◆高市早苗を野に放てなかった岸田政権

上半期の国会では、政局と税制をめぐる官庁間の争闘が噴出した。高市早苗(経安相)の総務大臣時代の放送法の解釈問題(見直し)である。総務省の文書が流出し、大臣レクのほか、高市と安倍晋三元総理の電話内容まで記されたものだった。

この文書の真偽をめぐって、予算委員会は紛糾する。

「総務省の4文書は捏造です」「この文書が捏造でなければ、大臣も議員も辞めます」と啖呵をきり、はては「わたしの答弁を信じられないのなら、質問をしないでください!」などと、高市は答弁拒否にまでいたった。答弁拒否については、のちに予算委員長の注意をうけて撤回する。

けっきょく、文書の真偽は闇にまぎれた。リークした総務官僚は名を名乗らなかったし、高市も、かりに機密漏洩や捏造であっても公訴時効であるという趣旨の発言をして幕を引いた。

論戦を観ている者には、まことに消化不良の結末となったが、事態の本質は、政局と税制をめぐる官庁間の争闘であろうと、われわれは解釈した。

高市はあいかわらず、極右政治家として総理候補のひとりである。国民的人気では河野太郎に劣るものの、ポスト岸田の最右翼といっていいだろう。岸田は高市を野に放てないのである。

財務省の逆襲 どうなる? 高市早苗経済安全保障担当相更迭(2023年3月22日)

◆経産省と財務省の争闘

もうひとつの隠された論軸は、増税反対の論陣を張ってきた高市に狙いをさだめた、財務省の逆襲ではないかと指摘してきた。震源はいうまでもなく、増税派の麻生太郎である。金利の見直しをつうじて、財務省は経産省主導のアベノミクスの「是正」にかかってきた。その標的にされたのが、増税反対論者の高市だったという構図である。

政権の経済政策を俯瞰するとき、ケインジアン(有効需要政策)の流れをくむ経産省(経済企画庁・通産省)と、古典派経済学(経済需給の見えざる手)を背景にした財務省(大蔵省)の争闘が、その底流にあるのを見るとわかりやすい。またそれは、経済政策をめぐる永遠のテーマなのかもしれない。

◆自民党支持者に岸田政権が不人気な理由

さて、その不人気な岸田政権である。筆者が知る自民党支持者の何人かが、安倍元総理を惜しみつつ、岸田には批判的である。上記の記事を掲載した8月下旬段階で、岸田政権の支持率は30%前後、そしていまは20%台である。一般に支持率20%は危険水域とされている。

自民党支持者に不人気なのは、理由がハッキリしている。

安倍晋三ほど自民党の党是(憲法改正)を前面に立てず、アベノミクスに比べて岸田の「新しい資本主義」は、サッパリ内容がわからない。口を衝くのは「賃上げ」だが、具体策があるわけではない。

マイナンバーの対応で、保険証リンクの不備問題が支持率低下を決定づけた。記事から核心部を引用しておこう。

そもそも60年代の住民基本台帳法、70年代の国民総背番号制、そして今回のマイナンバーカードと、国民をデジタル管理すること自体が無理なのだ。なぜならば国民がデジタルに馴染まなかったにもかかわらず、無理を要求しているからだ。自治体がマイナンバー受付指導をしなければならない実態、すなわち個人のPCやスマホでは受け容れてくれないソフトしか作れない技術力に原因がある。

支持率続落の岸田内閣 ── 秋の改造内閣を展望する(2023年8月23日)

統一地方選・補選総括 政局と政党再編を占う(2023年5月2日)

◆岸田政権の右派シフト

けっきょく、岸田文雄は高市を切れなかった。秋の内閣改造である。
記事の冒頭から引用して、岸田政権の右派シフトを俯瞰しておこう。

岸田第三次改造内閣 ── 木原稔の防衛相、高市早苗経安相留任にみる右派シフト(2023年9月15日)

さてその改造内閣だが、女性5人を入れる「変化」を目玉にしているが、右派議員の就任が目立つ。いま失っている岩盤保守層の支持回復がその狙いであるのは言うまでもない。その目玉が木原稔の防衛大臣起用、高市早苗の留任である。とりわけ木原は右派中の右派ともいえる、再軍備論者・改憲論者である。その過去の言動をお伝えしよう。

木原は自民党青年局長時代の2015年6月に、文化芸術懇話会なる団体を立ち上げ、党内の右派系議員を結集したが、講師に読んだのが百田直樹だった。参加者たちの言動がすさまじい。記事から引用しよう。

これを受けた参加者の発言には、愕くべきものがあった。大西英男衆院議員(東京16区)「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番。政治家には言えないことで、安倍晋三首相も言えないことだが、不買運動じゃないが、日本を過つ企業に広告料を支払うなんてとんでもないと、経団連などに働きかけしてほしい」

井上貴博衆院議員(福岡1区)「福岡の青年会議所理事長の時、マスコミをたたいたことがある。日本全体でやらなきゃいけないことだが、スポンサーにならないことが一番(マスコミは)こたえることが分かった」

長尾敬衆院議員(比例近畿)「沖縄の特殊なメディア構造をつくったのは戦後保守の堕落だ。先生なら沖縄のゆがんだ世論を正しい方向に持っていくために、どのようなアクションを起こすか。左翼勢力に完全に乗っ取られている」

まさに

高市早苗の総務相時代のメディア統制発言と双璧の、広告によるメディアの締め上げ戦略である。

木原はまた、明文改憲への意欲をみせている。

木原「私の理想は2012年の自民党改憲草案、二項を削除する改憲案だ」

「安倍総理が、二項を残すという決断をされました。それは、いろいろなことを慮ってのことです。選挙は勝たなければいけません。国民投票も勝たないと意味がない。改正もされない」

「もし、憲法改正は一回しかできないという法律なら、二項削除で戦うしかないと思っています。しかし、憲法改正は何回でもできる。一度、改正に成功したら、国民のハードルはグッと下がると思います。そして、一回目の改正を成功させたあとに、二回目の改正、三回目の改正と、積み重ねていけばいいと思っています。最終的には前文も当然、改正しなければいけない」

憲法を尊重できない政治家に、自衛隊のトップが務まるのかという、初歩的な疑問を国民は考えてみる必要上がるだろう。木原には沖縄でのデマ(主催者が参加者をして、安倍総理にヤジを飛ばさせた)、旧統一教会との関係(寄付金・ピースロードの実行委員、日韓トンネルへの関りなど)が指摘されるところだ。危険な政治家の動きを注視していきたい。(つづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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