反乱を起こしてから3週間以上、ワグネル創始者プリゴジンの行方がわかっていない。そしていま、死亡説が飛び交っているのだ。

「プリゴジンを目にすることは二度とない」

海外のメディアに、アメリカ軍陸軍のエイブラムス元大将はこう話したという。

「公の場でプリゴジンの姿を目にすることは、もう二度とないだろう。彼はすでに死んでいると思う」

これ自体は推測にすぎないが、プリゴジンの死亡説を裏付けるように、ここに来てワグネルの新たなトップが就任するとの噂がある。その人物の異名は「白髪」を意味する“セドイ”、ワグネル創設メンバーのひとり、アンドレイ・トロシェフだ。

反乱の5日後、プーチン大統領がプリゴジンたちワグネル幹部と会った際、プーチンは“セドイ”こと、トロシェフのトップ就任を提案したという。プリゴジンはこれに同意しなかったという。それ以来、ブリゴジンの変装写真などは表に出てきたが、詳しい消息はわからないままだ。

いっぽう、ブリゴジン氏に一味した将官グループへの捜査も、風雲急を告げている。

◆数千人・数万人が取り調べを受けている?

プリゴジンと近いことから、共謀した疑いが持たれているのがスロビキン将軍(ウクライナ侵攻の元副司令官)である。そのスロビキン将軍に二重スパイの疑いが出てきている。ロシアメディアでは、国防省からの仕事として、ワグネルとのパイプ役を命じられていたというのだ。スロビキン将軍は特別軍事作戦だけでなく、シリアでも戦闘経験を持つ経験豊富な指導者で、ワグネルとの交流経験もあるため適任だったからだ。

いっぽう、アメリカCNNは、スロビキン将軍が、ワグネルの秘密のVIPメンバーだったと報じた。英シンクタンク「ドシエセンター」が入手した文書では、スロビキン将軍を含む30人以上の軍や情報当局の高官が、VIPとして登録されていたことが判明したという。スロビギンには、ワグネルとの関係を巡って拘束情報が出ているのは間違いない。訴因はワグネルの反乱の動きを、事前に知っていたという理由にほかならない。

いまクレムリンでは、とてつもない規模の捜査が行われているようだ。

親クレムリンの政治コンサルタントのセルゲイ・マルコフは、テレグラムで「スロビキン将軍が尋問されている。彼だけではない。大規模な捜査が始まった。ロシア連邦保安庁(FSB)の数百人の捜査官が、数千人を取り調べることになる。あるいは数万人になるかもかもしれない。プリゴジンと接触した将軍や将校は全員尋問されるだろう」と指摘している。

ウクライナのメディア「キーウ・ポスト」は「モスクワ治安筋の話として、スロビキン氏は現在逮捕されていないが、捜査には協力している(6月30日)としているが、大規模な捜査が行われているのは間違いない。

プリゴジンのクーデターは、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の解任をプーチン大統領に訴えるのが名分だった。プリゴジン氏はロシア軍の支持を得られると見込んでクーデターを起こしたが、スロビキン将軍はプリゴジン氏のはしごを外し、投降を呼びかけたのだった。現在、プーチン氏の命を受けたFSBが、裏切り者をあぶり出している。クーデターをきっかけに、プーチン氏は「中枢にメスを入れることができるし、疑心暗鬼が解消されることになる」と語ったという。

◆独裁者は裏切り者をけっして許さない

かつて、ヒトラー暗殺計画(1944年7月20日事件=ヴォルフスシャンツェ総統大本営爆破)では、事後に数千人が逮捕・処刑されたと言われている。ブリゴジンの反乱も、プーチンと会談するなど平和裏に収められた形だが、そのことがブリゴジンの命運を決めた。いくらおもねってみても、独裁者は反乱者をけっして許さないのだ。

もっとも、ヒトラー暗殺計画はイギリスによるものもふくめると、じつに42回あったとされている。これらの大半は戦後に判明したものである。

すでにウクライナのゼレンスキー大統領に対する十数回の暗殺計画が阻止された(英国情報部)ことを考えると、現在のプーチン大統領も暗殺未遂に遭遇していても不思議ではない。5月30日に起きたモスクワ郊外ノボオガリョボへの8機の自爆ドローンは、明らかに大統領公邸を狙ったものだった。

ここから先はロシア国内、わけてもクレムリン内部の反乱に注目である。

すでにオルガリヒのうち、戦争に疑問を持つ者たちは秘密裡に殺され、ブリゴジンに一味した将官たちは連座する運命にある。だが、ロシア国内においても、反乱の芽はつぎつぎに起きるはずだ。反乱が軍部とクレムリンに波及したときこそ、確実にウクライナ戦争は終局する。

◆プーチン逮捕はあるか?

もうひとつ、プーチン大統領をめぐって政治焦点化しているのが、新興5か国(BRICS)首脳会議への出席だ。

プーチンには、ウクライナへ侵攻(子供の連れ去りなど)で、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ている。(BRICS)首脳会議の会場となる南アフリカは、ICC加盟国である。理論上、南アフリカ裁判所はプーチンが来訪したら逮捕しなければならないのだ(条約履行義務)。

南アフリカのラマポーザ大統領は「プーチン氏を逮捕すればロシアと戦争になる恐れがある」との見解を示した。ラマポーザ大統領が地元裁判所に提出した文書をロイターなどが7月18日に報じたものだ。

BRICSは中国・インド・ロシア・ブラジル・南アフリカで構成され、南アフリカが今年の議長国を務めている。ラマポーザ大統領は、プーチン氏が訪問した場合でも逮捕を回避できるようICCと協議していることを明らかにした。 

南アフリカでは与党のアフリカ民族会議(かつてのネルソン・マンデラ大統領も所属した政党)がロシアと友好関係にあり、ウクライナ侵攻でもロシアへの表立った批判を避けていた。そのいっぽうで、野党は政権の親ロ姿勢を批判しており、プーチンが入国した場合に逮捕するよう政府に求め、地元裁判所に訴えを起こしている。プーチンが逮捕を怖れて会議に出席しないようなら、国際的な求心力も喪失することになる。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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