《書評》『司法が原発を止める』、樋口英明裁判官と井戸謙一裁判官の対話、人を裁くただならぬ特権の舞台裏

黒薮哲哉

本書は、原発の操業を差し止めた二人の裁判官による対談集である。自らが執筆した原発訴訟の判決、法曹界に入った後に肌で感じた最高裁事務総局の違和感、裁判官として交友のあった人々の像など、大半の日本人には知りえないエピソードが登場する。

筆者にとって法曹界は取材対象の一分野である。と、いうのも2008年から09年にかけた次期に、読売新聞社から3件の裁判を起こされ、総計約8000万円を請求された体験があるからだ。これら3件の係争の背景には、新聞業界で尋常化している「押し紙」問題を告発した事情がある。「押し紙」による損害は年間で、少なく試算しても1000億円を超える。当然、ジャーナリズムの重要なテーマである。

巨大メディアが、日本を代表する人権擁護団体である自由人権協会の代表理事、喜田村洋一弁護士を代理人に立て、フリーランス記者をつぶしにかかった事件を、司法がどう裁くかを、自分の問題として考えた。

本書を一読して印象深かったのは、職業人として心血を注いだ判決を書いている裁判官の姿である。本書の対談者である井戸謙一氏と樋口英明氏が身に付けている高い職業倫理については、人伝いに聞いていたが、判決文を執筆する際に言葉の細部にまで神経を走らせているとまでは想像しなかった。たとえば次のくだりである。

「(樋口)福島第一原発事故が起こった後に井戸さんの判決を読み返して、本当に驚いた。言っていることはもちろん正しいですし、判決文の中に「砦」という言葉が出てくるのです。原発の運転を停止する際に必須な「止める・冷やす・閉じ込める」についてです。「最後の砦である機能も失われて」という表現。あの部分が強く印象に残っています。あそこは光って目立つ感じです。また、すごく丁寧に一つひとつの論点について説示してあるのが印象的でした。なぜこの判決が最高裁で破られたのか、それが不思議です。」

「(井戸)私は控訴審(高裁)に向けて判決文を書きましたよ。論理の中に穴があってはいけないので、とにかく穴がないように細かく細かくチェックして、あの文章を作っていました。」

井戸氏は、自らがかかわった身代金目的の誘拐事件では、「殺意が確定的か、未必的かという事実認定と量刑を死刑にするか無期懲役にするか」をめぐって、他の2人の裁判官と、「月曜日から金曜日まで、毎日、夜の11時ごろまで合議」を繰り返したという。正常な裁判官にとって、判決は丹精込めた「作品」にほかならない。

これに対して、筆者が30年近く取材してきた「押し紙」裁判の判決には、杜撰なものが多数を占める。おそらく結論が先に決まっていることがその原因だと思われる。たとえば数年前に日本経済新聞の販売店主が、「押し紙」裁判(京都地裁)で敗訴した事件がある。筆者は、原告から主要な裁判資料を入手して、内容を確認した。その結果、「押し紙」の損害を受け続けた原告が弁護士のアドバイスを受け、十数回にわたって内容証明で「押し紙」の仕入れを断っていたことなどが分かった。しかし、裁判官(合議)は、内容証明をもとに店主と日経新聞社が話し合ったから、過剰になっていた新聞は、押し売りされた部数には該当しないという奇妙な論理を組み立て、原告の請求を棄却していた。

また、「押し紙」裁判では、判決の直前になって、最高裁事務総局が不自然な裁判官の人事異動を行うことも日常茶反になっている。原発裁判と同様に、筆者は裁判そのものの公平性を疑わざるを得ない場面に繰り返し遭遇してきた。それゆえに、本書の内容が新鮮に感じられた。司法の原点をみたような気がした。

裁判官には、人を裁くただならぬ特権が付与されている。当然、司法ジャーナリズムは、裁判官を監視しなければならない。そのためには何が必要なのか。筆者は、判決という一種の「作品」を公けの場で批評することが重要な意味を持つと思う。当然、判決の著者を公表しなければならない。裁判の提訴と判決だけを報道することが、司法ジャーナリズムではない。

本書の企画は、新しい司法ジャーナリズムの試みとしても意義深い。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年7月19日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

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『季節』夏・秋合併号、野田正彰・著『流行精神病の時代』、好評発売中です!

鹿砦社代表 松岡利康

この夏、私たちが心血を注いで編集した2点の新刊が発売になりました。『季節』はお盆前に、『流行精神病の時代』はお盆明け20日に、それぞれ発売になりました。

詳しい説明は省きますが、下記の詳細な内容をご覧になれば、これら2点の新刊に、私たちがいかに力を入れたかがわかるでしょう。

『季節』では、なんと言ってもわれわれの世代のカリスマ、山本義隆さんの23ページにわたる力の入った講演録は必読です。これだけで一冊のブックレットになるほどの分量です(悪徳商法=岩波ブックレットがいかにボッているか)。

『流行精神病の時代』は、『紙の爆弾』『季節』に折に触れ寄稿したものを中心に現代の病理を衝いています。

土日は書店に足を運びお買い求めになるか、あるいはAmazonなどのネット書店、また鹿砦社HPなどでご購入下さい! よろしくお願い申し上げます。

『季節』2025年夏・秋合併号
(NO NUKES voice改題 通巻43号)

A5判 164ページ(巻頭カラーグラビア4ページ+本文160ページ) 

定価 990円(税込み) 紙の爆弾増刊 8月8日発売 

《特集》核兵器と原発を廃絶するために

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
[報告]国と洗脳

山本義隆(科学史家)
[講演]核発電の根本問題 核ナショナリズムがもたらしたもの

まさのあつこ(ジャーナリスト)
[報告]原子力ムラ・無責任の実態 事故処理の「責任者」は誰なのか

樋口英明(元福井地裁裁判長)
[報告]本当に「司法が原発を止める」ために 井戸謙一さんとの新刊対談本を語る

後藤秀典(ジャーナリスト)
[報告]東電株主訴訟 損害賠償一三兆円の一審判決が覆された理由

後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
[報告]原発の技術的特性と裁判の論理〔1〕 原発回帰への国策に対抗する道

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
[報告]柏崎刈羽原発に迫る危機 地震と津波で「原発震災」が起きる

星野幸彦(柏崎市議会議員)
[報告]《第三弾》避難対策は全国どこでも「絵に描いた餅」
 再稼働に前のめりの柏崎刈羽原発 避難計画ではなく被ばく計画ではないのか

村田三郎(医師)
[インタビュー]弱者の側に立ち、反核・反原発を闘う[前編]

水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
[報告]台湾「原発ゼロ」達成の夜、台北で二度泣いた

豊田直己(フォトジャーナリスト)
[報告]ガザからフクシマへ

北村敏泰(ジャーナリスト)
[報告]十五年目に入った福島第一原発事故被害地から
 欺瞞の“復興”による被災者の分断と抑圧

田口 茂(UNSCEAR 2020/21報告書検証ネットワーク・世話人)
[報告]隠蔽された被ばくと甲状腺がんの真相
 原子力災害伝承館は真実を伝えよ

森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
[報告]避難者と住民票

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
[報告]《屁世滑稽新聞からの警告》
 火山の近所の原発再稼動で「地方早世」……の巻

板坂 剛(作家/舞踊家)
[報告]米田哲也 万引き逮捕の衝撃

平宮康広(元技術者)
[報告]大型原発vs大型石炭火力発電、および小型原発vs小型石炭火力発電〈1〉

原田弘三(翻訳者)
[報告]脱炭素の罠 「脱炭素マインド」刷り込みによる原発推進の企み

大今 歩(高校講師・農業)
[報告]原発「最大限活用」でいいのか 第七次エネルギー基本計画を問う

再稼働阻止全国ネットワーク
原発再稼働の逆流に抗して 全国各地の創意ある活動
《福島》鴨下美和(福島原発被害東京訴訟原告)
《柏崎刈羽》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟 事務局長)
《東京電力》中井はるみ(忘れまい3・11!反戦・反原発の会/千葉)
《東京電力》佐々木敏彦(東京電力本店合同抗議実行委員会)
《東京電力》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《柏崎刈羽》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東海第二》久保清隆(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《中東和平》斎藤なぎさ(たんぽぽ舎運営委員)
《書評》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク)
[反原発川柳]乱鬼龍選

松岡利康 今後の『季節』について

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0FJXW1RPD/

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『流行精神病の時代』
野田正彰(精神科医)著

四六判 カバー装 本文248ページ  

定価1980円(税込み)8月20日発売  

「発達障害」と「精神病遺伝説」
──精神科医、製薬会社、NHK、学校の病気創りによって、無数の子どもが犠牲になっている。
日本で「精神医療」と呼ばれているものの実相とは。

目次

第一章 「優生保護法」は日本精神医学の常識
 一・一 現代に息づく優生保護法の思想
 一・二 業界による隠蔽
 一・三 優生保護法をめぐるお祭り訴訟

第二章 教科書と「精神疾患」
 二・一 精神病遺伝説を常識とした学校教育
 二・二 偏見に加担する教科書と法
 二・三 偏見改まらぬ教科書
 二・四 開かれた精神医療をめざして
 二・五 地域精神医学の現状

第三章 旭川少女殺人事件と「発達障害」
 三・一 「発達障害」という流行精神病の作り方
 三・二 旭川女子中学生いじめ凍死事件 雪の少女へのレクイエム
 三・三 雪の少女の哀しみ
 三・四 隠蔽のための「再調査」

第四章 事件と映画に思う
 四・一 自死とは世界の消去なのか 大阪放火事件に思う
 四・二 映画『どうすればよかったか?』を観た人へ

第五章 原発事故被害者の精神鑑定
 五・一 原発被害者が死ぬ前に見た景観
     [精神鑑定書1]菅野重清さん  
     [精神鑑定書2]大久保文雄さん
     [精神鑑定書3]Aさん
 五・二 原子炉との深夜の対話

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315827/

日本で唯一の脱(反)原発情報誌『季節』2025夏・秋合併号が8月8日発売です! 

鹿砦社代表 松岡利康

すでにご報告させていただいている通り、本誌反(脱)原発情報誌『季節』創刊10周年/月刊『紙の爆弾』創刊20周年にあたり、4・5東京、7・12関西と二つの「鹿砦社反転攻勢の集い」は、お陰様で盛況裡に終了いたしました。

新型コロナによって厳しい経営環境の下での集いでしたが、当社の出版活動を支持される多くの皆様のご参加、ご支援にて次のステージへ再出発することができました。皆様方のご参加、ご支援、本当にありがとうございました。皆様方のご支援に応え、必ず復活いたします。この件につきましては、すでにご報告させていただいていますので、これに留めます。

そして、明日8月8日にお届けする『季節』夏・秋合併号ですが、合併号ということもありかなり増ページとなりました。とりわけ今号では、5月7日に衆議院第一議員会館にて行われた、われわれの世代のカリスマ、元東大全共闘代表で物理学者の山本義隆さんの長大な講演録が入りました。必読です!

また、本誌創刊10周年記念出版とし昨秋刊行予定だった、季節編集委員会・編『3.11の彼方から──「季節」(NO NUKES voice)セレクション集』ですが、前回お知らせしましたように、ようやく完成の目途が立ち、9月初め発売予定で急ピッチで編集作業を進めています。大幅に遅れての刊行となったことをお詫びいたします。

ところで、これも前回申し述べましたが、実際に編集作業に入ってみると、当初想定した以上にページ数が嵩み、一冊では収まり切れなくなりました。そこで3分冊に分けて出版することにしました。今回は、前身の『NO NUKES voice』創刊号から14号までから選りすぐり収録いたしました。ご予約よろしくお願い申し上げます ! 

なお、ページ数の大幅増により定価アップとなりますが、以前にご注文された方は、当時予告した金額のままで結構です。

(松岡利康)

amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0FJXW1RPD/

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原爆被爆と原発被曝に詳しい村田三郎医師に「被ばく」の話を聞いてきた

尾﨑美代子

5月2日、阪南中央病院の村田三郎医師に取材に行ってきました。ずっと前からお話を聞きたいと思っていた方。4月20日、「チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西」が主催する「チェルノブイリ原発事故39年の集い 被爆80年 核も戦争もいらない」に村田先生が講演を行うというので参加し、ご挨拶させてもらっていた。そのあとすぐに連絡し、お時間をとってもらうことになった。

村田三郎さん 高知県出身、大阪大学医学部卒業後、1978年から阪南中央病院(大阪府松原市)に内科医として勤務。広島・長崎の原爆被爆者、水俣病患者の検診・診療、原発で働く被ばく労働者の実態調査や労災認定などを行う。著書「福島原発と被曝労働」(共著)ほか

近鉄南大阪線布忍駅下車、徒歩8分にある阪南中央病院。そこで3時から4時半までびっしりお話をお聞きした。村田先生は、水俣病患者さん、広島・長崎の被ばく者の診療・治療にあたったほか、原発の被ばく労働者の治療や労災認定のお手伝いを行ってきた。今日はとりわけこの被ばく労働問題についてお聞きしてきた。お話の内容はまたどこかで報告させてもらいます。

村田先生、とにかく優しい方。病院へのアクセスもめっちゃ詳しく説明してくださったうえ、お会いするなり、「わかりましたか」と聞いてくださる。優しさのその原点は、生まれ育った高知県で、教師だった父親から言われ続けた「弱い人の立場で行動しろ。そうしていたら間違いはない」という言葉を信じてやってきたからだという。その言葉を信じ、子どもの頃、漠然と医師か弁護士になろうと考えていたという。両親は村田先生に「医師になれ」とはいわないものの、クリスマスプレゼントに野口英世など医師の伝記の本をくれたことも影響しているかなと話されていた。

◆釜ヶ崎では「原発の仕事に行った」と話す労働者に会ったことがない

一番最後の質問で、私が釜ヶ崎で25年店をやっていて、建設業界のほとんどの職種の労働者を知っているが、原発の仕事に行ったという労働者はほとんどいない。土工さんで掘削作業をした人でも「ママ、阿倍野ハルカス作ったの、俺やで」と自慢したがるのに、「敦賀原発行ってきたわ」などという人の話はほとんど聞かない。それは何故なのだろうか?という話を村田先生とあれこれお話させてもらった。

村田先生のお話とは別なのだが、初めて行った阪南中央病院、病院の前の道路を挟んだ向かい側に全国チェーンを展開する「スギ薬局」があり、病院の隣に「うめ薬局」があった。私はうめ薬局のほうが、スギ薬局に対抗して出来たものと思った。「おいおい、スギに対抗してうめかよ」と。それを村田先生にお聞きしたところ、うめ薬局が先なのだという。その後、病院前に広大な空き地ができ、何が出来るかと思ったら、スギ薬局が進出したのだという。まあ、どうでもいい話だが、ちょっと驚いた。うめにスギかよ。

阪南中央病院
阪南中央病院の向かい側にあるうめ薬局とスギ薬局

◆国と電力会社は原発推進のために仲間だって「殺す」

あと、村田先生の動画が何かをみてて、先生が「もんじゅのナトリウム漏れ事故では自殺者も出ていますよね」と話しておられたので、生意気だと思ったが、ひとこといわせてもらった。「先生、もんじゅのナトリウム漏れ事故で自殺者が出たと話してましたが、あれ、自殺ではないですよ。殺されてますよ」と。

村田先生は驚いたように「何か、資料や記事ありますか?」と聞かれたので、「私はずっと気になっていたので、直接亡くなった動燃の職員・西村成生さんの遺族、奥様の西村トシ子さんに何度もお会いしました。トシ子さんと息子さんは、今も裁判続けてますよ。私も裁判を傍聴したことがありますし、トシ子さんの家に伺って裁判資料全部見せてもらいましたよ」と話し、その内容をまとめたものを送らせてもらうと約束した。

原発は被ばく労働で大量の労働者を「殺して」いるが、そのうえ国と電力会社の原発政策に邪魔になる人、あるいは推進するためには、仲間だって「殺す」ということ、それを伝えたかった。

村田医師、本当に素晴らしい方だった。

もんじゅ、西村職員の事件について書いた記事(1~6)はコチラから読めます。どうぞ、ご一読を。

尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

『紙の爆弾』2025年5月号に寄せて 『紙の爆弾』編集長 中川志大

5月号では、開戦3年を過ぎたウクライナ戦争を“終わらせない勢力”の存在をジャーナリスト・田中良紹氏が指摘。現在を含め、戦争終結に向かう動きを封じ込めてきたネオコン勢力と、その影響を強く受けつつ世界を席巻する“リベラル・デモクラシー”に切り込みました。日本国内では、自公少数与党をなぜか打倒しようとしない野党勢力を国際政治学者の植草一秀氏が分析します。なぜ、昨年衆院選で国民が自公に鉄槌を下したにもかかわらず、政権交代の機運が早々に途絶え、自公政権存続の方向性が直ちに定まったのか。今国会の焦点のひとつであった高額療養費制度改悪とアベノミクスの関係、またそれが凍結ののちに、次期参院選の重要なキーポイントとなること。また企業団体献金禁止を妨げる野党勢力についても明らかにしています。

全国で「財務省解体デモ」が盛り上がる中、財務省が持つ“異常な権力”について、『消費税という巨大権益』『本当は怖い税金の話』などの著作を持つ元国税調査官・大村大次郎氏が徹底解明。「日本の財務省は先進国ではありえないほどの巨大な権力をなし崩し的に保持している」と断言する大村氏の言葉は、問題意識を持つ人のみならず必読です。さらに“減塩信仰”の嘘と「塩の効用」を神戸・ナカムラクリニックの中村篤史医師が解説。健康に関する情報としてはもちろん、私たちが日々いかに“洗脳”の中にあるか、考えるきっかけとなるものです。

本誌発売後に開催される「大阪・関西万博」で、石毛博行事務総長は“成功”の基準を問われ、「想定来場者の2820万人は想定であって目標ではない」と答えています。そもそも万博は、宣伝して客を呼ぶ商業イベントではないとは思っていましたが、人が来ないということは、関心を持たれていないということ。つまり、計画当初から問われていた「開催の意義」が、万博そのものにはやっぱりなかったということです。結局のところカジノ万博であり、加えて今月号で植草一秀氏は「産廃と淡路島」に言及しています。福島第一原発事故で国と東京電力旧経営陣を免罪した最高裁判事の顔ぶれを明らかにしていますが、危険が明らかな原発や失敗が明らかな万博を止められない政治・社会の構造をなんとか変えることこそ、いま求められていることです。

本誌はついに創刊20周年。編集長を務める私自身が「右も左も」どころかゼロから出発し、試行錯誤を繰り返してきました。いま、書店の減少がなお加速し、コンビニも雑誌を扱わない店が増えました(本誌はもともと書店のみですが)。一時は隆盛を見せた保守系雑誌も発行部数を減らしているといいます。ただし、経済的な意味での需要の減少は避けられないとしても、社会的需要=言論としての価値は増えていると感じています。課題は山積みです。『紙の爆弾』はそこにより深く楔を打ち込むとともに、読者に迫るメディアであろうと考えています。  全国書店で発売中です。ぜひご一読をお願いします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

『紙の爆弾』2025年 5月号
A5判 130頁 定価700円(税込み)
2025年4月7日発売
戦争を終わらせないのは誰か ウクライナ戦争の真実 田中良紹
自公少数与党と対決しない 維新・国民民主・立憲民主の裏側 植草一秀
元国税調査官・大村大次郎インタビュー 財務省を解体すれば日本は確実に良くなる
道義平和国家・日本の矜持を取り戻せ!シリア「政権の空白」で何が起きているのか 木村三浩
減塩で糖尿病・がん・心筋梗塞・肥満リスク増「塩の効用」を考える 中村篤史
SNS言論封じ法「情報流通プラットフォーム対処法」の言論統制 足立昌勝
「米露同盟」と「ヨーロッパ再軍備」アメリカの多国籍軍NATOの崩壊 広岡裕児
福島第一原発事故「国も東電経営者も責任なし」と判断した最高裁判事たち 後藤秀典
「コメ価格急騰」への影響も 誘拐被害者が語ったミャンマー詐欺拠点の実態 片岡亮
トランスジェンダー論争にみるキャンセル・カルチャーの実態 井上恵子
「Black Box Diaries」伊藤詩織監督映画上映妨害は言論弾圧だ 浅野健一
マスコミ幹部を飼い慣らした「みのもんた伝説」本誌芸能取材班
鎌倉「ヴィーナスカフェ」問題から闇を覗く ハマのドンと横須賀のドン 青山みつお
NHK廃止のための思想の準備作業「公共放送」の「公」をラジカルに問い直す! 佐藤雅彦
環境省の“犯罪黙認”沼津市による「特定有害物質」不法投棄問題 青木泰
シリーズ日本の冤罪 耐震偽装事件 片岡健
『紙の爆弾』創刊二十周年にあたって——創刊の頃、そして現在

〈連載〉
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER Kダブシャイン
「ニッポン崩壊」の近現代史 西本頑司

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/
◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DM4Y59YX/

『季節』2025春号をお届けするにあたって

『季節』2025春号がようやく出来上がってまいりましたのでお届けいたします。本日21日書店発売です。

◆『季節』2025春号の発行が10日遅れましたことをお詫びいたします。

本来3月11日発行の『季節』2025春号ですが、10日遅れ3月21日発行(17日発送)となりました。申し訳ございません。例年3・11当日の発行で、今年もそのつもりだったのですが……。これは財政的な問題とは直接関係はございません。編集作業が遅れ、遅れ自体は2、3日のことでしたが、今年の2月は2日少なく、また年度末で印刷・製本の予定ラインから一端外れたことで歯車が狂い10日遅れの発行となりました。とはいえ、工程管理が緩かったのは事実で弁解の余地もございません。何卒ご容赦お願いいたします。

◆「4・5鹿砦社反転攻勢の集い」に総結集し、また圧倒的なご支援をお願いいたします!

コロナ禍で当社は、それまで左団扇(うちわ)状態から一気に奈落の底に落とされました。コロナ前には(会社と個人合わせ)常に数千万円ほどの蓄えがあり、「エンジェル」になって、資金難に喘ぐいくつものグループにカンパしたり、ライターさんらには前払い、先払いしたり、3・11直後にはポンと日本赤十字社に100万円寄付したり、さらにはМ舎というミニコミ書店には50万円も資料代名目で本をまとめ買いしたり、沖縄にルーツを持つ高校の同級生(故人)がライフワークとして始めた島唄野外ライブ「琉球の風」に数年にわたり出資したり……。それは、松岡が「名誉毀損」容疑で逮捕された際に、多くの方々に助けられたことの恩返しという意味もあってのことでした。

しかし、あれだけあった蓄えも、コロナ以降しばらくしてなくなりました。一時は回復したこともありましたが、再び落ち込み現在苦境にあることを隠しません。出版界のみならず全産業の中小零細企業がそうなので、当社も例外ではありませんが、50数年続いてきた鹿砦社の歴史、なかんずく『紙爆』20年、『季節』10年の歴史を守り抜き後進につないでいかねばなりません。

このかん私たちは、4・5「鹿砦社反転攻勢の集い」を開催することになり、総力で準備に努めています。

4・5の集いを、単なる記念日にするのではなく、逆に低迷打破→反転攻勢の絶好の機会にしたいと考えています。俗に言えば「ピンチをチャンスに変える!」ということです。特に今回は定期購読者、会員、社債引受人、寄稿者などご支援の皆様方に多くご参加いただき直に強く叱咤激励いただきたく望みます。

本号の発行が遅れ直前のお知らせになりますが、一人でも多くの皆様方のご参加を望みます。ご参加を希望の方は今すぐお申し込みください。また、賛同金、ご祝儀、カンパなどもどしどしお寄せください!

鹿砦社はこれまで、栄華を極めたり、逆に地獄を見るほど落ち込んだり、浮沈の激しい歴史を繰り返してきましたが、私たちは必ず復活します! 『季節』も必ず持続します! 今後も圧倒的なご支援を!

2025年3月 
株式会社鹿砦社代表 松岡利康
『季節』編集長   小島 卓

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2025年春号(NO NUKES voice 改題 通巻42号)
紙の爆弾 2025年4月号増刊
A5判 132ページ(巻頭カラー4ページ+本文128ページ)
定価770円(税込み) 2025年3月21日発売

《特集》原発被曝を問い直す 福島十四年後の実相

[グラビア]原発事故の後始末 汚染土2兆2000億円の現場(写真・文=山川剛史

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
[報告]福島原発事故被害者の被曝と原子力ギャング

今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
[講演]飯舘村の放射能汚染のこれまでとこれから

山川剛史(東京新聞編集委員)
[報告]迫る汚染土の再利用 解決の道はあるのか

伊藤延由(飯舘村 元「いいたてふぁーむ」管理人)
[報告]「被ばくの実態」調査から原発事故の実像を測る

尾﨑美代子(本誌編集委員/西成「集い処はな」店主)
[報告]自宅の放射線測定記録に疑惑あり
いのちにかかわるデータは捏造されたのか?

子ども脱被ばく裁判の会
[報告]呆れ果てても、諦めない! 子ども脱被ばく裁判で明らかになったこと
 片岡輝美(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
十年間の闘いを経て
 水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
裁判によって知らない事実が明らかになった
 井戸謙一(「子ども脱被ばく裁判の会」弁護団共同代表)
この裁判が生み出したいくつかの成果
 樋口英明(元福井地裁裁判長)
真実はこれを求める人にのみ与えられる

和田央子(放射能拡散に反対する会)
[報告]原子力マフィアが主導する福島汚染土再生利用

後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
[報告]《検証》もしも柏崎刈羽原発が攻撃されたら……

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
[報告]英国の核燃料サイクル政策の大転換

山崎隆敏(元越前市議会議員)
[報告]万博と原子力 「いのち輝く未来」と「核ゴミ・被曝労働」の矛盾撞着

《第2弾》避難対策は全国どこでも「絵に描いた餅」
日野正美(女川原発再稼働差止訴訟原告団事務局長)
[報告]女川原発の避難計画は不備だらけ! 住民無視の運転を中止せよ!
土光 均(米子市議会議員)
[報告]県庁所在地に立地する島根原発で大災害が起きた時
松江市民に逃げ場所はあるか?

森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
[報告]原発避難者にとっての14年 その絶望と希望

原田弘三(翻訳家)[報告]「脱炭素」の本質

佐藤雅彦(翻訳家/ジャーナリスト)
[報告]NUKE WARS――原子力帝国の逆襲
    原子力は地域社会に「核分裂」をもたらす

板坂 剛(作家/舞踊家)
[報告]再び 三島由紀夫生誕百年に想う

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
[報告]山田悦子の語る世界〈26〉最終回 絶望の時代《今》を生きる意味〈下〉
平宮康広(元技術者)
[報告]水冷コンビナートの提案〈3〉

再稼働阻止全国ネットワーク
 東電に原発うごかす資格なし すべての原発の再稼働阻止
 フクシマは終わっていない

《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち)
「本当のフクシマを知ってください」 西日本スピーキングツアー
《福島》橋本あき(福島県郡山在住)
 東電福島原発事故の残響は続く
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
【ネット署名】深刻な原発事故を起こした東京電力による
 柏崎刈羽原発の再稼動を許すなの声を結集しよう
《北海道》瀬尾英幸(泊原発立地四町村住民連絡協議会)
 泊原発は必ず止める
《静岡》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
「基準津波25.2メートル」に対応するために、またまた防波壁かさあげ!
《福井》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
 関西電力(関電)に、約束を履行させ、全ての老朽原発を廃炉に!
《東海第二》横田朔子(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
 日本原電も東海第二原発も崖っぷち!~東海第二原発の中央制御室で火災発生~
《東海第二》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
 防潮堤の修復案を示せない原電は、廃炉事業に専念するよう求めます
《書評》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク)
 小田実の『被災の思想 難死の思想』── 本の〈発掘〉①

[反原発川柳]乱鬼龍

使用済み核燃料の行き場はありません! 関電は、またも詭弁、奇策で誤魔化そうとしています! 関電に約束を履行させ、老朽原発を廃炉に! 木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)

◆原発を運転すれば、危険で、行き場のない使用済み核燃料が発生します

燃料プールは、原発より地震に脆弱で、新しい使用済み核燃料を保管する燃料プールが崩壊すれば大惨事に至ります

原発を運転すると、核燃料中に、運転に不都合な各種の核分裂生成物(死の灰)、マイナーアクチニド(プルトニウムより重い元素)などが生成し、原発の制御が困難になります。一方、燃料被覆管に腐食や変形が生じます。したがって、核燃料を永久に使用することは出来ず、一定期間(3~5年)燃焼させると、新燃料と交換せざるを得なくなり、使用済み核燃料が発生します。

使用済み核燃料は、発生直後には膨大な放射線と熱を発しますから、燃料プールに水冷保管して、放射線と発熱の減少を待たなければなりません。

そのプールが満杯になれば原発を運転できなくなるため、電力会社や政府は、放射線量と発熱量が減少した(例えば、10年以上水冷保管した後の)使用済み核燃料を乾式貯蔵に移して、プールに空きを作ることに躍起です。

出来た空間には、高放射線量、高発熱量の新しい使用済み核燃料を入れますが、その燃料プールが、地震などで崩壊すれば、大惨事に至ります。なお、燃料プールは、原発本体とは比較にならないほど脆弱で、「むき出しの原子炉」とも呼ばれています。

電力会社は、使用済み核燃料の搬出先として、再処理工場(青森県)の稼働を願望していましたが、去る8月23日、日本原燃は27回目の再処理工場の完成延期を発表しました。乾式貯蔵に移した使用済み核燃料の行き場はありません。

使用済み核燃料の発生源・原発を全廃しましょう!

◆使用済み核燃料に関して約束反古を繰り返す関電

関電は1997年に「使用済み核燃料は福井県外に搬出する」と、当時の福井県知事に約束しました。核燃料再処理工場が稼働すれば、青森県に搬出できると楽観しての約束でした。しかし、1997年に予定されていた再処理工場の稼働は、延期を重ね、未だに稼働の見込みはありません。そのため、関電も、「福井県外搬出」の約束を繰り返し反古にしています。

関電は2021年にも、福井県知事に「使用済み核燃料の中間貯蔵地を2023年末までに福井県外に探す。探せなければ老朽原発を停止する」と約束しましたが、未だに候補地を見出すことはできていません。老朽原発・美浜3号機、高浜1、2号機の再稼働への福井県知事の承認を得るための空約束でした。

関電は、約束期限が迫った2023年6月、保管する使用済み核燃料のわずか5%程度をフランスに持ち出す計画を示し、「県外搬出という意味で、中間貯蔵と同等」としました。また、8月、唐突に上関町に中間貯蔵地建設のための調査を申し入れ、約束不履行を取り繕おうとしました。

さらに、10月には、再処理工場の活用、中間貯蔵施設確保を盛り込み、いかにも近々使用済み核燃料の福井県外搬出が可能であるかのように見せかけた「使用済み核燃料に関するロードマップ」を発表しました。老朽原発の運転を継続するための詭弁で、実現性が全くない「絵に描いた餅」です。

◆関電、使用済み核燃料の原発敷地内での乾式貯蔵に布石

ロードマップで、関電は「使用済み核燃料搬出の円滑化のために原発構内に乾式貯蔵施設の設置を検討する」とし、福井県内での乾式貯蔵に向けての布石を打ちました。関電の燃料プールはもうすぐ満杯になり、原発を停止せざるを得なくなるため、プールに空きを作ろうとする策略です。

乾式貯蔵を許せば、永久貯蔵になりかねません。

◆再処理工場の27回目の完成延期で、ロードマップは破綻

関電がロードマップで示した願望は、昨年8月、日本原燃が27回目の再処理工場の完成延期(約2年半)を表明したことによって破綻しました。

それでも、関電は開き直って、「ロードマップを本年度末までに見直す。実効性のある見直しができなければ、老朽原発・高浜1、2号機、美浜3号機を運転しない」としました。しかし、その場しのぎの空約束と約束反古を繰り返してきた関電の言動は、信用できるものではありません。

今回も、「使用済み核燃料のフランスへの搬出量を倍増させる(合計:ウラン使用済み燃料380トン、MOX使用済み燃料20トン)」などの小手先の奇策、稼働延期を繰り返し稼働の見込みが極めて薄い再処理工場(青森県)への2028年度からの搬出(198トン)などの詭弁を弄して、誤魔化そうとしています。許してなりません。

なお、関電の3原発の使用済み燃料プールには、全容量4450トンのうち87%に当たる3850トンが保管されています(2024年12月)。したがって、フランスや青森県への搬出が、関電の思惑通りに進んだとしても、搬出量は、全使用済み核燃料のごく一部に過ぎません(15%程度)。

また、関電の使用済み核燃料の多くは高燃焼度燃料であり、MOX燃料も増え続けていますが、これらの核燃料の再処理は極めて困難です(硝酸での溶解が困難な白金族などの成分が多く含まれ、発熱量も大きい)。

以上を勘案すると、今回の関電の奇策、詭弁は、約束履行に見せかけて、老朽原発の運転継続を狙うだけでなく、近々満杯になる使用済み核燃料プールに空きを作って、全ての原発の運転継続を可能にするための謀略であると言えます。

使用済み核燃料の行き場はありません。関電に約束通り老朽原発の停止を実行させ、使用済み核燃料の発生源・原発の全廃への突破口としましょう!

◆福井県議会議長に、陳情書を提出しました!

「老朽原発うごかすな!実行委員会」は、関電の使用済み核燃料搬出問題が議事となる福井県議会(2月17日開会)での慎重かつ公正な審議を求めて、県議会議長に、2月12日、下記の陳情書を提出しました。同様な陳述書は、「オール福井反原発連絡会」からも提出されました。

陳情書
福井県議会議長
宮本俊様

老朽原発うごかすな!実行委員会「使用済み核燃料の県外搬出に関するロードマップ」の実効性のある見直しができない関西電力(関電)に、危険極まりない老朽原発の廃炉を実行するよう求めて下さい

県議会議長、県議会議員の皆様には、弛まぬ福井県政へのご尽力に、敬意を表します。

さて、関電は、一昨年10月10日、使用済み核燃料の福井県外搬出に関するロードマップを発表し、杉本達治福井県知事は、わずか3日後にこれを容認しています。関電は、このロードマップの中に、青森県の核燃料再処理工場の活用、中間貯蔵施設の確保を盛り込み、いかにも近々使用済み核燃料の福井県外搬出が可能であるかのように見せかけています。

しかし、このロードマップは、日本原燃が、昨年8月23日、「核燃料再処理工場の完成目標を2026年度内に変更する」と、27回目の完成延期(約2年半)を表明したことによって破綻しました。

それでも、関電の森望社長は開き直って、9月5日、杉本福井県知事と面談し、使用済み核燃料の県外搬出に向けた「ロードマップ」を、「本年度末までに見直す。実効性のある見直しができない場合、高浜1、2号機、美浜3号機を運転しない」と述べています。

しかし、現在までに、「使用済み核燃料の行き場」に関して、その場しのぎの空約束と約束反古を繰り返してきた関電の言動は、信用できるものではありません。今回も「使用済み核燃料のフランスへの搬出を若干上乗せする」などの小手先の奇策で誤魔化すと危惧されます。

なお、再処理工場の稼働は極めて困難であること、例え稼働したとしても過酷事故の確率が高いことは、多くが指摘するところです。また、関電は、再処理できない高燃焼度の使用済み核燃料および使用済みMOX燃料も抱えています(これらは、今後増大します)。

したがって、使用済み核燃料の行き場はなく、福井県内に永久あるいは長期保管される可能性は大と言わざるを得ません。関電は、約束通り老朽原発・高浜1、2号機、美浜3号機の廃炉を実行し、使用済み核燃料の発生源・原発の全廃に向かうべきです。

このような状況に鑑み、福井県議会に以下を陳情いたします。

陳情項目

[1]関電に、「本年度末までに、ロードマップの実効性のある見直しができない場合、高浜1、2号機、美浜3号機を運転しない」との約束を即時履行させてください。このとき、「実効性のある見直し」とは、「関電の保有する、あるいは今後発生させる使用済み核燃料の全ての県外搬出が見通せるもの」であることです。

[2]関電は、「使用済み核燃料の搬出の円滑化」を口実に「乾式貯蔵施設」を建設しようとしています。しかし、今までの搬出の実績からして、「乾式貯蔵施設」はなくても、使用済み核燃料は搬出できます。「乾式貯蔵施設」の建設は、永久あるいは長期福井県内貯蔵への道を開くことになりかねません。「乾式貯蔵施設」の建設を認めないでください。

[3]高浜原発1号機は運転開始後すでに50年を超え、高浜2号機、美浜3号機も、もうすぐ50年超えの「超老朽原発」です。老朽原発では、圧力容器の脆化、配管の腐食、減肉、電源ケーブルの劣化が進んでいます。また、老朽原発には、建設時には適当とされたが、現在の基準では不適当と考えられる部分が多数ありますが、全てが見直され、改善されているとは言えません。例えば、地震の大きさを過小評価していた時代に作られた構造物の中で交換不可能なもの(圧力容器など)があります。関電に、危険極まりない「超老朽原発」の即時廃炉を求めて下さい。

[4]私たち「老朽原発うごかすな!実行委員会」は、福井県内だけでなく、関西、中部など全国の会員で成り立っています。そこで、福井県外の住民の立場から、福井県議会に以下をお願いいたします。

原発および使用済み核燃料保管施設が過酷事故を起こせば、その被害は、福井県内だけでなく、広く関西、中部などにおよぶことは、福島原発事故の教訓から容易に推測されます。例えば、京都府や滋賀県の大部分は若狭の原発から70km以内にあり、高浜原発、大飯原発は福井県庁のある福井市より近距離にあるのみならず、特に冬場は、若狭の風下になります。

したがって、福井県議会や福井県知事の決断は、福井県外の多くの住民の命と生活に関わります。福井県議会は、周辺府県の住民の「原発のない、自然エネルギーのみで成り立つ社会」を求める声にも十分に耳をお貸し下さい。

2025年2月12日記

◆お願い

「老朽原発うごかすな!実行委員会」は、若狭での「脱原発・反原発」の声の拡大を目指して、また、「関電の約束違反を糾弾し、老朽原発の廃炉」を求めて、以下の行動と集会を企画しています。ご支援、ご参加をお願いします。

■3.22(土)~23(日)
若狭一斉チラシ配り(愛称:拡大アメーバデモ)

「老朽原発うごかすな!実行委員会」は、長期にわたって若狭や周辺地域で、チラシの各戸配布(愛称「アメーバデモ」)を繰り返し、住民との対話を重ねてきました。その中で、多くの住民が「原発は無い方がよい」と考え、圧倒的多数が「老朽原発稼働反対」であることを知りました。

昨年の能登半島地震以降は、原発推進の声はほぼ皆無です。能登半島地震によって、原発は地震に脆弱で、地震と原発過酷事故が重なれば、避難も、屋内退避も困難を極めることを実感されたのでしょう。

3月22、23日、あなたも参加してみませんか?
関西、福井などから配車の予定です。

■3.31(月)
使用済み核燃料の行き場はないぞ
関電は約束守れ!美浜集会
とき:3月31日(月)13時より
ところ:関電原子力事業本部前(JR美浜駅より徒歩3分)
集会後町内デモを行います
関電の「使用済み核燃料搬出先に関する実効性のあるロードマップ」の提出期限である3月31日、関電原子力事業本部前(美浜町)で、関電の約束違反を糾弾し、老朽原発停止の実行を求めます。

▼木原壯林(きはら・そうりん)
老朽原発うごかすな! 実行委員会。1967年京都大学理学部化学科卒。理学博士。専門は分析化学、電気化学、溶液化学。熊本大学、京都工芸繊維大学名誉教授等を歴任。京都悠悠化学研究所主宰。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2025年春号(NO NUKES voice 改題 通巻42号)
紙の爆弾 2025年4月号増刊
A5判 132ページ(巻頭カラー4ページ+本文128ページ)
定価770円(税込み) 2025年3月21日発売
 
《特集》原発被曝を問い直す 福島十四年後の実相
 

[グラビア]原発事故の後始末 汚染土2兆2000億円の現場(写真・文=山川剛史

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
[報告]福島原発事故被害者の被曝と原子力ギャング

今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
[講演]飯舘村の放射能汚染のこれまでとこれから

山川剛史(東京新聞編集委員)
[報告]迫る汚染土の再利用 解決の道はあるのか

伊藤延由(飯舘村 元「いいたてふぁーむ」管理人)
[報告]「被ばくの実態」調査から原発事故の実像を測る

尾﨑美代子(本誌編集委員/西成「集い処はな」店主)
[報告]自宅の放射線測定記録に疑惑あり
いのちにかかわるデータは捏造されたのか?

子ども脱被ばく裁判の会
[報告]呆れ果てても、諦めない! 子ども脱被ばく裁判で明らかになったこと

片岡輝美(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
十年間の闘いを経て
水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
裁判によって知らない事実が明らかになった
井戸謙一(「子ども脱被ばく裁判の会」弁護団共同代表)
この裁判が生み出したいくつかの成果
樋口英明(元福井地裁裁判長)
真実はこれを求める人にのみ与えられる

和田央子(放射能拡散に反対する会)
[報告]原子力マフィアが主導する福島汚染土再生利用

後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
[報告]《検証》もしも柏崎刈羽原発が攻撃されたら……

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
[報告]英国の核燃料サイクル政策の大転換

山崎隆敏(元越前市議会議員)
[報告]万博と原子力 「いのち輝く未来」と「核ゴミ・被曝労働」の矛盾撞着

《第2弾》避難対策は全国どこでも「絵に描いた餅」

日野正美(女川原発再稼働差止訴訟原告団事務局長)
[報告]女川原発の避難計画は不備だらけ! 住民無視の運転を中止せよ!

土光 均(米子市議会議員)
[報告]県庁所在地に立地する島根原発で大災害が起きた時
松江市民に逃げ場所はあるか?

森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
[報告]原発避難者にとっての14年 その絶望と希望

原田弘三(翻訳家)[報告]「脱炭素」の本質

佐藤雅彦(翻訳家/ジャーナリスト)
[報告]NUKE WARS――原子力帝国の逆襲
    原子力は地域社会に「核分裂」をもたらす

板坂 剛(作家/舞踊家)
[報告]再び 三島由紀夫生誕百年に想う

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
[報告]山田悦子の語る世界〈26〉最終回 絶望の時代《今》を生きる意味〈下〉

平宮康広(元技術者)
[報告]水冷コンビナートの提案〈3〉

再稼働阻止全国ネットワーク
 東電に原発うごかす資格なし すべての原発の再稼働阻止
 フクシマは終わっていない

《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち)
「本当のフクシマを知ってください」 西日本スピーキングツアー
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[反原発川柳]乱鬼龍

『季節』2025年春号 〈3.11〉に想う── 季節編集委員会

今年も〈3.11〉がやって来ました。──

この頃になるいつも想うのですが、原発事故で狂わされた人の人生、生活、命です。

いまだにフクシマでは棄民政策がなされ、生まれ育った故郷に戻れない人たちも多いです。確かに法律上は戻れることになった町もあるでしょうが、人がほとんどいなくなった町で、どうやって生活していくのでしょうか。

筆者は50歳を過ぎてから、望郷の念が強くなり、中学、高校の同窓会活動に精を出し始めました。多くの同期生もそのようで、いったんは都会へ出ても、かなりの人数が帰郷しています。

フクシマでは、帰るに帰れない人たちが多いです。原発事故を起こした東電に対し、まさに「故郷を返せ!」と叫びたい方も多いでしょう。当時の東電の幹部はどう考え、どう責任を取ろうとしているのでしょうか。いつも素朴な疑問に苛まれます。みずからの意見も公にせず責任も取らず、彼らはひっそりと暮らしているかのように思われます。

昨年10月、当時の東電トップ、勝俣恒久が亡くなりました。一切の責任も取らずに、です。また勝俣死去をマスメディアはほとんど報じませんでした。彼が生前やってきたことの意味の問い直しぐらいやるべきだったのではないでしょうか。

今後、当時の東電の幹部が相次いで亡くなっていくでしょう。責任をどう取るのでしょうか。せめて気持ちだけでも家、屋敷を売って被災者へ寄付するぐらいはやるべきでしょう。被災者はみな人生、生活を狂わされ命を絶った方もいるわけですから──。

ところで本誌も昨年夏・秋合併号で創刊10周年を迎えることができました。本誌は月刊『紙の爆弾』の増刊号として季刊ペースで発行してまいりました。あとの5年は新型コロナとの闘いで苦戦しました。創刊10周年の集いも開く予定が諸事情で開けませんでした。4月5日に『紙の爆弾』20周年と共に、記念の集い(具体的には巻末参照)を開催することになりました。両誌とも、今後10年、20年と続かせようと願って。関東周辺にお住いの方はぜひご参加をお願いいたします。

■『季節』2025春号の発行が10日遅れます。

本来3月11日発行の『季節』2025春号ですが、10日遅れ3月21日発行(17日発送)となりました。申し訳ございません。例年3.11当日の発行で、今年もそのつもりだったのですが……。これは財政的な問題とは直接関係はございません。編集作業が遅れ、遅れ自体は2、3日のことでしたが、今年の2月は2日少なく、また年度末で印刷・製本の予定ラインから一端外れたことで歯車が狂い10日遅れの発行となりました。とはいえ、工程管理が緩かったのは事実で弁解の余地もございません。何卒ご容赦お願いいたします。

2025年3月 季節編集委員会

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2025年春号(NO NUKES voice 改題 通巻42号)
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[反原発川柳]乱鬼龍

《緊急声明》今こそ「原発依存社会」への暴走を止める市民運動の大高揚を! 「第7次エネルギー基本計画」の閣議決定を受けて 木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)

2月18日、石破自公内閣は、原発依存度を「可能な限り低減する」とした第6次までのエネルギー基本計画をかなぐり捨て、「原発最大限活用」を明記した「第7次エネルギー基本計画」を、国会審議をすることもなく、閣議決定しました。この基本計画では、既存原発の再稼働、40年超え運転を加速し、60年超え運転の拡大、原発建て替え、新設も画策しています。

東電福島原発事故の悲惨、能登半島地震の教訓をないものとして、「原発依存社会」を定常化しようとするものです。原発は、地震に脆弱で、地震に伴って、原発過酷事故が起これば、避難や屋内退避が困難であることは明かです。

原発は、何万年もの保管を要し、行き場もない使用済み核燃料の発生源でもあります。「第7次エネルギー基本計画」は、現在および未来の人々の命・尊厳・生活を蔑ろにするものです。

なお、自公政権は、原発活用の根拠として、①地球温暖化対策を挙げていますが、原子核に閉じ込められた膨大なエネルギーを解放する原発が温暖化抑制に有効であるはずがありません。また、原発は、建設過程から廃炉、使用済み燃料の処理処分過程まで、あらゆる過程で、二酸化炭素を発生させるのみならず、海水温度を上昇させ、海水中の二酸化炭素の放出も加速します。

一方、②AI活用のために必要な電力を供給するためとしていますが、AI機器の高性能化とも相まって、政府の宣伝するほど大量の電力は不必要との見解も多数です。世界には、自然エネルギーのみでAI電力を賄おうとする国が多数あります。自公政権の「原発ありき」の主張に正当性はありません。

一方、自公政権が、2023年5月末に数を頼んで成立させた「GX脱炭素電源法」の完全施行は、原発運転延長認可の基準の整備などが終了する本年6月6日とされています。完全施行されれば、原発運転期間を「原則40年、最長60年」とした規定を原子炉等規制法(環境省の外局組織「原子力規制委員会(規制委)」の所管)から電気事業法(経産省・資源エネルギー庁の所管)に移し、運転延長を原発推進の経産相が認可するようになります。

また、規制委による再稼働審査の期間や裁判所による仮処分命令での原発停止期間などを「原発運転期間」から除外・上乗せすることで、原発の60年超え運転を可能にしています。「第7次エネルギー基本計画」は、「GX脱炭素電源法」の実態化のための計画と言えます。

◆原発政策で、変貌し続ける自公政権

石破首相は、首相就任以来、原発政策を次々に変節させています。昨年8月の総裁選出馬時には、「原発をゼロに近づけていく」と表明しながら、首相になって以来、岸田政権のエネルギー政策をほぼ踏襲して「原発依存社会」に向かっています。
経団連や経済同友会の主張に迎合・屈服しようとしています。人の命や生活の犠牲の上に、電力会社、原発産業、ゼネコンなどの大企業に税金と電力料金を垂れ流すための政策です。

変節は、石破首相だけではありません。自民党の総裁候補者の内、つい最近まで、原発に関しては慎重派であった河野太郎(元デジタル相)、小泉進次郎(元環境相)の両氏も総裁選では、この主張を取り下げています。

野党の中にも、原発容認、原発推進を掲げる政党もあります。とくに、労使協調路線の電力総連を支持母体とし、議席を増やして政権の行方にキャスティングボートを握る国民民主党は、原発推進を先導すると懸念されます。また、「原発(とくに核融合)推進」を掲げる日本維新の会は議席を減らしたものの、それでも政権の行方の狭間にあり、与野党いづれもが、これに擦り寄ると思われます。

立憲民主党の代表選も昨年9月に行われましたが、4候補者の中に、真っ向から積極的に脱原発を主張する候補はゼロでした。何れもが「避難計画ができていないから原発に賛成できない」程度の姿勢でした。「原発は、避難計画を必要とするほど危険な装置」とは思わないのか?と言いたくなります。

このように、自民党、立民党の変貌は目に余りますが、彼らがいかに変貌し、何を願望しようとも、選挙の都合、政治的思惑あるいは経済的利益で、原発の老朽化を防ぐ技術、安全性を高める技術、使用済み核燃料の処理・処分技術が急に向上することはありません。彼らが変貌すればするほど、原発過酷事故の確率は拡大します。

◆失敗のエネルギー政策の結末が「原発依存社会」への暴走

そもそも、政府や電力会社の「原発依存社会」への暴走は、脱原発の流れに乗り遅れた失敗を取り繕うためです。もし、福島原発事故以降の政権や電力会社が事故の教訓を生かして、原発ときっぱり決別し、自然エネルギーに切り替える政策をとっていたなら、今頃、化石燃料や核エネルギーに依存することなく、電気を供給し、世界の自然エネルギーへの切り替えの流れをリードできていたでしょう。彼らは、エネルギー政策で失敗したのです。自らの失敗を反省せず、更なる原発推進へと暴走する政府と電力会社を厳しく糾弾し、自然エネルギーへの政策転換を求めましょう!

◆自然エネルギーに全面切り替えを!

今、世界は、紆余曲折を経ながらも、原発縮小、自然エネルギーへと向かっています。自然エネルギーのみを利用すれば、①燃料費はほぼゼロですから、コストは原発に比べて圧倒的に安いのは当然です。②地球環境の保全にも有効で、炭酸ガスを増やすこともありません。③大地震が発生しても過酷事故に至りません。また、④自然エネルギーは国際情勢の影響を受けない自前のエネルギーで、エネルギーの自立が可能です。

もとを正せば、人類のエネルギーに対する欲望のために、原子核に閉じ込められた膨大なエネルギーを解放しようとするから、原発過酷事故が起こり、危険極まりない使用済み核燃料が発生するのです。また、地球が数億年かけて地中に蓄えた化石燃料を100年程度で枯渇する勢いで使うから、炭酸ガスが増えるのです。

現在の焦眉の課題・気候問題は、太陽から現在届いている自然エネルギーのみを利用し、原子核や化石燃料に閉じ込められたエネルギーを解放しない社会の実現を求めています。

◆「第7次エネルギー基本計画」の実行を阻止し、「GX脱炭素電源法」を撤廃させましょう!

目に見え、耳に聞こえる市民の行動の高揚によって、混沌化、流動化しながら反動に進む流れを逆流させ、原発のない、人の命と尊厳が大切にされる社会を展望しましょう!

▼木原壯林(きはら・そうりん)
老朽原発うごかすな! 実行委員会。1967年京都大学理学部化学科卒。理学博士。専門は分析化学、電気化学、溶液化学。熊本大学、京都工芸繊維大学名誉教授等を歴任。京都悠悠化学研究所主宰。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年冬号(NO NUKES voice 改題 通巻41号)
紙の爆弾 2025年1月号増刊
A5判 132ページ 定価770円(税込み)

COP28 原発をめぐる2つの動き 「原発3倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意〈4〉気候危機論」と原発の親和性 原田弘三(翻訳者)

◆「気候危機論」と原発の親和性

米国上院で証言を行ったハンセンは実は熱心な原発推進論者である(ハンセン著『地球温暖化との闘いすべては未来の子どもたちのために』日経BP、2012年参照)。

また、「気候危機論」を世界に広めた米国、フランス、イギリスのいずれもが原発推進に強い動機を持つ国である(この三国はCOP28での原発3倍化宣言国とも重なる)ことが物語っているように、「気候危機論」はその起源からして原発推進と強い親和性がある。先に触れたようにIPCCも従前から報告書の中で「原発はCO2を出さないため気候変動対策に有効」との見解を示してきた。それが今回COP28での「気候変動対策のために原発を推進しよう」という世界的合意として結実したのである。

「気候危機論」発祥の歴史的経緯は、「温暖化が地球環境の危機を招く」というハンセン証言以後の「気候危機論」が、1980年代以降の世界経済情勢に対応するために「人為的」に作り出されたイデオロギーであることを示唆している。そのイデオロギーの主要な意図はCO2という金融商品の活用と原発推進にある(本誌2023年夏号「『気候危機』論に関する1考察」、2023年冬号「『気候危機』論の起源を検証する」参照)。

◆「気候変動」対策を騙った原発推進を許すな

COP28が明確な「お墨付き」を与えたことにより、「気候変動」対策を謳った原発推進の動きが今後ますます強まることは間違いない。今年はエネルギー基本計画改定の年である。その中で、経済産業省は今回のCOP28合意を原発推進の口実として最大限活用するであろう。

パリ協定前文には「気候正義」という理念が掲げられている。これは、気候変動の影響や、負担、利益を公平・公正に共有し、弱者の権利を保護するという人権的な視点である。気候変動は人為的に引き起こされた国際的な人権問題であり、この不公正な事態を正して地球温暖化を防止しなければならないとする。つまり「気候変動」への対策は現代世界の不公正を正す活動であり、社会正義の実現だというのだ。

しかし、COP28合意文書はこともあろうに「気候変動対策のために原発を推進しよう」と世界に宣言したのである。究極の環境破壊である原発の推進が社会正義であろうはずがない。地球は温暖化しているのかもしれない。その温暖化にCO2の人為排出が影響しているのかもしれない。

仮にそれが事実であったとしても、温暖化防止のために原発を推進するなどということは救いようがないほど愚かな選択である。COPがそのような愚行を先導しているという現実を直視する必要がある。今回のCOP28の決定は、COPによって推進されている気候変動対策なるものの本質が、旗印に掲げている地球環境保護とは別の所にあることを物語っている。

COPの原発推進論を是認すべき道理などどこにもありはしない。私たち市民は、COP28合意文書は社会正義に反する「誤り」だと正面から批判すべきである。そして私は、福島原発事故という未曾有の核惨事を経験した国の1市民として、人類社会の持続可能性のためには脱原発こそが最優先である、と世界に向けて胸を張って主張したいと思う。

◎原田弘三 COP28 原発をめぐる2つの動き 「原発3倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意
1〉「原発3倍化宣言」という暴挙
2〉「グローバル・ストックテイク」という文書に求められた役割
3〉「気候変動」3つの概念
4〉気候危機論」と原発の親和性

◎本稿は『季節』2024年夏秋合併号掲載(2024年8月5日発売号)掲載の同名記事を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。