安倍政権の秘密保護法や戦争法案、原発再稼働には反対だが、反対デモや集会を規制する警察は「市民を守る良い人たち」と考える風潮が相変わらず根強い。しかし冤罪事件を1つでも知れば警察始め検察、裁判所など日本の司法が組織としていかに腐敗しているかが良く分かる。そして冤罪は、決して過去のことではなく、今も身近に起こり続けている。布川事件(1967年茨城県で発生した強盗殺人事件)の冤罪被害者にされ、29年間千葉刑務所に囚われていた桜井昌司さん(71歳)へのロング・インタビューを3回に分けて公開する。今回はその2回目。(聞き手・構成=尾崎美代子)

桜井さんとは2016年8月10日、東住吉事件の冤罪被害者、青木恵子さんに再審無罪判決が下された大阪地裁で初めてお会いし、昨年9月も釜ケ崎にお話会に駆けつけて下さった

── 1回目に年度内に判決が出る桜井さんの国家賠償訴訟の話、昨年一年、さまざまな展開があった冤罪事件についてお聞きしました。残念なことも多かったが将来的に悪いというわけではないと。今市事件では裁判所が訴因変更を促したり無理して有罪にしたが、そんな裁判の異常さは外国だったら通用しないという話でした。そこで今回は桜井さんが8月に台湾で開かれたイノセントプロジェクトの総会に招かれたということで、そのお話からお聞きします。内容はブログで読ませていただきました。冤罪についての捉え方が日本と随分違うと感じましたが。

桜井 台湾にはね、要するに冤罪は間違っている、冤罪を糺(ただ)すんだという意識を大勢の人たちがもっている。日本のように、冤罪被害があっても「それはたまたま(犯人を)間違えただけ、警察や検察が責任とる必要はない」という意識ではない。検事総長がイノセンスプロジェクトの総会に出席して「冤罪をなくそう」と挨拶をする。そんなこと日本では考えられない。じっさい検察官が再審請求をして2人の死刑囚が無罪になっている。そんなことは日本じゃありえないでしょ?

── 台湾の警察、検察のありようが日本と比べてかなり違うということですか?

桜井 いや、そうではなく、実際には台湾も日本と同じで警察や検察が間違ったことをやり冤罪もつくられている。ただ、それを糺そうという意識が国全体のなかにある。「なぜそれが出来るんですか?」と僕が尋ねたら「無実の人が犯人でよい訳がないから」という。

── ブログで桜井さんが書いていましたが、日本では冤罪被害者が再審無罪を勝ち取っても「それは大変でしたね」と同情するくらいで終わってしまう。そこから自白を強要したり嘘をついて冤罪をつくった警察や検察、裁判所が酷いねという方向には向かわないと。

桜井 「そう、ご苦労さんです。大変でしたね」で終わる。

── それで済まされるという雰囲気や社会構造を私たち自身が作っている、あるいは支えている?

桜井 警察や検察がおかしいという意識は日本人はあまりもってないと思う。警察や検察をやたら信じるし、頼る。警察や検察は逆にその意識を利用して、甘い汁をずっと吸い続けてきたわけでしょう?

── では台湾がなぜそう変わってきたかとお考えでしょうか?

桜井 ある意味、中国大陸に対するアンチテーゼかもしれない。中国大陸はあまりに人権意識に問題がある、だからその中国と違って我々にはちゃんと人権を守るんだという意識があるよということかもしれないね。

── そこに至るまでに何がきっかけがあったのでしょうか?

桜井 1982年におきた銀行強盗事件がきっかけだそうです。逮捕された人が無罪を主張していたが自殺してしまった。で、その直後に真犯人が逮捕された。国全体で「これはだめだ」ということで、法律の欠陥などを正そうと考え始めた。証拠隠しは一切しないようにしなくてはと考えが変わっていった。冤罪をつくっていくのは警察、検察、裁判所の全員の責任だということです。 
 私は、警察官が嘘をいって冤罪が作ることが多いので、そのことに蓋をしない限り冤罪はなくならないと思っている。台湾ではそこで証拠開示ということで証拠閲覧権などができた。つまり冤罪を正すために法律改正をした。冤罪は発生するが、それは警察、検察だけではなく、彼らの不正、誤りを容認する社会全体の責任と考える風潮がわいてきたということ。

── しかし日本と同様、そうした警察、検察への罰則というのはまだないんですよね。

桜井 まだないね。日本は警察、検察官が嘘をついて冤罪がつくられる。それを問題にしない限り冤罪はなくならないと思う。嘘を言ったら裁こうよというだけの話です。そんなことを言うと、みんな「警察官がいなくなってしまう」とかいう。俺はそんな警察なら「やめればいいじゃん」と思う。そういう法律が出来てもいいという人が警察官をやってくれればいいと思う。国家議員も同じ。「嘘をついたら処罰してくださいよ」と。それがやれてないから日本は怖いよ。
 自分の裁判に関わる証拠を知るのは当然の権利ですよ。台湾と同じ、証拠開示ではなく証拠閲覧権。自分にかかわる裁判の証拠をすべて見る権利があるという当たり前のことです。僕はそれをやりたい。捜査で嘘を言った警官、検察官を処罰するというものです。

── そのための法整備が必要だと桜井さんは訴えていますよね。

桜井 間違いや嘘があったら、それは犯罪と同じ。なぜ反省しないのか?それは警察や検察が嘘を言っても処罰されないからです。

── 具体的にはどういう法律になるのですか?

桜井 捜査過失罪みたいな、嘘をついて冤罪を作ったことへの処罰かな。もしその人が20年刑務所に入ったらば、嘘を語ったり、証拠を捏造したり、隠したりした警察官や検察官は、同じ20年の刑にする。当然でしょ。時効はない。それによって利益を得た者は、その人が死んだ後も得た利益を剥奪する。今、殺人事件の時効はないからね。訴求効果といって、その法律ができる以前の過去について取り締まるという。で、現在進行系の事件に関しては訴求効果は発生しますがね。例えば今、私は布川事件を闘っていますよね。そこには訴求効果は発生する。そういうのを作りたい。

── 法案など具体的に考えてられるのですか?

桜井 いや、まだまだだよ。とりあえず来年(2019年)の3月あたりに「冤罪被害者の会」を作ろうと考えてて、今はその準備中。共同代表制にしてつくる予定です。

── そういう会が今までなかったことも驚きですね。

桜井 そうだよね。

──  被害者の会設立にはやはり桜井さんの個性というかキャラクターが役立つような気がします。冤罪被害者にされた人にはいろんな個性の人がいるが、悲しみや辛さは共有出来るから、みんなでつながっていこうという……。

桜井 うん、それはあるかもね。でも会が発足してしまえば、俺はいなくてもいいかなとも思っている。俺はあんまり表面に立ちたくない。ほかにもいろいろやりたいことあるからね。ちょっと好きにさせてよという思いもある。とはいえ、俺もちろんやるけどね。

── 今年は金聖雄監督のドキュメンタリー映画「獄友」も公開されました。あの映画は、「冤罪」あるいは「冤罪被害者」について、それまで関心の薄かった人も関心を持つ契機になったと思います。映画に出演するみなさんの非常に強い個性もあって(笑)。

桜井 そうだね。さっきも言ったけど日本にはまだ「冤罪になった人は、ちょっと問題あったから冤罪にまきこまれたんだよね」という感覚が普通にあって、で無実となっても「まあ、良かったね 」のひとことで済まされる。そういう意味では「獄友」で冤罪問題への関心が相当広まったね。

── あと日本人には、警察は市民を守る優しい人たちという意識も強い。反原発や安保法や秘密保護法反対で、この間、それまで政治にさほど関心のなかった人たちもデモや集会にでていく機会がふえた。でもそういう人たちのなかには警察官は「いい人」、警官の言うことを聞こう、警官にたてついて逮捕されるなんて、逮捕される人が悪いみたいな考えの人もまだ多い。でも冤罪事件に少しでも関わると、根本的にまず警察や検察が組織として酷すぎるというのが良くわかりますよね。

桜井 警官だけではなく司法全体ね。まあ、ただいろんなことを知らない、知らされてないから、そう思っても仕方ない部分もあるよ。だから、俺はもっともっと冤罪を含めて警察、検察、そして裁判所がひどいことやっていると広めていきたいね。(つづく)

▼尾崎美代子(おざき・みよこ)https://twitter.com/hanamama58
「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主。

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『NO NUKES voice』Vol.18 特集 2019年 日本〈脱原発〉の条件

◆無理筋の立件

日産前会長カルロス・ゴーン氏の三度の逮捕(特別背任)に関する保釈請求が却下された。足かけ2ヶ月におよぶ勾留により、中途半端な裁判ではなくなった。ここまで地検特捜部が意地を張っているのは、やはり司法取引によって確実な証拠をつかんでいるのだろう。


◎[参考動画]ゴーン被告の保釈請求を却下 東京地裁(ANNnewsCH 2019/01/15公開)

容疑について整理しておこう。

① 2015年まで5年間の有価証券報告書の虚偽記載、
② 2018年まで3年間の有価証券報告書虚偽記載、
③ ゴーン氏の資産管理会社の評価損を日産に付け替えた特別背任、
④ サウジアラビア人の会社への支出にかかる特別背任である。

②は最近2年間のCEOは西川社長であることから、西川社長および日産の刑事責任が問われても不思議ではない。報告書を作成したのはゴーン氏ではなく、西川社長が代表として統轄する取締役会の責任において作成されているからだ。そしてそもそも報告書に記載されていなかったのは、退任後の報酬であって招来の希望にすぎないのである。その意味では①も単なるミスか形式的なものにすぎないのではないかと指摘されてきた。

③と④の特別背任についても、評価損を一時的に日産の信用下に置くことで損失を回避したにすぎない。現実に損害は発生していないのだ。中東における日産の事業展開との関連で評価されなければ、損害を出すことを承知のうえで出仕を指示した「特別背任」には当たらないのではないかという疑問がある。かなり無理筋ともいえる捜査の結果、見えてくるのは司法取引の中身である。


◎[参考動画]日産自動車 ゴーン被告に損害賠償を求める方針(ANNnewsCH 2019/01/16公開)

◆司法取引とはどんなものか

日本で司法取引が導入されたのは昨年6月である。法廷で証人が検察官から刑事責任を追及されないことを約束されたうえで、他人の犯罪関与について証言することを「捜査・公判協力型協議・合意制度」としたものだ。つまり公判廷での証言を従来は「訴追される怖れがある場合は、証言しなくてもよい」としてきたものを、ぜひとも証言しなさい。その代わりに、あなたの刑事責任は問いませんから、ということになる。

公判廷で初適用されたのは、昨年末のことである。タイの発電所建設を巡る贈賄事件だ。不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)罪に問われた三菱日立パワーシステムズの元取締役・内田聡被告の初公判で、同被告は「(他の被告と)共謀して金銭を供与した事実はない」と無罪を主張したが、検察側は冒頭陳述において、ある証拠をもってこれに反論した。

東京地検特捜部と三菱日立パワーシステムズの司法取引に関する合意文書を、検察側は証拠として提出したのだ。同社が指定された資料を検察に提出した見返りに、特捜部が同社の起訴を見送ることで合意したという。つまり、内田被告の犯行の証拠資料は、会社によって検察に提出済みだったのである。これと同じように、ゴーン氏についての証拠資料も日産から検察に提出されているのだろう。少なくとも、有価証券報告書の虚偽記載について、日産はゴーン氏の訴追構成要件と引きかえに免訴されたことになる。これが今回の司法取引の構図である。


◎[参考動画]“ルノーが近く新体制”と仏紙 ゴーン被告を解任か(ANNnewsCH 2019/01/15公開)

◆アメリカのとはちがう日本版司法取引

 

カルロス・ゴーン『国境、組織、すべての枠を超える生き方 (私の履歴書) 』2018年日本経済新聞出版社

ところで日本が導入した司法取引は、アメリカのものとはずいぶん違うものだ。アメリカの司法取引は「自己負罪型」と呼ばれ、被疑者や被告人がみずからの罪の一部を認める代わりに、他の罪を処罰しないというものだ。取り調べでのやり取りは、例えばこうである。

検察官「おまえ、やっただろ?」
被疑者「へへーぇッ。わたしはこの罪を犯しました」
検察官「じつは別の件もあるんだろう。共犯者もふくめて、全面的に自供しなさい。ぜんぶ吐けば、罪には問わないからね」
被疑者「司法取引ですね。わかりました、共犯者が誰かもふくめて、すべて話しますから、わたしの刑罰は軽くしてください」
検察官「いいでしょう」

こうして司法取引が成立すれば、有罪答弁によって裁判を経ることなく事件は解決するのだ。マフィア犯罪や麻薬捜査など、内偵がむつかしい組織犯罪において、おおいに威力を発揮してきた。いっぽう日本が導入した司法取引は「他人負罪型」と呼ばれ、他人の犯罪にかんする公判廷においてのみ、証言者の刑事責任が問われないものだ。

したがって、じっさいに裁判が開かれなければ、どんな司法取引が行なわれたのかは明らかにならない。じつに不透明な捜査方法である。検察側にとって都合の悪い証拠が開示されないまま、被告側の防禦権もかなり制約されることになるのではないか。証言の真否について偽証罪という担保があるにしても、共犯者の有罪答弁が訴追されないのならば、それはどの範囲までなのかグレーな部分が多すぎはしまいか。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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安倍政権の秘密保護法や戦争法案、原発再稼働には反対だが、反対デモや集会を規制する警察は「市民を守る良い人たち」と考える風潮が相変わらず根強い。しかし冤罪事件を1つでも知れば警察始め検察、裁判所など日本の司法が組織としていかに腐敗しているかが良く分かる。そして冤罪は、決して過去のことではなく、今も身近に起こり続けている。布川事件(1967年茨城県で発生した強盗殺人事件)の冤罪被害者にされ、29年間千葉刑務所に囚われていた桜井昌司さん(71歳)へのロング・インタビューを3回に分けて公開する。今回はその1回目。(聞き手・構成=尾崎美代子)

お話は大阪市浪速区の社会福祉法人ピースクラブで昨年11月18日にお聞きした。同日14時より開催の「矢島祥子とともに歩む集い」に出席した桜井さんは自作の歌も披露した

── 今日は布川事件(1967年茨城県で発生した強盗殺人事件)の冤罪被害者にされ、29年間千葉刑務所に囚われていた桜井昌司さん(71歳)にお話を伺います。仮出所後、再審で無罪判決を勝ち取り、現在は国家賠償訴訟を闘われていますが、今日はとくに冤罪をなくすためにとの思いで行っている活動の話を中心にお聞きしたいと思います。まず桜井さん自身について、再審を勝ち取り、現在は国賠訴訟を闘っておられますが?

桜井 布川事件では2011年に裁判で無罪が確定したが、捜査や裁判で嘘をついてきた警察や検察の連中は全く反省していない。その構造的な問題なども改革しない。なのでもうすこし布川事件という冤罪事件が作られた経過を明らかにしてみたいという思いで、2012年国家賠償請求をおこしました。 

── その国賠訴訟では先日、お姉さんと奥さんの恵子さんが証人尋問に立たれたそうですが。どんな証言をされたのでしょうか?

桜井 姉は、私の母が自分が逮捕されたあと、自分の家の最寄り駅を使えなかったと証言しました。母親は行商をしていたものでね。姉は母親と一緒に住んでいたのではないが、母が大変だったということは良く知っていたようです。恵子さんは冤罪を背負った夫の私の状態などの話をしていました。私自身はいつも明るく楽しげで、何も問題ないようにしているが、じつは常にトラウマみたいなものを抱えていたんじゃないかと話してました。今は自分でも自覚はありますが、そういう部分を彼女は話してました。

── 以前、桜井さんからお聞きした、夜中に突然ベランダに出て飛び降りそうな衝撃にかられるというような内容ですか?

桜井 そうです。身体全体が血圧を計るときみたいに締め付けらるように感じて息が出来なくなり、身体が爆発する感覚で大変でした。それで窓から飛び降りてしまうかも知れないと思ったことがありました。

── 再審は一緒に逮捕された杉山さん(2015年10月27日死去)と闘いましたが、国賠は桜井さんお一人で闘った訳ですが、再審とはどう違いますか?

桜井 国賠の大変さはちょっとまた異質だね。そんなに命がかかっているわけではない。勝っても負けてもね。そういう意味では多少気が楽。ただ嘘をつき続ける連中(警察、検察)を相手にするので、それに対しては困難さというか、虚しさを感じるね。本当に警察、検察は酷いよ。彼らは自分たちの立場をいい繕うためだけに法廷にでてくるからね。

── 桜井さんと杉山さんが再審無罪を勝ち取ったあとも警察や検察は「犯人は桜井と杉山に間違いない」と言っていたという話を聞きましたが?

桜井 それは警察も検察も、法務省もそうでしたよ。

── 国賠でもずっとそういう態度ですか?

桜井 もちろんそうだよ。二人がやったことは間違っていないと言い続けていますよ。

── その国賠の判決が年度内に出るということですが、桜井さんはどう予測していますか?

桜井 それは勝ちますよ。警察官の嘘を許すかどうかという訳だからね。嘘をついている部分は明らかなので。警察は録音テープが1本しかないといっていたが、それは嘘だった。始めは「ない」と言っていたものが出てきた。検察の責任部分では、杉山の録音テープについても文書提出命令が出たからね。検察は無いと主張して出しませんでしたが。つまり我々の主張する、冤罪を作った責任は嘘を語る警察と検察にあるとしたものが認められたわけです。だからそのあたりで請求額の1割くらいは認めるんじゃないかとみています。

── 「嘘ついて犯人にさせて悪かったね」の賠償額が請求額の1割くらいということですか?

桜井 そんな感じではないかな? それでも私はまず勝てばいいと思っている。ただ嘘をつき続ける連中をずっと相手にしていてもどうしようもない。だから自分は勝ったらもうそれ以上やり続ける気はない。

── そういうご自身の活動と並行して、桜井さんは再審を闘う仲間の裁判を支援したり、獄中から冤罪を訴える人たちへも支援しておられますが?現在どれくらいの方々に関わっていますか?

桜井 どんなんかな?そんなに多く関わってないという気が自分ではする。というのも、自分のなかでは「何かしてやっている」という感覚がないからかな。

── 獄中に入っている方にはどんなアドバイスをされるのですか?

桜井 「刑務所に入っているから何もできない訳ではない。刑務所の中にいて自分ができうることに全力をつくしてくことが未来につながるよ」と言っていますね。

── 今年1年を通すと、冤罪事件に関わる問題で様々な展開がありましたよね。今市事件は控訴棄却、袴田事件は「裁判のやり直し」(再審)が取り消しという残念な結果に、あと滋賀県の日野町事件では再審の開始が決定したものの検察が即時抗告した。東住吉事件の青木恵子さんのホンダ訴訟では訴えが棄却されるなど、いろんなことがありましたが。

桜井 まあ、残念なものも多かったが、全体としては良い展開になった気がする。悪い展開といっても、将来的に悪いというわけではないからね。袴田さんの事件も今市事件も、もうむちゃくちゃな論理なので。そもそも証拠を無視した推定有罪で、それを維持している。本来ならば検察が提起した証拠や事実が違ったらもう無罪なんですよ。それを裁判所が訴因変更を促したり、御用学者のデタラメな鑑定を採用したり、無理なことまでして有罪にする。そんな裁判の異常さは、日本だから通用するが、外国だったら通用しないと思う。(つづく)

▼尾崎美代子(おざき・みよこ)https://twitter.com/hanamama58
「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主。

1月7日発売!月刊『紙の爆弾』2019年2月号 [特集]〈ポスト平成〉に何を変えるか

『NO NUKES voice』Vol.18 特集 2019年 日本〈脱原発〉の条件

私は現在、様々な死刑事件を継続的に取材している。そこで、新年早々暗くて申し訳ないが、今年新たに死刑が確定しそうな事件を予想させてもらおう。

結論から言うと、今年は3人の被告人が新たに死刑確定者となりそうだ。

最高裁。1月22日に西口の弁論がある

◆「平成最後の死刑確定者」は西口宗宏か

まず1人目は、堺市資産家連続殺人事件の西口宗宏(57)だ。

西口は2011年11月、歯科医夫人(当時67)を殺害し、現金約31万円やキャッシュカードなどを強奪。死体は山林でドラム缶に入れて焼却した。さらに同12月、知人である象印マホービン元副社長の男性(当時84)の自宅に押し入り、男性を殺害したうえ、現金約80万円やクレジットカードなどを奪った。殺害方法は、いずれも顔にラップを巻き、窒息死させるというもので、残酷極まりなかった。

そんな西口は第一審で死刑判決を受け、すでに控訴も棄却されている。現在は最高裁に上告中だが、最高裁は1月22日、弁護側、検察官の意見を聴く弁論を開くことになっており、これで審理が終結する見通しだ。最高裁は通常、審理終結から1カ月前後で判決を出すので、おそらく西口は2月か3月に上告が棄却され、死刑が確定するだろう。

ちなみに、最高裁は通常、書面のみで審理を行うが、死刑事件については、審理を終結する前に弁護側、検察側双方の意見を聴く弁論を開くのを慣例としている。現在、死刑判決を受けて最高裁に上告中の被告人は西口以外に4人いるが、この4人はまだ誰も弁論の期日が指定されていないので、西口は「平成最後の死刑確定者」となる公算が大きい。


◎[参考動画](大阪)「遺体をドラム缶で燃やした」堺市女性不明 2011/12/17(田中五郎 2012/02/0公開)

◆西口に次ぐ死刑確定者候補は2人

西口に続いて死刑が確定しそうなのは、山口5人殺人放火事件の保見光成(68)だ。

2013年に山口県周南市の山あいの集落で住民5人が木の棒で撲殺された事件で、殺人罪などに問われた保見は、第一審で死刑判決、控訴審で控訴棄却の判決を受け、西口同様、最高裁に上告中だ。まだ最高裁は弁論の期日を指定していないが、保見は控訴審で控訴棄却の判決を宣告されたのが西口より1日早く(西口の控訴棄却は2016年9月14日、保見の控訴棄却は同13日)、西口と比べて審理の進行がそんなに大きく遅れるとは考えにくい。

当欄の2016年9月14日付けの記事で紹介した通り、保見は深刻な妄想性障害を患い、荒唐無稽な冤罪主張を繰り広げているため、そのことが最高裁での審理をややこしくさせているのかもしれない。だが、最高裁の判決が来年以降に持ち越されることは無いだろう。


◎[参考動画]凶器同一か、全員の身元も判明 山口・周南の5人連続殺人放火事件(最新ニュース 2013/08/11公開)

名古屋拘置所。現在、堀が勾留されている

そして今年3人目の死刑確定者となりそうなのは、名古屋闇サイト事件の犯人グループの1人、堀慶末(43)だ。

堀は2007年、闇サイトで知り合った他2人の男と共謀のうえ、会社員の女性を殺害し、金を奪うなどし、第一審で死刑判決を受けた。控訴審で無期懲役に減刑され、命拾いをしたものの、その後、パチンコ店責任者の夫婦を殺害し、現金を奪っていた余罪が発覚した。そして第一審で死刑判決を受け、今度は控訴も棄却され、現在は最高裁に上告中である。

控訴が棄却されたのは2016年11月18日だから、西口や保見より控訴棄却は2カ月遅い。現時点でまだ弁論の期日が指定されていないので、1月22日に弁論が指定されている西口より先に死刑が確定することはないだろうが、保見のことは追い抜いてもおかしくない。


◎[参考動画]闇サイト殺人事件の遺族が講演「何度思い出しても苦しい」(サンテレビ 2018/11/25公開)

つまり、この堀か、保見が新しい元号のもとでの初の死刑確定者となる公算が大きい。

堀の次に死刑が確定しそうなのは、順当なら前橋連続強盗殺人事件の土屋和也(30)だが、控訴棄却されたのは2018年2月14日で、堀や保見より1年以上も遅い。今年中に死刑が確定することはまず無いだろう。

もっとも、死刑事件は通常、被告人が最高裁まで裁判を続けるが、たまに第一審で死刑判決を受け、その時点で裁判を終わらせる被告人もいる。そういう被告人が今年中に現れないとも限らないので、そうなった場合、私の予想は外れることになる。


◎[参考動画]東海テレビ開局60周年記念ドキュメンタリードラマ「Home ~闇サイト事件・娘の贈りもの~」(tokaitvbroadcasting 2018/12/11公開)

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

新年1月7日発売!月刊『紙の爆弾』2019年2月号 [特集]〈ポスト平成〉に何を変えるか

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

当欄で冤罪事件として繰り返し取り上げてきた米子ラブホテル支配人殺害事件。一貫して無実を訴える被告人の石田美実さん(61)は、裁判員裁判だった鳥取地裁の第一審で懲役18年の有罪判決を受けながら、広島高裁松江支部の控訴審で逆転無罪判決を勝ち取った。しかしその後、最高裁で控訴審の無罪判決が破棄され、審理を広島高裁に差し戻されるという憂き目に遭った。

と、ここまでは、すでに新聞などでも大きく報道されていることだが、石田さんは現在、さらに理不尽な目に遭っている。11月27日に広島高裁(多和田隆史裁判長)で差し戻し控訴審の初公判が行われ、即日結審したのだが、その翌日から広島拘置所に勾留されてしまったのだ。

一度は無罪判決を勝ち取った冤罪被害者が、その無罪判決を破棄されたばかりか、有罪判決を受けたわけでもないのに、獄中の身になってしまう……この理不尽な仕打ちを受けた石田さんを広島拘置所に訪ね、現在の心境などを聞いた。

石田さんが勾留されている広島拘置所

◆本人は案外落ち着いた様子

筆者が広島拘置所で石田さんと面会したのは、広島地方は小雨が降っていた12月17日のこと。面会室に現れた石田さんは案外落ち着いていて、「無罪判決が破棄されたので、いつかこういうことになるかもしれないとは思っていたんです」と言った。そして、ここに連れてこられた日のことをこう振り返った。

「初公判の次の日、朝8時頃に広島高検の人たちが私の米子の自宅にやってきたんです。そして、勾引状を見せられ、車で広島高裁まで連れて行かれました。そこで、裁判官たちが協議して、勾留されることになったんです」

石田さんは2014年2月に逮捕され、2017年3月に控訴審で無罪判決を受けて釈放されるまで3年余り身柄を拘束されていた。ようやく勝ち取った自由を奪われ、再び勾留されてしまった現在は精神的にも相当きついはずだ。

しかし、石田さんは淡々とした話しぶりで、自分の置かれた状況を冷静に受け止めているように見えた。

◆現在は手記の公表を検討中

もっとも、静かな口調の中にも怒りは混じる。

「差し戻し控訴審は初公判で即日結審し、あとは判決を待つばかりなので、私が証拠隠滅する恐れはありません。それでも、(検察官や裁判官は)私が逃亡する恐れがあるから勾留するというのですが、私は控訴審で逆転無罪判決を受けて釈放されてから、鳥取県を一歩も出ていません。それに、先日あった差し戻し控訴審の初公判では、私は出廷の義務はないのに、米子から広島までやってきて、出廷したのです。そんな私が逃亡などするはずはありません」

石田さんの差し戻し控訴審が行われている広島高裁

まったくその通りだ。判決公判が来年1月24日なので、石田さんは獄中で年を越すことが確実になったが、あまりに酷い話である。

ただ、石田さん本人は前向きだ。

「これまでマスコミから取材依頼があっても、私は受けないようにしていました。裁判が続く間は、波を立てないようにしようと考えていたためです。しかし、今後は事実に基づいて、検察に言いたいことは言ってやろう、おかしいことはおかしいと言っていこうと思っています」

石田さんは現在、獄中で手記を執筆し、公表することを検討しているという。来年1月24日に無罪判決が勝ち取れたら一番いいが、石田さんの勾留を認めた広島高裁の裁判官たちの態度を見ていると、楽観はできない。この事件の動向については、今後も適時報告したい。

《お断り》
当欄で繰り返し取り上げてきた事件のため、事件の詳細については、今回は説明を省略しました。事件の詳細を新たに知りたい方は、過去の記事をご覧ください。
◎2016年の冤罪判決──再審無罪も出た一方で裁判員裁判で新たに2件の冤罪判決
◎鳥取の「知られざる冤罪」──米子ラブホテル支配人殺害事件、控訴審も結審
◎逆転無罪が相次いで出た広島と米子の冤罪事件「知られざる共通点」
◎2017年冤罪事件回顧 逆転無罪2件、再審開始1件をはじめ空前の当たり年に

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

月刊『紙の爆弾』2019年1月号!玉城デニー沖縄県知事訪米取材ほか

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

今年7月、教祖の麻原彰晃(享年63)をはじめとするオウム死刑囚13人が一斉に死刑執行され、ようやく一区切りついた感のある一連のオウム真理教事件。筆者は、この歴史的な死刑執行に関し、法務省や全国各地の矯正管区に情報公開請求し、1000枚を超す関連文書を入手した。

それを見ると、オウム死刑囚13人の死刑が2度に分けて執行された舞台裏は、ずいぶんドタバタしていたことが窺えた。

法務省などから1000枚を超す文書が開示された

◆「執行相当」と決裁する押印もかすれていて……

このほど法務省や全国各地の矯正管区から、筆者に開示された文書は、「死刑執行上申書」「死刑執行上申書」「死刑執行について」「死刑事件審査結果」「死刑執行指揮書」「死亡帳」「死刑執行速報」「死刑執行報告書」など。いずれも死刑執行の決裁や死刑執行後の報告に関する重要文書だ。

それらの文書によると、7月6日に執行された麻原ら計7人の死刑は、法務省内部で「執行相当」と決裁されたのが7月3日だから、わずか3日で執行の全手続きが終了していたことになる。また、7月26日に執行された他の6人の死刑については、法務省内部で「執行相当」と決裁されたのが7月24日だから、さらに1日短く2日で執行の全手続きが終了していたわけである。

これほどスケジュールがタイトだったためか、やけに目立ったのが、書類作成上のミスだ。

たとえば、麻原に関する「死刑執行について」という文書。この文書は麻原が敢行した犯罪事実などが記載されており、法務省の矯正局と保護局の幹部職員6人が死刑執行にゴーサインを出す決裁の印を押している。しかし、そのうち保護局の畝本直美局長と磯村建恩赦管理官の印はかすれてほとんど見えず、朱肉を十分につけずに慌てて押印していたのではないかと想像させられた。

とくに畝本保護局長については、麻原のみならず、12人の信者たちに関する「死刑執行について」という文書への押印も多くがかすれており、仕事が雑であるような印象を否めなかった。

また、「死刑事件審査結果」という文書では、法務副大臣の葉梨康弘氏の混乱ぶりが目についた。7月3日に決裁した麻原ら7人の同文書については、“押印”で決裁しているのに、7月24日に決裁した残り6人の同文書については、“サイン”で決裁しているのだ。

ちなみに、「死刑事件審査結果」については、法務大臣と副大臣は“押印”ではなく、“サイン”で決裁するのが慣例だ。葉梨氏は慣れない仕事のため、最初は誤って慣例と異なる“押印”で決裁してしまったのだろう。

麻原の「死刑執行について」。保護局の局長と恩赦管理官の印がかすれている

◆名前を間違われていた人も……

さらに各文書を見ていると、いくら死刑囚とはいえ、扱われ方が気の毒に思えた者もいる。「修行の天才」と言われた井上嘉浩(享年48)だ。

というのも、「嘉」という字が手書きになっていた文書があったばかりか、死刑執行後に作成された「死亡帳」という文書では、名前が「井上嘉弘」と誤って記載されていたのだ。「弘」に二重線が引かれ、「浩」と訂正されてはいたが、いかにもぞんざいな扱いがされている印象だ。

井上の「死亡帳」。名前の漢字を間違っている

死刑執行に関する文書は、情報公開請求に対して開示される際に多くの部分が黒塗りされるのが通例だが、それは今回も同様だった。黒塗りされなかった部分でミスが相次いでいるのを見ていると、黒塗りされた部分でも多くのミスがあったのではないかと思わざるを得なかった。

政治家や法務官僚たちにとって、オウム死刑囚の生命は綿毛より軽いものだったのだろう。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

昨年6月に東名高速で起きた、あおり運転事故をおぼえておられるだろうか。サービスエリアの進入路のはみ出し駐車を注意されたトラブルから、高速道路の追い越し車線で停車させて、うしろから来たトラックが衝突。停車させられたクルマの夫婦が死亡した事件である。車内にいた娘たちはケガで済んだものの、幼くして両親をうしなったのだ。そして、あおり運転をしたI被告(26歳)は、自分のせいではないとうそぶいているようだ。

その裁判が、12月3日に初回公判をむかえた。


◎[参考動画]現実に追いつかぬ法律……あおり運転事件で苦悩の捜査(ANNnewsCH 2018/12/03公開)

◆「罪刑法定主義」で無罪を主張

裁判の冒頭、被告側は「罪刑法定主義」が履行されることを訴え、無罪を主張した。注意されたことにハラを立て、被害者一家のクルマを追いまわした挙げ句、高速道路上で停車させて事故を招いた人物が、自分の行為は直接の原因ではないから無罪だというのだ。このニュース報道に接して、憤りに耐えられない方も多いのではないだろうか。今回は道路交通法に新設された「危険運転致死傷罪」の不備もさることながら、殺人罪適用に踏みきらなかった検察の及び腰を問題にしなければならない。

「危険運転致死傷罪」(懲役20年以下の実刑)は博多で起きた、福岡市職員による酔っ払い運転による死傷事故をうけて施行されたものだ。それまでの酔払い運転事故では、刑事罰がほとんど問えない現状から、あわただしく法制化されたものだ。ところがこの「危険運転致死傷罪」は、運転中の行為を取り締まるものであって、本件のように停車したあとの行為では要件が適用されないのである。今回、I被告側が「無罪」を主張しているのも、停車中の行為にまで法の規定がおよばないからにほかならない。

◆逮捕監禁罪で補強するも、拡大解釈が甚だしすぎる

すでに横浜地方裁判所の担当裁判官は、裁判の事前整理(論点を明確にする)において、「危険運転致死傷罪」の適用は無理との判断をしめしている。これは条文上、じゅうぶんに予測されていた判断である。そこで検察は「逮捕監禁罪」を適用することで、逮捕監禁によって生じた致死傷の罰則(懲役20年以下の実刑)を補強的に訴因に入れたのだった。

ところが、これにも無理がある。高速道路上に「逮捕・監禁」と、事件の態様はちがうのだ。被害者はI被告に胸ぐらをつかまれて、クルマから引きずり出された(訴状)のだ。クルマに監禁されたのならともかく、東名高速道路に「監禁した」とはどんな犯行の態様をもって犯罪の構成要件にできるのか。

◆検察の無能が問題だ

この2つの訴因について「答案に2つの解答を書いて、0点になる可能性もある」と云うのは八代英輝(TBSのひるおびコメンテーター)である。むしろ「未必の故意」の殺人罪を適用したほうが、法の適用性にとってはマシだと云う。

わたしも賛成である。誰がどう見ても、あおり運転の挙げ句に進路を妨害し、高速道路の追い越し車線上にクルマを止めさせたI被告に事件の全責任があるのは明白である。直接、事故を起こしたのが後続のトラックであったとしても、むしろトラック運転手は被害者であろう。2つの罪名が認められず、暴行罪だけの判決になった場合、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金である。死刑をはじめとする重刑をよしとする立場ではないが、これではあまりにも均衡を欠いた裁判になってしまう。検察は殺人罪を適用をするべきだった。

事実、I被告は「なめてんのか、殺すぞ」と殺意を口にしている。「高速道路に放り出すぞ」とも脅している。高速道路に放り出すことで、相手が死ぬかもしれないと認識していたのである。無能な検察官はこの意味がよくわからないのであろう。死んでもかまわないと、I被告は被害者をクルマから引きずり出したのである。したがって、殺人罪の要件は成立する。おびただしい冤罪事件、冤罪で獄死まで強要している日本の司法が、事実関係を争わない被告の言い逃れを許そうとしているのだ。

おそらく担当検事はクルマに乗ったことがないか、高速道路で追い越し車線を利用したことがないのであろう。筆者は自動車を手放し、自転車を愛用するようになって10年ほどになるが、高速道路ほど無用なものはないと思っている。それはクルマの利便性を否定したいのではない。利便性や快適性の裏側に、人間が無軌道(道路)上を毎秒27メートル(時速100キロ)で走行するという、とてつもなく無理なシステムがあるからだ。近年は若者がクルマに乗らない(必要としない)ことから、年間の交通事故死傷者も減っている(死者1万人から数千人に)が、膨大な死傷者を生み出す構造は変っていない。だからこそ、自動運転システムの実用が急がれているのだ。

裁判は来週にも判決を迎える。今回は裁判員裁判であり、裁判長の法的な指導に裁判員が異議を唱えられないとしたら、制度そのものの問題点も浮上してくることになるだろう。裁判のゆくえに注目したい。


◎[参考動画]東名の夫婦死亡事故 遺族の思い 6月5日で1年(SBSnews6 2018/06/04公開)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)

著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

板坂剛と日大芸術学部OBの会=編『思い出そう! 一九六八年を!! 山本義隆と秋田明大の今と昔……』

横山茂彦『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

 

カルロス・ゴーン『国境、組織、すべての枠を超える生き方 (私の履歴書) 』2018年日本経済新聞出版社

クエッションマークばかりの見出しとキャッチでまことに恐縮だが、いまや容疑者にも検察側にも大いなる疑惑が色濃くなっている。ゴーン元日産会長のみならず、日産の経営陣に「有価証券報告書不実記載」の容疑、および社内手続きを逸脱したクーデター疑惑が濃厚になってきている。

いうまでもなく、「有価証券報告書」はゴーン元会長が個人的に記載したものではなく、日産自動車として株主および投資家に公開しているものだ。株に縁のない庶民にとってはどうでもいいことだが、株主にとっては貴重な判断材料になる。考えてみればわかるとおり、株主はゴーン会長に出資しているのではなく、日産という上場企業に投資をしているのだ。したがって、ゴーン元会長が受け取っていない給料(総額80億円)を記載していないのも、企業としての責任なのである。

◆司法取り引きのいびつさ

検察特捜はその企業の責任者としてのゴーン氏を逮捕したのだとしたら、ゴーン氏を検察に「売って」司法取り引きした西川社長以下の日産幹部を免責するのだろうか。刑事告発ないし密告することで免責されるのなら、きわめていびつな司法制度である。

簡単に言えばこうである。私は彼といっしょに万引きをしましたが、彼から誘われたのだとありていに犯行を自白しますので許してください。ついては、彼を万引きで逮捕のうえ、いかようにも処分してください。これで一件落着だというのと同じだ。アメリカなど巨大犯罪組織がある場合で、なおかつ内部の捜査が困難なケースでは有効かもしれないが、司法取り引きは今回の日産のようなケースでは、たんなる免責システムになってしまうのだ。

 

公益財団法人日産財団=監修『カルロス・ゴーンの経営論 グローバル・リーダーシップ講座』2017年日本経済新聞出版社

◆国策レベルの逮捕ではないのか?

それにしても、クーデター説が否定できない元会長逮捕劇である。プライベートジェットでの入国を待っての逮捕、そして日産側の記者会見によるマスコミキャンペーン。実際には受け取っていない(退職後に受け取る契約の)80億円の未記載については、司法の判断が大きく分かれそうだ。今回のような「役員退職慰労金」は、将来の期待しすぎないことから、司法関係者のなかからも立件は疑問視されている。

司法の判断がわかれる案件ということになれば、おそらく子会社の経費の私的な流用による特別背任容疑が、このさき日産側の損害賠償請求などを背景に行なわれるものと思われる。さらには脱税の容疑まで引っ張るのではないか。欧米ではともなく、日本では逮捕されたら推定無罪は通用しない。即犯罪者扱いとなり、事実日産と三菱自動車でゴーン氏は代表取締役会長の地位を剥奪された。さらに今後、再逮捕の連続で勾留が延長され、場合によっては「証拠隠滅の怖れあり」というお決まりの理由で、第一回公判がひらかれるまで拘置される可能性も否定できない。

フランスのマスコミが疑義を呈しているとおり、ルノーによる日産・三菱の吸収合併、あるいは一元的な三社合同による日産・三菱の消滅を怖れたのではないか。その「怖れた」主体とは、日産はもちろんだが自動車産業総体をふくむ、政財界の要請ではないかと思われる。いわゆる国策捜査とは、政治権力や財界のみならず司法を巻き込んだ、エスタブリッシュメントのネットワークによって行なわれるものだ。

◆ナショナリズムの追い風が国策捜査を加速させる?

たとえば、かつての『噂の真相』による一連の名誉毀損事件、鹿砦社を襲ったアルゼ+警察・検察官僚の連携した言論弾圧(社長の長期拘留)、あるいは佐藤優が長期拘留された背景には、学生運動出身でマルクス主義思想を持った好ましからぬ官僚を、ロシアルートから排除する政官の思惑があった。北方領土問題で独自の動きをしていた鈴木宗男にたいする逮捕、あるいは小沢一郎への建設業界の収賄疑惑など、国策とは必ずしも政治権力が行なうものではなく、司法権力に代行されるものなのだ。おそらくそのいっぽうで、日仏の友好関係を懸念する動きも早晩出てくるであろう。

今後、ゴーン氏の企業の私物化というイメージにより、わが国を覆っているナショナリズムの追い風が国策捜査を加速させるかもしれないが、それはトランプの保護主義・一国主義と同じように、戦前型のブロック経済の再来を呼びかねない。それは国家間・地域間の対立を呼ぶ、きわめて危険な政策である以上に、不況をまねくやり方だと指摘しておこう。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)

著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

話題の最新刊!板坂剛と日大芸術学部OBの会=編『思い出そう! 一九六八年を!! 山本義隆と秋田明大の今と昔……』(紙の爆弾2018年12月号増刊)

横山茂彦『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

◆懲らしめのための民事訴訟

管制塔被告団グループに1億300万円の賠償請求が来たのは、2005年のことだった。運輸省が提起した民事訴訟は95年に判決が確定し、損害賠償額は4,384万円だった。それに利息が付いて、時効直前の2005年には1億300万に膨らんでいたというわけだ。その年から給与の差し押さえ、財産の差し押さえなどが通告されていた。

管制塔破壊という実害があったとはいえ、スラップ訴訟(公共の利益がないのに、運動を破壊するために行なわれる訴訟)に近い、民事訴訟による判決の履行だった。すでに反対同盟は分裂し、政府の意を受けた「話し合い路線」が軌道に乗っていたから、その意味では空港問題の帰趨とは関係なく、この請求は懲らしめのための「憂さ晴らし」とでも言うべきか――。

 

柘植洋三=元三里塚闘争に連帯する会事務局長による2005年7月18日付アピール文「管制塔賠償強制執行の攻撃を、我等ともに受けて立たん」の文頭(2005年7月22日付『旗旗』に全文あり http://bund.jp/?p=226 )

◆戦友会としての被告団

そこで元被告団が再集合し、1億円カンパ闘争が開始されたのである。元の所属党派を通じたカンパが大口だったが、ネットカンパが広く一般の人々から寄せられたという。われわれの三月要塞戦元被告団も久しぶりに全国結集(弁護士を入れて、たしか20人ほど)で、このカンパ運動を支援することになった。

集れば必ず飲み会というか、集りそのものが飲み会の場で、そこに管制塔元被告が説明に来るという感じだった。何かというと資金源としてあてにされる弁護士さんは「1億円も、ですか……」などと、ぼう然とした雰囲気だったが、すでに数千万円単位でまたたく間にカンパが集っているという報告を聴くと、ホッとした表情になったものだ。

元過激派学生というのは非常識な連中ばかりで、まじめな弁護士さんたちからはあまり信用されていない。それでも、突入ゲートごとの被告団、前年5月の攻防で逮捕されたグループなど、まさに戦友会のごとき集いが復活したのは、このカンパ運動の副産物だったといえよう。この年の11月には、1億300万円が国庫に叩きつけられ(収納され)た。

◆ネット上の議論

それにしても、1億円をカンパで集めるのはいいとして、それを敵である政府に差し出すという運動に、疑問の声もないではなかった。徹底抗戦して、たとい労役を課せられようが何をされようが、政府に「謝罪金」のようなものを出すべきではないと。もっぱら匿名のネットで議論が起きたものだ。匿名の議論だから「政府に恭順の意を表するような、反革命行為は信じがたい」とか「敗北主義だ」などという主張に「おまえ、責任をもって現実の大衆運動をやったことなんてないだろう。口先だけの評論野郎」などと反論があったりしたものだ。

たしかに民事判決の当初は「ないものは払えない」という論理で打っちゃってきたのは本当だ。やがて生活を抱え、家族をつくった元被告たちに、生活破壊の重たい攻撃が掛けられているのだから、カンパ運動はしごく当然だった。それを批判する人たちは、そもそも運動に立場性(責任)がない。安全圏の中に身を置いたとしか思えなかった。お前こそ、いま直ちに空港に突入して管制塔を破壊して来い! である。

◆民事訴訟の怖さ

それにしても、民事訴訟というのは生やさしくない。交通事件で民事訴訟になるのは、示談金をめぐって、すでに任意保険という補償の前提(原資)があるからであって、一般の事件だとなかなか考えにくい。たとえば殺された家族の損害賠償・慰謝料として民事訴訟をしても、相手が塀の中の死刑囚ではどうにもならない。そこで死刑を廃止して、仮釈放のある無期刑ではなく、終身刑を導入してしまう。死ぬまで懲役労働をさせて、その報奨金を被害者遺族への賠償金とする。という議論を、わたしは死刑廃止論の大御所としているところです。

ぎゃくに、犯人を知ってから時効が始まるので、とっくに刑事事件としては時効になっていても、民事訴訟は有効となるのだ。公安事件にかぎらず、被害者のいる事件は墓場まで持っていくというのは、けっして例え話ではないのです。そんな事件、あなたも体験していませんか?

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)

著述業・雑誌編集者。3月横堀要塞戦元被告。主著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)、『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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横山茂彦『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

あの衝撃から3カ月が過ぎてもなお、オウム真理教の教祖・麻原彰晃とその信者の死刑囚たちの同時大量処刑はまだチラホラとマスコミの話題になり続けている。実を言うと、私個人もこの一件については、他の多くの死刑執行のニュースとは違う受け止め方をせざるをえなかった。

処刑された信者の中に1人、面会したことがある人物がいたからだ。このほど両親が再審請求することが報道された井上嘉浩(享年48)である。

私が井上と東京拘置所で面会したのは2009年12月のことだった。地下鉄サリン事件で「現場指揮役」を務めたとされる井上は、少し前に最高裁に上告を棄却されており、この時点で死刑が事実上確定していた。

そんな時期に私が井上の面会に訪ねたのは、井上を支援している知人の男性A氏に「井上と面会するから一緒に行こう」と誘われたためだった。私はそれ以前、オウム真理教にも井上個人にも特別な興味は抱いていなかったが、せっかく誘ってもらったので、物見遊山の気分で面会に同行したのだった。

井上が収容されていた東京拘置所

◆面会室では、ニコニコして愛嬌があった

その日、井上は面会室に上下共にエンジのジョージ姿で現れた。テレビなどで見ていた井上は寡黙で、気難しそうな人物という印象だったが、面会室ではニコニコして、愛嬌があった。当時すでに40歳近かったが、まだ青年の面影を残していた。

この時に印象的だったのは、井上がA氏に発したこんな言葉だった。

「私は今の状況(死刑が事実上確定)について、究極の修行をさせてもらっていると思っているんですよ」

教団内で「修行の天才」と呼ばれていた井上らしい言葉だが、やはり死刑は怖いのだろうな・・・と思ったものだった。

また、井上はこの数日前、ノンフョクション作家の門田隆将氏と面会していたそうなのだが、そのことをA氏に怒られ、反論し切れずに困ったように苦笑いしている様子も印象的だった。A氏としては、「マスコミの人間と会っても良いことは無い」と考え、井上をとがめていたようだが、井上は門田氏と会うことに何らかの目的や狙いがあったのではないかな・・・と私は内心、考えていた。

その5年後の2014年、井上がオウムでの経験や裁判での主張を綴った手記が門田氏の解説付きで「文藝春秋」同年2月号に掲載されているのを見た時には、私は「ああ、やっぱり」と思ったものだった。

文藝春秋2014年2月号に掲載された井上の手記

◆「オウムで損なことばかりやらされていた」

報道によると、井上は確定死刑判決に事実誤認があると主張しており、死刑執行の4カ月前にあたる今年3月に再審請求を行っていたという。しかし実際には、私が面会した時点で再審請求するのを決めていたようで、面会中もA氏に対して「再審請求は焦ってないんですよ」と言っていた。焦っていないにしても、今年3月まで8年以上も再審請求していなかったのは不思議である。

いずにせよ、両親が再審請求することからは、井上が生前、両親に対しても事実誤認を強く訴えていたことが窺える。

井上は、私の職業がライターだと知っていたようで、「せっかくですから、あなたも私に質問したいことがあれば、してください」と言ってくれたが、私は正直、とくに聞きたいことは無かった。そう告げると、「では、あなたのためになる話を何かしたいと思います」と言って、「周囲の人の言うことをよく聞いてくださいね」というような話をしてくれた。正直、あまり頭に入ってこなかったが、井上の生真面目さが窺えた。

A氏によると、「井上はオウムで損なことばかりやらされていたんですよ」とのことだった。今思うと、それゆえに井上は地下鉄サリン事件で重要な役割を任せられ、その結果として死刑囚になってしまったのかもしれない。

処刑台に上がり、首に縄をかけられている時にも井上は、「これは究極の修行だ」と思っていたのだろうか。一度会ったことがある人物なだけに、処刑される直前の井上の心中を想像すると、私は胸が苦しくなるのである。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

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