東アジア反日武装戦線は警察やマスコミが喧伝するような「極悪人」の集団だろうか。そのメンバーとして全国に指名手配され、長年全国の駅や交番の掲示板に「凶悪犯」のように顔写真を晒されていた桐島聡さん。彼を名乗る男性が神奈川県内の病院で1月29日亡くなったそうだ。報じられる顛末には不可思議が多い。報道を時系列で振り返えると以下のようである。

1月25日、桐島聡と見られる男が入院している旨の情報提供が警視庁になされ、警視庁公安部による男の特定作業が開始された。翌日、男が神奈川県鎌倉市の病院に偽名で入院しているところを警視庁公安部により身柄確保された。男は事情聴取に対して、事件の関係者しか知り得ない当時の状況などについて話したため、警視庁公安部は男が桐島である可能性が高いとしてDNA鑑定を進めた。

病院に入院していながら本人確認もあやふやで「身柄確保」とはどういう意味なのか、法律の素人のには理解しかねる。続いて、

桐島聡と見られる男のDNA型鑑定の結果、桐島の親族と「親族関係矛盾なし」

と判断されたそうである。この男性は1月29日に病院で亡くなった。ここまでが桐島さんを名乗った男性の出現から逝去についての報道だ。

ところで公安警察が発表した

桐島聡と見られる男のDNA型鑑定の結果、桐島の親族と「親族関係矛盾なし」

というあいまいな表現。これはおかしくはないか? 本人特定がほぼ間違いないレベルの現代DNA解析で、「桐島さん本人」だと公安警察が確認できれば、早期に「本人であると判明」と発表するだろう。

亡くなった男性が桐島さんであるとの確証は、DNA鑑定やその後男性居宅の家宅捜査でも得られていない、だから今日に至るも「親族関係と矛盾なし」との表現が訂正されていないのではないだろうか。

ひょっとする理由は分からないがまったくの別人が「自分は桐島だ」と名乗り病院で亡くなった可能性も排除は出来ない。もし、別人であれば当の桐島さんにとって迷惑であろうし、公安警察やマスコミの大失態である。根拠の薄い当局発表や情緒的なマスコミ報道とは異なる視点で、真実を考察する必要はないだろうか。

桐島さんなのか、別人なのかも判然としなかった騒動。殺人鬼のように報じられた桐島さん。桐島さんとされる男性を巡る報道群は、デジタル時代の情報処理速度と共振して、液晶画面からはほとんど消えつつある。長年街頭で指名手配されひどい目にあってきた桐島さん騒動における報道群の過誤(間違い)と、公安警察・マスコミが一体で、がなりたてた露骨な世論誘導には強烈な疑義を禁じ得ない。

桐島さんはたしかに「爆発物取締違反」容疑で1975年に警視庁から全国指名手配されている。でも桐島さんへの容疑は「殺人」ではない。「殺人鬼を見つけた!」如き報道は桐島さんへの「容疑が殺人ではない」のだからまず前提が誤りだ。

東アジア反日武装戦線が展開した一連の企業爆破事件について、時系列やグループ・個人の関係性をまったく知らず(あるいは知っているのに無視して)、すべてを三菱重工爆破事件(死者8人負傷者370名以上)に帰することにより「冷酷無比な爆弾魔」として意識付けようとする報道が現在も続いているが、三菱重工爆破を行ったのは東アジア反日武装戦線「狼」のメンバーである。桐島さんが東アジア反日武装戦線に加わったのは「狼」が三菱重工を爆破したあとだ。つまり桐島さんは、三菱重工爆破事件とはまったく無関係な人物である。

東アジア反日武装戦線を論じるのであれば、当時捜査にあたった公安警察OBを名乗る高齢者の回顧映像や、爆破事件被害者親族の声だけを聴くのでは本質はなにも理解されない。作戦敢行者たちが日本帝国主義の犯罪をみずから受け止め命がけで行動した理由、さらには爆弾を闘争手段として選択した背景、想定外の死傷者を多数出した三菱重工爆破事件のあとどのように煩悶し、それでも戦線からの撤退を選択しなかった決断、そして「狼」に続き「大地の牙」「さそり」が敢えて激流に加わった経緯くらいの基礎知識がないと、報道も感想も論評の域にすら到達しない。

東アジア反日武装戦線の問題意識は見当はずれだったのか? あるいは彼らの作戦から約半世紀を経た現在、彼らが提起した課題は少しでも克服されているのか?

本通信読者の中には上記につき、詳細にあるいは一定程度知識をお持ちの皆さんが多数であると信じるが、もしそうでないかたがおられたら是非『反日革命宣言』を一読されることをお勧めする。

古くは本コラムの掲載元鹿砦社、そして近い所では風塵社から『反日革命宣言』が復刊されている。まだお読みでないだ読者にはぜひ『反日革命宣言』(風塵社)をお読みいただくことをお勧めする(鹿砦社版『反日革命宣言』は在庫がないそうだ。風塵社版も品切れ間近と聞いた)。

『反日革命宣言』(鹿砦社1979年版)と『反日革命宣言』(風塵社2019年版)

▼鹿野健一 (しかの・けんいち)
1965年兵庫県西宮市生まれ。複数の企業と大学に勤務の後、現在はフリーライター。国際情勢・政治・教育・冤罪・原発などに関心を持つ。反原発季刊誌『季節』副編集長。単著『大暗黒時代の大学』(鹿砦社)。共著『オイこら!学校』(教育資料出版会)、『1970年端境期の時代』、『抵抗と絶望の狭間/1971年から連合赤軍へ』(鹿砦社)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年3月号

2月24日、国賠ネットワーク交流集会が東京・水道橋のたんぽぽ舎で開かれます。詳細は下記の案内をご参照ください。

この日は昨年、本社から『日本の冤罪』を出版された尾﨑美代子さんと、本通信にも執筆している鹿野健一(ペンネーム田所敏夫)さんが招かれ『日本の冤罪』について対談が行われます。ご興味のあるかたは是非お出かけくださいますようご案内いたします。ただし、会場の都合上残席はわずかで、先着順とのことです。

『日本の冤罪』出版に当たっては、昨年12月24日に大阪でも集会が行われ、同書に推薦文を寄せていただきた井戸謙一弁護士をはじめ、冤罪事件被害者のみなさんも集まり、大いに盛り上がりました。当日も尾崎さんと鹿野さんの対談が行われましたが時間の関係で10分ほどでした。今回は約1時間にわたる対談が予定されています。

第33回 国賠ネットワーク 交流集会
『日本の冤罪』を語る : 尾﨑美代子さん & 鹿野健一さん
2024年2月24日(土)13:30~17:00 ■スペースたんぽぽ(たんぽぽ舎)

◎国賠ネットワーク https://kokubai.net/

国賠ネットワーク さまざまな国賠裁判を結ぶネットワークは1989年に立ち上げられました。国賠裁判とは、国や自治体の公務員から不当な被害を蒙った人々が、その責任を追及し、謝罪や賠償を求める訴訟です。無実の罪で逮捕・勾留・起訴された冤罪被害者を中心に、国賠を闘う原告や支援グループの、穏やかな連携と支援交流を目指すネットワークです。

◆交流集会 年に一度、それぞれの国賠の当事者・支援者が集まって、互いに報告し、語り合い、情報や知恵を共有する全国的な交流集会です。①東住吉冤罪国賠、②星野獄中死国賠、③大垣警察市民監視国賠、④湖東病院事件・西山国賠、⑤よど号旅券発給拒否国賠&産経新聞損賠、など当事者から現状についての報告を予定しています。

◆特別対論 最新刊『日本の冤罪』の著者・尾﨑美代子さんに、フリーライター・鹿野健一さんがお話を伺います。尾﨑さんは足を使い、渦中の人に会って話を聞き現場に出向き、更には住み込んでその複雑さの中に身を置き考える。このように肌の感覚をとことん味わい、言葉で伝えようとする人は意外に少ない。集会に多くの諸兄姉が参加し、彼女の話に耳を傾けていただきたい。

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

◎鹿砦社HP https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000733

◆京都市長選 ── 自公+国民+立憲 VS 共産+リベラル

任期満了に伴う京都市長選挙が2月4日投開票され、自民、立憲、公明、国民が推薦する松井幸治が当選した。共産党が支援した福山和人は次点であった。

今回の京都市長選、投票に至るまでに野党の体たらくを明示する迷走が告示前に生じていた。各候補者の得票を眺めると興味深い。

松井孝治  17万7454票(37.92%)
福山和人  16万1203票(34.44%)
村山祥栄   7万2613票(15.52%)
二之湯真士  5万4430票(11.63%)
高家 悠    2316票(0.49%)

門川大作前市長は新聞紙上などに登場する際は着物を着用し、和風あるいは京都らしさを演出したかったのかもしれないが、端的に指摘すればオーバーツーリズムを招いた失政により京都市の財政を悪化させた。人口流出は止まらず、「このまま行けば京都市の財政破綻もあり得る」と報道されるほど京都市を滅茶苦茶にしてしまった。

だから門川は京都で評判が悪い。したがって門川の後継者を名乗るだけで候補者が不利であることは明確だったため、各候補者とも「門川市政の継続」を明言しなかった。

◆前橋市長選 ── 自公 VS 立憲+共産+国民+社民

さて、マスメディア的な論評はもういいだろう。同日に群馬県前橋市で市長選挙がおこなわれた。こちらは自民王国群馬県なのに、自民、公明が推す現職が敗れた。

小川 晶  6万0486票
山本 龍  4万6387票

小川は元群馬県議で立憲民主党、共産党、国民民主党、社民党の議員から支援を受け、山本は自民党と公明党が推薦し、4期目を目指していた。立憲や共産、ほかの野党が束になっても群馬県で自民・公明の現職市長を倒すなどは、想像できなかっただけに、快挙である。

◆京都の惨状 ── 「自民 VS 反自民」の構図をぶち壊した立憲民主

他方、京都の惨状はなんだ。

松井は元官僚であり、民主党の参議院議員を二期経験している。官僚出身の野党国会議員の8割以上はアウトな人間だと、わたしは勝手に基準を持っているが、松井もその8割に入る人物だ。今般の京都市長選に早々と自民・公明からの支持を取り付け、立憲もノコノコと乗った。

京都には西田昌司のような人間として最低な右翼政治家から、日和見主義者ランキングでは横綱クラスの前原誠司、前原の後輩にして、最近は野党の振りを演じるのがわりと上手にはなったが、前原同様、松下政経塾出身の福山哲郎がいる。そうそう立憲民主党の党首、泉健太も京都選挙区である。

そして忘れてはならないのが、亡き野中広務の後援会事務局長にして国家公安委員長まで務めた二之湯智の次男が二之湯真士であることだ。このような面々のうち二之湯以外が松井支持で固まったわけだ。

著名な与野党の政治家が高濃度で生息しているのが京都なのである。加えてかなり勢いが衰えたものの全国でも珍しいほどに、共産党への支持が厚い。

長年、京都市長選挙では主軸が自民対共産の闘いが続いてきた。そこに時代に応じて野党が自民に乗ったり、共産に近づいたりする。今回も自民対共産の構図は変わらないものの、あろうことか野党第一党の立憲民主が自民に相乗りしてしまった。これが悪因だ。

全国でも珍しい「自民・共産対決」あるいは「自民・反自民対決」の構図を作れば市民の興味も高まり、政治への関心も上がろうものを、立憲民主がぶち壊しにしてしまったのである。

断っておかなければならないが、わたしは絶対的な「反自民党」であるが、立憲民主、共産をはじめ一切支持政党はない。しかし、選挙なのだから「異なる主張のぶつかり合い」くらいは期待する。

◆「政治資金パーティー」をめぐるミスリード

自民党に対しては「不法な金のやり取り」について、国政でも地方選挙でも必ず争点にしてもらわなければ困る。何千万円から何億円にも上る「政治資金パーティー」(こんな名称のパーティー自体がいかがわしいじゃないか)を巡る政治資金報告書への不記載が問題だと報じられているが、あれはミスリードである。政治資金報告書への不記載は、れっきとした犯罪だ。

犯罪者集団が牛耳る政治は困る。許せない。

自民党は所属する議員に「アンケート調査」を行ったそうだが、犯人が犯人を取り調べて意味があるのか。「アンケート調査」くらいで野党は納得していていいのか。京都市長選挙のように気軽に自民と相乗りしたりしているから、いつまで経っても野党は伸びないのだ。

前原は、民主党から国民民主党では飽き足らず、これまで聞いたこともない「教育を無償化する」集団を立ち上げた。国民民主党は自民党の二軍のようなものだし、維新は「大阪ファシスト党」である。

たまには前橋市長選挙のように少しは興味のわく選挙を見てみたいものだ。

▼鹿野健一 (しかの・けんいち)
1965年兵庫県西宮市生まれ。複数の企業と大学に勤務の後、現在はフリーライター。国際情勢・政治・教育・冤罪・原発などに関心を持つ。反原発季刊誌『季節』副編集長。単著『大暗黒時代の大学』(鹿砦社)。共著『オイこら!学校』(教育資料出版会)、『1970年端境期の時代』、『抵抗と絶望の狭間/1971年から連合赤軍へ』(鹿砦社)など。

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シリーズ 日本の冤罪47 鶴見事件

連載
あの人の家
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コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
ニュースノワール 岡本萬尋
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
キラメキ★東京漂流記 村田らむ
裏から世界を見てみよう マッド・アマノ
権力者たちのバトルロイヤル 西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

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広島市長、教育勅語引用の抗議に反論 『使い方とかけ離れた議論』」と1月19日付の朝日新聞の記事を目にした。

見出しだけではさっぱり意味が分からない。まさか「平和都市」を標榜する原爆被爆地の市長が、21世紀に「教育勅語」を真顔で持ち出すことなどはあるまい、とは思ったが時代が時代であるので、真相がわからない。広島市役所に電話をしてことの次第を聞いた。

◆広島市長は「温故知新」の解説例として「教育勅語」を利用した?

広島市の代表番号に電話をかけ、問い合わせ内容を伝えたら、教育委センターに繋がれた。

── お待たせしました。広島市研修センターのキョウゴクと申します。

鹿野 お邪魔します。市長が職員の研修に「教育勅語」を使っていると報道で知りました。事実でしょうか。

── はい。

鹿野 どのように「教育勅語」を使っているか、教えて頂けますか。

── 研修の中でということですかね。

鹿野 はい。

── 市長としましては職員研修の中で、市長が大事にされている考えがありまして、それが「温故知新」という考え方なんですけど。それでまあ、先輩が作り上げたものや良いものはしっかりと受け止めて、後輩に繋ぐことが重要であるということともに、一つの事象の中に「良い点と悪い点」が混在していることもあるので、全体を捉えて「良い」とか「悪い」を判断するのではなく、中身をよく見てから、多面的に物事を捉えることが重要です、ということを説明する中で、その中で、教育に関する一例として「教育勅語」を紹介している、と伺っております。

鹿野 ということは「温故知新」を解説される例として「教育勅語」を利用されているということでしょうか。

── ええ。

鹿野 引用されている「教育勅語」を市長はどのように解釈なされているのでしょうか。

── 解釈をしているというのは……。市長としましては、まず「教育勅語」そのものを評価する、ということではないんですけども。また研修の中ではですね、「教育勅語」自体は国会において排除などが決議されたもの、とは紹介はしているのですが、そういったものであったとしても自ら検証をすること、考えてみることを通じて「温故知新」を極めることに繋がるのではないか、と考えているのが市長の思いの一つではあるんですよ(注:太字は筆者)。

鹿野 「教育勅語」はそれほど長い文章ではありませんが、どの部分を「温故知新」と関係あると考えて引用なさっているのでしょうか。

── どの部分をということですかね? 新人研修で引用している部分ですけども、

「爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信シ
恭儉己レヲ持シ博愛衆ニ及ホシ學ヲ修メ業ヲ習ヒ
以テ智能ヲ啓發シ德器ヲ成就シ進テ公益ヲ廣メ……」

この部分を載せているという状況です。

鹿野 それは「温故知新」とは関係ない部分です。

── あ、あ、あ、貴重なご意見ありがとうございます。

鹿野 「爾臣民父母」からの部分は、父母に敬意をもって、兄弟仲良くして、という文章です。

── ええ。

鹿野 当該部分の言葉はそれ以外の解釈は出来ません。

── あ、ああ。貴重なご意見ありがとうございます。

鹿野 意見ではありません。日本語ですから。文字通りに理解すれば「温故知新」とはまったく関係がありません。

──  あの「教育勅語」自体を一例として取り上げるために、一部を抜粋してここに載せている、ということだと思うのですけども。

◆「良いものです」とか「悪いものです」と画一的にとらえて判断することではなくて……

鹿野 市長は「温故知新」を大切にしているので、それを説明する資料として「教育勅語」の一部を使っている。

──  いや、あのー、こちらがお伝えしたいのは「温故知新」の考え方が市長にとっては大切だということですけど、その中で一つの事象があった時に、その事象を、たとえば「良いものです」とか「悪いものです」と画一的にとらえて判断することではなくて、中身を自分の目で検証する行為。で、多面的に物事を考えることが重要だということを説明するということで、そういったことを受講者に伝えたいということで、例としてですね、一部抜粋という形ですが、全文を載せるということではなく抜粋して、「教育に関する勅語」を一例として紹介しているということです。

鹿野 市長は正しいかそうでないか「自分で検証しなさい」と研修対象者の方に語っている。

── ええ、そうですね。

鹿野 わたしは市長が語っていること(自分で検証する)を今しているのです。そもそも「温故知新」をどのように理解なさっていますか。

── 以前学んだことですとか過去、昔の事柄をもう一度調べ直したり、考え直すことによって、新しい道理とかそういった知識を深堀したり、とかですね、そういったことかなと思ううんですが。間違ってますでしょうか。

鹿野 「温故知新」四文字です。理解の幅はあるかもしれませんが、文字通り解釈をすれば、「故きを温ねて新しきを知る」との故事と解釈いたします。

── 文字通りの意味ということですね。

鹿野 「温故知新」を大切にしている市長が、先ほど聞いた部分を引用されたうえで、研修をなさっている。

── そうですね。講義をしているということです。

◆「教育勅語」は世界的に民主主義が勃興していている状況を、日本語にして民主主義を謳ったもの?

鹿野 引用された「教育勅語」が「温故知新」とどのように関連するのですか。

── どの部分が、ということですかね。

鹿野 引用されている箇所は「爾臣民父母ニ孝ニ兄弟……」ですね。

── ええ、ええ。

鹿野 この部分のどこにも「故きを温ねて新しきを知る」部分は見当たらないのではないですか。

── あ、ああ、そういうご理解をされているということですね。

鹿野 いえ、理解ではなく文言だけを読んでです。この部分をどう理解すれば「故きを温ねて新しきを知る」を見いだせるのか分からない。

── 「教育勅語」は戦争が終わった後に、日本人を戦争に持ち込んでいく、という表現が正しいかどうか、あれなんですけども。そういった中で「教育に対する勅語」が戦争が終わった後に、国会において排除等が決議された過去のものということ、を伝えてはいるんですけども。その中で「教育勅語」の言葉の一部を引用しているんですが、抜粋してあるものと、その上に英訳も書いてあるんですよ。実際の資料の中には。市長としましては英訳文とですね、幕末から明治期にかけて世界的に民主主義が勃興していく時代にかけて、「教育勅語」を日本語に訳して漢文調にしたと、説明をしているのですが。(注:太字は筆者)

鹿野 ということは、「教育勅語」は世界的に民主主義が勃興していている状況を日本語にして、民主主義を謳ったものだと、取りあげられていらっしゃるのですか。

── うーん、そういう……どういったらいいでしょうか。

鹿野 あなたのおっしゃったことを復唱しているだけです。

── あの……お伺いしたいいですけれども、よろしいですか?

鹿野 はい。

── あなた様の希望としましては現在「教育に関する勅語」を広島市において新規職員採用研修で一部を引用している、という状況があるのですが、その引用を止めてほしいということですか?

鹿野 いいえ。先ほど来申し上げている通り、お尋ねをしたくて電話しています。まったく意味が理解できない。だからわたしの疑問点をお尋ねしているだけです。

── 疑問を感じているということですか。

鹿野 わたしは、わからないのです。

── は、はあ。それは「教育に関する勅語」を一部引用している箇所が、「温故知新」に合う考え方ではないからわからないと。

鹿野 いいえ。「温故知新」を市長が大切にしていることも電話するまで知りませんでした。

── あ、あ、はい。繰り返しで申し訳ありませんが、あなた様がわからないと言われているのは、「教育勅語」を引用している部分について、なぜこの部分を引用していることが分からない、ということですか。

鹿野 先ほど仰った「教育勅語」は一度国会で排斥された歴史があること、及びわたしは「教育勅語」全文を暗記しております。その経緯を鑑みて「教育勅語」を、どのような意図で引用されどのような目的で研修でお使いになったか、それが知りたいのでお尋ねしています。

── 研修資料にそのように使っているとお伝えしました。

鹿野 はい。ただ市長が「温故知新」を大切にされているから、その資料にだと。

── はは、そこで「教育勅語」とどう繋がっているかが分からい、ということですか。

鹿野 そうです。

── (しばらく無言)

鹿野 いかがでしょうか。

(中略)

── この文(「教育勅語」)からは「温故知新」が読み取れないということですね。

鹿野 引用箇所として教えて頂いた部分に、日本語の解釈上「温故知新」に関わる文言はありません。

── こちらが引用している部分について「温故知新」に関わる部分はない?

鹿野 「こちら」ではなく、市長が引用しているのではないですか。

── ええ、そうです。(無言)

◆「教育勅語」の文章の全ての主語は「朕」ですから

鹿野 再度伺いますが「教育勅語」から引用している箇所に、「温故知新」と結びつく部分はありますか。

── 引用している部分が直接「温故知新」のものかどうかは解釈が、感じ方や捉え方はあると思うんですけど。「教育勅語」自体が過去に国会で排除等の決議がされたものであったとしても、それ自体をも自ら検証して考えるという行為が「温故知新」を極めてゆくことに繋がるんじゃないか、という思いを込めて説明をしていたんですけども(注:太字は筆者)。

ただ、引用箇所についてのご意見を今頂きましたので、それはこちらの職場の中でもでも共有はさせていただきたいと思います。

鹿野 はじめのお答えと違いますね。一度国会で排斥されたものであって、もう一度検証することによって「教育勅語」の正当性があると市長は考えていると。

── 自ら考えてみることが「温故知新」を極めることに繋がっているということで……・

鹿野 天皇の命令により人々を従わせた文言が、敗戦により国会で排斥された。「教育勅語」がです。その中にもう一度価値を見出せ、ということですね。

── いいえ「朕は」という部分は除いた部分で……(注:太字は筆者)。

鹿野 そのような解釈は無理です。この文章の全ての主語は「朕」ですから。

── ご意見ありがとうございます。

鹿野 意見ではありません。もう結構です。

※   ※   ※   ※

勅語(文部省より全国の諸学校に交付されたる教育に関する勅語)

まったく話にならない。「主語」の意味すら理解していない広島市役所の職員は、市長の行為にもかかわらず「教育勅語」を研修で用いることの正当性を、職務上の義務であるかのように、支離滅裂な回答を続けた。

まさか、とは思ったが広島市長は新人職員研修に、なんの躊躇もなく「教育勅語」を利用している。しかも調べてみると松井一実は広島市長に就任した翌年の2012年から昨年まで10年以上「教育勅語」を使い続けている。

わたしの問いに応じた教育センターの「キョウゴク」氏の言葉は、あたかも「教育勅語」の不当性を指摘することが不当であるかのように、不思議。不満気であった。キョウゴク氏の応対は新人職員研修が論理破綻した人間を創り上げることの証左と見るべきか。

「教育勅語」には評価すべき点などまったくない。なぜならば、本文でいくら美談が述べられようとも、この文章全体の主語が「朕(天皇)」だからである。天皇は私人や一般の公人、貴族とも違い、明治憲法上「不可侵」であり「神」扱いされていた存在だから(こんな基礎的な事実は繰り返す必要もないだろうが)天皇の発語は批判を許さない、絶対語だったのだ。

時代錯誤も甚だしい、皇国史観の片鱗(教育勅語)を平然と原爆を落とされた広島市長が使い続けるている。第二次世界大戦敗戦による「戦後」は、広島市においても広島市民みずからのの手(市長選挙)で蹂躙され、時代は既に「戦中」である。呆れてしまうが、呆れている場合か。

広島市長、松井一実が「教育勅語」を10年以上にわたり職員研修に利用している事実は、まず広島市民によって、最大級に指弾されなければならない。

◎[関連記事]これで「平和都市広島」を名乗れるのか? 新人研修に「教育勅語」を11年以上使用してきた松井一實市長にびっくり仰天!(さとうしゅういち)

▼鹿野健一 (しかの・けんいち)
1965年兵庫県西宮市生まれ。複数の企業と大学に勤務の後、現在はフリーライター。国際情勢・政治・教育・冤罪・原発などに関心を持つ。反原発季刊誌『季節』副編集長。単著『大暗黒時代の大学』(鹿砦社)。共著『オイこら!学校』(教育資料出版会)、『1970年端境期の時代』、『抵抗と絶望の狭間/1971年から連合赤軍へ』(鹿砦社)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年2月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年冬号