堀田春樹
◆飛び後ろ蹴りの先駆者
真空飛びヒザ蹴りに迫った飛び後ろ蹴り。先駆者は富山勝治さん。
「前から飛び上がって蹴るだけでも大変なのに、キミはよく後ろ向きに飛んで蹴れるな!」と唯一沢村忠さんから褒められた言葉は一生忘れられないという高度な必殺技。

あくまでキックボクシングにおける技であるが、以前、富山勝治さんを格闘群雄伝で紹介した際、「飛び後ろ蹴り」と書いたキャプションを「回転バック蹴りにしてくれ!」と言われて反論してしまった私。
「富山さんに対して何生意気言っているんだろう!」と恐れつつ、「昭和の時代に実況の石川顕アナウンサーの言葉を活かしたいんです。今時は横文字が入るとタイガーマスクを思い浮かべる人が多いと思うんです!」と言って納得して頂いたが、やはり敬意を表して「回転バック蹴り」に替えたことがありました。
その後の時代のタイガーマスクが使うと「ローリングソパット」と言われていましたが、キックボクシングではバックスピンキックとも言われること多かったでしょう。ベニー・ユキーデは空手スタイルの後ろ蹴りでした。まあ、呼称はその時代に合った言い方で良いでしょう。
◆代表的選手
1989年(平成元年)の全日本キックボクシング連盟に於いて、当時のトップ選手、清水隆広が後ろ蹴りで壮絶なノックアウト勝利がありました。
キックボクシング時代の那須川天心は2016年12月に左後ろ蹴りを顎に炸裂させて倒した試合は見事でした。考える前に手足が出るという動体視力と当て勘の良さは確かな反応を見せました。

高谷秀幸(格闘群雄伝No.14)は現在でも「後ろ蹴りは得意中の得意です!」と語り、ユニークな変則スタイルの選手でした。しかし、後ろ蹴りに開眼したのは現役後半の頃で、「上達していくと空手の試合やキックのスパーリングではしっかりヒットするようになり、得意技の一つになりました。」という。多くの選手が横からフックの角度で入るのに対し、高谷氏の空手技の基本では、ボディーにアッパーカットを打つように下から突き上げるように蹴り込むという(細かい技術論もありましたがここでは割愛します)。
小野寺力(格闘群雄伝No.41)も多くの試合で活用し、効果的にヒットさせましたが、タイミングを計るのが上手く、確実に当たると閃き、心技体が噛み合った瞬間の技と言えるでしょう。

◆印象点もマイナス、リスクある技
ソムチャーイ高津(格闘群雄伝No.7)は、平成初期の当時シューティングと言われた現在の修斗のアマチュア時代では、後ろ蹴りは得意だと思っていたという。しかし初めての試合で、二度も空振りして二度ともピンチを招き、それ以降プロでも一切使わなかったという。高度なヒジ打ちや首相撲の技を持っていても後ろ蹴りは不器用だった様子である。
鴇稔之氏(格闘群雄伝No.1)は、「リスクヘッジの観点からメリットが少ないので練習したことも無いですね。」という回答。鴇氏は目黒ジムの後輩達数名の後ろ蹴りについて分析してくれましたが、理論がしっかり語れるところは頭脳明晰。鴇氏自身が現役であれば使いこなせたであろう技である。
空手で見られる胴回し回転蹴りはキックボクシングでもヒットすればインパクトある技ではあるが、無駄に繰り出す時間稼ぎだったり、ダメージ誤魔化す選手も居るようで、試合の流れが途切れてあまりいい印象はありません。
◆アゴを突き上げる蹴りが出来る選手は現れるか
後ろ蹴りについて、この選手がやったら面白そうと思える幾人かの現役選手に「やるつもりはないか」と尋ねたところ、あまり関心は無さそうで。やはりリスクが高いと思う選手が多いようでした。
反面、後ろ蹴りを得意とする選手は主にボディー狙いで、アゴを突き上げるほど高く蹴る者は少ない。NJKFウェルター級チャンピオンの小林亜維二は昨年、喜多村誠に高い位置へ蹴り上げたので、今後もアゴを狙った後ろ蹴りを使う機会は見られるかもしれません。

後ろ蹴りに限ったことではないですが、リスクある技を得意技に変え、これが当たれば絶対勝てるという技を持つことは注目を浴びる存在となるでしょう。富山勝治を超える飛び技を使う者は現れるか、今年の隠れた見所として、選手に勧めてみたり、リスク承知で挑む選手に注目するのも面白いかもしれません。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」
