赤い絨毯(じゅうたん)を敷き詰めた演壇に立つ2人の人物。性別も人種も異なるが、両人とも黒いスーツに身を包み、張り付いたような笑みを浮かべて正面を見据えている。男の肩からは紫に金を調和させた仰々しいタスキがかかっている。メディアを使って世論を誘導し、紛争の火種をまき散らしてきた男、カール・ジャーシュマンである。

 

蔡英文総統と勲章を授与されたカール・ジャーシュマン(出典:全米民主主義基金のウェブサイト)

マスコミが盛んに「台湾有事」を報じている。台湾を巡って米中で武力衝突が起きて、それに日本が巻き込まれるというシナリオを繰り返している。それに呼応するかのように、日本では「反中」感情が急激に高まり、防衛費の増額が見込まれている。沖縄県の基地化にも拍車がかかっている。

しかし、日本のメディアが報じない肝心な動きがある。それは全米民主主義基金(NED)の台湾への接近である。この組織は、「反共キャンペーン」を地球規模で展開している米国政府系の基金である。

設立は1983年。中央アメリカの民族自決運動に対する介入を強めていた米国のレーガン大統領が設立した基金で、世界のあちらこちらで「民主化運動」を口実にした草の根ファシズムを育成してきた。ターゲットとした国を混乱させて政権交代を試みる。その手法は、トランプ政権の時代には、香港でも適用された。

全米民主主義基金は表向きは民間の非営利団体であるが、活動資金は米国の国家予算から支出されている。実態としては、米国政府そのものである。それゆえに昨年の12月にバイデン大統領が開催した民主主義サミット(The Summit for Democracy)でも、一定の役割を担ったのである。

◆ノーベル平和賞受賞のジャーナリストも参加

民主主義サミットが開催される前日、2021年12月8日、全米民主主義基金は、米国政府と敵対している国や地域で「民主化運動」なるものを展開している代表的な活動家やジャーナリストなどを集めて懇談会を開催した。参加者の中には、2021年にノーベル平和賞を受けたフィリピンのジャーナリスト、マリア・レッサも含まれていた。また、香港の「反中」活動家やニカラグアの反政府派のジャーナリストらも招待された。世論誘導の推進が全米民主主義基金の重要な方向性であるから、メディア関係者が人選に含まれていた可能性が高い。(出典:https://www.ned.org/news-members-of-us-congress-activists-experts-call-to-rebuild-democratic-momentum-summit/

この謀略組織が台湾の内部に入り込んで、香港のような混乱状態を生みだせば、米中の対立に拍車がかかる。中国が米国企業の必要不可欠な市場になっていることなどから、交戦になる可能性は少ないが、米中関係がさらに悪化する。

◆国連に資金援助して香港の人権状況をレポート

香港で混乱が続いていた2019年10月、ひとりの要人が台湾を訪問した。全米民主主義基金のカール・ジャーシュマン代表(当時、)である。ジャーシュマンは、1984年に代表に就任する以前は、国連の米国代表の上級顧問などを務めていた。

ジャーシュマン代表は、台湾の蔡英文総統から景星勳章を贈られた。(本稿冒頭の写真を参照)。景星勳章は台湾の発展に貢献をした人物に授与されるステータスのある勲章である。興味深いのは、台湾タイムスが掲載したジャーシュマンのインタビューである。当時、国際ニュースとして浮上していた香港の「民主化運動」についてジャーシュマンは、全米民主主義基金の「民主化運動」への支援方針はなんら変わらないとした上で、その活動資金について興味深い言及をした。

【引用】NED(全米民主主義基金)は、香港の活動家に資金提供をしているか否かについて、ジャーシュマンは「いいえ」と答えた。同氏は、NEDは、香港について3件の助成金を提供しているが、それは国連が人権と移民労働者の権利についての定期レポートを作成するためのものだと、述べた。(出典:https://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2019/12/14/2003727529

 つまり全米民主主義基金が、国連に資金援助をして香港の人権状況を報告させていたことになる。国連での勤務歴があり、国連との関係が深いジャーシュマンであるがゆえに、こうした戦略が可能になったと思われるが、別の見方をすれば、全米民主主義基金は、国際的な巨大組織を巻き込んだ世論誘導を香港で行ったことになる。その人物が、香港だけではなく、台湾にも接近しているのである。

カール・ジャーシュマンが景星勳章を授与されてから1年後の2020年8月、中国政府は香港問題に関与した11人の関係者に対し制裁措置を発動した。その中のひとりにジャーシュマンの名前があった。他にも米国系の組織では、共和党国際研究所のダニエル・トワイニング代表、国立民主研究所のデレク・ミッチェル代表、自由の家のマイケル・アブラモウィッツ代表の名前もあった。(出典: https://www.ned.org/democracy-and-human-rights-organizations-respond-to-threat-of-chinese-government-sanctions/

◆米国の世界戦略の変化、軍事介入から世論誘導へ

意外に認識されていないが、米国の世界戦略は、軍事介入を柱とした戦略から、外国の草の根ファシズム(「民主化運動」)の育成により、混乱状態を作り出し、米国に敵対的な政府を転覆させる戦略にシフトし始めている。その象徴的な行事が、米国のバイデン大統領が、昨年の12月9日と10日の日程で開催した民主主義サミットである。

トランプ大統領は、大統領就任当初から、「米国は世界の警察ではない」という立場を表明するようになった。同盟国に対して、軍事費などの相応な負担を求めるようになったのである。

その背景には、伝統的な軍事介入がだんだん機能しなくなってきた事情がある。加えて、米国内外の世論が伝統的な軍事介入を容認しなくなってきた事情もある。

 

アントニー・ブリンケン(出典:ウィキペディア)

バイデン政権が発足した後の2021年3月4日、アントニー・ブリンケン国務長官は、「米国人のための対外政策」と題する演説を行った。その中で、対外戦略の変更について、過去の失敗を認めた上で、次のように言及している。

「われわれは、将来、費用のかかる軍事介入により権威主義体制を転覆させ、民主主義を前進させることはしません。われわれは過去にはそうした戦略を取りましたが、うまくいきませんでした。それは民主主義のイメージを落とし、アメリカ人の信用失墜を招きました。われわれは違った方法を取ります。」

「繰り返しますが、これは過去の教訓から学んだことです。 アメリカ人は外国での米軍による介入が長期化することを懸念しています。それは真っ当なことです。介入がわれわれにとっても、関係者にとっても、いかに多額の費用を要するかを見てきました。

とりわけアフガニスタンと中東における過去数十年間の軍事介入を振り返るとき、それにより永続的な平和を構築するための力には限界があることを教訓として確認する必要があります。大規模な軍事介入の後には想像異常の困難が付きまといます。 外交的な道を探ることも困難になります。」(出典:https://www.state.gov/a-foreign-policy-for-the-american-people/

実際、米国軍は2021年8月、アフガニスタンから完全撤廃した。そして既に述べたように昨年12月、バイデン大統領が民主主義サミットを開催し、そこへ全米民主主義基金などが参加して、その専門性を発揮したのである。

◆第11回世界の民主主義運動のための地球会議」が台湾で

しかし、実態としては米国政府が本気で非暴力を提唱しているわけではない。ダブルスタンダードになっている。事実、外国で「民主化運動」なるものを展開して、国を混乱させた後、クーデターを起こす戦略がベネズエラ(2002年)やニカラグア(2018年)、そしてボリビア(2019年)で断行された。香港でも類似した状況が生まれていた。米国の戦略は、当該国から見れば内政干渉なのである。

筆者は、台湾でも米国が香港と同様の「反中キャンペーン」を展開するのではないかと見ている。火種は、米国側にある。香港と同じような状況になれば、中国も反応する可能性がある。

今年の10月には、「第11回世界の民主主義運動のための地球会議」が台湾で開催される。主催者は、「民主主義のための世界運動」という団体だ。しかし、この団体の事務局を務めているのは、米民主主義基金なのである。(出典:https://www.ned.org/press-release-11th-global-assembly-world-movement-for-democracy/

【参考記事】全米民主主義基金(NED)による「民主化運動」への資金提供、反共プロパガンダの温床に、香港、ニカラグア、ベネズエラ…… 

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年2月号!

『紙の爆弾』『NO NUKES voice』今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

広島県内でも役所や企業が仕事始めだった2022年1月4日、広島県内の新型コロナウイルスの新規感染者数が109人と聞いて、筆者は腰を抜かしました。たった1週間前の2021年12月28日、すなわち役所の仕事納めだった日に1人だった感染者数が、指数関数的に爆発しています。こうした中、1月10日の成人式を広島市や大竹市は延期するなどの対応に追われています。広島県は宿泊療養施設の受け入れを開始しました。

今回の感染爆発の主役はオミクロン株とみられます。南アフリカなどでは死亡率や重症化率は従来型より低いというデータもありますが、反面で感染力が強いために、患者が桁違いに増えて、重症や死亡の「絶対数」は多くなる危険もあります。

◆隣接する岩国市との関連が多い広島県内感染例

そして、広島県の分析では、西隣で、広島市から直線距離でわずか30kmあまりの山口県岩国市との往来が関係する感染例が多いとのことです。

岩国市は広島県に隣接します。広島カープの2軍の本拠地も岩国市の由宇というところにあります。岩国からわたしの事務所がある広島市の安佐南区に通勤してこられる方も多くおられます。大昔、わたしが、岩国の酒場で県外だからと油断して大酒をのんで遊んでいたら、突然、となりの席の方に声をかけられ、「古市橋駅前でよく演説している人でしょう」と声をかけられ、驚愕して酔いが覚める、という不覚を取ったことがあります。また、それなりの有名な雑誌などでも「広島県岩国市」と誤記していたりすることがみられました。

◆拡張強化された岩国基地で先行して感染爆発

そして、その岩国市では一般市民に先行して、米軍岩国基地で感染爆発が起きています。米軍岩国基地は、現在は、軍人、軍属、家族をあわせて10000人以上の方がおられます。昔は、3000人規模だったのが、2013年度ころに空中給油機、さらには2014年度ころに厚木基地の艦載機が移駐して10000人にふくれあがりました。その岩国基地では2022年1月5日にはなんと182人もの新規感染者が出ています。

広島県内(県内)、岩国市内(岩国)、米軍岩国基地(基地)の新規感染者数は以下のように推移しています。

     県内-岩国-基地
12/01~20 0-0-0
12/21   0ー0-1
12/22   2-0-1
12/23   3-1-0
12/24   1-0-0
12/25   5-1-0
12/26   1-1-0
12/27   1-1-8
12/28   1-1-5
12/29   3-7-80
12/30   6-7-27
12/31   23-8-23
01/01   21-14-0
01/02   57-13-0
01/03   40-44-50(岩国基地は3日分をまとめて発表)
01/04   109-62-47
01/05   138-70-182

広島県の人口は280万弱(2021年に280万を割り込んだ)、岩国市が14万人弱、米軍岩国基地が上述のとおり1万人強です。

12月27日に岩国基地で8人の感染を確認すると、2日後には、80人に急増。岩国の一般市民でも1→7人に増えます。31日には、広島県内でも23人感染となりますが、これは県東部の尾道市でのクラスターによるものです。岩国とは関係がない可能性が高いでしょう。しかし、2022年元日。広島県で21人を記録。そして、わずか3日後の4日に109人、5日には138人を記録します。

◆人口あたり感染数、今の岩国基地は2週間後の広島か?

5日時点では、1週間の人口10万人あたりの新規感染者は岩国基地が3000人くらい、岩国市が150人くらい、広島県が14人くらいです。12月30日では、岩国基地が1200人くらい、岩国市が13人くらい、広島県内が6~7人くらい。12月28日では、岩国基地が150人くらい、岩国市が4人くらい。広島県内でも5人くらい。

岩国基地についていえば、毎日100万人が感染しているアメリカ本土と同等であるのはうなずけます。米軍兵士らは、パスポートもなしに、自由に日米を往来できるのです。

その岩国基地に遅れること8日で岩国市が基地と同程度の人口あたり感染数になる。さらにおくれること6日くらいで広島県内が岩国市と同程度になる。こういう関係が読み取れます。いまの岩国基地は2週間後の広島県という予測はできます。

◆変えるなら憲法よりも日米地位協定を変えるべき

広島県知事はすでに、岩国基地に対して、対策の強化を求めています。米軍基地を震源とする感染爆発はすでに沖縄県で起きています。沖縄県知事も米軍に対して激怒し、政府にはまんえん防止措置を求めていますが当然です。

コロナ対策に関連して、自民党など右派勢力からは、緊急事態条項創設を求める声が強まっています。しかし、まずは、米軍基地をなんとかするのが先ではないでしょうか?

米軍兵士らは、パスポートもなしに自由に日米を往復できています。これまでと桁違いの感染状況にある岩国基地からも事実上、自由に出入りできてしまいます。日本人は困窮者急増にみられるように、生活を犠牲にしてまで協力をしている。しかし、米軍にぶっ壊されてはたまったものではありません。

2008年岩国市長選挙の様子。この時、井原勝介前市長が打倒されたことが、14年後にコロナ災害の拡大につながろうとはおもいもよらなかった

日本政府は、コロナを災害指定し、全住民に、大水害や大震災の被災者と同様の生活再建支援をすればいいのです。緊急事態条項などいりません。日本全国を激甚災害に指定すれば、自治体が仕事をしやすいように、国が思い切った補助ができます。

それとともに、日米地位協定を変えるべきです。日本の国内にいる以上、米軍兵士の皆様にも、日本人同様にご協力をいただかなければなりません。今後も、コロナに限らず感染症が世界的な流行をみることは十分に想定できます。

岩国基地の地元の岩国市民は、2006年、いったんは艦載機の移駐を拒否する住民投票結果を出しました。しかし、自民党政府が財政面での執拗な締め上げを行ったのです。それに市議会多数派が屈して、当時の井原勝介市長の市政運営の脚をひっぱりました。

2008年の出直し市長選挙で議会多数派は、自民党代議士だった福田現市長をかついで井原市長を打倒。福田現市長が、交付金と引き換えに米軍基地強化を受け入れた経緯があります。基地の規模は人員ベースで3倍以上になりました。

それ以降、筆者が住む広島市内でも米軍機が我が物顔で飛ぶようになり、爆音が増えるなど被害が増えていました。その矢先の米軍によるコロナ災害拡大です。岩国市民も広島県民もこれ以上、米軍になめられてはいけん。日米地位協定改定を今回のことも教訓に強く求めていきましょう。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

1月7日発売! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年2月号!

◆戦史は歴史観か、それとも史料になるのか

年々、新たになるのは古代史や中世史だけではなく、現代史においてもその中核である日中・太平洋戦争史でも同じようだ。今年の終戦特集番組はそれを実感させた。

 

『不死身の特攻兵(1)生キトシ生ケル者タチヘ』(原作=鴻上尚史、漫画=東直輝、講談社ヤンマガKCスペシャル2018年)

個人的なことだが、父親が予科練(海軍飛行予科練習生)だったので、本棚は戦史もので埋まっていた。軍歌のレコードもあって、聴かされているうちに覚えてしまい、昭和元禄の時代に軍隊にあこがれる少年時代であった。そういうわたしが学生運動にのめり込んだのだから不思議な気もするが、じつは両者は命がけという意味で通底している。

たとえば三派全学連と三島由紀夫へのシンパシーは、一見すると真逆に見えるが、三島研究を進めるにつれて、そうではなかったとわかる。自民党と既成左翼に対抗するという意味で、三島と三派および全共闘は共通しているのだ(東大全共闘と三島由紀夫の対話集会)。

つまり過激なことが好きで、戦争に興味があるのも、ミリタリズムへの憧れとともに、そこに人間の本質が劇的に顕われるからではないだろうか。およそ文学というものはその大半が、恋愛と戦争のためにある。

◆特攻は志願制ではなかった

戦史通には改めて驚くほどのことではないかもしれないが、テレ朝の「ラストメッセージ“不死身の特攻兵”佐々木友次伍長」は、戦前の日本人の死生観を考えるうえで興味深いものがあった。

その特攻隊は、陸軍の万朶隊という。日本陸軍は基地招集の単位で動くので、万朶隊は茨城県の鎌田教導飛行師団で編成され、フィリピンのルソン島リパへ進出した。そこで特攻隊であることを命じられ、岩本益臣大尉を先頭に猛特訓に励む。ときあたかもレイテ海戦で海軍が敗北し、フィリピンの攻防が激化していた。

最近の特集番組で明らかになったのは、特攻隊がかならずしも志願制ではなかったという事実だ。

従来、われわれの理解では部隊単位で各自に志願を問われ、全員が手を挙げて志願することで、特攻は志願者ばかりだった。と解説されてきたものだ。ところが、実態は「どうせ全員が志願するのだから、命令でいいだろう」というものだったようだ。

レイテ決戦のときの「敷島隊」の関行男中佐も「僕のような優秀なパイロットを殺すようでは、日本も終わりだ」と言い捨てたと明らかになっている。従来、敷島隊は「ぜひ、やらせてください」という隊員の反応(これも確かなのだろう)だけが伝わっていた。

 

大貫健一郎、渡辺考『特攻隊振武寮 帰還兵は地獄を見た』(朝日文庫2018年)

さて、特攻を命じられた岩本隊長は、ふだんの温厚さをかなぐり捨てて、大いに荒れたが、部下には「大物(空母や戦艦)がいないなら、何度でもやり直せ。無駄死にはするな」と命じていた。特攻の覚悟はあったが、暗に通常攻撃を督励していたといえよう。

岩本は特攻機を改造もさせている。特攻機は爆弾をハンダ付けし、機体もろとも突入することで戦果が得られる。爆弾を内装する爆撃機仕様の場合は、起爆信管が機体の頭に突き出している。

その「九九式双発軽爆撃機」の3本の突き出た起爆管を1本にする改造を行っている。このときに爆弾投下装置に更に改修が加えられ、手元の手動索によって爆弾が投下できるようになったのだ。

これは番組では岩本の独断とされていたが、鉾田飛行師団司令の許可を得てあったのが史実だ。

だが、その岩本大尉は同僚の飛行隊長らとともに、陸軍第4航空軍司令部のあるマニラに行く途中に、米軍機に撃墜されてしまう。万朶隊の出撃を前に、司令部が宴会をやるので招いたというものだ。

クルマで来るように指示したのに、飛行機で来たからやられたとか、ゲリラがいるのでクルマで行ける行程ではなかったとか、これには諸説ある。

◆9回の特攻命令

雨に祟られた甲子園大会も、なんとか再開したが野球のことではない。

9回特攻を命じられたのは、下士官の佐々木友次伍長である。佐々木は岩本大尉の教えに忠実に、大物がいなかったから通常攻撃(爆弾投下)で戦果を挙げていた。つまり突入せずに帰還したのである。

ところが、大本営陸軍部は佐々木らの特攻で「戦艦を撃沈」(実際は上陸用揚陸艦に損害)と発表し、佐々木も軍神(戦死者)のひとりとされていた。軍神が還ってきたのである。

第4飛行師団参謀長の猿渡が「どういうつもりで帰ってきたのか」と詰問したが、佐々木は「犬死にしないようにやりなおすつもりでした」と答えている。

第4航空軍司令部にも帰還報告したところ、参謀の美濃部浩次少佐は大本営に「佐々木は突入して戦死した」と報告した手前「大本営で発表したことは、恐れ多くも、上聞に達したことである。このことをよく胆に銘じて、次の攻撃には本当に戦艦を沈めてもらいたい」と命じた。

 

鴻上尚史『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(講談社現代新書2017年)

ようするに、天皇にも上奏した戦死なので「かならず死ぬように」というのだ。機体の故障、独断の通常攻撃、出撃するも敵艦視ず、また故障。という具合に、生きて還ること9回。正規の命令書に違反しているのだから軍規違反、敵前逃亡とおなじ軍法会議ものだが、なにしろ岩本大尉の「無駄死にするな」という命令も生きている。戦果も上げる(突入と発表される)から故郷では二度まで、軍神のための盛大な葬式が行なわれたという。詳しくは、鴻上尚史『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(講談社現代新書2017年)を参照。
そうしているうちに、フィリピンの陸軍航空団もじり貧となり、第4航空軍の富永恭次中将が南方軍司令部に無断で台湾に撤退した。この富永中将は特攻隊員を送り出すときに「この富永も、最後の一機に乗って突入する」と明言していた人物である。

海軍の特攻創始者である大西瀧治郎は、敗戦翌日に介錯なしで自決。介錯なしの自決には、陸軍大臣阿南惟幾も。連合艦隊参謀長(終戦時は第5航空艦隊長官)の宇垣纏は、玉音放送後に17名の部下を道連れに特攻出撃して死んだ。

本当に特攻は有効だったのか、アメリカ海軍の記録では通常攻撃の被害のほうが大きかった。というデータがあり、従来これはカミカゼ攻撃の被害を軽微にしたがっているなどと解説されてきた。だが、海軍の扶桑部隊などの歴史を知ると、訓練不足の若年兵はともかく、ベテランパイロットによる通常(反復)攻撃のほうに軍配が上がりそうだ。ともあれ、特攻が将兵の自発的・志願制ではなく、日本人的な暗黙の強制だったことは明白となってきた。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』9月号

『紙の爆弾』『NO NUKES voice』今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

わたしは知っている。奴らが「忘却」を武器に時間の経過を利用しながら、あのことを「なかった」ものにしようとたくらんでいることを。

わたしは、ずっと昔から気が付いている。どの時代でも「マスメディア」などは信用するに値せず、少数の例外を除いては、いつでも扇情的で、事実の伝達よりは、体制補完に意識的・無意識的に結果、熱心に作用していることを。

わたしは痛めつけられてきた。異端に対するこの島国の住人からのまなざしに。無言のうちに成立する不気味な「調和」、「規律」、「統一行動」。それから精神的に逸脱するもの、行動で逸脱するものへ、情け容赦なく加えられる、あの集団ヒステリアともいうべき、排他の態度に。目は血走り、殴り蹴飛ばすこともいとはないあの狂気。

わたしは見抜いている。「地球温暖化」を理由とした「脱炭素社会」の大いなる欺瞞を。「炭素」は人間の体を構成する元素じゃないのか。わたしたちは吐息をするごとに二酸化炭素を吐き出しているだろう。一酸化炭素を人間が吸いこめば、下手をすれば死ぬ。でも二酸化炭素がなければどうやって「光合成」は行われるのだ。「光合成」が止まってしまっても、人間や動物は生きていられるのか。「炭素」全体を悪者扱いする議論は、人間だけではなく生態系の否定に繋がるんじゃないのか。違うというのであれば、下段にわたしのメールアドレスを示しているので、どなたかご教示いただきたい。この議論は「地球温暖化」→「二酸化炭素犯人説」→「脱炭素」→「原発容認」→「核兵器温存」とつながる、実に悪意が明確でありながら、当面世界経済に新たな市場を生む分野として、末期資本主義社会には期待されている。わたしは資本主義を激烈に嫌悪し、早期に滅びてほしいと願うものである。

わたしは、激高している。76年前のきょう、灼熱に焼かれた、瞬時に焼き殺された、時間をかけて苦しんで死んでいった、長年被爆の後遺症に苦しんだ、体の記憶を、薄っぺらで限られた時間の中だけで扱えば、それで事足れりと始末してしまう、人々のメンタリティーに。

わたしは、半ばあきれながら軽蔑し、いずれは「矢を撃とう」と考えている。わたしが、被爆影響の可能性が高い症状であることを、明かしたことに対して、ろくな覚悟もないくせに、難癖をつけてくる、ちんけで気の毒な人間に。体の痛みがどれほどのことかもわからないくせに、軽々しくもわたしの体調をあげつらう人間。それは現象としてはわたし個人が対象であっても、そこから射程をひろげれば、被爆者(原爆・核兵器・原発)に対するある種の共通性を持った社会的態度と通じる。「黒い雨裁判」は高裁勝訴を勝ち取るまでに、どれほどの時間を要したことか。個人による侮蔑、行政による不作為または無視。わたしの価値観ではどちらも同罪だ。

2021年8月9日。毎年震度7クラスの地震が起き、原発4基が爆発し、ゲリラ豪雨により毎年河川氾濫は当たり前。世界中で感染症が波状的に襲ってきて、「軽症患者は入院させない」と棄民宣言を平然とのたまう政府。これは「地獄図絵」ではないのか。

わたしは、30年前にこんな「地獄図絵」は予見できなかった。大きな天災や人災の一つ二つはあるだろうとはおもった。人間の知性が総体として崩れゆくだろうとも予感した。毎日が「あたりまえ」のように流れてゆくゆえ、人間は鈍感になる。徹底的に鈍感になっていると思う。2021年8月9日は1945年8月9日と、表情は違うものの「地獄図絵」が展開されていることにかわりはない。

「地獄」におかれてもまだ「地獄」だと感知できず、高らかに乾いた笑い声をあげるひとびとは、さらにそぞろ寒い光景を際立させる。

青い空だけが変わらない。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

*「祈」の書は龍一郎揮毫です。
下の「まだ まにあう」は、チェルノブイリ原発事故の翌年に、龍一郎と同じく福岡の主婦が、原発の危険性を説いて人々の自覚を促す長い手紙を書き、これが『まだ、まにあうのなら』という本になりました。佐藤雅彦『まだ、まにあう! ―原発公害・放射能地獄のニッポンで生きのびる知恵』は、これに触発されて、福島原発事故後の2011年11月に急遽刊行されました。ご関心があれば、ぜひご購読お願いいたします。お申し込みは、https://www.amazon.co.jp/dp/4846308472/ へ。

龍一郎・揮毫

佐藤雅彦『まだ、まにあう! ―原発公害・放射能地獄のニッポンで生きのびる知恵』

佐藤雅彦『まだ、まにあう! ―原発公害・放射能地獄のニッポンで生きのびる知恵』
https://www.amazon.co.jp/dp/4846308472/

 

『NO NUKES voice』Vol.28 《総力特集》〈当たり前の理論〉で実現させる〈原発なき社会〉

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

◆北戴河会議で何が話し合われたのか

台湾出身の評論家・黄文雄のメールマガジン「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」によれば、習近平のアジア戦略が急展開を見せるだろうと観測されている。

黄氏の分析によると、現在の香港に対する締め付けは、じつは台湾との統一に向けたものだとしている。そして香港での一連の騒動(国家安全維持法反対デモ)のなかで、中国では恒例の北戴河会議が行われたという。

この北戴河会議とは、渤海湾に面した中国河北省の保養地・北戴河に毎年7月下旬から8月上旬ごろにかけて、共産党の指導部や引退した長老らが避暑を兼ねて集まり、人事などの重要事項を非公式に話し合う会議である。毛沢東時代から開かれてきたが、会議の開催や結果は公表されない。胡錦濤・前国家主席時代の2003年にいったん中止を決めたものの、数年後には復活した。

今年はコロナウイルスの関係で開かれない見通しだったが、開かれたことに習政権の危機感が感じられる。習政権に批判的な長老が参加する会議を、あえて開いた意味は大きいとみられる。

会議の内容は言うまでもなく、米中問題や香港問題、そして2022年の共産党大会での習近平の続投問題などであろう。

黄氏の分析では、台湾との統一がこれまでの「平和統一」ではなく、武力をふくめた強硬なものに変化しつつあるという。

「5月末に行われた中国の全国人民代表大会での李克強首相の政府活動報告では、昨年までの『平和統一』を目指すという表現から、『平和』が抜けて、『統一』を目指すという表現になりました。そしてこのときの全人代で、香港への国家安全維持法制定を決定したのです」(黄氏)

習近平は2022年の共産党大会で、総書記3期目を狙っているという。マルクス・レーニン主義、毛沢東思想につづき、自分の思想・路線を「習近平路線」として個人崇拝的に打ち出し、個人独裁をもめざす習総書記にとって、いまだ足りないのは対外的な実績である。

そのための実績づくりとして、台湾併合を急ぎたい。その併合は、武力をふくめた強硬なものに変化しつつあるのだ。そのいっぽうで香港立法会議員の任期を1年延期している。いま香港で選挙を行えば、民主派による反中キャンペーンで香港が再び大混乱するという懸念からである。

台湾では今年1月の総統選挙で蔡英文が再選し、あと4年は民進党政権が続く見通しだ。しかも蔡英文は、新型コロナ対策の封じ込めに成功したため支持率が高く、これが急速に低下することも考えにくい。

そこで、習近平政権による軍事行動をふくむ強硬策が考えられると、黄氏は言う。

「台湾国防部は2018年に『中共軍事力報告書』を発表しましたが、そこでは、中国は2020年までに全面的な侵攻作戦能力の完備を目指しているという見方を示しました。そして、中国が武力侵攻する可能性があるのは『台湾による独立の宣言、台湾内部の動乱、核兵器の保有、中国との平和的統一を目指す対話の遅延、外国勢力による台湾への政治介入、外国軍の台湾駐留などが起きた際だ』と分析しています」

その「外国勢力による台湾への政治介入、外国軍の台湾駐留」が、アメリカを想定したものであることは言うを待たない。当面の中米の「戦場」は東シナ海であろう。


◎[参考動画]中国で海軍創設70周年行事 初の空母参加 北朝鮮も(ANNnews 2019年4月23日)

ここ数年の空母(遼寧ほか)をふくむ海軍の増強は、東シナ海(第一列島線)での制海権の確立、および南沙諸島の拠点化を見すえたものにほかならない。沿海海軍から、外洋艦隊(第二列島線越え)への脱皮、そして空軍力でも対台湾力関係の逆転が展望されている。

香港の民主化運動を締めつけ、返す刀で台湾の武力併合をめざす。この戦略は南沙諸島への軍港・飛行場建設などを見れば、中国の太平洋戦略はきわめて現実的なものとなってくる。

◆アメリカの動きをみれば、中国の戦略が浮き彫りになる

中国の太平洋戦略を見すえた、アメリカの動きも急ピッチである。

アメリカのアザー厚生長官が8月10日、台北市内の総統府で蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と会談した。アザー長官は「台湾を強く支持し、友好的であるというトランプ大統領の意向を伝えにきた」と表明し、蔡総統も長官の訪台を「台米にとって大きな一歩だ」と歓迎している。

アメリカの閣僚の台湾訪問はじつに6年ぶりで、米台高官の相互訪問を促す米「台湾旅行法」成立後では初めてとなる。トランプ政権はアザー長官の訪台を1979年の国交断絶いらい、最高位の高官派遣としている。いうまでもなく、トランプ政権の「歴代アメリカ政権の中国政策の誤り」を是正するものとして、対中包囲網の一環を形成したことになる。

この15日にも空母ロナルド・レーガンとニミッツをふくむ空母打撃群が、東シナ海での演習を行なった。この空母打撃群は7月にも2度にわたり、空母以外の4隻の艦艇をともなう、本格的な水上訓練をおこなっている。

いっぽう、中国も7月1日から5日までに西沙諸島周辺で海軍演習を行なっている。このときは3つの戦区海軍(北部戦区海軍、東部戦区海軍、南部戦区海軍)から、それぞれ黄海、東シナ海、南シナ海に同時に大演習を実施させている。中でも南部戦区海軍は、南シナ海の中でも領土紛争を抱える機微な海域で演習を実施した。
中国は8月にも海南島沖の南シナ海で、東沙島奪取を想定した大規模な上陸演習を計画している。これについて、日本の防衛省防衛研究所はつぎのように分析している。

「海軍陸戦隊を主体にして南海艦隊の071ドック揚陸艦、Z8ヘリコプター、大型ホバークラフトなどを動員した本格的なものになるだろう」と。

このかん、自衛隊も公開訓練のなかで「島嶼奪還を想定した」上陸訓練や降下訓練をくり返している。アメリカ海軍との水上訓練も積み重ねてきている。この分野では、完全にシビリアンコントロールは機能していないとみるべきだろう。


◎[参考動画]USS America Conduct Flight Operations in South China Sea, F-35B Lightning II, CH-53E Super Stallion


◎[参考動画]USS Gabrielle Giffords On Patrol in the South China Sea

◆主役として巻き込まれることに、無自覚な日本政府

領土問題など政治的に緊張のある海域での演習・訓練は、そのまま軍事をふくむ外交戦略である。戦争が別の手段をもってする政治の継続(クラウゼヴィッツ)である以上、高度な政治戦の段階にあるとみるべきであろう。

とくに大統領選挙をひかえたトランプ政権において、外交上の実績づくりはそのまま得票を左右するものとなる。10年に一度は戦争をしなければならない、軍産複合体(人口3000万人)をその内部に抱えるアメリカにとって、それはトランプの単なる思いつきが契機になるわけではない。アメリカ社会そのものが戦争を必要とし、その格好の材料として中国の挑発、あるいはその第二戦線としての朝鮮半島情勢。すなわち北朝鮮の核・ミサイル武装の問題が浮上してくるのだ。

日本のシビリアンコントロールが機能していないというのは、アメリカ海軍の動きに自衛隊が自動的に巻き込まれ、いっぽうで日本政府が米中の政治的緊張とまったく別のところにいる、という意味である。あるいは無為と言い換えても良い。

アメリカの軍事的・政治的パートナーである日本は安倍政権という、からっきし危機管理に弱い反面、アメリカの言いなりになる意志薄弱な政権を抱えている。戦後75年において、わが国の事情とは関係なく戦争の危機はすぐそこにある。にもかかわらず、その戦争の危機の主役は無自覚なままなのだ。


◎[参考動画]中国建国70周年 最大規模の軍事パレード(テレ東NEWS 2019年10月1日)


◎[参考動画][中華人民共和国成立70周年] (CCTV 2019年10月1日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2020年9月号【特集】 新型コロナ 安倍「無策」の理由

『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

「アベノマスク」といい、実現性も経済効果も希薄な「GO TO トラベルキャンペーン」といい、冗談のように派手な看板を掲げては、世論の反発を受けている安倍政権の「アイデア」政策である。

だが、こと国防問題においては、これが単なる冗談では済まなくなる。イージス・アショワ設置が停止になったあとの、ミサイル防衛戦略である。

安倍政権は17日にNSC(国家安全保障会議)の4大臣会合を首相官邸で開き、地上配備型迎撃システム、イージス・アショアに代わる新たなミサイル防衛について協議した。政府は9月をめどに方向性をまとめたい考えだという。

◆トランプに媚を売った安倍総理の失敗

そもそもイージス・アショアは、きわめて杜撰な計画だった。秋田県男鹿市の設置場所では、死角になる本山への仰角をグーグルアースで計測した(三角系数で試算しなかった)ために、ミサイルを発射できないというチョンボを犯し、山口県においてもブースター(第一段ロケット)が住宅地に落下することが判明したのだ。

しかも、高額(トランプに押し付けられた)のうえ、当面は役に立たないという頼りなさである。設置予定だった迎撃ミサイルSM3ブロック2Aは2200億円以上、じつに12年の開発期間を要するものだったのだ。河野防衛大臣は6月16日の記者会見で、計画停止の理由を「約束を実現するためにコストと時間がかかり過ぎる」「(ブースターが地上に落ちるので)計画どおりに運用できない」「ハードウェアを改修すれば倍のコストがかかる」などと説明した。

ようするに、安倍総理の「思いつき」(トランプからの押し売り)で設置を計画してみたものの、あまりにも杜撰で使いものになりそうになかった、というものだ。12年間もの空白が生まれることに、安倍総理は契約時に思いをめぐらせなかったのだろうか。日米同盟の健在(トランプとの蜜月)をアピールするあまり、押し売りでしかない防衛装備を大量に買い入れ、効率の悪い防衛戦略を抱え込んでしまったのだ。

◆敵基地への先制攻撃?

ところで、このチョンボを奇禍とするがごとき動きが、安倍政権内部に起きつつあるのだ。冒頭に紹介したNSC(国家安全保障会議)の4大臣会合こそ、新たなミサイル防衛戦略にほかならない。それはしかし、専守防衛の壁をこえて一気に先制攻撃に道を開こうとするものなのだ。

安倍首相は6月18日の総理会見でイージス・アショアの配備計画停止について「わが国の防衛に空白を生むことはあってはならない」などと言い、敵基地攻撃能力の保有について「抑止力とは何かということを、私たちはしっかりと突き詰めて、時間はないが考えていかなければいけない」「政府においても新たな議論をしていきたい」と発言していた。その発言につづいて、政府高官のあいだから「守るより攻めるほうがコストは安い」(テレビ報道)という発言が飛び出すなど、従来の防衛戦略を突き崩す動きが顕著になっているのだ。

敵基地の先制攻撃論は、北朝鮮がミサイル実験をはじめた当初から議論されてきた。発射されてからでは遅い。ミサイル(液体)燃料の注入が始まった段階で、攻撃の意志ありとみなして攻撃すべきだと。実験のためのミサイル発射準備も「攻撃意志ありとみなす」じつに危険きわまりない発想である。北朝鮮のミサイルが固形燃料になった今、どうやって敵の攻撃意志を確認し、どの基地をどう叩くというのだろうか。

この点については、軍事評論家の香田洋二氏(元自衛艦隊司令官・統合幕僚会議事務局長や佐世保地方総監などを歴任。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など)が警告を発している(ネットマガジンなど)。

「イージス・アショアの配備断念を決定する段取りが拙速との評価を免れ得ない一方で、その善後策として敵基地攻撃能力の議論が始まるのも同様に拙速」であると。

◆偶発的「戦争の準備」よりも外交努力を

「敵基地攻撃は、やる以上、相手のミサイル能力を殲滅(せんめつ)する必要があります」(香田氏)

当然のことであろう。北朝鮮は500発以上の弾道ミサイルを保有し、そのうち数十個の核弾頭を装着可能だといわれている。攻撃の意志ありと「判断」し、先制攻撃したとして、一個でも撃ち漏らせば核弾頭が日本を襲う可能性があるのだ。北朝鮮のミサイル反撃はアメリカの応戦を呼ぶかもしれないが、核の応酬は惨劇を招くいがいの何ものでもない。核時代の戦争に勝者はないのだ。

香田氏はまた、ワイドショーのインタビューでは「日本には北朝鮮のミサイル基地を把握するスパイもいません。基地を叩こうにも、肝心の情報がないのです」と、指摘する。けだし当然である。

すでに北朝鮮は、潜水艦からの弾道ミサイル発射に成功している。自衛隊のP3C(早期警戒機)が領海をこえて、北朝鮮のミサイル潜水艦を索敵するのは、もはや戦争行為である。

いや、日本を仮想敵国にしている韓国・中国の防衛攻撃を受けかねない。その方面(歴史認識と島嶼領土問題)では、日本の政治的孤立は深刻である。安倍政権の外交努力の貧困こそ、問題にしなければならない。アメリカにすり寄るだけを外交だと思い込んでいる人物を、総理の座から引き下ろすのでなければならない。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2020年8月号【特集第4弾】「新型コロナ危機」と安倍失政 河合夫妻逮捕も“他人のせい”安倍晋三が退陣する日

『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

◆P3Cが中東の上空で、いったい何を「調査研究」するというのだ?

中東海域で、日本関係船舶の航行の安全を確保するために派遣される海上自衛隊のP3C哨戒機部隊が1月11日、海自那覇航空基地を出発・派兵された。ソマリア沖アデン湾で従来の海賊対処を継続しながら、20日に新たな情報収集任務をはじめるそうだ。

この自衛隊派兵に際して、防衛大臣河野太郎は「中東地域の平和と安定は我が国を含む国際社会にとって極めて重要。勇気と誇りを持って任務に精励してください」と訓示をしたそうだ。「一見何かを言っているようだけれども、実は何をを言いたいのか、さっぱりわからない」はなしが世の中にはよくある。河野の訓示が、まさにそれである。


◎[参考動画]自衛隊に中東派遣を命令 河野防衛大臣(ANNnewsCH 20/01/10)

「海賊を見張る」任務と、「調査研究」を実行するにあたり、「勇気と誇りを持って任務に精励する」とはどのような行為を指すのか? 海賊を見つけたらミサイルを飛ばして破壊しろということではあるまい。

「調査研究」と命じられているが、航空機であるP3Cが中東の上空で、いったい何を「調査研究」するというのだ? 中東地域の政情や、地域の情勢は、上空からはわかりはしない。いや正確には航空機のような「中途半端」な上空から掌握できる程度の情報は、人工衛星でもっと細密に収集分析できる。本当のところいったい、この時期にどうして自衛隊が中東に出かけてゆく必要があるのか。わたしには皆目理解できない。


◎[参考動画]自衛隊哨戒機が中東へ出発 約1年の情報収集活動(ANNnewsCH 20/01/11)

◆個としての自立が果たせていない烏合の種の集合体

イランと米国の関係が、微妙な時期であろうと思う。日本はイランから敵視されていない(これは極めて貴重な財産である)。いっぽう、米国に対しては何を求められても、抵抗せずに「謙譲の美徳」ならぬ「献上の美徳」を長年続けてきた。原爆を落とされようが、沖縄戦で非戦闘員がほぼ壊滅しようが、本土決戦では「1億総火の玉」となって竹槍で最後まで闘う!と狂気の沙汰を繰り広げていた、相手の国はどこだったのだろうか。

「生きて虜囚の辱めを受けず」と、戦中に帝国軍人が捕虜になることを「恥」と教えた、大元帥は敗戦後「辱め」を受けず、その範を生きざま(死にざま)で、しめしただろうか。1945年8月、日本に「神風」は吹いたのか? 吹き抜けたのは「神風」ではなく鉄を溶かす、熱風と、空から落ちてきた「黒い雨」だったのではないのか。それらを思うとき、なによりわたしが問いたいのは「あなたたちは、どうして、こうもやすやすと、きのうまで、『言っていた』、ことの逆がいえるのだ?」である。

これが民族性というものなのだろうか。そうであれば、この島国の住人の多数は、ずいぶん「無節操」な性格の持ち主か、個としての自立が果たせていない(何歳になろうが)烏合の種の集合体といわねばならない。

どうして、憲法違反の自衛隊を、この時期、中東に「調査研究」のために派遣しなければならないのか。あるいは、その行動が世界的には誰の利益になるのだ。誰によって賞賛され、この国にどのような果実をもたらすのか。はっきり説明できるかたがおられたら、本文の下にわたしのメールアドレスを示しているので、是非ご教示いただきたい。

◆自衛隊中東派兵のどこに国益を見出すことができるのか?

わたしは、頭の中がおかしいのだろう。大新聞も大マスコミも大して話題にもしないし、問題視することはない。そのこと(今般の自衛隊中東派兵)に、わたしは、どのような意義も言い訳も、視点を変えるとすれば、いわゆる「国益」も見出すことができない。どうしてこういうバカげた資源と人的エネルギー、そして金の無駄遣いをして、最初からややこしい地域に足を突っ込みに行くのか(せっかく足を突っ込まなくてもい立場にいるのに)ぜんぜん意味が解らない。

世の人の多くは、いつの頃からか忘れたけれども、すぐに「経済にとって」という、どうでもいい尺度がこの世の中で最上の価値であるかのように、勘違いをはじめた。企業経営者に質問するのであれば、わからないこともない。でも、商店街に買い物きているおばちゃんや、世の中のことなど20数年生きてきて、一度として本気で考えたことのないような、「馬鹿者」失礼、若者に「経済がどうなるか」の質問をぶつけてなんの意味があるのか。

二言目には「経済、経済」と世界で一番の価値が「経済!」との印象操作に、熱心な報道関係の方々にとって、自衛隊の中東派遣が「経済に悪影響を及ぼす」懸念はないのか?

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

2020年もタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年2月号

鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

『NO NUKES voice』22号 新年総力特集 2020年〈原発なき社会〉を求めて

2019年は、この国でのみ通用する時間軸(元号)の変更が行われた年であった。元号はときの天皇に付随して変更されるのはご承知のとおりであり、天皇が死去ではなく、生前にその位を息子に譲る現象を、わたしたちは目にすることとなった。


◎[参考動画]新元号「令和」安倍総理が談話発表(ANNnewsCH 2019/04/01)

◆明治政府は突貫工事で天皇という「神」を誕生させた

天皇が実権者として、社会の全面に登場したのは、江戸幕府が終わってからだ。倒幕により新たな国家体を早急に整える必要に迫られた、当時の実力者は、欧州におけるキリスト教支配に着目し、日本にも「神」を誕生させる突貫工事を行う。2000年近くかけて積み上げられて来た「キリスト教支配」を、明治政府は、大日本帝国憲法において、天皇を「神」と位置付けることにより構成しようと目論んだ。乱暴な支配構造建設は思いのほかの速度と、徹底度をもって国の支配軸を形成していった。

江戸時代の庶民にとって、天皇などは日常生活に、まったく関係のない存在であったのに、「立憲君主制」という危険な国家体創造を目指した勢力は、西欧が千年単位の時間をかけ確立した「キリスト教支配」を数十年で完成させてしまう。「神」は抽象的概念だが、国家神道は天皇を現人神に任命することにより、すべての具体的な疑問を封じ込めることに成功する。

◆「神国」の敗戦

しかし、無理は必ず破綻を招く。

「神」の名のもと、ポルトガルやスペインが世界に植民地を広げていった後塵を拝した「神国」=大日本帝国は、朝鮮半島、中国をてはじめに、アジア各国への侵略を画策する。一時は日本の傀儡である満州国をつくりあげ、中国国内が国民党と共産党の内戦状態であったことを奇貨として、「神国」=大日本帝国は、中国大陸を支配する直前まで侵略をすすめた。だが、国際社会は黙っていなかった。

第一次世界大戦以降「中立」を守っていた米国も、中国大陸での大日本帝国の狼藉には、堪忍袋の緒を切らし、石油の対日輸出をストップする。米国による対日石油禁止こそが、真珠湾攻撃(対米開戦)が決定づけられた理由であることはご存じの通りだ。そのごは坂道を転げ落ちるように「大日本帝国」は敗残を続ける。白人支配に楯突いた、アジア人に対して欧米諸国の返礼は、容赦なかった。「100年早いんじゃ!」と言わんばかりに、全国の主要都市が絨毯爆撃を受け、非戦闘員も100万人以上が犠牲になった。


◎[参考動画]Japanese General Chooses Seppuku Over Surrender(Smithsonian Channel)

◆敗戦をいたずらに引き延ばした昭和天皇ヒロヒトの責任

竹槍での本土決戦を叫ぶ、理性を失った「神国」=大日本帝国の天皇ヒロヒトが「敗戦」を受け入れたのは、広島、長崎に原爆が投下がなされたあとだ。大本営内でも1945年の初期には講和を探る動きがあった。

「もうどう考えても勝てない。条件付き敗戦を認めるべきだ」

最後の理性は、しかしながらヒロヒトによって踏みにじられる。1945年年始に敗戦を受け入れていれば、100万人近い空襲の犠牲者の、大部分は難を逃れることができただろう。

敗戦をいたずらに引き延ばしたのは、昭和天皇ヒロヒトの責任だ。もちろん、アジア諸国への侵略も「御稜威」(みいつ)を盾に行われたのだから、その責任がヒロヒトにあることは言を俟たない。

ヒロヒトは敗戦後、GHQ司令官として日本にやってきたマッカーサーにいち早く媚を売りに行き、自身と天皇制の延命に向けて動き出す。ヒロヒトの工作は成功し、統帥権者であったヒロヒトが戦犯として東京裁判で被告にされることはなかった。あるいは日本国憲法施行後も、日本の国民によってヒロヒトが裁かれることはなかった。


◎[参考動画]Japanese Emperor Hirohito’s World War II surrender(New York Daily News)


◎[参考動画]Macarthur’s Welcome (British Pathe)

唯一具体的なヒロヒトに対する、人民からの「オトシマエ」を付けさせようとの行動は、「東アジア反日武装戦線」により、荒川にかかる鉄橋爆破により保養先から帰途にあるヒロヒトを処刑する計画が立てられ、実行寸前まで計画は準備されたが、最後の準備が整わず、荒川鉄橋上でのヒロヒト爆殺計画(虹作戦)は、断念されることになる。

◆神様は責任を取らない

さて、天皇は日本国憲法の第一条から第八条でその地位や、役割が定められている。「国民統合の象徴」が日本国憲法下天皇の法的位置づけである。「国民統合の象徴?」1億2千万人の個性を誰かひとりの人間が「象徴」することなどできるのか? わたしのような、はずれものから、勤勉な労働者、元気な若者、病に苦しむ患者さん…実に多様な個性を一人の人間が「象徴」する。ずいぶん乱暴すぎる平均値の取り方ではないか。だが苦し紛れに見える「象徴」には深遠な意図と、明確な目標、守るべき「国体」を隠蔽する機能が同時に備えられている。

そのことを今年私たちは目撃したのだ。日本国憲法における「象徴」とは、国家神道に由来する天皇の神格化に他ならない事実を、即位の礼、大嘗祭で見せつけられたではないか。おめでたいテレビのアナウンサーは「平安絵巻さながらの」とあの時代錯誤も甚だしい、あの装束を褒めちぎったが、彼らが神道にのっとった儀式を進めていることを、はっきり解説したコメンテーターはいただろうか。

神様は責任を取らない。日本国憲法は平和憲法といわれているが、それを隠れ蓑にして、国家神道は何度改元を繰り返しても、いまのところ健在だ。「無答責」という言葉は「責任を取らない」ことを意味する。明治憲法で統帥権者、現人神として規定された天皇ヒロヒトは、「神」であるがゆえに戦争の責任を問われることがなかった。その息子アキヒトは、平和主義者を演じるのに熱心ではあったが、ヒロヒトが免罪された(免罪されたからといってなかったわけではない)戦争責任に言及することは、あるはずもなかった。

そしてその息子、ナルヒトも同様に「象徴」として過去の責任からは、まったく無縁に安穏と天皇としての役割を果たしてゆくのだろう。

ちなみにいまこの国のひとびとが、最も嫌悪しているであろう国の1つ、朝鮮民主義人民共和国は、その建国から、大日本帝国をまねた国家体制を打ち立てている。金日成は「絶対」であり、朝鮮民主主義人民共和国では金日成が生まれた年を、元年とした、独自の時間軸が使われている。「古臭いなー」と読者はお感じにならないだろうか。

でも、同様の現象が、もっと自由であるはずの日本で、2019年、堂々と展開されている。この倒錯にこそ日本の根源問題を見る。


◎[参考動画]Japanese Emperor Naruhito’s coronation ceremony at the Imperial Palace | FULL(Global News 2019/10/22)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

月刊『紙の爆弾』2020年1月号 はびこる「ベネッセ」「上智大学」人脈 “アベ友政治”の食い物にされる教育行政他

鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

『NO NUKES voice』22号 新年総力特集 2020年〈原発なき社会〉を求めて

安倍政権に忖度するマスコミが文在寅(ムンジェイン)政権を批判するなか、ようやく自民党内部から安倍批判が出てきた。例によって、党内非主流派ながら党員に人気の高い石破茂議員である。

朝日新聞のウェブサイト(9月1日付)から引用しよう。

【自民党の石破茂・元幹事長率いる石破派(水月会)は1日、神奈川県小田原市で会合を開いた。石破氏は記者団の取材に応じ、泥沼化する日韓関係の悪化に触れ、安倍政権の対応ぶりを念頭に、「『しばらくこのままでいくしかないね』という考えがずいぶんと広がっている」と指摘。「地域の平和と安定に決して寄与しない」と述べた】

だれもが「出口がない」と感じている日韓関係である。だれも打開の必要を述べていない中で、政治家としては当然の発言であろう。本欄で何度か指摘したとおり、安倍政権の事実上の禁輸措置に始まった日韓関係の泥沼化は、文政権の崩壊を意図したものである。しかるに、米CIAではあるまいし、安倍政権に韓国の政権を倒す工作力があるわけではない。ただひたすら、頑なに対韓外交を硬直化させるばかりだ。

◆韓国叩きに熱中するメディアの危険性

そんな安倍政権の態度を忖度するマスメディアは、文在寅大統領が法相に就けようとするチョ・ググ氏のスキャンダルを報じることに熱中している。このスキャンダル隠しが韓国政府によるGSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄だと断じる報道もある。いまや、一億総嫌韓とでもいうべき報道がなされている。

問題にされているのは歴史問題なのである。いかに韓国の歴史教育が偏向していようと、史実をねじまげて歴史教育がなされているわけではない。大日本帝国による韓国併合という植民地支配の事実を変えられない以上、わが国は永遠に侵略国であり宗主国なのである。そうであればこそ、わが国は香港におけるイギリスのように、宗主国としてのふるまい、すなわち謝罪と誠意をもって両国関係を築かなければならないのだ。台湾に対しては、結果的にそのようになっているではないか。
さらに石橋氏の語るところを聴こう。安倍総理の口からは、けっして聞かれることのない内容だ。

【「これが(解決のための)考えだと言える人はいないと思う。それほど厳しい、複雑な、難しい状況にある」と説明。「日本と朝鮮半島はずっと関係が悪かったわけではない。長い歴史をみたとき、本当に修復不可能だと、努力を放棄していいんだろうか」と強調した。石破氏自身もこの数カ月、日本と朝鮮半島の歴史について勉強しているといい、「(歴史を)知ったうえで相手と相対するのと、知らないで相対するのはまったく違う」と語った】(前出朝日新聞ウェブサイト

◆歴史認識は「教養」である

歴史認識は立場によって、多面的な評価があって当然である。たとえばスポーツに例えてみよう。日本のスポーツの歴史の中で、野球の盛況は他のスポーツの低迷を招いたといえる。テニス関係者は「野球に人材を取られることで、かつての栄光の時代は終わった」と、イギリスから輸入された時期の全盛期を懐かしむ。

かつて、大学ラグビー全盛時代に見向きもされなかったサッカーは、Jリーグの勃興とともにナンバーワンフットボールの地位を築いた。ラグビー人気の柱だった早明両校の低迷とともに、ラグビー関係者は「サッカーに食われた」と、その惨状を嘆いたものだ。視点を変えることで、歴史の評価は多面的となる。したがって、日韓併合が韓国の近代化をうながしたという評価は、その裏側に他民族による支配・植民地化という、韓国・朝鮮にとっては屈辱の歴史を併せ持っているのである。この歴史観のギャップは、何度かの謝罪では済まない歴史の重みとしてのしかかっているのだ。さらに石破氏のいうところを、ブログから紹介しておこう。

【韓国政府によるGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の破棄により、日韓関係は問題解決の見込みの全く立たない状態に陥ってしまいましたが、日本にも、韓国にも、「このままでよいはずがない、何とか解決して、かつての小渕恵三総理・金大中大統領時代のような良好な関係を取り戻したい」と思っている人は少なからずいるはずです。
 防衛庁長官在任中、アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)でシンガポールを訪問し、リ・クアンユー首相(当時)と会談した際、親日家の同首相は日星安全保障協力の重要性について語った後、私に「ところで貴大臣は日本がシンガポールを占領した時のことをどれほど知っているか」と尋ねました。歴史の教科書程度の知識しか持っていなかった私に対し、同首相は少し悲しそうな表情で「更に学んでもらいたい」と述べました。意外に思うとともに、自分の不勉強を恥じたことでした】

ようするに、歴史認識というのは「知識」であり「教養」なのである。政治的な言辞を都合よく使い分ける才にばかり長けた、安倍晋三総理に「知識」と「教養」をもとめるほうが無理というものだが、この男の怖いところはその時の感情で政治を動かしてしまうことだ。いまこの瞬間にも危惧されるのは「間違って戦争を始めてしまう怖れ」である。そんな安倍総理よりもはるかに合理的な改憲派で、軍事オタクでタカ派的とすら見られている石破茂氏の、はるかに常識的な歴史認識こそ、自民党の良心といえるのではないだろうか。


◎[参考動画]軍事マニアと呼ばれても「安全保障」にこだわる(朝日新聞社2018/1/4公開)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。

月刊『紙の爆弾』9月号「れいわ躍進」で始まった“次の展開”

安倍晋三までの62人を全網羅!! 総理大臣を知れば日本がわかる!!『歴代内閣総理大臣のお仕事 政権掌握と失墜の97代150年のダイナミズム』

◆安全保障レベルでも手切れの日韓

ついに韓国文政権が、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄すると宣言した(8月22日)。この措置によって、わが国は対北朝鮮のミサイル情報が得られなくなる可能性がある。日韓は安全保障レベルでも、同盟国・友好国ではなくなったのである。いまや両国の観光産業は疲弊し、民間交流も途絶えがちだ。どうしてこんなことになったのか?

相手が「反日と反共」「容共と反日」の「分断国家」とはいえ、そうであるがゆえに揉めれば泥沼化するのはわかっていたはずだ。張本人は安倍晋三、そのひとである。安倍晋三の脅してみたい「感情」から発した韓国イジメが、いよいよわが国の安全をおびやかすところまでやってきたのだ。この男に国政をまかせたままでいいのだろうか?

もちろん最大の原因は、大統領が代わるたびに前大統領が殺されるか投獄されるという、ひとつの国家のなかに「保守反共」と「容共親北」政権が入れ替わり、反日という国是を統治原理にする韓国に起因するものだ。それはしかし、日帝支配36年の「恨」が生んだ二重の分断国家なのである。いわば大日本帝国の侵略行為がつくった国であり、その国民性なのである。


◎[参考動画]韓国 GSOMIA破棄を発表(ANNnewsCH 2019/8/22公開)

◆「謝罪」をもって、宗主国としての「権威」をしめせ!

たとえば自由をもとめる動乱を余儀なくされている香港の民衆は、ユニオンジャックを掲げて民主化をもとめている。かくあるべきはずの宗主国の「権威」と「正義」が、朝鮮半島においては「反日」エネルギーとしてしか横溢していないのだ。そんな韓国国民の「反日」と「恨」をも了解の上で、日本の民間人たちは「友好関係」を築こうとしてきた。その多くは中高生であり、民間ボランティアである。そしてビジネスマンたちだった。

ところが、わが安倍総理においては韓国の政権交代の展望も政治工作もないまま、事実上の「禁輸措置」をもって経済戦争に突入してしまったのである。落としどころもない、その意味では無策の経済戦争である。たとえば朴槿恵政権時には、二階幹事長が独自の政治外交をして従軍慰安婦問題への「謝罪」を約するなど、まだしもチャンネルが確保されていた。ところが安倍政権には、まったく何もないのだ。


◎[参考動画]河野大臣が談話「見誤った対応 断固抗議」(ANNnewsCH 2019/8/22公開)

◆韓国はふたつの国家である

ソウル発の時事電によると、韓国の調査機関リアルメーターが8月7日に発表した世論調査では、8月24日に期限を迎える日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)について、延長せずに「破棄すべきだ」との回答が47.7%に達し、反対の39.3%を上回っていたという。

調査によると、文在寅大統領を支える革新系の与党「共に民主党」の支持者のうち、破棄賛成が70.8%、反対15.6%。一方、保守系の最大野党「自由韓国党」支持者では賛成14.6%、反対76.5%で、与野党の支持者の間で延長の是非をめぐる意識のずれが鮮明になっていた。このように韓国はふたつの国家なのである。そうであればこそ、安倍総理は文政権を倒すために今回の「禁輸措置」に踏み切ったのであろう。だが、それを担保するものは何なのか?


◎[参考動画][NEWS IN-DEPTH] Korea withdraws from GSOMIA amid trade tensions with Japan(ARIRANG NEWS 2019/8/22公開)

◆何だって報復手段になるのだ

世耕弘成経産相は22日の閣議後の記者会見で、日本が対韓輸出管理を厳格化したことへの事実上の対抗措置として、韓国政府が日本産食品などの放射性物質の検査強化を発表したことについて、「(日本の措置は安全保障上)国際的に認められた措置であり、他の分野に波及させるのは好ましくない」と述べ、韓国側を批判したという。現在の情勢の下では、ほとんど寝言にしか聞こえないコメントだ。

これほど政治をわかっていない人物が、経産大臣を務めているのだ。小学校の学級会ではあるまいし、このかんの徴用工→禁輸措置(ホワイト国除外)→WTO提訴およびGSOMIA破棄、そして放射税物質の検査強化という、一連の流れが読めないのなら政治家失格である。国家と国家が外交戦を展開しているのに、「それは本題とは違うんだ」とか、そもそも成り立つはずがないではないか。そればかりではない。

◆ふたたび文化鎖国への道

韓国のミスコリア運営本部は8月5日、11月に日本で開かれる国際コンテスト「ミス・インターナショナル世界大会」への不参加を発表している。「日本の『経済報復』に対して全国民が不買運動などを行っている時期に、日本で開かれる大会に参加することはできない」という理由だ。

主催する国際文化協会(東京)によると、世界大会は日本企業の協賛で行われ、韓国代表も毎年参加していた。大会期間中に日本国内の観光ツアーや文化体験なども含まれており、韓国のミスコリア運営本部は「日本文化や日本ブランドの広報役を義務的に行うことになる」ことも不参加の理由に挙げたという。つまり韓国は、ふたたびの文化鎖国に踏み切ろうというのだ。軍事的な手段に至っていないとはいえ、(経済)戦争なのだから何でもする。いまや可能な範囲で、総力戦が始まっているのだ。

「日本外し」の動きはスポーツ分野にも及ぶ。ソウル市は10月に予定する「ソウルマラソン大会」の協賛企業から、スポーツ用品大手ミズノの韓国法人の除外を決定したと発表。市は決定理由を「市民感情を考慮した」などとする。市によると、大会ではミズノが提供する大会記念Tシャツが参加者に配布される予定だったという。このうえ韓国が、本気で東京オリンピックをボイコットしたら、安倍晋三の名は外交をわかっていなかった無能宰相として名をとどめるであろう。


◎[参考動画]South Korea-Japan trade war tensions flare(South China Morning Post 2019/08/21公開)

◆戦争と核武装を廃棄させ、南北統一をリードせよ

左派政権であれ右派政権であれ、韓国人の本音は日本を圧倒したいのだ。そうであれば、核熱戦争を回避する南北統一でわが国を圧倒させてやればいいではないか。それが極東戦争の回避につながり、朝鮮半島の非核化を実現するのであれば、宗主国としての度量をしめすことになるはずだ。

すでに文在寅大統領は「北朝鮮との経済協力で平和経済が実現すれば、一気に日本の優位に追い付くことができる」「経済強国として新しい未来を開いていく」と発言している(8月5日)。韓国でも現実離れしているとして真意を疑う見方が強いとはいえ、「日本経済が韓国よりも優位にあるのは経済規模と内需市場だ」「今回のことで平和経済が切実であることを再確認できた」と率直に述べ、いわばわが国を範としながら南北統一を展望しているのだ。宗主国として、手を差し延べればいいではないか。圧倒されればいいではないか。

何の展望もなく、腹立ちまぎれに経済戦争を仕掛けて、その落としどころもわからない。それがわが安倍政権なのだ。この事態を「子どもっぽすぎる」(山本太郎)というのは、至極当然のことである。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。

月刊『紙の爆弾』9月号「れいわ躍進」で始まった“次の展開”

安倍晋三までの62人を全網羅!! 総理大臣を知れば日本がわかる!!『歴代内閣総理大臣のお仕事 政権掌握と失墜の97代150年のダイナミズム』

前の記事を読む »