昨年9月の自民党総裁選挙では、石破茂が大半の予想をくつがえして地方票の45%を獲得する善戦をみせた。議員投票をあわせると、わずか20名の石破派が254票を獲得し、他の5派にささえられた安倍晋三を脅かした。

 

自民党総裁選挙2018HPより

総得票率でいえば、安倍晋三553、石破254と、31%の党員・国会議員が石破を支持したことになる。かさねて言うが、404名中、石破派はわずか20名である。安倍総理の出身母体である細田派が99名、麻生派56名、竹下派56名、岸田派48名、二階派44名、石原派12名、谷垣グループ16名、無派閥が55名である。その意味では、前々回の総裁選で地方票では多数派を占めた石破茂氏は、ポスト安倍の筆頭という言い方もできないではない。

◆石破派を排除するメッセージか?

 

自民党総裁選挙2018HPより

ところで、石破派をのぞく6派閥の事務総長が総理公邸に集まったと報じられた。それも5カ月前の総裁選の祝勝会だというのだ。この時期に「祝勝会」とは、何とも意味ありげではないか。この会合で何が話し合われたのかは定かではないが、わざわざ公邸の裏口から入ることでマスコミのチェックを避けている。つまり秘密会合だったのだが、総理官邸・公邸での秘密会合とはすなわち「コソコソと政治工作をしているぞ」という政局を印象づけることにほかならない。マスコミが嗅ぎつけることを想定したうえ、わざと秘密めいたことをしたぞと、耳目を集めるのである。

ここで安倍総理周辺が流したかったのは、参院選および同時に行なわれるかもしれない総選挙において、石破派を排除するというメッセージにほかならない。いささか当方の深読みながら、このメッセージは「党中央に逆らう者は徹底的に排除する」というものであろう。思い出してほしい。自民党内では女性総理候補ナンバーワンと言われる野田聖子の総裁選出馬(推薦人20人が必要)を封じたのも官邸だった。

こうした政治手法は、旧来の自民党にはないものだった。自民党はもともと政治理念ではなく、権力の利権をつうじた利害結合体だが、親分子分の絆によって求心力を維持してきた。そのことは派閥をこえた寛容な体質が、戦後保守政治をある意味では文化として体現されてきた。総裁選が終われば、ラグビーのノーサイドのような雰囲気で、なおかつ清濁併せ呑む気風に支配されてきた。ところが、安倍政権になっていらい、その自由闊達な気風は排除されてきた。

◆政敵を徹底的にイジメる、ファシスト的な手法

ヒトラーが金融独占資本およびドイツ鉄鋼資本との蜜月を深め、国防軍を掌握するさいに、内部の政敵を排除したことを想起してみるといい。ヒトラーはナチス突撃隊のレームを「長いナイフの夜」によって粛清し、党の支配権を確立するとともに、国防軍と突撃隊の対立を暴力的に止揚したのである。銃剣によるものではないが、そんな粛清劇が自民党で行なわれる可能性があるのだ。

小選挙区(擁立者1人)への党公認という伝家の宝刀を使いまくることで、他派閥を従属させ、批判をゆるさない安倍晋三の政治手法は、まさにヒトラーの独裁方法に近いものがある。そしてヒトラーよりもいっそう陰湿な感じがする。

女房役の菅官房長官もまた、官邸記者クラブに望月衣塑子記者(東京新聞)の排除を申し入れるなど、陰湿な独裁者としての素顔を剥き出しにしている。独裁(ヘゲモニー)とは、圧倒的な被支配者の指示によって成立する(アントニオ・グラムシ)政体である。いまやわれわれは自民党の党内政治、政局にも警鐘を鳴らす必要がある。


◎[参考動画]【自民党総裁選】投開票ならびに両院議員総会(2018.9.20)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

25回目のプーチン大統領との首脳会談の結果、安倍総理が事前に明言していた「北方領土問題の解決と平和条約の締結を実現する」という目的は果たされなかった。会談後の共同記者発表ではプーチン大統領はもちろん、安倍首相の口からも領土問題の進展についての言及はいっさいなかった。そればかりか、平和条約についてもプーチン大統領は「双方の国民が受け入れ可能で、支持されるものでなければならない」「双方が受け入れ可能な解決策を見いだすための条件をつくり出すには、長く忍耐を要する作業がこの先にあることを強調したい」と主張するだけで、何ら成果を語らなかったのだ。成果が何もなかったかといえば、ロシア側はそうでもない。

◆経済協力のみ約束させられた

領土問題でなんら進展がなかったいっぽうで、両首脳は新たに日露間の貿易額を今後数年で300億ドル(約3兆2900億円)に増やすことで合意したというのだ。ようするに安倍首相は、さらなる経済協力を強いられただけで、二島返還どころか、平和条約の締結も「時間がかかる」「国民に受け入れられるものでなければいけない」と釘を刺されたのだ。

そもそもロシアにとって日ロ首脳会談は、中国の経済成長に圧倒されその経済的支配下に入るしかない現状を打破するために、日本の経済協力を引き出そうとするものでしかない。その導きの糸として二島返還をちらつかせるのはもとより、前提なしの平和条約を先行させようというのも、ひたすら経済協力のための枕詞にすぎないのだ。資源と兵器産業しか経済的資源のないロシアにとって、ITや通信産業で中国の経済圏に受動的に組み込まれる運命にある。その意味ではロシアも必死だが、日本が約束させられた経済協力のいっぽうで、二島返還すらもおぼつかなくなったのが今回の結果だ。


◎[参考動画]北方領土で進展は?日ロ首脳が共同発表ノーカット1(ANNnewsCH 2019/01/23)

◆領土問題は軍事力ぬきでは解決できない

そもそも領土問題において、軍事的な圧力なしに交渉が成立した歴史はない。たとえば沖縄返還においてすら、核を配備した米軍基地の存続というオプション抜きにはありえなかったのは、現在もなお沖縄県民が基地問題で苦しんでいることに明らかだ。その意味では東西冷戦という冷たい戦争、すなわち日本による駐留費の肩代わりという戦争支援行為こそが、沖縄の返還をもたらしたのだ。

ヒトラーにおけるラインラント(第一次大戦後の非武装地帯)進駐も、日本の仏印進駐(フランス領インドシナへの軍事駐留)も、駐留する軍隊があってこそ、戦争を避けたい側(フランス・イギリス)に許容されたのである。ラインライトも仏印もヒトラーおよび大日本帝国にとって薄氷を踏むような軍事行動だったが、フランスは戦争によって領地をうしなうことを怖れて、軍事進駐を容認したのである。


◎[参考動画]北方領土で進展は?日ロ首脳が共同発表ノーカット2(ANNnewsCH 2019/01/23)

◆共同統治こそ、島嶼紛争の解決策である

だから軍隊を北方領土に派遣しろと言っているのではない。島嶼領土紛争の平和的な解決はおよそ不可能であって、もしも本気で解決したいのなら「共同統治」という形式しかありえないのだ。韓国との竹島もしかり、中国との尖閣諸島も同様である。領土をめぐる外交交渉で他国に折れた政治家は、政権をうしなうだけでは済まない。売国奴としてその生命を奪われかねないと指摘しておこう。それはプーチンにおいても、安倍においても同様なのである。

ところが安倍総理は、あたかも歯舞、色丹の二島返還に向けて前進しているかのように印象づけて「プーチン大統領の考えがよくわかった。双方の理解が深まった」などと、交渉の行き詰まりを糊塗しているのだ。すでに四島一括返還という北方領土返還運動の原則は掘り崩され、日ソ共同宣言時の二島返還すら実現できない趨勢となってきた。25回もの首脳会談を行ないながら、ロシアから経済協力として国民の血税を奪われたうえに、本来の目的である北方領土の返還が絶望的になった今、もはや安倍政権は売国政権というべきではないか。


◎[参考動画]「私とプーチン大統領で終止符」 安倍総理が強調(ANNnewsCH 2019/01/06)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

月刊『紙の爆弾』2019年2月号 [特集]〈ポスト平成〉に何を変えるか

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

1月29日に東京のたんぽぽ舎で、参議院議員の山本太郎さんの講演会がおこなわれた。もともと山本さんは政治家になる前から反原発運動にかかわり、たんぽぽ舎との縁は浅くない。「久しぶりに、故郷にもどってきた気分」(山本議員)だという。

首都圏で反原発運動のステージを作ってきた、たんぽぽ舎はしかし無党派の市民運動体であって、選挙には中立の立場である。したがって、今夏の参院選挙に出馬する予定の山本議員の講演会は、たんぽぽ舎の個人が主催するかたちとなった。このあたりは運動的な原則の問題だが、いまデジタル鹿砦社通信の本記事を書いていることも、実は事前運動スレスレの行為なのである。以前、次の選挙に出るのが確実な議員さんを、ある雑誌でインタビューしたときに、当時はまだ総務省ではなく自治省だったが、事前運動の線引きは捜査当局がやることであって、当方は関知しない(言葉としては、「わからない」)という返事をいただいたことがある。

そこで、今回の講演会の質疑のなかで出された選挙戦術についても、取り締まり当局の目が光っていることを勘案して、最低限にとどめて報告したい。なお、3月発売の『NO NUKES Voice』vol.19において、山本太郎さん独得の節まわしをふくめて、全レポートをお伝えする予定なので、くわしくは同誌の発売をお待ちいただきたい。期待は裏切らないとお約束しておきましょう。

◆混沌のなかの野党再編

すでにご存知のとおり、山本議員が属する自由党は、国民民主党との合同を決めた。これによって、国民民主党は立憲民主党と同規模の会派となり、国会に占める影響力および選挙(全国比例区など)での規程力が増した。とはいえ、山本議員の地盤である参院東京選挙区は1増となったが、それゆえに各党派がしのぎを削る大激戦区である。自民2、公明1、立憲民主1、国民民主1、共産1という議席配分はほぼ決まりで、さらに自民党が3人目、立憲民主が2人目を擁立すると厳しい事態となる。

かりに政策のすり寄せがままならないまま、あいまいな立場での国民民主党からの出馬となれば、前回の勢いまで到達できない可能性もある。そこで全国比例区での出馬や、前回同様に無党派での出馬も考えられないではない。講演会場での質問は、山本議員を再選させるには、どうしたらよいのかという議論が百出した。

街頭では4月の統一地方選にむけた選挙戦がはじまっている。地方選挙と同じ年の参院選は、公明党の地方議員・地方組織が選挙疲れをするので、自公にとっては不利だとされている。それに加えて、たとえば高知県(地方紙)では自公の支持率が25パーセントという衝撃的なアンケート結果が出ているのだ。森友・加計疑惑、厚生労働省の勤労統計の不正など、安倍政権に愛想をつかした国民の自公政権ばなれは加速している。問題なのは、受け皿になる野党の「かたまり」がまだ未成熟な現実であろう。選挙戦術としては、ネット署名を考えているという。万単位のネット署名をもとに、各選挙区で立候補者に反原発の公約を取り付けるのは有効であろう。

 

◆経済に明るい山本太郎

講演会では、さすがに反原発団体たんぽぽ舎のホールを会場にしているだけに、原発廃炉にむけた運動の必要性が参加者から訴えられた。しかしそこには、消費増税をふくめた経済がしっかりとリンクしていることを、山本議員は明瞭に語ってくれた。原発事故のために故郷をうしなった人々の経済的な損失、そして廃炉までの何兆円、何十兆円というコストを暴露することで、原発事故が現在の問題であることを多くの国民が確認できるはずだ。そこで「原発いらない」は「これ以上損をしたくない」と身近な損得に言い換えることも可能だ。

さらには、赤字国債による財政赤字が、実は国と日本銀行の資金の還流、すなわちリフレによってインフレターゲット2パーセントまでは問題なく行なえること。つまり、財政赤字は虚構であると山本議員は強調した。このままインフレに転じるまでは、お札を刷り続けてもいいのにもかかわらず、政府は消費税増率でインフレ抑制するという愚策を行なっているというのだ。意外にも経済に明るい政治家だった。この男を総理にしてみたいと思ったのは、わたしだけではないはずだ。


◎[参考動画]2019年選挙の年に『山本太郎おおいに語る』「本当のこと言って何か不都合でも?」−山本太郎が実行したい、いくつかの提案−(UPLAN撮影=2019年1月29日スペースたんぽぽにて)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

『NO NUKES voice』Vol.18 特集 2019年 日本〈脱原発〉の条件

月刊『紙の爆弾』2019年2月号 [特集]〈ポスト平成〉に何を変えるか


◎[参考動画]あおり運転で大学生殺害 元警備員の男に懲役16年(ANNnewsCH 2019/01/25)

司法の重刑化には反対の立場だが、この事件は特筆しておかなければならないだろう。大阪府堺市で起きた煽り運転の裁判である。公判では煽り運転をした「未必の故意の殺人」とする検察側の事実関係がみとめられ、懲役16年の実刑判決がくだった(求刑18年)。

事実関係をたどっておこう。昨年7月2日の午後7時35分ごろ、被害者(22歳の大学生)が乗った大型バイクに追い抜かれた被告(40歳)が腹を立てて、パッシングをするなど煽り運転をしている。クラクションやハイビームで煽ったうえ、時速100キロで約1キロメートル追跡し、最後は96キロで追突したのである。15秒後に「はい、おしまい」とつぶやいた被告の言葉が、ドライブレコーダーに残されている。速度制限60キロの一般道での出来事である。

裁判で争点になったのは、殺意があったかどうかである。被告側弁護人は「被告には殺人の動機がない」「殺意はなかった」と検察側に反論している。そこで「死んでしまっても仕方がない」すなわち、相手が死ぬかもしれないと認識して、その行為を行なった、という未必の故意が成立するかどうかである。

被告が車線変更をして被害者を追跡しているのは事実であり、追突の直前にブレーキをかけたとはいえ、速度は4キロしか低減していない。

結果的に「殺人事件」となったことで、自動車が法的にも凶器とみとめられたことになる。これは画期的と言っておくべきことだろう。わたしは10年前に自動車から自転車に乗り換えた。自分の健康と環境問題という意識もあったが、それよりも自動車が危険な乗り物だという認識からである。時速100キロというスピードは、一秒間に27メートルも進んでしまうのだ。それが標準速度である高速道路は、生死をかけた場所といわなければならないはずだ。じっさいに、初心者教習で高速道路に出た教習者は、口をそろえて「怖かったですねぇ」という感想をもつはずだ。27メートルをわずか一秒で判断し、処理する能力を誰もが持っているわけではない。そのスピードは今回の事故でわかったとおり、一般道でもふつうに行われているのだ。

◆なぜ危険運転致死罪ではなかったのか

懲役18年と、量刑的にはほぼ同じになったが、6月に起きた東名高速での煽り運転事故では、自動車危険運転致死罪が適用されている。煽って走路妨害をしたうえ、追い越し車線でクルマから降ろして暴行をふるい、さらには後続車の衝突によって2人を死なせた「事件」である。この事故の場合にも「走行中の車両が衝突して、死んでしまう可能性」は認識されていたはずだ。いや、仮にそういう認識がなかったとしても、客観的にみて認識できるはずだという評価は可能であろう。にもかかわらず、殺人罪の適用を見送ったことは、検察庁に失策として記憶されていたのではないだろうか。今回の判決が判例(上訴審での最終判決)になれば、交通行政に与える影響も少なくない。

自動車免許は筆記試験では30%前後の不合格率があり、それなりに交通法規の遵守が講じられている。そのいっぽうで、適性検査および運転時の心理カウンセリングはないがしろにされている。今回の事故も東名高速の事故も、加害者の「カッとなった」末に起きた事件、事故である。さらには、合宿免許やオートマ免許によって、免許取得は容易になっているとみるべきであろう。

◆自動車社会への警鐘になるか

自動車運転は「自我の拡張」という人格変化の現象をともなう。たとえば高級車に乗ればゆったりとした運転で、コクピットでの気分も落ち着いたものになる。スポーツカーや高速走行に適したエンジンを搭載したクルマの場合、いつもよりも攻撃的な運転になるし、大型トラックでは居丈高な態度になりがちだという。いつもは排気量の大きいクルマで高速道路をかっ飛ばしている人も、軽自動車で買い物にいくときは街をゆっくりと走る。自動車が運転する人の自我を決める、自我の拡張行為がそこにはあるのだ。そういう観点から、煽り運転の防止は、厳罰化だけでは達成できないのである。

今後、完全な自動運転化が進むとして、その場合の事故は誰が責任をとるのか、今回の判決で「自動車は凶器」と認められた以上、自動車社会は新たな課題を与えられたといえよう。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

月刊『紙の爆弾』2019年2月号 [特集]〈ポスト平成〉に何を変えるか

横山茂彦『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

◆不正や虚偽を糺せない国

日本という国は、不正や虚偽を糺せないようになってしまったかのようだ。官僚によるデータ改ざんや公文書の廃棄など、中枢において腐食が絶えなくなっている。それは日本オリンピック委員会(JOC)においても同様であった。フランスの司法当局が予審に入ったJOC竹田恒和会長の贈賄疑惑である。すなわちシンガポールのコンサルティング会社(ブラックタイディングス社)に支払った2億3000万円の一部が、国際オリンピック委員会の関係者に流れた問題である。同社の代表の親友の父親が、IOCの選考委員だったことによる疑惑だ。これが事実なら、東京のオリンピック・パラリンピック招致は不正行為によるものだったということになる。

フランス当局の捜査は、元日産会長ゴーン氏逮捕への「報復」とも取れるものがあるにしても、問題なのは2016年にこの問題が発覚したさいに、JOCのおざなりな身内調査で事件の真相が隠蔽されてきたことだ。いや、雇われ弁護士による「違法性はない」とのお墨付きで、疑惑を不問にしてきたことである。

◆何も語らない会見

1月15日、岸記念体育館で行われた会見で、竹田会長は「わたし自身はブラックタイディングス社との契約に関して、いかなる意思決定にプロセスにも参加していない」と、責任者であることを否定し「日本の法には違反していない」と、メモを読み上げるだけで終了した。疑惑を招いたことへの遺憾の意も表明することなく、疑惑を晴らすとも言明しなかったのである。記者の質問も受け付けなかった。そもそも契約書にはJOCの責任者たる竹田会長の印判が押されているにもかかわらず、知らぬ存ぜぬと言い放つ。いや、単にメモを読み上げたのだった。こういうトップをいただく組織に、われわれは国民は血税を使わせているのだ。竹田恒和会長とは、そもそもどんな人物なのであろうか。


◎[参考動画]JOC竹田会長が会見、汚職疑惑改めて否定(日本経済新聞2019/01/15公開)

◆わが国の特権階級

竹田恒和会長は明治天皇のひ孫で、平成天皇とはハトコにあたる。いわば皇族につらなる血縁でスポーツ界に君臨しているのだ。というのも、若いころ馬術選手であった竹田会長は、自動車事故で若い女性をひき殺したことがあるのだ。事故は国体に出るために、会場に向かっていた時のことだった。この事故で竹田氏が所属していた東京都チームは、馬術競技の全種目の出場を辞退している。事故の原因は対向車のライトに目がくらんだ、竹田氏の過失責任であった。

事故は40年前の出来事だが、その本人がオリンピック委員会の会長職にあることに驚きを感じないわけにはいかない。死亡事故を起こした竹田氏は、事故から2年後に馬術競技に復帰(モントリオール大会に出場)していたのだ。そして1984年のロサンゼルスオリンピックではコーチングスタッフで参加し、バルセロナオリンピックでは選手団の代表監督を務めるなど、JOC内部で出世の道を歩んできた。そこに「宮家」の威光が働いていたとみるのが普通であろう。したがって、今回の贈賄疑惑事件の実相はこうである。生徒会の不正支出疑惑を問いただされた生徒会長が「ぼく、この問題には関わっていませんからね」と責任回避の言い訳をしているのだ。お前が責任者だ!

昨年は日大アメフト部、女子レスリング、体操女子、柔道と、アマチュアスポーツ界の組織的な腐敗や暴力問題があぶり出されてきた。東京オリンピックへの「国を挙げて」の準備過程がまさに、組織の問題点を暴露しているかのようだ。その意味では、高額な会場建設費問題などで批判の絶えない東京オリンピックも、あながち積極的な意味がないとは言えないのかもしれない。

◆出処進退をわきまえよ

いっぽう、このままフランス当局がこの贈賄事件での司法手続きを続けるとしたら、日仏間に犯罪容疑者の身柄引き渡し協定がないことから、外交問題に発展する怖れがある。あるいは身柄の引き渡しがない場合には「国際手配」されることになる。ときあたかも、フランス政府(ルノーの大株主)によるルノーと日産の統合が要望されているさなかだ。国益を考えろとは言わないが、わずかでも日本人らしい(?)恥やプライドがあるならば、即刻辞任するべきであろう。


◎[参考動画]2013年9月8日の竹田恒和招致委員会理事長のプレゼンテーション(ANNnewsCH 2013/09/07公開)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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横山茂彦『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

「リーチサイト」という漫画海賊版サイトに案内するサイトを運営していた3人に、懲役2年4か月~3年6か月の実刑判決が下された(大阪地裁1月17日)。人気漫画の「ナルト」など68点が読めるサイトのリンク先を掲載したことに対して「多数の著作権者らに総体として大きな被害が発生している」(飯島裁判官)としたものだ。実際に海賊版サイトを作ったのではなく、リンク集を作った被告たちに実刑が下ったことは、驚きをもって迎えられている。

官民事業体のコンテンツ海外流通促進機構(CODA)によると、漫画やアニメなど3つの海賊版サイトだけでも、2018年の2月までの半年で4000憶円をこえる被害が出ていると推定している。サイトの数がいくつあるのかはわからないが、当局の取り締まりに期待したい。

◆著作権法違反の罰則は、1000万円以下の罰金もしくは10年以下の懲役

それにしても、リンク集を運営しただけで実刑判決とは、驚かれる向きも多いのではないだろうか。リンクサイトの運営は、広告バナーの獲得で莫大な利益が出るのは知られるところだ。18禁サイトのリンク集ならそれだけ食べていける利益が出るという。気軽な副業気分でリンクサイトをやっていたところ、臭い飯を食う羽目になったというわけだが、著作権法の罰則は1000万円以下の罰金、10年以下の懲役と、じつは厳しいものなのだ。今回の判決をつうじて、一般にもその威力が知られるのはいいことだと思う。

たとえば、講演会などで自身の著作をコピーして配布する研究者や著名人を見かけるが、著作権にかかる複製権の違反である。著作物のコピーは自分の研究に使う目的でのみ許されているのだ。それも図書館において、複製申請書を提出し、司書の許可を受けなければならない。

じっさいに私も雑誌を編集する立場として、目を覆いたくなるような光景に出会う。高名な学者先生が最新号の記事を平気でコピーして、数十人の聴衆に配布している。発売したばかりの雑誌掲載の論文が、ご本人のサイトに掲載されているとか。あるいはゲラのやり取りの中で、親しい人たちに配布したいので完成PDFを送って欲しい等など。論文作法は教え教えられてはいても、著作物の複製が違法であることは日本の学界では軽んじられているのだ。

◆訴えがないかぎり、不法に放置されている著作権侵害

唯一、自分の研究以外に複製が認められているのは教育現場だが、これもじつはグレーだと指摘しておこう。条文は以下のとおり。

著作権法第35条「教育に携わる者、教育を受ける者(著作権法35条)複製画できる」となっているが、制限・配布がどの範囲なのか。じつはグレーなのだ。小学校や中学高校の義務教育の現場なら、試験対策として文芸作品のコピーが練習問題として複製されても、35条の範囲内なのであろう。大学のゼミでの研究を「教育」と言えるのかどうか。著作権法に詳しい法律家は頭を悩ませることだろう。裁判になった例は、管見のかぎり知らない。たぶんこの例(教育)での裁判は、教科書のそものに著作権者が引用不可の裁判を起こした件以外に、刑事も民事もないと思われる。

編集・出版サイドでは、雑誌の最新号や刊行から6ヶ月の新刊は、複製権が有力であるという考え方で、図書館も最新号の貸し出しやコピーを認めない所が多い。このあたりは、新薬とジェネリックの関係に似ている。

 

脱ゴーマニズム宣言事件の概要(三枝国際特許事務所HPより)

いっぽう、著作物からの「引用」は、かなり裁量の範囲が大きい。2頁以上の引用は著作権侵害との判例があるようだが、引用された側が訴えないかぎり、放置されているのが現状だ。上杉聡氏と小林よしのり氏の「脱ゴーマニズム」裁判で、引用ならほぼ制限なく可能(裁判では同一権保持=引用の不完全が違法とされましたが)となっている。

おりしも、TPPにかかる著作権期間は50年から70年に延長される予定だ。漫画家はページ当たり数千円の原稿料で、膨大な時間をかけて作品を描いている。コミックスが出なければ、アシスタントも雇えないのが実情だという。かさねて、当局には違法サイト取り締まりの実を上げることを訴えたい。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

月刊『紙の爆弾』2019年2月号 [特集]〈ポスト平成〉に何を変えるか

横山茂彦『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

◆無理筋の立件

日産前会長カルロス・ゴーン氏の三度の逮捕(特別背任)に関する保釈請求が却下された。足かけ2ヶ月におよぶ勾留により、中途半端な裁判ではなくなった。ここまで地検特捜部が意地を張っているのは、やはり司法取引によって確実な証拠をつかんでいるのだろう。


◎[参考動画]ゴーン被告の保釈請求を却下 東京地裁(ANNnewsCH 2019/01/15公開)

容疑について整理しておこう。

① 2015年まで5年間の有価証券報告書の虚偽記載、
② 2018年まで3年間の有価証券報告書虚偽記載、
③ ゴーン氏の資産管理会社の評価損を日産に付け替えた特別背任、
④ サウジアラビア人の会社への支出にかかる特別背任である。

②は最近2年間のCEOは西川社長であることから、西川社長および日産の刑事責任が問われても不思議ではない。報告書を作成したのはゴーン氏ではなく、西川社長が代表として統轄する取締役会の責任において作成されているからだ。そしてそもそも報告書に記載されていなかったのは、退任後の報酬であって招来の希望にすぎないのである。その意味では①も単なるミスか形式的なものにすぎないのではないかと指摘されてきた。

③と④の特別背任についても、評価損を一時的に日産の信用下に置くことで損失を回避したにすぎない。現実に損害は発生していないのだ。中東における日産の事業展開との関連で評価されなければ、損害を出すことを承知のうえで出仕を指示した「特別背任」には当たらないのではないかという疑問がある。かなり無理筋ともいえる捜査の結果、見えてくるのは司法取引の中身である。


◎[参考動画]日産自動車 ゴーン被告に損害賠償を求める方針(ANNnewsCH 2019/01/16公開)

◆司法取引とはどんなものか

日本で司法取引が導入されたのは昨年6月である。法廷で証人が検察官から刑事責任を追及されないことを約束されたうえで、他人の犯罪関与について証言することを「捜査・公判協力型協議・合意制度」としたものだ。つまり公判廷での証言を従来は「訴追される怖れがある場合は、証言しなくてもよい」としてきたものを、ぜひとも証言しなさい。その代わりに、あなたの刑事責任は問いませんから、ということになる。

公判廷で初適用されたのは、昨年末のことである。タイの発電所建設を巡る贈賄事件だ。不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)罪に問われた三菱日立パワーシステムズの元取締役・内田聡被告の初公判で、同被告は「(他の被告と)共謀して金銭を供与した事実はない」と無罪を主張したが、検察側は冒頭陳述において、ある証拠をもってこれに反論した。

東京地検特捜部と三菱日立パワーシステムズの司法取引に関する合意文書を、検察側は証拠として提出したのだ。同社が指定された資料を検察に提出した見返りに、特捜部が同社の起訴を見送ることで合意したという。つまり、内田被告の犯行の証拠資料は、会社によって検察に提出済みだったのである。これと同じように、ゴーン氏についての証拠資料も日産から検察に提出されているのだろう。少なくとも、有価証券報告書の虚偽記載について、日産はゴーン氏の訴追構成要件と引きかえに免訴されたことになる。これが今回の司法取引の構図である。


◎[参考動画]“ルノーが近く新体制”と仏紙 ゴーン被告を解任か(ANNnewsCH 2019/01/15公開)

◆アメリカのとはちがう日本版司法取引

 

カルロス・ゴーン『国境、組織、すべての枠を超える生き方 (私の履歴書) 』2018年日本経済新聞出版社

ところで日本が導入した司法取引は、アメリカのものとはずいぶん違うものだ。アメリカの司法取引は「自己負罪型」と呼ばれ、被疑者や被告人がみずからの罪の一部を認める代わりに、他の罪を処罰しないというものだ。取り調べでのやり取りは、例えばこうである。

検察官「おまえ、やっただろ?」
被疑者「へへーぇッ。わたしはこの罪を犯しました」
検察官「じつは別の件もあるんだろう。共犯者もふくめて、全面的に自供しなさい。ぜんぶ吐けば、罪には問わないからね」
被疑者「司法取引ですね。わかりました、共犯者が誰かもふくめて、すべて話しますから、わたしの刑罰は軽くしてください」
検察官「いいでしょう」

こうして司法取引が成立すれば、有罪答弁によって裁判を経ることなく事件は解決するのだ。マフィア犯罪や麻薬捜査など、内偵がむつかしい組織犯罪において、おおいに威力を発揮してきた。いっぽう日本が導入した司法取引は「他人負罪型」と呼ばれ、他人の犯罪にかんする公判廷においてのみ、証言者の刑事責任が問われないものだ。

したがって、じっさいに裁判が開かれなければ、どんな司法取引が行なわれたのかは明らかにならない。じつに不透明な捜査方法である。検察側にとって都合の悪い証拠が開示されないまま、被告側の防禦権もかなり制約されることになるのではないか。証言の真否について偽証罪という担保があるにしても、共犯者の有罪答弁が訴追されないのならば、それはどの範囲までなのかグレーな部分が多すぎはしまいか。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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横山茂彦『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

◆日本のメディアの脳天気な戸惑い

自衛隊哨戒機への火砲レーダー照射問題、および徴用工の補償問題・慰安婦補償問題が「政治問題」化するなかで、日本のメディアは的はずれな「戸惑い」に明け暮れている。いわく、レーダー照射は「友好国」とは思えない行為だ。いわく、徴用工と慰安婦問題の請求権は日韓基本条約で解決したはずで、いまさら蒸し返すのは韓国が国家の体をなしていないからだと。


◎[参考動画]【報ステ】レーダー照射で泥沼化 水面下の協議は(ANNnewsCH 2019/01/07公開)

国家の体をなしていないというのは事実だが、第三共和国(朴正熙政権)時代と第六共和国以降の現政権に連続性がないという意味でなら正しい。この共和国の違いを、日本政府もマスメディアも一向に理解しようとしない。革命前の旧政権の外交政策を、新しい革命政権が否定している。それだけの話であって、国際社会がそれを理解しようがしまいが、当該国家と国民は一向にかまわない、と言っているのだ。政権をうしなった前大統領をことごとく逮捕し、あるいは死に追いやる国家・国民性である。政権交代はすなわち、革命なのである。実際に、現文在寅政権は光州蜂起を体験した人々である。

それ以上に、韓国政府はともかく(表向きは)としても、韓国国民は日本を「友好国」とは思っていない。個人的に日本文化が好きだとか、日本に旅行してみてその親切な国民性に感激したとか、そういう感想をもつ韓国人はおそらく国民の大多数を占めることだろう。だがそれは個人の感想としてであって、総体としての韓国国民は日本を忌み嫌っている。

いや、正確にいえば「日本」という言葉ほど、かれらに対抗心を煽るものはないのだ。併合された屈辱の歴史がある以上、日本との真の友好などありえないのだ。はやく北韓と統一して、その国力をもって日本に対抗したい。大韓民族として日本人に勝ちたい。それはスポーツといわず文化といわず、もちろん軍備においても経済力においても、何ひとつ残らず日本に勝ちたい。それが韓国人(朝鮮民族)のメンタリティなのである。ほかならぬ日韓の歴史がつくってきたものなのだから、それは歴史をなかったことに出来ない以上、仕方がないのである。韓流が好きだからとか、韓国人も日本のアニメや漫画が好きだからとか、友好的な気分でいるのは穏和的な日本人だけである。


◎[参考動画]年始から日韓関係に波紋!?文大統領が“日本批判”(ANNnewsCH 2019/01/10公開)

◆韓国政界はどうなっているのか

韓国の政治について、日本の政治家もメディアもほとんど関心がない。現在の与党の名称(共に民主党)、朴槿恵前大統領の前政権が自由韓国党で旧セヌリ(ハンナラ)党であることも、おそらくワイド番組のMCたちは知らないであろう。韓国国会は30近い政党が国会の議席を占め、正義党や民衆党、北朝鮮を支持する政党(法律により強制解散)などの左派政党から中道右派の正しい未来党、さらには極右(大韓愛国党)まで、幅ひろい党派が乱立している。院外では第四インター系のグループも労働運動に影響力を持っている。

さらには、慶尚道を支持基盤とするのが保守系で、全羅道を支持基盤とするのが左派、忠清道を地盤とするのが中道保守であることも、韓国政界をいっそう複雑怪奇なものにしている。そして、われわれ日本人が保守はナショナリズム、左派はインターナショナリズムと考えがちなところ、韓国ではそうではないのだ。保守系の朴槿恵前大統領が親日派でありながら、ついに日韓首脳会談を実現できなかったように、右派だからとか左派だからとかで日韓関係が解決できるものではない。


◎[参考動画]徴用工問題やレーダー照射 韓国への強硬論相次ぐ(ANNnewsCH 2019/01/11公開)

◆日韓条約そのものに問題があった

そもそも日韓基本条約(1965年)は、日韓併合条約(1910年)を武力による威嚇であるから正当な条約ではないとする韓国の立場と、国際法上正当な条約であるとする日本側が譲らないまま結ばれたものだ。その歴史認識の違いにもかかわらず、韓国は支援金として日本側に経済援助をもとめ、日本側は賠償権を放棄したものと理解したのである。無償3億ドル、有償2億ドルの経済援助だった。この条約締結は言うまでもなく、アメリカの要請であった。

当時の朴正煕大統領は元日本軍将校でもあった親日家で、しかも反共産主義の軍事独裁政権である。このような時代的な制約のある2つの条約をめぐって、日韓両国政府はそもそも初めから一致していないのである。したがって、韓国の裁判所が個人の請求権を合法と判断したのにも理由がある。法理的には賠償権を放棄していないのだから──。

今回の自衛隊機レーダー照射事件は、偶然起きたわけではないはずだ。自衛隊の旭日旗を忌避するがために、自衛隊艦隊は韓国軍の演習に参加しなかったではないか。識別旗を認めない国の軍艦が「友好国」であろうはずがない。かれらは常に、自衛隊機の反応を測っているのだ。だとしたら、かくなる擬制の友好国とはまったくテーブルを一緒にできないという認識から出発して、友好条約の締結のために議論を始めるべきではないだろうか。思い違いがいちばん危険なのだ。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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◆日通、4月から非正規社員の賃金を正社員と同額へ引き上げる

運輸最大手の日本通運が、この4月から非正規社員の賃金を正社員と同じにするという。働き方改革関連法で2020年4月から義務づけられる「同一労働同一賃金」を先取りしたものだ。日通の社員約4万人のうち、正社員は2万7000人。のこり1万3000人が非正規社員(有期雇用)である。このうち、フルタイムで働く数千人をエリア職(転勤のない正社員=1万6000人)と同一賃金にするというのだ。総合職(転勤あり)よりは低いものの、時給1000円前後から飛躍的な賃上げとなる見通しだ。もっとも、新しい評価制度の導入と一体なので、人件費の総額としては従来枠と変らないのではないかと見られている。

◆本当に実現されれば、中小企業は立ち行かないはずだが

この制度は、大企業が2020年4月から、中小企業も2021年の4月から義務化される。新たな人事評価制度はおそらく、既存労働組合のはげしい抵抗を招くであろう。逆に言えば、賃金体系を維持したうえで「同一労働同一賃金」を導入するとしたら、労使双方にきびしい覚悟を強いるものとなるだろう。労働組合には非正規を組織に取り込み、なおかつ従来の賃金体系を維持するという、いわば資本を追いつめる覚悟が問われる。経営側には新しい人事評価(賃金体系)を導入できなければ、非正規の雇い止めという労務政策を招くおそれがある。

たとえば市場変動(学生数の変化)がいちじるしい大学において、高給取りの専任(教授・准教授・専任講師)と非常勤講師(特任教授・研究員)との格差、あるいは非常勤の雇い止めは頻発している。ちなみに、専任と非常勤講師の賃金格差は、じつに年収1000万円以上である。はたして中小企業においても、この賃金体系は実現できるのだろうか。400兆円もの内部留保を抱えている大企業はともかく、パートの安い賃金で生産性を確保している製造業系の中小企業は耐えられるのだろうか。

◆究極の「同一労働同一賃金」は社会主義経済の賃金である

この「同一労働同一賃金」は、自民党のなかでも議論が深められてきたとは言いがたい。さわりの良い言葉(スローガン)はすぐに導入したがる安倍総裁に批判的な勢力からは「この同一労働同一賃金の意味がわかる人に教えてもらいたい」(石破茂)という声も出ていた。そう、この「同一労働同一賃金」はILOをはじめとする労働組合のスローガンであり、社会主義的な労働証書制(働いた時間を証書として、賃金を受け取る)に近いものなのだ。

突き詰めていえば、安倍総理と同じ時間と同質の仕事(国会答弁など、総理に固有の業務をのぞく)をしている者。たとえば総理秘書官や補佐官などは、安倍と同じ程度の歳費(年収)をもらわなければならないのである。国会議員秘書の大半は、議員と同じ程度の労働をしている。官僚は大臣以上の仕事をしているはずだ。社長秘書が社長とおなじ労働をしていると主張した場合、労働監督局はどう判断すればいいのだろうか。労働審判や民事裁判になれば、そこに線引きができるのか。石破茂の疑問は当然である。

◆外国人労働者にも適用するべきだ

経済界からの肝煎りの要請で、強行採決までして成立した入管法改変も、この賃金システムから自由ではないはずだ。外国人労働者が日本人とおなじ労働をしているのなら、その賃金も同一でなければならない。間違いなく、同一賃金は外国人労働者にも適用されなければならない。年功序列型の賃金体系が崩れるのは大いに歓迎されなければならないと思うが、もしも同一賃金が画餅に終わるようなら、残されるのは雇用制度そのものが崩壊する可能性である。人を雇えなくなった企業の門前に、膨大な失業者があふれる光景を思い浮かべてしまう新春である。


◎[参考動画]荷役はかわる 通運のパレット作業(1958)|物流アーカイブズ(日本通運公式チャンネル2017/09/27公開)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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◎[参考動画]防衛省、韓国艦レーダー照射映像を公開(毎日新聞2018/12/28公開)

 

2019年1月4日付け防衛省・自衛隊HPより

昨年末、韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊の哨戒機をレーダー照射した一件で、日韓両国はまるで戦争前夜のような騒ぎである。火器管制レーダーを照射すること自体は、たしかに発砲寸前と思わせるもので、国際慣習にしたがえば危険な行為である。レーダー照準でロックオンし「すぐにも撃つぞ」と脅しているようなものだからだ。防衛省が証拠として空自機の録画画像を公開し、韓国国防当局はそれに「救援活動のために、全レーダーを使用していた」と反論し、のちに「レーダー照射はしていない。日本機の低空飛行こそ脅威を煽った」などと日本側を批判した。ワイドショーでは、いまにも戦闘行為がはじまるかのように、この一件を大々的に報じている。いわく、事実関係を二転三転させる韓国政府は、まともな独立国家の呈をなしていない。国際的に恥を晒している、などと。

とはいえ、ただちに政治問題化するほどのものではなかったはずだ。経済水域内への艦艇の派遣は、相互に了解済みだからである。竹島(独島)をめぐる韓国はもとより、中国の尖閣諸島(釣魚諸島)海域への進出も、じつはいつも事前に通告がある行動なのだ。年間200回をこえる空自機のスクランブル発進も、じつは日常業務として日本・中国・韓国三国の了解事項なのである。と言えば、おどろく向きも少なくないのではないだろうか。だが、それが軍事の現場の実態である。


◎[参考動画]韓国国防省、反論の映像を公開(毎日新聞2019/01/04公開)

◆域内緊張の増大化は、予算獲得のためのデモンストレーションである

それらはもっぱら、予算獲得のためのデモンストレーションと言うべき現場の要請であり、幕僚の事実追認によるものである。いや、航空幕僚がそれを仕向けているのかもしれない。創設後60余年、戦争はもちろん戦闘行為をしてこなかった自衛隊(日本軍)は、紛争の警戒や緊急出動などを日々の糧に、その存在理由を示してきた。つまり予算獲得のために、つねに緊張感をつくっておかなければならないのだ。その事情は、中国海軍・空軍、韓国海軍においても同じである。

それは歴史問題で日本を批判するのと同じように、中韓両政府の求心力を高め、反政府運動を統制しうる内政の特効薬でもある。いわく、自衛隊機がカミカゼ特攻隊のように、わが国の艦船に低空で肉迫したと。たしかに歴史上、関東軍のたび重なる挑発で事変(紛争)が拡大し、日中15年戦争という災禍を引きおこした。それが結果的に太平洋戦争につながったのも史実である。とはいえ、平時の前線指揮官ほど紛争に敏感なものである。予算の獲得には熱心であっても、彼らは紛争の防止に神経をとがらせている。軍人ではなく、サラリーマン官僚としての安寧を第一に考えるからだ。ところが、ひとりだけ今回の事態に勇躍して発言をつよめた政治家がいる。わが安倍総理である。

◆総理の危険な感情

テレビの討論会で声高に、わが総理は韓国海軍に防止策を要求したのだ。ただでさえ反日を旗印にしている韓国左派メディアがこれに反応し、韓国国防省は「日本は謝罪をするべきである」となってしまった。これは安倍の意図したところなのであろう。国論を防衛費の増大にみちびき、改憲(自衛隊の国軍化)にむけた政権の求心力を意図したものにほかならない。だがそれも、穏便にやっているうちには成功したかもしれない。いや、やや過激に突き出すことで、世論を喚起する狙いは果たせたのかもしれない。

だがそのいっぽうで、韓国政府のエキセントリックな反応を引き出してしまったのだ。これではアジアにおける日本の政治的な主導権、とりわけ中国と北朝鮮に対する外交的な主導権は立ち行かないであろう。基調とする日米同盟に韓国をリンクさせることで、やっと日本の立ち位置はあるのだから。その意味では、緊張感をつくって存在をPRしようとした現場のパフォーマンスを、安倍は真に受けてしまったことになる。

けっきょく、安倍晋三という政治家は「感情」で政治をやってしまうのである。政治家の資質としては、じつに危険きわまりない。その「感情」がネット右翼や保守層の感情に訴えることはあっても、アジアの盟主を任じる本来の保守層を納得させるものではない。参議院選挙で自民党の大敗が予測されている。いまだに実感の持てないアベノミクスの「成果」とともに、この男に政権をまかせておくと、とんでもないことになりそうだと。ようやく保守層が考えはじめているのだろう。


◎[参考動画]日本の舵取りどう進めるのか? 安倍晋三総理に聞く(ANNnewsCH 2019/01/01公開)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

本日発売!月刊『紙の爆弾』2019年2月号 [特集]〈ポスト平成〉に何を変えるか

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