『紙の爆弾』2025年2月号に寄せて   『紙の爆弾』編集長 中川志大

あけましておめでとうございます。

新年1号目となる2月号では、被団協(日本原水爆被害者団体協議会)のノーベル平和賞受賞についてレポートしました。“お祭り騒ぎ”の中で、あえて抜け落とされた重要な事実とは何か。あえて疎外されてしまった人々とは誰か。詳しくは本誌をお読みいただきたいと思いますが、この受賞を未来への一歩とする上でこそ、レポートに登場する金鎮湖会長や平岡敬元広島市長の指摘は重要です。本誌増刊「季節」の執筆陣である「子ども脱被ばく裁判の会」水戸喜世子共同代表はフェイスブックで、「時計は止まっていないのだ。核兵器は言うまでもなく悪だ。子どもだって知っている。そこに耳目を引き付けながら、こっそりと核装置である原発によって世界の人命が危険に晒されている現状にこそ警告を発すべきであった。核被害の現在進行形なんだから」とコメント。全文をあらゆる人に読んでいただきたい内容です。

創薬立国を謳う日本で「ワクチン工場」が、続々稼働しています。同種の施設として、東京では東村山市の国立感染症研究所がウイルス研究所(BSL4)として有名ですが、隣に都立の支援学校が、裏手には市立小学校もあります。そもそも「薬で儲ける」とは、どういうことなのか。今月号では、「高齢者の危険運転」と薬の関係について、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる和田秀樹医師が解説しています。そこで和田氏は医療費の問題に加え、日本人は薬の服用者が多いことを指摘しています。「安心していつでもたくさん薬が飲めること」が医療の充実とされているのが現在の日本です。

本誌1月号でインタビューした原口一博衆院議員(立憲民主党)に対し、レプリコンワクチンを製造・販売するMeiji Seikaファルマ社が名誉毀損で東京地裁に提訴しました。本誌で原口氏が語っているとおり、原口氏の問題提起はレプリコンをはじめとしたコロナ定期接種ワクチンへの政府の承認手続きに対するものであり、それだけで「お門違い」だといえます。また同社はリリースで『私たちは売りたくない!』(方丈社)の著者である同社社員について社内調査し、出版元に抗議したとも明かしているものの、内容に関する言及はありません。なお、Meiji Seikaファルマ社については、1月号で紹介した郷原信郎弁護士・上昌広医師(医療ガバナンス研究所理事長)の指摘(YouTube『郷原信郎の「日本の権力を斬る!」』2024年10月20日配信)が重要と思われます。

Meiji Seikaファルマ社が訴えずとも、mRNA ワクチンやレプリコンワクチンの危険性への指摘は「陰謀論」とされるのが現状の日本社会であり、日ごとに明らかになるワクチン薬害の事実を前にしても、それは変わりません。ただし、アメリカで方向性が変われば付き従うのが追従日本なので、トランプ政権で厚生長官に就任するロバート・ケネディ・ジュニア氏の動向によっては、“常識”が変わる可能性もあります。

今月号ではここで触れたほかにも、女川原発2号機事故についての詳細解説、なぜ国連は戦争を止められないのか、ドイツ若手哲学者が問う「リベラル」と「極右」の現状など、さまざまな記事を収録しています。いずれも本誌ならではのレポートです。ぜひ全国の書店でご確認をお願いいたします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2025年2月号
タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2025年2月号

『紙の爆弾』2025年 2月号
A5判 130頁 定価700円(税込み)
2025年1月7日発売

マスコミが「大接戦」と報道し続けた理由「トランプ圧勝」が暴いた世界史の真実  田中良紹
トランプ政権に3人のキーマン「ウクライナ」「ワクチン」「CO2」陰謀の真相  植草一秀
「高齢者の運転は危険」マスコミ煽動の嘘と本当の原因 和田秀樹
国際紛争で国連は何をしてきたか 国連の機能不全を問う 足立昌勝
「斎藤・立花連携」を裏付ける事実 斎藤元彦・立花孝志、そして国民民主党の背後の闇 横田一
オスロ代表団から除外された人々 日本被団協ノーベル平和賞受賞で語られざる「光と影」 浅野健一
「孫子の兵法」と「ノストラダムス」で読み解く世界情報戦略 浜田和幸
再稼働6日後に起きた重大事故 女川原発2号機で何が起きたのか 山崎久隆
「ダークウェブ」で売られる個人情報 「闇バイト」が日本で広がる理由 片岡亮
知らぬは日本人ばかり AIが読み解いた亡国ニッポンの実態 藤原肇
行方を占う「嵐・大野智」の動向 NHKとジャニーズの癒着と抗争 本誌芸能取材班
mRNAワクチン、毒素兵器、バイオハザード(後編) 佐藤雅彦
シリーズ日本の冤罪 福井女子中学生殺人事件 尾崎美代子
「カウンター大学院生リンチ事件」から十年(中) 松岡利康

〈連載〉
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER Kダブシャイン
「ニッポン崩壊」の近現代史 西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/

裁判で何が裁かれ、何が裁かれなかったか? 尾﨑美代子

ここ数日、ちょっと驚く裁判の記事が目につく。大阪高検の検事正だった男性が、検事時代、酔いつぶれた部下の女性検事に性加害を与えた件で逮捕・起訴されたが、当初加害を認め謝罪していたものの、弁護人を変えて一転無罪を主張した件、無罪を主張する会見で発言する弁護士は見たことがあると思ったら、以前取材した冤罪事件の主任弁護士だった。その事件で実際取材したのは別の若手弁護士だったが、数日後、なんとその若手弁護士が、別の性加害事件の控訴審を担当し、大阪高裁で逆転無罪判決をとったというのだ。この事件では、無罪判決を出した裁判長への抗議行動にまで発展している。

「何が真実なのか?」とどんよりしていたが、ふと以前買って読めずにいた『殺人者はいかに誕生したか』を読み始め、あるヒントを得た。私は拙著『日本の冤罪』の「はじめに」でも書いているが、もともと凶悪事件に関心をもっている。凶悪事件を起こした人だって、もともと凶悪犯に生まれたわけではない。オギャーと生まれたときには、誰でもごく普通の子供だった。それがのちに凶悪な事件の犯人となっていく。そのあいだに何があったのかが気になるのだ。

長谷川博一著『殺人者はいかに誕生したか』(新潮文庫)

「殺人者はいかに誕生したか」の著者は臨床心理士の長谷川博一さん。そのなかで、こんな一文をみつけた。

「裁判が真実を明らかにする場ではないことは、私の知る複数の弁護士から重ねて聞かされているところです。裁判は、検察と弁護人の闘い、駆け引きの場にすぎません。裁判所は『真実解明がその使命ではない』という事実を、社会が誤解しないよう公言してもらいたいと思います」。

長谷川さんは、多くの凶悪事件の犯人たちに面談や文通を続け、彼らがなぜ凶悪事件を起こすに至ったかについて、裁判では明らかにされていない、いわゆる「心の闇」と解明していく。そこからは幼少期の壮絶な家庭環境や学校での虐めなどがうかびあがってくる。池田小学校殺傷事件の宅間死刑囚や、秋葉原無差別殺傷事件の加藤死刑囚については幼少期の家庭環境、家族関係に問題があったことは少しは知っていた。

しかし、秋田連続児童殺害事件の畠山鈴香さんのことはあまり知らなかった。彼女は自身の娘と近所に住む男児の二人を殺害したとして逮捕・起訴され、無期懲役が下された。彼女について印象に残っているのは、家をとりまくメディアにきつい口調、目つきで怒鳴っている姿だった。黒い服装を好み、ぼさぼさ気味の長髪を一つに束ね、全体的にその姿は暗いイメージだった。

長谷川さんは面談を通じて、彼女について「意図的に嘘をつかない。かえって自分に不利な言動をとる。相手の意向にあわせる、いわゆる迎合性が強い。相手の示唆を信じ込む被暗示性が強い。自尊心が低い。他人の心を知ろうとする傾向が乏しいなどの特徴があった」と分析している。

さらに彼女は、精神鑑定で解離性健忘が認定されている。これはもともと彼女が持つパニックに陥りやすいという特性の中でおきたものだという。そこには、彼女が幼少期に実の父親から受けたDVや、学校での虐めなどによるトラウマが複雑に絡み合って、心を防衛するための乖離をおこしやすい状態にあったという。健忘というのは、その記憶をもつことが、本人にとって重大な心理的危機を招くときに生じるという。

鈴香さんのトラウマは小学生時の給食時間にはじまった。当時は(今も?)給食を絶対残さず食べされることに熱心な教師がいた。曰く「食べ物を粗末にしたらいけない」「食べれない子もいる」「作った人への感謝を忘れず」等々理由をつけて、全部食べ終えるまで机に縛り付けるようなしつけをする教師だ。

彼女は担任にそれをやられた。彼女の場合、好き嫌いが激しいというのではなく、人前で食べることができないのだ。業を煮やした担任が「手を出して」といい、彼女の手のひらに給食を入れていく、汁物まで……。「全部食べて」という担任の前で、手のひらに顔を埋めるようにして食べようとする彼女……その姿を見て同級生は「犬みたい」「汚い」「ばい菌」とはやし立てる。

彼女のこうした行為の背景に父親の暴力があった。最初は平手、それから拳骨に。
「こういうときは、ただ時間が過ぎるのを待つしかありません。修羅場の中をなにもしないで待つことの耐え難さ。心は苦痛から逃れるために『感じない』ようにし、そして『抵抗しない』という防護策が選ばれることになるのです」

そんな家庭での食事は最も「気を使わなくてはならない」空間だった。ささいなことで父親が暴れるので、父親を怒らせないことに全神経を集中させるため、食べ物の味もわからず、口にいれたものを思うように呑み込めない。飢えを癒すため、誰もいない時にお菓子などを食べていたという。

彼女の娘が亡くなった時、警察は事故死と公表したが、それに納得できない彼女は、警察に再捜査を懇願し、自分でチラシを作り、犯人を捜して欲しいと訴えていた。自分で殺したなら「事故死」のままにしておけばいいのに。橋の欄干に座らせたのちの記憶が彼女にはないのだ。その原因について、事件から18年の今年、ノンフィクションライターの小野一光さんが取材し、当時彼女が抗うつ剤や睡眠導入剤などを大量に摂取するオーバードーズを繰り返していたことを明らかにしている。そのため、一時的に意識が乖離することがあったようだ。

残虐な事件が起き、尊い命が奪われたのち、罪を償うということは、二度と同じような犯罪が起きないよう、何をすればよいかを考えていくことが必要だ。しかし、臨床心理士・長谷川さんもいうように、畠山鈴香さんの裁判では、その任務はしっかり果たせなかったようだ。本当に残念だ。

裁判で何が裁かれ、何が裁かれなかったかを、じっくり見ていく必要があるのではないか(などと評論家風に〆てしまい、超恥ずかしいが…)。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

「香害、すなわち化学物質過敏症」の誤り、1月に2つの判決、横浜副流煙事件 黒薮哲哉

来年2025年の1月に、横浜副流煙事件に関連した2つの裁判の判決が下される。詳細は次の通りである。

■作田学医師らに対する「反スラップ」裁判

判決の日時:2025年1月14日(火)13時10分
法廷:横浜地裁609号法廷
原告:藤井敦子、藤井将登(代理人弁護士・古川健三弁護士)
被告:作田学、A夫(係争中に死去したために、現在は請求対象にはなっていない)、A妻、A娘

■作田学医師に対する名誉毀損裁判

判決の日時:2025年1月22日(水)13時10分
法廷:東京地裁806号法廷
原告:藤井敦子、酒井久男(山下幸夫弁護士)
被告:作田学

これら2つの裁判の経緯は、2016年まで遡って、別稿で詳しく説明しているので、参考にしてほしい。事件の全容をコンパクトにまとめている。
[別稿]事件の概要 

◆香害=化学物資過敏症という従来の考え方の誤り

この事件で中心的な位置を占めている藤井将登さんが、隣人家族から、「煙草の副流煙により健康を害した」として、約4500万円を請求する裁判を起こされたのは、2017年の11月だった。筆者がこの事件にかかわるようになったのは、その1年後である。マイニュースジャパンから記事化を依頼されて、取材したのが最初である。

事件の取材を通じてわたしが得た最も大きな成果は、化学物資過敏症についての見解が変化したことである。軌道を修正した。

元々わたしは、香害=化学物資過敏症という考え方に立っていた。おそらく市民運動と距離が近い週刊金曜日の影響ではないかと思う。確かに両者が結びつく場合はあるが、公害を訴える層の中に一定割合で、精神疾患に罹患している人々が含まれている点を見落としていた。化学物資過敏症の外来を受診する患者の8割が、精神疾患の可能性があると指摘する専門医の証言もある。

横浜副流煙事件の取材を通じで、香害=化学物資過敏症の考え方の未熟さに気づいたのである。一定割合で精神疾患の患者が含まれているというのが客観的な事実である。

実際、化学物質過敏症を自認している人々の中には、第三者からみると、異常な行動をするひともいる。攻撃的な性格で、SNS上で名誉毀損などのトラブルを起こしているひとも少なくない。

横浜副流煙事件も同じ類型の行動様式が引き起こした事件にほかならない。化学物資過敏症の複雑さが根底にある。

事情を複雑にしているのは、香害を訴えに患者の中に、真正の化学物質過敏症患者も含まれている点である。両者の境界線を引くのが、難しく、両者が重複することもある。

こうした状況の下で、化学物質過敏症に取り組む市民団体の多くが、単純に香害=化学物質過敏症という立場を明確にして、運動を展開してきた。一部の医師もそれに協力してきた。香害を訴える患者を、安易に化学物質過敏症と診断してきた。

その結果、客観的な事実を軽視した香害の解釈が社会に浸透したのである。その弊害が典型的に現れたのが、横浜副流煙事件である。化学物質過敏症についての浅はかな見解を前提に、一個人に対して4500万円を請求するに到ったのである。

※本稿は『メディア黒書』(2024年12月13日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

ドンファン事件に「無罪」判決! 「疑わしきは罰せず」が貫徹された判決だった! 尾﨑美代子

◆確かにセンセーショナルな事件だった!

紀州のドンファンとよばれた男性が覚醒剤中毒て死亡した件で、逮捕された元妻の女性の裁判員裁判で、女性に無罪判決がでた。孫ほど歳下の女性との結婚で話題になったうえ、最後は覚せい剤で死亡したということで、メディアはさんざん騒いできた。

これが有罪ならば、「やっぱりね。あの女、怪しかったもんね」と騒ぎ続けただろう。しかし、結果は無罪。何故かそれ以降、メディアは全体トーンダウンしたと思うが、そう思うのは私だけか? 結構深堀りする番組もあるが、羽鳥慎一モーニングショーなんか「はい、あの事件で無罪判決がでました」と事実に触れた程度、「〇〇動物園のカピバラのお風呂に、昨日ゆずがプレゼントされました」と似たような扱いだった。

確かにセンセーショナルな事件だった。裁判は長期に渡り、28人もの証人が証言した。中には覚醒剤の売人もいた。男は「職業」を聞かれ、「(覚せい剤の)売人」と答えたという。

そんなことあんのか? 無職か、別の職業をあげ、その後「被告を知ってるか?」と問われ、「以前覚醒剤の売人をやっていた頃、その女性と接触したことがあります」と答えるのが普通ではないか? 男性の姿は衝立などで遮られ、顔など分からない方法で行われたのだろうが、それにしても法廷で「売人です」と堂々と証言し、証人の顔をみることができた裁判員らは、さぞかし驚いただろう?

◆「疑わしきは罰せず」が貫徹された判決だった!

この判決、「疑わしきは罰せず」という、刑事裁判の基本中の基本をズバリと見せてくれただけでも見ていてスカッとした。基本中の基本とはいえ、あまりに守られていない鉄則だったからね。

でも、ここで花開いたのだぞ。福島恵子裁判長がバシッと「ほら見ろよ」と出してくれたんだぞ。モーニングショーの羽鳥さん、玉川さんなんかにコメントさせてよ。玉川さんはしゃべりたいことがやまほどあったはず。しかし、それすらしなかった。局でよほどこの件に関しては何気なくスルーしようと決まっていたと思うほど。 

◆TVメディアは男性中心過ぎないか?

これまでいろんな冤罪事件をみているが、とりわけ女性が犯人とされた場合、男性中心のメディアは、こんな扱いだということがよくわかったね。のちに事件ではなかったことが判明した青木恵子さんの東住吉事件、西山美香さんの湖東記念病院事件もそうだった。「同居男性が娘に性的虐待!被告女性との三角関係か?」「警察官に恋した被告女性とは?」とおもしろおかしく書き立ててたね。そこじゃないやろ! 

それはさておき、判決後、裁判員の一人だった20代の男性が、被告の女性は裁判に非常に真摯に向き合っていたと思うとか、メディアで言われる内容と実際の裁判はまったく違っていたとか話していた。私もその通りだと思う。

今回の彼女にしても、たまたまおじいさんほど年上のお金持ちの男性に好かれ、「お金もらえるなら」と結婚に応じた。遺産相続、完全犯罪など怪しい検索履歴が話題となったが、それがどうしたといいたい。

◆福島恵子裁判長もカッコよかった!

しかも、今どきの若い女性は日々のニュースなど見ていて、警察が消去した検索履歴でも復活させることができることを知っていただろう。私が宝くじで当選したら、まずは「億ション」とか「海外旅行」とか検索するだろう。そのうち、調子こいて「高齢者の婚活」とか、さらに調子こいて「全身美容整形」とか検索するだろう。

彼女が何かよからぬことを企み、それらを検索していたとしても、それを実行にうつせてはいないことが今回分かったのだ。致死量の大量の覚せい剤をドンファンに飲ませることができなかったのだ。そこが重要。

「うちの旦那、憎たらしいな」「不慮の事故で死ねばいいな」と毎日毎日思っていても、それを実行にうつしてなければ、ある意味、問題ないのだ。女性は、一生、旦那を殺したいほど憎んで終わるんだな、とある意味辛くなるが……。

福島恵子裁判長もカッコよかった。裁判官らがあの黒い服の下を着ているかは知らないが、あの福島恵子裁判長は、(テレビで見る限り)正直ごく普通のカジュアルな服だった。それは例えば、私が玉出スーパーに大根をを買いに行くときのような服装だった。そんな福島裁判長が、きっぱりと「疑わしきは罰せず」をやってくれたのだ。弁護団がいうように「グレーをいくら重ねても黒にはならないのだ」。

◆腐った検察どもは、なんでもやりかねない!

検察はもちろんこのままではいないだろう。必ず控訴するだろう。しかし、どうやって大量の覚せい剤を飲ませたか、そこが解明されなければ、有罪にはできないだろう。

あるいはもうひとつ、覚せい剤の売人の一人が「女性に売ったのは氷砂糖」と証言した件だ。和田アキ子まで参戦して、「覚せい剤と氷砂糖は全く違う」とか言ってたらしい。ここで新たな展開として、「氷砂糖を売った」という証人について、控訴審で元締めが出てきて「あいつは売人として嘘をついた。うちの組織は彼を破門にした」などと言い、破門状や下手すりゃ男がけじめをつけた証拠として切断された小指などを証拠提出するかもしれない。

腐った検察どもは、なんでもやりかねないからね。今後も注目していきたい。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く〈6〉飯塚事件再審 ── 日本の再審制度を変えていかなければいけない 尾﨑美代子

 

ハンセン病、薬害エイズ被害患者の救済から飯塚事件などの冤罪訴訟まで、常に弱者の立場に立ち、法廷で声なき声を代弁してきた徳田靖之(とくだ・やすゆき)弁護士 ──。「6・5 飯塚事件『不当決定』を許さない」と題された9月14日大阪講演の記録を全6回連載で報告する。(企画・構成=尾﨑美代子)

◆飯塚事件の再審を勝ち取ることの意義

私たちは今、福岡高裁で即日抗告審を闘っています。ここで今、Оさんの初期供述をだせという証拠開示の闘いを挑んでいるわけですが、これまでの闘いで私たちが体験していることからいうと、真犯人を特定しない限り再審の扉は開かないのではないかと思っています。

そういう私たちに、実は、ある刑務所で服役している人から、彼が以前の事件で服役中に、同房になった男から「自分が飯塚事件をやってしまった」という告白を聞いたという情報が寄せられています。これはまだ私たちがその証言の信用性を固めていくということをやっていかなくてはならない。しかし、なかなか固めるということは難しいという、そういうレベルの段階ですが。

ただ、私たちがこの飯塚事件をやっていて確信に近い思いをもっているのは、私たちが一生懸命闘っている過程に、新しい証拠、新しい道がどんどん開いていくわけです。第一次再審請求がだめだったときに、木村さんが現れる、Оさんが現れる、そして第二次再審の壁が塞がれたとき、新たな道が開かれている。つまりこの飯塚事件というのは、時間が経てば経つほど、久間さんが犯人でないという確信を、この事件にかかわる人たちにもたらせている、そんなようになるわけです。

飯塚事件こそ、死刑制度の根幹を改めて問うという、飯塚事件の罪の深さを改めて私たちが考えるときにおいても、この飯塚事件の再審を勝ち取ることは、とても大きな意義があるのではないかと考えています。

◆再審法の規定を変えなくてはならない

その飯塚事件の再審を勝ち取るためにも、何を今一番にやらなければならないと思っているか。それは、再審法の規定を変えなくてはならないということです。日本の再審法は大正11年(1922年)に作られた旧刑事訴訟法の規定がそのまま残されています。戦後、変えられたのはたった一点、検察官には再審請求権がない、この一点だけです。

戦後、刑事訴訟法は改定されましたが、時間がなかったからという理由で、再審規定だけはそのままだった。いずれ改めて検討するという国会での議事録が残されていますが、手つかずのままでした。

それが何をもたらしているかというと、特に2つの大きな害悪をもたらしている。1つは証拠開示規定がないということです。刑事訴訟法は改正されましたので、今は、検察官は手持ちの証拠を開示しなくてはならないとなっている。

しかし、再審事件に関してはこの規定がありません。ですから検察官は、再審請求に関して、本当は真犯人ではないかという証拠があっても出す義務がないんです。捜査というのは、誰が犯人だろうかということで、いろんな証拠を集めていくわけです。その人を犯人にしていくための証拠と、その人が犯人でないという証拠をふりわけていくわけです。その人が犯人だという証拠だけを集めて裁判に提出するというのが捜査のやり方です。だから、彼が犯人でないという証拠は眠っているわけです。再審請求では、その眠っている証拠を出させることがとても大事なわけです。

でも日本の刑事訴訟法には、再審請求のときは証拠開示権が提示されていない。これを何が何でもかえなくてはならない。大崎事件でも狭山事件でも、隠されていた証拠が少しずつ開示されていくなかで、無実が明らかになっていくという経過をたどっています。飯塚事件で新証拠が開示されれば、間違いなく久間さんは無実だと明らかになると確信しています。

もう一つ、日本の再審制度で決定的に問題なのは、再審開始決定がでたあとに、検察官が不服申し立てできることです。このために、袴田さんは何十年も苦労してきた。大崎事件もそうです。何度も再審開始決定がでたが、検察官が即時抗告し、また再審開始が取り消されるということがおこっている。

この2つの問題を早急に改めさせることが急務になっています。まもなく袴田さんの再審無罪判決がでます。これをきっかけに、私たちは全力をあげて、日本の再審制度を変えていかなければいけないと思っていますし、それが変われば飯塚事件は死刑執行という厚い壁をこえて、間違いなく再審開始になるだろうと私たちは確信をしております。

すみません。お話しするたびに怒りが沸いてきまして、とりとめのない話になってしまいましたが、以上で私からのご報告とさせていただきたいと思います。どうぞ、これからも飯塚事件にご支援をお願いしたいと思います。ありがとうございました。(完)

◎徳田靖之弁護士講演会 6月5日飯塚事件「不当決定」を許さない(2024年9月14日 大阪浪速区大国 社会福祉法人ピースクラブにて)

◎《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く ── 飯塚事件再審[全6回連載](構成=尾﨑美代子)
〈1〉弁護士として、自ら犯してしまった過ちをいかに一人の人間としてどう償うのか
〈2〉失われていた物証と証拠の改竄
〈3〉無実の人を殺してしまった日本の裁判所
〈4〉死刑判決の理由は、全部間違いだった
〈5〉裁判官は、「エリート」であればあるほど最高裁に「忖度」する
〈6〉日本の再審制度を変えていかなければいけない

▼徳田靖之(とくだ・やすゆき)
弁護士。1944年4月大分県別府市生まれ。東京大学法学部卒。1969年弁護士登録。大分県弁護士会所属。「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟西日本弁護団共同代表、ハンセン病市民学会共同代表、薬害エイズ九州訴訟共同代表。飯塚事件弁護団共同代表

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く〈5〉飯塚事件再審 ── 裁判官は、「エリート」であればあるほど最高裁に「忖度」する 尾﨑美代子

 

ハンセン病、薬害エイズ被害患者の救済から飯塚事件などの冤罪訴訟まで、常に弱者の立場に立ち、法廷で声なき声を代弁してきた徳田靖之(とくだ・やすゆき)弁護士 ──。「6・5 飯塚事件『不当決定』を許さない」と題された9月14日大阪講演の記録を全6回連載で報告する。(企画・構成=尾﨑美代子)

◆第二次再審での争点

私たちはそのOさんの古い供述と新しい供述について、裁判所がどちらが正しいか判断するとしたら、Oさんが言っていたように、女の子を見たのは別の日だが、警察官にむりやり事件当日だとされたということを明確にするには、Oさんが最初に警察から取り調べを受けたときの捜査記録を出したら、Oさんが今言っていることが正しいかどうか一目瞭然ではないかと考えます。

Oさんが最初に警察に調べをうけたときの捜査メモ、捜査報告書があるはずだから、これらを出すように裁判所に要求しました。じつは遺留品発見現場で久間さんの車と似た車を見たという人の最初の捜査報告書は残されているんです。そこには何が書いてあるかというと「紺色のワゴン車をみた」「そこから一人の男がおりてきた」という言葉が捜査報告書に残されているんですね。だとしたら、Oさんの警察での最初の初期供述が残されていないはずはないんですよ。

だから私たちはそれを出すようにと要求してきた。しかし、検察官は「ない」というんですよ。こういうとき検察官はなんというかというと「存在しない」とは言わない。「不見当」、見当たらないというのです。なぜか? これはあらゆる冤罪事件で検察官はそういいます。あとからできたときに説明ができるように「不見当」、見当たらないというのです。

今回の飯塚事件も、木村さん、Oさんが最初に警察に呼ばれた時の初期供述を出せというと「不見当」だというのです。私たちは「そんなことはありえない」と裁判官に強くいいました。裁判官は検察官に「そうだとしたら、警察から検察に証拠が送られてきたときの目録はあるのか?」と聞きました。すると検察官は、ちょっとうかつだったと思いますが「ある」といったのです。

裁判所は「その証拠の目録をだしなさい」と勧告しました。私たちはこの目録が出てくれば、Oさんが最初に警察に聞かれたときの捜査報告書が目録に必ず記載されているはずだと確信していました。

裁判所から検察官に勧告がだされ、検察官が何といったと思いますか? 「目録がある」と答えてしまっているわけですから、もう「不見当」とは言えない。そうしますと検察官は「裁判所がそのような勧告をする法律的根拠がない。したがって我々は勧告に従わない」と言ったのです。

日本の検察官は自分たちは「公益の代表」などと言っていますが、彼らは真実を発見しようという気が全くない。本当に彼らが飯塚事件に関して、久間さんが犯人と確信しているのなら、目録を出してくればいいじゃないですか。あるのだから。でも出せない。なぜか? 目録にはOさんの初期供述が残っているからです。目録をだしたら「不見当」といっていたOさんの初期供述を出さなければならなくなる。だから「裁判官がそのような勧告をする法的根拠がない」という理屈をつけて拒否したわけです。

◆警察、検察官は、遺留品発見現場での目撃証言を強引に誘導して、事実と違う供述をつくった

このようなことをされたら、裁判官は普通どうすると思いますか? 自分たちの勧告を拒否したのだから、普通の裁判官だったら「出せ!」と命令するでしょう。検察官は「ある」といった上で、出さない理由として裁判所に勧告する権限はない」と言っているのですから。あらゆる再審事件で「証拠を開示しろ」という勧告をすべての裁判でやっています。「法的根拠がない」という理由で拒否したのは、今回がはじめてです。

私たちは「命令を出せ」と裁判所に言った。しかし裁判所は「命令は出さない」といった。命令を出せないといったから、我々はそれをどう受け止めたか。裁判官は、検察官が勧告を拒否したことで、その目録の中にOさんの初期供述があると確認したはずだ。目録を出さないといったことは、検察官はOさんの初期供述を表に出したら、すべてが明らかになる、これを何とかして拒むために勧告を拒否したと裁判所は判断したと、私たちは思ったわけですよ。

しかし、蓋を開けてみたら、Oさんの新しい証言は信用できない、古い証言の方が信用できると言った。ふざけんなよ! そんな判断をするなら、古い供述の前の初期供述を出せといえばいいではないか、それをしないでOさんの古い証言の方が信用できるとは……よくそんなことが言えるものだなと思いました。

◆裁判所は、事実に目をふさいで、再審請求を認めなかった

警察、検察官は飯塚事件に関しては、これだけのことをやっているわけです。DNA型鑑定の写真を改ざんしました、遺留品発見現場での目撃証言を強引に誘導して、事実と違う供述をつくった。そのうえで、裁判所の勧告を無視して、Oさんの供述が正しかどうかを徹底的に明らかにするはずの証拠の目録の提出を拒んだ。

これだけのことをしたのに、裁判所は事実に目をふさいで、再審請求を認めなかった。なぜ裁判所はそんなことをするのか? 私に言わせると、少なくとも証拠目録を開示しないと言われたら、その理由はどこにあるのかを裁判官は考える義務があるはずだ。なぜなら、裁判所は怪しいと思ったわけですよ。Oさんの初期供述は「不見当だ」といった。それを怪しいと思ったから裁判所は「目録はないか?」と聞いた。すると検察官は「ある」といったので、裁判所はそれを出せと勧告をした。怪しいと思ったからですよ。いや、少なくとも目録がでてくれば、検察官が言っている「不見当」が信用できるかどうかの判断ができると考えたから勧告したのです。

そこまでしておきながら、なぜ命令をせずに、そのうえで「古い供述のほうが信用できる」などと判断したのか。皆さん、どう思われますか? 結局裁判所は怯えたのですね。再審開始をしてしまうということにです。Оさんの新しい供述が信用できると言ってしまったら、再審開始することになってしまう。そうなると、久間さんという無実の人を裁判所が殺してしまったことになる、そうなることに裁判所は怯えたのだと思います。

そこから今度私たちは、ではどうして裁判所は証拠開示の勧告をしたんだろうか、と考えました。そんな結論を下すなら、なぜ証拠開示の勧告をしたのだろうか。その証拠開示の勧告をしたあとに、裁判長の次に経験のある右陪席が交代したんです。

エリート裁判官でした。証拠開示の勧告をした裁判体と、再審請求を棄却したときの裁判体では、一人構成が代わっていたんです。その人は経歴的にはエリート裁判官です。私らはこの裁判官の交代が、証拠開示の勧告をしながら、再審請求を棄却する決定をするという矛盾を示す、ひとつのカギを握っているのではないかとみています。

似たようなことが、実は、第一次再審請求のときにも、もっと露骨に起こったのです。第一次再審請求の時の裁判長は、科警研のDNA型鑑定がいかさまだと早くに察知しました。彼はそこで、自分が定年退官する前に再審請求の判断をすると、私たちに明らかにした。その裁判官の定年が8月に予定されていたので、私たちは7月中に決定がでると思っていた。

ところが、決定がでないまま、裁判長は定年退官をしてしまった。そのあとに新たな裁判長が赴任したのです。この人もまた超エリート裁判官。この裁判長が半年後に再審請求を棄却する決定を書いたのです。第一次再審請求の時も、そういう裁判官の交代という事実が、再審を認めないという決定に影響したのではないかと、私たちは思っていた。

そのことが第二次再審請求でも繰り返された。エリート裁判官という言い方をしていますが、こういう経歴の人というのは、最高裁にいわば「忖度」傾向が極めて強い人たちです。

私たちは、飯塚事件の再審請について正々堂々と闘っている。私たち弁護団や支援者の多くは、常識的な意味で、これだけの証拠をだせば、必ず再審の扉が開くと思っていますが、このレベルの闘いでは扉が開かない。もう「この人が真犯人だ」というような新しい証拠を出さない限りは、再審の扉が開かないくらいになっているということです。死刑を執行してしまっているからです。(つづく)

◎徳田靖之弁護士講演会 6月5日飯塚事件「不当決定」を許さない(2024年9月14日 大阪浪速区大国 社会福祉法人ピースクラブにて)

◎《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く ── 飯塚事件再審[全6回連載](構成=尾﨑美代子)
〈1〉弁護士として、自ら犯してしまった過ちをいかに一人の人間としてどう償うのか
〈2〉失われていた物証と証拠の改竄
〈3〉無実の人を殺してしまった日本の裁判所
〈4〉死刑判決の理由は、全部間違いだった
〈5〉裁判官は、「エリート」であればあるほど最高裁に「忖度」する

▼徳田靖之(とくだ・やすゆき)
弁護士。1944年4月大分県別府市生まれ。東京大学法学部卒。1969年弁護士登録。大分県弁護士会所属。「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟西日本弁護団共同代表、ハンセン病市民学会共同代表、薬害エイズ九州訴訟共同代表。飯塚事件弁護団共同代表

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

《対談》内海聡(医師)×長井秀和(西東京市議) 日本人と日本社会が罹った薬と政治の「依存症」/袴田巌さん再審無罪判決が切り拓く死刑廃止への道(足立昌勝)『紙の爆弾』12月号の注目記事 

月刊『紙の爆弾』の最新号記事がnoteで一部公開・購読可能となりました。記事単位での購入も可能になりましたが、『紙の爆弾』はあくまで紙がメインのメディアです。興味を持っていただけましたら、ぜひ書店でお手にとっていただければ幸いです。定価700円(税込)、年間定期購読7700円(1号分お得です)。ここでは12月号(11月7日刊行)の注目記事2本の一部を紹介します。

◆《対談》内海聡(医師)×長井秀和(西東京市議) 
 日本人と日本社会が罹った薬と政治の「依存症」
 構成・文責/編集部

 
 

「新型コロナワクチン」として登場したmRNAワクチンは、死亡を含む健康被害が多数発生、医師らも声を上げているもかかわらず、「次世代型」のレプリコンを含めた5種で、10月から新たな定期接種がスタートした。

特にレプリコンは、日本だけで認可され接種が始まった、まさに人体実験の様相だ。これはすでに「医療」とはいえない。東京都知事選や10月の総選挙にも出馬し訴えを続ける医師・内海聡氏と、元お笑い芸人で元創価学会員の西東京市議・長井秀和氏が語る。

 ワクチン拡散に公明党が果たした役割

── お二人はともに、ワクチン問題に取り組まれています。

長井 国会や厚生労働省に目を向けがちですが、地方議会の議事録を読むと、公明党が「ワクチンによって救われた人がたくさんいらっしゃる」と全国で営業部長の役割を果たしてきたことは見逃せません。10月からのレプリコンワクチンを含めた定期接種にしても、補正予算の議論では必ず公明党議員が質疑に立ち、その際には「ワクチンによってコロナで亡くなる方がこれだけ救われた」「東京都から助成金が入る」「65歳以上の方はこんなにお安く接種できます」、そして「新しいレプリコンワクチンを打てます」とアピールしてきました。

── 「救われた」というのは、どういう状態を指しているのでしょうか。

長井 公明党議員の質疑に基づけば、日本でコロナで亡くなった人は他国と比べると少ない、といった論法です。一方で明らかになった健康被害については、日本はわざわざ予防接種健康被害救済制度を用意して対応してあげているのだと強調します。テンプレートが出回っているのではというくらい、各地方議会で異口同音の主張を繰り返しています。

── 救済制度があるといいますが、そもそもワクチンを含め流通する医薬品について、薬害を追跡調査する仕組みが日本にないとの指摘があります。

内海 世界でもほぼ行なわれておらず、一度流通すれば野放しです。そもそも、ある症状が当該医薬品によるものかどうかを証明するのは難しい。採血で異常値が出ても、それが薬害なのかは、別途証明しなければなりません。

それゆえ私のように、薬害関連の臨床を専門とする医師は、論文や過去の研究に頼りすぎず、素人的な発想で見ることが必要となります。最もシンプルなのは時系列で、たとえばワクチン接種から3時間後に亡くなれば、まずワクチンを疑うのが当たり前。しかし、厚労省や御用学者には、その当たり前が通用しない。人間がいつ脳梗塞になるかはわからない。それがたまたま接種後に来ただけ、となります。

そうなれば、司法解剖によって細胞内にワクチンの成分が溜まっていることを示すとか、接種前の検査データをとっておく、といった方法しかありませんが、それでも状況証拠です。ワクチン接種を止めたい専門家も、この証明に四苦八苦しています。

ただし、それらを証明しなければならないという発想自体が間違っているように思います。現在も苦しむ被害者がいるだけで、接種すべきではない理由として十分です。医療被害の制度を根本から見直さない限り、薬害をなくすのは難しいでしょう。

長井 そういう中で、ワクチンの接種拡大が政治利用されてきました。2021年のコロナワクチン接種開始以降、公明党では早々に山口那津男代表(当時)がビル&メリンダ・ゲイツ財団として世界的なワクチン普及を進めるビル・ゲイツと関係を深め、ワクチンの安定供給を創価学会員向けのネット動画で強調。一方で、厚労省が認めただけで843件の死亡例、全体で約8180件(9月27日現在)の健康被害については一切触れません。

内海 ファイザーと創価学会が親密という噂まで出ているようですが。

長井 それは噂の域を出ませんが、そう思わせるほど、公明党のワクチン営業は異常といえる徹底ぶりです。

 mRNA・レプリコンワクチン普及の目的

── レプリコンワクチンについて、わかっていることはあるのでしょうか。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/n474402652cbd

◆袴田巌さん再審無罪判決が切り拓く死刑廃止への道
 取材・文◎足立昌勝

 
 

9月26日、静岡地裁は1966年に清水市(現静岡市清水区)で起きたこがね味噌専務宅での強盗殺人放火事件で犯人とされ、一審の静岡地裁で死刑、東京高裁・最高裁でも死刑判決が維持されていた袴田巌さんに対し、捜査機関による証拠の捏造を認定して無罪を言い渡した。

畝本直美検事総長は10月8日、控訴を断念したことを明らかにし、控訴期限の10日に袴田さんの無罪が確定した。

筆者は1972年に静岡大学に赴任した。まさに、事件が発生した隣の市である。青法協(青年法律家協会)静岡支部で、当時から無罪を主張していたジャーナリストの高杉晋吾さんを講師に勉強会を行ない、さまざまな証拠の矛盾を知ることができた。

犯行現場宅の出入り口とされた、かんぬきがかけられた裏木戸を袴田さんは通れないこと、くり小刀とさやとの不一致という矛盾等々。それらはすべて無視され、死刑判決へと至ったのである。当時の静岡地裁や東京高裁の裁判官たちが十分な証拠調べを行なっていたら、このような袴田さんの長期にわたる拘禁生活はなかったであろう。その意味で裁判官も心からの謝罪をしなければならない。

なお、筆者は従来の「袴田事件」という名称は、袴田さんの名誉を永遠に傷つけるものであり、今後は発生した犯罪の内容をそのまま事件名として用いるべきだと考える。

 無罪判決が認定した証拠の捏造

静岡地裁は再審無罪判決で、証拠には次のような3つの捏造があるとした。

①自白したとされる検察官調書は、捜査機関の連携により、肉体的・精神的苦痛を与えて供述を強制する非人道的な取調べによって獲得されたものであり、そこには、犯行着衣等に関する虚偽の内容も含むものであるから、実質的に捏造されたものである。

②死刑判決において最も中心的な証拠とされてきた5点の衣類は、1号タンクに1年以上味噌漬けされた場合にその血痕に赤みが残るとは認められず、事件発生から相当期間経過後に発見された時の近い時期に、捜査機関によって血痕を付けるなどの加工がされ、1号タンク内に隠匿されたものである。

③5点の衣類のうちの鉄紺色ズボンの共布とされる端切れも、捜査機関によって捏造されたものである。

結論としては、「他の証拠によって認められる本件の事実関係には、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない、あるいは、少なくとも説明が極めて困難である事実関係が含まれているとはいえず、被告人が本件犯行の犯人であるとは認められない」と判断し、無罪を言い渡した。

特に②の5点の衣類については、捜査機関による捏造について、詳細な検討を行なっている。

〈5点の衣類の血痕の色調によれば、1号タンクに新たなみそ原材料が大量に仕込まれた昭和41(1966)年7月20日以前に5点の衣類が1号タンク内に入れられたとは認められない。そうすると、勾留中の被告人が5点の衣類を1号タンク内に入れることは事実上不可能であるから、5点の衣類はその発見から近い時期に被告人以外の者によって1号タンク内に隠匿されたものであり、5点の衣類は本件の犯行着衣ではないと認められる。

そして、5点の衣類を犯行着衣として捏造した者としては、捜査機関の者以外に事実上想定できず、捜査機関において5点の衣類の捏造に及ぶことを現実的に想定し得る状況にあったこと等も併せ考慮すれば、5点の衣類は、本件犯行とは関係なく、捜査機関によって捏造されたものと認められる。〉(判決要旨)

再審判決での証拠捏造の認定は画期的なことであり、捜査機関が、長期にわたり確定死刑囚としての扱いを受けてきた袴田さんに誠意ある謝罪をすべきであることは言うまでもない。

ところが、前述した畝本検事総長談話では、「理由中で判示された事実には、客観的に明らかな時系列や証拠関係とは明白に矛盾する内容も含まれている上、推論の過程には、論理則・経験則に反する部分が多々あり、本判決が『5点の衣類』を捜査機関の捏造と断じたことには強い不満を抱かざるを得ず」「本判決は、その理由中に多くの問題を含む到底承服できないものであり、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容であると思われます」としながらも、結論的には、「袴田さんが、結果として相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれてきたことにも思いを致し、熟慮を重ねた結果、本判決につき検察が控訴し、その状況が継続することは相当ではないとの判断に至りました」と述べている。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/n177ddc08d48a

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年12月号

『紙の爆弾』2024年 12月号
A5判 130頁 定価700円(税込み)
2024年11月07日発売

野田正彰
優生保護法をめぐるお祭り訴訟 犯人と被害者のいない殺人事件

清谷信一
税金を浪費して弱体化する防衛産業 防衛費「GDP比2%」無駄遣いの全実態

内海聡(医師)×長井秀和(西東京市議)
日本人と日本社会が罹った薬と政治の「依存症」

広岡裕児
ハマス攻撃「10・7」から一年 ネタニヤフは何を考えているのか 

足立昌勝
袴田巌さん再審無罪判決が切り拓く死刑廃止への道

浜田和幸
拉致問題を「解決させない」のは誰か 日本と北朝鮮の間の語られざる闇 

青木泰
公明党代表・石井啓一は元森友大ウソ国交大臣 

横田一
兵庫県版“石丸現象”で斎藤前知事再選も 兵庫県知事選で問われる“民意”とは何か 

浅野健一
札幌・安倍晋三ヤジ訴訟 最高裁は「憲法の番人」の役割を捨てた 

木村三浩
フィリピンの「キングメーカー」ロドリゲス前官房長官 「アジア版NATO」よりもアジア諸国の団結を 

上條影虎
なぜ世界は戦争を終わらせようとしないのか? アメリカが牽引する歪んだ正義の正体

小西隆裕
終焉するグローバリズムと新自由主義 日米一体戦争体制から日本が脱却するために

片岡亮
ジャンポケ斎藤事件の背景 「観るべきではない」メディアに堕したテレビ現場の惨状 

“嵐”来年3月復活説の背景 NHKも全面協力 ジャニーズ「幕引き工作」

佐藤雅彦
「来た、見た、逝った」架空体験記「SEXPO 2025」 

青柳雄介
シリーズ 日本の冤罪54 袴田巖冤罪事件 

山口研一郎
一九七四年「学園闘争」から半世紀 長崎大学医学部闘争の全資料発掘 

〈連載〉
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER Kダブシャイン
「ニッポン崩壊」の近現代史 西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/
◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DLG2V4V6/

《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く〈4〉飯塚事件再審 ── 死刑判決の理由は、全部間違いだった 尾﨑美代子

 

ハンセン病、薬害エイズ被害患者の救済から飯塚事件などの冤罪訴訟まで、常に弱者の立場に立ち、法廷で声なき声を代弁してきた徳田靖之(とくだ・やすゆき)弁護士 ──。「6・5 飯塚事件『不当決定』を許さない」と題された9月14日大阪講演の記録を全6回連載で報告する。(企画・構成=尾﨑美代子)

◆第二次再審の新証拠 ── 警察は貴重な証言の記録を怠っていた

そうした形で第一次再審が棄却されてしまったあとに、いや、正確にいうと、最終的に最高裁が私たちの特別抗告を棄却するまえに、新たに2人の人が私たちに連絡をしてくれました。

一人は木村さんという男性です。この方は誘拐が起こった直後に付近のバイパスで車の後部座席に女の子2人を乗せた男性の車を追い越したといいます。1人の女の子は横になり、もう一人の女の子はこちらをうらめしそうな顔でみていたそうです。

木村さんが見たその車を運転する男性の特徴は、色白で丸刈りで、久間さんとは別人だといっていました。ニュースで誘拐事件と知ったので、すぐに飯塚署に「犯人らしき人をみた」「バイパスには料金所があり、そこに監視カメラがあるから、その不審な車が映ってないか確認してほしい」と通報していた。

それから10日後に警察が木村さんのところに来たので、木村さんは自分が目撃したことを詳細に説明したというのです。警察は木村さんが話した内容をメモしていたが、木村さんが見た車が軽貨物だったという話をした途端に、メモをやめたというのです。そうして警察は木村さんに「車は紺色ではなかったか? ワゴン車ではなかったか?」と聞き、木村さんが「そうじゃない、白の軽貨物だった」といった途端にメモをやめたと話してくれました。

木村さんは、単に警察にそういっただけでなく、たまたま久間さんの第一回公判を傍聴して、法廷で久間さんをみて「この人とは全然ちがう」ということに気がついていた。でもニュースなどでDNA型鑑定が一致したと聞いたので、「じゃあ、(自分が見た人は)別人だったのか」と思っていた。

しかし、その後弁護士たちが再審請求をしていることを知ったために、矢も楯もたまられない思いから、新聞社に連絡をしたということです。木村さんの新証言で私たちが注目したのは、運転していた人は30代で、女の子2人が乗っていた。土曜日でもない平日の午前中の時間帯でランドセルを背負っているという極めて特異な状況であるのに、話を聞きにきた警察が、その車が白の軽貨物だったということを聞いた途端メモすることを止めたということです。

その時点で警察は、犯人は久間さんだから、久間さんの車と違っていたと聞いた途端に、その貴重な証言を記録に残すということを怠っていたということなんです。これが今、私たちが第二次再審請求で新証拠として裁判所に出している証拠であります。

◆死刑判決の第3の柱 しかし、再審請求は棄却された ── Oさんの供述

もうひとつは、死刑判決の第3の柱だった、誘拐された女の子たちを最後に目撃したとされていた方の証言です。この方をOさんとします。彼女が私の事務所に電話をかけてきたわけです。「再審請求が棄却されたという新聞報道をみました。じつは私が女の子たちを見たのは誘拐された当日ではない。その日ではないと私は何度も警察にいったが、事件当日だとされてしまったんです」と言ってきた。

自分の証言のせいで久間さんは死刑になってしまったのではないかとずっと気にしながら生きてきて、再審が開始されればいいなと思っていたところ、再審開始の道が閉ざされたという報道をみたので、あっちこっち調べて電話したと言いました。

このOさんの供述調書を新証拠として提出しました。我々からすると第一の柱であるDNA型鑑定は改ざんされていたということで証拠から外された。遺留品の発見現場付近で不審な車をみたという目撃供述は警察官の誘導によるものであるということで排除された。

そして第三の柱である被害者が最後に目撃されたという方の証言が、じつは事件当日のものではなかった、つまり誘拐現場が違ったということが明らかになったために、死刑判決の理由が全部間違いだったとなった。

ですから私たちは、6月5日は福岡地裁で間違いなく再審開始となるだろうと思っていた。しかし、再審請求は棄却されました。

裁判長は何をいったか? まず木村さんについて、「木村さんが目撃した車両が犯行に使われたかどうかは特定できない。事件と関係ない可能性がある。目撃したその人物が犯人かどうかは特定できない。新証拠としての明白性がない」といいました。

Oさんについて裁判所はどういったか。「26年前の古い話だから、記憶はあいまいだ。古い調書の供述の方が具体的だ。26年後にそんな古い話について新たな証拠とすることは信用できない」。こういう理由で再審請求を棄却しました。

私たちはこの6月5日の決定に一番憤りを感じたのは、Oさんの証言を26年も経っているということで排斥したことです。皆さんにぜひわかっていただきたいことは、このOさんがどういう思いで、26年前の自分の供述が実はつくられたんだということ、本当の体験ではないんだということを新たに供述したかということです。

これは、自分があいまいな態度で、警察に誘導されるままに供述をしてしまったがために、久間さんを死刑にしてしまったという良心の呵責、自分のあいまいな供述が人の命を奪ったかもしれないという人間としての呵責を感じたがゆえに、わざわざ私たち弁護士事務所の電話番号を探して連絡をしてきてくれたわけです。

そんなことをせずに黙っていてもいいわけでしょう。30年もの年月を経て新証拠を証言しようと考えるにいたった、そのОさんの気持ちを全く顧みることなく、ただ古いというだけで切り捨ててしまう。そして警察がわざわざOさんの証言を事件当日なのに誘導する必要性はみあたらないというような理由をつけて排斥をしてしまう。

普通だったら、Oさんが言う通りだったらどうなるだろうかということで、前の供述と新しい供述を単に比較するだけではなく、これが事実ならどうなるのかと、DNA型鑑定や後ろのタイヤがダブルタイヤだったということについて、もう一度証拠を洗いなおしてみるはずだが、ここに入ってしまったら全部壊れてしまうので、入口で再審請求に蓋をするしかない。

木村さんやOさんの証言が信用できないと切ってしまうしかない。そんな判断ではないかと理解するしかありません。(つづく)

◎徳田靖之弁護士講演会 6月5日飯塚事件「不当決定」を許さない(2024年9月14日 大阪浪速区大国 社会福祉法人ピースクラブにて)

◎《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く ── 飯塚事件再審[全6回連載](構成=尾﨑美代子)
〈1〉弁護士として、自ら犯してしまった過ちをいかに一人の人間としてどう償うのか
〈2〉失われていた物証と証拠の改竄
〈3〉無実の人を殺してしまった日本の裁判所
〈4〉死刑判決の理由は、全部間違いだった

▼徳田靖之(とくだ・やすゆき)
弁護士。1944年4月大分県別府市生まれ。東京大学法学部卒。1969年弁護士登録。大分県弁護士会所属。「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟西日本弁護団共同代表、ハンセン病市民学会共同代表、薬害エイズ九州訴訟共同代表。飯塚事件弁護団共同代表

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

1986年の「福井女子中学生殺人事件」── 名古屋高裁金沢支部が再審開始を決定 尾﨑美代子

38年前に起きた「福井女子中学生殺人事件」で10月23日、名古屋高裁金沢支部は再審開始の決定を出した。この事件は、確定審の一審で無罪判決、その後の控訴審で逆転有罪判決がくだされ、被告の前川彰司さん(現在59歳)は7年間服役、その後、第一次再審請求審でも再審開始が決定したのち、検察が異議申し立てを行い、その後決定が棄却された。今回の第二次再審請求審でも再審開始の決定が下されたが、検察がどうでるかが注目されていた。そして10月28日、検察は異議申し立てを断念し、再審開始が決定した。

ある意味、事件で被告となった前川さんは2回無罪となり、今回で3度目の無罪判決を下されたようなもの。ここまで38年かかった。

これまでの経緯を調べてみると、前川さんのお父さん、亡くなったお母さんも息子の無実を信じずっと一緒に闘ってきた。お父さんが言っているように、事件のあったその日、まさにお父さんらは前川さんと一緒にいたのだもの……。

◎[参考動画]無実の証明へ決意新た 前川彰司さんが施設入所の父親に再審決定を報告(FBC福井放送2024年10月24日配信

◎[参考動画]【福井女子中学生殺人】「38年…長すぎた」と91歳父 前川彰司さん再審確定を報告(福井テレビ10月29日配信

事件当時、地元のシンナーなど吸っている不良仲間も多数取り調べられ、そこには前川さんも入っていた。しかし、前川さんはすぐに容疑者からはずされた。両親が一緒にいたという強固で完璧なアリバイがあったからだ。しかし、福井警察署は、容疑者逮捕にいたらず、世間の非難をあびるなか、勾留中のヤクザの組員のうその供述をきっかけに、前川さんを犯人にしたてていった。

事件当日、衣類や身体に血のついている前川さんを見たという関係者をつくりあげ、前川さんを包囲していった。主要関係者のほとんどは、シンナーや覚せい剤事件に関わっていたりするうえ、20歳前後の若く社会的にも弱い立場であり、警察のいうがままに、前川さんが犯人だとのうその供述を述べていった。いや、警察で言わされていった。その際、先の家族が一緒にいたとのアリバイは「家族のいうことだから信用できない」と否定されていった。お父さん、どんなに悔しかったろうか。

再審開始の決定を聞かされ、前川さんのお父さんは「馬鹿にされた」と号泣していた。調べてみると、お父さんは福井市の職員で、福井市長候補にまでなったような人のようだ。前川さんにお父さんのお話をお聞きした。前川さんが逮捕されたのちは、お父さんは職場でも四面楚歌状態だったという。そりゃ、そうだ。息子が殺人犯とされたのだ。それでもお父さんは職を辞さず働き、その後徐々にお父さんを信じ、お父さんとともに闘うという人たちが増えてきたという。

このお父さんに読んで欲しいと思い、拙著『日本の冤罪』を前川さんに送った。施設に入っているお父さんに届けますと前川さん。

お父さんがいうように、本当に警察、検察は前川さんらを馬鹿にしてきた。再審(裁判のやり直し)をやるためには、これまでなかった新しい証拠を裁判で提出しなければならない。関係者が犯行後に前川さんが乗った車には、血がべったりついていたと証言したが、ルミノール反応は陰性だった。これに対して、検察は関係者がヤバいと思ってめっちゃ丁寧に拭いたと証言していた。これに対して弁護団は「いやいや、どんなに丁寧に拭いても絶対反応は陽性になるよ」という鑑定を行い、それを含めた新たな証拠を提出していた。

しかし、驚くことに今回明らかになった証拠があった。それは「前川が犯人だ」と供述した関係者が事件のあった当日、「夜のヒットスタジオ」を見ていたが、そこでアン・ルイスの後ろで吉川晃司が腰を振る非常にいやらしいダンスを踊っていたと供述していた。

あんな場面を見た日だから、その日のことは良く覚えていると。しかし、今回、検察が新たに開示した証拠の中に、そのいやらしい場面が放送されたのは事件のあった19日ではなく、翌週26日だったこと、事件のあった19日アン・ルイスが歌ったのは「ああ無常」で、26日にいやらしいパフォーマンスで歌ったのが「六本木心中」だったことがわかった。

当時のこの番組を知らない人はピンとこないかもしれない。「夜のヒットスタジオ」は当時ヒット曲を出した歌手が毎週でている。アン・ルイスも吉川晃司も当時ヒット曲があったのだろう。だから毎週のように出ていたのだろう。私はこの二人が共演した非常にいやらしいパフォーマンスは覚えていないが、当時あの番組はバブル前夜ということもあり、セットなどにも非常に金をかけて凝った豪華な演出をしていた。

しかも警察、検察は、このいやらしい場面が放送されたのは事件当日の翌週であることを知っていた。それをずっと隠していた。関係者には当日の新聞の番組欄を見せ「ほら、ここにアン・ルイス、吉川晃司と書いてある。この日だろう?」と確認していた。でも、放送日の動画を取り寄せ視聴していた警察、検察は、アン・ルイスと吉川があんなにいやらしい、今では絶対放送できないであろう場面を放送していたのは、事件の翌週という事実を知っていたのだ。

「あの日ではないが、間違っているが黙っていよう。隠しておこう」と裁判でもその場面について証人尋問を回避した検察官は、そのことを今、どう思っているのだろう。恥ずかしくないのか。

まもなく始まる福井女子中学生殺人事件の再審裁判に注目していただきたい。


◎[参考動画]袴田ひで子さん「励まし合ってきた。とても喜んでいる」 殺人事件で有罪が確定した前川さんの再審開始決定】(テレビ静岡2024年10月23日配信)

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く〈3〉飯塚事件再審 ── 無実の人を殺してしまった日本の裁判所 尾﨑美代子

 

ハンセン病、薬害エイズ被害患者の救済から飯塚事件などの冤罪訴訟まで、常に弱者の立場に立ち、法廷で声なき声を代弁してきた徳田靖之(とくだ・やすゆき)弁護士 ──。「6・5 飯塚事件『不当決定』を許さない」と題された9月14日大阪講演の記録を全6回連載で報告する。(企画・構成=尾﨑美代子)

◆2つ目に明らかになったこと ── 目撃証拠は警察官の誘導で作成された

2つ目に明らかになったことです。女の子らの遺留品が発見された場所の近くで、久間さんの車に似た車を見たという目撃者の供述調書は、実は3月9日につくられた。そこには「自分が見た車は紺色のワンボックスカーでした。車はトヨタや日産ではありません。車の車体にはラインがありませんでした。車の後ろのタイヤがダブルでした」という非常に詳細な調書だった。

これについて再審請求で、私たちが証拠開示させ記録をみたら、3月9日の2日前の7日に警察官が久間さんの車を見に行っていたことが明らかになった。つまり2日後に目撃者から供述調書をとる警察官が、久間さんの車を見にいって、その特徴を全部頭に入れていた。

久間さんの車はマツダのウエストコーストという車です。久間さんは車を購入したあとに、その車の特徴である車体のラインを派手すぎるからと消していました。そういう特徴を警察官は全部把握したうえで、2日後に目撃者の供述調書をつくった。

これで私たちは謎が解けたのです。「トヨタや日産ではない」という供述がどうしてでてきたんだろうと思っていました。皆さん、車を見たとき「トヨタや日産じゃない」と言いますか? 言わないでしょう。警察官は、マツダの車とわかっているから「トヨタや日産ではない」と誘導したわけです。

また、皆さん、この[写真2]を見て「車体にラインがない」といいますか? 警察官は久間さんが車を買ったあとにラインを消したことを知っている。だから供述調書をとるときに、車を見た人から「ラインがない」という供述をとっている。

[写真2]

それだけではないんです。この目撃者は「後輪がダブルタイヤだった」と言っています。[資料4]に目撃者が車をみたという場所があります。カーブが続く山道にアと書いてあるのが目撃された車で、ここを通り過ぎた人が車の後輪がダブルタイヤだったといっているわけです。しかし、後ろのタイヤがダブルだということを確認するためには、目撃者は通り過ぎてから8メートルほどあとで振り返らなければ後輪はみえないことがわかった。

[資料4]

そのときの実況見分の写真が[写真4]です。警察が目撃者を現場に連れていって、そういう風にして後輪がダブルだとみたかという実験をしたときの写真です。目撃者は右腕が窓からでています。つまり運転席側の窓を開けていたということになるわけです。こんなカーブの多い山道を走行して、すれ違ってから8メートルくらい進んで振り返って、その車の後輪がダブルだったという供述です。しかし事件が起きたのは2月20日、寒い冬のさなかに山の中を運転する人が運転席の窓を開けて運転するだろうか? しかも、こんな山道で8メート走って、振り返るだろうか? すぐにカーブがくるわけです。それで、これはおかしいということになりました。

[写真4]実況見分の様子

この実況見分のあとに、久間さんが売り飛ばしたその車を警察が押収しています。そして8メートル先でみたということに納得いかないということで、警察は何を考えたか。後輪のダブルのタイヤは前のタイヤより直径が短いということがわかって、目撃者の供述を訂正させました。振り返って後輪のタイヤがダブルだといっていたのに、実は後ろのタイヤは前のタイヤより小さかったので後輪のタイヤがダブルだと思ったというふうに供述を変えさせたということが明らかになった。

つまり、第2の柱、遺留品の発見現場で久間さんの車とよく似た車を見たという証言は、警察が久間さんの車の特徴にあわせて、目撃者の話を誘導して作り上げたものだったということです。それでも、第一次再審請求で再審は認められなかった。

それはもう、私にいわせれば、死刑にしてしまっているから、うかつなことで再審したら、日本の裁判所は無実の人を殺してしまった、殺人の罪を犯してしまったということになる。日本の死刑制度の根幹を揺るがしてしまう。この厚いハードルのプレッシャーに裁判官が負けて、真実を見るということを怠ったとしか考えられません。(つづく)


◎徳田靖之弁護士講演会 6月5日飯塚事件「不当決定」を許さない(2024年9月14日 大阪浪速区大国 社会福祉法人ピースクラブにて)

◎《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く ── 飯塚事件再審[全6回連載](構成=尾﨑美代子)
〈1〉弁護士として、自ら犯してしまった過ちをいかに一人の人間としてどう償うのか
〈2〉失われていた物証と証拠の改竄
〈3〉無実の人を殺してしまった日本の裁判所

▼徳田靖之(とくだ・やすゆき)
弁護士。1944年4月大分県別府市生まれ。東京大学法学部卒。1969年弁護士登録。大分県弁護士会所属。「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟西日本弁護団共同代表、ハンセン病市民学会共同代表、薬害エイズ九州訴訟共同代表。飯塚事件弁護団共同代表

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』