利権まみれの大阪・関西万博パビリオン建設 ── 維新は、お仲間業者を儲けさすことに必死のパッチ

尾﨑美代子

◆トラブル続きで「死者がでるかも」

維新の会は、お仲間業者を儲けさすことに必死のパッチ。

万博、開幕前予想していたトラブル以上のトラブルが起こっている。アンゴラパビリオンの建設を請け負った下請け業者に、上の業者が4000万円支払ってない件、しかもその上の業者が大阪府から建設許可証をとってないとか、建設の実績はほぼないとか、あり得ない事態もおこっている。

アンゴラパビリオンは開幕日に1日だけ開館し、その後ずっと閉めているって気の毒すぎだし、この件で万博協会が「民間同士の契約トラブルのため関与しない」とつれないそぶりなのも無責任すぎないか。これ、国家事業だろう? 大阪府も市も絶賛推進してただろう? 吉村なんかずっと万博ワッペン付けてただろう。それで「しらんぷり」はあり得んだろよ。下請け業者さん、うえの業者に何回連絡しても繋がらないって。「死者がでるかも」だって。

◆万博利権と類似した釜ヶ崎の労働関連施設建設をめぐる癒着構造

この件で思い出したのが、釜ヶ崎の「あいりん総合センター」の解体が決まって、そこに入っていた2つの労働施設、あいりん職安と西成労働福祉センターが2019年春に、隣の南海電鉄高架下の仮庁舎に移転した件だ。

センターは頑丈な重量鉄骨構造、職安は簡易なプレハブ構造と、構造がまるで違っていた。公金(税金)使う場合は最低限にしなくてはならないのだし、数年しか使わないのだから、簡易なプレハブ作りでよいはずだが。

センター仮庁舎は1517㎡、費用は約7億500万円。同じ規模の公的な建物(警察署とか公民館)と比べても非常に高い(ちなみにプレハブ構造の職安の建設費用は2億3000万円)。センター仮庁舎と同じく4年から6年使用する予定の他の仮庁舎の場合、建設から解体、現状回復までかかった費用は、センターの半分以下の3億円を超えるものはなかったという。センター仮庁舎を作った業者はどれだけ中抜きしているのだ!

当時、私たちもそれを問題にしてきたのだが、行政はその工事は南海電鉄高架下に作るという「特別な工法」なので、南海電鉄関連業者に随意契約でやってもらうしかないと言ってきた。どこがどう「特別な工法」かはわからなかったが、なんと出来て数か月で雨漏りがしたという……出来てすぐに雨漏りがするという「特殊な工法」だったのか。疑問が深まる。

プレハブ構造のあいりん職安
重量鉄筋構造のセンター
[左]開業から2ヶ月で天井から雨漏り。これが「特別な工法」のせいか??/[右]すんごい穴!

と、そんな頃、店の客の仮枠大工の兄さんから「ママ、7億あればけっこうなマンションが建つで」と言われた。「えっ本当?」と思っていたら、ある情報番組でハリウッドの「ヒルズだからビューが素晴らしい」という3階建て300坪、プール付きの大豪邸が約5億円と紹介されていた。建設費用と完成物の違いはあるものの、他でも調べると、ハリウッドのセレブな人たちの超豪邸が7億円未満でいくらでもあるではないか。7億円というのはそういう金額なのだ。セレブな方々の豪邸は何年たっても雨もりなんかしないゾ。

◆パビリオン建設に名を連ねる維新のお友達業者

ほかにもあるパビリオン建設費用の未払い問題で考えたのは、そのいい加減な業者は絶対維新のお友達業者であろうということだ。

維新の松井一郎の親族会社「大通」の主要取引先が南海電鉄グループの企業である住之江競艇場を経営する住ノ江興業で、松井の親族はここの電飾関係の管理や修理を行い儲けている訳だ。

あるいは、大阪城の樹木や大阪各地の街路樹をバッサバサと伐採する造園業「翠宝園」という八尾市の業者は、維新の前田洋輔府議の実家で、その前田府議の職歴見ると、この翠宝園のほかに大通も入っているという。ちなみに彼は松井の秘書をやっていたこともあるという、どんだけわかりやすいお仲間構図なんだ。

星野リゾート前のJR高架下に出来た「屋台村」もずっと閑古鳥が鳴き続けていたが、ついに撤去となった。あそこの連中もきっと維新のお仲間なのだろう。

◆万博会場で販売されていた統一教会系飲料水「メッコール」

そういえば、万博会場で販売されてた水「メッコール」が販売中止となったが、あれは、流石に社会的に問題となってる統一教会の関連業者とバレたからだ。バレなきゃ売り続けていたということか。お仲間業者を儲けさすことしか考えない維新の会。しかし、この万博が維新の会の命取りになるだろう。維新政治を終わらせるために、万博が始まっても万博反対を訴えていこう!

尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

「あいりん総合センター」が解体されたら、釜ヶ崎の困窮者はどこへ行けばいいのだ……

尾﨑美代子

センターが解体される。困窮者はどこへ行けばいいのだ。

5月15日、大阪市議会で、新今宮駅前にどんと建つ「あいりん総合センター」、通称センターが解体されることが決まった。維新の会と共に解体したいと考える人たちは「耐震性に問題がー」と言っていた。しかし、それが嘘だったことは、「問題だー」と叫び始めて以降、何年間も問題視していなかったことからも明らかだ。「老朽化して危ない」ともいわれるが、70年に作られた際、この頑丈な構造物は100年持ちまっせ!と言われてたのだ。その後、何度も震災にあいながら太い柱はそのままだ。何より、ここは釜ヶ崎の人たちが生活するのに重要ななくてはならない場所だった。ここに来れば本当になんとかなった場所だった。それが解体される。次に出来る構造物に、そうした人たちが入れるスペースはほとんどないだろう。

この大量の荷物の下に台車が置かれ、おじさんはそれを必死で押しながら地区内で休める場所を探している

上の写真のように、台車に全財産積んで、休める場所を探す人たちはまだまだ釜ヶ崎の周辺に大勢いる。これらの写真は、この半年の間に撮った写真だ。私が昼のバイトから帰る途中で会うおじさん、高齢で足が悪く5メートルを数分かけて歩く。 

センターがあった時は昼間センターで段ボール敷いて休んでいたのだろう。足も顔も洗えるし、洗濯も出来る。シャワーも浴びれた。釜ヶ崎に来れば、毎日どこかで飯が食える。釜ヶ崎地域合同労組の炊き出しは毎日昼と夕方にある。朝飯や昼飯があちこちでやってる。弁当を配る人たちもいる。中には貧困ビジネスの連中もいる。「うちのアパートに入れますよ」と甘い言葉で勧誘している。いい物件ならばよいが、生活保護費をむしり取る酷いところもある。気いつけてや。 

それでもどこかで飯が食える。冬になれば冬物、夏になれば夏物をあちこちで「放出」してくれる。セーターやジーパンも露店で100円で買える。三角公園の「西村商店」でも300円だ。月初め、西成警察横東側の「子どもの里」で、毎週水曜日、西成警察西側の「いこい食堂」前でバザーが出て、かみそり、石鹸、タオル、靴下、下着も安く買える。生活に困った人には本当に住みやすい釜ヶ崎、そこに住む人たちが大切にしてきたセンター、それが解体される。

この国で、貧困や差別がなくなるというのならばまだしも、今後も生きるのに難儀な人たちはもっと増えていくだろう。 今でも、炊き出しの列には30、40代の人も並んでいるで。

この釜ヶ崎は、本当にふところの広い町。ニッカポッカ履いた鉄筋の兄ちゃんが、立ち飲み屋で大きな縫いぐるみ抱きながら飲んでても誰も何もいわない。女装するおじさんも山ほどいる。誰も何もいわない。いっとき、Tバックで釜ヶ崎を闊歩する兄さんもいたな。さすがにそのままうちの店に入ろうとしたから、「兄さん、店に入るときはズボンはいてな」といったけど。

罪を犯し刑務所に服役し、出てきた人も多い。ある時、店で仕事も年齢も全く違う、ほとんど接点のない客同士が、目で挨拶するのを見た。話はしないが、必ず「元気か」みたいに目で話をしている。親しい客の方に「あの人、知っているのか?」と聞いたら、「刑務所で一緒だった」という。突然店に来なくなり、数年後また顔を出すようになった人に、普通なら「久しぶり。どこへ行ってたの?」と聞くだろうが、私は聞かない。「久しぶりやね」というだけ。病気で入院してたか、借金が膨れて飯場に入ってたか、あるいは服役していたか。間違っても、故郷に戻って家族と楽しく暮らしていた、などという人はいない。素性も前歴も家族の有無なども、こちらからは聞かない。今でこそ、生活保護など受けたから本名を教えてくれる客が多いが、昔は労働者ばかりで、多くは偽名。山ちゃんなんか10人以上いた。のっぽ山ちゃん、ちび山、おデブな山ちゃん、がりがり山ちゃん、黒い山ちゃん、犬好き山ちゃん、女好き山ちゃん……仲間に刺されて亡くなったバンダナ山ちゃん。素性も前歴も関係ない。釜ヶ崎人情ではないが、「誰に遠慮がいるじゃなし じんわり待って出直そう」が出来る町だ。

星野リゾート近くのコインランドリー前に立てられた非常に差別的な幟。「浮浪者出禁」と書かれている

本当にこの町はどうなるのだろう。もう一度言うが、貧困や差別が無くなるのならばまだしも、無くなるどころか増えていくのだから。こういう町がひとつくらいあってもいいではないか。いや、なければ困る人たちがたくさんいるではないか。 

そのために、西成特区構想を進める維新の会こそ解体していこう!

尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
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大阪・関西万博開催まで三か月を切り、維新は「機運」を「醸成」しろと言うが…… 尾﨑美代子

◆年末の紅白でも全く取り上げられなかった国家プロジェクト

4月13日の万博開催まで三か月を切ったが全く盛り上がらない。先日関東在住の方とZOOM会議を行った際「万博っていつからですか?」と聞かれた。今日は京都在住の方からも同じことを聞かれた。国家プロジェクトなのに、年末の紅白でも全く取り上げられなかった。

なんというか、この状態、全校生徒からシカトされている、超いじめ状態にあっているようなもの。虐めは虐められる側にも問題があるという人がいるが、私は確実に虐める側に問題があると思う。

しかし万博に関しては、このご時世に万博やろうとブチ挙げた維新の会に大いに問題があると考える。チケットは全く売れてない。企業が買った(買わされた)分が、そのうち大安売りで出てくるだろう。

維新のやることは全てそうだ。大阪城公園の樹木をバッサバッサと切り倒して作られた劇場「KEREN」が開演するとき、ある人から「吉本のお偉いさんに怒られるのでチケット、ただで貰って」とメールがきたね。

新今宮駅北側に星野リゾートが開業したと同時に高架下に造られた「新今宮屋台村」、当初は営業していたが今は閉まったまま。地元で有名なホルモン屋を立ち退かせてまで作った割にはどうなってるんだ。ていうか、カラ家賃、今誰が払ってるんだ。

◆40億円近くかけた「機運醸成キャンペーン」の愚

万博が全く盛り上がらないなか、焦った連中が始めたのが40億円近くかけた「機運醸成(きうんじょうせい)キャンペーン」。昭和どころか、大正、明治なおっさんらがひねり出したこのネーミング。「三者凡退」の世界だな。若い連中で「おっさん、あっすみません。部長、こんなネーミング、ダメダメですよ」という人がいなかったのか?それが一番怖い。こんなネーミングで機運が醸成するかよ! 

「今回はだめだけど、70年万博は良かったね」という声もあるが、そうだろうか。私の住む釜ヶ崎は、先の70年大阪万博開催のため、労働者を大量に集めるために作られた地域だ。釜ヶ崎の研究を続ける原口剛さん(神戸大准教授)によれば、70年万博の工事では、尻無川水門事故で11名が生き埋め死亡、会場造成工事で17人が死亡、開幕後の地下鉄天神橋筋六丁目の建設工事で、ガス爆発で79名死亡、420名重軽傷の犠牲を出すなど、多くの労働者が犠牲になっている。

◆「カジノで儲けて福祉に回す」

工事が遅れに遅れ、開演時に完成してるパビリオンはわずか3ケ国だという。今後突貫工事が必至だろうが、そんな工事現場でさらに犠牲者は増えるだろう。わずか184日間(4月13日~10月13日)の万博のために、多くの労働者が犠牲になり、私たち府民・市民が赤字を背負う羽目になる万博にはやる意味があるのか? しかも、万博開催のために、昨年12月1日、釜ヶ崎のセンター周辺に野宿する人たちがいきなり強制排除された。釜ヶ崎からこそ万博に反対していかなくてはならない。なのに、仲間と作った万博反対のチラシを、釜ヶ崎の越冬闘争の現場で多くのちに読んでもらおうとまいたら、「(公園の)外でまけ」とどやされたそうだ。なぜ?

万博開催の目的は、そのあとに予定するIR・カジノをやるためだ。カジノ(ばくち場)建設のために道路や鉄道を整備の整備費用に税金を使ったら、さすがにまずいと考えた維新は、まずはその前の万博のために道路や鉄道を整備しましたと口実につかった。

元市長の松井は「カジノで儲けて福祉に回す」とのたまった。「父ちゃん、ボートで取ったら、お前らに美味しいモノ食わせてやっからよ」の世界だ。「父ちゃん、住ノ江(ボート)行くのやめて、今日の夕飯のコメ買って」と父ちゃんの足元に縋りつくところだろうよ。

吉村、松井よ! 生活保護のおっちゃんらが月末頼りにしていた激安スーパー玉出のひと玉19円のうどんもなくなったんだぞ。万博、IR・カジノにつぎ込む金は、いますぐ生活に困窮した人たちの生活費用に回せ!

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』(鹿砦社)
尾﨑美代子著『日本の冤罪』(鹿砦社)
https://www.kaminobakudan.com/
タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2025年2月号

◎Yodobashi.com https://www.yodobashi.com/product/100000009004001320/ ◎Rakuten books https://books.rakuten.co.jp/rb/18082281/

釜ヶ崎の野宿者追い出し裁判、最高裁が上告棄却 今の大阪に必要なのは万博やカジノでなく、生活困窮者のセーフティネットの町「釜ヶ崎」です 尾﨑美代子

 
シャッターの閉められたセンター西側には野宿する人たちがいる。行政はわざとゴミを放置し、「野宿者がいるからこんなに汚いのだ」とアピールする

釜ヶ崎の野宿者追い出し裁判、最高裁が5月27日付で上告を棄却しました。

長い裁判のこれまでの経緯を説明します(不足している部分もありますが)。

JR新今宮駅前にドンと建つ「あいりん総合センター」(以下、センター)は長年西成の日雇い労働者の労働・生活の中核となり、野宿者にとっては最後のセーフティネットの場になっていました。

ところがセンターを管理する国と大阪府は、センターの耐震性に問題があるから解体し建て替えるとして、2019年4月に強制的に閉鎖しました。しかし、その後も周辺には多くの人たちが野宿していました。

すると、国と府はそれも認めないと、2020年4月22日、野宿者と、センターに誰でも泊めれるようバスを置いている釜ヶ崎地域合同労組の稲垣浩氏ら22人に対して立ち退きを求める裁判をおこしました。しかも、そのわずか数か月後の7月、本訴が終わるまで時間がかかるから緊急に立ち退かせる必要があるとして断行の仮処分命令を訴えてきました。

これに対して稲垣氏は、仮処分命令が決まって野宿者らがセンターからばらばらに追い出されては、その後本訴を闘うにも団結することが困難だと考え、断行の仮処分命令にも毅然と闘うべきだと訴え闘ってきました。これと闘わなければ、次の闘いも闘えない、当然の判断だと思います。

センターに停めてある釜ヶ崎地域合同労組の車両。24時間誰でも休めるようになっている

 
明らかにヨソから持ち込まれた粗大ゴミ。行政、西成警察はこうした「不法投棄」を取り締まる気もない

この裁判で大阪地裁は12月1日、国と府の断行の仮処分命令を却下しました。野宿者ら被告側の勝利です。却下した理由ですが、国と府は早く立ち退けとの理由に、2008年から「センターの耐震性に問題がある」と主張していましたが、そのセンター問題を考える「まちづくり会議」などで、肝心の耐震性問題が「喫緊の課題」として論議された形跡がないからだというのです。至極真っ当な理由です。しかもこの時点では、センター解体後の跡地をどうするかも具体的な計画案も決まっていないのでした。

その後、本訴である土地明渡訴訟が始まりました。2021年12月2日、大阪地裁は国と府の主張を認め立ち退きを認める判決を下しました。但し、原告(府)が求めていた、全ての裁判が終わるのを待たずに「すぐに立ち退け!」とできる仮執行宣言は認めませんでした。被告側は敗訴しましたが、実質強制排除されることはなかったのです。これもある意味「勝利」でした。

その間、大阪市や西成区は野宿者に対して、生活保護を受けさせ立ち退かそうと説得などを行ってきました。普段は生活保護を受けさせない、あるいは受けたのちにもあれこれ難癖つけて保護をうち切ろうと必死の行政側も「今なら簡単に保護が受けれますよ」と甘い言葉をかけまくってました。

もちろん生活保護を受けるか否かは本人の自由で、受けたい人は既に受けています。それでもなお、様々な理由で野宿にとどまる人がいることも事実です。しかもこの間には、コロナ禍で職を失い困窮し新たにセンターに来た人を何人も見てきました。釜ヶ崎のセンターは社会的に困窮する人たちの最後の砦になっていることは明らかなのです。

人の背丈の3倍ほどに積み上げられたゴミ。行政は「釜ヶ崎をきれいな町に」とほかでは熱心に清掃してるのに

一審で敗訴した稲垣氏と野宿者らは、大阪高裁に控訴しました。大阪高裁は2022年12月14日、地裁判決を支持し、野宿者側の控訴を棄却しました。一方で地裁判決と同じく、最終的な判決が確定する前に強制退去が可能である「仮執行」(強制排除)は認めませんでした。

弁護団によれば、このような事態は極めて異例であるとのことです。野宿者の強制排除を許さないという主張を訴えてきた被告側の闘いの大きな成果でした。その後、被告らは最高裁に上告していましたが、最高裁は5月27日付で上告を認めないという判決を下した、という経緯です。  

現在、野宿者らはいつ強制排除されるかもしれない事態に晒されています。この問題に関心を持たれるみなさんには、ぜひ、今後の動向に注目して頂きたいと思います。

前述したように、大阪府はセンターを解体して出来た更地に何を作るかの具体案も決めていません。私が一番許せないのが、国と府は、耐震性に問題があるとしてセンターの入っていた第一市営住宅を解体しようとしていますが、同時に耐震性に問題のない第二市営住宅まで公費で解体しようとしていることです。

それは駅前により大きなきれいな形の台形を確保することで、一層儲けることが出来るからです。万博、カジノ同様、大阪維新とその仲間たちだけが儲けようという魂胆です。この間の物価高などで困窮者はますます増えていくでしょう。そんななか、生活保護者、野宿者含め生活困窮者が誰に遠慮なく、堂々と生活していける町、それが釜ヶ崎、こういう地域は本当に必要ではないでしょうか。

みなさん、ぜひご支援とご注目を!

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

弱者に優しくない街になってしまった釜ヶ崎 尾﨑美代子

4月6日(土)の昼前、三角公園の炊き出しに集まった人たちに、仲間が7日(日)に企画した映画「カンタ!ティモール」の上映会のチラシを撒かせていただいた。200枚用意したチラシはあっというまにはけた。企画した仲間はどにかく釜ヶ崎のおっちゃんたちにこの映画を観て欲しいということだった(結果7日の上映会は満席でした)。 

 
朝の無料朝食に並ぶ人たち

チラシ配りのあと私は炊き出しの手伝いに。いつものメンバーの他に学生たちも多数参加していた。私はごはんに野菜たっぷりのスープをかける手伝い。配食時間となり、学生らが「こんにちわ」と声をかけながらおっちゃんらにお椀を手渡す。

どの人も嬉しそう。配食はあっという間に200食を超えた。それでも並ぶ人はまだまだいる。白米も大鍋の野菜スープも残りわずかとなったとき、リーダーの男性が「まずい、まだまだ大勢の人が並んでいる」と慌てた様子で、残った白米を汁に入れ雑炊にしようと言ってきた。私たちは慌てておひつに付いた米粒を一粒も残さないように鍋に入れ、チャチャと雑炊を作りお椀に注ぐ。それでも列が続くため、リーダーが「ちょっと少なめに盛って」という。結局300食は出ただろうか。

「もう終わりですか?」。片づけていると、残念そうに言ってくる男性がいた。大きなリュックを背負った男性は、釜ヶ崎に最近来た感じだ。どこかで「三角公園で炊き出しやってるで」と聞きつけ急いできたのだろう。本当に残念そう(涙)。

 
西成警察署北側にあるいこい食堂。「炊き出しに並ぶのは11時30分から」

釜ヶ崎ではこの三角公園の火曜日、土曜日の炊き出しのほか、釜合労が毎日センターで行う炊き出しもある。ほかにも無料で朝食を提供している団体が何ケ所かあり、どこも連日40~50人は並んでいる。

ほかに週2日、西成警察署北側の「いこい食堂」というボランティア団体が炊き出しを行っている。ここでも毎回200食は出るという。食堂で作って隣接する四角公園で配食していたが、先ごろ四角公園が工事のため長期間閉鎖されることとなった。

いこい食堂の方と支援者が、「公園が全面閉鎖されては炊き出しが出来なくなり困る。工事中でも炊き出しスペースは開けて欲しい」と交渉を続け、認められることとなったようだ。

その交渉の場で、市の職員が「きれいに生まれ変わります」と強調していたという。これに対していこい食堂の方がこう言っていたとそうだ。

「きれいになること=排除されると感じる人が、この町には大勢いるんです」 

私も同感だ! きれいになることが悪いのではない。しかし、誤解を恐れずにいえば、この町に住む人たちは決してきれいな人ばかりではないということだ。生活保護、年金生活の人たちはいずれも貧しく、日々かつかつの生活を送っている。

 
いこい食堂の水曜日のバザー。タオル、靴下などが50円から100円で売られ、おっちゃんらに喜ばれている

生活保護費や年金の支給日を待って、玉出スーパーに大量の食料を買いに行く人、コインランドリーに洗濯に行く人、散髪屋で髪を切る人……。みんな、その日をじっと待っている。普段からカーキ、紺、黒など汚れの目立ちにくい色の服を着る人が多い。髪の毛が伸びても帽子で隠す、洗濯を貯めておく、一食浮かすために炊き出しに並ぶ……。それが悪いことだろうか? どんなに貧しい人でもどうにか生きていける……。それが釜ヶ崎の良さではないのか?

また近年、釜ヶ崎では酒の自販機が次々と撤去されている。自販機前で座り込み、コンビニで買ってきたつまみで安酒を飲むおっちゃんらも、きれいに変貌を遂げる釜ヶ崎では「目障り」なのだろうか。

しかし、カツカツの生活のなか、狭いドヤや福祉アパートで一人寂しく酒を飲むよりは、知り合いが集まる自販機前で仲間とバカ話しながら飲むほうが楽しいではないか。

「ボート取ったからいっぱい奢るで」とラッキーチャンスに巡り合えるかもしれない。携帯電話を持てなかった頃は自販機前が情報交換の場所だった。「山梨ナンバーの車に乗ったらあかんで」(山梨県のある飯場で殺人事件があったとき)。「7日、ふるさとの家の上映会でおにぎりが出るらしいで」。

懲役2年で服役した知人は刑務所である男性と知り合ったそうで、その男性の懲役は知人よりもっと長い。出所後行く当てのない男性は「俺も釜ヶ崎に行きたい」といったという。それに応えて知人は男性にこう言った。「5年後、おれが元気でいたら、毎日足立の自販機前にいるわ。必ずいるから訪ねてこい」と。しかし、その足立の自販機もなくなってしまった(二度目の涙)。

結局、今、釜ヶ崎は社会的な弱者、困っている人たちには、どんどん優しくなくなっているということだ(三度目の涙)。

西成警察署裏の四角公園(萩之茶屋中公園)。藤棚の下はみんなの憩いの場所

無料朝食に並ぶ人たち。今朝はこれまで以上に長い行列ができていた(4月11日筆者撮影)

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。2023年10月に『日本の冤罪』(鹿砦社)を上梓
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』


冤罪を作った人たちを罰することができないならば、冤罪は永遠になくならない 尾﨑美代子

多くの事件で、犯人でない、罪のない人を犯人に仕立てるための「汚れ役」を担わされる人がいる。冤罪と言えるかどうか、先ごろ私の住む釜ヶ崎で、監視カメラにゴム手袋などを被せた件で、釜ヶ崎地域合同労組委員長稲垣浩ら4人が「威力業務妨害」で逮捕・起訴され、一審で有罪判決が下された事案でも、そういう人物がいた。一審で、原告・大阪府側の証人として証言しながら、控訴審の逆転無罪判決で、その証言がほぼウソだったと認定された芝博基氏(当時、大阪府商工労働部参事、以下芝証人)である。

2019年4月、労働者や野宿者らの寄り所であった「あいりん総合センター」が強制閉鎖されたのち、支援者、野宿者らが寄り合いや共同炊事をするために作った団結小屋に、ある日突然、逆方向を向いていた監視カメラの向きが変えられた。

釜ヶ崎周辺の監視カメラについては1990年、稲垣氏らが大阪府を被告として、監視カメラ15台の撤去と慰謝料の支払いを求めて提訴し、1994年大阪地裁が原告らのプライバシーを侵害する恐れがあるなどとして、組合事務所前の監視カメラ1台の撤去を命じる判決を言い渡し、撤去させた実績がある。今回も、稲垣氏と支援者らは同様の理由で、監視カメラのカメラにゴム手袋やレジ袋で被せた。この件でのべ6人が逮捕、4人が起訴された。被告4人は裁判で、この行為はプライバシーや団結権を守るための非暴力的・非破壊的な行為で正当防衛だと主張していた。

一方、芝証人は、カメラの向きを変えた理由について、数日前、センター西側の団結小屋付近と東側でボヤが発生したため防災目的であり、団結小屋に出入りする人たちを監視する意図は全くなかったと証言した。当時、センターは閉鎖したが、上階の「大阪社会医療センター」(以下、医療センター)が業務を続けていたため、再びボヤが起き、「医療センターへの延焼や有毒ガスの発生により入院患者らの生命、身体に対する危険が生じかねない」と、防犯対策の必要性を強調した。

しかし、芝証人は、団結小屋のある西側の防犯対策には必死になったが、玄関や窓がありボヤが起きたら西側より一層患者に危険が及びかねない東側のボヤについては、検証すらまともに行わなかった。そればかりか、カメラに映った犯人がその後どうなったかなどの捜査状況を、西成警察署に問い合わせてもいない。犯人を逮捕する気などさらさらなかったのだ。更に芝証人は、カメラの新設も考えたが「ほかに良い場所がなかったため」、南海電鉄高架下のセンター仮庁舎前の駐車場に向けられていたカメラの向きを、仕方なく団結小屋側に向けるしかなかったと証言した。

一審有罪判決に対して被告3人が控訴したが、稲垣氏の弁護人・後藤貞人弁護士が「控訴趣意書」で、先の芝証言について「芝のこのような供述は虚偽であるか、さもなければ完全に間が抜けている」と厳しく非難した。「新設するのであれば、最も適切な場所は目の前にあると。つまり本件の監視カメラが設置されているポールそのものである。1本のポールに複数のカメラが設置できることは素人にもわかる」と。「控訴審の勝ち負けは95%控訴趣意書で決まります。この控訴趣意書は私が書いたこれまでの中でも3本の中に入ります」と後藤弁護士。その「控訴趣意書」で「間が抜けている」とマヌケ認定された芝証人だが、「汚れ役」をやり遂げたのち、出世したという。

このような「汚れ役」を担う人物が冤罪事件でも良く登場する。拙著「日本の冤罪」から何人か紹介したい。姫路の花田郵便局で2人組のナイジェリア人による強盗事件が発生した事件では、ジュリアスさんがその1人として逮捕・起訴され、有罪判決で服役した。事件後、自首した犯人の1人は、共犯の男はジュリアスではなく、別の男と供述していた。

しかし、ジュリアスさんを逮捕した警察もあとに引けない。裁判では、郵便局から押収したカメラ画像が公表された。郵便局を立ち去る際、犯人の1人が目出し帽を思わず脱ごうとする場面がある。しかし、その瞬間の数秒間にはノイズ(砂嵐)が入っており、ジュリアスではない真犯人の顔はわからなかった。専門家によれば、そのような短時間にノイズが入ることは通常考えられないという。不可解なノイズを作為したのは、ジュリアスが犯人でないことを必死に隠したい警察、検察の仕業ではないのかと疑ってしまう。しかし、法廷で検察は、郵便局から押収した時からノイズが入っていたと説明、「マスクを取ろうとした直後に砂嵐が入って(筆者注・犯人の顔は)映っていませんでした。それでとても残念だったことを覚えています」と白々しく証言した。
 
泉大津コンビニ窃盗事件は、コンビニのレジから1万円札を盗んだとして逮捕、起訴された土井さんが、店から逃走する際ドアをこじ開けたが、ドア右側に土井さんの左手の指の指紋がついたとされた。普通なら左手で左側ドアを開ければよいのではないか。指紋は土井さんの指紋ではあったが、土井さんが良く通うその店に別の日についた可能性がある。にもかかわらず、警察、検察は、事件当日土井さんがつけたものと強弁。しかし、その後、弁護団が事件前のコンビニ入口のビデオ映像を証拠提出させ、そこから土井さんの母親が必死探し、指紋は5日前につけたものであることを発見した。

弁護団は、それを証拠に再度無罪を主張。それでも検察は、犯人が、わざわざ盗んだ1万円札を掴む左手で、身体を無理やりひねって右側のドアをこじ開けるという噴飯もので幼稚な再現実験を法廷でやってのけた。その後土井さんは無罪を勝ち取った。

こうした恥ずかしい「汚れ役」を担う裁判長もいた。神戸質店事件で、質店店主を殺害したとして逮捕、起訴された緒方英彦さんは、一審で無罪判決が下されたが、控訴審で追加証拠もなしに「無期懲役」の逆転有罪判決を下された。大阪高裁の裁判長・小倉正三氏の法廷は「小倉コート(法廷)」と呼ばれている。「裁判官の品格」などの著書があるジャーナリスト池添徳明氏は「非常に形式的でろくすっぽ証拠調べもしない。検察が起訴したんだから有罪だと決め打ちする”小倉コートにひっかかったらもうダメ、それが大阪の弁護士たちの共通認識だった」と痛烈に批判している。そんな小倉には、退任後、旧勲二等にあたる勲章が授与されている。

東金女児殺害事件で逮捕、起訴された知的障害を持つ勝木さんは、担当検事と「金子さん、金子さん」と呼ぶほどの親しい関係になった。そのため裁判では、検事らのいいなりで証言させられ、有罪判決が下された。金子達也検事は、その後栃木県宇都宮地検の次席検事に出世、「今市事件」に関わり、台湾出身で日本語に不慣れな勝又拓哉さんを、同じく女児殺害の容疑で逮捕、起訴し、無期懲役の有罪判決を下した。その後、2017年の福岡高検刑事部長時代、セクハラ行為で減給処分を下されたが、自ら依願退職。今では「ヤメ検弁護士」として活躍しているようだ。

冤罪がなくならないのは、上記のように堂々と冤罪を作った警察や検察が何の罪にも問われないからでもある。警察についていえば、東住吉事件の国賠で、青木恵子さんを逮捕時取り調べた大阪府警元刑事の坂本氏が証人にたった。青木さんに「坂本さん、今でも私を犯人と思っていますか?」と問われ、坂本氏は堂々と「はい、そう思っています」と証言、その理由を「あんた、自供所を自分で書いたでしょ。ほら、きれいな字で」と近所のおっさんのような口調で証言し、裁判長に注意を受ける場面があった。

同じく、再審を勝ち取ったのち、国と滋賀県を訴えた西山美香さんの湖東記念病院事件の国賠では、滋賀県(滋賀県警)側はなんと西山美香さんを犯人視する準備書面を提出してきた。弁護団が猛烈に非難し、撤回はさせたものの、こうした全く反省する気のない警察、検察、そして裁判所を罰せない限り、冤罪は決してなくならないだろう。

12月24日大阪「冤罪と司法を考える集い」

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』


矢島祥子医師不審死から14年目にして語られた事実 ── 遺族や私たちは、あの日祥子さんに何がおこったか、その真相を知りたい! 尾崎美代子

11月12日(日)、大阪市大国町の社会福祉法人「ピースクラブ」の4階ホールで「矢島祥子と共に歩む会」が開催された。この会は、女医の矢島祥子(さちこ)さんが、2009年11月13日、当時勤務していた黒川診療所(西成区)から行方不明となり、16日午前0時過ぎに木津川千本松の渡船場で水死体で発見された事件から、毎年開催され、今年で14回目だ。

「矢島祥子と共に歩む会」の様子。元刑事の飛松氏や祥子さんの元同僚、大阪日日新聞記者大山氏、青木恵子さん、フジテレビディレクターの方の他、祥子さんの地元群馬で支援活動を始めた方など多数の方が発言された

祥子さんが殺害されたと推測される14日には、黒川診療所のある鶴見橋商店街で遺族、支援者らが情報を求めてチラシ配りを行う。今月号は「矢島さんの無念」と題して支援者の植田敏明さんが書かれた。内容は非常に衝撃的で、植田さんがどれだけ勇気を奮って告発したか、そして植田さんの祥子さんの死の真相をどうしても知りたいとの思いがひしひし伝わる内容だ。ぜひ読んで頂きたい(文末に転載)。

矢島祥子(さちこ)さんは2009年11月、34歳の若さで亡くなった。祥子さんの遺影の前には祥子医師に助けられ、支援を続け、今年亡くなった塩野さんの遺影が

チラシを読み、私は「ああ、やっぱり、そういうことがあったのか」と思った。というのも、2009年といえば、奈良県大和郡山市で「山本病院事件」があったからだ。医療法人雄山会・山本病院(山本文夫は院長と理事長を兼任していた)は、入院させた生活保護者や野宿者に不要な検査や治療を行うことで、診療報酬の不正請求を繰り返していた。更に患者に不必要な手術を行い、手術代を詐取したり、揚げ句患者を死亡させた。

以前より内部告発があったこの件で、2009年6月21日、奈良県警は「生活保護受給者の診療報酬を不正に受給した疑いが強まった」として詐欺容疑で同病院と山本理事長の自宅等を家宅捜索、その後山本理事長らを逮捕した。その後、再逮捕が繰り返され、山本理事長らには実刑判決が言い渡された。なお、同じく逮捕された執刀医で患者の元主治医は、留置場で持病を悪化させ死亡。遺族は警察の処遇が原因だとその後訴えを起こした。

捜査の過程で、山本病院へ送り込まれた患者の6~7割は大阪市内等から送り込まれていたことが判明した。しかし、祥子さんの兄・敏さんによれば、山本病院に患者を送り込んだ大阪市内の病院について、捜査などは全く行われていないとのことだ。山本病院に送り込まれたのは生活保護者だけではない。NHK奈良支局取材班の「病院ビジネスの闇 過剰医療、不正請求、生活保護制度の悪用」(宝島出版社)には、市内の公園、路上等から野宿者を集めに来る「コトリバス」(乞食を取りに来るバス)の実態も描かれていた。

奈良の山本病院へ患者を送り込んだ、市内のいわゆる福祉病院(生活保護者や野宿者を専門に入院させる、別名「行路病院」とも呼ばれる)の実態は、私も実際この目で見ていた。当時、店のお客さんや知り合いが入院すると、見舞いなどで良く訪れていたからだ。私は祥子さんと違って、医療関係者ではないため、治療などが適切かどうかはわからないが、患者を治そうという普通の病院でないことは明白だった。

例えば、入院するまで不通に歩けたお客さんがオムツを充てられ、自力でトイレに行かないために、足腰などをどんどん弱めていく。看護師が患者に寄り添い、時間をかけてトイレに連れていく、そんな時間も手もかけていられないのだろう。

福祉病院は、数か月いると、別の同様の病院にタライ回しにされる。そこでまた一から検査などを受け、そこの病院を儲けさせるためだが、先のお客さんが次に回された京橋の病院は、私が見舞いに行くと驚いていた。生活保護者の患者に見舞いに来る人がいるとは思っていなかったのだろう。

冬場で暖房が効き、窓が締め切られているためか、病院に入った途端ぷうんと尿便の匂いがした。廊下の長椅子に座っている40代の患者含め、ほとんどの患者がオムツを充てられているのだ。病室も同様にぷうんと匂う。神経質な彼は匂いが気になり「飯を食う気になれない」とこぼしていた。一月後見舞うと、私の顔を忘れるくらい認知症が進行していた。

また別の客は、転院ごとにどんどん酷い病院に回され、最後の病院では病室では面会できないと言われ、寒い玄関でわずかな時間の面会を許された。病室で患者がどんな状態に置かれているか知られたくないのだろう。生活保護費ぎりぎりで入所できる西成の老人ホームで、入所者がベッドのふちに手を縛られていたことが発覚したのも、この頃だ。

キリスト教者の祥子さんは、日曜日のミサのあと、自分の患者を見舞うことがよくあったという。そんな中、福祉病院の実態を見て「患者さんのためにならない」と考えたのであろう。亡くなる少し前の10月14日、祥子さんは、釜ヶ崎で行われたフィールドワークのあとの報告会で「貧困ビジネス、生活保護者への医療過剰状態」などを問題視する報告を行っていたそうだ。

また、患者さんにセカンドオピニオンをして貰うようアドバイスしたり、担当医師に適切な治療方針を要望するメモを渡したりもしていたそうだ。そんな祥子さんの存在は、患者からむしり取れるだけむしり取りたい病院にとっては、相当煙たい、邪魔な存在だったであろう。実際、ある病院の事務局長からは「二度と来るな」と釘をさすように名刺を渡されたこともあったという。

◆「祥子さんの無念」

もちろん、私は、そんな病院関係者が、祥子さんの事件に直接かかわっていたと考えるのではない。布川事件の冤罪犠牲者であり、数年前からこの事件に関わっていた桜井昌司さん(8月23日逝去)が、祥子さんの事件を「逆えん罪」と命名した。

冤罪は、警察、検察が、桜井さんら冤罪犠牲者が犯人ではない証拠、証言などを隠して「えん罪」を作る。一方で祥子さんの場合は、西成警察署から事件である証拠が隠され早々と「自殺」と決めつけられた。

医師である両親が、祥子さんの遺体の首の赤いひも状の圧迫痕や頭頂部のコブ(血流がある生活状態でのみできる)をみつけたこと、行方不明後、祥子さんの部屋が開いていたこと、鍵が冷蔵庫の上に置かれていたこと、更には部屋中の指紋が拭き取られていたこと、警察の現場検証では祥子さんの指紋さえ検出されなかったことなど不振な点が多数あることから、遺族らは再捜査を要求、2012年8月22日、遺族が提出した「殺人・死体遺棄事件」としての告訴状が受理され、再捜査が行われることとなった。

今回の前田さんの原稿には、祥子さんが勤務していた黒川診療所所長とのやりとりが詳細に記されている。植田さんが所属していた団体と共に活動していた大阪府保険医協会の関係者から聞いた話では、「ふだん冷静な黒川医師が、矢島祥子さんの県が話題になると、突然手も身体もがたがた震えだして止まらなくなる」ことがあったという。がたがた震えだす……。

そう、1995年、動燃(動力炉・核燃料開発事業団、現在の日本原子力研究開発機構(「JAEA」)で起こった高速増殖炉もんじゅのナトリウム漏れ事故のあと、事故を調査していた西村成生職員が「自殺」した事件があった。前日、会見に出席した職員が自殺したことで、当時、マスコミや原発に反対する人たちなどの間で、盛り上がっていた動燃批判、日本の原発政策への批判は、一挙に沈静化、その後、もんじゅは更に多額の税金を投入されながら、ほぼ稼働しないまま、2016年の廃炉決定まで延命を続けていくことになった。

「夫は自殺ではない、殺された」と、妻のトシ子さんが動燃関係者らを訴えた裁判で、証人尋問にたった動燃の幹部の男性は、原告弁護人の質問に身体をがたがた震えだした。「あなた、震えていますね」「はい、震えています」との記述が裁判記録に残されている。それは殺害の可能性が高い「不審死」を、「自殺」を必死で偽らざるをを得ない人たちの、恐れや苦悩の表れではないか。

植田氏は最後にこう書いている。「矢島祥子さんが亡くなられてから早、14年がたった。ご家族はいうまでもなく、多数の方々が祥子さんの死の真相究明のための活動をしてきた。だが、矢島祥子さんが勤務していた診療所の所長であり、直属の上司であった黒川渡氏が、この事件解決のために十分な協力をしてきた、とは思えない。矢島祥子医師は、当初黒川医師の「社会的弱者のための医療」、という志を慕って西成に来た。黒川所長のもとで勤め始めた。黒川所長には、そんな祥子さんと家族のためにも口をひらく責任があるはずだ。」

そう、遺族も私たちも、あの日、祥子さんの身に何が起きたのか、その背景には何があるのかを知りたいだけだ。

植田敏明さんが書かれた「矢島さんの無念」(表面)

植田敏明さんが書かれた「矢島さんの無念」(裏面)

◎矢島祥子先生と時間を共有する集い https://www.facebook.com/daisukisatchan?locale=ja_JP

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。近著に『日本の冤罪』(鹿砦社)
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾崎美代子『日本の冤罪』


釜ヶ崎・監視カメラ弾圧裁判 判決日は延期へ 6月14日(水)14時30分~大阪地裁201号法廷へ!! 尾崎美代子

現在、釜ヶ崎では「あいりん総合センター」(以下、センター)周辺の野宿者追い出し裁判(現在上告中)のほか、こうした運動の盛り上がりへの弾圧を狙った監視カメラ弾圧事件裁判が闘われている。後者は、2019年4月のセンター閉鎖後、支援者らが作った団結小屋に不当に向けられた監視カメラに、ゴム手袋等を被せた延べ8名が逮捕、4名が起訴された事件で、大阪地裁で有罪判決が下されている裁判だ。うち3名が控訴したが、大阪高裁は、5月15日予定だった判決の言い渡しを延期すると伝えてきた。判決文が完成しそうにないとの理由だ。

裁判の争点は、カメラの方向変更の目的が何かで、原告の大阪府は、センター北西側の防犯対策のためで、カメラにゴム手等を被せたことは「威力業務妨害」に当たると主張、被告の釜ヶ崎地域合同労組・稲垣浩氏らは、大阪府、大阪市、国によるセンター閉鎖に反対する者たちへの弾圧、監視、威嚇であるとして無罪を主張した。

右端のポール上に設置された監視カメラが左端の団結小屋に向けられた

センターの解体、建て替え問題は、大阪維新の会の橋下徹氏が市長になって以降、急速に進められており、解体に向け2019年3月31日閉鎖予定だった。しかし、当日、大勢の仲間が抗議し閉鎖できず、4月24日強制排除されるまで自主管理が続いた。団結小屋はその後、支援者らが北西角に作ったもので、野宿者らとの共同炊事などが今も続けられている。

大阪府は、その後の4月26日、団結小屋近くで発生した放火事件をきっかけに、南側に向いていた監視カメラ(以下、本件カメラ)の向きを団結小屋が映る北西側に変えた。これに対して稲垣氏らは肖像権、団結権の侵害だとしてカメラにゴム手袋等を被せたが、その件で、同年11月と翌年3月に延べ8人が「威力業務妨害容疑」で逮捕、4人が起訴された。中には、偶然通りがかり、何をしているかわからないが、倒れたら危険だからと脚立を支えてくれた人もいたが、彼も含め全員で「現場謀議」したとされた。

2022年3月14日、大阪地裁は、カメラの方向変更の目的は、放火などを防ぐ防犯目的であるという大阪府の主張を認め、4人に最高で50万円の罰金刑を言い渡した。これに対して稲垣氏ら3人が控訴した。

以降、稲垣氏の「控訴趣意書」(弁護人・後藤貞人氏)から原告、被告のどちらの主張が正しいかを検証していく(なお【  】内は控訴趣意書からの引用である)。

センター西側に山積する不当廃棄物、西成特区構想が始まった頃は、それこそ西成警察が監視カメラで監視し、摘発のためすっ飛んできたのに

一審で、カメラの向きを変えた目的は防犯対策だったと証言したのは、当時大阪府商工労働部の芝博樹氏(以下、芝氏)だ。芝氏は「4月26日に放火事件が発生したことから、5月上旬頃から中旬頃にかけて、大阪労働局の担当者との間で防犯対策を協議し、放火事件が発生した旧あいりんセンター北西側の防犯対策のために、同センター北西側が映る方向に向きを変えることにした。(この件で)警察から要請を受けたことはなく、事前に警察に相談したこともないし、自分たちにも『団結小屋』を監視する意図は全くなかった」と証言。センター上階の社会医療センターの患者らに被害が及んでは危険だと「有毒ガス」「延焼」「非常に危険やな」等とリアルな説明で証言した。

しかし、芝氏らが患者の事を真剣に考えた形跡は全くない。被告の一人が「医療センターがセンターのどの階をしめているか」「センター西側に窓があるかないか」と質問したが、芝氏は全く答えられなかった。なお当日の同じ頃、センター東側でも放火が発生していたが、芝氏はそこが「センターの敷地外だから」との理由で関係ないというような証言をした。患者を心配するなら、玄関も窓もあり、炎が180センチも上がった東側の放火も確認すべきではないか。

【『危険性』に境界などない。燃え上がる炎に境界線がわかる訳でも、敷地外だから、敷地内の建物を避けて炎を上げようと、炎が自らを制御するはずもない】。

判決は、芝氏ら大阪府が東側の防犯対策を講じなかった点について「予算上の制約があったものと認められる」「制約の範囲内で優先順位をつけて防犯対策を行うことはやむを得なかったといえる」とした。これは事実だろうか。大阪府は、放火発生からしばらくは夜間巡回警備を行っていたが、芝氏が「制約がある」としたのは、それを継続することの予算上の制約を述べているにすぎず、西側、東側両方の防犯対策を行うには「予算上の制約がある」とは言っていない。優先順位をつけるなら、むしろ玄関も窓もある東側ではないか。

また芝氏は、協議で「新たにつけれるもんならできないか」とカメラ新設も検討したが、断念したと証言、しかし、その理由は新設に適切な場所がなかった等の問題で、ここでも「予算上の制約」で断念した訳ではない。

【つまり原判決は、証拠に基づかないで、ありもしない理由を造りあげているのである。以上のとおり、芝らが医療センターの患者の生命や健康を考えたということ自体が虚偽であり、口実に過ぎないことを証拠が物語っている】。

芝氏の証言からは、芝氏らが本件放火犯に何の関心も抱いていないことが判る。本当に患者のことが心配ならば、どんな犯人か、動機は何か、逮捕されたかどうか等に関心をもつはずだが、芝氏は全く関心を持ってない。

更に、カメラの向きを団結小屋などが映る方向へ変えたら、本当に防犯対策になるのかだが、その可能性は全くないといってよい。本件カメラはモニター室でモニターされていないため、放火があってもリアルタイムでその状況を確認し対処することはできないのだ。

【もし放火、失火があったとしても、直後どころか燃え広がった後でも、本件カメラは防火や人命救助にとって何の役にもたたない】

この事実が否定しがたいことから、芝氏は次にカメラは「抑止力」として一定効果はあると考えたと証言した。抑止力になるようカメラの向きを変えたというなら、 その前に現場周辺にどのようなカメラがあり、どのように機能しているか確認するはずだが、芝氏は、本件カメラ以外に「他にどんなカメラがあるかというのはわかりませんでした」と証言。南側の2台のカメラついて問われても「わかりません」、センター北側の西成警察署のカメラについても「あとになって、警察さんのほうから教えてもらいました」などと証言した。

なお、本件カメラを含むセンター周辺の監視カメラが、充分な抑止力になっていないことは、その後、南西路上の稲垣氏の大型バスが傷つけられる事件や放火が起こったことなどからも明らかだ。さらに「西成特区構想」開始時には、あれだけ躍起になって摘発していたゴミの「不法投棄」について、この間は一切関心をもたないのか、センター周辺ではゴミが「不法投棄」し放題にあちこちから持ち込まれている。あたかも「野宿者がいるから、町がどんどん汚れていく」と言わんばかりだ。監視カメラは役に立ってないぞ。

芝氏の証言に話を戻そう。芝氏は、「新たに(カメラを)付けれるもんならできないかと言うような検討はした」と証言。検討箇所はセンター仮庁舎のひさしとセンター北側の壁面で、前者に付けれないと考えたのは軒が崩れかけ危険だからで、後者はカメラから放火現場までの距離が長く、鮮明な画像が得られないからという理由からだ。しかし、この証言にこそ、彼らが真の狙いを隠そうと必死なのがよくわかる。

【芝のこのような供述は虚偽であるか、さもなければ完全に間が抜けている。というのは、新設するのであれば、最も適切な場所は目の前にあるからである。それは、本件の監視カメラが設置されているポールそのものである。同じ1本のポールに右図のように2個のカメラが設置できることは素人にもわかる】

【芝が『新設も検討したが設置場所として良いところがなかった』と供述していることを改めて想起すべきである。この事実は2つのことを示している。1つは、新しいカメラの設置を検討したという供述が虚偽であること。もう1つは、同じポールに監視カメラを設置して団結小屋等に向けることが、『火災を口実』にすることで誤魔化すことができず、『本音』である『稲垣氏らの監視』を露骨に表すのを恐れたことを示す】。

以上の通り、大阪府が本件カメラを団結小屋などが映る方に向きを変えたのは、決して防犯対策のためではない。それは口実で、本当の目的はセンター閉鎖に反対する人たちの監視、威嚇、弾圧のためだ。一方、カメラにゴム手等を被せた稲垣氏と支援者らの行為は、プライバシー、団結権の侵害から自らの権利を守るための正当防衛である。

6月14日の高裁判決に注目しよう!

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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大阪IR・カジノで大阪がつぶれる! 「負け」が決まっている大バクチに、大阪維新が突き進む理由 尾崎美代子

大阪で多重債務者らを支援する「大阪いちょうの会」の事務局長・川内泰雄氏から、西成でヤミ金に悩む人たちの相談の場を作りたいといわれ、店で相談会を数回やったのち、西成市民館での週1回の無料相談会に繋げることができた。10数年前のことだ。その川内氏から当時、ギャンブル依存症の問題からカジノ問題を教えて頂いた。韓国で、韓国人の入場を認めているカジノ「江原ランド」周辺に、質屋、中古車店、風俗店、金融屋が多数でき、「カジノホームレス」が増えている実態など。ほかにも、マネーロンダリング、治安の悪化など問題山積のカジノを含むIR計画を、大阪維新が進めている。公金を絶対使わないと豪語してきた大阪維新だが、昨年12月公金を投入することが発覚し、潮目が一挙に変わってきた。

◆「違うんです」と公金投入を否定してきた松井市長

大阪府と大阪市は、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)を、大阪湾の埋め立て地「夢洲」で進めている。昨年12月21日、大阪府と大阪市、事業者に決まった米国MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックス合同の大阪IR社で作成した「区画整備計画案」が公表された。3月24日府議会で、29日市議会でIRカジノ関連議案が採択されたため、4月末に国へ申請を行うこととなった。

これまで「カジノに税金は一切使わない」と公言してきた松井市長だが、12月21日の計画案で、夢洲の液状化対策や土壌汚染の改良工事費用に約800億円の公金が投入されることが明らかになった。

2月16日、大阪府と大阪市が大阪IR社との間で締結した「基本協定」によれば、初期投資1兆0800億円、経済波及効果は1兆1400億円(運営)で、年間売り上げは5200億円(うち8割の4200億円がカジノ)となりという試算が出ている。大阪府は、そこから年740億円の納付金を受け取るほか、入場者収入320億円と120億円の税収も入るという計算だ。儲かるならば、ばくちに公金を投入しても良いという訳ではないが、果たしてこの構想は実現可能なのだろうか。

大阪府内各地で繰り広げられる署名活動

◆大阪維新の「負の遺産を作り替える」のウソ

その検証の前に、大阪維新のいつものやり口からカジノ構想が始めった経緯を見てみよう。実は、松井市長自身も「IRは全員が賛成とは思っていない。賛否拮抗していると思う。ただ夢洲の負の遺産を有効な資産に作り替えると公約で掲げ、エンタメの拠点としていく」と発言している。出た! 大阪維新の「負の遺産」。「どうしようもない場所を維新が見事に発展させてやった」という維新がよく使ういつものパターンだ。しかし、それが嘘であることは、私の住む西成の釜ヶ崎の「西成特区構想」が見事に証明している。橋下氏が市長時代が「西成がよくなれば大阪がよくなる」と始めた「西成特区構想」で、「まちづくり会議」の座長を務めた鈴木亘教授も、「ゴミが溢れ、ションベン臭く、覚せい剤の売人がいる酷い町」と釜ヶ崎をさんざんコケにし、俺の手で釜ヶ崎がよくなったと手柄にしようとした。

しかし、長年この街に住む私は、この発言に非常に違和感を覚えた。確かにかつての町の主流であった日雇い労働者は高齢化し、多くが生活保護受給者、年金生活者になり、活気は失せつつあるものの、皆が助け合う町であること、新参者、生活困窮者、様々な障害などを抱えた人にも非常に住みやすい町になったとの印象しかなかったからだ。そんななか、始まった「西成特区構想」はどうなったか?

西成特区構想の目玉の「あいりん総合センター」(通称センター)の解体は、その理由を10年以上前から「耐震性に問題があるから」と言われてきたが、2019年4月23日強制閉鎖されて以降も進んでいない。センターは未だにしっかりそこに建っている。コロナ禍にあるとはいうものの、本当に「耐震性に問題がある」ならば、即刻どんな手段を使ってでも、解体工事を進めなくてはならないのではないか。しかも、解体後に空き地をどうするかの具体的な計画も決まっていない。インバウンドが押し寄せていた当時は、センター跡地に屋台村を作ろうとの構想もあったように、維新が欲しいのは金になる土地で、そこに維新関連業者を投入し、儲けさすだけだ。

維新が「負の遺産」という夢洲も、大阪市のごみの最終処分場として機能しているうえ、コンテナヤードが整備された関西圏の物流の中心拠点となっている。 釜ヶ崎同様、夢洲も決して「負の遺産」ではないのだ。

◆「カジノで儲けて福祉に回す」のウソと欺瞞

大阪IR・カジノがダメすぎる2つのポイント

松井市長は、2016年12月22日、総合区・特別区に関する意見募集・説明会(平野区)でこう発言した。「カジノに税金は一切使いません。これは民間が投資する話なので、皆さんの税金がIR,カジノに使いません。特定の政党が間違った情報を流布していますけれど、これだけははっきり言っておきます。IR、カジノには一切税金は使いません。」。

更に、2019年9月12日大阪維新の会親睦会ではこう発言していた。「よく役所の周りにデモ隊がくるんですよ、『カジノをやめて福祉に回せ』言うてね。違うんですよ。カジノをうまく利用して、儲けて福祉に回すんです」。おい、いいのか、これ。ギャンブル依存症のオヤジが、ごはん食べれない子供らに「父ちゃん、次のレース取ったら、お前らに旨いもん食わせてやっからな」と同じではないのか。

しかもこの間のコロナの影響などもあり、カジノを含むIR構想は、2019年12月の基本構想から、IR施設の延床面積が3分の2、展示場は5分の1に削減・縮小され、当初掲げてきた「世界最高水準のIR」とは程遠いものになっている。松井市長がいう「経済波及効果1兆円超、納付金など収入1060億円」を達成するには、カジノで年間約6兆円の掛け金が必要になるという。ちなみにセブンイレブンの国内売り上げは約5兆円、JRA(競馬)の掛け金の全国合計は約3兆円。それよりカジノが集客できるというのだろうか?

コロナでインバウンドが激減して以降、カジノへの来場者は国内の日本人などが想定されているが、年間1430万人の集客しているユニバーサルジャパンと比較し、カジノは年間1070万人を想定しているという。この数字は、日本中の20歳以上の10人に1人が入場料6000円を払ってカジノに来場し、全員が1日あたり60万円をかけるという想定だ。これ、実現可能なのか?

しかも、大阪IRは35年契約のうえ、その後「事業継続を前提に」30年の延長ができ、実質65年のライセンスという異例に長期契約になっている。マカオのライセンスが20年から10年と厳しくなったばかりなのに。

一方で、万博・IRのために夢洲造成費用は、2021年度以降で2482億円を予定。この金額は、大阪市の年間税収約7500億円の3分の1に相当し、大阪市民一人あたり9万円負担することになる。

さらに驚くことがある。大阪市港湾局の資料によれば、そんなカジノで利益が出るのは、2076年以降、つまり54年後ということだ。ここまで来たら、辞めるしかないと考えるのが普通ではないか。

では、何故大阪維新が、初めから「負け」がわかっているバクチに売って出るのか? 答えは簡単、そこに利権があるからだ。土建屋はじめ維新の関連業者に儲けてもらうためだ。こんな大バクチにつきあってはいられない。

3月25日から始まった、カジノ誘致の賛否を問う住民投票条例制定を求める署名が始まっている。「ノーカジノ」を突き付け、維新政治を終わらせよう!

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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住民票がないことを理由に「特別定額給付金」を貰えなかった人たちが、大阪市・松井一郎市長を訴えました! 尾崎美代子

3月14日、2020年に政府が行ったコロナ支援策「特別定額給付金」を、住民票がないことを理由に、給付されなかった、大阪市西成区内に居住していた10名が、大阪市・松井一郎市長を提訴した。

原告の1人Sさんに「裁判が始まるよ」と報告した

◆2007年、釜ヶ崎に暮らす2088名の住民票を強制削除した大阪市

「特別定額給付金」は、新型コロナウイルスの感染が猛威を振るい始めた2020年、すべての人を対象にした唯一出された支援対策であった。政府は、4月20日、一律10万円の特別定額給付金の給付を閣議決定、その際、2020年4月27日付けで、住民基本台帳に名前の記載がある者、つまり住民票がある者と条件づけた。

しかし、ご存知のように、釜ヶ崎には、様々な理由で住民票を持てない者がいる。野宿生活を余儀なくされた人たち、ドヤ、アパートに住んでいるが、そこでは住民票が取れない人たち、元の住所あるいは本籍地から、様々な理由で住民票を移せない人たちだ。

かつて、大阪市は、釜ヶ崎では住民票が取れない労働者に対して、白手帳(日雇い労働者の失業保険)をとったり、各種資格を取る必要がある場合には、釜ヶ崎地域合同労組が入る「解放会館」などで住民票を置くことを進めておきながら、2007年2088名の住民票を強制削除した。今回、住民票がない人の中には、その被害者もいた。

アルミ缶、銅線などを集めて暮らす彼は「解放会館」に置いていた住民票を強制削除された被害者だった

◆市長室にはほとんどいない松井市長

私は、釜ヶ崎地域合同労組、日本人民委員会、釜ヶ崎炊き出しの会、釜ヶ崎公民権運動のメンバーとともに、大阪市・松井市長に対して、住民票を持たない、持てない人たちにも必ず給付金を渡すようにと要請活動を行ってきた。4月28日、西成区役所に要請行動を行った際、「給付については大阪市役所市民局が行う」と返答されたため、5月8日、松井一郎・大阪市長と大阪市役所市民局に対して「特別定額給付金が、住民票をもっていない人にも必ず渡るように」との要望書を提出した。

市長室にも要望書を届けようとしたが、松井市長は市長室にいないことがほとんどで、いつも秘書課職員に渡すだけで終わった。松井市長は、登庁する日も、ほかの自治体首長と違って極端に低いようだ。しかも、この時、市民局の職員はわずか12名しかいない一方で、IR事業、大阪万博を推進する副首都推進局のスタッフは80名もいた。大阪市は、根本的に、住民の命を守る気などないのだ。

◆行政の責任者は、すべての人に行き渡る施策を執る努力をすべきなのに……

その後も大阪市は、「給付対象者は令和2年4月27日において、住民基本台帳に記載されている者であること」と繰り返し主張するばかりであった。しかし、この給付金は、コロナウイルス感染拡大防止に伴う自粛要請などで経済活動が停滞するなか、「簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計へ支援を行う」(実施要項)として、国から唯一出された支援策であり、各自治体、行政の責任者は、すべての人に行き渡る施策を必死で執る努力をすべきだった。

実施要項には、「記載がなくてもそれに準ずるものとして、市町村が認める者を含む」とあり、実際、DVで、住民票のある家からシェルターなどに避難している人や、出生届けが出されず、戸籍の記載がない約800名の「無戸籍者」なども受け取れるような緊急措置が、各自治体で執られ、じっさいに給付されていた。

「住民票のあるなし」にこだわり続けていた大阪市は、その後、NPO釜ヶ崎支援機構が運営するシャルターに、1日でも泊まれば、そこで住民登録を行うとした。しかし、シエルターに泊まることが嫌だから、野宿している人がいることも事実だし、前述したように、様々な理由で住民票をとることが困難な人、あるいは嫌な人がいることも事実だ。

人権問題に詳しい弁護士の南和幸さんは「給付金について、ホームレスの人だから、受け取る権利がないというのは間違い。住民票のあるなしは、権利のあるなしの問題ではなく、とのように受け取れるかの手続きの問題でしかない。それについて、この住民登録があるないだけで、権利があるなしかのように取り扱うのは間違いである」と述べている。

つまり、野宿している人が、その場で、本人確認が行われればいいのだ。大阪市は回答書には、住民登録されれば給付対象となることなどを「周知を図ってまいります」とあるが、野宿者に「周知」して回る際、その場で野宿者の名前、本籍などを確認すればいいではなかったか。じっさい、2008年リーマンショック後の2009年、一律12000円が支払われた給付金の際には、住民票を持たない野宿者らが、西成市役所1階のロビーで、職員らにより本人確認の手続きが行われ、給付金をうけている。今回も同じようにするよう要請したが、「コロナなので」を理由に断られた。何百人も殺到する訳でもないのに。

閉められたままのセンター(右)と、南海電鉄高架下に入ったセンター仮庁舎(左)

◆住民票がないことを理由に特別定額給付金を給付をしないのは違法である

私たちは、2020年8月18日、原告10名とともに、原告の住所、氏名、生年月日を記載した特別定額給付金申請書を持参し、被告である大阪市西成区保険福祉センター分館に赴き、申請を行った。しかし、松井市長により、住所地に住民登録がないとの理由で、給付がなされなかった。そのため、10名の原告から委任状を受け、今回提訴することになった。

訴状によれば、「ホームレス状態にある原告らに被告が、住民登録がなされていないことなどを理由に、特別定額給付金の給付をしないことは、憲法14条及び31条が規定する平等原則及び比例原則に反する。よって、被告の原告らに対する本件給付金の不給付は、いずれも、被告大阪市長に与えられた実施主体としての裁量を逸脱あるいは濫用するものであって、違法であることは明らかである」としている。

さらに「被告の公権力の行使にあたる公務員は、原告らのように、ホームレス状態にある人々に対し、その状態に相応しい住民登録の方法を工夫するなどして、特別定額給付金の給付を実施すべき義務があるにもかかわらず、これを漫然放置し、不給付とした点において、重大な過失がある。従って被告は国家賠償法第1条により損害を賠償する責任に任ずる」とし、「原告らは、本件申請拒否によって、各自、少なくとも、給付額と同額の被害を蒙った」として、1人10万円の損害賠償請求を行った。

今回弁護団を構成する武村二三夫弁護士、遠藤比呂通弁護士、牧野幸子弁護士は、いずれも釜ヶ崎のセンターをめぐる訴訟、監視カメラ訴訟の弁護団を兼任し多忙を極めていたため、提訴が遅れてしまった。しかし、いよいよ裁判は始まった。全国でもおなじように、住民票がないことを理由に受け取れなかった人がいるのではないか。ぜひ、この裁判にご注目していただきたい。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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