3月7日、久しぶりに高槻市の水戸喜世子さんのご自宅にお邪魔した。2月14日、仙台高裁で2回目の期日が開かれた「子ども脱被ばく裁判」の控訴審と、1月27日、3・11の原発事故の被ばくにより甲状腺がんを発症した6人の若者が東電を訴えた「311子ども甲状腺がん裁判」について、お話を伺ってきた。 (聞き手・構成=尾崎美代子)

 

水戸喜世子(みと・きよこ)さん 子ども脱被ばく裁判の会・共同代表。1935年名古屋市生まれ。お茶の水女子大学、東京理科大学で学ぶ。反原発運動の黎明期を切り開いた原子核物理学者・故水戸巌氏と1960年に結婚後、京大基礎物理研究所の文部教官助手就任。1969年「救援連絡センター」の設立に巌氏とともに尽力。2008年から2年間中国江蘇省建東学院の外籍日本語教授。2011年3月11日以降は積極的に脱原発・反原発運動にかかわる

◆「子ども脱被ばく裁判」5つの争点

水戸 2月14日の2回目の期日は、私は体調が悪くて行けませんでしたが、井戸謙一弁護士から頂いた期日報告に沿っておおまかに説明します。

1つ目は、国の意見の中に「1ミリシーベルトの被ばくをしない利益が法的保護に値しない」というのがあります。この1ミリシーベルト被ばくしても当たり前という国の言い分に対して弁護団は、1ミリシーベルトがどれだけ危険かと準備書面で反論しました。ICRP(国際放射線防護委員会)は、100ミリシーベルト以上浴びると癌で死ぬ確率が0.5%高まると主張しているので、それに基づいて計算すると1ミリシーベルト浴びると年間350人が死ぬことになる。

一方、日本の環境基本法は、大雑把に言って生涯それを飲み続けた場合に、10万人に1人がん死するようなものを「毒物」と規定しています。東京の豊洲市場の地下水が汚染され、ベンゼンが検出されたが、それをずっと飲み続けると10万人に1人以上が亡くなるということで大騒ぎになった。一方で1ミリシーベルト被ばくすると、10万人中350人の死者が出るという環境を放置していいというのが「法的保護に値しない」という内容で大嘘ですね。

2つ目は、「裁量論」についてです。判決では、安定ヨウ素剤を飲ませなかったのも、スピーディーを公開しなかったのも、授業再開も行政の裁量権の範囲内であるというものでした。つまり、法律で決められていることもあるが、決められてないこともある。放射線に関しては事故を想定してないから、決められてないことのほうが多い、そのときは、行政の裁量権に任すしかないというわけです。

── ヨウ素剤を飲ませる、飲ませないも、各自治体、現場の判断に任せると。

水戸 そう。でもそれは違うでしょう。命に関わる重要なことを行政が勝手に決めていい訳がないというのが、弁護団の言い分です。法の取り決めがない場合、では何を根拠にするかというと、1つは憲法、もう1つは国際法です。 それを準備書面の[5]で提出しましたが、未完成だったので、次回に改めて提出します。

── 国は、控訴人らによる「被災者の知る権利」の主張に対し、反論を拒否したとありますが、反論を拒否するとは?

水戸 「あなたたちは独特の理論を主張しているから、勝手にやってください」という態度だと、井戸弁護士は仰ってました。この裁判は、前に話したように、放射線についての国内法が整備されていないのですから国際人権とか憲法とか、もっと大きな土台の上でやっています。放射線に対する規制がないからなのです。環境基本法にもやっとこの間、放射線の項目をとりこむことはできたが「教室なら、この線量以下で」とかの基準とすべき具体的な数字は、今も一切出ていません。いかに安全神話のうえにあぐらをかいていたかということですよね。

「子ども脱被ばく裁判」裁判前集会(武藤心平さん撮影)

── 3つ目の、控訴人が「国賠訴訟」を追加したというのは?

水戸 子ども人権裁判は義務教育を受けている子どもが原告になって訴訟をおこしたが、もう中学生が4人しかいなくなった。それで裁判が自動消滅したら困るので追加訴訟を加えました。安全なところで義務教育を受けられなかったので損害賠償をしろと。でも、福島市、郡山市、いわき市は、裁判の途中で新たに追加するのは「違法だ」と異議を申し立ててきた。裁判長もちょっと首をかしげてます。次回却下されるかもしれないが、さらにしっかりと反論していくことになります。

4つ目が、危険な環境の施設で教育をしてはいけないという原告の要求に対して裁判長から、地方自治体の学校指定処分とどのような関係になるのか、子どもがいれば学校を作るという規則がある、でも今の学校では線量が高いから教育を行ってはいけないということの関係性はどうなるのですかと聞かれ、次回弁護団から説明することになりました。一時的に線量の低い地域に避難して教育を継続出来るのですから矛盾することではありません。安全な環境で教育をうける権利という教育基本法を根拠に反論していくでしょう。

5つ目は、原告の意見陳述で、Aさんが、無用な被ばくをさせられてしまったため、子どもに何か体調が悪いことがあると、被ばくと結び付けて考えてしまうという苦しさについて述べられました。

「子ども脱被ばく裁判」街頭で訴える(武藤心平さん撮影)

◆「311子ども甲状腺がん裁判」甲状腺がん発症者6人による生身の訴え

 

「311子ども甲状腺がん裁判」報告集会の様子

── 先日、東電を提訴した6人の訴訟ですが、弁護団は子ども裁判とほぼ一緒だそうですが?

水戸 ええ、私たちは無用な被ばくをさせられたこと、安全な環境で教育を受ける権利を争っていますが、6人の訴えは生身の訴えですものね。一見理念的にみえた子ども脱被ばく裁判が突如リアリティを伴って立ち現れた思いがして衝撃でした。6人は実際に甲状腺がんを発症し、全員が2回から4回の手術を受けている。経緯は子ども裁判の主張と完全に一致するので、脱被ばく子ども裁判弁護団は全員入り、ほかに海渡弁護士なども加わり、弁護団がつくられています。17歳から27歳までの若者が自分の人生をかけて法廷に立つのですから、何としても勝利したいと思います。

── 提訴後の報告会に私も出席しました。皆さん、10年間孤立していた。先日、井戸弁護士と河合弁護士が出席した日本外国特派員協会の記者会見で、6人の方々は河合弁護士のところに相談にきたと仰ってましたが。

水戸 崎山比早子さんが代表で河合弁護士に関わっておられる「3・11 甲状腺がん子ども基金」などでも繋がる機会はあったんでしょう。福島県立医大は嫌だからと避難先の病院で見てもらっている人もいるし、患者さんは孤立していて、繋がるのは本当に困難だったと思います。その意味でも氷山の一角ですね。「黒い雨裁判」の原告を足を棒にしてつないで歩いた高東征二さんのご苦労から学ばねばと思います。

── 今後、子ども裁判と6人の裁判はどのように闘われるでしょうか。

水戸 全く別の裁判として展開されるのは当然ですが、私は、子ども裁判には、絶対「黒い雨裁判」の成果を取り込まないと勝てないと思っていて、子ども裁判の通信に書かせて頂きました。まだ弁護団のなかで話しあわれてはいませんが。

「黒い雨裁判」の一番のポイントは、黒い雨には明らかに放射能が含まれていて、降った地域の野菜を食べたり、空気を吸って内部被ばくしたことを認めたこと。広島県がとても偉いと思うのは、アンケート調査を何度もやり、降雨地域で病気になった人が非常に多いという事実をつかんだこと。これは外部被ばくだけでは全く説明がつかない。だから残留放射線を浴びた人、食べ物や空気から放射線を吸った人が内部被ばくしたということを、広島地裁も高裁も認めたわけです。地裁は、国の決めた11の疾病にり患していることを根拠にしたが、高裁は、内部被ばくは晩発性だから、今そういう病気がでていなくても、いつでてくるかわからないから、黒い雨を浴びた人全員被ばく者と認定した。そうしないと、一般のがん患者と放射線によるがん患者の区別は今の医学では因果関係を証明できないと思います。本質の到達出来ない時には、現象から迫るのは科学の手法であると、武谷三男の三段論法論で説かれていますけどね。

6人の裁判は「311甲状腺がん子どもネットワーク」が中心に支援していますが、私たちの子ども裁判も実質的に支援していきます。6億円超の損害賠償を求めていますから、訴状の印紙代だけでも大変な額になります。裁判をおこすということは本当に大変。でも一人1億円なんて、若い人の一生涯のことを考えると、小さな額だと思いますよ。 とくに親はどんなに辛いかと思いますよね。私たちの力不足を若者たちにお詫びしたいです。今回のウクライナもそうですが、私は、大人の愚かさのために、無邪気な子どもたちが犠牲になることだけは本当に耐えられません。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)3月11日発売開始

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌
季節 2022年春号
『NO NUKES voice』改題 通巻31号
紙の爆弾2022年4月増刊

2022年3月11日発売
A5判 132頁(巻頭カラー4頁+本文128頁)
定価 770円(本体700円+税)

事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

《グラビア》福島第一原発現地取材(写真・文=おしどりマコ&ケン
《グラビア》希釈されない疑念の渦 それでも海に流すのか?(写真・文=鈴木博喜

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国政選挙で原発を重要争点に押し上げよう
7月参議院選挙で「老朽原発阻止」を野党共通公約へ
《全国》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《全国》石鍋 誠(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
《六ヶ所》中道雅史(「4・9反核燃の日」全国集会実行委員会)
《東海第二》野口 修(東海第二原発の再稼働を止める会)
《反原発自治体》反原発自治体議員・市民連盟
《東海第2》披田信一郎(東海第2原発の再稼働を止める会)
《東京》佐々木敏彦(東電本店合同抗議行動実行委員会)
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《伊方原発》秦 左子(伊方から原発をなくす会)
《規制委・経産省》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク/経産省前テントひろば)
《読書案内》天野恵一(再稼動阻止全国ネットワーク事務局)

《反原発川柳》乱鬼龍

季節編集委員会
我々はなぜ『季節』へ誌名を変更したのか

私たちは唯一の脱原発情報誌『季節』を応援しています!

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B09TN1SL8X/

日本では2011年3月11日にまだ生まれていなかった子どもたちが既に小学校に通っています。同時に大地震の頻発、原発事故からCOVID-19(新型コロナウイルス)のパンデミック、そして20世紀に最大限懸念された「核」戦争の危機に、今日全人類は直面しています。

 

『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)3月11日発売開始

ロシアのウクライナ侵略へ、国際社会が強い非難を浴びせていますが、日本国内では「こんなことになるから核武装をしなければならない」、「憲法9条で国は守れない」、「米国と核兵器をシェアーしよう」などと、火事場泥棒的な猛烈に無茶苦茶極まる発言が元総理安倍晋三や維新の松井一郎代表などから聞かれます。

私たちはこれらの暴論を「ふざけるな」と踏みつぶします。今次のロシアによるウクライナ侵略は、細部にデリケートな要因があるにせよ、間違いなく暴挙です。そしてロシアが侵略後、いち早く「原子力発電危機の象徴」である「チェルノブイリ原発」を支配したのは、「原発」が持つ危険性と、国際紛争にあっては「兵器」として機能する危険な存在であることを示した、と理解すべきではないでしょうか。

このような侵略行為が始まれば「核による抑止力」などは一切通用せず、「原発」が核兵器同様に扱われることが、侵略者ロシアによって明確に示されました。これまで本誌を愛読していただいた皆さんも「まさか21世紀にこんな戦争が起こるなんて」と驚いている方が多くいらっしゃることでしょう。私たちも同様です。ロシアによるウクライナへの全面侵略などは、正直予想できませんでした。

◆戦争がなくても「原発」は危険だ

ただし、私たちは平時においても「原発が核兵器同様に危険である」ことは創刊以来感じていましたし、これまで原稿を寄せていただいた、多くの皆さんに指摘していただいた通りです。福島第一原発の大事故により、290名を超える若者が甲状腺がんに罹患してしまいました。政府・福島県や無恥な政党(自民党・維新・国民民主党)はこの明確な健康被害に、「風評被害」とトンデモない言いがかりで応じていますが、僅か10年ほど前の事実すら理解できない、これらの人々に政治を任せるわけにはいきません。

◆なぜ『季節』と誌名を変えたのか

『季節』と誌名を変更した理由については、本日発売の誌面の中で詳述しております。是非手に取ってお読みください。そしてお知り合い、ご友人に広めてください。

少しだけ誌名変更のエッセンスをご紹介しましょう。世界の多くの国には「季節」が廻り、なかでも日本には四季があります。春夏秋冬、落葉樹はそのいでたちを変えながら次の年を迎えます。冬眠する動物もいます。私たち人間の生は長くとも100年程度ですが、私たちが生まれてくる遙か昔から、いま生をうけた私たち全員がこの世から消えた未来にも、過去と変わらずに春夏秋冬は廻ることでしょう。

このような長大な歴史の中で、人間が地球史的にはごく短時間に、犯してしまった間違いの象徴が「原発」だといえるのではないでしょうか。人間みずからの存続はもとより、生態系を破壊するほどの暴走を、原発(核)は持っている、このことを再度肝に銘じたいと思います。残念ながら原発(核)の廃絶には、その汚染物質の処理を考慮に入れれば、最も希望的な観測に基づいても、現在科学の力では数十万年を要します。

私たちは日本だけでなく、世界中の原発の即時停止、廃炉を求めるものですが、仮にその夢が叶ったとして汚染物質の処理には、気が遠くなるような時間が必要です。その間にも「季節」は幾たびも廻るでしょう。今次の侵略戦争での侵略者による「原発」の扱われ方は、そのことへの再度の警鐘です。

2014年の創刊から8年、『季節』は「原発」を絶えまなく凝視しながら、時代・文明の病・欺瞞を突く総合誌への発展を目指し、本日再出発します。ご支援をお願いいたします。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌
季節 2022年春号
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2022年2月24日、ロシアのプーチン大統領は「平和維持活動」と称してウクライナへの侵攻を開始。ロシアが世界最大の核兵器保有国であることを強調しています。プーチン大統領の行動は、核兵器による威嚇という、核兵器禁止条約(ロシアは加入していないが、50ヶ国以上の批准で国際法としては発効している)で禁じられている行動でもあります。相手を切りつけまではいかなくとも、日本刀を抜いて見せびらかしているような話です。さらに、ロシア軍はチェルノブイリ原発を奪取。ウクライナには14の原発があり、万が一「原発戦災」になれば、それこそ地球滅亡にもつながりかねません。

これに対して被爆地の広島と長崎の市民有志がよびかけて、開戦3日目の2月26日、広島の原爆ドーム前と長崎の爆心地公園で同時に以下のプラカードを掲げ、プーチン大統領に侵攻をやめるとともに、威嚇を含めて核兵器を使わないよう求めました。

11時2分、60人の参加者は一斉にプラカードを掲げました。これは、長崎に原爆が投下された時間に合わせたもので、「核兵器使用は長崎で最後にしてほしい」(呼びかけ人のひとりの安彦恵里香さん、写真)との願いをこめてのものです。

2003年のイラク戦争のときは、2ヶ月前からアメリカがイラクを攻撃することが火を見より明らかでしたので、抗議デモも多くの人が参加しました。しかし、今回のロシアによるウクライナ侵攻は急なことです。それでも「どれだけ人が集まるか心配だっただがSNSなどを通じておもったより多くの人が参加」(安彦さん)しました。

今回の行動は「ロシアの人(一般市民)も巻き込まれただけだとおもう。市民同士でつながっていきたい」と、ロシアでもデモなどに参加して戦争に反対する人が少なくないことを念頭に、市民の連帯を重視したものです。

以下はステートメント《日本語》です。

私たちは、77年前に被爆した広島・長崎に暮らす市民です。

2月24日、ロシアはウクライナへの軍事攻撃を開始しました。プーチン大統領は、今回の軍事攻撃開始にあたって、核兵器使用の可能性を繰り返し述べています。また、ウクライナには15基の原発があり、ロシアはすでにチェルノブイリ原子力発電所を占拠したとの報道があります。私たちは、核兵器がもたらす破滅的な被害を知る被爆地の人間として、今回の争いが核による惨事を引き起こさないか憂慮しているとともに、核による脅威を振りかざすロシアに強く抗議します。

被爆から77年、未だ被爆者たちは原爆による健康被害とその不安に苦しみ続けています。被爆者たちはこうした自分達や家族が受けた苦しみから、核兵器を「人間として生きることも死ぬことも許さない」兵器であると訴えてきました。もう二度と、ヒロシマ・ナガサキをくり返してはなりません。

戦争で傷つくのはいつでも力のない市民です。私たちは、ロシアに国際法と国連憲章のもとに、市民の命や生活を脅かす全ての軍事行動を今すぐに停止することを求めます。そして、国際社会に軍事力ではなく、外交努力による平和を追求することを求めます。

NO MORE HIROSHIMA
NO MORE NAGASAKI
NO MORE WAR

2022年2月26日
広島・長崎の有志一同

広島:安彦恵里香、川崎梨乃、田中美穂、高垣慶太、高橋悠太
長崎:林田光弘

以上

◆ウクライナが核兵器を放棄しかったら偶発的核戦争の危険が増大するだけ

さて、今回のウクライナ侵攻をめぐって、日本でも「ウクライナは核兵器を放棄したから、ロシアに侵攻された」「だから、日本も核武装、憲法9条改正を」という意見が強まっています。このことについては、参加者の中からも危機感を感じました。

たしかに、ソビエト崩壊時にウクライナには世界第三位の核兵器が「放置」されました。しかし、中英仏を上回る核兵器を人口が4000万程度いわゆる中進国のウクライナが維持でできるかといえばそれはできないでしょう。核兵器をソビエトの後継国家であるロシアに返すしか、選択肢はなかったわけで「たら、れば」はナンセンスです。

よしんば、核兵器をウクライナが所持していればむしろ全面核戦争の危険はまします。キエフとモスクワはミサイルで数分の近さです。モスクワとワシントン、北京とワシントンの距離なら正体不明の飛翔体が確認された場合、相手国を問いただす時間があります。しかし、モスクワとキエフの距離だと時間はないです。正体不明の飛翔物体がうちあがった場合、「問答無用」で核ミサイルを相手にぶっ放すしか生き残る道はない、という判断を指導者がすることになります。誤解による偶発的核戦争の危険が非常に高まります。

また、そもそも、旧ソビエトが崩壊した時点ではNATOは無用の長物でした。解体するか、ロシアもふくむOSCEを主たる欧州の集団的安全保障の枠組みにするか?また、ウクライナなどについては、中露(つい最近まで国境が確定しないなどかなり緊張関係もあった)に挟まれたモンゴルのような非核兵器地帯にするなどの方策もあったはずです。それをせずに、ロシア抜きのNATOをロシアに接するところまで拡大した西側も調子にのりすぎた感はいなめません。反作用としての、ロシアのウクライナへの圧力を招いたのも否定できません。こうした外交プロセスがどうだったか?検証もせずに、核武装だ、憲法9条改正だ、というのはナンセンスです。

もちろん、だからといって、プーチンが一般市民も巻き添えにし、原発事故の危険すら顧みずにウクライナを攻撃したのは全く正当化できません。今の時点ではとにかく、戦争をやめさせるのが最優先です。ともかく、まるで、核兵器を放棄したのが悪いなどという議論は、一歩間違えれば、核保有国は非核国に対して何をしてもいい、ということになりかねません。あるいは、核戦力の増強に突き進む朝鮮の金正恩総書記を喜ばせるだけです。

◆戦闘停止と核不使用を迫ることが最優先 余計な核武装・改憲議論は核へのハードルを下げるだけ

核兵器の悲惨さは、核保有国も非核兵器国への核兵器の使用を躊躇する背景になってきました。

「こんなひどいものを使えば国際的な非難をあびて自分は失脚するかもしれない。」と思って核兵器の使用をためらった例は少なくありません。有名な例は、朝鮮戦争で当時は非核国だった中華人民共和国(国連的にはまだ中華民国が正統性を認められていた時代)への核兵器の使用をアメリカが検討したが断念した例はあります。あるいは、ブッシュ政権時代のアメリカはイラン、イラクやシリアなどについては「核兵器の使用をふくむ先制攻撃」を国家戦略としていました。イラクやシリアは攻撃しましたが核兵器は結局使いませんでした。核保有国に対してはとくに日本政府も広島・長崎の市民も先頭に立って、核兵器の非人道性をきちんと訴え、使用をあきらめさせる国際世論を維持・強化していくべきです。日本政府があまりやる気がない以上は市民がやるしかないでしょう。 

世界で最初の核兵器被害を受けた日本が、プーチンの土俵に乗って、核武装、憲法9条改正などと言い出せば、核保有国の核兵器使用や、非核国の核兵器開発へのハードルを下げることにもなりかねません。

もちろん、日本には石油などの値上がりの影響も及びます。それについて、たとえば、ガソリン税ゼロとか消費税ゼロなどで市民生活のこれ以上の困窮を防ぐのも大事な議論です。

ロシアでも26日現在でデモが60都市で行われ、1800人以上が拘束されたそうです。日本は事実上の一党独裁下とはいえ、言論の自由はロシアに比べればまだまだあります。しっかり行使をしていきましょう。ロシアの国内外の声でまず、核兵器の使用という最悪の自体を食い止めていきましょう。

◆長崎市民も参加してビキニ・デー講演会 「長年の核被害の軽視がプーチン暴走を後押し」

同じ26日は、午後には広島県原水協の主催で3.1ビキニ・デーの集会がオンライン併用で行われました。オンライン併用という特色を生かして、長崎の市民の方も参加しました。

1954年3月1日のビキニ環礁における水爆実験は、筆者の小学生時代には「第五福竜丸事件」と言われたものでした。しかし、実際には高知県など、多くの日本漁船、そして現地住民が被害を受けたことから、ビキニ・デーという呼称が定着しているようです。この事件を契機に原水爆禁止運動が高まったのは周知の事実です。

2022年ビキ二デーは、元広島平和研究所職員で今は奈良大学教授史学科の高橋博子さんが「封印された放射性降下物~黒い雨・ビキニ水爆被災」と題して講演されました。

40数年にわたる運動の結果、「黒い雨」訴訟は広島高裁でも“全面勝訴”しています。地裁判決をさらに踏み込み、11疾病に罹患していなくても当時その地域に居住し、放射性降下物にさらされた人全員を「被爆者」と認定することを命じています。しかし政府は、11疾病に罹患していることにこだわり、司法の判断を無視しようとしており、広島市もこれに屈しています。ビキニ水爆被災の真相をわずか7億2000万円の見舞金と引き換えに隠蔽・封印、福島原発事故の放射線被害の解明にも後ろ向きの日本政府の責任を厳しく批判する趣旨です。

高橋さんは、1950年に米軍が長崎の西山地区という場所で放射性降下物質を調査したにもかかわらず、全くそれが報告されていないこと、また、仁科博士が同じく1950年の遺稿で「西山地区の放射能は強い」「住民の白血球が高」と書き残していることを紹介。しかし、こうしたことが最近まで隠蔽されてきており、その隠蔽工作を2021年8月9日のNHKスペシャルがあばいたが、政府は現在でも「塩対応」だそうです。

そもそもが、ヒバクについての研究がアメリカ主導で、放射性兵器の開発のために行われてきたわけです。また、民間防衛のためにも行われてきたそうですが、その内容は「6000ミリシーベルトの放射能を浴びても何人か生き残る可能性がある」などというお粗末なものでした。

冷戦が終わったとき、核兵器がなくなるかも、という期待が広がりましたが、実際には「アメリカは力で冷戦に勝った」という神話がひろまってしまった、と高橋さんは、指摘。核の非人道性が十分問題とされないまま現在にきてしまった。日本政府も及び腰の中で、プーチンら旧東側も、バイデンら西側も核兵器の非人道性を十分認識しないまま、今に至っていることが、今回のウクライナの事態の背景にある、と厳しく批判しました。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

 

鈴木さんが自費出版した詩集「棄民の疼き」

「ふるさとの復興」
大平山霊園 災害公営住宅建設
「道の駅なみえ」オープン 請戸漁港再建
常磐線全線開通 世界最大水素工場や
県最大酪農牧場計画策定等々
視える確かな復興事業
中には待ち焦がれる帰還を疎外する施策も

2万1000人の町民
避難指示解除4年で帰還者7%
創生小中学校開校
1700人程の児童生徒は26人に
小中学校誰しも抱く心の拠り所
請戸小学校は震災遺構で保存決定
5つの小中学校は
閉校式もなく解体決定
住民意向調査の結果
「帰還しない」は54・9% 過半数を超えた
「要介護認定率」は郡内最大の増加23%超

住んでいない避難町民からも固定資産税や住民税を徴収
まるで核災がなかったかのよう…
余にも理不尽な政府の圧政・収奪
更にコロナ禍での生活困窮
「被災者に寄り添う」?
喜びより恨めしさがつのる
ふるさとの復興
(初出2021年3月「コールサック」第105号)

原発事故発生から間もなく丸11年。確かに浪江町役場周辺の景色は一変した。立派な道の駅が完成し、イオンもできた。常磐線が全線開通した。海側では、津波で壊滅的な被害を受けた請戸漁港が再建され、町立請戸小学校は震災遺構として残された。では、原発事故は「終わった」のだろうか。もはや「過去の出来事」なのだろうか。

自らを含む原発事故の被害者を「核災棄民」と名付けた鈴木さん。2019年5月の第1回口頭弁論では、法廷での意見陳述でこう訴えた。

「福島第一原発の事故は、巨大な人災です。核の人災です。加えて、浪江町は原発隣接地であるにもかかわらず、町民にはバスなどの避難手段も汚染の情報も国から提供されませんでした。浪江町民は皆、国から見棄てられた『棄民』です」

原告団長として先頭に立って国や東電と闘っている鈴木さん(右)。「浪江町民は国から見捨てられた『棄民』だ」と訴える

原発事故後の「棄民政策」は、町のシンボルでもある学校までをも奪う。

詩で触れられている「5つの小中学校は閉校式もなく解体決定」とは、大堀、苅野、幾世橋、浪江の4小学校と浪江中学校のこと。

卒業生から「希望者全員が参加出来るよう校舎見学会と閉校式を行ってください。それまで、校舎の解体を延期してください」と求められたが町は拒否。現在はすっかり取り壊された。背景には、環境省が国費での解体申請に期限を設けたことがあった。原発事故がなければ閉校する必要などなかったのに、加害当事者(国策として原子力発電を推進してきた)である国が「解体費用を出したくなかったら、さっさと解体を決めて申請しろ」と町に迫り、町もそれに従った。そこには原発事故に翻弄された卒業生たちの想いなどなかった。東京五輪の聖火リレーで出発地となった浪江小学校では、解体番号が書かれた看板が一時的に取り外され、復興の〝演出〟が終わるとあっという間に解体された。

2018年11月27日の提訴から今秋で4年。これまでの弁論期日では書面のやり取りばかりで、原告からは「判決はいつになりそうなのか」など、いら立ちとも中だるみとも言える言葉が出てくる。高齢であればなおさら「のんびりと裁判している時間などない」と考えてもやむを得ない面もある。このタイミングで詩集を配る背景には、改めて原告みんなで団結して裁判に臨みたいとの想いがある。

「『4年経っても、ちっとも前に進まないじゃないか』と考えている原告もいると思います。でも、今年は大きなヤマ場を迎えます。原告一人一人の本人尋問が始まります。5月には、現地進行協議という名目で裁判官が浪江町を視察します。その山に向かって、みんなでもう一度心をひとつにして闘いましょうという想いも詩集にはこめられているのです」

詩集の最後のページに収められたのは「歩み固かれ 目は遠く」という詩だ。

「性差別とか人種差別とか、世界中にいろいろな運動がありますよね。われわれの闘いもそれらに含まれるんだよと。われわれの裁判闘争にも希望を持っていただきたいということなんです。『歩み固かれ』というのは、みんなでしっかり団結して一歩ずつ前に進んで行こうという意味です。『目は遠く』というのは、勝利は遠く向こうにあるけれども、しっかり歩いて行けば自分たちの手に入れることができるということ。この言葉は、土井晩翠が作詞した県立双葉高校校歌の4番の一番最後の歌詞なんです。われわれも一歩ずつしっかり裁判を積み重ねて、そして勝利を目指してがんばろう。世界中で多くの人々がこういう運動をやっているんだよ、われわれだけじゃないよという希望をこめて書いたんです」

詩「歩み固かれ 目は遠く」には「浪江町民の闘いも世界中のさまざまな社会運動の1つ。闘っているのは私たちだけじゃない」という原告たちへのメッセージが込められている

60代で震災・原発事故に被災した鈴木さんも71歳になった。

「6月28日で72歳になります。年男です。前町長の馬場有さんは私の誕生日の前日に亡くなったんだよね。詩集を11月27日に発行したのは、提訴日だからです。では、なぜ11月27日に提訴したかというと、馬場さんの月命日に提訴したいという弁護団の想いがあったからなんです。弁護団は馬場さんとずっと一緒に集団ADRをやってきましたからね。それで月命日に提訴しようということになった。馬場さんの奥さんにも『墓前に供えてください』と詩集を贈りました。ちょっとした言葉や数字にも、私なりの想いがこめられているんですよ」

印刷代など全て自費。200部印刷し、弁論期日に駆け付けた原告などに無償で配っている。

「書店などで一般に販売しているものではなくて、個人的に200部印刷して持っているわけですから、電話をいただければ私から直接、送ります。無料で郵送しますよ」

詩集の希望者は鈴木正一さんの携帯電話090(8927)5640まで。

◎鈴木博喜「浪江町民の鈴木正一さんが詩で綴る〝原発事故棄民のリアル〟」
〈上〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=41937
〈下〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=41944

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年3月号!

〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』vol.30(紙の爆弾 2022年1月号増刊)

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◎鹿砦社 http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000689

福島県双葉郡浪江町民が申し立てた集団ADR(裁判外紛争解決)での和解案(慰謝料一律増額)を東京電力が6回にわたって拒否し続けた問題。国や東電を相手取って起こした「浪江原発訴訟」の原告団長として721人の先頭に立って闘っている鈴木正一さん(71)が昨年11月27日、詩集「棄民の疼き」を自費出版した。原発事故で国や東電に棄てられた人々のリアルな怒りが哀しみを言葉で紡いだ背景には、4年前に亡くなった前町長の想いや長引く裁判闘争で疲弊する原告たちの団結を願う気持ちがあった。

 

鈴木さんが自費出版した詩集「棄民の疼き」

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東電の社長さん!
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廃炉指揮の社宅として
私の終わりの住処いかがですか?

2年以上も前に避難指示は解除
続いて内閣府の行政指導で今年度から固定資産税が課税
よくご存知ですよね
第一原発から10㎞未満の近さ
これからの原発事故にもすぐ駆けつけて行けます
放射線量は原発管理区域の1・5倍
あなた達が言う安全なところです
放射線被曝も毎日体験できますよ
世界の中でもここにしかないお買い得物件です
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(初出2019年9月「腹の虫」第10号)

強烈な皮肉がこめられた風刺詩。

「私の家を買えるかって。安全だと言っているけれど買えないでしょう。そういう想いでつくった風刺詩なんですよ。汚染水の海洋放出問題もありますしね」

避難元自宅のある地域は福島第一原発から北西約9キロメートル。事故後に居住制限区域に指定され、南相馬市内に新たな住まいを確保した。2017年3月末で政府の避難指示が解除され鈴木さんは自宅を修繕して戻った。

「一昨年に改築を始めたんです。亡くなった馬場有町長が『まさかずさん、あそこ(自宅前のため池)を除染したら帰って来てくれるかい?』と言うから、私は『そのつもりでお願いしているんだよ』と答えました。で、汚染も酷かったこともあって一番最初にやってくれた。馬場町長は2018年6月27日に帰らぬ人となってしまったけれど、私は自宅に戻りました。実は、馬場町長がこの裁判の原告団長になるという話もあったんですよ」

浪江の自宅と娘の暮らす南相馬を行き来する生活。浪江で生活する時間が多くなったが、それは馬場町長との約束があったから。被曝リスクへの懸念はある。自宅の庭は3度にわたって除染されたが、3回目の除染後に行われた環境省による測定でも空間線量は毎時1.8マイクロシーベルトに達した。これが、詩で言う「あなた達が言う安全なところ」の現実。2019年5月の第1回口頭弁論で意見陳述した鈴木さんは、こう述べている。

「放射線管理区域の基準である年5.2mSvを上回るのに、国から『年20mSvが基準だ』と説明されて避難指示が解除された。しかも先日、固定資産税の納税通知書が届きました。放射能に汚染されたままで利用出来ない土地や家屋にも、情け容赦なく課税されていくのです。原発事故被害の実態を見ようともしない、政府の非情な政治判断の一例です。これが『被災者に寄り添う』と言っている者の真の姿です」

昨年末の時点で「浪江町に住んでいる人」として町役場が公表しているのは1788人だが、この数字には除染や復興事業の作業員なども含まれている。震災・原発事故発生時に町内で暮らしていて戻った「町民」は1200人を上回る程度。一方、町に戻れていないにもかかわらず、土地や建物へ固定資産税を課されている町民は少なくない。

浪江だけではない。富岡町から神奈川県内に避難した男性も「福島原発かながわ訴訟」の控訴審で同じような意見陳述をしている。各種減免措置の終了は、避難指示区域からの〝強制避難者〟に重くのしかかっているのだ。男性は、法廷で次のような趣旨の意見を述べた。

「原発事故後は減免されていましたが、今年度から満額の固定資産税を請求されるようになりました。評価額が低いから固定資産税といっても年1万円にならない程度だけれど、死ぬまで払い続けなければなりません。本当は処分したいですが、買い手などつきません。売りたくても売れないんです。年齢や放射線量を考えると、改めて自宅を新築するなど難しい。結局、処分できない土地と固定資産税だけが残ったのです…」

国や東電による原発事故後の「棄民」に対する怒りを綴った鈴木正一さん

鈴木さんは「東電に払わせるべきだ」と語気を強める。

「土地を持っていると、浪江に住んでいなくて固定資産税を払っている人もいるわけですよ。本来であれば東電に払わせるべきだと思います。避難しているにもかかわらず浪江で暮らしているかのように税金もとられるようになっていく。これから国保税などの減免もなくなる可能性もあるのです。まったく『被災者に寄り添う』なんて良く言いますよね」

そもそも裁判など起こさなくても良かったのだ。東電が原発事故被害者と誠実に向き合ってさえいれば…。

浪江町民が2013年5月に申し立てた集団ADR(精神的損害に関する賠償の増額など)で、東電は原子力損害賠償紛争解決センター(ADRセンター)が提示した和解案を実に6回も拒否した。ADRセンターが再三にわたって受諾を勧告しても東電の姿勢は変わらなかった。

東電は「3つの誓い」の中で「最後の一人が新しい生活を迎えることが出来るまで、被害者の方々に寄り添い賠償を貫徹する」、「原子力損害賠償紛争解決センターから提示された和解仲介案を尊重するとともに、手続きの迅速化に引き続き取り組む」と〝宣言〟している。しかし和解仲介案に対する振る舞いは、自らが立てた「誓い」からはほど遠いものだった。加害者意識に乏しいと言わざるを得ない東電の態度。2018年3月26日にも東電が受諾を拒否したため、同年4月5日をもって集団ADRは打ち切られた。鈴木さんたち109人は馬場前町長が亡くなってから5カ月後の2018年11月27日、福島地裁に提訴した。国や東電に慰謝料の支払いを求めている。今年は原告本人尋問が始まる。

馬場前町長の命日が6月27日、提訴日が11月27日。そして、詩集の発行日も11月27日。詩集には、集団ADRの先頭に立ち続け、志半ばで逝った馬場有さんの想いも詰まっていた。(つづく)

「憂える帰還」では、汚染水の海洋放出計画に疑問を投げかけている

◎鈴木博喜「浪江町民の鈴木正一さんが詩で綴る〝原発事故棄民のリアル〟」
〈上〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=41937
〈下〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=41944

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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1月27日、3・11の原発事故時、6歳から16才、現在17才から27才になった男女6人が、原発事故に伴う被ばくで小児性甲状腺がんを発症したとして、東電に損害賠償を求めて提訴した。

16時から衆議院第一会館で支援集会が行われ、声を上げにくい状況のなか、訴えを起こした勇気ある6人の原告を応援しようと大勢の支援者らが集まった。

1月27日、午後1時に東京地裁に入廷する弁護団と原告、支援者

 
まずは、弁護団長・井戸謙一弁護士が説明された訴状の概略を紹介する。
 
原告は6名は今現在17歳から27才、いずれも当時福島県に住んでいた。中通りが4人,会津が1人、浜通りが1人で、甲状腺がんが発見され、全員摘出手術をうけている。最初は半分摘出、うち4名が再発し、全摘になった。全摘するとRAI治療(大量内用療法)をしなくてはならない。甲状腺組織が取り切れてないと、残った甲状腺組織ががん化し、甲状腺組織を全部潰してしまうため、病気の原因となった放射性ヨウ素をもう一度カプセルに詰め込んで自分の身体に入れる治療法だ。自身の中で放射性物質を発射するような状態に一時期おかれるという、大変過酷な治療を、既に3人が行っており、もう一人は近くそれを行う予定。それ以外に1人の原告は再発を繰り返し、既に4回手術を受け、近くにもう一度手術を受けないといけないかもしれない。肺に転移しているのではないかといわれている原告もいる。みんな、元気な子どもだったが、現在は再発の不安に怯え生活をしている。甲状腺がんに罹って以来、人生が変わってしまった。進学、就職についてすでに具体的な支障がでている。

福島では小児性甲状腺がんの原因が被ばくだと思っていても、それを口にできない、言うと風評加害者だとバッシングされるので、6人も肩をひそめるように生きてきた。しかし、この問題をはっきりさせないと、人生の次のステップに進むことができないという気持ちを徐々に固め、今回提訴という決断に至った。提訴すと、今まで以上にいろんなところから攻撃を受ける可能性があるが、それでもやりたいと決意した。なぜかというと、これからの生活に不安がある。就職も十分できるかわからない。今の職場がいつまで続けれるかわからない。医療費は、当面は福島のサポート事業で無料だが、今後どうなるかわからない。医療保険に入れないため、将来の医療費を確保できない。そのために経済的補償をしてほしいという思いがある。更にそうした理由を超えて、今わかっているだけで293人いる、同じように苦しむ福島の甲状腺がんになっている子どもたちの希望になるだろうとことを期待し、同じように闘ってほしいという思いもある。もう1つは、自分たちは被ばくしたのだから、原爆被爆者のように手帳を受け取って、生涯医療費、各種手当でサポートする、そぅいう制度に繋げたい、この裁判を提訴することで、最終的に勝つだけではなく、そういう制度に繋げたいとの思いもある。

国や福島県は、被ばくと甲状腺がんの因果関係を認めてないなかで、裁判に勝てるのかというご意見の方もいらっしゃるが、十分勝てると考えている。100万人に1、2人だったはずの小児性甲状腺がん患者が、事故後の11年間で福島県の30数万人の子どもから300人近く出ている。多発していることは、国や県も認めざるをえない。その原因は何か? 甲状腺がんの第一の原因は、放射線被ばくだとどの本にも書いてあるし、原告の6人は、確かに被ばくをしたのだから、特別な事情がない限り、原因は被ばくだろうと判断すべきだ。被告・東電がそうでないというならば、何が原因か立証しろ、立証できないなら、被ばくが原因だと判断すべきだと考えているし、それは裁判で十分通用すると考えている。

もう1つ、東電は「過剰診断論」を主張するだろうが、これも十分勝てると考えている。これは、実際に執刀した医師は、甲状腺がんについては過剰診断がありうるということを十分注意し、そのうえで手術の条件がそろったとして手術しているのであり、必要もないのに手術しているわけではない。そのことは、手術した医師が明言していることで、過剰診断論者の言っていることは抽象的な空論を言っているにすぎないと考えている。

あれだけの事故が起こって人的被害がないはずがない。チェルノブイリ原発事故では小児甲状腺がんは数千人でているが、それ以外にどれだけの人が、被ばくによって亡くなったか。IAEAの一番少ない見積りでも4000人だ。福島の事故はチェルノブイリ事故より小さく、規模が7分の1と言われるが、仮にそうだとしても相当数の死者も含めた健康被害が出て当然だ。そうであれば、国はちゃんと調査して、因果関係のある疾病に費えは補償する体制を作ることが、民主主義国家として当然の在り方だと思う。国は、小児性甲状腺がん以外は調べないし、小児性甲状腺がんが多発してもいろんな理屈をつけて因果関係を否定しようとする。この国の在り方自体を変えてゆくきっかけになるような裁判にしていきたい。原告の人たちは非常に重い決断をされた。今後の裁判でいろんな紆余曲折があると思うし、つらい場面なども出てくると思いますが、攻撃する人がいても、それの何十倍、何百倍の人たちが支援していてくれると思えば、頑張ってやっていけると思う。ぜひみなさんの強力なご支援をお願いしたい。

午後4時から衆議院第一議員会館で行われた支援集会

 
弁護団副団長の海渡弁護士から「甲状腺がんは非常に軽いものではない」ということで、原告の皆さんからお聞きして胸が痛くなったという、「穿刺細胞珍」(せんしさいぼうしん)という、麻酔なしに細い注射針を喉に刺して直接細胞を吸い出し両性か悪性かを判断する検査方法が紹介された。

原告のお母さんは「(提訴まで)11年かかりました。辛い思い出もありましたが、やらないで後悔するより、やって勝訴したいという思いが強くなってきました」と語られた。

石丸小四郎さん

「子どもたちの夢を奪う過酷事故を起こしてしまったという思いで、何としても勝ち取る決意である」という、あらかぶさん裁判を支援する石丸小四郎さん、甲状腺がん支援グループ「あじさいの会」のちばちかこさん、子ども脱被ばく裁判原告団長の今野寿美男さんら、福島で闘う人たちからも熱い連帯アピールが行われた。

原告のメッセージを紹介する。

「今まで甲状腺がんに罹っていたことを誰にもいえず苦しんできました。原発事故はまだ終わっておらず、被害者である私たちがいきていく以上続きます。この裁判をきっかけに世の中が少しでもよくなることを願っています」(ゆうた)。

「私は再発を含む手術を4回、アイソトープ治療を1回、計5回の手術及び入院を経験しました。この裁判を通して自身が疾患した甲状腺がんと、福島原発事故の因果関係を明確にし、同じような境遇で将来の生活に不安を抱える人たちの救いのきっかけになることを願っています」(るい)。

クラウドファンディングが始まっています。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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「汚染水を流して安全安心な漁業などないと思います。汚染水の海洋放出に断固反対しよう」

今月2日、出初式でにぎわう請戸漁港に大きな声が響いた。「希望の牧場・ふくしま」で〝被曝牛〟を飼育する吉沢正巳さんの街宣車「カウゴジラ」だった。吉沢さんはかたくなに沈黙し続ける漁師たちに喝を入れるように叫んだ。

「浪江町を汚すな!福島の海を汚すな!」
「浪江町の未来、請戸漁港の未来、福島県漁業の未来は危機の淵にいます」
「汚染水は東電の責任でタンクに溜めろ、海に流すな」
「海を汚すな、海に流すな」

神事が終わり、漁船が次々と沖合に向けて出港するなか、吉沢さんは街宣車を走らせながら怒鳴った。怒鳴るだけではなく、こうも呼びかけた。

「あきらめてはいけない、一緒に闘おう」

実は吉沢さん、汚染水の海洋放出計画が浮上して以来、福島県庁など様々な場所に街宣車を出しては「反対」を叫び続けている。浪江町で東京五輪の聖火リレーが行われた昨年3月25日には、解体前の浪江小学校や道の駅周辺で「オリンピックの後に原発汚染水が海に流される。請戸の漁業は、もうおしまいだ」などと訴えた。道の駅では、聖火ランナーを迎えようと待っていた漁師たちの怒りを買ったという。

「大漁旗を振っていた若い漁師たちに言ってやったんだよ。『何でお前らは立ち上がらないんだ、何で闘わないんだ、腰抜けか』ってね。そしたら怒って街宣車の前に立ちはだかって来て喧嘩寸前になって…警察官があわてて割って入っていたよ」

何も喧嘩を仕掛けたいわけではない。表現はきついが茶化しているわけではない。出初式が行われた請戸漁港でも敢えて挑発的な街宣を行った吉沢さんには狙いがあった。

「それで良いのか、と問題提起をしたいんだよ。ここで街頭討論会をやろう、マイクを渡すから本音を言え、黙って何もしないでいて良いのか、金が欲しいのか漁業の安全が欲しいのかどっちなんだ、と。本気の議論をしようじゃないか。なあなあでは駄目なんだよこのまま〝アンダーコントロール浪江〟で良いのか、汚染水を海に流されてもおとなしい腰抜けで良いのか、と誰かが問わなければいけないんだよ。俺が1人矢面に立ってドン・キホーテになるんだよ」

請戸漁港を走る街宣車「カウゴジラ」。吉沢さんは漁師たちに「あきらめるな」「一緒に闘おう」と呼びかけた

2018年、馬場有町長の死去に伴う町長選挙に立候補した際も「さよなら浪江町」を掲げ、目の前の現実から目をそむけないよう訴えた。吉沢さんは後に「俺に喰ってかかって来る人がいればマイクを渡して本音をしゃべってもらう。そんな本気の街頭討論会をしたかったができなかった」と振り返っている。今回の汚染水海洋放出問題でも、多くの町民が本音を封印したまま。そこを打破したいという想いがあるのだ。だから、請戸漁港でも文句を言ってくる漁師がいたらその場で討論するつもりだったが、そんな漁師はいなかった。そうしているうちに、国も東電も海洋放出に向けた準備を着々と進めている。立ち上がろうとしない漁師たちへの歯がゆさを抱えながら、これからも「反対」を言い続ける。

「請戸漁港は浪江の顔であり看板。その〝顔〟が汚染水まみれにされてしまう。それで漁業や道の駅が成り立ちますか?安全・安心・美味しいなんて成り立たないじゃないか。町議会だって2回も反対決議を提出しているんだよ。汚染水なんか流されたら、請戸の漁業は成り立たなくなる」

若い漁師のなかには「原発と共存してきた歴史があるから、あんまりね…」と口にする人もいる。「共存」とはつまり、補償金だ。結局、金で黙らされているということか。この点についても、吉沢さんは厳しい。

「請戸というのはずっと原発の漁業補償金をもらって美味しい想いをしてきた。中毒状態なんだよ。だから汚染水の海洋放出計画に対しても黙っているんだ。それに、あそこまで港を良くしてもらったら国に文句を言いにくい。余計なことを言うと村八分に遭う可能性がある。そういう同町圧力のある町なんだよ」

町内で飲食店を営む浪江町民も「反対を言いにくい雰囲気がある。この町には原発に関する『言論の自由』がない」と話す。吉田数博町長も「難しい問題だ」と歯切れが悪い。

だが、汚染水海洋放出が決して請戸漁港にとってプラスに働かないことは誰もが分かっている。ある漁師の妻は、吉沢さんの訴えを聴き「言っている内容は間違っていない。その通りだと思う」とつぶやいた。それを少しでも掘り起こそうと吉沢さんの行動はこれからも続く。

「俺は間違ったこと、突飛なことを叫んでいるわけではないからね。でもね、これは漁師だけの問題じゃないんだ。浪江みんなの問題。俺はベコ屋で一見、汚染水の海洋放出とは直接関係ないんだけど、何も言わずして終わらせたくないんだ。たとえ〝負け戦〟であったとしても、言うべきことは言い続けたい。汚染水を東京湾に持って行って福島の電気を使って来た尻拭いをしてもらいたい。そのぐらいの気持ちなんだよ」(了)

昨年3月、浪江町でも東京五輪の聖火リレーが行われた。道の駅で聖火ランナーを迎えた請戸の漁師たちが吉沢さんに怒ったという。しかし、汚染水を海洋放出しようとしている国や東電への怒りは聞こえて来ない

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、50歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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「汚染水を海に流されて本当に良いんですか?」

場違いな質問に誰もが顔をしかめた。そして、うつむき加減になった。

JR新日本橋駅近くにある福島県のアンテナショップ「日本橋ふくしま館 MIDETTE(ミデッテ)」(東京都中央区)に〝常磐もの〟が並んだ。今月14日から3日間にわたって開催された「第1回冬のふくしま常磐ものフェア」。福島県双葉郡浪江町の請戸漁港で前日に水揚げされたカレイやメバルなどの海産物の販売会だ。「食の安全・安心に加え、品質の高さや美味しさなど県産品の魅力を発信する」(福島県県産品振興戦略課)のが目的で、2月も原釜漁港(相馬市)や小名浜漁港(いわき市)で水揚げされた海の幸が販売される。

初日は復興大臣も視察。その前に行われた定例会見では「復興庁としても、しっかり福島県産品の魅力を、地元が企画しているイベント等をしっかり後押しをしていかなければならない」、「しっかりと食の安全・安心、特に科学的な根拠に基づいた安全性の正しい情報を発信していくことが大事」と〝風評払拭〟を強調した。

「道の駅なみえ」でも提供されている請戸の魚をPRする場に、原発汚染水の海洋放出問題を口にするなど確かに場違いだ。県職員の1人は「ここは県の施設なので、そういう発言はできません」と苦笑した。しかし、目をそむけてばかりもいられない。政府が昨年4月13日に発表した基本方針では、来年にも海洋放出が始まる。東電は約1キロメートル沖合に海洋放出のための海底トンネルを設置するべく、地質調査などを進めている。福島県の内堀雅雄知事も「風評対策」を口にするばかりで反対を明言せず、海洋放出を事実上容認している。事態は着々と前進しているのだ。

しかし、誰もが「こんなところで聞いてくれるな」という表情を浮かべるばかり。販売応援に来ていたいわき市の男性は「そりゃもちろん、海に流して欲しくはないですよ。だけど国が決めちゃったことだから……。頑張っていくしかないですね。難しい問題です」とあきらめ顔で答えた。

「国が決めちゃったことだから」

都内の福島県アンテナショップで行われた「常磐もの」の販売会。汚染水海洋放出について尋ねると、関係者は一様に口が重くなった=東京都中央区

請戸の漁師も、正月2日に行われた請戸漁港の出初式で筆者に同じ言葉を口にした。

「そりゃ海に流されたら困る。困るけど、相手は国だからな。国が決めたことに俺たちがナンボ言ったって通るわけねえべ。通らないものをいくら騒いだって、俺たちがアホみたいだろうよ」

出初式では、漁船が次々と沖合に出て日本酒で船体を清め、海の上から苕野(くさの)神社に向かって1年の無事を祈願した。「ほれ、あれが原発だよ」。漁師が指差す先には福島第一原発がはっきりと見えた。請戸漁港とは約6キロメートルしか離れていない。汚染水の海洋放出は死活問題のはず。相馬双葉漁業協同組合請戸地区代表の高野一郎さんは神事前のあいさつで「原発から6キロメートルの地点にある請戸漁港は反対しかありません。全漁連、県漁連と姿勢を同じくし、どこまでも反対を続けていきます」と述べた。だが、実際には表立って反対を表明する漁師はいない。逆に「『汚染水』と言わないで欲しんだよ。そう表現されることが何より風評被害を招くんだ。あれは『汚染水』じゃなくて『処理水』なんだ。『汚染水』を海に流すわけじゃないんだから」と筆者に語る漁師すらいるほどだ。「『処理するから大丈夫』と国が言うんだから、俺たちはそれを信じるしかないじゃないか」。

浜通り全体があきらめムードに覆われているかのよう。水産物卸売業者(浜通り)の男性社員も、ミデッテの一角で「国がやっていることだから、反対してもしょうがないという想いもある」と話した。

「『風評被害を生じさせないようにする』と国は言うけれど、こちらとしては正直なところ半信半疑。原発事故がそうであったように、実際に海に流してみないと分かりません。海に流した結果どう転ぶか分からないし、反対したところで『どうせ流すんでしょ』という想いもある。どうせいろいろと言ってもしょうがないのだから、だったらせめて最善を尽くしてくれ。そんな想いですね」

「実際に海洋放出してみて、それでどう転ぶかによって本音が聴けるんじゃないですか。風評被害が生じたら『話が違うじゃないか』となるだろうし……。結局、出たとこ勝負じゃないですか。前例がないのだから。海に流して良いとも駄目とも言いようがないですね。多くの皆さんが尋ねられても困るんじゃないですかね」

この男性は、漁師たちの正直な想いも代弁してみせた。

「漁師は漁師で高齢化と後継者問題に直面しています。身体が動く限り海に出て、自分の代でおしまいという漁師は少なくないですよね。どうせ自分の代で終わるのであれば汚染水問題なんか別に良いや、自分が漁をやっている間だけ補償金をもらえさえすれば良いや、という人もいると思いますよ。海洋放出に反対を言い続けたとして、果たしていつまで補償を受けられるか分からないですしね」

実際、請戸のある漁師は「漁業補償を(全体で)何十億ともらっちゃっているからなあ……」と苦笑した。あきらめムードを後押ししているのが金ということか。これでは政治家に「最後は金目でしょ」などと言い放たれても仕方なくなってしまう。

あきらめてしまい黙して語らぬ漁師たちを鼓舞し続けている人がいる。浪江町の「希望の牧場・ふくしま」で200頭を超える〝被曝牛〟を飼育している吉沢正巳さんだ。「俺が1人矢面に立ってドン・キホーテになるんだ」と請戸漁港に街宣車を走らせている。(つづく)

今月2日、請戸漁港で行われた出初式。「国が決めたことに俺たちがナンボ言ったって通るわけねえべ」とあきらめ顔で話す漁師も

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、50歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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1月19日、広島地裁で伊方原発運転差し止め広島裁判の第26回口頭弁論が開催されました。次回の口頭弁論は3月14日(月)14時半から、次々回は6月8日と決定しています。

伊方原発運転差し止め広島裁判原告側のチラシ

この裁判は広島を中心とする住民が四国電力伊方原発3号機の運転差し止め裁判をもとめて、2016年の3月11日、3・11からちょうど5年の日に提訴。今年で6年になろうとしています。証拠調べ、論点整理も大詰めを迎えました。

伊方原発については、以前、ご報告したとおり、原告側が求めていた運転差し止めの仮処分申し立てが11月に棄却されてしまいました。そして、12月に再稼働が強行されています。

この日は、コロナ対策のため、原告側はいつもおこなっている裁判所への行進はおこなわず、正門前で記念撮影をするだけにとどめて、裁判所に入りました。

◆避難者の福島敦子さんが「命の訴え」

この日の裁判で、原告のひとりで、福島からの京都に母子3人で避難した福島敦子さんが意見陳述をおこないました。福島さんは、福島原発事故避難者京都訴訟の共同代表もつとめています。この伊方原発広島裁判は広島県民でなくても、伊方原発から800km圏内、ほぼ全国、どなたでも参加をいただける裁判です。

意見陳述の前に、裁判長は「感染状況を踏まえて短めに」と促しました。これに対して福島さんは、「これは命の訴えです」と、強調したのが印象的でした。

◆「死ぬときは死ぬんだ」があいさつがわりの福島市の避難所

福島からの京都に母子3人で避難した原告のひとり、福島敦子さん(写真中央)

福島さんは南相馬市から避難してきました。原発の爆発当時は川俣町、そして福島市へと避難。しかし、その福島市のほうが、南相馬市よりも線量が高かったのです。

3月13日に福島市飯坂町のホールに福島さんは、二人の娘と避難します。そのとき、ホールには800人もの避難者がいたそうです。福島さんは、「入ってくる人々が寝ている娘の頭を踏みそうになり、私はずっと娘の頭をかばい続けました。」とそのときの混乱ぶりを表現しました。

物資も不足し、毎日が重く張りつめた空気の中で、「『死ぬときは死ぬんだ』があいさつだった避難所の生活は忘れられません」と振り返ります。

◆京都では「その日を精一杯生きる」ことで過ぎる

4月2日に福島さん母子は京都に避難。福島さんたちは「スクリーニング済証」を携帯していないと病院にもいけない、避難所をうつることさえできなかったのです。被曝した人間として移動を制限されたのです。しかし、いっぽうで、「この証明書は、外部被曝に限られた(OKという)証明書であって、内部被曝の状況は今もわかりません」と福島さんは、訴えました。

京都の学校では下の娘さんは苗字が福島ということもあって、「フクシマゲンパツ」とあだ名をつけられることもありました。福島さん親子の生活は「その日その日を精一杯『生きる』ことで過ぎていきました。」

現在も原発から放射能が流出しつづけていますが、事故の具体的な理由や責任が追及されないまま、被災した人々は日々の生活に疲弊し、とくに福島さんら「区域外避難者が復興の妨げ」という風評被害と向き合っていかなければならなくなった、と振り返ります。

◆父をがんで失い、自らも脳腫瘍、「被爆地ヒロシマが被曝を拒否する」に共感

福島さんは、お父さんを前立腺がんで2020年9月になくし、また、自身も脳腫瘍が発覚して、来月手術の予定です。

福島さんは、「伊方原発の再稼働は、地元や広範な瀬戸内周辺住民の不安と日本国民の原発に対する懸念の声を全く無視した人権侵害であり、公害問題です。」と強調。いっぽうで、黒い雨訴訟広島高裁判決で内部被曝がより危険であることが認められ、確定したことに注目。「内部被曝には外部被曝とは異なる危険がある」と訴えました。

そして、「被爆地ヒロシマが被曝を拒否する」のスローガンを掲げて闘うこの裁判に、福島原発事故避難者として大いに共感し、原告となって闘うことを決意した、のです。

福島さんは、最後に「もう、私たち避難者のような体験をする人が万が一にも出してはいけないのです。」「司法が健全であることを信じています」「日本国民は、憲法により守られていることを信じています。」と裁判長に対して訴えました。

◆火山や地震、四国電力の反論に説得力なし

この日は、火山や地震のリスクについての主張の交換が、文書で原告と被告(四国電力)の間で行われました。口頭弁論のあとの報告会で原告側弁護士から以下のような報告をいただきました。

火山については、阿蘇山からの火砕流が過去の噴火で到達していた可能性については四国電力も可能性を認めざるをえなくなっています。しかし、案の定、四国電力はその可能性は低い、としています。だが、そもそも、VEI(火山爆発指数)6-7の大噴火はいつ起きるかまったく予測できないのです。

地震についても、四国電力は、中央構造線断層帯の場所は伊方原発からみて、沖合にあるから大丈夫、という主張です。しかし、実際には震源となる断層は原発から800mくらいのところまで迫っているという説も有力です。

日本列島にフィリピン海プレートが潜り込んでおり、そのために、陸側の沖縄の西側の沖縄トラフや九州中部、別府湾などは、伸長応力、すなわち引っ張られる力が加わって、地殻が裂けて、落ち込む場所になっています。それにともなう地震も多く起きています。おなじような現象が伊方原発付近でも起きている可能性は高いのです。単に断層があるだけでなく、そうした大きな地殻変動の現場に伊方原発はなっている可能性が高いのです。また、水蒸気爆発への備えや、避難計画についても、四国電力側の甘さが目立ちました。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年2月号!

〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』vol.30(紙の爆弾 2022年1月号増刊)

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1月22日(土曜日)18時半より、大阪市内で「釜ヶ崎から被ばく労働を考える」シリーズの講演会の第6弾を開催します。今回講師でお招きするのは、東京新聞記者(現在は福島支局・特別報道部所属)で『ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録』の著者でもある片山夏子さんです。この本は第42回講談社本田靖春ノンフィクション賞と第20回「石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞」を受賞しました。昨年3月11日に開催された後者の賞の受賞式に片山さんは福島取材で出席できなかったため、会場で代読されたメッセージをご紹介致します。

 

片山夏子『ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録』

「事故直後、国や東電の会見を聞きながら、現場にいる作業員は次の水素爆発が起きたら生きて帰れるのか、次々と危機が襲う中で、どんな思いでいるのか……そんなことが頭を巡りました。
 会見では作業の進捗状況はわかっても作業員の様子は見えてきません。原発事故が起きたとき、そこにいた人たちに何が起きていたのか、人を追いたいと思いました。
 特殊な取材現場でした。原発には東電の許可がないと入れない。入ってくる情報は国や東電の発表ばかり。実際に現場で何があったのか、作業員の話を聞かないとわからないことばかりでしたが、厳しいかん口令が敷かれ、記事を書けばすぐに犯人捜しが行われました。作業員の入れ替わりも激しく、高線量下の作業下、はやければ2-3週間で去ったという人もいます。この10年は取材に応じてくれる作業員を探し続けた年月でした。ある作業員は原子炉建屋内で20キロの鉛を背負って駆け上がりました。線量計は鳴りっぱなし、全面マスクの苦しいなか、『早く終われ早く終われ』と彼は祈り続けたと言います。地元から通い一生働くつもりであった原発を、被爆線量が増えたからと解雇され、『俺は使い捨て』と自分の存在価値に悩み、うつ状態になった作業員もいました。
 原発で働くために避難する家族と離れて暮らし、こどもの成長をそばでみられないと苦しむ作業員。離れて暮らす息子に『パパいらない』と小さな手で押しやられ悩む他県から来た作業員。原発作業員の彼らも、誰かの息子であり、夫であり、父親であり、友人で、心配する誰かがいました。
 今日も、作業員はいつものように現場で目の前の作業を一歩でも進めようと奮闘しています。原発事故は終わっていません。そして一日も早く廃炉にしたいという彼らをこれからも追っていきたいと思います」

片山さんは、震災の年の7月、東京社会部に異動となり、原発班担当となりました。「福島第一原発でどんな人が働いているか。作業員の横顔がわかるように取材してほしい」とキャップに命じられましたが、当初、取材のイメージがわかずに戸惑ったといいます。というのも、すでに現場には多くの報道関係者やフリーのジャーナリストらが取材に行っていっており、中には潜入ルポを試みるジャーナリストのいました。

そんななか、片山さんの中に、当時「日当40万円」などと言われたが、それは事実だろうか? 福一から20キロ離れたJヴィレッジで防護服などを装着するが、その実態はどうか。何より高線量の危険な現場で、命を賭してまで働くのはなぜか? 等々聞きたいことが浮かんできたそうです。当時、イチエフの作業員の多くが、旅館、ホテルで集団生活していたいわき市に通い、駅周辺やパチンコ屋などで作業員を探し始めます。同じ頃、作業員には厳しいかん口令がひかれ始めたため、取材に応じてくれる人がなかなか見つけられないなか、粘り強く作業員に声をかけ続け、徐々に取材に応じてくれる人がでてきました。

そんな作業員との取材は、同僚や会社の人に見られたら困るからと、個室のある居酒屋や宿舎や駅から離れたファミレスなどで行うことが多く、数時間どころか、6時間にも及ぶことがあったといいます。

18時から、福島の民謡なども歌う「アカリトパリ」のオープニングライブから始まります

◆一人一人の作業員の顔が見える取材

片山さんの著書を、ジャーナリストの青木理さんは「解説」で、「こうあるべきだ」「我々はこう考える」など声高に主義・主張を訴える「社説」「論説」など「大文字」に代表される記事に対して、「小文字を集めたルポルタージュ」と評しています。「それでは零れ落ちてしまう市井の声がある。名もなき者たちの喜怒哀楽がある。その喜怒哀楽の中にこそ、本来は私たちが噛みしめ、咀嚼し、反芻し、沈思黙考しなければならない事実が横たわっている」と。

確かに、顔は出ておらず、名前も愛称だったりするが、片山さんの取材で描かれる作業員の話には、まるで私自身が目の前で聞いているような錯覚を覚えます。「ゼネコンはいいなあ。俺らは原発以外仕事がないから、使い捨て」(35才 カズマさん)、「作業員が英雄視されたのなんて、事故後のほんの一瞬」(56才 ヤマさん)、「借金して社員に手当」(50才 ヨシオさん、「被ばく線量と体重ばかり増え」(51才、トモさん)…片山さんの取材が、それだけ作業員ら一人一人に親身に寄り添い、本音を引き出せれたからだと思います。

片山さんは、福島に通う続けるうち、自身も咽頭癌を発症したことを「あとがき」で告白しています。「家族にがんの人間はいない」とも。現在は元気になったといいますが、発症時、作業員らに告げたとき「俺らより先に、何がんになっているんですか」と心底心配されたそうです。9年間の長い月日に、そんなプライベートな話ができるほど深い信頼関係が築けてきた証拠です。

◆脱原発運動を被ばく労働者の闘いを繋げていこう

これまで私たちは「釜ヶ崎から被ばく労働を考えよう」と題する講演会を5回行ってきました。第1弾にお呼びした「被ばく労働を考えるネットワーク」の中村光男さんは、事故後、過酷労働と知りつつ被ばく労働に就く人たちを分析、1つ目は「田舎の給料ではおっ母、子供の生活をみれない」と田舎から稼ぎに来る労働者、2つ目は2008年リーマン・ショック以降増大した非正規雇用労働者や派遣労働者、釜ヶ崎など寄せ場の日雇い労働者、3つ目が全体の7~8割を占める地元福島の人たち。このように危険と知りつつ、被ばく労働に就かざるを得ない層が一定数、確実にいるということを教えられました。

第2弾にお呼びした写真家の樋口健二さんは、過酷な被ばく労働者の実態、更に病に倒れ補償もされず亡くなった多くの人たちを見てきたため、講演の最後を「知り合いが被ばく労働に行くと言ったら『絶対いくな』と言ってください」と締めくくられました。確かに、大切な家族、仲間を被ばくの危険にさらさせたくない思いは誰にでもあります。それでも誰かがいかなかったら、福島第一原発が今、どうなっていたか、被災者はどうなっていたかわかりません。危険と知りつつも被ばく労働に就かざるを得ない労働者が一定数、しかも確実に存在するならば、そういう労働者の劣悪な労働環境、人権や権利、保障をどうするかを考える必要があるのではないでしょうか。

あらかぶさんとなすびさんをお呼びした「釜ヶ崎から被ばく労働を考える」シリーズ第5弾。会場は満杯

そのため、私たちは第3弾に、中村さんと同じ「被ばく労働を考えるネットワーク」のなすびさんとイチエフの収束作業現場などで働いた池田実さんをお招きしたした。さらに第4弾、第5弾は、イチエフの収束作業後に白血病を発症、初めて労災認定された「あらかぶさん」(通称、九州で魚のかさごを意味する)をお呼びしました(あらかぶさん裁判については「デジタル鹿砦社通信」2021年12月14日付けを参照)。

福島第一原発では、現在も1日4000人の作業員が危険は被ばく労働に従事いていますが、。作業員が被ばくにより病気になっても、今のところ労災以外になんの補償もありません。皆さん、チェルノブイリ事故のあと、収束作業に駆り出されたリクビダートルたちが始めた闘いが、全国各地の市民運動などと連動・団結し、チェルノブイリ法を制定させたことを忘れてはなりません。この日本でも、様々な反原発・反被ばくの闘いを、被ばく労働者の運動に繋げて前に進めていきましょう!

コロナ感染拡大中のため、会場でのマスク着用、入場前の消毒、換気対策などに気をつけます。参加者の皆様のご協力をお願い致します。

片山夏子さん講演会は1月22日(土)18時よりピースクラブ(浪速区)にて

 
▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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