能登地震から一年……。福島の事故からずっと 「おめでとう」が言えない正月が続いている 尾﨑美代子

能登半島地震から1月1日で1年、多くの報道番組が輪島や珠洲市から中継を行った。とくに珠洲市は過去に原発の建設を住民らが反対して中止に追い込んだ町。ここに原発があったならば、どうなっていたのだろう。

◆珠洲市制50周年記念冊子にも記されていない「珠洲原発」という「黒歴史」

私はその珠洲市を去年、5月に訪れた。石川県では、井戸弁護士が裁判長時代に運転差し止めの判決を下した志賀原発については知っていたが、正直、珠洲原発は名前を知っている程度だった。何度もいうが、もし珠洲原発があったならば、福島の原発事故以上の大惨事になっていただろう。

そんな思いから、珠洲原発建設を止めさせた闘いを知りたくて、地元で長く原発反対運動に関わってきた北野進さんを訪ねたのだった。北野さんのお話で驚いたのは、29年間原発建設反対運動で地元住民が二分され、結果、珠洲原発は建設凍結(解凍する術がないから実質中止)に追い込まれたにも拘わらず、建設を進める行政側が全く反省しようとしていなかったことだった。それは北野進さん著書「珠洲原発・阻止への歩み」の「はじめに」に書かれている以下の内容だ。

珠洲市の寺家と高谷に建設が予定されていた珠洲原発は、2003年12月5日、関西電力、中部電力、北陸電力の3社が市長に計画の凍結を伝えたことで幕を閉じた。計画の浮上から29年、それ以前の水面下の動きを含めると35年以上の長い闘いだった。
実はその翌年2004年、珠洲市は市制50周年を迎えた。そこで50周年を記念して「珠洲市勢要覧2004」という冊子が発行されたが、そのなかで珠洲原発についての記載が一切なかったというのだ。珠洲市にとって珠洲原発問題は、俗にいう「黒歴史」だったのだろうか。北野氏はこれに対して「長年にわたる原発誘致一辺倒の行政も許しがたいが、これは(歴史からの抹消)は市民に対する二重の意味での重大な背信行為である」と書いている。

◆失敗を反省しない日本

珠洲市だけではない。日本はいたるところで反省することがない。

鹿砦社の反原発誌「季節」の最新号で特集したが、日本の原発立地自治体で作る避難計画は、どこでも「絵に描いた餅」状態だ。何度地震おきても、いつまでたっても寒い体育館で段ボール敷いての避難生活を余儀なくされている。食料が足りない、水がでない。何よりトイレが足りない。トイレを我慢するために水分を採らず体調を悪くさせる。関連死が増える…何度も同じことを繰り返す。

イタリアでは、1980年、2700人以上が犠牲になったイリピニア地震の反省から災害対策を担う国の機関「市民保護局」が設立された。それにより「ベッド、トイレ、キッチン」が地震発災から24時間以内に設営される。日常的にプロをも含めたボランティアが訓練を受けている。2700人が犠牲になった地震を反省するイタリアに比べ、何万人が犠牲になろうが、何も反省していない日本という国。

同じ昨年7月に花蓮で大きな地震がおきた台湾も、過去の地震の反省から地震対策を充実させている。地震発災から1時間で市や自治体がグループを立ち上げ、情報収集を開始、2時間後にはテントが設置され、3時間後には被災者を受け入れ、4時間後には設備が整うという。「どの避難所でも安全、衛生的、プライバシー、食事の確保が出来ており、生活に困らないレベルが確保されている」という。

しかも、倒壊の危険性が高いと判断された建物は、3ケ月後には解体・撤去作業が終了し、現地で工事関係者の姿をみることはなくなるという。それに比べ、能登半島はどうだ? 昨日見た番組では、解体が進まず、そのままの建物が見えた。もう、1年だぞ。

台湾は地震対策だけではない。再審法もどんどん変えている。ある事件で無実の人を逮捕してしまったことがきっかけだ。その人を実況見分に連れていった際、その人が飛び降り自殺してしまった。その後、真犯人が逮捕された。無実の人を死に追いやったことを猛反省し、台湾ではその後再審法がどんどん変えられていった。

話を戻すと、日本はすべてが遅れているのは、失敗を反省しないからだ。しかもそれを謝罪することもない。言い訳ばかりだ。奥能登の復興が遅れているのは、奥能登は交通の便が悪く、建設機材や重機、そして作業員を送るのも大変だ……と。それこそ、重機と人材は夢洲から奥能登へもってけ!私は万博、カジノには断固反対だが、賛成の人も賛成の議員も、万博は1年延期で、重機と人材はすべて能登の復興へ回せくらい言えないのか?

福島の事故からずっとこっち、「おめでとう」が言えない正月が続いている。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年冬号

12月14日(土)金沢市で能登半島地震から1年の節目として「今こそさよなら!志賀原発 市民集会」を原告団など6団体で開催します! 北野 進

能登半島地震から1年の節目として「今こそさよなら!志賀原発 市民集会」を原告団など6団体で開催します。

日時 12月14日(土)13:30~ 
会場 金沢市ものづくり会館

志賀原発は13年間停止中でかろうじて最悪の事態を免れましたが、いまでも外部電源は2回線ダウンです。それでも北電は安全確保に全く問題はなかったと開き直り、再稼働に向かって突き進んでいます。

石川県は地震災害だけでも対応できなかったのに、あろうことか「震度7に原発事故が重なっても無事避難できます」という原子力防災訓練を11月24日に実施しました。

全国を見れば女川2号に続き島根2号も12月に再稼働されようとしていますが、能登半島地震を教訓に再稼働阻止を!という声は確実に広がっています。

北電や県に対して怒りの声をあげ、全国のたたかいと連帯し、さらに来年に向かって「まだまだやれることあるぞ」という意見交流の場にもしたいと思います。
多くの皆さまの参加をお待ちしています。

 

▼北野 進(きたの・すすむ)
1959年生まれ。石川県議を三期、珠洲市議を二期務め、現在は「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団の団長を務める。

12月11日発売 〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年冬号 

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年冬号(NO NUKES voice 改題 通巻41号)
紙の爆弾 2025年1月号増刊
A5判 132ページ(巻頭カラー4ページ+本文128ページ) 
定価770円(税込み) 2024年12月11日発売

[グラビア]輪島市門前町深見地区。5.2メートルもの隆起が確認できた(2024年9月8日 写真提供=北野進)

[グラビア]能登半島震災一年 隆起に沈む人と国(北野進)/復興進まず“棄民”の地(北村敏泰

樋口英明(元福井地裁裁判長)
[報告]2025年の脱原発 非力ではあるが、無力ではない

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
[報告]核融合発電はできないし、やってもいけない
[講演]伊方原発を止める裁判闘争の歴史的・社会的意義

後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
[報告]福島第一原発事故炉 危機の真実 ペデスタル破損と溶融デブリの下で事故収束は可能か

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
[報告]第七次エネルギー基本計画の何が問題か

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《特集》避難対策は全国どこでも「絵に描いた餅」
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北野 進(「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団長)
[講演]能登半島地震が実証した避難計画の破綻

石地 優(福井県若桜町・有機農業)
[報告]能登半島地震で何が起きていたのか 原発事故になれば避難はできません

阿部功志(茨城県東海村議会議員)
[報告]問題だらけの東海村避難計画 どうすれば「避難弱者」を救えるか

菅野みずえ(福島県浪江町・原発事故避難者)
[報告]福島の避難所で起きていた性被害 避難計画には女性の意見を!

森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
[報告]原発賠償関西訴訟・法廷で語られる真実 本人尋問が伝える「被害」と「避難」の実相
 
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北村敏泰(ジャーナリスト)
[報告]脅かされる被災住民のいのちと生活 能登半島地震でも国や行政の“棄民”政策

和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
[講演]福島イノベーションコースト構想の真実〈後編〉「日本のハンフォード」になる福島

柳原敏夫(弁護士)
[報告]いま法律が危ない

平宮康広(元技術者)
[報告]水冷コンビナートの提案〈2〉

漆原牧久(脱被ばく実現ネットボランティア)
[報告]考えないようにすることで精神の安定を保っています  
3・11子ども甲状腺がん裁判第11回口頭弁論期日報告

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
[報告]国家がせり出してくる時代 ── 希望は何処にあるか

板坂 剛(作家/舞踊家)
[報告]三島由紀夫生誕100年 死後54年に想う!

佐藤雅彦(翻訳家/ジャーナリスト)
[報告]原子力は地域社会に「核分裂」をもたらす

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
[報告]山田悦子の語る世界〈25〉 絶望の時代《今》を生きる意味(上)

大今 歩(高校講師/農業)
[報告]「人為的CO2温暖化説」を止めない限り、原発は止まらない

再稼働阻止全国ネットワーク
核ゴミの行き場はない! 福島は終わっていない! 
沸騰水型原発の再稼動反対! 東電に原発動かす資格なし!

全国各地からの生の報告(全10本)
《青森》山田清彦(核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団)
 六ヶ所再処理工場とむつ中間貯蔵施設の実態
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
 再稼働反対11・2集会宣言(抗議声明)案(抜粋)
《福島》木幡ますみ(大熊町議)
 大熊町民の本音
《柏崎刈羽原発》桑原三恵(規制庁・規制委員会を監視する新潟の会)
 ”安全”ではありえない柏崎刈羽原発の再稼動
《日本原電》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
 原発を動かす資格のない原電は廃炉作業に専念するよう求めます
《高浜原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「9・23高浜全国集会」の報告と「12・8関電包囲大集会」の案内
《敦賀原発》山本雅彦(原発住民運動福井・嶺南センター事務局長)
 日本原電敦賀原発2号機の廃炉を要求する
《中国電力》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
 活断層に囲まれた島根原発2号機の再稼働は中止すべきだ!
《四国電力》名出真一(伊方から原発をなくす会)
 伊方原発3号機の即時廃炉を!!
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
 大地震の脅威を無視し原子力災害対策指針改訂でお茶を濁す原子力規制委員会

[反原発川柳]乱鬼龍

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!