『紙の爆弾』10月号に寄せて

『紙の爆弾』編集長 中川志大

アメリカによるイラン攻撃が再開される中、キューバで経済封鎖により深刻なエネルギー危機が続いていることは、あまり報じられません。長時間の停電は家庭の明かりを奪うだけでなく、給水や交通・食料・医療など市民生活のあらゆる面に影響を及ぼしています。そんなキューバの現状と、危機の中で抵抗する人々について、同国ジャーナリストのセサル・ゴメス・チャコン氏が本誌に寄稿しています。

“当事者”を除き、あらゆる方面から疑問の声が挙がった「国民会議」というネーミング。そして、結局何が話し合われたのか、何のための会議だったのかも、まったく不明。「国民による会議」ではないのはすぐにわかることでも、では誰による何のための会議だったのか?という問いに答えたのが、今月号の植草一秀氏の論考です。その空虚さゆえに、常に“背後”が垣間見えるのが高市政権の特徴といえます。ならば、表面的な事象を批判して終わっては、背後勢力の術中にはまるだけです。

「高市早苗政権はこんなにも大局観を欠いた国家運営しかできないのか」「首相が(飲食料品の消費税率)1%案を断行しようとするのに対して、野党が『結論ありきだ』と批判するのも当然だ」。前者は7月30日付日経新聞社説、後者は31日付読売新聞社説です。本誌巻頭で指摘したとおり、さんざん逆進性が指摘されてきた消費税が、いまや税収合計の3分の1を占める現状をどう捉えるべきか。ちなみに6年連続の最高税収を記録した2025年度、所得税収・法人税収がそれぞれ大きく上がっても、消費税の総収に占める割合は31%です。

世界のコロナ対策をリードしてきた元アメリカ大統領首席医療顧問、アンソニー・ファウチ博士への追及がアメリカで始まっています。着目すべきはKダブシャイン氏指摘のとおり、日誌に表れたファウチ博士のキャラクターで、いかにも利用されやすそうなのは高市首相と共通するところ。芸能人へのリアクションも似ている気がします。コロナ騒動の本質はもとより、それまで“主流”とされていた見解が逆転するのかに、もっとも注目しています。

8月号から前・中・後編でお送りした植草一秀氏“3つの冤罪事件”の真実。それぞれの事件の状況はもちろん、不可解な経緯と、当時の社会状況についても詳しく説明しています。そこから見えてくるのは、「今の日本」です。なぜ日本だけが「失われた35年」にはまり込み、抜け出せないのか。「失われたもの」とはいったい何か。それらが事件の背景から浮かび上がってきます。

ほか10月号では、首相官邸SNSの“高市PR動画”が炎上した「首相の無意味な熊本視察」と2024年地方自治法改正の関係を解説。これは副首都法や緊急事態法制とも関係します。2026年熊本地震をめぐっては、各地で加速する“AI防災”のリスクについてもレポート。ほか25年目となった「9.11」の真相、「SNS年齢規制」の国内議論の的外れぶりや、ひきこもり支援事業における「労働」についてなど、今月号も独自の切り口で真実を追求します。
『紙の爆弾』は全国の書店で発売中です。ぜひご一読ください。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

『紙の爆弾』2026年10月号
A5判 130頁 定価800円(税込み)
2026年9月7日発売

「飲食料品1%」のしょぼい減税でも迷走 財務省が主導する消費税減税反対論 植草一秀
ビル倒壊と瓦礫の謎 行方不明の墜落機体 実行犯にCIAスパイ…9.11 二十五年目の真相 浜田和幸
キューバを襲う米国によるエネルギー危機 経済封鎖という暗闇を武器にしてはならない セサル・ゴメス・チャコン
日本のSNS年齢規制はキエフの大門である 昼間たかし
2026年熊本地震に見た地方自治と緊急事態条項 足立昌勝
“加害者”を隠しきった裁判 優生思想を護持した日弁連とマスコミ 野田正彰
植草一秀インタビュー「冤罪の真実」後編 無罪の証拠を司法は無視 小泉・竹中批判封じ
「憲法より日米安保が最高法規」の現状を変えよ プーチン大統領択捉島訪問の意味 木村三浩
それでも進む完全自動化 イオンモール爆発の“人災”と“AI防災”のリスク 片岡亮
「使用者」はいても「労働者」はいない ひきこもり支援事業の“空白” 川田祐一
暴力的カウンター運動と「リンチ事件」「反差別運動」についての共産党見解への疑念 黒薮哲哉
LGBT問題の現在 「女性スペース法案」の必要性 井上恵子
成年後見制度という宿痾 ある老齢薬剤師の手紙から 鈴木愼哉
サナエ流独裁の奥義 こうして絞め殺される“日本の議会制民主主義” 佐藤雅彦

〈連載〉
コイツらのゼニ儲け:西田健
「格差」を読む:中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座:東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER:Kダブシャイン
「絶望ニッポン」の近未来史:西本頑司
芸能界 深層解剖

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駐ロシア中国大使、日本に不穏な警告を発する

アンドリュー・コリブコ

中国とロシアが、日本の急速な軍事大国化への警戒を強めている。駐ロシア中国大使は、日本の「再軍備」が地域の平和を脅かしていると主張し、ロシア側も同様の懸念を示している。筆者は、日米同盟を背景に日本と中露の対立が軍事衝突へ発展すれば、北東アジアが第三次世界大戦の発火点になりかねないと警告する。

※   ※   ※   ※

もし「日本問題」(ほかに適切な呼び方がないので、こう呼ぶことにする)が近いうちに平和的に解決されなければ、北東アジアで第三次世界大戦が勃発する危険性は急激に高まるだろう。

駐ロシア中国大使の張漢暉(ジャン・ハンフイ)は、東京裁判(極東国際軍事裁判)から80年を迎えるのに合わせ、ロシア国営通信社TASSに時宜を得た論考を寄稿した。東京裁判は、いわば日本版のニュルンベルク裁判だが、西側諸国ではそのことを知らない人も多い。

張大使はまず、日本がカイロ宣言、ポツダム宣言、そして日本の降伏文書に反する形で再軍備を進めているとして、いくつかの事実を挙げた。その例として、各種ミサイルや海軍力の強化、武器輸出、そして日本の「2026年版防衛白書」を取り上げている。

これに関連して張大使は、次のように書いている。

「東京はまた、NATOの関連する軍事的枠組みへの参加を積極的に模索し、北大西洋同盟への統合を加速させている」

【黒薮注】北大西洋同盟:NATOの別称で、同じ意味。

さらに、

「日本は自国による植民地支配・征服を正当化し、台湾が中国に返還されたことの正当性を否定している」

とも指摘した。

中国にとっておそらく最も懸念されるのは、歴史的な宿敵であり、筆者の見方で、3500万人の中国人に対する「ジェノサイド」の責任がある日本が、核兵器保有の可能性をちらつかせていることだろう。そして、ひとたび政治的な決断が下されれば、日本には核兵器を大量生産する能力がある、というのである。

日本の急速な再軍備と核兵器をめぐる議論によって、地域的な脅威が再び高まっているとして、張大使は最後に次のように述べた。

「中国とロシアは、歴史的正義と国際法秩序を守ることに尽力する他の国々とともに、第二次世界大戦の歴史に対する正しい認識を断固として守り、日本軍国主義を復活させようとするいかなる試みも断固として抑え、苦難の末に勝ち取った平和を守り、より公正で合理的な国際秩序の形成を促進する用意がある」

この不吉ともいえる警告は、真剣に受け止めるべきだろう。なぜなら、これはロシア側の日本に対する評価とも一致しているからだ。

プーチン大統領の側近であるニコライ・パトルシェフは約1年前、ロシア国内メディアのインタビューで、要するに「日本はアジアにおけるアメリカの戦略を推進するうえで、これまで以上に大きな役割を担うようになる」と主張した。

その後、年末近くには、新首相の高市早苗が台湾有事における日本の軍事的関与について物議を醸す発言をしたことを受け、「日本は予想より早く中国に挑戦するかもしれない」との見方も示された。

先月末には、「ロシアの高官級外交官が、日本がロシアに及ぼす脅威の増大について言及した」。そして8月半ば、プーチン大統領がロシア極東を訪問した際には、「悪化する日露関係についてプーチンが嘆いた」とされている。

プーチン大統領とロシア太平洋艦隊司令官は、「AUKUS+」という言葉そのものは使わなかったものの、実質的には、日本がその中心的な役割を担おうとしていると指摘した。「AUKUS+」とはここでは、中国を封じ込めるためにアメリカが構築しつつある、NATOに似た軍事ネットワークを指している。

黒薮注】AUKUS+:米・英・豪の3か国が、潜水艦や最先端軍事技術を共同で開発・運用し、軍事的な連携を深める枠組み。

したがって、日本の急速な再軍備と核兵器をめぐる議論は、ロシアにとっても深刻な脅威だということになる。

筆者によれば、この脅威を事前に取り除く方法は二つある。一つは、アメリカが「AUKUS+」を抜本的に再編し、その中で日本が中心的な役割を担わないようにすることだ。もう一つは、ロシアと中国が軍事力によって先制的に日本の脅威を無力化することである。

筆者はさらに、日本が国連憲章上の「敵国」とされていることを根拠として、ロシアと中国にはそのような行動を取る国際法上の権利があると主張する。しかし、その場合、日米の相互防衛体制を理由にアメリカが報復をちらつかせる可能性があり、結果として第三次世界大戦につながる危険が生じる。

かつて北東アジアで地域的な危機を引き起こす主な原因とみなされていたのは、北朝鮮の核兵器開発と核実験だった。しかし現在では、日本が再軍備と核兵器保有をめぐる議論によって、その役割に取って代わった、と筆者は考えている。

かつては北朝鮮の核開発が北東アジアの主要な火種だったが、いまや日本の軍備増強のほうが、中国とロシアという二つの核大国を同時に刺激する点で、より危険な火種になっている。そして、その中国とロシアに共通するライバルであるアメリカは、日本と相互防衛関係にある。

したがって、もし「日本問題」(ほかに適切な呼び方がないので、こう呼ぶ)が近いうちに平和的に解決されなければ、北東アジアで第三次世界大戦が勃発する危険性は急激に高まるだろう。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月21日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/the-chinese-ambassador-to-russia

現実的に修正した「1956年妥協案」なら、北方領土問題を早期に解決できる可能性がある

アンドリュー・コリブコ

ロシアと日本の間で長年の懸案となっている北方領土問題。本稿は、1956年の日ソ共同宣言を土台に、歯舞群島と色丹島の日本への引き渡しと引き換えに、国後・択捉への領有権主張を取り下げる「修正版妥協案」を提唱する。さらにロシア極東の資源開発や日露経済協力を組み合わせることで、両国の対中・対米依存をそれぞれ抑え、地域の安定と日本経済の再活性化につなげられると論じている。

※   ※   ※   ※

この記事で提案する、1956年の妥協案を現実に即して修正した案は、ロシアと日本双方の利益にかなうものであり、おそらく米国の利益にもなる。ただし実現には、まずロシア側が非公式にこの案を持ちかけ、最初の一歩を踏み出す必要がある。

プーチン大統領が択捉島を訪れ、さらにクリル諸島(千島列島)を初めて訪問したことに対し、日本の高市早苗首相は強く非難した。日本は択捉島をはじめとする複数の島々を、現在も「北方領土」として自国領だと主張しているからだ。

ロシアが実効支配し、日本が領有権を主張している地域には、このほか国後島、色丹島、そして無人の歯舞群島がある。背景を説明すると、ヤルタ協定では千島列島をソ連に引き渡すことになっていた。しかし日本側は、その解釈について法的な問題を提起してきた。

日本の立場では、先に挙げた島々は、そもそも法的な意味で「千島列島」に含まれていなかったとされる。一方、1949年の米国務省の覚書では、水産資源の豊富な色丹島と歯舞群島についてのみ、ヤルタ協定上の法的地位に議論の余地があるとの見解が示されていた。

その後、日ソ間の国交を回復した1956年の日ソ共同宣言では、妥協案が盛り込まれた。日本とソ連が平和条約を締結した後、ソ連が色丹島と歯舞群島を日本に引き渡すという内容である。

この妥協が実現しなかった理由を詳しく論じることは本稿の範囲を超えるが、ロシア側では、米国が日本に影響を及ぼしたことが原因だったのではないかと疑う人が少なくない。結果として妥協案は頓挫し、領土問題は今日まで続いている。現在、日本は先ほどの4地域すべてについて領有権を主張している。

プーチン大統領はこれまで、1956年の妥協案を復活させるために、かなりの時間と労力を費やしてきた。その狙いは、日本からロシアへの投資を増やし、日本のエネルギー市場をロシア産資源にさらに開放するとともに、ロシアが中国に過度に依存する事態を未然に防ぐことにあった。

こうした結果は、客観的に見れば日本の国益にもかなう。しかし領土問題は、日本の有権者の一部にとって非常に感情的な問題である。そのため、プーチン大統領が親しい友人とみなし、この問題について何度も話し合った故・安倍晋三首相の時代でさえ、解決には至らなかった。

プーチン大統領は択捉島を訪れる直前、ロシア極東を視察した際に、日露関係が悪化していることへの不満を表明した。筆者の見方では、今回の択捉島訪問は、日露関係悪化の責任は東京側にあると考えるモスクワが、その流れに対して示した意思表示でもある。

先に紹介した別の記事では、ロシアがなぜ日本を自国の安全保障に対する脅威として以前より警戒するようになっているのか、また米国が新たな地域安全保障体制の中で日本にどのような役割を期待しているのかについて、それぞれ別の分析を紹介している。

ここでそれらに触れる目的は、日露関係がさらに悪化した場合の軍事・戦略上のリスクを強調するためである。そして、そうしたリスクを考えれば、日本にとってはロシアとの妥協を目指す方が望ましいという点に注意を向けるためでもある。

何よりも優先されるべきなのは、平和と安定である。東京がモスクワとの間で1956年の妥協案に立ち返れば、それを土台として、日本は経済面でも地政学面でも利益を得られる可能性がある。

その場合、日本が対ロシア制裁を直ちにすべて解除しなくてもよい。まずは、分野と地域を限定する形で段階的に制裁を緩和する方法が考えられる。

そのモデルになり得るのが、約10年前に提案された「北方諸島社会経済共同体(Northern Islands Socio-Economic Condominium=NISEC)」構想である。これはサハリン、千島列島、北海道を経済的に結びつけようという考え方だ。

この構想では、この3地域をより大規模な経済統合プロジェクトの中心とする。そして将来的には、天然資源の豊富なロシア極東全体へと対象を拡大し、日本がそのエネルギー資源や鉱物資源に優先的にアクセスできるようにする。

適切な投資戦略を採れば、日本は不安定な西アジア(中東)からのエネルギー輸入や、政治的なリスクを伴う中国のレアアース加工への依存を減らし、地理的に近いロシアを代替供給源として活用できるというわけだ。地政学的な面でも、ロシアが中国への過度な依存を未然に防ぐことは、日本にとって利益となる。

さらに、日本とインドの関係が緊密であることも重要である。インドはすでに「東方海上回廊(Eastern Maritime Corridor)」を通じてロシア極東への進出を進めている。そのため、日本とインドが共同で、ロシア極東における資源開発や資源加工に大規模な投資を行うことも可能だろう。

ロシア極東には豊富な水力発電資源があり、その結果としてエネルギーコストも安い。このことは、こうした日印共同投資をさらに魅力的なものにする。ここで提案している「修正版1956年妥協案」を改めて整理すると、次のような内容になる。

日本は色丹島と歯舞群島を受け取る。その代わりに、国後島と択捉島に対する領有権の主張を取り下げる。さらに、この交換条件を日本にとってより魅力的なものにするため、「北方諸島社会経済共同体(NISEC)」を創設するとともに、日本にロシア極東の天然資源への優先的なアクセスを認める。

この計画は、おそらく段階的に実施されることになるだろう。全面的に実現すれば、ロシアが中国に過度に依存する事態を未然に防ぐ一方、日本も米国への依存を減らすことができる。その結果、ロシアと日本の双方が、自国の主権と戦略的自立性を強めることになる。

さらに、日本が西アジア(中東)から輸入するエネルギーへの依存を減らせば、仮に南シナ海で紛争が起きたとしても、日本経済がその影響によって深刻な打撃を受けるリスクを小さくできる。同時に、ロシアの「北極海航路(Northern Sea Route)」を利用することで、EUとの貿易もより効率化できる可能性がある。

日本海のすぐ向こう側にあるロシアから、低価格のエネルギーや鉱物資源が大量に日本へ入ってくるようになれば、日本経済は長らく待ち望まれてきた「復興」あるいは「再生」を遂げるかもしれない。それによって、新たに形成されつつある世界経済秩序の中で、日本の競争力も高まる可能性がある。

高市首相自身は、国後島と択捉島に対する日本の領有権主張には十分な正当性があると心から考えているのかもしれない。また、一部の有権者からの国内政治上の圧力に加え、米国から表立たない形で国際的な圧力を受けている可能性もある。

それでも筆者は、高市首相は本稿で提示した妥協案を大胆に検討すべきだと考える。なぜなら、ロシアが中国への過度な依存を未然に防ぐことは、米国の利益にもかなうからである。したがって、トランプ大統領と新たに良好な関係を築いた高市首相が十分に説得力のある説明をすれば、トランプ大統領をこの構想に賛同させることも可能かもしれない。

高市首相の判断には、大きく3つの要因が影響していると考えられる。すなわち、北方領土問題についての高市首相自身の考え、国内からの政治的圧力、そして米国からの非公式な圧力である。こうした事情を考えれば、この提案を実現するためには、まずロシア側が最初の一歩を踏み出す必要があるかもしれない。具体的には、外交ルートや専門家同士の交流、あるいはその両方を通じて、ロシアがこの構想を非公式に日本側へ打診するという方法である。

そうすれば、まず日本政府内でこの案への認知が広がり、次に専門家の間、そして最終的には日本社会全体へと議論が広がっていく可能性がある。その結果、高市首相にかかる国内政治上の圧力が弱まるかもしれない。そうなれば、高市首相もこの構想についてトランプ大統領と話し合うことに、より積極的になれる可能性がある。

また、ロシアが外交ルートや専門家ルートを通じて非公式にこの案を日本側へ提示すれば、日本側の外交官や専門家を通じて、米国の外交官や専門家にもこの構想が伝わる可能性がある。以上を踏まえれば、ロシアが先に動くことには十分な意味がある。

そうなれば、プーチン大統領による今回の史上初の千島列島訪問についても、別の見方が可能になるかもしれない。つまり今回の訪問を、プーチン大統領が新たに用いるようになった「緊張を緩和するため、あえて先に緊張を高める(escalate to de-escalate)」という手法の3例目として捉え直すことができる、ということである。

今回の場合、日本側から見れば、プーチン大統領の訪問はまず「政治的なエスカレーション(緊張の激化)」に当たる。しかし、その後ロシアが現実的な緊張緩和案を提示するのであれば、最初に圧力を高め、その後に妥協案を提示して緊張を下げるという一連の戦略だった、と解釈することも可能になる。クレムリンは、この可能性について検討してみるべきだろう。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月18日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/a-pragmatically-amended-1956-compromise

プーチン大統領、悪化する日露関係を嘆く

アンドリュー・コリブコ

ロシアのプーチン大統領は8月中旬、太平洋艦隊の司令官らとの会合で、近年の日露関係の悪化に懸念を示した。記事は、日本が米国などとの安全保障協力や軍備強化を進め、北東アジアにおける対ロシア包囲網の中心的役割を担いつつあると分析。これに対しロシアも太平洋方面の戦力を増強し、中国や北朝鮮との連携を深める可能性があると指摘している。

※   ※   ※   ※

米国がこの1年間にロシアの周囲に築いてきた「封じ込めの包囲網(cordon sanitaire)」の北東アジア方面を日本が主導するようになるにつれ、日露間の緊張がさらに高まることは避けられないかも知れない。

プーチン大統領は8月中旬、ロシア太平洋艦隊の司令官らとの会合で、日露関係について語った。プーチン氏は、ここ数年で両国関係が悪化したことを嘆き、その原因となるような行動をロシア側はまったく取っていないと主張した。そして、現在では「日本が最新の防衛関連文書で、初めてロシアを主要な脅威の一つに位置づけるまでになった」と述べた。

その後、プーチン氏はクリル諸島(日本でいう北方領土を含む)をめぐる問題について簡単に振り返り、日本の対ロシア政策が、貿易や対話を重視する姿勢から、制裁と対立を重視する方向へ転換したことに不満を示した。

ロシア太平洋艦隊のヴィクトル・リーナ司令官は、日本が地域で形成されつつある新たな政治・軍事的枠組みに加わっており、それらはNATOの一部のような役割を果たしているとの見方を示した。具体的には、次の枠組みを挙げた。

〇日本・韓国・米国の3か国協力
〇日本・フィリピン・米国による「JAPHUS」
〇日本・オーストラリア・インド・米国による「Quad(クアッド)」
〇オーストラリア・日本・米国による「AJUS」

リーナ司令官はさらに、「これらの国々は共同で作戦・戦闘訓練を行っており、その頻度も規模も一貫して拡大している」と述べた。

そして、北東アジアにおけるこうした不安定化の動きの中で、日本が中心的な役割を担っていると指摘した。その理由として、日本が急速に軍事力を強化していること、さらに「非核三原則」を廃止する案が出ていることを挙げた。非核三原則が廃止されれば、将来的に日本が核兵器を保有・製造したり、外国の核兵器を国内に配備させたりする可能性が生じる、と原文は論じている。

こうした動きは、7月下旬の記事「ロシアの政府高官が、自国に対する日本の脅威の高まりに言及した」で論じられた内容を、さらに裏付けるものでもある。

また、8月初旬、エルブリッジ・コルビー米国防次官(政策担当)が東南アジア歴訪の最初の訪問先で重要な演説を行った後に論じられた、「米国はAUKUS+を通じてアジアで『NATO 3.0』構想を実行している」という見方とも一致している。

【黒薮注】AUKUS+:米・英・豪の3か国が、潜水艦や最先端軍事技術を共同で開発・運用し、軍事的な連携を深める枠組み。

【黒薮注】NATO 3.0:ここではNATOの変遷を意味して、NATO 1.0は冷戦期、NATO 2.0は冷戦後、そしてNATO 3.0は、米国だけに負担を集中させず、ポーランド、日本、フィリピンなどの「前線国家」により大きな防衛負担を担わせ、米軍と一体化した地域的な抑止網をつくる段階。

もっとも、リーナ司令官がQuadをNATOの一部のように表現した点については議論の余地がある。インドは独立した外交路線を強く維持しており、現在もロシアにとって重要なパートナーだからだ。しかし、それ以外のリーナ司令官の発言については、先ほど述べた見方とおおむね一致している。

【黒薮注】Quad:日本・アメリカ・オーストラリア・インドの4か国による協力枠組み。

今回の会合で重要なのは、プーチン大統領が日露関係の悪化を嘆き、同時に太平洋艦隊の司令官が「日本によるロシアへの脅威が高まっている」と評価したことである。これは、ロシアが北東アジアの安全保障環境の変化を認識していることを示している。

今年の夏にも述べたように、この1年間でロシアの周辺には一種の「封じ込めの包囲網」が形成され始めている。筆者はその背景に、第2次トランプ政権の「新レーガン・ドクトリン」があり、それによって世界各地でロシアの影響力を後退させようとしているとみている。

その中で日本には、北東アジア方面を主導する役割が与えられているという。それは今後、米軍ミサイルの日本への定期的な配備、海上での挑発的な行動とその頻度の増加、さらには日本の急速な軍備拡大と並行した核武装の可能性という形で現れると考えられる。

ロシア側も、こうした事態に備えつつある。プーチン大統領と太平洋艦隊司令官らとの会合内容は、そのことを示していると筆者はみている。その結果、今後ロシア太平洋艦隊の戦力が増強され、中国や北朝鮮との協力もさらに強化される可能性が高い。

読者が忘れてはならないのは、ロシアは日本を一度も脅したことがなく、むしろ米国との連帯を優先した日本の側が、これまで述べてきた手段によってロシアを脅す道を選んだのだ、という点である――これが筆者の主張である。

この政策は日本自身の経済的利益も損なっていると筆者は考えている。資源に乏しい島国である日本が、地理的に近いロシアのエネルギー資源や鉱物資源を利用する機会を、自らあらかじめ排除してしまっているからだ。ただし、制裁の適用除外となっている大型エネルギー事業「サハリン2」は例外である。

【黒薮注】サハリン2:ロシア極東のサハリン島周辺で天然ガスと石油を開発し、主にアジアへ輸出する大型エネルギー事業。三井物産と三菱商事もこのプロジェクトに出資してきた。

したがって日本には、現在の反ロシア的な政策を見直す経済的な動機もある、というのが筆者の結論である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月17日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:
https://korybko.substack.com/p/putin-lamented-the-worsening-of-russian?utm_campaign=post&utm_medium=web

ウクライナ紛争で「最大限の勝利」を得られなければ、ロシアは本当に存続できないのか?

アンドリュー・コリブコ

ロシアはウクライナ紛争で「最大限の勝利」を収めなければ、国家として存続できないのか。ロシア指導部が勝利の必要性を強調する一方、米国との交渉では一定の妥協に応じる姿勢も示している。本稿は、ロシアがすべての目標を達成しないまま紛争が終結した場合を想定し、その後に直面する軍事・安全保障上の課題と、国家存続への影響を考察する。

※   ※   ※   ※

ここで最も重要なのは、ロシアが他国との軍拡競争についていけるだけの軍事力を維持し、国民も長期にわたる厳しい状況に耐え続けられるかどうかである。これは、ロシアの著名な専門家ワシリー・カシンが5月下旬に示した見方ともよく似ている。

ロシア前大統領で、現在は安全保障会議副議長を務めるドミトリー・メドベージェフは7月下旬、次のように述べた。

「われわれ共通の課題は、国を守ることだ。国を守る唯一の方法は、特別軍事作戦で勝利することである」

ロシア政府は、プーチン大統領をはじめ、「勝利」の条件として次のことを挙げてきた。ウクライナの非軍事化と「非ナチ化」、憲法上の中立への復帰、そして5つの地域すべてを失ったことをキーウが正式に認めることである。こうした目標をすべて達成する「最大限の勝利」は、ロシアの国益を幅広く守るうえで最善の結果だろう。

しかし、紛争が終わるまでにこれらの目標をすべて達成できなかったとしても、ロシアという国家が存続できなくなる可能性は低い。

ロシアがすべての目標を達成しないまま紛争が終わる可能性も否定できない。セルゲイ・ラブロフ外相は最近、「アンカレッジの精神」を守るというロシアの姿勢を改めて確認した。この構想では、報道によれば、トランプがゼレンスキーにドンバスを譲るよう説得できれば、プーチンは戦闘を停止するとされている。

また、西側諸国、特に米国とフランスは、ウクライナを前面に出した新たな「消耗戦」をロシアに対して進めている。これは民間の物流インフラも標的としており、トランプがロシアに対して「緊張を高めることで、最終的に緊張を下げる」という方法を取っているためだ。この動きが大幅に激しくなれば、プーチンの判断も変わる可能性がある。

ここでこうした可能性を挙げているのは、ロシアが「最大限の勝利」を目指すことについて妥協すべきだと言うためではない。なぜロシアが妥協する可能性があるのかを示すためである。

そこで、メドベージェフの発言を踏まえ、ロシアが「最大限の勝利」を達成できなかった場合にどうなるのかを検討してみよう。

仮に紛争が終わった時点でも、ウクライナが軍事力を維持し、「非ナチ化」されず、憲法上の中立に戻らず、さらに5つの地域すべてを失ったことを正式に認めなかったとしても、ロシアはおそらく存続できる。その理由を簡単に説明する。

まず、ウクライナが軍備を維持・強化し続けるなら、ロシアもそれに合わせて軍備を強化することになる。NATO、特にドイツが軍備を強化し続けた場合も同じである。その結果、軍拡競争が続くことになる。次に、「マイダン」後のウクライナがナチ国家のまま存続した場合、ロシアはそこから生じる思想的な脅威に対抗する必要がある。

【黒薮注】「マイダン」後のウクライナ:マイダンは2013年末から2014年にかけて、首都キーウの独立広場(マイダン・ネザレージュノスチ)を中心に起きた大規模な反政府運動。この運動の結果、2014年2月に親ロシア派とされたヤヌコーヴィチ大統領が政権を離れ、その後ウクライナは極右化した。

そのため、ロシアは、偽情報などを事前に見抜くための対策、メディア・リテラシー、「民主的安全保障」の政策をさらに強化し、民族間の関係を安定させる政策も改善し続けることになる。また、ロシアの元情報機関幹部アンドレイ・ベズルコフが以前提案したように、軍と社会の文化をより一体化することも役立つだろう。

【黒薮注】アンドレイ・ベズルコフ(Andrey/Andrei Bezrukov)は、ロシアの元対外情報工作員で、特に米国で長期間「一般市民」として生活しながら活動していたことで知られる人物。

一方、ウクライナが中立国にならないことで生じる脅威については、ロシアの大陸間弾道ミサイル「サルマト」によって、NATOの部隊配備を抑止することが可能だと考えられる。

最後に、キーウが係争地域の一部を支配し続けた場合の人道上の問題については、第三国の仲介による合意を結び、希望する住民がロシアへ移住できるようにすることで、その影響を減らせる可能性がある。

しかし、そのような合意が成立しなかったとしても、ロシアという国家の存続そのものを脅かすことにはならないだろう。ロシアが軍拡競争で後れを取らず、国民が困難に耐え続けることである。このシナリオは、ロシアの著名な専門家ワシリー・カシンが5月下旬に示唆したものとも似ている。

一方、仮にロシアが「最大限の勝利」を達成したとしても、米国はすでにロシアの周辺に緩やかな「封じ込めの壁」を作っている。北極・バルト海地域では英国が中心となり、中央ヨーロッパではポーランドが中心となっている。ロシア南部の周辺地域ではトルコが、北東アジアでは日本が中心的な役割を果たしている。

これによってロシアはさまざまな脅威に直面している。それらすべてを説明することは今回の分析の範囲を超える。しかし、この状況は、ベズルコフが述べた「ロシアは西側との『新たな戦争』に数十年間巻き込まれる可能性がある」という警告に、一定の説得力を与えている。

◆筆者アンドリュー・コリブコによる注釈

背景を説明すると、プーチンは昨年末、安全保障会議との会合で、ウクライナ紛争を終わらせるために、具体的な内容は明らかにしていないものの、一定の「妥協」に応じたと実際に述べている。

「もちろん、これは秘密ではありません。この問題について公の場ではほとんど議論しておらず、ごく一般的な話しかしていませんが、秘密というわけではありません。

ウクライナ情勢を解決するためのトランプ大統領の和平案については、アラスカでの会談前から話し合われていました。その事前協議の中で、米国側はわれわれに一定の妥協を求め、彼らの言葉で言えば、『柔軟な姿勢』を示すよう求めました。

アラスカ会談で最も重要だったのは、アンカレッジでの協議を通じて、いくつかの複雑な問題や困難があるにもかかわらず、われわれがそれらの提案に同意し、米国側が求めた柔軟な姿勢を示す用意があることを確認した点です。」

また、ラブロフ外相も今年の夏の初めに、同じ立場を改めて確認している。

「私はアンカレッジでの発言を非常に大切にしています。ウラジーミル・プーチン大統領は次のように述べました。

『アンカレッジに関連して、われわれは米国側がまとめた妥協案を受け入れるよう求められました。われわれはそれを検討し、すぐにではありませんでしたが、アンカレッジに到着した際に、同意すると伝えました。』

また大統領は、『本日、つまり2025年8月15日に成立した合意が、ウクライナ問題を解決するための出発点となり、さらに広い意味ではロシアと米国の関係を前進させる出発点となることを期待している』とも述べました。」

ここでクレムリンとロシア外務省の公式ウェブサイトに掲載されているこれらの事実をあらかじめ紹介しておくのは、この記事をめぐって、誰かが私に対する個人攻撃をしてくる可能性がかなり高いと思っているからだ。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月12日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/would-russia-really-cease-to-exist?utm_campaign=post&utm_medium=web

ロシア高官が言及した「日本がロシアにもたらす脅威」の高まり

アンドリュー・コリブコ

ロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官が、日本の安全保障政策に対する警戒感を強めている。米国の短・中距離ミサイルシステム「タイフォン」の日本への一時配備や、ウクライナとのドローン技術協力が進めば、千島列島やサハリン、太平洋艦隊司令部のあるウラジオストクが脅威にさらされる可能性があるとの見方だ。こうした動きは、ロシアと中国、北朝鮮の軍事・安全保障協力を加速させる可能性もある。一方で、日露関係改善の余地も残されている。日本をめぐる北東アジアの新たな安全保障構図と、その行方を左右する米国の思惑について、アンドリュー・コリブコが解析する。

※   ※   ※   ※

日本が米国の短・中距離ミサイルシステム「タイフォン」を一時的に配備していることに加え、ウクライナの最新鋭ドローン技術に関心を示していることは、千島列島(クリル諸島)、ウラジオストクにあるロシア太平洋艦隊司令部、そしてエネルギー資源が豊富なサハリンにとって、大きな脅威になり得る。

アジア太平洋地域を担当するロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官は7月下旬、タス通信のインタビューに応じ、日本がロシアに与える脅威が高まっているとの認識を示した。

プーチン大統領の側近であるニコライ・パトルシェフは昨年末、「日本はアジアにおける米国の政策を推進するうえで、これまで以上に大きな役割を担うようになる」との見方を示していた。また6月上旬には、「日本とフィリピンは中国を封じ込めるうえで、より大きな役割を担うことになる」との分析も示されている。その役割には、米国のミサイルを国内に配備することも含まれる。

こうした動きに関連してルデンコ氏は、米国との演習の際、日本が短・中距離ミサイルシステム「タイフォン」を一時的に配備したことを非難した。こうした配備はすでに2度目だとして、

「これに対して、われわれが対抗措置を取らないということは決してない」と警告した。

さらに、「われわれは、アジア太平洋地域の平和維持をめぐり、中国との連携を強化している」とも述べた。

ただし、ここではロシアと北朝鮮の緊密な軍事関係については触れられていない。両国は相互防衛を定めた条約も新たに結んでいる。

ルデンコ氏はさらに、「日本のドローンメーカーと、ウクライナの戦闘用ドローン開発企業との協力がどのように進展しているか、われわれは注視している」と語った。

この発言の1週間足らず前には、ジャパン・タイムズが、日本がウクライナのドローン生産能力の拡大に投資する可能性があると報じている。その見返りとして、日本がウクライナの最新ドローン技術を利用できるようになる可能性があるという。

こうした能力は、おそらく主として中国や北朝鮮を念頭に置いたものだろう。しかし、ロシアにとっても深刻な脅威になる可能性がある。

というのも、日本は第二次世界大戦後にロシアが実効支配している島々について、ロシアが「南クリル諸島」と呼ぶ一方、日本は「北方領土」と呼び、ロシアによる領有を認めていない。この領土問題は、日露両国が平和条約を締結できていない大きな理由となっている。

さらに、日本海を挟んだ対岸には、ロシア太平洋艦隊の司令部が置かれているウラジオストクがある。

したがって、日本がウクライナからドローン技術を獲得すれば、千島列島、ウラジオストク、そして豊富なエネルギー資源を持つサハリンが、その攻撃可能範囲に入る可能性がある。

記事の見方では、日本が将来、米国のタイフォン・ミサイルシステムを交代制で受け入れるようになり、さらにウクライナから取得したドローン技術を本格的に導入すれば、日本はロシアを取り囲む「防疫線(cordon sanitaire)」の北東アジア方面を担うことができる。

【黒薮注】防疫線:本来は衛生学上の用語で、ここでは軍や警察など公権力が出入りを制限する線を意味する。

筆者は、この「防疫線」を第2次トランプ政権が過去1年間にロシア周辺に構築してきたものだと捉えている。

これに対してロシアは当然、中国や北朝鮮との軍事・安全保障面での二国間関係をさらに強化する必要があると考えるだろう。地域の脅威が大幅に高まれば、ロシア・中国・北朝鮮の3か国による安全保障協力の枠組みを模索するところまで進む可能性もある。

一方でルデンコ氏は、日露関係を修復するためには、まず日本側が行動を起こすべきだというロシアの立場も改めて示した。

日本にとっても、そうする理由はあるかもしれない。前述のようなロシア・中国・北朝鮮の軍事協力強化が現実になれば、日本自身の安全保障にとっても、日本がロシアにもたらそうとしているのと同程度の脅威になり得るからだ。

この記事が6月にも指摘していたように、ウクライナ紛争が政治的な形で終結し、それに伴って対ロシア制裁が段階的に解除されることになれば、天然資源が豊富なロシア極東への投資機会が、日本や「Quad(クアッド)」諸国に開かれる可能性がある。それが日本にとって、ロシアとの関係改善を進める経済的な動機になるかもしれない。

【黒薮注】Quad(クアッド):日本、アメリカ、オーストラリア、インドで構成

ただし、日本の外交政策は米国の方針から強い影響を受けているため、米国の了承なしに日露関係が現実的に改善する可能性は低い、と筆者はみている。

そのため最終的な問題は、米国がどちらの道を選ぶのか、という点に行き着く。

米国は、日本に北東アジアで積極的にロシアを封じ込める役割を担わせるのか。その場合、ロシア・中国・北朝鮮の軍事・安全保障協力がさらに強化されるという代償を伴う可能性がある。

それとも、そのような事態を未然に防ぐため、日露関係の改善を促すのか。

米国がどちらを選択するにせよ、その影響は今後数十年にわたって続くことになるだろう。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月15日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/a-top-russian-diplomat-touched-upon

ウクライナがロシア全土の上空でスターリンクやスターシールドの使用を許可される可能性はどの程度あるだろうか?

アンドリュー・コリブコ

ウクライナ戦争の勝敗を握るキーパーソンの一人は、疑いなくイーロン・マスクである。スターリンク(Starlink)とは、マスクが率いる SpaceX社が展開している衛星インターネット通信サービスのことで、スターシールド(Starshield)はStarlinkの軍事情報機関向けバージョンである。ドローン攻撃に不可欠だ。ゼレンスキー は、スターリンクをロシア領内への攻撃にも利用したいと考える一方、マスクは認めない。こうした状況に打開策はあるのか?アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)が解析する。

※   ※   ※   ※

マスクがこの案に難色を示すとしても、それは理解できる。プーチンを刺激し、自衛のためのエスカレーションを招き、その結果として第三次世界大戦の危険を高めたくないと考える可能性があるからだ。ただし、トランプも同じように慎重なのかは、まだ分からない。ポーランドのトゥスク首相の発言によれば、今後100日ほどで状況はかなり明らかになる可能性が高い。

『アトランティック』は先週後半、「ゼレンスキーがトランプに、イーロン・マスクに関する頼み事をした」と題する詳しい記事を掲載した。(【黒薮注】『アトランティック』(The Atlantic)は、米国の総合雑誌)

副題は「ウクライナは、ロシア国内の弾道ミサイル発射装置を攻撃するために、マスクのスターリンクを使い始めたいと考えている」というものだった。報道によれば、ゼレンスキーは先週のホワイトハウスでの会談で、この提案をトランプに伝えたという。入手数が限られているパトリオット迎撃ミサイルを受け取る代わりに、ウクライナに対するロシアの「組織的な攻撃」の発生源そのものを攻撃する案として提示したとされる。

同誌の情報源によると、マスクはこの提案について話し合うためのゼレンスキーからの面会要請を断った。一方、トランプは、マスクにこの案を受け入れるよう圧力をかけるかどうかについて、明確な態度を示さなかった。『アトランティック』はさらに、「ゼレンスキーは、マスクがロシアへの攻撃にスターリンクを使用することを認めない場合、国防総省が同じ目的のためにウクライナへスターシールド・ネットワークへのアクセスを提供できると提案した」と報じている。スターシールドはスターリンクの姉妹システムだが、「より高価で、より複雑であり、[ウクライナの]システムへの統合もより難しい」とされている。

同誌が取材したウクライナ側の情報源の一人は、トランプがゼレンスキーの「プランB」に同意することに懐疑的だった。(【黒薮注】「プランB」は代案の意味)

その人物は次のように述べている。「ウクライナが自国領内でこれを行うことと、ロシア領内で米国の技術を使い、ロシアの防空システムや弾道ミサイル発射装置を破壊することは別の話だ。これは非友好的な行為だ。ロシアがそれにどう反応するのか、私には分からない」。これはもっともな指摘だ。現在、西側諸国がウクライナを通じて進めていると筆者がみるロシアの産業力と軍事力の低下は、非常に大きな危険を伴うからだ。

トランプが最近、「エスカレートすることで緊張を緩和する」という方針を選んだ後、米国がロシアに対して進めていると筆者がみる「消耗戦」は、新たな段階に入っている。これは第二次世界大戦後の歴史でも前例のないものだ。この動きによってロシアの産業力や軍事力が一部でも大きく低下した場合、プーチンが最終的に耐えられなくなり、この作戦によってロシアが立ち行かなくなる前に抑止力を回復するための第一歩として、たとえ象徴的なものであってもNATOに対する行動を承認する可能性がある。その後、状況が簡単に制御不能になる可能性もある。

そのような展開を引き起こすきっかけになり得るのが、ゼレンスキーの提案どおり、ウクライナがロシア全土でスターリンク、またはその姉妹システムであるスターシールドを利用することだ。このような措置によって、戦略的インフラや軍事目標に対するウクライナのドローン攻撃の成功率が大幅に高まる可能性があるためだ。『アトランティック』は、マスクが紛争のエスカレーションにつながるような役割を担うことに消極的だったと指摘している。そのため、マスクはゼレンスキーの提案を拒否する可能性がある。そうなれば、トランプがマスクの判断を事実上覆し、ウクライナによるスターシールドの使用を認めるのかという問題が出てくる。

トランプがこれを避ける可能性がある理由は、エスカレーションを抑えるためだけではない。政治的な理由も考えられる。具体的には、マスクとの関係を悪化させ、11月の中間選挙を前に、あるいは時期によってはその後から2028年の次の選挙までの間に、X上で有力なMAGA系インフルエンサーの投稿が広まりにくくなる事態を避けたいと考える可能性がある。ポーランドのドナルド・トゥスク首相は先週、「今後100日がこの戦争の結果を決める可能性があり、確率は五分五分だ」と述べ、トランプ、マスク、そして「ほかの何人か」が重要な役割を果たすとしている。

この発言は、トゥスクがゼレンスキーの計画を把握しており、マスクがウクライナによるロシア全土でのスターリンク使用を認めるか、あるいはマスクが拒否した場合にトランプがその判断を覆し、代わりにスターシールドの使用を認めれば、ロシアの降伏につながると考えている可能性を示している。

マスクがこの案に難色を示すとしても、それは理解できる。プーチンを刺激し、自衛のためのエスカレーションを招き、その結果として第三次世界大戦の危険を高めたくないと考える可能性があるからだ。ただし、トランプも同じように慎重なのかは、まだ分からない。今後100日ほどで、その点を含めて状況はかなり明らかになる可能性が高い。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月4日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/what-are-the-odds-that-ukraine-is?utm_campaign=post&utm_medium=web&triedRedirect=true

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ドイツが計画する8,000億ユーロ規模の再軍備を進める要因とは何か

アンドリュー・コリブコ

日本で急速に進む軍事大国化の流れは、ウクライナをめぐる紛争を媒体として、ヨーロッパでも起きている。次のアナリシスは、かつての日本の同盟国ドイツの動きに焦点を当てたものである。

イデオロギー上の動機、経済的利益、そして個人的な利害が、支配層であるリベラル系の支配層による重大な決定の背景にある。この決定によって、ドイツはロシアによって、アメリカに代わる最大の脅威と見なされる存在になるとされている。

英紙フィナンシャル・タイムズは7月初め、「ドイツ、歴史的な方針転換として再軍備のため8,000億ユーロを借り入れへ」と報じた(【黒薮注】8,000億ユーロは、約144兆円)。その背景には、アメリカが進める「NATO 3.0」という構想がある。この構想では、NATO加盟国であるヨーロッパ諸国に自国の安全保障についてより大きな責任を負わせようとしている。

実際には、EUが西ユーラシアにおけるロシア封じ込めの中心的な役割を担うことを意味している。これは、トランプ第2次政権が過去1年間でロシアの周囲に築いた新たな「緩衝地帯(コルドン・サニテール)」構想に沿ったものであり、この地域ではドイツが主導的な役割を果たす計画となっている。

現在ドイツは、ウクライナと協力して、中・東欧地域(CEE)の主導権をめぐりポーランドと競争している。仮にポーランドが独自の「勢力圏」を築くことに成功したとしても、ドイツが計画する8,000億ユーロ規模の再軍備によって、ドイツが依然として大きな影響力を持つことに変わりはない。

すでにEUは「ロシアがEUに対して感じている以上の脅威を感じている」とされている。一方、今後ロシアは、「アメリカよりも、ドイツの方がより大きな脅威と感じるようになる可能性がある」とも指摘されている。

ロシア前大統領で現在は安全保障会議副議長を務めるドミトリー・メドベージェフは5月初め、ドイツの再軍備が1941年を想起させる脅威になると警告した。また、ロシアの著名な専門家ドミトリー・トレーニンは最近、ロシアとの戦争の危険をあおっているのは、もはやアメリカではなくEUだと主張している。

EUの事実上の指導国がドイツである以上、現在モスクワが2030年前後に起こり得ると見ているNATOとロシアの軍事的衝突への流れを作るうえで、ドイツが最も大きな責任を負っていることになる、というのがこの記事の見方である。

この動きを進める主な要因は、イデオロギーと経済の二つだとされる。

イデオロギーの面では、支配層であるリベラル・エリート層は、新冷戦を「民主主義と独裁主義の対立」と捉えている。一方、経済面では、比較的慎重な政治家たちに対して、軍需産業がこの分野への大規模な投資によってドイツの産業空洞化を防ぐと説得しているという。

しかし実際には、産業空洞化を招いている主な原因は、高いエネルギーコストと中国との競争だとしている。

それにもかかわらず、支配層であるリベラル・エリート層は、中・東欧地域、そして「NATO 3.0」のヨーロッパ側全体で主導権を握るため、ポーランドと競争する方針をすでに決めている。

ただし、その代償として国内の社会・経済の安定が損なわれていることは明らかだとされる。実際、イギリスのメディアも最近、「ドイツは静かに崩壊しつつある」と報じている。

ロシアは、核兵器を保有するアメリカがNATO第5条の義務を本当に果たすかどうかを試そうとは全く考えていないにもかかわらず、現在のドイツ政府は国民の生活を改善することよりも、ロシアの封じ込めを優先している、というのがこの記事の結論である。

※【黒薮注】NATO第5条:「加盟国の一国が武力攻撃を受けた場合、それを加盟国全体への攻撃とみなし、各国が支援する」という集団防衛の規定。北大西洋条約の第5条に定められている。

支配層であるリベラル・エリート層が前述のイデオロギーを重視している背景には、その一部が、それこそが低迷する自国経済を立て直す鍵だと思い込まされていることがあるという。また、このような地政学的な役割を担うことで得られると考えている名声も、その姿勢に影響している可能性がある。

この役割を果たすことで、ヨーロッパ各国のエリートから評価されること、さらに、自分たちが憧れの対象としているアメリカのエリートから公に認められることは、彼らにとって個人的にも重要な意味を持っている、とこの記事は述べている。

ロシアの立場から見ると、ドイツは西ユーラシアにおいて最も深刻な安全保障上の脅威へと急速に変わりつつあり、この流れが変わると政策担当者は考えるべきではない、としている。

一方で、NATO第5条があるため、ロシアによる先制攻撃は現実的ではない。また、現在のドイツ政府の政策によって一般のドイツ国民がロシアの核攻撃の対象になっていると訴えたとしても、それによって状況が変わることはないとしている。

それでも、ドイツ主導のEUがロシアを攻撃するような事態になれば、ロシアは核兵器による報復を行うことに疑いの余地はない、というのがこの記事の結論である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月22日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/whats-driving-germanys-planned-800?utm_campaign=post&utm_medium=web&triedRedirect=true

ブダノフ氏、民族的に純粋な国家を目指すウクライナ民族主義者の幻想を打ち砕く

アンドリュー・コリブコ

皮肉なことに、彼らが実際に築き上げたのは「ファシストの理想郷」ではなく、リベラルな暗黒社会だった。

「ウクライナ民族主義者組織(OUN)」と、その武装部門である「ウクライナ蜂起軍(UPA)」は、民族的に純粋な国家を目指してポーランド人などを大量虐殺した組織であり、「マイダン」後のウクライナの建国の父と位置づけられている。

【黒薮注】マイダン:本来はキエフの独立広場を指すが、現在では一般に2013~2014年にウクライナで起きた大規模な反政府運動を意味する。

そのため、ウクライナの民族主義者たちは、2014年から続くロシアとの戦い、とりわけ2022年の特別軍事作戦開始後の戦いによって、この目標に近づけると考えていた。キエフ政権がロシア語、ロシア文化の一部、そしてウクライナ正教会を禁止したことも、彼らに希望を抱かせた。

しかし、その幻想は、ゼレンスキーの大統領府長官キリル・ブダノフによって打ち砕かれた。ブダノフは6月下旬、春にも述べていた、人口減少を補うために移民をさらに受け入れる必要があるという主張を改めて示した。彼は「今では私たちの人口は大幅に減っている。誰かを怖がらせたいわけではないが、本当に大幅に減っている」と述べた。

それより約6週間前の5月初め、社会政策相デニス・ウリューチンは、現在ウクライナ国内に暮らしている人は2,200万~2,500万人にすぎないと明らかにしていた。そのうち少なくとも1,000万人は年金受給者だと、ウクライナ年金基金が4月初めに推計している。

さらに懸念されるのは、ユニセフが昨年、18歳未満の子どもは660万人いると推計していたことだ。これらを合わせると、国内に残っている生産年齢の成人はわずか600万~900万人ということになる。

世界銀行が公表している2024年の最新データでは、人口に占める男性の割合は46%と推計されている。単純に計算すれば、ウクライナの生産年齢男性は約276万~414万人しかいないことになる。そのうち、正確な割合は不明だが、現在の戦闘によって死亡したり、恒久的な障害を負ったりした人も少なくない。

戦略国際問題研究所が2026年初めに示した、ウクライナ側の死傷者数は50万~60万人という推計を受け入れるなら、これはおそらく実際より低い数字だとしても、ウクライナに残る生産年齢の男性は最大でも約200万人強~350万人にすぎないことになる。

したがって、ブダノフが「今では私たちの人口は大幅に減っている」と述べたのは、決して誇張ではない。EU域内にいる430万人のウクライナ人のうち、成人男性は26%にすぎず、人数にすると100万人を少し上回る程度である。しかも、戦闘が終わった後も、その全員が帰国するわけではない。

そのためウクライナは、経済を支えるため、あるいは人口を補うために、文化的背景の異なる外国人の大量移住を進めざるを得なくなる。西ヨーロッパの例を見るかぎり、彼らが現地社会に同化することは期待できない。

さらに、移民の多くはウクライナ語を話せず、英語にも堪能とはかぎらないため、ウクライナ政府が彼らの言語を現実的に禁止することはできない。なお、2024年に成立した法律は、国家官僚機構全体で英語の使用を義務づけており、この動きも民族主義者たちを困惑させたに違いない。

民族主義者たちは、戦闘が終われば民族的に純粋な国家が実現すると夢見ていた。しかし実際には、ウクライナは西ヨーロッパでも特に多文化化が進んだ国々と同じような社会へ向かっている。

さらに、多様な住民同士の共通語として、日常生活では英語がウクライナ語に取って代わる可能性も高い。民族主義者の立場から見て同じように問題だったのは、ゼレンスキーが2022年5月の世界経済フォーラムで、西側の協力国に対し、「ウクライナの特定の地域、都市、自治体、または産業を支援・管理する役割」を提案したことである。

その結果、ウクライナは、民族主義者たちが自らの「犠牲」によって守れると考えていた国家のアイデンティティーと主権の両方を、この戦闘を通じて失うことになった。

そのため、民族主義者と国家の間で対立が生じる可能性は高い。ただし、これは十分に予想できる展開であるため、ウクライナ保安庁はすでに彼らを監視し、反対運動が表面化するのを事前に防ごうとしている可能性がある。特に、暴力的な形に発展する動きは警戒されているだろう。

皮肉なことに、ウクライナの民族主義者たちは、最終的に「ファシストの理想郷」ではなく、リベラルな暗黒社会を築くことになった。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月15日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/budanov-crushed-ukrainian-nationalists

ニューヨークタイムズが「日本におけるロシア人のスパイ活動」を報じた真の狙いは

アンドリュー・コリブコ

ニューヨーク・タイムズが報じた「日本におけるロシアのスパイ活動」を扱う記事は、日本国内でロシアに対する警戒感を過度に高め、対ロシア強硬政策を正当化することが目的である。筆者は、その結果として、日本が情報機関の強化や軍備増強を進め、それに対抗してロシア・中国・北朝鮮の軍事協力が一層強化される可能性を指摘する。以下の論評から西側メディアが果たす負の役割も垣間見える。

その狙いは、日本社会と政府の双方に反ロシア的なスパイ・ヒステリー(スパイをめぐる過熱した危機感)を煽り、より強硬な対ロシア政策を正当化させることにある。その結果、トランプ2.0が日本を取り囲むように構築した新たな「緩衝地帯」の一翼を担い、この島国が北東アジアにおけるロシア封じ込めにおいて、より積極的な役割を果たすことになるのだ。

『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』は週末、「プーチンはいかにして日本をスパイの巣窟に変えたのか(How Putin Turned Japan Into a Den of Spies)https://www.nytimes.com/2026/07/12/world/asia/russia-spies-japan-war-drones-electronics.html?eafs_enabled=false【日本語訳】chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2026/07/4deb84ffe99b57f5d6ae7f270cf7d654.pdf
という記事を掲載した。この扇情的な見出しは、ロシアが日本社会に深く浸透しているかのような印象を与える。しかし実際の記事の内容は、ロシア軍情報機関の一部門が日本から軍民両用(デュアルユース)の部品を調達したとされる手法について述べたものに過ぎない。記事によれば、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)第20局は、アエロフロート航空の日本支社とその公式提携先を利用し、ベトナムを経由した積み替えによってこれらの調達を行ったとされている。

NYTの記事の狙いは明白である。第一に、日本社会と政府の双方にロシア恐怖に基づくスパイ・ヒステリーを引き起こし、それによって日本による対ロシア政策の一層の強硬化を正当化することである。その最も直接的な形としては、象徴的な措置ではあるが、ロシア外交官の追放が考えられる。また、アエロフロート航空に対する制裁が日本だけでなく、東京が(共通の後ろ盾である米国からの水面下の働きかけを受けつつ)他の地域諸国にも同調を促すことで、周辺諸国へと広がる可能性もある。

仮にそうした展開にならなかったとしても、NYTは「当局者らはスパイ活動の脅威を認識しており、何十年も続いてきた情報収集上の制約を取り除こうとしている」と報じている。また、「日本には外国情報機関すら存在しない」とも指摘している。記事全体の文脈からすれば、たとえ米国が戦後に課した憲法のために法的(de jure)には実現しなくても、事実上(de facto)はこれを口実として外国情報機関が創設される可能性を示唆している。この記事によって引き起こされるかもしれないロシア恐怖のスパイ・ヒステリーこそ、その実現に一役買うかもしれない。

実際、NYTは「外国政府は、日本の技術がロシアへ密輸されていると繰り返し日本政府に警告してきた」と述べており、その中にはウクライナ政府や、匿名の西側当局者も含まれている。日本は何らかの理由でこれまで行動を起こさなかったが、今回を契機にようやく動き出す可能性がある。より大きな文脈で見れば、日本は従来から、モスクワが実効支配する南クリル諸島(日本が「北方領土」と呼ぶ地域)の帰属問題が未解決であるとの認識から、ロシアを潜在的な脅威と見なしてきた。しかし、その認識は今後さらに強まる可能性がある。

だからといって、日本が近くロシアに対して軍事的威嚇を始めるという意味ではない。むしろ、社会と政府に広がる可能性のあるロシア恐怖のスパイ・ヒステリーによってロシアへの脅威認識が一層強まり、その影響が今後さまざまな形で現れる可能性があるということだ。その中には、「緩衝地帯(cordon sanitaire)」構想における役割も含まれる。米国が組織するこの地政学的戦略において、日本には北東アジアでロシア・北朝鮮・中国の三国に同時に圧力をかける役割が期待されており、一方で他の米国の同盟国もロシアやその他の周辺地域で同様の役割を果たすことになる。

実際には、日本は米国の承認の下で軍備増強をどれほど急速に進めるか、さらに米国の最新兵器(特に中距離ミサイル、長距離ミサイル、無人機)をどれだけ受け入れるかによっては、三カ国すべてに対する「沈まない米国の空母」となり得る。第二次世界大戦当時の同盟国であったドイツと同様、日本の再軍備はロシアの国家安全保障に深刻な脅威をもたらし、その結果、限られた兵力や装備をこの戦線へ再配置せざるを得なくなる可能性がある。

米国がこの地域で構築を目指しているNATO型の安全保障ネットワークは、「AUKUS+」と呼ぶことができ、その主な標的は中国であり、北朝鮮にも一定の焦点が当てられている。しかし、日本におけるロシアのスパイ活動を扱ったNYTの記事の狙いを踏まえれば、米国が日本のロシアに対する脅威認識をさらに強め、ロシア封じ込めにおいて日本がより大きな役割を担うことを期待しているのは明らかである。その結果として、ロシアと中国、そして北朝鮮との軍事協力はさらに強化され、事実上の地域同盟が形成される可能性も排除できない。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月17日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/the-motives-behind-the-nyts-story?