆重信房子のハーグ事件への関与は立証されていない

日本赤軍はPFLP(パレスチナ民族解放戦線)の支援組織として、いわば公募ボランティアから出発し、のちに軍事作戦に従うことになるが、いわば義勇兵的な参加形態であった。

重信房子個人で言えば、ハーグ事件(オランダのフランス大使館襲撃・人質事件)の共同共謀正犯として起訴されたが、事実関係は公判でも明らかにされていない。ライラ・ハリド、カルロス(この事件の主導者)も、重信の関与を否定している。
コーヘン駐日大使は、リッダ事件にも言及している。

「私が尊敬するTBSのニュースで、50年前にイスラエル人を殺害した、重信の娘にインタビューしているのを見た。重信の娘は、日本のテレビでコメンテーターをしていた。これは何だ?」

日本赤軍(当時は赤軍派)は1972年5月、イスラエル・テルアビブのリッダ空港(現ベングリオン空港)で約100人を死傷させた銃乱射事件を起こしている。この点を念頭に置いた発言だが、じつはこの事件は民間人の死者の大半が、イスラエル兵の銃射撃だったことも明らかになっている。

すなわち、当初は管制室を襲撃するはずだったものが、警備のイスラエル兵と銃撃戦になり、民間人を巻き込んだ惨劇となったのだ。そしてこの作戦はPFLPが立案し、奥平剛士と安田安之、岡本公三が「パトリック・アルグレロ隊」(名称の由来は、70年にPFLPの作戦で殉死したニカラグア人)として参加したものだ(重信房子『革命の季節』『戦士たちの記録』幻冬舎刊参照)。当時の重信房子はPFLPの広報部の仕事を手伝っていて、作戦そのものに関与していない。


◎[参考動画]重信房子(元・日本赤軍) 第17回反戦・反貧困・反差別共同行動 in 京都での挨拶(2023年10月15日)

◆ハマスを生み出したのは、イスラエルである

コーヘン駐日大使への我々からのメッセージとして、あえてイスラエルをテロ国家と規定しよう。

なぜならば、遠因がイギリスの二枚舌外交(パレスチナにアラブ国家とユダヤ人国家を約束)にあるとはいえ、入植地の一方的な拡大と、自国民保護の名目で軍事占領、殺戮と隔離政策を推し進めてきたのが、イスラエルにほかならないからだ。
かつてのPFLPの抵抗も、現在のハマスの軍事行動も、イスラエルの侵略に原因があるのだ。

すでに75年にわたって、殺戮と蹂躙、血の報復が行われてきたパレスチナで、イスラエルはガザ地区への地上軍事侵攻、すなわちジェノサイドサイド(大量虐殺による民族浄化)に出ようとしている。そしてわれわれ日本人にとって、パレスチナ紛争はよくわからない問題である。

誰かに訊いてみるといい。パレスチナ紛争が侵略戦争であり、自分の住む家をうしなった難民問題であることを、どれほどの日本人が知っているだろうか。宗教紛争だと思い込んでいる日本人も少なくないはずだ。それゆえに、パレスチナ問題を熟知している重信房子、メイ母娘が解説につとめることが、いまの日本には必要なのだ。


◎[参考動画]【オプエドLIVE】重信メイ【緊迫の中東 戦火の根源を探る】(2023年10月18日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年11月号

 

本日発売! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年11月号

8月24日に始まった、東京電力福島第一原発から発生する核汚染水の海洋放出。1回目が9月11日に終了。第2回が10月5日に始まり、2023年度は4回に分けて予定されています。9月24日付の福島民報は、「廃炉作業に必要な施設整備のためにタンクを撤去する方針だが、タンクの解体で出る廃棄物の減容化や置き場の見通しは立っていない」と報道。政府はこれまで汚染水海洋放出について、「廃炉作業を安全に進めるためには、新しい施設を建設する場所が必要となり、タンクを減らす必要がある」と説明してきました。しかし、そのタンクの処分方法が決まっていないということは、廃炉のプロセスが未定であり、少なくとも現在行なわれている海洋放出は、廃炉にまったく結びついていないということです。本誌9月号では小出裕章・元京都大学原子炉実験所助教が、海洋放出の真の目的を「トリチウムが放出できないとなれば、核の再処理ができなくなるため」と喝破しました。そのとおり、日本政府はとにかく海に捨てたいだけです。

市民団体が9月1日に、海洋放出を強行した岸田首相、西村康稔経済産業相、小早川智明東電社長ら5人を刑事告訴したほか、「ALPS処理汚染水差止弁護団」(共同代表・広田次男、河合弘之、海渡雄一各弁護士)が9月8日、福島地裁で海洋放出を差し止めるため民事で提訴。その詳細を本誌でレポートしています。さらに今月号では、元『科学』(岩波書店)編集者で富山大学准教授の林衛氏に、トリチウムだけではない、「ALPS処理水」の危険性を示す科学的事実を聞きました。福島原発のデブリの処理は100年以上かかるといわれ、ならば汚染水海洋放出も100年を超えて行なわれることになります。これを止めることこそ、私たちが現在向き合うべき課題です。

麻生太郎自民党副総裁に「政権のがん」と言われた公明党。「平和の党」「政権のブレーキ役」を“金看板”として自称する彼らとすればお褒めの言葉となるのでしょうが、公明党は敵基地攻撃能力について専守防衛の立場から反対したことはないとして、麻生発言は「事実誤認」と弁解する体たらく。そして、軍事三文書が昨年末に易々と閣議決定したのは周知の通り。岸田軍拡で日本国民はすでに5年間で43兆円の支出を迫られ、“中国の脅威”でさらに増額となることも予測されます。しかも、日本政府はすでに発表しているウクライナへの総額1兆円の支援に加え、世界銀行からの復興支援金15億ドル(約2230億円)についても保証。国民の命と金を際限なく差し出すのが岸田政権、というより、すでに岸田首相の意図すら関係なく、事態が動いているのかもしれません。

今月号の足立昌勝氏の論考も指摘しているとおり、地域の平和は地域で、つまりアジアの平和を求めることこそ、あらゆる点で理にかなっているということでしょう。そのために、日本の戦後処理を総括する必要があります。関東大震災における朝鮮人虐殺も、もちろんそこに含まれます。ほか今月号では、“被災地”が高い壁に覆われたハワイ・マウイ島火災にまつわる大手メディアが書かない数々の“疑惑”、「XBB対応」のコロナワクチンが日本だけ接種拡大の“現実”など、ぜひ全ての方々に読んでいただきたいレポートを多数掲載しています。ジャニーズ以外にも「マスメディアの沈黙」といえる事例は社会に山積しており、そこに光を当てることこそ本誌の役割です。今月号も、書店でお見かけの際はぜひご一読をお願い致します。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年11月号

『紙の爆弾』2023年11月号

林衛富山大学准教授に聞く原発汚染水海洋投棄 
日本政府「安全」のウソ
原発事故汚染水 西村康稔経産大臣が無視する海洋放出の“損害額”
映画『福田村事件』原作者に聞く朝鮮人虐殺百年 
日本の“現在地”
ジャニーズ性加害問題 マスコミが触れない“本質”
ジャニーズよりも悪影響
創価学会に屈し続ける「メディアの沈黙」
旧統一教会「解散命令請求」めぐり自民党の“出来レース棄却”
辺野古裁判“敗訴”を機に日米地位協定の闇を問い直す
小渕優子・木原誠二起用の裏側
第二次改造内閣にみる岸田政権終焉の予兆
自然災害か、それとも人為的な破壊工作か?
日本企業も関与するマウイ島大火災の“疑惑”
立憲民主党・原口一博衆院議員インタビュー 
コロナワクチン「日本だけ接種拡大」の現実
米国覇権回復に向けた謀略的内実「統合の時代」と日本
アフリカで続く動乱の背景に欧米「新植民地主義」
“アメリカの戦争”への協力体制確立
合意された「米日韓軍事同盟」
茶坊主事務所のアイヒマン——
男色カルト集団を増長させてきた日本“令和の敗戦”
シリーズ 日本の冤罪43 続・日野町事件

連載
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
ニュースノワール 岡本萬尋
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
キラメキ★東京漂流記 村田らむ
裏から世界を見てみよう マッド・アマノ
権力者たちのバトルロイヤル 西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

◆代理“核”戦争国化の鍵、「有事の際の核使用協議体」

日米韓キャンプデービッド首脳会談を前にした本連載(8月5日付けデジタル鹿砦社通信)で次のように書いた。

“主要議題について「“核の傘”を含む米国の拡大抑止の強化も議論するとみられる」とすでに報道にあるように、日米韓“核”協議体創設について何らかの合意をめざす、これが米バイデン政権の狙いであろう。”

でも今回、このような合意は見送られた、しかし何としてでもこれを実現したい米国はきちんと布石を打ってきた。このことを以下、見てみたい。

なぜこれほど米国は日本の代理“核”戦争国化、そのための「有事における核使用に関する協議体」創設にやっきになるのか? 焦るのか? このことは8月5日付け本連載で詳しく述べたが、重要な問題なので視点を変えて、まずこのことを考えてみたい。

日本の代理“核”戦争国化は、米国にとって米中新冷戦戦略に必須不可欠の死活的課題だ。その理由は、対中対決で米核抑止力、特に戦域核領域、具体的には核運搬手段である戦術ミサイル(中距離ミサイル)分野では質量的に中国、朝鮮に圧倒的に劣り、「抑止」が効かない、つまり「威嚇」になっていない、そして戦争になれば必ず負けるというコンピューターシュミレーションの結果も出ている。

この劣勢挽回の切り札が「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」だ。

米国は戦略核ミサイル、ICBM(大陸間弾道弾)を使えば自国が核報復攻撃で壊滅的打撃を受けるから使う気はない。だから対中対決最前線と位置づける「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」が死活的課題になっている。

すでに岸田政権が閣議決定した「安保3文書」で敵基地攻撃能力保有、自衛隊に地上発射型「中距離ミサイル部隊」新設が決まった。最後に残った課題は、「核共有」論に基づく自衛隊の核武装化、そのためのNATO並みの「有事における核使用に関する協議体」創設だ。その切り札が韓国を巻き込んだ日米韓“核”協議体創設だと米国は考えている。

一言でいって、いまこの“核”協議体創設こそが対中対決で生死を決める最後の課題として残った。だがこれが簡単でないこともわかる。だから米国は必死だ、いやいまは焦っている。

では今回のキャンプデービッド会談でいかにその道筋をつけたか? このことについて見てみたいと思う。

◆「前のめりの米国」と書いた朝日

キャンプデービッド会談を評して朝日新聞(8月20日付け)はこう小見出しに書いた。

「前のめりの米 日韓のズレに懸念も」

「前のめり」ということは事を急いでいる、焦っているということだ。米国は何を急ぎ、なぜ焦るのか?

別の記事の見出しにはこうあった。

「日米韓、核戦略では温度差」

その内容はこうだ-「日本では核関与に前のめりな韓国への警戒心が強い」、首相官邸のある幹部は「(韓国に)取り込まれすぎるわけにはいかない」-要は「北朝鮮の核」対抗に積極的で「有事の核使用に関する協議」に前のめりの韓国に日本が引っ張られることへの警戒心が日本政府内にあるという「日韓のズレ」がある。この問題ではいちばん「前のめりの米」という朝日の評価は、「日韓のズレ」がわかるだけに「日米韓“核”協議体創設」合意を急ぎ焦らざるを得ない米バイデン政権の悪あがきを反映したものであろう。

非核を国是としてきた日本政府はできるなら国民の反発を受けるこの問題を避けたい、しかし岸田政権はこれが避けられない米国の強い要求であることもわかっている。本音は国民を説得する(世論を欺く)時間的余裕がほしいということだろう。

しかし「時間的余裕」はない。日米韓首脳会談を前に「日米韓でも拡大抑止(核)の協議を進めたい」とバイデン政権高官は述べた。そしてすでに4月末の尹錫悦((ユン・ソクヨル)大統領「国賓」訪米時、米韓間には米韓“核”協議グループ(NCG)新設が合意され7月には実務協議も稼働した、これに日本を引き入れ「日米韓“核”協議体」に発展させる、これが米国の最終的狙いだ。

このための仕掛けはすでに準備されている。

◆「仕掛け」役・尹錫悦(ユン・ソクヨル)

米国の狙う日本の対中・代理“核”戦争国化、その仕掛け役に任じられたのが韓国の尹錫悦大統領だ。

周知のように日韓関係「改善」を主導したのは尹大統領だ。彼は元徴用工賠償金問題で最悪化した日韓関係を「打開」すべく「賠償金の韓国立替」という離れ業をやった。このような韓国国民の猛反発を呼ぶ「売国行為」を敢えて犯してまでも日韓首脳会談開催につなげた。

 

『核の傘』日米韓で協議体創設、対北抑止力を強化……米が打診(2023年3月8日付け読売新聞)

尹大統領の「勇断」(バイデンの言葉)によって日韓首脳会談のメドが立った3月6日から二日後の8日、読売新聞は米国が日韓政府にこのような打診をしてきたことを伝えた。

「“核の傘”日米韓で協議体の創設」を! 

これを受けた尹大統領は4月末の「国賓」訪米時の「ワシントン宣言」に米韓“核”協議グループ(CNG)創設を謳った。これが日米韓“核”協議体創設の布石であろうことは明白だ。

今回のキャンプデービッドでの米韓首脳会談ではこのCNG稼働をバイデンが高く評価し、先述の言葉「日米韓でも拡大抑止(核)の協議を進めたい」を米政府高官に言わせた。

すでに韓国は「対北朝鮮・代理“核”戦争国化」に一歩足を踏み入れた。次ぎにこれを日本の「対中・代理“核”戦争国化」につなげる、その「仕掛け」役を「確信犯」尹大統領が果たして行くであろうことは疑いない。

◆「日韓を固定し米国を固定する」の意味

米国の執拗さと焦りの表現としてあるのが、今回の会談で日米韓首脳会談、閣僚級会談の毎年定例化、次官級協議の不定期定例化を「制度」として決めたことだ。

これを「日韓をフィックス(固定)し、米国をフィックスする」ことだと米政府高官は述べた。英語で「フィックス」は「動かないようにする」という概念だ。日本側からすれば「動けないようにされる」、縛り付けられるということになる。

読売社説はキャンプデービッド会談の意義を「今回の合意が極力継続するよう(日米韓)協力の枠組みを“制度化”したこと」としたが、制度化(固定化)しなければ揺らぐほど日米韓協力はもろいものだということの裏返しの表現でもある。

「日韓のズレ」は根強い、今回の日米韓首脳会談を論じる「プライムニュース」出演の日本の識者、政治家は「日韓の壁」「朝鮮半島の軍事は鬼門」「韓国とリスク共有は“?”、つまり疑問」とすべて悲観的だ。米国からすれば、だから日韓を「固定化」(会談の制度化)し「韓国とリスク共有」を渋る日本の尻を叩く必要があるということだ。

また韓国の尹錫悦政権は脆弱だ。大統領選でも僅差でやっと勝った、また国会は野党、共に民主党が絶対多数を占め政権側の法案も否決される場合が多い。それを強権で乗り切っているのが尹錫悦大統領だ。次期、大統領選では政権が変わる可能性が高い。だから政権が変わっても「今回の合意が極力継続するよう協力の枠組みを制度化」(読売社説)したのだと言える。

キャンプデービッドで日米韓「固定化」を強要したのも米国の焦りの表現だ。

今回、日米韓“核”協議体創設合意は見送られたが、「制度化」された首脳級、閣僚級会談、次官級協議で日本をフィックスし、がんじがらめに縛り付けた上で日米韓の「有事に関する核使用に関する協議体」創設は強引に進められるだろう。

◆「無理心中」同盟

いま西の米国の対ロ対決・代理戦争、ウクライナ戦争での米国の敗北は避けられないものになっている。

5月頃から「反転大攻勢」のかけ声勇ましいゼレンスキーだが、最近の「南部戦線でロシアの第一防御線突破」報道はあったが地雷原を越えた程度であり、2.5メートルという深い塹壕戦防御陣形をとるロシア防御線の戦車突破は至難の業だ。新聞報道ではもしこのまま冬が来ればぬかるみになる戦場で戦車も動かせなくなる。だから「戦果」を焦る米国はウクライナ軍を分散配置ではなく南部に集中させることをゼレンスキーに「勧告」、その結果がこの程度の「戦果」だ。ぬかるみが固まる来年春か初夏までゼレンスキーには何の「戦果」も得られない、「反転大攻勢」は空文句に終わる。このままでは来年以降の欧州諸国の「ウクライナ支援」は確実に動揺する、そう報道は伝えている。

ウクライナ国防相解任があったが兵士用の食糧、衣服が市場価格の2~3倍で購入され差額は汚職されたからだ。徴兵募集当局もワイロで「兵役免除」汚職蔓延で更迭改編されるなど醜態の続くゼレンスキー政権が国民から見放される日も遠くはないだろう。こんな代理戦争で誰が愛国心に燃えて「祖国防衛戦争」に命を懸けられるというのだろう。

フランスのマクロン大統領は訪中後、「欧州は対米従属を続けるべきではない」と言明して世界を驚かせた。英国を除く他の欧州諸国も心の中ではそう思っている。

ウクライナ戦争での敗北は米覇権の衰退滅亡を早める。それだけに東の米中新冷戦戦略実現に米国は自己の覇権の死活を賭けてくる。その矛先は対中対決・最前線とする日本の代理“核”戦争国化だ。

いまや「米国についていけば何とかなる時代ではない」どころか「覇権破綻の米国と無理心中するのか否か」が問われる時代になった。

今回のキャンプデービッド会談は日米韓「無理心中」同盟を日本に迫るものになったとも言える。

焦れば焦るほど米国の強引さは苛酷になるのは必至だ。岸田政権にこれを拒む力はないだろう。現在のままの野党政治勢力に期待するのも難しい。では希望はないのか?

◆希望はある

いま国民の間でタモリの「新しい戦前」という言葉が共有されつつある。これは日本という自分の国の運命を憂える心、自身の運命を日本に重ねる憂国、愛国の心の萌芽とも言える。この「新しい戦前」の正体が対中・代理“核”戦争国化、米国と「道連れ心中」の道であることが国民の共有する「身に迫る危険の正体」の認識になって、この憂国、愛国の心が大きな塊になれば、「新しい戦前」阻止の力になるだろう。


◎[参考動画]タモリ「(来年は)新しい戦前 になるんじゃないですかねぇ」(テレビ朝日『徹子の部屋』2022年12月28日放送)

いま政界再編に向けた動きが活発化している。その動きの底流には「新しい戦前」阻止の政治勢力の存在がかいま見える。

最近、岸田派(旧宏池会)古参幹部のハト派、古賀誠氏が次のような発言で岸田政権を批判した。

「日米安保に引っ張られすぎるのは危険だ」と。

古参の自民党政治家には「新しい戦前」の正体が何かはわかっているはずだ。

いま政界再編は二つの「改革」を巡るものになる可能性を秘めている。

一つは親米「改革」、日本の対中・代理“核”戦争国化、そのための日米統合「改革」推進勢力だ。

いま一つはその逆の改革を志向するいわば「新しい戦前」危惧の憂国、愛国の政治勢力だ。それはまだ萌芽にすぎないが、この政治勢力と「新しい戦前」危惧の国民の声が合体すれば大きな力になる可能性を秘めるものになる。

希望はある。だから希望実現に少しでも力になれるよう私たちも「ピョンヤンから感じる時代の風」発信を続けていく。

若林盛亮さん

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)さん
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

◆低下した米国人の愛国心

今年3月、ウォールストリート・ジャーナル紙とシカゴ大学の合同最新世論調査結果が発表された。それによると、この間、米国人の愛国心には非常に注目すべき変化があったという。愛国心が極めて重要と答えた人が全体の38%、ある程度重要と答えた人が35%だった。これは、1998年度における同様の調査で、極めて重要と答えた人が70%だったのに比べた時、驚くべき変化だという。

同様の結果は、ギャラップ社の調査からも報告されている。昨年、米国の建国記念日当日、この日を米国人として非常に誇りに思うと答えた人は38%に過ぎなかった。2001年以来、同社の調査で、55%を下回ったことは一度もなかったことを考えた時、この急激かつ大幅な下落は、一体何を意味しているのだろうか。

これまで、移民の国と言われ、多様な人種、宗教などからなる米国を一つにまとめる精神的拠り所として、愛国心は決定的だった。そこにこそ、建国以来、南北戦争など幾多の危機を乗り越えてきた米国のエネルギーの源泉があったと言うことができる。

その愛国心が今なぜこうなってしまったのか。その原因について考えるのは、意味のあることだと思う。

◆なぜ低下したのか、米国人の愛国心

米国人の愛国心低下の原因について考えた時、それは、第一に米国人自身の変化に、第二に米国という国そのものの変化に求めることができる。

第一について言われているのは、米国人の個人主義の深まりだ。

先のウォールストリート・ジャーナル紙は、「多くの人々が自分の権利をより重視するようになり、並行して自分のコミュニティへの関与の度合いが減ってきている。米国人としての共通の価値観よりも、それぞれが持つ異なる人種的、文化的バックグラウンドへ関心が集まり始めている」というある塗装業者(33歳)のコメントを載せている。

それも一理あると思う。だが、個人主義の深まりは、何も今に始まったことではない。

移民の国、米国の共同体としての歴史は長くない。もともと強い個人主義、それが米国の特徴だと言われてきた。

その上に、グローバリズム、新自由主義がそれを一段と促進したのは事実だと思う。「国の否定」、「格差、差別の拡大」、そこから少なからぬ人々が自らの人種的、文化的バックグラウンドに関心を持ち、自分の世界、自分の価値観に引きこもるようになったのは十分に考えられる。

しかし、それだけではない。米国人の愛国心低下の原因として一層深刻に考えられるのは、米国という国そのものの変化だ。一言で言って、米国が米国人にとって、愛し信じて誇るべき国ではなくなってしまったと言うことだ。

今世紀に入りながら、米国の政治は「1%のための政治」と言われ出した。長期に渡る経済停滞と拡大する貧困、産業の空洞化と寂れ行くラストベルト地帯、それとは対照的に、繁栄と栄華の極みを尽くす「金満ウォール街」。

一方、イラク、アフガン、シリアへと続く反テロ戦争の広がりと泥沼化。米国人にとって、それは、「世界の警察」としての虚構が完全に打ち砕かれる過程であったのではないか。

それに加えてさらに深刻なのは、人種、民族が融合しているのではなく、サラダボール状になっていると言われる米国社会のさらに深まり拡大する分裂、分断だ。それは、泥仕合の様相を呈する民主党と共和党の対立激化などと相まって、収拾のつかないものになってきている。

人々が身を委ね、運命をともにする国としての体をなさなくなってきている米国にあって、人々の愛国心が低下するのは必然だと言えるのではないだろうか。

◆戦後日本政治と愛国心

戦後日本の政治にあって、愛国心が主張されたり、人々の愛国心に訴えて政治が行われたりすることがほとんどと言っていいくらいなくなった。極少数の極右の人々を除き、右も左も愛国心は、禁句になった感がある。

「愛国」で始められた第二次大戦は、それへの裏切りで幕が下ろされた。以来、日本の政治において、「愛国」は、軍国主義の代名詞とされ、ほとんど使われないようになった。

もう一つ、戦後日本政治で「愛国」が言われなくなった理由がある。そこに介在していたのは、もちろん「米国」だ。

元来、他国を支配し統制する覇権と愛国は相容れない。と言うより、覇権国家にとって、被覇権国家の国民が持つ愛国の心は邪魔者であり敵対物だ。実際、米国による日本に対する覇権は、日本人の愛国心の抑制の上に成り立ってきたと言っても過言ではない。

だから、米国にとって、戦後日本政治で「愛国」が軍国主義の代名詞になり、禁句になったことは、もっけの幸いだったと言えると思う。

そうした条件の下、米国は、日本をただひたすら「米国化」してきた。その結果、メシからパンへ、石炭から石油へ、日本の社会と経済、政治、軍事から文化に至るまで、そのあり方の総体が米国化されたと言っても決して過言ではない。

そして今、米国は、自らの覇権回復戦略、「米対中ロ新冷戦」を引き起こしながら、その最前線に日本を押し立て、日本に「東のウクライナ」として対中対決の代理戦争をやらせるため、今まさに日本の米国化を全面化してきている。駐日米大使ラーム・エマニュエルがその大使への指名承認公聴会で「日米統合」に力を尽くすことを誓ったのはそのことだと言うことができる。

事態は簡単ではない。もはや日本人の愛国心そのものが風前の灯火となり、完全になくされてしまう時が来たということか。

だが、そんなことにはならないと思う。スポーツなどで、日本人や日本チームを応援する心、その活躍を喜ぶ心は、愛国心ではないのか。科学技術などで、日本の立ち後れを知った時、それを残念に思い悔しい思いを抱くのも愛国の心ではないのか。

自分の国、自分の故郷や家族、自分の集団を思い、気に掛け、愛するのは、社会的で集団的な存在である人間の本質的な特性だと言える。

今、日本に求められているのは、そうした日本人自身が持つ愛国の心に応え、訴える政治をすることだと思う。それこそが日本を「東のウクライナ」への道から救い出す唯一の道ではないだろうか。

◆今、求められる真の愛国政治

戦前、日本政府は、うち続く帝国主義相互間の覇権抗争の中、日本国民の愛国心を利用して、「鬼畜米英」を煽り、帝国主義間抗争に勝ち抜く「愛国心」をたきつけて軍国主義をやり、あの戦争を敢行した。

こうした戦前の政治と今、「米対中ロ新冷戦」を前に日本に提起されている政治、この二つの政治の間には、前者が帝国主義為政者の侵略的野望から出発し、日本国民の愛国心をそれに利用したのに対し、後者が日本国民自身の持つ愛国の心から出発し、為政者がそれに応え訴えることが問われているという本質的な違いがある。

この本質的違いを前に、今の為政者に問われていることは、自分の政治的、政策的目的、意図から出発し、その実現のために国民の愛国心に対するということがあってはならないということではないだろうか。もし、自分の政治的、政策的目的のために国民の愛国心を利用するということがあったなら、それは、戦前の帝国主義者と同じであり、国民の愛国心を奮い起こして米国の策謀を打ち破ることは決してできないと思う。徹頭徹尾、国民大衆の愛国の心から出発し、その実現のために闘うこと、この真心にのみ闘争勝利の鍵があるのではないだろうか。

今は、帝国主義覇権の時代ではない。戦後78年、生き延びてきた米覇権も、国と集団そのものを否定する究極的覇権思想、グローバリズムと新自由主義が破綻する中、覇権生き残りの最後の手段、「米対中ロ新冷戦」にしがみつきながら、ウクライナ戦争とともにその最後の時を迎えているように見える。

覇権VS愛国、時代は、明らかに反覇権・自国第一・愛国の時代になっている。先の広島G7にあって、招待されたグローバル・サウス諸国のゼレンスキー支持拒否の一致した行動は、そのことをこの上なく明瞭に示していた。

この世界に広がる愛国の時代に、日本国民の間に生まれた「新しい戦前」、脱戦後の意識、まさにこうした自分の国である日本を憂いながら、あくまでそこに身を委ね、運命をともにする国民大衆の愛国の意識に応え訴える闘いを起こしていくことこそが今切実に求められているのではないだろうか。

小西隆裕さん

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼小西隆裕(こにし・たかひろ)さん
1944年7月28日生。東京大学(医)入学。東京大学医学部共闘会議議長。共産同赤軍派。1970年によど号赤軍として渡朝。現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

「小出裕章―樋口英明」対談を去る7月20日松本で両氏にお願いした。松本での対談は昼過ぎからはじまり、前半後半あわせると6時間近くに達した。

『季節』は脱・反原発を中心に据えた季刊である。対談の冒頭、小出さんは原発問題の重要性と同様に「戦争」について発言された。戦争についての認識はお二人の間に少し違いがある。そこが対談の妙味である。やや先ではあるが9月11日に発売される『季節』をぜひ手に取ってご覧いただきたい。

◆何が何でも仮想敵国を据えておきたい国

「反戦」と「反核」(あるいは「反原発」)を論じることが困難度を増している。日本が平和主義を謳った憲法を持つ国である実感は、意図的に限りなく希釈されている。

「敵地攻撃能力」、「集団的自衛権」、「秘密保護法」、「盗聴法」、「海外派兵」、「国旗国歌法」……。これらはいまから振り返ってこの20年ほどのあいだに生起した法律ならびに出来事だ。そして2023年8月、ロシアとウクライナの戦争ではロシアだけではなく、ついにウクライナも「クラスター爆弾」(ウクライナがクラスター爆弾を使うに至り新聞はその呼称を急に「集束爆弾」と言い換えている)を使用するに至っている。モスクワ近郊でも無人機による爆撃が相次ぎ、ここへきて国際社会の中にも「停戦」を進める声が高まってきた。


◎[参考動画]米国がウクライナへの「クラスター爆弾」供与の決定に各国から反対の声(TBS【news23】2023/07/11)

他方、日本は軍拡のためには何が何でも仮想敵国を据えておきたいようだ。最近の仮想敵国は中華人民共和国と朝鮮民主主義共和国そしてロシア。そうだ、韓国が尹錫悦政権(保守政権)に代わるまでは、韓国をも敵視していたことも忘れてはいけない。

中国と日本のあいだには「日中平和友好条約」が結ばれている。米国ニクソン政権の中国と国交回復を視野に入れて、日本は「中華民国」(台湾)との国交を断絶し、大陸の政権と手を結んだのだ。けれども、台湾と日本の関係は実態が変わったわけではなく、中国との国交樹立後も台湾、中国双方と懇意にしてきた。国際条約の上で「日本と台湾の間には国交がない」ことは日本の中で案外知られていないのではないだろうか。

かたや中国と台湾の交流は数値化するのが不可能なほど深く結びついている。先富論により経済が資本主義化した中国は、市場があれば世界中何処へでも物を売る。自動車の輸出台数はついに昨年世界一になった。その逆に食糧輸出国から輸入国になって久しい13億人の胃袋は、さらなるタンパク質と美食を求めて、世界中の食物原料確保先を日々捜し歩いている。

勿論言葉も通じるし小さいながらも技術大国、台湾との間には25年以上前から深い人的交流が交わされている。台湾の現政権は民主進歩党(民進党)で、民進党は台湾独立を指向しているが、国民党は前総統馬英九が中国政権と親しい関係を維持している。

わたしの素朴な疑問なのだが、このような中国と台湾の間で「戦争」を起こしたいと当事者が望むだろうか。相互に多大な投資をして、人的にも結び付きが深い中国と台湾が、のっぴきならない状態になるだろうか。もちろん将来の出来事などは予測できない。けれども、もしそのような危機を望む集団がいるとすれば、それは覇権に関しての争いではなく、「軍事産業」の利益に関わることではないだろうか。


◎[参考動画]【総火演】陸自最大「富士総合火力演習」“進化する戦い方”も公開(日テレNEWS 2023/05/27)


◎[参考動画]宮古陸自施設で射撃訓練公開 抗議する住民の姿も(沖縄テレビ 2023/7/10)

◆敗戦の日に考える「平和主義」

2023年敗戦記念日のきょう、日本では憲法で謳われた「平和主義」が、相当に弱っている。逆に根拠なき「好戦論」、「軍事拡張論」、「日本は素晴らしいナルシズム論調」はかつてなく、恥知らずに胸を張っている。戦後に生れた世代のわたしが「次なる戦争」を肌身に感じる居心地の悪さは、既に日本人の頭の中が1930年代初頭同様に洗脳されていると感じるからだ。

当時の情報統制に比べれて洗脳の度合いは情報機器(スマートフォン)の進歩・拡散により、さらに静かに深く進んでいまいか。インターネットにしても決して自由な言論空間だとは思えない。他方マスメディアは、相も変わらず体制の提灯持ちだ。国民が騙される(すでに騙されている)土壌はかつてよりも汚泥のように厄介だ。

平和を指向する意思が弱っている。好戦論が元気だ。なぜだろう。漫然とした虚構が徐々にあまねく言論空間を侵食しているから、このような幻想・妄想がまかり通るのだ。

虚構を振りまく連中の姿が見えるだろうか。奴らは「反戦」や「平和」に、後ろ足で砂をひっかかけて、日銭(といっても驚くほど高額な)を稼いでいる。凝視しよう。見定めよう。敵の本性や氏名を明らかにしよう。そして嘘をつかない、裏切らないひとびとの姿を確認しよう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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◆キャンプデービッド日米韓首脳会談の目的-日米韓“核”協議体の創設

8月6日は「原爆投下の日」、8月15日は「敗戦の日」(一般には「終戦の日」)としてわが国で全民族的、全国民的な「歴史の記憶」が刻まれた日、その悲惨な記憶の教訓から「非戦非核の誓い」が生まれた日だ。敗戦後の日本はいわゆる「一億総懺悔」と言われるが、これは決して懺悔ではない。そういう意味で8月はわれわれ日本人にとって大切な民族的良心、国民的良心の象徴、「非戦非核の誓い」の月間だと言える。

その8月の「歴史の記憶」の日々直後の8月18日、岸田首相は訪米する。日米韓首脳会談に臨むためだ。それは「非戦非核の誓い」を愚弄するものになるだろう。

今回の3ヶ国首脳会談のためにバイデン大統領は合衆国大統領別荘キャンプデービッドで会談を行うと表明した。キャンプデービッドでの首脳会談はこれまで数々の外国首脳との重要会談が行われ、わざわざ「キャンプデービッド会談」と特別扱いで呼称される。そのキャンプデービッドで行う今回の日米韓首脳会談をいかに米側が重視しているかを象徴するものだ。

主要議題について「“核の傘”を含む米国の拡大抑止の強化も議論するとみられる」とすでに報道にあるように、日米韓“核”協議体創設について何らかの合意をめざす、これが米バイデン政権の狙いであろう。

すでに米韓の間には米韓“核”協議グループ(NCG)創設がG7広島サミットを前にした4月末の尹錫悦(ユン・ソクヨル)「国賓」訪米時に合意されている。このNCGの狙いは広島サミット時の日米韓首脳会談でこれに日本を引き込むことだった。ところがこれはバイデンの国内政治混乱で急遽、帰国という「突発事故」で実現しなかった。8月の派手に演出されたキャンプデービッド会談は広島サミット時にできなかった日米韓“核”協議体創設合意を日本に飲ませること、これがバイデン米国の狙いであろうことは明らかだ。

日米韓“核”協議体、それはNATOのような核使用に関する協議システム、NATO並みの米国と日本との「核共有」システム、有事には自衛隊も米国の核使用を可能にする「拡大抑止」協議システムの創設が米国の狙いだ。

その究極の狙いは、日本の対中(朝)代理“核”戦争国化にある。これが現在の米国の日本への要求、戦後日本の非戦非核の国是放棄を迫る「同盟義務」遂行要求だ。

具体的には、米国の戦術核を自衛隊の地上発射型の中距離ミサイルに搭載可能にすることだ。なぜかと言えば、米国は自国から発射するICBM(大陸間弾道弾)は使わない、相手国の核報復攻撃で自国が壊滅的被害を受けるからだ。だから日本列島を対中(朝)・中距離“核”ミサイル基地化して「拡大抑止力強化」を図る。言葉を換えれば、自分を後方の安全地帯に置いて日本に対中(朝)代理“核”戦争の最前線を担わせる、これが米国の隠された陰険かつ邪悪な企図だ。

対ロシアで米国がウクライナでやっていること、それを対中国で「同盟義務」として日本にやらせる卑劣で危険なこの米国の企図を知ってか知らずか野党もマスコミも誰も問題にしていない。とても危険なことだ。だからこの通信の場を借りて強くその危険を訴えたいと思う。

◆周到に準備された日米韓“核”協議体創設

「日本の代理“核”戦争国化」などというと「ピョンヤンからの極端な見解」「杞憂」と思われるかもしれない。でも現実はそのように動いて来たし、今その実現段階にまで迫っている。そのことを以下、述べたい。

これまで米国は用意周到かつ注意深く推し進めてきた。それだけ日本人の「非戦非核」意識を警戒し、いかに細やかな注意を払ってきたかということ、それは逆に米国の本気度を表しているということではないだろうか。

起源は、2017年末に行われた米国家安全保障戦略(NSS)改訂にまで遡(さかのぼ)る。トランプ政権下で改訂された米NSSの基本内容は以下の二点に集約される。

① 主敵を中ロ修正主義勢力としたこと。

「現国際秩序(米覇権秩序)を力で変更しようとする危険な修正主義勢力」として中国とロシアを「強力な競争相手」、主敵と規定した。ここから今日の対中ロ新冷戦体制づくりが始まったと言える。

②「米軍の(抑止力)劣化」を認め、これ補う「同盟国との協力強化」を打ち出したこと。

このNSS改訂に基づき「同盟国」日本への「同盟義務」圧力を米国は加え始めた。

その「同盟義務」とは、「米軍の劣化」を補う自衛隊の抑止力化(攻撃武力化)、専守防衛という「盾」から「矛」への転換であった。

これはすでに昨年末の岸田政権の国家安全保障戦略改訂、「安保3文書改訂」の要である「反撃能力(敵基地攻撃能力)保有」で現実のものとなった。

しかし単なる「自衛隊の矛化」、反撃能力保有だけが米国の目的ではない、より本質的な狙いは「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」、具体的には「核共有」論に基づく自衛隊の核武装化による日本の代理“核”戦争国化にある。

以下、このためにいかに米国が周到な準備を進めてきたかを見たい。

その先駆けは2021年、米インド太平洋軍が「対中ミサイル網計画」として、日本列島から沖縄、台湾、フィリッピンを結ぶいわゆる対中包囲の「第一列島線」に中距離ミサイルを配備する方針を打ち出したことだ。米軍の本音は日本列島への配備であり、しかも計画では米軍は自身のミサイル配備と共に自衛隊がこの地上発射型の中距離ミサイルを保有することも暗に求めた。

 

2023年1月23日付読売新聞

その2年後の今年、1月23日の読売新聞は大見出しにこう伝えた。

「日本に中距離弾、米見送り」(読売朝刊)と。

その記事はこう続く。

「米政府が日本列島からフィリピンにつながる“第一列島線”上への配備を計画している地上発射型中距離ミサイルについて、在日米軍への配備を見送る方針を固めたことが分かった」

その理由はこう説明された。

「日本が“反撃能力”導入で長射程ミサイルを保有すれば、中国の中距離ミサイルに対する抑止力は強化されるため不要と判断した」と。

「安保3文書」で「反撃能力の保有」、長射程ミサイル保有を決めた日本が米軍の肩代わりをしてくれるなら「在日米軍への中距離ミサイル配備は不要」という論法だ。

「安保3文書」では「反撃能力保有」の要として「陸自にスタンドオフミサイル部隊の新設」が盛り込まれた。この陸上自衛隊の新設部隊が「中国の中距離ミサイルに対する抑止力」として米軍の肩代わりをする役目を帯びることになるということだ。スタンドオフミサイルとは敵の射程外から発射できるミサイル、わかりやすく言えば長射程の中距離ミサイルのことだ。「中距離ミサイル」と言わずにわざわざ日本人にわかりづらい英語表記を使うところにも、国民にわからないように事を進めていくことにいかに神経を使っているかを示すものだ。

なんのことはない、「日本に中距離弾、米見送り」の真意は米軍に代わって自衛隊が対中ミサイル攻撃をやれ! ということだ。

そして次には自衛隊のミサイルへの“核”搭載問題を解決することだが、これは非核三原則など非核意識の高い日本に強要するのは難題と米国は見ており、注意深く巧妙に「拡大抑止力」提供という形で議論を進めてきた。

昨年5月、バイデン訪日時の日米首脳会談で米国が日本への核による「拡大抑止」提供を保証したが、この時、河野克俊・元統合幕僚長は「米国から核抑止100%の保証を得るべき」だが、「それはただですみませんよ」と日本の見返り措置、その内容を示した。

「いずれ核弾頭搭載可能な中距離ミサイル配備を米国は求めてくる、これを受け入れることです」と。

この時点では米軍基地への核搭載可能な中距離ミサイル配備だが、先に述べたように陸自新設のスタンドオフミサイル部隊がこれを肩代わりすることになる。

自衛隊ミサイルへの核搭載を可能にするためには、「米国の核」提供、「核共有」の合意が必要だ。

この頃から安倍元首相が、米国との「核共有」の必要性を執拗に主張し始めた。この主張を実現するのがNATOのような核使用に関する協議システム、「日米核協議の枠組み」、日米“核”協議体の創設が必要となる。

ここで登場したのが、「北朝鮮の核に対抗」に積極的な尹錫悦韓国大統領だ。

尹大統領は「土下座外交」の非難を受ける政治的リスクを伴う元徴用工問題で大幅に譲歩してまで今年4月の日韓首脳会談実現を主導した。

尹大統領の「勇気ある政治的決断」(バイデンの評価)で日韓首脳会談開催が決まるや、即米国は動いた。

 

2023年3月8日付読売新聞

読売新聞(3月8日朝刊)は一面トップ記事で日韓正常化の動きを受け米政府が「“核の傘”日米韓協議体」創設を日韓に打診していることをワシントン特派員がリークした。

この読売記事では、「韓国は有事に備えた核使用の協議に関心を示している」が問題は日本政府だとして岸田首相に「有事に備えた核使用の協議」、すなわち日米「核共有」の議論に踏み込むことを暗に求めた。

この記事を裏付けるように4月末、尹錫悦大統領「国賓」訪米時に日本に先駆けて米韓“核”協議グループ(NCG)創設が合意された。これは7月G7広島サミット時の日米韓首脳会談を念頭に置いたものだったが、上述のような経緯からこの8月のキャンプデービッド会談で日米韓“核”協議体創設が話し合われ合意されることになった。

以上、見てきたように、NATO並みの「核使用に関する協議体」設置を日本との間で合意するために米国は周到に準備し、韓国大統領まで動員してその実現にこぎつけたことがわかると思う。

日本列島の中距離“核”ミサイル基地化、日本の対中(朝)代理“核”戦争国化、それは極論でも杞憂でもない、米国は本気だ。そのことを強調したい。

◆米国の最大の障害は「核に無知な日本人」

バイデンは尹錫悦大統領や岸田首相は容易に操ることはできるだろうが、日本国民の「非戦非核」意識はそう簡単に揺らぐものでないことを知っている。だからこそ米国は「核に無知な日本人」に対する宣伝攻勢を今後、かけてくるだろう。

それはすでに始まっている。

これについてはデジタル鹿砦社通信5月4日号「対日“核”世論工作の開始-G7広島サミット」で詳しく述べたので、ここでは概略のみ述べるに留める。

「日本の最大の弱点は、核に対する無知だ」!

「安全保障問題の第一人者」とされる兼原信克元内閣官房副長官補(同志社大学特別客員教授)が読売新聞主催のG7広島サミット開催記念シンポジウム(4月15日)でこう断言した。

このシンポジウムへのメッセージで川野徳幸・広島大平和センター長は、「今後、核廃絶の理想と、米国の“核の傘”に守られている現実の隔たりが深刻化するかもしれない。それでも、その葛藤から逃げずに議論するべきだ」と現実の核の脅威から「逃げずに核抑止を議論」すべきことを訴えた。これを読売新聞は「広島の声」として掲載した。

こうした議論がすでに起こっているという事態は尋常ではない。

キャンプデービッド会談で日米韓“核”協議体創設の合意は、おそらく日本人の「非核意識」を刺激する「核共有」までは踏み込まない穏便な形でなされるだろう。

しかしその後は「ロシアのウクライナでの核使用の危険」「中国や北朝鮮の核軍拡の危険」という「核の脅威」を煽り、米国からの「核の傘の保証」を得るためには「核抑止力強化の議論」から逃げてはいけないという議論が起こされるものと思われる。

おそらく「非核三原則」を守れ! 式のこれまで通りの受動的な反対論だけでは、米国の本気度には対抗できないと思う。

日本を対中対決の最前線にするのか否か、中ロ(朝)を脅威と見てこれに対抗するという選択肢が日本にとっていいのか否か、究極的には日本の安保防衛政策はどうあるべきか、日米安保基軸を続けていくの否か、非戦非核基軸の安保防衛政策はどのようであるべきか、こうした議論が問われてくると思う。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)さん
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

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