大阪で多重債務者らを支援する「大阪いちょうの会」の事務局長・川内泰雄氏から、西成でヤミ金に悩む人たちの相談の場を作りたいといわれ、店で相談会を数回やったのち、西成市民館での週1回の無料相談会に繋げることができた。10数年前のことだ。その川内氏から当時、ギャンブル依存症の問題からカジノ問題を教えて頂いた。韓国で、韓国人の入場を認めているカジノ「江原ランド」周辺に、質屋、中古車店、風俗店、金融屋が多数でき、「カジノホームレス」が増えている実態など。ほかにも、マネーロンダリング、治安の悪化など問題山積のカジノを含むIR計画を、大阪維新が進めている。公金を絶対使わないと豪語してきた大阪維新だが、昨年12月公金を投入することが発覚し、潮目が一挙に変わってきた。

◆「違うんです」と公金投入を否定してきた松井市長

大阪府と大阪市は、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)を、大阪湾の埋め立て地「夢洲」で進めている。昨年12月21日、大阪府と大阪市、事業者に決まった米国MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックス合同の大阪IR社で作成した「区画整備計画案」が公表された。3月24日府議会で、29日市議会でIRカジノ関連議案が採択されたため、4月末に国へ申請を行うこととなった。

これまで「カジノに税金は一切使わない」と公言してきた松井市長だが、12月21日の計画案で、夢洲の液状化対策や土壌汚染の改良工事費用に約800億円の公金が投入されることが明らかになった。

2月16日、大阪府と大阪市が大阪IR社との間で締結した「基本協定」によれば、初期投資1兆0800億円、経済波及効果は1兆1400億円(運営)で、年間売り上げは5200億円(うち8割の4200億円がカジノ)となりという試算が出ている。大阪府は、そこから年740億円の納付金を受け取るほか、入場者収入320億円と120億円の税収も入るという計算だ。儲かるならば、ばくちに公金を投入しても良いという訳ではないが、果たしてこの構想は実現可能なのだろうか。

大阪府内各地で繰り広げられる署名活動

◆大阪維新の「負の遺産を作り替える」のウソ

その検証の前に、大阪維新のいつものやり口からカジノ構想が始めった経緯を見てみよう。実は、松井市長自身も「IRは全員が賛成とは思っていない。賛否拮抗していると思う。ただ夢洲の負の遺産を有効な資産に作り替えると公約で掲げ、エンタメの拠点としていく」と発言している。出た! 大阪維新の「負の遺産」。「どうしようもない場所を維新が見事に発展させてやった」という維新がよく使ういつものパターンだ。しかし、それが嘘であることは、私の住む西成の釜ヶ崎の「西成特区構想」が見事に証明している。橋下氏が市長時代が「西成がよくなれば大阪がよくなる」と始めた「西成特区構想」で、「まちづくり会議」の座長を務めた鈴木亘教授も、「ゴミが溢れ、ションベン臭く、覚せい剤の売人がいる酷い町」と釜ヶ崎をさんざんコケにし、俺の手で釜ヶ崎がよくなったと手柄にしようとした。

しかし、長年この街に住む私は、この発言に非常に違和感を覚えた。確かにかつての町の主流であった日雇い労働者は高齢化し、多くが生活保護受給者、年金生活者になり、活気は失せつつあるものの、皆が助け合う町であること、新参者、生活困窮者、様々な障害などを抱えた人にも非常に住みやすい町になったとの印象しかなかったからだ。そんななか、始まった「西成特区構想」はどうなったか?

西成特区構想の目玉の「あいりん総合センター」(通称センター)の解体は、その理由を10年以上前から「耐震性に問題があるから」と言われてきたが、2019年4月23日強制閉鎖されて以降も進んでいない。センターは未だにしっかりそこに建っている。コロナ禍にあるとはいうものの、本当に「耐震性に問題がある」ならば、即刻どんな手段を使ってでも、解体工事を進めなくてはならないのではないか。しかも、解体後に空き地をどうするかの具体的な計画も決まっていない。インバウンドが押し寄せていた当時は、センター跡地に屋台村を作ろうとの構想もあったように、維新が欲しいのは金になる土地で、そこに維新関連業者を投入し、儲けさすだけだ。

維新が「負の遺産」という夢洲も、大阪市のごみの最終処分場として機能しているうえ、コンテナヤードが整備された関西圏の物流の中心拠点となっている。 釜ヶ崎同様、夢洲も決して「負の遺産」ではないのだ。

◆「カジノで儲けて福祉に回す」のウソと欺瞞

大阪IR・カジノがダメすぎる2つのポイント

松井市長は、2016年12月22日、総合区・特別区に関する意見募集・説明会(平野区)でこう発言した。「カジノに税金は一切使いません。これは民間が投資する話なので、皆さんの税金がIR,カジノに使いません。特定の政党が間違った情報を流布していますけれど、これだけははっきり言っておきます。IR、カジノには一切税金は使いません。」。

更に、2019年9月12日大阪維新の会親睦会ではこう発言していた。「よく役所の周りにデモ隊がくるんですよ、『カジノをやめて福祉に回せ』言うてね。違うんですよ。カジノをうまく利用して、儲けて福祉に回すんです」。おい、いいのか、これ。ギャンブル依存症のオヤジが、ごはん食べれない子供らに「父ちゃん、次のレース取ったら、お前らに旨いもん食わせてやっからな」と同じではないのか。

しかもこの間のコロナの影響などもあり、カジノを含むIR構想は、2019年12月の基本構想から、IR施設の延床面積が3分の2、展示場は5分の1に削減・縮小され、当初掲げてきた「世界最高水準のIR」とは程遠いものになっている。松井市長がいう「経済波及効果1兆円超、納付金など収入1060億円」を達成するには、カジノで年間約6兆円の掛け金が必要になるという。ちなみにセブンイレブンの国内売り上げは約5兆円、JRA(競馬)の掛け金の全国合計は約3兆円。それよりカジノが集客できるというのだろうか?

コロナでインバウンドが激減して以降、カジノへの来場者は国内の日本人などが想定されているが、年間1430万人の集客しているユニバーサルジャパンと比較し、カジノは年間1070万人を想定しているという。この数字は、日本中の20歳以上の10人に1人が入場料6000円を払ってカジノに来場し、全員が1日あたり60万円をかけるという想定だ。これ、実現可能なのか?

しかも、大阪IRは35年契約のうえ、その後「事業継続を前提に」30年の延長ができ、実質65年のライセンスという異例に長期契約になっている。マカオのライセンスが20年から10年と厳しくなったばかりなのに。

一方で、万博・IRのために夢洲造成費用は、2021年度以降で2482億円を予定。この金額は、大阪市の年間税収約7500億円の3分の1に相当し、大阪市民一人あたり9万円負担することになる。

さらに驚くことがある。大阪市港湾局の資料によれば、そんなカジノで利益が出るのは、2076年以降、つまり54年後ということだ。ここまで来たら、辞めるしかないと考えるのが普通ではないか。

では、何故大阪維新が、初めから「負け」がわかっているバクチに売って出るのか? 答えは簡単、そこに利権があるからだ。土建屋はじめ維新の関連業者に儲けてもらうためだ。こんな大バクチにつきあってはいられない。

3月25日から始まった、カジノ誘致の賛否を問う住民投票条例制定を求める署名が始まっている。「ノーカジノ」を突き付け、維新政治を終わらせよう!

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年5月号!

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)

3月14日、2020年に政府が行ったコロナ支援策「特別定額給付金」を、住民票がないことを理由に、給付されなかった、大阪市西成区内に居住していた10名が、大阪市・松井一郎市長を提訴した。

原告の1人Sさんに「裁判が始まるよ」と報告した

◆2007年、釜ヶ崎に暮らす2088名の住民票を強制削除した大阪市

「特別定額給付金」は、新型コロナウイルスの感染が猛威を振るい始めた2020年、すべての人を対象にした唯一出された支援対策であった。政府は、4月20日、一律10万円の特別定額給付金の給付を閣議決定、その際、2020年4月27日付けで、住民基本台帳に名前の記載がある者、つまり住民票がある者と条件づけた。

しかし、ご存知のように、釜ヶ崎には、様々な理由で住民票を持てない者がいる。野宿生活を余儀なくされた人たち、ドヤ、アパートに住んでいるが、そこでは住民票が取れない人たち、元の住所あるいは本籍地から、様々な理由で住民票を移せない人たちだ。

かつて、大阪市は、釜ヶ崎では住民票が取れない労働者に対して、白手帳(日雇い労働者の失業保険)をとったり、各種資格を取る必要がある場合には、釜ヶ崎地域合同労組が入る「解放会館」などで住民票を置くことを進めておきながら、2007年2088名の住民票を強制削除した。今回、住民票がない人の中には、その被害者もいた。

アルミ缶、銅線などを集めて暮らす彼は「解放会館」に置いていた住民票を強制削除された被害者だった

◆市長室にはほとんどいない松井市長

私は、釜ヶ崎地域合同労組、日本人民委員会、釜ヶ崎炊き出しの会、釜ヶ崎公民権運動のメンバーとともに、大阪市・松井市長に対して、住民票を持たない、持てない人たちにも必ず給付金を渡すようにと要請活動を行ってきた。4月28日、西成区役所に要請行動を行った際、「給付については大阪市役所市民局が行う」と返答されたため、5月8日、松井一郎・大阪市長と大阪市役所市民局に対して「特別定額給付金が、住民票をもっていない人にも必ず渡るように」との要望書を提出した。

市長室にも要望書を届けようとしたが、松井市長は市長室にいないことがほとんどで、いつも秘書課職員に渡すだけで終わった。松井市長は、登庁する日も、ほかの自治体首長と違って極端に低いようだ。しかも、この時、市民局の職員はわずか12名しかいない一方で、IR事業、大阪万博を推進する副首都推進局のスタッフは80名もいた。大阪市は、根本的に、住民の命を守る気などないのだ。

◆行政の責任者は、すべての人に行き渡る施策を執る努力をすべきなのに……

その後も大阪市は、「給付対象者は令和2年4月27日において、住民基本台帳に記載されている者であること」と繰り返し主張するばかりであった。しかし、この給付金は、コロナウイルス感染拡大防止に伴う自粛要請などで経済活動が停滞するなか、「簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計へ支援を行う」(実施要項)として、国から唯一出された支援策であり、各自治体、行政の責任者は、すべての人に行き渡る施策を必死で執る努力をすべきだった。

実施要項には、「記載がなくてもそれに準ずるものとして、市町村が認める者を含む」とあり、実際、DVで、住民票のある家からシェルターなどに避難している人や、出生届けが出されず、戸籍の記載がない約800名の「無戸籍者」なども受け取れるような緊急措置が、各自治体で執られ、じっさいに給付されていた。

「住民票のあるなし」にこだわり続けていた大阪市は、その後、NPO釜ヶ崎支援機構が運営するシャルターに、1日でも泊まれば、そこで住民登録を行うとした。しかし、シエルターに泊まることが嫌だから、野宿している人がいることも事実だし、前述したように、様々な理由で住民票をとることが困難な人、あるいは嫌な人がいることも事実だ。

人権問題に詳しい弁護士の南和幸さんは「給付金について、ホームレスの人だから、受け取る権利がないというのは間違い。住民票のあるなしは、権利のあるなしの問題ではなく、とのように受け取れるかの手続きの問題でしかない。それについて、この住民登録があるないだけで、権利があるなしかのように取り扱うのは間違いである」と述べている。

つまり、野宿している人が、その場で、本人確認が行われればいいのだ。大阪市は回答書には、住民登録されれば給付対象となることなどを「周知を図ってまいります」とあるが、野宿者に「周知」して回る際、その場で野宿者の名前、本籍などを確認すればいいではなかったか。じっさい、2008年リーマンショック後の2009年、一律12000円が支払われた給付金の際には、住民票を持たない野宿者らが、西成市役所1階のロビーで、職員らにより本人確認の手続きが行われ、給付金をうけている。今回も同じようにするよう要請したが、「コロナなので」を理由に断られた。何百人も殺到する訳でもないのに。

閉められたままのセンター(右)と、南海電鉄高架下に入ったセンター仮庁舎(左)

◆住民票がないことを理由に特別定額給付金を給付をしないのは違法である

私たちは、2020年8月18日、原告10名とともに、原告の住所、氏名、生年月日を記載した特別定額給付金申請書を持参し、被告である大阪市西成区保険福祉センター分館に赴き、申請を行った。しかし、松井市長により、住所地に住民登録がないとの理由で、給付がなされなかった。そのため、10名の原告から委任状を受け、今回提訴することになった。

訴状によれば、「ホームレス状態にある原告らに被告が、住民登録がなされていないことなどを理由に、特別定額給付金の給付をしないことは、憲法14条及び31条が規定する平等原則及び比例原則に反する。よって、被告の原告らに対する本件給付金の不給付は、いずれも、被告大阪市長に与えられた実施主体としての裁量を逸脱あるいは濫用するものであって、違法であることは明らかである」としている。

さらに「被告の公権力の行使にあたる公務員は、原告らのように、ホームレス状態にある人々に対し、その状態に相応しい住民登録の方法を工夫するなどして、特別定額給付金の給付を実施すべき義務があるにもかかわらず、これを漫然放置し、不給付とした点において、重大な過失がある。従って被告は国家賠償法第1条により損害を賠償する責任に任ずる」とし、「原告らは、本件申請拒否によって、各自、少なくとも、給付額と同額の被害を蒙った」として、1人10万円の損害賠償請求を行った。

今回弁護団を構成する武村二三夫弁護士、遠藤比呂通弁護士、牧野幸子弁護士は、いずれも釜ヶ崎のセンターをめぐる訴訟、監視カメラ訴訟の弁護団を兼任し多忙を極めていたため、提訴が遅れてしまった。しかし、いよいよ裁判は始まった。全国でもおなじように、住民票がないことを理由に受け取れなかった人がいるのではないか。ぜひ、この裁判にご注目していただきたい。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年4月号!

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)

2019年4月に閉鎖された「あいりん総合センター」(以下、センター)周辺に野宿する22人に対して、国と大阪府が立ち退きを求めた裁判で、昨年12月2日、大阪地裁(横田典子裁判長)は、立ち退きを認める判決を下した。但し、原告が求めた仮執行宣言は認めなかった。

毎日新聞(12月3日付)によれば「判決は、センターが長年、路上生活者の拠点となってきた経緯から、『閉鎖後も段ボールを置くなどして実質的に支配している』と指摘。代替場所を提供しているため府の立ち退き請求は妥当だと結論づけた」とある。一方、野宿者側の弁護団・武村二三夫弁護士は「生活の場を奪うことは許されず、行政の都合に合わせた判決だ」と非難した。

◆野宿者を暴力的に締め出し、センターを閉鎖した国と大阪府

センターは釜ヶ崎の労働者にとって特別な施設であった。1970年大阪万博開催に向け、釜ヶ崎に大量の建設労働者が全国から集められた。それまで労働者は、手配師と直接交渉する「相対方式」で仕事に就いてきたが、賃金未払い、契約違反、暴行などが多発したため、就労環境整備のため、そして労働者の福利厚生のためにとセンターが作られた。センターの1階と3階では、誰でも自由に横になれた。こんな場所は全国でここしかない。ほかに足を洗う、洗濯する、シャワーを浴びる、水が飲める、安く飯が食える、将棋ができる、建設当時「100年持つ」といわれた頑強な構造物だった。

しかし2008年頃から「耐震性に問題がある」として、センター建て替え問題が浮上、当初は補強、耐震工事などの案も出ていたが、突然「解体、建て替え」に変わったのは、2012年、大阪維新の橋下徹氏が市長になってからだ。橋下氏は「西成が変われば大阪が変わる」とする「西成特区構想」をぶち上げ、NPO、組合、支援団体など一部関係者と有識者などで構成する「まちづくり検討会議」で、センター解体、建て替えを一挙に進めようとしてきた。

2019年3月31日、いよいよセンターが閉鎖されようとした日、各地から集まった労働者や野宿者、支援者らが反対の声をあげ、閉鎖は阻止された。その後、自主管理が続いたが、4月24日、国と大阪府は強制的に中にいる労働者・野宿者を締め出し、以降シャッターは閉められたままだ。

[写真左]野宿者の多いセンター西側に山積みのごみ。釜合労、支援者が片づけを要求したが、行政は放置したまま。[写真右]一方裏の東側はごみを片付けられている。これについて神戸大准教授の原口剛氏は「建物の維持管理をあえて放置し、居住環境を意図的に悪化させることは旧来の住民を追い出すために採られるジェントリフィケーションの戦略のひとつ。しかも特に悪質な戦略のひとつである」と述べている

◆土地明渡訴訟(本訴訟)と仮処分訴訟

2020年4月22日、大阪府は、センター周辺で野宿する人たちに「立ち退きせよ」と「土地明渡訴訟」(本訴)を提訴、そのわずか数か月後の7月、本訴では時間がかかるため、緊急に立ち退き命令を執行する必要があるとして仮処分命令を訴えてきた。これに対して大阪地裁は、2020年12月1日に却下、理由は2008年から「耐震性に問題がある」と主張してきたが、まちづくり会議などでも「喫緊の課題」として論議された形跡がないからなどだ。野宿の仲間は、2020年の正月を、無事センター周辺で迎えることができた。

その後、大阪地裁で本訴である「土地明渡訴訟」が争われてきた。これまで大阪府は、長居公園、大阪城公園、西成では2016年花園公園から野宿者を追い出すために、行政代執行を強行してきた。では何故、今回センターで行政代執行を行うことができないのか。センターは公の施設として開設したが、そういう施設を閉鎖するためには正式な協議を行う必要がある。しかし今回、国と大阪府は、財団法人としてそうした手続きを全くとっていないのだ。

そのため裁判の争点の1つ目は、「それはおかしい。土地明渡訴訟などという民事裁判で争うべき事案ではない」と主張してきた。

2つ目に、野宿者から「住まい」を奪うということは、国連の「社会権規約」に違反すると訴えてきた。社会的規約によれば、立ち退きさせる場合、それと同等の住まいを与えなければいけないとある。大阪府は、これに対して代替場所を提供していると反論し、判決も代替場所が確保されているとした。

しかし、代替場所とされるシェルターや「萩小の森」公園、南海電鉄高架下の「西成労働福祉センター」「あいりん職安」の仮庁舎などは、時間及び自由が制約されている上に、センターのようにごろりと休める場所もない。それらが代替場所といえるだろうか。新たに作られるセンターも、かつてのセンターが備え持った生きるためのライフラインを持たず、実質野宿者や労働者を寄せつけない施設になることは、仮庁舎を見れば容易に想像がつく。

大阪府が、センターの代替場所の1つとした「萩小の森」。普段は将棋をさす人もいるが、寒いこの日(1月4日14時30分撮影)は、誰もいなかった

3つ目は、国と大阪府のやり方があまりに理不尽だということだ。国と府は、立ち退き理由を、センターの耐震性に問題があり建て替えが必要と主張していたが、仮処分の敗訴理由で明確になったように、その理由も確かかどうか不明だ。さらに野宿者を立ち退かせ跡地をどうするかも未だ確定には至っていない。

また裁判の後半で焦点化したのは、誰がどこに野宿しているか、国も大阪府も明確に判っていないことだった。これに対して国と大阪府は、「野宿者全員がセンター周辺のどこかにいるのだからと、センター周辺を野宿者全員で『共同占有』している」などと、驚くような無理筋の反論を行ってきた。

しかも「共同占有」する野宿者らは、釜ヶ崎地域合同労組委員長やセンター北西側に団結小屋を建て、野宿者らと寄り合いや共同炊事を行う「釜ヶ崎センター開放行動」の人たちの主張に同調する者だと主張してきた。馬鹿なことをいうな! 確かに、野宿者の中には裁判に関心を持ち傍聴する人もいる。しかし、多くの野宿者は「実質的な支配」(地裁判決)どころか、毎日野宿しながら生きていくことに必死なだけだ。

この間、大阪市や西成区職員は、野宿者に生活保護などを受けさせ立ち退かそうと必死で説得を行ってきた。生活保護を受けるか否かは本人の自由だし、受けたい人は既に受けているだろう。それでもなお、野宿にとどまる人が多数いることも事実だ。しかもこの間、コロナ禍で職を失ったり困窮し、新たにセンターに来た人、再び去っていく人を何人もみてきた。それだけセンターは社会的に困窮する人たちの最後の砦になっているのだ。

大阪地裁は、私たちのこれらの訴えを全て認めなかったが、前述したように「仮執行宣言」については「本件事案の性質に鑑み相当でないことから、これを付さないこととする」と認めなかった。そうして、センター閉鎖から3度目の正月を迎えることができた。

「センター解放行動」の仲間が取り組んだ越冬闘争

◆大阪維新のまちづくりは成功するのか?

最後に、センターが閉鎖された2019年の3月28日、大阪維新の松井市長が西成区役所前で行った演説を紹介する。

「西成のいろいろ問題がある所に、僕と橋下さん2人揃って、課題1つ1つ解決してきた。新今宮駅の周辺はガラっと景色がかわります。センターの建て替えも決まった。これは難しかった。関係者が一杯いたから。でも僕と橋下が直接会議に出て意見をもとめ決まった。(中略)あのへんは無茶苦茶大阪の拠点にかわっていきます。問題あるところに真正面に向き合ってこなかったのが10年前の府と市でした。(府市)1つにまとめて機能を強化してありとあらゆる問題に対峙すれば、良くなるという見本がこの西成なんです」。

新今宮駅北側に建設中の星野リゾートが、今年4月に開業する。大阪維新が、2025年大阪関西万博再開に向け,さらなる利権獲得のために進めるまちづくりの一環だ。そんな大阪維新の暴走を、最底辺で食い止めているのが、センターでの闘いだ。大阪維新の野望を打ち砕くため、今年もセンターの闘いにご注目を!

今年4月開業の星野リゾート。ホテルの前のJR新今宮駅反対側にセンターがそびえたつ

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

新年1月7日発売! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年2月号

『NO NUKES voice』vol.30(紙の爆弾 2022年1月号増刊)

大阪市西成区のJR新今宮駅から南へ走る南海電鉄本線の高架下に入る「西成労働福祉センター」仮庁舎の周辺には、春からたくさんのプランターが並べられた。しかし、私が見る限り、8月から写真を撮った10月現在まで、花はずっと枯れたままだ。何故、花が枯れたプランターが追われ続けるのか? プランターが置かれる前、そこには野宿する人たちがいたからだ。

[右写真]南海電鉄高架下のセンター仮庁舎周辺に置かれた花の枯れたプランター。左の緑は勝手に生えた雑草 [左写真]別のプランター。枯れた花さえない

◆長年続く生活保護バッシング

DAIGO氏というメンタリストが、8月、自身の動画サイトで「ホームレスの命はどうでもいい……どちらかというとホームレスっていない方が良くない? 正直、邪魔だし、プラスにならないしさ、臭いし、治安悪くなるしさ、いない方がいいじゃん」などと発言し炎上した。

しかし、彼が発したような差別発言を、私たちはこれまでも散々見聞きしてきた。過去には、親が生活保護を受けていた件で、お笑いタレントが「親の面倒をみないのか」とバッシングされた。先頭にたったのは自民党の片山さつき議員、世耕弘成議員らだった。

片山議員は「生活保護は生きるか死ぬかの人がもらうもの」などとも発言していた。さらに、2016年NHKの番組に端を発した「貧困女子高生バッシング騒動」にも加担、先輩議員に続けとばかりに、杉田水脈議員も「『誰が何と言おうと僕(私)は貧困なんだ』『僕(私)の貧困を税金で何とかしろ!』とデモで叫ぶ若者を見ていて不安に思うのは私だけでしょうか?」とブログに書いた。

また、先の自民党総裁選に出馬した高市早苗議員は、過去に「さもしい顔をして、(生活保護費を)もらえるのはもらおうと、そんな国民ばかりいたら、日本が滅びる」と発言したいたことが問題視された。指摘に対して高市議員は、発言は、生活保護者の不正受給が急増した民主党時代に、どうしたら良いか討議する過程で発言したものと述べた。

生活保護者が増えれば不正受給数が増えるのは当然だが、日本の場合、生活保護受給者全体に占める不正率はわずか0.45%でしかない。メディアで「極悪人」のように取り上げられる、豪邸に住み外車を乗り回すなどの例はまれで、多くは子供のバイト代や臨時収入を申告しなかった、申告する義務すら知らなかった人もいた。しかし、それよりも問題なのは、生活保護を本来受けられるはずの人が受けられていない割合、生活保護の捕捉率が22.9%と、諸外国に比べ極めて低いことだ。

◆じんわり差別を助長させ、困窮者を排除する思想

 

JR新今宮駅北側。絵画が貼られる前、大勢の野宿者が生活していた

生活保護者や野宿者を、「私たちの税金で生活する人」「社会に役にたたない人」と差別したり社会から排除しようとする人たちは、先のDAIGO氏や自民党議員のように、露骨な差別的思想を持つ人ばかりではない。「善意」「や「社会のために」と思って行動したつもりが、その延長線上で生活保護者や野宿者が苦しめるとは思いもよらず、差別、排除に加担してしまう人たちもいる。

先の花の枯れたままのプランターを置き続ける人たちもそうだし、同じく新今宮駅北側で野宿者のテントなどを締め出すために、無邪気な子供たちの絵画を並べるのもそうだ。「町をきれいに!」の掛け声で、結果、野宿者を締め出し、「間接的に死に追いやる効果」(稲葉剛氏)をもたらしているのだ。

話はそれるが、政府の政策を進めるために、人々の善意を利用する手法は、福島の汚染がれきの広域焼却でも利用された。「被災地の人だけに押し付けるのは気の毒だ」「みんなでがれきを受け取ろう」と。

最近では、増え続ける福島第一原発内の汚染水を「ペットボトル1本でもよいから、海洋放出水をみなで分かち合うセレモニーができないか」と訴えるジャーナリストまで出てきた。いずれも、一か所に集中して管理すべき放射性物質を広域に拡散させ、放射能による健康被害を隠ぺいする、極めて犯罪的な行為だ。

 

先の絵画の貼ってある場所から道を挟んで反対側に建設中の星野リゾート

◆誰のための「住みよい町づくり」か?

良いことをやっている感を演出して、じわじわ野宿者を締め出す施策が、釜ヶ崎では、大阪維新の「西成特区構想」の進行とともに強化されている。西成区「あいりんクリーン推進協議会」主催で、西成警察署が主導し、町内会、ドヤ主、地元議員らが、市民が共に行う「クリーンロードキャンペーン」などもそうだ。

「きれいで住みよい町に」を掲げながら地区内をパレードし、最終地点の三角公園で、参加者にお茶やタオル、下着などを配布する。経済的に苦しい生活保護者や野宿者もそれらを目当てに参加する。それらを目当てに参加する人も多い。

一度、その場面に出くわしたことがある。労働者は三列に並ばされ、先頭を若い警官が棒で仕切り、3人づつ配布場所に進ませる。我先にとフライングしてしまう労働者に「3人づつ言うたやろう!」と怒鳴る若い警官。「町をきれいに!」という掛け声が、野宿を余儀なくされ、そのためにそう綺麗ではない身なりの人たちにどう聞こえるのだろうか? それがいつも気になるのだが……。

◆維新の町づくりの根っこにある差別

西成特区構想の最大の目玉「あいりん総合センター」の解体と、そのための野宿者の強制排除は、係争中のため実行されてはいない。しかし、野宿者排除は確実に進行している。西成特区構想、まちづくりを進める人たちは、「ジェントリフィケーションがおこらないように」「誰も排除されないように」と主張するが、とっくに排除は始まっている。

大阪維新が極めて差別的な思想の持ち主であることは、多くの維新議員の発言からも明らかだ。選挙の際、橋下自身は釜ケ崎では宣伝カーを降りなかったし、選挙に出馬した稲垣浩氏に維新関係者は「汚れ!あっち行け!」と暴言を吐いた。

その大阪維新と西成のまちづくりを進めようと、維新の特別顧問として、約4年「まちづくり会議」の座長を務めた鈴木亘学習院大学教授も酷かった。鈴木氏は、専門の経済用語を用い、野宿者を「外部不経済」と表現した。

「外部不経済」とは何か、なぜ野宿者がそう呼ばれるか、少し長いが鈴木氏の著書「経済学者 日本の最貧困地域に挑む」(2016年10月出版)から引用する。

「たとえホームレスが好きで野宿生活をしていたとしても、直接的には関係のない第三者に迷惑がかかるのであれば、そのときには行政介入が行われるべきである。第三者に悪影響をおよぼす場合を「外部不経済」、よい影響を与える場合を「外部経済」という。では実際に、ホームレスはどのような外部不経済をもたらすのだろうか。
第1に、公園や道路などの公共空間を占拠することにより、第三者が使用できなくなる。
第2に、結核などの感染症が蔓延し第三者に広がる。
第3に、周辺環境が悪化し地価や賃貸料が下がる。
第4に、路上生活にともなって健康悪化が進むと、最終的に重篤患者となり生活保護から高額の医療が支払われる。
第5に、ホームレスをみると通行人が気の毒に思って不幸な気分になる(これも立派な外部不経済である)。したがって、これらの外部性を解消する範囲内で行政介入が正当化されうる。」
 
メディアでの露出も多い著名な経済学者が、「ホームレスを見ると通行人が気の毒に思って不幸な気分になる」とは、DAIGO氏以上に大問題ではないか。反差別、反権力を標榜しながら、大阪維新や鈴木亘氏に忖度し、野宿者、生活保護者をじんわり差別する人たちも結構見かける。警察に弾圧される露店商を、(そんな「悪いこと」するのは)「生活保護者じゃないか」と言ったり、仲間が生活保護者と知るや「まだ若いくせに」「アウトやな」などと叩く人たちだ。

後ろに手を組む作業服姿の警官に厳しく規制されるパレード参加者

そういう私自身、数年前、真夏に日傘をさす男性に「男のくせに」と感じたことがあり、とっさに、男性だって熱中症や日焼けしたくないのは当たり前だと多いに反省させられた。反差別、反権力、弱者に優しく、誰も排除しない……口でいうのは簡単だが、それらを一歩前に進めるためには、日々、自身の態度を検証していきたい。

「反差別」「反権力」を叫んでいるだけでは何も変わらないが、まもなく始まる選挙では、なぜ野宿者、生活保護者にならざるをえない人が減らないのか、日本という国で、どういう政治が行われているのかを見ていきたい!

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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◆「西成」は売れる?

最近、西成(ここでは「釜ヶ崎」界隈を示す)で動画を撮影するYouTuberが増えている。有名(?)YouTuberに紹介され客が増えたと喜ぶ店がある一方、他の客の顔を撮られては困ると断る店もあるようだ。店の紹介だけでなく、公園で酒盛りする人やセンター周辺の野宿者の生活を面白可笑しく撮るものも多い。刺青を堂々と見せる人、ムショ帰りと話す人、泥酔してクダをまく人……西成には様々な経歴、過去をもつ人、ひと癖もふた癖もある人が多いが、それはこの街がどんな人をも受け入れる懐の深さがある証拠だ。

しかし、そうした人たちを撮って視聴数を伸ばし、広告代を稼ぐYouTuberは、彼らに動画をYouTubeにアップすると説明したり、許可を得ているのだろうか。実際、動画に映る人に聞くと、知らないという人もいるが、問題はないのだろうか?

◆暴力野郎が「平和を守ろう」というようなもの

こうした一部のYouTuberと同様に、この町の人情味の厚さや懐の深さを利用しながら、センター解体と新たなまちづくりを進めようとしているのが、大阪維新の「西成特区構想」だ。

大阪市は3月30日、センター解体後の跡地の利用計画について、新たな戦略を発表した。資料には「新今宮エリアの魅力が認知され、訪れて楽しいエリアになるようなイメージ向上を図るにあたり、新今宮の魅力を伝える新たなコンセプト『新今宮ワンダーランド』と、キャッチコピー『来たらだいたい、なんとかなる』を参詣曼荼羅(さんけいまんだら)をイメージしたポスターや、人気スポットを紹介したリーフレット、WEBサイトで積極的に展開していきます」とある。

西成は「不思議の国」「おとぎの国」「ワンダーランド」か?! 福島から始まった聖火リレーで、「踊って楽しもう! イエーイ!」と白けた演出でひんしゅくを買った電通の考えそうなことだ。

それにしても何が「来たらだいたい、なんとかなる」だ。これまでは確かにそれが出来た。日雇労働者の寄り場であり、生活に困窮した人が「あそこに行ったらどうにかなる」と目指してきたのが、JR新今宮駅前にどんと構える「あいりん総合センター」(以下センター)で、そこに行けば、仲間と会え、仕事も見つかり、飯を安く食え、仲間とワイワイ騒ぎ、洗濯も出来てシャワーが浴びられ、娯楽も楽しめる……それこそ「来たらだいたい、なんとかなる」だった。

もちろんセンターだけでなく、町全体も。しかし今、その肝心要のセンターを暴力的に閉鎖し、周辺の野宿者を強制的に立ち退かせようとしているのが、大阪市だ。センター解体したあとの広大な跡地でひと儲けを企む連中が、何が「来たらだいたい、なんとかなる」だ。遅筆で有名な大作家が、原稿を急かされるたび奥さんをボコボコに殴り逃げられ、DVの事実を暴露されるや、「憲法9条を守ろう」「平和を守ろう」と叫ぶようなものだ。

「新今宮ワンダーランド」のHPより

◆西成の魅力の上っ面を掠め取るジェントリフィケーション

神戸大准教授の原口剛さんは、現在西成で進められるジェントリフィケーションについて、先の強制排除など直接的な排除のほかに、家賃や土地の値段が上がることで住みにくくなることや、街の雰囲気が変わることで、長く住んでいた人たちが住みづらくなる「雰囲気による排除」があると指摘する。

そして、この「雰囲気による排除」にかかわる重大な問題として、「たんに『人情がなくなる』のではなく、一方で『人情』がやたらと強調されたり演出されたりしながら、他方で人情が潰されていくという事態」が起こり得るとし、肝心なのは「生きられる人情」と「売りになる人情」の違いであると指摘する。

「そもそも『人情』というのは、センターで労働者が集まって日常を過ごすとか、そういったことも含めて、いろいろな生活の営みの中で、じっくり長い時間をかけて培われてきたものです。これに対してジェントリフィケーションというのは、実は何ひとつ発明することができない。例えば『人情』の上澄みだけ吸い取って、それを商品化して『下町らしさ』というパッケージにして売り出すということです。そうして『売りになる人情』へと仕立てながら、そもそも『人情』を生み出した担い手を追っ払ってしまう」と。

ここ数年「釜ヶ崎」や「西成」「人情」「下町らしさ」を売りにした店が増えるなか、原口氏が「言葉にならない叫び」と呼ぶ暴動さえ「「西成ライオット(暴動)ビール」として売りに出されるようになった。しかし、そこからは確実に一部の人たちが排除されていることを忘れてはならない。

街中に建てられたおしゃれ過ぎる建物

◆消されていく西成の臭いと色

私の店は西成の真ん中を南北に走行する阪堺電車というチンチン電車のガード近くにあるが、かつてそこは「ションベンガード」と呼ばれていた。ガード脇に公衆トイレがあるからか、ガード脇のニセアカシアの木のそばで立小便をする人が多かったからか……。

ポスター剥がされ落書き消され、真っ白にされたションベンガード

「街をカラフルに」と描かれた壁画。良く見ると野宿出来ないようになっている

ガードの両壁にはかつて「狭山闘争に決起しよう」だの「86春闘に勝利しよう」などのポスターが貼られたり、「ケタオチ飯場○○」と、悪質業者の名前が落書きされていた。壁からポスターが剥がされ、落書きが消され、ペンキで真っ白に塗られたのは数年前だ。倒れそうなニセアカシアの木も切られ、あたりはすっかり様変わりしてしまった。町中の足立酒店の自販機も撤去され、道端で酒盛りする人も減り、西成警察署裏の屋台が撤去され、屋台の客からホルモンを貰い、肥え太った野良犬もいなくなった。この町特有の臭いや色が徐々に消されてきた。

西成出身のラッパー・SHINGO★西成が「町おこし」のため手がけた南海電鉄の壁に描いたアートな壁画はペンキ代を募り、子どもらと描いたのに、南海電鉄高架下の一角はセンター仮庁舎を作るため無残に解体された。「白黒な街を虹色の街に」と謳っていたが、SHINGOちゃん、西成の労働者が黒やグレー、カーキ色を好んで身に着けるのは、建設現場で油や汗や汚れても、汚れが目立たないためでもあるし、生活保護費削減で、洗濯や風呂の回数減っても、何日も同じ服着ていられるからでもあるんやで。

同上

◆差別と暴力を覆い隠すミヤシタパークの「西成チューハイ」

 

渋谷の宮下公園に関する、ねる会議さんのツイート(2020年8月13日付)

野宿者を暴力的に排除して作られた東京渋谷の「MIYASHITA PARK」では「西成チューハイ」なるものが「売り」に出されているという。記事を見ると、別々に出された焼酎と炭酸を自分で割って飲むというスタイル……それって西成で有名な立ち飲み屋難波屋から始まった難波屋チューハイではないのか。しかし、難波屋でも釜ヶ崎でもなく、なぜか「西成チューハイ」とネーミングされ売りにだされている。

ここにもさんざん野宿者を暴力で叩き出し、さらに中に入れる人と入れない人を差別的に分けながら「でもぼくには西成に知り合いがいる」(「I have black friends」)と言うような胡散臭さが見て取れる。もう一度言おう! 野宿者を暴力で叩き出しながら、何が「来たらだいたい、なんとかなる」だ!

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
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『NO NUKES voice』Vol.27 《総力特集》〈3・11〉から10年 震災列島から原発をなくす道

◆鉄骨の入っていない橋脚の存在が明らかに! 南海電鉄は安全なのか?

12月18日、大阪地裁(森鍵一裁判長)で釜ヶ崎の住民訴訟が行われた。この裁判では、あいりん総合センター(以下、センター)に入っていた西成労働福祉センターとあいりん職安の仮庁舎を建てた南海電鉄高架下の安全性や、南海電鉄の傘下である辰村建設と随意契約したことの是非などを争っている。

大勢の労働者が集まり、昼間野宿者が休息する、毎日数十万人が利用する南海電鉄の耐震性は大丈夫なのか?

南海電鉄高架下、仮庁舎エリアの北側部分は、橋脚に鋼板をまく耐震補強工事が実施されている

高速道路の橋脚が倒壊するなど未曽有の被害を出した1995年阪神淡路大震災のあと、近畿運輸局は各鉄道会社に対して、既存のRC(鉄筋コンクリート)柱に緊急耐震補強措置を取るよう求めた。南海電鉄は、難波駅や今宮戎駅周辺で、橋脚に鋼板を巻き付ける耐震補強工事を実施、今年に入り仮庁舎エリアの北側萩ノ茶屋駅周辺や、南側新今宮駅周辺などでも同様の工事を実施してきた。しかし何故か、この工事が仮庁舎エリアでは行われていなかった。これについて南海電鉄は裁判で「このエリアはRC柱ではなく、SRC(鉄筋鉄骨コンクリート)柱であるため、緊急耐震補強の対象外だ」と反論し、橋脚の中央に鉄骨が入るSRC柱のイラストを証拠提出していた。

しかし、10月9日、住民訴訟の原告の仲間が専門業者に依頼し、センター仮庁舎の北側エントランスの橋脚6本の非破壊検査を行ったところ、「鉄骨反応は確認できない」との調査結果が報告された。

センターの解体・建て替えは「耐震性に問題がある」として始まったが、そのため仮移転した南海電鉄高架下の橋脚に、南海電鉄が「入っている」と豪語した鉄骨が入っていないとは?!高架下の仮庁舎には毎日大勢の労働者が出入りし、昼間段ボールを敷き寝ている人もいるし、職員も大勢働いている。その上を走行する南海電鉄には、1日数十万人もの利用者がいる。センターの耐震性が問題なら、仮庁舎が入る南海電鉄の耐震性も問題にすべきではないのか!

前回の裁判で原告は、「鉄骨反応は確認できない」とした非破壊検査の調査報告を裁判所に証拠提出し、裁判長も被告の大阪府に「事実を明らかにせよ」と要求していた。

そうして迎えた18日の裁判で、南海電鉄が提出してきたのが、80数年前の南海電鉄建設時の図面らしきものだった。そこで大阪府と南海電鉄は「鉄骨が入っている」とした従来の主張をくつがえし、一部の橋脚には鉄骨は入っていないこと、しかし「(せんだん破壊先行型ではなく)曲げ破壊先行型である」と主張を変えてきた。

南海電鉄高架下の西成労働福祉センター仮庁舎北側入口の橋脚2本に鉄骨が入ってないことが明らかになった

◆税金を使って無駄な引き延ばしを行った南海電鉄と大阪府

この結論を引き出すまでに、何回裁判を開廷してきたことか? どれだけのお金(税金)を費やしてきたことか?これまで南海電鉄は、コロコロ主張を変え、裁判を長引かせ、大阪府もきちんと調査、指導できないままできた。裁判で、原告弁護団の武村二三夫弁護士は、被告弁護団に「南海の主張がころころかわっているが、きちんと確認していないではないか」と厳しく非難した。森鍵裁判長も「曲げ破壊先行型だから、大丈夫というわけではなく、その根拠を示しなさい」と要求した。

実は、この裁判の数日前、仮庁舎の問題の橋脚の「破壊検査」(橋脚に穴を開けて中を確認する)が行われていた。大阪府が行ったか、南海電鉄が行ったかはわからない。中に鉄骨が入っていたかどうか、南海電鉄が裁判で提出した証拠のように、鉄筋の中心部に鉄骨が入っていたかどうかも含めて調査結果を明らかにすべきである。

破壊検査で穴を開け中を検査した跡が残る、南海電鉄高架下の橋脚

「大阪府敗訴」のビラ

◆地元のひとたちを大切にするまちづくりを!

11月4日、中日本高速道路は耐震補強工事で、鉄筋が8本不足するなどの施工不良が判明したとして、工事のやり直しとともに、工事を発注した大島産業に賠償請求している。本来大阪府も、南海電鉄に賠償請求を求める立場なのに、これまでまともに調査を要求してなかったどころか、センターを解体したいがために、なんとかごまかし仮移転を強行してきた。センターを早急に解体したい大阪府と、大阪府の税金で賄われる仮庁舎建設費用でガッポリ儲けたい南海電鉄の利害が相互に合致したためたろう。それもこれも大阪維新の会が進める「まちづくり」で、新今宮駅前の一等地をきれいで広大な更地を確保するためだ。

識者、専門家、地元のNPO団体、労働組合、市民団体、町内会らが集まる同会議で、この土地をどう使うか検討されている。しかし、もともとこの町に住む日雇い労働者、生活保護、年金などで生活する人たち、野宿者らの生活を最優先に考えられているのだろうか? インバウンド頼みで一時的に賑わい儲けても、新型コロナの感染拡大などの非常事態に一気に衰退してしまうようなまちづくりでは、もともといた労働者らの暮らしは守れない。釜ケ崎の持つ魅力を最大限に引き出すまちづくりこそが、今、問われているのだ。

◆「一等地」の確保を最優先する開発主義

先日、大阪市立の高校21校を大阪府に移管する条例案が府議会で可決した。移管時期は2022年4月で、これにより1500億円の資産価値をもつ大阪市の学校や土地などが大阪府に無償譲渡されることになる。大阪都構想の住民投票に負けた大阪維新は、その後もこうしてあの手この手で大阪市から金をむしりとろうとしている。JR新今宮駅前の広大な「一等地」を奪おうとする大阪維新の「西成特区構想」もその1つだ。下のチラシにあるイラストを見てほしい。凸凹のセンターを「耐震性に問題がある」として解体・建て替えようとしているが、更に使い勝手を良くするため、L字内に建つ第二住宅まで解体してどかそうとしている。そこは耐震性に問題はないのに、しかも税金を使って。
 
◆釜ケ崎を破壊していく大阪維新の「成長を止めるな」

南海電鉄を挟んでセンターの反対側に出来たインバウンド向けのおしゃれなホテルは早々と閉鎖された

先日、神戸大学准教授の原口剛さんを講師に学習会を行った。テーマは「開発主義の暴力を解体するために~反五輪、反万博、反ジェントリフィケーション」。2002年小泉内閣によって制定された「都市再生特別措置法」により全国で都市再生特区がつくられ、開発されていく。

重要なのは五輪、万博などメガイベントのために土地の開発があるのではなく、まずは土地の確保が先行的に行われていることだ。2020東京五輪や2025大阪万博ほか様々なメガイベントは、そうした開発を正当化・加速させるために強行されていく。

大阪維新の会は、新今宮駅前のきれいな台形の「一等地」を何が何でも手にいれたいがために、センター周辺の野宿者を立ち退かせようとした。しかし大阪府が提訴した土地明渡断交仮処分は、12月1日、大阪地裁(内藤裕之裁判長)によって却下され、その後大阪府・吉村知事は期限までに異議申し立て出来ず、決定は確定した(本訴は係争中、次回裁判は、来年2月9日午後14時30分より、大阪地裁202号法廷)。住民訴訟でも、大阪府と南海電鉄は嘘をつきとおすことができない事態に追い込まれている。決して気を抜かず、今後も闘っていこう!大阪維新のなりふり構わぬ、「成長を止めるな」という開発主義を解体するために!

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』2021年1月号 菅首相を動かす「影の総理大臣」他

『NO NUKES voice』Vol.26 小出裕章さん×樋口英明さん×水戸喜世子さん《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

◆大阪府敗訴!! ──ホームレスの占有を認めて勝たせた初の事例!!

日雇い労働者の町・釜ヶ崎(大阪市西成区)の「あいりん総合センター」(以下、センター)の建て替え問題を巡って大きな動きがあった。建て替え工事を進めるため、周辺の野宿者を強制立ち退きさせようとした大阪府の仮処分の訴え(土地明渡断交仮処分命令申立事件)が、12月1日、大阪地裁(内藤裕之裁判長)で却下されたのだ。弁護団(武村二三夫、遠藤比呂通、牧野幸子)の遠藤弁護士によれば「ホームレスの占有を認めて勝たせた事例は初めてのこと」だそうだ。

◆「耐震性に問題がある」と始まった建て替えだが……

昨年センター閉鎖後も、上で営業を続けていた「医療センター」は、11月末閉鎖され、昨日フェンスで囲われた

2019年4月24日、強制的に閉鎖されたセンターの周辺には、それ以降も多くの野宿者が生活していた。閉鎖されたセンターは、閉鎖後も上で営業を続けていた「医療センター」が移転したのち解体をはじめ、2025年新センターを完成する予定だという。

大阪府は4月22日野宿者らに対して「立ち退き訴訟」の本裁判を提訴したが、これが長引いた場合、解体や業者の入札などに遅れが生じるためと、一気に仮処分を断行し、強制立ち退きしようと目論んできた。仮処分裁判は10月末までに2度の審尋(非公開)を終え、裁判所は11月以降決定を下すとしていた。そこで出された決定が「債権者(大阪府)の申し立てを却下する」であった。敗訴した大阪府(債権者)の主張について、大阪地裁がどう判断したか見てみよう。

大阪府はセンター建て替えの最大の理由を「耐震性に問題がある」としてきた。これに対して決定文は「本件建物の耐震性に問題があるとの指摘は平成20年(2008年)になされたところ、それにもかかわらず債権者(大阪府)及び大阪市は本件建物について、その後10年以上も補修を重ねながら利用を維持してきたこと、令和2年12月に終了予定であるとはいえ、同建物内において本件医療施設が稼働している状態にあること、本件建物の建て替えなどにあたって、本件建物の耐震性を喫緊の課題であると認識していたとはうかがわれない」と大阪府の主張を否定した。

◆「西成特区構想」を進めるまちづくり会議

確かに、耐震診断を行った2008年から13年も経過しているが、大阪府が「一刻も早く建て替えを」などと動いた形跡はない。じつは耐震診断後、建て替えだけでなく、耐震補強工事案も出ていたが、「建て替えを」に一挙に変わったのは、2012年、当時大阪市長だった大阪維新の橋下徹氏が「西成特区構想」を打ち出してからだ。大阪維新の西成特区構想を進める形でセンターをどうするかが話し合われてきたことは、解体後の跡地をなるべく広い、使い勝手の良い跡地にするため、耐震性に問題のない第二市営住宅まで解体・建替えすることからも明らかだ。

しかしまちづくり会議において、センター解体後の広大な空き地の南側に「新労働施設」(西成労働福祉センターとあいりん職安)を新設することは決まったものの、跡地全体をどうするかの具体例は示されていない。それについて決定文は「おおまかな方針(利用イメージ案)は示されたものの、その内容は、概略的なものにとどまっており、同施設自体の規模や機能といった基本的な計画さえもいまだ定まっていないこと、本件敷地全体については、利用イメージ案が示されているにすぎず、個々具体的な利用計画に関しては,未だまちづくり会議において検討の基礎とされる案が行政機関からも示されていない段階にある」として、「債権者がその遅れを懸念する本件建物の建て替え計画について、それ自体が将来にわたる不確定要素を多く含むものといわざるをえない」と批判的に捉えている。

さらに大阪府は、建て替え計画が遅れることで、大阪府とまちづくり会議に参加する委員との信頼関係が損なわれると主張していたが、決定文は「会議の経過やその内容等によると、そもそも、まちづくり会議の参加団体などと債権者の間の信頼関係なるものは、きわめて抽象的かつ主観的なものにすぎないといわざるをえない」「これまでも会議を開催するたびに、スケジュールが度々変更されていること、まちづくり会議の委員の中には、本件建物の解体工事に伴う野宿生活者の排除について懸念を示す者もいたこと」などから「本訴訟の帰趨によって再びスケジュールが変更されても、大阪府とまちづくり会議の委員らとの信頼関係に悪影響がおよぶとは考え難い」として、大阪府の主張を退けている。

広大な跡地を確保するため、耐震性に問題ない第二市営住宅(右)まで解体され、隣(左)に新設中だ

◆センターより耐震性に問題がある南海電鉄高架下の仮庁舎

非破壊検査で鉄骨が入っていないことがわかった南海電鉄高架下の仮庁舎の橋脚。大勢の労働者が出入りする

「耐震性に問題がある」として、センターの建て替えと仮移転先を南海電鉄高架下に決めたのはまちづくり会議の場であり、反対したのは稲垣浩(釜ケ崎地域合同労組委員長)委員たった一人だった。

7億5千万円の血税をつぎこんで造った仮庁舎の建設費用を巡っては、住民訴訟が提訴され、なぜ入札ではなく、南海電鉄傘下の南海辰村組に随意契約したか、操業から80年以上経つ南海電鉄高架下が安全であるかなどを争っている。後者の南海電鉄高架下の安全性について、先日大事件が発覚した。原告の一人が、専門業者に依頼し、高架下に入る西成労働福祉センター仮庁舎の橋脚6本の非破壊検査を行ってもらったところ、南海辰村組と大阪府が「入っている」と何度も主張した鉄骨が入っていないことが判明した。住民訴訟の弁護団(武村二三夫、遠藤比呂通、牧野幸子)は、調査結果を大阪地裁に証拠提出し、裁判長は大阪府に事実を明らかにするよう求めている。

次回裁判は12月18日。南海電鉄はこれまで「仮庁舎の入る場所は耐震補強工事をしなくていい場所だ、何故ならRC柱(鉄筋コンクリート造り)ではなくSRC柱(鉄筋鉄骨コンクリート造り)だからだ」と主張し、裁判所にイラストまで証拠提出していたが、あれは嘘の証拠だったのか?仮庁舎を使用する労働者や職員の命だけではなく、上を走行する南海電車を利用する1日何十万人もの利用者の命がかかっているのだぞ!

◆「死ぬのは嫌だ」

先日、センター裏で野宿していた男性が亡くなった。時々弁当を届けていた男性だ。痩せてがりがり、最後は米粒どころか飲み物も受け付けなくなっていた。先週、救急隊員と役所の職員らに「救急車に乗って病院に行こう」と2時間近く説得されたが「病院にはいかない」と頑なに断っていた。

救急隊員が帰ったあと、職員に「どうしたらいいか?」と尋ねると「意識がなくなったら(交通事故のように)救急車を呼べる」と聞き、翌日朝と昼に声をかけた。しかし男性は、やせ細った身体を震わせ「嫌だ」と拒否した。施設や病院、あるいは行政の世話になることを拒否しているようだ。職員に「このままだと死ぬよ」と言われ「死ぬのは嫌だ」と答えていたという。死ぬのは嫌だが、それと同じくらい病院に行くのも嫌だと野宿を続けた男性。野宿がいいか悪いかの問題だけではない。冷たいコンクリに直接敷いた布団の上で、自分の吐しゃ物にまみれた頭を震わせ「嫌だ」と振り絞るように上げた男性の声が忘れられない。(※この詳細は尾崎美代子のFacebookを参照ください)

搬送された病院で死亡が確認された野宿の男性が住んでいた場所。コンクリートに布団を直に敷いた寝床でも、男性は「離れたくない」と訴えていた

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』12月号

NO NUKES voice Vol.25

「西成のいろいろ問題あるところに、僕と橋下さん二人揃って課題一つ一つを解決してきた。新今宮駅の周辺はガラッと景色は変わります。労働センターの建て替えも決まった。あれは難しかった。関係者がいっぱいいたから。でも僕と橋下が直接会議に出て意見をまとめ決まりました。(略)あのへんは無茶苦茶大阪の拠点に変わっていきます。問題あるところに真正面に向き合ってこなかったのが、10年前の府と市でした。(府市)ひとつにまとめて機能を強化して、ありとあらゆる問題に対峙すればよくなるという見本がこの西成なんです。」

2度目の住民投票で負けた大阪維新の松井一郎市長が、一年前の3月28日、西成区役所前で行った演説の一部だ。大阪維新の党是でありながら、2度も否決された「大阪都構想」だが、これと深くリンクする「西成特区構想」はいまだ進行中で、あいりん総合センター(以下センター)周辺の野宿者に対する強制立ち退きが一刻一刻と迫っている。

閉鎖された「あいりん総合センター」北側、野宿者の生活がある

同上

◆橋下の「西成をえこひいきする」から始まった西成特区構想

「西成特区構想」は、2012年橋下徹氏が市長就任直後、「西成をえこひいきする」「西成が変われば大阪が変わる」として始まった。学習院大学教授で経済学が専門の鈴木亘氏が、特別顧問となりプロジェクトチームを発足、2014年9月から始まった「まちづくり検討会議」では委員に選ばれた地元の労働組合、NPO団体、市民団体、町内会などを中心に討議が進められ、その後有識者や委員たちだけの非公開の「会議」で、センター建て替えが決められた。

問題は、建て替え後のセンターに、これまで労働者や野宿者が使えた様々な施設・設備などがない上に、野宿者が昼間ゆったり横になれるスペースがないことだ。解体後に残った広大な跡地には、屋台村や観光バス、タクシーの駐車場などを作るとの案も出たという。橋下氏が「(再開発のために、労働者には)がまんしてもらう」と公言した通りの西成特区構想、誰が「えこひいき」され、だれが排除されるのかは明らかだ。

◆「西成特区構想」で排除された労働者、野宿者

建て替えのためのセンター閉鎖が、冒頭の松井市長の演説の2日後に予定されていた。しかし3月31日、センター閉鎖は「センター閉めるな」と訴える大勢の労働者や支援者らの力でかなわず、強制排除される4月24日まで自主管理が続けられた。

2度も否決された「都構想」を、先行的に実施しようと企まれたのが西成徳構想であることは松井氏の演説からも明らかだ。

確かにそれまで釜ケ崎では、大阪市が民生・福祉、大阪府が労働と分けられ、不景気で野宿者が増えた際には「福祉(市)の問題だ」「いや、労働(府)の問題だ」とやりあう場面もあった。しかしこうした貧困問題や野宿問題は、府と市がともに国にかけあい解決すべき問題であり、労働者や野宿者を排除し、センターを解体し、残った土地で大儲けしようという「西成特区構想」で解決する話ではないはずだ。

◆南海電鉄の耐震偽装事件で明らかになった「西成特区構想」

センターの建て替えに反対する住民訴訟では、センターとあいりん職安の仮庁舎が、安全性が保証されない南海電鉄高架下に建設されたこと、合理的な理由がないにもかかわらず、南海辰村建設と随意契約したことの違法性などを争っている。

原告が、センター仮庁舎の北側の6本の柱を非破壊検査(電磁波レーダー法)で検査してもらった結果、南海が「入っている」と言っていた鉄骨が入っていないことが判明した。未曽有の被害を出した1995年阪神淡路大震災のあと、近畿運輸局はすべての鉄道会社に対して、既存のRC(鉄筋コンクリート)柱に緊急耐震補強措置を取るよう求めてきた。

南海電鉄もその対象だが、おおむね5年とされた実施期間を25年以上経過したここ数年、ようやく「鋼板巻き立て工法」による耐震補強工事を実施してきた。しかしほかで行われた耐震補強工事が、仮庁舎周辺では行われていない。これについて南海電鉄は裁判で「このエリアはRC柱ではなく、SRC(鉄筋鉄骨コンクリート)柱であるため、緊急耐震補強の対象外だ」と反論し、「鉄骨が入っている」と示すイラストを証拠提出していた。

しかし今回の調査で鉄骨が入っていないことが判明した。中央自動車道の耐震補強工事で鉄筋が8本不足する手抜き工事が発覚し、国会で森ゆうこ議員が「第二の耐震偽装事件」と告発した。南海の件も同様だ! センターの建て替えはそもそも「耐震性に問題がある」として始まったのに、毎日数十万人の利用者がおり、その高架下の仮庁舎には大勢の労働者が出入りし、職員が働く仮庁舎があるのだ。南海電鉄は次回裁判で「事実」を明らかにすべきだ。

南海電鉄高架下仮庁舎には毎日多くの労働者が集まる。上を走る電車は大丈夫なのか?

阪神高速道路神戸線(神戸市東灘区深江本町)(1995年3月3日発行「アサヒグラフ」)。このあと近畿運輸局よりRC構造柱への耐震補強工事が要請されていた

◆勝手に作った「悪者」バッシングに始まり、利権を奪おうとする「西成特区構想」

2度も否決された「都構想」では、「二重行政」「既得権益」などが「悪者」としてやりだまにあげられた。二重行政などはどこにでもある話で、きちんと討議して解消すれば済む話だ。

西成特区構想も同様に「ゴミの不法投棄」「生活保護者の増大」などがやりだまにあげられた。まちづくり会議の座長を務めた鈴木氏はインタビューで「改革が始める前は、猛烈に荒れており、そこらへんで堂々と覚せい剤を打っている売人がいたり、不法投棄ゴミが散乱していたりと、それは荒んだ町でした。ゴミと酒と立小便の異臭が立ち込めていたのです」とこの町と町の住民をこけ落とした。

しかし労働者がずぼらでゴミが散乱しているのではない。三角公園や阪堺電車沿いには、明らかに地域外から持ち込まれたゴミも多かったし、そもそもゴミ置き場を置いたら片付く話だ。生活保護者が増えることの何が悪いのだろうか。1970年日本万博の建設工事のために、「国策」で全国から集めた単身労働者が、高齢化し生活保護を受けるようになっただけで、悪いことでは決してない。「生活保護バッシング」が凄まじいほかの地域に比べ、この地域では皆が堂々と生活できる。障害がある人、罪を犯して服役してきた人も同様に、堂々と生活できる、こんな人情味のある町はほかにないだろう。それをわざわざ潰し、一部の人が儲けようというのが、大阪維新の「西成特区構想」だ。

7億5千万円もの血税をつぎ込んだ仮庁舎は、柱に鉄骨が入ってないだけではなく、開業2ケ月で天井から雨漏りする手抜き・欠陥工事も判明している。しかも同規模の仮庁舎建設費用と比較しても、べらぼうに高い。差額はどこへ流れたのだ。これが橋下氏のいう「大阪市の金と権限をむしりとる」都構想とリンクする西成徳構想の実態だ。

大阪市を解体し、大阪市の金と権限を奪おうとした「都構想」に反対した皆さん、どうかこの人情味あふれる釜ヶ崎を守る闘いにご注目ください。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

最新刊!『紙の爆弾』12月号!

原発なき社会を求めて NO NUKES voice Vol.25

◆南海電鉄の柱に「鉄骨は入ってない」?

昨年始まった「センターつぶすな」の住民訴訟(公金違法支出損害賠償等請求事件)は、南海電鉄高架下に建設されたあいりん職安と西成労働福祉センター仮庁舎の建設費用が、適正化どうかを争うものだ。

南海電鉄高架下の橋脚の非破壊検査を行う業者

原告はこれまで、
①操業から80年以上経つ南海電鉄高架下に建設された仮庁舎の安全性は保障されているか、
②工事が「入札」ではなく、合理的な理由がないまま、南海電鉄の子会社の辰村建設と「随意契約」したことに違法性はないかと主張し争ってきた。

そんな中10月9日(金)、住民訴訟を闘う仲間が業者に依頼し、南海電鉄高架下に造られた西成労働福祉センター仮庁舎北側入り口の柱(橋脚)6本の非破壊検査を行なってもらった。

センターとあいりん職安には毎日大勢の労働者が出入りしているし、上を走る南海電鉄も、新今宮駅の利用者が1日10万人近くいるなど、関西圏の重要な交通機関となっている。

仮庁舎建設工事中の南海電鉄高架下。反対側で毎日稲垣氏が監視行動を行っていた

それを支える橋脚だが、結果は1938年(昭和13年頃)建設の4本の柱と、1968年頃(昭和43年頃)建設の2本の柱の計6本について「鉄筋の反応はあるが、鉄骨の反応はない」と報告された。

2012年大阪維新の橋下徹氏が市長時代に打ち出した「西成特区構想」の目玉「西成あいりん総合センター」の解体・建て替え計画は、そもそも「耐震性に問題がある」から始まったはずだ。

住民訴訟で「操業80年を越える南海電鉄の耐震性は大丈夫か?」と訴えたところ、南海電鉄は「大丈夫だ」と繰り返し、南海電鉄本社を訪れ「安心・安全というならば、(図面など)証明できるものを見せろ」と迫った際には「見せない」と拒否されてきた。

更に西成特区構想を進める「まちづくり会議」で、「データを見せて」と要求した釜ケ崎地域合同労組委員長・稲垣氏に対して大阪府は「南海電鉄を信用できないのか」と、声を荒げて言ったのに……嘘だったのか?

◆「南海電鉄の」のずさんな安全管理
 
訴訟で原告は、25年前に起きた阪神淡路大震災のような大地震がおきた際の、南海電鉄の倒壊の危険性を主張し、当時、高速道路が倒壊するなどの甚大な被害が生じたこと、その後運輸省(当時)が提言した「緊急耐震補強計画」にもとづく耐震補強工事を、南海電鉄高架下の仮庁舎でも実施しなければならなかったと主張した。

橋脚に鋼板をまきつける耐震補強工事を行った南海電鉄新今宮駅と今宮戎駅の間

一方、南海電鉄は、通達後、おおむね5年とされた期間を20年近く過ぎたここ数年、ようやく「鋼板巻き立て工法」による耐震補強工事を実施した。

しかし工事が実施されたのは、難波駅と今宮駅の間や、萩之茶屋駅周辺で、西成労働福祉センターとあいりん職安の仮庁舎では実施されていない。大阪府は「その場所(仮庁舎付近)は耐震補強の対象外である」と反論していたが、本当だろうか?

25年前の通達では「間仕切り壁などが設置され、耐震効果がある場合は対象外」とある。しかし西成労働福祉センターの仮庁舎建設が始まった時点で、この間仕切り壁は撤去されている。センター建て替えに反対し、建設開始当初より、現場近くで連日監視行動を行っていた稲垣氏が、その目ではっきり確認している。

つまり、あいりん職安とセンター仮庁舎は、間仕切り壁が取り外されているにも関わらず、難波駅や萩之茶屋駅のように「鋼板巻き立て工法」での耐震補強工事を行なっていない。

そのため、再度原告が訴え、裁判所が請求した調査委託書の回答で、大阪府は、センターが補強の対象外である理由について「RC柱(鉄筋コンクリート柱)ではなく、SRC柱(鉄骨鉄筋コンクリート柱)であるため」と答え、それを説明する簡単なイラストを提示していた。あのイラストも嘘だったのか?

南海電鉄側から提出された調査委託書への回答書に添付された、非常に簡単なイラスト

◆大阪府がセンター解体を急ぐ理由は何か?

重要な耐震補強工事を実施する時間を省いてまで、工事を急いだのは何故だろうか?

昨年3月31日、閉鎖予定だったセンターは、「センター閉めるな」と訴える多くの労働者や支援者らの力で閉鎖が阻止され、強制的に閉鎖される4月24日まで「自主管理」が続けられた。

閉鎖予定の3月31日、大阪維新とともに西成特区構想を進めようという人たちなどが、センターの外側から、センター内で闘う人たちを見ていた。闘う人たちを指差し、笑っている人、「近所迷惑、煩い」と文句を言う人もいた。またある人は「あんな危険な場所に、釜のおじさんを閉じ込めていいの」と嘆いていた。

彼らは、今回、センターとあいりん職安が仮移転した先の南海電鉄に、耐震補強工事がなされていない可能性が出てきた件をどう考えるのか? 「そんな危険な場所におじさんを閉じ込めていいの?」と、今度も嘆いてくれるのか? 今回の調査結果は、あくまでも「鉄骨の反応はない」に留まるが、南海電鉄と大阪府が「それでも安全」というならば、一刻も早く、その証拠を示すべきだ!

現在、センター周辺に野宿する人たちが、強制立ち退きの危機に見舞われている。理由は「大地震が起きたら危険」と言うものだが、ならば南海電鉄高架下も同様であろう。それなのに大阪府は、立ち退きの本裁判から数か月後断行仮処分裁判にまで訴え、早急に追い出そうと企んでいる。センターを解体したのち、広大に空いた跡地を「再開発」し、「大阪府と大阪市が一緒になって、がっぽり儲けまっせ」と示すためだ。

◆危険な南海電鉄高架下に仮移転したのは、大阪維新の利権のため?

老朽化した上に、耐震補強工事が実施されてない可能性が濃くなってきた南海電鉄高架下に、わざわざ労働者の施設を造った理由は何か? 森友、イソジンのように、大阪維新の利権が絡んでいるのではないか。

実は、西成労働福祉センターの仮庁舎は、新社屋ができるまでの4、5年しか使用しないにもかかわらず、6メートルの杭を打ち込み補強するなどして頑強な構造物になっている。そのため、建設費用か同じ規模の仮庁舎のそれより高い。頑強な構造物にした理由の一つに、使用終了後解体せずに、そのまま別の施設に使われる可能性がある。それは、同じ南海電鉄が難波駅高架下で展開する「なんばEKIKAN」プロジェクトのような商業施設かもしれない。南海電鉄が何で儲けようが勝手だが、その頑強な構造物を作った建設費用は、大阪府民の尊い税金だ! 南海電鉄を儲けさすために、貴重な税金が使われるようなことがあってはならない。

現在の大阪市長・松井氏は、かつて住之江競艇場の電気保守管理や物品販売などの利権を独占してきた株式会社「大通」の代表取締役だった(現在は実弟が代表)。また松井氏がしこたま儲けてきた住之江競技場を経営する「住之江興業株式会社」も、南海電鉄グループの傘下にある。イソジン同様、ここでも自分の利益のためだけに、危険な南海電鉄高架下に、釜ヶ崎の労働者を押し込めようとしたのか?センター周辺の野宿者を1日でも早く追い出したいのか?そうはさせないぞ!!

大阪維新の利権のための「西成特区構想」と「大阪都構想」を、弱いもの苛めの維新政治を、釜ヶ崎から終わらせていこう!

南海電鉄難波駅高架下で展開されるプロジェクト「なんばEKIKAN」。若者をターゲットにしたおしゃれな店舗が集まる

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他

NO NUKES voice Vol.25

「あいりん総合センター」(以下センター)周辺の野宿者らに、強制立ち退きの危機が迫っている。大阪府が7月22日提訴したセンター明け渡し断行仮処分の2回目の審尋(非公開)が10月12日行われる。

債権者(大阪府は)は、4月22日に土地明け渡し訴訟を提訴した時点では、その裁判の判決を待って対応できると判断していたにもかかわらず、数か月後の7月22日明け渡し断行の仮処分を提訴してきた。その間、新型コロナウイルスの影響で裁判が中断されたとはいえ、明け渡しが緊急に必要となる新たな事情が生じたのだろうか? 大阪府の主張書面では、この点に全く触れられていない。

◆センターは「公の施設」ではないのか?

大阪府は、センター解体のための条例を作ったり、正式な議会にかけずに強制立ち退きを強行しようとしているが、その理由をセンターは「公の施設」ではないと主張する。そんなことはない。「公の施設」について、地方自治法244条1項は、「住民の福祉を増進する目的をもって、その利用に供するために施設」であると規定する。

それに沿って説明すれば、センターは、「青空労働市場の解消と地区労働者の福祉の向上」を目的として建設されてきたし、そのため建物内には労働者のためのシャワールーム、ランドリー、食堂、売店、理髪店、喫茶室、ロッカー室などが設置されていた。

大阪府も「愛隣地区の実態と労働対策」というパンフレットで、建設を大々的に公表していたし、賃借契約書にも「日雇い労働者の福利厚生」の用途に供しなければならないと規定していた。

センター1階の食堂横。「施設内は駐輪禁止です」の看板に「大阪府」の名前が明記されている

また、写真のように、大阪府が土地や建物を管理していた事実を示す看板もある。このように、大阪府は、センターの土地、建物を釜ヶ崎の日雇い労働者の福利厚生のために建設し、その用途にそって利用・管理してきたのであり、センターが公の財産にあたることは明白だ。大阪府は「大阪府が普通財産として管理し、公益財団法人西成労働福祉センターに貸し付けていたから、公の財産に該当しない」というが、これは大阪府が本来行うべき条例の制定を怠っているというだけのことだ。

また、大阪府は、仮にセンターが公の施設であっても、2019年3月に閉鎖されたので(実際には4月24日)、使用は廃止されたと主張する。しかし地方自治法244条2第1項では、「公の施設の設置及びその管理に関する事項」は条例で定めなければならないと規定している。つまりセンター閉鎖に関する事項もまた条例で規定し、それにそった措置が取られていなければ、使用廃止とはいえない。物理的に閉鎖されたからといって、センターの使用が廃止されたとはならないのだ。

また、強制立ち退きのうち、仮処分手続きによる明け渡し断行は、社会権規約委員会が一般的意見4及び7において示したガイドラインに反することが明言されているが、これについても大阪府は、なんの反論も行っていない。

◆「代替措置が取られている」というが……

大阪府は、様々な代替措置が取られているから、仮処分断行しても、野宿者らの行き場がなくなるわけではないと主張し、市役所職員とセンター周辺の野宿者に「生活保護を受けるよう」と説得しまわっている。

もちろん生活保護を受けたい人はうければいい。問題なのは、普段は生活保護の申請を水際作戦で拒んだり、生活保護者に「働けるだろう」「若いだろう」と保護の辞退を迫っているくせに、強制立ち退きまでに野宿者を減らしたいがために、甘い声で「今なら大丈夫」と生活保護を進めていることだ。

また、生活保護を申請しても、三徳寮や無料・低額宿泊施設など、個人のプライバシーの守れない集団施設に押し込まれたりするため、生活保護の利用自体を諦める人も少なくない。現在、野宿する人の中にも、以前生活保護を受けていたが、そのような理由や「囲い屋」など貧困ビジネスに餌食になり辞めた人も多い。

そうした諸問題を放置しなから、今だけ「生活保護を」とは余りに虫が良すぎるはなしだ。なおシェルターも、決められた時間に遅れたら入れない、ゆっくり眠るために飲む酒が禁止されている、大きな荷物が持ち込めないなどの理由で利用しない人も多い。

近くの公園に野宿しながら、センター近くにアルミ缶、銅線などを集めにくる労働者。雨降りの日でも「やらんと食っていけんやろう」と

◆趣味や好きで野宿しているわけではない!

大阪府が主張する以下の点は、とりわけ野宿者を愚弄する許しがたい内容だ。

「債務者A(野宿者の実名)はシャッターが閉まる前から生活保護やシェルターなどを利用してないが、望めば利用できたことはいまでもない」。(またA自身が生活保護を受けたら緊張感がなくなると考えていることを受け)「債務者Aが、緊張感のない生活をしないという意思に基づいてホームレス状態を継続することは、他者の権利や公益を侵害しない限りは明け渡し断行によって実現しようとまでされるべきことではないが、これにより債権者には重大な損害が生じるから、これらの対比でいえば、かかる利益が保護されるべきであるとはいえない」。

これに対しては、原告団はこう反論している。

「債務者Aは、センターが閉まる前から、昼間は3階に、夜は現在の場所に継続して住み続けてきた。他に行くところがあるのに、気にいらないから、そこに住んでいたわけではない。他に行き場がないから、このように暮らしてきたのである。例えば、トイレが確保できる場所は容易には探せない。ホームレス状態にある人々の権利の問題が考えられるとき、このことが出発点にならなければ、およそ話にならない。行くところがあっただろう。趣味で済んでいるんだろう。これらは法的主張ではなく、日々ホームレス状態にある人々になげつけられた社会偏見以外のなにものでもない。そこに住まざるをえない事情を、野宿せざるをえない人々に立証する証明責任が課せられてはならないのである。その証明責任は、彼らを野宿状態に放置している私たちにある。理由は簡単である。私たちは一晩でもセンターのシャッター前で寝てみる勇気があるだろうか」(債務者主張書面1)。

雨風をしのぐことが出来るシャッターの真下が寝場所だ

◆13年間も放置されてきた耐震工事

大阪府は訴状で、耐震問題を理由に「センターを一刻も早く建て替える必要がある」と主張する。それならば、3月24日本訴を提訴した段階で、仮処分を申請すべきではなかったのか。それをせず、何をいまさら「一刻も早く建て替えを」だ。「耐震性がー」と叫ぶ大阪府は、これまで何をやってきたか? 

センターの耐震性問題は、2008年の耐震診断に始まり、いったんは減築工法なども検討されながら、2016年7月26日の「まちづくり会議」で建て替えが正式に決められ、センター解体工事の仮契約は2020年12月上旬、本契約は2021年2月下旬との予定が組まれている。耐震診断の2008年から本契約まで13年間かかるが、これまで大阪府が「一刻も早く建て替える必要がある」と考えていた形跡は全くない。

つまり、センターの耐震工事(建替え工事)は、2008年耐震診断でその必要性が判明したが、2012年2月に大阪維新の橋下元市長が打ち出した「西成特区構想」をうけ、それに歩調をあわせ進められ、現在、そのスケジュールを守りたいとの理由だけで、強行されようとしている。そのための野宿者の強制立ち退きだ。

なぜ大阪維新の金儲けのために、労働者の拠り所のセンターが潰されなくてはならないのだ! 11月1日に再度強行される住民投票に反対を突きつけ、弱いもの苛めの維新政治を、ここ釜ヶ崎から終わりにさせていこう!

壊されたため、安い中古バスに買い換えられた釜ケ崎地域合同労組のバス。寝場所のない人に解放されている

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他

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