◆「もしトラ」と戦後日本の革命

戦後日本の革命、それは私式に言えば「米国についていけば何とかなる」としてきた戦後日本の生存方式を一新する革命、あるいはアイデンティティ確立のための革命だ。

今回のテーマ“「もしトラ」に右往左往しない日本に”は、「もしトランプが大統領になったら」で右往左往するわが国の政界、言論界を目の当たりにして、そろそろ「米国についていけば……」からの方向転換、むしろ「もしトラ」を国の運命の自己決定権を自分の手にする好機にすべきではないのか、このことをピョンヤンから訴えるものだ。

◆「私のかわりに決める権利は、あなたにないわ」

 

『他人の血』(新潮文庫)表紙、ジョディ・フォースター主演で映画化の写真入り

この小題目の言葉、それは小説『他人の血』、最後のシーンで発せられる女主人公の言葉だ。この小説の著者であるフランスの実存主義女流作家ボーヴォワールの基本思想、「運命に対する自己決定権」を主人公に語らせたセリフである。

このような言葉は一朝一夕には出てくるものじゃない。この小説でも人生の窮地を脱し人生のクライマックスに立ってようやく主人公自身が極めた境地だ。

主人公エレーヌはパリに住むごく平凡な駄菓子屋の娘、彼女は大ブルジョアの息子という出自に悩む労働運動指導者、ジャンに恋してしまう。「自分は組織の歯車でいい」という労働者共産党員の恋人に飽き足らない彼女は悩める指導的活動家ジャンになぜか心をひかれる。でもジャンの社会運動にはまったく興味を示さず、自分の恋心に応じようとしないジャンの関心をひくことだけで頭はいっぱい。そんな女の子だった。

他方、ジャンは大ブルジョアの跡継ぎ息子だが共産党に入党、しかし党に引き入れた親友の弟をある闘争で死に追いやった自責の念から社会民主主義者に転向するといった複雑な政治経緯の人物だ。政治や社会運動に何の関心も示さないエレーヌに当惑しながらもやがてジャンも彼女と恋に落ちる。

しかしエレーヌのある行動が二人の恋を決裂させる。

時は第二次世界大戦を前にしたナチス台頭の時期、オーストリアの闘士が反ナチの連帯闘争をフランスの社会民主主義者に求めたが、ジャンはこれを「フランスをナチスとの戦争に追いやるようなことはできない」と拒絶した。しかしこの自分の態度がナチスのオーストリア併合を許すことになり、ついにはナチス・ドイツ軍のフランス侵略という結果を招いた。

そんな自責の念からジャンは対独戦争のフランス軍最前線に志願する。これに驚いたエレーヌが恋人を死地から救う一念で八方手を尽くし、前線から後方の安全地帯に戻れるようにする。しかし彼女のこの振る舞いはジャンの強烈な怒りを買い、二人の愛は破局を迎える。

恋を失いパリまでナチスのものになって、ついに「自分もなくなった」失意のエレーヌは職場の洋裁店の関係で親しくなった占領者であるドイツ人からベルリンに行くことを誘われている。

しかしある事件がそんな彼女を覚醒させる。

幼なじみのユダヤ人娘がナチスのユダヤ人狩りの危険に直面した時、親友を捨て置けないエレーヌは恋人だったジャンの反ナチ・レジスタンス組織を通じて親友の逃亡を助ける。この事件を契機にエレーヌは自分を取り戻す。ついには「あなたと一緒に仕事をしたい」とジャンに申し出る。彼女は危険な任務を引き受け致命傷を負う、そしていまは死の床にある。

「君がこんなになったのは僕のせいだ」と彼女を恋に苦しませ、いままた危険な任務を指示した自分を責めるジャンに対し、死を前にしたエレーヌが毅然(きぜん)として自分自身を主張する言葉、それがこの小題目に引用したセリフだ。

「私のかわりに決める権利は、あなたにないわ」

運命に対する自己決定権とは? を考えさせる名セリフだと思う。

彼女は自らの殻を破った ── 「何ものかのために、誰かのために存在する」エレーヌ、「危険な任務遂行を決めたのは、他の誰でもない、私自身」!

人間の運命同様、国の運命も決定権は誰のものでもない、自分自身にある。

長々と小説の粗筋を紹介したのは、小説の主人公のように一人の人間が自分を取り戻し、自らの運命の自己決定権を獲得するには一定の曲折を経るものだということ、しかしいつかは手にするものだということ、これは国だって同じではないかということを言いたかったからだ。

私の場合も「ロックと革命 in 京都」に書いたように「17歳の革命」に踏みだした頃、「特別な同志」OKから「これ読んでみない?」と言われてこの本を借りたが、当時はこの言葉にたどり着くどころかこの小説自体まったく理解不能のものだった。あれから半世紀もの時間が流れ、還暦を過ぎて『他人の血』を再読して初めてこの言葉の存在を知り、その深い意味に気づかされた。この言葉を理解するには一定の人生体験が必要だったのだろう。

いま「もしトラ」に右往左往する日本、それは戦後日本の「米国についていけば何とかなる」生存方式の長い歴史の結果だが、いまのそれはやはり惨めで見苦しいものだ。これからもそんな生き方を続けていくのか? 

「米国の栄華」を追いかけ日本の繁栄を夢見てきた戦後日本だが、いま「米中心の国際秩序の破綻」を前にして政治も経済も軍事も混乱を極めている。「もしトラ」のいま、そろそろわれわれ日本人は「自分を取り戻す」時に来ているのではないか、このことを考えてみたい。

◆プランB ── 欧州の「もしトラ」策

「もしトラ」でいまウクライナ戦争渦中にある欧州も慌てているが、すでに策は立てている。

いまのバイデン政権時でさえ共和党の反対でウクライナ軍事支援予算が通らず、米国からの兵器供与が滞る事態になっている。このうえ「ウクライナ支援はやめるべきだ」とするトランプが大統領になれば欧州は「米国抜き」を考えておかねばならない。

 

TBS番組「1930」。2024年3月8日放映の「米国抜きの欧州案“プランB”」

そこで出された策が「プランB」だ。

プランBとは“米国の援助抜きでウクライナの敗北を防ぐ”という案だ。

その基本内容は、“①今年のウクライナは欧州からの支援で戦略守勢にまわる②来年の春頃の攻勢に直結するための準備をする”というものだ。

「来年の春攻勢に(兵器を)準備」に成算があるのか大いに疑問だが、大義名分は「ウクライナの敗北を防ぐ」。要は「敗勢のままロシアに勝たせてはならない」、だからウクライナに何とか持ちこたえさせるため取りあえず「欧州からの兵器援助」という泥縄式消極策、それが欧州の「もしトラ」策、「プランB」であろう。

更には欧州全体に拡大する「ウクライナ支援疲れ」で欧州の足並みが乱れる中、英仏独が個別にウクライナと2国間の安全保障協定を結んだ。これはウクライナに「英仏独3大国の保障」を見せることで「ウクライナの敗北を防ぐ」しかない欧州の窮状を表すものだ。

ウクライナの敗勢に慌てる欧州を表すものとして、「冷戦後最大規模のNATO軍事演習」がある。これはNATO加盟32ヶ国(フィンランド、スウェーデン加入で2ヶ国増)の9万人規模で2月から5月まで各地で行われるというものだが、かつての東西冷戦期には毎年、数十万人規模で行われたというからロシアに対して虚勢を張るだけの印象が強い。

結局は、落ち目濃厚の米国の対中ロ新冷戦戦略に欧州は巻き込まれる羽目に陥った。

しかし事態は虚勢を張るだけではすまないものになりそうだ。トランプ政権成立ともなれば、欧州各国のGDP2%以上の防衛予算を組むというNATO取り決めの即時実行を迫られる。この防衛予算増は、ただでさえ国民から「ウクライナ支援より国民にお金を」と迫られている欧州各国の現政権を更に揺るがせ、自国第一政権を産み出す呼び水になることだろう。

「ウクライナ支援疲れ」が「米国の覇権回復同調疲れ」に転化する。欧州の人々も自分と国の運命、自己の運命決定権を考え始めるだろう。

 

産経の2024年元日の年頭社説「“内向き日本”では中国が嗤う」※本画像クリックをすると同記事にリンクします(編集部)

◆「もしトラ」歓迎の産経新聞

「もしトラ」に右往左往する日本の言論界の中で唯一、元気なのが産経新聞だ。

今年2024年の元日、主要新聞各紙の新年社説は混乱の極みだったが、産経新聞だけは元気だった(〈年のはじめに〉「内向き日本」では中国が嗤う 榊原智論説委員長)。それは「もしトラ」対処策をもっていること、むしろ「もしトラ」歓迎の立場にあるからのようだ。

産経社説は“「内向き日本」では中国が嗤(わら)う”と題し、国内政局にとらわれて「対中対決」をおろそかにすることがあってはならないという主張を前面に押し出した。

まず「台湾有事は日本有事」の立場を明確に打ち出した。これは米中新冷戦で対中対決の最前線を日本が積極的に担うという意思表示だ。

そしてトランプ政権誕生を念頭に「米核戦力の(日本への)配備や核共有、核武装の選択肢を喫緊の課題として論じる」必要を強く説いた。その根拠は、もしトランプ大統領になれば、台湾有事には「日本や台湾が前面に立ち防衛」することを求められるからだとした。

そしてこうも強調した。「日本は米中対立に巻き込まれた被害者ではない。米国を巻き込まなければならない立場にある」と。まさにトランプの対日要求を先取りしたもの、アジアの問題である対中軍事対決は日本が主体的に行うべきものだという主張だ。

「欧州やアジアの戦争をなぜ我々(米国)がやらねばならないのか」? 「欧州の戦争は欧州人が、アジアの戦争はアジア人が」 ── これがトランプ路線だ。安倍元首相や産経新聞の立場は、対米従属ではあれ米国とうまくやりながら日本の軍事大国化(軍国主義的「自主」路線)を実現することだから、トランプ路線は大歓迎なのだろう。

産経新聞のような「もしトラ」歓迎の危険性は、「喫緊の課題として論じる」必要を説いた日本の代理“核”戦争国化を自ら「主体的」に担うべきという議論を呼びかけていることだ。

「もしトラ」を前提に、産経社説は「米核戦力の配備や核共有」「核武装」といった選択肢について論議することを呼びかけた。

これらはいま米国が最も日本に要求していることだが、日本の非核国是のため未解決のまま「宿題」として残されている議論だ。それは一言でいって日本列島の地上発射型中距離“核”ミサイル基地化だ。これは米軍の対中拡大抑止戦略の基本、死活的課題だから米国は絶対あきらめない。産経のように日本側が「主体的な課題として論じる」ようになれば、これは米国にとってはありがたいことだろう。

産経が「喫緊の課題として論じる」必要を説くのは以下のことだ。

これについてはデジ鹿通信に何度も書いたので簡単に触れる。

日本列島の地上発射型中距離“核”ミサイル基地化を米軍に代わって担う部隊として「安保3文書」決定で自衛隊スタッドオフ・ミサイル(中距離ミサイル)部隊はすでに新設された。

未解決の課題は、自衛隊ミサイル部隊の核武装化のための「核共有」を実現(当然ながら「核持ち込み容認」)することだ。

この実現のためにNATO並みの「有事における核使用に関する協議体」を設置する。これは昨年、新設された米韓“核”協議グループ(NCG)を発展させ「日米韓“核”協議体」とするか、あるいは二国間の「日米“核”協議体」を創設する。準備は着々と進められている。後は日本の決心次第となっている。

再度強調するが産経のような「もしトラ」歓迎の危険性は、日本の対中・代理“核”戦争国化を米国の強要によってではなく、日本が「主体的に」やるようになることだ。

だから産経のような「もしトラ」歓迎の政権ができるようなことになれば、日本の破滅、「米国と無理心中」にわが国を追いやる結果を招くだろう。これだけは絶対、避けなければならないことだ。

◆「もしトラ」の逆利用 ── 自分を取り戻すチャンスに

産経のような「もしトラ」歓迎は以ての外だが、「もしトラ」逆利用という考え方もあり得る。

トランプの主張は「米国に依存するな、日本が主体的にやれ」だ。トランプの真意は米国の強要を日本が「主体的に」受け入れろだが、彼の言う「主体的に」を文字通りに、名実共に実現するチャンスに変える契機ではある。いわばトランプが「アメリカ・ファースト」を言うなら、日本は「日本第一」で行くという向こうの論理の「逆利用」だ。

第一次トランプ政権時には「米軍駐留費分担金(思いやり予算)を日本が増額しないなら米軍基地を撤収する」と日本を脅かしたが、今度はこれを逆手にとって「ああそうですか、ならお引き取りいただいてけっこうです」と言えばいいのだ。

もちろん在日米軍基地撤収や日米安保解消などトランプの一存でできることではなく、またトランプも日本への「同盟義務」押しつけのための恐喝以上の意味で発言しないはずだから、「どうぞお引き取り下さい」という日米安保同盟を否定するような日本側の要求は受け入れないだろう。またわが国には残念ながら米国と正面激突するだけの政治的力はまだない。

だから「もしトラ」の逆利用のためにはいま実現可能な策略、工夫が必要だと思う。

日本国民として最低限、許してはならないのは、米国の企図する「日本の代理“核”戦争国家化」だ。米国自身も非核の日本国民の世論を前にしてこれが「難題」とは認識している。だからごり押しが難しい。したがってこれ一本に絞って米国による「自衛隊の核武装化」だけは拒否の姿勢を貫くことは最低限やらねばならないし、全く不可能なことではないと思う。

そのための「日本の大義」という「武器」がある。それは非核の国是、「非核三原則」の堅持だ。いわば向こうが「アメリカ・ファースト」なら、こちらは「日本の大義」、「国是第一」で行く、このどこが悪いのかという論法だ。

非核の国是を武器に、米国の企図する「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」、そのための「新設の自衛隊スタッドオフ・ミサイル部隊の核武装化」を拒否する。

具体的には産経が議論すべきとした「米核戦力の日本への配備」のための「核持ち込み容認」、そして「日米核共有」を認めないことが基本となるだろう。

その基本環は、いま米国の要求する有事の際の核使用に関する協議体、「日米韓“核”協議体」(日米だけの場合もある)創設の提起に乗らないこと、非核の国民世論を背景に「それは無理です、できません」と拒否姿勢を貫くことだ。

これは可能か? 可能性はあるけれど簡単なことではない。鳩山・民主党政権時の「最低でも沖縄県外に」と辺野古基地移転再検討を口にしただけで鳩山氏は首相の座を追われた。国民世論の後押しがなかったからだ。米国の意向に逆らうのはよほど時の政権に力がなければならない。その力は国民の支持以外にはない。鳩山政権には国民に訴える力がなかったからできなかった。

 

泉房穂さんの対談本『政治はケンカだ』(講談社)

逆に言えば、国民の支持を背景にすればできるということだ。

非核の国是堅持は絶対多数の国民が支持するものだ。時の政権が「非核の国是堅持」を背景に「核持ち込み」及び「日米核共有」の拒否を広く国民に訴えれば、これを国民は支持するだろう。

しかしいまの岸田・自公政権ではこれはできない。「米国についていけば……」の彼らは国民の顔色より米国の顔を見て動く、だから政権交代によってしかできることでないのはハッキリしている。

いま自民党の「政治とカネ」問題で岸田政権は揺れている、次の選挙で政権交代もありうるとも言われている。いまの政界再編劇については米国の影がちらつくが、政界再編、政権交代は国民自身の要求でもある。そしていま「国民をいじめる側」対「国民の味方」の対決として総選挙に勝ち、「救民」内閣を打ち立てると豪語する人物、泉房穂元明石市長という政治家が国民の注目を集めている。「注目」が「広汎な支持」になるか否かはいまは不明だが、少なくとも希望はある。

支持政党なしが60%を占める国民の政治不信を一掃する国民の信頼に足る政治家、政治勢力が出るならば「救民」政権樹立もけっして不可能とは思われない。だから可能性はある。

いま「パックスアメリカーナ(アメリカによる平和)の終わり」を世界が目にしている。米国の覇権力衰退著しいことの表現が「トランプ現象」でもある。「トランプのアメリカ」は「覇権力弱体化のアメリカ」であり、国民の力を背景にし米国を恐れない政治家、政治勢力が出るならば、「米国についていけば……」を卒業し、わが国が運命の自己決定権を手にすることは可能な時に来ていることだけは確かだ。

「もしトラ」の逆利用で米国依存の生存方式から目覚め、自己を取り戻すチャンスに変える時、戦後日本の革命成就も夢ではない時に来ている。ピョンヤンにあってこれが夢でないことを祈りながら「戦後日本の革命 in ピョンヤン」発信を続けたいと思う。

若林盛亮さん

◎ロックと革命 in 京都 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=109

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

◆呉市議会、共社両党以外は期待の声強く

防衛省は3月4日、2023年秋に閉鎖された日本製鉄所瀬戸内製鉄所呉地区=旧呉製鉄所の跡地を会社側から一括購入し、「複合防衛拠点」を整備する案を広島県と呉市に説明しました。3月11日には呉市議会全員協議会でその案を説明しました。

 

広島瀬戸内新聞呉支局・A記者が傍聴し、入手した資料

防衛省は、
▼装備品(=武器など=)の維持整備、製造基盤
▼防災拠点と陸海部隊の活動基盤
▼港湾機能
の3つを整備する方針を説明。

広島瀬戸内新聞のA記者によると、「協議会は約1時間で会派順に質疑がありました。共産党2名と社民1名は防衛拠点に反対、あとの全会派の議員は賛成でした。「明るいニュース」、「率直に好意的」、「人や物が増える」、「経済プラス」、「経済波及」など、聞こえの良い言葉ばかりを並べておられました。(軍事施設を受け入れることへの)危機意識を全く持ち合わせてないことに衝撃でした」とのことです。

確かに、旧呉製鉄所の跡地は、何かに再利用しようとすれば、建物の解体などに10年はかかると言われています。地元でも、正直、利用方法に苦慮していたところです。それを、防衛省が一括購入してくれれば少なくとも面倒なことは考えなくていい。

しかし、それで本当に良いのでしょうか? 歴史を踏まえて、考える必要があるのではないでしょうか?

◆軍港として栄えた明治から敗戦まで

呉は、空軍がない時代に、敵の船が入りにくい守りやすい場所にありなおかつ大陸に近いということで若き日の東郷平八郎元帥が調査。軍港として選ばれ、鎮守府がおかれました。その後、呉は日清戦争、日露戦争と海軍の出撃拠点になりました。戦争のたびに街は拡大。その後、大正のワシントン軍縮会議や昭和初期のロンドン軍縮会議には軍縮により職工がリストラされるということも起きています。

しかし、1931年の満州事変で一挙に賑わいを呉は取り戻し、第二次世界大戦敗戦直前には人口が40万人に達し、広島市に肉薄したこともありました。

◆焼け野原になった「軍港・呉」、住民投票で「平和産業港湾都市」へ

しかし、第二次世界大戦末期の1945年6月から7月、数度の呉空襲で呉市は海軍工廠も市街地も焼け野原になりました。筆者ら広島瀬戸内新聞取材班が2023年10月16日に取材にうかがった佐藤康則さんは当時中3で動員されていた海軍工廠への空襲、2月25日に取材に伺った堀隆治さんは当時5歳で市街地の自宅で空襲に遭われています。

その後、建前はいわゆる旧軍港市転換法により、舞鶴、横須賀、佐世保とともに平和産業港湾都市として再出発することになります。後に高度成長を実現した総理となる池田勇人代議士の尽力も大きかった。軽武装で、経済成長優先。その路線を形作った法律でした。

同法は国有財産の市への移譲など、現代の特区に似た仕組みです。ただ、加計学園問題などで時の権力に恣意的に悪用された現代の特区とは違うのは住民投票を経たことです。憲法95条の規定により住民投票を各市で経て成立しました。呉市では以下の結果でした。

◆74年前の圧倒的民意を覆し、軍港都市に逆戻り

74年前に住民投票で呉市民の有権者の絶対多数の同意で、平和港湾都市に転換した呉。だが、防衛省の案は、いわば、旧海軍呉工廠を復活させるものです。軍港都市に呉を戻すということです。

「昭和~平成期」にも呉には海上自衛隊がありました。しかし、その自衛隊はあくまで、「専守防衛」の自衛隊です。それに付け加えて国際貢献とか、復興支援と称して、アフガニスタン戦争への後方支援での派兵などはありましたが、あくまで主たる任務は「専守防衛」です。

ところが、岸田総理のいわゆる「安保三文書」により、「敵基地攻撃も辞さない令和の自衛隊」になってしまいました。その大型拠点が来るとなれば、旧軍港市転換法の廃止が必要ではないでしょうか?それに伴う、住民投票が必要です。きわめてそれだけ大きな転換を市議会で説明しただけで通してよいのでしょうか?

◆メリット=経済効果の過大評価、リスク=台湾有事時の被害の過小評価は禁物

 

防衛省らが旧呉製鉄所の軍事拠点化構想を説明するのを前に、市役所前で抗議する市民グループの皆様(3月11日、広島瀬戸内新聞呉支局A記者撮影)

そもそも、戦前の海軍工廠ほどの雇用は現代の複合防衛拠点では望めないでしょう。戦前の海軍工廠は、それこそありとあらゆる工業製品を作っていてそこでの雇用もすごかった。しかし、現代の産業構造ではそういう効果は望めない。メリットを過大評価すべきではない。

その上で、この複合防衛拠点は、いわゆる台湾有事を口実とした岸田政権の大軍拡の一環であるということを押さえておく必要があります。従って、呉が「複合防衛拠点」となった場合のリスクを考えるべきです。例えば、「台湾有事」の際、「日本にも中華人民共和国がミサイル攻撃をしてくるかもしれない。」ということを理由に日本政府が中華人民共和国に敵基地攻撃をしてしまった場合どうなるか?

中華人民共和国は「日本による侵略」とこれをみなし、日本攻撃の口実とするでしょう。その場合には、呉も報復攻撃の対象になります。1945年の呉空襲の悲劇を繰り返すのは明らかです。

◆日台両者への米の援軍怪しく、選択肢は衝突回避のみ

その場合に、米軍が日本や台湾=中華民国に加勢してくれるかどうかは怪しいものがあります。そもそも、台湾有事とは、中国における国民党(蒋介石)軍vs共産党(毛沢東)軍のいわゆる国共内戦の延長です。あくまで中国の国内で平和的に解決すべき問題です。米国政府でさえも、法的には中華人民共和国(中国共産党)が中国を代表する唯一の政府である、としています。米国も中華民国(台湾)に対してはせいぜい、いわゆる台湾関係法により、武器を援助する程度のかかわり方しかしないのは明らかです。

白人国家のウクライナに対しても武器を支援するだけ、それも最近は尻込み気味なのに、アジア人のそれもアメリカが認めた国家ですらない台湾に対して軍隊を送ってまで防衛するなど現実にはない。ちょっと冷静に考えればわかることです。アメリカ軍はどうするかといえばヤバいと思ったら「避難」するのです。中華人民共和国としてもアメリカとは直接対決を避けるため、自衛隊基地に攻撃を絞るという手を取る可能性も高い。

日本の米軍基地を中国が攻撃するというのも、一部の台湾有事介入ノリノリの右派の方々のある種の「希望的観測」ではないのか?

実際に、沖縄の米軍基地にある米軍機は今や常駐ではなくローテーションで世界を回る方式になっており、いつでも逃げられる体制なのです。辺野古の問題はもちろん大事ですが、今、沖縄ではそれよりも、対中国戦争の自衛隊の攻撃能力の基地になる方が平和運動的にも大きな課題になっているそうです。

もちろん、中華人民共和国の経済も台湾(中華民国)産の半導体に大きく依存しており軍事的に勝っても大損害であり、戦争をわざわざ仕掛ける動機に乏しい。当の台湾の与党・民進党ですら露骨な独立を主張することは努めて抑制しています。怖いのは、行き違いからの偶発的衝突でしょう。

大体、台湾=中華民国だって、尖閣諸島の領有権を主張しています。日本が援軍を出したからと言って、台湾=中華民国が尖閣諸島領有権をあきらめてくれるとも思えません。その面でも、台湾有事で日本が中華人民共和国と闘うメリットはどこにもないのです。

とりあえず、日本としては、外交努力により衝突が起きないよう努力していくしかないのです。日本が戦闘に直接巻き込まれなくても、食料や半導体が止まればその時点で日本経済はアウトなのですから。

 

3月11日、市民グループの皆様が呉市長に申し入れた文書

◆軍港復活よりは国営食料生産工場を!

呉の製鉄所跡地の活用策は、そもそも、民間企業は21世紀の産業構造では望めない。国の事業しかほぼ選択肢がないのは事実です。しかし、それが、旧軍港の復活であっていいのか? よくよく議論すべきです。

なお、もちろん、現実問題として、経済効果に期待する人々に対して、製鉄所の跡地利用の対案をお示しすることも、平和港湾都市である現状を維持したい市民にとり必要ではあります。

筆者個人としてはAI・ICTなど最新鋭の技術を活かした国営の食料生産工場はどうか?と思っています。すなわち、防衛省ではなく、農林水産省に買い取ってもらうのです。野菜工場や魚の養殖などを軸とすればどうでしょうか?

戦後、日本は、工業を増強しつつ農業を潰してきた。今、食料が、一時期よりは庶民にとっても手に入りにくくなっています。そもそも、戦争になったら戦闘に直接巻き込まれなくても食料不足で日本は詰みです。食料生産を復活させるというのも手ではないでしょうか?

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年4月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年春号 能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

広島市議会は2月14日から2月定例会がスタートしました。会期は3月26日まであります。

会期の前半では、2023年度分に関する議案(請願や当局提出の財産取得議案)などが審議され、2月27日に採決に掛けられました。

◆ようやく「イスラエル・パレスチナにおける武力紛争の終結を求める決議案」

広島市は、世界で最初に核攻撃を受けた都市であり国際平和文化都市を名乗っています。ところが、ガザにおける大量虐殺については、これまで市議会も松井一實市長も沈黙を保っていました。「あの」保守的な広島県議会ですら、停戦決議を求めています。

こうした中、10月以降、原爆ドーム前で「STOP GENOCIDE」のスタンディングを続けている広島市立大学院生でユダヤ系米国人のレベッカさんらが、広島市と広島市議会が行動を起こすように公開質問状を2月13日に提出。

さらに、オンライン署名を2月29日期限として呼びかけました。署名数が2月27日時点で15000を突破、28日には2万を超えるという情勢の中、広島市議会定例会は、27日の議案採択の中で、「イスラエル・パレスチナにおける武力紛争の終結を求める決議案」を全会一致で可決しました。

ICJ=国際司法裁判所は南アフリカによる提訴を受けて1月26日、イスラエルに対して・集団虐殺(ジェノサイド)の防止・虐殺を扇動する行為の防止やその処分・虐殺が疑われる行為の証拠保全・ガザの人道状況を改善するための方策の導入について、1カ月以内の対策を指示しています。そのことに決議案は触れていません。こうした不十分さはあります。もちろん、全会一致での採択を目指したということで、こういう文言になったという事情はあります。それでも、遅まきながら広島市も決議を出したということです。

問題は、広島市の執行部=松井一實市長がノーコメントということです。引き続き、市長を動かすためにも広島には「さらなる」行動が求められます。

◆市長の迷走「エールエールA館買い取り」可決

一方で、松井一實市長の「暴走・迷走」の象徴である中央図書館の「エールエールA館」移転。ついに、広島市が広島駅南口開発㈱=広島市出資の第三セクター=から、土地と建物を買い取ることが可決されてしまいました。この広島駅南口開発(株)=広島市出資の第三セクター=は、広島市が7割近くを出資し(残りは政策投資銀行と金融機関など)、広島市の元局長クラスの方が幹部をされています

中区選出の門田佳子市議(無所属)のSNSは以下のように報告しています。

【市民に説明できない第三セクター救済(中央図書館等移転)】

本日の広島市議会本会議、第140号議案、中央図書館等移転のための財産取得について。土地の一部買入れ約3.1億、建物の一部買入れ約65.9億。今までも広島市と金融団は広島駅南口開発が資金ショートする度に融資を繰り返してきました。今回も名目を変えた救済です。これでは市民に説明できないとして、反対討論を行いました。

結果は残念なことに、賛成多数で可決されました。中古ビルのフロア、土地を高額で取得。目的は赤字体質の第三セクター救済。そのうえ、翌年度予算にも残りの不動産取得や取得できないフロア賃料、共益費、修繕費等を払う見込みが示されています。これでいいのでしょうか、広島市。

中央図書館については、広島市中区の中央公園にある現在の図書館を本体は広島駅前のエールエールA館に移転、浅野文庫と広島文学についての図書は広島市長公舎跡地に新築するということです。しかし、そもそもバラバラにするより、一体にした方が便利なのは明らかです。なんでこんなことをするのか?やはり、市役所の先輩が多数「天下り」されている「広島駅南口開発㈱」の救済ありきではないのでしょうか?

◆湯崎知事暴走=平和公園へのサミット記念コーナー施設建設強行に反対の請願は否決 「修学旅行生の休憩は狭い場所で!」

「G7広島サミット記念コーナー(仮称)を設置しないことについて」という請願は否決されてしまいました。

これは、本来は、サミット県民会議=湯崎英彦広島県知事=の主導で行われる事業ではあります。しかし、平和記念公園を管理するのは広島市である以上、広島市が許可しなければできません。

https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/552710.pdf

この事業は、当初からサミット県民会議の予算に組み込まれていた5000万円を使って、7年間限定で記念館を設置するというものです。建設予定場所は、資料館北側、被爆樹木アオギリの西側、峠三吉詩碑の南側という地点です。資料館から出てこられた方が一休みしたり、修学旅行生や校外学習の児童生徒が集合したり、お弁当を食べたり、そういった場所を潰してしまうことになります。

「この請願を出された方以外からも、平和公園でボランティアガイドをしてくださっている様々な市民の方から、同じようなご意見を頂戴しています。」(前出・門田市議)

こうした疑問に対して、「集合場所等々でしてですね、活用できる場所については、今記念コーナーを設置する場所、と例えば公衆トイレの間ですとか被爆アオギリ、被爆遺構展示館の間の土地等のスペースがございますのでそちらを活用いただけるのではないかと考えております。以上です。」と、要約すれば「修学旅行生らは狭い場所で休憩しなさい」と言わんばかりの答弁を当局はしました。

湯崎英彦・広島県知事の暴走を市議会は止めることなく、修学旅行生らに狭い場所を強いることを選んだのです。もちろん、G7広島サミットの「広島ビジョン」は西側の核保有は肯定するような内容です。そんなサミットを平和公園を使って持ち上げるのはいかがなものか?と筆者は思います。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年3月号

今、米欧で「もしトランプが大統領になったなら」が、「もしトラ」と縮められて、話題になっているらしい。トランプ旋風は、米国だけでなく、欧州でも大変だということだ。

実際、「バイデン大統領」と「トランプ大統領」とでは大違いだ。

そのトランプが本当に大統領になる可能性が出てきた。

新年になってからアイオワとニューハンプシャー、二つの州で共和党の大統領候補選出のための予備選挙が行われた。そこで、二度ともトランプが圧勝し、全米50州、48州の選挙を残して、早くもトランプの選出が確定的だと言われるまでになっている。

民主党の候補は、現職のバイデンで決まりだと言われる中、11月に予定される米大統領選が4年前と同じ、トランプ VS バイデンの争いになるのはほぼ確定的だと言われている。

77歳のトランプと80歳のバイデン、この前回と同じ二人の老人しか大統領候補がいないのか。そこから覇権大国、米国の黄昏を思わない人はいないのではないか。

◆トランプ人気の秘密 ── 見捨てられた人々の代弁者

それはともあれ、ここで考えてみる必要があるのは、トランプのことだ。

8年前、大統領に選出された時にも、歴代大統領には類例を見ない、型破りの大統領と言われたトランプが今度は、婦女暴行罪まで含めて、様々な罪と裁判まで抱えながら、そうなればなるほど逆に支持を集め、現職大統領バイデンを制して大統領に選出される可能性大だとまで言われている。

なぜそうなるのか。トランプ人気の秘密は何なのか考えてみたい。

それを知るためには、まずトランプを支持している人たちがなぜ支持するのか聞いてみることから始めるのがよいのではないか。

彼の支持者からもっともよく聞かれるのは、彼があんな金持ちなのに、少しも飾らず、彼らと同じように話し、彼らの気持ちを一番よく分かってくれると言うことだ。

言い換えれば、トランプが彼らアメリカ国民の、それもラストベルト地帯労働者など見捨てられた人々の代弁者だと言うことだ。

皆、トランプが大統領になるところに、自分たちの心、気持ちや要求を反映した政治の実現を見ているのではないか。

「偉大なアメリカ」「アメリカ・ファースト」など、トランプが掲げるもっとも基本的なスローガンにそれは象徴的に示されているように思う。事実、インタビュアーの質問に答えて、「あのスローガンがいい」と言う人々が大勢いた。

トランプの政策は、実際、アメリカを第一にし、アメリカ国民を第一にするというものが目に付く。移民、難民の米国への入国を制限。企業の海外進出に反対し、輸入品に対する関税を高くして、米国国内経済の振興を主張し、米国が世界の警察として海外でカネを使うことに反対する。

これらは、米国が世界第一の超大国としてドルや核で世界に君臨し、それによって権力を振るい、カネを儲けている一部特権層にとっては許し難いことだろう。

だから彼らは、国家機関、司法機関を動かし、メディアを動かし、それらと一体になって、トランプを異端とし、悪者にしながら、バイデンを勝たせようとする。

だが、それも今回はうまく行きそうにない。ウクライナ戦争や中東戦争など、勝ち目のない戦争、不正義の戦争にバイデンがカネを注ぐのに米国民は反対だ。

そこで、手がなくなった特権層も、前々回、8年前、キッシンジャーが「一度トランプにやらせてみたらどうか」と言ったように、もう一度トランプにやらせてみようと言うことになるかも知れない。

そうした中、「もしトラ」の声はこれからますます高まるのではないか。

◆「もしトラ」で、日本に問われているのは何か

そこで言えるのは、8年前と今とでは、米国が置かれた位置が大きく異なってきていると言うことだ。

今は、世界中が「ファースト」の時代だ。「ファースト」は、自国第一、自国の上に覇権が来るのに反対する。事実、ウクライナ戦争や中東戦争で米国に従う国は、日本などG7の国々くらいしか見当たらない。

この状況で「もしトラ」になったらどうなるか。本当に米覇権が崩壊する事態になるかも知れない。ならないという保証はどこにもない。なったらどうなるか。米欧の覇権側の人々の腰が定まらなくなるのも分かるというものだ。

「もしトラ」のこの時、米覇権から脱却するための闘いが日本においても、今こそ問われてきていいのではないだろうか。

と思っていたら、いるいる。「もしトラ」は日本にとっての大チャンス。今こそ、真に独立する時だと言う人々が出てきている。

ただ、その理由が問題だ。「もしトラ」の場合、対日軍事援助に消極的だ。だから、日本が独自に軍事力強化して独立だと言う人がいるようだが、それはどうだろうか。

軍事力の強化も真に日本を防衛するためのものならば、独立のためになるだろうが、昔のような侵略のための軍事力強化なら、対中対決戦の最前線に立たされるなど、米覇権のために利用されてしまうだけではないか。

「もしトラ」で、日本に問われているのは何か。それは、米国のファーストの下で生きるのを日本のファーストにするのではなく、米国のファーストの下で生きるのか否かを決定的な問題とし、米国のファーストから脱して生きるのを日本のファーストにすることではないだろうか。そうしてこそ、日本は米国の支配から脱し、真に独立することができると思う。

小西隆裕さん

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼小西隆裕(こにし・たかひろ)さん
1944年7月28日生。東京大学(医)入学。東京大学医学部共闘会議議長。共産同赤軍派。1970年によど号赤軍として渡朝。現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

米国の外交政策を考えるときに、欠くことができない視点がある。それは全米民主主義基金(NED = National Endowment for Democracy)による世論形成のための工作である。

NEDは1983年に当時のロナルド・レーガン米国大統領が設立した基金で、ウエブサイトによると、「海外の民主主義を促進する」ことを目的としている。言葉を替えると、米国流の価値観で他国の人々を染め上げ、親米政権を誕生させることを目的に設立された基金である。そのための助成金を、外国のNGO、市民団体、それにメディアなどに提供してきた。「第2のCIA」とも言われている。

台湾政府とNED(全米民主主義基金)の面々。台湾のIT大臣・オードリー・タンの姿もある

NEDの活動の範囲は広く、毎年100カ国を超える国と地域のさまざまな組織に対して、2,000件を超える助成金を拠出している。NEDの財源は米国の国家予算から支出されるので、助成金の支出先、支出額、支出の目的は年次報告書で公開されている。従って年次報告書を見れば助成金の中身が判明する。(ただし、支出先の団体名までは追跡できない。)

2021年11月18日付けのキューバのプレンサ・ラティナ紙は、NEDによる助成金の特徴について、次のように述べている。

「米国民主主義基金(NED)が2021年2月23日に発表した昨年のキューバ向けプログラムに対して割り当てられた資金についての報告書によると、42のプロジェクトのうち、20がメディアやジャーナリストの活動に関連するものだった。割り当て額は、200万ドルを超えている」
 
NEDが採用したのは、キューバの左派政権を転覆させるための世論形成にメディアを動員する戦略だった。メディア向けのプロジェクトが全体の半数近くに及ぶ事実は、親米世論の形成が米国の外交戦略に組み込まれていることを示している。実は、この傾向は他の地域におけるNEDの活動でも変わらない。

台湾はNEDの活動が最も活発な自治体のひとつである。今年の1月に行われた総統選挙に焦点を合わせ、NEDと台湾政府の間でさまざまな工作が行われた。この点に言及する前に、助成金の支出先と金額をいくつか紹介しておこう。

◆世界各地で親米プロパガンダ

西側メディアは報じていないが、香港の雨傘運動のスポンサーはNEDであった。たとえば2020年度には204万ドルの助成金が、2021年度には43万ドルの助成金を支出している。日本の主要メディアは周庭を「民主主義の女神」と報じていたが、とんでもない話である。

また、中国の新疆ウイグル自治区と東トルキスタンの反政府運動を支援する団体に対しては、2021年度に258万ドルの助成金を提供している。「中国政府によるジェノサイド」というプロパガンダを拡散するための資金だった可能性が高い。

ちなみに少数民族に接近して、親米世論を形成する手口は、わたしが知る限りでは1980年代にはすでに始まっている。83年にNEDが結成されたちょうどそのころ、ニカラグアのサンディニスタ政権が、同国のカリブ海沿岸に住む少数民族・ミスキート族に迫害を加えているというニュースが盛んに流された。そしてサンディニスタ政権に異議をとなれる反政府ゲリラ・コントラが、ミスキート族の若者を軍に勧誘する事態が生まれた。

当時のNEDの年次報告書は確認できないが、最近の年次報告書では、ニカラグアの反政府組織向けの助成金も確認できる。たとえば2018年には約128万ドルが、2020年には157万ドルが支出されている。

ニカラグアでも香港の雨傘運動に類似した過激な「市民運動」が広がり、2018年にはクーデター未遂事件が起きた。ニカラグア政府が首謀者らを逮捕・投獄したところ、今度はニカラグア政府による「人権侵害」がニュースとして世界へ拡散された。

ベネズエラの反政府運動に対しても、NEDは助成金を支出している。2018年は201万ドルが、2020年には、323万ドルが提供された。

ロシアの反政府運動へも多額の助成金が支出されており、2021年の金額は約1,384万ドルである。この中には、もちろんメディア向けのものも含まれており、「反プーチン」の世論形成を意図した可能性が高い。

1979年7月のニカラグア革命。ニカラグアに反米政権が誕生した

◆だれが台湾海峡の火種なのか?

台湾の民進党とNEDは兄弟のように親密な関係にある。2019年、台湾の蔡英文総統は、NEDのカール・ジャーシュマン代表に景星勳章を贈った。これは台湾の発展に貢献した人物に授与されるステータスの髙い勲章である。2022年11月、NEDは台北で世界民主化運動第11回世界総会を開いた。さらに2023年7月には、蔡英文総統に対して、NEDは民主化功労章を贈った。同年、台湾のIT大臣オードリー・タンは、NEDの設立40周年に際して、ビデオでお祝いのメッセージを送った。

しかし、NEDは台湾に対しては、直接の助成金は支出していない。両者の関係は次のような構図になっている。

2002年、台湾外交部は台湾民主基金会(TFD)を設立した。「世界の民主主義ネットワークの強力なリンクになる」というのが、設立目的である。運営予算は台湾の国家予算から支出される。

その見返りとして、アメリカ政府は巨額の資金援助を台湾政府に直接与えている。例えば、日本の代表的な新聞である日経新聞によれば、アメリカ政府は2023年7月、台湾政府に3億4,500万ドルの軍事援助を行った。

1978年の米中共同声明の中で、米国は中華人民共和国が中国の唯一の合法政府であることを承認した。従って中国政府にとって、台湾におけるNEDの活動は内政干渉にほかならない。

中国は世論誘導などしなくても、台湾を統合する自信を持っていると推測される。と、いうのも経済的に台湾が中国に依存しているからだ。台湾の輸出の3割から4割は中国向けであり、多くの台湾人が中国本土で事業を展開している。経済関係が、そのほかの関係も決定づけるのは、自然の理である。

こうした状況に焦りを募らせるのが、台湾政府と米国なのである。

NEDから民主化功労章を授与された蔡英文総統

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

黒薮哲哉のタブーなき最新刊!『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』

◆はじめに

この一年を回顧する時期がやって来た。ウクライナ戦争が二年目を迎え、パレスチナ紛争は本格的な「内戦」、シオニズムとパレスチナとの戦争状態(ジェノサイド)に入った。この一年を顧みながら、われわれがどのような世界を生き、どのような時代にいるのかを確認しておきたい。

ウクライナ戦争は6月からウクライナが反転攻勢に出たことで、長期化は必至となった。ベトナム戦争が反仏独立闘争からアメリカの本格介入、そして1975年のサイゴン解放まで30年、ソ連のアフガニスタン侵攻が終結するまで10年、アメリカのアフガン介入が20年、そしてパレスチナ紛争が75年という長いタームを持っていることを考えるとき、ウクライナ戦争は数年、数十年単位の長期化が予想される。いや、すでにドンバス戦争・ロシアのクリミア併合から10年が経っているのだ。

さて、ウクライナの反転攻勢という事態のなかで、われわれが注目してきたのはブリゴジンのワグネルだった。ワグネルという名称は、ヒトラーが好きだったリヒャルト・ワーグナーに由来するという。

勇者たちは地獄に堕ちるのか? ロシアの民間軍事企業「ワグネル」創設者プリゴジンはプーチンに粛清されるかもしれない(2023年5月27日)

今年の5月段階で、ブリゴジンは国防相と参謀総長を激しく批判した。この兆候がロシア軍の崩壊の序曲ではないかと、ナチスドイツのヒトラーとエルンスト・レームの関係になぞらえたのが、この記事である。反乱は起きるであろう。国防軍とナチス突撃隊の関係と同様に、ロシア軍とワグネルは、どちらかが生き残り相手をせん滅するしかない、矛盾した存在だったのである。

そして独裁者は、たとい友情をつちかった盟友であっても、ナンバー2になろうとする者をゆるさない。ましてや国軍を批判する民間軍事組織は、叛乱のファクターとして排除するであろうと、記事で指摘してきた。

あにはからんや、われわれの予測は的中した。ブリゴジンが反乱を起こしたのである。

スターリン流の粛清劇がはじまる プリゴジンの反乱 ── 熾烈な権力闘争の行方(2023年6月28日)

クレムリンで何が起きているのか? 飛び交うプリゴジン死亡説とプーチン逮捕の可能性(2023年7月21日)

◆プリゴジンの反乱 粛清か、政治危機の深化か。熾烈な権力闘争

われわれがブリゴジンとワグネルに注目してきたのは、かれらがロシアの伝統的な人海戦術を体現していたからだ。すなわち、スターリン時代のロシア陸軍(ソ連軍)は、戦車のハッチをハンダ付けすることで乗員の脱出を禁じ、徹底的に戦うことを強要したのである。今回の戦争で、ワグネルはウクライナ兵の位置を知るために丸腰で最前線の標的にされたという(懲役囚捕虜の証言)。

そしてその証言にみられるように、旧ソ連軍が懲役囚を最前線に送り込んだのと同じ動員構造、労働編成であることがわかる。

この構造が崩壊したときに、おそらくロシア軍は組織的に崩壊するであろう。日本でもガダルカナル島の飛行場建設には、この動員構造が用いられた。その後、陸軍組織そのものが崩壊したのだった。

さて、ブリゴジンとワグネルは、われわれが予測したとおり反乱を起こした。

ワグネルの宿営地がロシア正規軍のミサイル攻撃を受け、プリゴジンは報復としてロシアのヘリコプターを撃墜して13名を殺害した。そしてプリゴジンは軍幹部の粛清をもとめて、モスクワ進軍を開始したのだった。

その過程で、ブリゴジンは地域の政治集会を開催し、政治的支持を取り付けることを怠っていない。単なる軍事的反乱ではなく、政治的反乱すなわちクーデターの企てだった。

記事から引用しよう。

このワグネルの「行進」がムッソリーニのローマ進軍(国王エマニエーレ3世による総理指名)、ヒトラーのミュンヘン一揆(失敗・投獄)に倣い、政変をめざしたのは明らかだったが、プーチンに「裏切り」と断じられ、検察当局が捜査を開始した段階で、部下に撤退を命じた。クーデターは未遂におわり、プリゴジンはベラルーシに「亡命」したと伝えられている。

この「亡命」劇は、ただちに粛清に乗り出せないプーチンが、盟友ルカシェンコ(ベラルーシ大統領)と相談の上、収拾策に出たものだ。プーチンの政治力の低下を指摘する声は多い(西側首脳)が、軍事衝突を回避した手腕は独裁者の冷徹を感じさせる。プーチンは政治危機を脱したのだ。

しかし、上記の記事でも明らかにしておいたとおり、独裁者はけっして反乱をゆるさない。血の粛正がいつ、いかなる形で行われるのかが焦点となった。そして、その時がやってきた。

《緊急報》プーチンがプリゴジンを爆殺 やはり独裁者は裏切りを赦さなかった(2023年8月25日)

もはやわれわれは、事実関係を報じた記事において、事件の本質を知ることになる。

モスクワの北西部にあるトベリ州で23日、ビジネスジェットが墜落した。

このビジネスジェットは、ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジンの所有で、タス通信はロシア連邦航空局の情報として、乗客名簿にプリゴジン氏の名前があったと伝えた。

また緊急事態省によると、ジェット機には乗員3人を含む10人が搭乗していたが、全員が死亡したとみられる。連邦航空局の発表は事件の一時間後であり、事前に知っていたかクレムリンからの情報と考えられる。通常、連邦航空局は事件を実地調査しないかぎり、発表しないからだ。

独立系メディアによると、ジェット機はモスクワ郊外から飛行していた。高度8500メートルを飛行中、突然墜落したという。ということは、間違いなくミサイル攻撃である。

このミサイル攻撃という過酷な粛正劇は、政治ドラマの一幕を観ているような気分だった。ヒトラーの「長い夜」を称賛したスターリン。そのスターリンを称賛するプーチンにおいて、現代のナチス政治、ヒトラーの政治手法が再現されたのである。世界史を目撃するとは、こういうことなのだろう。(つづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年1月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年冬号

11月29日は国連が定めたパレスチナ人民連帯デーです。 

 

1947年11月29日、国際連盟によるイギリスの委任統治領だったパレスチナをユダヤ人国家とアラブ人国家に分割し、エルサレムは特別な都市とする決議が採択されました。ところが、アラブ人国家パレスチナはつくられず、ユダヤ人を中心とするイスラエルのみが1948年に成立しました。そして、イスラエルは数度の中東戦争でアラブ人地域とされた地域への侵略を繰り返して今日に至っています。

1993年には米国クリントン政権の仲介により、PLOアラファト議長とイスラエルのラビン首相がオスロ合意を締結し、二国家併存を定めました。しかし、イスラエルの政治はラビン首相が95年に極右青年に暗殺されたことを契機に、混迷・右傾化を加速。それでも労働党のバラク首相が和平へ努力していたのですが、2000年に右派リクードのシャロン元首相がエルサレムの聖地訪問を強行。日本に喩えれば、伊勢神宮や法隆寺に外国の首相が「ここは俺のものだ」と乱入してきたような話です。

当然、アラブ側の反発も強まり、交渉は暗礁に乗り上げました。そして、バラクが2001首相選でシャロンに敗れました。勝ったシャロンも一時はイラクやアフガンでの「対テロ戦争」に専念したい米欧の圧力もあって中道政党・カディーマを結党するなど一時柔軟化も、2006年1月に病に倒れて日本の田中角栄がそうだったように影響力を喪失。パレスチナ側では総選挙でハマスが圧勝(ファタハ側のクーデターで政権交代ができなかったが、ご承知の通り、ガザでは現在まで政府を形成している。)。

イスラエル側では右派権威主義的なネタニヤフ被告人が長期政権を築きました。ネタニヤフはオスロ合意に違反してパレスチナが治めるべき土地にユダヤ人入植という侵略を実施。ガザへも何度も武力攻撃を行い、多くのパレスチナ人を虐殺したり罪名もなしに不当逮捕・投獄したりしました。

そうしたなかでハマスが2023年10月7日に行った大規模な「反撃」を契機に、ネタニヤフはガザに侵攻し、14843人とも言われるガザの人々が殺戮されました。当初は総団結してイスラエルを擁護していた米国など日本以外の西側も、ついにネタニヤフをかばいきれなくなりました。

11月24日には戦闘休止が合意され、ハマスはイスラエル人やタイ人の人質を解放し、イスラエルはパレスチナ人の不当逮捕被害者を解放するという作業が行われている中、11月29日を迎えました。

◆パレスチナの若者からのメッセージ=モノローグを交代で読み上げる

広島では、11月26日に翌日からスタートした核兵器禁止条約締約国会議に合わせて、「NO GENOCIDE IN GAZA NO WAR NO NUKES」のキャンドルナイトが行われました。

こちらは「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」が呼びかけて行われたもので、主には被爆者団体の方が中心となって原爆ドーム前に集まりました。(筆者のXより

そしてこの11月29日は、TEARS FOR PALESTINE が開催されました。原爆ドーム前ではジェノサイドが終わるその日まで、広島市立大学の田浪亜央江准教授など、どなたかが17時半くらいからかならず待機し、スタンディングを行うそうです。この29日は12~19時という長時間でどの時間帯でもいいから参加できるよ、という趣旨でも行われたそうです。

筆者は、自分自身が原告である伊方原発広島裁判の第42回の口頭弁論がこの日のメインの活動であり、法廷が昼休みの時間帯に原爆ドーム前まで自転車を飛ばしてかけつけました。

この日は、広島市立大学の学生(留学生含む)らが、12時過ぎに原爆ドーム前に現れ、横断幕や受付、ハンドマイクの準備を開始されました。

そして、ガザ地区の若者が今回の戦争で体験したことをまとめたメッセージ(モノローグ)を、学生らが代読しました。

「世界でもっとも美しい都市になるのに必要なのは安全だけ」

という悲痛な訴え。モスクが爆撃されたり、街が破壊されたり自分たちの身近な友人が遺体となったり。生々しい、ガザの若者の悲痛なメッセージが原爆ドーム前に響きました。

◆岸田文雄様 イスラエルとの防衛協力を停止し、ジェノサイドを止めさせてください!

筆者は主催者に「何かできることはないか?」と声をかけさせていただきました。「はがきを出してほしい」と主催者がおっしゃるので、それではということでハガキを受け取り、「岸田文雄様」宛に、「イスラエルとの防衛協力を停止し、ジェノサイドを止めさせてください!」というメッセージを書き込み、原爆ドームから見て電車通りをはさんで斜め向かい(真向いは旧広島市民球場)の広島中郵便局の窓口に差し出しました。

窓口の局員の年配男性が「63円です」とちょっと緊張した面持ちでおっしゃっていたのが記憶に残っています。

やはり、広島といえば、岸田総理の選挙区です。総理に地元有権者の一人として物申す。当たり前のことです。

日本とイスラエルは残念ながら、安倍政権下で防衛協力を進めています。そのこと自体は憲法違反の疑いが濃厚であり、嘆かわしいのですが、この局面では「ジェノサイドを止めないと防衛協力を止める」ということは外交カードにはなります。日本はかつてときの福田赳夫総理が「人の命は地球より重い」と言った国です。今は、とりあえず、何でもいいからカードを使って虐殺を止めさせる。G7広島サミットでは「ヒロシマ」の名前を西側の核正当化に利用されてしまった岸田総理ですが、ここはひとつ、汚名を返上していただきたいものです。

◆犠牲者一人一人の年齢と名前を読み上げ、赤い涙を模造紙に描く

 

犠牲者の名前を呼びあげるのに合わせて赤い涙を模造紙に描いていく若者ら。門田佳子市議のXより

筆者が原爆ドーム前を去った後、地元・中区の無党派の門田佳子市議らが入れ替わりに来られました。門田市議は2003年のイラク戦争反対運動に筆者とともに無党派の若者として参加。2023年の広島市議選では市長に批判的な保守系会派の所属で5期つとめられた無所属女性市議の後継として見事当選されました。IT化社会における高齢者の生活支援などの課題に取り組まれているほか、松井現広島市長の市政を厳しくチェックする質問もされています。

犠牲者おひとりおひとりのお名前を読み上げ、そのたびに赤い涙を模造紙に描くという作業が行われました。(写真=門田佳子市議のXより) 
 

お名前が判明している方のみですが、とにかく、殺されたひとりひとりに名前があるのだ、ということを改めて確認していきたいものです。

ハマスのせん滅には市民の犠牲はやむを得ない!と暴走するネタニヤフ被告人の論理に対抗するにはひとりひとりの命の重みを大事にしていくしかありません。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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広島市の松井市長は11月30日からハワイの真珠湾を訪問することを発表しました。これは、今夏、米国政府=エマニュエル駐日大使=との間で締結した真珠湾国立公園との「姉妹公園協定」を具体化するためとのことです。

広島市は9月の定例市議会で「原爆投下に関わる米国の責任の議論を現時点で棚上げし、まずは核兵器の使用を二度と繰り返してはならないという市民社会の機運醸成を図っていくために締結した」と答弁しています。 その答弁を具体化した形です。

◆「原爆投下を反省しない米国政府」と組んで良いのか?

 

真珠湾の戦艦アリゾナ(撮影=広島瀬戸内新聞関西支社の鈴木記者)

筆者は、そもそも論として、広島の平和記念公園とパールハーバー=真珠湾の「姉妹公園協定」に反対です。広島市とホノルル市は姉妹都市であり、ホノルル市は広島市が主導する「平和首長会議」にも加盟しています。平和首長会議は核兵器禁止条約推進の署名活動もしており、広島市とホノルル市はそうした意味で「同志」の自治体であります。その一環として松井市長がホノルルに行かれることには異存はありません。ただし、きちんと平和行政の推進に効果があるかどうか、説明責任を果たしていただきたい、というスタンスです。

だが、米国政府は、いまだに広島への原爆投下を反省していません。「必要だった」というスタンスは崩していません。もはや、原爆投下は戦争の犠牲を減らすためではなく、日本人をモルモットとした「実証実験」であり、戦後に米国の強力な対抗馬になることが確実だったソビエトへのけん制でもあったという議論が主流となった今でも、米国政府はまったく反省していません。オバマ大統領が2016年に広島に来た時もまるで他人事のような挨拶であり、反省や謝罪の言葉はありませんでした。

日本政府についていえば、基本的にはいわゆる村山談話を継承し、第二次世界大戦における加害責任について一定のお詫びをしています。必ずしも十分ではないと筆者は考えますが、それでもまったく反省も謝罪もない米国に比べればすべきことはしています。

そんな米国政府の原爆投下責任を棚上げにして組んで良いのだろうか?そのことは、「核兵器の使用を二度と繰り返してはならない」という国際世論を後退させてしまうのではないか? そう思うのです。

「広島が米国政府を許したのであれば、俺たちが核兵器を使っても構わないよね?」と、米国以外の中露英仏はもちろん、インド、パキスタン、朝鮮、そして今ガザ虐殺で非難を浴びているイスラエルまで言いだしかねません。すくなくとも核兵器使用のハードルを下げる方向に「米国政府の責任棚上げ」はなると思います。

◆G7広島契機に「平和都市ヒロシマ」から「米国忖度都市 HIROSHIMA」への変質

そして、繰り返し指摘したいのは、2023年5月のG7広島サミットを契機に広島が曲りなりも「平和都市ヒロシマ」だったのが「米国忖度都市 HIROSHIMA」に変質しているということです。

すでに、今年度から広島市の平和教育の教材から『はだしのゲン』(小学校)や『第五福竜丸』(中学校)が削除されています。広島市教育委員会はマスコミの取材に様々な弁明をされています。しかし、こんな変更をさせたのは誰か?松井市長以外にあり得ないでしょう。すでに、教育行政については、第二次安倍政権における法改定で首長の「独裁」が事実上可能になっています。広島県の場合は、湯崎英彦知事がお気に入りの平川理恵教育長を任命して彼女に独裁的な教育行政をやらせています。他方で広島市の場合は松井市長が教育長には影が薄い方を任命し、松井市長が強力なリーダーシップを発揮している感があります。

そうした中で、G7で広島にお見えになる米国のバイデン大統領の「お目を汚さない」ようにはだしのゲンや第五福竜丸を削除させたのは、この間の流れを見れば、見え見えではないでしょうか?

そして、G7広島サミットでは、西側の核保有は肯定する「広島ビジョン」が採択されました。

また、対ロシア戦争中のゼレンスキー大統領がまるで「乱入」するかのように途中参加し、まるで対露戦争会議のようになってしまいました。

「平和都市ヒロシマ」は、「米国忖度都市 HIROSHIMA」に変質してしまいました。

◆ガザ虐殺応援団サミットでもあったG7広島、恥ずかしすぎる

あれから半年。ガザでは、ハマス政権の「反撃」に対してイスラエル総理のネタニヤフ被告人が大軍をガザ地区に送り込み殺戮を続けています。そして広島に集ったG7のうち、日本を除く米英仏独伊加や欧州委員長らは核兵器保有国でもあるイスラエルべったりです。ゼレンスキーも核兵器保有国であるロシアによる侵略被害者のはずが、核兵器保有国かつ侵略者であるイスラエルを全面支持する始末です。G7広島サミットはまさに、ガザ虐殺応援団サミットだったことに結果としてなってしまいました。

また、これはサミット広島県民会議を管轄する湯崎英彦知事の暴走になりますが、平和記念公園内にG7広島サミットの常設展示コーナーを5000万円かけて設けるということです。恥ずかしいからやめていただきたい。

広島がガザ虐殺応援団サミットの場に結果としてなってしまった。そのことへの反省も松井市長の現時点での行動からはみじんも感じられません。松井市長には、どうせ訪米するならハワイへ行くよりも、それこそ、長崎市長とも歩調を合わせ、ワシントンやNYに行って、アメリカや国連にネタニヤフの暴走を止めるよう要求したらいかがでしょうか?

◆広島市は米国政府より、まずは市民と連携の「王道」を

ここで強調したいのは、広島市はあくまで自治体であるということです。そもそも、米国政府と組む、というのがおかしな話です。

むしろ、強化すべきは世界各都市(自治体)とそこに住む市民との連携です。11月27日からNYで第二回締約国会議が始まる核兵器禁止条約。この条約も市民運動が各国政府を動かしたのです。米国政府との連携を急ぐ前に、まずは各国市民との連携を密にする。そして、日本政府にもせめて核兵器禁止条約の会議にオブザーバー参加はするよう圧力をかけつつ、核保有国に迫っていく、というのが王道ではないでしょうか?

米国政府のエライ人に一生懸命に胡麻をすったところで、良いように利用されるだけではないでしょうか?

◆「サミット期待・評価」の野党政治家も反省を……平和都市ヒロシマ回復への道

また、くりかえしになりますが、G7広島サミットについては立憲民主党や日本共産党などの国政野党の県議も2023年統一地方選におけるマスコミや市民団体のアンケートに答える形で「G7広島サミットに期待」「G7広島サミット誘致を評価せず」と表明してしまいました。筆者自身は県議候補では唯一「サミットに期待せず」「評価せず」と回答しました。その後の広島ビジョン発表で、日本共産党などの県議はあわてて政府批判に転じましたが、遅すぎました。すでに、松井市長や湯崎知事はアメリカ忖度の方向で暴走を加速した後でした。G7という核保有&イスラエル応援団に悪用され、「米国忖度都市HIROSHIMA」に変質しつつある広島。

一方で、2023年統一地方選でも広島市議選の候補者では、日本共産党や保守系無所属の一部候補でも「サミットに期待しない、誘致を評価しない」という筆者と同じ回答をした方もおられます。

国政野党の皆様にもご反省をいただいたうえで、平和都市ヒロシマを取り戻すため、ともに進んでいただきたいと強く要望します。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◆一帯一路「国際協力フォーラム」

去る10月17日と18日、中国の北京で第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが開かれた。

10年前、習近平主席の提唱でつくられたこの巨大経済圏構想「一帯一路」には、現在、国連加盟国193カ国中約8割の152カ国が参加しており、今回のフォーラムには、20カ国の首脳が登壇した。

だが、2017年、第一回フォーラムの時は、29カ国、2019年、第二回フォーラムでは、38カ国の首脳が参加していた。

それに比べ、今回の首脳参加が減り、特に欧州からの首脳の参加がハンガリーのビクトル・オルガン首相一人だけだったのは事実だ。

これをもって、米欧側は、中国の力の減退を騒ぎ立てている。

◆一帯一路の評価で決定的に欠けていること

一帯一路に対する上記の米欧側の評価には決定的に欠けていることがあるように思われる。

それは、2017年、2019年から2023年、この数年の間には、2019年、米国が中国に対して仕掛けた「米中新冷戦」があったという事実だ。

この「新冷戦」で米国は、全世界に向け、中国に対する包囲を呼びかけた。

クァッド(米、日、印、豪)による包囲、広範な「民主主義陣営」による中国をはじめとする一握りの「専制主義陣営」に対する包囲、その他にも包囲は、ネットや最先端技術など、「経済安保」の広範な領域にまで及んだ。

問題は、こうした包囲の結果がどうなったかだ。

今回開かれた第3回国際協力サミットフォーラムで最も注目すべきは、このことだったのではないだろうか。

だが、残念ながら、日本の大手メディアにあっては、こうした視点からの今回のフォーラムについての分析が何もなかったように思う。

◆「フォーラム」で何が明らかになったか

確かに今回の「フォーラム」への欧州各国からの参加はなかった。

しかし、アジア、アフリカ、中南米、南太平洋地域などいわゆる「グローバルサウス」の国々から、140余りの国々、30余りの国際機関の代表が参加した。

これは、米国によって仕掛けられた中国に対する包囲網が完全に破れていること、すなわち「米中新冷戦」がすでに大きく破綻しているということを見ることができるのではないだろうか。

一方、この一帯一路に対して、米欧側は、「債務の罠」だとの攻撃を強め、一帯一路に基づく中国の援助により途上国、グローバルサウスの国々が借金漬けに陥り、借金の形に中国に隷属化されていっているというキャンペーンを強めている。

実際、これが事実無根の誹謗中傷ではなく、こうした現実があるのは事実のようだ。

今回の「フォーラム」でも習近平主席自身、鉄道や道路建設など大規模投資中心から小規模事業投資優先、人への投資へと援助のあり方の転換を打ち出し、環境問題やきめ細かい支援を重視する姿勢を明らかにしたという。

この発言が単に米欧側の覇権の競争相手、中国に対する「債務の罠」攻撃をかわすための虚言なのか、それとも真に途上国への支援のあり方の改善を考えてのものなのかは、これからの「一帯一路」の進展がどうなるか、その現実によって判定されるのではないかと思う。

その上で、重要なことは、この開発援助こそが、米欧による援助と中国による援助を分ける決定的な違いになっているということだ。

米欧が新自由主義経済の見地から、経済自由化の法整備を強調し、市場メカニズムが貫徹されれば自ずと経済成長が実現されるというカネを出さない「援助」なのに対し、中国による援助が成長の起動力として大規模プロジェクトの必要性を痛感している途上国の要求に応えるカネを出す援助になっているということだ。

ユーラシア全土にわたる広域開発計画で、一帯一路の双方で交通、通信、エネルギー等のインフラの接続などの開発構想を提示しているのなどは、その一例だ。

今日、中国の一帯一路が「シルクロード経済ベルト」(一帯)、「21世紀海上シルクロード」(一路)の枠を超え、アフリカ、中南米、南太平洋地域にまで広がって行っているのには理由があり、この辺に「米中新冷戦」による中国包囲網が完全に破綻した要因があると言えるのではないだろうか。

小西隆裕さん

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼小西隆裕(こにし・たかひろ)さん
1944年7月28日生。東京大学(医)入学。東京大学医学部共闘会議議長。共産同赤軍派。1970年によど号赤軍として渡朝。現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

パレスチナ・ガザ地区では、イスラエルの総理・ベンヤミン・ネタニヤフ被告人※による攻撃で子どもを中心に多数の犠牲者が出ています。こうした中、広島でもネタニヤフ被告人に対してガザでの虐殺を止めるよう要求する行動が行われています。

(※イスラエルの現総理のベンヤミン・ネタニヤフ被告人は、日本の総理だった故・安倍晋三さんとほぼ同じようなことをやって、イスラエル警察に送検され、検察に起訴され、現職総理のまま被告人になっています。妻のサラ被告人も日本の安倍昭恵さんとほぼ同じことをやったとして罰金刑が確定しています。ネタニヤフ被告人は安倍さんと違い、野党共闘に打倒されましたがすぐに返り咲き、イスラエルの司法を日本の司法のように総理=行政府に忖度する司法に改悪しようとしています。)

このうち、11月3日の文化の日=日本国憲法公布記念日には原爆ドーム前でNO WAR NO KISHIDA 11・3ヒロシマ憲法集会2023が行われました。

 

広島市立大学准教授の田浪亜央江さん

各界のアピールの中では、広島市立大学准教授の田浪亜央江さんが中東研究者として発言。

「なんでこれまでもっとガザについて発信してこなかったのか? 後悔している」と振り返りました。

「かろうじてアメリカとは一線を画して中東アラブ諸国との関係を維持してきた日本が安倍政権下で特にイスラエルとの関係強化を図り軍事協力を進めてきた。その日本の責任は本当に大きい。日本のこの間のイスラエルとの軍事協力強化その動きは世界的に見ても突出している。」

「安倍政権で武器輸出3原則が変更され、原則自由、紛争当時国のみは除外するということで日本政府はイスラエルを紛争当事国と認めなかった。しかし今少なくとも、日本政府の立場に立っても今こうやって日々ガザの虐殺を進行しているイスラエルが紛争当事国でないわけはない。」と指摘。

「今私たちがすぐできることとしてイスラエルと日本の軍事協力をすぐに辞めさせることだ。自衛隊とイスラエルはもうすでに軍事協力共同研究を進めてきている。是非この場を借りてこのことを訴えたい。」と強調しました。

田浪さんたちは、毎日17時半、原爆ドーム前でガザ虐殺を止めろとスタンディングを行っておられます。じっと立ってくださるのでも構わないということです。夕方、広島市都心部に来られる方はちょっとでも良いのでのぞいてくださると幸いです。連絡先 tanami1012@yahoo.co.jp 

◆イスラエル=侵略者という原点

たしかに、ハマス政権(2006年のパレスチナ総選挙で勝利している)が、10月7日、ガザに対しては主に封鎖・武力行使、ヨルダン川西岸に対しては主にユダヤ人の入植という形で侵略を続けているイスラエルへの「反撃」を行いました。ただ、この「反撃」は民間人の拉致などを含むもので、国際人道法違反です。東京裁判に当てはめればいわゆるC級戦犯です。国際人道法は、侵略・攻撃側だけでなく、防衛側も守らなければならないものです。例えば、第二次世界大戦において、先に手を出した日本への米国の自衛権はあるが、東京大空襲や原爆投下は国際人道法に反します。ただ、世界最強の国・米国を裁けるような力を持った主体がないというだけです。

ところで、イスラエル自体が1948年の第一次中東戦争以降、とくに1967年のヨルダン川西岸やガザも含めた広範囲を侵略した第三次中東戦争以降、ずっとパレスチナ人を侵略してきました。そして、米国の仲介でパレスチナにおけるイスラエルとパレスチナの「二国家並立」で合意した1993年のオスロ合意以降も、イスラエルは約束を守りませんでした。特に、シャロン元首相が聖地訪問を強行してムスリムを挑発した2000年以降のイスラエルのやったことは酷すぎた。ヨルダン川西岸にはユダヤ人入植を続け、ガザは天井のない監獄状態に置かれてきた。そして、断続的に戦闘が行われ、多くの場合はイスラエルによるパレスチナ人への一方的な殺戮となった。上記の状況がある中で、ハマス政権による反撃が行われたわけです。

イスラエルがこの75年間ないし56年間やってきたことはいわば「平和に対する罪」であり「戦争犯罪」です。もちろん国際人道法にも反しています。東京裁判に当てはめれば、いわゆるA級戦犯、B級戦犯、C級戦犯すべてを含んでいるのが、これまでにイスラエル政府がやってきたことです。

◆G7広島、イスラエル全面支持の「こんな人たち」を集めた黒歴史だった

にもかかわらず、特にハマス政権による「反撃」当初は、米英仏独伊加といった日本以外のG7首脳は一致団結して一方的にイスラエルに与しました。言うなれば旧白人帝国主義国家の醜悪な面を嫌というほど見せつけられました。

ウクライナのゼレンスキー大統領もイスラエルを全面支持してしまいました。ウクライナについていえば、残念の一言です。侵略者イスラエルを一方的に支持したことに一片の正義もない。そして、ロシアに対する「ウクライナ防衛」という大義名分を自ら投げ捨ててしまいました。ゼレンスキー大統領は調子に乗ったのか、最近の「反転攻勢」が上手くいかずに焦っているのか、どちらかわかりませんが、ともかく、自分で自分の首を絞めてしまいました。これで、グローバルサウス諸国の中には、ウクライナーロシア戦争について「白人同士で勝手にやっておけ」という本音になってしまった国も多いのではないかと思います。ゼレンスキー大統領が支持を失うのは自業自得としても、巻き添えを食うウクライナ国民にとってはこのことは悲劇ではないでしょうか。

筆者は改めて「こんな人たち」(米英仏独伊加首脳+ゼレンスキー)を広島に集めたG7広島サミットは、広島にとって「黒歴史」だった、ということを改めて強く確信しました。

さらにこんなサミットの誘致を「評価」したり「期待」したりしてしまった、特に左派野党の政治家たちには反省していただきたいものです。

◆日本も米国の「最初は煽って後から梯子外し」にご注意!

さて、当初、米国は「ハマスは純粋な悪」(バイデン大統領)などと言ってイスラエルを煽りました。それにも支えられてネタニヤフ被告人が調子に乗って虐殺しまくっている面は否定できません。だがその後、国際的なイスラエル批判の世論を見て、だんだん、米国も一時戦闘停止などを言いだすようになりました。これをイスラエル側から見ればある種の梯子外しとも言えます。もちろん、米国でさえも距離を置かざるをえないこんな大虐殺を引き起こしたネタニヤフの自業自得ではあります。それでも、日本にとってはこれを他山の石としなければなりません。

米国の高官やマスコミは、2022年ころから2023年の前半くらいに、特に「台湾有事」を煽り立てました。それに呼応して麻生太郎さんらが「台湾(中華民国)とともに戦う覚悟」などと勢いづきました。

だが、そもそも、米国も日本も中華人民共和国が中国を代表する政府だ、と認めています。台湾を中華人民共和国軍が武力攻撃するような事態は絶対に避けなければならない。中華人民共和国とて、台湾=中華民国=の半導体には大きく依存しています。

しかし、万が一起きたとしても、日本に少なくとも武力で手出しをする権利は全くありません。「日本の安全保障に関わるから」程度で出兵したのならロシアのプーチン大統領によるウクライナへの自称「特別軍事作戦」と変わりません。日本はプーチンに対するのと同様の非難を米国以外のほとんどの国から浴びかねません。そして、「侵略者」の汚名を着た日本は中華人民共和国軍に「侵略への反撃」と称した攻撃の口実を与えてしまいます。そうなると、米国は米国で「俺たちは知らない」と米軍をグアムあたりに退避させることもあり得ます。下手をすれば南西諸島は中国軍の「日本による侵略への反撃」と称したミサイル攻撃にさらされます。またも沖縄は中央政府の捨て石にされる。本土に住む我々も、食料やエネルギーが止まり、下手をすれば日本が経済制裁の対象にでもなったら餓死よりほかなくなります。

今回のガザ戦争拡大における米国によるイスラエルを「最初は煽って後から梯子外し」について、日本人は刮目しておく必要があります。

日本国憲法9条とはまさに手を出して自滅しないようにする安全装置である。9条がありながら、台湾有事という名の中国の内戦にのめりこみ滅亡、などというバカげたことにならないよう、日本政府をチェックしなければなりません。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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