30%を切る支持率、40%をこえる不支持という凋落の中、岸田文雄総理が第三次の内閣改造を行なった。改造による支持率回復をテコに、秋の総選挙を展望し、その「勝利」をもって、来年の自民党総裁選挙を単独再任で乗り切るのが政権の戦略である。

さてその改造内閣だが、女性5人を入れる「変化」を目玉にしているが、右派議員の就任が目立つ。いま失っている岩盤保守層の支持回復がその狙いであるのは言うまでもない。その目玉が木原稔の防衛大臣起用、高市早苗の留任である。とりわけ木原は右派中の右派ともいえる、再軍備論者・改憲論者である。その過去の言動をお伝えしよう。

◆木原稔という政治家

いよいよこの男が防衛大臣になった、と危機感を持っていうべきであろう。15年の安保戦争法を安倍政権下(首相補佐官)で推進し、メディア統制を提唱してきた木原稔である。

まずは過去の言動から紹介していこう。自民党青年局長時代の2015年6月、木原は文化芸術懇話会なる団体を立ち上げ、党内の右派系議員を結集したのだが、講師に呼んだのが百田直樹だった。

百田尚樹は、集団的自衛権の行使容認に賛成の立場を表明し、政府の対応について「国民に対するアピールが下手だ。気持ちにいかに訴えるかが大事だ」と指摘した。「日本を貶める目的をもって書いているとしか思えないような記事が多い」と持論を展開した。


◎[参考動画]内閣改造で熊本1区選出の木原 稔衆議院議員を防衛相に起用 (TKU official 2023/09/13 19:00)

◆青年局長更迭

これを受けた参加者の発言には、愕くべきものがあった。

大西英男衆院議員(東京16区)「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番。政治家には言えないことで、安倍晋三首相も言えないことだが、不買運動じゃないが、日本を過つ企業に広告料を支払うなんてとんでもないと、経団連などに働きかけしてほしい」

井上貴博衆院議員(福岡1区)「福岡の青年会議所理事長の時、マスコミをたたいたことがある。日本全体でやらなきゃいけないことだが、スポンサーにならないことが一番(マスコミは)こたえることが分かった」

長尾敬衆院議員(比例近畿)「沖縄の特殊なメディア構造をつくったのは戦後保守の堕落だ。先生なら沖縄のゆがんだ世論を正しい方向に持っていくために、どのようなアクションを起こすか。左翼勢力に完全に乗っ取られている」

主催者の木原稔は会合後、記者団に「党所属国会議員として、党や政府が進めようとしていることを後押しするのは当然だ」と強調したが、この会合は「自民党を後ろから撃つもの」として青年局長を更迭されたのだった。

高市早苗の総務相時代のメディア統制発言と双璧の、広告によるメディアの締め上げ戦略である。

菅義偉元総理の学術会議任命権発言も同様だが、政権に批判的なメディア・研究者の存在こそが、政権の政策をより優れたものにする担保なのである。木原をはじめとする右派政治家たちは、自分がロシアや中国の専制体制を是とする立場になっていることに気づいていないのだ。

◆明文改憲への戦略

木原は2018年1月に櫻井よしこ氏が理事長を務めるシンクタンク「国家基本問題研究所」が開催した月例研究会では、憲法改正への戦略を語っている。これは安倍政権の解釈改憲を、さらに明文改憲へ煽るものと言えよう。

「私の理想は2012年の自民党改憲草案、二項を削除する改憲案だ」

「安倍総理が、二項を残すという決断をされました。それは、いろいろなことを慮ってのことです。選挙は勝たなければいけません。国民投票も勝たないと意味がない。改正もされない」

「もし、憲法改正は一回しかできないという法律なら、二項削除で戦うしかないと思っています。しかし、憲法改正は何回でもできる。一度、改正に成功したら、国民のハードルはグッと下がると思います。そして、一回目の改正を成功させたあとに、二回目の改正、三回目の改正と、積み重ねていけばいいと思っています。最終的には前文も当然、改正しなければいけない」

憲法9条を尊重できない人物に、その9条が最も表象する自衛隊の文官トップ・防衛相が、務まるはずがないではないか。

◆沖縄でのデマ

木原はまた、デマゴーグでもある。

2015年6月に行われた沖縄全戦没者追悼式で首相の安倍晋三に怒号が浴びせられたことについて、木原はこう述べている。

「主催者は沖縄県である」

「たくさんの式典や集会を見ているから分かるが、明らかに動員されていた」

「そういったことが式典の異様な雰囲気になった原因ではないか」

などと、やじを飛ばしたのは県の動員による参列者であると断言したのだ。

主催した県は「動員などはあり得ない」。主催者の一人である県議会議長の喜納昌春は「いくら何でもひどすぎる。ゆゆしき発言で、悲しくなる」「自民党に沖縄のことを何も知らない議員がいることが問題。末期的だ」と木原を批判した。

◆統一教会との関係

木原と統一教会の関係も疑惑が多い。

2012年の衆院選の際に提出された選挙運動費用収支報告書に、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の関連団体「世界平和連合」から10万円の寄付を受けたことが記載されていたのだ。

2018年には、統一教会の関連団体「天宙平和連合(UPF)」が主催する自転車イベント「ピースロード」の実行委員に就任。以後、2021年まで実行委員を務めている。

2019年1月26日には、木原は統一教会熊本教区長の永井義行、日韓トンネル推進熊本県民会議の事務局長の佐藤民雄とともに駐福岡大韓民国総領事館を訪問。孫鍾植総領事と、韓国九州の交流増進案について話し合いをしている。

まるで実現性がなく、単に統一教会への資金カンパの口実にすぎない日韓トンネルの推進者と同席すること自体に、政治的なセンスのなさを露呈したのだ。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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