3月17日(日)、ドーンセンターで開催された「汚染水を海に流すな! 関西集会」に参加してきた。

講師は様々な反原発関係の裁判の弁護人を務める海渡雄一弁護士。今日はほかにもドーンセンターだけでも様々な催しがあったにも関わらず会場は満席だった。汚染水問題を関西で論じることがあまりないからかもしれない。

海渡弁護士のお話のテーマは「ALPS処理汚染水海洋放出差止訴訟の論点と今後の取組」というものだった。汚染水だけだと、メディアに掲載してもらいにくいため、あえて「ALPS処理」の汚染水としたようだ。これだけでも大変だが、汚染水の海洋放出に対して訴訟を起こさなくてはと考えてはいたが、重要なのは誰が原告になるかで、弁護団らは汚染水放出で一番被害を受けるだろう漁師の方が原告になってもらわなければ…と考えていたようだ。確かに。しかし、当初はなかなか名乗りを上げてくれる漁師の方がいなかったようだ。福島では3・11以降、非常に強い情報統制化におかれている。かつては「鼻血が出ました」と言った井戸川克隆元双葉町長が、ものすごいバッシングを受けた。それを題材にした漫画「美味しん坊」の作者・雁屋哲氏とその周辺のメディアの方は未だに干されたままだという。

「モノをいえなくされてる」。福島の住民が悪い訳ではない。それほど強い同調圧力があるということだ。

 

 

新地町の漁師・小野春雄さん(『季節』2023年秋号より)

そんななか、汚染水の海洋放出では、なんと新地町の漁師・小野春雄さんが原告になると名乗りをあげ、しかも裁判では実名で意見陳述をされたという(原告になった方の中には、それで誹謗中傷されたりすることを恐れ、匿名を希望する人もいるという。鼻血問題のバッシング騒動をみれば、それも致し方ないことと思う)。小野さんの意見陳述全文も海渡弁護士から今日、報告された。小野さんには私も鹿砦社の反原発季刊誌『季節』で取材させていただいている。ぜひ読んで頂きたい。

今日の報告はいずれまたしたいが、ここで言いたいのは別のことだ。海渡弁護士の講演後、質疑応答が行われた。どこでもだが、最初の一人はなかなかでない。ようやく一人質問者が出るとその後何人かが質問してくれる。今日もそうして数人が質問した。ある女性が最近、れいわ新撰組の山本太郎氏の反原発の動画を見ているが……と切り出し、それは「あっているだろうか」という質問のなかで、浪江町を撮ったドキュメンタリー映画「津島」も見たと発言した。

すると海渡弁護士は「会場に浪江から関西に避難している方がいますので、その方に聞いてみましょう」と、私の前に座っていた浪江から兵庫に移住した菅野みずえさんに振った。突然のことであるにも関わらず、菅野さんの発言はいつも通り本当に涙が出る位素晴らしかった。映画「津島」は私も仲間と自主上映会を行った。その時も菅野さんは会場にきてくれて、今日と同じように警告を発してくれた。

津島は菅野さんの家がある地域で帰還困難区域に指定されている。なので、そこに出入りする場合は防護服やマスクを着けなければならない。しかし、映画に出演する村の人たちはそうしていない。出演している人たちはみな、菅野さんの知り合いだし、彼らが話していることは事実だ。しかし、帰還困難区域で映画を撮る際、防護服、マスクなどを着けさせなかった製作者の意図するものは何なのか?と菅野さんはいつも疑問を呈している。いや、疑問を呈するというような甘いものではない。「被ばくに一切触れられてないんですよ」と声を荒げる。

ここで思い出すのは、かつておしどりマコさんが話していたことだ。原発推進派は原発反対論者にも「先生凄いですね。一度お話を聞かせて下さい」と近寄ってくるそうだ。何を話したかわからないが、一度推進派と話した方々は、原発に反対するにしても「被ばく問題」を避けたり、地元に戻って復興を頑張ろうなどに変わっていくというようなことだ。

3・11以降、その誘いに乗って、原発反対でないにしても被ばくを言わない、ことさら問題にしない反原発の方が増えてきた。詳細は言わないが、地元で自ら線量を測って頑張っている人たちや、地元に戻って復興を考えている人たちを称賛する人たちだ。もちろん私は福島に戻って頑張ろうとする人たちを非難している訳ではない。が、だとしても、戻って生活する人たちに被ばくの危険性はありますよと伝えていくのが福島の人に寄り添う支援者ではないか。

菅野さんも仰っていた。誰だってふるさとに帰りたい。でもそのためには村のほとんどを覆う森林を除染しなくてはならない。それを担うのは誰ですか?そして高齢者が村に戻られても、すぐに介護の問題などが生じる。線量の高い汚染地に、遠くからヘルパーさんなど介護する人を呼び寄せて良いのですか?と。

とつぜん意見を求められたにもかかわらず、菅野みずえさんはいつも切々と、「これ以上無用な被ばくをさせていいのですか?」と訴えられる。海渡弁護士のお話もとても重要な話だったが、この菅野みずえさんの話が頭から離れない。先日、汚染水の海洋放出現場でも、驚くようなずさんな作業で多くの作業員が無用な被ばくを強いられたことが明らかになったではないか。どこまで多くの人たちに無用な被ばくを強いるのか?反原発問題で被ばく問題を口にしない人たちを、私は絶対信用しない。

なお、菅野みずえさんの影響で気になりだしたことに浪江町の沿岸部、津波で家屋や田畑が流された請戸地区周辺で進む「イノベーション・コースト構想」だ。昨年、そこを今野さんに案内して頂いた。一体、国は原発推進派は、そして原発で儲けた連中は、そこで何をしようとしているのか? その問題について5月連休明け、「イノベーション・コースト構想を監視する会」の和田央子さんをお招きして講演会を開催します。詳細は追ってご連絡致します。ぜひご参加ください。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年春号 能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年春号(NO NUKES voice 改題)

能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

《グラビア》能登半島地震・被災と原発(写真=北野 進

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 能登半島地震から学ぶべきこと

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 地雷原の上で踊る日本

《報告》井戸謙一(弁護士・元裁判官)
 能登半島地震が原発問題に与えた衝撃

《報告》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 珠洲・志賀の原発反対運動の足跡を辿る

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 「大地動乱」と原発の危険な関係

《講演》後藤秀典(ジャーナリスト)
 最高裁と原子力ムラの人脈癒着

《報告》山田 真(小児科医)
 国による健康調査を求めて

《報告》竹沢尚一郎(国立民族学博物館名誉教授)
 原発事故避難者の精神的苦痛の大きさ

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表
 命を守る方法は国任せにしない

《報告》大泉実成(作家)
 理不尽で残酷な東海村JCO臨界事故を語り継ぐ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
《検証》日本の原子力政策 何が間違っているのか《2》廃炉はどのような道を模索すべきか

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
すべての被災者の人権と尊厳が守られますように

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈後編〉

《報告》漆原牧久(脱被ばく実現ネット ボランティア)
「愛も結婚も出産も、自分には縁のないもの」311子ども甲状腺がん裁判第八回口頭弁論期日報告

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
本当に原発は大丈夫なのか

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
日本轟沈!! 砂上の“老核”が液状化で沈むとき……

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
松本人志はやっぱり宇宙人だったのか?

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈23〉
甲山事件五〇年目を迎えるにあたり誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈中〉

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
能登半島地震と日本の原発事故リスク 稼働中の原発は即時廃止を!
《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(志賀原発に反対する「命のネットワーク」)
《六ヶ所村》中道雅史(「原発なくそう!核燃いらない!あおもり金曜日行動」実行委員会代表)
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
《東海第二》久保清隆(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《地方自治》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)

《反原発川柳》乱 鬼龍

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0CWTPSB9F/

龍一郎揮毫

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

世界最初の核攻撃の爆心地・広島一区の岸田総理は、自称「GX法」により、3.11以降、安倍政権すら維持してきた脱原発依存路線を転換しました。関西電力高浜原発など老朽原発の再稼働を推進し、核のゴミを増やし、上関に中国電力と共同で中間貯蔵施設という名の実は半永久的な貯蔵施設という形で押し付けようとしています。

一方で、福島原発事故の緊急事態宣言は継続中で、デブリ取り出しすらできていません。さらに2024年元日、能登半島大震災が発生。北陸電力志賀原発は、3.11以降は止まっていたこともあって、大事故には至りませんでしたが、油の流出やモニタリングポストの停止など、多くのトラブルが報告されています。その上、避難経路となるべき能登半島の道路が寸断されるなど、もし原発事故があれば避難どころではない現実も示されました。

また、大震災そのものが、複数の活断層の連動で起きています。今までは5km以上離れている断層は連動しない、と国もしてきたのですが、それが崩れた形です。日本全国の原発の安全審査がやり直し、というよりもことごとく、真面目に規制委員会が審査すれば、アウトになる可能性が高いと思われます。にもかかわらず、中国電力は広島から二番目に近い島根原発再稼働を8月にも強行しようとしています。
そうした中で、13年目の3.11を広島も迎えました。

◆島根原発再稼働を許さない! 集会開催

3月10日(日)にはフクシマを忘れない!さようなら原発 ヒロシマ集会が、広島弁護士会館で開催されました。

主催者を代表して山田延廣弁護士は、

「未だ故郷に戻れず、原発の廃炉も進まないのに岸田政権はGX法で原発を再開しようとしている。能登半島大震災で志賀原発の油流出事故が起きた」

「自民党への巨額の献金が再稼働に影響している。お金に影響される政治でいいのか?」

「島根原発の再稼働を目指しているが、いくら避難計画を立てても能登半島のように道路が寸断されたら機能しない」

「フクシマ原発問題は全国の問題。上関の中間貯蔵施設を作ろうとしている。しかし、世論は再稼働賛成が増えている。一方できちんと損害賠償するように求める裁判が闘われている。寄り添うというのはそういう闘いを一緒にやっていくということだ」

 

福島原発告訴団の武藤類子団長がビデオメッセージ

処理汚染水の海洋投棄が進む福島からは福島原発告訴団の武藤類子団長がビデオメッセージ。

裁判では、最高裁の草野耕一裁判官が任命される前に経営していた事務所が東電と利害関係が深かったということで、裁判から外れてもらうよう求めています。武藤さんは、「被害者は権力を持たない市民。中立としての裁判所に期待している」などと、思いを述べられました。

◆島根原発2号機の再稼働を止めよう!

ついで、広島と同じ中国電力管内の島根原発2号機の再稼働を止めよう!と「島根原発3号機差止訴訟原告団」事務局の芦原康江さん(元松江市議)が報告。以下は、芦原さんのお話しの概要です。

「この国は原発事故を忘れようとしているのか?」と問いかけました。そして、「広島にとって原発事故はよそ事ではない。島根原発で事故が起きたら17万人を広島が受け入れることになる。また、福島では島根―広島に相当する160km圏内でも風向きによっては、土壌で10万ベクレル/kgの汚染が起きている」

広島県選出でもある岸田総理が強行した脱炭素電源法=GX法は地球温暖化対策と称して衰退する原子力業界に救いの手を差し伸べていると指摘しました。

3.11福島原発事故を教訓に原子炉等規制法で運転期間は原則40年とし、例外中の例外として20年の延長を認めていました。

ところが、それを撤廃してしまったのです。これは、例えば35年稼働している島根原発2号機を5年程度稼働しても採算に合わないからです。

全国知事会も、地方公共団体にきちんと説明しろ、事故が起きた場合には国は被災者への賠償も含め、責任を以って対処すること、という内容に全国知事会提言を2023年8月19日に出しています。しかし、住民の立場からすれば事故が起きた時点でたまったものではないのですから、「もっと踏み込んで住民に寄り添うべき」と芦原さんは知事会を批判しました。

◆避難計画に実効性なし! 明らかになった能登半島大震災

そうして忘れたころに災害が起きたのです。能登半島地震です。M7.6,最大震度7240人が亡くなり、5575棟が全半壊した大震災。志賀原発も震源域のすぐそばにありましたが、不幸中の幸いは福島原発事故以降、運転が停止したままだったことです。放射能漏れなど重大事態にはならなかったが、油漏れを含めて影響は無視できない状態です。

そして、何より、「避難計画」に実行性がないことが暴露されてしまいました。

・多くの家屋が倒壊で屋内退避も不可能。
・道路も液状化や土砂崩れなど寸断で避難が困難。最大24地区3345人が孤立。30km圏内では8地区400人が8日間孤立。さらに21の放射線防護施設のうち、6施設で損傷や異常が発生。
・断水は21施設すべてで発生した。原発事故の場合に支援がいる住民を守る機能が果たせなかった恐れがある。
・また、能登半島大震災では、北陸電力が96kmまでしか連動しないとした活断層の活動は150kmも連動してしまった。これは北電が悪いのではなく、5kmより離れていたら連動しないという国の基準に問題がある。

全ての原発の安全性、信頼性が失われている状態だということです。

◆審査に合格しても安全ではない

そうした中で、島根原発を再稼働させて良いのでしょうか?

島根原発は1号機が1980年に稼働開始し、2015年にすでに廃炉になっています。今焦点となっているのは2号機。1989年2月に運転を開始しています。2021年9月新規制基準に合格し、22年6月2日に島根県知事が再稼働容認を表明しています。2024年8月に再稼働を行う予定です。3号機はまだ稼働しておらず、新基準審査継続中です。

しかし、2号機は審査に合格しても安全ではないのです。基準地震動は820ガルのままです。1000ガルを超える地震動が頻繁に現実には起きているからです。火山噴火についても、近隣の三瓶山や大山の最大規模の噴火は想定していません。更田元規制委員長自身が「新基準に適合しても100寺ベクレルを超える放射性物質の放出を起こす事故の可能性」を否定していません。

こうした中で、2号機運転差し止め仮処分申し立てを芦原さんらは2023年3月10日に広島高裁松江支部に起こしています。中国電力は過小な地震動しか想定していない、というのが原告側の主張です。島根でも、直近の宍道断層だけでなく、鳥取県沖の断層も含めて連動する可能性はあります。

中国電力側は、宍道断層と鳥取県沖の断層は国の5kmより1km遠い6km離れているから大丈夫、というセコイ主張をしていました。しかし、今回の能登半島大震災でそれは否定されています。

また、三瓶山や大山が噴火しているときに事故が起きれば、事故処理のためのアクセスが困難になります。非常用電源を動かすにしてもフィルターが必要になります。そのフィルターを火山灰が降り続く中でどう運ぶのでしょうか?

さらに、県都・松江市にある島根原発で事故が起きれば、46万人が避難することになります。そのうち5万人は高齢者や障がい者などの要支援者で全国最多でです。都会でなおかつ高齢化が進んでいる地域の島根原発。事故が起きれば広島県には17万人が避難してきます。

すでに、どこにどう避難するかは決まっているのですが、広島県などの受け入れ先の住民には全くその説明はありません。

5km以内の住民には敷地境界で5マイクロシーベルト/時が10分以上継続して避難指示が出されるので、核燃料が溶け出しているような状態です。そもそも大震災が起きれば道路も寸断していますから直ぐに避難できず被曝する人が続出するでしょう。

※[筆者注]ちなみに福島原発事故の場合は、皆様もご承知の通り、沿岸部では津波で壊滅的な大被害だったのですが、少し内陸では、能登半島大震災との地震動の性質の違いもあって構造物への被害はさほどではなかった。内陸の東北自動車道が健在で、そこから枝分かれした道路もそこまでの被害はなかったのは不幸中の幸いでした。だから、関東や関西に比較的早く避難した・できた人も多かった。ただ、そのために、避難の困難性が注目されることはなかったとも言えます。

また、5km-30kmの人については500マイクロシーベルト/時の放射線量を記録したらら直ちに退避ということだが、2時間すれば年間の上限に達してしまいます。被ばくすることが前提の計画になってしまいます。

屋内退避をしろ、と国は言いますが木造家屋では被ばくを防ぐ効果は50%しかない。そして、屋内退避中に医療や介護を受けられる計画にもなっていません。そして、施設や病院にいる人は受け入れ先が決まるまで待機となりますが医療ケア対応の車両がたくさん必要になります。

能登半島大震災の時は被災地の人口は10万強ですが島根の場合は46万ですからこの点でも厳しい。しかも、職員の健康や生命を守る対策も不明です。

そして多くの人が車で避難することになりますが、車のスクリーニングもザルです。クルマの汚染がヨウ素剤服用の基準の6倍以下ならフリーパス、基準値を超えれば除染はしますが、乗っている住民は代表者のみ検査。そして、スクリーニングそのものがフル稼働しても164時間かかりそれだけで大渋滞です。

そしてそもそも、避難計画は原子力災害対策指針に基づくものであって、内閣府も避難計画の実行性を全く確認していないのです。

なお、能登半島大震災を受けて、全国の市民団体で原子力規制庁や内閣府に原子力災害対策指針の見直しを求めると、「災害対策は自治体の責任であって自分たちの責任ではない」という趣旨の開き直りをされたそうです。

要は、いい加減な被ばく防護しかせず、災害により住民が酷い被ばくをしても自治体に責任を押し付けるのが国の原子力災害対策であり、それをもとにした避難計画には実効性がかけます。IAEAの求める第5層の防護段階がかけています。

また、核燃料サイクルも破綻しており、だからこそ、上関に予定されている中間貯蔵施設も最終処分場になってしまうのではないか?と指摘しました。

これ以上核のゴミを増やさないためにもリスクだらけの島根原発2号機の再稼働、運転延長は認めてはいけないのです。

◆日本一規制が緩い広島の産廃行政、遠方から放射性廃棄物流入の恐れ

岡田和樹さんからは、上関原発と中間貯蔵施設問題、また産廃問題について報告がありました。岡田さんは、上関原発に反対する運動に参加する一方で、地元の三原市では本郷産業廃棄物処理場の問題に住民の先頭に立って取り組んでおられます。

祝島島民の会に対するスラップ訴訟は、この裁判は、原発建設の埋立予定地付近で漁業をしている祝島の漁船が、中国電力が行おうとしている海上ボーリング調査を妨害しているとして、その排除を求めた裁判です。これに対して島民の会は、祝島の漁民は漁業権に対する補償を受けておらず埋立工事は違法であること、海上ボーリング調査は埋立工事とは直接関係のない調査であること、上関原発の建設は事実上完全に破綻しており中国電力の請求は権利の濫用であることなどを主張して争っています。

「中国電力のお客様でもありこの国の主権者でもあるのはわたしたちだ」と岡田さんは強調されました。

また、岡田さんは、産廃問題にも言及。広島県内の産廃処分場は全国3番目に多く、安定型では2番目です。三原市の本郷産廃処分場だけでなく、広島市内や福山市内の産廃処分場でも汚染水が流出。そして、関東など遠方からもどんどん産廃が広島に入ってきています。そして、現状の産廃行政では、それら遠方の産廃の中に放射性廃棄物が紛れ込んでも全く分からないということです。

三原市では水源保護条例へ向けて動きが詰めの段階に入っています。東広島市や竹原市、尾道市でも続く動きが出ています。

「行政が被害を受ける住民の立場に立ってほしい」。そのために自治体に条例を、と岡田さんは強調されました。

最後に岡田さんは「上関中間貯蔵施設」に反対する立場から「芦原さんらがいらっしゃる前で申し上げるのは心苦しいが、核のゴミは発生場所で保管するしかない。だからこそ、核のゴミを発生させる島根原発再稼働は止めさせなければいけない」と述べられました。

◆3.11を忘れた? 追悼の半旗掲揚を止めた? 中国電力

 

3.11当日、中国電力本店前で抗議

翌11日の3.11当日には、島根原発再稼働の強行をもくろみ、また関西電力と共同で核のゴミの自称「中間」貯蔵施設を上関に造ろうとしている中国電力本店前で「上関原発止めよう!広島ネットワーク」呼びかけで抗議の街宣と署名提出が行われました。

木原省治さんが代表してスピーチ。「311なのに、半旗を掲げないのはいかがなものか?もう忘れてしまったのか?」と疑問を呈しました。

その上で、今もデブリの取り出しさえできていない東日本大震災。そして、モニタリングポストが壊れ、道路の寸断で原発事故だった場合に避難どころではないことが明らかになった能登半島大震災の教訓は、島根原発再稼働はすべきでないということだがなぜ生かせないのか?

また、上関中間貯蔵施設もつくるべきではないということを繰り返し訴えました。また、国は原発のリプレースではない新設はしないといっているのに中国電力はなぜ、純粋な新規原発である上関原発計画を維持し、埋め立て免許を申請しているのか?と疑問を呈しました。

その上で、上関原発計画は42年間も住民を分断している。これ以上住民をいじめないでほしいと中国電力にお願いしました。

 

藤井純子さんが島根原発再稼働に反対する署名を中国電力に提出。横断幕中央付近の人物が筆者

最後に、溝田一成さんが代表して中国電力に対して後記申し入れを行い、また、藤井純子さんからは、島根原発再稼働に反対する署名が提出されました。

なお、中電は毎年玄関前に国旗の半旗を掲げていたけど、なぜか今年はなかった。それで、それを木原さんが中電社員に問いただしたら、回答不能に陥ったそうです。ところが、なぜか私たちの街宣終了後の15時15分頃に急に半旗を掲げ始めたそうです。

国旗への賛否はともかく、半旗を忘れたということは、3.11が中国電力の皆様の頭からも消えているということに他なりません。そうした中で、のど元過ぎれば熱さ忘れる、で島根原発再稼働や上関中間貯蔵施設をやられたのではたまったものではありません。

引き続き、総理の地元の有権者としても声を上げ続けたいものです。

中国電力株式会社
代表取締役社長 中川賢剛 様

「島根原発2号機の再稼働」中止等を求める311声明

2011年3月11日に福島原発事故が発生しました。今日で13年目になります。しかしながら、未だ事故は収束しておらず放射性物質を放出し続けています。現在も福島県の人びとの命や生活を脅かし、貴重な森林や河川も汚染され続けています。除染ができたと宣言しても放射能値はまだまだ高く、帰還する人は少ない状態です。原子炉の廃炉作業は遅々とし進まず到底廃炉などできそうにありません。また、たまり続ける放射能汚染水の放出では、世界の人々の懸念をよそに海洋排出が続けられています。こんなことはすべきではありません。

今年1月1日に発生した能登半島地震は、石川県の「志賀原発」事故を発生させる寸前の規模でした。また2月26日には、愛媛県の「伊方原発」のすぐ近くでマグニチュード5.1の地震が発生しました。日本列島は今も地震活動期にあります。

しかし、中国電力は、地元住民による反対の声を無視して、島根原発2号機の再稼働を8月に行う姿勢を変えていません。そもそも中国電力は、島根原発近くにある活断層の存在の隠蔽、点検漏れ、虚偽報告などの不祥事を繰り返しています。

また、上関町での原発建設計画も断念しておらず、突然昨年8月に「使用済み核燃料の中間貯蔵施設」建設計画を発表しました。

私たちは、福島原発事故から教訓を学び、危険で放射性廃棄物の処分・処理ができそうにない原子力の利用はやめにして、原子力以外のエネルギー源で発電すべきだと考えます。中国電力に、下記3点の実行を要請します。

=要請3項目=
1、島根原発2号機の再稼働を中止すること
2、「上関原発」建設計画を白紙撤回すること
3、「中間貯蔵施設」建設計画を白紙撤回すること

2024年3月11日
上関原発止めよう!広島ネットワーク

                      
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

3月11日発売 〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年春号 能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年春号(NO NUKES voice 改題)

能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

《グラビア》能登半島地震・被災と原発(写真=北野 進

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 能登半島地震から学ぶべきこと

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 地雷原の上で踊る日本

《報告》井戸謙一(弁護士・元裁判官)
 能登半島地震が原発問題に与えた衝撃

《報告》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 珠洲・志賀の原発反対運動の足跡を辿る

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 「大地動乱」と原発の危険な関係

《講演》後藤秀典(ジャーナリスト)
 最高裁と原子力ムラの人脈癒着

《報告》山田 真(小児科医)
 国による健康調査を求めて

《報告》竹沢尚一郎(国立民族学博物館名誉教授)
 原発事故避難者の精神的苦痛の大きさ

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表
 命を守る方法は国任せにしない

《報告》大泉実成(作家)
 理不尽で残酷な東海村JCO臨界事故を語り継ぐ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
《検証》日本の原子力政策 何が間違っているのか《2》廃炉はどのような道を模索すべきか

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
すべての被災者の人権と尊厳が守られますように

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈後編〉

《報告》漆原牧久(脱被ばく実現ネット ボランティア)
「愛も結婚も出産も、自分には縁のないもの」311子ども甲状腺がん裁判第八回口頭弁論期日報告

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
本当に原発は大丈夫なのか

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
日本轟沈!! 砂上の“老核”が液状化で沈むとき……

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
松本人志はやっぱり宇宙人だったのか?

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈23〉
甲山事件五〇年目を迎えるにあたり誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈中〉

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
能登半島地震と日本の原発事故リスク 稼働中の原発は即時廃止を!
《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(志賀原発に反対する「命のネットワーク」)
《六ヶ所村》中道雅史(「原発なくそう!核燃いらない!あおもり金曜日行動」実行委員会代表)
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
《東海第二》久保清隆(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《地方自治》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)

《反原発川柳》乱 鬼龍

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0CWTPSB9F/

龍一郎揮毫

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

◆阪神淡路大震災後の新長田駅 ── なぜここに「小川」なのか?

29年前の1995年1月17日に発災した阪神淡路大震災のあと、私は神戸のあちこちに支援に入った。最初は避難所に、そのうち様々な理由から街中の公園や空地にテントを張り避難している人たちに支援物資を届けるようになった。

 

新長田駅周辺に流れる「小川」

火災で街を消失させた長田を訪れたのは震災からひと月後だった。その間何度か雨が降ったのに、焼け野原になった街にはまだ煙の臭いが漂っていた。

それから神戸は何度も訪れていたが、その長田を訪れたのは数年前だ。新長田駅に降り、いかにも復興のために建設されたような「アスタくにづか1番館」というビルに入る「神戸映画資料館」の上映会に行ったときだ。一緒に行った知人が、駅の反対側に冷麺の有名な店があるというので、上映前に寄り、そのあと街を散策した。

在日の人たちが多数住んでいたその街には、私の知人男性も、両親とケミカルシューズの工場を営んでいた。震災前の街は、メディアなどでしか知らなかったが、街は「復興」の名のもと劇的に様変わりしていた。

あるビルの前に小さな「小川」が流れていた。小川と言うより、その一角だけを流れる「小川」。火災の際、消火機能をもつ小川ではない。復興で乱立して建てられたビル群をおしゃれに演出するように流れる短い小川を見て、私はふと違和感を覚えた。長田の町におしゃれな小川が似合わないというのではない。でもなぜここに「小川」なのか?

◆3・11後の飯舘村 ── 村営復興住宅と三菱総合研究所

それと似た違和感を、私は、3・11以降、仲間と支援してきた福島県飯舘村でも感じた。飯舘村の面積は大阪市とほぼ同じ面積でそこに20の行政区があった。震災後作られた「いいだてまでいな復興計画」(「までいな」とは村の方言で「丁寧に」「心を込めて」を意味する)では、当時帰還困難区域だった長泥地区を除く19の行政区全体で計画が進む予定だった。

しかし、2013年9月、安倍晋三首相(当時)がIOC総会で「汚染水は制御されている」という嘘のプレゼンテーションを行い、2020東京五輪の招致に成功して以降、大幅な変更を余儀なくされた。村の中心にある「深谷地区」が復興拠点に選ばれ、村の復興はそこを集中的に進めることとなった。

なぜ深谷地区か? 深谷地区には村で唯一の幹線道路が通っており、復興はその道路上に「ハコモノ」を並べる形で進んだ。コロナ感染拡大などのため1年延期で開催となった東京五輪、注目を浴びる聖火リレーで飯舘村の走者は、幹線道路脇に建てられた「ふれ愛館」と道の駅「までい館」の間を走ることとなった。

前述したが、飯舘村の面積はほぼ大阪市と同じ。そのふれあい館からまでい館の距離は短く、大阪市内で例えれば心斎橋駅から難波駅までの1区間だ。その間を走者が走り、世界中から来日したメディアがその姿を追うだろう。道路脇に建てられたハコモノが全世界に披露され、世界中に「福島は、飯舘村は復興した」とアピールできたであろう。しかし、安倍政権のこの思惑は実質失敗に終わったのだが。

2019年、私は深谷地区を再び訪れ、までい館の裏に建設・整備された村営復興住宅を見に行った。赤、青、黄のカラフルな、まるでおとぎの国に出てくるような家々……。私はそこでも強烈な違和感を感じた。飯舘村の人にこんなにカラフルでかわいいい家が似合わないというのではない。しかし、こんな家は村に戻る人たちが住みたいだろうか?あるいは住みやすいのであろうか?
※飯舘村深谷地区に建設された復興住宅 https://twitter.com/i/status/1117912386554384386

じつは、飯舘村の復興計画には、原発メーカーの三菱の系列の大手コンサルタント会社・三菱総合研究所が事務局で関わっている。そう考えると、までい館裏に建てられた復興住宅が、三菱所員が都内の一等地、空調の効いたこじゃれた設計事務所で「線をひいた」みたいな復興計画だということが良くわかる。

そこには膨大な復興予算がつぎ込まれ金の一部は当然、三菱総合研究所にも流れていく。ちなみに飯舘村と共同で進むメガソーラーに関わるのは、同じく原発メーカーの東芝だ。一昨年亡くなった飯舘村の元前田地区区長の長谷川健一さんが著書「原発にふるさとを奪われて」に書いていたように、「原発事故で多大な損害を受けた村が、原発で禄を食(は)んできた彼らの世話になる理由などないからです。そもそも彼らは抗議をする相手なのであって、世話になるパートナーではないのです」。

◆「原発を動かしては儲け、原発を壊しては儲けているハイエナ」のような連中

3月6日、ある男性が「復興はビジネスだ」と訴えた動画がX(旧Twitter)に投稿、250万回近く再生されている。ぜひ見て欲しい。この方は高山俊吉弁護士。現在も続くウクライナとロシアの戦争について話しているのだが、先の飯舘村の例を見ればわかるように、同じことが原発事故にも言えるのではないか。
※高山俊吉弁護士が「復興はビジネスだ」と訴えた動画
https://x.com/necoakachan/status/1765286053693231595?s=20

しかも、「復興」を被災した人たちのためともいわず、露骨に「金儲けのため」といわんばかりの計画が進んでいるのが、浪江町の請戸地区周辺だ。この地区は、地震で津波が押し寄せ、ほとんどの家屋などが流され、一面広大な更地になった。私が初めて訪れた2018年には、周辺に大きな工場がいくつも見えたが、それが何の工場なのか、どのような計画が進行しているのかはわからなかった。

2019年請戸地区を訪れた際には更地のあちこちに大きな工場が建てられていたが……

同じ場所を昨年、今野寿美雄さんの案内で訪れた。今野さんのお話から、ここには様々な工場が誘致されているということだ。中には、飯舘村の復興に関わり大いに儲けた原発メーカー、あるいは全国の原発で労働者に被ばく労働を強い、儲け続けるゼネコンなどが関わっているということだ。

まさに「原発を動かしては儲け、原発を壊しては儲けているハイエナ」のような連中が集まってきているのだ。

今年元旦に発生した能登半島事件でも同じことが起こるだろう。金沢在住の知人から、能登半島には、数戸の古い家屋が点在する過疎地が多数あると聞いた。その知人が呟いていた。

「能登半島に現在残っている過疎地の年寄りの排除が出来た後ににやってくるのがリゾートなのか原発なのか廃棄物処理場なのか軍事基地なのかわからないがよく見ておく事にする」。                 

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

3月11日発売 〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年春号 能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年春号(NO NUKES voice 改題)

能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

《グラビア》能登半島地震・被災と原発(写真=北野 進

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 能登半島地震から学ぶべきこと

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 地雷原の上で踊る日本

《報告》井戸謙一(弁護士・元裁判官)
 能登半島地震が原発問題に与えた衝撃

《報告》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 珠洲・志賀の原発反対運動の足跡を辿る

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 「大地動乱」と原発の危険な関係

《講演》後藤秀典(ジャーナリスト)
 最高裁と原子力ムラの人脈癒着

《報告》山田 真(小児科医)
 国による健康調査を求めて

《報告》竹沢尚一郎(国立民族学博物館名誉教授)
 原発事故避難者の精神的苦痛の大きさ

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表
 命を守る方法は国任せにしない

《報告》大泉実成(作家)
 理不尽で残酷な東海村JCO臨界事故を語り継ぐ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
《検証》日本の原子力政策 何が間違っているのか《2》廃炉はどのような道を模索すべきか

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
すべての被災者の人権と尊厳が守られますように

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈後編〉

《報告》漆原牧久(脱被ばく実現ネット ボランティア)
「愛も結婚も出産も、自分には縁のないもの」311子ども甲状腺がん裁判第八回口頭弁論期日報告

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
本当に原発は大丈夫なのか

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
日本轟沈!! 砂上の“老核”が液状化で沈むとき……

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
松本人志はやっぱり宇宙人だったのか?

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈23〉
甲山事件五〇年目を迎えるにあたり誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈中〉

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
能登半島地震と日本の原発事故リスク 稼働中の原発は即時廃止を!
《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(志賀原発に反対する「命のネットワーク」)
《六ヶ所村》中道雅史(「原発なくそう!核燃いらない!あおもり金曜日行動」実行委員会代表)
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
《東海第二》久保清隆(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《地方自治》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)

《反原発川柳》乱 鬼龍

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本年1月1日夕刻、石川県能登地方を中心に強い地震が発生、本稿執筆時点で死者240名を超え、避難者は1万4000名以上。またしても地震による大きな被害が生じています。1995年の阪神大震災以降、日本は地震の頻発期に突入し北海道から九州まで広範囲で震度7が記録されています。震災列島です。各地で大地震に被災された方々は言い尽くせぬ苦難に直面されてきました。

それでもわれわれは、2011年3月11日を特別な日として記憶すべきです。地震や津波により甚大な被害が生じたのみならず、国・電力会社が「絶対に苛酷事故は起こさない」と言い張っていた原発で、4機が爆発する人類史上未体験の大事故が発生した日だからです。

地震を含め自然界には「想定外」の事態が起こり得るし、自然の力を「想定する」力など人間には「ない」ことが証明された。そのことこそが教訓化されるべきでした。しかし、東日本大震災から13年、阪神大震災から29年を経ても、真っ当な教訓化は不充分です。

能登地方に生じている被災状況を鑑みれば、大地震発生後の救助・救援対策に限っても日本政府の対応が進歩しているのか、大きな疑問です。地震発生後1月以上経過しても、高齢者が極寒の中、学校の体育館の床に段ボールを敷いただけで寝起きしています。

阪神大震災以降、数々大地震の経験から、何を学んだのか。東日本壊滅=日本の終焉を、偶然により回避した福島第一原発事故は「地震国日本に原発を建てることができる場所はない」事実を示しました。ところが日本政府・電力会社は厚顔無恥にも詭弁を重ね、原発運転期間を40年から60年に引き延ばしたのみならず、新しい原発の増設にまで言及しはじめました。

本誌は繰り返し原発の根源的危険性を指摘してきましたが、本年1月1日に発生した能登地方の地震では、なんと地盤が最大4メートル隆起して、海が陸地化した地域が広大に生れました。「地盤が隆起し海が陸になる」場所に住宅は言うに及ばず、高層ビル・地下鉄・いわんや原発を建設しようと考える人がいるでしょうか。

本号では3・11前、2006年に金沢地裁で志賀原発運転停止命令の判決を下した元裁判官(現弁護士)の井戸謙1氏と3・11後、福井地裁で大飯原発運転停止を命じる判決を下した元裁判官、樋口英明氏、そして小出裕章氏にご寄稿いただきました。

きょうと同じ明日がくる保証はありません。猶予はない、と考えるべきです。原発を廃絶しなければ、この国の破滅は必至です。

2024年3月
季節編集委員会

3月11日発売 〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年春号 能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年春号(NO NUKES voice 改題)

能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

《グラビア》能登半島地震・被災と原発(写真=北野 進

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 能登半島地震から学ぶべきこと

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 地雷原の上で踊る日本

《報告》井戸謙一(弁護士・元裁判官)
 能登半島地震が原発問題に与えた衝撃

《報告》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 珠洲・志賀の原発反対運動の足跡を辿る

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 「大地動乱」と原発の危険な関係

《講演》後藤秀典(ジャーナリスト)
 最高裁と原子力ムラの人脈癒着

《報告》山田 真(小児科医)
 国による健康調査を求めて

《報告》竹沢尚一郎(国立民族学博物館名誉教授)
 原発事故避難者の精神的苦痛の大きさ

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表
 命を守る方法は国任せにしない

《報告》大泉実成(作家)
 理不尽で残酷な東海村JCO臨界事故を語り継ぐ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
《検証》日本の原子力政策 何が間違っているのか《2》廃炉はどのような道を模索すべきか

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
すべての被災者の人権と尊厳が守られますように

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈後編〉

《報告》漆原牧久(脱被ばく実現ネット ボランティア)
「愛も結婚も出産も、自分には縁のないもの」311子ども甲状腺がん裁判第八回口頭弁論期日報告

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
本当に原発は大丈夫なのか

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
日本轟沈!! 砂上の“老核”が液状化で沈むとき……

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
松本人志はやっぱり宇宙人だったのか?

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈23〉
甲山事件五〇年目を迎えるにあたり誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈中〉

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
能登半島地震と日本の原発事故リスク 稼働中の原発は即時廃止を!
《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(志賀原発に反対する「命のネットワーク」)
《六ヶ所村》中道雅史(「原発なくそう!核燃いらない!あおもり金曜日行動」実行委員会代表)
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◆はじめに

菅義偉前首相は2020年10月の所信表明演説でCO2など温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにすると宣言した。その後、日本政府は自動車産業においては電動化し、2030年代半ばにはガソリン車の新車販売を廃止するという方針を打ち出している。

電気自動車(EV)は確かに走行中はほとんどCO2を発生しない。だから「人為的CO2温暖化説」に基づいて欧米諸国はEVを強力に推進する。EVは2020年には726万台(新車の9.5%)生産され、21年に比べて7割増大した(2023年4月9日付け京都新聞)という。日本の自動車メーカーは出遅れているが、EV化を急ぐ。

しかし、そもそもIPCC(気候変動に関する政府間パネル)などが主張する「人為的CO2温暖化説」は正しいのか。また、電気自動車(EV)はCO2削減に役立つのか、さらにEV化に伴う大幅な電力需要の増大が岸田政権の打ち出す「原発の最大限活用」につながっている問題点について考えたい。

◆「人為的CO2温暖化説」に科学的根拠があるか

前述の「実質ゼロ宣言」を受けて2021年11月、衆参両院も全会一致で「気候非常事態宣言」を採択。「1日も早い脱炭素社会の実現をめざす」とした。「脱炭素」の根拠はIPCCの「人為的CO2温暖化説」(以降CO2説)であるが、これに対して科学者の中には「科学的根拠が薄弱なまま政治的に引き回されている」(小出裕章『隠される原子力・核の真実』)などの意見が根強い。

確かに19世紀後半以降、温暖化の傾向は見られ(150年間で1度程度の上昇)、CO2は増大している。しかし、地球はこれまで温暖化と寒冷化を繰り返してきた。そして気温の高い時、CO2の濃度は高い。その理由は、温暖化により海洋に溶けていたCO2が大気中に放出される結果、CO2が増大するのである。「CO2説」は原因と結果を取り違えている(近藤邦明『温暖化の虚像』電子書籍)。

そして、「気候変動」についても十分な検証が必要である。温暖化による「台風の巨大化」について、池田清彦は「気象庁のデータを全部調べてみたが、日本では台風の数は傾向として徐々に減っているし、大きさも小さくなっているし、被害総額も昔の方がうんと大きかった」(池田清彦『環境問題の嘘 令和版』2020年MdN新書)と述べる。

このように「CO2説」は科学的根拠が薄弱な上、「気候変動」も統計による事実と異なっている。しかし、「脱炭素」を名目にEVに多額の補助金、減税が注がれている。そして、日本政府が「脱炭素」の根拠とするIPCCの提言の最大の問題点は、化石燃料に代わる「クリーンエネルギー」として、再エネ発電と共に原発を推奨していることである。

◆EVでCO2は減らせない

「CO2」説の是非はさておいて、EV化によってCO2は減らせるのか。確かにEVは走行中はCO2を出さないが、充電する電源は、77%が化石燃料を用いた火力発電である。(2018年度資源エネルギー庁)。

ガソリンエンジン車のエネルギー効率(燃料の燃焼熱のうち、自動車駆動に利用できるエネルギー)は20%台である。

一方、EVに火力発電による電力を充電して使用する場合、火力発電のエネルギー効率を35%として送電や車載リチウムイオン電池に対する充電・放電損失を考慮すると、やはり20%となり、ガソリン車と同程度となる。

しかしEVに搭載するリチウムイオン電池の重量は日産のEV「リーフ」では300kg以上もある。EVの重量はガソリン車よりも30%程度重いため、火力発電所で投入される化石燃料は30%程度多くなる。

また、リチウムイオン電池の製造には大量の電力が必要なことなどを総合的に判断すると、ガソリン車よりもEVの方がCO2放出量は多くなる(近藤邦明『工業文明の持続可能性について』2023年)。

このようにEVは「脱炭素」を名目に推進されているにもかかわらず、かえってCO2放出量を増やしてしまう。(つづく)

本稿は『季節』2023年秋号掲載(2023年9月11日発売号)掲載の同名記事を本通信用に再編集した全3回の連載記事です。

▼大今 歩(おおいま・あゆみ)
高校講師・農業。京都府福知山市在住

3月11日発売 〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年春号 能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

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能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

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《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
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《志賀原発》藤岡彰弘(志賀原発に反対する「命のネットワーク」)
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《東海第二》久保清隆(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
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《3月のことば》望郷 あの津波から十三年……(鹿砦社カレンダー2024より。龍一郎揮毫)

3月になりました ── 。

「1月は去(い)ぬ、2月は逃げる、3月は去る」と言いますが、1月、2月はあっというまに過ぎてしまいました。

年度末3月、慌しい日々が予期されますが、一日一日を精一杯過ごしたいものです。

今年も3・11がやって来ようとしています。

意に反し故郷を離れざるをえなくなった方々、きょうも故郷に想いを馳せておられるのでしょうか。胸が痛みます。

東日本大震災以降も本年正月の能登半島地震まで幾度か大きな地震がありました。

たとえば熊本地震。しかし熊本は今、時々メディアでも報じられているように未曾有の好景気に沸いています。

先日帰郷しましたが、街は活気に満ちています。

一方フクシマはどうでしょうか ── 残念ながら帰郷できない方も多く、故郷は(一部を除き)総じて廃れているようです。

やはり原発事故による放射能汚染があるのとないのとでは復旧・復興の度合いが決定的に違うのでしょうか。

あまり知られていませんが、ここ兵庫県西宮市は、29年前の阪神大震災で1126人の方が亡くなるほどの打撃を受けました(被害は神戸ばかりではありません。西宮、芦屋を忘れないで!)。それでも、「そんなことがあったのか」と思うほどの復旧・復興いたしました。原発事故があれば、そうはいかなかったのではないでしょうか。

能登半島は幸いに原発事故はありませんでした。おそらく復旧・復興は順当に進むのではないかと思っています。

豊かな自然と資源、海産物にも恵まれています。原発が爆発し放射能汚染が発生したならば、それも台無しです。フクシマも豊かな自然に恵まれていましたが、それも原発事故が台無しにしました。

一日も早いフクシマの復旧・復興を願わずにおれませんが、未曾有の原発事故故に困難な道のりの13年でした。被災された皆様、意に反し故郷を離れておられる方々の、この13年のご苦労を想起すると涙が出てきます。

3・11に発行される反(脱)原発雑誌『季節』も、私たちがフクシマの惨状に想いをいたし、私たちなりに決意を込めて創刊して、やがて10年が経とうとしています。1号も黒字にはなっていませんが、発行停止は考えていません。

今や老境に入った私が生きている間にどれほど復旧・復興するのか、同じ国に住む者としてあたたかい眼差しで見続けていきたいと思っています。

(松岡利康)

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年3月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年冬号

能登半島の地震で大勢の被災者が避難生活を余儀なくされているなか、一時期は避難所でコロナウイルスはじめインフルエンザ、ノロウイルスなども増大した。

以下は、3年前の3月、鹿砦社発行の反原発誌『NO NUKES voice』27号(2021年3月11日発売。現在は『季節』に誌名改題)に寄稿した記事で書いた、コロナ蔓延中は原発再稼働をやめろという裁判での原発コンサルタント佐藤暁氏が提出した「意見書」の一部である(尾﨑美代子「コロナ収束まで原発の停止を!」)。ぜひ今こそ、読んでほしい。今現在も能登半島の避難所はこういう状態ではないのか?

◆東京東京ドーム44個分の避難所が作れるのか?

 

いまから3年前、2021年3月に発売された『NO NUKES voice』Vol.27 《総力特集》〈3・11〉から10年 震災列島から原発をなくす道

2020年6月2日「新型コロナウイルス感染拡大を踏まえた感染症の流行下での原子力災害時 における防護措置の基本的な考え方について」を出した。それによれば、「自宅などで屋内退避を行う場合には、放射性物質による被ばくをさけることを優先し、屋内退避の指示が出されている間は、原則換気は行わない」としている。ここでの「自宅等」には、家屋の倒壊・損壊などで自宅におれず、移動した避難所なども含まれる。

また福井県の「新型コロナウイルスに備えた避難所運営の手引き」では、避難所のスペースについて、一般避難者については、「床に養生テープ等で、1人当たり4㎡以上のスペース、通路は幅2mを確保」、「ほかの感染症(ノロウイルス、新型インフルエンザ)対策も考慮するなら、一人当たり5.5㎡以上が望ましい」とし、濃厚接触者・感染が疑われる者の場合は「専用スペース、動線を確保できるかどうか事前に確認(他の避難者と一切交わらないことが望ましい)「2棟以上の建物がある場合」「農耕接触者や感染が疑われるもののみを収容する建物を決定」となっている。つまりコロナ感染予防対策を徹底するためには、従来1人あたり2㎡とされたスペースの2倍以上のスペースを確保しなければならないということだ。

これを、美浜原発が事故をおこしたと仮定した場合で算定すると、美浜町のPAZ及びUPZの人口37万9446人に必要な避難所のスペースは、379446人×5.5㎡=2086953㎡となり、東京ドーム(46755㎡)44個・6個分となる。このような避難所を確保することは、事実上不可能だ。

◆通常の原発運転でも危険が拡大

こうした原発事故からの避難と避難生活のなかで、放射能防護とコロナ感染拡大防止対策が対立する問題は、平常時に原発で働く作業員や運転員にもかかってくる。

昨年(2020年)4月14日、九州電力・玄海原発の特定重大事故等対処施設(いわゆテロ対策施設)の建設工事に従事していた作業員1名がコロナに感染、その後事務所社員1名の感染も判明し、九州電力は工事を中断、約300名の職員の出勤を見合わせたことがあった。

同じ4月27日には、東電の柏崎・刈羽原発でも感染者が発生し、工事の8割が中断することがあった。原発では、通常の運転時で1日約1500人、定期点検時には1日約3000人の作業員が働くことになるが、通勤時の車両、待機場所、脱衣所、休憩室など、いずれも3密状態を強いられている。

福井県の原発へは、関西など感染者が多い地域からの作業員も多い。しかも重層的下請け構造で、4、5次の末端業者では、作業員の健康状態などまともに把握されていないのが現状だ。

そんな中、先の玄海原発で1月24日までに次々と感染者を出すクラスターが発生したため、約400名の作業員を出勤停止にした。これが原発事故時であったならば、「工事の遅れ」などでは済まされない事態となったであろう。

◆過酷事故を起こした原発の暴走を止められるのか?

原発事故を起こしてしまった際の緊急時対策所がどのような状態になるか、今回仮処分の申し立てを行った美浜原発3号機を例に検証してみる。昨年7月20日に提出された「新型コロナウイルス感染拡大防止対策と原発事故対応が両立しないことについて」と題された準備書面によれば、美浜原発3号基の、緊急時対策所の要因は、重大事故などに対処するために必要な指示を行う要員等34名と、原子炉格納容器破損等による工場等外への放射性物質拡散を抑制するための対策に対処するために必要な要員36名の計70名とされている。

一方、緊急時対策所の延床面積326㎡のうち、緊急時対策本部要員34名が使う「本部スペース」は約84㎡で、ソーシャルでスタンスの2メートルの距離を取るとすれば、現状の5倍超の427・04㎡の面積が必要となる。それが確保できない場合、要員らが次々と感染し、事故対応ができなくなり、事故を起こした原発は制御不能のきわめて危険な状態に陥らざるを得ない。

大飯原発3、4号機、高浜原発1~4号機も同様だが、さらに迅速な事故対応を迫られる現場では、怒鳴り声や大声が飛び交うのは、福島の事故で経験したことだ。2メートルのソーシャルデイスタンスを取りながら小声で指揮などしていては、原発の暴走は止められないだろう。

◆コロナ禍で原発を動かす危険性

今回の仮処分の申し立てでは、申立書と同時に原子力コンサルタント・佐藤暁氏の意見書「パンデミック期間中の原子力発電所の運転継続に関する妥当性についての考察」が提出されている。

ここで佐藤氏は、地震など自然災害が発生した際の、コロナ対策と原発事故対応の困難さを「難度の高いジャグリング」に例えている。

「パンデミックは、原子炉事故の対応も自然災害の復旧活動もすべてを覆い、「3蜜」を見つければ、たちまちそこをクラスターの発生個所としてしまう。しかし、在宅勤務だけで事故対応も災害復旧も進むはずはなく、結局これは、とても難度の高いジャグリングである。原子力災害の被災者、自然災害の被災者、そして感染者の3個の球を、どれも地面に落とさないよう器用に回し続けなければならないのだが、少し手元は狂うとあっというまに3個とも落ちてしまう」と。

さらに佐藤氏は、こうも訴える。

「パンデミックも自然災害も人間がコントロールできないが、唯一コントロールできる原発事故のリスクであるのだから、原発をどうしても諦めないにしても、せめて手の中にすでにパンデミックという1個の球があるとき、原発事故の発生リスクを排除し、もう1個がこれに加わるのを予防するという案に合意できないか」と。
債権者の一人・水戸喜世子さんは、「コロナ禍にあって、一向に原発に言及しない国・自治体、そして電力会社の人権感覚に改めて深刻な危機感を抱いたのが、提訴しないではいられなかった動機だ」と話しておられた。

「パチンコ屋に営業自粛を迫るのであれば、被害が桁違いに大きい原発の営業自粛を何故求めないのか?」。

こうした、実に素朴な疑問から提訴を考え出した。この仮処分が申し立てられなかったら、多くの人たちが、コロナ禍でも原発事故の危険性に気付かされなかったかもしれない。

裁判資料を読みこめば読み込むほど、不安は増幅し、1秒でも早く原発を止めなければならないと確信する。原発事故も収束できないこの国が、コロナを収束できるはずもなく、ずるずる両方の収束を先延ばしにしていたら、もうこの国は終わりかもしれない。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年冬号

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

◎鹿砦社HP https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000733

◆「安全な地層処分」は不可能

地層処分は2000年に法律で定められたが、問題は地下埋め捨てで人間環境や生態系から隔離できるかどうかである。これについて専門家から強い反対の声が、上がった。

2023年10月30日、地質学など地球科学者300名が連名で「日本に適地はない」との声明を発表した。

日本列島ができてから4000万年、この地は世界有数の変動帯に位置する。この地殻変動の激しい地に、10万年もの間埋設物を安全に保持することができる地層は存在しない、あっても私たちには分からない。10万年経ってみて動かなかったと分かる場所があったとしても、それが今の時点では科学的に見通せないのである。

声明では「日本列島は複数のプレートが収束する火山・地震の活発な変動帯」と指摘し、すでに施設の立地場所を選定するなど日本よりも先行している北欧諸国などと同列に扱い、工学的な技術を使えば安全性が保証されるなどと決めつけるのは「論外」と批判している。

例えば活断層の位置づけだ。私たちが知ることができる活断層は、地震により地表面に何らかの痕跡を記したものだけである。大きな地震を起こした断層でも、地上まで達しなければ見えないので活断層とは認識できない。したがって、既知の断層近傍を除外しても何の意味もない。

火山についても同じである。10万年間、地層に貫入しないとする根拠はどこにあるのか、また、現在の火山火口から15キロ離れていれば安全との根拠はどこにあるのか。

変動帯である日本列島は、常に火山フロントが動いている。地下のマグマの挙動もすべてつかんでいるわけではないし、将来もできない。


◎[参考動画]放射性廃棄物の最終処分場 「活断層のある場所は避ける」など条件案を了承(2022年6月8日)

◆「地層処分」を白紙にし本当の議論を

地上での管理は困難であるとの前提で、人間環境から隔離する方針の下に地層処分を決めたが、隔離できる確証もないままに方法だけが議論されてきた。

今立ち戻るべき地点は、高レベル放射性廃棄物処分の方法をどうするのかではなく、原子力をどうするかだ。すでに地層処分どころか、使用済燃料を貯蔵するところがひっ迫している。

再処理工場では3400トンの使用済燃料プールがいっぱいになっている。各地の原発でもプールが数年でいっぱいになるところが出てくる。貯蔵容量の80%を超える原発が出現しており、「リラッキング」と称して限界までプールに押し込める危険な対策さえ行っている。

使用済燃料プールがいっぱいになると、新しい燃料を貯蔵するスペースがなくなるため、原発は稼働できなくなる。2023年8月、中国電力は関西電力と共に「中間貯蔵施設」として山口県上関町の上関原発建設予定地に隣接する敷地を貯蔵施設として打診してきた。建設に向けた調査を実施する意向を町に伝えたのである。

関西電力は、今年度中に福井県内の原発の使用済燃料を県外に搬出する先を明らかにしなければ、高浜1号機など40年を超える原発の運転継続を認めないとの福井県との約束があるため、再処理工場への搬出、中間貯蔵施設の立地、原発内での乾式貯蔵計画など、原発を運転するためにありとあらゆる手段を講じようとしている。

このような行為は、核のごみを増やすだけで、地域に対立と混乱をもたらし、解決がさらに困難になる。核燃料サイクル政策を中止し、様々な段階にある核のごみについて、どのように対応するのかを1つ1つ考えなければならない。

原発が動き続ける限り、際限なく核のごみは増え続ける。原発を止めること、再処理も止めることが第1に必要だ。脱原発が実現しても、すでに発生した使用済み核燃料をはじめ、再処理によって生じた高レベル放射性廃液やガラス固化体、それ以外の再処理廃棄物やTRU廃棄物など、核のごみの処理処分は残る。現在の原発もまた、すべて核のごみになるし、福島第一原発も当然含まれる。

それらについて「こうすれば良い」といったわかりやすく誰もが納得できる解決法はおそらくない。これまで電源立地を地方に押しつけ、電力エネルギーを消費してきた都市にも応分の責任を負ってもらわなければならないが、そのような議論はおそらく紛糾するだろう。

これら議論の紛糾、それぞれの主張を出し合うことで、本当の問題解決の糸口が見えてくるだろう。

この国では「国民的議論」は起きたことがない。いつも一部の専門家や政治家、官僚や行政が何事も決めて押しつけてきた。この構造を変えていかなければ、何も解決しない。そのことだけは確かである。(終わり)

◎山崎久隆 核のごみを巡る重大問題 日本で「地層処分」は不可能だ
〈1〉震災後も核燃料サイクルが残った
〈2〉再処理工場は稼働できない
〈3〉科学的根拠に乏しい経産省「科学的特性マップ」の異常さ
〈4〉放射性廃棄物「地層処分」を白紙にし、本当の議論を

本稿は『季節』2023年冬号掲載(2023年12月11日発売号)掲載の「核のごみを巡る重大問題 日本で『地層処分』は不可能だ」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。共著に『核時代の神話と虚像』(2015年、明石書店)ほか多数。

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号

通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

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◆ガラス固化体の地層処分を押しつける「科学的特性マップ」

ガラス固化体埋設立地点については、日本のどこが「適地」であるかを示す地図が2017年9月に経産省により公開された。これを「科学的特性マップ」という。

 

[全国]科学的特性マップ(出典=経産省資源エネルギー庁)

しかしこの地図に科学的根拠は乏しい。200万分の1という荒い地図では、適地と判断した理由はほとんど分からない。機械的に海岸線から一定の距離に線を引き、火山エリアとして火口周辺15キロを除外した程度にしか見えない。活断層に至っては長さの100分の1の幅を除外したというのだが、何の根拠もない。

例えば、三浦半島が全域「好ましい地域」とされているように見えるが、ここには関東大震災を引き起こした断層があり、多くの活断層が半島を切り裂いている。一体どうして「適地」になるのか。

糸魚川静岡構造線(糸静線)がある新潟県糸魚川市姫川付近も「適地」とされている。糸静線はフォッサ・マグナの西縁にあたり西南日本と東北日本が現在の位置に移動した時に形成された大断層である。「糸静線の北端は新規の断層により北側が500㍍以上落ち込んでおり、『糸魚川』地域の海岸付近における糸静線は地下深部に埋没されていると推定」そして「現在も傾動隆起の傾向」(産総研2017)とされている。つまりずっと活動を続けている。こんな地域が「適地」なはずがない。

この地図は結局地層処分を前提として、どこが良いかといっているに過ぎない。そのような仕掛けで立地地点の自治体に立候補させたり、全国的な議論を巻き起こそうとしても不可能だ。

[北海道]科学的特性マップ(出典=経産省資源エネルギー庁)

[東北]科学的特性マップ(出典=経産省資源エネルギー庁)

[関東・中部]科学的特性マップ(出典=経産省資源エネルギー庁)

[関西・近畿・中国・四国]科学的特性マップ(出典=経産省資源エネルギー庁)

[九州・沖縄]科学的特性マップ(出典=経産省資源エネルギー庁)

◆「地層処分」とは何か

ガラス固化体は、強い放射線を出すため、人間の環境から10万年以上隔離しておかなければならない。そこで「多重バリアシステム」という仕組みで隔離する。

この多重バリアは、ガラス固化体と金属製容器(オーバーパック)と緩衝材(容器を包む粘土)の組み合わせで形成される「人工バリア」と周囲の地層により遮蔽する「天然バリア」からなる。

放射性物質とガラスを混ぜて固めれば放射性物質の漏えいが防止でき、オーバーパックは約1000年間は地下水とガラス固化体の接触を防ぎ、腐蝕した後は緩衝材と天然バリアが放射性物質の地下水への漏えい、環境中の移動を押さえるとされる。

しかし10万年規模の遮蔽性能など実験で確認できるわけもなく、さらに地層の天然バリアに至っては、仮説の域を出ない。

原子力発電環境整備機構(NUMO)は地層処分を行う公益法人だが、そのホームページでは地下深部について「物質を長期にわたり安定して閉じ込めるのに適した場所」として埋め捨てを合理化している。

埋め捨てを国の方針としたいきさつについて、ある論文から紹介する。「1999年11月に日本原子力研究開発機構が原子力委員会に提出した『わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性・地層処分研究開発第2次取りまとめ』では、地質環境・工学技術・安全評価の3つの観点から日本でも地層処分が可能であるとした。

それを受けて、2000年6月に『特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律』が成立し、10月には処分事業の実施主体として原子力発電環境整備機構(NUMO)が設立された。

『第2次取りまとめ』は日本の地質環境について、地震・断層活動、火山・火成活動、隆起・沈降・浸食、気候・海水準変動を検討し、『将来10万年程度にわたって十分に安定で、かつ人工バリアの設置環境および天然バリアとして好ましい地質環境がわが国にも広く存在すると考えられる』と結論した」(学術の動向「変動帯の日本列島で高レベル放射性廃棄物地層処分の適地を選定できるか?」石橋克彦2013より)。(つづく)


◎[参考動画]“核のゴミ”全国適正マップ 初の一般向け説明会(2017/10/17)

◎山崎久隆 核のごみを巡る重大問題 日本で「地層処分」は不可能だ
〈1〉震災後も核燃料サイクルが残った
〈2〉再処理工場は稼働できない
〈3〉科学的根拠に乏しい経産省「科学的特性マップ」の異常さ
〈4〉放射性廃棄物「地層処分」を白紙にし、本当の議論を

本稿は『季節』2023年冬号掲載(2023年12月11日発売号)掲載の「核のごみを巡る重大問題 日本で『地層処分』は不可能だ」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。共著に『核時代の神話と虚像』(2015年、明石書店)ほか多数。

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医師や専門家を中心に昨年設立された「ワクチン問題研究会」が1月11日に開いた会見を取材しました。会見では明快かつ具体的に、いわゆるmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンについて警鐘を鳴らしています。本誌レポートはさらに噛み砕いた解説を試みたものです。現在もコロナウイルスについて、“第10波”や新たな変異株「JN.1」は感染力が強い、といった報道がなされています。しかし会見で村上康文理事(東京理科大学名誉教授)は、「コロナはリスクが非常に低かったと私は思っています。亡くなった人にPCR検査をして、陽性であればコロナによる死としている」と指摘。また新規陽性者とワクチン接種に関する厚生労働省のデータでは、ほとんどの年齢層でワクチン接種者の方が陽性率が高かったという事実が示されています。

厚労省の予防接種健康被害救済制度に基づく申請受理数は1万90件で、認定件数は5965件、うち死者数は423件(1月26日)。約3000件は未審査のため、審査されたうち85%以上が認定されています。もちろんこれは氷山の一角であり、本誌で何度も指摘しているとおり、日本以外の世界中で追加接種はストップしています。感染を防げず危険だと厚労省が認めるワクチンの接種がなぜ続けられているのか。そしてコロナワクチンを「成功」であるとして、mRNAワクチンは、がんやインフルエンザへの応用が目指されています。もはや問題は「コロナワクチン」ではありません。その危険性を解説した本誌レポートは、すべての人々に読んでいただきたい内容です。

自民党裏金事件を契機として解散した安倍派について、本誌に寄稿した政治評論家の本澤二郎氏は「検察と官邸の国民を欺く策略」と指摘。本澤氏は1月8日に自宅が火災に見舞われた故・田中角栄元首相との関係を起点に“安倍・清和会”とは何かに迫ります。裏金事件では、その役割を果たさない検察組織にも、追及を向けるべきです。

能登半島で起きた地震被害に対する岸田政権の対応の遅さが、東日本大震災・熊本地震における発生直後の復旧スピードと比較され、「岸田政権は菅(直人)政権、安倍政権以下」との指摘がなされています。これに対し、地形の条件が加味されていないといった反論がなされているものの、そうであればこそ、愛媛県の伊方原発をはじめ「半島の原発」の巨大リスクが注目されるところです。ただし、「半島」を加味しても今回の対応は遅すぎるようです。

国の意向を大学運営に直接反映させる国立大学法人法改悪。「稼げる大学」というと、以前は企業に好都合な人材を輩出するイメージだったと思うのですが、すでに大学自体、それも国立大学が稼ぐことを考えるような事態です。大学教員・学生らが猛反発する中、日経新聞昨年12月18日付記事は「稼げる大学はだめなのか 科学研究に『楽園』なく」。高学歴層の多くがこの問題に無関心なのはいったいなぜなのか。自分たちが取り組んだ「学問」が国や企業に売られてしまうことになぜ危機感を持たないのかが疑問です。

その他今月号では、前号に続き「ゲノム編集食品」の危険性を専門家の意見をふまえレポート。1月の台湾総統選や、アメリカ大統領選についても、他メディアで報じられない事実をお伝えしています。全国書店で発売中です。ぜひご一読ください。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年3月号

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電通・靖国・笹川財団・CIA 安倍派とは何か
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3回接種で特定のがんが多発 ワクチン問題研究会が明かす「メッセンジャーRNA」の真実
企業が学問・教育を崩壊させる第二の日本学術会議問題 国立大学法人法改正
権力による教育内容への管理統制強化 加速する「教育デジタル化」の陥穽
問われる「こども家庭庁」委員の関与「ベビーライフ事件」と国際養子縁組の闇
高GABAトマト、マッスル・マダイ、ウイルス耐性ブタ……「ゲノム編集」は生態系も人類も損壊する
「松本人志」「旧ジャニーズ」で見えた変わらぬ大手メディアの忖度体質
米国マスコミが自主検閲で隠してきた2023年の重大ニュースTop25
シリーズ 日本の冤罪47 鶴見事件

連載
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
ニュースノワール 岡本萬尋
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
キラメキ★東京漂流記 村田らむ
裏から世界を見てみよう マッド・アマノ
権力者たちのバトルロイヤル 西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

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