黒川弘務元検事長が新聞記者たちとの賭けマージャンを週刊文春に報じられた騒動をめぐっては、検察とマスコミはそこまでズブズブだったのか……と驚く声、呆れる声があちこちで沸き上がっている。それでも、ひと昔前に比べたら、検察とマスコミのズブズブ感は薄まっているのかもしれない。2016年に発行された書籍『田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と特捜検察「栄光」の裏側』(朝日新聞出版)を読めば、おそらく誰もがそう思うだろう。

同書は、朝日新聞のウェブサイト「法と経済のジャーナル」で22回に渡って連載された「特ダネ記者がいま語る特捜検察『栄光』の裏側」を書籍化したもの。朝日新聞、NHKの両社で検察取材を担当した記者1人と元記者2人が、2013年に亡くなった吉永祐介元検事総長のエピソードを中心に検察の捜査や、検察報道の今と昔について、裏の裏まで語り合っているのだが、その中では、検察とマスコミの超ズブズブぶりも具体的エピソードと共に明かされた凄い一冊だ。

◆元検事総長から捜査資料を提供されたことをNHK記者が告白

『田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と 特捜検察「栄光」の裏側』(朝日新聞出版)

吉永氏は東京地検特捜部の副部長時代にロッキード事件の捜査を指揮したのをはじめ、数々の特捜事件を手がけ、「検察のレジェンド」と呼ばれる存在。本書でこの吉永氏のことなどを語り合っているのはNHK元記者の小俣一平氏(1952年生まれ)、朝日新聞元記者の松本正氏(1945年生まれ)、同・現役記者の村山治氏(1950年生まれ)の3人だ。いずれも検察取材が長く、小俣氏と松本氏の2人は吉永氏に深く食い込んだ記者だったという。

そんな同書では、村山氏が担当した前書きに、小俣氏のことを次のように紹介する文章が出てきて、いきなり驚かされる。

〈小俣さんは、歴代のマスコミ各社の記者の中で最も吉永さんに食い込んだ記者だった(中略)吉永さんの家族同然で、吉永さんが亡くなるまで濃密に付き合った。2006年には、吉永さんの捜査資料をもとに、坂上遼の筆名で『ロッキード秘録 吉永祐介と四十七人の特捜検事たち』(講談社)を執筆した〉(P19)

小俣氏が元検事総長の吉永氏と「家族同然」の付き合いをしていたというのも凄いが、何より特筆すべきは、小俣氏が吉永氏の捜査資料をもとに本を書いたことがあけすけに語られていることだ。普通に考えると、小俣氏に捜査資料を見せた吉永氏の行為は国家公務員法上の守秘義務違反にあたるからだ。

黒川氏と新聞記者たちの賭けマージャンが発覚した際には、黒川氏が捜査情報を記者らに提供するなどの守秘義務違反を犯しているのではないかと疑う声が飛び交った。黒川氏と記者たちの間でそのようなことが本当にあったのだとしても、吉永氏と小俣氏のズブズブぶりに比べたら、まったくかわいらしいものである。

ロッキード事件では、マスコミが検察と手を組み、田中氏を追及していた(朝日新聞東京本社版1983年1月27日朝刊1面)

◆朝日新聞社会部長はロッキード事件で検察の捜査を支持することを事前に確約

ロッキード事件に関しては、さらに凄い話が出てくる。村山氏によると、検察が捜査開始宣言をする2日前、朝日新聞の佐伯晋社会部長が密かに東京・霞が関の検察庁ビル8階の検事総長室に布施健(たけし)検事総長を訪ねていたというのだが、同席した東京高検検事長の神谷尚男氏から次のように持ちかけられたという。

「法律技術的に相当思い切ったことをやらなければならないかもしれない。それでも支持してくれますか」(P69)

これに、佐伯氏は「もちろん」と答えたというのだが、「法律技術的に相当思い切ったこと」とは、5月27日付けの当欄で紹介した「嘱託尋問」のことだろう。

検察が日本で起訴しないことを約束し、最高裁も刑事免責を保証したうえで、アメリカで行われたロッキード社のコーチャン氏らに対する嘱託尋問では、コーチャン氏らが田中氏への贈賄を証言し、検察が田中氏を刑事訴追するための有力証拠となった。しかし、当時の日本では刑事免責は制度化されておらず、コーチャン氏らの証言は最高裁に証拠能力を否定されたというのはすでに述べた通りだ。

当時、この証言の違法性がほとんど注目されなかったのは、マスコミが水面下で検察と手を組んでいたからだったのだ。

◆「田中角栄を逮捕した男」は自宅で毎日のように大勢の記者と飲み会

同書では、松本氏もひと昔前の検察とマスコミのズブズブぶりをこう証言している。

〈吉永さんや当時の特捜部の幹部は、「マスコミこそが、特捜の応援団なんだ。その支えを失ったら、検察は終わりだ」とよく話していました〉(P98)

実際、ロッキード事件の捜査、公判に関する当時の新聞記事を見ると、マスコミが検察の応援団と化し、田中氏を一緒に追い込んでいるような雰囲気だ。マスコミにとっても、検察と手を組み、政治権力者の疑惑を追及するのは「正義の実現」という認識だったのだろう。

そして極めつけが、吉永氏と記者たちの関係を振り返った次のくだりだ。

〈吉永さんは、田中元首相の一審公判の判決前後に東京地検次席検事を務めた。東京地検次席検事は、検察のスポークスマンで、毎日定例会見を開き、記者の夜討ち朝駆けも受ける。夜はたいてい、自宅に記者が大勢来て、酒を飲む。そういう中で毎日のようにトイレが汚れた。誰かが酔っぱらって粗相をするのだ。それを見つけるといつも吉永さんは長男を捕まえ「お前また汚しただろ」と叱りつけた。後に、長男は小俣さんに「あれは親父が犯人だったんですよ。検事のくせに他人のせいにするんですよ」と話した。鬼検事の吉永さんも家庭では普通のダメ親父だった〉(P98)

東京地検次席検事の自宅で、毎夜、記者が大勢集まり、酒を飲んでいた……。黒川氏の賭けマージャンの会場が産経新聞の記者の自宅だったとか、黒川氏が記者に提供されたハイヤーに便乗して帰宅していたとか、これに比べれば実に些細なことだと思えてくる。

賭けマージャンが発覚した黒川氏が訓告、朝日新聞の元記者が停職1カ月といずれも甘い処分で済み、刑事責任も追及されないことについては、批判する声が少なくない。しかし、これまで検察とマスコミがズブズブに付き合っていた歴史を振り返ると、検察も新聞社も賭けマージャンくらいで厳しい処分を下すことはできないというのが実情なのだろう。

この本の著者たちの言葉の1つ1つは、賛同できるか否かはともかく、検察とマスコミの裏面を世に伝える貴重な資料であることは間違いない。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第9話・西口宗宏編(画・塚原洋一/笠倉出版社)が配信中。

月刊『紙の爆弾』2020年7月号【特集第3弾】「新型コロナ危機」と安倍失政

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

検察庁法の改正案が国民的な批判にさらされ、今国会での成立を見送られるに至った一連の騒動は、ますます事態が混とんとしてきた。法が改正されたら、検事総長の座に長く君臨する可能性を疑われた「政権の守護神」こと黒川弘務東京高検検事長が「文春砲」により失脚したためだ。

しかし、この間に検察OBたちが法案への反対を表明し、ヒーロー扱いされたことの問題性は、社会の多くの人に見過ごされたままだ。そこで引き続き、当欄でこの問題に言及しておきたい。

今回言及するのは、法案に反対した検察OBたちが法務省に提出した意見書で、ロッキード事件の捜査や公判を自画自賛したことに関してだ。問題の意見書は、朝日新聞デジタルに全文が掲載されているので、必要に応じて参照して頂きたい。


◎[参考動画]“検察庁法改正案”攻防が激化……検察OBが反対表明(ANNnewsCH 2020/05/15)

◆検察の証拠は「刑訴法一条の精神に反する」

検察OBたちが意見書でロッキード事件の捜査や公判を自画自賛したことに関して、筆者はすでに当欄で以下2点の問題を指摘している。

【1】ロッキード事件で逮捕、起訴された元首相の田中角栄氏は裁判で一、二審こそ有罪とされたが、最高裁に上告中に死去したために有罪が確定しておらず、田中氏を有罪扱いした意見書の内容は「無罪推定の原則」に反すること(5月18日付け記事)

【2】意見書を法務省に持参した元検事総長の松尾邦弘氏は、退官後、三井物産に社外監査役として天下っているにも関わらず、三井物産の同業他社である丸紅の元社長らが逮捕、起訴されたロッキード事件の検察捜査を絶賛しており、公正さを疑われても仕方がないこと(5月22日付け記事)

これだけ見ても、検察OBたちの意見書が稚拙なものだったことはおわかり頂けると思われる。これに加え、今回新たに言及するのは、ロッキード事件の捜査、公判を通じて大きな問題になった「嘱託尋問」に関してだ。

この事件では、ロッキード社で副社長などを務めたコーチャンらがアメリカで行われた「嘱託尋問」で、田中氏らへの贈賄を証言し、この証言は日本の検察が田中氏らの有罪を立証するための有力な証拠となった。しかし、この嘱託尋問は、日本の検察がコーチャンらを起訴しないことを確約し、最高裁も刑事免責を保証したうえで行われたものだった。当時は日本に刑事免責の制度は無かったから、本来、そんな証言を日本の裁判で証拠にすることは許されない。

実際、田中氏らと共に立件された秘書官の榎本敏夫氏の裁判では、最高裁が榎本氏の有罪を維持した一方で、判決(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/355/050355_hanrei.pdf)でコーチャンらの証言の証拠能力を否定している。その中でも特筆すべきは、大野正男判事が補足意見でこの証言を事実認定の証拠とすることを次のように厳しく指弾したことだ。

〈公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ事案の真相を明らかにすべきことを定めている刑訴法一条の精神に反するものといわなければならない〉

これは、コーチャンらの証言を法廷に示した検察の有罪立証に向けられた批判だとも受け取れる。このような批判を受けたロッキード事件の担当検事たちが退官後、再び公の舞台に出てきて、この事件の捜査や公判を自画自賛するのは、本来、大変恥ずかしいことなのだ。


◎[参考動画][1976年2月] 中日ニュース No.1153_1「ロッキード献金事件 ついに証人喚問へ」

◆「人民裁判」を肯定したに等しい検察OBたち

検察OBたちの意見書を改めて読み直すと、酷さが際立っているところは他にもある。以下の部分だ。

〈かつてロッキード世代と呼ばれる世代があったように思われる。ロッキード事件の捜査、公判に関与した検察官や検察事務官ばかりでなく、捜査、公判の推移に一喜一憂しつつ見守っていた多くの関係者、広くは国民大多数であった〉

〈新聞もテレビもロッキード関連の報道一色に塗りつぶされて日本列島は興奮の渦に巻き込まれた〉

ロッキード事件における検察の捜査や公判活動が国民から熱烈な支持を受けていたことを得意げに書いているが、これでは「人民裁判」を肯定したに等しい。この意見書に名を連ねた検察OBたちはおよそ法律家とは思い難い。

むしろ、このように当時、日本全国が報道の影響でのぼせ上がっていたからこそ、明らかにアンフェアな手続きで得られたコーチャンらの証言により田中氏らが刑事訴追されたことについて、当時の国民は問題性に気づかなかったのだろう。

冤罪問題に対する世間一般の関心が薄かった昭和の時代ならともかく、この令和の時代に、ロッキード事件を手柄話のように公然と語る検察OBたちがヒーロー扱いされる現状は、やはり相当危うい。この問題については、今後もさらに言及していきたい。

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▼片岡 健(かたおか けん)
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「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

コロナ騒動により外出自粛を強いられる日々だが、これは自分と向き合い、自分の能力を伸ばすチャンスかもしれない。そのことを教えてくれるのが、全国各地の刑事施設で長期の獄中生活を強いられている受刑者や死刑囚たちだ。

受刑者や死刑囚が獄中でとてつもなく上手な絵を描けるようになったり、精巧な工芸作品を作れるようになったりした例は枚挙にいとまがないが、筆者がこれまで取材した重大事件の犯人たちの中にもそういう例は数多い。その中でもとくに印象深かった西口宗宏という死刑囚のことを紹介したい。

◆絵を描くことを生きる支えに

西口は2011年の11、12月に、大阪府堺市で歯科医夫人・田村武子さん(当時66)と象印マホービン元副社長の尾崎宗秀さん(当時84)を相次いで殺害し、現金や商品券などを奪う事件を起こした。殺害方法はいずれも両手足を拘束したうえ、顔にラップを巻きつけて窒息死させるという惨たらしいもので、昨年2月、最高裁に上告を棄却され、死刑が確定している。

筆者はこの西口が死刑確定まで4年半ほど面会や手紙のやりとりをした。残酷きわまりない殺人事件を起こした西口だが、会ってみると、小柄の弱々しい感じの男で、何も知らなければ、とても殺人犯に見えない人物だった。

「死は怖くないですが、死刑は怖いですね。自死しようと考えたこともありますし、いつも頭に死があります」

面会の際、そう語っていた西口は常に死刑の恐怖に苦しんでいる様子だった。精神的に不安定だからか、あまり食事を食べられず、がんばって食べても吐いてしまうため、顔色がいつも悪かった。

そんな西口が生きる支えにしていたのが、絵を描くことだったのだ。

西口の描いた絵。罪の意識を表現したものと思われる

◆獄中で絵を描き続け、賞をもらうまでに

西口の写経には、いつも絵が添えられていた

西口は獄中で毎日、被害者のために写経と読経をしていたが、写経のやり方は独特で、写経した紙に一緒にイラストを描いていた。元々、漫画好きだったそうなのだが、写経と一緒に描くイラストも漫画のようなタッチで、自分自身が死刑を恐れて苦しむ様子や、別れた妻子を思い出して後悔する様子が表現されていた。

そのうち、西口は経典とは関係なく、絵そのものを描くことに没頭するようになった。描く絵は抽象的な作風のものばかりだったが、写経に添える絵と同様に死刑を恐れたり、罪悪感に苦しんでいたりする自分自身を表現したような作品が多かった。そして絵を描き続けるうち、どんどん腕を上げ、死刑廃止団体が毎年開催している「死刑囚表現展」で賞をもらうまでになった。

「ここでは、絵の具は使えないので、色鉛筆を水で溶かし、絵の具のようにして使っているんです」

面会中、絵の話をする時の西口は楽しそうだった。筆者にくれる手紙やハガキにも毎回、絵が描き添えられていたが、それらはユーモアや温かみの感じられる絵が多かった。西口にとって、絵を描くことは心の支えだったのだろうが、絶対に逃げ出せない獄中で死刑の恐怖や罪の意識に苦しむ日々の中、自分と向き合い続けたことが西口の能力を開花させたことは間違いない。

許されざる罪を犯した西口だが、コロナ騒動により外出自粛を強いられる日々の中、時には自分と向き合ってみることの有効性を教えてくれる実例だとは思う。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(同)も発売中。

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「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

滋賀県の湖東記念病院で看護助手をしていた西山美香さん(40)が2003年5月、男性入院患者の人工呼吸器のチューブを外し、殺害したとの濡れ衣を着せられて服役した事件では、3月31日、大津地裁の再審で西山さんが無罪判決を受け、ついに雪冤を果たした。再審請求後、弁護側の調べにより男性が本当は病死だったと明らかになったことが最大の要因だ。

2012年から当欄で繰り返し伝えてきた通り、この事件では、滋賀県警の山本誠刑事が西山さんの取り調べを担当し、西山さんが自分に好意を寄せたことにつけ込み、虚偽の自白をさせたうえ、自白を維持させるために様々な不当捜査を行っていた。

その中でも悪質さが際立っていたのが、裁判の第一審初公判が開かれる3日前、滋賀刑務所に勾留された西山さんを訪ね、「検事さんへ」で始まる以下のような上申書を書かせていたことだ。

〈もしも罪状認否で否認しても、それは本当の気持ちではありません。こういうことのないよう強い気持ちを持ちますので、よろしくお願いします〉

読んでおわかりの通り、山本刑事は、西山さんが裁判で自白を撤回し、否認に転じることを阻止するため、このような上申書を書かせていたわけだ。

西山さんはこんなものを書かされたため、第一審の初公判で罪状認否ができないほど精神状態が不安定になった。冤罪事件では、個々の刑事や検事が不当な捜査を行うことはよくあるが、ここまであからさまな不当捜査を行う刑事も珍しい。現在、ネット上ではこの事実が広まり、山本刑事の実名を挙げて批判する声も増えている。

ただ、実を言うと山本刑事は15年前、西山さんの裁判で証人出廷しており、この不当捜査に滋賀県警の上司と大津地検の検事が関与していたことを明かしている。つまり、山本刑事の証言が事実ならば、この冤罪は警察と検察が「組織ぐるみ」で作り出したものだということだ。

山本刑事は法廷で具体的にどんな証言をしたのか。以下、証人尋問調書に収録された山本刑事の証言を紹介する。

山本刑事の不当捜査の現場となった滋賀刑務所

◆西山さんを追い込んだ面会は「上司、検事さんと相談」のうえで実行

山本刑事が西山さんの裁判で証人出廷したのは、2005年5月31日にあった第一審第8回公判でのことだ。この裁判では、西山さんが無実を主張したため、捜査段階の自白の任意性、信用性が争点になった。そのため、西山さんを最初に自白させた取調官である山本刑事が証人出廷することになったのだ。

この日、山本刑事は、大津地検の山本真千子検事の主尋問に対し、西山さんに対する取調べなどに何ら問題はなかったとする証言に終始した。ここで紹介するのは、その後に主任弁護人の中原淳一弁護士が山本刑事に対して行った反対尋問の一部である。

まず、中原弁護士は、山本刑事に対し、初公判直前に西山さんのもとを訪ねたことが裁判で問題になっていることを知っているか否かを質している。

・・・・・・・・・・以下、引用・・・・・・・・・・

── あなたは、第1回の公判は傍聴に来ていましたか。

山本「来てました」

── そこで弁護人が、あなたが直前に被告人のところに行ったということを問題にしたということも、じゃ、知ってますね。

山本「えっ、どういうことですか」

── 第1回公判の直前に、あなたが被告人のところに行ったんで、話が今までの打合せとは変わってしまったんで認否ができないという話をしたと。

山本「ああ、新聞とかで知りました」

── 傍聴に来てたから、ここでも聞いて分かってたでしょう。

山本「はい」

── そういうことで新聞にも載ったということも知ってますね。

山本「はい」

・・・・・・・・・・以上、引用・・・・・・・・・・

西山さんが初公判直前、面会に来た山本刑事に上記のような上申書を書かされるなどしたため、初公判で罪状認否ができなくなったことについては、実は当時も新聞で報道されていた。山本刑事は、初公判(=第1回の公判)を傍聴していながら、そのことは「新聞とかで知りました」としらばっくれたわけだが、中原弁護士の追及により、傍聴時に知ったことを認めざるをえなかったわけである。

そして中原弁護士の追及は以下のように続く。

・・・・・・・・・・以下、引用・・・・・・・・・・

── その件で、県警のほうから、どうして行ったのかというような事情は聞かれましたか。

山本「えっ、どうして行ったとはどういうことですか」

── どうして公判の直前に被告人に会いに行ったのかという理由を県警から聞かれましたか。

山本「聞かれておりません」

── もう分かってるからですかね、警察本部のほうは。

山本「……上司と相談して、検事さんとも相談しでしたことなので、上司もよく分かってることやと思います」

── 検事も、公判のちょっと前にあなたが被告人のとこに行くことは了承してたんですか。

山本「当然拘置所に行くのに許可を得なければいけませんので、許可は得ております」

・・・・・・・・・・以上、引用・・・・・・・・・・

一読しておわかりの通り、山本刑事は初公判直前、西山さんのもとに面会に行ったことについて、上司と検事に相談し、検事の許可を得ていたことは明かしている。西山さんに罪状認否で否認させないようにするための初公判直前の不当捜査は、警察、検察が組織ぐるみで行ったことを自白したも同然だ。

◆問題の上申書を書かせた紙はあらかじめ持参

さらに尋問の続きを見てみよう。中原弁護士の追及に対し、山本刑事は当初、のらりくらいと初公判直前に西山さんの面会に訪ねたことの正当性を主張している。

・・・・・・・・・・以下、引用・・・・・・・・・・

── 特に取調べの必要というわけではないというふうにあなた言いましたけども、新聞の記事では県警のコメントとして、捜査の必要性があったから行ったということになってるんですが、そういうふうに書いてあるのはあなたも知ってますか。

山本「はい」

── でも、今言った内容ですと、取調べでもないということだと、特に捜査の必要性があったとは思えないんですが。

山本「いや、ただ先ほども申し上げましたように、自傷行為とかそういうことがありましたんで、本人のことが心配という部分が大きかったですけども、本当のことを正直に、弁護士さんにも正直に話してないということでしたんで、本当のことを正直に話しなさいという意味も多少はありました」

── だから、補充の捜査とかそういうわけではないんでしょう。

山本「そういうわけではないです」

── 調書も取ってないですね。

山本「取ってないです」

── 別に調書を取る予定もなかったですか。

山本「ないです」

・・・・・・・・・・以上、引用・・・・・・・・・・

つまり、山本刑事は、「西山さんが自傷行為をしないように初公判直前、面会に訪ねる必要があった」というようなことを述べているようだが、話がまどろっこしく意味がわかりにくい。

そこで、中原弁護士は次のように、単刀直入に問題の上申書のことに切り込んでいる。

・・・・・・・・・・以下、引用・・・・・・・・・・

── 上申書というのは書かせましたね。

山本「はい」

── これも必要だったんですか。

山本「いや、特に必要はなかったんですけども、このときも本人が思い悩んで、まだ弁護士さんに正直に話せてないということとか、同じようなことを言ってましたんで、調べ官として、こういうかたちを取ることしかできませんでした」

── そういう上申書を書かせたらどうなると思ったんですか。

山本「本人の気持ちを多少なりとも酌んであげられると思いました」

── その用紙というのは、あなたが持って行ったんですか。

山本「用紙は鞄の中に入れておいたものです」

── あらかじめ持って行ったんですね。

山本「はい」

・・・・・・・・・・以上、引用・・・・・・・・・・

これも読んでおわかりの通り、山本刑事は西山さんの面会に訪ねた際、あのような上申書を書かせるための紙を持参したことを認めているわけだ。この事実を見れば、面会に訪ねた目的が、西山さんが自傷行為をするのを心配したからではなかったのは明白だ。初公判の罪状認否で西山さんが否認しないように精神的に追い込むため、わざわざ面会に訪ねたのだ。

西山さんが再審で無罪判決を受けても、滋賀県警、大津地検がまったく謝罪しないことは、すでに各マスコミで批判的に報じられている。加えて、この冤罪は滋賀県警、大津地検も組織ぐるみで作ったものであることも少しでも多くの人に知ってもらいたい。

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「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

3月15日、社会福祉法人ピースクラブ(大阪市内)で「桜井昌司Specialday」を開催した。布川事件の冤罪被害者である桜井さんが29年の刑を終えて千葉刑務所から出所し、普通の生活を取り戻しながら再審を闘う姿を追い続けたドキュメンタリー映画「ショージとタカオ」(井手洋子監督)の上映会と、桜井さんのトークライブの2部構成。昨年秋にがんを宣告され、現在食事療法を続ける桜井さん。かなり痩せられたが、トークも歌もこれまで以上の迫力。冤罪を無くすため、全国を駆け回る桜井さんにエールを送るつもりで企画したが、逆に「もっと頑張れよ」と背中を押された1日。迫力満点のトークの書き起こしを前編・後編2回に分けて紹介します。(構成=尾崎美代子)
※字数の関係で一部削除したほか、分かりやすく加筆、訂正しています。


◎[参考動画]ショージとタカオ予告編NEWバージョン2

2019年5月27日、東京地裁で「布川国賠」で勝訴判決が下された。入廷する桜井さん

◆神様が俺に新しい苦しみを与えた

去年9月にガンとわかり、10月に医者に言われました。いきなり緩和ケアだと。何で痛くも辛くもないのに、そう言うのか!と。その後、直腸癌のステージ4で肝臓に転移していると言われました。肩から薬剤を2週間に一度入れると言われた。わたしは嫌だから「先生、何もしなかったらどれくらい生きれるの?」と聞いたら「1年だ」と。「薬入れたら何年?」と聞いたら「2年」と言われた。

なんだ変わらないじゃないかと思ってね、「じゃやりません」と言いました。すると先生が「凄いですね」という。「何が?」と聞くと、「桜井さんのように余命1年と言われ、生き生きと活動している人はいませんよ」と。私は「だってダメでもあと1年生きるんでしょ? その間に何があるかわからないじゃないですか」と言いました。

今、swingマサさんの紹介で食事療法をしています。魚、肉、小麦粉、乳製品、卵、化学調味料を一切食べない。これで治った人がいる。私も必ず治ります。いや、治してみせようと思ってね(拍手)。もし治ったら、医者なんかいらないじゃないいですか?(笑)

私は刑務所に29年間入った後、針の穴にラクダを通すくらい難しいという再審で無罪を勝った。美香さんに「桜井さんは私のヒーローです」なんて言って貰え、たくさんの人たちに希望を与えることができた。こんなつまんない男が……。で、今度は国賠裁判にも勝った。間違ったことはダメだと通った。今度がんに勝ったら俺どうなるんですか?(笑)。自分はがんになって辛いと思ってないです。新しいチャレンジを神様が俺に与えてくれた、新しい苦しみを用意してくれたと思って、今ワクワクしながら、毎日過ごしています。(「酒と泪と男と女」を熱唱)

西成の難波屋で毎月14日(矢島祥子さんの月命日)に行われる「夜明けのさっちゃんズ」ライブで歌う桜井さん

この後は、大阪でいつもピアノ伴奏してもらっているキョウちゃんの伴奏で刑務所で作った歌を何曲か歌います。刑務所で「孤独を知る時」という詞を作りました。「人は苦しみによって孤独を知るのであろうか。悲しみの深さが孤独を教えるのだろうか。僕は喜びの時、幸せな想いの時、一人きりの喜びと幸せの、その虚しさに孤独を知った」という詩です。   

千葉刑務所に入っている人は、罪を犯した人も無実でもみんな寂しいし、辛いは同じ。でも私は皆さんに支援してもらって「今日、佐藤さんのコンサートがあって、俺の歌が好評だったって」とか言っても、誰もわからない。「桜井さん頑張って」と言ってくれる人がいて、でもその喜びは誰にもわからない。幸せの時「よかったね」と分かり合える人がいることが、人間の本当の喜び。悲しみや辛さが孤独ではないと私は思いましたね。刑務所の中で、詩人だったでしょ、私(笑)。そんな中で「闇の中で」という歌を作りました。聞いてください。(「闇の中へ」を熱唱)

「親孝行したい時に親はなし」と良く言います。私は親父が1991年、お袋が1976年に亡くなりました。刑務所にいたので葬式に出れなかった。そのせいか、今でも2人が生きてる気がちょっとしている。人間って100%はないとそれで教わった。あの時、葬式に行って「亡くなったんだ」とケジメつけたかったができなかった。だから、今でも生きているんだという気持ちが少しあって、それはそれでいいと思ってます。人間どんなことでも100%はない。でもやっぱりもう一度親父とお袋に会いたかった。言いたいことは1つ。「産んでくれてありがとう。本当に幸せな人生だった」と伝えたかった……(涙)。あとは何もない。皆さん、もし親が生きていたら大事にしてくださいね。なんでもいい親孝行は、会いに行くだけでもいいから。(「鼻」を熱唱)

上映会&ライブのあとの親睦会で支援者と談笑する桜井さん

◆人の命ほど大事なものはない

自分は73歳になるとは思わなかった。人生はあっという間ですね。さっきの映画に出ていた杉山と弁護団長さんが亡くなったし、「この人も、この人も」と亡くなった人がいました。人間って本当に生きていればこそ、やり直しができる。人の命ほど大事なものはないと思っています。

善人とか悪人とか関係ない。誰でも一度きりの命だから、どんな悪人でも許して、国家は大事にしないといけない。日本という国がなぜダメかというと、悪い人は殺してもいいという人が沢山いるからです。犯罪者を隔離すればいいという考えは間違っています。覚醒剤で捕まった人を刑務所に入れても何にもならない。あの人達は心を病んでいるんだから。病人を直すところ作るべきなのに、ただ逮捕して刑務所に入れればいいという。昔から、臭いものに蓋すればいいというのが日本なんです。違うじゃないですか。間違った人を大事にする社会だったら……と思います。

残念ながら、才能の違いって世の中ある。頭のいい人も確かにいる。でも安倍さんみたいに頭の悪い人でも首相になれている(大爆笑)。はっきり言って彼は簡単な漢字も読めないでしょ。正直言ってバカが総理になったら駄目です。だから、今、こんな政治なんです。

今のコロナ対策は何ですか? マスクなんてあまりに役に立たない。コロナの菌は風邪のウイルス菌の何百分の1なんですよ。だからマスクを突き抜ける。それなのに学校を一斉に休めと。子供はまだ何でもないのに。親はどうするの? 台湾のように、学級で1人でも出たら学級閉鎖して、2人になったら学校閉鎖するとかしないと駄目。それだと安心して学校にいけるのに。ロクでもないですよ、日本は。

私はやっぱり大事にすべき命があると思っています。釜ヶ崎にいる皆さんだって、ずっとまともに働いてきた人達じゃないですか。たまたま運が悪いだけ、たまたま自分にぴったり合う才能に恵まれなかっただけじゃないですか。もしも優しさが才能だったら、釜ヶ崎の皆さんは、全員金大持ちになっているかもしれません。そうでしょ! 口だけペラペラしゃべる小泉進次郎みたいなのが、顔がいいだけでちやほやされる。本当に日本の人たちはアホが多すぎます(大爆笑)。

何でも他人事だし、何でもワーとみんなで一過性でやって、すぐ忘れる。でもそういう中で目覚めないと、この国は良くならない。やっぱり目覚めた人は声出しましょうよ。ノーと言いましょうよ。世の中を変えましょうよ。私はそう言いたい。余命1年ですけど(笑)。何度も言いますけど、私は命尽きるまで、声を上げ続けます。

◆自分の運命は自分が招く

私は余命1年と告げられて思いました。運というのは誰が決めると思いますか? 天命? そんなのありません。人間は自分の運は自分が招くんです。何かあった時に「これは天命だ」なんて思ってはだめ。何をするか、どう行動するか、自分の考え方なんです。今ここを出て右に行くか、左に行くかは、その人の生き方すべてです。それが自分の運を寄せる。ですから何か悪いことがあったら「これは天命だ」とか「自分の力ではどうにもならない」とか思ってはだめ。大切なのは自分の思考や行動を変えること。私は確信を持っています。なんか凄い話になっちゃたね(「会場から「教祖様みたい」と笑)。なんかそんな気がしてますよ。運を運命にするのは自分だと確信持っています。私はがんになって食事療法を選んだ。これで運を自分で運命にするんだと思ってます。さあ余命1年か10年か、面白いなあ(笑)。

楽しいじゃないですか。わたしの人生観は明るく楽しくです。人生は一度限り、今日は1日限りと思ったら、苦しいこと辛いことは誰にでもあるんですよ。でもどんな中でもいいことはあるんです。だったら、その楽しいこと嬉しいことを、自分で100%だと思えばいいんです。皆さんも辛いことの中から、嬉しいことを見つけてください。嬉しいことをどんどん自分に寄せていけば、きっといい人生があなたに来ますから。(完)

◎布川事件冤罪コンビ「ショージとタカオ」のショージさん、大阪トークライブ──シャバに出てきて23年、「桜井昌司」で本当に良かった!
〈前編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=34875
〈後編〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=34881


◎[参考動画]布川事件 桜井昌司氏講演会(なにぬねノンちゃんねる2018/06/02)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

最新刊!月刊『紙の爆弾』2020年5月号 【特集】「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る 新型コロナによる経済被害は安倍首相が原因の人災である(藤井聡・京都大学大学院教授)他

『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 菅直人元首相が語る「東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと」他

3月15日、社会福祉法人ピースクラブ(大阪市内)で「桜井昌司Specialday」を開催した。布川事件の冤罪被害者である桜井さんが29年の刑を終えて千葉刑務所から出所し、普通の生活を取り戻しながら再審を闘う姿を追い続けたドキュメンタリー映画「ショージとタカオ」(井手洋子監督)の上映会と、桜井さんのトークライブの2部構成。昨年秋にがんを宣告され、現在食事療法を続ける桜井さん。かなり痩せられたが、トークも歌もこれまで以上の迫力。冤罪を無くすため、全国を駆け回る桜井さんにエールを送るつもりで企画したが、逆に「もっと頑張れよ」と背中を押された1日。迫力満点のトークの書き起こしを前編・後編2回に分けて紹介します。(構成=尾崎美代子)
※字数の関係で一部削除したほか、分かりやすく加筆、訂正しています。

3月15日大阪市内で開催された「桜井昌司SpecialDay」のポスター

◆どうせ刑務所に行くなら頑張ろうと

皆さん、こんにちは! 映画「ショージとタカオ」、久々に見ました。23年前にシャバに出てきて、ドラマチックな自分の人生を確認したところです。「桜井昌司でよかった。刑務所に行ってよかった」と改めて思っています(笑)。多分ひと様には経験できない人生を確実に歩みましたからね、間違いなく。人生というのは真面目に生きていても、いいことばかりあるわけでもない。でも一生懸命やらなければ何も味わえないと、自分で思いました。29年刑務所に入りましたが31歳で千葉刑務所に行く時、突然パッと「人生は一度限り、今日は一度限りだ」と思ったんです。

刑務所は働くところ、どうせ働くなら一生懸命に働こうと思った。シャバでまともに働いたことなかったから(笑)。毎日真面目に靴を作って、3年目に法務大臣賞を貰いました。音楽クラブに入ってトランペット吹いて、佐藤光政さんに指導して頂き作詞作曲するようになりました。29年の刑務所生活は何も無駄になっていなかったと確信持って言えるようになりました。

刑務所生活は大変ですよ。看守は煩いし、意地の悪い奴もいる。千葉刑務所に入っているのは、人を殺めた人がほとんど。ちょっと肩に触ったりするとニコッとして「肩触んないで。俺、肩触られると殺したくなっちゃうから」なんていう人もいる。怖いですよ。でも自分はそういう人でも仲間だと思って付き合ってました。

そういう日々から考えるとシャバに出てなんでも自由にやれることが素晴らしいと感じた。出てから23年経って私は幸せや楽しさを感じない日はない。毎日が楽しい。刑務所29年入って本当によかったと思っています。

質問あったらどうぞ。なんでも正直に「自白」しますから(笑)


◎[参考動画]ショージとタカオ予告編 NEWバージョン1

質問 自白というのは、「私がやりました」というのですか?

桜井 そうです。出てきたとき「なんでやったと言ったの? やってないと言えば、警察が調べるじゃん」と良く言われた。でもそれは警察を知らない人。警察という職業は、捜査はするが真実を見抜くという職業ではない。あの人たち、一人一人は皆、真面目と思います。中にはどうしようもない警官もいるが。真面目な警官が、なぜ無実の人を犯人にしてしまうかというと、彼らはいつも人を疑うからです。警官が交番などで立ってますよね。何考えてるかというと、「何か悪いことしている奴はいないか」なんです。いつもいつも人を悪く見ている人間に、人の真実を見極める力はない。コイツは絶対やっているとしか思ってない。私が「やってない」というと「お前の言っていることは嘘だ」と必ずいう。そんな警察に朝から夜中まで「お前だ、お前だ」と言われる。

結婚している方、夫婦喧嘩したら、最後どう解決します?その喧嘩が解決せずにずっと続くようなもの。イジメにあっている方、そのいじめが毎日毎日続くと思ったらいいです。それを狭い部屋の中でやられると耐えられなくなってくる。人は信じてくれるから、本当のことが言える。「やってない」と言っても「いや、お前だ」「見た人がいる」とずっと言われる。そのいつ終わるかもしれない痛みに人間は負けてしまう。これは経験のない方にはわからないと思います。

警官たちは一旦疑いを持ったらなんでもやる。日本の警察組織は犯罪組織ですから。これは本当ですよ。一人一人はいい人かもしれないが……。経験しないとわからないこともあるが、本当に警察は悪いと思わないとダメです。

質問 無罪を勝ち取ったあと警察、検察、裁判官は桜井さんに謝りましたか?

桜井 僕たちが再審無罪になった時、検察は「無罪になったが、あれは裁判長が間違った」と記者会見で言いましたよ。映画で杉山(一緒に逮捕された杉山卓男さん。2015年死去)が「国賠は勝てない」と言ってましたね。日本の権力は間違いを認めない。だから杉山は国賠をやらないといったが、私はそう思わなかった。だって酷すぎるでしょ。無実の証拠を隠しておいて謝罪もなく「あいつの最初の自白が正しい」なんてダメでしょう。それで私は国賠やって、昨年勝ちました(大拍手)。

3月31日に再審無罪判決を勝ちとった西山美香さんもかけつけてくれた

税金で食ってる警察や検察が証拠を隠したりしたらダメです。でも私は警察、検察、裁判所も恨んでない。ただ、証拠を隠していたことが認められるようだと、今日会場にきている西山美香さん(湖東記念病院事件の冤罪被害者、3月31日日再審無罪判決を受けた)みたいに、やってないのに犯人にされてしまう人がまたでてくるから。検察が無実の証拠を隠したら、その責任を取らないとダメ。

真面目な警官が冤罪をいいとは思っているとは思わない。なぜ警官が嘘を言うかというと、嘘を言わないと警官でいられなくなるからです。組織として冤罪を作ったら、組織として有罪にしないとおかしいとなるから、嘘の証拠も作るし、裁判にで堂々と嘘が言える。もしそれが許されるとなったら、真面目な警官は嫌でしょう。私は真面目な警官を助けるためにも、嘘をついた警官は責任を問うべきと思います。証拠を隠したり、捏造した警官は責任取るという法律を作ってあげたい。

映画を久々に見て、23年前は私も本当に若かったですね。今、私は73歳になりました。私、年の取り方がわからなくて困っていたんですよ。29年も刑務所に入ってましたから(笑)。どうやってジジイになったらいいんだろうと。実は去年秋に癌が見つかり、食事療法で12キロくらい痩せました。それで今は「ああ、年寄りっぽくなったな」と思っています(笑)。

今日はまず「夜明けのさっちゃんズ」という、毎月西成の難波屋で14日前後にライブをやっていて、私も少し歌わせてもらっている皆さんの演奏で、2曲ほど歌わせてもらいます。

私、子供の頃から美空ひばりさんが好きでした。今日はシャバに出てきて初めて美空ひばりさんの「りんご追分」を歌います。「刑務所バージョン」で歌います。(「りんご追分」熱唱)

「夜明けのさっちゃんズ」の伴奏で歌う桜井さん

ピアノ(きゅうちゃん)とサックス(swing masaさん)の伴奏で歌う桜井さん

◆苦しみ、いつでも来い!

本当にお袋を思い出すとダメですね。親父の時はそうでもなかったが。お袋が死んだ時、悲しくて体の中を風が吹いて行きましたね。帰る故郷を失ってしまった。お袋が死んだ時、春風が吹いていたんです。「なんでお袋が死んだのに、春風が吹くんだって」。それが「記念日」という詩になりました。

刑務所の中で、私、詩人だったんですよ。刑務所の中では、例えば、寒さが見えるんです。寒い時、自分の体温と外から寒さが押し合いするのが見える。辛いですね。暑い時は暑いと眠りながら感じる。でも本当に辛いのは人の心です。看守の意地悪さとか仲間同士の諍い、それが本当に辛くって。でもそんな中で、私は国民救援会から「頑張りなさい」と支援していただいた。その人たちの心の優しさが嬉しい。辛い中で嬉しい。それで詩を作りました。

今はなかなか詩が作れない。奥さんは優しいし美人だし(笑)。いつも仲間たちと支えあって、好きな時に風呂入れて、好きなもの食べれて。そういう中で詩はわかない。だから私はいつもいうのです。「苦しみ、いつでも来い」と。幸せなんか価値がない、いや、幸せも大事だが、それだけでは詩とかは生み出さない。辛いことがあったら、それを乗り越えるから、人間はいろんな思いが出るのです。

もしも今、辛いことがある人は喜んでほしい。何かがあなたの中で生まれるでしょう。苦しいことに出会ったらラッキーと思ったらいいです。乗り越えたら、人生の中に絶対いいことがあると思ってます。でもなかなかそうこないです、苦しみって。わたしは23年間シャバで生きていて、苦しいことがなかなかない。でも毎日幸せだったら、つまんないでしょ? こんな人生。だから今、癌になって嬉しいんです。だってこれを乗り越えたら、なんかいいことあるじゃないですか。(後半に続く)


◎[参考動画]【アンコール上映】ドキュメンタリー映画『ショージとタカオ』予告編

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

最新刊!月刊『紙の爆弾』2020年5月号 【特集】「新型コロナ危機」安倍失政から日本を守る 新型コロナによる経済被害は安倍首相が原因の人災である(藤井聡・京都大学大学院教授)他

『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 菅直人元首相が語る「東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと」他

勝又氏が勾留されている東京拘置所

2005年に栃木県今市市(現在の日光市)で小1女児が殺害された「今市事件」について、筆者は当欄で、被告人の勝又拓哉氏(37)が冤罪であることを繰り返し伝えてきた。

だが、残念なことに、3月4日、勝又氏は最高裁に上告を棄却され、無期懲役の判決が確定することになった。

そんな勝又氏から筆者のもとに、現在の心境などが綴られた手記が届いたので、ここに紹介したい。

手記では、勝又氏は裁判への不満などを率直に語りつつ、再審で無罪を勝ち取るまで無実を訴え続けることを宣言している。台湾出身の勝又被告の言葉はたどたどしいが、無実の人間ならではの自信が行間からにじみ出ている。ぜひご一読頂きたい。

勝又氏から届いた手記

◆上告書をちゃんと読んでいるとは思えない

3月5日の午後3時頃、いきなり看守から書類が届けられ、わけがわからずに受け取ってみたら、最高裁の決定書で「棄却決定」とありました。支援者から差し入れてもらった本を読んでいる最中のことでした。

決定書は1枚だけしかなく、「中身この1枚だけ??」と思いました。自白の任意性はあると認め、法令違反や事実誤認の主張は上告理由に当たらないとあり、理解できませんでした。自白の任意性よりも信用性が問題であり、信用性は控訴審で否定されたはずなのに、この点には触れていないし、事実誤認の主張が上告理由に当たらないというのも理解できませんでした。

もしも控訴審判決を精査しての判断であるなら、犯人は本当は私ではないという重大な事実誤認が読み取れなかったか、無実の証明ができなければ、上告理由に当たらないということだと思います。

決定書は裁判で争点になった「Nシステム」「手紙」「取調べ」の録音録画などについても何ら触れていませんでした。最高裁の決定書から読み取れるのは、裁判官が事件を右から左に流しただけで、上告趣意書をあんまり見ていないということでした。1年半かけて、上告趣意書の中身にまったく触れていない決定書に、先日の森法務大臣の発言にあった「無実なら無実を立証すべき」との言葉が蘇りました。

有罪証拠がこれだけ無いうえに、控訴審で最後の最後に検察が禁じ手の訴因変更、それを当たり前のように認めた控訴審裁判官、そして、それについて、何ら触れない最高裁。99.9%の有罪率は恐ろしいとあらためて思いました。悪くても差し戻しになり、控訴審をもう1回やると思っていました。

決定書を受け取った初日は本当にショックが大き過ぎました。「ありえない」と目の前が真っ暗になりました。2日目は落ち着きを取り戻し、判決文をよく読み返し、いかに理不尽な文章なのか、なんとか理解できるようになりました。弁護団が提出した大量の上告書に対し、決定理由は6行の文章しかないのです。上告書をちゃんと読んでいるとは到底思えません。

◆「やってない」と胸を張って言い続ける

警察や検察の関係者から状況証拠の積み重ねで有罪にしたとのコメントがありましたが、そこまで自信のある証拠を集めていたのなら、控訴審での検察の訴因変更は何だったのでしょうか。ただの訴因変更ではなく、死亡時間や場所、これらがまったくわからない変更です。

殺害方法も控訴審で自白通りでは不可能と証明されていますし、Nシステムにしても検察が証拠開示に応じていないので、どれほどのセダン車やワゴン車が通ったのかわからないし、警察や検察が自信があるなら、捜査資料などあらゆる証拠を開示してもらいたいです。

何年かかろうと、やっていない殺人を認めるわけにはいきません。東住吉冤罪事件の青木恵子さんの記事によると、刑務所では罪を認めない人は何かと不自由だったり、なかなか階級を上げてもらえなかったりするそうです。でも、たとえ階級が上がらなくて、家族と会える時間が増えなくても、私はやってない殺人について「やってない」と胸を張って言い続けます。

国会が冤罪調査会のようなものを作ってくれたらいいのですが、今の国会(というか、国会議員)には期待できそうにありません。だから、今のままの司法で再審を求めて、無罪を勝ち取ります。私は、やってないから強気でいられるのです。弁護団はどうなるのかという点について不安はありますが、堂々と胸を張って、再審請求を粛々としていきます。

私の再審無罪が決定した日、警察や検察が記者会見で何を言うか、今から大変気になります。再審無罪になったら、誰が悪かったのか、責任の所在を明らかにしてもらいたいです。そして取調べでは、せめて弁護士の立ち会いを認めるようにしてもらいたいです。弁護士が全ての取調べに立ち会いできれば、録音録画をしていない時に警察や検察が変なマインドコントロールをする心配がなくなります。

私の場合、最初の数日の取調べで、警察や検察はまず私を屈服させることに全力で取り組みました。そして、その後はやさしく洗脳されました。こういう取調べに弁護士が立ち会いをしていれば、冤罪はかなり減ると思います。また、その前に警察や検察が無罪が出た冤罪事件に対して、素直に「申し訳ありません」の一言を発する時代がくることを願うばかりです。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(同)も発売中。

いまこそタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年4月号

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

◆日本の「人質司法」問題が論じられるきっかけとなったゴーン被告の日本逃亡

堀江貴文(ホリエモン)氏がカルロス・ゴーン被告の日本脱出劇について、元刑事被告人であり、有罪を受け、刑務所にも収監された立場からコメントを連撃している。わたしは、堀江氏には生理的な嫌悪感を覚え、これまで彼の発言や発信を真剣に聞いたことがなかった。「新自由主義」を体現している人間。簡単すぎるが、これがわたしの堀江氏に対する人物評価だった。

Youtubeは視聴者を多数得たYoutuberにとって、よほど収益性が良いようで、お手軽な料理のレシピ紹介から、現役を退いた(とくにプロ野球選手が目立つ)ひとたちの「暴露話」、バックパッカーとして世界を旅しながら自分の旅行を伝える人など、実に幅広い動画がアップロードされている。時間潰しにはありがたいリソースでもある。そこにいまでも商魂逞しい堀江氏も参戦しているのであるから、「宇宙開発」同様に充分に収益性のある「ビジネス」の場所なのでもあろう。

さて、本通信でわたしは私見を述べたが、わたしと同様あるいは反対の見解も含め、カルロス・ゴーン被告の日本からの逃亡劇には各界の専門家も、素早く反応している。その結果、日本の「人質司法」が一般の日本人に突きつけられることになった。カルロス・ゴーン被告の日本からの逃亡が、日本の「人質司法」問題が論じられるきっかけとなったことは、副産物ではあるが望ましい傾向だ。一般人にとって「刑事司法」は、犯罪に手を染めるか、冤罪被害者に仕立て上げるか、裁判員裁判としてお声がかかりでもしない限り、関心の対象としては薄いものであろうから。

◆堀江氏の刑事司法や刑務所体験や知識には説得力のあるものが多いのだが……

その観点から堀江氏が、どのようなことを発信しているのか、初めて彼の発信する動画をいくつか真面目に見た。自身が逮捕・長期勾留・収監の経験があるだけに、堀江氏の刑事司法や、刑務所内における体験や知識には、説得力のあるものが多く、頭が良いだけに「旧監獄法」とそれ以降の変化や、カルロス・ゴーン被告が受けてきた容疑事実についての分析もレベルが高い。


◎[参考動画]カルロス・ゴーンが見た日本の腐った司法システムについてお話します【ゴーン第4弾】

堀江氏が東京大学に入学した1991年わたしは、企業から転職して京都の小さな私立大学に事務職員として着任した。あの年の入学生はわたしにとっては、大学職員として、初めて接する入学生であったから、いわば「同級生」のような感覚がある。彼が動画の中で「1991年に東大に入ったあと」と語ったので、本筋と関係はないが、私的な経験と堀江氏の年齢が交錯した。

◆新自由主義の寵児が露呈する「知性」の浅底

カルロス・ゴーン被告についての堀江氏の発信を一通り確認したあと、その件とは無関係な動画も何件か視聴してみた。その結果判明したことは、やはりわたしの堀江貴文人物評価は、間違っていなかったということである。その証拠示す動画(もしくは音声)にいくつも出くわした。

筆頭は地球温暖化を論じた、以下の動画である。


◎[参考動画]ホリエモン、グレタ氏を批判!日本の温暖化対策はどうすべき?【NewsPicksコラボ】

この動画の中で堀江氏は、同じ番組に出演しているお馬鹿さんと一緒に、地球温暖化への対策が「原発」だと言い切っている。もっともその前段となる、世界的に情報商品として過剰に取り上げられているスウェーデンのグレタ・エルンマン・トゥーンベリさんへの評価には部分的にわたしも同意する部分はある。どうして同様の主張を多くのひとびとが何年も前から、続けているにもかかわらず、突然スウェーデンの高校生(?)がこのように、脚光を浴びるようになったのか。

グレタさんの主張すべてをわたしは否定、しないけれども、どうして「彼女だけが」世界中の同様の意見主張者の中から注視されているのかについては、落ち着いて考える必要があろう。地球温暖化に人類の営為が影響を与えていることは事実だろう。だが、「二酸化炭素が地球温暖化を進めている」とする説に、わたしは全く納得がゆかない。フロンガスをはじめ、名称通り「温室効果」をもたらすガスや人工物はあるあろう。しかし二酸化炭素がなければ、植物はどのようにして光合成をするのだ。植物の光合成なしに、どのように新たな酸素が生まれ出るのか?

地球は温暖化しているだろう。人為的な原因もあろうが、その主たる理由は地球がこれまで繰り返してきた「温暖期」を迎えているからだとの説に、わたしはもっとも合理性を感じる。

地球温暖化はいずれ別の場所で論んじよう。グレタさんを持ち上げる勢力の腹黒さについても。きょうの原稿はホリエモンを斬るのが主眼であった。堀江氏は、紹介した動画の中で「第4世代の原子炉開発も進んでいる」などと述べているが、たぶん彼の頭のなかには基礎的な、放射線防御学の知識もないのだろう。市場分析や、商品開発の将来性について(わたしはまったく興味はないが)堀江氏は自身が発信する動画の中で、実に多角的な分析と見立てを表明している。しかし、堀江氏が断言する将来像や分析は、いずれも経験則や自身が勉強した知識に基づいている。

このことは、堀江氏が「イカサマ師」ではないことを示す証拠にもなろう。彼の見解や、見立てにわたしは相当程度、異議がある。だが自分で商品開発や、商品の将来性を見定めた(その負の結果も負った)堀江氏の発言には、ある種の一貫性がある。

それは、「知っていること(経験したこと)を強く主張するが、知らない世界でドツボにはまる」ということだ。新自由主義の寵児のような堀江氏と東浩紀氏が語り合った音声がある。


◎[参考動画]【天才】東浩紀の頭がよすぎてホリエモンが言い返せない状況に…!

この中で堀江氏は「一生懸命会社で働いているあいだ、忙しくて『ベーシックインカム』なんて知りませんでしたよ。知ったのはこの1年くらいですよ」と述べている。わたしは東浩紀氏の支持者ではない。堀江氏からこの一言(彼の限界)を引き出した人物として紹介するまでである。1年前まで「ベーシックインカム」すら知らなかった人物が論じる世界観など、信用に値するか?

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

2020年もタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年2月号

『NO NUKES voice』22号 新年総力特集 2020年〈原発なき社会〉を求めて

鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

昨年は死刑に関する重大な出来事がいくつもあったが、2020年も死刑に関する大きな出来事が色々起こりそうだ。以下、展望する。

◆今年死刑が確定する可能性がありそうな被告人は2人

植松被告の裁判員裁判が行われる横浜地裁

死刑適用の可否が争点になる裁判は今年も複数ありそうだが、まずは1月8日から横浜地裁において、相模原障害者施設殺傷事件の植松聖被告に対する裁判員裁判が開かれる。判決は3月16日の予定だから、かなりの長期審理となる。裁判員たちの負担は相当なものだろう。

報道によると、弁護側は「犯行時に心神喪失だった」として無罪を主張するそうだが、19人もの人間を殺害した被告人に対し、責任能力の全部又は一部を否定し、死刑を回避するほど日本の裁判官は甘くない。裁判員裁判でもそれは変らない。筆者が植松被告と面会した印象では、植松被告本人は自分のやったことを正義だと信じて疑っていないが、確実に死刑判決を受けるだろう。

では、今年中に新たに死刑判決が確定する被告人はいるだろうか。

死刑判決は通常、裁判の第一審や控訴審で確定することはない。死刑判決を受けた被告人は、たいてい上訴するので、死刑は最高裁で確定するのが一般的だ。そこで、死刑判決を受け、最高裁に上告している被告人の顔ぶれを見てみると、今年中に死刑が確定する可能性がありそうな被告人が2人いる。前橋市高齢者連続強盗殺傷事件の土屋和也被告と、伊東市干物店強盗殺人事件の肥田公明被告だ。

裁判の迅速が進んだ今も、最高裁は控訴審までの結果が死刑の事件については、判決を出すまでに大体2~3年かけている。その点、土屋被告は2018年2月、肥田被告は2018年7月にそれぞれ控訴棄却の判決を受けているので、今年中に最高裁が判決を出してもおかしくないわけだ。

肥田被告のほうは無実を訴えているが、最高裁が死刑判決を破棄し、最終的に無罪判決が確定した前例は大阪市平野区の母子殺害事件など極めて少数だ。確率的に言えば、肥田被告は苦しい状況に置かれていることは間違いない。

一方、死刑執行があるか否かについては、今年も当然のように「ある」だろう。これまでハイペースで死刑を執行してきた安倍政権が死刑執行の無い年を作るとは考え難いからだ。ただ、さすがに海外の目もあるので、東京五輪が終わるまで死刑執行は控えるだろうと思われる。

◆「あの裁判長」がまた世間を驚かせる判決を出すか

最後に、筆者が今年、最も注目している死刑関係のトピックを紹介したい。3月9日に大阪高裁である淡路島5人殺害事件の平野達彦被告の判決公判だ。

平野被告の控訴審が行われてる大阪高裁

平野被告は一審・神戸地裁の裁判員裁判において、被害者のことを「工作員」だと言い、「(犯行は)ブレインジャックされてやったことだ」などと特異な主張を展開した。弁護側は、平野被告が犯行時に心神喪失状態だったと主張し、無罪を求めていたが、判決では完全責任能力が認められ、死刑を宣告されていた。ここまでは、日本の刑事裁判では通常の流れだ。

ところが、大阪高裁の控訴審では、裁判所が職権で精神鑑定の再鑑定を行った。その結果、この再鑑定を担当した精神科医が平野被告について、「薬物性の精神障害」という一審までの精神鑑定の結果を否定し、「妄想性障害」にり患していたと結論したのだ。

一般論を言えば、裁判で被告人が妄想性障害と認定されつつ、完全責任能力は備わっていたと認められることもある。だが、今回の場合、控訴審の再鑑定により一審までの精神鑑定の結果が否定されたわけで、再鑑定の結果が判決に影響を及ぼしてもおかしくない。

そもそも、被告人の責任能力の有無や程度が争点になった裁判の控訴審において、弁護側が精神鑑定のやり直しを求めても、通常、裁判官はあっさり退け、控訴棄却の判決を出すものだ。控訴審で精神鑑定の再鑑定が行われたこと自体、裁判官が一審判決に疑問を感じている表れとも言える。

被告人に死刑を適用するか否かが争点になるような重大事件の裁判では、被告人が明らかに重篤な精神障害者でも強引に完全責任能力を認められ、死刑とされるケースが圧倒的に多い。もしも平野被告が心神喪失を認められ、無罪判決を受けるようなことがあれば極めて異例だ。

ちなみに大阪高裁の村山浩昭裁判長は過去、袴田巌さんの再審開始を決め、死刑の執行と拘置を停止したり、寝屋川中1男女殺害事件で死刑が確定した山田浩二死刑囚の控訴審再開を決めたりするなど、世間を驚かせる決定や判決を出してきた。その点からも平野被告の控訴審であっと驚く判決が出ても不思議はない。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。編著に「さよならはいいません ―寝屋川中1男女殺害事件犯人 死刑確定に寄せて―」(KATAOKA)、原作コミックに「マンガ『獄中面会物語』」(笠倉出版社)。

7日発売! 2020年もタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年2月号

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

◆人質司法を忌避したゴーン氏の快挙

ある意味で、快哉と批判が相反する年末最大の事件だった。カルロス・ゴーン被告が非合法に出国し、彼の出生地であるレバノンに入国したのだ。日本のメディアはこぞって「卑劣」「検察の努力を台無しにした」(検察幹部)「世界的に活躍した経営者がこういう人だったのかと、呆れかえって言葉もない」(日産幹部)と、批判的な報道をくり返している。

だが、わたしは人権を無視した「日本の人質司法制度」を批判してきたゴーン氏、および海外メディアの日本司法への批判に同調したい。手錠と腰縄で引きまわし、捜査員(警官)と取調官(検察官)は「黙って(黙秘して)いるようだと、起訴するぞ」「質問に答えないと、反省がないということになるぞ」などと、被疑者を責め立てる。これら戦前の特高警察ばりの取り調べ、および長期拘留という実刑の先取り(判決によらない刑罰)は、体験した人間にしかわからない「現代の悪逆非道」である。


◎[参考動画]Ex-Nissan CEO Carlos Ghosn flees trial in Japan for Lebanon (DW News 2019/12/31)

わたしの体験からいえば、18歳で学館闘争で逮捕されたときに、やはり「何を黙ってるんだ?」「黙秘します」「お前はもうダメだ! 刑務所に送ってやる」と、年輩の検事に怒鳴られたのを覚えている。学校で習った黙秘権はないに等しいのか、と思ったものだ。20歳で逮捕されたときは、実行行為も明らかな闘争だったから、警察官も検事も、学生運動をやめさせようとする以外の話はしなかったものだ。しかし、しゃべれ(自白すれ)ば不起訴か早期保釈、完黙すれば起訴(第一回公判=一年後)という落差は、わが国に「黙秘の権利」「非逮捕者の防衛権」がないことを実証している。

その意味で、人質司法のもとでの裁判におよそ公平性はなく、ゴーン氏が選んだ「保釈逃亡」には、そのかぎりで敬意を表したい。これまでの日本で保釈逃亡が有効に行なわれた(長期逃亡)のは、新左翼事件(思想的確信犯)いがいになかった(短絡的な逃亡は多発している)。

ウォールストリート・ジャーナルによれば「(ゴーン前会長は)日本では公正な裁判は受けられないと考えて逃亡した。政治的な人質でいることに疲れた」というゴーン氏の知人の言葉を紹介している。現地ベイルートでは、ゴーン氏が合法的に入国したというレバノン当局者の発言が報道されている。前近代的な「人質司法」と批判された司法当局こそ、明治いらいの刑法・刑訴法・監獄法に安住してきた自分たちを恥じるべきであろう。

◆出国方法は?

それにしても前代未聞の、手際よい逃亡劇である。当初、日本国内からプライベートジェットで出国したと伝えられたが、カーゴ便で出国して経由地(専用ジェットへの乗り換え)があったとの情報もある。音楽バンドに扮したグループがゴーン氏の自宅をおとずれ、演奏をおえて引き上げるふりをして楽器箱にゴーン氏を入れて連れ出したという。そのまま荷物として出国したのだろうか。

いずれにしても手際のよい日本脱出、監獄司法国家からの脱獄ではないか。国交省幹部は「CIQ(税関・出入国管理・検疫)の検査を受けずに出国することは100%できない」(朝日新聞1月1日)と、明言しているという。まったくもって、映画になりそうな事件である。

さてゴーン氏の事件の問題点は、日産のルノーとの経営権をめぐる確執、それに検察が介入するかたちで、ゴーン氏がスケープゴートにされた。というのが、ゴーン氏にかけられた金融商品取引法違反容疑、会社法違反容疑の実質である。わが国の自動車産業の柱である日産自動車の経営権がフランス(ルノーおよび政府)に奪われる。それ自体、グローバル化した現在の国際資本のもとでは役員人事にすぎないにもかかわらず、日産日本人経営者の内部告発をうけた検察当局において、日本の財界および政界の意向を忖度した逮捕劇が強引になされた。これが事件の本質である。

その意味でゴーン氏が「政治的な人質」と指摘するのは間違っていない。検察においては立件の要件が何とかなれば、強引な訴訟手続きでも何でもできると思っていたところ、相手が一枚上だったというわけだ。

ゴーン被告と連絡をとっていた在日フランス人の友人たちは「週刊朝日」の取材に対してこう語ったという。

「ニュースを聞いて驚いた。だが、ゴーン被告がこういう行動をとることはやむを得なかったと思う」

「ゴーンさんは、様々な点で検察、日本に怒りを感じていた。妻と長く会うことも許されず、最初から有罪ありきの検察の捜査にも非常に憤りを感じていた。当初は日本で裁判を戦い、無罪を勝ち取ると意欲的だった。だが、保釈中、いかに日本の司法制度全体が検察主導で、有罪ありきの構造になっているかを知り、絶望感を感じていた」

絶望を感じた人間にとって、15億の保釈金も逃亡という危険も取るに足らないはずだ。今回の驚嘆すべき逃亡劇によって、前近代的な日本の司法制度が痛烈な批判をたたきつけられたのは間違いない。誤認逮捕をけっして認めない警察(築地誤認逮捕事件)、誤判をけっして認めない裁判所(袴田事件再審取り消し)という現実があるのだ。訴訟手続きの近代化以外に、世界の笑いものになった事件からわが国の司法が回復する道はない。


◎[参考動画]ゴーン被告出国 数週間前に準備か(テレ東NEWS 2020/01/01)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、最近の編集の仕事に『政治の現象学 あるいはアジテーターの遍歴史』(長崎浩著、世界書院)など。近著に『山口組と戦国大名』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『男組の時代』(明月堂書店)など。

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