無実を叫ぶ被告人の声はどうして裁判官に届かないのか? 京都での冤罪講演で伝えたかったこと

尾﨑美代子

4月24日、京都府部落解放センター4階大ホールで行われた第76期京都人権文化講座「さまざまな冤罪を取材して」に来てくださった皆様、どうもありがとうございました。私の知り合い10人を含めて100人ほどの方が参加されました。とはいえ、私の知り合い以外は部落解放・人権政策確立要求京都府実行委員会に加盟する各団体・企業の皆様で、皆さま、ピシッとしたスーツ姿の方が多く、ちょっと戸惑いました。

今回レジュメ・パワーポイントを作ったり、関係書籍を再読し、改めて「冤罪」は警察、検察により必死のパッチに作られていることに確信をもちました。レジュメに書いた二つの事件より、それを証明してみます。

◆青木恵子さんの東住吉事件

ひとつは、青木恵子さんの東住吉事件。1995年7月22日、大阪市住吉区の住宅で火災が発生。家には青木さん、同居男性、そして青木さんの長女、長男の4人がいたが、風呂に入っていた青木さんの長女が亡くなった。翌日の新聞は「風呂釜の種火が漏れたガソリンに引火した可能性がある」とあったが……。9月10日、青木さんと男性が任意で警察に連行された。

青木さんは火災の原因を知らされると考えていたが、取調べ室でいきなり「お前らがやったんだろ」と刑事に怒鳴られ、あげく男性が長女に性的暴行を行っていた事実をぶつけられた。青木さんはショックと同時に娘を守ってやれなかったことを悔やみ、一刻も早く留置場に帰り、娘のもとへ行きたいと考えた。そう死にたいと。そのため、刑事に言われるがままに、嘘の「自白調書」を書いた。

一方の男性は、長女に性的暴行を行っていたことを事件にしないかわりに、長女にかけていた保険金を欲しさに青木さんと共謀し放火したとの調書を書かされた。それはポリタンクに7リットルのガソリンを移し、車庫に撒いてライターで火をつけたとの内容だった。

裁判で2人は否認に転じた。しかし、自白調書がある。私が30年ほど前に読んだ冤罪の専門書に「日本の刑事司法は未だに自白中心主義だ」と書いていた。30年前に「未だに」と批判されていたのだが、その後も警察、検察はまず自白をとることに必死になる。もちろん自白だけでは有罪にできないが、自白をとったあとは、証拠や証言を捏造、改ざんしたり、嘘の鑑定書まで作って自白を固めるのだ。青木さんの裁判もそのため、1、2審で無期懲役が下され、最高裁で確定し、2人は服役した。

その後青木さん、男性は再審を請求。弁護団、検察側双方が、燃焼実験を行ったが、どちらの実験でも男性が自白した内容とは全く違う結果がでた。自白通り、ガソリン7リットル撒きライターで火をつけたならば、男性が大やけどを負ってしまう。しかし、男性は全く火傷を負っていない。男性の自白は殴る蹴られして強要されたものだった。そして2016年8月、2人に無罪判決が言い渡された。

火災があった青木さんの家
東住吉事件で行われた燃焼実験、弁護側、検察側共に男性の「自白」とは全く違う結果となった

ここでの問題点だが、検察は起訴前に「放火ではない」ことを知っていたのに起訴したことだ。というのも警察は、起訴前に男性の自白通りの燃焼実験を行って、自白は嘘と知っていた。でも検察は2人を起訴した。起訴内容は青木さんらが計画していたマンション購入の初期費用170万円欲しさから、娘を殺して保険金を詐取しようというものだった。しかし、火災が起きたとき、まだマンションのローンの審査は通っていなかった。通ったとしても170万は親から借りられた。なのに、わずか170万円のために、実の娘を殺すだろうか?

これについて、大阪地裁は判決分で、このような「こじつけ」を行った。青木さんが未だに憤っている個所だ。わずか170万円のために、娘を殺すだろうかとの疑問に裁判所は「そのために本件犯行を企てるというのは、いかにも不自然さが否めないし、他からの借り入れ等をも考えれば経済的な逼迫度はそれほどではないともいえる」としつつも、「被告人らが当時決して余裕のある経済状態ではなかったことは確かであり(中略)より楽な暮らしがしたいために、手っ取り早く大金が手に入ることを考えるということも、あながちあり得ない話ではない」。

そう、170万円のためじゃないのよ。1500万円の保険金で楽な暮らしができる、そのために実の可愛い娘を殺せれると考えるような人たちがいるということもあながちあり得ないことでもないのよと。このこじつけを固めるために、男性に「青木さんは浪費癖がある」というような嘘の供述まで言わせている。押収した青木さんがつけていた家計簿から「そんなことはない。お金について非常に几帳面な人だ」とみぬき、無罪を主張した裁判官も一人いた。しかし、合議制のため認められなかったことが、その裁判官の退任後明らかになっている。それほど、裁判官らも自分で証拠を精査せず、検察官の言いなりであるのだ。

◆西山美香さんの湖東記念病院事件

もうひとつは、湖東記念病院事件。西山美香さんが看護助手をしていた病院で、呼吸器で生き永らえていた患者さんが死亡した。のちに自然死とわかるのだが、滋賀県警が当夜当直の西山さんと看護師を管が抜けたのに放置した業務上過失致死容疑で厳しく追及、1年後、山本誠刑事が西山さんの担当になり、怒鳴ったり、椅子を蹴ったりし、西山さんを脅した。怖くなった西山さんは「管を抜いた」と自白させられ、殺人罪で逮捕・起訴された。

ここでは大量の自白調書が作成された。というのも、最初厳しかった山本誠刑事が、西山さんが山本のいうように嘘の自白をしたら、急に優しくなったからだ。しかも成績優秀な兄にコンプレックスを持っていた西山さんに「あなたも賢いよ」とほめてくれたので、どんどん恋心を抱いていった。

西山さんも公判で否認に転じたが、やはり自白調書がものをいう。そのため、有罪判決が下され、服役する。その後、再審で西山さんにも無罪判決が下されるのだが、この事件でどうやって西山さんを犯人に仕立てることができたか? 驚く内容だ。

捜査がすすみ、患者が亡くなった当日、やはり呼吸器の管が外れると鳴る警報音(アラーム)が鳴っていなかったことがわかった。すると、警察、検察は「アラームを鳴らさずにどうやって管を外せたか。患者に酸素を送ることを止められたかと必死に考え、呼吸器の技師にレクチャーしてもらったのが、消音ボタンの存在だった。管を抜くとピッとアラームが鳴り出すが、すぐに消音ボタンを押せば、音は止まる。それから60秒(1分)経過するとまた鳴るので、再度ボタンを押す。それを3、4回続ければ(3、4分経過すれば)患者は窒息死するというものだ。そんな機能を使用する必要もないから、病院内の看護師の誰一人知っていなかった。その機能を看護助手の西山さんだけが知っていたって、どんな冗談だよと誰もが思うと思う。

しかし、裁判官らは「ほほう、そういうことなのか」と信用した。というのも、山本刑事が作文した調書のなかの患者が亡くなる際の様子「目がギョロギョロ」「口をはハグハグした」との描写があり、そこにいた西山さんにしか書けない迫真に迫るものがあるからとした。患者は本当にそうだったのか? のちに弁護団はこれはうそだと反論する。患者は既に大脳が壊死しているため「目をギョロギョロ」「口をハグハグ」することは医学的にありえないというのだ。やはりこれは山本の作文だった。

弁護団の井戸弁護士によれば、山本の調書は、このように全編劇画チックなのだという。その例としてこんな作文がある。西山さんに「患者を殺害したときどう思ったか」などと聞いたのだろう。その西山さんの答えが「壁の方には追いやった呼吸器の消音ボタン横の赤色のランプが、チカチカチカチカとせわしなく点滅しているのがわかりました。あれが患者さんの心臓の鼓動を表す最後の灯だったのかもしれません」。おい、山本! チカが4つもついてるぞ。

ドラマでもよくあるが、「すみません、私が殺しました」と言ったのち、犯人は机に伏せて泣きじゃくるのが普通じゃないか。「そうですね、ランプがチカチカチカチカ……」なんて、チカを4回も言うか? 山本の盛りすぎた調書が墓穴を掘ってしまったようだ。

◆無実を叫ぶ被告人の声はどうして裁判官に届かないのか?

それにしても、無実を叫ぶ被告人の声はどうして裁判官に届かないのか? 裁判官は、どうして検察の嘘を見抜けないのか? 検察を信用してしまうのか? それについては、レジュメの一番最後で、井戸謙一弁護士の2023年12月24日のお話を引用して説明しています。せっかくレジュメ、パワーポイントを作ったので、集い処はなでも一度お話会をやる予定。また、皆様のお近くでもお話会をやってください。よろしくお願いいたします。

開示させた日野町事件の「引き当て捜査」の写真のネガを精査すると、復路で阪原さんを後ろを向かせ自ら案内させていると偽装していた
高知白バイ事件、バスに乗っていた生徒、教諭、バスの後ろについた校長ら26名が「バスは止まっていた」と証言したが、裁判所は176メートル離れた対向車線から見た同僚警官の「バスは動いていた」を採用した

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
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『紙の爆弾』2025年5月号に寄せて 『紙の爆弾』編集長 中川志大

5月号では、開戦3年を過ぎたウクライナ戦争を“終わらせない勢力”の存在をジャーナリスト・田中良紹氏が指摘。現在を含め、戦争終結に向かう動きを封じ込めてきたネオコン勢力と、その影響を強く受けつつ世界を席巻する“リベラル・デモクラシー”に切り込みました。日本国内では、自公少数与党をなぜか打倒しようとしない野党勢力を国際政治学者の植草一秀氏が分析します。なぜ、昨年衆院選で国民が自公に鉄槌を下したにもかかわらず、政権交代の機運が早々に途絶え、自公政権存続の方向性が直ちに定まったのか。今国会の焦点のひとつであった高額療養費制度改悪とアベノミクスの関係、またそれが凍結ののちに、次期参院選の重要なキーポイントとなること。また企業団体献金禁止を妨げる野党勢力についても明らかにしています。

全国で「財務省解体デモ」が盛り上がる中、財務省が持つ“異常な権力”について、『消費税という巨大権益』『本当は怖い税金の話』などの著作を持つ元国税調査官・大村大次郎氏が徹底解明。「日本の財務省は先進国ではありえないほどの巨大な権力をなし崩し的に保持している」と断言する大村氏の言葉は、問題意識を持つ人のみならず必読です。さらに“減塩信仰”の嘘と「塩の効用」を神戸・ナカムラクリニックの中村篤史医師が解説。健康に関する情報としてはもちろん、私たちが日々いかに“洗脳”の中にあるか、考えるきっかけとなるものです。

本誌発売後に開催される「大阪・関西万博」で、石毛博行事務総長は“成功”の基準を問われ、「想定来場者の2820万人は想定であって目標ではない」と答えています。そもそも万博は、宣伝して客を呼ぶ商業イベントではないとは思っていましたが、人が来ないということは、関心を持たれていないということ。つまり、計画当初から問われていた「開催の意義」が、万博そのものにはやっぱりなかったということです。結局のところカジノ万博であり、加えて今月号で植草一秀氏は「産廃と淡路島」に言及しています。福島第一原発事故で国と東京電力旧経営陣を免罪した最高裁判事の顔ぶれを明らかにしていますが、危険が明らかな原発や失敗が明らかな万博を止められない政治・社会の構造をなんとか変えることこそ、いま求められていることです。

本誌はついに創刊20周年。編集長を務める私自身が「右も左も」どころかゼロから出発し、試行錯誤を繰り返してきました。いま、書店の減少がなお加速し、コンビニも雑誌を扱わない店が増えました(本誌はもともと書店のみですが)。一時は隆盛を見せた保守系雑誌も発行部数を減らしているといいます。ただし、経済的な意味での需要の減少は避けられないとしても、社会的需要=言論としての価値は増えていると感じています。課題は山積みです。『紙の爆弾』はそこにより深く楔を打ち込むとともに、読者に迫るメディアであろうと考えています。  全国書店で発売中です。ぜひご一読をお願いします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

『紙の爆弾』2025年 5月号
A5判 130頁 定価700円(税込み)
2025年4月7日発売
戦争を終わらせないのは誰か ウクライナ戦争の真実 田中良紹
自公少数与党と対決しない 維新・国民民主・立憲民主の裏側 植草一秀
元国税調査官・大村大次郎インタビュー 財務省を解体すれば日本は確実に良くなる
道義平和国家・日本の矜持を取り戻せ!シリア「政権の空白」で何が起きているのか 木村三浩
減塩で糖尿病・がん・心筋梗塞・肥満リスク増「塩の効用」を考える 中村篤史
SNS言論封じ法「情報流通プラットフォーム対処法」の言論統制 足立昌勝
「米露同盟」と「ヨーロッパ再軍備」アメリカの多国籍軍NATOの崩壊 広岡裕児
福島第一原発事故「国も東電経営者も責任なし」と判断した最高裁判事たち 後藤秀典
「コメ価格急騰」への影響も 誘拐被害者が語ったミャンマー詐欺拠点の実態 片岡亮
トランスジェンダー論争にみるキャンセル・カルチャーの実態 井上恵子
「Black Box Diaries」伊藤詩織監督映画上映妨害は言論弾圧だ 浅野健一
マスコミ幹部を飼い慣らした「みのもんた伝説」本誌芸能取材班
鎌倉「ヴィーナスカフェ」問題から闇を覗く ハマのドンと横須賀のドン 青山みつお
NHK廃止のための思想の準備作業「公共放送」の「公」をラジカルに問い直す! 佐藤雅彦
環境省の“犯罪黙認”沼津市による「特定有害物質」不法投棄問題 青木泰
シリーズ日本の冤罪 耐震偽装事件 片岡健
『紙の爆弾』創刊二十周年にあたって——創刊の頃、そして現在

〈連載〉
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER Kダブシャイン
「ニッポン崩壊」の近現代史 西本頑司

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「福井女子中学生殺人事件」再審結審 再審無罪を前に自信を取り戻していく冤罪犠牲者の前川さん 尾﨑美代子

39年前に福井で起こった「福井女子中学生殺人事件」の再審が、3月6日結審した。判決は7月18日、午後4時より、名古屋高裁金沢支部で言い渡される。 

事件の詳細は『紙の爆弾』(鹿砦社)2月号に寄稿しているので、ぜひ読んで欲しい。亡くなった桜井昌司さんから「前川(冤罪犠牲者の前川彰司さん)の事件も書いてや」と頼まれてたが、資料を読み始め、何度も諦めていた。関係者が余りに多く、その関係も複雑だからだった。

読み始めあきらめ、読み始めあきらめていたところ、まもなく再審開始の可否がでるとのことで慌てて読み始めた。そして昨年12月、再審開始の決定。決定書を見ると、それまでの資料になかった内容が書かれていた。

弁護団長の吉村弁護士も会見で「想定外でした」と話していた内容、そこには「夜のヒットスタジオ」「アン・ルイス」「吉川晃司」の文字が……。再審請求審で初めて明らかにされた証拠だった。一体、何があったのか? 詳細を知りたい方はぜひ「紙の爆弾」を読んで欲しい。  

この事件、全体をみると、福井県のいわゆる地方都市で、地元警察が、地元のワル、不良、ヤクザになった若者を、うまくあやつり協力者に仕立てていくような構図がみてとれる。

先日、北海道旭川市で女性2人が被害女性を深夜、川の橋の欄干に座らせ、川に落とし殺害した事件で、片方の被告に懲役25年が求刑された。この事件では、もう一人の女性が、事件を捜索する旭川中央署の刑事と不倫関係にあったことが報じられた。もともと互いに出入りしてた地元のスナックで仲良くなったようだ。その容疑者がどんな女性だったかは良くわからないが、刑事を後ろ盾にすることで、一層怖いものなしの強気になれたことは容易に想像できる。

福井の事件で登場する大勢の関係者もまだ若く、社会的経験も少ない。そして不良、ヤクザなど脛に傷持つ者ばかりだ。その弱みに刑事がつけこみ、事件を解決しようと、あらぬストーリーを作っていったのだ。

女子中学生は、実際極めて凄惨な方法で殺害されていた。不良グループと付き合っていたことからリンチと思われた。だが捜査は難航し、犯人逮捕に至らず、捜査機関は焦る。

そんなとき、別の覚醒剤で逮捕され取調べられていたヤクザの斎藤(仮名)が、刑事に「犯人しらないか」と聞かれる。犯人は斎藤周辺のワル仲間とみているのだろう。捜査機関は、犯人を教えたら、あるいはヒントをくれたら、刑を軽くするみたいにほのめかす。斎藤は知人に「犯人知らんか?」と手紙を書く。そう、斎藤も犯人を知らないのだ。しかし、斎藤は自分の刑を軽くしたくて、「犯人は後輩の前川だ」と刑事に告げる。

さらに、車で前川を犯行現場に送った人間、斎藤をゲーセンに送った人間、犯行後困った前川を斎藤がいるゲーセンに連れてきた人間、その際前川の服に血がついてるのを見た人間、ひと晩前川を匿った人間など、次々と関係者を登場させる。しかし、うそのストーリーだから、斎藤の話はコロコロ変わる。

ここまで読んで、「刑事もばかだね。斎藤のいうことが違っていたら、諦めればいいやん」と思う人もいるだろう。違う、違う。刑事が斎藤らワルたちを利用しようとしているのだ。

刑事は、斎藤が刑務所に送られる際「おい、何か土産を置いてけや」とか、「まだ知ってることがあるんじゃないか」とか、斎藤やその周辺の人間を使って、自分たちのストーリーを作ろうと必死なのだ。「関係者」を担わされた若者も、みな、脛に傷があるため、刑事の言いなりにストーリーを合わせてしまう。  

しかし、彼らも成人になり家庭を持つようになると、「なんと馬鹿なことしたのか」と反省し、本当のことを言うようになる。前川さんを犯人とする証言をした男性は、刑事にウソの証言を強いられ、代わりの自分の覚せい剤事件をチャラにしてもらったと再審の場で証言した。前に嘘の証言した夜は、刑事に食事やスナックを奢られ、あげく結婚祝いに5000円包まれた祝儀袋を貰ったと証言。刑事の名前がばっちり書かれた祝儀袋を証拠提出した。本当に酷い話だ。

以前私も支援した石川県の盛一国賠という裁判があった。この盛一君も若い時、刑事に目をつけられ「S」にされた。どんなに覚せい剤をやっても絶対捕まらない。その代り、刑事に言われるがままに、薬をやっている知人や先輩を逮捕させるような工作を刑事としていく。そんななか亡くなった知人もいた。

盛一君も成人し、家庭をもち、「馬鹿なことをした」と猛省し、刑事らとの関係をきっぱり絶った。そして、そんな刑事と不倫で付き合う女性友達に「あんな連中とつきあわんほうがいい」と忠告する。

しかし、この女性は、盛一君のその言葉を刑事に伝える。そのため、盛一君がやってもいない覚せい剤事件で逮捕される。「これ以上余計なこと言うな」という脅しだ。その証拠に盛一が連れていかれた取調室に、以前盛一君が良く飲食をともにした刑事が顔を出し、盛一君に一言「バーカ」と言って消えたという。

多くの冤罪を作っているのは、警察、検察、そして裁判所だ。もちろん刑事という後ろ盾が出来て強気になって、犯罪を犯した人たちも悪い。しかし、北海道の事件も、盛一君の事件も、そして前川さんの事件で関係者とされた人たちも、勝手なストーリーの「駒」に使われ、最後はポイと捨てられた。本当に酷いやつらだ。

前川さんには昨日の朝電話した。桜井さんに紹介され、初めて連絡してから2年半。その間何度か電話で話したり、うちの店にも来てくれたり。最初はボソリ、ボソリとひとこと、ふたこと話すだけだった前川さんだが、その声は、再審開始が決まって以降、どんどん自信を取り戻しているような気がする。

《酒井隆史さん釜ヶ崎トークショーのご案内》

3月30日(日)、酒井隆史さんのトークショーを行います。釜ヶ崎の問題にも取り組んでおられる酒井さんには、2019年「はな」でお話をして頂いたのが最後なのでとても久しぶりです。なお、そのお話は冊子「ジェントリフィケーションへの抵抗を解体しようとする者たち」にまとめており、非常に多くの方々に読んで頂きました。

今回はちょっと大上段に構えたテーマになっていますが、様々な問題をその場で質問したり、議論出来るような形にしたいと思いますので、40人ほど限定、要予約でお願い致します。

メール、携帯、そしてメッセンジャーでも受け付けております。宜しくお願い致します!!

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

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冤罪犠牲者の青木恵子さん、大阪高裁にホンダに対する損害賠償請求の再審を申し立て 尾﨑美代子

東住吉事件の冤罪犠牲者青木恵子さんが、1月24日午前中、大阪高裁に自動車メーカー本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)に対する損害賠償請求の再審を申し立てました(民事での再審申し立ては大変珍しいとのこと)。

◎[参考動画]【独自】火災で女児死亡の冤罪事件 無期懲役で一時服役の母親が賠償求め自動車メーカーに「再審」申し立て(関西テレビ2025/01/24)

30年前自宅で発生した火災事故で娘を失った青木さん。しかも青木さんと同居男性が保険金目当てで娘を焼死させたとして逮捕、起訴され、無期懲役が確定し服役した。

その後、再審で火災は当時青木さん宅にあったホンダの車からガソリンが漏れ、それが車庫に隣接する風呂場の種火に引火し、火災を引き起こしたことがわかり、青木さんらに無罪判決が下された。

青木さんはその後、ホンダに損害賠償を求める国賠訴訟も訴えていた。しかし、こちらは、不法行為から20年経過すると損害賠償を求める権利が失われるとする「排斥期間」が経過したからとの理由で認められなかった。

いやいや、警察、検察、裁判所は誤って青木さんを犯人にして、獄中につないでいた。和歌山刑務所に服役していた青木さんは、亡くなった娘に対する損害賠償の請求権をもっておらず、裁判したくても訴えられなかったのだ!裁判できなくさせていたのは、警察、検察、裁判所だろう。

そんななか、青木さんの刑事裁判弁護団に関わっていたお1人の弁護士の方が、昨年7月に判決が下された旧優生保護法の国賠訴訟で「排斥期間の適用は容認できない」との判決が出たことを報道で知った。「排斥期間」は1989年に最高裁がこれを決めて以降多くの裁判で適用されてきた。青木さんのホンダ国賠もそうだった。

「排斥期間」の適用を容認できない」との情報を知った弁護士は、これは青木さんにも適用出来るのではと考え、今回の申し立てに至った。

青木さんから「カンテレで5時20分に短いニュースで出るらしいから見れたら見てね」と連絡がきたので、お客様と見ていた。それから10数分したら、青木さん本人が店に入ってきた。みんなで「おめでとう!」と言いました。今日は青木さんの誕生日でもあります。

青木さん「お金の問題じゃないの。ホンダにはメグちゃん(娘さん)にひとこと謝罪して欲しい」。

この願いを叶えてやるために、皆さんもこの裁判にご注目を!

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
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『紙の爆弾』2025年2月号に寄せて   『紙の爆弾』編集長 中川志大

あけましておめでとうございます。

新年1号目となる2月号では、被団協(日本原水爆被害者団体協議会)のノーベル平和賞受賞についてレポートしました。“お祭り騒ぎ”の中で、あえて抜け落とされた重要な事実とは何か。あえて疎外されてしまった人々とは誰か。詳しくは本誌をお読みいただきたいと思いますが、この受賞を未来への一歩とする上でこそ、レポートに登場する金鎮湖会長や平岡敬元広島市長の指摘は重要です。本誌増刊「季節」の執筆陣である「子ども脱被ばく裁判の会」水戸喜世子共同代表はフェイスブックで、「時計は止まっていないのだ。核兵器は言うまでもなく悪だ。子どもだって知っている。そこに耳目を引き付けながら、こっそりと核装置である原発によって世界の人命が危険に晒されている現状にこそ警告を発すべきであった。核被害の現在進行形なんだから」とコメント。全文をあらゆる人に読んでいただきたい内容です。

創薬立国を謳う日本で「ワクチン工場」が、続々稼働しています。同種の施設として、東京では東村山市の国立感染症研究所がウイルス研究所(BSL4)として有名ですが、隣に都立の支援学校が、裏手には市立小学校もあります。そもそも「薬で儲ける」とは、どういうことなのか。今月号では、「高齢者の危険運転」と薬の関係について、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる和田秀樹医師が解説しています。そこで和田氏は医療費の問題に加え、日本人は薬の服用者が多いことを指摘しています。「安心していつでもたくさん薬が飲めること」が医療の充実とされているのが現在の日本です。

本誌1月号でインタビューした原口一博衆院議員(立憲民主党)に対し、レプリコンワクチンを製造・販売するMeiji Seikaファルマ社が名誉毀損で東京地裁に提訴しました。本誌で原口氏が語っているとおり、原口氏の問題提起はレプリコンをはじめとしたコロナ定期接種ワクチンへの政府の承認手続きに対するものであり、それだけで「お門違い」だといえます。また同社はリリースで『私たちは売りたくない!』(方丈社)の著者である同社社員について社内調査し、出版元に抗議したとも明かしているものの、内容に関する言及はありません。なお、Meiji Seikaファルマ社については、1月号で紹介した郷原信郎弁護士・上昌広医師(医療ガバナンス研究所理事長)の指摘(YouTube『郷原信郎の「日本の権力を斬る!」』2024年10月20日配信)が重要と思われます。

Meiji Seikaファルマ社が訴えずとも、mRNA ワクチンやレプリコンワクチンの危険性への指摘は「陰謀論」とされるのが現状の日本社会であり、日ごとに明らかになるワクチン薬害の事実を前にしても、それは変わりません。ただし、アメリカで方向性が変われば付き従うのが追従日本なので、トランプ政権で厚生長官に就任するロバート・ケネディ・ジュニア氏の動向によっては、“常識”が変わる可能性もあります。

今月号ではここで触れたほかにも、女川原発2号機事故についての詳細解説、なぜ国連は戦争を止められないのか、ドイツ若手哲学者が問う「リベラル」と「極右」の現状など、さまざまな記事を収録しています。いずれも本誌ならではのレポートです。ぜひ全国の書店でご確認をお願いいたします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2025年2月号
タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2025年2月号

『紙の爆弾』2025年 2月号
A5判 130頁 定価700円(税込み)
2025年1月7日発売

マスコミが「大接戦」と報道し続けた理由「トランプ圧勝」が暴いた世界史の真実  田中良紹
トランプ政権に3人のキーマン「ウクライナ」「ワクチン」「CO2」陰謀の真相  植草一秀
「高齢者の運転は危険」マスコミ煽動の嘘と本当の原因 和田秀樹
国際紛争で国連は何をしてきたか 国連の機能不全を問う 足立昌勝
「斎藤・立花連携」を裏付ける事実 斎藤元彦・立花孝志、そして国民民主党の背後の闇 横田一
オスロ代表団から除外された人々 日本被団協ノーベル平和賞受賞で語られざる「光と影」 浅野健一
「孫子の兵法」と「ノストラダムス」で読み解く世界情報戦略 浜田和幸
再稼働6日後に起きた重大事故 女川原発2号機で何が起きたのか 山崎久隆
「ダークウェブ」で売られる個人情報 「闇バイト」が日本で広がる理由 片岡亮
知らぬは日本人ばかり AIが読み解いた亡国ニッポンの実態 藤原肇
行方を占う「嵐・大野智」の動向 NHKとジャニーズの癒着と抗争 本誌芸能取材班
mRNAワクチン、毒素兵器、バイオハザード(後編) 佐藤雅彦
シリーズ日本の冤罪 福井女子中学生殺人事件 尾崎美代子
「カウンター大学院生リンチ事件」から十年(中) 松岡利康

〈連載〉
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER Kダブシャイン
「ニッポン崩壊」の近現代史 西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/

裁判で何が裁かれ、何が裁かれなかったか? 尾﨑美代子

ここ数日、ちょっと驚く裁判の記事が目につく。大阪高検の検事正だった男性が、検事時代、酔いつぶれた部下の女性検事に性加害を与えた件で逮捕・起訴されたが、当初加害を認め謝罪していたものの、弁護人を変えて一転無罪を主張した件、無罪を主張する会見で発言する弁護士は見たことがあると思ったら、以前取材した冤罪事件の主任弁護士だった。その事件で実際取材したのは別の若手弁護士だったが、数日後、なんとその若手弁護士が、別の性加害事件の控訴審を担当し、大阪高裁で逆転無罪判決をとったというのだ。この事件では、無罪判決を出した裁判長への抗議行動にまで発展している。

「何が真実なのか?」とどんよりしていたが、ふと以前買って読めずにいた『殺人者はいかに誕生したか』を読み始め、あるヒントを得た。私は拙著『日本の冤罪』の「はじめに」でも書いているが、もともと凶悪事件に関心をもっている。凶悪事件を起こした人だって、もともと凶悪犯に生まれたわけではない。オギャーと生まれたときには、誰でもごく普通の子供だった。それがのちに凶悪な事件の犯人となっていく。そのあいだに何があったのかが気になるのだ。

長谷川博一著『殺人者はいかに誕生したか』(新潮文庫)

「殺人者はいかに誕生したか」の著者は臨床心理士の長谷川博一さん。そのなかで、こんな一文をみつけた。

「裁判が真実を明らかにする場ではないことは、私の知る複数の弁護士から重ねて聞かされているところです。裁判は、検察と弁護人の闘い、駆け引きの場にすぎません。裁判所は『真実解明がその使命ではない』という事実を、社会が誤解しないよう公言してもらいたいと思います」。

長谷川さんは、多くの凶悪事件の犯人たちに面談や文通を続け、彼らがなぜ凶悪事件を起こすに至ったかについて、裁判では明らかにされていない、いわゆる「心の闇」と解明していく。そこからは幼少期の壮絶な家庭環境や学校での虐めなどがうかびあがってくる。池田小学校殺傷事件の宅間死刑囚や、秋葉原無差別殺傷事件の加藤死刑囚については幼少期の家庭環境、家族関係に問題があったことは少しは知っていた。

しかし、秋田連続児童殺害事件の畠山鈴香さんのことはあまり知らなかった。彼女は自身の娘と近所に住む男児の二人を殺害したとして逮捕・起訴され、無期懲役が下された。彼女について印象に残っているのは、家をとりまくメディアにきつい口調、目つきで怒鳴っている姿だった。黒い服装を好み、ぼさぼさ気味の長髪を一つに束ね、全体的にその姿は暗いイメージだった。

長谷川さんは面談を通じて、彼女について「意図的に嘘をつかない。かえって自分に不利な言動をとる。相手の意向にあわせる、いわゆる迎合性が強い。相手の示唆を信じ込む被暗示性が強い。自尊心が低い。他人の心を知ろうとする傾向が乏しいなどの特徴があった」と分析している。

さらに彼女は、精神鑑定で解離性健忘が認定されている。これはもともと彼女が持つパニックに陥りやすいという特性の中でおきたものだという。そこには、彼女が幼少期に実の父親から受けたDVや、学校での虐めなどによるトラウマが複雑に絡み合って、心を防衛するための乖離をおこしやすい状態にあったという。健忘というのは、その記憶をもつことが、本人にとって重大な心理的危機を招くときに生じるという。

鈴香さんのトラウマは小学生時の給食時間にはじまった。当時は(今も?)給食を絶対残さず食べされることに熱心な教師がいた。曰く「食べ物を粗末にしたらいけない」「食べれない子もいる」「作った人への感謝を忘れず」等々理由をつけて、全部食べ終えるまで机に縛り付けるようなしつけをする教師だ。

彼女は担任にそれをやられた。彼女の場合、好き嫌いが激しいというのではなく、人前で食べることができないのだ。業を煮やした担任が「手を出して」といい、彼女の手のひらに給食を入れていく、汁物まで……。「全部食べて」という担任の前で、手のひらに顔を埋めるようにして食べようとする彼女……その姿を見て同級生は「犬みたい」「汚い」「ばい菌」とはやし立てる。

彼女のこうした行為の背景に父親の暴力があった。最初は平手、それから拳骨に。
「こういうときは、ただ時間が過ぎるのを待つしかありません。修羅場の中をなにもしないで待つことの耐え難さ。心は苦痛から逃れるために『感じない』ようにし、そして『抵抗しない』という防護策が選ばれることになるのです」

そんな家庭での食事は最も「気を使わなくてはならない」空間だった。ささいなことで父親が暴れるので、父親を怒らせないことに全神経を集中させるため、食べ物の味もわからず、口にいれたものを思うように呑み込めない。飢えを癒すため、誰もいない時にお菓子などを食べていたという。

彼女の娘が亡くなった時、警察は事故死と公表したが、それに納得できない彼女は、警察に再捜査を懇願し、自分でチラシを作り、犯人を捜して欲しいと訴えていた。自分で殺したなら「事故死」のままにしておけばいいのに。橋の欄干に座らせたのちの記憶が彼女にはないのだ。その原因について、事件から18年の今年、ノンフィクションライターの小野一光さんが取材し、当時彼女が抗うつ剤や睡眠導入剤などを大量に摂取するオーバードーズを繰り返していたことを明らかにしている。そのため、一時的に意識が乖離することがあったようだ。

残虐な事件が起き、尊い命が奪われたのち、罪を償うということは、二度と同じような犯罪が起きないよう、何をすればよいかを考えていくことが必要だ。しかし、臨床心理士・長谷川さんもいうように、畠山鈴香さんの裁判では、その任務はしっかり果たせなかったようだ。本当に残念だ。

裁判で何が裁かれ、何が裁かれなかったかを、じっくり見ていく必要があるのではないか(などと評論家風に〆てしまい、超恥ずかしいが…)。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

「香害、すなわち化学物質過敏症」の誤り、1月に2つの判決、横浜副流煙事件 黒薮哲哉

来年2025年の1月に、横浜副流煙事件に関連した2つの裁判の判決が下される。詳細は次の通りである。

■作田学医師らに対する「反スラップ」裁判

判決の日時:2025年1月14日(火)13時10分
法廷:横浜地裁609号法廷
原告:藤井敦子、藤井将登(代理人弁護士・古川健三弁護士)
被告:作田学、A夫(係争中に死去したために、現在は請求対象にはなっていない)、A妻、A娘

■作田学医師に対する名誉毀損裁判

判決の日時:2025年1月22日(水)13時10分
法廷:東京地裁806号法廷
原告:藤井敦子、酒井久男(山下幸夫弁護士)
被告:作田学

これら2つの裁判の経緯は、2016年まで遡って、別稿で詳しく説明しているので、参考にしてほしい。事件の全容をコンパクトにまとめている。
[別稿]事件の概要 

◆香害=化学物資過敏症という従来の考え方の誤り

この事件で中心的な位置を占めている藤井将登さんが、隣人家族から、「煙草の副流煙により健康を害した」として、約4500万円を請求する裁判を起こされたのは、2017年の11月だった。筆者がこの事件にかかわるようになったのは、その1年後である。マイニュースジャパンから記事化を依頼されて、取材したのが最初である。

事件の取材を通じてわたしが得た最も大きな成果は、化学物資過敏症についての見解が変化したことである。軌道を修正した。

元々わたしは、香害=化学物資過敏症という考え方に立っていた。おそらく市民運動と距離が近い週刊金曜日の影響ではないかと思う。確かに両者が結びつく場合はあるが、公害を訴える層の中に一定割合で、精神疾患に罹患している人々が含まれている点を見落としていた。化学物資過敏症の外来を受診する患者の8割が、精神疾患の可能性があると指摘する専門医の証言もある。

横浜副流煙事件の取材を通じで、香害=化学物資過敏症の考え方の未熟さに気づいたのである。一定割合で精神疾患の患者が含まれているというのが客観的な事実である。

実際、化学物質過敏症を自認している人々の中には、第三者からみると、異常な行動をするひともいる。攻撃的な性格で、SNS上で名誉毀損などのトラブルを起こしているひとも少なくない。

横浜副流煙事件も同じ類型の行動様式が引き起こした事件にほかならない。化学物資過敏症の複雑さが根底にある。

事情を複雑にしているのは、香害を訴えに患者の中に、真正の化学物質過敏症患者も含まれている点である。両者の境界線を引くのが、難しく、両者が重複することもある。

こうした状況の下で、化学物質過敏症に取り組む市民団体の多くが、単純に香害=化学物質過敏症という立場を明確にして、運動を展開してきた。一部の医師もそれに協力してきた。香害を訴える患者を、安易に化学物質過敏症と診断してきた。

その結果、客観的な事実を軽視した香害の解釈が社会に浸透したのである。その弊害が典型的に現れたのが、横浜副流煙事件である。化学物質過敏症についての浅はかな見解を前提に、一個人に対して4500万円を請求するに到ったのである。

※本稿は『メディア黒書』(2024年12月13日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

ドンファン事件に「無罪」判決! 「疑わしきは罰せず」が貫徹された判決だった! 尾﨑美代子

◆確かにセンセーショナルな事件だった!

紀州のドンファンとよばれた男性が覚醒剤中毒て死亡した件で、逮捕された元妻の女性の裁判員裁判で、女性に無罪判決がでた。孫ほど歳下の女性との結婚で話題になったうえ、最後は覚せい剤で死亡したということで、メディアはさんざん騒いできた。

これが有罪ならば、「やっぱりね。あの女、怪しかったもんね」と騒ぎ続けただろう。しかし、結果は無罪。何故かそれ以降、メディアは全体トーンダウンしたと思うが、そう思うのは私だけか? 結構深堀りする番組もあるが、羽鳥慎一モーニングショーなんか「はい、あの事件で無罪判決がでました」と事実に触れた程度、「〇〇動物園のカピバラのお風呂に、昨日ゆずがプレゼントされました」と似たような扱いだった。

確かにセンセーショナルな事件だった。裁判は長期に渡り、28人もの証人が証言した。中には覚醒剤の売人もいた。男は「職業」を聞かれ、「(覚せい剤の)売人」と答えたという。

そんなことあんのか? 無職か、別の職業をあげ、その後「被告を知ってるか?」と問われ、「以前覚醒剤の売人をやっていた頃、その女性と接触したことがあります」と答えるのが普通ではないか? 男性の姿は衝立などで遮られ、顔など分からない方法で行われたのだろうが、それにしても法廷で「売人です」と堂々と証言し、証人の顔をみることができた裁判員らは、さぞかし驚いただろう?

◆「疑わしきは罰せず」が貫徹された判決だった!

この判決、「疑わしきは罰せず」という、刑事裁判の基本中の基本をズバリと見せてくれただけでも見ていてスカッとした。基本中の基本とはいえ、あまりに守られていない鉄則だったからね。

でも、ここで花開いたのだぞ。福島恵子裁判長がバシッと「ほら見ろよ」と出してくれたんだぞ。モーニングショーの羽鳥さん、玉川さんなんかにコメントさせてよ。玉川さんはしゃべりたいことがやまほどあったはず。しかし、それすらしなかった。局でよほどこの件に関しては何気なくスルーしようと決まっていたと思うほど。 

◆TVメディアは男性中心過ぎないか?

これまでいろんな冤罪事件をみているが、とりわけ女性が犯人とされた場合、男性中心のメディアは、こんな扱いだということがよくわかったね。のちに事件ではなかったことが判明した青木恵子さんの東住吉事件、西山美香さんの湖東記念病院事件もそうだった。「同居男性が娘に性的虐待!被告女性との三角関係か?」「警察官に恋した被告女性とは?」とおもしろおかしく書き立ててたね。そこじゃないやろ! 

それはさておき、判決後、裁判員の一人だった20代の男性が、被告の女性は裁判に非常に真摯に向き合っていたと思うとか、メディアで言われる内容と実際の裁判はまったく違っていたとか話していた。私もその通りだと思う。

今回の彼女にしても、たまたまおじいさんほど年上のお金持ちの男性に好かれ、「お金もらえるなら」と結婚に応じた。遺産相続、完全犯罪など怪しい検索履歴が話題となったが、それがどうしたといいたい。

◆福島恵子裁判長もカッコよかった!

しかも、今どきの若い女性は日々のニュースなど見ていて、警察が消去した検索履歴でも復活させることができることを知っていただろう。私が宝くじで当選したら、まずは「億ション」とか「海外旅行」とか検索するだろう。そのうち、調子こいて「高齢者の婚活」とか、さらに調子こいて「全身美容整形」とか検索するだろう。

彼女が何かよからぬことを企み、それらを検索していたとしても、それを実行にうつせてはいないことが今回分かったのだ。致死量の大量の覚せい剤をドンファンに飲ませることができなかったのだ。そこが重要。

「うちの旦那、憎たらしいな」「不慮の事故で死ねばいいな」と毎日毎日思っていても、それを実行にうつしてなければ、ある意味、問題ないのだ。女性は、一生、旦那を殺したいほど憎んで終わるんだな、とある意味辛くなるが……。

福島恵子裁判長もカッコよかった。裁判官らがあの黒い服の下を着ているかは知らないが、あの福島恵子裁判長は、(テレビで見る限り)正直ごく普通のカジュアルな服だった。それは例えば、私が玉出スーパーに大根をを買いに行くときのような服装だった。そんな福島裁判長が、きっぱりと「疑わしきは罰せず」をやってくれたのだ。弁護団がいうように「グレーをいくら重ねても黒にはならないのだ」。

◆腐った検察どもは、なんでもやりかねない!

検察はもちろんこのままではいないだろう。必ず控訴するだろう。しかし、どうやって大量の覚せい剤を飲ませたか、そこが解明されなければ、有罪にはできないだろう。

あるいはもうひとつ、覚せい剤の売人の一人が「女性に売ったのは氷砂糖」と証言した件だ。和田アキ子まで参戦して、「覚せい剤と氷砂糖は全く違う」とか言ってたらしい。ここで新たな展開として、「氷砂糖を売った」という証人について、控訴審で元締めが出てきて「あいつは売人として嘘をついた。うちの組織は彼を破門にした」などと言い、破門状や下手すりゃ男がけじめをつけた証拠として切断された小指などを証拠提出するかもしれない。

腐った検察どもは、なんでもやりかねないからね。今後も注目していきたい。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く〈6〉飯塚事件再審 ── 日本の再審制度を変えていかなければいけない 尾﨑美代子

 

ハンセン病、薬害エイズ被害患者の救済から飯塚事件などの冤罪訴訟まで、常に弱者の立場に立ち、法廷で声なき声を代弁してきた徳田靖之(とくだ・やすゆき)弁護士 ──。「6・5 飯塚事件『不当決定』を許さない」と題された9月14日大阪講演の記録を全6回連載で報告する。(企画・構成=尾﨑美代子)

◆飯塚事件の再審を勝ち取ることの意義

私たちは今、福岡高裁で即日抗告審を闘っています。ここで今、Оさんの初期供述をだせという証拠開示の闘いを挑んでいるわけですが、これまでの闘いで私たちが体験していることからいうと、真犯人を特定しない限り再審の扉は開かないのではないかと思っています。

そういう私たちに、実は、ある刑務所で服役している人から、彼が以前の事件で服役中に、同房になった男から「自分が飯塚事件をやってしまった」という告白を聞いたという情報が寄せられています。これはまだ私たちがその証言の信用性を固めていくということをやっていかなくてはならない。しかし、なかなか固めるということは難しいという、そういうレベルの段階ですが。

ただ、私たちがこの飯塚事件をやっていて確信に近い思いをもっているのは、私たちが一生懸命闘っている過程に、新しい証拠、新しい道がどんどん開いていくわけです。第一次再審請求がだめだったときに、木村さんが現れる、Оさんが現れる、そして第二次再審の壁が塞がれたとき、新たな道が開かれている。つまりこの飯塚事件というのは、時間が経てば経つほど、久間さんが犯人でないという確信を、この事件にかかわる人たちにもたらせている、そんなようになるわけです。

飯塚事件こそ、死刑制度の根幹を改めて問うという、飯塚事件の罪の深さを改めて私たちが考えるときにおいても、この飯塚事件の再審を勝ち取ることは、とても大きな意義があるのではないかと考えています。

◆再審法の規定を変えなくてはならない

その飯塚事件の再審を勝ち取るためにも、何を今一番にやらなければならないと思っているか。それは、再審法の規定を変えなくてはならないということです。日本の再審法は大正11年(1922年)に作られた旧刑事訴訟法の規定がそのまま残されています。戦後、変えられたのはたった一点、検察官には再審請求権がない、この一点だけです。

戦後、刑事訴訟法は改定されましたが、時間がなかったからという理由で、再審規定だけはそのままだった。いずれ改めて検討するという国会での議事録が残されていますが、手つかずのままでした。

それが何をもたらしているかというと、特に2つの大きな害悪をもたらしている。1つは証拠開示規定がないということです。刑事訴訟法は改正されましたので、今は、検察官は手持ちの証拠を開示しなくてはならないとなっている。

しかし、再審事件に関してはこの規定がありません。ですから検察官は、再審請求に関して、本当は真犯人ではないかという証拠があっても出す義務がないんです。捜査というのは、誰が犯人だろうかということで、いろんな証拠を集めていくわけです。その人を犯人にしていくための証拠と、その人が犯人でないという証拠をふりわけていくわけです。その人が犯人だという証拠だけを集めて裁判に提出するというのが捜査のやり方です。だから、彼が犯人でないという証拠は眠っているわけです。再審請求では、その眠っている証拠を出させることがとても大事なわけです。

でも日本の刑事訴訟法には、再審請求のときは証拠開示権が提示されていない。これを何が何でもかえなくてはならない。大崎事件でも狭山事件でも、隠されていた証拠が少しずつ開示されていくなかで、無実が明らかになっていくという経過をたどっています。飯塚事件で新証拠が開示されれば、間違いなく久間さんは無実だと明らかになると確信しています。

もう一つ、日本の再審制度で決定的に問題なのは、再審開始決定がでたあとに、検察官が不服申し立てできることです。このために、袴田さんは何十年も苦労してきた。大崎事件もそうです。何度も再審開始決定がでたが、検察官が即時抗告し、また再審開始が取り消されるということがおこっている。

この2つの問題を早急に改めさせることが急務になっています。まもなく袴田さんの再審無罪判決がでます。これをきっかけに、私たちは全力をあげて、日本の再審制度を変えていかなければいけないと思っていますし、それが変われば飯塚事件は死刑執行という厚い壁をこえて、間違いなく再審開始になるだろうと私たちは確信をしております。

すみません。お話しするたびに怒りが沸いてきまして、とりとめのない話になってしまいましたが、以上で私からのご報告とさせていただきたいと思います。どうぞ、これからも飯塚事件にご支援をお願いしたいと思います。ありがとうございました。(完)

◎徳田靖之弁護士講演会 6月5日飯塚事件「不当決定」を許さない(2024年9月14日 大阪浪速区大国 社会福祉法人ピースクラブにて)

◎《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く ── 飯塚事件再審[全6回連載](構成=尾﨑美代子)
〈1〉弁護士として、自ら犯してしまった過ちをいかに一人の人間としてどう償うのか
〈2〉失われていた物証と証拠の改竄
〈3〉無実の人を殺してしまった日本の裁判所
〈4〉死刑判決の理由は、全部間違いだった
〈5〉裁判官は、「エリート」であればあるほど最高裁に「忖度」する
〈6〉日本の再審制度を変えていかなければいけない

▼徳田靖之(とくだ・やすゆき)
弁護士。1944年4月大分県別府市生まれ。東京大学法学部卒。1969年弁護士登録。大分県弁護士会所属。「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟西日本弁護団共同代表、ハンセン病市民学会共同代表、薬害エイズ九州訴訟共同代表。飯塚事件弁護団共同代表

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く〈5〉飯塚事件再審 ── 裁判官は、「エリート」であればあるほど最高裁に「忖度」する 尾﨑美代子

 

ハンセン病、薬害エイズ被害患者の救済から飯塚事件などの冤罪訴訟まで、常に弱者の立場に立ち、法廷で声なき声を代弁してきた徳田靖之(とくだ・やすゆき)弁護士 ──。「6・5 飯塚事件『不当決定』を許さない」と題された9月14日大阪講演の記録を全6回連載で報告する。(企画・構成=尾﨑美代子)

◆第二次再審での争点

私たちはそのOさんの古い供述と新しい供述について、裁判所がどちらが正しいか判断するとしたら、Oさんが言っていたように、女の子を見たのは別の日だが、警察官にむりやり事件当日だとされたということを明確にするには、Oさんが最初に警察から取り調べを受けたときの捜査記録を出したら、Oさんが今言っていることが正しいかどうか一目瞭然ではないかと考えます。

Oさんが最初に警察に調べをうけたときの捜査メモ、捜査報告書があるはずだから、これらを出すように裁判所に要求しました。じつは遺留品発見現場で久間さんの車と似た車を見たという人の最初の捜査報告書は残されているんです。そこには何が書いてあるかというと「紺色のワゴン車をみた」「そこから一人の男がおりてきた」という言葉が捜査報告書に残されているんですね。だとしたら、Oさんの警察での最初の初期供述が残されていないはずはないんですよ。

だから私たちはそれを出すようにと要求してきた。しかし、検察官は「ない」というんですよ。こういうとき検察官はなんというかというと「存在しない」とは言わない。「不見当」、見当たらないというのです。なぜか? これはあらゆる冤罪事件で検察官はそういいます。あとからできたときに説明ができるように「不見当」、見当たらないというのです。

今回の飯塚事件も、木村さん、Oさんが最初に警察に呼ばれた時の初期供述を出せというと「不見当」だというのです。私たちは「そんなことはありえない」と裁判官に強くいいました。裁判官は検察官に「そうだとしたら、警察から検察に証拠が送られてきたときの目録はあるのか?」と聞きました。すると検察官は、ちょっとうかつだったと思いますが「ある」といったのです。

裁判所は「その証拠の目録をだしなさい」と勧告しました。私たちはこの目録が出てくれば、Oさんが最初に警察に聞かれたときの捜査報告書が目録に必ず記載されているはずだと確信していました。

裁判所から検察官に勧告がだされ、検察官が何といったと思いますか? 「目録がある」と答えてしまっているわけですから、もう「不見当」とは言えない。そうしますと検察官は「裁判所がそのような勧告をする法律的根拠がない。したがって我々は勧告に従わない」と言ったのです。

日本の検察官は自分たちは「公益の代表」などと言っていますが、彼らは真実を発見しようという気が全くない。本当に彼らが飯塚事件に関して、久間さんが犯人と確信しているのなら、目録を出してくればいいじゃないですか。あるのだから。でも出せない。なぜか? 目録にはOさんの初期供述が残っているからです。目録をだしたら「不見当」といっていたOさんの初期供述を出さなければならなくなる。だから「裁判官がそのような勧告をする法的根拠がない」という理屈をつけて拒否したわけです。

◆警察、検察官は、遺留品発見現場での目撃証言を強引に誘導して、事実と違う供述をつくった

このようなことをされたら、裁判官は普通どうすると思いますか? 自分たちの勧告を拒否したのだから、普通の裁判官だったら「出せ!」と命令するでしょう。検察官は「ある」といった上で、出さない理由として裁判所に勧告する権限はない」と言っているのですから。あらゆる再審事件で「証拠を開示しろ」という勧告をすべての裁判でやっています。「法的根拠がない」という理由で拒否したのは、今回がはじめてです。

私たちは「命令を出せ」と裁判所に言った。しかし裁判所は「命令は出さない」といった。命令を出せないといったから、我々はそれをどう受け止めたか。裁判官は、検察官が勧告を拒否したことで、その目録の中にOさんの初期供述があると確認したはずだ。目録を出さないといったことは、検察官はOさんの初期供述を表に出したら、すべてが明らかになる、これを何とかして拒むために勧告を拒否したと裁判所は判断したと、私たちは思ったわけですよ。

しかし、蓋を開けてみたら、Oさんの新しい証言は信用できない、古い証言の方が信用できると言った。ふざけんなよ! そんな判断をするなら、古い供述の前の初期供述を出せといえばいいではないか、それをしないでOさんの古い証言の方が信用できるとは……よくそんなことが言えるものだなと思いました。

◆裁判所は、事実に目をふさいで、再審請求を認めなかった

警察、検察官は飯塚事件に関しては、これだけのことをやっているわけです。DNA型鑑定の写真を改ざんしました、遺留品発見現場での目撃証言を強引に誘導して、事実と違う供述をつくった。そのうえで、裁判所の勧告を無視して、Oさんの供述が正しかどうかを徹底的に明らかにするはずの証拠の目録の提出を拒んだ。

これだけのことをしたのに、裁判所は事実に目をふさいで、再審請求を認めなかった。なぜ裁判所はそんなことをするのか? 私に言わせると、少なくとも証拠目録を開示しないと言われたら、その理由はどこにあるのかを裁判官は考える義務があるはずだ。なぜなら、裁判所は怪しいと思ったわけですよ。Oさんの初期供述は「不見当だ」といった。それを怪しいと思ったから裁判所は「目録はないか?」と聞いた。すると検察官は「ある」といったので、裁判所はそれを出せと勧告をした。怪しいと思ったからですよ。いや、少なくとも目録がでてくれば、検察官が言っている「不見当」が信用できるかどうかの判断ができると考えたから勧告したのです。

そこまでしておきながら、なぜ命令をせずに、そのうえで「古い供述のほうが信用できる」などと判断したのか。皆さん、どう思われますか? 結局裁判所は怯えたのですね。再審開始をしてしまうということにです。Оさんの新しい供述が信用できると言ってしまったら、再審開始することになってしまう。そうなると、久間さんという無実の人を裁判所が殺してしまったことになる、そうなることに裁判所は怯えたのだと思います。

そこから今度私たちは、ではどうして裁判所は証拠開示の勧告をしたんだろうか、と考えました。そんな結論を下すなら、なぜ証拠開示の勧告をしたのだろうか。その証拠開示の勧告をしたあとに、裁判長の次に経験のある右陪席が交代したんです。

エリート裁判官でした。証拠開示の勧告をした裁判体と、再審請求を棄却したときの裁判体では、一人構成が代わっていたんです。その人は経歴的にはエリート裁判官です。私らはこの裁判官の交代が、証拠開示の勧告をしながら、再審請求を棄却する決定をするという矛盾を示す、ひとつのカギを握っているのではないかとみています。

似たようなことが、実は、第一次再審請求のときにも、もっと露骨に起こったのです。第一次再審請求の時の裁判長は、科警研のDNA型鑑定がいかさまだと早くに察知しました。彼はそこで、自分が定年退官する前に再審請求の判断をすると、私たちに明らかにした。その裁判官の定年が8月に予定されていたので、私たちは7月中に決定がでると思っていた。

ところが、決定がでないまま、裁判長は定年退官をしてしまった。そのあとに新たな裁判長が赴任したのです。この人もまた超エリート裁判官。この裁判長が半年後に再審請求を棄却する決定を書いたのです。第一次再審請求の時も、そういう裁判官の交代という事実が、再審を認めないという決定に影響したのではないかと、私たちは思っていた。

そのことが第二次再審請求でも繰り返された。エリート裁判官という言い方をしていますが、こういう経歴の人というのは、最高裁にいわば「忖度」傾向が極めて強い人たちです。

私たちは、飯塚事件の再審請について正々堂々と闘っている。私たち弁護団や支援者の多くは、常識的な意味で、これだけの証拠をだせば、必ず再審の扉が開くと思っていますが、このレベルの闘いでは扉が開かない。もう「この人が真犯人だ」というような新しい証拠を出さない限りは、再審の扉が開かないくらいになっているということです。死刑を執行してしまっているからです。(つづく)

◎徳田靖之弁護士講演会 6月5日飯塚事件「不当決定」を許さない(2024年9月14日 大阪浪速区大国 社会福祉法人ピースクラブにて)

◎《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く ── 飯塚事件再審[全6回連載](構成=尾﨑美代子)
〈1〉弁護士として、自ら犯してしまった過ちをいかに一人の人間としてどう償うのか
〈2〉失われていた物証と証拠の改竄
〈3〉無実の人を殺してしまった日本の裁判所
〈4〉死刑判決の理由は、全部間違いだった
〈5〉裁判官は、「エリート」であればあるほど最高裁に「忖度」する

▼徳田靖之(とくだ・やすゆき)
弁護士。1944年4月大分県別府市生まれ。東京大学法学部卒。1969年弁護士登録。大分県弁護士会所属。「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟西日本弁護団共同代表、ハンセン病市民学会共同代表、薬害エイズ九州訴訟共同代表。飯塚事件弁護団共同代表

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』