以前、本コラムで「ロースクール」の惨状 について言及したが、法曹の現場では司法改革に端を発する深刻な「事件」が既に起こっている。

新司法試験導入以降、合格者は激増し、昨年も約2000人が合格している。

裁判官、検事に就任するのはその中でも僅かであり、弁護士登録をする人がほとんどである。だから弁護士は毎年凄まじい勢いで増加している。日弁連によると、2000年時点で弁護士登録者は17,126名だったが、2014年には35,045名だ。15年間で倍増しているということだ。

◆人員過剰で就職もままならぬ弁護士たち

だからといって、日本が米国のような「訴訟社会」に急変したわけではないので、弁護士にとっては「仕事」を確保するのがますます困難を極める時代になっている。

特に、登録して日の浅い弁護士にとっては、まず「仕事」が見つけられる「所属事務所」に加わる(弁護士業界でも所属事務所探しを「就職活動」と呼ぶらしい)ところからスタートを切らなければならないが、前述の通り「人員過剰気味」の弁護士業界では「就職活動」自体もかなりの困難を伴うという。

◆基本給も交通費も支給せず弁護士に月12万円を貸し付ける「事務所内独立弁護士契約書」

「弁護士就職難」時代に付け込んで、「とんでもないやりくちを展開している悪徳事務所がある」と読者から情報提供があった。

大阪のP弁護士事務所(以後「P事務所」)は「ボス弁」と呼ばれる高齢弁護士(経営者)が実質的に取り仕切っているが、昨年までは20代から30代を中心に10余名の弁護士が所属していた。ところが現在P弁護士事務所所属の弁護士は5名に減っている。何故だろうか。

それを読み解くカギは、「ボス弁」Qと事務所所属の弁護士の間で交わされた「事務所内独立弁護士契約書」にある。弁護士事務所は一般の企業と異なり「雇用契約」を結ぶわけではない。弁護士は「個人事業主」との考えに基づいているため、「事務所内独立弁護士契約書」という名称になるのだそうだ。

P事務所所属弁護士には「基本給」はない。交通費も支給されない。社会保険も自分で加入しなければならない。そして事務所が受任した仕事を各弁護士に割り振り、そこから個々の弁護士が「着手金」や「成功報酬」を得る契約になっている。

だが、その割合は、「甲(ボス弁)は、乙(事務所所属弁護士)に対し、甲と乙の共同受任案件について、弁護料(着手金,報酬金)のうち原則30%を分配金として配分するものとし、その都度、具体的金額を合意する。」とされている。

50万円の事件を事務所で受けて所属弁護士が業務にあたっても、取り分は15万円にしかならない。勿論、事務所維持のためには固定費用(事務所賃貸料等)の他広告宣伝費用などもかかるだろうから事務所が幾ばくかを持っていくのは仕方ないにしても、固定給、交通費が一切支払われない中で受任事件の「3割」しか弁護士個人の収入にならないような体系で、果たしてP事務所に所属していて「生活」してゆくことが可能な収入を得ることが出来るであろうか。

出来はしない。だから10余名いた弁護士の半数以上がP弁護士事務所を去ったのだ。

◆貸付金は無利息だが返済条件はボス弁が勝手に決める

さらに、「事務所内独立弁護士契約書」内には驚くべき内容が含まれる。

「1 丙は乙に対し、平成00年0月から平成00年00月(契約書中00及び0は特定の月日が記入されている)末まで,毎月25日限り金12万円を貸付する。
2 前項の貸付金は無利息とし、その他の返済条件は丙が取り決める。」

「甲」、「乙」に続き新たに「丙」が登場する。ところが「甲」と「丙」は同一人物(ボス弁)である。実際には2者(ボス弁と個人弁護士)の間でしか交わされていないこの「契約書」にわざわざ同一人物を「甲」と「丙」に分けているあたりは法律の専門家として「犯罪逃れの」の意図があるのであろうか。

どちらにせよ仕事の有無や業績とは一切関係なく、「P事務所は所属弁護士に毎月12万円を一方的に貸し付ける」、「無利息だが返済条件はボス弁が勝手に決める」ということを臆面もなく書いている。

P弁護士事務所は名前の通り「弁護士事務所」であって「サラ金」や「街金」ではないはずだ。何故に弁護士事務所が所属弁護士に「無理矢理毎月貸付」を行うのか。行う必要があるのか。

P事務所の恐ろしさは「強引貸付」だけではない。「事務所内独立弁護士契約書」には「赤字貸付制度」も明文化されている。いわく、

「(赤字貸付金制度)1 前条の規定にかかわらず、乙は,甲の月次損益が赤字となったときには、月額金7万円(年額金84万円)を限度額として甲に対して赤字貸付金として貸付するものとし、赤字貸付金制度の適用の有無及びその具体的金額の算出を甲に委ねる。」

もう一度確認しよう。「甲」はボス弁で「乙」は所属する個人の弁護士だ。だから解り易く言い換えると、

「経営者が月次の赤字を出した時、所属弁護士は月額金7万円(年額金84万円)を限度額として(各弁護士の所得の如何にかかわらず)経営者に赤字分を貸さなければならない。その具体的な金額はボス弁が決める」

ということである。会社に例えれば「月次決算が赤字になった時はその赤字分を従業員の給与から会社へ自動的に天引き貸与させる」ということだ。

収入があろうがなかろうが、毎月12万円を貸し付けるわ、事務所の赤字が出れば「貸付」という名の「供出」を強要するわ、これは「カタギ」のすることではない。

◆弁護士がボス弁に騙されるのが悪いのか?

この情報提供者は「契約についての話をボス弁と交わした(面接)の際に「強引貸付」の話は一切出ず、いざ契約となったらこの文言が含まれていて驚いたが、仕事を確保しなければいけない事情もあり、仕方なく契約書にはサインした」と語っている。

読者の中には「弁護士さんなんだからそんな契約拒否すればいいのに」とお考えになる方もいるかもしれないが、現在の若手弁護士はそれくらい仕事にありつくにあたり弱い立場に置かれているという実情をこそご理解されるべきだろう。

P事務所の場合「騙された方が悪い」というのは間違いだ。相手の足元を見て「騙した奴」が悪なのだ。情報提供者以外にも少なくない若手弁護士がこのような「悪徳契約」を押し付けられ、仕事を得るために仕方なくサインはしたもののP事務所を去っている事実が何よりもこの悪行の本質を物語る。

弁護士は法律の専門家だけにその法知識を市民や正義の為に使ってくれる人は弱者の味方だが、逆もまた真なりで「ワル」はとことん「ワル」である。

◆このままでは「弁護士」という職への信頼自体が地に堕ちる

問題はこの手の詐欺師まがいの弁護士や弁護士事務所がP事務所に限った事ではないことだ。若手弁護士の将来を台無しにしようがお構いなし。「街金」でも驚くような悪徳経営事務所は増加の一途だ。

P事務所を取り仕切るQ弁護士(ボス弁)には正当な制裁が加えられるべきだが、呆れたことにP事務所は現在も懲りずに新人採用広告を出している。日弁連なり各地の弁護士会はこのような悪徳弁護士対策を急ぐべきではないか。そうでなければ「弁護士」という職への信頼自体が地に堕ちる。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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◎防衛省に公式見解を聞いてみた──「自衛隊は『軍隊』ではありません」
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[お知らせ]月刊『紙の爆弾』創刊10周年記念の集いを4月7日東京で開催します!

暴走は止まらない。かつての政府見解も、閣議決定もこの男の前では意味がないようだ。ついに安倍は、自衛隊を「わが軍」と呼び本音を吐露した。

いつの間に「お前の軍隊になったのか」といった揶揄ではすますわけにはいかない。

◆防衛省に電話をかけて公式見解を聞いてみた

だから、当の「防衛省」に電話取材した(03-5366-3111)。

「自衛隊の法的位置づけについて教えていただきたいのですが」と代表番号に出た方に告げると、広報課に電話が回された。

「先日、国会で安倍首相が『わが軍』という表現で自衛隊を表現しましたが、防衛省のご見解はいかがでしょうか」

そう尋ねると至極全うな答えが返ってきた。

「憲法上最小限を超える実力を保持してはならない、という制約を政府から受けていますので自衛隊は『軍隊』ではありません」

と、電話応対してくださった方は語った。

私は、「国会で首相(自衛隊の最高指揮官)が『軍』という表現と意味を語ったことについてはどうお考えになりますか」と問うたが、「ここで個人的な意見を述べるのは差し控えさえていただきたい」との回答だった。担当者の氏名を聞いたが「申し訳ございません。お答えできません」との回答だった。

◆防衛省の回答と安倍「わが軍」発言の激しい齟齬

「わが軍」発言で私が確認したかったのは、防衛省の認識だけだ。安倍? あのドアホはどうでもいい(不幸にもこの国の最高権力者だから、本当はどうでもよくはないのだけれども)。

防衛省は明確に自衛隊が「軍隊」であることを否定した。安倍の暴言後、菅官房長官が「問題はない」といつも通りの「ボケ」をかましているけれども、防衛省の公式回答と安倍の発言の齟齬をどう説明するつもりだ。

急ぎ読者にご報告したく短文となったが、再度繰り返す。防衛省は自衛隊を「軍隊」と看做していないのに、安倍は自衛隊が「軍隊」であるかのように発言をした。

これは重大な行政知識不足と本人の思想が先行した暴言以外の何物でもない。
安倍は明日にでも防衛省に出向いて謝罪すべきである。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎橋下の手下=中原徹大阪府教育長のパワハラ騒動から関西ファシズムを撃て!
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[新刊]内田樹×鈴木邦男『慨世(がいせい)の遠吠え─強い国になりたい症候群』

 

全てのプロスポーツの中でもっとも稼ぎの大きいメガファイトが実現する。

5月2日、プロボクシングのドリームマッチ、フロイド・メイウェザー(米国)対マニー・パッキャオ(フィリピン)がラスベガスで行われる。試合は両者が持つ合計3つのベルトが賭けられるWBA、WBC、WBO世界ウェルター級王座統一戦だ。発表記者会見は3月11日、ロサンゼルスで行なわれた。約700人のメディアが集まり、スポーツ専門局のESPNが生中継。47戦無敗の5階級制覇メイウェザーと、激闘が人気の6階級制覇パッキャオの試合は5年以上も前からファンの求めるドリームカードだった。

しかし、全米でスポーツ高額所得の上位にランクされる2人の対戦は、ギャラや条件の主張が行き違い、なかなか実現しないままだった。

「プロレスの猪木と馬場じゃないですが、このまま試合は実現しないままというのが大半の見方で、今年になって開催に動き出しても、多くの関係者が『どうせまた噂だろう』と疑心暗鬼だったほど」

そう語るのはボクシングの人気ブログ「拳論!」の執筆者で格闘技ジャーナリストでもある片岡亮氏。なぜそれが今になって実現したのか聞いてみた。

◆ボクシングのスーパーマッチ実現の条件はテレビ局とプロモーターの合意

「ボクシングのスーパーマッチはすべてに共通することですが、金と放送局が揃うのが条件でした。テレビ局とプロモーターが合意の上で選手サイドにどれだけ良い条件を示せるか。大きな金額を示せても、両選手が取り分を争って決着がつかないこともあります。今回は本人たちの意向を除くと、一番のネックがテレビ局で、両選手が2大ケーブル局『HBO』と『ショータイム』にそれぞれ契約があることでした。でも、それが同時放映という異例の決着になったんです。日本でいえばTBSとフジテレビが同じタイトルマッチを同時に中継するようなものです」(片岡氏)

ただ、この試合の実現が遅すぎたのではないかという声もある。

「本来は5年前に実現すべき話だったもの。パッキャオは最近、実力に陰りが見えてKO負けの失態もありました。メイウェザーも過去の高額ファイトマネーを更新するような魅力的相手が見当たらない状況で、試合内容も無難に逃げ切るようなものが目立ちます。期待感が薄れかけていて、互いにこのビッグファイトを高い価値で実現させるなら賞味期限切れギリギリの現在だったということでしょう」(同)

ボクシングファンにとっては待ちに待った一戦ではあるが、待ち焦がれただけに時期が遅かった感は拭えないわけだ。それでも世界最高峰の実力を持つ両者、どちらが勝つのかという議論は世界中で巻き起こっている。

片岡氏は「驚異のスピードとディフェンステクニックで相手にパンチを当てさせないメイウェザーを、アグレッシブなパッキャオが追う展開が予想される」と分析する。

「早くも海外の賭けサイトではオッズが出て、1.3-3.5でメイウェザー優勢となっています。これはメイウェザーが安全運転に徹するなら崩すのは容易ではないという見方でしょう。でも、本当にそのとおりになると試合内容に見せ場の少ない期待外れの内容で世紀の凡戦だとブーイングが集まる可能性もあります」(片岡氏)

◆収益は総額500億円以上──ボクシング史上最高セールスになるのは確実

この試合はボクシング史上最高のセールスを記録するともいわれている。テレビ中継の有料放送契約は、過去メイウェザーがオスカー・デラホーヤと対戦した240万件が最高だが「今回はそれを軽く上回るという予測がある」と片岡氏。

「約1万6千席が用意された観戦チケットは定価こそあるものの、大半は一般人の手に渡らずプレミアがついて最後列でも日本円で45万円というプラチナペーパー化。総額500億円以上の収益が見込まれています。両者のファイトマネーは総額250億円と伝えられるので、おおよそ半分を持っていく形になりますね。うちメイウェザーが6割を得ることで合意。両雄はボクシング界で最も稼ぐトップ2選手で、昨年のアスリート長者番付は1位がメイウェザーの1億500万ドル(約124億円)。これは2位のクリスティアーノ・ロナウド(サッカー)の8千万ドル(約94億円)を大きく上回り、パッキャオは11位で約4千万ドル(約47億円)でしたが当然、今年は2人が上位独占するでしょう。このビジネスが成功すれば、しばらくは業界全体が活気づく副産物も期待されます」

マイク・タイソン以来の盛り上がりを見せるだけに、たしかに45万円でチケットが返ると言われたら、思わず支払ってしまいそうだ。ただ、これだけのタイトルマッチを日本国内では地上波放送する動きは全くない。

このあたりテレビ関係者に聞くと「それはそうですよ。ただでさえボクシングは数字がとれないので、外国人同士ではなお期待はできない」という答えが返ってきた。

◆グローバルな視点が欠けすぎている日本のボクシング・カルチャー

プロボクシングは最近、大晦日の中継が恒例になるなど盛り上がっているように見えるのだが「あれは紅白に対抗するのに最低限の一定数が見込めるコンテンツとして重宝されているもので、15%以上を期待するものではない」という。

昨年末のボクシング中継は12月30日、金メダリスト村田諒太を筆頭とするフジテレビの中継が7~8%台。日テレのさんま御殿やTBSの日本レコード大賞に敗北した。かろうじてテレ東の海外旅番組を超えた程度だった。大晦日もTBSがバラエティ番組の枠内で放送も3~9%台で2ケタに届かず。喜んだのは5.6%でも過去最高というテレ東のみだ。

「ボクシングは試合が思惑通りに終わってくれないし、世紀の一戦と打ったのに、凡戦となる試合だって山のようにあってギャンブル性が高い」とテレビ関係者。

海外では「世紀の一戦」でも国内ではマイナースポーツ扱いのまま。一方で自国選手の試合なら、対戦相手に弱い相手を連れてきてもゴールデンタイムで流すのが日本。グローバルな視点がないことから「本物」のボクシングが日本の視聴者に届けられることはないのか。

(鈴木雅久)

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「精神分裂病」という病名が存在していたことをご記憶だろうか。2002年以降医学界で使われることはなくなり、世間話でも使う人はほとんどいなくなった。現在は「統合失調症」という名称で呼ばれる精神疾患だが、この疾病の名称変更を実現したのは高木俊介医師の尽力によるものである。

高木医師には大学職員時代から大変お世話になってきたが、恥ずべきことに高木医師が「統合失調症」の名づけ親だと知ったのは大学を辞めてからであった。身近に偉人はいるものである。

◆「患者が安心できる」プロフェッショナルな対応に感服

私が最初に高木医師に出会ったのは、それこそ「統合失調症」の学生が手におえないほどの状態に陥り、親御さんもあまり学生の状態に熱心に向かい合ってくれなかったので、保健所の無料相談窓口を訪ねた時だった。相談窓口に高木医師がいた。

偶然にもその学生は自身で高木先生の診察を受けており、高木先生は穏やかな表情で「僕からすると統合失調症の患者さんは可愛いいんですわ。彼はこの間診察中に私の机をひっくり返しましてね。『今度やったら警察呼ぶぞ』って言ってやったら、シュンとしてました。甘えてるんですわ、私にはそのくらい許されるだろうと」と当該学生の病状について解りやすく説明していただいた。穏やかな語り口なのでだいぶ「高齢のベテラン先生か」と思ったが、実は当時まだ40歳前後だった。

医師はその専門にかかわらず、「患者が安心する」対応が求められる。とりわけ精神科医には「心の病気」を扱うプロとして「優しい対応」が期待される。学生や知人、また私自身が不調な際に数々の精神科医にお会いしたが、医師としての能力もさることながら、「患者に寄り添う」姿勢がない医師はなかなか安心して本音を話しにくいし治療も進まない。

◆医師は名声で判断してはいけない

知人に精神科医の世界では「知らない人がいない」と言われる「大御所」のお世話になった人間がいる。事情があり私も同行することになった。私も書籍などでその医師のことは知っていたので、「大御所」がどのように知人の治療に当たってくれるか、失礼ながら興味があった。

知人が自覚症状を話すと「鬱病ですね。一番気をつけなければいけないことは自殺です。この状態の患者さんはしばしば自殺を頭に描きます」と語られた。そんなものなのかと思い、帰路車の中で知人に聞いてみた「俺から見たらお前はだいぶ疲れているのは確かだけど、自殺考えたことあるか?」と聞くと「腹立ってるんだ。自分は鬱病だとは思う。でも今まで自殺なんて考えたこともないし、あんな言葉聴かされてかえって気分悪くなったわ」さらに「会計でいくら払わされたと思う?」と逆に私に聞くので「わからない5000円くらいか?」と言うと「『初診は自費だから』って2万円だよ。俺、鬱病って言われたよな。何で保険使えないんだろう。あの医者自分が偉いからって殿様商売してるんじゃないか」ということがあった。

患者から「殿様商売してるんじゃないか」と思われた時点で医師と患者の信頼関係が成立するはずがない。それでも以降数回、知人の通院に同行した。ある時、知人は「セカンドオピニオン」を別の医師に求め、その医師からも同様に「鬱病」と診察されたが「自殺」への言及はなく、実際の生活で心がけるとよいことを具体的にアドバイスをもらい、たいそう喜んでいた。

「セカンドオピニオン」をもらって心が楽になったことを知人は「大御所」に診察の際話した。すると「そうですか。それではこれからその先生にかかられるということですね、よくわかりました」と診断が終わってしまった。

「大御所」は「セカンドオピニオン」を自分より若輩の医師に求めた知人が気に入らなかったのだろうか。傍で見ていても理解に苦しむ「診察中止(拒否)」だった。

長々と体験談を紹介したが、「医師は名声で判断してはいけない」と身にしみて感じた事例をお伝えしたかったからである。

◆「ACT-K(アクトケー)」という途方もない志とエネルギー

そんな「大御所」と対極の人格と能力さらには熱意を備えた「名医」が高木医師だ(もっとも既に高木医師は精神科医の世界で充分「著名人」ではあるが)。診たては間違いないし、必ず患者本位で診察を進めておられる。

そんな高木医師はかねてより「長期入院型」の精神病治療に疑問を抱いておられた。精神病で入院すると世間から隔離され、長期間病院に閉じ込められる。それがかえって回復を困難にさせているのではないか。長期間病院に閉じ込められている精神病患者の治療を自宅で行おうと言う思いを高木医師は長年抱いておられた。その構想を実現した在宅医療プロジェクト「ACT-K(アクトケー)」を2004年から高木医師は始められている。京都新聞に2011年掲載された記事によると、高木医師はACT-Kについて以下のように語っておられる。

「ACT(Assertive Community Treatment=包括型地域生活支援プログラム)は重症の精神障害で、密接な支援がないと生活しにくい人に、自分が住んでいる場所でそのまま暮らしてもらうための援助です。精神科医、看護師、介護福祉士、作業療法士など医療と福祉のいろいろな職種の人が生活の場に出かけていくのが特徴で、夜間休日を含め365日24時間ケアできる態勢をとります。1970年代にアメリカで始まり、日本では2003年に公文書に登場しました。これを京都でやっているからアクトKと名づけ、主として統合失調症の人を対象にしています。」

日本で初めての「重度統合失調症患者の在宅医療」の試みだ。そして同様の在宅型ケアープログラムの展開を模索し、各方面から注目されている。構想することは簡単だが、実現にはかなりの困難が予想されたが、同じ記事の中で、

「常勤15人で非常勤と学生ボランティアを合わせ、実際に援助に当たるのは20人近くなります。自宅を訪問して買い物など日常的な生活の手伝いやレクリエーションなど、多くの専門職が連携して必要な医療と福祉のすべてを担います。統合失調症の利用者は120人。認知症の人なども一部診ており全部で150人です」(2011年当時)

「診てほしいという要望は患者や家族、福祉事務所などからありますがスタッフ一人当たり10人が限界。住所も車で30分の範囲に限っています。緻密な支援ができないとアクトの特徴がなくなるので、やむを得ず待ってもらっています」

24時間356日のケアーが可能なのかとの質問に、

「不適切なケアで患者が錯乱した状態をイメージするから難しくみえるのでしょうね。実際には昼のケアが十分なら突然悪くなることはありません。精神障害の患者にとって大切なのは▽安心できること▽自由があること▽人との絆があること。アクトKでは電話を24時間受けられる態勢をとり、担当の患者でなくてもケアできるようにスタッフ間で情報交換を図っています」

と語っておられる。語るは簡単だがこれは途方もない「志」とエネルギーがなければ為しえない総合ケアーに違いない。

高木医師は著書に「ACT―Kの挑戦」(批評社)、「こころの医療宅配便」(文藝春秋)、「精神医療の光と影」(日本評論社)等がある。

名医だ!と賞賛しておきながら恐縮だが、現在、高木先生は大変にご多忙で、診察を受けようと希望される方は京都のあるクリニックに足を運ぶしかない。そこで水曜日の午前中だけ外来患者の診察を担当されている。検索エンジン等でお調べ頂ければ当該クリニックはお調べいただけるだろうが、何分限られた診察時間なのであえてここではクリニックの名前は伏せさせて頂くことをご了承いただきたい。

日頃、政治や社会をボロクソに罵倒している私が特定個人を賞賛するのは薄気味悪く感じられる読者もおられようが、高木医師は志の高い精神科在宅治療のパイオニアであると同時に「患者を安心させる」優れた医師としての能力と人格を備えた方だ。

口先だけ穏やかで、老人相手に不要なX線撮影や、検査でぼろ儲けするような開業医(実名を挙げたいが、まだ我慢しておこう)が蔓延るが、医師の皆さんには患者本位での治療を切にお願いしたいものだ。その際のお手本として高木医師を紹介しておく。

[動画]ACT-K 精神疾患 訪問型サービス

▼田所敏夫(たどころ としお)

兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎病院経営の闇──検査や注射の回数が多い開業医は「やぶ医者」と疑え!

◎イオン蔓延で「資本の寡占」──それで暮らしは豊かで便利になったのか?

◎粗悪な食文化の伝道企業=マクドナルドの衰退は「自然の理」

◎2015年日本の現実──日本に戦争がやってくる

3月6日、午前11時の東京地裁419号法廷は緊張に包まれていた。ここでは、和田千代子さんを原告、国を被告として情報公開を迫る裁判が行われていた。この日の法廷は、6回目だ。

昭和29年に防衛庁ができて、陸海空自衛隊が発足し、陸上自衛隊の中にできた衛生学校。かつて日本軍にいた軍人や731部隊に所属していた隊員が、「自衛隊」や「衛生学校」に就職している。元731部隊に所属していた隊員が、「衛生学校」に所属し、その「衛生学校」が発行している「衛生学校記事」であることから、「細菌戦に関する記述・論文があるかもしれない」として公開を求めているのだ。

◆特定秘密保護法の施行で「不開示」文書が増える不安

もう、731部隊に関連して、当時をリアルに体験した「証言者」はほぼ皆無に等しい。郵便局勤務のときから、世界平和に関心を持つ和田さんは、市民団体「731・細菌戦部隊の実態を明らかにする会」に所属、「731部隊の功罪」にこだわり続けてさまざまな活動をしてきた。和田さんに小平の駅に来ていただき、話を聞いた。

「まず、去年の秋に、1957年から2009年に刊行されていた陸上自衛隊衛生科の教育や訓練に使用されていた雑誌“衛生学校記事”についての公開を2011年12月に請求したのですが、『発見できなかった』として、つぎの年の2012年2月に『文書不存在』を理由に、不開示の決定をしたのです。『不開示』の決定を受け取ったが納得がいかず、最後の手段として2013年11月8日に東京地裁に提訴しました。提訴した1ヶ月後の12月に『特定秘密保護法』が成立したため、公開されないのではと心配になりました。14年1月28日に第1回公判、第3回公判後の9月末に、『衛生学校記事』の一冊が見つかったと報告を受けた。見つかったのは、請求した42冊のうち、28冊だけです。残りの14冊は、どこにあるのか。残りを公開してほしい、という裁判です」

もしかしたら、特定秘密保護法に指定されて、この資料も「特定秘密」として永遠に葬りさられてしまうことを和田さんは恐れたという。

当時の衛生学校の校長は、金原節三氏といい、金原氏が亡くなってから「衛生学校記事」は、寄贈された。通称「金原文庫」と呼ぶ、その資料の集積を原告の和田さんは探しているのだ。

「出てきた28冊は、金原さんのものではありません。他の人の印鑑が押してありました。ですから、金原さんの所蔵された本がどこかにあるはずなのです」

◆731部隊への政府見解は「サリンはない」と言い張ったオウムと似ている

昭和32年7月に発行された『衛生学校記事』の第1号には、確かに『生物戦に対する医学的防衛の問題点』という目次がある。「衛生学校記事」にこの記事を寄せたのは、1940年から敗戦まで731部隊所属の軍医少佐だった園田忠男氏(2等陸佐)だ。1941年当時、731部隊所属の軍省医事課長として細菌戦に関与していた金原校長が「衛生科の教育と訓練に関する参考資料を目的に」と発行の意義を語っているのも、歴史的意義として重い。このほか、もしも出てきた資料に、731部隊に関する具体的な人体実験などの記述があれば、長い間、日本政府や軍が「731部隊の存在は認めるが、暴行の事実がない」としてきた731部隊の暴行を認める、という話になる。歴史が大きく動くのだ。なにしろ731部隊は、あくまでも人体実験や細菌製造を行っていなく、731部隊はあくまでも「防疫給水本部」だと日本の政府は言い張ってきたのだ。このメンタリティこそ、「オウム真理教」の「サリンはない」と言い張った20年前のそれに近い。

もし、「731部隊が暴行をしていた事実を認める」とすれば、平成9年に起こされた、中国人の被害者180人による「731部隊細菌戦被害損害賠償事件」(平成13年12月26日に終結)の判決(理由がないとして請求は棄却された)にも新しい影響を及ぼすかもしれない。もちろん「一事不再理」だから、判決そのものは変わらなくとも政府や軍が隠したがっていた「何か」をはぎとることは大きな意味がある。隠された「悪魔の爪」がもがれるのだ。

だが、いかんせん「生きた証人」は少ない。

細菌実験で多くの人たちの命が奪われ、加害者も被害者ももう、ここにはいない。

「金原氏や、園田氏のほかにも、戦後に元731部隊の人が自衛隊に就職していることから、もしかしたら、『衛生学校記事』には、もっと重要な論文が掲載されているかもしれない。731部隊の資料は、アメリカにほぼあるとされていますが、日本に返還されているはずです。これを気にアメリカが日本にかえしたとされる、『免責と引き替えにアメリカが入手した731部隊関連資料』の全公開につながるように、防衛省の隠蔽をはがしていきたいです」(和田さん)

たとえば平成23年、NPO法人七三一部隊・細菌資料センターは、金子順一という人が書いた論文に、七三一部隊の具体的な活動を示す重要な記述があるのを発見した。

金子は、731部隊に所属、昭和19年に「雨下撒布ノ基礎的考察」「低空雨下試験」「PXノ効果略奪法」など、8本の論文からできているが、これらは金子が単独、ないしは共同執筆者と書いたものだ。

731部隊は、人体実験を行い、細菌兵器を開発・製造し、中国各地で実戦して多くの人を殺害した。前述のとおり、日本政府はかたくなにこの事実を否定した。2002年に川田悦子議員が起こした質問主意書にも、2012年に服部議員が出した質問主意書についても「731部隊は防疫給水活動を行っていたのであり、人体実験や細菌戦を行ったことはなく、事実としては認められない」という趣旨の答弁をしている。

◆風化を許さない

私たちは、オウム真理教の「地下鉄サリン事件」を風化されてはいけない。同様に、「731部隊の功罪」も風化させてはいけない。

和田さんは「いわゆる『衛生学校記事』が、発行元の『衛生学校』に保存していない『不存在』に納得していません。発行元とはそういうことではないでしょうか」と憤る。

独の元首相、ワイツゼッカーは、第2次世界大戦終了40周年の1985年5月、「荒野の40年」と題した議会演説で「過去に目を閉ざす者は現在にも盲目になる」と訴え、ナチス・ドイツによる犯罪を「ドイツ人全員が負う責任」だと強調。ひるがえって日本は今、東アジア諸国との関係が悪化の一途をたどっている。その原因のひとつに、過去の戦争責任についてあいまいな態度をとり続けていることがあげられるのではないだろうか。

今後の裁判の行方に注目したい。次回の裁判(第7回)は、6月2日、16時で東京地裁にて開廷だ。(小林俊之)

原告の和田千代子さん

◎不良と愛国──中曽根康弘さえ否定する三原じゅん子の「八紘一宇」
◎3.11以後の世界──日本で具現化された「ニュースピーク」の時代に抗す

 

[新刊]内田樹×鈴木邦男『慨世(がいせい)の遠吠え─強い国になりたい症候群』

 

三原じゅん子というタレント出身の国会議員がいる。こいつは元不良だった。

「不良から与党の国会議員になるやつなど論外だと」持論を展開したら、えらく怒られた経験がある。

だが私の暴論は残念ながら間違ってはいなかった。

事もあろうに、三原は参議院予算委員会で質問としての発言の際に 「八紘一宇」を持ち出し、答弁した麻生に「戦後生まれの人でもこんな言葉を使う人がいるのか」と呆れられていた。麻生は漫画には詳しいが日本語が苦手な政治家として有名だが、その麻生に呆れられるのだから三原は大したものである。

◆中曽根康弘でさえ「失敗のもと」だったと認めている「八紘一宇」

「八紘一宇」がどのように使われた言葉かご存じない読者もいるだろうから、簡単に説明しておこう。

日本書紀に登場した文言から生まれたとされるこの言葉を学術的に解説すると退屈になるだろうから、政治の場で過去、どのように理解されてきたかを見てみよう。

1975年9月、文部大臣の松永東は衆議院文教委員会で、「戦前は八紘一宇ということで、日本さえよければよい、よその国はどうなってもよい、よその国はつぶれた方がよいというくらいな考え方から出発しておったようであります」と発言した。

1983年1月の衆議院本会議では、総理大臣の中曽根康弘も「戦争前は八紘一宇ということで、日本は日本独自の地位を占めようという独善性を持った、日本だけが例外の国になり得ると思った、それが失敗のもとであった」と説明している。

要するに大東亜共栄圏を作るにあたって「日本は特別な国だ!」と日本帝国がアジア侵略のスローガンに使った言葉であることを過去、文部大臣や首相が認めている言葉だ。

◆とてつもない国がやらかす「八紘一宇」の無知

その言葉を2015年に三原は、「八紘一宇とは、世界が一家族のように睦(むつ)み合うこと。一宇、すなわち一家の秩序は一番強い家長が弱い家族を搾取するのではない。一番強い者が弱い者のために働いてやる制度が家である。これは国際秩序の根本原理をお示しになったものであろう。現在までの国際秩序は弱肉強食である。強い国が弱い国を搾取する。力によって無理を通す。強い国はびこって弱い民族を虐げている。世界中で一番強い国が、弱い国、弱い民族のために働いてやる制度が出来た時、初めて世界は平和になる

「これは戦前に書かれたものだが、八紘一宇という根本原理の中に、現在のグローバル資本主義の中で、日本がどう立ち振る舞うべきかというのが示されているのだと、私は思えてならない。麻生大臣! この考えに対して、いかがお考えになるか」

と発言した。これに答えて麻生は、「日本中から各県の石を集めましてね、その石を集めて『八紘一宇の塔』ってのが宮崎県に建っていると思いますが、これは戦前の中で出た歌の中でも、『往(い)け、八紘を宇(いえ)となし』とか、いろいろ歌もありますけれども、そういったものにあってひとつの、メインストリーム(主流)の考え方のひとつなんだと、私はそう思う。こういった考え方をお持ちの方が、三原先生みたいな世代におられるのに、ちょっと正直驚いたのが実感」と「八紘一宇」への直接評価は避けた。

日本は第二次大戦で「列強からのアジア解放」を唱えて諸国を侵略し「搾取」した。そこには「神国」である日本こそが「世界中で一番強い国(となり)が、弱い国、弱い民族のために働いてやる制度が出来た時、初めて世界は平和になる」との思い込み甚だしい思想があった。

三原に言わせると日本は「神武天皇」が即位した2675年前が「日本建国」の年らしいが、小学校や中学校の社会の時代で教わる2600年前は「縄文時代」である。稲作はおろか、文字すら持っていなかった時代にこの国が「建国」されたという妄動は、不幸にも三原だけではなく、国全体が未だに真実を見つめられていない。2月11日の「建国記念日」は別名「紀元節」とも呼ばれ、この日に「神武天皇」が即位した日とされている、歴史的にも全く誤った解釈に基づく休日であるのだ。

そういった国家的な歴史に対する意識的詐欺行為が根底にある問題を忘れてはならない。

が、その詐欺行為がまだ黙認されていることを良いことに、三原は「八紘一宇」を持ち出した。

有事関連法制=法律的な戦争の準備が全速力で進められる中、この元不良、否「不良国会議員」は精神的な戦争への誘導への為に一翼を担っている。

戦争をしたければ自民党と公明党の議員と党員だけでやってくれ!

不良というのはいつでもそんな奴らだった。最近の「反グレ」の連中はちょっと毛色が違うようだが、意味も分からず「特攻服」を着て日の丸を振り回すのが「暴走族」の標準的装備だった。やってる行為は一見「反社会的」に見えるけれども、本質的にその行為や考えは国家に収斂されていき、やがてその「防護隊」にさえなる。

三原を見ているとその筆頭であることがよく分かる。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎橋下の手下=中原徹大阪府教育長のパワハラ騒動から関西ファシズムを撃て!
◎秘密保護法紛いの就業規則改定で社員に「言論封殺」を強いる岩波書店の錯乱
◎恣意的に「危機」を煽る日本政府のご都合主義は在特会とよく似ている

[新刊]内田樹×鈴木邦男『慨世(がいせい)の遠吠え─強い国になりたい症候群』

 

 

3月17日、装丁家でイラストレーターの桂川潤氏のトークライブ『改正著作権法施行!「製作」から考える「本はモノである」ということ』(池袋ジュンク堂書店池袋本店4Fカフェ)に行ってみた。

僕の中では、この時点では、桂川氏は「電子書籍をPDFにせよと主張しているデザイナー」という認識しかない。だが桂川氏は「一流の中でも一流」の装丁家・イラストレーターであり、業界では、誰もが一目置いている「雲の上の人」である。くわえて、電子書籍市場が1000億円を突破した。紙の書籍が8000億円市場だから、電子書籍がじわじわと売り上げを伸ばしている。計算すると、もうあと20年以内には、紙と電子書籍のシェアは逆転するとも言われている。ただし、電子書籍市場を支えているのは、コミックだ。

◆『大辞林』でさえ定義できていない「本」とは何か?

さて、「本が電子書籍になる」ということは、簡単にいえば「装丁の仕事がなくなる」ことを意味する。そうして仕事を失いつつある立場の桂川氏がどんな見解で発言するのか、興味があった。冒頭でつかみのトークとして、桂川氏はこんな話をした。

「本というものは、定義されていないのです。たとえば、『大辞林』を引いてみると「本」→「書籍」→「図書」→「本」と堂々巡りになっている。まさに、天下の『大辞林』でさえ定義できないのです」

桂川氏の奥方によると「カレーのルー」ですら、箱に入っているのだから、あれも『本』だという。だが、僕自身は「本」といえば、付録でバッグがついていようが、DVDがついていようが、カレンダー形式であろうが、巻物であろうが、やはり「文字の集積」だ。

『トークライブ』は、彩流社の編集担当、河野和憲氏や、日本出版者協議会の人が桂川氏のコメントを補強する形で進行した。

「平成27年1月1日から施行された著作権法の一部改正で、これまでは、中小の版元がヒットを生み出しても、文庫化するにあたり、作家が著作を大手にもっていってしまい、泣き寝入りするしかなかったのですが、今度からは、二次著作物は、版元も権利を主張できるようになったのです」と、日本出版者協議会のスタッフが声高に叫んだ。これは、大きなことだと思う。どんなに力を入れて作家を育てても、中小の出版社たちは、作家が大手にコンテンツを移動するのを、指をくわえて見ているしかない、そんな痛い過去があったからだ。

桂川氏は、参加者に「私はデザイナーですが、デザイナーの仕事がなくなると思いますが」と質問されると「そうなのです。私たちの仕事がなくなる」と桂川氏が泣きを入れるかと思いきや、実にいさぎよく、「私たちの仕事がなくなるのなら、それはそれでしょうがない。だが、デザインソフトのインデザインが出始めた当初は、書体が2種類しかなく、かえってそのことが『未来』を感じさせた。案の定、インデザインによるDTPが主流になり、写植屋は5年かけて消えていきました。電子書籍はもう少し、長く時間をかけて浸透させるでしょう。電子書籍も制約があるぶん、おもしろいと思うのです」と言う。

「本はモノである」「誰も言わないなら私が(本はモノであると)言う」と力説しつつ「電子書籍もおもしろい」と断定する。ここに、クリエイターとしての器の大きさがある。要するに桂川氏は「変化」を楽しんでいるのだ。

◆「まずデバイスありき」にこだわる経産省「コンテンツ緊急電子化事業」の利権性

桂川氏は、経済産業省の「コンテンツ緊急電子化事業」(以下、緊デジ)について、「新文化」に寄稿し、警鐘をこう鳴らしている。

『「被災地域の知へのアクセスの向上」をうたい、〝国策〟としてスタートした緊デジは、発足から半年経っても、満足に機能していない。あまつさえ、フォーマットや、デバイス(読書端末)からして定かではない。その結果、被災地・南三陸町の『知性』が『知へのアクセス』の蚊帳の外に置かれる現状がある。

疑問は、それだけではない。特定のデバイスに向けた電子書籍が、他のデバイスに向けた電子書籍が、他のデバイスやパソコン上で閲覧できないことはわかりきっているのに、なぜか『緊デジ』は、PDFを電子書籍フォーマットに加えることを渋り続けてきた。費用も手間もかからず、個人レベルで製作できる「PDFによる電子書籍化」では、なぜダメなのだろう。

PDFなら、パソコンから各種デバイス、スマートフォンまで、ほぼすべての端末で表示できる。また、リフロー型電子書籍(端末に合わせてテクストを再流し込みする主流方式)では不可能な、ノンブル(ページ番号)によるテクストの参照・引証が、書籍版/電子版を問わず可能だ。「まずはともかく具体的なモデルを」と考えた私は、自らの著作物?写真集と、単行本『本は物(モノ)である』を素材に、試作を開始した。(中略)PDFによる電子化は、書物の「乾物(ひもの)」に例えられよう。乾物はシンプルな製造工程ながら、保存がきき携行にも便利だ。そのまま食べてもいいし元の食材にも戻せる。乾アワビやナマコのように、元の食材以上の『旨味』を引き出すこともできる。一方、リフロー型電子書籍は、「食材のサプリメント化」だ。販売社は「栄養化は同じ」だというだろうが、製造に手間がかかるわりに味気なく、元の食材にも戻せない。同様に、ノンブルとページ概念を失ったタグ付きテクストは、紙の本には戻せない。PDFの何よりの強みは、印刷すればいつでも紙の本に戻せることだ。「紙の本と電子書籍の共存」を今こそ本気で考えるなら、PDFこそ、最良の選択肢といえよう。(出版業界専門紙「新文化」2012年11月29日付[第2961号]記事)

2009年に、中堅作家の小説を『文庫ビューア?』で読んで以来、久しぶりに電子書籍で読んだが、確かに、「E-PUB」などリフロー型の電子書籍では、ノンブルがなく、違和感を感じる。対して、PDFは、紙の本のテイストに近い。文字を大きくしたりもできるので、使いやすいと言える。「古い世代にやさしい」のだ。

◆経産省が復興予算10億円を計上し、約6万5千冊の書籍をむやみに電子化

「電子書籍を作るのに『PDFのほかのフォーマットとなる』ことは、本を作る協力者をないがしろにしているのと同じ意味です」

話を「すべった国策としての電子書籍事業」に戻すと、もともと禁デジの意義は、「3.11からの復興事業」だった。

「ところが、出版社には金が落ちない仕組みなので、あまり、人気のないコンテンツも大量にこの事業に提供されたのです」(経済産業省関係者)

事業は出版社が書籍を電子化する際、費用の半分(東北の出版社は3分の2)を国が補助する。総事業費は20億円で、うち10億円は経済産業省が復興予算として計上。約6万5千冊の書籍を電子化した。

この事業を受託した団体の日本出版インフラセンター(JPO、東京)は、たとえば昨年の6月20日に、内容に問題のある本が含まれていたとして、相当する補助金を返納すると発表した。

事業をめぐっては、東北の情報発信を目的に掲げながら、電子化された東北関連の書籍は全体の3.5%の2287冊にすぎず、成人向け書籍やグラビア写真集など100冊以上が補助対象に含まれていたことが明らかになっている。

「出版社が、適当に自社の書籍リストを出し、真剣に震災からの復興を考えてない証拠です。くわえて、電子書籍がPDF化されないのは、そうするとデザイナーや印刷屋にも著作隣接権が派生して、ギャラを払わざるを得なくなるから。つまり、電子書籍が、『PDFのほかのフォーマットとなる』ことは、本を作る協力者をないがしろにしているのと同じ意味です」(出版社幹部)

悲しいかな、本作りを助けるデザイナーや印刷屋、校正スタッフ、装丁家など「著作隣接権」のある人たちは、電子書籍市場にとって「邪魔」な存在のようだ。

▼ハイセーヤスダ(編集者&ライター)

テレビ製作会社、編集プロダクション、出版社勤務を経て、現在に至る。週刊誌のデータマン、コンテンツ制作、著述業、落語の原作、官能小説、AV寸評、広告製作とマルチに活躍。座右の銘は「思いたったが吉日」。格闘技通信ブログ「拳論!」の管理人。

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そのメールは、記憶する限り、2012年の6月に最初来た。

僕が取材で追跡している女子アナの弟にスキャンダルについての攻撃だ。

「Aさん(女子アナの弟)についての記事は、詫び状を出しなさい。Aさんにはお世話になったんだ」というメールが突如として入ってきたのだ。

もう原稿としては誌面に掲載されていることで、文句があれば通常は版元に行くのだが、メールには名前も住所も電話番号も書いていない。

こうしたメールを「スパムメール」と呼ぶのだが、徹底的に無視をすることにした。ただ、Aさんはヤクザなので、身の危険は感じたが。

◆自分は名乗らないのに相手には返信を求める

それから、どうも僕の敵になりすましたり、味方になりすましたり、どこで調べたのか昔の彼女になりすましたり、版元の編集になりすましたりして、なんとかして返信させようと「送り手」はあの手この手でメールを送ってきた。そのメール攻撃は半年ほどノンストップで来た。

「ふたりきりで話あったほうがいい」というメールが来たときに初めて僕は反応し、「どちら様ですか? いくつか出版社の名が出ているようですが、用事があるなら、こちらからお伺いします」と返したら、まったく返事がなかった。

自分が名乗らない。それなのに相手に返信を求める。

こうした行為を「お里が知れる」という。僕は「失礼な相手には反応するな」という教育を受けて育った。それは教えたほうが正しいし、今もなおまちがっているとは思えない。いったい、メールの送り手はどのような教育を受けた連中なのだろうか。もしかして、まったく教育というものを受けていないのだろうか。親の顔が見てみたいものだ。

僕はすべての迷惑メールの履歴を、警視庁の友人と、警視庁に深いパイプを持つ弁護士に送った。つまり「法的に相手を追い込む」ためにだ。無視できないのは、「今、○○にいるだろう」と場所を特定するメールを送ってくることだ。これは、脅迫に値するだろう。訴訟すれば勝てる案件だ。メールで精神的に追い込まれた「診断書」も持っている。戦えば勝率100%だ、犯人よ! 明日にでも訴状を送ろうか。

そうブログで宣言すると「AKB48」のスキャンダルを追跡しているときに、「今、AKBに手を出すと、とんでもないことになるよ」とメールが来る。まさに、「四六時中、監視している」ことをアピールしているのだ。その癖、「ここに電話せよ」と電話番号を明記している割には、電話をかけるとまったく出ない。いったい何がしたいのか。あまりにもふざけている。

また、僕が「警視庁」にいるときには、まったくメールが来ない。打ち合わせなどで「鹿砦社」にいるときにも来ない。これはどういうわけか。臆病なのか。まあ、メールでしか人を攻撃できない時点で臆病といえば臆病だが。

◆「関東連合について書くなら、こちらの情報で書きませんか」

ストーカーメールに詳しい警視庁の知人に聞くと「ひとつは、どういうメールを送れば反応するか、という統計をとっている」ということだ。今ひとつ、これはヒントになったが、「オークション詐欺を糾弾したり、関東連合について取材を始めると、そうしたメールが大量に送られてくる」とも聞いた。僕もある雑誌で、関東連合を追跡していたタイミングで「関東連合について書くなら、こちらの情報で書きませんか」というメールが来たが、電話番号を調べると、実は「ワンクリック詐欺」として有名な会社だった。カルト団体になりすましてメールを送ってきたことも、食品会社を装い、送ってきたこともある。

こうしたメールの履歴は、すべて警視庁に提出してある。

「今は、ストーカーメールの情報をしゃかりきに集めています。近く、いたずらメールを送りつける業者がたくさん逮捕されることになります」と警察関係者。最近では、海外のサーバーを経由してごまかしても、発信元が特定できるそうだ。民間の技術者を警視庁のサイバー犯罪課が採用してきた成果が出ようとしている。

そんな中、興味深い記事を見た。

1月7日にパリにある風刺週刊紙「シャルリー・エブド」の本社が、イスラム過激派と見られる男たちに襲撃され、漫画家や編集者など12人が殺害された。これを「表現の自由への侵害」として、謎のハッカー集団「アノニマス」のベルギー支部が、YouTube上に動画を投稿し、アルカイダやイスラム国に対して宣戦布告した。

おまえらには地球上で安全な場所はない

動画のタイトルは「#Op Charlie hebdo」となっており、画面にはおなじみのマスクをかぶり、フランス語で語る「アノニマス」のメンバーの姿が写っている。

そのスポークスマンは動画の中で、アルカイダやイスラム国に対し次のようなメッセージを送った。

「われわれはおまえたちを最後の1人まで追い詰めるだろう。そして貴様たちを殺すだろう。おまえらは無実の人々を殺すことを自ら許している。われわれは彼らの死に対する復讐を行うだろう」

「世界中のハッカーたちが、全てのジハーディスト(過激派)の活動をオンライン上で追うことになるだろう。そして全てのアカウントを閉鎖する、ツイッターやYouTube、そしてフェイスブックまで」

「地球上のどこにいてもおまえらは追跡されている。もはや安全な場所などない。われわれは『アノニマス』。そしてわれわれはレギオン(軍団、軍隊)である」

「私たちの民主主義にシャーリア法(イスラム法)を課すことはできない。貴様たちの愚かさのために、表現の自由を殺させはしない。警告する。おまえたちは破滅させられるだろう」

「われわれは決して忘れない。決して許さない。私たちを恐れろ!イスラム国や、アルカイダ、おまえらはわれわれの復讐を受け取ることになるだろう」

「言論の自由の重要さは、議論の余地のないことだ。貴様たちの取り組みは、民主主義への攻撃である」

「今後、直面する大規模な出来事に期待していろ。自由を守る戦いは、われわれの活動の根本にあたるからだ」

「アノニマス(anonymous)」は「匿名の」という意味の形容詞。彼らはインターネット上のオンラインコミュニティの利用者を中心に構成され、抗議行動やDDos(分散型サービス拒否)攻撃、クラッキングと言った行為を集団で行っていると考えられている。

実態は定かではないが、「アラブの春」では、エジプト情報省とムバラク前大統領のホームページをオフライン化させたり、チュニジアの「ジャスミン革命」でも政府側のウェブサイトにDos攻撃を仕掛け、内容を書き換えたりするなど、革命にも貢献したと言われている。

また麻薬組織へも対抗し、北朝鮮の弾道ミサイルの発射実験や、アメリカ政府の核実験に対する抗議も行い、関連するサイトを攻撃した。そしてサーバーをダウンさせたり、機密情報を公開させたりしたという。「IRORIO」より引用

僕自身は、いたずらのストーカーメールをもし送りつけて、そのリアクションを研究している集団がいるとしたら、それは「国際政治的な団体」、もしくはその端くれであるとにらんでいる。アノニマスなど「政治的ハッカー集団」の氷山の一角にすぎない。

一日中、人のメールを見ているなど、国家レベルの団体がやっているとしか思えない。そうでないとしたら、大金持ちが犯罪をするために「攻撃者」を排除しているのだ。

◆「どんなセキュリティも、3ヶ月後には破られる運命にある」

一時期、僕の携帯メールには「おまえが心を許している相手の取り巻きにも、お前の悪口を言っている相手がいるから気をつけろや」というメールが入ってきた。具体的な内容は伏せるが、ということは、僕がふだん会っている人のメールも覗いているということになる。また、自宅のメールには、やたら不正プログラムを送りつけてくるが、「送り手」よ! これも証拠は保全してある。

今、ハッキングの技術は、かなり上達していて、「どんなセキュリティも、3ヶ月後には破られる運命にある」のだそうだ。今後、セキュリティ会社、もし会えるならハッカーをとことん取材してみたいが、ストーカーメールの送り手たちよ! 僕としては、警察マターで縦横無尽に、君たちを割り出す手はずは整えてある。そして、どう接触してきても、迷惑メールなどは僕にとっては「ネタ」にしかならない。いつか「迷惑メール、その送り手の正体」という本を書いてやるからな。(伊東北斗)

◎迷惑メール詐欺を通報しても警察はまともに対応しないことが判明

◎大塚家具お家騒動まで機敏反映させるAVメーカー「妄想力」のクールジャパン

◎反原発の連帯──来年4月、電力は自由化され、電力会社を選べるようになる

◎誰もテレビを見ない時代が到来する?──テレビが売れない本当の理由

『紙の爆弾』が暴露した少女アイドルビジネスの凄惨現場

 


消防法により各家庭には「火災報知器」の設置が義務付けられていることを読者の皆さんはご存知だろうか。一戸建て住宅では「寝室」、「台所」、「階段」に設置が義務付けられている。マンション(分譲・賃貸とも)やアパートでも一戸建て同様に「台所」、「寝室」には設置が義務づけられている。義務だが罰則はない。あくまでも居住者の安全確保の観点からということだからだろうか。

◆我が家の火災にこんな報知器が役立つか?

拙宅にも数年前に町内会の回覧板が回ってきた。なんでも町内会で共同購入すると市販の価格よりも安価に購入できるとのことで、半ば行政による誘導のような形で「火災報知器の購入」が促進された。私の知らないうちに家人が購入申し込みをしたので我が家には「火災報知器」が法令通り設置されている。

しかし、消防法により「設置しなさい」と義務化されたのは、火災が発生した時に消防署や、防災センターに直結・緊急で情報が伝わる機能を有するものではない。公的建築物にあるような従来の「火災報知器」と異なり、煙や熱を感知すると「そこだけで鳴る火災報知器」である(勿論各家庭がセキュリティー会社と契約をして火災報知器を設置することも推奨されているけども、そうすればかなりのコスト発生する)。

学校や大規模商店で火災報知機が鳴れば目の前に煙や炎が見えなくても、万が一に備えて心の準備をする効果は誰しも認めるところだろう。大人数の集まる場所では火災自体の被害はもとより、避難の際の二次被害も予防されなければならないから火災報知器の果たす役割は大きい。

でも、我が家で仮に火災が発生したとして、火災報知器はどんな役割を果たしてくれるだろうか。

◆「そこだけで鳴る火災報知器」では役に立たないという結論

まず、家の中に家族の人間誰かがいるケースを想定する。我が家は自慢ではないが広くはない。火の手が上がればまず居宅内のどこからでも目に入る。火事はおそらく火災報知器よりも人間の目によって発見されるだろう(これに対して「寝室等での火災の発生は夜が圧倒的多い」と行政は取り付ける根拠を主張しているが、それは冬季に石油ストーブや火鉢などを利用していた時代の発火原因に注目しているのであり、今日のように石油ストーブや火鉢利用が減少した時代には説得力を持たない論である。さらに「寝たばこ」も理由とされているが、これだけ嫌煙活動が広がった今日「寝たばこ」の危険性は過去よりも低下しているだろう)。

それでも仮に家族全員が就寝中に火災が発生して「火災報知器」が鳴り出したとすれば、驚いて目を覚ますだろうが、そんな高温になるまでゆっくり寝ていられるほどの広さの寝室は我が家にはない。

そもそも「そこだけで鳴る火災報知器」は音を出すだけだから、消火活動や消防への連絡は人間が手で行わなければならない。

したがって、家族の誰かが在宅中に「そこだけで鳴る火災報知器」は役に立たないだろうという結論に至った。

◆設置義務化の真の目的は別にある

では、家族全員外出中の火災ならどうだろうか。我が家から出火して火災報知器が鳴ってもその音は隣家には届かない。「火災報知器」が消防署や防災センターなどに直結していれば、家人不在でも消防車が駆けつけてくれるだろうけども、そうではなくて家の中でだけむなしく音を上げていても誰にも聞こえないし、何の役にも立たない。近隣の方が火災に気が付く頃には天井に火が回っているだろう。

勿論、我が家のような安普請ばかりでなく、寝室が広いお宅もあれば、部屋数が多いお宅だってあるだろうから、そのような住宅では「そこだけで鳴る火災報知器」も一定の役割を果たすのかもしれない。私とて「そこだけで鳴る火災報知器」の役割を全否定しているわけではない。中には被害を食い止めたり難を逃れる人もいるだろう。

だが、「そこだけで鳴る火災報知器」は法律で義務化しなければならないほどの重要性と効果があるのだろうか。厳格に消防法へ従えばワンルームマンションでも2個の「そこだけで鳴る火災報知器」を取り付ける必要がある。部屋数がもう少し増えて二階建てのお宅ならば3つや4つは最低必要だ。

本当に火災被害の低減を考えるのであれば消防署とは言わないけれども、地域ごとに火災の発生を感知するセンターなどへの接続を行っておかなければ意味は薄いのではないか。

くだくだ冗長に屁理屈を並べたが要は「こんな役に立たない物を義務化したのは、メーカーに儲けさせるためではないのか」と私はまたしても捻くれた邪推をしてるのだ。

◆同じく無意味は「チャイルドシート」義務化

同様な例は「チャイルドシート」にも当てはまる。「チャイルドシート」は6歳以下の乳幼児が自家用車に乗る際に設置するよう義務化されている。席数以上の人数が乗車する際などいくつかの例外規定は設けられているが、基本1児に1台が必要だ。

3歳と5歳のお子さんを持つ家族であれば2つの「チャイルドシート」にそれぞれお子さんを乗せなければならない。「チャイルドシート」は助手席にも設置できるけれども、事故の際助手席は最も危険の高い場所であるし、エアーバックの危険もあるので、常識的には後部座席にお子さんを乗せるのが望ましい。だがこれは実践してみればわかることだが、後部座席に2つの「チャイルドシート」を乗せると超大型車でない限り、空間がいっぱいになる。通常自家用車の後部座席は3人座れるが「チャイルドシート」を2つ乗せると3人目が座れるスペースはない。

つまり運転席、若しくは助手席からしか後部座席のお子さんの様子を見たり、世話をすることしかできなくなるのだ。3歳と5歳の子供で長時間おとなしくしているのはよほど「おりこう」な例外であって、長距離ドライブの際はやれ「おしっこ」だ「お腹がすいた」「外で遊びたい」とごねるのが自然だ。そんな時に保護者が隣にいれば、抱いてあげたりあやしてあげたりすることが出来るが、法令を順守し保護者と子供の物理的位置を車内で分離すると、面倒が増える上に、高速道路走行中などに子供が急に体調を悪くさせた時などに対応が出来ない。

なんでこんな無茶を義務化するのか。これまた自動車用品店やメーカーを儲けさせるためではないのか。

私の猜疑心をどなたか取り払っていただけないだろうか。

▼田所敏夫(たどころ としお)

兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎なぜテレビはどこまでも追いかけてくるのか?

◎《大学異論29》小学校統廃合と「限界集落化」する大都市ニュータウン

◎《大学異論28》気障で詭弁で悪質すぎる竹内洋の「現状肯定」社会学

◎《大学異論27》「学ぶ権利」を奪われたマスプロ教育の罪──私的経験から

◎《大学異論26》「東大は軍事研究を推進する」と宣言した濱田純一総長声明文

3月13日、雑誌の読者プレゼントの当選者数を実際より多く水増しして掲載していたとして、消費者庁は、漫画雑誌や漫画の単行本などを発行している出版社「竹書房」(東京・千代田区)に対し、再発防止を命じる行政処分を下した。

「要するに、雑誌に記載している当選者の数に対して、プレゼントをきちんと読者に送った数が少なかったのです。まあ、ありていに言えば『当選者がたくさんいるように装ったということ』です。かつて、秋田書店でも同じことをやり、罪に耐えかねて消費者庁に告発した社員がいましたが、これを見ればわかるように、消費者庁は、内部の社員からの告発がないと動かない。ところが、今回は、複数の社員が『景品を買えないのに水増し掲載した』という内部告発をしたと聞いている。まあ、悪いことをやらされているのに文句を言えない会社の体質にも問題があるのではないでしょうかね」(元社員)

消費者庁によると、一昨年8月までの1年ほどの間、「まんがライフ」や「まんがくらぶ」、「本当にあったゆかいな話」など7種類の漫画月刊誌、合わせて77冊で、読者プレゼントの当選者数を実際より多く水増しして掲載していた。(消費者庁リリースPDF

具体的には、当選者の数が1人なのに5人と掲載していたケースや、中には、当選者3人としながら誰にもプレゼントを送っていなかったケースもあったようだ。こうしたことから、消費者庁は、消費者に誤解を与えるとして竹書房に対し、景品表示法に基づき、再発防止を命じた。

命令について、竹書房は「真摯(しんし)に受け止め、社内の体制を強化して再発防止に取り組んでいきたい」とホームページに記載している。(竹書房ホームページ)。

◆昨年6月発表予定の文芸新人賞の選考結果がいまだ出せないのはなぜか?

「問題は、もうひとつある。実は、昨年の3月に文学賞を募集したのはいいが、発表が昨年6月末だったのに、いまだに発表がない。中には、『応募が少ないと困るから盛り上げるために投稿してくれ』と竹書房関係者に頼まれた日本推理作家協会の重鎮がいて、多数の弟子に投稿させたものの、まったくなしのつぶてで、その関係者は、挨拶なしで出版界から消えた。重鎮がぶち切れて、あちこちに話がまわってしまい弟子のみならず、作家たちの間で『ふざけるな。お前ら、あそこには書くな』という話になっていることです」(同)

もはや作家たちの間で「なぜ竹書房の文学賞の発表がなされないのか」は、ミステリーだが、これには、3つの説がある。ここのヒット作ではないが、まさにそれは謎として「都市伝説」になりつつあるのだ。

まずひとつは、「第2の佐村河内誕生を避けた」説だ。

「僕が聞いたのは、ある地下アイドルが応募してきたのが発覚したのですが、わりと力作だった。ところがちょうど佐村河内と新垣さんの『ゴースト』問題が起きた。それで『本当に本人が書いたのか』『確認しろ』という話となったが、事務所と出版社の力関係では事務所のほうの力関係が強く、確認しきれなかったという話です」(作家)

2つめは、「銀行からの警告により、ヤクザ雑誌を2つやめたのですが、それで腹を立てた暴力団関係者として知られるヤクザライターが、これみよがしに応募してきたようなのです。読んでみると、実はおもしろくて当確ラインから外せないとわかった。『作家としてはおもしろい作品を書いているだから、出自や仕事は関係ない』とする実力派編集者と、暴力団との交際が発覚すると銀行から融資を引きあげざるを得なくなるので、『見ないふりをする』という現実派がぶつかりあって結論が出ない」(編集プロダクション)という線だ。

3つめは、これは噂だが「経営難で、賞金を本当に払えなくなった」ということだ。

「実は、竹書房の場合、支払いは大手よりは安いかもしれませんが、滞ったとは聞いていません。ただ、少しでも安い印刷屋を探していたり、少しでも値引きがきく倉庫を探すため、血眼で情報集めをしていたりするので、そういう話に尾ひれがついて、経営難の噂があるのかもしれませんが」(元社員)

それにしても、もし払いたくないなら「該当なし」でアナウンスすればいいという声も多数ある。「1年近く、アナウンスしない文学賞はちょっと記憶にありません」(雑誌「公募ガイド」編集者)

応募した作家志望の人に聞いてみると「いつ電話しても『そのうち発表します。もう少しおまちください』と判を押したようにいわれるだけ。もしも、税務署対策かなにかで『文学賞募集』とホームページに出しただけだとしたら、これこそ読者への「もうひとつの裏切り」ではないですかね」とのこと。

◆400字詰めで200枚以上の文芸作品を募集しておきながら……

2ちゃんねる」 には、「文学賞 日本語読めぬ 審査員」「文学賞 その賞金は 俺のギャラ」などと、ここの文学賞を揶揄する川柳がたくさん並んでいる。

確かに、2013年には竹書房のホームページにはこのように出ていた。ログもある。
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●募集概要
ジャンル:自作未発表(電子書籍、ホームページ上での発表含む)の長編エンターテインメント文芸作品、ジャンル不問
・枚数:400字詰め200枚以上 手書き原稿不可
原稿には必ずノンブル(ページ数)を入れ、原稿の表紙にタイトル、氏名(本名・ペンネーム共に入れる)、年齢、住所、電話番号、メールアドレス、略歴を明記する
原稿用紙3枚程度の概要(あらすじ)をつける
・締切:2014年3月未
・発表:2014年6月未 竹書房ホームページ上にて
・応募先:102-0072 東京都千代田区飯田橋2-7-3 株式会社竹書房
「第1回 竹書房エンターテインメント文芸新人賞」係
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「バカにするにもほどがある。金輪際、文学賞を設けてほしくない。まじめに応募した人に対しても、きちんと責任をとるべきです」(日本推理作家協会会員)

「もしこのまま発表されないとしたら、残念ですね。けっこう応募した生徒たちが楽しみにしていたので」(小説教室主宰者)

竹書房よ! これ以上、読者や作家をバカにするなら、ほかの国でやっていただきたい。少なくとも読者は汗水流して働いた金で雑誌を買い、懸賞を楽しみし、作家志望者は懸命に知恵を絞って執筆し、文学賞に作品を投稿したにちがいないのだから。

(鈴木雅久)

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