◆はじめに

この一年を回顧する時期がやって来た。ウクライナ戦争が二年目を迎え、パレスチナ紛争は本格的な「内戦」、シオニズムとパレスチナとの戦争状態(ジェノサイド)に入った。この一年を顧みながら、われわれがどのような世界を生き、どのような時代にいるのかを確認しておきたい。

ウクライナ戦争は6月からウクライナが反転攻勢に出たことで、長期化は必至となった。ベトナム戦争が反仏独立闘争からアメリカの本格介入、そして1975年のサイゴン解放まで30年、ソ連のアフガニスタン侵攻が終結するまで10年、アメリカのアフガン介入が20年、そしてパレスチナ紛争が75年という長いタームを持っていることを考えるとき、ウクライナ戦争は数年、数十年単位の長期化が予想される。いや、すでにドンバス戦争・ロシアのクリミア併合から10年が経っているのだ。

さて、ウクライナの反転攻勢という事態のなかで、われわれが注目してきたのはブリゴジンのワグネルだった。ワグネルという名称は、ヒトラーが好きだったリヒャルト・ワーグナーに由来するという。

勇者たちは地獄に堕ちるのか? ロシアの民間軍事企業「ワグネル」創設者プリゴジンはプーチンに粛清されるかもしれない(2023年5月27日)

今年の5月段階で、ブリゴジンは国防相と参謀総長を激しく批判した。この兆候がロシア軍の崩壊の序曲ではないかと、ナチスドイツのヒトラーとエルンスト・レームの関係になぞらえたのが、この記事である。反乱は起きるであろう。国防軍とナチス突撃隊の関係と同様に、ロシア軍とワグネルは、どちらかが生き残り相手をせん滅するしかない、矛盾した存在だったのである。

そして独裁者は、たとい友情をつちかった盟友であっても、ナンバー2になろうとする者をゆるさない。ましてや国軍を批判する民間軍事組織は、叛乱のファクターとして排除するであろうと、記事で指摘してきた。

あにはからんや、われわれの予測は的中した。ブリゴジンが反乱を起こしたのである。

スターリン流の粛清劇がはじまる プリゴジンの反乱 ── 熾烈な権力闘争の行方(2023年6月28日)

クレムリンで何が起きているのか? 飛び交うプリゴジン死亡説とプーチン逮捕の可能性(2023年7月21日)

◆プリゴジンの反乱 粛清か、政治危機の深化か。熾烈な権力闘争

われわれがブリゴジンとワグネルに注目してきたのは、かれらがロシアの伝統的な人海戦術を体現していたからだ。すなわち、スターリン時代のロシア陸軍(ソ連軍)は、戦車のハッチをハンダ付けすることで乗員の脱出を禁じ、徹底的に戦うことを強要したのである。今回の戦争で、ワグネルはウクライナ兵の位置を知るために丸腰で最前線の標的にされたという(懲役囚捕虜の証言)。

そしてその証言にみられるように、旧ソ連軍が懲役囚を最前線に送り込んだのと同じ動員構造、労働編成であることがわかる。

この構造が崩壊したときに、おそらくロシア軍は組織的に崩壊するであろう。日本でもガダルカナル島の飛行場建設には、この動員構造が用いられた。その後、陸軍組織そのものが崩壊したのだった。

さて、ブリゴジンとワグネルは、われわれが予測したとおり反乱を起こした。

ワグネルの宿営地がロシア正規軍のミサイル攻撃を受け、プリゴジンは報復としてロシアのヘリコプターを撃墜して13名を殺害した。そしてプリゴジンは軍幹部の粛清をもとめて、モスクワ進軍を開始したのだった。

その過程で、ブリゴジンは地域の政治集会を開催し、政治的支持を取り付けることを怠っていない。単なる軍事的反乱ではなく、政治的反乱すなわちクーデターの企てだった。

記事から引用しよう。

このワグネルの「行進」がムッソリーニのローマ進軍(国王エマニエーレ3世による総理指名)、ヒトラーのミュンヘン一揆(失敗・投獄)に倣い、政変をめざしたのは明らかだったが、プーチンに「裏切り」と断じられ、検察当局が捜査を開始した段階で、部下に撤退を命じた。クーデターは未遂におわり、プリゴジンはベラルーシに「亡命」したと伝えられている。

この「亡命」劇は、ただちに粛清に乗り出せないプーチンが、盟友ルカシェンコ(ベラルーシ大統領)と相談の上、収拾策に出たものだ。プーチンの政治力の低下を指摘する声は多い(西側首脳)が、軍事衝突を回避した手腕は独裁者の冷徹を感じさせる。プーチンは政治危機を脱したのだ。

しかし、上記の記事でも明らかにしておいたとおり、独裁者はけっして反乱をゆるさない。血の粛正がいつ、いかなる形で行われるのかが焦点となった。そして、その時がやってきた。

《緊急報》プーチンがプリゴジンを爆殺 やはり独裁者は裏切りを赦さなかった(2023年8月25日)

もはやわれわれは、事実関係を報じた記事において、事件の本質を知ることになる。

モスクワの北西部にあるトベリ州で23日、ビジネスジェットが墜落した。

このビジネスジェットは、ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジンの所有で、タス通信はロシア連邦航空局の情報として、乗客名簿にプリゴジン氏の名前があったと伝えた。

また緊急事態省によると、ジェット機には乗員3人を含む10人が搭乗していたが、全員が死亡したとみられる。連邦航空局の発表は事件の一時間後であり、事前に知っていたかクレムリンからの情報と考えられる。通常、連邦航空局は事件を実地調査しないかぎり、発表しないからだ。

独立系メディアによると、ジェット機はモスクワ郊外から飛行していた。高度8500メートルを飛行中、突然墜落したという。ということは、間違いなくミサイル攻撃である。

このミサイル攻撃という過酷な粛正劇は、政治ドラマの一幕を観ているような気分だった。ヒトラーの「長い夜」を称賛したスターリン。そのスターリンを称賛するプーチンにおいて、現代のナチス政治、ヒトラーの政治手法が再現されたのである。世界史を目撃するとは、こういうことなのだろう。(つづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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