横浜副流煙事件の「反訴」で、被告A妻(3人の被告のひとり)の本人尋問が行なわれる公算が強くなった。しかし、A家の山田弁護士は、A妻の体調不良を理由として出廷できない旨を主張している。最終的に尋問が実現するかどうかは不透明で、3月11日に原告と被告の間で裁判の進行協議が行われる。

副流煙の発生源と決めつけられた音楽室と、「被害者」宅の距離を示す現場写真

裁判では、作田医師が被告3人のために作成した診断書が争点になっている。これら3通の診断書は患者が自己申告した病状に重きを置いて、化学物質過敏症、あるいは「受動喫煙症」の病名が付された。それを根拠として、約4500万円を請求する前訴が提起されたのである。従って診断書が間違っていれば、提訴の根拠もなかったことになる。

つまり診断書の作成プロセスが問題になっているのだ。言葉を返ると、患者の希望に応じて作成した診断書に効力はあるかという問題である。

この「反訴」の発端は、2017年の秋にさかのぼる。

横浜市青葉区のすすき野団地に住むミュージシャン藤井将登さんは、自室で煙草を吸っていたところ、副流煙が原因で、化学物質過敏所に罹患したとして、上階の斜め上に住むAさん一家(A夫、A妻、A娘)から、約4500万円の損害賠償請求を受けた。しかし、将登さんが喫煙していた部屋は、防音構造が施されている音楽室で、煙は外部にもれない。しかも、喫煙量は1日に2、3本程度だった。さらに将登さんは留守がちだった。A家が主張する副流煙の発生源に十分な根拠がなかった。

それにもかかわらず原告(「反訴裁判の被告」)は、将登さんの煙草が原因で、化学物質過敏症になったと主張し、高額な金銭を請求したのだ。

裁判所はA家の訴えを棄却した。控訴審でも、A家の訴えは一切認められなかった。

将登さんは勝訴の確定を受けて、2022年3月にA家が起こした裁判はスラップに該当するとして、損害賠償裁判を起こした。これが現在進行している「反訴」である。この裁判の原告には、将登さんの他に、妻の敦子さんも加わった。さらに3人の診断書を交付した作田医師については、被告に加えた。

裁判は順調に進み、証人調べの人選の段階に入った。藤井さん側は、A夫の尋問を求めたが、A夫の山田弁護士は体調不良を理由に出廷はできないと主張した。しかし、藤井敦子さんは、A夫が戸外を歩いている場面をビデオに撮影して、山田弁護士の主張が事実に基づかない旨を主張した。

しかし、平田裁判官は山田弁護士の意見を重視して、A夫の尋問は行わない決定を下した。

これに怒った将登さん側は、平田裁判官に対する忌避を申し立てた。忌避の審理には、上級裁判所での審理も含めて、約1年を要した。結局、忌避そのものは認められなかったが、平田裁判官はA夫の尋問を決めた。

山田弁護士は、やはりA夫の尋問は難しい旨を説明した。医師の診断書も提出した。そこで藤井さんの側は、代案としてA妻の尋問を求めたのである。平田裁判長は、判断に迷ったようだが、最終的にそれを認めた。

こうしてA妻の尋問が実現する公算が高くなったが、山田弁護士はA妻の体調不良を理由に、出廷できないと主張している。既に述べたように、裁判の進行協議は3月11日に行われる。

作田学医師が交付したA妻の診断書。根拠なく副流煙の発生源を特定している

※このところ一部の市民団体が化学物質過敏症の患者数を誇張して報じている。化学物質が人体に有害な影響を及ぼすことは、紛れもない科学的な事実で、規制も必要だが、実際の患者数については慎重に検討しなければならない。誇張があってはならない。横浜副流煙事件のような「冤罪」を生む可能性があるからだ。

たとえば市民団体代表の加藤やすこ氏は、「あたらしい年は香害のないきれいな空気で過ごしたい」(『週刊金曜日』2月9日)の中で、化学物質による被害の実態について次のように述べている。

香害に関する情報発信などを行うフェイスブック「香害をなくそう」は、2022年に移香で困っていることについてWEBアンケートを実施した。

回答者600人のうち、「家の中に入る人や、近隣からの移香や残留で、家の中が汚染される」は、90.9%で、「外出先の空間や人から移香して汚染される」は90.0%……

有病率を明記しているわけではないが、香による被害を殊更に強調している。数値に客観性があるのか否かを慎重に検討しなければならない。

この件については、別稿を準備している。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

黒薮哲哉『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』(鹿砦社)

9月に筆者が出演した番組を2本紹介しよう。いずれも須田慎一郎氏がキャスターを務める「別冊! ニューソク通信」の番組である。ここで取り上げた2件の事件に初めて接する人にも理解できるように編成されている。

 

森奈津子編『人権と利権 「多様性」と排他性』

◆週刊金曜日と鹿砦社の決別をめぐる事件

7月初旬に週刊金曜日と鹿砦社が決別しておよそ3カ月になる。週刊金曜日に掲載された森奈津子編著『人権と利権』(鹿砦社)の書籍広告に対して、週刊金曜日が差別本のレッテルを張り、今後、鹿砦社の広告を拒否することを告知したことが決別の原因だった。

しかし、この決定の背景にある事情を調査したところ、週刊金曜日に対して、鹿砦社の書籍広告を掲載しないように求める声が、SNSなどで炎上していたことが明らかになった。SNS上の暴言・苦言が週刊金曜日の植村隆社長にプレッシャーを与え、一方的に鹿砦社に決別を宣言したのである。

これら一連の経過は、デジタル鹿砦社通信やメディア黒書が報じてきた。また『紙の爆弾』(10月号)は、筆者が執筆した「『週刊金曜日』書籍広告排除事件にみる『左派』言論の落日」と題する記事を掲載した。さらにインターネット放送局である「別冊! ニューソク通信」が取り上げた。

「別冊! ニューソク通信」の須田慎一郎氏はこの問題に着目した。と、いうのもコラボ問題についての須田氏と森奈津子氏の対談が『人権と利権』に収録されているからだ。その本が「差別本」と烙印されたのだから、ある意味では須田氏も当事者である。


◎[参考動画]左翼は結局、権力に屈した!?…その権力の持ち主とは!? 野党の崩壊につながる!?(2023/09/13)

◆横浜副流煙事件の反訴

「別冊! ニューソク通信」が制作したもうひとつの番組は、横浜副流煙事件の反訴の進捗を紹介したものである。須田氏の他にわたしと、当事者である藤井敦子氏が出演している。

この事件の最初の裁判は、2017年11月に提起された。煙草の煙で「受動喫煙症」などに罹患したとして、A家の3人(夫・妻・娘)がミュージシャンの藤井将登氏を訴えた。この提訴の根拠となったのが、日本禁煙学会の作田学理事長が作成したA家の診断書だった。しかし、そのうちの1通が虚偽診断書であることが裁判の中で判明する。

裁判は、藤井氏の勝訴だった。その後、藤井夫妻は、作田医師を虚偽診断書作成の疑惑で刑事告発した。事件は受理され、作田医師は書類送検された。その後も藤井夫妻は反撃の手をゆるめずに、作田医師を訴権の濫用で提訴した。「戦後処理」としての反訴である。

この裁判の尋問の中で、作田医師は藤井敦子氏が「喫煙者である」と暴言を吐いた。さらに敦子氏の支援者に対しても根拠のない事実を摘示した。これに対して敦子氏と支援者の男性は、作田医師に対して名誉毀損裁判を起こした。男性は刑事告訴も行い受理された。その結果、作田医師は次の係争を抱えることになった。

1,前訴に対する損害賠償(訴権の濫用)裁判
2,損害賠償(名誉毀損)裁判
3,刑事告訴(名誉毀損)


◎[参考動画]【横浜副流煙裁判】まだまだ続きがあった!! 日本禁煙学会・作田学理事長のトンデモ発言連発!!タバコがダメなら〇〇で…誰もが被告になってしまう可能性が!?(2023/09/16)

◆「市民運動=善」という幻想

ここで紹介した2件の事件を通じて、筆者は読者に市民運動のあり方について考えてほしい。市民運動を敵視するわけではない。むしろ市民が結束して、社会運動を展開することは大事だと考えている。しかし、市民運動体の中には反社会的な勢力が紛れ込んでいることがあるのも事実だ。となれば、「市民運動=善」というスタンスは間違っている。

たとえばしばき隊が2014年に大阪市の北新地で起こした事件は、重罪である。重傷者が出ているわけだから、隠蔽するのではなく検証しなければならない。ところが実際は、多くの識者たちが隠蔽の方向で結束したのである。野党の一部もそれに加担した。

また、コラボ問題では、住民監査請求が通った事実があるわけだから、当然、ジャーナリズムはコラボの経理を検証しなければならない。仲間意識で曖昧にできる問題ではない。

ジャーナリズムは、市民運動の質を見極める必要がある。
 
▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

黒薮哲哉のタブーなき最新刊!『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』

映画『[窓]MADO 』が、ロンドン独立映画賞(London Independent Film Award)の最優秀外国映画賞を受賞した。作品は、11月18日から東京渋谷のユーロスペースで2週間に渡って再上映される。

麻王監督は、フェイスブックで、「元々、化学物質過敏症というテーマから、制作開始時点でこの映画はヨーロッパ圏の方にも刺さるんじゃないかと考えていたので、この連絡を頂けて嬉しいです」と、コメントを発表した。

映画『[窓]MADO 』

この映画は、デジタル鹿砦社通信でもたびたび取り上げてきた横浜副流煙事件に材を取ったフィクションである。実在する事件と作品との間には、若干の隔たりがあるが、化学物質過敏症をめぐる問題の複雑さをテーマにしているという点では共通している。

事件の発端は、2016年にさかのぼる。横浜市青葉区のマンモス団地で、煙草の副流煙をめぐる隣人トラブルが発生した。

ミュージシャンの藤井将登さんは、同じマンションの上層階に住むA家(夫、妻、娘)の3人から、「あなたの煙草の煙が原因で体調を崩したので禁煙してほしい」と、苦情を言われた。

将登さんは喫煙者だった。1日に2、3本の外国製の煙草を自宅の音楽室で嗜む。しかし、音楽室には防音構造がほどこされ、密封状態になっているので、副流煙が外部へ漏れることはない。

とはいえ、自分に加害者の疑惑がかけられたことに衝撃を受けた。そこで暫くのあいだ禁煙してみた。ところがA家の3人は、なおも同じ苦情を言い続けた。煙草の煙が自宅に入ってくるというのだ。疑いは、煙草を吸わない奥さんと娘さんにも向けられた。将登さんは、A家の苦情にこれ以上は対処しない方針を決めた。副流煙の発生源は自分ではないと確信したからだ。

ところがその後もA家からの苦情は続き、警察まで繰り出す事態となった。2017年になって将登さんは、A家の3人から4518万円の損害賠償を求める裁判を起こされた。裁判が始まると日本禁煙学会の作田学理事長が全面的にA家の支援に乗り出してきた。提訴の根拠になったのも、実は作田医師が交付した「受動喫煙症」の病名を付した診断書だった。

裁判が進むにつれて、恐ろしい事実が浮上してくる。作田医師が作成したA家3人の診断書のうち、娘のものが虚偽診断書であることが分かったのだ。作田医師は、A娘を診察していなかった。診察せずに診断書を交付していたのだ。これは医師法20条違反に該当する。こうした経緯もあり、裁判は将登さんの全面勝訴で終わった。A家の主張は、何ひとつ認められなかったのだ。

麻王監督が映画化したのはこの段階までである。実際、事件を取材してきたわたしも横浜副流煙裁判は、将登さんの勝訴で終わったと思った。拙著『禁煙ファシズム』(鹿砦社)で、わたしが記録したのもこのステージまでだ。

映画『[窓]MADO 』

◆横浜副流煙事件のその後

将登さんの勝訴で裁判が終わった後のことを若干補足しておこう。既に述べたように作田医師がA娘に交付した診断書は虚偽診断書だった。そこで将登さんと妻の敦子さんが中心になって、作田医師を地元の神奈川県警青葉警察署に刑事告発した。青葉警察署は事件を捜査して、作田医師を書類送検した。

しかし横浜地検は、作田医師を不起訴とした。これに対して藤井夫妻らは、検察審査会に審査を申し立てた。検察審査会は、「不起訴不当」の議決を下したが、時効の壁に阻まれて作田医師は起訴を免れた。公式には不起訴処分となった。

その後、藤井夫妻はA家の3人と作田医師に対して、根拠に乏しい不当な裁判を提起されたとして約1000万円の損害賠償を求める裁判を起こした。俗に言う反スラップ裁判である。この裁判の本人尋問の中で、作田医師が藤井敦子さんを指して、喫煙者だと事実摘示する場面もあった。この件についは敦子さんが、別の裁判が起こす公算が強くなっている。

◆ラジカルな市民運動

憎悪が憎悪を誘発するこれら一連の事件の背景には、喫煙者の撲滅といういささか過激な旗をかかげた市民運動の存在がある。「悪魔」に等しい喫煙者を探し出して徹底的に糾弾する方針である。その際に司法制度も利用する。

煙草の煙が人体に有害であることは紛れもない事実であるが、1階の密封された空間で吸った2、3本の煙草が、はたして上階の住民の健康を蝕み、その被害が4518万円にも値するかといえば別問題である。科学的な検討が必要だ。この事件を通して科学を軽視したラジカルな市民運動の実態が浮上する。

日本禁煙学会の作田医師は、「喫煙者の撲滅」という政策目的を先行させてしまい、隣人トラブルに油を注いだのである。映画「Mado」は、日常生活の中に潜む恐怖をみごとにあぶりだしている。日本中の団地で起こり得る事件なのである。


◎《予告編》映画 [窓]MADO

◎映画 [窓]MADO 公式サイト https://mado-movie.jp/

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

黒薮哲哉のタブーなき最新刊!『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』

私、藤井敦子は鹿砦社から黒薮哲哉氏が出版された『禁煙ファシズム』で取り上げられた当事者です。詳細は『禁煙ファシズム』をお読みいただきたいのですが、要約すれば、近隣住民から「藤井家の喫煙により受動喫煙の被害を受けた」として、4500万円を超える損害賠償請求訴訟を起こされました。それだけではなく、「たばこを吸っているのではないか」という理由だけで、神奈川県警の刑事らが複数回自宅に「捜査」にやってきました。自宅の中で喫煙をしているから、との理由で、刑事さんが「捜査」にやってくるのは普段の生活感覚からは、不思議で、恐怖でもありました。

近隣住民に訴えられた民事訴訟は、被告である私の完全勝利を勝ち得ました。でも、はたしてこのように、不確実あるいは事実と異なる根拠もない事由で巨額の民事訴訟が提起されてもいいものなのか、との疑念はぬぐえません。被告として裁判に関わった間、私や家族はとてつもない精神的な負荷を強制されました。

そこで、被告として訴えられた裁判では勝訴したものの、スラップ訴訟や、禁煙運動の行き過ぎた実態の問題を痛感したため、私が原告になり、私を訴えた近隣住民と嘘の診断書を書いた日本禁煙学会理事長・作田学医師を相手に「訴権の濫用」ではないか、を争う民事訴訟を提起し、現在、横浜地方裁判所で係争中です。

毎日新聞は、6月16日付けで、「『ベランダ喫煙』でトラブル」と題する宮城裕也記者の署名記事を掲載しました。(ネット版のタイトルは、「レベル3の急性受動喫煙症」

俗に言う「受動喫煙症」が引き起こす隣人トラブルについて書いたものですが、客観的な事実関係に数々の誤りがある上に、禁煙ファシズムを助長させかねない内容なので、毎日新聞社宛てに次の書簡を送付しました。以下、その全文です。

宮城裕也記者による記事「『ベランダ喫煙』でトラブル」の一部(2023年6月16日付毎日新聞)

毎日新聞社さま

初めまして。藤井敦子と申します。

2023年6月16日に掲載された御社所属・宮城裕也記者が書いた【「ベランダ喫煙」でトラブル】という記事に対して意見があります。この記事の中で宮城裕也記者は下記のように述べています。

・日本禁煙学会は受動喫煙による健康被害について6段階の基準を設けている。女性は病院で、レベル3にあたる「急性受動喫煙症」と診断された。

・1年ほどたつと、女性の部屋に再び臭気が漂うように。22年末、女性は症状が悪化し「慢性受動喫煙症(藤井注:レベル4のこと)」となった。10代の長女も急性受動喫煙症(藤井注:レベル3)と診断された。

まず、【受動喫煙症】という病名は国際基準であるICD10に割り当てられていません。よって厚労省にも認められていません。日本禁煙学会が独自の基準を設けているだけですが、それをあたかも公式に認められている病気であるかのように記事で流布されたことは大変問題があります。

2019年(令和元年)11月28日横浜地裁は、日本禁煙学会が自身の設ける「受動喫煙症診断基準」において、患者の自己申告だけで客観的根拠に乏しい診断書を安易に作成して構わないとしているのは、法的手段の布石とするための「政策目的」だと断罪されています。

2020年(令和2年)10月29日東京高裁での判決でも共に、受動喫煙症診断書および化学物質過敏症診断書は、患者が言っていることに基づいて書かれているだけで何ら客観的根拠に乏しいと判示されています。

この裁判では日本禁煙学会および化学物質過敏症関係の医師や専門家が計20通を超える診断書と意見書を出しましたが、その全てが、患者の言ったことを鵜呑みにしている限り何の客観的証拠にはならないと当然の判決を下されています。

その裁判とは、私の夫を被告とする裁判です。私の夫である藤井将登は一日わずか数本(機械式煙草に換算して1.5本)のタバコを自室である気密構造の防音室で吸っていただけにもかかわらず隣人家族3名から4500万円で訴えられ、3年の間法廷に立たされました。

提訴の根拠となったのが、日本禁煙学会理事長・作田学氏が書いた3枚の診断書です。そこには受動喫煙症や化学物質過敏症という言葉がまことしやかに踊り、夫が犯人として記載されています。夫がほとんどタバコを吸わないのに、どうやって隣人が重篤な病になり得るのでしょうか。その理由は簡単です。受動喫煙症診断基準では「患者の話だけで診断書を書いてよい」と定められているからです。

私の隣人は、それぞれ自分に都合のよい診断書を作田医師に書いてもらいました。
1通目は原告家族の父親に対して「受動喫煙症レベル3」という診断書が書かれました。父親は自らに25年の喫煙歴があることを隠していました。海外では「25年タバコを吸っていれば、その影響が消えるのに25年かかる」というのが定説なのですが、日本禁煙学会は過去の喫煙を不問にします。

また喫煙歴を告げるか告げないかはあくまでも任意となっており、医師側が積極的に聞き出そうとすることもありません。そうして、ちゃっかり自らも「受動喫煙症レベル3」の診断書を得て、我が家を4500万円で提訴したのです。

また、2通目の母親に書いた診断書では、作田氏は「1階のミュージシャンが『四六時中』喫煙している」と書きました。もちろんこれは事実ではないのですが、私はつい先日まで、作田医師が母親(患者)の言うことをそのまま書いたのだと思っていました。ところが違ったのです。

今年2月9日に行われた裁判での本人尋問で、作田医師は「そういうものだから一般論として」書いたと述べました。一般論から犯人にされてはたまりません。事実作田氏が夫を犯人として下した診断内容は、警察や管理組合へ提出され、我が家は苦難の道をたどることになるのです(後日、裁判勝訴後、警察と管理組合からは謝罪を得ています)。このように診断書の持つ影響は大きく、だからこそ客観的に証明できるはずもないことを診断書に記載してはならないのです。

3通目の娘に書いた診断書は想像を絶する酷さです。娘に対し、作田氏は「受動喫煙症レベル4、化学物質過敏症」の診断書を作成しましたが、実際には作田医師は診察をしていないのです。その会ったこともない患者(娘)に対し、母親の話と他人の書いた診断書からだけで、作田氏は診断書を作成したのです。

このことで作田医師は横浜地裁から医師法20条違反の認定を受けました。そしてその事実を私は作田氏が勤務する日本赤十字医療センターに伝えました。その中で私は作田医師に対する適正な処分をお願いし、日赤院長本間之夫氏からは、「調査を行った上で対応を検討する」との回答があり、その3ヶ月後、作田氏は除籍となりました。

では、宮城裕也氏の記事にも出てくる「受動喫煙症レベル4」とはどのようなものでしょうか。

受動喫煙症にはレベルは0~5まであるのですが、最も重篤なレベル5は作田氏の説明によると【致死レベル】です。作田氏は、原告の娘を致死レベル一歩手前であるレベル4だと判断したにもかかわらず、入院を勧めることもなく、「相手(喫煙者)に自分が書いた診断書見せて禁煙してもらおうと考えた」と証言台で述べています。事実も確かめぬまま、声高に受動喫煙被害なるものを一方的に叫ぶ人間の話ばかりを聞き、喫煙をやめさせるために診断書を使うことは診断書への信頼失墜に繋がります。

このたび、御社は多少調べればわかるものを調べようともせず日本禁煙学会のプロパガンダにのっかり、受動喫煙症があたかも国に認められた病であるかのような発信を行いました。大手新聞社として極めて軽率です。

ちなみに、以前、赤旗新聞が作田氏や日本禁煙学会を記事で扱った際に、私が同様の投げかけを行いました。そのときに赤旗の記者は判決文をきちんと読み、「謝罪も含めて根本的な反省・議論をして対応策をとらない限り、今後日本禁煙学会を記事には出さない」と回答しました。情報を発信する側の姿勢として正しいと思います。 

つきましては、御社に問いたい。毎日新聞は自社の発した誤情報について撤回もしくは問題を明らかにし、新たな正しい情報を発信するつもりはあるか。

以上につき、6月末までに下記メールかお電話でお返事いただけたらと思います(宮城氏にはすでにツイッターで意見を送っていますが、報道を流したのは毎日新聞社ですので、社としての見解を聞きたいです)。

事件や受動喫煙症診断書のあり方について詳しく知りたいということであれば、お話しすることも可能です。お返事のない場合には「何ら問題がないと考えている」ということで理解いたします。

以上、よろしくお願い申し上げます。

2023年(令和5年)6月17日
藤井敦子
神奈川県横浜市青葉区
メール a_atchan@yahoo.co.jp

 
[追伸1]尚、このような受動喫煙における動きは香害でも広がっており、香りのついた洗剤や柔軟剤を使用する隣人に内容証明を送りつけて強制的に使用をやめさせようとする動きが、日本禁煙学会役員・岡本光樹弁護士(元都議会議員)により進められています。私は、たとえ製品の中に含まれる化学物質に問題があったとしても、違法でなくマナーを守って使用している隣人に対して、強制的に内容証明や診断書・訴状等を送ってやめさせようとする強権的手法には断じて反対です。

[追伸2]我が家が巻き込まれた裁判は通称・横浜副流煙裁判と呼ばれ、インターネットを検索すれば沢山出てくると思います。ジャーナリスト黒薮哲哉氏が全面取材を行っており、これまで日刊ゲンダイ、週刊新潮、紙の爆弾(鹿砦社)、須田慎一郎氏が報道するYouTube番組「ニュー速通信」などで報道されています。また、映画化され「窓」という表題で、西村まさ彦さんが主演(原告側)を演じ、MEGUMIさんが被告側を演じています。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭に選ばれ、今年6月30日に上映されます。


◎[参考動画]『[窓] MADO』公式HP

▼藤井敦子(ふじい あつこ)
 Twitter https://twitter.com/DuvallyMonika
 note https://note.com/atsukofujii/

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

横浜副流煙裁判(反訴)で新しい動きがあった。原告である藤井敦子さんの支援者の男性が、2月9日に行われた尋問の中で被告の作田学・日本禁煙学会理事長が行った発言について、名誉毀損に当たるとして発言の撤回と謝罪を求める内容の内容証明郵便を6月12日に送付した。男性は、藤井さんと同じ地域に住み、藤井さんを熱心に支援してきた酒井久男さんである。

藤井さんの支援者、酒井久男さんが作田学・日本禁煙学会理事長に対して6月12日付に送付した内容証明郵便の一部

既報してきたように横浜副流煙裁判は、煙草の副流煙により健康被害を受けたとして、藤井さんの隣人のAさん一家が藤井さんの夫に対して4518万円の損害賠償を求めた裁判である。1審、2審とも藤井さんの勝訴だった。勝訴を受けて、藤井さん夫妻は、作田医師を刑事告発した。A家のために虚偽の診断書を作成したというのがその理由である。作田医師は、横浜地検へ書類送検されたが、紆余曲折を経た後、不起訴となった。

さらに藤井さん夫妻は、作田医師とA家の3人に対して、約1000万円の損害賠償を求める「反スラップ訴訟」を起こした。この「反スラップ訴訟」で行われた作田医師に対する尋問の中で、作田医師は酒井さんに対する問題発言を行った。

前訴が進行中の2019年の夏、酒井さんと藤井さんは、日本赤十字医療センター(渋谷区広尾)にある作田医師の外来を訪れた。酒井さんは、繊維に対するアレルギー体質があった。そこで藤井さんを伴って作田医師の外来を受診し、診察の様子を確認する計画を立てた。藤井さんは高額訴訟の被害者であるから、作田医師の医療行為の実態を観察したいと考えるのは当然だった。

2人が実行した計画はどこからか、作田医師の耳にも入ったようだ。裁判の尋問の中で、作田医師は弁護士からの質問に答えるかたちで、酒井さんが受診後に治療費もしくは診察費用を払わずに帰宅したと証言した。しかし、これは事実ではなかった。酒井さんが治療費もしくは診察費用を支払ったことは、病院の記録にも残っている。その後、作田医師は日本赤十字医療センターを除籍となったが、医療や経理の記録自体は保存されている。

酒井さんが送付した内容証明の全文は次の通りである。

向夏の候、作田様におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます。さて、去る令和5年2月9日、横浜地裁にて行われた貴殿を被告とする裁判にて証人尋間が行われました。その際に貴殿が証言台で行った発言の中で、私に対してのただならぬ名誉棄損発言がありました。それは、「当日、当然、会計にも行っていないと思います。」というものです。

支払いをせずに診察を受けるというのは 「犯罪」行為であり、貴殿はまさしく公開された法廷に居合わせたたくさんの傍聴者の面前で、私を犯罪者と呼んだことになります。これは私の名誉を棄損した虚偽の発言です。上記発言につき謝罪および発言の撤回を求めますので、令和5年6月30日迄にご回答いただきますようご通知申し上げます。

酒井さんは、名誉毀損で作田医師を提訴することも視野に入れている。

◆片山律弁護士の病的な憶測

この日の尋問では、片山律弁護士がわたしや藤井さんに対しても不穏当な発言を繰り返した。藤井さんに質問するかたちで、たとえばカンパで集めた資金がわたしに提供されているのではないかとか、藤井さんがJT(日本たばこ産業株式会社)から支援を受けているのではないかといった趣旨の発言である。

このうちカンパとは、麻王監督が制作した横浜副流煙事件をテーマとした映画『窓』の制作資金を集めるために実施されたクラウドファンディングのことである。わたしは1円も受け取っていないし、制作にもかかわっていない。

また藤井さんとJTは何のかかわりもない。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

黒薮哲哉のタブーなき最新刊!『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』

横浜副流煙事件が、原告による忌避(きひ)申立で中断している。忌避申立とは、裁判官が公平中立に裁判を進行させない場合、裁判官の交代を求める法手続きである。

既報してきたように横浜副流煙事件は、煙草の副流煙による健康被害をめぐり、同じマンションに住む住民同士が、横浜地裁を舞台に繰り広げている事件である。発端は2017年11月。Aさん一家(夫、妻、娘)は、下階に住む藤井将登さんに対して、副流煙で健康被害を受けたとして4518万円の支払いを求める裁判を起こした。警察もこの住民トラブルに介入した。

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

しかし、横浜地裁はAさん一家の訴えを棄却した。Aさん一家の体調不良の原因が、将登さんの煙草の煙に因果するという証拠がないのが棄却理由である。Aさんは東京高裁に控訴したが、高裁も訴えを棄却した。

将登さんと妻の藤井敦子さんは、勝訴が確定した後、Aさん一家と裁判に積極的に関与した日本禁煙学会の作田学理事長に対して、不当な裁判提起により経済的・精神的な苦痛を受けたとして、約1000万円の支払を求める裁判を起こした。俗に言う反スラップ訴訟で、現在、横浜地裁で審理が続いている。

ちなみに将登さんが煙草を吸っていた場所は、自宅の音楽室である。ベランダで煙草を吸っていたわけではない。音楽室は防音のために二重窓になっており、煙は外部へはもれない。しかも、1日の喫煙量は、2、3本程度である。

◆尋問に耐えうる客観的な証拠

この裁判を担当しているのは、平田晃史裁判官である。裁判は順調に進み、2023年2月には、作田医師と藤井敦子さんに対する尋問が行われた。当初、平田裁判官は、A夫も尋問の対象にする予定だった。ところがA夫の代理人である山田義雄弁護士が、A夫の体調不良を理由に尋問の免除を申し出た。

これに対して平田裁判官は、A夫の出廷が困難であることを立証する診断書を提出するように命じた。しかし、山田弁護士は診断書を提出しなかった。その理由を、「車椅子で生活している」とか、「家の中で這うように生活している」などと説明した。医療機関を受診できる状態ではないという。山田弁護士が提出したのは障害者手帳だった。平田裁判官は、事情を理解してA夫を尋問の対象から外した。

そこで藤井敦子さんは、山田弁護士の説明の信ぴょう性を確かめるために、「張込み」を行った。自家用車の中に身を潜めて、A夫を待った。そしてビデオカメラにA夫が歩いている場面を撮影したのである。

古川弁護しは、敦子さんが撮影した動画を平田裁判官に提出して、A夫の尋問を行うように求めた。しかし、平田裁判長は、尋問を実施しなかった。

忌避申立の理由は、平田裁判長がA夫の尋問を行わないという判断をするにあたり、A夫に対して客観的な証拠の提出をあくまでも求め続けなかったことである。尋問を実施しなかったことではない。

忌避申立の理由は次の通りである。

忌避申立書(本画像をクリックすると全文のPDFにリンクします)

しかし、横浜地裁は5月22日に、忌避申立を棄却した。これを受けて、藤井さんは、異議を申し立てる。裁判は中断して、現時点では再開の目途は立っていない。

◆裁判の公平性の欠落

ちなみに前訴の中で、A夫に約25年の喫煙歴があったことが判明している。それを知っていながら、隣人の副流煙で健康被害を受けたとして、藤井将登さんに対して4518万円を請求したのである。つまりA夫は、能動喫煙で体調を崩した可能性が高いことを知りながら、その責任を将登さんに押し付けたのである。

A夫に対する尋問を免除するのは、著しく公平性に欠ける。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

黒薮哲哉『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』

最近、横浜副流煙裁判(反訴)の原告である藤井敦子さんに対すツイッターによる攻撃が許容範囲を越えている。攻撃してくるのは、喫煙撲滅運動を推進している作田学医師や、化学物質過敏症の権威として知られている宮田幹夫医師の患者らである。

『窓』というタイトルで映画化された横浜副流煙事件

作田医師は、藤井さんが起こした裁判の法廷に立たされ、宮田医師は、4月末でみずからが経営してきたそよ風クリニックを閉鎖する。

後者の原因は、宮田医師の医療行為を批判する記事を書いたわたしにあると考えている人もいるようだ。

ツイッターによる攻撃対象は、副次的にわたしや、わたしの記事を掲載してきた鹿砦社にも及んでいる。さらに作田医師や宮田医師の医療を批判している舩越典子医師も攻撃対象になっている。

攻撃に加わっている人物の中には、元毎日新聞の辣腕ジャーナリストも含まれている。この先生は、なぜかわたしと鹿砦社に絡んでくる。

攻撃者らは、連携プレーのようなかたちで次々と攻撃を仕掛けてくる。ネットウヨやカウンター運動の面々によるSNS攻勢を同じパターンである。

これに対して藤井さんは、裁判の支援者などによる加勢を得て応戦している。後に引かない姿勢だ。

わたしはツイッターによる議論には積極的ではないが、コミュニケーションを図るという観点からすれば、まったく無意味なことだとは考えていない。しかし、議論の前提事実が間違ってしまうと、議論そのものが実のないものになってしまう。

◆わたしが藤井さんに行った支援

藤井さんを攻撃している人々による誤解の最たるものは、横浜副流煙事件をめぐる訴訟など一連の動きを背後で牛耳っているのは、わたし(黒薮)であるという勘違いである。中には、わたしの「鶴の一声」で藤井さんらが動いているとツイートしている高齢者もいた。そこでわたしが横浜副流煙事件にどこまで関与したかを正確に示しておこう。

「黒薮氏の鶴の一声で君達はそう連呼し……」などと述べている

横浜副流煙事件の提訴は、2017年11月である。藤井さんと同じマンションの2階に住むA家が、藤井さんの夫が吸う煙草で病気になったとして約4500万円の損害賠償を求めた裁判である。

わたしがこの事件に関わり始めたのは、その翌年、2018年の秋である。マイニュースジャパンから取材依頼があり、藤井さんが住む団地へ足を運んだり、A家の弁護士に接触するなど、綿密な取材活動を展開して記事を書いた。

その後、藤井さんが弁護士を解任して本人訴訟に切り替えたので、支援に乗り出した。司法ジャーナリズムをインターネットに載せる実験に興味があったからだ。そこでわたしが裁判書面の草案を作成して、藤井さんや支援者らと協議した。書面の校閲は、石岡淑道さんという元法律事務所の職員が行った。リサーチは、藤井さんと支援者が行った。このようなプロセスを経て裁判所へ提出した書面は、わたしがインターネットで公開した。

藤井さんの夫は横浜地裁で勝訴し、東京高裁でも勝訴した。裁判は藤井さんの夫の勝訴で終わった。

◆わたしは「反訴」にはかかわっていない

勝訴判決の確定を受けて藤井さんは2つの対抗措置を取った。ひとつは、前訴にかかわった作田学医師とA家に対する損害賠償である。「反訴」である。これについては、わたしは前訴が進行している時期から、繰り返し実行に移すように勧めていた。非常識な裁判提起に対しては、制裁を課すべきというのが、わたしの強い信念であるからだ。

藤井さんが取ったもうひとつの対抗措置は、作田医師に対する刑事告発である。これについては、わたしは積極的に進めたことはない。告発状が受理されないと思ったからだ。しかし、藤井さんの支援者に告発すべきだとの声が多く、藤井さんは告発に踏み切った。

最初、わたしは告発人のひとりに名を連ねていたが、公式に取り下げた。以後、ほとんど支援していない。

告発に向けて取材を重ね、重要情報を入手したのは藤井さんである。作田医師が在籍していた日本赤十字医療センターを何度も取材して、作田医師が作成した診断書交付のプロセスを解明した。作田医師がA家の娘を診察することなく、公的機関に診療報酬を請求していた事実を突き止めたのも藤井さんである。情報公開制度を利用したのである。

作田医師に対する刑事告発は受理され、警察が調査した後、横浜地検へ書類送検された。しかし、横浜地検は作田医師を不起訴とした。そこで藤井さんは、検察審査会に審査を申し立てた。その際に、理由書の草案を作成したのは、わたしである。これがわたしが藤井さんに対して行った最後の支援である。以後、何もしていない。

藤井さんが作田医師とA家に対して起こした「反訴」については、わたしは単なる取材者であり、裁判の方針には一切かかわっていない。書面を作成しているのは古川健三弁護士である。藤井さんと支援者は、書面を作成するためのリサーチを続けている。

◆理不尽な裁判を起こされて

わたしが横浜副流煙事件に関する藤井さんらの運動に背後にいるという想像は間違いである。

藤井さんは、横浜副流煙事件を通じて成長された。取材する力は、平均的なサラリーマン記者よりもはるかに勝っている。文書も立派に書けるようになった。

藤井さんは、自分の家族に対して4500万円もの請求が行われた結果、生死をかけて戦わざるを得なくなり、結果として著しく高い取材力や文章力を身に付けたのである。人間の知力がどのような外的条件の下で発達するかを示したとも言える。知力というものが、実生活(実践)との結合の中で飛躍的に発達することを示したのである。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

4月25日発売!黒薮哲哉『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』

このところインターネット上で、化学物質過敏症の診断書交付をめぐる問題が炎上している。一部の医師たちが、問診を重視して「化学物質過敏症」の病名を付した診断書を交付することの是非をめぐる議論である。発端は横浜副流煙裁判だ。デジタル鹿砦社通信で報じてきた「禁煙ファシズム」をめぐる一連の報道である。

議論とも罵倒ともつかないツイートの集中砲火を浴びているのは、藤井敦子さんと舩越典子医師である。藤井さんは、横浜副流煙事件の被告の妻で、裁判に勝訴した後、作田医師らに対して約1000万円の損害賠償を請求する「反スラップ」訴訟を起こした。みずからのブログでも裁判の経緯を発信し続けている。

また、舩越医師は、化学物質過敏症の専門医である宮田幹夫医師による診断書交付を告発した経緯がある。この2名が、ネット上の「袋叩き」のターゲットになっている。2人に対するツイートは、もはやわたしとしても傍観できない領域に達している。プライバシーにまで踏み込んで、罵倒を吐き散らしているからだ。

たとえば、次のような調子である。

私、英語の教員免許持ってるけど、YouTubeで聞いた限り、あの人(藤井さんのこと)の発音って、ネイティブ並ではないよね。所詮、日本人英語。人のこと言えないけど。 あの程度で発音を堂々と教えられるなら、私でも教えられそう。(いち)

藤井氏は(注:煙草の被害を訴えている隣人の症状について)心因性のものだと主張していますが、もしA家の人が本当に化学物質過敏症でなく心因性で妄想が入った統合失調症なら命の危険がありませんか?
どちらがいい悪いでなく精神病の人に目をつけられたら全力で逃げた方がいいです。でないと殺傷事件に巻き込まれるかも。(いち)

「いち」なる匿名人物による藤井敦子さんに対する罵倒・中傷ツイートの一例

これらのツイートを読むだけで投稿者の情緒が不安定であることが感じ取れる。発達障害かも知れない。投稿者が青少年であればともかくも、おそらく分別があるはずの成人である。

議論が炎上している背景に、4月末で宮田幹夫医師がそよ風クリニックを閉鎖するに至った事情があるようだ。閉鎖に伴い、患者は従来どおりに診断書交付を受けられなくなる可能性がある。診断書がなければ、障害年金の更新手続きもできない。その怒りが、藤井さんと舩越医師に向かって爆発しているのである。攻撃は終わる気配はない。はからずもわたしは、禁煙ファシズムの実態を目の当たりにすることになった。

過去にもSNS上の炎上現象はある。故三宅雪子氏による炎上、ネットウヨによる炎上、カウンター運動による炎上などである。このうちカウンター運動による炎上には、わたしも巻き込ま荒れ、「差別者(レイシスト)」のリストに入れられた。反共の極右主義者ということになっているらしい。

◆作田医師、「事務の女の子ににおいをかいでもらいました。」

炎上の中心にいるのはたいてい市民運動を展開している人々である。市民運動は、共通した趣味や思考を持つ人々の集合体で、同じ社会運動体と言っても、地域社会に根付いた住民運動とは根本的に性質が異なる。市民運動は、無責任で軽薄で感情的というのがわたしの評価である。社会通念からずれた要素があり、病的なものさえ感じる。

 

日本禁煙学会の作田学理事長(写真出典:日本禁煙学会ウェブサイト)

たとえば、喫煙撲滅運動の先頭に立ってきた日本禁煙学会の作田学理事長は、2月8日に行われた横浜副流煙裁判(反訴)の本人尋問で次のような奇妙な証言をしている。証言そのものが正気とは思えない。証言を引用する前に、若干事情を説明しおこう。

横浜副流煙事件の審理が進んでいたころ、藤井敦子さんは、近隣住民の酒井久男さんの協力を得て、作田医師の外来へ潜入した。酒井さんに繊維に対するアレルギーがあるので、作田医師の診断を受けてもらい、同伴して問診の様子などを「取材」するのが目的だった。被告家族としては、当然の情報収集だった。提訴の前提となった診断書を交付した作田医師の力量を見極める必要があった。

作田医師は、酒井さんが繊維に対するアレルギー体質を訴えたのに、「受動喫煙症」の病名を付した診断書を交付した。

以上の経緯を前提に、法廷での作田医師の証言を引用しよう。

弁護士:あと、サカイさんの診断書というのがちょっと問題になっているんですけど、お分かりになりますか。

作田医師:うさんくさい患者さんでした。

弁護士:記憶は、残っていますか。

作田医師:はい。

弁護士:どういう記憶として残っていますか。

作田医師:患者さん(酒井さんのこと)が退室しまして、書類を整理しているときに、ふわっとたばこのにおいがしたんです。それで、ひょっとして間違いかと思って、外から事務の女の子を呼んで、それで、一生懸命においをかいでもらいました。そしたら、やっぱりこれはたばこのにおいだと。それで、これはいけない、(略)1丁目1番地が間違えた診断書を出しちゃったということで、すぐに戻ってもらうように探してくれと言って、そうしたら、事務の女の子は、一生懸命小走りになって外へ出ていきました。それで、私は、そこにある使用モニターを準備して待っていましたが、いつになっても帰ってこないので、恐らく医事課、あるいは全館コールもしたと思います。しかし、いなかった。それで、これはもううさんくさい人だなあと思いました。

作田医師は、書類の整理をしているときに、煙草の匂いがしたので、「事務の女の子を呼んで、それで、一生懸命においをかいでもら」ったというのだ。たとえ一瞬、煙草の匂いがしたことが事実であっても、自分が感じた匂いを、呼びつけた「事務の女の子」にかいでもらって確認できるはずがない。まして酒井さんが退出して若干の時間が経過しているのである。匂いをかぎ分けることなど、警察犬にしかできないだろう。人間にはそれほど繊細な臭覚がない。

作田医師の証言は、わたしには奇行としか思えない。勝手な思い込みをしているのである。

このように裁判の証言にもツイッターの内容にもわたしはどこか病的なものを感じる。しかし、これが市民運動の実態なのだ。

市民運動が常道を逸している理由は、運動目的が団体や個人の利益獲得に結び付くからだろう。会員を増やすことで、組織の会費収入を増やすとか、診断書交付を容易にするとか利己的な目的があるからだとわたしは思う。

その構図にメスを入れようとすると、舩越医師や藤井さんのように袋叩きにあう。暴力が行使されないのは、まだ不幸中の幸いである。

◆無資格者が生理検査

ちなみにそよ風クリニックにも、市民運動に特徴的な問題がある。それはクリニックと自然食品の会社が親密な関係にあることだ。そよ風クリニックの下階には、自然食品の商店がある。当然、その風クリニックを受診する患者は、この店の格好の客となる。しかも、宮田医師は化学物質過敏症は完治しないという立場を取っているわけだから、自然食品店にとっては、これほど好都合なことはない。

また、そよ風クリニックでは、眼球運動などの生理検査を栄養士が実施している。当然、正確に生理検査が行われているのかという疑問がある。横浜副流煙裁判に提出された宮田医師による患者のカルテを、舩越典子医師は次のように批判する。

「裁判に提出されたカルテによると、眼球運動の検査は、検査器機の不調を理由に目視で行っています。目視での検査結果は信頼性が低いため、器機の修理が終わった段階で検査器機を用いた検査を行うべきであったと考えます。検査器機の不調についてカルテ記載はありませんでした。敢えて目視による検査を採用した疑いも否定できません。そよ風クリニックにおける神経性学的検査は栄養士のAさんが実施しています。彼女は医師でも臨床検査技師でもない、管理栄養士です。無資格者による検査は違法です。違法行為により得られた検査結果を横浜副流煙裁判の証拠として用いる事は言語道断です」

これに対して宮田医師は、書面で次のように反論した。

「この病気の患者さんは体に薬を付けたりすることを極端に嫌がります。眼球運動の測定では通常の方法では薬剤を塗るか、コンタクトレンズを装用するかの方法ですが、単に眼鏡を掛ける様に改造した装置を使用しています。眼鏡屋さんの眼鏡の試着と同じ程度の負荷しか患者に掛からない装置ですので、まったく問題ないと思います。もちろん私の指揮下です。」

◎禁煙ファシズム関連過去記事 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=114

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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

月刊『紙の爆弾』2023年4月号

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◆禁煙ファシズムと複合汚染

田所 違う角度で伺います。タバコについては昨年ニュージーランドで首相が、近い将来18歳以下の人に喫煙をさせないとの法律を作ると報道されました。たしかにタバコは健康への一定の害はあるでしょう。私は現在タバコを吸いませんがかつては喫煙者でした。私が大学生時代は男女含め6~7割の人間はタバコを吸っていた記憶があります。黒薮さんは喫煙歴はないですか。

 

田所敏夫さん

黒薮 20代の初めの頃、合計3年くらい吸っていました。

田所 ですから継続的な喫煙者は減少しているにしても、タバコを吸う習慣は100年、200年ではなく、相当大昔から習慣としてあったですね。嗜好品としては世界的に酒と同様に嗜まれていた。今はタバコが「健康に悪いから止めましょう」と言われていますが、一方、肺がん罹患者の数が減っていません。タバコが直撃する臓器は肺だと言われています。喫煙者が減り副流煙もほとんどないのに肺がんが増えている。これを医学的に説明している証拠はあるのでしょうか。

黒薮 医学的な説明はないけども、一般的に考えればそれだけ化学物質による空気の複合汚染が進んだ結果、肺がんが増えた可能性が高いでしょう。

田所 タバコだけが原因であれば、肺がんの数は減るはずです。けれども喫煙者、受動喫煙も激減しているのに肺がん罹患者が増加するのは化学物質や環境ホルモン、または黒薮さんが追っていらっしゃる「電磁波」などタバコ以外の要因を求めないと合理性が保てない。

 

黒薮哲哉さん

黒薮 ブラジルの大学が携帯電話の基地局でどれぐらいのガンが発生しているか、という統計を取ったことがあります。有名な疫学調査が、発表されたのは2011年です。病気の種類別の統計が出ていましたが、多かったのが肺がんと胃がんでした。化学物資による大気汚染に加え、電磁波などの要素が重なっていると考えられます。空気がおかしくなっているから肺にがんが増えたと言えるかもしれません。複合汚染の結果だと思います。

◆厚労省はなぜ「国民の二人に一人はガンに罹ります」などと予想できるのか?

田所 24時間呼吸をして肺は空気を取り入れているのですから、空気になにが含まれていて、どうして発病するかのメカニズムを明示してもらわないと「タバコが悪い」という単純なものではないでしょう。胃ガンにしても乳ガンも減っていない。ガンの総数が増えていてこれから先は「国民の二人に一人はガンに罹ります」と早くから厚労省が言っていました。どうしてそんな予想ができるのか不思議です。

黒薮 私はタバコを吸わないし、嫌いなんだけどもそれを前提にしても、タバコだけを取り締まってなにかが解決するのではなく、規制するのであれば化学物質による汚染や電磁波による被曝などを総合的に見直さないと、何の解決にもならないでしょう。

田所 サンプルとしては疫学統計が充分とれる肺がん患者の症例数は整っていると思いますから、肺がんが発病する本当のメカニズムを解明して欲しいです。薬はかなり開発されましたが、本当の発病メカニズムが解明されてないことの課題が、この問題と様々な社会問題との共通項です。(つづく)

◎遠慮・忖度一切なし!《本音の対談》黒薮哲哉×田所敏夫
〈01〉「スラップ訴訟」としての横浜副流煙事件裁判
〈02〉横浜副流煙事件裁判のその後 
〈03〉禁煙ファシズムの危険性 ── 喫煙者が減少したことで肺がん罹患者は減ったのか? 
〈04〉問題すり替えに過ぎない“SDGs”の欺瞞
〈05〉「押し紙」は新聞にとって致命的

▼黒薮哲哉(くろやぶ てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

田所敏夫『大暗黒時代の大学 消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY007)

月刊『紙の爆弾』2023年3月号

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0BTHJ72PM/

横浜副流煙裁判の本人尋問が2月9日に横浜地裁で行われた。筆者は、これまで何度も尋問を傍聴したことがあるが、この日の尋問は恐らくブラックユーモアとして記憶に刻まれるだろう。(事件の概要は、後述)

問題の場面は、日本禁煙学会の作田学理事長(医師)が、証人席に付いているときに起きた。作田医師の弁護人は、藤井敦子さんと酒井久男さんによる「作田外来」(日本赤十字センター内)への「潜入取材」を取り上げた。2019年7月のことである。

潜入取材の目的は、藤井さんにとっては情報収集である。4518万円の損害賠償を求められたわけだから、その原因を作った作田医師についての情報を集める必要があった。そこで藤井さんは、作田医師による診断書交付の実態を自分の眼で確認するために、酒井さんに付き添って「作田外来」を訪れたのである。診断書交付の様子を確認する必要があった。新聞社やテレビ局に40年勤務しても出来ない取材を、普通の主婦が自分の判断で簡単にやってのけたのである。

たまたま酒井さんには、衣類の繊維に対するアレルギーがあり、藤井敦子さんの目的とも合致したので、2人で東京都渋谷区の日本赤十字センターへ向かったのである。

この件は、筆者が『禁煙ファシズム』の中で暴露したので、作田氏らはこの本を通じて、入念な情報収集が行われていたことを知った可能性が高い。

 

作田医師の証言に抗議している酒井久男さん

◆作田医師、「ニコチン検査」に応じず

9日の尋問で、藤井さんと酒井さんの行動について作田医師は、次のような趣旨の証言をした……。

胡散臭い人間だと思った。二人が診察室をでたあと煙草の臭いを感じたので、職員に二人の後を追わせた。構内放送もしてもらったが2人は見つからなかった。

傍聴席の酒井さんは、仰天したように目を大きく見開いてあたりを見回した。唇が震えていたが言葉はでなかった。筆者は、酒井さんが喫煙者だと疑われているのだと思った。ところが作田医師が、原告席の藤井さんを指さして、喫煙者とは「あなただ」と断言したのだ。

作田医師の代理人は、藤井さんに対して、藤井さんが喫煙者かどうかを調べる検査(唾液にニコチンが含まれているか否かを調べる検査)を要求した。藤井さんは即座に検査に応じると言ったが、作田医師の側が検査を実施することはなかった。閉廷後に藤井さんが再度検査を求めたが、やはり応じることなく法廷を去った。

後日、酒井さんはSNSで呟いた。

「俺、食い逃げかよ?」

◆被告のA夫は出廷せず、診断書も未提出

被告のA夫は、9日の尋問に出廷しなかった。(A娘とA妻については、もともと尋問の予定がなかった)A夫は尋問の対象になっていたが、前回の弁論準備で代理人が、A夫が体調不良なので出廷できない旨を報告していた。裁判官は出廷が不可能であることを示す診断書を提出するように求めた。

しかし、弁護士は診断書を提出しなかった。車椅子で生活しており、外出できる状態ではないという。裁判官もそれを認め、結局、A夫の尋問は実現しなかった。25年の喫煙歴がありながら、作田医師から「受動喫煙症」の診断書交付を受け、それを根拠に高額訴訟を起こしたわけだから、藤井家としてはA夫から直接事情を聞きたかったはずだが、尋問そのものが実現しなかった。

※長期喫煙者が禁煙した後、煙草に対するアレルギー症状を呈することはよくある。しかし、長期の喫煙が人体に悪影響を及ぼしている可能性が高い。25年の喫煙歴がある患者を「受動喫煙症」と診断するには無理がある。

 

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

◆『禁煙ファシズム』を厳しく批判

藤井敦子さんに対する尋問の中で、被告弁護士がメディア黒書と『禁煙ファシズム』を批判する場面もあった。報道目的で裁判を起こしたのではないかと言うのだった。これに対して藤井さんは、「海外のメディアにも接している。上質なジャーナリズムに情報を提供しただけ」と答えた。

被告代理人が問題視した『禁煙ファシズム』の記述は、前訴の途中で藤井さんが、代理人を解任して本人訴訟に切り替えることを決め、筆者が支援の意思を表明した箇所である。

本人訴訟には興味があった。弁護士の大半は、早期の事件解決という観点から、事件を拡大することを嫌うが、本人訴訟になれば事件を拡大できる。裁判をジャーナリズムの土俵に乗せて、世間に訴えることもできる。裁判の進行に合わせて裁判書面をインターネットで公開することで、裁判の舞台を全国へ広げることができる。それは新しい司法ジャーナリズムの方法だった。それを実践してみたいとわたしは思った。

作田医師の弁護士には、こうしたジャーナリズムの手法が異常に感じられるのだろうが、現在の司法界の不透明な状況を見る限りでは必要な措置である。裁判の提訴と判決しか報じないジャーナリズムの方が未熟なのである。

媒体を「紙」から「電子」に切り替えても、「電子」の利点を最大限に利用しなければまったく意味がない。「電子」では、PDFなどで裁判資料の公開ができる。ウィキリークスのように。

横浜副流煙事件の「反訴」は、4月に結審する予定だ。

【横浜副流煙裁判の概要】

2017年11月、横浜市青葉区のすすき野団地に住むAさん一家(夫、妻、娘)は、階下のマンションに住む藤井将登(ミュージシャン)さんに対して、煙草の煙で「受動喫煙症」になったとして、約4500万円の損害賠償を求める裁判を起こした。しかし、将登さんの喫煙場所は、防音構造になった「音楽室」に限られており、煙は外にもれない。しかも、煙草の本数も1日に2、3本程度だった。横浜地裁はA家の訴えを棄却した。しかも、作田医師の医師法20条(患者を診察せずに診断書を交付する行為の禁止)違反を認定した。東京高裁でも将登さんは勝訴した。

判決が確定した後、将登さんと妻の敦子さんは、前訴そのものが「訴権の濫用」にあたるとして、約1000万円の支払いを求める反スラップ裁判を起こした。作田医師は、前訴の原告ではないが、少なくとも5通の意見書を提出するなど、裁判を全面的に支援した。そもそも作田医師が医師法20条を犯してまで診断書を交付しなければ、前訴は提起できなかった。こうした観点から、藤井夫妻は、反スラップ裁判の被告としてA家の3人と作田医師を提訴したのである。

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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

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