「あいりん総合センター」が解体されたら、釜ヶ崎の困窮者はどこへ行けばいいのだ……

尾﨑美代子

センターが解体される。困窮者はどこへ行けばいいのだ。

5月15日、大阪市議会で、新今宮駅前にどんと建つ「あいりん総合センター」、通称センターが解体されることが決まった。維新の会と共に解体したいと考える人たちは「耐震性に問題がー」と言っていた。しかし、それが嘘だったことは、「問題だー」と叫び始めて以降、何年間も問題視していなかったことからも明らかだ。「老朽化して危ない」ともいわれるが、70年に作られた際、この頑丈な構造物は100年持ちまっせ!と言われてたのだ。その後、何度も震災にあいながら太い柱はそのままだ。何より、ここは釜ヶ崎の人たちが生活するのに重要ななくてはならない場所だった。ここに来れば本当になんとかなった場所だった。それが解体される。次に出来る構造物に、そうした人たちが入れるスペースはほとんどないだろう。

この大量の荷物の下に台車が置かれ、おじさんはそれを必死で押しながら地区内で休める場所を探している

上の写真のように、台車に全財産積んで、休める場所を探す人たちはまだまだ釜ヶ崎の周辺に大勢いる。これらの写真は、この半年の間に撮った写真だ。私が昼のバイトから帰る途中で会うおじさん、高齢で足が悪く5メートルを数分かけて歩く。 

センターがあった時は昼間センターで段ボール敷いて休んでいたのだろう。足も顔も洗えるし、洗濯も出来る。シャワーも浴びれた。釜ヶ崎に来れば、毎日どこかで飯が食える。釜ヶ崎地域合同労組の炊き出しは毎日昼と夕方にある。朝飯や昼飯があちこちでやってる。弁当を配る人たちもいる。中には貧困ビジネスの連中もいる。「うちのアパートに入れますよ」と甘い言葉で勧誘している。いい物件ならばよいが、生活保護費をむしり取る酷いところもある。気いつけてや。 

それでもどこかで飯が食える。冬になれば冬物、夏になれば夏物をあちこちで「放出」してくれる。セーターやジーパンも露店で100円で買える。三角公園の「西村商店」でも300円だ。月初め、西成警察横東側の「子どもの里」で、毎週水曜日、西成警察西側の「いこい食堂」前でバザーが出て、かみそり、石鹸、タオル、靴下、下着も安く買える。生活に困った人には本当に住みやすい釜ヶ崎、そこに住む人たちが大切にしてきたセンター、それが解体される。

この国で、貧困や差別がなくなるというのならばまだしも、今後も生きるのに難儀な人たちはもっと増えていくだろう。 今でも、炊き出しの列には30、40代の人も並んでいるで。

この釜ヶ崎は、本当にふところの広い町。ニッカポッカ履いた鉄筋の兄ちゃんが、立ち飲み屋で大きな縫いぐるみ抱きながら飲んでても誰も何もいわない。女装するおじさんも山ほどいる。誰も何もいわない。いっとき、Tバックで釜ヶ崎を闊歩する兄さんもいたな。さすがにそのままうちの店に入ろうとしたから、「兄さん、店に入るときはズボンはいてな」といったけど。

罪を犯し刑務所に服役し、出てきた人も多い。ある時、店で仕事も年齢も全く違う、ほとんど接点のない客同士が、目で挨拶するのを見た。話はしないが、必ず「元気か」みたいに目で話をしている。親しい客の方に「あの人、知っているのか?」と聞いたら、「刑務所で一緒だった」という。突然店に来なくなり、数年後また顔を出すようになった人に、普通なら「久しぶり。どこへ行ってたの?」と聞くだろうが、私は聞かない。「久しぶりやね」というだけ。病気で入院してたか、借金が膨れて飯場に入ってたか、あるいは服役していたか。間違っても、故郷に戻って家族と楽しく暮らしていた、などという人はいない。素性も前歴も家族の有無なども、こちらからは聞かない。今でこそ、生活保護など受けたから本名を教えてくれる客が多いが、昔は労働者ばかりで、多くは偽名。山ちゃんなんか10人以上いた。のっぽ山ちゃん、ちび山、おデブな山ちゃん、がりがり山ちゃん、黒い山ちゃん、犬好き山ちゃん、女好き山ちゃん……仲間に刺されて亡くなったバンダナ山ちゃん。素性も前歴も関係ない。釜ヶ崎人情ではないが、「誰に遠慮がいるじゃなし じんわり待って出直そう」が出来る町だ。

星野リゾート近くのコインランドリー前に立てられた非常に差別的な幟。「浮浪者出禁」と書かれている

本当にこの町はどうなるのだろう。もう一度言うが、貧困や差別が無くなるのならばまだしも、無くなるどころか増えていくのだから。こういう町がひとつくらいあってもいいではないか。いや、なければ困る人たちがたくさんいるではないか。 

そのために、西成特区構想を進める維新の会こそ解体していこう!

尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/